(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130903
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】酸無水物化合物の製造方法、及び酸無水物化合物を製造するフロー式反応システム
(51)【国際特許分類】
C07C 68/02 20060101AFI20220831BHJP
C07C 51/04 20060101ALI20220831BHJP
C07C 69/96 20060101ALI20220831BHJP
C07C 53/122 20060101ALI20220831BHJP
B01F 23/40 20220101ALI20220831BHJP
B01F 25/00 20220101ALI20220831BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220831BHJP
【FI】
C07C68/02 B
C07C51/04
C07C69/96 Z
C07C53/122
B01F3/08 Z
B01F5/00 A
C07B61/00 C
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029551
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000252300
【氏名又は名称】富士フイルム和光純薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】西尾 亮
(72)【発明者】
【氏名】和田 健二
(72)【発明者】
【氏名】猪股 悟
【テーマコード(参考)】
4G035
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G035AB37
4G035AC50
4G035AE13
4H006AA02
4H006AA04
4H006AC47
4H006AC48
4H006BA02
4H006BA29
4H006BA51
4H006BA65
4H006BB11
4H006BB12
4H006BB15
4H006BB16
4H006BB25
4H006BB31
4H006BB46
4H006BC14
4H006BD80
4H006BD84
4H006BE10
4H039CA65
4H039CD10
4H039CD30
(57)【要約】 (修正有)
【課題】目的の酸無水物化合物を高純度に得ることができる酸無水物化合物の製造方法、及び当該製造方法に好適なフロー式反応システムを提供する。
【解決手段】式(1a)で表される化合物とアミン化合物と金属水酸化物とを、オニウム塩化合物の存在下、有機相と水相とが相分離した状態でフロー式反応により反応させて式(1b)の酸無水物化合物を製造する方法。
(Rはアルキル基、脂肪族環状炭化水素基、アリール基、複素環基、アルケニル基、ハロゲン原子又はH;Lは単結合、O、S、NR
A又はCR
B
2を示し、R
Aはアルキル基、アリール基又はH、R
Bはアルキル基、アリール基、ハロゲン原子又はH;Halはハロゲン原子。)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1a)で表される化合物とアミン化合物と金属水酸化物とを、オニウム塩化合物の存在下、フロー式反応により反応させて下記一般式(1b)で表される酸無水物化合物を得ることを含み、
前記オニウム塩化合物として、芳香族性基及び炭素数6以上のアルキル基の少なくとも1種を有するオニウム塩化合物を用いる、酸無水物化合物の製造方法。
【化1】
式中、Rはアルキル基、脂肪族環状炭化水素基、アリール基、複素環基、アルケニル基、ハロゲン原子又は水素原子を示す。Lは単結合、O、S、NR
A又はCR
B
2を示し、R
Aはアルキル基、アリール基又は水素原子を示し、R
Bはアルキル基、アリール基、ハロゲン原子又は水素原子を示す。Halはハロゲン原子を示す。
【請求項2】
前記フロー式反応における反応溶媒として有機溶媒と水との混合溶媒を用いる、請求項1に記載の酸無水物化合物の製造方法。
【請求項3】
前記フロー式反応における反応溶媒として有機溶媒と水とを用いて、有機相と水相とが相分離した状態でフロー式反応により反応させて前記の一般式(1b)で表される酸無水物化合物を有機相中に得る、請求項1に記載の酸無水物化合物の製造方法。
【請求項4】
前記の一般式(1a)で表される化合物を含有する有機溶液と、前記アミン化合物と前記金属水酸化物と前記オニウム塩化合物とを含有する水溶液とを、それぞれ異なる流路に導入して各溶液を各流路内に流通させ、
前記有機溶液と前記水溶液とを合流し、該合流液が有機相と水相とが相分離した状態で下流へ流通中に、前記アミン化合物と前記金属水酸化物とが前記の一般式(1a)で表される化合物に作用する
ことを含む、請求項3に記載の酸無水物化合物の製造方法。
【請求項5】
前記の一般式(1a)で表される化合物を含有する有機溶液と、前記金属水酸化物と前記オニウム塩化合物とを含有する水溶液(AL)と、前記アミン化合物を含有する水溶液(BL)とを、それぞれ異なる流路に導入して各溶液を各流路内に流通させ、
前記有機溶液と前記水溶液(AL)とを合流し、該合流液(CL)が有機相と水相とが相分離した状態で下流へ流通中に、前記金属水酸化物が前記の一般式(1a)で表される化合物に作用し、
次いで前記合流液(CL)と前記水溶液(BL)とを合流し、該合流液(DL)が有機相と水相とが相分離した状態で下流へ流通中に、前記アミン化合物が前記の一般式(1a)で表される化合物に作用する
ことを含む、請求項3に記載の酸無水物化合物の製造方法。
【請求項6】
前記の一般式(1a)で表される化合物を含有する有機溶液(EL)と、前記の一般式(1a)で表される化合物を含有する有機溶液(FL)と、前記金属水酸化物と前記オニウム塩化合物とを含有する水溶液(GL)と、前記アミン化合物を含有する水溶液(HL)とを、それぞれ異なる流路に導入して各溶液を各流路内に流通させ、
前記有機溶液(EL)と前記水溶液(GL)とを合流し、該合流液(IL)が有機相と水相とが相分離した状態で下流へ流通中に、前記金属水酸化物が前記の一般式(1a)で表される化合物に作用し、
次いで前記合流液(IL)と前記有機溶液(FL)とを合流し、該合流液(JL)が有機相と水相とが相分離した状態で下流へ流通中に、前記金属水酸化物が前記の一般式(1a)で表される化合物に作用し、
次いで前記合流液(JL)と前記水溶液(HL)とを合流し、該合流液(KL)が有機相と水相とが相分離した状態で下流へ流通中に、前記アミン化合物が前記の一般式(1a)で表される化合物に作用する
ことを含む、請求項3に記載の酸無水物化合物の製造方法。
【請求項7】
前記フロー式反応における合流部の少なくとも1つに二層筒型ミキサーを用いる、請求項4~6のいずれか1項に記載の酸無水物化合物の製造方法。
【請求項8】
前記オニウム塩化合物として下記一般式(2)で表される化合物を用いる、請求項1~7のいずれか1項に記載の酸無水物化合物の製造方法。
【化2】
式中、Zは窒素原子又はリン原子を示す。Yは対イオンを示す。R
1~R
4はアルキル基又は芳香族性基を示す。但し、R
1~R
4の少なくとも1つは芳香族性基及び炭素数6以上のアルキル基の少なくとも1種を有する。
【請求項9】
前記一般式(2)で表される化合物が第四級アンモニウム塩である、請求項8に記載の酸無水物化合物の製造方法。
【請求項10】
前記アミン化合物として、環構成原子として窒素原子を含む複素環式化合物を用いる、請求項1~9のいずれか1項に記載の酸無水物化合物の製造方法。
【請求項11】
前記複素環式化合物がピリジン化合物を含む、請求項10に記載の酸無水物化合物の製造方法。
【請求項12】
反応停止液を合流して反応を終了させる、請求項1~11のいずれか1項に記載の酸無水物化合物の製造方法。
【請求項13】
下記一般式(1a)で表される化合物を含有する有機溶液を導入する第1流路と、
アミン化合物と金属水酸化物とオニウム塩化合物とを含有する水溶液を導入する第2流路と、
第1流路と第2流路とが合流する第1合流部と、
第1合流部の下流に接続された第3流路と
を有し、
第3流路内を流通する合流液は有機相と水相とが相分離した状態にあり、
前記オニウム塩化合物として、芳香族性基及び炭素数6以上のアルキル基の少なくとも1種を有するオニウム塩化合物を用いる、下記一般式(1b)で表される酸無水物化合物を製造する酸無水物化合物を製造するフロー式反応システム。
【化3】
式中、Rはアルキル基、脂肪族環状炭化水素基、アリール基、複素環基、アルケニル基、ハロゲン原子又は水素原子を示す。Lは単結合、O、S、NR
A又はCR
B
2を示し、R
Aはアルキル基、アリール基又は水素原子を示し、R
Bはアルキル基、アリール基、ハロゲン原子又は水素原子を示す。Halはハロゲン原子を示す。
【請求項14】
下記一般式(1a)で表される化合物を含有する有機溶液を導入する第1流路と、
金属水酸化物とオニウム塩化合物とを含有する水溶液を導入する第2流路と、
第1流路と第2流路とが合流する第1合流部と、
第1合流部の下流に接続された第3流路と、
アミン化合物を含有する水溶液を導入する第4流路と、
第3流路と第4流路とが合流する第2合流部と、
第2合流部の下流に接続された第5流路と
を有し、
第3流路内及び第5流路内を流通する各合流液は有機相と水相とが相分離した状態にあり、
前記オニウム塩化合物として、芳香族性基及び炭素数6以上のアルキル基の少なくとも1種を有するオニウム塩化合物を用いる、下記一般式(1b)で表される酸無水物化合物を製造するフロー式反応システム。
【化4】
式中、Rはアルキル基、脂肪族環状炭化水素基、アリール基、複素環基、アルケニル基、ハロゲン原子又は水素原子を示す。Lは単結合、O、S、NR
A又はCR
B
2を示し、R
Aはアルキル基、アリール基又は水素原子を示し、R
Bはアルキル基、アリール基、ハロゲン原子又は水素原子を示す。Halはハロゲン原子を示す。
【請求項15】
下記一般式(1a)で表される化合物を含有する有機溶液を導入する第1流路と、
金属水酸化物とオニウム塩化合物とを含有する水溶液を導入する第2流路と、
第1流路と第2流路とが合流する第1合流部と、
第1合流部の下流に接続された第3流路と、
上記一般式(1a)で表される化合物を含有する有機溶液を導入する第4流路と、
第3流路と第4流路とが合流する第2合流部と、
第2合流部の下流に接続された第5流路と、
アミン化合物を含有する水溶液を導入する第6流路と、
第5流路と第6流路とが合流する第3合流部と、
第3合流部の下流に接続された第7流路と
を有し、
第3流路内、第5流路内及び第7流路内を流通する各合流液は有機相と水相とが相分離した状態にあり、
前記オニウム塩化合物として、芳香族性基及び炭素数6以上のアルキル基の少なくとも1種を有するオニウム塩化合物を用いる、下記一般式(1b)で表される酸無水物化合物を製造するフロー式反応システム。
【化5】
式中、Rはアルキル基、脂肪族環状炭化水素基、アリール基、複素環基、アルケニル基、ハロゲン原子又は水素原子を示す。Lは単結合、O、S、NR
A又はCR
B
2を示し、R
Aはアルキル基、アリール基又は水素原子を示し、R
Bはアルキル基、アリール基、ハロゲン原子又は水素原子を示す。Halはハロゲン原子を示す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸無水物化合物の製造方法に関する。また本発明は、酸無水物化合物を製造するフロー式反応システムに関する。
