(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130706
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】新規細胞表現型スクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20220830BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALI20220830BHJP
【FI】
C12Q1/04 ZNA
C12Q1/6813 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】36
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108698
(22)【出願日】2022-07-05
(62)【分割の表示】P 2021570124の分割
【原出願日】2021-01-12
(31)【優先権主張番号】62/959,420
(32)【優先日】2020-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】517110494
【氏名又は名称】シンクサイト株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100194250
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 直志
(72)【発明者】
【氏名】坪内 朝子
(72)【発明者】
【氏名】太田 禎生
(72)【発明者】
【氏名】河▲崎▼ 史子
(57)【要約】
【課題】新規細胞表現型スクリーニング方法の提供。
【解決手段】本開示は、被験対象と関連付けされている第一バーコード核酸で標識しかつ前記被験対象で処理した複数の細胞を準備する工程、イメージングセルソーターを用いて、前記複数の細胞を細胞表現型に基づいて選別する工程、第一バーコード核酸を指標として各細胞の処理に用いられた被験対象を同定する工程を含む、細胞をスクリーニングする方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験対象と関連付けされている第一バーコード核酸で標識しかつ前記被験対象で処理した複数の細胞を準備する工程、
イメージングセルソーターを用いて、前記複数の細胞を細胞表現型に基づいて選別する工程、
前記第一バーコード核酸を指標として各細胞の処理に用いられた被験対象を同定する工程を含む、被験対象をスクリーニングする方法。
【請求項2】
各細胞の処理に用いられた被験対象と、各細胞の表現型とを関連付けする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記同定工程が、さらに被験対象により目的とする細胞の表現型変化を生じさせる標的部位を同定する工程を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
各細胞のゲノム関連情報を解析する工程をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞を準備する工程が、被験対象および第一バーコード核酸を含む液媒体と、細胞とを混合して、前記第一バーコード核酸と細胞とを関連付けする工程を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞を準備する工程が、被験対象および第一バーコード核酸を含む液媒体にハイドロゲルビーズを添加して、被験対象および第一バーコード核酸を含む第一サブコンパートメントを生成して、被験対象と第一バーコード核酸とを関連付けする工程を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞を準備する工程が、前記被験対象および第一バーコード核酸を含む第一サブコンパートメントと、細胞を含む第二サブコンパートメントとを融合し、前記被験対象、第一バーコード核酸および細胞を含むコンパートメントを生成する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞を準備する工程が、前記コンパートメント中において被験対象で細胞を処理する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記コンパートメントまたはサブコンパートメントが液滴である、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞を準備する工程が、前記コンパートメントから細胞を回収する工程を含む、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記選別工程が、細胞表現型に基づいて、被験対象により所定の反応が起こっている細胞を選別する工程を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ゲノム関連情報を解析する工程が、前記細胞ゲノムまたはその由来物に対応するゲノム関連核酸と、前記第一バーコード核酸と、第二バーコード核酸連結ビーズとを含む複数のコンパートメントを準備する工程であって、前記第二バーコード核酸連結ビーズが、細胞ゲノムまたはその由来物に対応するゲノム関連核酸あるいは前記第一バーコード核酸とハイブリダイズ可能な複数の第二バーコード核酸を含んでいる工程、
前記ゲノム関連核酸および前記第一バーコード核酸をそれぞれ、前記第二バーコード核酸とハイブリダイズさせてハイブリダイズ複合体を得る工程、
前記ハイブリダイズ複合体に由来する増幅物を製造する工程、および
前記増幅物の発現パターンを指標として細胞における前記被験対象の共存後のゲノム関連情報を検出する工程
を含む、請求項4~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ゲノム関連核酸が、前記細胞ゲノムDNA、または前記細胞ゲノムに由来するRNAもしくはそのcDNAである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
第一バーコード核酸が各々、同一の被験対象において共通する第一共通バーコード領域と、第二バーコード核酸とハイブリダイズ可能な第一ハイブリダイズ領域とを含んでいる、請求項12または13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
第一共通バーコード領域の配列情報が、被験対象を特定する指標となる、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記第二バーコード核酸連結ビーズに連結した複数の第二バーコード核酸が各々、互いに共通する第二共通バーコード領域と、互いに峻別しうる第二固有バーコード領域と、ゲノム関連核酸または第一バーコード核酸とハイブリダイズ可能な第二ハイブリダイズ領域とを含む、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記第二固有バーコード領域の配列情報が、ゲノム関連核酸を特定する指標となる、請求項12~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
第二バーコード核酸が、PCRプライマー領域をさらに含む、請求項11~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
第二ハイブリダイズ領域が、前記第一ハイブリダイズ領域または前記ゲノム関連核酸と相補的な核酸を含む、請求項12~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記イメージングセルソーターが、光源からの光が照射される光照射領域に存在する観測対象物からの散乱光、透過光、蛍光、または電磁波を受け取り、電気信号に変換する受光部から出力される前記電気信号の時間軸に基づいて抽出される信号に基づいて前記観測対象物を分析する分析部
を備える分析装置である、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記光源と前記光照射領域との間の光路上に、光特性が互いに異なる複数の領域を有する光変調部が配置された、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記分析部が分析した分析結果に基づいて,前記光源を制御する光学系制御部を更に備える、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
前記光源からの光が、複数の光領域を有し、前記光学系制御部は、前記光領域の光構造を制御する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記分析部が、分析した結果に基づいて判別アルゴリズムが更新される、請求項20~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記光および前記光照射領域が、前記分析部が分析した結果に基づいて制御される、請求項20~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記イメージングセルソーターが、前記光照射領域を含むフローセルを含む、請求項20~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記イメージングセルソーターが、前記分析部の分析結果に基づいて,前記観測対象物を判別し,前記観測対象物を分別する分別部を有する、請求項20~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記イメージングセルソーターが、流路を移動する前記観測対象物の移動可能な流線幅を可変に制御する流線幅制御部を更に備え、
前記分析部が,前記時間軸に基づいて抽出される信号と、当該信号が取得された際の流線幅とに基づいて,前記観測対象物の状態を判別する基準を示す教師情報を機械学習によって生成する教師情報生成部と、
前記信号と前記教師情報生成部が生成する教師情報とに基づいて、前記流線を移動する前記観測対象物の状態を推定する、請求項20~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記流線幅制御部が、
前記観測対象物の径に応じた幅である第1の流線幅に前記流線幅を制御し、
前記教師情報生成部が、
前記流線幅制御部が制御した前記第1の流線幅において前記受光部が検出する第1の観察結果信号に基づく第1の教師情報を前記教師情報として生成し、
前記分析部が、
前記教師情報生成部が生成する前記第1の教師情報と,前記信号とに基づいて,前記流線を移動する前記観測対象物の状態を推定する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記流線幅制御部が、
前記観測対象物の径に基づく幅であり,かつ,前記第1の流線幅よりも幅が広い第2の流線幅に前記流線幅を制御し、
前記教師情報生成部は更に、
前記流線幅制御部が制御した前記第2の流線幅において前記受光部が検出する第2の観察結果信号に基づく第2の教師情報を前記教師情報として生成し、
前記分析部が、
前記教師情報生成部が生成する前記第1の教師情報と、前記教師情報生成部が生成する前記第2の教師情報と,前記信号とに基づいて,前記流線を移動する前記観測対象物の状態を推定する、請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
前記イメージングセルソーターが、
観測対象物が流される少なくとも1つの流路と、
前記流路に対して帯状の励起光を照射する光源と、
前記励起光が照射される位置を通過した前記観測対象物からの蛍光を撮像することにより、前記観測対象物のある断面を撮像する撮像部と、
前記撮像部が撮像した前記断面が撮像された複数の撮像画像に基づいて、前記観測対象物の3次元の画像を生成する3次元画像生成部と
を備える、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記イメージングセルソーターが、
前記撮像部が撮像した前記断面が示す前記観測対象物の形態を示す情報に基づいて、観測対象物を分取する、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記流路が、並列に並べられた複数の流路であって、
前記励起光が、複数の前記流路に対して照射され、
前記撮像部が、複数の前記流路をそれぞれ流される前記観測対象物の前記断面を撮像する、請求項31または32に記載の方法。
【請求項34】
前記光源と前記蛍光の強さを検出する撮像素子との間の光路上に、光特性が互いに異なる複数の領域を有する光変調部が配置され、
前記撮像部が、
前記撮像素子が検出する前記蛍光の強さと、前記光変調部の前記光特性とに基づいて、前記観測対象物の前記断面の像を、撮像画像として再構成する、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記被験対象が被験物質を含む、請求項1~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記被験対象が被験物質である、請求項1~35のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、新規細胞表現型スクリーニングに関する。
【0002】
本特許出願は、2020年1月10日に出願された米国特許出願番号62/959,420号に基づく優先権の主張を伴うものであり、かかる先の特許出願における全開示内容は、引用することにより本明細書の開示の一部とされる。
【背景技術】
【0003】
細胞を用いた多種薬剤スクリーニングとして細胞表現型(フェノタイプスクリーニング)が知られている。フェノタイプスクリーニングとは、細胞や臓器の表現型(フェノタイプ)、例えば、細胞増殖率や細胞死、特定のタンパク質の局在や細胞の構造で表される細胞イメージ情報を指標にして、それを変化させる薬剤(例えば、低分子化合物、ペプチド等)を探索する手法である。細胞フェノタイプスクリーニングの重要な目的の一つは、インプット(被験物質、薬剤刺激など)に対して、(i)どのような細胞表現型の変化(イメージ応答)を示すのか、(ii)遺伝子発現応答を示すのか、(iii)どのような作用機序に基づいていたのか、という情報を調べることにある。
