(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022013069
(43)【公開日】2022-01-18
(54)【発明の名称】α-アシルオキシケトンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/10 20060101AFI20220111BHJP
C07C 69/54 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
C07C67/10
C07C69/54 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020115368
(22)【出願日】2020-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】柴田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 禎治
(72)【発明者】
【氏名】林 秀樹
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC48
4H006AD17
4H006BB16
4H006BC10
4H006BE53
4H006BR10
4H006KC14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】簡便かつ低コストでα-アシルオキシケトンを製造する方法の提供。
【解決手段】式(2)で表される母体ケトンと臭素化剤を反応させる工程Aと、工程Aで生じた反応後の混合物にカルボン酸を加えて反応させる工程Bからなり、工程Aから工程Bまでをワンポットで行い、式(1)で表されるα-アシルオキシケトンを製造する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(2)で表される母体ケトンと臭素化剤を反応させる工程Aと、
工程Aで生じた反応後の混合物にカルボン酸を加えて反応させる工程Bからなり、
工程Aから工程Bまでをワンポットで行う、式(1)で表されるα-アシルオキシケトンの製造方法。
式(1)、(2)中、
R
1、R
2、R
3、およびR
4は独立して、水素、水素、置換基を有してもよいアルキル、置換基を有してもよいアルケニル、置換基を有してもよいアルキニル、置換基を有してもよい脂環式骨格を有する基、または置換基を有してもよいアリール、置換基を有してもよい2価の基である。
ここで、2価の基は、R
1の一端とR
2の一端、またはR
2の一端とR
3の一端が結合している基である。
【請求項2】
請求項1に記載の式(1)で表されるα-アシルオキシケトン、式(2)で表される母体ケトンにおいて、
R1がメチルであり、R2およびR3が独立して、水素、置換基を有してもよいアルキル、脂環式骨格を有する基、または置換基を有してもよいアリールである、
請求項1に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の式(1)で表されるα-アシルオキシケトン、式(2)で表される母体ケトンにおいて、
R1がメチルでR2およびR3が水素であるか、
またはR1およびR2がメチルであり、R3が水素である、
請求項1に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の式(1)で表されるα-アシルオキシケトンのR4の炭素数が、1から12である、請求項1から3のいずれか1項に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の式(1)で表されるα-アシルオキシケトンのR4が、
水素、ビニル、1-プロペン-2-イル、メチル、フェニル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、1-ナフチル、または2-ナフチルである、
請求項1から3のいずれか1項に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の式(1)で表されるα-アシルオキシケトンのR4が、
ビニル、1-プロペン-2-イル、メチル、またはフェニルである、
請求項1から3のいずれか1項に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【請求項7】
臭素化剤が、臭素、N-ブロモコハク酸イミド、1,3-ジブロモー5,5-ジメチルヒダントイン、テトラブチルアンモニウムトリブロミド、ピリジニウムブロミドペルブロミド、トリメチルフェニルアンモニウムトリブロミド、臭化銅(I)、または臭化銅(II)である、
請求項1から6のいずれか1項に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【請求項8】
臭素化剤が、臭素またはN-ブロモコハク酸イミドである、請求項7に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【請求項9】
臭素化剤が臭素である、請求項7に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の工程Aまたは工程Bにおいて、塩基性化合物を共存させて反応させる、請求項1から9のいずれか1項に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【請求項11】
塩基性化合物が炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、またはそれらの混合物である、請求項10に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【請求項12】
塩基性化合物が、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムである、請求項10に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【請求項13】
請求項1に記載の工程Aにおいて、溶媒を加えて反応させる、請求項1から12のいずれか1項に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【請求項14】
請求項1に記載の工程Aにおいて、式(2)で表される母体ケトンと異なる溶媒を用いないで反応させる、請求項1から12のいずれか1項に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α-アシルオキシケトンの新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α-アシルオキシケトンはさまざまな医薬品や機能性材料またはそれらの有用な合成中間体として使われている。例えば、特許文献1には感光性樹脂に用いられる単量体やその合成中間体としての利用が、特許文献2には冷却材としての利用が記載されている。さらに、特許文献3には医薬品や殺菌剤の合成中間体としての利用が記載されている。これらの文献によれば、α-アシルオキシケトンは対応するα-ブロモケトンとカルボン酸塩とのカップリング反応で製造されている。先行文献で出発物質としているα-ブロモケトンは、種々の有機合成の手法により製造されるが、多くの場合催涙性が高いため作業者にかかる負担が大きいという問題がある。また、一部のα-ブロモケトンは市販されているが、高価である。例えば、非特許文献1によれば、3-ブロモ-2-ブタノンが5gあたり18500円と記載されている。一方、この原料である2-ブタノンは、500mLあたり1200円と記載されており、α-ブロモケトンが原料と比べて非常に高価なことがわかる。このことから、α-アシルオキシケトンの製造に、高価なα-ブロモケトンを出発物質に使用するのは、コスト面で大きな負担になる。α-ブロモケトンが安価に購入または低コストで製造可能だとしても、それを原料にしてα-アシルオキシケトンを製造する限り、作業者への催涙性物質の暴露を完全に避けることは事実上不可能である。このような観点から作業者への負担低減に加えて、簡便かつ低コストなα-アシルオキシケトンの製造方法を見出すことができれば、その産業上の利用価値は大きいといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-126309号