【背景技術】
【0002】
目的化合物を連続的に合成でき、また混合効率、反応時間、反応温度等の精密制御も可能なフロー式反応系を、化学合成反応に適用することが提案されている。
例えば特許文献1には、アニオン重合性モノマーを含む液Aとアニオン重合開始剤を含む液Bと重合停止剤とをそれぞれ異なる流路に導入して各液を各流路内に流通させ、液Aと液Bとを多層筒型ミキサーを用いて合流し、合流した液が反応流路内を下流へ流通中にアニオン重合性モノマーをアニオン重合し、反応流路内を流通する重合反応液と重合停止剤とを合流して重合反応を停止することを含む、重合体の製造方法が記載されている。特許文献1記載の技術によれば、流速を精密に制御しなくても、一定の分散度で単分散化された重合体を安定供給できるとされる。
また、特許文献2には、フロー式反応による酸化第二銅微粒子の製造方法が記載されている。特許文献2によれば、第1流路内を流通する銅(II)塩溶液と第2流路内を流通する塩基性化合物溶液とが合流する合流部において、銅(II)塩に対する塩基性化合物の反応モル比を制御することにより、得られる酸化第二銅粒子の形状を球状、棒状又は板状に調節できるとされる。
【0003】
酸無水物化合物は反応性が高く、有機合成反応の中間体、合成樹脂の原料、エポキシ樹脂の硬化剤などとして広く用いられている。酸無水物化合物は水の作用により容易に加水分解するため、その合成反応工程や安定保存においては水分との接触を極力避ける必要がある。
例えば、酸無水物化合物の一種である二炭酸ジエステル化合物は、塩基の存在下で容易に加水分解されてアルコールと二酸化炭素を生じる。この分解を抑えるために、二炭酸ジエステル化合物の合成は、一般的には、反応中間体(炭酸モノエステルの金属塩)の生成に必要な塩基(金属水酸化物)を水相(層)に、目的生成物である二炭酸ジエステル化合物を有機相(層)に分離する二相(層)反応により行われる。この二相反応は通常はオニウム塩化合物の存在下で行われ、水相で生成した上記反応中間体はオニウム塩化合物の作用により有機相へと高効率に移動でき、有機相において目的の二炭酸ジエステル化合物を生成させる。二相反応それ自体は有機合成反応において古くから知られた反応系である(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/065709号
【特許文献2】特開2016-160124号公報
【特許文献3】特開2002-302480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、二相反応による酸無水物化合物の調製について検討を進めた。その結果、従来のバッチ式二相反応系では、目的物である酸無水物化合物の分解を十分に抑制できず、有機相中に回収される目的の酸無水物化合物の純度の向上には制約があることがわかってきた。
そこで本発明は、目的の酸無水物化合物を高純度に得ることができる酸無水物化合物の製造方法、及びこの製造方法に好適な反応システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み本発明者らは鋭意検討を重ね、酸無水物化合物の調製にフロー式反応系の適用を試みたところ、二相反応の採否にかかわらず、目的物である酸無水物化合物の分解を効果的に抑制できることを見い出した。本発明はかかる知見に基づきさらに検討を重ね、完成させるに至ったものである。
本発明の課題は下記の手段により解決された。
〔1〕
下記一般式(1a)で表される化合物とアミン化合物と金属水酸化物とを、オニウム塩化合物の存在下、フロー式反応により反応させて下記一般式(1b)で表される酸無水物化合物を得ることを含み、
上記オニウム塩化合物として、芳香族性基及び炭素数6以上のアルキル基の少なくとも1種を有するオニウム塩化合物を用いる、酸無水物化合物の製造方法。
【化1】
式中、Rはアルキル基、脂肪族環状炭化水素基、アリール基、複素環基、アルケニル基、ハロゲン原子又は水素原子を示す。Lは単結合、O、S、NR
A又はCR
B
2を示し、R
Aはアルキル基、アリール基又は水素原子を示し、R
Bはアルキル基、アリール基、ハロゲン原子又は水素原子を示す。Halはハロゲン原子を示す。
〔2〕
上記フロー式反応における反応溶媒として有機溶媒と水との混合溶媒を用いる、〔1〕に記載の酸無水物化合物の製造方法。
〔3〕
上記フロー式反応における反応溶媒として有機溶媒と水とを用いて、有機相と水相とが相分離した状態でフロー式反応により反応させて上記の一般式(1b)で表される酸無水物化合物を有機相中に得る、〔1〕に記載の酸無水物化合物の製造方法。
〔4〕
上記の一般式(1a)で表される化合物を含有する有機溶液と、上記アミン化合物と上記金属水酸化物と上記オニウム塩化合物とを含有する水溶液とを、それぞれ異なる流路に導入して各溶液を各流路内に流通させ、
上記有機溶液と上記水溶液とを合流し、この合流液が有機相と水相とが相分離した状態で下流へ流通中に、上記アミン化合物と上記金属水酸化物とが上記の一般式(1a)で表される化合物に作用する
ことを含む、〔3〕に記載の酸無水物化合物の製造方法。
〔5〕
上記の一般式(1a)で表される化合物を含有する有機溶液と、上記金属水酸化物と上記オニウム塩化合物とを含有する水溶液(AL)と、上記アミン化合物を含有する水溶液(BL)とを、それぞれ異なる流路に導入して各溶液を各流路内に流通させ、
上記有機溶液と上記水溶液(AL)とを合流し、この合流液(CL)が有機相と水相とが相分離した状態で下流へ流通中に、上記金属水酸化物が上記の一般式(1a)で表される化合物に作用し、
次いで上記合流液(CL)と上記水溶液(BL)とを合流し、この合流液(DL)が有機相と水相とが相分離した状態で下流へ流通中に、上記アミン化合物が上記の一般式(1a)で表される化合物に作用する
ことを含む、〔3〕に記載の酸無水物化合物の製造方法。
〔6〕
上記の一般式(1a)で表される化合物を含有する有機溶液(EL)と、上記の一般式(1a)で表される化合物を含有する有機溶液(FL)と、上記金属水酸化物と上記オニウム塩化合物とを含有する水溶液(GL)と、上記アミン化合物を含有する水溶液(HL)とを、それぞれ異なる流路に導入して各溶液を各流路内に流通させ、
上記有機溶液(EL)と上記水溶液(GL)とを合流し、この合流液(IL)が有機相と水相とが相分離した状態で下流へ流通中に、上記金属水酸化物が上記の一般式(1a)で表される化合物に作用し、
次いで上記合流液(IL)と上記有機溶液(FL)とを合流し、この合流液(JL)が有機相と水相とが相分離した状態で下流へ流通中に、上記金属水酸化物が上記の一般式(1a)で表される化合物に作用し、
次いで上記合流液(JL)と上記水溶液(HL)とを合流し、この合流液(KL)が有機相と水相とが相分離した状態で下流へ流通中に、上記アミン化合物が上記の一般式(1a)で表される化合物に作用する
ことを含む、〔3〕に記載の酸無水物化合物の製造方法。
〔7〕
上記フロー式反応における合流部の少なくとも1つに二層筒型ミキサーを用いる、〔4〕~〔6〕のいずれかに記載の酸無水物化合物の製造方法。
〔8〕
上記オニウム塩化合物として下記一般式(2)で表される化合物を用いる、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の酸無水物化合物の製造方法。
【化2】
式中、Zは窒素原子又はリン原子を示す。Yは対イオンを示す。R
1~R
4はアルキル基又は芳香族性基を示す。但し、R
1~R
4の少なくとも1つは芳香族性基及び炭素数6以上のアルキル基の少なくとも1種を有する。
〔9〕
上記一般式(2)で表される化合物が第四級アンモニウム塩である、〔8〕に記載の酸無水物化合物の製造方法。
〔10〕
上記アミン化合物として、環構成原子として窒素原子を含む複素環式化合物を用いる、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の酸無水物化合物の製造方法。
〔11〕
上記複素環式化合物がピリジン化合物を含む、〔10〕に記載の酸無水物化合物の製造方法。
〔12〕
反応停止液を合流して反応を終了させる、〔1〕~〔11〕のいずれかに記載の酸無水物化合物の製造方法。
〔13〕
下記一般式(1a)で表される化合物を含有する有機溶液を導入する第1流路と、
アミン化合物と金属水酸化物とオニウム塩化合物とを含有する水溶液を導入する第2流路と、
第1流路と第2流路とが合流する第1合流部と、
第1合流部の下流に接続された第3流路と
を有し、
第3流路内を流通する合流液は有機相と水相とが相分離した状態にあり、
上記オニウム塩化合物として、芳香族性基及び炭素数6以上のアルキル基の少なくとも1種を有するオニウム塩化合物を用いる、下記一般式(1b)で表される酸無水物化合物を製造する酸無水物化合物を製造するフロー式反応システム。
【化3】
式中、Rはアルキル基、脂肪族環状炭化水素基、アリール基、複素環基、アルケニル基、ハロゲン原子又は水素原子を示す。Lは単結合、O、S、NR
A又はCR
B
2を示し、R
Aはアルキル基、アリール基又は水素原子を示し、R
Bはアルキル基、アリール基、ハロゲン原子又は水素原子を示す。Halはハロゲン原子を示す。
〔14〕
下記一般式(1a)で表される化合物を含有する有機溶液を導入する第1流路と、
金属水酸化物とオニウム塩化合物とを含有する水溶液を導入する第2流路と、
第1流路と第2流路とが合流する第1合流部と、
第1合流部の下流に接続された第3流路と、
アミン化合物を含有する水溶液を導入する第4流路と、
第3流路と第4流路とが合流する第2合流部と、
第2合流部の下流に接続された第5流路と
を有し、
第3流路内及び第5流路内を流通する各合流液は有機相と水相とが相分離した状態にあり、
上記オニウム塩化合物として、芳香族性基及び炭素数6以上のアルキル基の少なくとも1種を有するオニウム塩化合物を用いる、下記一般式(1b)で表される酸無水物化合物を製造するフロー式反応システム。
【化4】
式中、Rはアルキル基、脂肪族環状炭化水素基、アリール基、複素環基、アルケニル基、ハロゲン原子又は水素原子を示す。Lは単結合、O、S、NR
A又はCR
B
2を示し、R
Aはアルキル基、アリール基又は水素原子を示し、R
Bはアルキル基、アリール基、ハロゲン原子又は水素原子を示す。Halはハロゲン原子を示す。
〔15〕
下記一般式(1a)で表される化合物を含有する有機溶液を導入する第1流路と、
金属水酸化物とオニウム塩化合物とを含有する水溶液を導入する第2流路と、
第1流路と第2流路とが合流する第1合流部と、
第1合流部の下流に接続された第3流路と、
上記一般式(1a)で表される化合物を含有する有機溶液を導入する第4流路と、
第3流路と第4流路とが合流する第2合流部と、
第2合流部の下流に接続された第5流路と、
アミン化合物を含有する水溶液を導入する第6流路と、
第5流路と第6流路とが合流する第3合流部と、
第3合流部の下流に接続された第7流路と
を有し、
第3流路内、第5流路内及び第7流路内を流通する各合流液は有機相と水相とが相分離した状態にあり、
上記オニウム塩化合物として、芳香族性基及び炭素数6以上のアルキル基の少なくとも1種を有するオニウム塩化合物を用いる、下記一般式(1b)で表される酸無水物化合物を製造するフロー式反応システム。
【化5】
式中、Rはアルキル基、脂肪族環状炭化水素基、アリール基、複素環基、アルケニル基、ハロゲン原子又は水素原子を示す。Lは単結合、O、S、NR
A又はCR
B
2を示し、R
Aはアルキル基、アリール基又は水素原子を示し、R
Bはアルキル基、アリール基、ハロゲン原子又は水素原子を示す。Halはハロゲン原子を示す。
【0007】