【0004】
しかしながら、従来のウェルを用いた大スケールの一般的なフェノタイプスクリーニングアッセー系においては、それぞれのウェルで培養した細胞に対してそれぞれの薬剤を与え、イメージ応答を調べた上で、目的表現型と思しき応答を生じた対象を取り出し、その個体に対して遺伝子解析を行い遺伝子発現応答や作用機序を見出す(例えば、非特許文献1等)必要があった。したがって、低速・高コストであるのに加えて、個別細胞に対して遺伝子発現応答や作用機序のような多角解析を迅速に行うことは困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nature Methods, volume16, pages 619-626 (2019)
【発明の概要】
【0006】
本開示は、薬剤等の被験対象と共存した細胞のイメージ応答や遺伝子発現応答を迅速に検出する方法を提供する。
【0007】
本開示の一実施態様によれば、被験対象と関連付けされている第一バーコード核酸で標識しかつ上記被験対象で処理した複数の細胞を準備する工程、
イメージングセルソーターを用いて、上記複数の細胞を細胞表現型に基づいて選別する工程、
第一バーコード核酸を指標として各細胞の処理に用いられた被験対象を同定する工程を含む、被験対象をスクリーニングする方法が提供される。
【0008】
本開示によれば、被験対象と共存した細胞のイメージ応答や遺伝子発現応答を迅速に検出することができる。本開示によれば、細胞に対して行った試験対象による処理などの各インプット情報と、イメージ応答と遺伝子発現応答を、プールした状態で結び付けて、フェノティピックスクリーニングを高速に行う上で有利に利用することができる。本開示は、目的とする細胞の表現型変化を生じる被験対象を選択ないし探索するうえで有利に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示のスクリーニング方法の一実施形態の模式図である。
【
図2】本開示のスクリーニング方法における各細胞の核酸情報の読み取り工程の一実施形態を説明するための概念図である。(1)は第二バーコード核酸と第一バーコード核酸とのハイブリダイズを、(2)は第二バーコード核酸と細胞ゲノムまたはその由来物に対するゲノム関連核酸とのハイブリダイズを示したものである。
【
図3】本開示の第1の実施態様におけるイメージングセルソーターの一実施態様を示す模式図である。
【
図4】赤色の蛍光色素Cy5を付加したオリゴヌクレオチド(第一バーコード核酸の部分配列に相当する配列を持つ)を添加し、30分間各溶液でインキュベーションした後の細胞の蛍光顕微鏡写真である。
【
図5】緑色の蛍光色素FAMを付加したオリゴヌクレオチド(第一バーコード核酸の部分配列に相当する配列を持つ)で標識された細胞と、赤色の蛍光色素Cy5を付加したオリゴヌクレオチド(第一バーコード核酸の部分配列に相当する配列を持つ)で標識された細胞を準備し、混合して1時間インキュベーションした後の細胞サンプルの蛍光顕微鏡写真である。
【
図6】赤色の蛍光色素Cy5を付加したオリゴヌクレオチド(第一バーコード核酸の部分配列に相当する配列を持つ)の付着した細胞においてオリゴヌクレオチドの細胞への付着を経時的に観察した際の写真である。
【
図7】ホルマリン固定もしくはDTSSP固定後、NFkBタンパク質に対する1次抗体と蛍光色素付きの2次抗体(Alexa Fluor 488)により免疫抗体染色を行い細胞におけるNFkBタンパク質の染色度合いと分布変化を観察した際の写真である。
【
図8】フローサイトメトリーによりFixable Far Red由来の正解付けラベル信号を元に細胞群のPurityを計測・定量した結果を示すグラフである。横軸はNFkBタンパク質の免疫染色に由来する蛍光強度、縦軸は正解付けラベルのFixable Far Red由来の蛍光強度である。
【
図9】DTSSP 1mgまたは10mgの固定条件の細胞群について、イメージ信号データより得たNFkBタンパク質が核移行の有無(核移行ありをpositive、核移行なしをnegative)について機械学習を行い、機械学習モデルの一種であるSVM(サポートベクターマシーン)スコアを表した結果(ヒストグラム)と、その結果をFixable Far Redによりラベルした正解データと対比した結果を示すマトリックスと表である。
【
図10】例5、6において使用された遺伝子解析技術用の試薬の一部の模式図である。図中のMulti-seq Barcode第一バーコード配列であり、10X Barcodeが第二共通バーコード領域であり、UMIが第二固有バーコード領域配列である。第二バーコード核酸と第一バーコード核酸とのハイブリダイズしたもの、もしくは第二バーコード核酸と細胞ゲノムまたはその由来物に対するゲノム関連核酸とのハイブリダイズしたものである。
【
図11】例5、6において適用されたPCR反応後のシーケンスライブラリの模式図である。
【
図12A】混合サンプル(LPS薬剤あり細胞と薬剤なしの細胞比が9:1)の各細胞の第二共通バーコード領域配列と、これを持つユニークなリードから検出された各第一バーコード配列のリード数を表す表(表1-1)である。
【
図12B】混合サンプル(LPS薬剤あり細胞と薬剤なしの細胞比が9:1)の各細胞の第二共通バーコード領域配列と、これを持つユニークなリードから検出された各第一バーコード配列のリード数を表す表(表1-2)である。
【
図13】第二固有バーコード領域配列が相補鎖DNA側データと一致した第一バーコード配列側データの第二固有バーコード領域配列毎に、これを持つユニークなリードから検出された第一バーコード核酸配列(2種類)のリード数の分布(混合サンプル(LPS薬剤あり細胞と薬剤なしの細胞比が9:1))(第一バーコード核酸配列A:LPS薬剤なし、第一バーコード核酸配列B:LPS薬剤あり)を表すグラフ(グラフ1)である。
【
図14A】LPS薬剤なしネガティブコントロール各細胞の第二共通バーコード領域配列と、これを持つユニークなリードから検出された各第一バーコード領域配列のリード数を表す表(表2-1)である。
【
図14B】LPS薬剤なしネガティブコントロール各細胞の第二共通バーコード領域配列と、これを持つユニークなリードから検出された各第一バーコード領域配列のリード数を表す表(表2-2)である。
【
図15】第二固有バーコード領域配列が相補鎖DNA側データと一致した第一バーコード配列側データの第二固有バーコード領域配列毎に、これを持つユニークなリードから検出された第一バーコード核酸配列(2種類)のカウント数の分布(LPS薬剤なしネガティブコントロール細胞)(第一バーコード核酸配列A:LPS薬剤なし、第一バーコード核酸配列B:LPS薬剤あり)を表すグラフ(グラフ2)である。
【
図16】調製された第一サブコンパートメントの一例を示す顕微鏡写真である。(但し、写真の例では被験物質および第一バーコード核酸は添加されずに調製されている。)
【
図17】マイクロ流体デバイス中で1液滴対1液滴の融合により均一系の液滴(コンパートメント)(直径約110μm)が生成される様子を示す顕微鏡写真である。
【
図18】目的の表現型変化を起こす被験対象を探索するための、96穴マイクロプレートを用いた例8の細胞表現型スクリーニング方法の模式図である。
【
図19】例8で使用された、96種類の被験対象(24種類の被験物質×4種類の濃度)、および被験物質の機能(既知の作用メカニズム)を示す表である。
【
図20A】例8で使用された被験対象を特定する第一バーコード核酸(Barcorde#: Ind_8bp_0015 - Ind_8bp_036)の配列を示す表である。
【
図20B】例8で使用された第一バーコード核酸(Barcorde#: Ind_8bp_037 - Ind_8bp_074)の配列を示す表である。
【
図20C】例8で使用された第一バーコード核酸(Barcorde#: Ind_8bp_075 - Ind_8bp_262)の配列を示す表である。
【
図21】例8において、ソートされた細胞の第一バーコード核酸配列の濃縮レベルを示すグラフである。
【
図22】例8において、イメージセルソーターで選別・回収した細胞が確かに表現型を示すかどうかについて、既存のイメージフローサイトメーターを用い、細胞のイメージを撮影し、かつ核移行スコアを計算し確認したものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の一実施態様によれば、細胞をスクリーニングする方法は、被験対象と関連付けされている第一バーコード核酸で標識しかつ前記被験対象で処理した複数の細胞を準備する工程、
イメージングセルソーターを用いて、前記複数の細胞を細胞表現型に基づいて選別する工程、
第一バーコード核酸を指標として各細胞の処理に用いられた被験対象を同定する工程を含む。
【0011】
定義
本明細書において「ゲノム関連情報」とは、細胞ゲノムまたはその由来物に関連する情報で、遺伝子発現の変化に伴う核酸、たんぱく質の変化に関する情報をいう。またここで、「ゲノム関連核酸」とはゲノム関連情報と関連する核酸であり、細胞のゲノムDNA、細胞ゲノムに由来するmRNA等のRNAもしくはそのcDNAが好適な例である。また「ゲノム関連核酸」別の一例として、細胞で発現する蛋白質等の分子に特異的に相互作用(例えば、結合)する核酸プローブが含まれる。また、核酸がゲノムDNAである場合には、当該DNAは制限酵素等で切断された断片でもよいし、当該DNA断片にDNAタグが導入されていてもよい。
【0012】
本明細書において「バーコード領域」とは、T(チミン)またはU(ウラシル)、A(アデニン)、G(グアニン)、およびC(シトシン)を含む塩基配列の領域であって、後述の共通バーコード領域または固有バーコード領域の配列であれば限定されない。また、バーコード核酸はバーコード領域を含む核酸であり、細胞のゲノム関連情報、前記細胞と共存した被験対象やビーズ由来のイメージング情報を識別可能とするものである。
バーコード領域には、共通バーコード領域、固有バーコード領域の二種類が含まれる。
【0013】
バーコード領域の長さは、特に限定されるものでないが、好ましくは8~40塩基長の配列である。例えばバーコード領域が12塩基長である場合は、412種類の多様性のあるバーコード配列を一度に核酸増幅することができる。
【0014】
「共通バーコード領域」とは、同一の識別の対象において共通するバーコード領域である。識別の対象が被験対象である場合には、例えば、被験対象毎に異なるバーコード領域、すなわち、一つの被験対象において共通するバーコード領域が挙げられる。共通バーコード領域で標識することにより、各被験対象が識別可能とされる。また、1つのコンパートメント中に被験対象の組み合わせが含まれる等、識別の対象が被験対象の組み合わせである場合には、該組み合わせ毎に異なるバーコード領域、すなわち、特定の被験対象の組み合わせにおいて共通するバーコード領域を有するバーコード核酸で標識される。かかる共通バーコード領域で標識することにより、被験対象の組み合わせが識別可能とされる。識別の対象が一細胞のゲノム関連情報である場合には、細胞毎に異なるバーコード領域、すなわち、一つの細胞において共通するバーコード領域が挙げられる。共通バーコード領域で標識することにより、同―細胞由来のゲノム関連情報が識別可能とされる。
【0015】
また、「固有バーコード領域」とは、バーコード核酸毎に異なるバーコード領域で標識することにより、各バーコード核酸を各々峻別可能とするものである。例えば、固有バーコード領域に標識されることにより、各バーコード核酸に連結したビーズ、各バーコード核酸を含む生物、各バーコード核酸とハイブリダイズしたゲノム関連核酸が識別可能とされる。
【0016】
本明細書において「ハイブリダイズする」とは、バーコード核酸のハイブリダイズ領域が、細胞ゲノムもしくはその由来物に対応するゲノム関連核酸または別のバーコード核酸と二本鎖の複合体を形成することを意味する。ここで、かかる二本鎖の複合体を形成する例示的条件としては、37℃、40~45%ホルムアミド、1.0M NaCl、0.1% SDSでのハイブリダイゼーションおよび55℃~60℃の0.5X~1XSSCでの洗浄が挙げられる。上記二本鎖の複合体を形成する際の別の態様として、複合体の形成がストリンジェントな条件下で行われることが挙げられる。ここでストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的な複合体が形成され、非特異的な複合体が形成されない条件をいい、上記例示的条件を含む。このようなストリンジェントな条件は当業者に公知であって例えばMolecular Cloning(ThirdEdition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York)やCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al.,1987)を参照して設定することができる。バーコード核酸のハイブリダイズ領域がハイブリダイズする配列としては、かかるハイブリダイズ領域に相補的な配列が挙げられる。
【0017】
したがって、「ハイブリダイズ領域」は、細胞ゲノムもしくはその由来物に対応するゲノム関連核酸または別のバーコード核酸に結合する(ハイブリダイズする)領域が好ましい。かかるハイブリダイズ領域は、バーコード核酸においてバーコード領域と共に存在することが好ましい。
【0018】
本開示のスクリーニング方法の一実施態様を、以下、
図1に従い説明する。
本開示の方法では、被験対象で処理しかつ第一バーコード核酸で標識した細胞を準備する。かかる準備工程は、例えば、以下の工程(
図1の工程1-1~工程1-3)を含んでいてもよい。
【0019】
工程1:被験対象と関連付けされている第一バーコード核酸で標識しかつ被験対象で処理した複数の細胞を準備する工程
工程1-1:サブコンパートメント(液滴)の作成
(被験対象と被験対象に対応する第一バーコード核酸とを含む液滴の形成する工程)
本開示の一実施態様によれば、
