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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131107
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】塩化コバルト水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20220831BHJP
   C22B 3/28 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029862
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大乗 孔威
(72)【発明者】
【氏名】柴山 敬介
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 大祐
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA19
4K001BA06
4K001BA19
4K001DB02
4K001DB04
4K001DB18
4K001DB21
4K001DB23
4K001DB27
4K001DB34
(57)【要約】
【課題】鉄濃度が低減された塩化コバルト水溶液を得ることができる塩化コバルト水溶液の製造方法を提供する。
【解決手段】抽出剤として3級アミンを含む有機溶媒を循環使用した溶媒抽出法による塩化コバルト水溶液の製造方法である。この方法は、コバルトおよび鉄を含む塩化ニッケル水溶液である抽出始液と有機溶媒とを接触させて、有機溶媒にコバルトおよび鉄を抽出する抽出段と、抽出段から排出された有機溶媒と酸性水溶液とを接触させて、有機溶媒に含まれるコバルトを水相に逆抽出して塩化コバルト水溶液を得る逆抽出段とを有する。塩化コバルト水溶液の鉄濃度が管理値を超えた場合に、有機溶媒の2級アミン濃度を現在の濃度よりも低減する操作を行なう。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抽出剤として3級アミンを含む有機溶媒を循環使用した溶媒抽出法による塩化コバルト水溶液の製造方法であって、
コバルトおよび鉄を含む塩化ニッケル水溶液である抽出始液と前記有機溶媒とを接触させて、前記有機溶媒にコバルトおよび鉄を抽出する抽出段と、
前記抽出段から排出された前記有機溶媒と酸性水溶液とを接触させて、前記有機溶媒に含まれるコバルトを水相に逆抽出して塩化コバルト水溶液を得る逆抽出段と、を備え、
前記塩化コバルト水溶液の鉄濃度が管理値を超えた場合に、前記有機溶媒の2級アミン濃度を現在の濃度よりも低減する操作を行なう
ことを特徴とする塩化コバルト水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記有機溶媒を冷却して固形化した前記2級アミンを除去する2級アミン除去処理を開始することにより、または前記2級アミン除去処理による前記2級アミンの除去量を増やすことにより、前記有機溶媒の2級アミン濃度を現在の濃度よりも低減する
ことを特徴とする請求項1記載の塩化コバルト水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記抽出始液の塩酸濃度を現在の濃度よりも低くすることにより、前記有機溶媒の2級アミン濃度を現在の濃度よりも低減する
ことを特徴とする請求項1または2記載の塩化コバルト水溶液の製造方法。
【請求項4】
前記抽出始液の酸化還元電位を現在の値よりも低くすることにより、前記有機溶媒の2級アミン濃度を現在の濃度よりも低減する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の塩化コバルト水溶液の製造方法。
【請求項5】
前記3級アミンがトリ-n-オクチルアミン(TNOA)であり、前記2級アミンがジ-n-オクチルアミン(DNOA)である
ことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の塩化コバルト水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩化コバルト水溶液の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は溶媒抽出法により塩化コバルト水溶液を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コバルトは、二次電池材料、特殊鋼や超硬工具に供する合金材料、永久磁石などの素材として用いられる。
