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特開2022-130698非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、および、非水系電解質二次電池
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  • 特開-非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、および、非水系電解質二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130698
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、および、非水系電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220830BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220830BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220830BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20220830BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M10/052
H01M10/0566
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108167
(22)【出願日】2022-07-05
(62)【分割の表示】P 2017170547の分割
【原出願日】2017-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(72)【発明者】
【氏名】林 徹太郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 敏弘
(57)【要約】
【課題】二次電池の高出力化と高耐久化が可能となる非水系電解質二次電池用正極活物質を提供する。
【解決手段】一次粒子および複数の一次粒子が凝集して形成される二次粒子の少なくとも一方からなるリチウム金属複合酸化物粉末と、前記リチウム金属複合酸化物粉末の表面に形成される被覆層とを有する、非水系電解質二次電池用正極活物質であって、正極活物質は、LiとNiとCoとAlを含有し、それぞれの金属の原子比がLi:Ni:Co:Al=z:(1-x-y):x:y(ただし、0.01≦x≦0.15、0<y≦0.05、0.97≦z≦1.20を満たす。)で表され、被覆層は、タンタルとリチウムとを含む化合物を含有する、非水系電解質二次電池用正極活物質。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子および複数の一次粒子が凝集して形成される二次粒子の少なくとも一方からなるリチウム金属複合酸化物粉末と、前記リチウム金属複合酸化物粉末の表面に形成される被覆層とを有する、非水系電解質二次電池用正極活物質であって、
前記正極活物質は、LiとNiとCoとAlを含有し、それぞれの金属の原子比がLi:Ni:Co:Al=z:(1-x-y):x:y(ただし、0.01≦x≦0.15、0<y≦0.05、0.97≦z≦1.20を満たす。)で表され、
前記被覆層は、タンタルとリチウムとを含む化合物を含有する、
非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記被覆層に含まれるタンタルの量が、前記正極活物質粉末に含まれるNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して、0.1原子%以上2.0原子%以下である、請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記タンタルとリチウムとを含む化合物は、LiTaO及びLiTaOのうちの少なくとも一種からなるタンタル酸リチウムを含む、請求項1又は請求項2に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
撹拌されている状態のリチウム金属複合酸化物粉末に、タンタルアルコキシドと、リチウムアルコキシド及びリチウムのうち少なくとも一種と、を含むアルコキシド溶液を噴霧することと、
前記噴霧後のリチウム金属複合酸化物粉末を加熱処理して、前記リチウム金属複合酸化物粉末の表面に、タンタルとリチウムとを含む化合物を含有する被覆層を形成することと、を備え、
前記リチウム金属複合酸化物粉末は、LiとNiとCoとAlを含有し、それぞれの金属の原子比がLi:Ni:Co:Al=z:(1-x-y):x:y(ただし、0.01≦x≦0.15、0<y≦0.05、0.97≦z≦1.20を満たす。)で表される、
非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記アルコキシド溶液は、前記リチウム金属複合酸化物粉末100質量部に対して、2質量部以上91質量部以下で噴霧する、請求項4に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記加熱処理は、300℃以上400℃以下の範囲で1時間以上加熱する、請求項4又は請求項5に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記アルコキシド溶液に含まれるタンタルの量が、前記リチウム金属複合酸化物粉末に含まれるニッケル、コバルトおよびアルミニウムの原子数の合計に対して、0.1原子%以上2.0原子%以下である、請求項4~請求項6のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記タンタルとリチウムとを含む化合物は、LiTaO及びLiTaOのうちの少なくとも一種からなるタンタル酸リチウムを含む、請求項4~請求項7のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
正極、負極、セパレータ、及び、非水系電解液を含み、
前記正極は、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質を含む、非水系電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、および、非水系電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれ、また、ハイブリット自動車をはじめとする電気自動車用の電池として高出力の二次電池の開発も強く望まれている。このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。
【0003】
このリチウムイオン二次電池は、負極および正極の活物質に、リチウムが脱離および挿入できる材料が用いられている。このようなリチウムイオン二次電池については、現在研究、開発が盛んに行われているところであるが、中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極活物質に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0004】
これまでに提案されている正極活物質としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)などが挙げられる。
【0005】
リチウム金属複合酸化物を自動車用途等の高い出力が要求される二次電池の正極活物質として用いるためには、現状よりも高出力が得られる正極活物質に改良することが求められている。例えば、非水系電解液を用いる非水系電解質二次電池の場合、正極において、電解液と正極活物質との間で正極の界面抵抗が生じる。この正極の界面抵抗(正極抵抗)が高い場合、負荷側に印加される電圧が相対的に低くなり、高い出力を得ることができない。
【0006】
これまで、リチウム金属複合酸化物(正極活物質)の表面を金属酸化物で被覆させて、電池特性を改善する技術がいくつか報告されている。
【0007】
例えば、非特許文献1には、パルスレーザー堆積法を用いて、リチウムコバルト複合酸化物(LLiCoO)上に、イオン伝導体としての性質を持つリチウム金属酸化物のLiWOを成膜することで、正極/電解液界面でのリチウム拡散を向上させ、界面抵抗が低下し、アモルファス状態にすることでリチウムの拡散パスが有効的に働き、抵抗低減効果が促進し出力特性が向上することが報告されている。
【0008】
また、非特許文献2には、ゾルゲル法を用いて、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)に、誘電体としての性質を有する金属酸化物であるBaTiOを被覆することで、出力特性が向上することが報告されている。これは、誘電体と活物質界面でのリチウムの挿入脱離が誘電体の持つ分極効果によって、促進されるためではないかと考えられている。
【0009】
また、特許文献1には、ナノ粒子複合化装置を用いて、正極活物質粉末(LiNi0.5Mn1.5)にリチウムイオン伝導性部材であるLi1.3Al0.3Ti1.7(POおよびLiPOを被覆した正極活物質粉末が提案されている。特許文献1によれば、上記正極活物質粉末は、リチウムイオン二次電池において、サイクル特性を向上させることが述べられているが、出力特性改善については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2016-51566号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J. Power Sources 305 (2016) 46.