図1の工程1-1の上段に示される通り、被験対象および第一バーコード核酸を含む液媒体と、有機溶剤とを混合して、被験対象とその被験対象に対応する第一バーコード核酸を含むサブコンパートメント(液滴)を形成する。具体的には、例えば、被験対象および第一バーコード核酸を含む液媒体にハイドロゲルビーズを添加して、被験対象および第一バーコード核酸を含む第一サブコンパートメントを生成することができる。より具体的な手法においては、各容器(例えば各ウェル)内で、予め用意したハイドロゲル粒子と、被験対象と、被験対象に対応する第一バーコード核酸とを混合し、有機溶媒と界面活性剤を追加してボルテックスをかけることにより、被験対象と被験対象に対応する第一バーコード核酸を含む均一系液滴を大量生成することができる。また、同様の手法により、上記工程は、Anal. Chem., 2018, 90, 16, 9813-9820に記載の方法に準じて実施することができる。本工程でテンプレートとして添加されているハイドロゲル粒子としては、例えば、アクリルアミド、アガロース、コラーゲン、アルギン酸、ポリエチレングリコール等を素材とするビーズを用いることができる。
【0020】
本開示の被験対象は、所望の細胞での応答を検討する被験対象であれば特に限定されないが、例えば、低分子有機化合物、ペプチド化合物、核酸およびその誘導体を基本骨格とする核酸化合物、酵素、抗体、抗体フラグメントなどのポリペプチドやたんぱく質、細胞、ウイルス、薬剤などの被験物質が挙げられる。
【0021】
対象となる細胞の種類は、本開示の効果を妨げない限り特に限定されず、目的に応じて細胞を選択することができ、例えば、患者の血球由来の細胞やiPS細胞(induced pluripotent stem cell)などの幹細胞から目的細胞に分化誘導された細胞などのヒト由来の細胞、CHO(Chinese Hamster Ovary)細胞などの哺乳動物由来の細胞が使用できる。
【0022】
工程1-2:サブコンパートメントの融合によるコンパートメントの作成
(被験対象と被験対象に対応する第一バーコード核酸とを含むサブコンパートメント(液滴)と、細胞を含むサブコンパートメント(液滴)とを融合する工程)
また、本開示の一実施態様によれば、工程1-2に示されるように、被験対象および第一バーコード核酸を含む液滴と、細胞を含む液滴を混合して、前記被験対象と前記第一バーコード核酸と細胞とを関連付けする工程を実施する。具体的には、被験対象および第一バーコード核酸を含む第一サブコンパートメントと、細胞を含む第二サブコンパートメントとを融合し、被験対象、第一バーコード核酸および細胞を含むコンパートメントを生成することにより、被験対象、第一バーコード核酸および細胞の関連付けを実施してもよい。より具体的な手法においては、マイクロ流体デバイスにおいて、被験対象と被験対象に対応する第一バーコード核酸を含む液滴群を片方のチャネルから、細胞を含む液滴群を他方のチャネルから流し込み、逐次、1液滴対1液滴の融合をマイクロ流体デバイス中で実施することにより、細胞と被験対象と被験対象に対応する第一バーコード核酸を含む液滴を有機溶媒相中に大量に生成することができる。この際、後述の例のように、マイクロ流体デバイス中で細胞を含む液滴を形成させ、その液滴を被験対象と被験対象に対応する第一バーコード核酸を含む液滴と融合させて細胞と被験対象と被験対象に対応する第一バーコード核酸を含む液滴を生成することもできる。上記有機溶媒相中の液滴の中では、細胞に対して被験対象を作用させる一方で、細胞表面に被験対象に対応するバーコード核酸を付着させることにより、細胞を第一バーコード核酸で標識することができる。上記工程は、Anal. Chem. 2018, 90, 2, 1273-1279に記載の方法に準じて実施することができる。
【0023】
コンパートメントまたはサブコンパートメントはそれぞれ、コンパートメントまたはサブコンパートメント中の各成分の組み合わせを、他のコンパートメントと区別しうる区画の単位である。
【0024】
本開示においてコンパートメントに含まれる被験対象の種類、数は、本開示の効果を妨げない限り、特に限定されないが、細胞応答の簡素化または明確化の観点からは、1つのコンパートメント当たり1種類であることが好ましい。しかしながら、例えば、複数種を組み合わせて被験対象に対しての細胞の応答を調べる場合には、1つのコンパートメント当たりの被験対象の種類を複数としてもよい。また、コンパートメント毎に被験対象の濃度もそれぞれ異なるように設定してもよく、それにより被験対象の異なる濃度における細胞応答を評価できる。本開示にはかかる態様も包含される。
【0025】
本開示のコンパートメントは、他のコンパートメントと区別しうる区画を維持できれば特に限定されず、例えば、前記工程により生成される水性液滴(例えば、油中の水性液滴)が含まれる。さらに別の例として、ハイドロゲルのゲル粒子、エマルション等の複数の非混合界面の重なった水・油の構造体、ミセルまたはリポソーム等の単分子膜または二重分子膜による小胞等が挙げられる。その際、液滴に含まれる水相には、例えば、細胞培養液、生理食塩水、緩衝液等の水溶液を用いる事ができる。また有機溶媒相には、例えば、Droplet Generator oil for EvaGreen (BioRad社製)などの油を用いることができる。
【0026】
本開示のコンパートメントは、他のコンパートメントとの峻別の観点から、その周縁部に物理的なバリア機能を有していることが好ましい。かかるバリア機能を有するコンパートメントの好適な製造方法としては、相分離法等が挙げられる。相分離法においては、例えば、細胞およびビーズと水性基材を混合して水性液滴を得、該水性液的を疎水性溶媒中に懸濁させることにより、コンパートメントを生成することができる。また、マイクロ流体デバイス中の分岐部あるいは合流部において液滴同士を混合することによりコンパートメントを生成することもできる。
【0027】
また本開示のコンパートメントは、マイクロウェル、ウェル、チューブ等の容器に包含させることにより形成することもできる。この場合、被験対象および被験対象に対応する第一バーコードと細胞の関連付け、即ち接触は、ウェル等の中にそれらを共存させることで行われる。
【0028】
また、本開示の一実施態様によれば、被験対象、第一バーコード核酸および細胞を含むコンパートメント中において、第一バーコード核酸により細胞を標識することができる。
第一バーコード核酸は、細胞表面に第一バーコード核酸を連結しうるアンカー(例えば、オリゴヌクレオチド領域と脂質領域(コレステロール、キトサン-グリコール-脂質等)とを備えた公知のアンカー等)含む構成であることが望ましい。特に好ましい例としては、後述する実施例にて使用されるアンカーDNA等が挙げられる。また第一バーコード核酸は、粒子等に包含あるいは結合された形態で使用されてもよい。その場合、第一バーコード核酸が、適宜包含された粒子等から遊離するように設計される。
第一バーコード核酸の構成の詳細については、後述する。
【0029】
また、本開示の一実施態様によれば、コンパートメント中において、被験対象による細胞の処理を実施することができる。
【0030】
必要に応じ、コンパートメント内において細胞と被験対象の共存した状態で培養してもよい。かかる培養とは、例えば、コンパートメントを所望の培養時間、培養温度で保持することが挙げられる。コンパートメントの保持において、複数のコンパートメントを保持できるリザーバに、コンパートメントを移動し保持してもよい。上記工程は、公知の手法により行うことができる。例えば、J.J. Agresti et al.,Proc Natl Acad Sci U S A.,107(9), 4004-9(2010)、A.Abbaspourrad et al.,Sci Rep.,5,12756(2015)、B.L. Wang et al.,Nat Biotechnol.,32(5),473-8(2014)に記載の方法により行うことができる。
【0031】
ここで、培養時間、培養温度としては、被験対象に対しての細胞の応答評価が可能な程度の培養時間、培養温度を設定することができる。かかる培養時間は、例えば、0時間以上14日以下が挙げられ、好ましくは2時間以上5日以下である。培養温度は、例えば、4℃以上40℃以下が挙げられ、好ましくは37℃付近の温度である。
【0032】
なお本開示の被験対象の探索の一実施態様には、上記の細胞に表現型変化を引き起こす被験対象の探索に加え、細胞に目的とする表現型変化を生じる標的部位の探索が含まれる。上記標的部位の探索には、例えば、目的とする表現型変化を生じる遺伝子上の標的位置(ターゲット)の探索が含まれる。予め細胞に施す処置を特定する情報(例えば、遺伝子編集が生じる位置を特定する情報や遺伝子編集に用いるガイドRNAなどの核酸配列の情報など)を特定する第一バーコード核酸により細胞を標識することで、イメージングセルソーターで判別取得される細胞に、その細胞が施された処理を特定する情報を付加できるため、目的とする表現型変化を生じる遺伝子上の標的位置(ターゲット)の探索をイメージングセルソーターを用いて効率的に行なうことができる。
【0033】
工程1-3:コンパートメントの破壊
(第一バーコード核酸を標識した細胞を回収する工程)
本開示の一実施態様は、
図1の工程1-3に示されるように、上記コンパートメントから細胞を回収する工程を含む。具体的な手法においては、有機溶媒相中の液滴(被験対象を作用させかつ第一バーコード核酸で標識した細胞を含む)から第一バーコード核酸で標識した細胞を回収することができる。上記回収工程においては、例えば有機溶媒相中に有機溶媒を追加して相分離を起こしたり、有機相溶媒相に電場をかけることにより実施することができる。
【0034】
回収された細胞は、被験対象と関連付けされた第一バーコード核酸に標識されていることから、異なった被験対象により処理を行われた細胞を複数個混合しても、後述する核酸情報の読み取り工程において被験対象に関する情報を同定することができる。したがって、本工程により回収した第一バーコード核酸で標識された複数の細胞を混合し、さらに所定の表現型を発生させている細胞を後述するイメージベースセルソーティングにより分離することで、目的とする細胞の表現型変化を生じさせる細胞について、その特定の細胞におけるゲノム関連情報と処理をした被験対象の情報を同時に取得することができる。
【0035】
工程2:細胞の選別
(イメージベースセルソーティング)
本開示の一実施態様によれば、
図1の工程2に示されるように、イメージングセルソーターを用いて、複数の細胞を細胞表現型に基づいて選別する工程を実施する。本開示の好ましい実施態様によれば、細胞表現型に基づいて、被験対象により所定の反応が起こっている細胞を選別することができる。イメージンセルソーターのより具体的な態様は後述するが、イメージングセルソーターとしては、例えば、WO2017/073737号公報、WO2018/181458号公報に記載の装置が挙げられる。前記公報記載のイメージングセルソーターでは、観測対象の細胞からの光・電磁波等の信号に基づいて画像化を行わずに分析し、光源系または検出系を機械学習により最適化するほか,観測対象の分析や判別する手法についても機械学習を用いて最適化することで,迅速かつ精度よく選別を実施することができる。
【0036】
工程3:目的とする細胞変化を生じる被験対象の同定
(核酸情報の読み取り)
本開示の一実施態様によれば、
図1の工程3に示されるように、第一バーコード核酸を指標として各細胞の処理に用いられた被験対象を同定する工程を実施する。本工程においては、第一バーコード核酸の核酸情報を読み取り、細胞の表現型の変化と被験対象とを関連付けすることができることから、目的とする細胞の表現型変化を生じる被験対象を同定することが可能となる。
【0037】
さらに、本開示においては、イメージングセルソーターを用いて表現型毎に選別された各細胞のゲノム関連情報を解析することが好ましい。各細胞のゲノム関連情報を解析することにより、細胞の表現型の変化、細胞のゲノム関連情報、および被験対象との関係を関連付けることができることから、被験対象により目的とする表現型変化を生じた細胞において遺伝子レベルで起こっている現象に関する情報を合わせて得ることができることから、より詳細に現象に関する情報を得ることが可能となる。
【0038】
以下、一例として、本開示の好ましい核酸情報を解析する工程について説明する。ここでの核酸情報には、被験対象と関連付けられる第一バーコード核酸の情報と細胞由来のゲノムまたはその由来物に対応するゲノム関連核酸の核酸情報が含まれる。
本開示の一実施態様によれば、上記核酸情報を解析する工程は、
イメージングセルソーターを用いて分取された目的の表現型変化を示す細胞と、第一バーコード核酸と、第二バーコード核酸連結ビーズとを含む複数のコンパートメントを準備する工程であって、上記第二バーコード核酸連結ビーズが、細胞ゲノムまたはその由来物に対応するゲノム関連核酸あるいは第一バーコード核酸とハイブリダイズ可能な複数の第二バーコード核酸を含んでいる工程、
上記ゲノム関連核酸および第一バーコード核酸をそれぞれ、第二バーコード核酸とハイブリダイズさせてハイブリダイズ複合体を得る工程、
上記ハイブリダイズ複合体に由来する増幅物を製造する工程、および
上記増幅物の発現パターンを指標として、第一バーコード核酸と細胞における被験対象の共存後のゲノム関連情報を検出する工程
を含む。
【0039】
以下、核酸情報を解析する工程の一実施態様を、
図2に基づき説明する。
マイクロ流路中に大量の液滴(コンパートメント)を作製し、好ましくは、それぞれの液滴中に、液滴ごとに異なる第二バーコード核酸連結ビーズと目的の表現型変化を示す細胞を確率的に1:1の割合で含むように混合する。その後、細胞は上述のコンパートメント内で溶解され、
図2の左上段に示されるように、細胞ゲノムまたはその由来物に対応するゲノム関連核酸と被験対象の標識に使用された第一バーコード核酸とが、第二バーコード核酸連結ビーズにハイブリダイズされた状態でコンパートメント内に包含される。
【0040】
第一バーコード核酸
本開示の第一バーコード核酸は、各被験対象に対応するバーコード領域を含んでいれば、特に限定されず、例えば、該核酸はRNA、DNAまたはそれら組み合わせである。
【0041】
図2(1)に示される通り、本開示の一実施態様によれば、第一バーコード核酸は、各々被験対象に対応する第一共通バーコード領域と、第二バーコード核酸とハイブリダイズ可能な第一ハイブリダイズ領域を含むことが好ましい。例えば、第一ハイブリダイズ領域はポリアデニンからなる配列であり、この部分が第二バーコード核酸連結ビーズの第二ハイブリダイズ領域(例えばポリチアニンからなる配列)とハイブリダイズすることができる。ここで、第一共通バーコード領域の配列情報を用いることにより、同一の被験対象を一対一に対応し識別できる。したがって、第一共通バーコード領域の配列情報を用いることにより、コンパートメント中に存在する被験対象を同定することができる。