【特許文献2】国際公開第2014/009416号
【特許文献3】国際公開第2019/040647号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「富士フイルム和光純薬株式会社」、[オンラインカタログ]、[令和2年5月1日検索]、インターネット<URL:https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、α-ブロモケトンという催涙性物質の作業者への暴露を無くすことに加え、簡便かつ低コストでα-アシルオキシケトンを製造する方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0006】
α-ブロモケトンの原料となる、臭素が水素に置換された化合物を本明細書では母体ケトンと呼ぶことにするが、本発明によれば、母体ケトンを出発原料とし、α-ブロモケトンを経由し、α-アシルオキシケトンまでの一連の合成反応を、ワンポットで行う。これにより、作業者の催涙性物質への暴露リスクを無くすことができ、かつ安価に該化合物を提供することができる。そしてワンポットであることは2段階の反応を実質1段階で、すなわち合成中間体であるα-ブロモケトンを取り出さずに対応するα-アシルオキシケトンへ誘導できる簡便な方法であることを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。また、本発明は以下の実施の形態に制限されるものではない。
【0008】
本発明は、下記の項などである。
【0009】
式(2)で表される母体ケトンと臭素化剤を反応させる工程Aと、
工程Aで生じた反応後の混合物にカルボン酸を加えて反応させる工程Bからなり、
工程Aから工程Bまでをワンポットで行う、式(1)で表されるα-アシルオキシケトンの製造方法。
式(1)、(2)中、
R
1、R
2、R
3、およびR
4は独立して、水素、置換基を有してもよいアルキル、置換基を有してもよいアルケニル、置換基を有してもよいアルキニル、置換基を有してもよい脂環式骨格を有する基、または置換基を有してもよいアリール、置換基を有してもよい2価の基である。
ここで、2価の基は、R
1の一端とR
2の一端、またはR
2の一端とR
3の一端が結合している基である。
【0010】
[2] 項[1]に記載の式(1)で表されるα-アシルオキシケトン、式(2)で表される母体ケトンにおいて、
R1がメチルであり、R2およびR3が独立して、水素、置換基を有してもよいアルキル、脂環式骨格を有する基、または置換基を有してもよいアリールである、
項[1]に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【0011】
[3] 項[1]に記載の式(1)で表されるα-アシルオキシケトン、式(2)で表される母体ケトンにおいて、
R1がメチルでR2およびR3が水素であるか、
またはR1およびR2がメチルであり、R3が水素である、
項[1]に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【0012】
[4] 項[1]に記載の式(1)で表されるα-アシルオキシケトンのR4の炭素数が、1から12である、項[1]から[3]のいずれか1項に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【0013】
[5] 項[1]に記載の式(1)で表されるα-アシルオキシケトンのR4が、
水素、ビニル、1-プロペン-2-イル、メチル、フェニル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、1-ナフチル、または2-ナフチルである、
項[1]から[3]のいずれか1項に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【0014】
[6] 項[1]に記載の式(1)で表されるα-アシルオキシケトンのR4が、
ビニル、1-プロペン-2-イル、メチル、またはフェニルである、
項[1]から[3]のいずれか1項に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【0015】
[7] 臭素化剤が、臭素、N-ブロモコハク酸イミド、1,3-ジブロモー5,5-ジメチルヒダントイン、テトラブチルアンモニウムトリブロミド、ピリジニウムブロミドペルブロミド、トリメチルフェニルアンモニウムトリブロミド、臭化銅(I)、または臭化銅(II)である、
項[1]から[6]のいずれか1項に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【0016】
[8] 臭素化剤が、臭素またはN-ブロモコハク酸イミドである、項[7]に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【0017】
[9] 臭素化剤が臭素である、項[7]に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【0018】
[10] 項[1]に記載の工程Aまたは工程Bにおいて、塩基性化合物を共存させて反応させる、項[1]から[9]のいずれか1項に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【0019】
[11] 塩基性化合物が炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、またはそれらの混合物である、項[10]に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【0020】
[12] 塩基性化合物が、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムである、項[10]に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【0021】
[13] 項[1]に記載の工程Aにおいて、溶媒を加えて反応させる、項[1]から[12]のいずれか1項に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【0022】
[14] 項[1]に記載の工程Aにおいて、式(2)で表される母体ケトンと異なる溶媒を用いないで反応させる、項[1]から[12]のいずれか1項に記載のα-アシルオキシケトンの製造方法。
【0023】