【0003】
コバルトを主として含む鉱床は少ない。そのため、ニッケル鉱石や銅鉱石に微量成分として含まれるコバルトを、ニッケルや銅の製錬過程において副産物として回収することが一般的である。
【0004】
コバルトを含むニッケル鉱石や銅鉱石の製錬方法として湿式製錬法と乾式製錬法とがある。特許文献1には湿式製錬法の一つが開示されている。この方法では、ニッケルマットおよびニッケル・コバルト混合硫化物を塩素浸出して浸出液を得る。浸出液はセメンテーション工程、脱鉄工程を経た後、アミン系抽出剤を用いた溶媒抽出工程に送られる。溶媒抽出工程において、浸出液は抽出段に供給され、浸出液中のコバルトが有機相に抽出される。その後、逆抽出段において有機相から水相にコバルトを逆抽出して塩化コバルト水溶液を得る。
【0005】
浸出液には鉄などの不純物も含まれる。抽出段ではコバルトとともに鉄などの特定の不純物も有機相に抽出される。逆抽出段においてコバルトは水相に逆抽出されるが、不純物はその大部分が逆抽出されずに有機相に残る。これにより、純度の高い塩化コバルト水溶液を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-186599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、逆抽出段では有機相に含まれる鉄がわずかに逆抽出されるため、得られた塩化コバルト水溶液はわずかに鉄を含むことになる。鉄は塩化コバルト水溶液を処理して得られるコバルト製品を不純物として汚染する恐れがあるため、塩化コバルト水溶液の鉄濃度を低減することが求められる。
【0008】
アミン系抽出剤は水相中の遊離酸と接触すると、窒素原子が酸のHと結合してカチオンを形成し、酸のアニオンとイオン対を形成して活性化される。このとき水相中に金属錯アニオンが存在すれば、酸のアニオンと金属錯アニオンとの置換反応が進行して平衡状態となる。上記溶媒抽出工程で処理される抽出始液は高濃度の塩化ニッケル水溶液であり、塩化物イオン濃度が高いため、ニッケル以外の金属種の一部(コバルト、鉄、銅、亜鉛等)はクロロ錯イオンとして安定化している。よって、有機中の鉄の逆抽出を防ぐには塩酸添加量を増加させて、酸付加された抽出剤を安定化させ、水相の塩化物イオン濃度を上昇させて鉄のクロロ錯イオンがより安定化する条件に維持させる方策が考えられる。しかし、そうすると、塩酸と、後工程の浄液工程で塩酸を中和するための中和剤が増加するため、薬剤コストが増加する。さらに、なによりも、水相の塩化物イオン濃度を上昇させて鉄のクロロ錯イオンが安定化する条件に維持させるということは、コバルトのクロロ錯イオンも安定化することになる。そのため、コバルトが逆抽出されにくくなり、有機溶媒中に残留するコバルトが増加する。有機溶媒中に残留したコバルトは、中和工程で回収されるため、製品化されずロスとなる。
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、鉄濃度が低減された塩化コバルト水溶液を得ることができる塩化コバルト水溶液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明の塩化コバルト水溶液の製造方法は、抽出剤として3級アミンを含む有機溶媒を循環使用した溶媒抽出法による塩化コバルト水溶液の製造方法であって、コバルトおよび鉄を含む塩化ニッケル水溶液である抽出始液と前記有機溶媒とを接触させて、前記有機溶媒にコバルトおよび鉄を抽出する抽出段と、前記抽出段から排出された前記有機溶媒と酸性水溶液とを接触させて、前記有機溶媒に含まれるコバルトを水相に逆抽出して塩化コバルト水溶液を得る逆抽出段と、を備え、前記塩化コバルト水溶液の鉄濃度が管理値を超えた場合に、前記有機溶媒の2級アミン濃度を現在の濃度よりも低減する操作を行なうことを特徴とする。
第2発明の塩化コバルト水溶液の製造方法は、第1発明において、前記有機溶媒を冷却して固形化した前記2級アミンを除去する2級アミン除去処理を開始することにより、または前記2級アミン除去処理による前記2級アミンの除去量を増やすことにより、前記有機溶媒の2級アミン濃度を現在の濃度よりも低減することを特徴とする。