【0042】
第一バーコード核酸は特定の核酸配列を固相合成法または酵素合成法により調製される。バーコード核酸がRNAである場合は、一本鎖バーコード核酸の相補鎖となるDNA鋳型を合成した後、線形増幅反応にて、DNA鋳型上のプロモーター配列に結合して一本鎖バーコード領域を含むRNAを合成する、T7等のRNAポリメラーゼにより合成してもよい。バーコード核酸がDNAである場合は、該バーコード核酸は本開示の効果を妨げない限り特に限定されず、例えば、既知配列を用いて合成されおよび/または設計されてもよい。
【0043】
第二バーコード核酸連結ビーズ
図2(1)(2)に示されるとおり、第二バーコード核酸連結ビーズは、細胞ゲノムまたはその由来物に対応するゲノム関連核酸あるいは第一バーコード核酸とハイブリダイズ可能な配列を含む第二バーコード核酸と連結している。
上記第二バーコード核酸連結ビーズの1コンパートメント当たりの数は、特に限定されないが、1コンパートメント当たり1つが好ましい。
【0044】
第二バーコード核酸
また、
図2の下段の(1)(2)は第二バーコード核酸連結ビーズの表面の拡大図であり、ビーズに連結した第二バーコード核酸の構造の一例を示している。
【0045】
第二バーコード核酸は第二ビーズに直接的または間接的に連結していてもよい。
本開示の一実施態様によれば、第二バーコード核酸は、RNA、DNAまたはそれら組み合わせである。
【0046】
本開示の一実施態様によれば、第二バーコード核酸は、
図2の下段(1)(2)にも示される通り、ビーズに連結する複数の第二バーコード核酸同士で互いに共通する第二共通バーコード領域と、互いに峻別しうる第二固有バーコード領域と、ゲノム関連核酸または第一バーコード核酸とハイブリダイズ可能な第二ハイブリダイズ領域とを含むことが好ましい。また、第二バーコード核酸は、PCRプライマー領域をさらに含むことが好ましい。
図2の下段(1)(2)の一例において、第二バーコード核酸は、ビーズ側から順に、PCRプライマー領域、第二共通バーコード領域、第二固有バーコード領域および第二ハイブリダイズ領域を含む。
【0047】
図2の(2)に示されるように、上記第二共通バーコード領域の配列情報は、上述の通り、ビーズに連結する複数の第二バーコード核酸同士で互いに共通しており、細胞由来のゲノム関連核酸とハイブリダイズにより関連づけされるため、ゲノム関連核酸の由来する細胞を特定する指標として用いることができる。さらに、細胞はイメージングセルソーターを用いて表現型毎に選別されていることから、第二共通バーコード領域の配列情報は、細胞の表現型(イメージング情報)に関連づけられており、細胞の表現型の指標としても利用することができる。
【0048】
また、上記第二固有バーコード領域の配列情報は、第二バーコード核酸毎に互いに峻別しうる一方で個々にハイブリダイズされるゲノム関連核酸を特定できるため、表現型変化を生じた細胞においてどのゲノム関連核酸の発現量が増加しているのかなどのゲノムレベルでの反応を分析することができる。
【0049】
図2の(1)に示されるように、第二バーコード核酸の第二ハイブリダイズ領域は、第一バーコード核酸ともハイブリダイズすることができることから、被験対象と関連づけされた第一バーコード核酸の第一共通バーコード領域等の配列情報も上記第二バーコード核酸の配列情報に関連づけられることとなる。好ましい実施態様によれば、第二バーコード核酸の第二ハイブリダイズ領域は、第一ハイブリダイズ領域またはゲノム関連核酸と相補的な核酸を含む。
【0050】
例えば、ゲノム関連核酸がmRNAである場合は、第二バーコード核酸における第二ハイブリダイズ領域はTにより構成されるポリチミンであることが好ましい。ポリチミンの長さはmRNAのポリアデニン(A)テールとアニーリングし得る(ハイブリダイズし得る)長さであればよい。
【0051】
ゲノム関連核酸がゲノムDNA等のDNAである場合、第二バーコード核酸における第二ハイブリダイズ領域は当該DNAの特定の配列または当該DNAに導入されたDNAタグの配列と相補的な配列を含むことが好ましい。
【0052】
第二バーコード核酸は、各第二バーコード核酸全体としてはそれぞれ異なる配列を有することができる。ビーズに連結する複数の第二バーコード核酸は複数種の第二バーコード核酸となることが好ましい。
【0053】
ビーズ
ビーズは、多数のゲノム関連核酸とハイブリダイズできる観点から、1,000~100,000の第二バーコード核酸と連結していることが好ましい。
【0054】
ビーズが粒子である場合、その材質は、特に限定されないが、セレン化カドミウム(CdSe)、硫化亜鉛(ZnS)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、酸化亜鉛(ZnO)、二酸化ケイ素(SiO2)等の半導体材料でできた量子ドット(半導体ナノ粒子)等の半導体、金等の重金属等の無機物質、アクリルアミド、アガロース、コラーゲン、アルギン酸、セルロース、キトサン、ヒアルロン酸、シリコーンハイドロゲル、PEG系等のハイドロゲル、ポリスチレン、ポリプロピレン、親水性ビニルポリマー(例えば、Toyopearl HW-65S(東ソー株式会社))等の樹脂、またはこれらのハイドロゲル素材を化学的に架橋したもの、またはPEGまたはその誘導体が結合した親水性ビニルポリマー等が挙げられ、好ましくは、ハイドロゲルであり、より好ましくは、アクリルアミド、アルギン酸である。
【0055】
第二バーコード核酸連結ビーズの製造方法
複数種の第二バーコード核酸連結ビーズは、公知の手法により製造することができる。例えば、E. Z.Macosko et al.,Highly Parallel Genome-wide Expression Profiling of Individual Cells Using Nanoliter Droplets. Cell. 161,1202-1214(2015)またはGierahn, T. M et al., Seq-Well: A Portable,Low-CostPlatform for High-Throughput Single-Cell RNA-Seq of Low-Input Samples;Nat Methods.14,395-398(2017)に記載の方法により製造することができる。
【0056】
細胞またはその由来物
上記コンパートメントに封入する細胞ゲノムまたはその由来物に対応するゲノム関連核酸は、細胞の破砕物、細胞の内容物、細胞の溶解物等から得られる核酸が挙げられる。細胞の由来物(例えば、細胞の破砕物、内容物、溶解物等)は、細胞と細胞溶解バッファー等とを共存させる等の公知手法を用いることにより取得することができる。
【0057】
細胞ゲノムまたはその由来物に対応するゲノム関連核酸を取得する工程としては、コンパートメントを作成する際に第一バーコード核酸で標識された細胞を細胞溶解バッファー等を共に封入して行ってもよく、第一バーコード核酸で標識された細胞および第二バーコード核酸連結ビーズと共に細胞溶解バッファーを封入してコンパートメント中で生成させてもよい。この際、コンパートメント内に封入する細胞の数は、本開示の効果を妨げない限り、特に限定されないが、シングルセル解析の観点からは、1つのコンパートメント当たり1つであることが好ましい。
【0058】
ハイブリダイズ複合体取得工程
また、本開示の一実施態様によれば、上記ゲノム関連情報を解析する工程において、ゲノム関連核酸および第一バーコード核酸をそれぞれ、第二バーコード核酸とハイブリダイズさせてハイブリダイズ複合体を得る工程を実施する。
【0059】
上記工程は、公知の手法により行うことができる。例えば、E. Z. Macosko et al., Highly Parallel Genome-wide Expression Profiling of Individual Cells Using Nanoliter Droplets. Cell. 161, 1202-1214 (2015)またはZheng GX et al., Massively parallel digital transcriptional profiling of single cells. Nat Commun. 6;8:14049 (2017)に記載の方法により行うことができる。その後に、公知方法によりコンパートメントを破壊してもよい。
【0060】
ハイブリダイズ複合体由来の増幅物の作製工程
また、本開示の一実施態様によれば、上記ゲノム関連情報を解析する工程において、上記ハイブリダイズ複合体取得工程で得られたハイブリダイズ複合体に由来する増幅物を作製する工程を実施する。
【0061】
上記工程は、公知の手法により行うことができる。例えば、E. Z. Macosko et al., Highly Parallel Genome-wide Expression Profiling of Individual Cells Using Nanoliter Droplets. Cell. 161, 1202-1214 (2015)またはZheng GX et al., Massively parallel digital transcriptional profiling of single cells. Nat Commun. 6;8:14049 (2017)に記載の方法により行うことができる。
【0062】
具体的な一実施態様によれば、上述のハイブリダイズ複合体作製工程で得られたハイブリダイズ複合体に対して、相補鎖DNAの合成および逆転写反応を行う。この合成反応および逆転写反応により、細胞由来mRNAに対するcDNAが合成され、第一バーコード核酸に対する相補鎖DNAが合成される。その後、鋳型切り替え(テンプレートスイッチング)を行ってもよい。
【0063】
その後、PCR反応を行うことが好ましい。このPCR反応により、第一バーコード核酸と第二バーコード核酸とのハイブリダイズ複合体に由来する第一増幅物、および、細胞由来mRNAと第二バーコード核酸とのハイブリダイズ複合体に由来する第二増幅物の2種類の増幅物を作製させることができる。なお、ゲノム関連核酸がDNAである場合には、上記PCR反応としてエクステンションPCR法を行うことができる。その後、得られた増幅物に基づいて、被験対象の処理に由来する、第一増幅物および第二増幅物を含む増幅物のライブラリを調製することができる。
【0064】
細胞における被験対象共存後の核酸情報の読み取り工程
また、本開示の一実施態様によれば、上記ハイブリダイズ複合体由来の増幅物の作製工程で得られた増幅物の発現パターンを指標として細胞と共存した被験対象を同定し該細胞のゲノム関連情報を検出する工程を含む。上記増幅物の発現パターンとしては、例えば、シークエンシングにより得られた、増幅物の配列情報、例えば、該配列情報中の第一バーコード核酸の配列情報(例えば、第一共通バーコード領域の配列情報)、第二バーコード核酸の配列情報(例えば、第二共通バーコード領域の配列情報、第二固有バーコード領域の配列情報)、ゲノム関連核酸の配列情報(細胞毎のmRNAの配列)等が挙げられる。
【0065】
以下、特に限定するものではないが、細胞における被験対象共存後の核酸情報の読み取り工程の一態様を説明する。
上述のハイブリダイズ複合体由来の増幅物の作製工程で得られた増幅物(第一増幅物、第二増幅物)の配列をシーケンサーにより決定し、増幅物の配列情報の解析を行う。第二増幅物の解析では、第二共通バーコード領域の配列情報を指標として、各増幅物の由来する細胞を割り当てる。また、第二固有バーコード領域の配列情報により、各mRNA分子を識別できることから、該配列情報を指標として、細胞毎のmRNAの配列およびその発現量等の情報を得ることができる。上記第二増幅物の解析で得られた情報に基づき、細胞毎のトランスクリプトーム情報を得ることができる。
【0066】
次に、上記細胞と共存した被験対象の同定を行う。ここで、上述のように、第一バーコード核酸は被験対象に対応している。したがって、上記同定では、第一バーコード核酸の第一共通バーコード領域の配列情報に基づいて、各第一増幅物に対し、細胞と共存した被験対象を割り当てることができる。
【0067】
次に、細胞と共存した被験対象と、トランスクリプトーム情報のマッチングを行う。したがって、各コンパートメント中の細胞のゲノム関連情報と共存した被験対象を、1対1で結びつけることができる。
したがって、1種以上の被験対象と共存した細胞またはその由来物のトランスクリプトーム情報等のゲノム関連情報の検出により、共存した被験対象に対しての細胞の応答を評価することができる。
【0068】
上記核酸情報の読み取り工程において、例えば、液滴技術を用いた1細胞解析技術である10xGenomics社製 Chromium コントローラー装置と10xGenomics社製の単一細胞3’試薬キットv3を用いて実施することができる。
【0069】
イメージングセルソーター
本開示においては、上述の通り、イメージングセルソーターを用いて、複数の細胞を細胞表現型に基づいて選別する。本開示においては、イメージングセルソーターを利用することにより、迅速かつ精度よく被験対象に応答して生じた細胞の表現型の変化を分析し、目的とする表現型を示す細胞を選別することができる。イメージングセルソーターは、細胞等の観測対象物の形態情報を高速に取得して分析するフローサイトメータであり、その分析結果に基づいて目的とする観測対象物を選択的に取得することができる。
【0070】
第一の実施態様のイメージングセルソーター
本開示の一実施態様によれば、イメージングセルソーターは、光源からの光が構造化されて照射される光照射領域に存在する観測対象物からの散乱光、透過光、蛍光、または電磁波を受け取り、電気信号に変換する受光部から出力される前記電気信号の時間軸に基づいて抽出される信号に基づいて前記観測対象物を分析する分析部を備える分析装置である(以下、「第一の実施態様におけるイメージングセルソーター」ともいう)。第一の実施形態におけるイメージングセルソーターでは、光構造と測定対象の相対的な動きを利用する動的ゴーストイメージング(Ghost Motion Imaging)技術が用いられている。第一の実施態様におけるイメージングセルソーターを用いた分析は、例えば、WO2017/073737号公報の記載に準じて実施することができる。