本明細書において、「α-ブロモケトン」とは、ケトンのカルボニルに隣接するsp3炭素(該炭素が2個存在する場合はそのいずれか一方)に臭素が1個結合している化合物のことをいい、「α-アシルオキシケトン」とは、α-ブロモケトンの臭素がアシルオキシに置換された化合物のことをいい、また、「母体ケトン」とは、α-ブロモケトンの臭素が水素に置換された化合物のことをいう。
【0024】
本明細書のアルキルは、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシルの炭素数1~6のアルキルが挙げられる。
【0025】
本明細書のアルケニルは、例えば、ビニル、1-プロペン-2-イル、1-プロペニル、2-プロペニルの炭素-炭素二重結合を有する炭素数2~3の炭化水素が挙げられる。
【0026】
本明細書のアルキニルは、例えば、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、炭素-炭素三重結合を有する炭素数2~3の炭化水素が挙げられる。
【0027】
本明細書の脂環式骨格を有する基とは、炭素数3~10のシクロアルキル、シクロアルケニル、または脂肪族複素環基である。
シクロアルキルやシクロアルケニルの例として、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、2-シクロペンテン-1-イル、3-シクロペンテン-1-イル、2-シクロヘキセン-1-イル、3-シクロヘキセン-1-イル、2-シクロヘプテン-1-イル、3-シクロヘプテン-1-イル、4-シクロヘプテン-1-イル、2-シクロオクテン-1-イル、3-シクロオクテン-1-イル、4-シクロオクテン-1-イル、アダマンタン-2-イル、アダマンタン-1-イルが挙げられる。
脂肪族複素環基の例として、テトラヒドロフラン-2-イル、テトラヒドロフラン-3-イル、2,3-ジヒドロフラン-2-イル、2,3-ジヒドロフラン-3-イル、2,3-ジヒドロフラン-4-イル、2,3-ジヒドロフラン-5-イル、2,5-ジヒドロフラン-2-イル、2,5-ジヒドロフラン-3-イル、テトラヒドロチオフェン-2-イル、テトラヒドロチオフェン-3-イル、2,3-ジヒドロチオフェン-2-イル、2,3-ジヒドロチオフェン-3-イル、2,3-ジヒドロチオフェン-4-イル、2,3-ジヒドロチオフェン-5-イル、2,5-ジヒドロチオフェン-2-イル、2,5-ジヒドロチオフェン-3-イル、ピロリジン-1-イル、ピロリジン-2-イル、ピロリジン-3-イル、ピペリジン-1-イル、ピペリジン-2-イル、ピペリジン-3-イル、ピペリジン-4-イル、モルホリン-2-イル、モルホリン-3-イル、モルホリン-4-イル、2H-ピラン-2-イル、2H-ピラン-3-イル、2H-ピラン-4-イル、2H-ピラン-5-イル、2H-ピラン-6-イル、4H-ピラン-2-イル、4H-ピラン-3-イル、4H-ピラン-4-イル、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン-2-イル、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン-3-イル、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン-4-イル、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン-5-イル、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン-6-イル、3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-2-イル、3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-3-イル、3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-4-イル、3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-5-イル、3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-6-イル、テトラヒドロピラン-2-イル、テトラヒドロピラン-3-イル、テトラヒドロピラン-4-イルが挙げられる。
【0028】
本明細書の「アリール」は、例えば、芳香族炭化水素のフェニルや、芳香族複素環基が挙げられる。また、芳香族複素環基は、例えば、2-フリル、3-フリル、2-チエニル、3-チエニル、2-ピリジル、3-ピリジル、4-ピリジル、1-ピロリル、2-ピロリル、3-ピロリル、2-ピリジル、3-ピリジル、4-ピリジル、1,3-チアゾール-2-イル、1,3-チアゾール-4-イル、1,3-チアゾール-5-イル、1,3-オキサゾール-2-イル、1,3-オキサゾール-4-イル、1,3-オキサゾール-5-イル、1,2,3-トリアゾール-1-イル、1,2,3-トリアゾール-4-イル、1,2,3-トリアゾール-5-イル、1,2,4-トリアゾール-1-イル、1,2,4-トリアゾール-3-イル、1,2,4-トリアゾール-5-イル、ピラゾール-1-イル、ピラゾール-3-イル、ピラゾール-4-イル、ピラゾール-5-イル、イミダゾール-1-イル、イミダゾール-2-イル、イミダゾール-4-イル、イミダゾール-5-イルが挙げられる。
【0029】
本明細書の「同一の脂環式骨格の一部を形成している2価の基」は、例えば、メチレン、1,2-エチレン、1,3-プロピレン、1,4-ブチレン、プロパ-1-エン-1,3-ジイル、オキシビス(メチレン)、2-オキサブタン-1,4-ジイル、1-オキサブタン-1,4-ジイルが挙げられる。
【0030】
本明細書の「置換基」として上述の「アルキル」、「脂環式骨格を有する基」、「アリール」、「アルケニル」、「アルキニル」が挙げられる。他にも例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のハロゲン、水酸基、カルボキシル、シアノ、ニトロ、メトキシ、エトキシ、n-プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、n-ブチルオキシ、イソブチルオキシ、sec-ブチルオキシ、tert-ブチルオキシ、n-ペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、n-ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシの炭素数1~6の鎖状および環状のアルキルオキシや、フェノキシ、1-ナフチルオキシ、2-ナフチルオキシのアリールオキシ、メルカプト、メチルチオ、エチルチオ、n-プロピルチオ、イソプロピルチオ、n-ブチルチオ、イソブチルチオ、sec-ブチルチオ、tert-ブチルチオ、n-ペンチルチオ、ネオペンチルチオ、n-ヘキシルチオ、シクロヘキシルチオの炭素数1~6の鎖状および環状のアルキルチオや、フェニルチオ、1-ナフチルチオ、2-ナフチルチオのアリールチオ、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチロイル、バレリル、ヘキサノイル、ベンゾイル、1-ナフトイル、2-ナフトイル、2-フロイルの炭素数1~11のアシル、アセトキシ、プロピオニルオキシ、ブチロイルオキシ、バレリルオキシ、ヘキサノイルオキシ、ベンゾイルオキシ、1-ナフトイルオキシ、2-ナフトイルオキシ、2-フロイルオキシの炭素数2~11のアシルオキシ、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、n-プロピルオキシカルボニル、イソプロピルオキシカルボニル、n-ブチルオキシカルボニル、イソブチルオキシカルボニル、sec-ブチルオキシカルボニル、tert-ブチルオキシカルボニル、シクロヘキシルオキシカルボニルの炭素数2~7のアルコキシカルボニル、フェノキシカルボニル、1-ナフトイルオキシカルボニル、2-ナフトイルオキシカルボニル、2-フロイルオキシカルボニル、炭素数5~11のアロイルオキシカルボニル、アミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジプロピルアミノ、ジイソプロピルアミノの炭素数1~6のモノおよびジアルキルアミノが挙げられる。
