(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131257
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】積層体の研削方法、多結晶基板の製造方法、および、積層体
(51)【国際特許分類】
C30B 35/00 20060101AFI20220831BHJP
C30B 29/36 20060101ALI20220831BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
C30B35/00
C30B29/36 A
H01L21/304 622F
H01L21/304 631
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030112
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】畑中 浩
【テーマコード(参考)】
4G077
5F057
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BE08
4G077DB04
4G077DB07
4G077EG11
4G077FG11
4G077FK20
5F057AA25
5F057AA41
5F057BA15
5F057BB03
5F057BB09
5F057BC05
5F057CA16
5F057CA25
5F057DA01
5F057DA11
5F057DA29
5F057DA38
5F057DA40
5F057EB16
5F057EB20
(57)【要約】
【課題】支持基板と多結晶膜との積層体を研削するときに研削粉を効率よく排出することで、研削用工具の摩耗を抑制して、研削用工具の長寿命化によりコストを低減することができる、積層体の研削方法、多結晶基板の製造方法、および、積層体を提供する。
【解決手段】成膜用支持基板と、当該成膜用支持基板の成膜対象面に化学的気相蒸着法により成膜した多結晶膜と、を備える積層体をコアドリルにより円盤状に研削する、積層体の研削方法であって、前記コアドリルにより研削する研削対象部位の一部に、前記積層体の厚さ方向に貫通した研削粉排出部を形成する排出部形成工程と、前記排出部形成工程後、前記研削対象部位を前記コアドリルで研削して円盤状の積層体を得る研削加工工程と、を備え、前記排出部形成工程において、前記研削対象部位の内側には前記研削粉排出部を形成しない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜用支持基板と、当該成膜用支持基板の成膜対象面に化学的気相蒸着法により成膜した多結晶膜と、を備える積層体をコアドリルにより円盤状に研削する、積層体の研削方法であって、
前記コアドリルにより研削する研削対象部位の一部に、前記積層体の厚さ方向に貫通した研削粉排出部を形成する排出部形成工程と、
前記排出部形成工程後、前記研削対象部位を前記コアドリルで研削して円盤状の積層体を得る研削加工工程と、を備え、
前記排出部形成工程において、前記研削対象部位の内側には前記研削粉排出部を形成しない、積層体の研削方法。
【請求項2】
前記研削粉排出部が、前記積層体の前記厚さ方向に貫通した貫通孔、または、前記研削対象部位の一部から前記積層体の外周縁に亘って前記厚さ方向に貫通したスリットである、請求項1に記載の積層体の研削方法。
【請求項3】
前記コアドリルが、スリットの無い一枚刃を有し、センターピンおよびセンタードリルを有さない、請求項1または2に記載の積層体の研削方法。
【請求項4】
前記研削対象部位の外周と前記研削粉排出部が交わる2カ所の交点の直線距離が、1.5mm~5mmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体の研削方法。
【請求項5】
前記積層体において、前記研削対象部位が、互いに重ならないように複数設けられている、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体の研削方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の積層体の研削方法により得た前記円盤状の積層体から前記成膜用支持基板を除去して、多結晶基板を得る除去工程を含む、多結晶基板の製造方法。