【非特許文献2】APPLIED PHYSICS LETTERS 105 (2014) 143904.
【非特許文献3】J.Appl.Phys.49 (1978) 4808.
【非特許文献4】「注目の誘電体セラミックス材料」,(株)ティー・アイ・シィー,(2003).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記非特許文献1、2及び、特許文献1には、特定の金属酸化物からなる被覆層を有する正極活物質が記載されているが、タンタルとリチウムとを含む化合物を有する被覆層については、一切、記載されていない。また、特許文献1に記載されるリチウムイオン二次電池おける出力特性の改善については検討されていない。
【0013】
さらに、上記先行技術文献のいずれもがリチウム金属複合酸化物粉末として、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(LiNiCoAl)を用いた場合の具体的な効果については、何ら言及されていない。
【0014】
本発明は係る問題点に鑑み、正極に用いられた場合に、高出力とともに高い耐久性を有する非水系電解質二次電池が得られる非水系電解質二次電池用正極活物質と、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の態様によれば、一次粒子および複数の一次粒子が凝集して形成される二次粒子の少なくとも一方からなるリチウム金属複合酸化物粉末と、リチウム金属複合酸化物粉末の表面に形成される被覆層とを有する、非水系電解質二次電池用正極活物質であって、リチウム金属複合酸化物粉末は、LiとNiとCoとAlを含有し、それぞれの金属の原子比がLi:Ni:Co:Al=z:(1-x-y):x:y(ただし、0.01≦x≦0.15、0<y≦0.05、0.97≦z≦1.20を満たす。)で表され、被覆層は、タンタルとリチウムとを含む化合物を含有する、非水系電解質二次電池用正極活物質が提供される。
【0016】
また、被覆層に含まれるタンタルの量が、非水系電解質二次電池用正極活物質に含まれるNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して、0.1原子%以上2.0原子%以下であることが好ましい。また、タンタルとリチウムとを含む化合物は、LiTaO及びLiTaO44のうちの少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0017】
本発明の第2の態様によれば、撹拌されている状態のリチウム金属複合酸化物粉末に、タンタルアルコキシドと、リチウムアルコキシド及びリチウムのうち少なくとも一種と、を含むアルコキシド溶液を噴霧することと、噴霧後のリチウム金属複合酸化物粉末を加熱処理して、前記リチウム金属複合酸化物粉末の表面に、二オブとリチウムとを含む化合物を含有する被覆層を形成することと、を備え、リチウム金属複合酸化物粉末は、LiとNiとCoとAlを含有し、それぞれの金属の原子比がLi:Ni:Co:Al=z:(1-x-y):x:y(ただし、0.01≦x≦0.15、0<y≦0.05、0.97≦z≦1.20を満たす。)で表される、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
【0018】
また、アルコキシド溶液は、リチウム金属複合酸化物粉末100質量部に対して、2質量部以上91質量部以下で噴霧することが好ましい。また、加熱処理は、300℃以上400℃以下の範囲で1時間以上加熱することが好ましい。また、アルコキシド溶液に含まれるタンタルの量が、前記リチウム金属複合酸化物粉末に含まれるニッケル、コバルトおよびアルミニウムの原子数の合計に対して、0.1原子%以上2.0原子%以下であることが好ましい。また、タンタルとリチウムとを含む化合物は、LiTaO及びLiTaOのうちの少なくとも一種からなるタンタル酸リチウムを含むことが好ましい。
【0019】
本発明の第3の態様によれば、正極、負極、セパレータ、及び、非水系電解液を含み、正極は、上記非水系電解質二次電池用正極活物質を含む、非水系電解質二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質によれば、正極に用いられた場合、高出力とともに高耐久な非水系電解質二次電池を得ることができる。また、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法によれば、上記正極活物質を簡便に生産性高く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質の一例を示す模式図である。
図2図2は、本実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法一例を示す図である。
図3図3は、実施例で使用したコイン型二次電池の概略説明図である。
図4図4は、インピーダンススペクトルの測定結果の一例を示す模式図である。
図5図5は、解析に使用した等価回路の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図を参照して、本発明の一実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、及び、非水系電解質二次電池について説明する。なお、本発明は、以下の説明に限定されるものではない。また、図面においては、実施形態を説明するため、一部または全部を模式的に記載するとともに、一部分を大きくまたは強調して記載する等適宜縮尺を変更して表現した部分を含んでいる。