【0031】
本明細書の「置換基を有してもよい脂環式骨格を有する基」は置換基が環状のものである場合に該脂環式骨格を有する基と該置換基が単結合を介して結合しているものに加えて、該脂環式骨格を有する基と該置換基が縮環構造を形成しているものも含まれる。例えば、1,2,3,4,-テトラヒドロナフタレン-1-イル、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2-イル、2,3-ジヒドロ-1-ベンゾチオフェン-2-イル、2,3-ジヒドロ-1-ベンゾチオフェン-3-イル、4,5,6,7-テトラヒドロ-1-ベンゾフラン-4-イル、4,5,6,7-テトラヒドロ-1-ベンゾフラン-5-イル、4,5,6,7-テトラヒドロ-1-ベンゾフラン-6-イル、4,5,6,7-テトラヒドロ-1-ベンゾフラン-7-イル、1,4-ベンゾジオキサン-2-イル、1,4-ベンゾジオキサン-3-イル、インダン-1-イル、インダン-2-イル、3,4-ジヒドロ-ベンゾピラン-2-イル、3,4-ジヒドロ-ベンゾピラン-3-イル、3,4-ジヒドロ-ベンゾピラン-4-イル、2,3-ジヒドロインドール-1-イル、2,3-ジヒドロインドール-2-イル、2,3-ジヒドロインドール-3-イル、デカヒドロナフタレン-2-イル、デカヒドロナフタレン-3-イル、デカヒドロナフタレン-4-イルが挙げられる。
【0032】
本明細書中の「置換基を有してもよいアリール」は置換基が環状のものである場合に該アリールと該置換基が単結合を介して結合しているものに加えて、該アリールと該置換基が縮環構造を形成しているものも含まれる。例えば、1-ナフチル、2-ナフチル、1,2,3,4,-テトラヒドロナフタレン-5-イル、1,2,3,4,-テトラヒドロナフタレン-6-イル、ベンゾチアゾール-2-イル、ベンゾチアゾール-4-イル、ベンゾチアゾール-5-イル、ベンゾチアゾール-6-イル、ベンゾチアゾール-7-イル、ベンゾフラン-2-イル、ベンゾフラン-3-イル、ベンゾフラン-4-イル、ベンゾフラン-5-イル、ベンゾフラン-6-イル、ベンゾフラン-7-イル、ベンゾチオフェン-2-イル、ベンゾチオフェン-3-イル、ベンゾチオフェン-4-イル、ベンゾチオフェン-5-イル、ベンゾチオフェン-6-イル、ベンゾチオフェン-7-イル、1H-インドール-1-イル、1H-インドール-2-イル、1H-インドール-3-イル、1H-インドール-4-イル、1H-インドール-5-イル、1H-インドール-6-イル、1H-インドール-7-イルが挙げられる。
【0033】
本明細書中のアルキル、アルケニル、アルキニル、脂環式骨格を有する基、またはアリールが置換基を有する場合、合成化学上可能な範囲で置換基の数は1個に限らず2個以上有することが可能である。例えば、3,4,5-トリフルオロフェニル、2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル、3,5-ジフルオロ-4-n-ブチルフェノキシ、1-メチルナフタレン-2-イル、5-アセトキシ-2,3,4-トリメチルペンチル、2-エチル-ベンゾ[b]フラン-3-イルが挙げられ、さらに置換基が他の置換基を有することも可能で、例えば4-(4-n-プロピルシクロヘキシル)フェニル、3-(3-ブロモフェニル)ブチル、2-アセトキシ-1,1,3,3-テトラメチルシクロブタン-1-オキシ、メトキシエトキシメチル、6-フェニルナフタレン-2-イル、3-メチル-ナフト[1,2,b]フラン-2-イル、2-ブロモアセトキシエチルが挙げられる。
【0034】
<式(2)で表される母体ケトンにおけるR
1、R
2、およびR
3の好ましい具体例>
式(2)で表される母体ケトンは、第一段階として[反応式1]に示す反応により臭素化剤と反応させて式(3)で表されるα-ブロモケトンを合成中間体として得るので、R
1、R
2、およびR
3はあえて臭素化剤と反応させる必要がある場合を除き、臭素化剤に対して不活性な基であることが好ましい。
【0035】
したがって、R1、R2、およびR3の好ましい具体例としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシルの炭素数1~6のアルキル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、アダマンタン-2-イル、アダマンタン-1-イルの炭素数3~10のシクロアルキルや、テトラヒドロフラン-2-イル、テトラヒドロフラン-3-イル、ピロリジン-1-イル、ピロリジン-2-イル、ピロリジン-3-イル、ピペリジン-1-イル、ピペリジン-2-イル、ピペリジン-3-イル、ピペリジン-4-イル、モルホリン-2-イル、モルホリン-3-イル、モルホリン-4-イル、テトラヒドロピラン-2-イル、テトラヒドロピラン-3-イル、テトラヒドロピラン-4-イルの非芳香族性複素環基、芳香族炭化水素のフェニルや、2-フリル、3-フリル、2-チエニル、3-チエニル、2-ピリジル、3-ピリジル、4-ピリジル、1-ピロリル、2-ピロリル、3-ピロリル、2-ピリジル、3-ピリジル、4-ピリジル、1,3-チアゾール-2-イル、1,3-チアゾール-4-イル、1,3-チアゾール-5-イル、1,3-オキサゾール-2-イル、1,3-オキサゾール-4-イル、1,3-オキサゾール-5-イル、1,2,3-トリアゾール-1-イル、1,2,3-トリアゾール-4-イル、1,2,3-トリアゾール-5-イル、1,2,4-トリアゾール-1-イル、1,2,4-トリアゾール-3-イル、1,2,4-トリアゾール-5-イル、ピラゾール-1-イル、ピラゾール-3-イル、ピラゾール-4-イル、ピラゾール-5-イル、イミダゾール-1-イル、イミダゾール-2-イル、イミダゾール-4-イル、イミダゾール-5-イルの芳香族性複素環基、メチレン、1,2-エチレン、1,3-プロピレン、1,4-ブチレン、プロパ-1-エン-1,3-ジイル、オキシビス(メチレン)基、2-オキサブタン-1,4-ジイル、1-オキサブタン-1,4-ジイルの2価の基が挙げられる。
【0036】
