(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130909
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】育成条件決定支援装置、単結晶育成システム、育成条件決定支援方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
C30B 15/00 20060101AFI20220831BHJP
C30B 29/30 20060101ALI20220831BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20220831BHJP
G06F 16/906 20190101ALI20220831BHJP
【FI】
C30B15/00 Z
C30B29/30 A
C30B29/30 B
G06N20/00
G06F16/906
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029559
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智大
(72)【発明者】
【氏名】長岡 憲吾
(72)【発明者】
【氏名】牧野 晃也
【テーマコード(参考)】
4G077
5B175
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BC32
4G077BC37
4G077CG10
4G077EH10
4G077HA11
4G077PF55
5B175FA03
(57)【要約】
【課題】多くのパラメータの候補の中から制御対象とすべきパラメータを選定する。
【解決手段】育成条件決定支援装置は、結晶の育成条件の決定を支援するための装置であって、育成条件と結晶の品質情報とが関連付けられた学習データを取得する取得部と、前記結晶の育成に使用した育成装置の使用回数に応じて分類された前記学習データに基づく機械学習によって、前記使用回数ごとの予測モデルを更新する予測モデル学習部と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶の育成条件の決定を支援するための装置であって、
育成条件と結晶の品質情報とが関連付けられた学習データを取得する取得部と、
前記結晶の育成に使用した育成装置の使用回数に応じて分類された前記学習データに基づく機械学習によって、前記使用回数ごとの予測モデルを更新する予測モデル学習部と、を備える、
育成条件決定支援装置。
【請求項2】
前記結晶の育成に使用した育成装置の使用回数に応じて、前記取得部によって取得された前記学習データを分類する学習データ分類部をさらに備える、
請求項1に記載の育成条件決定支援装置。
【請求項3】
前記使用回数ごとの前記予測モデルのそれぞれは、ロジスティック回帰モデルであって、
前記予測モデル学習部は、前記ロジスティック回帰モデルの損失関数が最小となるように、前記予測モデルを更新する、
請求項1または2に記載の育成条件決定支援装置。
【請求項4】
前記使用回数ごとの前記予測モデルによって前記育成装置の使用回数ごとの結晶の品質を予測する品質予測値算出部と、
算出された品質予測値に基づいて、出力する育成条件を決定する育成条件決定部と、をさらに備える、
請求項1から3のいずれか1項に記載の育成条件決定支援装置。
【請求項5】
単結晶育成装置と育成条件決定支援装置とを備える、単結晶育成システムであって、
前記育成条件決定支援装置は、
結晶の育成条件の決定を支援するための装置であって、
育成条件と結晶の品質情報とが関連付けられた学習データを取得する取得部と、
前記結晶の育成に使用した育成装置の使用回数に応じて分類された前記学習データに基づく機械学習によって、前記使用回数ごとの予測モデルを更新する予測モデル学習部と、
前記使用回数ごとの前記予測モデルによって前記育成装置の使用回数ごとの結晶の品質を予測する品質予測値算出部と、
算出された品質予測値に基づいて、出力する育成条件を決定する育成条件決定部と、を備え、
前記単結晶育成装置は、
出力された前記育成条件に従って、単結晶を育成する、
単結晶育成システム。
【請求項6】
コンピュータが実行する方法であって、
育成条件と結晶の品質情報とが関連付けられた学習データを取得するステップと、
前記結晶の育成に使用した育成装置の使用回数に応じて分類された前記学習データに基づく機械学習によって、前記使用回数ごとの予測モデルを更新するステップと、を備える、
育成条件決定支援方法。
【請求項7】
コンピュータに、
育成条件と結晶の品質情報とが関連付けられた学習データを取得するステップと、