【0023】
1.正極活物質
図1は、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、「正極活物質」ともいう。)の一例を示す模式図である。正極活物質PAは、図1に示すように、一次粒子1および複数の一次粒子1が凝集して形成される二次粒子2の少なくとも一方からなるリチウム金属複合酸化物粉末10と、リチウム金属複合酸化物粉末10の表面に形成される被覆層20とを有する。
【0024】
本発明者らは、正極活物質の粉体特性および二次電池の正極抵抗に対する影響について鋭意研究したところ、上記の正極活物質PAにおいて、後述するように、タンタルとリチウムとを含む化合物を含有する被覆層20のリチウムイオン伝導性及び誘電体としての性質が、正極(電極)におけるリチウムイオン伝導性や、被覆層20とリチウム金属複合酸化物粉末10との界面でのリチウム挿入脱離を向上させ、得られる二次電池の正極抵抗を大幅に低減して、出力特性を向上させるとともに、二次電池の耐久性を向上させることが可能であることを見出した。以下、正極活物質PAに含まれる各構成について説明する。
【0025】
(1)被覆層
被覆層20は、タンタルとリチウムとを含む化合物を含有し、タンタルとリチウムとを含む化合物から形成されてもよい。タンタルとリチウムとを含む化合物は、誘電体を含むリチウムイオン伝導体であることが好ましい。
【0026】
通常、リチウム金属複合酸化物粉末10の表面が異種化合物により完全に被覆される場合、リチウムイオンの移動(インターカレーション)が大きく制限されるため、結果的にリチウム金属複合酸化物粉末10の持つ高容量という長所が損なわれてしまう。また、リチウム複合酸化物粉末10中に異種元素を固溶させることは、容量の低下を招きやすい。
【0027】
一方、タンタルとリチウムとを含む化合物は、リチウムイオン伝導率が高く、リチウムイオンの移動を促す効果があるため、リチウム金属複合酸化物粉末10の表面を、二オブとリチウムとを含む化合物で被覆することにより正極活物質PAの表面におけるインターカレーションの促進が可能である。
【0028】
(タンタルとリチウムとを含む化合物)
タンタルとリチウムとを含む化合物は、タンタル酸リチウムを含むことが好ましく、LiTaO、および、LiTaOの少なくとも一種を含むことがより好ましく、LiTaOを含むことがさらに好ましい。また、タンタルとリチウムとを含む化合物は、タンタル酸リチウムからなってもよい。なお、タンタルとリチウムとを含む化合物は、粉末X線回折(XRD)などにより確認することができる。
【0029】
タンタル酸リチウムは、イオン伝導体としての性質を有するとともに、良好な誘電性を示すことが報告されている(非特許文献3、4参照)。すなわち、タンタル酸リチウムは、上記リチウムイオン伝導体としての性質だけでなく、誘電体としての性質も有するため、被覆層20(誘電体)の持つ分極効果によって、リチウム金属複合酸化物粉末10と被覆層20との界面でのリチウム挿入脱離が促進され、正極活物質PAを用いた二次電池の出力特性が大幅に向上すると考えられる。
【0030】
(タンタルの含有量)
被覆層20に含まれるタンタルの含有量は、正極活物質PA中のニッケル、コバルトおよびアルミニウムの原子数の合計に対して、0.1原子%以上2.0原子%以下であることが好ましい。タンタルの含有量が上記範囲である場合、高い出力特性と耐久性を両立することができる。一方、タンタルの含有量が0.1原子%未満である場合、出力特性の改善効果が十分に得られない場合がある。また、タンタル量が2.0原子%を超える場合、タンタル酸リチウムが多くなり過ぎて、リチウム金属複合酸化物と電解液との間のリチウムイオン伝導が阻害され、電池性能が低下することがある。
【0031】
また、タンタルの含有量は、より高いレベルでの出力特性と耐久性とを両立させるという観点から、0.1原子%以上2.0原子%以下が好ましく、0.5原子%以上1.7原子%以下がより好ましく、0.8原子%以上1.3原子%以下がさらに好ましい。
【0032】
なお、被覆層20がリチウム複合酸化物粉末10の表面を不均一に被覆した場合、リチウム金属複合酸化物粉末10の粒子間でリチウムイオンの移動が不均一となることがある。このような場合、特定のリチウム金属複合酸化物粒子に負荷がかかり、サイクル特性の悪化や反応抵抗の上昇を招く恐れがある。したがって、リチウム複合酸化物粉末10の表面において、均一に被覆層20が被覆されていることが好ましい。後述する本実施形態の製造方法を用いることにより、リチウム複合酸化物粉末10の表面に被覆層20を均一に被覆することができる。
【0033】
(2)リチウム金属複合酸化物粉末
(粒子形状)
リチウム金属複合酸化物粉末10は、図1に示すように、一次粒子1および複数の一次粒子1が凝集して形成される二次粒子2の少なくとも一方からなる。このような粒子形状を有する場合、電解液との接触面積が多くなり、出力特性の向上に有利である。リチウム金属複合酸化物粉末10は、二次粒子2のみから構成されてもよく、単独の一次粒子1のみから構成されてもよく、二次粒子2と単独の一次粒子1の両方から構成されてもよい。また、リチウム金属複合酸化物粉末10は、二次粒子2を主成分として含み、少量の単独の一次粒子1を含んでもよい。
【0034】
(リチウム金属複合酸化物粉末の比表面積)
リチウム金属複合酸化物粉末10は、比表面積が0.3m/g以上2m/g以下であることが好ましい。比表面積が上記範囲である場合、電解液との接触を高めて出力特性や電池容量をより良好なものとするとともに熱安定性安も確保することができる。一方、比表面積が0.3m/g未満である場合、電解液との接触が十分に得られず、出力特性や電池容量が低下することがある。また、比表面積が2m/gを超える場合、電解液の分解が促進され熱安定性が低下することがある。