上で例示した好ましい具体例はすべて置換基を有していてもよいが、置換基の好ましい例としては、上記の基自体も置換基として可能であり、それに加えて、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のハロゲン、水酸基、カルボキシル、シアノ、ニトロ基、メトキシ、エトキシ、n-プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、n-ブチルオキシ、イソブチルオキシ、sec-ブチルオキシ、tert-ブチルオキシ、n-ペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、n-ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシの炭素数1~6の鎖状および環状のアルキルオキシや、フェノキシ、1-ナフチルオキシ、2-ナフチルオキシのアリールオキシや、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチロイル、バレリル、ヘキサノイルの炭素数1~6のアシル、ベンゾイル、1-ナフトイル、2-ナフトイル、2-フロイルの炭素数5~11のアロイル、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチロイルオキシ、バレリルオキシ、ヘキサノイルオキシの炭素数2~6のアシルオキシ、ベンゾイルオキシ、1-ナフトイルオキシ、2-ナフトイルオキシ、2-フロイルオキシの炭素数5~11のアロイルオキシ、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、n-プロピルオキシカルボニル、イソプロピルオキシカルボニル、n-ブチルオキシカルボニル、イソブチルオキシカルボニル、sec-ブチルオキシカルボニル、tert-ブチルオキシカルボニル、シクロヘキシルオキシカルボニルの炭素数2~7のアルコキシカルボニル、フェノキシカルボニル、1-ナフトイルオキシカルボニル、2-ナフトイルオキシカルボニル、2-フロイルオキシカルボニル、炭素数5~11のアロイルオキシカルボニル、アミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジプロピルアミノ、ジイソプロピルアミノの炭素数1~6のモノおよびジアルキルアミノが挙げられる。
【0037】
第二段階として[反応式2]に示す反応により式(3)で表される合成中間体のα-ブロモケトンをR
4COOHで表されるカルボン酸と反応させて式(1)で表されるα-アシルオキシケトンを得る。従ってR
1、R
2、およびR
3は、あえてR
4COOHで表されるカルボン酸と反応させる必要がある場合を除き、カルボン酸に対して不活性な基であることが好ましい。一方、カルボン酸の最も一般的な反応は硫酸やp-トルエンスルホン酸等の強酸を触媒にしたアルコール類とのエステル化反応であり、本発明の製造方法はそのような条件下で行うものではないので、合成化学上可能である限り、R
1、R
2、およびR
3は、特に限定されない。
【0038】
したがって、R1、R2、およびR3がいずれも臭素化剤に対して不活性な基であれば、式(2)で表される母体ケトンは本発明において好ましい化合物であると言える。
【0039】
<[反応式2]で表されるカルボン酸R4COOHの具体例>
[反応式2]に示されているR4COOHで表されるカルボン酸に制限は特になく、
種々のカルボン酸を用いることができる。カルボン酸の具体例としては、(メタ)アクリル酸、酢酸、プロピオン酸、n-酪酸、イソ酪酸、ピバリン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、1-ナフトエ酸、2-ナフトエ酸、ブロモ酢酸、シアノ酢酸、2-ブロモプロピオン酸、3-ブロモプロピオン酸、クロトン酸、ケイ皮酸、グリコール酸、4-ヒドロキシ安息香酸、チオフェン-2-カルボン酸、ピロール-2-カルボン酸、グリシン、アラニン、D-プロリン、L-プロリンが挙げられる。
【0040】
上記のことを考慮すると、式(1)で表されるα-アシルオキシケトンは、具体的には次に示すような化合物を例示することができる。
【0041】
<式(1)で表されるα-アシルオキシケトンの製造方法>
式(1)で表されるα-アシルオキシケトンの製造方法を[反応式3]に示す。第1段階として式(2)で表される母体ケトンを臭素化剤と反応させて式(3)で表されるα-ブロモケトンを合成中間体として得る。本実施形態は、これを取り出す必要がなく、引き続き第2段階としてR
4COOHで表されるカルボン酸を加えて反応させて式(1)で表されるα-アシルオキシケトンを得る方法であり、第1段階と第2段階をワンポットで行うことを特徴としている。
【0042】
<第1段階:臭素化剤の種類>
第1段階は式(2)で表される母体ケトンのカルボニルに対してα-位の水素を臭素に置換する工程であり、種々の臭素化剤を用いることができる。臭素化剤の具体例としては、臭素、N-ブロモコハク酸イミド、1,3-ジブロモー5,5-ジメチルヒダントイン、テトラブチルアンモニウムトリブロミド、ピリジニウムブロミドペルブロミド、トリメチルフェニルアンモニウムトリブロミド、臭化銅(I)、臭化銅(II)が使用可能である。式(2)で表される母体ケトンのカルボニルの両隣の炭素上に水素が存在するときには、どちらの位置に臭素を導入するかによって、選択する臭素化剤が異なってくるが、環境負荷および費用の面から好ましい臭素化剤は臭素とN-ブロモコハク酸イミドである。
【0043】
<第1段階:塩基の種類>
第1段階の反応は塩基を添加して行うことができる。臭素化剤の種類によっては反応中に酸例えば臭化水素が発生してそれが副反応を誘発することがあり、このような場合に塩基が存在すると酸を中和して副反応を抑えることができる。さらに、第2段階で加えるカルボン酸を活性化する役割も担っている。使用可能な塩基として例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム炭酸水素リチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸二水素リチウムの無機塩基、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ジイソピロピルエチルアミン、ジイソプロピルアミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピリジン、2,6-ルチジン、リチウムジイソプロピルアミド、リチウム=ビス(トリメチルシリル)アミド、ナトリウム=ビス(トリメチルシリル)アミド、カリウム=ビス(トリメチルシリル)アミド、カリウム=tert-ブトキシドの有機塩基が挙げられる。式(2)で表される母体ケトンは強塩基が共存するとアルドール縮合が起こる可能性があるので、塩基性化合物は弱塩基が好ましく、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム炭酸水素リチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸二水素リチウムの無機塩基、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ジイソピロピルエチルアミン、ジイソプロピルアミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピリジン、2,6-ルチジンの有機塩基が挙げられる。有機塩基は臭化水素の酸と不溶性の塩を、無機塩基を使用した場合に比べて多量に与えて攪拌を困難にする可能性があるので、より好ましくは無機の弱塩基、すなわち炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム炭酸水素リチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸二水素リチウムが挙げられる。これらのうちリン酸塩は例えば臭化水素と反応するとリン酸とアルカリ金属の臭化物を与えるが、リン酸を反応混合物から除去するにはアルカリ水溶液で洗浄する工程が必要なので、その必要がない炭酸塩がさらに好ましく、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムが挙げられる。その中でも一酸塩基よりも酸の中和能力が大きい二酸塩基で、且つ価格面で有利な炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムが最も好ましい。