【0071】
本開示の第一の実施態様におけるイメージングセルソーターによれば、機械学習に1細胞フローサイトメトリーの各要所を委ねることにより、細胞情報を賢く計測し、賢く速く正確に分析・判別することを可能とする。人知バイアスに縛られない細胞分類法(1)、細胞「画像」を撮らない高速の細胞空間情報撮影・分析法(2)、対象に応じて自動的に最適化する光撮影法(3)を実現することができる。
【0072】
図3は、本開示の第1の実施態様におけるイメージングセルソーターの一実施態様を示す模式図である。本開示の第1の実施態様におけるイメージングセルソーターは、一例として、
光源1と、
光源1からの光が照射される光照射領域3と、
光照射領域3に存在する観測対象物5からの散乱光(ラマン散乱を含む),透過光,蛍光,または電磁波を受け取り,電気信号に変換する受光部7と、
受光部7から電気信号を受け取って記録する記憶部9と、
記憶部9が記録した、散乱光、透過光、蛍光、または電磁波に関する電気信号を分析して、分析結果を記録する分析部11と、
分析結果に基づいて、光源1または光照射領域3を最適化する光学系制御部13と、
を有する。
【0073】
本開示の第1の実施態様におけるイメージングセルソーターでは、光照射領域3において照射される光が、構造化された照明パターンを有している。構造化された照明パターンは、一例として、光源1から光照射領域3の光路の途中に配置される空間光変調器、フィルタ等を含む光変調部により付与される。ここで構造化された照明とは、光特性が異なる複数の領域を有する照明であり、光照射領域3において観測対象物に照射される照明光は、例えば、格子状に区分された複数の領域を有し、その複数の領域が互いに光特性が異なる少なくとも第1の光特性を有する領域と第2の光特性を有する領域により構成される帯状の照明光に加工される。本開示の第1の実施態様におけるイメージングセルソーターは、上記の
図3の構成から、光学系制御部13を含まない構成とすることもできる。
【0074】
また、第1の実施態様におけるイメージングセルソーターの別の実施態様として、光照射領域3において照射される光を構造化せず、観測対象物5からの散乱光(ラマン散乱を含む)、透過光、蛍光または電磁波を、構造化して受光部7において検出する構成とすることもできる。この構成では、一例として、光照射領域3から受光部7の光路の途中にフィルタ等の光変調部を配置することで、観測対象物5からの光(上記の観測対象物5からの散乱光、透過光、蛍光、または電磁波)を構造化して検出することができる。構造化して検出する構成において用いられる光変調部は、一例として、格子状に区分された複数の領域を有し、その複数の領域が光を透過させる領域と光を透過させない領域が配置されたパターンを有している。観測対象物5からの光は、上記光変調部を介することにより、光特性が異なる複数の領域を有する光として受光部7により検出される。
【0075】
本開示の第1の実施態様におけるイメージングセルソーターは、好ましくは、分析部11の判別アルゴリズムを機械学習により最適化するものである。本開示の第1の実施態様におけるイメージングセルソーターでは、目的とする表現型を示す細胞を含む学習サンプルを用いて学習データを取得し、その学習データを用いて目的とする表現型を示す細胞を判別する判別モデルを作製し、そのモデルに基づいてテストサンプルを測定し、テストサンプルから目的とする表現型を示す細胞を取得することができる。
【0076】
本開示の第1の実施態様におけるイメージングセルソーターは、好ましくは、分析部11が、散乱光、透過光、蛍光、または電磁波に関する電気信号を観測対象の像を再構築することなく、観測対象を分析するものである。即ち、前記散乱光、透過光、蛍光、または電磁波に関する電気信号は時系列の波形データとして分析に用いられる。
本開示の第1の実施態様におけるイメージングセルソーターは、より好ましくは、目的とする表現型を示す細胞を含む学習サンプルを用いて取得した波形データ(電気信号)を学習データとして取得し、その学習データを用いて目的とする表現型を示す細胞を判別する判別モデルを作製し、そのモデルに基づいてテストサンプルを測定した際に取得される波形データ(電気信号)に基づいてテストサンプルから目的とする表現型を示す細胞が取得される。
【0077】
本開示の第1の実施態様におけるイメージングセルソーターは、好ましくは、光学系制御部13が、機械学習により光源1を最適化するものである。
【0078】
本開示の第1の実施態様におけるイメージングセルソーターは、好ましくは、光源1からの光は、複数の光領域21を有し、光学系制御部13は、複数の光領域の光構造を制御するものである。したがって、本開示の第1の実施態様におけるイメージングセルソーターは、好ましくは、複数の光領域を有し、光学系制御部は、光領域の光構造を制御する。また、一実施態様によれば、本開示の第1の実施態様におけるイメージングセルソーターは、光源と光照射領域との間の光路上に、光特性が互いに異なる複数の領域を有する光変調部が配置されてなる。光源1からの光は、光変調部を介して構造化され、構造化された照明により観測対象物5は光照射領域3において照射を受ける。
【0079】
本開示の第1の実施態様におけるイメージングセルソーターは、好ましくは、光学系制御部13が、電気信号に基づいて観測対象物3の存在領域を分析し、光照射領域3を限定するように制御するものである。
【0080】
本開示の第1の実施態様におけるイメージングセルソーターは、好ましくは、光学系制御部13が、電気信号に基づいて観測対象物5の粗密を分析して観測対象の粗密情報を得て、粗密情報に基づいて、光源1または光照射領域3を制御するものである。したがって、一実施態様によれば、分析部が、分析した結果に基づいて判別アルゴリズムが更新される。そして、本開示の第1の実施態様におけるイメージングセルソーターでは、好ましくは、光および光照射領域が、分析部が分析した結果に基づいて制御される。
【0081】
本開示の第1の実施態様におけるイメージングセルソーターは、好ましくは、受光部7から電気信号を受け取り、受光部7へ光が照射される領域である受光領域25を最適化する受光系制御部27を更に有するものである。本開示の第1の実施態様におけるイメージングセルソーターは、好ましくは、受光系制御部27は、機械学習により受光領域25を最適化する。
【0082】
本開示の第1の実施態様におけるイメージングセルソーターの好ましい利用態様は、光照射領域3を含むフローセルを有する。観測対象物5はフローセル中を流れる流体と共に移動し、光照射領域3において光源1からの光の照射を受ける。
【0083】
本開示の第1の実施態様におけるイメージングセルソーターは、好ましくは、分析部11の分析結果に基づいて、観測対象物を判別し、観測対象物5を分別する分別部を有する。
【0084】
第二の実施態様のイメージングセルソーター
また、本開示の好ましい実施態様によれば、イメージングセルソーターは、光源からの光が照射される光照射領域に存在する観測対象物からの散乱光、透過光、蛍光、または電磁波を受け取り、電気信号に変換する受光部から出力される電気信号の時間軸に基づいて抽出される信号に基づいて観測対象物を分析する分析部
を備える分析装置である(以下、「第二の実施態様におけるイメージングセルソーター」ともいう)。第二の実施態様におけるイメージングセルソーターを用いた分析は、WO2018/199080号公報の記載に準じて実施することができる。
【0085】
第二の実施態様におけるイメージングセルソーターによれば、観測対象物の3次元画像を高速に生成することができ、観測対象物である細胞の表現型を迅速に特定するうえで有利である。
【0086】
第二の実施態様におけるイメージングセルソーターは、好ましくは、観測対象物が流される少なくとも1つの流路と、流路に対して帯状の励起光を照射する光源と、励起光が照射される位置を通過した観測対象物からの蛍光を撮像することにより、観測対象物のある断面を撮像する撮像部と、撮像部が撮像した断面が撮像された複数の撮像画像に基づいて、観測対象物の3次元の画像を生成する3次元画像生成部とを備えるイメージングフローサイトメーターである。
【0087】
また、第二の実施態様におけるイメージングセルソーターにおいて、好ましくは、撮像部が撮像した断面が示す観測対象物の形態を示す情報に基づいて、観測対象物を分取する。
【0088】
また、第二の実施態様におけるイメージングセルソーターにおいて、好ましくは、流路は、並列に並べられた複数の流路であって、励起光は、複数の前記流路に対して照射され、前記撮像部は、複数の前記流路をそれぞれ流される観測対象物の断面を撮像する。
【0089】
また、第二の実施態様におけるイメージングセルソーターにおいて、好ましくは、光源と蛍光の強さを検出する撮像素子との間の光路上に、光特性が互いに異なる複数の領域を有する光変調部が配置され、撮像部は、撮像素子が検出する前記蛍光の強さと、光変調部の光特性とに基づいて、観測対象物の前記断面の像を、撮像画像として再構成する。
【0090】
本開示によれば、観測対象物の3次元画像を高速に生成するイメージングフローサイトメーターを提供ことができる。
【0091】
一つの態様によれば、本開示の方法は、上記準備工程後、以下の実施例に記載の手法に準じて実施してもよい。
【0092】
また、日本国特許第5441142号公報、日本国特許第5540359号公報、日本国特許第6544600号公報、WO2017/073737号公報、WO2018/181458号公報、WO2018/199080号公報、WO2018/203575号公報に記載する内容は、引用することにより本明細書の一部とされる。
【0093】
本開示の一実施態様によれば、以下が提供される。
[1]被験対象と関連付けされている第一バーコード核酸で標識しかつ上記被験対象で処理した複数の細胞を準備する工程、
イメージングセルソーターを用いて、上記複数の細胞を細胞表現型に基づいて選別する工程、
第一バーコード核酸を指標として各細胞の処理に用いられた被験対象を同定する工程を含む、被験対象をスクリーニングする方法。
[2]各細胞の処理に用いられた被験対象と、各細胞の表現型とを関連付けする、[1]に記載の方法。
[3]上記同定工程が、さらに被験対象により目的とする細胞の表現型変化を生じさせる標的部位を同定する工程を含む、[1]または[2]に記載の方法。
[4]各細胞のゲノム関連情報を解析する工程をさらに含む、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]上記細胞を準備する工程が、被験対象および第一バーコード核酸を含む液媒体と、細胞とを混合して、上記第一バーコード核酸と細胞とを関連付けする工程を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]上記細胞を準備する工程が、被験対象および第一バーコード核酸を含む液媒体にハイドロゲルビーズを添加して、被験対象および第一バーコード核酸を含む第一サブコンパートメントを生成して、被験対象と第一バーコード核酸とを関連付けする工程を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]上記細胞を準備する工程が、上記被験対象および第一バーコード核酸を含む第一サブコンパートメントと、細胞を含む第二サブコンパートメントとを融合し、上記被験対象、第一バーコード核酸および細胞を含むコンパートメントを生成する、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]上記細胞を準備する工程が、上記コンパートメント中において被験対象で細胞を処理する、[7]に記載の方法。
[9]上記コンパートメントまたはサブコンパートメントが液滴である、[6]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]上記細胞を準備する工程が、上記コンパートメントから細胞を回収する工程を含む、[7]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]上記選別工程が、細胞表現型に基づいて、被験対象により所定の反応が起こっている細胞を選別する工程を含む、[1]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12]上記ゲノム関連情報を解析する工程が、上記細胞ゲノムまたはその由来物に対応するゲノム関連核酸と、上記第一バーコード核酸と、第二バーコード核酸連結ビーズとを含む複数のコンパートメントを準備する工程であって、上記第二バーコード核酸連結ビーズが、細胞ゲノムまたはその由来物に対応するゲノム関連核酸あるいは上記第一バーコード核酸とハイブリダイズ可能な複数の第二バーコード核酸を含んでいる工程、
上記ゲノム関連核酸および上記第一バーコード核酸をそれぞれ、上記第二バーコード核酸とハイブリダイズさせてハイブリダイズ複合体を得る工程、
上記ハイブリダイズ複合体に由来する増幅物を製造する工程、および
上記増幅物の発現パターンを指標として細胞における上記被験対象の共存後のゲノム関連情報を検出する工程
を含む、[4]~[11]のいずれかに記載の方法。
[13]上記ゲノム関連核酸が、上記細胞ゲノムDNA、または上記細胞ゲノムに由来するRNAもしくはそのcDNAである、[12]に記載の方法。
[14]第一バーコード核酸が各々、同一の被験対象において共通する第一共通バーコード領域と、第二バーコード核酸とハイブリダイズ可能な第一ハイブリダイズ領域とを含んでいる、[12]または[13]のいずれかに記載の方法。
[15]第一共通バーコード領域の配列情報が、被験対象を特定する指標となる、[12]~[14]のいずれかに記載の方法。
[16]上記第二バーコード核酸連結ビーズに連結した複数の第二バーコード核酸が各々、互いに共通する第二共通バーコード領域と、互いに峻別しうる第二固有バーコード領域と、ゲノム関連核酸または第一バーコード核酸とハイブリダイズ可能な第二ハイブリダイズ領域とを含む、[12]~[15]のいずれかに記載の方法。
[17]上記第二固有バーコード領域の配列情報が、ゲノム関連核酸を特定する指標となる、[12]~[16]のいずれかに記載の方法。
[18]第二バーコード核酸が、PCRプライマー領域をさらに含む、[11[~[16]のいずれかに記載の方法。
[19]第二ハイブリダイズ領域が、上記第一ハイブリダイズ領域または上記ゲノム関連核酸と相補的な核酸を含む、[12]~[17]のいずれかに記載の方法。