【0035】
(組成式)
リチウム金属複合酸化物粉末10は、層状の結晶構造を有することができ、例えば、一般式(1):LiNi1-x-y-tCoAl2+α(ただし、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、及び、Ta、及び、Wから選択される1種以上の元素であり、0.01≦x≦0.15、0<y≦0.05、0≦t≦0.1、0.97≦z≦1.20、―0.1≦α≦0.1を満たす。)で表され、一般式(2):LiNi1-x-yCoAl(ただし、0.01≦x≦0.15、0<y≦0.05、0.97≦z≦1.20を満たす。)で表されることが好ましい。
【0036】
(その他の特性)
正極活物質PAは、リチウム金属複合酸化物粉末10の表面に、タンタル酸リチウムなどを含む被覆層20を有することにより、出力特性を改善したものであり、正極活物質PAの主な粉体特性は、母材として用いられるリチウム金属複合酸化物粉末10の特性を引き継ぐものとなる。リチウム金属複合酸化物粉末10の粒径、タップ密度などの粉体特性は、通常に用いられる正極活物質の範囲内とすることができ、要求される電池特性等に応じて、適宜、選択することができる。また、リチウム金属複合酸化物粉末10は、公知の方法で得られたものを用いることができ、上記組成および粉体特性を満たすものを用いることができる。
【0037】
(3)正極活物質
正極活物質PAは、上述したように、一次粒子1および二次粒子2の少なくとも一方からなるリチウム金属複合酸化物粉末10と、リチウム金属複合酸化物粉末10の表面に形成される被覆層20とを有する。
【0038】
正極活物質PAは、LiとNiとCoとAlを含有し、それぞれの金属の原子比がLi:Ni:Co:Al=z:(1-x-y):x:y(ただし、0.01≦x≦0.15、0<y≦0.05、0.97≦z≦1.20を満たす。)で表される。
【0039】
正極活物質PAは、上記原子比を有することにより、この正極活物質PAを用いた二次電池は高い充放電容量が得られる。さらに、リチウム金属複合酸化物粉末10の表面に、後述するように、タンタルとリチウムとを含む化合物を含有する被覆層20を有することにより、正極活物質PAは、これを用いた二次電池において、高い充放電容量を有するだけでなく、出力特性を向上させ、かつ、充放電サイクルに伴う容量維持率の低下を抑えることができる。なお、正極活物質PA中の各金属元素の含有量は、ICP発光分光分析により測定することができる。また、各金属元素の原子比は、原料(母材)として用いるリチウム金属複合酸化物の組成を適宜選択することにより、上記範囲とすることができる。
【0040】
(リチウム)
上記原子比において、リチウム(Li)の含有量を示すzは、0.97以上1.20以下である。また、zは、リチウム金属複合酸化物10中のニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびアルミニウム(Al)の原子数の和(Me)とリチウム(Li)の原子数との比(Li/Me)を表す。Li/Meが0.97未満である場合、正極活物質PAを用いた二次電池における正極の反応抵抗が大きくなるため、二次電池の出力が低くなる。一方、Li/Meが1.20を超える場合、正極活物質の放電容量が低下するとともに、正極の反応抵抗も増加する。また、より大きな放電容量を得るという観点から、Li/Meは、1.10以下であることが好ましい。
【0041】
(コバルト)
上記原子比において、コバルト(Co)の含有量を示すxは、0.01以上0.15以下である。Coの含有量が上記範囲である場合、正極活物質PAを用いた二次電池のサイクル特性や出力特性などの電池特性を向上させることができ、かつ、電池容量をより向上させることができる。一方、xが0.15を超える場合、Redox反応に貢献するNiが減少するため、電池容量が低下する。また、xが0.01未満である場合、サイクル特性や熱安定性が十分に得られない。
【0042】
(アルミニウム)
上記原子比において、アルミニウム(Al)の含有量を示すyは、0を超え0.05以下である。Alの含有量が上記範囲である場合、正極活物質PAを用いた二次電池のサイクル特性や出力特性などの電池特性を向上させることができる。一方、yが0.05を超える場合、Redox反応に貢献するNiが減少するため、電池容量が低下する。
【0043】
(ニッケル)
上記原子比において、ニッケル(Ni)の含有量を示す(1-x-y)は、0.8以上0.99未満である。(1-x-y)が上記範囲である場合、正極活物質PAを用いた二次電池は、高い電池容量を有することができる。
【0044】
(その他の金属元素)
なお、リチウム金属複合酸化物粉末10中の金属元素は、上記リチウム、ニッケル、コバルト及びアルミニウムからなることができるが、これら以外の他の金属元素(M)を含んでもよい。他の金属元素(M)としては、例えば、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、及び、Ta、及び、Wから選択される1種以上の元素が挙げられる。他の金属元素(M)を含む場合、金属元素(M)の原子比は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびアルミニウム(Al)の原子数の和(Me)に対して、0以上0.05以下である。
【0045】