本発明ないし明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本発明ないし明細書において流路、合流部、ミキサー等の管内断面サイズ(等価直径)について説明する場合、流路同士の連結部分、流路と合流部との連結部分、流路とミキサーとの連結部分は除いたサイズである。すなわち、上記各連結部分のサイズは、連結部分の中を上流から下流へと流体が流れるように、連結チューブ等を用いて適宜に調整される。
本発明ないし明細書において、ある基の炭素数を規定する場合、この炭素数は、基全体の炭素数を意味する。つまり、この基がさらに置換基を有する形態である場合、この置換基を含めた全体の炭素数を意味する。
本明細書において「上流」及び「下流」との用語は、流体が流れる方向に対して用いられ、流体が導入される側(流体が流れて来る側)が上流であり、流体が流れ出て行く側が下流となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の酸無水物化合物の製造方法によれば、目的の酸無水物化合物を高純度に得ることができる。また、本発明のフロー式反応システムは、これを用いて上記製造方法を実施することにより、目的の酸無水物化合物を高純度に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】二相反応における物質移動の概略を示す説明図である。
【
図2】本発明のフロー式反応システムの一実施形態の概略を示す説明図である。
【
図3】二層筒型ミキサーの構造を示す説明図である。
【
図4】二層筒型ミキサーの構造を示す説明図である。
【
図5】本発明のフロー式反応システムの別の実施形態の概略を示す説明図である。
【
図6】本発明のフロー式反応システムのさらに別の実施形態の概略を示す説明図である。
【
図7】本発明のフロー式反応システムのさらに別の実施形態の概略を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[フロー式反応による酸無水物化合物の製造]
本発明の酸無水物化合物の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)では、フロー式反応を採用する。このフロー式反応では、下記一般式(1a)で表される化合物とアミン化合物と金属水酸化物の各々を、後述する特定構造のオニウム塩化合物の存在下、流路内を流通させながら反応させる。これにより、最終的に下記一般式(1b)で表される酸無水物化合物を高純度に得ることができる。
【0011】
【0012】
式中、Rはアルキル基、脂肪族環状炭化水素基、アリール基、複素環基、アルケニル基、ハロゲン原子又は水素原子を示す。Lは単結合、O、S、NRA又はCRB
2を示し、RAはアルキル基、アリール基又は水素原子を示し、RBはアルキル基、アリール基、ハロゲン原子又は水素原子を示す。Halはハロゲン原子を示す。
【0013】
式(1a)で表される化合物は1種でもよく、2種以上でもよい。式(1b)で表される酸無水物化合物は式(1a)で表される化合物を原料として得られるものである。したがって、式(1b)で表される酸無水物化合物と、それを導く式(1a)で表される化合物との間で、対応するL及びRは互いに同一である。
式(1b)において、2つのLは互いに同じでも異なってもよく、2つのRは互いに同じでも異なってもよい。式(1b)中の2つのLは同じであることが好ましい。また、式(1b)中の2つのRは同じであることが好ましい。
【0014】
Rとして採り得るアルキル基は、直鎖でも分岐を有してもよい。このアルキル基の炭素数は1~20が好ましく、1~10がより好ましく、1~8がさらに好ましく、1~6であることも好ましい。アルキル基の好ましい具体例として、メチル、エチル、プロピル及びブチルが挙げられ、なかでもメチル、エチル又はt-ブチルが好ましく、エチル又はt-ブチルがより好ましい。
【0015】
Rとして採り得る脂肪族環状炭化水素基は、飽和脂肪族環状炭化水素基でもよく、不飽和脂肪族環状炭化水素基でもよく、飽和脂肪族環状炭化水素基が好ましい。脂肪族環状炭化水素基として、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキニル基、橋かけ構造を有する脂肪族環状炭化水素基(アダマンチル基など)が挙げられ、シクロアルキル基又は橋かけ構造を有する飽和脂肪族環状炭化水素基が好ましい。脂肪族環状炭化水素基の炭素数は3~20が好ましく、3~15がより好ましく、3~12がさらに好ましい。Rとして採り得る脂肪族環状炭化水素基の好ましい具体例として、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、アダマンチル等が挙げられる。
【0016】
Rとして採り得るアリール基は、炭素数6~20が好ましく、6~15がより好ましく、6~12がさらに好ましく、6~10がさらに好ましい。アリール基の好ましい具体例としてフェニル及びナフチルが挙げられ、フェニルがより好ましい。
【0017】
Rとして採り得る複素環基は、環構成原子としてヘテロ原子(窒素原子、酸素原子、硫黄原子などの炭素原子以外の原子)を少なくとも1つ有する環状の基であり、脂肪族性であっても芳香族性であってもよい。複素環基の環構成原子の数は、3~20が好ましく、4~15がより好ましく、5~12がさらに好ましい。複素環基の好ましい具体例としてピロール、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、ピリジン、ピラジン、トリアジン、テトラヒドロフラン、モルホリン、チオモルホリン、イミダゾール、チオフェン、フラン、チアゾール、インドール、ベンゾフラン、キノリン、イソキノリン、ベンゾチオフェン、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール、カルバゾール、ジベンゾフラン、アクリジン、フェナジン、ジベンゾチオフェン等が挙げられる。
【0018】
Rとして採り得るアルケニル基は、直鎖でも分岐を有してもよい。このアルケニル基の炭素数は2~20が好ましく、2~10がより好ましく、2~8がさらに好ましく、2~6であることも好ましい。アルケニル基の好ましい具体例として、ビニル、アリル、ブテニル、スチリル等が挙げられる。
【0019】
Rとして採り得るハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子又は塩素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0020】
Lは単結合、O、S、NRA又はCRB
2を示す。LはO又はCRB
2が好ましく、Oがより好ましい。LがOの場合、Rはアルキル基又はアリール基が好ましい。すなわち、一般式(1a)で表される化合物はハロゲノギ酸エステル化合物(好ましくはクロロギ酸エステル化合物)であることが好ましく、一般式(1b)で表される酸無水物化合物は二炭酸ジエステル化合物であることが好ましい。
RAとして採り得るアルキル基としては、Rとして採り得る上記アルキル基を挙げることができる。なかでもRAとして採り得るアルキル基はメチル、エチル又はt-ブチルが好ましい。
RAとして採り得るアリール基としては、Rとして採り得る上記アリール基を挙げることができる。なかでもRAとして採り得るアリール基はフェニルが好ましい。
RBとして採り得るアルキル基としては、Rとして採り得る上記アルキル基を挙げることができる。なかでもRBとして採り得るアルキル基はメチル、エチル又はt-ブチルが好ましい。
RBとして採り得るアリール基としては、Rとして採り得る上記アリール基を挙げることができる。なかでもRBとして採り得るアリール基はフェニルが好ましい。
RBとして採り得るハロゲン原子としては、Rとして採り得る上記ハロゲン原子を挙げることができる。RBとして採り得るハロゲン原子はフッ素原子又は塩素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
CRB
2は2つのRBが連結して環構造となってもよく、ハロゲン置換アルキル基であってもよい。
【0021】
-L-Rが-CRB
2-Rである場合、-CRB
2-Rがトリフルオロメチル、クロロメチル、ブロモメチル、ベンジル、シクロプロピル、t-ブチル、t-アミル、シクロペンチル、シクロヘキシル、チオフェンアセチル、2-エチルヘキシル、アダマンチル、アダマンチルメチル、又はヘプタフルオロプロピルであることも好ましい。
【0022】
Halとして採り得るハロゲン原子としては、Rとして採り得る上記ハロゲン原子を挙げることができる。Halは塩素原子が好ましい。
【0023】
一般式(1a)で表される化合物の好ましい具体例としては、クロロギ酸メチル、クロロギ酸エチル、クロロギ酸プロピル、クロロギ酸ブチル、メタクリロイルクロリド、アクリロイルクロリド、イソブチリルクロリド、ピバロイルクロリド、シクロヘキサンカルボニルクロリド、フェニルアセチルクロリド、アダマンタンカルボニルクロリド等を挙げることができる。
【0024】
本発明の製造方法は、上記一般式(1a)で表される化合物から上記一般式(1b)で表される酸無水物化合物を得る合成反応にフロー式反応系を適用するものである。フロー式反応系を適用することにより、一相反応であっても目的物である酸無水物化合物の分解を効果的に抑制することができる。この理由は定かではないが、流路内の閉じられた空間内で一定速度の流通反応を行わせることにより、反応液中の原料の混合撹拌が激し過ぎず、かつ穏やか過ぎずにほどよく行われること、そこにオニウム塩化合物が存在することにより、原料ないし中間体の溶液中での溶解性と拡散性の向上、および目的物の分解抑制が効果的に両立されることなどが一因と考えられる。
【0025】
本発明の製造方法では、上記フロー式反応において、一相反応の際の反応溶媒として有機溶媒のみを用いる形態とすることができる。
また、上記フロー式反応において、一相反応の際の反応溶媒として、有機溶媒と水との混合溶媒を用いることも好ましい。本発明において「混合溶媒」とは、有機溶媒と水とが相分離せずに相溶していることを意味する。この場合、フロー式反応は一相反応である。有機溶媒と水との混合溶媒を用いることにより、塩が水に溶解するために、流路の閉塞がより生じにくくなる点で好ましい。なお、本発明において反応溶媒とは、各原料ないし触媒など、反応に寄与する成分がすべて混じり合う工程における溶媒を意味する。例えば、
図2では流路(IV)内を流通する溶媒であり、
図6及び7では流路(IV-2)内を流通する溶媒である。
【0026】
なかでも本発明の製造方法は、上記フロー式反応における反応溶媒として有機溶媒と水とを用いて、有機相と水相とが相分離した状態でフロー式反応により反応させて、上記の一般式(1b)で表される酸無水物化合物を有機相中に得る形態とすることが好ましい。
すなわち、上記一般式(1a)で表される化合物とアミン化合物と金属水酸化物の各々を、水又は有機溶媒のいずれかに溶解して、後述する特定構造のオニウム塩化合物の存在下、有機相と水相とが相分離した状態で流路内を流通させながら反応させる(以降、この反応を「フロー式二相反応」又は単に「二相反応」とも称す。)ことが好ましい。これにより、最終的に下記一般式(1b)で表される酸無水物化合物を有機相中に得ることができる。