第3発明の塩化コバルト水溶液の製造方法は、第1または第2発明において、前記抽出始液の塩酸濃度を現在の濃度よりも低くすることにより、前記有機溶媒の2級アミン濃度を現在の濃度よりも低減することを特徴とする。
第4発明の塩化コバルト水溶液の製造方法は、第1~第3発明のいずれかにおいて、前記抽出始液の酸化還元電位を現在の値よりも低くすることにより、前記有機溶媒の2級アミン濃度を現在の濃度よりも低減することを特徴とする。
第5発明の塩化コバルト水溶液の製造方法は、第1~第4発明のいずれかにおいて、前記3級アミンがトリ-n-オクチルアミン(TNOA)であり、前記2級アミンがジ-n-オクチルアミン(DNOA)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鉄濃度が低減された塩化コバルト水溶液を得ることができる塩化コバルト水溶液の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】湿式製錬プロセスの全体工程図である。
図2】溶媒抽出工程の詳細工程図である。
図3】有機溶媒のDNOA濃度と塩化コバルト水溶液の鉄濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の一実施形態に係る塩化コバルト水溶液の製造方法は、ニッケルおよびコバルトを回収する湿式製錬プロセスの溶媒抽出工程に好適に適用される。なお、本実施形態の製造方法は、抽出剤として3級アミンを含む有機溶媒を循環使用した溶媒抽出法により、少なくともコバルトおよび鉄を含む塩化ニッケル水溶液から塩化コバルト水溶液を得る工程であれば、いかなるプロセスの工程にも適用し得る。以下、前記湿式製錬プロセスの溶媒抽出工程に適用する場合を例に説明する。
【0014】
(湿式製錬プロセス)
まず、図1に基づき、前記湿式製錬プロセスを説明する。
湿式製錬プロセスでは、原料であるニッケル硫化物として、ニッケルマットとニッケル・コバルト混合硫化物(MS:ミックスドサルファイド)との2種類が用いられる。
【0015】
ニッケルマットは乾式製錬により得られる。具体的には、ニッケルマットは硫鉄ニッケル鉱を熔錬することで得られる。
【0016】
ニッケル・コバルト混合硫化物は湿式製錬により得られる。具体的には、低品位ラテライト鉱、リモナイト鉱などのニッケル酸化鉱石を加圧酸浸出(HPAL:High Pressure Acid Leaching)し、浸出液から鉄などの不純物を除去した後、硫化水素ガスを浸出液に吹き込んで硫化反応によりニッケル・コバルト混合硫化物を得る。
【0017】
まず、ニッケル・コバルト混合硫化物の一部と後述のセメンテーション残渣とからなるスラリーを塩素浸出工程に供給する。塩素浸出工程では、浸出槽に吹き込まれる塩素ガスの酸化力によって、スラリー中の固形物に含まれる金属が実質的に全て液中に浸出される。塩素浸出工程から排出されたスラリーは浸出液と浸出残渣とに固液分離される。
【0018】
ニッケルマットは、粉砕工程において粉砕した後、レパルプしてマットスラリーとし、セメンテーション工程に供給する。また、セメンテーション工程には、ニッケル・コバルト混合硫化物の残部も供給される。セメンテーション工程には塩素浸出工程で得られた浸出液が供給されている。浸出液には回収目的金属であるニッケルやコバルトのほか、不純物として銅、鉄、鉛、マンガン、亜鉛、砒素、クロムなどが含まれている。
【0019】
浸出液には2価の銅クロロ錯イオンが含まれている。ニッケルマットの主成分は二硫化三ニッケル(Ni)と金属ニッケル(Ni)である。ニッケル・コバルト混合硫化物の主成分は硫化ニッケル(NiS)である。セメンテーション工程では、浸出液とニッケルマット、およびニッケル・コバルト混合硫化物とを接触させて、銅とニッケルとの置換反応を行なう。これにより、ニッケルマット、およびニッケル・コバルト混合硫化物中のニッケルが液に置換浸出され、浸出液中の銅イオンが硫化銅(CuS)または金属銅(Cu)の形態で析出する。固液分離により得られたセメンテーション残渣は塩素浸出工程に供給される。
【0020】
セメンテーション工程から得られたセメンテーション終液は脱鉄工程に供給される。脱鉄工程では酸化剤と中和剤を反応槽に添加する酸化中和反応により、鉄を水酸化物として固定化し、ろ過機を用いて固液分離することで除去する。脱鉄工程においてセメンテーション終液に含まれる不純物である鉄、砒素およびクロムが除去される。