(正極活物質の比表面積)
正極活物質PAの主な粉体特性は、母材として用いられるリチウム金属複合酸化物粉末20の特性を引き継ぐ。よって、正極活物質PAの比表面積は、上述したリチウム金属複合酸化物粉末10の比表面積と、同様の範囲であることが好ましく、比表面積が0.3m/g以上2m/g以下であることが好ましい。
【0046】
なお、タンタルとリチウムとを含む化合物から形成される被覆層20を形成することにより得られる効果の一部は、本実施形態に係るリチウム金属複合酸化物10を含む正極活物質PAだけでなく、一般的に使用されるリチウム二次電池用正極活物質にも適用できる。しかし、本実施形態の正極活物質PAは、特定の原子比を有するリチウム金属複合酸化物10と、被覆層20とを組み合わせることにより、電池容量と、出力特性及び耐久性とをより高いレベルで両立させるものである。
【0047】
2.非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
図2は、本実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法(以下、「正極活物質の製造方法」ともいう。)の一例を示す図である。本実施形態に係る正極活物質の製造方法を用いることにより、上記の被覆層20を、リチウム金属複合酸化物粉末10の表面に均一に被覆させた正極活物質PAを、容易にかつ高い生産性で得ることができる。
【0048】
正極活物質の製造方法は、図2に示すように、撹拌されている状態のリチウム金属複合酸化物粉末に、タンタルアルコキシドと、リチウムアルコキシド及びリチウムのうち少なくとも一種と、を含むアルコキシド溶液を噴霧すること(ステップS10)と、加熱処理すること(ステップS20)とを備える。以下、各ステップについて、説明する。
【0049】
(ステップS10)
まず、撹拌されている状態のリチウム金属複合酸化物粉末に、タンタルアルコキシドと、リチウムアルコキシド及びリチウムのうち少なくとも一種と、を含むアルコキシド溶液を噴霧する(ステップS10)。
【0050】
リチウム金属複合酸化物粉末の撹拌には、一般的な攪拌機を使用することができ、例えば、転動流動装置やヘンシェルミキサーなどを用いてリチウム金属複合酸化物粒子の形骸が破壊されない程度で、リチウム金属複合酸化物粉末を十分に撹拌してやれば良い。
【0051】
リチウム金属複合酸化物粉末は、上述したリチウム金属複合酸化物粉末10と同様の特性を有する粉末を用いることができる。
【0052】
アルコキシド溶液は、タンタルアルコキシドと、リチウムアルコキシド及びリチウムのうち少なくとも一種と、を混合して得ることができる。アルコキシド溶液は、例えば、タンタルアルコキシドと、リチウムアルコキシド及びリチウムのうち少なくとも一種と、を有機溶媒に添加して調整することができる。
【0053】
タンタルアルコキシドとしては、例えば、タンタル(V)メトキシド[Ta(OCH]、タンタル(V)エトキシド[Ta(OC]、タンタル(V)イソプロポキシド[Ta(OC]、タンタル(V)-n-ブトキシド[Ta(OC]、テトラエトキシアセチルアセトナトタンタル(V)[Ta(OC(C)]等が挙げられる等が挙げられ、これらの中でも、タンタル(V)エトキシドが好ましい。
【0054】
リチウムアルコキシド及びリチウムのうち少なくとも一種としては、例えば、リチウムエトキシド、リチウムメトキシド、プロポキシリチウム、リチウム等が挙げられ、これらの中でも、リチウムエトキシド、リチウムが好ましく、リチウムがより好ましい。
【0055】
有機溶媒としては、上記の化合物を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、アルコールを用いることができ、炭素数が4以下の低級アルコールを用いることが好ましい。低級アルコールとしては、エタノール、2-プロパノール、1-ブタノールなどが挙げられ、エタノール、2-プロパノールが好ましい。また、有機溶媒としてアルコールを用いる場合、脱水したものが好ましい。
【0056】
アルコキシド溶液は、霧状態で、撹拌状態のリチウム金属複合酸化物粉末に噴霧される。アルコキシド溶液は、前記リチウム金属複合酸化物粉末100質量部に対して、好ましくは2質量部以上91質量部以下、より好ましくは16質量部以上49質量部以下で噴霧する。
【0057】
(加熱処理:ステップ20)
次いで、アルコキシド溶液を噴霧した後のリチウム金属複合酸化物粉末を加熱処理する(ステップS20)。タンタルとリチウムとを含むアルコキシド溶液をリチウム金属複合酸化物粉末に噴霧したのみの状態では、リチウム金属複合酸化物粉末の表面にカーボンが残り易くなり、正極の界面抵抗を増大させる要因となり得る。そのため、加熱処理をしてアルコキシド溶液中の金属アルコキシドを熱分解させる。
【0058】
加熱処理の温度は、例えば、250℃以上450℃以下の範囲とすることができ、300℃以上400℃以下の範囲が好ましく、350℃以上400℃以下の範囲がより好ましい。加熱処理の温度が上記範囲である場合、二次電池に用いられたときに、正極の界面抵抗が低減され、かつ、耐久性に優れる正極活物質を得ることができる。
【0059】
加熱処理の時間は、例えば、0.5時間以上とすることができ、1時間以上であることが好ましい。加熱時間の上限は特に限定されないが、例えば、12時間以下である。
【0060】
2.非水系電解質二次電池
本実施形態に係る非水系電解質二次電池(以下、「二次電池」ともいう。)は、正極、負極および非水系電解液を備える。また、二次電池は、一般の非水系電解質二次電池と同様の構成要素により構成されることができる。以下、本実施形態に係る二次電池の各構成について説明する。