上記の通り二相反応系をフロー式で実施することにより、有機相と水相とが相分離した状態でフロー式反応システムの流路内を流通中に、特定構造のオニウム塩化合物の作用により、上記一般式(1a)で表される化合物とアミン化合物または反応中間体は、水相と有機相との間をより効率的に移動することができると考えられる。また、アミン化合物それ自体もオニウム塩化合物のように作用し、上記一般式(1a)で表される化合物の相間移動を促進し得る。結果、水相では一般式(1a)で表される化合物が金属水酸化物(塩基)の作用により活性化し、有機相では一般式(1a)で表される化合物がアミン化合物の作用により活性化し、両活性化体が有機相において反応して有機相中に一般式(1b)で表される酸無水物化合物が得られると考えられる。
一般式(1a)で表される化合物としてクロロギ酸エチルを用い、アミン化合物としてピリジンを用い、金属水酸化物として水酸化ナトリウムを用いた場合を例にとって、二相反応により有機相中に二炭酸ジエチルを得るための一連の物質移動とそれに伴う反応の概略を
図1に示す。
図1中、「PTC」はオニウム塩化合物を示し、「Et」はエチルを示す。
図1は本発明の理解のために、推定される物質移動とそれに伴う反応形態を示すものであり、また、すべての物質移動を網羅的に示すものではない。本発明は、本発明で規定すること以外は、
図1の形態に限定されるものではない。
以下、本発明の製造方法を二相反応系を想定して説明することがあるが、特段の断りのない限り、下記説明は一相反応系にも妥当するものである。
【0027】
本発明の製造方法に用いるアミン化合物は、一般式(1a)で表される化合物と反応して第四級アンモニウム塩の形態をとることができれば特に制限されない。この第四級アンモニウム塩におけるアニオンは、通常は一般式(1a)のHalに由来するハロゲンイオンである。アミン化合物は脂肪族性でもよく、芳香族性でもよい。アミン化合物の分子量は50~600が好ましく、60~300がより好ましい。アミン化合物はアミノ基を1つ又は2つ有する化合物であることが好ましい。
本発明の製造方法には、アミン化合物として第三級アミン化合物を用いることが好ましい。この場合、アミン化合物のすべてが第三級アミン化合物でもよく、第三級アミン化合物以外のアミン化合物と第三級アミン化合物との併用形態とすることもできる。アミン化合物のすべてが第三級アミン化合物であることがより好ましい。本発明において第三級アミン化合物には、ピリジンのように環構成原子として窒素原子を有する芳香族化合物も含まれる。
本発明の製造方法には、アミン化合物として、環構成原子として窒素原子を含む複素環式化合物(以下、含窒素複素環式化合物とも称す。)を用いることが好ましい。この場合、アミン化合物のすべてが含窒素複素環式化合物でもよく、含窒素複素環式化合物以外のアミン化合物と、含窒素複素環式化合物との併用形態とすることもできる。アミン化合物のすべてが含窒素複素環式化合物であることがより好ましい。
上記含窒素複素環式化合物は、5員環又は6員環構造であることが好ましい。また、上記含窒素複素環式化合物は芳香族化合物を含むことが好ましく、芳香族化合物であることがより好ましい。また、上記含窒素複素環式化合物はピリジン化合物(ピリジン環を有する化合物)を含むことが好ましく、ピリジン化合物であることがより好ましい。また、上記含窒素複素環式化合物はピリジンを含むことが好ましく、ピリジンであることがより好ましい。
【0028】
本発明の製造方法に用い得るアミン化合物の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらを用いる形態に限定されるものではない。
【0029】
【0030】
本発明の製造方法に用いる金属水酸化物は、一般式(1a)で表される化合物に作用して金属塩化合物(活性化体)を生成する。金属水酸化物は親水性が高いため実質的には有機相へと移動できず、したがって、この反応は水相中で進行することになる。
上記金属水酸化物は、水相中で、一般式(1a)で表される化合物に作用して金属塩化合物を生成することができれば特に制限されない。本発明の製造方法には1種又は2種以上の金属水酸化物を用いることができる。上記金属水酸化物として、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物を好適に用いることができ、アルカリ金属の水酸化物を用いることがより好ましい。アルカリ金属の水酸化物を用いる場合、金属水酸化物のすべてがアルカリ金属の水酸化物でもよく、アルカリ金属以外の金属の水酸化物とアルカリ金属の水酸化物との併用形態とすることもできる。金属水酸化物のすべてがアルカリ金属の水酸化物であることがより好ましい。上記金属水酸化物として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム及び水酸化セシウムの少なくとも1種を用いることが好ましく、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを用いることがより好ましい。
上記アルカリ土類金属の水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ストロンチウム等が挙げられる。
【0031】
本発明の製造方法に用いるオニウム塩化合物はそれ自体が水相と有機相との間を往来でき、水相と有機相との間の物質の移動促進に用いられる化合物を広く適用することができる。より効率的な物質移動等の観点から、本発明の製造方法に用いるオニウム塩化合物は、芳香族性基及び炭素数6以上のアルキル基の少なくとも1種を有する。オニウム塩化合物のすべてが芳香族性基及び炭素数6以上のアルキル基の少なくとも1種を有するオニウム塩化合物でもよく、芳香族性基及び炭素数6以上のアルキル基の少なくとも1種を有するオニウム塩化合物と、それ以外のオニウム塩化合物との併用形態とすることもできる。なかでもオニウム塩化合物のすべてが芳香族性基及び炭素数6以上のアルキル基の少なくとも1種を有するオニウム塩化合物であることが好ましい。本発明において、オニウム塩化合物が芳香族性基を置換基として有するアルキル基を有し、このアルキル基が、置換基である芳香族性基を含めた全体として炭素数が6以上である場合、このオニウム塩化合物は、芳香族性基を置換基として有する上記アルキル基を有することをもって、芳香族性基を有し、かつ、炭素数6以上のアルキル基を有するものと解する。
上記芳香族性基は5員環又は6員環構造の基が好ましく、これらの環構造が縮合した縮合環基でもよい。上記芳香族性基を構成する環構造はベンゼン環又はピリジン環が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。上記芳香族性基は単環構造が好ましい。オニウム塩化合物において芳香族性基は、炭素数が6~20が好ましく、6~15がさらに好ましく、6~12がさらに好ましく、6~10が特に好ましい。
上記の炭素数6以上のアルキル基は、直鎖でも分岐を有してもよい。また、上記の炭素数6以上のアルキル基は炭素数が6~30が好ましく、6~20がより好ましい。
本発明に用いるオニウム塩化合物として、下記一般式(2)で表される化合物を用いることが好ましい。この場合、オニウム塩化合物のすべてが下記一般式(2)で表される化合物でもよく、下記一般式(2)で表される化合物以外のオニウム塩化合物と下記一般式(2)で表される化合物との併用形態とすることもできる。
【0032】
【0033】
式中、Zは窒素原子又はリン原子を示す。Yは対イオンを示す。R1~R4はアルキル基又は芳香族性基を示す。但し、R1~R4の少なくとも1つは芳香族性基及び炭素数6以上のアルキル基の少なくとも1種を有する。芳香族性基及び炭素数6以上のアルキル基の好ましい形態は上記のオニウム塩化合物の構造において説明した通りである。また、R1~R4において、炭素数5以下のアルキル基がある場合、このアルキル基の炭素数は1~3が好ましく、メチル又はエチルがより好ましい。すなわち、上記一般式(2)で表される化合物は、R1~R4の少なくとも1つが、芳香族性基及び炭素数6以上のアルキル基の少なくとも1種を有する基であり、残部の基が炭素数5以下のアルキル基(好ましくは炭素数1~3のアルキル基、より好ましくはメチル又はエチル)であることが好ましい。
Zは窒素原子が好ましい。すなわち、上記一般式(2)で表される化合物が第四級アンモニウム塩であることが好ましい。
Yの対イオンは特に制限されず、例えば、ハロゲンイオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、テトラフェニルホウ酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、アシルオキシイオン、メタンスルホン酸イオン、p-トルエンスルホン酸イオン、ジベンゼンスルホン酸イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)イミドイオン、硝酸イオン等が挙げられる。
【0034】
本発明の製造方法に用い得るオニウム塩化合物の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらを用いる形態に限定されるものではない。OAcはアセチルオキシイオン、OTfはトリフルオロメタンスルホン酸イオンを示す。
【0035】
【0036】
本発明の製造方法において、一般式(1a)で表される化合物、アミン化合物、金属水酸化物、及びオニウム塩化合物は、それぞれが単独で又は2種以上が組合されて、水溶液の状態で又は有機溶液の状態で、フロー式反応システムに導入される。水溶液と有機溶液のどちらの状態でフロー式反応システムに導入されるかは、水に対する溶解性、使用する有機溶媒ないし有機溶液に対する溶解性、相間移動効率等を考慮して、目的に応じて適宜に決定される。
一般式(1a)で表される化合物は一般に水中で徐々に分解されるために、有機溶媒に溶解した状態でフロー式反応システムに供給することが好ましい。
アミン化合物は水及び有機溶媒のいずれに溶解させた状態でフロー式反応システムに供給してもよい。アミン化合物を、有機溶媒中の上記一般式(1a)で表される化合物と混合すると、フロー装置外で発熱を伴うアシルアンモニウム化反応の進行が懸念されるため、安全上の観点からは、水溶液の状態でフロー式反応システムに供給することが好ましい。
金属水酸化物は通常は水溶性であり、水溶液と非相溶性の有機溶媒ないし有機溶液中への溶解性は低いものである。そのため、水溶液としてフロー式反応システムに供給され、フローの最初から最後まで、事実上、水相に留まる形態とすることが好ましい。なお、本発明の製造方法では、金属水酸化物を有機溶媒中に混合して供給する形態も含まれる。この場合、金属水酸化物が析出しやすく流路の閉塞への対処を要することがあるが、それでもバッチ式反応に比べて目的の酸無水物化合物を高純度に得ることが可能である。
オニウム塩化合物は水に溶解してフロー式反応システムに供給してもよいし、有機溶媒ないし有機溶液に溶解させた状態でフロー式反応システムに供給してもよい。溶解性の観点からは、水溶液の状態でフロー式反応システムに供給することが好ましい。
【0037】
有機溶液の媒体として用いる有機溶媒として、例えば、ケトン系溶媒、炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒、アミド系溶媒、スルホキシド系溶媒などが挙げられる。
ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、2-ブタノン、メチルエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。
炭化水素系溶媒としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼンなどが挙げられる。