【0021】
脱鉄工程から得られた液を抽出始液として溶媒抽出工程に供給する。溶媒抽出工程では、抽出始液に含まれるコバルトを溶媒抽出により分離し、塩化ニッケル水溶液と塩化コバルト水溶液とを得る。溶媒抽出工程の詳細は後に説明する。
【0022】
塩化ニッケル水溶液は浄液工程を経てさらに不純物が除去されて高純度塩化ニッケル水溶液となる。高純度塩化ニッケル水溶液は電解給液としてニッケル電解工程に供給される。ニッケル電解工程では電解採取により電気ニッケルが製造される。
【0023】
塩化コバルト水溶液は浄液工程を経てさらに不純物が除去されて高純度塩化コバルト水溶液となる。高純度塩化コバルト水溶液は電解給液としてコバルト電解工程に供給される。コバルト電解工程では電解採取により電気コバルトが製造される。
【0024】
(溶媒抽出工程)
図2に溶媒抽出工程の詳細を示す。なお、図2において破線は有機相の流れを意味し、実線は水相の流れを意味する。
溶媒抽出工程には抽出始液として脱鉄工程の処理後液(コバルトおよび鉄を含む塩化ニッケル水溶液)が供給される。抽出始液は抽出段に供給される。抽出段では、抽出始液と有機溶媒とを接触させて、抽出始液に含まれるコバルトを有機溶媒に抽出する。抽出後の水相は塩化ニッケル水溶液として後工程に送られる。抽出段から排出された有機溶媒は洗浄段に送られ、塩化コバルト水溶液で有機溶媒に微量に含まれる塩化ニッケルの液滴を洗浄除去した後、逆抽出段に送られる。逆抽出段では、有機溶媒と希塩酸などの酸性水溶液とを接触させて、有機溶媒に含まれるコバルトを水相に逆抽出して塩化コバルト水溶液を生成する。生成された塩化コバルト水溶液は後工程に送られる。逆抽出後の有機溶媒は抽出段に繰り返される。
【0025】
抽出始液には鉄、亜鉛、銅などの不純物も含まれる。抽出段ではコバルトとともに鉄、亜鉛、銅も有機溶媒に抽出される。コバルトは逆抽出段で水相に逆抽出されるが、鉄、亜鉛、銅はその大部分が逆抽出されずに有機溶媒に残る。有機溶媒の不純物濃度が上昇すると、抽出段におけるコバルトの抽出量が減少したり、塩化ニッケル水溶液や塩化コバルト水溶液に不純物が溶出したりするという問題が生じる。そこで、逆抽出後の有機溶媒の一部は脱亜鉛工程に送られ、鉄、亜鉛、銅などの不純物が除去される。
【0026】
脱亜鉛工程では、有機溶媒に中和剤(アルカリ水溶液)を添加して中和することで、塩酸により活性化されたアミン系抽出剤を中和するとともに、有機溶媒中の鉄、亜鉛、銅を水相側に移行させて中和澱物とする。脱亜鉛工程で得られた、有機溶媒、アルカリ水溶液、中和澱物の混合物は、油水分離および固液分離され、有機溶媒は活性化工程に送られる。活性化工程に送られた有機溶媒は酸性水溶液を添加された後、抽出段に繰り返される。
【0027】
逆抽出段では有機溶媒に含まれる鉄がわずかに逆抽出されるため、得られた塩化コバルト水溶液はわずかに鉄を含むことになる。鉄は塩化コバルト水溶液を処理して得られるコバルト製品を不純物として汚染する恐れがあるため、塩化コバルト水溶液の鉄濃度を低減することが求められる。
【0028】
ところで、有機溶媒は有機抽出剤を芳香族炭化水素などの希釈剤で希釈したものである。ニッケルとコバルトとを分離する溶媒抽出には、有機抽出剤としてアミン系抽出剤が好適に用いられる。中でも3級アミン抽出剤は塩酸を付加して活性化することにより金属クロロ錯イオンの高い抽出能力を保有し、ニッケルとコバルトとの選択性に優れる。3級アミン抽出剤としてトリ-n-オクチルアミン(TNOA)が挙げられる。
【0029】
しかし、アミン系化合物は酸性条件下で加水分解すること、酸化されてヒドロキシルアミンなどに分解することが知られている。したがって、有機溶媒を繰り返し使用すると、有機溶媒に含まれるアミン系抽出剤が分解して劣化物が生成する。有機抽出剤として3級アミンを用いた場合には、3級アミンが劣化して2級アミンが生成される。例えば、TNOAはアルキル鎖が1つ減少したジ-n-オクチルアミン(DNOA)へと分解する。
【0030】
ここで、本願発明者らは、有機溶媒の2級アミン濃度が高くなるほど、逆抽出段で得られる塩化コバルト水溶液の鉄濃度が高くなるという知見を得た。これは、逆抽出段における水相の塩化物イオン濃度では、3級アミンよりも2級アミンのほうが、鉄が逆抽出されやすいためであると考えられる。すなわち、劣化物である2級アミンの存在が逆抽出段において鉄が逆抽出される要因であり、塩化コバルト水溶液に鉄が含まれる要因であるといえる。