【請求項7】
前記多結晶基板が、炭化ケイ素多結晶基板である、請求項6に記載の多結晶基板の製造方法。
【請求項8】
成膜用支持基板と、当該成膜用支持基板の成膜対象面に化学的気相蒸着法により成膜した多結晶膜と、を備える積層体であって、
コアドリルにより研削する研削対象部位と、前記研削対象部位の一部に形成された前記積層体の厚さ方向に貫通した研削粉排出部と、を備え、
前記研削粉排出部が、前記研削対象部位の内側には形成されていない、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の研削方法、多結晶基板の製造方法、および、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(以下、「SiC」と記載することがある。)は、シリコン(以下、「Si」と記載することがある。)と比較すると、3倍程度の大きなバンドギャップ(4H-SiCで、3.8eV程度、6H-SiCでは、3.1eV程度、Siは1.1eV程度)と高い熱伝導率(5W/cm・K程度、Siは1.5W/cm・K程度)を有する。このことから、近年、パワーデバイス用途の基板材料として単結晶の炭化ケイ素が使用され始めている。
【0003】
例えば、従来用いられてきたSiパワーデバイスと比較して、SiCパワーデバイスは5倍~10倍程度大きい耐電圧と数百度以上高い動作温度を実現し、さらに素子の電力損失を1/10程度に低減することができるため、鉄道車両用インバーターなどで実用化されている。
【0004】
通常、炭化ケイ素単結晶基板は、昇華再結晶法(改良レーリー法)と呼ばれる気相法で作製され(例えば非特許文献1参照)、所望の直径および厚さに加工される。
【0005】
改良レーリー法は、固体状の炭化ケイ素原料(通常は粉末状)を高温(2,400℃程度以上)で加熱・昇華させて、不活性ガス雰囲気中を昇華したシリコン原子と炭素原子が2,400℃の蒸気として拡散により輸送され、原料よりも低温に設置された種結晶上に過飽和となって再結晶化することにより塊状の単結晶の炭化ケイ素を育成する製造方法である。
【0006】
しかし、この改良レーリー法は、プロセス温度が2,400℃以上と非常に高いため、結晶成長の温度制御や対流制御、結晶欠陥の制御が非常に難しい。そのため、この方法で作製された単結晶炭化ケイ素基板には、マイクロパイプと呼ばれる結晶欠陥やその他の結晶欠陥(積層欠陥等)が多数存在し得ることから、電子デバイス用途に耐え得る高品質の結晶の基板を歩留まりよく製造することが極めて難しい。
【0007】
その結果、電子デバイス用に用いることのできる結晶欠陥の少ない高品質な炭化ケイ素単結晶基板は非常に高額なものとなってしまい、そのような炭化ケイ素単結晶基板を用いたデバイスも高額なものになっていた。このことから、炭化ケイ素単結晶基板が普及することの妨げとなっていた。
【0008】
そこで、近年、炭化ケイ素単結晶基板と炭化ケイ素多結晶基板を準備し、前記炭化ケイ素単結晶基板と前記炭化ケイ素多結晶基板とを貼り合わせる工程を行い、その後、前記炭化ケイ素単結晶基板を薄膜化する工程を行い、炭化ケイ素多結晶基板上に炭化ケイ素単結晶薄板層を形成した基板を製造することが提案されている(例えば非特許文献2参照)。
【0009】
この製造方法によれば、炭化ケイ素単結晶基板の厚さを従来に比べ数分の一から数百分の一にまで減少させることができ、よって、従来のように炭化ケイ素基板のすべてを高額な、高品質の炭化ケイ素単結晶で構成する場合に比べて炭化ケイ素基板のコストを大幅に低減させることができる。また、結晶欠陥の少ない高品質な炭化ケイ素単結晶層上にパワーデバイス等の素子を形成することができるため、デバイス性能の向上および製造歩留りを大きく改善させることができる。
【0010】
このような炭化ケイ素単結晶基板と炭化ケイ素多結晶基板とを貼り合わせる工程において、炭化ケイ素多結晶基板は緻密で高純度であると共に、高平坦度であることが求められる。このため、この炭化ケイ素多結晶基板の製造には化学的気相蒸着法(以下、「CVD法」と記載することがある。)が用いられる。
