(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130970
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】ルウの製造方法及びルウ
(51)【国際特許分類】
A23L 23/10 20160101AFI20220831BHJP
【FI】
A23L23/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029665
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】小石原 克典
(72)【発明者】
【氏名】北川 陽一郎
【テーマコード(参考)】
4B036
【Fターム(参考)】
4B036LC01
4B036LE01
4B036LF05
4B036LG02
4B036LG07
4B036LH04
4B036LH09
4B036LH10
4B036LH12
4B036LH13
4B036LH22
4B036LH48
4B036LK01
4B036LK03
4B036LP01
4B036LP17
4B036LP24
(57)【要約】
【課題】本発明は、ルウのコクや旨味を増強する新たな手段を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明は、ルウの製造方法に関しており、
(1)澱粉質原料及び油脂を含む混合物を品温が80℃以上となるように加熱する工程と、
(2)工程1で加熱された混合物を品温が75℃以下となるように冷却する工程と、
(3)工程2で冷却された混合物に第1の酵母エキスを添加する工程と、
を含み、工程1の混合物が、第2の酵母エキスをさらに含み、及び/又は、前記方法が、80℃以上の温度で予め加熱処理された第2の酵母エキスを、工程1の混合物、工程1で加熱された混合物、又は、工程2で冷却された混合物に添加する工程をさらに含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルウの製造方法であって、
(1)澱粉質原料及び油脂を含む混合物を品温が80℃以上となるように加熱する工程と、
(2)工程1で加熱された混合物を品温が75℃以下となるように冷却する工程と、
(3)工程2で冷却された混合物に第1の酵母エキスを添加する工程と、
を含み、
工程1の混合物が、第2の酵母エキスをさらに含み、及び/又は、前記方法が、80℃以上の温度で予め加熱処理された第2の酵母エキスを、工程1の混合物、工程1で加熱された混合物、又は、工程2で冷却された混合物に添加する工程をさらに含む、ルウの製造方法。
【請求項2】
前記第1の酵母エキスの配合量が、前記第2の酵母エキスの配合量に対して質量比で0.1~1である、請求項1に記載のルウの製造方法。
【請求項3】
前記第1の酵母エキス及び前記第2の酵母エキスの合計量が、前記ルウの全質量に対して1質量%以上である、請求項1又は2に記載のルウの製造方法。
【請求項4】
工程1が、(1-1)前記澱粉質原料及び前記油脂を加熱して加熱処理混合物を得る工程と、(1-2)前記加熱処理混合物の品温が80℃以上となるように再度加熱する工程とを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のルウの製造方法。
【請求項5】
前記第2の酵母エキスが、前記澱粉質原料及び前記油脂と一緒に加熱されて前記加熱処理混合物を構成するか、又は、前記加熱処理混合物に添加される、請求項4に記載のルウの製造方法。
【請求項6】
前記油脂の配合量が、前記ルウの全質量に対して5~25質量%である、請求項1~5のいずれか1項に記載のルウの製造方法。
【請求項7】
澱粉質原料と、油脂と、75℃より高い温度で加熱処理されていない酵母エキスと、80℃以上の温度で加熱処理された酵母エキスと、を含むルウ。
【請求項8】
前記油脂の配合量が、前記ルウの全質量に対して5~25質量%である、請求項7に記載のルウ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルウの製造方法及びルウに関し、特に特性の異なる酵母エキスを複数含むルウの製造方法及びルウに関する。
【背景技術】
【0002】