[20]上記イメージングセルソーターが、光源からの光が照射される光照射領域に存在する観測対象物からの散乱光、透過光、蛍光、または電磁波を受け取り、電気信号に変換する受光部から出力される上記電気信号の時間軸に基づいて抽出される信号に基づいて上記観測対象物を分析する分析部
を備える分析装置である、[1]~[19]のいずれかに記載の方法。
[21]上記光源と上記光照射領域との間の光路上に、光特性が互いに異なる複数の領域を有する光変調部が配置された、[20]に記載の方法。
[22]上記分析部が分析した分析結果に基づいて,上記光源を制御する光学系制御部を更に備える、[20]または[21]に記載の方法。
[23]上記光源からの光が、複数の光領域を有し、上記光学系制御部は、上記光領域の光構造を制御する、[22]に記載の方法。
[24]上記分析部が、分析した結果に基づいて判別アルゴリズムが更新される、[20]~[23]のいずれかに記載の方法。
[25]上記光および上記光照射領域が、上記分析部が分析した結果に基づいて制御される、[20]~[24]のいずれかに記載の方法。
[26]上記イメージングセルソーターが、上記光照射領域を含むフローセルを含む、[20]~[25]のいずれかに記載の方法。
[27]上記イメージングセルソーターが、上記分析部の分析結果に基づいて,上記観測対象物を判別し,上記観測対象物を分別する分別部を有する、[20]~[26]のいずれかに記載の方法。
[28]上記イメージングセルソーターが、流路を移動する上記観測対象物の移動可能な流線幅を可変に制御する流線幅制御部を更に備え、
上記分析部が,上記時間軸に基づいて抽出される信号と、当該信号が取得された際の流線幅とに基づいて,上記観測対象物の状態を判別する基準を示す教師情報を機械学習によって生成する教師情報生成部と、
上記信号と上記教師情報生成部が生成する教師情報とに基づいて、上記流線を移動する上記観測対象物の状態を推定する、[20]~[27]のいずれかに記載の方法。
[29]上記流線幅制御部が、
上記観測対象物の径に応じた幅である第1の流線幅に上記流線幅を制御し、
上記教師情報生成部が、
上記流線幅制御部が制御した上記第1の流線幅において上記受光部が検出する第1の観察結果信号に基づく第1の教師情報を上記教師情報として生成し、
上記分析部が、
上記教師情報生成部が生成する上記第1の教師情報と,上記信号とに基づいて,上記流線を移動する上記観測対象物の状態を推定する、[28]に記載の方法。
[30]上記流線幅制御部が、
上記観測対象物の径に基づく幅であり,かつ,上記第1の流線幅よりも幅が広い第2の流線幅に上記流線幅を制御し、
上記教師情報生成部は更に、
上記流線幅制御部が制御した上記第2の流線幅において上記受光部が検出する第2の観察結果信号に基づく第2の教師情報を上記教師情報として生成し、
上記分析部が、
上記教師情報生成部が生成する上記第1の教師情報と、上記教師情報生成部が生成する上記第2の教師情報と,上記信号とに基づいて,上記流線を移動する上記観測対象物の状態を推定する、[28]または[29]に記載の方法。
[31]上記イメージングセルソーターが、
観測対象物が流される少なくとも1つの流路と、
上記流路に対して帯状の励起光を照射する光源と、
上記励起光が照射される位置を通過した上記観測対象物からの蛍光を撮像することにより、上記観測対象物のある断面を撮像する撮像部と、
上記撮像部が撮像した上記断面が撮像された複数の撮像画像に基づいて、上記観測対象物の3次元の画像を生成する3次元画像生成部と
を備える、[1]~[30]のいずれかに記載の方法。
[32]上記イメージングセルソーターが、
上記撮像部が撮像した上記断面が示す上記観測対象物の形態を示す情報に基づいて、観測対象物を分取する、[31]に記載の方法。
[33]上記流路が、並列に並べられた複数の流路であって、
上記励起光が、複数の上記流路に対して照射され、
上記撮像部が、複数の上記流路をそれぞれ流される上記観測対象物の上記断面を撮像する、[31]または[32]に記載の方法。
[34]上記光源と上記蛍光の強さを検出する撮像素子との間の光路上に、光特性が互いに異なる複数の領域を有する光変調部が配置され、
上記撮像部が、
上記撮像素子が検出する上記蛍光の強さと、上記光変調部の上記光特性とに基づいて、上記観測対象物の上記断面の像を、撮像画像として再構成する、[1]~[33]のいずれかに記載の方法。
[35]上記被験対象が被験物質を含む、[1]~[34]のいずれかに記載の方法。
[36]上記被験対象が被験物質である、[1]~[35]のいずれかに記載の方法。
[37]上記ゲノム関連情報を解析する工程が、
イメージングセルソーターを用いて分取された目的の表現型変化を示す細胞と、上記第一バーコード核酸と、第二バーコード核酸連結ビーズとを含む複数のコンパートメントを準備する工程であって、上記第二バーコード核酸連結ビーズが、細胞ゲノムまたはその由来物に対応するゲノム関連核酸あるいは第一バーコード核酸とハイブリダイズ可能な複数の第二バーコード核酸を含んでいる工程、
上記ゲノム関連核酸および第一バーコード核酸をそれぞれ、第二バーコード核酸とハイブリダイズさせてハイブリダイズ複合体を得る工程、
上記ハイブリダイズ複合体に由来する増幅物を製造する工程、および
上記増幅物の発現パターンを指標として、第一バーコード核酸と細胞における被験対象の共存後のゲノム関連情報を検出する工程
を含む、[1]~[36]のいずれかに記載の方法。
【実施例0094】
以下、本開示を実施例に基づき具体的に説明するが、本開示はかかる実施例に限定されない。また、特に言及しない限り、本開示の測定方法および単位は日本工業規格(JIS)の規定に従う。
【0095】
参考例1:第一バーコード核酸と細胞との紐付け予備試験
Multi-seq法(Nature Methods,volume16,pages 619-626 (2019)の記載)に準じて、後述する例1と同様の細胞、アンカーCMO、共アンカーCMOおよびオリゴヌクレオチドを使用して、以下の予備実験を行った。すなわち、細胞とアンカーCMOをPhosphate Buffered Saline(PBS)溶液で4度、5分間のインキュベーションを行ったのち、共アンカーCMOを加え、さらに4度、5分間のインキュベーションを行い、最後に赤色蛍光色素(Cy5)を付加したオリゴヌクレオチド(第一バーコード核酸の部分配列に相当する配列を持つ)を混合し、4度、5分間インキュベーションした。
【0096】
その結果、
図4のAおよびBに示される通り、PBS溶液中において短時間(インキュベート後30分)では、赤色蛍光色素(Cy5)を付加したオリゴヌクレオチド(第一バーコード核酸の部分配列に相当する配列を持つ)は細胞に保持されていた。しかしながら、長時間(インキュベート後3時間以上)が経過すると、ほとんどの細胞が死滅したり、細胞に付加したバーコード核酸が抜け落ちたりする場合があることが確認された(図示せず)。
【0097】
参考例2:第一バーコード核酸と細胞との紐付け予備試験
また、血清またはBovine SerumAlbumin(BSA)を含有する細胞培地を溶媒として用いてインキュベーションする以外、参考例1と同様の手法により予備実験を行った。その結果、
図4のCおよびDの写真に示される通り、赤色蛍光色素(Cy5)を付加したオリゴヌクレオチド(第一バーコード核酸の部分配列に相当する配列を持つ)の細胞への付加率が低下することが確認された。
【0098】
参考例3:第一バーコード核酸と細胞との紐付け予備試験
また、アンカーCMOや共アンカーCMOを付加する時の溶液を、血清なしOpti-MEM培地 (Thermo Fisher製)に変更し室温でインキュベーションする以外、参考例1と同様の手法により予備実験を行った。その結果、
図4のEおよびFの写真に示される通り、十分に蛍光色素を付加したオリゴヌクレオチド(第一バーコード核酸の部分配列に相当する配列を持つ)を細胞に付加できることを確認した。細胞への付加効率が高いまま (100%) 液滴を用いたスクリーニング系に適した反応を行うことができることが確認された。そこで、以下の例1の実験を行うこととした。
【0099】
例1:コンパートメント(チューブ)内での第一バーコード核酸と細胞との紐付け
本実験では、まずチューブ1内において、コレステロール修飾された2種類のオリゴヌクレオチドリンカー、すなわち、アンカーCMO(5’-Cholesterol-TEG-GTAACGATGGAGCTGTCACTTGGAATTCTCGGGTGCCAAGG-3’(配列番号1))と、共アンカーCMO(5’-AGTGACAGCTGGATCGTTAC-TEG-Cholesterol-3’(配列番号2))を混合した。ここで、オリゴヌクレオチドリンカー中の「Cholesterol-TEG」はhttps://sg.idtdna.com/site/Catalog/Modifications/Product/2555に記載の市販品を使用している。上記混合行程において、溶媒は血清なしのOpti-MEM培地を用い、アンカーCMO、共アンカーCMOの終濃度は共に250nMとした。チューブ1は、室温で5分間インキュベーションした。
【0100】
次に、第一バーコード核酸Aをチューブ1に加えて混合し、インキュベーションした。第一バーコード核酸A配列(8塩基)を含むオリゴヌクレオチドは、5’-CCTTGGCACCCGAGAATTCCACCACAATGA30-3’(配列番号3)であった。ここで、第一バーコード核酸Aの末端に付加されたA30は30残基からなるポリアデニン(poly(A30))である。第一バーコード核酸Aの終濃度は250nMとした。また、インキュベーションは、室温で5分間実施した。
【0101】
次に、チューブ1に予め遠心して集めておいた細胞を添加し、インキュベートした。この際に用いられた細胞はTHP1細胞であり、細胞濃度は1X107cell/mLとした。インキュベーションは、室温で5分間実施した。
【0102】
一方で、チューブ2内において、第一バーコード核酸A(8塩基)を含むオリゴヌクレオチドに代えて第一バーコード核酸B(8塩基)を含むオリゴヌクレオチドを用いる以外チューブ1と同様の手法および条件により、細胞を第一バーコード核酸Bで標識した。第一バーコード核酸B(8塩基)を含むオリゴヌクレオチドは、5’-CCTTGGCACCCGAGAATTCCATGAGACCTA30-3’(配列番号4)であった。
【0103】
例2:コンパートメント(チューブ)内での被験物質、第一バーコード核酸および細胞の紐付け
チューブ1およびチューブ2においてそれぞれ、10%FBSと50uM 2-メルカプトエタノールを添加したRPMl-1640培地に細胞を再懸濁した。次に、チューブ1に対してのみ、ジメチルスルホキシド(DMSO)に懸濁したLipopolysaccharide(LPS)を薬剤として、最終濃度2ug/mLで添加した。チューブ2には、薬剤の溶剤であるDMSOのみを添加した。次に、チューブ1およびチューブ2をそれぞれ、37度、CO2下で、2時間のインキュベーションを行った。ここまでの実験により、薬剤LPSあり、薬剤なし、という薬剤条件を、各細胞に対して、第一バーコード核酸種類Aと第一バーコード核酸種類Bに対応させ、関連付けした。
【0104】
なお、例2の方法では、10% FBSと50uM 2-メルカプトエタノールを添加したRPMl-1640 培地に再懸濁し培養することで、長時間インキュベーション時に細胞に付加したバーコード核酸が抜け落ちる問題を回避できることを併せて確認された。
具体的には、まず緑色の蛍光色素FAMを付加したオリゴヌクレオチド(第一バーコード核酸の部分配列に相当する配列を持つ)で標識された細胞と赤色蛍光色素(Cy5)を付加したオリゴヌクレオチド(第一バーコード核酸の部分配列に相当する配列を持つ)で標識された細胞を別々に準備し、これらをPBS溶液中で混合して1時間インキュベーションした。このインキュベーション後の混合細胞サンプルを、蛍光顕微鏡を用いて、緑色蛍光(
図5のA)と赤色蛍光(
図5のB)のそれぞれのチャンネルを観察したところ、多くの細胞が緑・赤の両方で光っていた。すなわち、既出の手法であるPBS溶液中での長時間培養では、バーコード核酸の抜け落ちが生じ、2種類のバーコード核酸が混じり合っていた。
【0105】
次に、同様にして、緑色の蛍光色素FAMを付加したオリゴヌクレオチド(第一バーコード核酸の部分配列に相当する配列を持つ)で標識された細胞と赤色蛍光色素(Cy5)を付加したオリゴヌクレオチド(第一バーコード核酸の部分配列に相当する配列を持つ)で標識された細胞を別々に準備し、これらを10%FPSと50uM 2-メルカプトエタノールを添加したRPMI-1640培地中に混合し、1時間インキュベーションを行った。このインキュベーション後の混合細胞サンプルを、蛍光顕微鏡を用いて、緑色蛍光(
図5のC)と赤色蛍光(
図2のD)のそれぞれのチャンネルを観察したところ、バーコードの抜け落ちはなく、2種類のバーコード核酸が混じり合う問題は解決されたことが確認された。
【0106】
また、上記細胞に付加したバーコード核酸は、付加後1時間程度では細胞膜表面に付着したままで、その後、バーコード核酸を付加した細胞を経時観察(1時間、2時間、3時間、6時間後)した。その結果、
図6に示される通り、一部は細胞内に取り込まれるが、細胞はバーコード核酸を保持したままであった。また細胞を10% FBSと50uM 2-メルカプトエタノールを添加したRPMl-1640培地で培養することにより、バーコード核酸を付加した細胞の死滅を防ぐことができたことを確認した。
【0107】
例3:被験物質に応答した細胞の固定・タンパク質標識・染色の実験
次に、チューブ1およびチューブ2からそれぞれ一部の細胞を採取した。得られた細胞をPBSに懸濁した4%ホルマリン溶液で室温15分間または1mg/mLのDithiobis sulfosuccinimidylpropionatedisodiumsalt(DTSSP)(DOJINDO社製)で室温30分間インキュベーションして固定した後、氷冷したメタノールで5分間処理した。固定処理された細胞を、PBS溶液中に置換した。その後、NFkBタンパク質に対する1次抗体(NFkB p65(D14E12),CST社製)を用いて免疫抗体染色を行った。1次抗体は100倍希釈で用い、反応溶液は1%BSA入りのPBSで4度、16~20時間処理した。次に、蛍光色素付きの2次抗体(Alexa Fluor 488)と反応した。2次抗体は200倍希釈で用い、反応溶液は1%BSA入りのPBSを用いて室温、1時間処理した。