【0044】
<第1段階:反応温度>
第1段階の反応を行う際の温度は反応混合物が固化するなどして攪拌継続が困難にならない限り、-78℃~反応液の沸騰温度の範囲で行うことができる。反応温度が低いほど反応速度が低下すること、また臭素化剤に臭素を使用する場合は臭素の沸点が59℃なので臭素の気化による損失を抑えることを考慮すると、好ましい反応温度は0℃~59℃である。式(2)で表される母体ケトンが非対称ケトンでかつカルボニルの両隣の炭素上に水素を有する場合は、臭素化の際の位置選択性を高くする必要があるため、反応温度を0℃~30℃に保つことがより好ましい。
【0045】
<第1段階:式(2)で表される母体ケトンを反応基質兼溶媒として使用する場合>
第1段階の反応は式(2)で表される母体ケトンが反応させる温度において、液体であれば該母体ケトンを反応基質兼溶媒として使用することができる。
【0046】
該化合物を反応基質兼溶媒として使用する例として、次のような場合が挙げられる。臭素化の際に同一炭素上に臭素が2個以上導入されることを防ぐために式(2)で表される母体ケトンを臭素に対して過剰に使用した方が好ましいときがある。そのような場合には該化合物に溶媒としての役割を兼ねさせることが可能である。また、式(2)で表される母体ケトンがアセトンのように安価で、他の化合物を溶媒として使用すると却って割高になってしまう場合にも該化合物に溶媒としての役割を兼ねさせることが可能である。
【0047】
式(2)で表される母体ケトンを反応基質兼溶媒として使用する場合、臭素化剤を基準としてこれに対する式(2)で表される母体ケトンのモル比で0.8~50倍の範囲で使用することができ、好ましくは0.9~30倍、より好ましくは1~15倍、さらに好ましくは1~8倍である。臭素化されるべき部位がメチレンまたはメチルである場合、該部位がメチレンであれば臭素が2個、メチルであれば2個または3個導入される可能性があり、これを抑制するために式(2)で表される母体ケトンを多めに使用しなければならない場合がある。そのため、式(2)で表される母体ケトンの臭素化剤に対する適切なモル比は、該化合物の構造および臭素化の際の位置選択性に大きく依存し、したがって式(2)で表される母体ケトンの臭素化剤に対する好ましいモル比の範囲をこれ以上狭めることは合理的でない。
【0048】
式(2)で表される母体ケトンを反応基質兼溶媒として使用する場合、塩基は臭素化剤に対する当量数で0.1~10当量の範囲で使用できる。第1段階の反応では塩基を必要としない場合もあるが、第2段階の反応で加えるカルボン酸の活性化に有効なので少なくとも1当量は加えた方がよい。但し、大過剰に加えても経済的にも不利になるので、好ましくは1~5当量である。第1段階の反応で生成する酸を中和する必要がある場合には、第2段階のカルボン酸の活性化とあわせて最低2当量の塩基が必要であり、それよりは少過剰加えた方が一般的には効率がよいことから、より好ましくは1.1~2.5当量である。
【0049】
<第1段階:式(2)で表される母体ケトンと異なる物質を溶媒として使用する場合>
式(2)で表される母体ケトンと異なる物質を溶媒として使用する場合に使用可能なものとしては、式(2)で表される母体ケトンおよび式(3)で表されるα-ブロモケトン、臭素化剤、R4COOHで表されるカルボン酸のいずれに対しても不活性で、実施の際に設定した反応温度で液体であれば任意のものを選択でき、例えば、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、シクロヘキサノール、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸=n-プロピル、酢酸=n-ブチル、γ-ブチロラクトン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、シクロヘキサン、ジエチルエーテル、ジ-n-プロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、ジフェニルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルが挙げられる。これらの中から1種類を選択して単一溶媒として使用してもよく、2種類以上を選択して混合溶媒として使用してもよい。環境負荷、反応の後処理の容易さ、およびコストの観点から好ましくは水、メタノール、エタノール、酢酸エチル、酢酸=n-プロピル、酢酸=n-ブチル、トルエン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、アセトニトリルであり、より好ましくは、水、メタノール、エタノール、酢酸エチル、トルエンである。
【0050】
式(2)で表される母体ケトンと異なる物質を溶媒として使用する場合、使用する溶媒の量は、式(2)で表される母体ケトンに対し重量比で0.2~50倍の範囲で使用することができ、好ましくは1~20倍、より好ましくは1~5倍である。
【0051】
式(2)で表される母体ケトンと異なる物質を溶媒として使用する場合、使用する臭素化剤の量は、式(2)で表される母体ケトンに対してモル比で0.8~5倍の範囲で使用することができ、好ましくは1~2倍、より好ましくは1~1.2倍である。
【0052】
式(2)で表される母体ケトンと異なる物質を溶媒として使用する場合、使用する塩基の量は式(2)で表される母体ケトンに対する当量数で0.1~10当量の範囲で使用できる。第1段階の反応では塩基を必要としない場合もあるが、第2段階の反応で加えるカルボン酸の活性化に有効なので少なくとも1当量は加えた方がよい。但し、大過剰に加えても経済的にも不利になるので、好ましくは1~5当量である。第1段階の反応で生成する酸を中和する必要がある場合には、第2段階のカルボン酸の活性化をあわせて式(2)で表される母体ケトンに対して最低2当量の塩基が必要であることから、より好ましくは2~5当量である。
【0053】
<第2段階:カルボン酸の量>
R4COOHで表されるカルボン酸の量は、式(2)で表される母体ケトンと異なる物質を溶媒として使用する場合と式(2)で表される母体ケトンを反応基質兼溶媒として使用する場合とで基準が異なる。式(2)で表される母体ケトンと異なる物質を溶媒として使用する場合には式(2)で表される母体ケトンを基準としたモル比で0.8~10倍使用することができ、1~5倍が好ましく、1~2倍がより好ましい。式(2)で表される母体ケトンを反応基質兼溶媒として使用する場合には、使用する臭素化剤を基準にしたモル比で0.8~10倍使用することができ、1~5倍が好ましく、1~2倍がより好ましい。
【0054】
<第2段階:カルボン酸の添加方法>
R4COOHで表されるカルボン酸は液体、固体に関わらず、溶媒に溶かしてから添加する方法、溶媒に溶かさずに添加する方法のどちらも可能であり、1回で全量添加しても、時間をかけて添加してもよいが、カルボン酸が塩基と反応して生ずる塩が反応液に難溶性でスラリーになって攪拌効率を低下させる場合があるので、時間をかけて添加する方が好ましい。
【0055】
<第2段階:カルボン酸を溶かす溶媒>