前記結晶の育成に使用した育成装置の使用回数に応じて分類された前記学習データに基づく機械学習によって、前記使用回数ごとの予測モデルを更新するステップと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、育成条件決定支援装置、単結晶育成システム、育成条件決定支援方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
SAWフィルターの材料となるLT、LN単結晶は、主にチョクラルスキー法(以下、「Cz法」と称す)によって育成されている。Cz法は、坩堝(ルツボ)内の原料融液の表面に、種結晶となる単結晶片を接触させ、種結晶を回転させながら上方に引き上げることにより同一方位の円筒状の単結晶を育成する方法である。Cz法において、結晶の回転速度や引き上げ速度、育成時の温度環境は種類に応じて適切に選定する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、種結晶の融解に関する状態を精度よく評価することを目的として、種結晶が融解する際に測定された測定重量の変動幅に基づいて、種結晶の融解に関する状態の評価をする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、坩堝などの育成装置は、使用による劣化等の影響が大きいため、使用回数によって育成される結晶の品質が変わってしまい、品質の正確な予測が困難であるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、結晶の育成装置の使用回数に応じた育成条件の決定を支援することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る育成条件決定支援装置は、
結晶の育成条件の決定を支援するための装置であって、
育成条件と結晶の品質情報とが関連付けられた学習データを取得する取得部と、
前記結晶の育成に使用した育成装置の使用回数に応じて分類された前記学習データに基づく機械学習によって、前記使用回数ごとの予測モデルを更新する予測モデル学習部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
結晶の育成装置の使用回数に応じた育成条件の決定を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】単結晶育成システムのシステム構成の一例を示す図である。
【
図2】単結晶育成装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図3】育成条件決定支援装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図4】育成条件決定支援装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図5】機械学習処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図6】育成条件決定支援処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態(本実施の形態)について説明する。
【0011】
(単結晶育成システム1のシステム構成)
図1は、単結晶育成システムのシステム構成の一例を示す図である。
【0012】
本実施の形態に係る単結晶育成システム1は、単結晶育成装置2と、育成条件決定支援装置3と、育成管理データベース4と、を備える。単結晶育成装置2、育成条件決定支援装置3および育成管理データベース4は、通信ネットワーク5を介して通信可能に接続されている。通信ネットワーク5は、インターネットでも構内ネットワークでも良い。
【0013】
単結晶育成装置2は、坩堝等を備え、ニオブ酸リチウム等の単結晶を育成する装置である。単結晶育成装置2は、育成条件決定支援装置3により決められた育成条件を用いて、原料を溶融した原料融液に種結晶を接触させ、種結晶を回転させながら上昇させて結晶を育成する。
【0014】
育成条件決定支援装置3は、育成管理データベース4から育成結果データを受信して、受信した育成結果データを分析する。そして、育成条件決定支援装置3は、分析の結果に基づいて、育成条件を示す情報を出力する。
【0015】