【0011】
特許文献1には、化学的気相蒸着法(CVD法)を用いた炭化ケイ素多結晶基板の製造方法が記載されている。それによれば、CVD法により黒鉛支持基板の表面に炭化ケイ素を析出させ、所望の膜厚に成膜した後、黒鉛支持基板を除去して炭化ケイ素多結晶を得ることができる。得られた炭化ケイ素多結晶は、焼結法で製造された炭化ケイ素多結晶に比較して緻密で高純度であり、耐食性、耐熱性、強度特性にも優れている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Yu. M. Tairov and V. F. Tsvetkov: J.of Cryst.Growth,43(1978)p.209
【非特許文献2】精密工学会誌,2017, 83巻, 9号, p.833-836
【特許文献】
【0013】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ここで、黒鉛製の支持基板に炭化ケイ素等の多結晶膜を成膜したのちに、黒鉛製の支持基板を除去して多結晶基板を製造する方法の一例として、黒鉛製の支持基板と多結晶膜を成膜して得られる多結晶膜との積層体から、コアドリルで所望の大きさに研削して分離した積層体から黒鉛製の支持基板を除去して多結晶基板を得る方法が考えられる。
【0015】
この方法により多結晶基板を製造する場合、特に硬度が高い炭化ケイ素の場合には、成膜して得られた積層体を研削して円盤状積層体を分離するときに、研削により発生した研削粉が砥石と積層体との間に挟まることがある。砥石と積層体の間に研削粉が挟まった状態で研削すると砥石への負荷が大きくなり、砥石の摩滅等による研削不良が発生し得る。そこで、研削条件や砥石の適正化や、マイクロバブル(研削水)を用いること等により研削により発生した研削粉の排出の改善が行われてきたが、コストや加工時間が問題となっていた。
【0016】
また、例えば、多結晶膜と支持基板との積層体からコアドリル砥石を用いて円盤状積層体を分離する場合がある。すなわち、
図4に示したように、ガラス板Gに固定した、成膜対象面(おもて面110、裏面120)を有するカーボン製の成膜用支持基板100と炭化ケイ素多結晶膜200との積層体300(
図4(A))から、コアドリルC’を用いて積層体300を研削して円盤状積層体300Cを分離する(
図4(B))。さらに、オーブンH等を用いて円盤状積層体300Cを加熱し、成膜用支持基板100を燃焼除去することにより多結晶基板200Cを得るというものである。
【0017】
この方法においては、コアドリルの先端砥粒の形成部は平坦な形状のため、加工物である積層体300に対して研削抵抗が大きく、また、切削粉の排出性が非常に悪いため、砥石の摩滅などの研削不良を発生させる不具合があった。このことから、
図5に示すように、スリットSを設けたコアドリルC’を用いることで研削粉の排出効率を改善することが試みられてきた。
【0018】
コアドリルC’は、軸部C1と砥石C3’を保持するホルダーC2と、砥石C3’を有しており、円盤状積層体300Cの中心に穴があかないようにセンタードリルやセンターピンは備えていない。砥石C3’の厚さは0.4mm~1.0mm程度とすることができる。砥石C3’にはスリットSが4箇所設けられており、研削中に発生した研削粉がスリットSから砥石C3’の内部に取りこまれて、研削箇所から研削粉を排除することができる。ここで、スリットSの幅は5mm~20mm程度とすることかできる。
【0019】
しかしながら、スリットSを設けたコアドリルC’を用いても、砥石C3’の研削箇所から研削粉を効率的に排除することは難しく、研削粉が砥石と基板との間に挟まって研削負荷が高くなることを抑制することが困難であった。
【0020】