R4COOHで表されるカルボン酸を溶媒に溶かして添加する場合、式(2)で表される母体ケトンおよび式(3)で表されるα-ブロモケトン、R4COOHで表されるカルボン酸のいずれに対しても不活性であれば任意のものを選択できる。例えば、<第1段階:式(2)で表される母体ケトンと異なる物質を溶媒として使用する場合>で示したものに加えて、アセトン、2-ブタノン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、ジメチルスルホキシドが挙げられる。これらの中から1種類を選択して単一溶媒として使用してもよく、2種類以上を選択して混合溶媒として使用してもよい。環境負荷、反応の後処理の容易さ、およびコストの観点から好ましくは、水、メタノール、エタノール、酢酸エチル、酢酸=n-プロピル、酢酸=n-ブチル、トルエン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、アセトニトリル、アセトン、2-ブタノンであり、より好ましくは、水、メタノール、エタノール、酢酸エチル、トルエン、アセトン、2-ブタノンである。
【0056】
<第2段階:反応温度>
第2段階の反応を行う際の温度は反応混合物が固化するなどして攪拌継続が困難にならない限り、-78℃~200℃の範囲で行うことができる。反応温度が低いほど反応速度が低下すること、反応温度が高いほど副反応を誘発する可能性が高いことを考慮すると、好ましい反応温度は30℃~150℃であり、より好ましい反応温度は40℃~100℃であるが、反応液の沸騰温度がこれらの温度範囲の上限温度より低い場合は反応液の沸騰温度が上限となる。
【0057】
<第2段階:重合禁止剤>
R4COOHで表されるカルボン酸が(メタ)アクリル酸のように重合性を有する場合には反応中に重合が起こる可能性があり、これを抑えるために重合禁止剤を添加することができる。重合禁止剤としては一般的に知られているものを使うことができ、例えば、フェノール、4-メトキシフェノール、ヒドロキノン、4-tert-ブチルピロカテコール、4-tert-ブチルヒドロキノン、1,4-ベンゾキノン、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール、2-tert-ブチル-1,4-ベンゾキノン、ジブチルチオカルバミン酸銅(II)、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(以下、BHTと呼ぶ)、2,6-ジtert-ブチルフェノール、1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジルフリーラジカル、フェノチアジン、プロピオン酸=オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル(以下、BASF社の商標名Irganox1076と呼ぶ)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)が挙げられ、これらを単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。重合禁止剤の使用量は、R4COOHで表されるカルボン酸を基準とした重量比で10ppm~10%の範囲で可能であり、重合禁止剤が効果を発揮する量と経済性を考慮すると好ましくは100ppm~1%、より好ましくは300~1000ppmである。
【0058】
<式(1)で表されるα-アシルオキシケトンの単離>
式(1)で表されるα-アシルオキシケトンは、有機化合物を精製する際の一般的な手法を用いて単離することができる。式(1)で表されるα-アシルオキシケトンの理論収量が10g程度以下であればシリカゲルカラムクロマトグラフィーが便利である。該化合物の理論収量が10g程度を超えるときには、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに加えて蒸留、再結晶、昇華などを用いることができる。また、これらの手法を適宜組み合わせることも可能である。
【実施例0059】
<化合物の同定>
以下の実施例で得られた各化合物は、核磁気共鳴装置(NMR、日本電子製ECZ 400S)、質量分析装置(MS、島津製作所製QP2010-ultra)を用いスペクトル分析により同定した。
【0060】
<NMRの測定条件>
サンプル濃度が約1%になるように重クロロホルムに溶解し、テトラメチルシランを内部標準物質(δ=0.0ppm)に用い、室温で測定した。sはシングレット、dはダブレット、tはトリプレット、qはカルテット、qnはクインテット、mはマルチプレットを示す。
【0061】
<MSの測定条件>
GC-MSで測定。下記<GCの測定条件>で検出された目的物のピークはイソブタンを用いた化学イオン化法(CI)により、イオン源温度200℃で測定した。
【0062】
<反応の追跡および化合物の純度測定>
以下の実施例において、反応の追跡は薄層クロマトグラフィー(TLC、メルク社製TLCプレート シリカゲル60 F254を5cm×1.5cmの大きさに切り、反応液を下辺から0.5cmの高さの位置にスポットし、適切な溶媒で展開)、ガスクロマトグラフィー(GC、島津製作所製GC-2014)を用いて反応を追跡した。純度はGCで測定した。以下、純度に関する%表示はこのGC測定による面積百分率の値である。
【0063】
<GC収率>
GC収率は、トリデカンを内部標準物質としてGC測定を行い、得られた目的物とトリデカンとの面積比を基に、あらかじめ作成した検量線から求めた収率である。
【0064】
<GCの測定条件>
カラム:アジレント・テクノロジーズ社製DB-1MS(液相膜厚 0.25μm、長さ 60m、内径0.25mm)
キャリアガス:ヘリウム、カラム流量 1.70mL/分、
注入条件:150℃、スプリット比1/18
検出条件:FID、280℃
カラム温度条件:80℃で3分間保持後、10℃/分で280℃まで昇温
【0065】
<実施例1>
メタクリロイルオキシアセトンの製造
窒素雰囲気下、炭酸ナトリウム3.71gとアセトン27.3gの混合液を氷冷し、臭素5.00gを1時間20分かけて滴下した。氷冷したまま21時間攪拌後、反応液の温度を59℃まで上げ、Irganox1076を17mg溶かしたメタクリル酸2.96gを22分かけて滴下した。59℃で40分間攪拌後、氷冷して反応液の温度が25℃まで下がったところで吸引濾過により不溶物を濾別した。濾別されたケーキをアセトンで洗浄したところ、濾液の重量は39.5gだった。この濾液のうち2.10gを採取し、内部標準物質としてトリデカンを108mg加えてGC分析したところ、メタクリロイルオキシアセトンのGC収率は69%だった。
濾液を減圧濃縮したのち、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:n-ヘプタン/酢酸エチル=4/1)で精製し、高純度のフラクションを回収して濃縮し、2.09gのメタクリロイルオキシアセトンを得た。無色液体、単離収率47%。
1H-NMR:δ=1.97ppm,3H,-COCH
3
=CH2,dd,J=1.72,1.03Hz;δ=2.17ppm,3H,CH
3
CO-,s;δ=4.70ppm,2H,-COCH
2
O-,s;δ=5.65ppm,1H,-C(CH3)=CH-[CH3とHはシス配置],qn,J=1.72Hz;δ=6.20ppm,1H,-C(CH3)=CH-[CH3とHはトランス配置],dq,J=1.03,1.72Hz。
【0066】
<実施例2>
3-メタクリロイルオキシ-2-ブタノンの製造(1)