【0061】
なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本発明の非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基に、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、本発明の非水系電解質二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
【0062】
(正極)
正極は、上記の本実施形態に係る正極活物質PAを含む。正極は、例えば、以下のようにして、作製することができる。
【0063】
まず、上記の正極活物質PA、導電材、及び、結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭、粘度調整等の目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製する。
【0064】
正極合材ペースト中のそれぞれの材料の混合比は、特に限定されず、要求される二次電池の性能に応じて、適宜、調整することができる。材料の混合比は、公知の非水系電解質二次電池の正極と同様の範囲とすることができ、例えば、溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量部とした場合、正極活物質PAの含有量を60質量部以上95質量部以下、導電材の含有量を1質量部以上20質量部以下、結着剤の含有量を1質量部以上20質量部以下とすることができる。
【0065】
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させて、シート状の正極を作製することができる。必要に応じ、電極密度を高めるべく、ロールプレス等により加圧してもよい。
【0066】
作製したシート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等をして、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、上記例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。
【0067】
導電剤としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
【0068】
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
【0069】
また、必要に応じ、正極活物質、導電材、活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加してもよい。溶剤としては、具体的には、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することができる。
【0070】
(負極)
負極は、金属リチウムやリチウム合金等を用いることができる。また、負極は、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを用いることができる。
【0071】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。
【0072】
負極結着剤としては、正極同様、PVDF等の含フッ素樹脂等を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0073】
(セパレータ)
正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂を含む薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
【0074】
(非水系電解液)
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
【0075】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等から選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0076】
支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO等、およびそれらの複合塩を用いることができる。
【0077】
さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤等を含んでいてもよい。
【0078】
(非水系電解質二次電池の形状、構成)
以上のように説明してきた正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される本発明の非水系電解質二次電池の形状は、円筒型、積層型等、種々のものとすることができる。
【0079】
いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リード等を用いて接続し、電池ケースに密閉して、非水系電解質二次電池を完成させる。
【0080】
(特性)