カレー、シチュー、及びハヤシライスソースなどの具材入りのソースを調理するための調理材料としてルウが用いられている。例えば、特許文献1には、チーズなどのペースト原料及び酵母エキスなどの粉体原料などを含む原料を品温80℃で加熱混合してルウを作製することが記載されている。一方、特許文献1には、特性の異なる複数の酵母エキスをルウに配合することは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
使用する油脂の配合量を減らすことで、ルウを扱う際にルウ同士が接着するのを抑えることができるが、油脂が少ないと十分な加熱を行うことができず、ルウのコクや旨味が低下し得る。また、ルウを輸出するにあたり、輸入食品の原料に制限がある国もあるため、畜肉エキスや乳素材を使用せずに、ルウのコクや旨味を向上することが求められている。そこで、本発明は、ルウのコクや旨味を増強する新たな手段を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、強い加熱処理の有無の点で異なる特性を有する複数種類の酵母エキスをルウに配合することで、ルウのコクや旨味を増強することができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示すルウの製造方法及びルウを提供するものである。
〔1〕ルウの製造方法であって、
(1)澱粉質原料及び油脂を含む混合物を品温が80℃以上となるように加熱する工程と、
(2)工程1で加熱された混合物を品温が75℃以下となるように冷却する工程と、
(3)工程2で冷却された混合物に第1の酵母エキスを添加する工程と、
を含み、
工程1の混合物が、第2の酵母エキスをさらに含み、及び/又は、前記方法が、80℃以上の温度で予め加熱処理された第2の酵母エキスを、工程1の混合物、工程1で加熱された混合物、又は、工程2で冷却された混合物に添加する工程をさらに含む、ルウの製造方法。
〔2〕前記第1の酵母エキスの配合量が、前記第2の酵母エキスの配合量に対して質量比で0.1~1である、前記〔1〕に記載のルウの製造方法。
〔3〕前記第1の酵母エキス及び前記第2の酵母エキスの合計量が、前記ルウの全質量に対して1質量%以上である、前記〔1〕又は〔2〕に記載のルウの製造方法。
〔4〕工程1が、(1-1)前記澱粉質原料及び前記油脂を加熱して加熱処理混合物を得る工程と、(1-2)前記加熱処理混合物の品温が80℃以上となるように再度加熱する工程とを含む、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のルウの製造方法。
〔5〕前記第2の酵母エキスが、前記澱粉質原料及び前記油脂と一緒に加熱されて前記加熱処理混合物を構成するか、又は、前記加熱処理混合物に添加される、前記〔4〕に記載のルウの製造方法。
〔6〕前記油脂の配合量が、前記ルウの全質量に対して5~25質量%である、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載のルウの製造方法。
〔7〕澱粉質原料と、油脂と、75℃より高い温度で加熱処理されていない酵母エキスと、80℃以上の温度で加熱処理された酵母エキスと、を含むルウ。
〔8〕前記油脂の配合量が、前記ルウの全質量に対して5~25質量%である、前記〔7〕に記載のルウ。
【発明の効果】
【0006】
本発明に従えば、製造するルウに、品温が75℃より高い温度で加熱処理されていない酵母エキスと、品温が80℃以上となるように加熱処理された酵母エキスとを含ませることにより、ルウのコクや旨味を増強することができる。したがって、畜肉エキスや乳素材を使用しなくてもルウのコクや旨味を増強することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、ルウの製造方法に関している。本明細書に記載の「ルウ」とは、澱粉質原料及び油脂の加熱処理混合物を基本的な構成として有する調理材料であって、カレー、シチュー、ハヤシライスソース、ハッシュドビーフ、スープ、及びその他各種ソースを調理する際に使用する調理材料、又は、複数の調味料を含み目的の惣菜を調理するために使用される合わせ調味料(メニュー用調味料)の形態の調理材料のことをいう。前記ルウを、肉や野菜などの食材を水と一緒に煮込んだところに投入することで、各料理を手軽に作ることができる。前記ルウの形態は、当技術分野で通常採用されるものであれば特に限定されないが、例えば、ブロック状(固形ルウ)、フレーク状、顆粒状、粉状、又はペースト状のいずれであってもよい。