育成条件は、例えば結晶の引き上げ速度、結晶の回転速度、ヒーター、例えば高周波加熱装置の温度管理に関する条件である。育成条件は、結晶育成過程における各種の測定結果を含んでいてもよい。育成条件は、例えば、結晶の融液と種結晶とが接したのちに、肩部が形成されるが、肩部の形成開示時刻や、結晶径が直胴部の直径に達した際の時刻、融液を貯留する坩堝の温度変化、装置内の雰囲気温度、冷却部の温度変化等である。これらは結晶の引き上げ速度や回転速度、加熱装置の温度制御に直接的に係わるものでなくてもよいし、これらを合わせた統計値でもよい。より具体的には、育成条件は、結晶の肩部の開始または終了時刻、直胴部の開始または終了、ルツボの底温度または温度変化、固化熱発生の時刻または発熱量とその時の融液重量、電源出力開始または終了時間、出力上昇時間、継続時間、または出力上昇量、シーディング開始時刻、チャンバーの平均温度、冷却器の平均温度、るつぼ台の平均温度、窓の平均温度、チャンバーへの流入または流出の平均温度、高周波電源の平均温度、冷却器から出力する管またはケーブルの平均温度、シールの平均温度、チャンバー扉の平均温度、チャンバー本体の平均温度、チャンバーへの流入または流出の流量、水冷器の平均流出入量、シールに用いるオイルの流量、チャンバーの水冷管の平均流量、ハンチング収束時の重量、直胴部成長速度の平均、肩部と直径との差分平均、底付き発生時期、等が挙げられる。なお、平均値を例示した値は、最大値、最小値などに適宜変更可能である。
【0016】
育成管理データベース4は、単結晶の育成状態を管理する情報を記憶する装置である。育成管理データベース4は、育成条件決定支援装置3に育成結果データを送信する。育成結果データは、単結晶の育成の結果を示すデータであって、単結晶の育成条件と、育成した単結晶の品質情報(具体的には、良不良の判定結果)と、が関連付けられたデータである。また、育成管理データベース4は、育成条件を示す情報を単結晶育成装置2に送信する。育成条件を示す情報と単結晶の品質情報とは、初期設定されたIDなどで対応付けられる。育成管理データベース4は、育成条件を示す情報と品質情報とを関連付けて記憶してもよい。
【0017】
ここで単結晶の品質情報とは結晶の多結晶化に関する情報、Cz法により引き上げられた結晶のクラックや割れの発生に関する情報、結晶の落下に関する情報などをさす。単結晶とは、一つの結晶子で構成されていることを意味し、多結晶とは複数の結晶子が存在していることを意味する。従って、目視により、不定形な模様のようなものが含まれる場合は多結晶化したことが推定される。また、電子線後方散乱回折法(EBSD)により、断面を観察することで確認することができる。多結晶体である場合は、複数の方位を持つ結晶体が存在することを確認できる。
【0018】
本実施の形態では、単結晶の品質情報は、育成結果を目視して、多結晶化していないものを「良」、多結晶化したものを「不良」と判定した情報とする。
【0019】
(各装置のハードウェア構成)
次に、各装置のハードウェア構成について説明する。
図2は、単結晶育成装置のハードウェア構成の一例を示す図である。なお、
図2は、単結晶を育成する装置を概念的に示す図である。
【0020】
単結晶育成装置2は、坩堝10内の原料を溶融した原料融液Lに種結晶SCを接触させ、種結晶SCを回転させながら上昇させて単結晶CRを育成する装置である。単結晶育成装置2は、例えば、坩堝10と、坩堝台20と、坩堝昇降機構30と、引上げ軸40と、ヒーター50と、耐火物内筒60と、耐火物シールド板70と、耐火材80と、制御装置90と、を備える。また、関連構成要素として、種結晶100と、原料融液110と、単結晶120とが示されている。
【0021】
坩堝10は、坩堝台20に載置される。チャンバー内には、坩堝10を囲むように耐火材80が配置されている。坩堝10と耐火材80との間にヒーター50が配置される。必要に応じ、ヒーター50を複数段配置してもよい。
図1においては、2段に配置されたヒーター50が示されている。ヒーター50により坩堝10を加熱する。
【0022】
また、坩堝10の上方を取り囲むように耐火物内筒60、耐火物シールド板70を設置してもよい。耐火物内筒60、耐火物シールド板70は、引き上げられた単結晶120を保温するために設けられている。耐火材80の上部には引き上げ軸40が回転可能かつ上下方向に移動可能に設けられている。引き上げ軸40の下端の先端部には、種結晶保持部41が設けられ、種結晶100を保持している。坩堝10及び坩堝台20は、坩堝昇降機構30により上下に可動する。
【0023】
坩堝10は、原料融液を貯留保持し、単結晶を育成するための容器である。LN等の酸化物結晶育成では酸素を含む雰囲気で育成されるため、耐熱性があり酸素と反応しない貴金属、Pt(白金)、Rh(ロジウム)やIr(イリジウム)等の単体又はそれらの合金からなることが好ましい。なお、坩堝10は、結晶の育成に使用する育成装置の一例である。
【0024】