本実施形態に係る正極活物質PAを用いた非水系電解質二次電池は、低い正極抵抗と高い放電容量維持率を有するため、高い出力特性と高い耐久性を有することができる。例えば、好ましい形態で得られた正極活物質PAを用いた正極を有するコイン二次電池CBAの正極抵抗は、被覆層20を有さない正極活物質(リチウム複合酸化物粉末)の正極抵抗を1とした場合、好ましくは0.96以下、より好ましくは0.95以下、さらに好ましくは0.90以下の低い正極抵抗が得られる。また、例えば、好ましい形態で得られた正極活物質PAを用いた正極を有するコイン二次電池CBAでは、100サイクル後の放電容量維持率が、好ましくは80%を超え、より好ましくは84%を超え、さらに好ましくは90%を超えるような、高い放電容量維持率が得られる。
【0081】
なお、正極(界面)抵抗は、以下の方法により測定することができる。まず、図3に示すような2032型コイン型二次電池CBAを充電電位4.0Vまで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタットを使用して、交流インピーダンス測定を行い、図4に示すようなインピーダンススペクトルを得る。得られたインピーダンススペクトルには、高周波領域と中間周波領域とに2つの半円が観測され、低周波領域に直線が観察されていることから、図5に示す等価回路モデルを組んで正極界面抵抗を解析した。図4中、Rsはバルク抵抗、R1は正極被膜抵抗、Rctは電解液/正極界面抵抗(界面のLi移動抵抗)、Wはワーブルグ成分を示す。
【実施例0082】
本発明により得られた正極活物質を用いた正極を有する非水系電解質二次電池について、その正極界面抵抗を確認した。
【0083】
以下、本発明の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。以下、得られた正極活物質の評価方法について説明する。
【0084】
(評価用電池の製造および評価)
以下の方法により評価用のコイン型二次電池CBA(図3参照)を作製し、正極界面抵抗の測定、及び、充放電サイクル試験を行った。
【0085】
(コイン型二次電池CBAの作製)
正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚み100μmにプレス成形して、正極(評価用電極)PEを作製した。次に作製した正極PEを真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。乾燥した正極(評価用電極)PE、負極NE、セパレータSE、および、電解液を用いて、図3に示すようにコイン型二次電池CBAを、露点が-60℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0086】
負極NEには、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用い、電解液には、1MのLiPFを支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(宇部興産株式会社製)を用いた。セパレータSEには膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。また、コイン型二次電池CBAは、ガスケットGAとウェーブワッシャーWWを有し、正極缶PCと負極缶NCとでコイン状の電池に組み立てられた。
【0087】
(正極抵抗)
製造したコイン型二次電池CBAを充電電位4.0Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン社製、1255B)を使用して交流インピーダンス法により測定して図4に示すようなインピーダンススペクトルを得た。
【0088】
得られたインピーダンススペクトルには、高周波領域と中間周波領域とに2つの半円が観測され、低周波領域に直線が観察されていることから、図5に示す等価回路モデルを組んで正極界面抵抗を解析した。図4及び図5、Rsはバルク抵抗、R1は正極被膜抵抗、Rctは電解液/正極界面抵抗(界面のLi+移動抵抗)、Wはワーブルグ成分を示し、CPE1、CPE2は定相要素を示す。
【0089】
(充放電サイクル試験)
充放電サイクル試験は、60℃の環境下で3.0-4.2Vの電圧範囲で、充電と放電を100サイクル繰り返し行った。
【0090】
(実施例1)
母材として、ニッケルを主成分とする酸化物と水酸化リチウムを混合して焼成する公知の技術で得られたLi1.02Ni0.82Co0.15Al0.03で表されるリチウム金属複合酸化物粉末を用いた。母材の比表面積は、0.3m/gであった。なお、リチウム金属複合酸化物粉末の組成はICP法により評価した。
【0091】
2.0gのLiと126gのTa(OCとを859gの無水エタノールに溶解して、アルコキシド溶液を作製した。上記リチウム金属複合酸化物粉末1.5kgを、転動流動装置を用いて、十分に撹拌しながら、作製したアルコキシド溶液を、正極活物質粉末表面に噴霧し表面処理を行なった。その後、酸素雰囲気下で、400℃で1時間加熱処理を行ない、正極活物質を得た。
【0092】
得られた正極活物質中の組成、及び、Taの含有量をICP法により分析したところ、ニッケル、コバルトおよびアルミニウムの原子数の合計に対して2.0原子%の組成であることを確認した。正極活物質の表面に被覆されたTaを含む化合物の形態をXRDで分析したところ、LiTaOが形成されていることを確認した。また、得られた正極活物質を用いて、電池特性を評価した。正極活物質の組成及び評価結果を表1に示す。
【0093】
(実施例2)
母材となるリチウム金属複合酸化物粉末に、1.5gのLiと95gのTa(OCとを638gの無水エタノールに溶解して作製したアルコキシド溶液を噴霧したこと以外は、実施例1と同様の条件にて正極活物質を得た。得られた正極活物質を用いてコイン型電池CBAを作製し、その電池評価を行った。正極活物質におけるTaの含有率は1.5原子%であり、Taの形態はLiTaOであった。正極活物質の組成及び評価結果を表1に示す。