【0108】
蛍光顕微鏡を用いて確認したところ、
図7に示される通り、薬剤の溶剤であるDMSOのみを添加したチューブ2の細胞では、NFkBタンパク質のほとんどが細胞質に局在しているのに対して、LPS薬剤を添加したチューブ1の細胞では、NFkBタンパク質のほとんどが核に局在していた。
【0109】
次に、チューブ1から一部の細胞を採取しFixable Far Redで染色して染色細胞を得、この染色細胞と、Fixable Far Redでは非染色であるチューブ2の一部の細胞とを細胞濃度が1:1になるように混合して混合細胞溶液Aを得た。
【0110】
また、ネガティブコントロールとして、薬剤の溶剤であるDMSOのみをチューブ2より一部の細胞を採取し、細胞溶液Bを得た。
【0111】
また、イメージセルソーターの教師データ用に、混合細胞溶液Aの一部を用意した。
【0112】
例4:イメージセルソーターにより、被験物質への応答を細胞イメージ表現型に基づいて選別した実験
イメージセルソーターを用いて、LPS薬剤添加に応じて観察される細胞イメージ表現型であるNFkBタンパク質の核移行に基づき、混合細胞溶液から細胞を選別し回収した。なお、本実験で用いたイメージセルソーターは、Science, 15 Jun 2018: Vol. 360, Issue 6394, pp. 1246-1251に記載されたものを使用した。
【0113】
まず、選別回収する細胞イメージ表現型であるNFkBタンパク質が核移行した細胞を判別する機械学習モデルを開発した。具体的には、チューブ1の細胞とチューブ2の細胞(チューブ1の細胞のみFixable Far Red で染色されている)とを既知の比率で混合した学習用の混合細胞溶液Aの一部を用いて、教師あり機械学習モデル(SVM: Support Vector Machine)を生成した。学習の教師データとして、混合細胞溶液Aの一部をイメージセルソーターに導入して、取得したNFkBタンパク質を標識したAlexa Fluor 488由来のイメージ信号をとFixable Far Redのラベルを元にした正解データを教師データとして学習させることによりNFkBタンパク質の核移行を予測する判別モデルを生成した。
【0114】
次に、LPS薬剤を添加した細胞と薬剤非添加細胞が、細胞濃度1:1になるように混合されている細胞溶液Aから、LPS薬剤を添加した細胞の細胞イメージ表現型であるNFkBタンパク質の核移行に基づき、イメージセルソーターを用いて選別し、NFkBタンパク質が核移行した細胞を回収した。回収率は、細胞全体の9割以上であった。
【0115】
4%ホルマリン固定後にタンパク質標識を行ったサンプルにおいては、イメージ信号データよりNFkBタンパク質の核移行を予測し、Fixable Far Red由来のラベル信号を元に正解付したところ、acc(Accuracy)で0.95,roc-auc(Area under the Receiver Operating Characteristc Curve)で0.997、の判別精度が得られた。さらに、イメージ信号データに基づくソーティング後に、フローサイトメトリーによりFixable Far Red由来のラベル信号を元にPurityを計測・定量したところ、
図8に示される通りであった。ソート後回収サンプルに薬剤添加細胞が含まれる割合(positive purity)0.995が得られた。
【0116】
なお、DTSSP固定後にタンパク質標識を行ったサンプルにおいては、イメージ信号データよりNFkBタンパク質の核移行を予測し、Fixable Far Red由来のラベル信号を元に正解付したところ、
図9に示される通りであった。DTSSP 1mgの固定条件においては、acc(Accuracy)で0.87, roc-aucで0.91の判別精度が得られた。DTSSP 10mgの固定条件においては、acc(Accuracy)で0.90、roc-aucで0.96の判別精度が得られた。
【0117】
以上の結果から、従来手法において、イメージ表現型に基づいた細胞分取には時間はコストが大きくかかっていたが、本手法においては、イメージセルソーターを用いて、イメージ表現型に基づいて細胞が迅速に分取できることが判る。
【0118】
例5:イメージセルソーターで選別・回収した細胞の被験物質と細胞表現型の情報紐付け確認実験
イメージセルソーターで選別・回収した細胞(positive purity: 0.995)ならびにコントロール混合細胞(LPS薬剤ありと薬剤なしの比が1:1)より、細胞約4800個を含む溶液をそれぞれ分注し、1細胞解析を行った。細胞ごとに修飾しているDNAバーコードの読み出しには、液滴技術を用いた1細胞解析技術である10xGenomics社製 Chromium コントローラー装置と10xGenomics社製の単一細胞3’試薬キットv3を用いた。
【0119】
図10は、試薬キットに含まれる試薬の模式図である。当該技術は、マイクロ流路中に大量の液滴を作製し、それぞれの液滴中に、液滴ごとに異なる第二バーコード核酸連結ビーズと1細胞を確率的に1:1で混合するものである。第二ビーズには、複数の第二バーコード核酸がリンカーを介して連結している。さらに、当該第二ビーズに連結した複数の第二バーコード核酸は各々、液滴に含まれる細胞が同じであれば互いに共通する第二共通バーコード領域(16塩基)と、個々の液滴毎に互いに峻別しうる第二固有バーコード領域(12塩基)と、細胞のゲノム由来の核酸または第一バーコード核酸とハイブリダイズ可能な第二ハイブリダイズ領域とを含んでいる。
【0120】
具体的には、まず各液滴の中で、第二固有バーコード領域の末端に付加された第二ハイブリダイズpoly(dT)配列と、細胞表面付加した第一バーコード核酸のpoly(A)末端を結合させた。さらに、逆転写酵素を用いた逆転写反応などを行い、第一バーコード用のプライマー5’-CTTGGCACCCGAGAATTCC-3’(配列番号5)と、10xGenomics社製の単一細胞3’試薬キット v3に含まれる相補鎖DNAプライマーを用いて、第二バーコード核酸配列が付加された第一バーコード核酸の相補鎖DNAを生成した。
【0121】
その後、生成した1つ1つの液滴を混合した状態で液滴を破壊し、それぞれの液滴から抽出された第二固有バーコードの相補鎖DNA群をPCRリアクションにより増幅させ、インビトロジェン社のQubit FluorometerでDNA濃度を測定したところ、イメージソート回収細胞溶液は23.4ng/ul、コントロール細胞溶液は30.4ng/ulであった。
【0122】
次に、
図11に示されるように、1細胞ごとに異なる第二バーコード核酸配列が付加された第一バーコード核酸の次世代シーケンスライブラリをPCRリアクションにより作成した。用いたプライマーは、Read1側(Universal I5プライマー)5’-AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACACTCTTTCCCTACACGACGCTCTTCCGATCT-3’(配列番号6)と、Read2側(TruSeq RPIプライマー)イメージソート回収細胞溶液には5’-CAAGCAGAAGACGGCATACGAGATATTGGCGTGACTGGAGTTCCTTGGCACCCGAGAATTCCA-3’(配列番号7)、コントロール細胞溶液には、5’-CAAGCAGAAGACGGCATACGAGATTACAAGGTGACTGGAGTTCCTTGGCACCCGAGAATTCCA-3’(配列番号8)である。得られた次世代シーケンスライブラリは、アジレント社のD5000スクリーンテープを用いて、DNAサイズと濃度を測定し、ライブラリの品質確認を行った。
【0123】
次世代シーケンシングには、イルミナ社のMiSeq試薬キットv3を用いて、P5とP7のシーケンスライブラリを生成し、イルミナ社のMiSeq次世代シーケンサーを使用した。得られたシーケンスデータは、テキストベースのFASTQファイルとしてRead1側とRead2側それぞれ読み出し、Python3 およびDropseqTools、UMIToolsを用いて解析した。
【0124】
その結果、イメージソート回収細胞については、第二共通バーコード領域配列(16塩基)と第二固有バーコード領域(12塩基)のリード総数は、19,912,682であった。さらに第二共通バーコード領域配列(16塩基)と第二固有バーコード領域(12塩基)と対応できた第一バーコード核酸配列数が、16,354,670であった。そのうち、薬剤LPSありと対応する第一バーコード核酸Aのリード数が第一バーコード核酸リード数全体の85.1%、薬剤なしと対応する第一バーコード核酸Bのリード数が0.8%であった。
【0125】
コントロール混合細胞(LPS薬剤ありと薬剤なしの比が1:1)については、第二共通バーコード領域(16塩基)と第二固有バーコード領域(12塩基)のリード総数は、10,795,154であり、第二共通バーコード領域(16塩基)と第二固有バーコード(12塩基)と対応できた第一バーコード核酸配列数が、7,587,061であった。そのうち、薬剤LPSありと対応する第一バーコード核酸Aのリード数が第一バーコード核酸リード数全体の51.3%、薬剤なしと対応する第一バーコード核酸Bのリード数が35.6%であった。
【0126】
これら一連の実験により、イメージセルソーターを用いて、被験物質に対応する核酸バーコードの付着した細胞を被験物質に応じて観察される細胞イメージ表現型に基づき選別し、付着した核酸バーコード配列を読むことにより、被験物質の細胞表現型スクリーニングを行うことができることが確認された。
【0127】
例6:混合細胞の被験物質と細胞表現型の情報と、遺伝子発現情報の紐付け確認実験
上記固定・標識・染色固定条件により用意された、イメージセルソーターで選別・回収した細胞混合サンプルを模して混合されたサンプル(LPS薬剤あり細胞と薬剤なしの細胞比が9:1)(positive purity:0.9)より、細胞約4800個を含む溶液を分注し、1細胞解析を行った。細胞ごとに修飾しているDNAバーコードおよび細胞由来の遺伝子情報の読み出しには、例5と同じく液滴技術を用いた1細胞解析技術である10xGenomics社製 Chromium コントローラー装置と10xGenomics社製の単一細胞3’試薬キットv3を用いた。
【0128】
まず各液滴の中で、第二固有バーコード領域の末端に付加された第二ハイブリダイズpoly(dT)配列と、細胞表面付加した第一バーコード核酸のpoly(A)末端を結合させた。さらに、逆転写酵素を用いた逆転写反応などを行い、第一バーコード核酸用のプライマー5’CTTGGCACCCGAGAATTCC-3’(配列番号5)と、10xGenomics社製の単一細胞3’試薬キットv3に含まれる相補鎖DNAプライマーを用いて、第二バーコード核酸配列が付加された第一バーコード核酸の相補鎖DNAを生成した。
【0129】
また、第二固有バーコードの相補鎖DNAを生成するのと同時に、1細胞ごとの内在cDNAについて、第二固有バーコード領域の末端に付加された第二ハイブリダイズpoly(dT)配列と、細胞由来のmRNAのpoly(A)末端を結合させた。さらに、逆転写酵素を用いた逆転写反応などを行い、10xGenomics社製の単一細胞3’試薬キットv3に含まれる相補鎖DNAプライマーを用いて、細胞由来の相補鎖DNAを生成した。
【0130】
その後、生成した1つ1つの液滴を混合した状態で液滴を破壊し、それぞれの液滴から抽出された第二バーコード核酸配列が付加された第一バーコード核酸の相補鎖DNAならびに細胞由来の相補鎖DNA群をそれぞれPCRリアクションにより増幅させ、インビトロジェン社のQubit FluorometerでDNA濃度を測定したところ、イメージソート後回収細胞のバーコード相補鎖DNAは57.8ng/ul、細胞由来の相補鎖DNAは0.676ng/ulであった。
【0131】
同様の手法により、LPS薬剤刺激なしのネガティブコントロール細胞についてもバーコード相補鎖DNAと細胞由来の相補鎖DNAをそれぞれ回収し、インビトロジェン社のQubit FluorometerでDNA濃度を測定したところ、バーコード相補鎖DNAは45.6ng/ul、細胞由来の相補鎖DNAは0.658ng/ulであった。
【0132】
次に、1細胞ごとに異なる第二バーコード核酸配列が付加された第一バーコード核酸および細胞由来の相補鎖DNAの次世代シーケンスライブラリをPCRリアクションにより作成した。用いたプライマーは、Read1側(Universal I5プライマー)5’-AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACACTCTTTCCCTACACGACGCTCTTCCGATCT-3’(配列番号6)と、Read2側(TruSeq RPIプライマー)ネガティブコントロール細胞には5’-CAAGCAGAAGACGGCATACGAGATATTGGCGTGACTGGAGTTCCTTGGCACCCGAGAATTCCA-3’(配列番号7)、Read2側イメージソート後回収細胞には、5’-CAAGCAGAAGACGGCATACGAGATTACAAGGTGACTGGAGTTCCTTGGCACCCGAGAATTCCA-3’(配列番号8)である。
【0133】
得られた次世代シーケンスライブラリは、アジレント社のD5000スクリーンテープとqPCR反応を用いて、DNAサイズと濃度を測定し、ライブラリの品質確認を行った。
【0134】
次世代シーケンシングには、イルミナ社のMiSeq試薬キットv3 を用いて、P5とP7のシーケンスライブラリを生成し、イルミナ社のMiSeq次世代シーケンサーを使用した。得られたシーケンスデータは、テキストベースのFASTQファイルとしてRead1側とRead2側それぞれ読み出し、Python3 およびDropseqTools、UMIToolsを用いて解析した。
【0135】