【0031】
そこで、本実施形態では、有機溶媒の2級アミン濃度を制御することにより、塩化コバルト水溶液の鉄濃度を調整する。具体的には、逆抽出段で得られた塩化コバルト水溶液の鉄濃度を定期または不定期で測定する。そして、鉄濃度が管理値を超えた場合に、有機溶媒の2級アミン濃度を現在の濃度よりも低減する操作を行なう。ここで、鉄濃度の管理値は、湿式製錬プロセスの操業条件に合わせて任意の値に設定できる。鉄濃度の管理値は、例えば、塩化コバルト水溶液の鉄濃度として許容される上限を定めた基準値に安全係数(例えば0.8)を乗じた値に設定すればよい。鉄濃度の管理値は、例えば、2.0mg/Lとしてもよいし、1.0mg/Lとしてもよい。2級アミン濃度を低減することで、塩化コバルト水溶液の鉄濃度を管理値以下に低減できる。
【0032】
有機溶媒の2級アミン濃度を現在の濃度よりも低減する操作は、この目的が達成できる操作であれば特に限定されないが、例えば、特開2018-131682号公報に開示された方法を選択できる。
【0033】
具体的には、有機溶媒を循環させる循環流路から一部の有機溶媒を抜き取り、有機溶媒を冷却して劣化物(2級アミン)を固形化する。その後、固液分離により有機溶媒から固形化された劣化物を除去する。劣化物が除去された有機溶媒は循環流路に戻される。また、劣化物を除去した分、新規の有機抽出剤(3級アミン)を循環流路に供給する。これにより、循環流路を循環する有機溶媒の2級アミン濃度を低減できる。以下、この処理を2級アミン除去処理という。
【0034】
2級アミン除去処理は塩化コバルト水溶液の鉄濃度が管理値を超えた場合に開始すればよい。すなわち、塩化コバルト水溶液の鉄濃度が管理値以下の場合は有機溶媒の冷却および劣化物の除去を行なわず、塩化コバルト水溶液の鉄濃度が管理値を超えている場合に有機溶媒の冷却および劣化物の除去を行なえばよい。
【0035】
また、2級アミン除去処理は塩化コバルト水溶液の鉄濃度に関わらず常に行なってもよい。この場合、塩化コバルト水溶液の鉄濃度が管理値を超えた場合に2級アミンの除去量を増やすように条件を変更する。例えば、循環流路から抜き取り、冷却する有機溶媒の量を増やせば、2級アミンの除去量を増やすことができる。塩化コバルト水溶液の鉄濃度が管理値以下となれば、2級アミンの除去量を減らすように条件を変更してもよい。
【0036】
塩化コバルト水溶液の鉄濃度が管理値を超えた場合に、2級アミン除去処理とあわせて2級アミンの生成量を低減する操作を行なってもよい。例えば、抽出始液の塩酸濃度を低くすることにより、2級アミンの生成量を低減することができる。脱鉄工程の処理後液は塩酸を添加した後に抽出始液として抽出段に供給される。この際の塩酸添加量を少なくすれば抽出始液の塩酸濃度が低くなる。抽出始液の塩酸濃度が低いほど3級アミンの塩酸を介在した加水分解が抑制されるため、2級アミンの生成量が減少する。なお、抽出始液の塩酸濃度を低くすればpHが上昇する。抽出始液のpHは0.8~1.2の範囲で調整することが好ましい。
【0037】
塩化コバルト水溶液の鉄濃度が管理値を超えた場合に、2級アミン除去処理を開始する、または、2級アミン除去処理による2級アミンの除去量を増やすとともに、抽出始液の塩酸濃度を現在の濃度よりも低くすれば、有機溶媒の2級アミン濃度がより低減されやすい。塩化コバルト水溶液の鉄濃度が管理値を超えた場合に、2級アミン除去処理による2級アミンの除去量を維持しつつ、抽出始液の塩酸濃度を現在の濃度よりも低くしてもよい。この操作によっても、有機溶媒の2級アミン濃度を低減できる。なお、塩化コバルト水溶液の鉄濃度が管理値以下となれば、抽出始液の塩酸濃度を高くしてもよい。
【0038】
抽出始液の塩酸濃度を現在の濃度よりも低くする操作を単独で実施してもよい。循環使用される有機溶媒は、水相側に溶解する等して若干量をロスする。そこで、若干量の新規の有機抽出剤(3級アミン)を継続的に循環流路に供給している。よって、抽出始液の塩酸濃度を現在の濃度よりも低くする操作を単独で実施しても、有機溶媒の2級アミン濃度を現在の濃度よりも低減できるときもある。
【0039】