【0008】
本発明のルウの製造方法は、
(1)澱粉質原料及び油脂を含む混合物を品温が80℃以上となるように加熱する工程と、
(2)工程1で加熱された混合物を品温が75℃以下となるように冷却する工程と、
(3)工程2で冷却された混合物に第1の酵母エキスを添加する工程と、
を含む。そして、本発明のルウの製造方法においては、工程1の混合物が、第2の酵母エキスをさらに含むこと、及び/又は、前記方法が、80℃以上の温度で予め加熱処理された第2の酵母エキスを、工程1の混合物、工程1で加熱された混合物、又は、工程2で冷却された混合物に添加する工程をさらに含むことを特徴としている。すなわち、本発明の方法で製造されるルウは、75℃より高い温度で加熱処理されていない酵母エキス(前記第1の酵母エキス由来)と、80℃以上の温度で加熱処理された酵母エキス(前記第2の酵母エキス由来)とを含んでいる。なお、特に断らない限り、本明細書で言及されている温度は、ルウの原料又はその混合物の品温を意味し、温度計によってモニターされ得る。
【0009】
本明細書に記載の「酵母エキス」とは、酵母に含まれる成分を抽出して得られる調味料のことをいう。飲食品を口に入れたときに最初に感じる味を先味、それに続いて感じる味を中味、その後の口中に残る味を後味というが、前記酵母エキスは、そのままだと中味から後味にかけて芳醇な風味(発酵感のある風味)を有しており、前記酵母エキスを強く加熱すると、先味から中味にかけて香ばしい風味を生じるようになる。上述のように、本発明の方法で製造されるルウは、強い加熱処理の有無の点で異なる特性を有する酵母エキスを併せて含んでいるため、先味から後味までバランスよく風味付けされており、そのコクや旨味が増強されている。しかも、後述の実施例において具体的に示されているように、その風味の増強の程度は相乗的である。このため、前記ルウは、例えば、畜肉(ビーフ、チキン、ポークなど)のペースト若しくはエキス又は調理品に乳感を与える食品原料である乳素材などを含まなくても、十分なコク及び旨味を有しており、これらの食品原料を必ずしも必要としていない。すなわち、ある態様では、本発明のルウの製造方法は、畜肉のペースト若しくはエキス又は乳素材を添加する工程を含まない。
【0010】
前記第1の酵母エキスの配合量は、特に制限されないが、例えば、前記ルウの全質量に対して約0.5~約4質量%であってもよく、好ましくは約1.5~約2.5質量%である。前記第2の酵母エキスの配合量も、特に制限されないが、例えば、前記ルウの全質量に対して約1~約6質量%であってもよく、好ましくは約2.5~約3.5質量%である。ある態様では、前記第1の酵母エキスの配合量が、前記第2の酵母エキスの配合量に対して質量比で約0.1~約1であり、好ましくは約0.5~約0.7である。また、ある態様では、前記第1の酵母エキス及び前記第2の酵母エキスの合計量が、前記ルウの全質量に対して約1質量%以上であり、好ましくは約2~約10質量%である。
【0011】
本明細書に記載の「澱粉質原料」とは、澱粉を主成分とする食品原料のことをいう。前記澱粉質原料は、前記ルウを製造することができる限り特に限定されないが、例えば、小麦澱粉、コーンスターチ、米澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、くず澱粉、及び加工澱粉などの澱粉、並びに、小麦粉、コーンフラワー、米粉、ライ麦粉、蕎麦粉、あわ粉、きび粉、はと麦粉、及びひえ粉などの穀粉などからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。前記澱粉質原料の含有量は、特に限定されないが、例えば、前記ルウの全質量に対して、約5~約50質量%であってもよく、好ましくは約10~約30質量%である。
【0012】
本明細書に記載の「油脂」とは、食用に供される天然油脂又は加工油脂などの油脂のことをいう。前記油脂としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記油脂は、バター、牛脂、及び豚脂などの動物油脂、マーガリン、パーム油、綿実油、及びコーン油などの植物油脂、これらの硬化油脂、並びにこれらの混合油脂などからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。前記油脂の融点は、特に制限されず、目的の形状のルウを製造するために適宜選択され得る。例えば、固体状のルウを製造するためには融点35℃以上の油脂が好ましい。前記油脂の含有量は、特に限定されないが、たとえその量が少なくても、本発明の方法で製造されるルウは、上述のように、強い加熱処理の有無の点で異なる特性を有する酵母エキスを併せて含むことにより、十分なコク及び旨味を有するものとなる。すなわち、前記油脂の含有量は、一般的なルウにおける量よりも少なくすることが可能であり、例えば、前記ルウの全質量に対して、約5~約25質量%であってもよく、約10~約20質量%以上であってもよい。