窒素雰囲気下、炭酸ナトリウム74.3gと2-ブタノン677gの混合液を氷冷し、臭素100gを5時間かけて滴下した。氷冷したまま20時間攪拌後、反応液の温度を70℃まで上げ、Irganox1076を332mg溶かしたメタクリル酸59.3gを20分かけて滴下した。70℃で7時間攪拌後、一晩放冷し、吸引濾過で不溶物を濾別した。濾別されたケーキを2-ブタノンで洗浄し、濾液の重量を測定すると742gだった。この濾液のうち2.63gを採取し、内部標準物質としてトリデカンを103mg加えてGC分析したところ、3-メタクリロイルオキシ-2-ブタノンおよびその位置異性体である1-メタクリロイルオキシ-2-ブタノンのGC収率はそれぞれ86%および7%だった。
濾液を減圧濃縮したのち、残渣を減圧蒸留(69-70℃/0.2kPa)して69.0gの3-メタクリロイルオキシ-2-ブタノンを無色液体として得た。単離収率71%、GC純度99.7%。
蒸留残渣のうち0.2gをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:トルエン/酢酸エチル=40/1)で精製し、高純度の1-メタクリロイルオキシ-2-ブタノンを30mg得たので、これをNMR測定に供した。無色液体。
3-メタクリロイルオキシ-2-ブタノン
1H-NMR:δ=1.43ppm,3H,CH
3
-CH,d,J=7.08Hz;δ=1.97ppm,3H,-COCH
3
=CH2,dd,J=1.52,0.99Hz;δ=2.17ppm,3H,CH
3
-CO-,s;δ=5.12ppm,1H,CH3-CH,q,J=7.08Hz;δ=5.64ppm,-C(CH3)=CH-[CH3とHはシス配置],qn,J=1.52Hz;J=1.54Hz;δ=6.19ppm,1H,-C(CH3)=CH-[CH3とHはトランス配置],dq,J=1.52,0.99Hz。
1-メタクリロイルオキシ-2-ブタノン
1H-NMR:δ=1.09ppm,3H,CH
3
-CH2-,t,J=7.32Hz;δ=1.98ppm,3H,-COCH
3
=CH2,dd,J=1.54,1.13Hz;δ=2.47ppm,2H,CH3-CH
2
-,q,J=7.32Hz;δ=4.71ppm,2H,-CO-CH
2
-O-,s;δ=5.65ppm,1H,-C(CH3)=CH-[CH3とHはシス配置],qn,J=1.54Hz;δ=6.21ppm,1H,-C(CH3)=CH-[CH3とHはトランス配置],dq,J=1.54,1.13Hz。
【0067】
<実施例3> 3-メタクリロイルオキシ-2-ブタノンの製造(2)
窒素雰囲気下、炭酸カリウム2.38gと2-ブタノン12.4gの混合液を氷冷し、臭素2.50gを30分かけて滴下した。氷冷したまま17時間攪拌後、反応液の温度を70℃まで上げ、Irganox1076を8mg溶かしたメタクリル酸1.48gを30分かけて滴下した。90分間70℃で攪拌後、氷冷して反応液の温度が25℃まで下がったところで、吸引濾過により不溶物を濾別した。濾別されたケーキを2-ブタノンで洗浄し、濾液の重量を測定すると19.4gだった。この濾液のうち2.34gを採取し、内部標準物質としてトリデカンを105mg加えてGC分析したところ、3-メタクリロイルオキシ-2-ブタノンおよびその位置異性体である1-メタクリロイルオキシ-2-ブタノンのGC収率はそれぞれ44%および3%だった。
【0068】
<実施例4>
3-メタクリロイルオキシ-2-ブタノンの製造(3)
窒素雰囲気下、炭酸水素ナトリウム6.36gと2-ブタノン18.6gの混合液を氷冷し、臭素5.00gを6分かけて滴下した。徐々に温度を20℃まで上げて35分間攪拌後、Irganox1076を17mg溶かしたメタクリル酸3.26gを加えた。続いて75℃で6時間攪拌し、氷冷して反応液の温度が25℃まで下がったところで吸引濾過により不溶物を濾別した。濾別されたケーキを2-ブタノンで洗浄し、濾液の重量を測定すると42.5gだった。この濾液のうち2.04gを採取し、内部標準物質としてトリデカンを108mg加えてGC分析したところ、3-メタクリロイルオキシ-2-ブタノンおよびその位置異性体である1-メタクリロイルオキシ-2-ブタノンのGC収率はそれぞれ85%および6%だった。
【0069】
<実施例5>
2-メタクリロイルオキシシクロペンタノンの製造
窒素雰囲気下、炭酸ナトリウム3.71gとシクロペンタノン39.5gの混合液を氷冷し、臭素5.00gを1時間かけて滴下した。氷冷したまま15時間攪拌後、反応液の温度を70℃まで上げ、Irganox1076を17mg溶かしたメタクリル酸2.96gを10分かけて滴下した。70℃で7時間攪拌後、氷冷して反応液の温度が25℃まで下がったところで吸引濾過により不溶物を濾別した。濾別されたケーキをアセトンで洗浄し、濾液の重量を測定すると66.4gだった。この濾液のうち1.99gを採取し、内部標準物質としてトリデカンを106mg加えてGC分析したところ、2-メタクリロイルオキシシクロペンタノンのGC収率は40%だった。そのほかに、3-ブロモ-2-メタクリロイルオキシ-2-シクロペンテノンおよび2-メタクリロイルオキシ-2-シクロペンテノンがそれぞれGC収率で8%および2%生成したことを確認した。
濾液を減圧濃縮したのち、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:n-ヘプタン/酢酸エチル=4/1)で精製し、各成分の高純度のフラクションを回収して濃縮した後NMR測定に供した。
2-メタクリロイルオキシシクロペンタノン
1H-NMR:δ=1.85~1.93ppm,2H,-CO-CH2-CH
2
の一方および-O-CH-CH
2
-の一方,m;δ=1.92ppm,3H,CH3,dd,J=0.71Hz,0.55Hz;δ=2.08~2.18ppm,1H,-CO-CH2-CH
2
の他方,m;δ=2.26~2.38ppm,2H,-CO-CH
2
,m;δ=2.40~2.49ppm,1H,-O-CH-CH
2
-の他方,m;δ=5.62ppm,1H,-C(CH3)=CH-[CH3とHはシス配置],qn,J=0.71Hz;δ=6.16ppm,1H,-C(CH3)=CH-[CH3とHはトランス配置],dq,J=0.71,0.55Hz。
3-ブロモ-2-メタクリロイルオキシ-2-シクロペンテノン
1H-NMR:δ=2.03ppm,3H,CH3,dd,J=1.47,0.97Hz;δ=2.65~2.67ppm,2H,-CO-CH
2
-CH2-,m;δ=2.97~3.00ppm,2H,-CO-CH2-CH
2
-,m;δ=5.80ppm,1H,-C(CH3)=CH-[CH3とHはシス配置],qn,J=1.47Hz;δ=6.35ppm,1H,-C(CH3)=CH-[CH3とHはトランス配置],dq,J=1.47,0.97Hz。MS(CI):245[M+H],218,165,151,81。
2-メタクリロイルオキシ-2-シクロペンテノン
1H-NMR:δ=2.01ppm,3H,-COCH
3
=CH2,dd,J=1.49,0.74Hz;δ=2.47~2.49ppm,2H,-CO-CH
2
-CH2-,m;δ=2.66~2.69ppm,2H,-CO-CH2-CH
2
-,m;δ=5.75ppm,1H,-C(CH3)=CH-[CH3とHはシス配置],qn,J=1.49Hz;δ=6.32ppm,1H,-C(CH3)=CH-[CH3とHはトランス配置],dq,J=1.49,0.74Hz;δ=7.42ppm,1H,-CH2-CH=C,t,J=3.00Hz。