その結果、混合サンプル細胞(LPS薬剤あり細胞と薬剤なしの細胞比が9:1)の第二共通バーコード領域配列(16塩基)と第二固有バーコード領域(12塩基)のリード総数は、251,958であった。さらに第二共通バーコード領域配列(16塩基)および第二固有バーコード領域(12塩基)と共にリードされることにより対応付けされた第一バーコード核酸配列数は、249,793であった。そのうち、薬剤LPSありと対応する第一バーコード核酸Aのリード数が第一バーコード核酸リード数全体の86.8%、薬剤なしと対応する第一バーコード核酸Bのリード数が3.1%であった。さらに、読み出しエラー補正したのち、第一バーコード核酸配列Aまたは第一バーコード核酸配列Bに対応してリードされた第二共通バーコード領域配列のリード数の中で、リード数が多い第二共通バーコード領域配列を順に並べた上位の一覧を同時にリードされた第一バーコード核酸配列Aまたは第一バーコード核酸配列Bのリード数と共に示す(
図12Aの表1-1、
図12Aの表1-2)。また、相補鎖DNAの第二固有バーコード領域配列594のうち、第一バーコード配列ライブラリに同一の第二固有バーコード領域配列が見出されたのは550であり、第二固有バーコード領域配列が見いだされた第一核酸バーコード配列ライブラリのほとんど(92.6%)の第一バーコード核酸配列が第一バーコード核酸Aに帰属した(
図13、グラフ1)。
【0136】
LPS薬剤なしネガティブコントロール細胞の第二共通バーコード領域配列(16塩基)と第二固有バーコード領域(12塩基)のリード総数は、185,858であった。さらに第二共通バーコード領域配列(16塩基)と第二固有バーコード領域(12塩基)と対応できた第一バーコード核酸配列数が、184,181であった。そのうち、薬剤LPSありと対応する第一バーコード核酸Aのリード数が第一バーコード核酸リード数全体の0%、薬剤なしと対応する第一バーコード核酸Bのリード数が83.3%であった。さらに、読み出しエラー補正したのち、第二固有バーコード領域を、第一バーコード核酸配列Aと第一バーコード核酸配列Bそれぞれと一致した第二共通バーコード領域配列の合計リード数の多い順に並べた上位の一覧を(
図14Aの表2-1、
図14Bの表2-2)に示す。また、相補鎖DNAの第二固有バーコード領域配列197のうち、第一バーコード配列ライブラリに同一の第二固有バーコード領域配列が見出されたのは172であり、ほぼ全て(>99%)の第一バーコード核酸配列が第一バーコード核酸Bに帰属された(
図15、グラフ2)。
【0137】
例7:コンパートメント(液滴)内での細胞表現型スクリーニング方法
コンパートメント(液滴)内に、細胞と、被験物質と、被験物質に対応する第一バーコード核酸を包含し接触させることによる被験物質の細胞表現型スクリーニングについては、例えば、以下の方法により実施できる。
7-1
被験物質と被験物質に対応する第一バーコード核酸を包含する第一サブコンパートメントはAnal.Chem.,2018,90,16,9813-9820の記載に準じて、以下の手順により生成することができる。具体的には、FBSを含まないOpti-MEM培地を用い、被験物質を水相に溶解する。次に、ウェル内あるいはチューブ内で水相と、事前にマイクロ流体デバイスなどを用いて作製したハイドロゲル粒子(例えば直径約70μmのサイズのアガロース1.1wt%濃度のゲルビーズ)と、被験物質に対応する第一バーコード核酸、アンカーCMO、共アンカーCMOとを混合する。次に、ウェルに有機溶媒および界面活性剤(例えばTriton―100)を追加してボルテックスにより振とう撹拌処理することにより、第一サブコンパートメントとして、被験物質と被験物質に対応する第一バーコード核酸を含む液滴を得ることができる。
図16の顕微鏡写真は被験物質および第一バーコード核酸を添加せずに調製された第一サブコンパートメントの顕微鏡写真であるが、被験物質と被験物質に対応する第一バーコード核酸を含む場合も同様に、おおよそ直径約70μmのサイズの液滴が調製される。この処理により、第一サブコンパートメント内で被験物質と第一バーコード核酸とを関連付けられる。
なお、ここで有機溶媒としては、例えば、Droplet Generator oil for EvaGreen(BioRad社製)が用いられる。Droplet Generator oil for EvaGreenは、酸素の透過性を有し、細胞の液滴内培養に適している。実際、この有機溶媒とFBSを含まないOpti-MEM培地で生成した液滴内で、細胞(THP1細胞)を24時間培養した結果、生存率は88%であった。
【0138】
7-2
次に、FBSを含まないOpti-MEM培地に懸濁した細胞(THP1細胞)を用意する。細胞懸濁液は有機溶媒と共にマイクロ流体デバイスに流し込まれ、マイクロ流体デバイス通過中に、細胞入りの第二サブコンパートメントが作製される。細胞懸濁液と有機溶媒それぞれの流速をコントロールし、細胞入りの第二サブコンパートメントのサイズを約100μmに調整する。さらにマイクロ流体デバイス中で、第一サブコンパートメントと第二サブコンパートメントを、350V―500Vの電圧をかけマージさせることにより、被験物質、細胞、第一バーコード核酸を同時に内包する液滴(コンパートメント)を生成する。即ち、マイクロ流体デバイスにおいて、被験物質と被験物質に対応する第一バーコード核酸を含む液滴群(第一サブコンパートメント)を片方のチャネルから、細胞懸濁液を他方のチャネルから、それぞれ有機溶媒と共に流し込むことで、最終的に被験物質、細胞、第一バーコード核酸を同時に内包する液滴(コンパートメント)が生成される。液滴の生成には、例えば、E. Z. Macosko et al., Highly Parallel Genome-wide Expression Profiling of Individual Cells Using Nanoliter Droplets. Cell. 161, 1202-1214 (2015)の記載に準じて、フローフォーカシングデバイスを用いることができる。
【0139】
一方、第一サブコンパートメントをゲルビーズとのボルテックスによる振とう撹拌処理を用いて作製せず、事前にマイクロ流体デバイスを用いて第一サブコンパートメントを作製し、細胞を含む第二サブコンパートメントとマージすることで液滴(コンパートメント)を生成することもできる。より具体的には、Anal. Chem. 2018, 90, 2, 1273-1279に記載の方法に準じて、マイクロ流体デバイスにおいて、被験物質と被験物質に対応する第一バーコード核酸を含む液滴群(第一サブコンパートメント)を片方のチャネルから、細胞懸濁液を他方のチャネルから、それぞれ有機溶媒と共に流し込むことで被験物質、細胞、第一バーコード核酸を同時に内包する液滴(コンパートメント)を生成することができる。例えば、第一バーコード核酸を含む液滴群(第一サブコンパートメント、直径約70μmのサイズ)の液滴と、細胞入りの第二サブコンパートメント(直径約100μmのサイズ)を逐次、1液滴対1液滴の融合をマイクロ流体デバイス中で実施した結果、
図17の顕微鏡写真に示される通り、均一系の液滴(コンパートメント)(直径約110μm)が安定に生成することが確認された。
【0140】
7-3
上記有機溶媒相中の液滴(コンパートメント)の中においては、細胞に対して被験物質を作用させる一方で、細胞表面に被験物質に対応する第一バーコード核酸を付着させ、細胞を第一バーコード核酸で標識することができる。
【0141】
7-4
次に、コンパートメント(液滴)からの細胞の回収を、以下のプロセスにより行うことができる。液滴(被験物質を作用させかつ第一バーコード核酸で標識した細胞を含むコンパートメント)100μLをマイクロチップ等を用いて取り出し、下層に500μLのフッ素系溶剤(例えばハイドロフルオロエーテル(HFE)、Novec(商標)7200高機能性液体(3M JAPAN製))が入ったマイクロチューブに移し変える。この混合物に、さらに別の有機溶媒(例えばパーフルオロ-n-オクタノール)300μLを添加し、マイクロチューブを10秒激しく振ったのち静置することで液滴を破砕し、第一バーコード核酸で標識された細胞を含む水相と、有機溶媒相の二層に分離し、水相から、第一バーコード核酸で標識された細胞を回収し、細胞混合溶液を調製することができる。
【0142】
コンパートメント(液滴)からの細胞の回収には、有機溶媒用いる方法の他に、静電気除去銃(例えばZerostat3)を用いて液滴を破砕することもできる。液滴(被験物質を作用させかつ第一バーコード核酸Aで標識した細胞を含むコンパートメント)100μLをマイクロチップ等を用いて取り出し、下層に100μLのフッ素系溶剤(例えばハイドロフルオロエーテル(HFE)、Novec(商標)7200高機能性液体(3M JAPAN製))が入ったマイクロチューブに移し変えた。このマイクロチューブに対して、静電気除去銃のトリガーを10回程度引き戻しすることで液滴を破砕することができる。水相から、第一バーコード核酸Aで標識された細胞を回収し、細胞混合溶液を調製する。静電気除去銃を用いて液滴を破砕する方法については、例えば、Biomicrofluidics.22(4):044107、2017に記載の方法に準じておこなうことができる。
【0143】
7-5
次に、イメージセルソーターを用いて、被験物質添加に応じて観察される細胞イメージ表現型(例えば刺激や薬剤処理に応答したタンパク質の核移行)に基づき、細胞混合溶液から細胞を選別回収する。被験物質に応答し細胞イメージ表現型に変化を生じた細胞をイメージセルソーターにより選別する方法は、具体的には、例えば例4と同様の方法により行うことができる。
【0144】
7-6
次に、例6と同様、イメージセルソーターで選別・回収した細胞混合溶液について、1細胞解析を行ない、イメージセルソーターで選別・回収した細胞の被験物質と細胞表現型の情報紐付けを行う。細胞ごとに修飾しているDNAバーコードおよび細胞由来の遺伝子情報の読み出しには、例5と同じく液滴技術を用いた1細胞解析技術である10xGenomics社製 Chromium コントローラー装置と10xGenomics社製の単一細胞3’試薬キットv3を用いることができる。また、回収した細胞の遺伝子発現情報についても、同様の試薬キットを用いて行うことができる。
【0145】
例8:96穴マイクロプレートを用いた細胞表現型スクリーニング方法
図18に記載の模式図に準じて、目的の表現型変化を起こす被験対象(
図18の例ではLPSにより誘導されるNF-κBの核移行を阻害する被験物質)を探索した。
具体的には、96穴マイクロプレートの各ウェル内において、参考例1に記載の方法に準じて、第一バーコード核酸を細胞(THP1細胞)に付着させ、さらに被験物質と接触させた。その際、各ウェルにおける被験物質の種類および濃度と、第一バーコード核酸はそれぞれ異なる種類のものを使用した。これにより、96種類の被験対象(24種類の被験物質×4種類の濃度)と、細胞(THP1細胞)に付着した96種類の第一バーコード核酸とが関連付けされた。
【0146】
本実験に使用した96種類の被験対象(24種類の被験物質×4種類の濃度)および被験物質の機能(既知の作用メカニズム)は、
図19に示される通りであった。また、本実験に使用した第一バーコード核酸(Barcorde#)の配列は、
図20A~20Cに示される通りであった。使用した第一バーコード核酸の配列は被験対象ごとに個別に異なっており、第一バーコード核酸は被験対象と対応づけられている。
【0147】
本試験では、96穴マイクロプレートの各ウェル内において、各被験物質とその被験物質に対応する第一バーコード核酸、さらに細胞を接触させる方法により試験が実施された。
【0148】
次に、イメージセルソーターを用いて、被験物質添加に応じて観察される細胞イメージ表現型(LPS刺激に応答したNF-κBタンパク質の核移行の有無)に基づき、細胞混合溶液から細胞を選別回収した。
【0149】
また次に、上述の例と同様に、イメージセルソーターで選別・回収した細胞混合溶液について、1細胞解析を行った。具体的には、細胞ごとに修飾しているDNAバーコードおよび細胞由来の遺伝子情報の読み出しには、例5、例6と同じく液滴技術を用いた1細胞解析技術である10xGenomics社製 Chromium コントローラー装置と10xGenomics社製の単一細胞3’試薬キットv3を用いた。
ソートされた細胞の第一バーコード核酸配列の濃縮レベルは、
図21に示される通りであった。ここで、縦軸の数値として1を超えているものはソート前のサンプルより濃縮されていることを意味する。
ポジティブコントロール(LPS(-):NF-κBが核移行していない)は、イメージソーティングにより約20倍濃縮されていた。
被験物質として既知NF-κB核移行阻害剤(TAK242:30μM)を用いた細胞群は、イメージソーティングにより約1.5倍濃縮されていた。
また、ランダムで添加した被験物質のうち、Costunolideを用いた細胞群は顕著に濃縮されていた(Constunolide:anti-inflammatory activity)。
ネガポティブコントロール(LPS(+):NF-κBが核移行している)は、ソートサンプルにほとんど含まれていなかった。
【0150】
図22は、イメージセルソーターで選別・回収した細胞が確かに表現型を示すかどうか確認したものである。細胞のイメージはイメージフローサイトメトリーで撮影されたものであり、また核移行スコアについてもイメージフローサイトメトリーで計算されたものを示す。核移行スコアについては、値が大きいものほど核移行度合いが高いことを示す。Aはポジティブコントロール(LPS(-):NF-κBが核移行していない)に対応する細胞、Bは被験物質としてLPSと既知NF-κB核移行阻害剤(TAK242:30μM)で処理した細胞、CはLPSと細胞表現型スクリーニングにより候補として挙げられた被験物質Costunolideで処理した細胞、Dはネガポティブコントロール(LPS(+):NF-κBが核移行している)に対応する細胞である。核移行スコアについては、ポジティブコントロール(LPS(-):NF-κBが核移行していない)に対応する細胞が1.58、被験物質としてLPSと既知NF-κB核移行阻害剤(TAK242:30μM)で処理した細胞は0.92、LPSと細胞表現型スクリーニングにより候補として挙げられた被験物質Costunolideで処理した細胞は0.23、Dはネガポティブコントロール(LPS(+):NF-κBが核移行している)に対応する細胞は0.30であった。
【0151】
以上の通り、本開示によれば、イメージセルソーターを用いて、被験対象に対応する核酸バーコードの付着した細胞を被験対象に応じて観察される細胞イメージ表現型に基づき選別し、付着したバーコード核酸配列を読み、さらに各細胞の遺伝子を読むことにより、被験対象の細胞表現型スクリーニングを行うことができる。