ハロゲン化炭化水素系溶媒としては、例えば、ジクロロメタン(塩化メチレン)、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエンなどが挙げられる。
エステル系溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸2-メトキシ-1-メチルエチルなどが挙げられる。
エーテル系溶媒としては、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、t-ブチルメチルエーテルなどが挙げられる。
アルコール系溶媒としては、例えば、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール、1-メトキシ-2-プロパノールなどが挙げられる。
アミド系溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。
スルホキシド系溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシドを挙げることができる。
上記有機溶媒は単独で用いても良く、2種類以上を混合した状態で用いても良い。2種以上の有機溶媒を用いる場合、互いに相溶性のものを用いる。
なかでもアセトン、塩化メチレン、トルエン、シクロペンチルメチルエーテル、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、キシレン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、及びt-ブチルメチルエーテルの少なくとも1種を用いることが好ましく、アセトン、塩化メチレン、トルエン、シクロペンチルメチルエーテル、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、及び酢酸エチルの少なくとも1種を用いることがより好ましく、アセトン、塩化メチレン、トルエン、及びテトラヒドロフランの少なくとも1種を用いることがさらに好ましい。
有機溶媒中の水分が多い場合には、適宜に有機溶媒を市販の脱水剤(モレキュラーシーブス、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウムなど)と接触させることにより水分を除去し、用いることができる。
【0038】
フロー式反応システムに供給する各溶液の濃度と流量は、化学量論等を考慮して適宜に調整される。一例を以下に説明する。
一般式(1a)で表される化合物を有機溶媒に溶解して供給する場合、この有機溶媒中、一般式(1a)で表される化合物の含有量を1~90質量%とすることができ、20~70質量%とすることが好ましく、40~70質量%とすることがより好ましい。
なお、アミン化合物及びオニウム塩化合物は反応により消費されるものではなく、その使用量は適宜に調整すればよい。例えば、アミン化合物を水溶液(この水溶液は金属水酸化物、オニウム塩化合物などの他の成分を溶解していてもよい。)として供給する場合、水溶液中のアミン化合物の含有量は、0.01~30質量%とすることができ、0.1~10質量%とすることが好ましく、0.2~5質量%とすることも好ましい。また、オニウム塩化合物を水溶液(この水溶液は金属水酸化物、アミン化合物などの他の成分を溶解していてもよい。)として供給する場合、水溶液中のオニウム塩化合物の含有量は、0.01~30質量%とすることができ、1~20質量%とすることが好ましく、2~10質量%とすることも好ましい。
また、金属水酸化物を溶解してなる水溶液(この水溶液はアミン化合物、オニウム塩化合物などの他の成分を溶解していてもよい。)において、水溶液中の金属水酸化物の含有量は、0.1~60質量%とすることができ、2~30質量%とすることが好ましく、4~20質量%とすることも好ましい。
なお、上記溶液中の溶質の質量%は、溶液の密度を1g/cm3として算出されるものである。
本発明の製造方法では、反応を終了させるために、流路内を流通する二相状態の反応液に反応停止液を供給すること(クエンチすること)も好ましい。反応停止液に特に制限はなく、反応停止剤として例えば無機酸または有機酸、すなわち硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム、塩化アンモニウム、p-トルエンスルホン酸、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、リン酸、ホウ酸等の1種又は2種以上を溶解してなる水溶液を挙げることができる。反応停止液は最後に水相として回収することが好ましく、そのため水溶液として供給されることが好ましい。この水溶液中の反応停止剤の濃度は特に制限されず、例えば、0.2~30質量%とすることができ、1~15質量%とすることも好ましく、2~10質量%とすることも好ましい。
【0039】
本発明において「有機相と水相とが相分離した状態」とは、有機相と水相との関係が、両者をガラス容器内で有機相10mLと水相20mLとをマグネチックスターラーを用いて撹拌混合(20℃、回転速度300rpm、10分間)した後に20℃で15分間静置したとき、有機相と水相とに相分離した状態を目視で確認できる関係にあることを意味する。この相分離状態は特に制限されず、有機相と水相との界面が平面状(すなわち2層に分離)でもよく、球状(すなわち乳化状態)であってもよい。有機相と水相との相分離は、各相を構成する溶媒として互いに相溶しない溶媒を採用することで実現することができる(例えば水と酢酸エチル)。また、各相を構成する溶媒同士は互いに相溶性であるが、原料や塩類の溶解によりイオン強度を上げて、溶液全体として、互いに非相溶性の状態を作り出すこともできる(例えば水とアセトン)。本発明において「溶液」、「相」という場合には、各成分が溶媒中に溶解していることを意味するが、本発明の効果を損なわない範囲で、成分の一部が析出していてもよい。
流路内を流通中の二相状態の液において、水相と有機相の体積比は、水相/有機相=1/10~10/1とすることができ、水相/有機相=3/7~9/1とすることが好ましく、水相/有機相=5/5~8/2とすることがより好ましい。
【0040】
本発明の製造方法に用いるフロー式反応システムの一実施形態を、図面を用いて説明する。なお、各図面は、本発明の理解を容易にするための説明図であり、各部材のサイズないし相対的な大小関係等は説明の便宜上大小を変えている場合があり、実際の関係をそのまま示すものではない。また、本発明で規定する事項以外はこれらの図面に示された外形、形状に限定されるものでもない。また、下記のフロー式反応システムの説明は二相反応系を前提としたものであるが、使用する溶媒を有機溶媒のみとしたり、水に対して相溶性の有機溶液を適用したりするなどして一相反応系とすることもでき、このような形態も本発明の実施形態として好ましいものである。
【0041】
図2は、本発明の製造方法に用いるフロー式反応システムの一例を示す概略図である。
図2に示すフロー式反応システム(100)は、一般式(1a)で表される化合物を溶解してなる有機溶液を導入する導入口(iA)を備えた流路(I)、アミン化合物と金属水酸化物とオニウム塩化合物とを溶解してなる水溶液を導入する導入口(iB)を備えた流路(II)を有する。
図2の形態ではさらに、反応停止液を導入する導入口(iC)を備えた流路(III)を有し、また、反応停止液を合流した後に水相と有機相とを分液(SE)して有機相(O)中に目的の酸無水物化合物を得るシステムとなっている。この分液操作は、単に水相(W)と有機相(O)とを分離する操作でもよく、また、有機溶媒、水溶液等を加えて分液操作に付してもよい。いずれにしても、有機相(O)中に目的の酸無水物化合物を得ることができる。
流路(I)と流路(II)とは合流部(M1)で合流し、この合流部(M1)の下流側端部には流路(IV)が連結している。この流路(IV)と流路(III)とは合流部(M2)で合流し、この合流部(M2)の下流側端部には配管(V)が連結している。
【0042】
図2の形態では合流部(M1)に二層筒型ミキサーが用いられている。この二層筒型ミキサーは、ミキシング効率を低く制御しながら有機相と水相とを合流することができ、水相の作用による目的生成物の分解をより抑えることが可能になる。この二層筒型ミキサーの構造を
図3及び
図4に示す。
図3は、
図2の合流部(M1)に適用した二層筒型ミキサーを用いた液合流の状態を示す断面図である。なお、
図3では、
図2に示す合流部(M1)において、流路(II)が接続する側を上側にして示したものである。流路(I)は、二層筒型ミキサー(M1)内を貫通する内管(T1)の開口部(MA)と接続され、あるいは流路(I)自体が内管(T1)と一体となり、これにより、流路(I)内を流通する有機溶液は内管(T1)内を開口部(MB)から排出側(流出側、MO)に向けて流通する。
一方、流路(II)は、二層筒型ミキサー(M1)の開口部(MB)と接続される。これにより、流路(II)内を流通してきた水溶液は、二層筒型ミキサー(M1)の内管(T1)に隣接する流路内(すなわち、内管(T1)とこの内管(T1)に隣接する筒(T2、外管)との間)を満たし、排出側(MO)に向かって流通する。
内管(T1)を排出側(MO)に向けて流通する有機溶液は、内管(T1)の排出側(MO)末端部(合流部J)において、内管(T1)に隣接する流路内を排出側(MO)に向けて流通してきた水溶液と合流し、その下流に繋がる流路(IV)内へと導入される。
図3における合流部Jを排出側(MO)から見た断面を
図4に示す。
図4において、内管(T1)内に有機溶液が流通し、内管(T1)とこの内管(T1)に隣接する筒(T2)との間には水溶液が流通する。
【0043】
二層筒型ミキサー(M1)により有機溶液と水溶液とが合流し、合流した液が流路(IV)を流通中に各反応が進行して目的の一般式(1b)で表される酸無水物化合物が有機相中に生成する。
二層筒型ミキサー(M1)の内管を流通する有機溶液の線速度r1に対する、このミキサーの、内管に隣接する流路内を流通する水溶液の線速度r2の比の値(r2/r1)は、1/100~1/2または100/1~2/1とすることが好ましく、1/30~1/3または30/1~3/1とすることがより好ましい。このように両溶液の線速度を制御することにより、ミキシング効率をある程度抑えることができ、二相反応系をより確実に構築することができる。その結果、有機相に生成する目的の酸無水物化合物の分解を効果的に抑えることができ、得られる目的の酸無水物化合物の純度をより高めることができる。
本発明において「線速度」の単位は、例えばcm/分であり、この場合、溶液送液手段により送液される溶液の流速(cm3/分)を、この溶液が流通する流路の断面積(cm2)で除することにより、線速度が算出される。
【0044】
なお、上記の形態では、一般式(1a)で表される化合物を溶解してなる有機溶液を内管に流通させ、アミン化合物と金属水酸化物とオニウム塩化合物とを溶解してなる水溶液を内管に隣接する流路内に流通させる形態について説明したが、流通させる液を逆にしてもよい。つまり、上記水溶液を内管に流通させ、内管に隣接する流路内に上記有機溶液を流通させる形態も、本発明の製造方法の実施形態として好ましい。この場合も、内管を流通する水溶液の線速度と、内管に隣接する流路を流通する有機溶液の線速度との関係は、上記で説明した比の範囲内とすることが好ましい。
【0045】
導入口(iA)、(iB)及び(iC)にはそれぞれ、通常はシリンジポンプ等の送液ポンプ(図示していない)が接続され、これらのポンプを作動することにより、各溶液を、各流路内に所望の流速で流通させることができる。