坩堝台20は、坩堝10を下方から支持する支持台として設けられる。坩堝台20は、ヒーター50の加熱に耐え得る十分な耐熱性及び坩堝10を支持する耐久性を有すれば、種々の材料から構成されてよい。
【0025】
坩堝昇降機構30は、坩堝10を昇降させるための駆動機構である。本実施形態においては、坩堝10は、坩堝台20上に載置されているため、坩堝台20を支持している昇降プレート31を昇降させることにより坩堝10を昇降させる構成であってもよい。即ち、直接的でも間接的であっても、坩堝10を昇降させることができればよい。
【0026】
坩堝昇降機構30は、坩堝10を回転させずに昇降可能に構成される。坩堝昇降機構30は、坩堝10を回転させずに昇降できる限り、その機構は問わない。例えば、ボールネジを用いて昇降プレート31を上昇させ、昇降プレート31が供回りしないように中継治具が設けられている構成であってもよい。
【0027】
引き上げ軸40は、下端部の種結晶保持部41に種結晶100を保持し、坩堝10に保持された原料融液110の表面に種結晶100を接触させ、回転しながら単結晶を引き上げるための手段である。引き上げ軸40は、種結晶100を保持する種結晶保持部41を下端部に有するとともに、図示しない引き上げ軸駆動モータを備える。なお、引き上げ軸駆動モータは、結晶の引き上げの際、結晶を回転させながら引き上げる動作を行うための回転駆動機構である。
【0028】
ヒーター50は、坩堝10を加熱するための手段であり、坩堝10の周囲を囲むように配置する。抵抗加熱方式のヒーターでも、高周波誘導加熱方式の誘導コイルを用いて加熱するヒーターでもよい。
【0029】
耐火物内筒60、耐火物シールド板70及び耐火材80にはアルミナやジルコニア、マグネシア、カルシア等の焼結体耐火物が使われ、熱が外部に漏れないようにする機能を果たす。
【0030】
制御装置90は、単結晶育成装置2の全体の動作を制御する。制御装置90は、例えば、CPU、メインメモリ、ハードディスクなどの記憶装置、有線あるいは無線により通信を行う通信装置、キーボード、タッチパネルあるいはマウスなどの入力装置、ディスプレイなどの表示装置を備えるコンピュータ、シーケンサ等により構成される。制御装置90は、記憶装置に記憶されているプログラムに従って各種の処理を実行する。また、制御装置90は、回転引き上げ法により単結晶を育成する育成装置を制御する制御装置として、単体で用いても(供給されても)よい。すなわち、制御装置90は、単体で、公知の単結晶育成装置に適用することができる。
【0031】
制御装置90は、ヒーター50の温度を制御する。また、制御装置90は、引き上げ軸駆動モータを制御することにより、引上げ軸40の回転及び昇降を制御する。
【0032】
次に、育成条件決定支援装置3のハードウェア構成について説明する。
図3は、育成条件決定支援装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0033】
育成条件決定支援装置3は、CPU(Central Processing Unit)101、主記憶装置102、補助記憶装置103、入力装置104、表示装置105、通信インターフェース装置106、ドライブ装置107を備える。これらの各装置は、バスで接続されている。
【0034】
CPU101は、育成条件決定支援装置3の動作を制御する主制御部であり、主記憶装置102に格納されたプログラムを読みだして実行することで、後述する各種の機能を実現する。
【0035】
主記憶装置102は、育成条件決定支援装置3の起動時に補助記憶装置103からプログラムを読み出して格納する。補助記憶装置103は、インストールされたプログラムを格納すると共に、後述する各種機能に必要なファイル、データ等を格納する。
【0036】
入力装置104は、各種の情報の入力を行うための装置であり、例えばキーボードやポインティングデバイス等により実現される。表示装置105は、各種の情報の表示を行うためものであり、例えばディスプレイ等により実現される。通信インターフェース装置106は、LANカード等を含み、育成管理データベース20との接続の為に用いられる。
【0037】
本実施形態に係るプログラムは、育成条件決定支援装置3を制御する各種プログラムの少なくとも一部である。プログラムは、例えば記憶媒体108の配布やネットワークからのダウンロード等によって提供される。プログラムを記録した記憶媒体108は、CD-ROM、フレキシブルディスク、光磁気ディスク等の様に情報を光学的、電気的或いは磁気的に記録する記憶媒体、ROM、フラッシュメモリ等の様に情報を電気的に記録する半導体メモリ等、様々なタイプの記憶媒体を用いることができる。
【0038】