従って、本発明は、上記のような問題点に着目し、支持基板と多結晶膜との積層体を研削するときに研削粉を効率よく排出することで、研削用工具の摩耗を抑制して、研削用工具の長寿命化によりコストを低減することができる、積層体の研削方法、多結晶基板の製造方法、および、積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の積層体の研削方法は、成膜用支持基板と、当該成膜用支持基板の成膜対象面に化学的気相蒸着法により成膜した多結晶膜と、を備える積層体をコアドリルにより円盤状に研削する、積層体の研削方法であって、前記コアドリルにより研削する研削対象部位の一部に、前記積層体の厚さ方向に貫通した研削粉排出部を形成する排出部形成工程と、前記排出部形成工程後、前記研削対象部位を前記コアドリルで研削して円盤状の積層体を得る研削加工工程と、を備え、前記排出部形成工程において、前記研削対象部位の内側には前記研削粉排出部を形成しない。
【0022】
本発明の積層体の研削方法において、前記研削粉排出部が、前記積層体の厚さ方向に貫通した貫通孔、または、前記研削対象部位の一部から前記積層体の外周縁に亘って前記厚さ方向に貫通したスリットであってもよい。
【0023】
本発明の積層体の研削方法において、前記コアドリルが、スリットの無い一枚刃を有し、センターピンおよびセンタードリルを有さなくてもよい。
【0024】
本発明の積層体の研削方法において、前記研削対象部位の外周と前記研削粉排出部が交わる2カ所の交点の直線距離が、1.5mm~5mmであってもよい。
【0025】
本発明の積層体の研削方法において、前記積層体において、前記研削対象部位が、互いに重ならないように複数設けられていてもよい。
【0026】
本発明の多結晶基板の製造方法は、本発明の積層体の研削方法により得た前記円盤状の積層体から前記成膜用支持基板を除去して、多結晶基板を得る除去工程を含む。
【0027】
本発明の多結晶基板の製造方法において、前記多結晶基板が、炭化ケイ素多結晶基板であってもよい。
【0028】
本発明の積層体は、成膜用支持基板と、当該成膜用支持基板の成膜対象面に化学的気相蒸着法により成膜した多結晶膜と、を備える積層体であって、コアドリルにより研削する研削対象部位と、前記研削対象部位の一部に形成された前記積層体の厚さ方向に貫通した研削粉排出部と、を備え、前記研削粉排出部が、前記研削対象部位の内側には形成されていない。
【発明の効果】
【0029】
本発明の積層体の研削方法であれば、成膜用支持基板と多結晶膜との積層体を研削するときに研削粉を効率よく排出することができ、コアドリルの摩耗を抑制して、コアドリルの長寿命化によりコストを低減することができる。
【0030】
また、本発明の多結晶基板の製造方法によれば、本発明の積層体の研削方法により成膜用支持基板と多結晶膜との積層体を研削することで、研削粉を効率よく排出することができ、コアドリルの摩耗を抑制して、コアドリルの長寿命化によりコストを低減することができる。
【0031】
本発明の積層体であれば、研削対象部位の一部に形成された積層体の厚さ方向に貫通した研削粉排出部を備えることから、成膜用支持基板と多結晶膜との積層体を研削するときに研削粉を効率よく排出することができ、コアドリルの摩耗を抑制して、コアドリルの長寿命化によりコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本実施形態の積層体の研削方法における積層体を示す平面図である。
【
図2】本実施形態の積層体の研削方法、多結晶基板の製造方法の工程の一例を示す図である。
【
図3】本実施形態の積層体の変形例を示す平面図である。
【
図4】従来の多結晶基板の製造方法の工程の一例を示す図である。
【
図5】
図4に示した従来の多結晶基板の製造方法において用いられるコアドリルの一例を示す図である。
【
図6】
図2に示した本実施形態の積層体の研削方法において用いられるコアドリルの一例を示す図である。
【
図7】
図7(A)は
図1(B)の点線Pで囲まれた部分を拡大して示す拡大図であり、
図7(B)は
図1(B)の点線Qで囲まれた部分を拡大して示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の一実施形態にかかる積層体、積層体の研削方法、多結晶基板の製造方法について、
図1、
図2、
図6、