【0046】
図2に示す実施形態の各構成についてより詳細に説明する。
【0047】
<流路(I)>
流路(I)は、導入口(iA)から導入された上記有機溶液を、上記合流部(M1)へと供給する流路である。
流路(I)は、その等価直径を0.2~50mmとすることが好ましい。流路(I)の等価直径を0.2mm以上とすることにより、送液時の圧力上昇を抑制でき、また不溶物が生成した場合にも流路の閉塞を抑制することができる。また、流路(I)の等価直径を50mm以下とすることにより、合流部(M1)導入時の液温を、適切に制御することができる。流路(I)の等価直径は、0.5~30mmがより好ましく、1~20mmがさらに好ましい。
上記「等価直径」(equivalent diameter)は、相当(直)径とも呼ばれ、機械工学の分野で用いられる用語である。任意の管内断面形状の配管ないし流路に対し等価な円管を想定するとき、その等価円管の管内断面の直径を等価直径という。等価直径(deq)は、A:配管の管内断面積、p:配管のぬれぶち長さ(内周長)を用いて、deq=4A/pと定義される。円管に適用した場合、この等価直径は円管の管内断面の直径に一致する。等価直径は等価円管のデータを基に、その配管の流動あるいは熱伝達特性を推定するのに用いられ、現象の空間的スケール(代表的長さ)を表す。等価直径は、管内断面が一辺aの正四角形管ではdeq=4a2/4a=a、一辺aの正三角形管ではdeq=a/31/2、流路高さhの平行平板間の流れではdeq=2hとなる(例えば、(社)日本機械学会編「機械工学事典」1997年、丸善(株)参照)。
【0048】
流路(I)の長さに特に制限はなく、例えば、長さが10cm~15m程度(好ましくは、30cm~10m)のチューブにより構成することができる。
チューブの材質に特に制限はなく、例えば、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、テフロン(登録商標)、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂、ステンレス、銅又は銅合金、ニッケル又はニッケル合金、チタン又はチタン合金、石英ガラス、ライムソーダガラスなどが挙げられる。可撓性、耐薬品性の観点から、チューブの材質は、PFA、テフロン(登録商標)、ステンレス、ニッケル合金又はチタンが好ましい。
【0049】
上記導入口(iA)から上記有機溶液を導入する流速に特に制限はなく、流路の等価直径、上記有機溶液の濃度、上記水溶液の濃度、上記水溶液の導入流量等を考慮し、目的に応じて適宜設定することができる。例えば、0.1~5000mL(cm3)/min(分)が好ましく、0.5~3000mL/minがより好ましく、1~3000mL/minがさらに好ましい。
【0050】
流路(I)の温度は、例えば、-30~40℃とすることができ、-10~20℃とすることが好ましく、0~10℃とすることがより好ましい。
【0051】
<流路(II)>
流路(II)は、導入口(iB)から導入された上記水溶液を、上記合流部(M1)へと供給する流路である。流路(II)は、その等価直径を0.1~50mmとすることが好ましい。流路(II)の等価直径を0.1mm以上とすることにより、送液時の圧力上昇を抑制でき、また不溶物が生成した場合にも流路の閉塞を抑制することができる。また、流路(II)の等価直径を50mm以下とすることにより、合流部(M1)導入時の液温を、適切に制御することができる。流路(II)の等価直径は、0.5~30mmがより好ましく、1~20mmがさらに好ましい。
【0052】
流路(II)の長さに特に制限はなく、例えば、長さが10cm~15m程度(好ましくは、30cm~10m)のチューブにより構成することができる。
チューブの材質に特に制限はなく、上記流路(I)で例示した材質のチューブを用いることができる。
【0053】
上記導入口(iB)から上記水溶液を導入する流速に特に制限はなく、流路の等価直径、上記有機溶液の濃度、上記水溶液の濃度、上記有機溶液の導入流量等を考慮し、目的に応じて適宜に設定することができる。例えば、0.1~5000mL/min(分)が好ましく、0.5~3000mL/minがより好ましく、1~3000mL/minがさらに好ましい。
また、導入口(iB)から上記水溶液を導入する流速rBと、導入口(iA)から上記有機溶液を導入する流速rAとの関係も特に制限されず、各溶液の濃度、二相反応の効率化等を考慮して適宜に設定することができる。例えば、[流速rA]/[流速rB]=10/1~1/10とすることができ、[流速rA]/[流速rB]=5/1~1/5が好ましい。なお、本明細書において流速rA及びrBの単位はいずれもmL(cm3)/minである。
流路(II)の温度は、例えば、-30~40℃とすることができ、-10~20℃とすることが好ましく、0~10℃とすることが更に好ましい。
【0054】
<合流部(M1)>
図2に示す実施形態では、上記有機溶液が流通する流路(I)と、上記水溶液が流通する流路(II)とを合流部(M1)で合流し、合流液が有機相と水相とが相分離した状態で流路(IV)を下流へと流通中に、上述した2相間の物質移動を伴うフロー式二相反応により、有機相中に一般式(1b)で表される酸無水物化合物が得られる。
図2の形態において、流路(I)と流路(II)との接続(合流部(M1)の形態)には、上述の通り二層筒型ミキサーを適用している。二層筒型ミキサーの材質は、例えば、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、テフロン(登録商標)、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂、ステンレス、銅又は銅合金、ニッケル又はニッケル合金、チタン又はチタン合金、石英ガラス、ライムソーダガラスなどが好ましい。
二層筒型ミキサー(M1)の内管の等価直径は、0.1~10mmが好ましい。また、二層筒型ミキサー(M1)の外管の等価直径は、2~50mmが好ましい。
【0055】
合流部(M1)の温度は、例えば、-30~40℃とすることができ、-10~20℃とすることが好ましく、0~10℃とすることが更に好ましい。
【0056】
<流路(IV)>
流路(IV)は、合流部(M1)で合流した上記有機溶液と上記水溶液との合流液を、上記二相反応を生じながら合流部(M2)へと供給する流路である。流路(IV)は、その等価直径を0.1~50mmとすることが好ましい。流路(IV)の等価直径を0.1mm以上とすることにより、送液時の圧力上昇を抑制でき、また不溶物が生成した場合にも流路の閉塞を抑制することができる。また、流路(IV)の等価直径を50mm以下とすることにより、流路内の液温を、適切に制御することができる。流路(IV)の等価直径は、0.5~30mmがより好ましく、1~20mmがさらに好ましい。
【0057】
流路(IV)の長さに特に制限はなく、例えば、長さが10cm~15m程度(好ましくは、30cm~10m)のチューブにより構成することができる。
チューブの材質に特に制限はなく、上記流路(I)で例示した材質のチューブを用いることができる。
流路(IV)の等価直径と長さ、送液ポンプの流量設定等によって、フロー式二相反応によって有機相中に一般式(1b)で表される化合物を生成するための反応時間を、適宜に調整することができる。例えば、合流部(M1)で合流した合流液が流路(IV)内を流通する時間を、3~600秒間とすることができ、5~200秒間とすることが好ましい。なお、この流通時間は、後述する
図6及び
図7の各実施形態における流路(IV-2)内の好ましい流通時間としても適用される。
【0058】
流路(IV)の温度は、例えば、-30~40℃とすることができ、-10~20℃とすることが好ましく、0~10℃とすることが更に好ましい。
【0059】
<流路(III)>
流路(III)は、導入口(iC)から導入された上記反応停止液を、合流部(M2)へと供給する流路である。流路(III)は、その等価直径を0.1~50mmとすることが好ましい。流路(III)の等価直径を0.1mm以上とすることにより、送液時の圧力上昇を抑制でき、また不溶物が生成した場合にも流路の閉塞を抑制することができる。また、流路(III)の等価直径を50mm以下とすることにより、合流部(M2)導入時の液温を、適切に制御することができる。流路(III)の等価直径は、0.5~30mmがより好ましく、1~20mmがさらに好ましい。
【0060】
流路(III)の長さに特に制限はなく、例えば、長さが10cm~15m程度(好ましくは、30cm~10m)のチューブにより構成することができる。
チューブの材質に特に制限はなく、上記流路(I)で例示した材質のチューブを用いることができる。
【0061】
上記導入口(iC)から反応停止液を導入する流速に特に制限はなく、流路の等価直径、反応停止液の濃度、流路(I)内を流通する上記有機溶液の濃度、流路(II)内を流通する上記水溶液の濃度などを考慮し、目的に応じて適宜設定することができる。例えば、0.1~5000mL/min(分)が好ましく、0.5~3000mL/minがより好ましく、1~3000mL/minがさらに好ましい。
また、導入口(iC)から反応停止液を導入する流速rCと、流路(IV)内を流通する合流液の流速rDとの関係も特に制限されず、各溶液の濃度等を考慮して適宜に設定することができる。例えば、[流速rC]/[流速rD]=10/1~1/10とすることができ、[流速rC]/[流速rD]=5/1~1/5が好ましい。
【0062】
流路(III)の温度は、例えば、-30~40℃とすることができ、-10~20℃とすることが好ましく、0~10℃とすることが更に好ましい。
【0063】
<合流部(M2)>
流路(IV)内を流通する上記合流液(二相反応液)と、流路(III)内を流通する反応停止液とは、合流部(M2)で合流する。合流部(M2)はミキサーの役割を有し、流路(IV)と流路(III)とを1本の流路に合流し、合流部(M2)の下流側端部に連結する配管(V)へと合流した溶液を送り出すことができれば特に制限されない。例えば、T字又はY字型(
図2の形態はT字型である。)のコネクタをミキサーとして用いることができる。なお、合流部(M2)には上述した二層筒型ミキサーを用いることもできる。
上記のT字型ミキサー、及びY字型ミキサーの材質は、例えば、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、テフロン(登録商標)、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂、ステンレス、銅又は銅合金、ニッケル又はニッケル合金、チタン又はチタン合金、石英ガラス、ライムソーダガラスなどが好ましい。
上記ミキサーの市販品として、例えばミクログラス社製ミクログラスリアクター;CPCシステムス社製サイトス;山武社製YM-1、YM-2型ミキサー;島津GLC社製ミキシングティー及びティー(T字コネクタ);GLサイエンス社製ミキシングティー及びティー(T字コネクタ);Upchurch社製ミキシングティー及びティー(T字コネクタ);;Upchurch社製ミキシングティー及びティー(T字コネクタ);Valco社製ミキシングティー及びティー(T字コネクタ);swagelok社製T字コネクタ、IDEX社製SUST型ミキサー等が挙げられ、いずれも本発明に使用することができる。
合流部(M2)内の流路の等価直径は、混合性能をより良好とする観点から、0.1~30mmが好ましい。