特開2015-209582号公報に開示されているように、抽出始液の酸化還元電位を低くすることによっても、2級アミンの生成量を低減することができる。抽出始液に還元剤を添加すれば、抽出始液の酸化還元電位を低下させることができる。還元剤としては、特に限定されず、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムなどを用いることができる。中でも、脱ハロゲン剤として一般的に用いられており、硫酸根の生成が少ないチオ硫酸ナトリウムを用いることが好ましい。抽出始液の酸化還元電位は550mV以下(Ag/AgCl電極基準、以下同じ)に調整することが好ましい。
【0040】
塩化コバルト水溶液の鉄濃度が管理値を超えた場合に、2級アミン除去処理を開始する、または、2級アミン除去処理による2級アミンの除去量を増やすとともに、抽出始液の酸化還元電位を現在の値よりも低くすれば、有機溶媒の2級アミン濃度がより低減されやすい。塩化コバルト水溶液の鉄濃度が管理値を超えた場合に、2級アミン除去処理による2級アミンの除去量を維持しつつ、抽出始液の酸化還元電位を現在の値よりも低くしてもよい。この操作によっても、有機溶媒の2級アミン濃度を低減できる。なお、塩化コバルト水溶液の鉄濃度が管理値以下となれば、抽出始液の酸化還元電位を高くしてもよい。
【0041】
抽出始液の酸化還元電位を現在の値よりも低くする操作を単独で実施してもよい。循環使用される有機溶媒は、水相側に溶解する等して若干量をロスする。そこで、若干量の新規の有機抽出剤(3級アミン)を継続的に循環流路に供給している。よって、抽出始液の酸化還元電位を現在の値よりも低くする操作を単独で実施しても、有機溶媒の2級アミン濃度を現在の濃度よりも低減できるときもある。
【0042】
ここまで、本発明の実施形態として、塩化コバルト水溶液の鉄濃度を管理値として定める方法について説明してきたが、図3に示すように塩化コバルト水溶液の鉄濃度と有機溶媒のDNOA濃度には正の相関があるため、有機溶媒のDNOA濃度を管理値として定めてもよい。DNOA濃度の管理値は、例えば、4.0体積%としてもよいし、2.0体積%としてもよい。
【実施例0043】
つぎに、実施例を説明する。
図1に示す湿式製錬プロセスの操業を行なった。図2に示す溶媒抽出工程において、抽出始液としてコバルトおよび鉄を含む塩化ニッケル水溶液を用い、溶媒抽出により塩化ニッケル水溶液と塩化コバルト水溶液とを得た。溶媒抽出工程では、抽出段3段、洗浄段3段、逆抽出段3段からなる交流多段方式のミキサーセトラーを用いた。有機抽出剤としてTNOAを用いた。有機溶媒の初期のTNOA濃度は25~30体積%であり、残部は希釈剤である。TNOAとして花王ケミカルズ株式会社製ファーミンT-08を、希釈剤として丸善石油化学株式会社製スワゾール1800を用いた。また、逆抽出段で有機溶媒と接触させる酸性水溶液としてpH0.7~1.1の希塩酸を用いた。
【0044】
操業中、有機溶媒および逆抽出段で得られた塩化コバルト水溶液の各種パラメータを測定した。有機溶媒のDNOA濃度を液体高速クロマトグラフにより測定した。有機溶媒の鉄濃度を蛍光X線分析装置により測定した。塩化コバルト水溶液のコバルト濃度を蛍光X線分析装置により測定し、コバルトが全てCoCl由来と仮定して塩素濃度を求めた。塩化コバルト水溶液の鉄濃度を原子吸光法により測定した。異なる期間(10期間)における各種パラメータの値を表1にまとめる。
【0045】
【表1】
【0046】
また、有機溶媒のDNOA濃度と塩化コバルト水溶液の鉄濃度との関係を図3のグラフに示す。図3のグラフより、有機溶媒のDNOA濃度が高くなるほど、塩化ニッケル水溶液の鉄濃度が高くなることが分かる。これより、有機溶媒のDNOA濃度を制御することにより、塩化コバルト水溶液の鉄濃度を調整できることが確認された。
【0047】
具体的には、塩化コバルト水溶液の鉄濃度を1.5mg/L以下にするには、有機溶媒のDNOA濃度を3.8体積%以下にすればよい。また、塩化コバルト水溶液の鉄濃度を1.0mg/L以下にするには、有機溶媒のDNOA濃度を2.6体積%以下にすればよい。
【0048】
なお、有機溶媒の流量、鉄濃度、塩化コバルト水溶液の流量、塩素濃度も、抽出能力に関わるパラメータである。これらのパラメータも時期によりばらつきがあるが、塩化コバルト水溶液の鉄濃度との相関は確認されなかった。したがって、有機溶媒のDNOA濃度を基準として、塩化コバルト水溶液の鉄濃度を調整することが好ましいといえる。
図1
図2
図3