図7を参照して説明する。本実施形態の多結晶基板は、多結晶膜の成膜対象となる成膜用支持基板と、成膜用支持基板の成膜対象面に化学的気相蒸着法により成膜した炭化ケイ素、窒化チタン、窒化アルミニウム、炭化チタン、ダイヤモンドライクカーボン等の多結晶膜との積層体をコアドリルにより円盤状に研削して、この円盤状の積層体(円盤状積層体)から成膜用支持基板を除去することにより製造されるものである。
【0034】
本実施形態の積層体、積層体の研削方法、多結晶基板の製造方法は、炭化ケイ素多結晶等の硬度の高い多結晶膜を成膜して多結晶基板を製造する場合に有効であることから、本実施形態では、炭化ケイ素多結晶膜を成膜して、炭化ケイ素多結晶基板を製造する場合を例示して説明する。本実施形態の方法により製造された炭化ケイ素多結晶基板は、例えば、炭化ケイ素単結晶基板と貼り合わせることにより、パワーデバイス用の基板として用いることができる。
【0035】
[積層体の研削方法および積層体]
本実施形態の積層体の研削方法は、成膜用支持基板100と、成膜用支持基板100の成膜対象面(
図2(A)のおもて面110と裏面120)に化学的気相蒸着法により成膜した炭化ケイ素多結晶膜200と、を備える積層体300の研削方法であり、炭化ケイ素多結晶膜200が成膜した面に設けられた、コアドリルCにより研削する研削対象部位310の一部に、積層体300の厚さ方向に貫通した研削粉排出部330を形成する排出部形成工程と、排出部形成工程後、研削対象部位310をコアドリルCで研削して、研削対象部位310の内側部分を分離して円盤状の積層体(円盤状積層体320)を得る研削加工工程と、を備える。また、排出部形成工程において、円盤状積層体320となる箇所を研削しないように、研削対象部位310の内側には研削粉排出部330を形成しない。
【0036】
また、本実施形態の積層体は、
図1(B)、
図2(B)に示す積層体300Aである。積層体300Aは、成膜用支持基板100と、成膜用支持基板100の成膜対象面に化学的気相蒸着法により成膜した炭化ケイ素多結晶膜200と、を備える積層体であって、コアドリルCにより研削する研削対象部位310と、研削対象部位310の一部に形成された積層体300Aの厚さ方向に貫通した研削粉排出部330と、を備え、研削粉排出部330が、研削対象部位310の内側には形成されていないものである。
【0037】
成膜用支持基板100としては、平行平板状のもの、すなわち、
図2(A)に示すように、成膜対象面がおもて面110と裏面120に相当する平行な平板を好適に用いることができる。本明細書において、平行平板における「平行」は、厳密な平行だけでなく、成膜用支持基板100の平行な面を作成する上で不可避な誤差を有する場合も含む。
【0038】
また、成膜用支持基板100の厚さは、例えば、5mm程度とすることができる。また、成膜用支持基板100に成膜する炭化ケイ素多結晶膜200の厚さは特に限定されず、例えば、500μm~5mm程度とすることができる。また、成膜用支持基板100は、製造する多結晶基板よりも大きく形成されており、直径160μm~400μmとすることができ、例えば直径6インチの多結晶基板を得る場合には、直径160mm程度とすることができる。
【0039】
また、成膜用支持基板100としては、炭化ケイ素多結晶膜200の成膜条件に適用できることや円盤状積層体320からの成膜用支持基板100の除去しやすさを考慮して、カーボン製の支持基板やシリコン製の支持基板を用いることができる。以下の説明においては、成膜用支持基板100としてカーボン製の支持基板を用いる製造工程を例示して説明する。
【0040】
図1(A)は成膜用支持基板100と炭化ケイ素多結晶膜200の積層体300の平面図、
図2(A)は、
図1(A)の線Aにおける断面を示す断面図である。積層体300は、以下に説明するように、化学的気相蒸着法により得ることができる。成膜は、例えば、化学的気相蒸着法に適用可能な成膜装置を用いて、成膜用支持基板100を保持した成膜室内を1000℃~1400℃程度として、成膜室内に原料ガス等を供給して、成膜用支持基板100の成膜対象面(おもて面110、裏面120)に炭化ケイ素多結晶膜200を成膜させることにより行うことができる。
【0041】