【0064】
合流部(M1)の温度は、例えば、-30~40℃とすることができ、-10~20℃とすることが好ましく、0~10℃とすることが更に好ましい。
【0065】
<配管(V)>
合流部(M2)で合流した合流液は、配管(V)内へと二相状態を保って流れ、配管(V)内を下流へ流通中に、反応停止剤と金属水酸化物またはアミン化合物とが水相中で反応して一般式(1b)の生成反応が停止する。なお、本明細書において配管(V)を流路(V)ということがある。
配管(V)の形態に特に制限はなく、通常はチューブを用いる。配管(V)の好ましい材質は、上述した流路(I)の好ましい材質と同じである。また、配管(V)の等価直径と長さ、送液ポンプの流量設定等によって、反応時間を調整することができる。通常は、配管(V)の等価直径は0.1~50mmであることが好ましく、より好ましくは0.2~20mmであり、さらに好ましくは0.4~15mmであり、さらに好ましくは0.7~12mmであり、さらに好ましくは1~10mmである。また、配管(V)の長さは、0.5~50mが好ましく、1~30mがより好ましい。
【0066】
配管(V)の温度は、例えば、-30~40℃とすることができ、-10~20℃とすることが好ましく、0~10℃とすることが更に好ましい。
【0067】
最後に配管(V)内を流通する有機相と水相とを分液して、一般式(1b)で表される酸無水物化合物を含有する有機溶液を得る。
【0068】
本発明の製造方法を実施するためのフロー式反応システムの別の実施形態を
図5に示す。
図5に示すフロー式反応システム(200)は、合流部(M1)に二層筒型ミキサーに代えてT字型ミキサーを用いたこと以外は、
図2の実施形態と同じである。なお、合流部(M1)はY字型ミキサーとすることも好ましい。合流部(M1)に用いるミキサーとしては、
図2の実施形態の合流部(M2)で説明したものを用いることができる。
【0069】
図2及び
図5に示す実施形態に関し、本発明は一実施形態として、次の製造方法を提供するものである。
【0070】
上記の一般式(1a)で表される化合物を含有する有機溶液と、上記アミン化合物と上記金属水酸化物と上記オニウム塩化合物とを含有する水溶液とを、それぞれ異なる流路に導入して各溶液を各流路内に流通させ、
上記有機溶液と上記水溶液とを合流し、この合流液が有機相と水相とが相分離した状態で下流へ流通中に、上記アミン化合物と上記金属水酸化物とが上記の一般式(1a)で表される化合物に作用し、上記一般式(1b)で表される酸無水物化合物を有機相中に得ることを含む、酸無水物化合物の製造方法。
この酸無水物化合物の製造方法は、上記の二相状態の合流液と反応停止液とを合流して上記一般式(1b)で表される酸無水物化合物の生成反応を停止する工程(クエンチ工程)を含むことが好ましい。
また、有機相中に生成した上記一般式(1b)で表される酸無水物化合物を、分液操作により精製する工程を含むことも好ましい。
【0071】
また、
図2及び
図5に示す実施形態に関し、本発明は次のフロー式反応システムを提供するものである。
【0072】
上記一般式(1a)で表される化合物を含有する有機溶液を導入する第1流路と、
上記アミン化合物と上記金属水酸化物と上記オニウム塩化合物とを含有する水溶液を導入する第2流路と、
第1流路と第2流路とが合流する第1合流部と、
第1合流部の下流に接続された第3流路と
を有し、
第3流路内を流通する合流液は有機相と水相とが相分離した状態にある、上記一般式(1b)で表される酸無水物化合物を製造するフロー式反応システム。
このフロー式反応システムは、上記反応停止液を含有する水溶液を導入する第4流路と、第3流路と第4流路とが合流する第2合流部と、第2合流部の下流に接続された第5流路とを有することも好ましい。
【0073】
本発明の製造方法を実施するためのフロー式反応システムのさらに別の実施形態を
図6に示す。
図6に示すフロー式反応システム(300)は、
図5の実施形態では金属水酸化物とオニウム塩化合物とアミン化合物とを溶解してなる水溶液を供給していたのに対し、金属水酸化物とオニウム塩化合物とを溶解してなる水溶液を導入口(iB-1)から、アミン化合物を溶解してなる水溶液を導入口(iB-2)から、別々に供給する点で、
図5の実施形態と異なる。
すなわち、
図6の形態では、一般式(1a)で表される化合物を溶解してなる有機溶液を流路(I)内に供給し、金属水酸化物とオニウム塩化合物とを溶解してなる水溶液を流路(II-1)内に供給し、両溶液を合流部(M1-1)において合流し、合流液を有機相と水相とに相分離させた状態で流路(IV-1)内を下流へと流通させる。次いで、この合流液と、流路(II-2)内を流通するアミン化合物を溶解してなる水溶液とを合流部(M1-2)において合流し、合流液を有機相と水相とに相分離させた状態で流路(IV-2)内を下流へと流通させて、有機相中に目的の一般式(1b)で表される酸無水物化合物を生成させる。流路(IV-2)内を流通する二相状態の合流液を、流路(III)内を流通する反応停止液と合流部(M2)において合流して、一般式(1b)で表される酸無水物化合物の生成反応を停止する。最後に有機相(O)と水相(W)とを分液(SE)して、一般式(1b)で表される酸無水物化合物を含有する有機溶液(O)を得る。
各流路、流路内を流通する溶液の濃度、ミキサー等は、すでに説明した実施形態のものを適宜に適用することができる。
【0074】
図6に示す実施形態に関し、本発明は一実施形態として、次の製造方法を提供するものである。
【0075】
上記の一般式(1a)で表される化合物を含有する有機溶液と、上記金属水酸化物と上記オニウム塩化合物とを含有する水溶液(AL)と、上記アミン化合物を含有する水溶液(BL)とを、それぞれ異なる流路に導入して各溶液を各流路内に流通させ、
上記有機溶液と上記水溶液(AL)とを合流し、この合流液(CL)が有機相と水相とが相分離した状態で下流へ流通中に、上記金属水酸化物が上記の一般式(1a)で表される化合物に作用し、
次いで上記合流液(CL)と上記水溶液(BL)とを合流し、この合流液(DL)が有機相と水相とが相分離した状態で下流へ流通中に、上記アミン化合物が上記の一般式(1a)で表される化合物に作用し、上記一般式(1b)で表される酸無水物化合物を有機相中に得ることを含む、酸無水物化合物の製造方法。
この酸無水物化合物の製造方法は、合流液(DL)と反応停止液とを合流して上記一般式(1b)で表される酸無水物化合物の生成反応を停止する工程を含むことが好ましい。
また、有機相中に生成した上記一般式(1b)で表される酸無水物化合物を、分液操作により精製する工程を含むことも好ましい。
【0076】
また、
図6に示す実施形態に関し、本発明は次のフロー式反応システムを提供するものである。
【0077】
上記一般式(1a)で表される化合物を含有する有機溶液を導入する第1流路と、
上記金属水酸化物と上記オニウム塩化合物とを含有する水溶液を導入する第2流路と、
第1流路と第2流路とが合流する第1合流部と、
第1合流部の下流に接続された第3流路と、
上記アミン化合物を含有する水溶液を導入する第4流路と、
第3流路と第4流路とが合流する第2合流部と、
第2合流部の下流に接続された第5流路と
を有し、
第3流路内及び第5流路内を流通する各合流液は有機相と水相とが相分離した状態にある、上記一般式(1b)で表される酸無水物化合物を製造するフロー式反応システム。
このフロー式反応システムは、上記反応停止液を含有する水溶液を導入する第6流路と、第5流路と第6流路とが合流する第3合流部と、第3合流部の下流に接続された第7流路とを有することも好ましい。
【0078】
本発明の製造方法を実施するためのフロー式反応システムのさらに別の実施形態を
図7に示す。
図7に示すフロー式反応システム(400)は、
図6の実施形態において、一般式(1a)で表される化合物を溶解してなる有機溶液を2つに分けて、導入口(iA-1)と導入口(iA-2)からフロー式反応システムに供給する形態としたこと以外は、
図6の実施形態と同じである。
すなわち、
図7の形態では、一般式(1a)で表される化合物を溶解してなる有機溶液を流路(I-1)内に供給し、金属水酸化物とオニウム塩化合物とを溶解してなる水溶液を流路(II-1)内に供給し、両溶液を合流部(M1-1a)において合流し、合流液を有機相と水相とに相分離させた状態で流路(IV-1a)内を下流へと流通させる。次いで、この合流液と、流路(I-2)内を流通する、一般式(1a)で表される化合物を溶解してなる有機溶液とを合流部(M1-1b)において合流し、合流液を有機相と水相とに相分離させた状態で流路(IV-1b)内を下流へと流通させる。次いで、この合流液と、流路(II-2)内を流通するアミン化合物を溶解してなる水溶液とを合流部(M1-2)において合流し、合流液を有機相と水相とに相分離させた状態で流路(IV-2)内を下流へと流通させて、有機相中に目的の一般式(1b)で表される酸無水物化合物を生成させる。流路(IV-2)内を流通する二相状態の合流液を、流路(III)内を流通する反応停止液と合流部(M2)において合流して、一般式(1b)で表される酸無水物化合物の生成反応を停止する。最後に有機相(O)と水相(W)とを分液(SE)して、一般式(1b)で表される酸無水物化合物を含有する有機溶液(O)を得る。
各流路、各流路内を流通する溶液の濃度、ミキサー等は、すでに説明した実施形態のものを適宜に適用することができる。
【0079】
図7に示す実施形態に関し、本発明は一実施形態として、次の製造方法を提供するものである。
【0080】
上記の一般式(1a)で表される化合物を含有する有機溶液(EL)と、上記の一般式(1a)で表される化合物を含有する有機溶液(FL)と、上記金属水酸化物と上記オニウム塩化合物とを含有する水溶液(GL)と、上記アミン化合物を含有する水溶液(HL)とを、それぞれ異なる流路に導入して各溶液を各流路内に流通させ、
上記有機溶液(EL)と上記水溶液(GL)とを合流し、この合流液(IL)が有機相と水相とが相分離した状態で下流へ流通中に、上記金属水酸化物が上記の一般式(1a)で表される化合物に作用し、
次いで上記合流液(IL)と上記有機溶液(FL)とを合流し、この合流液(JL)が有機相と水相とが相分離した状態で下流へ流通中に、上記金属水酸化物が上記の一般式(1a)で表される化合物に作用し、
次いで上記合流液(JL)と上記水溶液(HL)とを合流し、この合流液(KL)が有機相と水相とが相分離した状態で下流へ流通中に、上記アミン化合物が上記の一般式(1a)で表される化合物に作用し、上記一般式(1b)で表される酸無水物化合物を有機相中に得ることを含む、酸無水物化合物の製造方法。
この酸無水物化合物の製造方法は、合流液(KL)と反応停止液とを合流して上記一般式(1b)で表される酸無水物化合物の生成反応を停止する工程を含むことが好ましい。
また、有機相中に生成した上記一般式(1b)で表される酸無水物化合物を、分液操作により精製する工程を含むことも好ましい。
【0081】
また、
図7に示す実施形態に関し、本発明は次のフロー式反応システムを提供するものである。
【0082】
上記一般式(1a)で表される化合物を含有する有機溶液を導入する第1流路と、
上記金属水酸化物と上記オニウム塩化合物とを含有する水溶液を導入する第2流路と、
第1流路と第2流路とが合流する第1合流部と、
第1合流部の下流に接続された第3流路と、
上記一般式(1a)で表される化合物を含有する有機溶液を導入する第4流路と、
第3流路と第4流路とが合流する第2合流部と、
第2合流部の下流に接続された第5流路と、
アミン化合物を含有する水溶液を導入する第6流路と、