【0094】
(実施例3)
母材となるリチウム金属複合酸化物粉末に、1.0gのLiと63gのTa(OCとを418gの無水エタノールに溶解して作製したアルコキシド溶液を噴霧したこと以外は、実施例1と同様の条件にて正極活物質を得た。得られた正極活物質を用いてコイン型電池CBAを作製し、その電池評価を行った。正極活物質におけるTaの含有率は1.0原子%であり、Taの形態はLiTaOであった。正極活物質の組成及び評価結果を表1に示す。
【0095】
(実施例4)
母材となるリチウム金属複合酸化物粉末に、0.5gのLiと31.5gのTa(OCとを202gの無水エタノールに溶解して作製したアルコキシド溶液を噴霧したこと以外は、実施例1と同様の条件にて正極活物質を得た。得られた正極活物質を用いてコイン型電池CBAを作製し、その電池評価を行った。正極活物質におけるTaの含有率は0.5原子%であり、Taの形態はLiTaOであった。正極活物質の組成及び評価結果を表1に示す。
【0096】
(実施例5)
母材となるリチウム金属複合酸化物粉末に、0.1gのLiと6gのTa(OCとを21gの無水エタノールに溶解して作製したアルコキシド溶液を噴霧したこと以外は、実施例1と同様の条件にて正極活物質を得た。得られた正極活物質を用いてコイン型電池CBAを作製し、その電池評価を行った。正極活物質におけるTaの含有率は0.1原子%であり、Taの形態はLiTaOであった。正極活物質の組成及び評価結果を表1に示す。
【0097】
(実施例6)
350℃で1時間加熱処理したこと以外は、実施例3と同様の条件で作製した正極活物質を用いてコイン型電池CBAを作製し、その電池評価を行った。この時のTaの含有率は1.0原子%であり、Taの形態はLiTaOであった。
【0098】
(実施例7)
300℃で1時間加熱処理したこと以外は、実施例3と同様にして作製した非水系電解質二次電池用正極活物質を用いてコイン型電池を作製し、その電池評価を行った。得られた正極活物質におけるTaの含有率は1.0原子%であり、Taの形態はLiTaOであった。
【0099】
(実施例8)
母材となるリチウム金属複合酸化物粉末に、3.0gのLiと63gのTa(OCとを、1299gの無水エタノールに溶解して作製したアルコキシド溶液を噴霧したこと以外は、実施例1と同様の条件にて正極活物質を得た。得られた正極活物質を用いてコイン型電池CBAを作製し、その電池評価を行った。正極活物質におけるTaの含有率は1.0原子%であり、Taの形態はLiTaOであった。正極活物質の組成及び評価結果を表1に示す。
【0100】
(比較例1)
実施例1で母材として用いたリチウム金属複合酸化物粉末を正極活物質として用いてコイン型電池CBAを作製し、その電池評価を行った。正極活物質の組成及び評価結果を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
(評価)
実施例の正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、比較例に比べて、正極界面抵抗が低く、かつ、サイクル試験後の放電容量維持率も高くなっており、優れた電池特性を有することが確認された。特に、実施例3の正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、正極界面抵抗が非常に低減され、出力特性に優れることが確認された。
【0103】
比較例1の正極活物質は、タンタル酸リチウムでリチウム金属複合酸化物の表面が被覆されておらず、比較例1の正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、実施例と比較して、正極界面抵抗が高く、また、100サイクル試験後の容量維持率も低かった。
【0104】
以上の結果より、実施例の正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、正極界面抵抗が低く耐久性も良いものとなり、優れた電池特性を有するため、二次電池に要求される高出力および高耐久性に対応することが容易となる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の正極活物質を用いた二次電池は、常に高容量を要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適に用いることができる。高出力及び高い耐久性が要求される電気自動車用電池にも好適に用いることができる。
【0106】
また、本発明の正極活物質を用いた二次電池は、優れた耐久性を有し、かつ、小型化、高出力化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源として好適に用いることができる。なお、本発明の正極活物質を用いた二次電池は、電気エネルギーで駆動する電気自動車用の電源のみならず、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃焼機関と二次電池とを併用するいわゆるハイブリッド自動車やプラグインハイブリッド自動車用の電源としても用いることができる。
【符号の説明】
【0107】
PA…正極活物質
1…一次粒子
2…二次粒子
10…リチウム金属複合酸化物
20…被覆層
PE…正極(評価用電極)
NE…負極
SE…セパレータ
GA…ガスケット
WW…ウェーブワッシャー
PC…正極缶
NC…負極缶
CBA…コイン型二次電池
図1
図2
図3
図4
図5