また、プログラムは、プログラムを記録した記憶媒体108がドライブ装置107にセットされると、記憶媒体108からドライブ装置107を介して補助記憶装置103にインストールされる。ネットワークからダウンロードされたプログラムは、通信インターフェース装置106を介して補助記憶装置103にインストールされる。
【0039】
(育成条件決定支援装置3の機能構成)
次に、育成条件決定支援装置3の機能について説明する。
図4は、育成条件決定支援装置の機能構成の一例を示す図である。
【0040】
育成条件決定支援装置3は、取得部31と、学習部32と、品質予測値算出部33と、育成条件決定部34と、出力部35と、を備える。
【0041】
取得部31は、学習処理において、育成条件と結晶の品質情報とが関連付けられた学習データを取得する。
【0042】
学習部32は、学習データに基づく学習によって、予測モデルを更新する。具体的には、学習部32は、学習データ分類部321と、予測モデル学習部322と、を含む。学習データ分類部321は、学習データを、坩堝10の使用回数に応じて分類する。なお、坩堝10は、育成装置の一例であって、他でも良い。
【0043】
予測モデル学習部322は、分類された学習データに基づく機械学習によって、使用回数ごとの予測モデルを更新する。すなわち、予測モデルは、坩堝10の使用回数ごとに構築しておく。坩堝10の使用回数の上限が20の場合には、0から19までの20個の予測モデルを構築しておく。そして、例えば、予測モデル学習部322は、使用回数N回の学習データに基づいて、使用回数N回の予測モデルを更新する。なお、予測モデルは、例えばロジスティック回帰モデルである。なお、予測モデルは、他でも良く、例えば、サポートベクターマシン、ニューラルネットワーク等であっても良い。
【0044】
品質予測値算出部33は、与えられた育成条件に応じた品質の予測値を算出する。この育成条件には、坩堝10の使用回数が含まれる。そして品質予測値算出部33は、使用回数に応じた予測モデルに基づいて、品質の予測値を算出する。品質の予測値は、例えば、品質が良である確率を0から1までの数値で示した値である。その場合、良である確率が100%であれば、予測値は1であり、良である確率が50%であれば、予測値は0.5である。
【0045】
育成条件決定部34は、算出された閾値に基づいて、出力する育成条件を決定する。出力部35は、決定された育成条件を示す情報を出力する。
【0046】
(育成条件決定支援装置3の動作)
次に、育成条件決定支援装置3の動作について、図面を参照して説明する。
図5は、機械学習処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0047】
育成条件決定支援装置3は、定期的に、またはユーザの操作に応じたタイミングで、機械学習処理を実行する。育成条件決定支援装置3が機械学習処理を開始すると、取得部31は、育成管理データベース4から育成条件と品質情報とが関連付けられた学習データを取得する(ステップS11)。次に、学習データ分類部321は、坩堝10の使用回数によって学習データを分類する(ステップS12)。
【0048】
予測モデル学習部322は、分類された学習データに基づく学習によって、坩堝10の使用回数ごとの予測モデルを更新する(ステップS13)。具体的には、各予測モデルは、単結晶の品質が良となる確率yを育成条件xによって表すロジスティック関数
【0049】
【0050】
予測モデル学習部322は、単結晶の品質が良となる確率yが0.5以上の場合を良、0.5未満の場合を不良として、損失関数Lが最小となるようにパラメータw,bを決定する。
【0051】
【0052】
ここで、Nは育成条件のデータのサンプル数、Mは育成条件の数、yjはj番目の育成条件から予測した単結晶の品質、tjはj番目の育成条件で育成した単結晶の品質である。また、
【0053】
【数3】
は、過学習を避けるための正則化(L2正則化)項である。例えば、予測モデル学習部322は、パラメータαを、以下の手順で決定する。すなわち、予測モデル学習部322は、各育成条件のデータをランダムに5分割し、そのうち4つを用いて予測モデルの学習を行い、残り1つのデータで予測モデルの性能を評価する。更に、予測モデル学習部322は、予測モデルの学習を行い、性能を評価するまでの処理を5回繰り返し、5回の性能指標の平均によって各αの性能を評価する。このようにして、予測モデル学習部322は、αの値を、平均性能指標が最大となる値に更新する。
【0054】
図6は、育成条件決定支援処理の流れの一例を示すフローチャートである。育成条件決定支援装置3は、単結晶の育成を開始する前などに、ユーザの操作に応じたタイミングで、育成条件決定支援処理を実行する。
【0055】