【0013】
工程1の混合物が前記第2の酵母エキスを含む場合、当該第2の酵母エキスは、この工程において強い加熱処理を受け、先味から中味にかけての香ばしい風味を生じるようになる。ある態様では、工程1は、(1-1)前記澱粉質原料及び前記油脂を加熱して加熱処理混合物を得る工程と、(1-2)前記加熱処理混合物の品温が80℃以上となるように再度加熱する工程とを含む。工程1-1と工程1-2は、連続的に実施してもいいし、品温を80℃未満に低下させる工程を間に挟んで実施してもよい。特定の態様では、前記第2の酵母エキスは、前記澱粉質原料及び前記油脂と一緒に加熱されて前記加熱処理混合物を構成するものであってもいいし、前記加熱処理混合物に添加されるものであってもよい。
【0014】
前記加熱処理混合物は、前記油脂及び前記澱粉質原料を常法により撹拌混合しながら加熱することで調製され得るものであり、前記澱粉質原料が小麦粉である場合には、それから調製される加熱処理混合物は小麦粉ルウと呼ばれることもある。前記加熱処理混合物を調製する工程1-1の加熱条件は、特に制限されないが、例えば、前記第1の混合物を品温が約100℃以上に達するように加熱混合する。
【0015】
工程1-2は、添加される場合には前記第2の酵母エキス、並びに、製造するルウの種類に応じて適宜選択される他の食品原料及び/又は添加剤と一緒に、前記加熱処理混合物を再度加熱するものである。工程1-2の加熱条件は、約80℃以上である限り特に制限されないが、例えば、前記加熱処理混合物を、約80℃以上で約10分間以上加熱してもよく、好ましくは、前記第1の混合物を約90℃以上で約5~約15分間加熱してもよい。
【0016】
工程2においては、工程1で加熱された混合物の品温が約75℃以下となるまで冷却する。その手段としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、工程1で加熱された混合物を放冷することによって、当該混合物に粉体原料などの任意の食品原料を添加することによって、当該混合物をその調製に使用していた加熱装置から別の加熱装置に移すことによって、及び/又は、当該加熱装置の周囲に冷却水を循環させることによって、工程1で加熱された混合物の温度を下げてもよい。
【0017】
工程3においては、前記第1の酵母エキスを添加するが、それを75℃よりも高い温度では加熱処理しない。前記第1の酵母エキスを添加するときの混合物の品温は、当該混合物が固化していない限り特に制限されないが、例えば、約50℃~約75℃であってもよく、好ましくは約60℃~約70℃である。
【0018】
前記第2の酵母エキスを80℃以上の温度で予め加熱処理した場合には、工程1~3のどの工程で添加してもよい。この加熱処理の方法は、先味から中味にかけての香ばしい風味を生じるようになる限り特に制限されないが、例えば、前記第2の酵母エキスを適量の油脂と混合し、その品温が80℃以上となる条件で加熱してもいいし、前記第2の酵母エキスに約90℃以上の熱風を当てるガス流動層焙煎により加熱してもよい。
【0019】
本発明のルウの製造方法は、ルウの製造において通常採用され得る工程、例えば、工程3で得られた混合物を冷却する工程、容器に充填する工程、固化させる工程、及び/又は、粉砕する工程などをさらに含んでもよい。また、本発明の製造方法は、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の食品原料及び/又は任意の添加剤を添加する工程などをさらに含んでもよい。前記任意の食品原料及び/又は前記任意の添加剤は、特に限定されないが、例えば、水系原料、粉体原料(デキストリンを含む)、香辛料、調味料、乳化剤、増粘剤、酸化防止剤(ビタミンC、及びビタミンEなど)、香料、甘味料、着色料、又は、酸味料などを含んでもよい。
【0020】