第5流路と第6流路とが合流する第3合流部と、
第3合流部の下流に接続された第7流路と
を有し、
第3流路内、第5流路内及び第7流路内を流通する各合流液は有機相と水相とが相分離した状態にある、上記一般式(1b)で表される酸無水物化合物を製造するフロー式反応システム。
このフロー式反応システムは、上記反応停止液を含有する水溶液を導入する第8流路と、第7流路と第8流路とが合流する第4合流部と、第4合流部の下流に接続された第9流路とを有することも好ましい。
【0083】
上述した各実施形態において、フロー式反応における合流部の少なくとも1つに二層筒型ミキサーを用いることが好ましい。なかでも、反応停止液を合流させる合流部以外の合流部の少なくとも1つに二層筒型ミキサーを用いることが好ましい。
【0084】
本発明の製造方法によれば、目的化合物である一般式(1b)で表される酸無水物化合物の分解を効果的の抑えることができ、フロー式反応後の有機相中に、必要により分液操作を行うだけで、一般式(1b)で表される酸無水物化合物を高純度に得ることができる。例えば、一般式(1b)で表される酸無水物化合物を50質量%以上の高純度で得ることができ、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上の純度で得ることができる。
【0085】
本発明をその好ましい実施形態と共に説明したが、本発明は、本発明で規定する事項以外は、上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【0086】
本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例0087】
[実施例1]
図2に示す構成のフロー式反応システム100を用いて、酸無水物化合物である二炭酸ジエチルを合成した。具体的な反応条件は次の通りである。
【0088】
<送液ポンプ(図示せず)>
すべて株式会社GLサイエンス製PU716BおよびPU718を用い、流量出口側にパルスダンパーHPD-1、テスコム社製背圧弁(44-2361-24)、株式会社IBS社製リリーフバルブRHA(4MPa)を順次設置した。
【0089】
<温度制御>
流路(I)~(V)、合流部M1及びM2のすべてを、5℃に設定した水中に浸漬した。
【0090】
<流路(I)~(V)>
いずれも、外径1/16インチ、内径1.0mmのSUS316チューブを用いた。各流路の長さは下記の通りとした。
流路(I):0.5m
流路(II):0.5m
流路(III):0.5m
流路(IV):1.0m
流路(V):0.5m
二相反応の反応時間(流路(IV)内の流通時間)は9秒である。
【0091】
<合流部(M1)>
図3及び4に示す同芯円筒型の二層筒型ミキサー(M1)として、スウェージロック社製ユニオン・ティー(SS-400-3)を用いた。流路(I)は開口部(MA)に連結し、流路(II)を開口部(MB)に連結した。ミキサー流路は外管T2に外径1/4インチ、内径4.35mm、長さ50mmのSUS316直管を使用し、内管T1に外径1/8インチ、内径2.17mmのSUS316直管を使用した。液が排出される内管端部(J)を外管端部から80mmの位置にセットした。
【0092】
<合流部(M2)(T字型ミキサー)>
T字型ミキサー(M2)として、内径0.5mmのIDEX社製SUST型ミキサーを用いた。
【0093】
<一般式(1a)で表される化合物を溶解してなる有機溶液>
一般式(1a)で表される化合物としてクロロギ酸エチル108.52gを脱水アセトンに溶解してなる有機溶液200mLを得た(クロロギ酸エチル濃度:54.26質量%(有機溶液の密度を1g/mLとして算出、以下同様))。
【0094】
<アミン化合物と金属水酸化物とオニウム塩化合物とを溶解してなる水溶液>
アミン化合物としてピリジン2.00g、金属水酸化物として水酸化ナトリウム20.22g、オニウム塩化合物としてベンジルオクチルジメチルアンモニウムクロリド(商品名:QBA-811、50質量%水溶液、竹本油脂社製)19.78gを、イオン交換水に溶解してなる水溶液200mLを得た(ピリジン濃度:1質量%、水酸化ナトリウム濃度:10.11質量%、ベンジルオクチルジメチルアンモニウムクロリド濃度:4.95質量%)
【0095】
<反応停止液>
硫酸水素カリウム10.20gをイオン交換水に溶解してなる水溶液250mLを得た(硫酸水素カリウム濃度:4.1質量%)
【0096】
<送液条件>
一般式(1a)で表される化合物を溶解してなる有機溶液:1.0mL/min
アミン化合物と金属水酸化物とオニウム塩化合物とを溶解してなる水溶液:1.0mL/min
反応停止液:1.0mL/min
二層筒型ミキサー(M1)における有機溶液(内管)と水溶液(外管)の線速度比は、[有機溶液の線速度]/[水溶液の線速度]=3/1である。
【0097】
<反応生成物(酸無水物化合物)の純度>
流路(V)の出口(最下流、SEの手前)から反応液を採取し、酢酸エチルを用いて分液操作(SE)を行い、有機相(O)を抽出した。さらに、この有機相(O)を0.3mol/Lの硫酸水素カリウム水溶液を用いて分液洗浄した。その後、この有機相の有機溶媒をロータリーエバポレーターにより留去し、得られた二炭酸ジエチルの純度をガスクロマトグラフィーにより下記条件で分析し、純度(質量%)を測定した。結果を下表に示す。下表中「>97」は97質量%を越える純度であることを意味し、「<10」は10質量%未満の純度であることを意味する。
-分析条件-
測定機器:GC-2010(島津製作所製)
カラム:DB-624(30m×0.25mm×1.4μm)アジレント社製)
カラム温度:65→200℃
気化室温度:95℃
検出器温度:250℃
キャリアガス:窒素
注入量:1μL
結果を下表に示す。
【0098】
流路の閉塞の評価:
第三級アミン溶液導入口(iB)と合流部(M1)との間の流路の途中(すなわち流路(II)内)に圧力計を設置し、送液が安定し且つ反応が定常状態となった1時間経過後の圧力が0.05MPa未満の場合を評価「A」、0.05MPa以上0.1MPa未満の場合を評価「B」、0.1MPa以上の場合を評価「C」とした。結果を下表に示す。
【0099】
[実施例2~19及び22~24、比較例1~5]
反応システム(
図2、
図5、
図6又は
図7に示したフロー式反応システム、又はバッチ式反応系)、オニウム塩化合物(上記のPTC1~11及び下記PTC101)、金属水酸化物、アミン化合物(上記のアミン1~3、5~9)、及び溶媒を、下表に示す通りとしたこと以外は、実施例1と同様にして合成反応を行った。詳細を以下に記載する。
【0100】
【0101】
いずれのフロー式反応システムにおいても、導入する有機溶液及び水溶液中の各成分の濃度は実施例1と同じとした。例えば、
図6に示すフロー式反応システムにおいて流路(II-2)内を流通するアミン水溶液の濃度は、実施例1で流路(II)内を流通させた水溶液と同じく1質量%とした。また、例えば、
図7に示すフロー式反応システムにおいて流路(I-1)及び(I-2)の各流路内を流通する有機溶液中のクロロギ酸エチルの濃度は、実施例1で流路(I)内を流通させた有機溶液と同じく54.26質量%とした。
【0102】
実施例19ではテトラヒドロフランと水とが相溶している状態のため、二相反応ではなく一相反応である。
実施例23では媒体をすべてアセトンとし(水に代えてアセトンを使用)、実施例24では媒体をすべて塩化メチレン(水を用いずに塩化メチレンのみを使用)とした。したがって、実施例23及び24は二相反応ではなく、有機溶液のみの一相反応である。
【0103】
比較例2及び3はフロー式反応ではなくバッチ式反応を行った。このバッチ式反応は、クロロギ酸エチルを溶解してなる有機溶液(濃度は実施例1と同じ)と、アミン化合物と金属水酸化物とオニウム塩化合物とを溶解してなる水溶液(濃度は実施例1と同じ)とを用いた二相反応である。上記水溶液20mLを200mLサイズのナスフラスコに投入し、5℃においてマグネチックスターラーを用いて300rpmの撹拌速度で撹拌した。次に、上記有機溶液10mLを添加し、2相状態で10分間撹拌を行った。その後、反応停止液を60mL添加して反応を終了させた。
比較例4は有機溶液の媒体をテトラヒドロフランとし、比較例5は媒体をすべてアセトンとした(水に代えてアセトンを使用)以外は比較例2及び3と同様の反応条件でバッチ式反応を行った。比較例4及び5はいずれも一相反応である。
【0104】
図5のフロー式反応システム(200)において、合流部(M1)には内径0.5mmのIDEX社製SUST型ミキサーを用いた。
図5のフロー式反応システム(200)において、二相反応の反応時間(流路(IV)内の流通時間)は9秒である。
【0105】
図6に示すフロー式反応システム(300)において、流路(II-1)、(IV-1)、(II-2)及び(IV-2)として、いずれも外径1/16インチ、内径1.0mmのSUS316チューブを、流路長0.5mとして用いた。その他の流路は
図5のフロー式反応システム(200)(例えば実施例4)と同じである。また、
図6に示すフロー式反応システム(300)において、合流部にはいずれも内径0.5mmのIDEX社製SUST型ミキサーを用いた。
図6のフロー式反応システム(300)において、二相反応の反応時間(流路(IV-2)内の流通時間)は9秒である。
【0106】
図7に示すフロー式反応システム(400)において、流路(I-1)、(I-2)、(IV-1a)及び(IV-1b)として、いずれも外径1/16インチ、内径1.0mmのSUS316チューブを、流路長0.5mとして用いた。その他の流路は上記の
図6のフロー式反応システム(300)(例えば実施例5)と同じである。また、
図7に示すフロー式反応システム(400)において、合流部にはいずれも内径0.5mmのIDEX社製SUST型ミキサーを用いた。
図7のフロー式反応システム(400)において、二相反応の反応時間(流路(IV-2)内の流通時間)は9秒である。
【0107】
[実施例20]
実施例1において、一般式(1a)で表される化合物を溶解してなる有機溶液として、クロロギ酸エチルの54.26質量%有機溶液に代えて、クロロギ酸t-ブチルの68.29質量%有機溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして有機相中に二炭酸ジt-ブチルを得た。
【0108】
[実施例21]
実施例1において、一般式(1a)で表される化合物を溶解してなる有機溶液として、クロロギ酸エチルの54.26質量%有機溶液に代えて、プロピオン酸クロリド(プロピオニルクロリド)の46.26質量%有機溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして有機相中にプロピオン酸無水物を得た。
【0109】
【0110】
上記表に示されるように、オニウム塩化合物が本発明で規定する構造を有していない場合には、目的の酸無水物化合物は純度に劣るものとなった(比較例1)。
また、フロー式反応に代えてバッチ式反応を行った場合には、二相反応系で反応時間もある程度制御しても、得られる酸無水物化合物は低純度品となった(比較例2~5)。
これに対し、本発明の酸無水物化合物の製造方法を適用した場合には、有機相中に高純度の酸無水物化合物が得られることがわかった(実施例1~24)。なお、水溶液を用いずに有機溶液のみの一相反応とすると、金属水酸化物または反応中間体の析出により閉塞が生じる傾向にあったが、バッチ式に比べて格段に高純度の酸無水物化合物が得られることがわかる。