育成条件決定支援装置3が、育成条件決定支援処理を開始すると、品質予測値算出部33は、育成条件の入力を受ける(ステップS21)。育成条件は、坩堝10の使用回数を含む。例えば、N回使用した坩堝10を用いて育成を開始する際には、品質予測値算出部33は、坩堝10の使用回数Nを含む育成条件の入力を受ける。
【0056】
次に、品質予測値算出部33は、前述の機械学習処理によって学習済みの使用回数Nの予測モデルを用いて、入力された育成条件における品質予測値を算出する(ステップS22)。品質予測値は、例えば、品質が良である確率を0から1までの数値で示した値である。
【0057】
続いて、育成条件決定部34は、品質予測値が閾値以上であるか否かを判定する(ステップS23)。閾値は、あらかじめ設定された値であり、例えば0.5である。
【0058】
育成条件決定部34が、品質予測値が閾値以上でないと判定すると(ステップS23:No)、ステップS21に戻る。
【0059】
育成条件決定部34は、品質予測値が閾値以上であると判定すると(ステップS23:Yes)、入力された育成条件に決定して育成条件決定支援処理を終了する。
【0060】
図7は、学習データの一例を示す図である。学習データは、育成条件と当該育成条件によって判定された品質情報(良否)とが関連付けられたデータである。
図7の例では、例えばLotIDは、坩堝10の使用回数を表している。
【0061】
(実験結果)
上述した育成条件決定支援装置3による予測モデルを評価した。各使用回数の予測モデルの性能をF1スコアによって評価した。F1スコアは、表1に示す混同行列から算出した。
【0062】
【0063】
表1に示すように、混同行列は真陽性(TruePositive;TP)、真陰性(TrueNegative;TN)、偽陽性(FalsePositive;FP)、偽陰性(FalseNegative;FN)の4つの観点で分類し、それぞれに当てはまる予測結果の個数をまとめたものである。これらから、「良」または「不良」と判定される再現率、適合率、F1スコアは次のように表される。
【0064】
良の再現率Recall=TP/(TP+FN)
良の適合率Precision=TP/(TP+FP)
良のF値=2×Recall×Precision/(Recall+Precision)
不良の再現率TNR=TN/(TN+FP)
不良の適合率=TN/(TN+FN)
不良のF値=2×TNR×不良の適合率/(TNR+不良の適合率)
F1スコア=(良のサンプル数×良のF値+不良のサンプル×不良のF値)/全サンプル数
【0065】
図8は、実験結果を示す図である。比較のため、
図8は、使用回数に関わらず1つの予測モデルで予測した結果902と、本実施の形態に係る予測モデルで予測した結果901とを示す。なお、結果902は、坩堝10の使用回数に応じた計算を行わないため、F1スコアの平均値を示している。
【0066】
本実施の形態に係る予測モデルでは、坩堝10の使用回数によってF1スコアが異なるが、どの使用回数のF1スコアも、結果902におけるF1スコア(約0.4)を上回った。なお、本実施の形態に係る予測モデルで予測した結果901において、使用回数4回、10回、11回および12回については、不良品が少なく、サンプルが少ないために解析ができなかった。なお、解析できたF1スコアの平均値は約0.6であった。
【0067】
本実施の形態に係る育成条件決定支援装置3によれば、育成装置の一例である坩堝10の使用回数に応じた機械学習によって、使用回数に応じた育成条件の決定を支援することができる。
【0068】
上述した各実施形態では、育成結果データ30に含まれる判定結果が良と不良の2値である例を示した。使用する予測モデルによっては、2値でなくても良い。例えば、製品の性能には問題ない程度だが、傷や汚れなど、製品に不要な要素が認められたものを、良「○」と不良「×」の間を示す「△」等として付け加えても良い。
【0069】
以上、各実施形態に基づき本発明の説明を行ってきたが、上記実施形態に示した要件に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の主旨をそこなわない範囲で変更することができ、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、結晶の育成に適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 単結晶育成システム
2 単結晶育成装置
3 育成条件決定支援装置
4 育成管理データベース
5 通信ネットワーク
31 取得部
32 学習部
33 品質予測値算出部
34 育成条件決定部
35 出力部
321 学習データ分類部
322 予測モデル学習部