別の態様では、本発明は、澱粉質原料と、油脂と、75℃より高い温度で加熱処理されていない酵母エキスと、80℃以上の温度で加熱処理された酵母エキスと、を含むルウに関している。上述のように、本発明のルウは、強い加熱処理の有無の点で異なる特性を有する酵母エキスを併せて含んでいるため、先味から後味までバランスよく風味付けされており、そのコクや旨味が相乗的に増強されている。
【0021】
なお、強い加熱処理の有無によって酵母エキスの風味が異なることは、後述の実施例から明らかであるが、酵母エキスのような天然物に由来する食品原料は、多種多様な化学物質を含む組成物であり、これらの化学物質の相互作用によって風味が異なるものである。そして、風味を構成する成分に関しては、微量成分の寄与も無視できないが、微量成分の中には、分析機器の検出限界未満の量の化学物質も存在し得る。そのような微量成分のすべての存在を明らかにし、どの化学物質又はどの化学物質の組合せが、強い加熱処理の有無による酵母エキスの風味の違いに寄与しているかを特定することは、不可能であるか、およそ実際的でない。そのため、「75℃より高い温度で加熱処理されていない酵母エキス」や「80℃以上の温度で加熱処理された酵母エキス」という用語を使用しても、本発明は明確なものとして扱われる。
【0022】
本発明のルウは、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の食品原料及び/又は任意の添加剤などをさらに含んでもよい。また、本発明のルウを用いて調製されるソースの種類は、特に限定されないが、例えば、カレー、シチュー、ハヤシライスソース、ハッシュドビーフ、チャウダー、パスタなどの麺用ソース、スープ、及びその他各種ソースであってもよい。
【0023】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例0024】
〔調製例〕
コーンスターチ13質量部及び植物油脂15質量部を加熱釜に投入して加熱撹拌し、常法により加熱処理混合物を作製した。この加熱処理混合物を冷却した後、酵母エキス1、食塩、砂糖、カレーパウダー、デキストリン、乳化剤及びその他の調味原料を添加し、再度加熱して品温が90℃の状態で10分間加熱処理し、流動状のルウを作製した。流動状のルウを冷却し、品温が70℃まで下がったら酵母エキス2を添加し、さらに品温を下げ、その後、冷却固化して塊状のルウを作製した。塊状のルウを粉砕機で粉砕することによって、実施例1並びに比較例1及び2の粉状のルウ(マイクロ粉砕ルウ)を作製した。ルウの組成を表1に示す。なお、酵母エキス1と酵母エキス2は、添加のタイミングが異なるが、原料としては同じ酵母エキスである。
【0025】
【0026】
〔試験例〕
40質量部のルウと、300質量部の湯とを加熱釜に投入して沸騰させて、カレーソースを作製した。作製したカレーソースの風味を5名のパネリストが評価した。比較例1のルウで作製されたソースでは、酵母エキス由来の好ましい香気を中味から後味にかけて感じたが、先味は弱く、また、後味においてややえぐみも感じた。比較例2のルウで作製されたソースでは、酵母エキス由来の好ましい香気を先味から中味にかけて強く感じたが、後味は弱かった。これに対して、実施例1のルウで作製されたソースでは、先味、中味、及び後味のすべてにおいて酵母エキス由来の好ましい香気を強く感じた。
【0027】
実施例1のルウに配合されている酵母エキス2(強く加熱処理されていないもの)は、比較例1のルウに配合されているものよりも量が少なく、実施例1のルウに配合されている酵母エキス1(強く加熱処理されているもの)は、比較例2のルウに配合されているものよりも量が少ないが、実施例1のルウで作製されたソースで感じられた後味における風味の強度は、比較例1のルウで作製されたソースの風味の強度と同程度であり、実施例1のルウで作製されたソースで感じられた先味における風味の強度は、比較例2のルウで作製されたソースの風味と同程度であった。各酵母エキスの配合量は少なかったにもかかわらず、それぞれに由来する風味が同程度であったということは、2種の酵母エキスを配合することにより相乗効果が発揮されたと考えられる。
【0028】
以上より、75℃より高い温度で加熱処理されていない酵母エキスと、80℃以上の温度で加熱処理された酵母エキスとをルウに配合することにより、ルウのコクや旨味を増強できることが分かった。したがって、畜肉エキスや乳素材を使用しなくてもルウのコクや旨味を増強することが可能となる。