原料ガスとしては、炭化ケイ素多結晶膜200を成膜させることができれば、特に限定されず、一般的に炭化ケイ素多結晶膜の成膜に使用されるSi系原料ガス、C系原料ガスを用いることができる。例えば、Si系原料ガスとしては、シラン(SiH4)を用いることができるほか、モノクロロシラン(SiH3Cl)、ジクロロシラン(SiH2Cl2)、トリクロロシラン(SiHCl3)、テトラクロロシラン(SiCl4)などのエッチング作用があるClを含む塩素系Si原料含有ガス(クロライド系原料)を用いることができる。C系原料ガスとしては、例えば、メタン(CH4)、プロパン(C3H8)、アセチレン(C2H2)等の炭化水素を用いることができる。上記のほか、トリクロロメチルシラン(CH3Cl3Si)、トリクロロフェニルシラン(C6H5Cl3Si)、ジクロロメチルシラン(CH4Cl2Si)、ジクロロジメチルシラン((CH3)2SiCl2)、クロロトリメチルシラン((CH3)3SiCl)等の有機珪素化合物を気相で還元熱分解する方法も用いることができる。
【0042】
また、キャリアガスとしては、炭化ケイ素多結晶膜200の成膜を阻害することなく、原料ガスを成膜用支持基板100へ展開することができれば、一般的に使用されるキャリアガスを用いることができる。例えば、熱伝導率に優れ、炭化ケイ素に対してエッチング作用があるH2ガスをキャリアガスとして用いることができる。また、これら原料ガスおよびキャリアガスと同時に、第3のガスとして、不純物ドーピングガスを同時に供給することもできる。例えば、炭化ケイ素多結晶膜200を成膜用支持基板100から分離することで得られる炭化ケイ素多結晶基板の導電型をn型とする場合には窒素(N2)、p型とする場合にはトリメチルアルミニウム(TMA)を用いることができる。
【0043】
炭化ケイ素多結晶膜200を成膜させる際には、上記のガスを適宜混合して供給する。また、所望の炭化ケイ素多結晶膜200の性状に応じて、成膜工程の途中でガスの混合割合、供給量等の条件を変更してもよい。
【0044】
また、炭化ケイ素以外を成膜する場合には、成膜する多結晶に応じてガス、温度、圧力、時間等の成膜条件を設定することができる。窒化チタンの多結晶膜を形成する場合には、TiCl4ガス、N2ガス等を用いることができる。窒化アルミニウムの多結晶膜を形成する場合には、AlCl3ガス、NH3ガス等を用いることができる。炭化チタンの多結晶膜を形成する場合には、TiCl4ガス、CH4ガス等を用いることができる。ダイヤモンドライクカーボンの多結晶膜を形成する場合には、アセチレン等の炭化水素ガスを用いることができる。
【0045】
以上のようにして、
図1(A)、
図2(A)に示すように、成膜用支持基板100と、成膜用支持基板100の成膜対象面に化学的気相蒸着法により成膜した炭化ケイ素多結晶膜200と、を備える積層体300が得られる。なお、炭化ケイ素多結晶膜200の成膜用支持基板100への成膜と、本実施形態の積層体の研削方法の排出部形成工程とは、一つの製造過程の工程として連続して行ってもよいし、例えば積層体を購入して入手する等、非連続の工程であってもよい。
【0046】
(排出部形成工程)
排出部形成工程は、成膜用支持基板100と炭化ケイ素多結晶膜200との積層体300に、研削粉を排出するための研削粉排出部330を形成する工程である。排出部形成工程において、研削粉排出部330は、コアドリルCにより研削する研削対象部位310の一部に積層体300の厚さ方向に貫通して形成される。なお、分離して得られる円盤状積層体320の形状を維持するために、研削対象部位310の内側には研削粉排出部330は形成されない。ここで、
図1(B)は、研削粉排出部330が形成された積層体300Aを示す平面図であり、
図2(B)は、積層体300Aの
図1(B)の線Bの断面を示す断面図である。
【0047】
研削粉排出部330は、積層体300の厚さ方向に貫通して形成される。研削粉排出部330の形状は限定されないが、積層体300の厚さ方向に貫通孔340(例えば、本実施形態では平面視円形状)、または、研削対象部位310の一部から積層体300の外周縁に亘って厚さ方向に貫通したスリット350とすることができる。すなわち、貫通孔340とスリット350の両方が形成されていてもよいし、いずれか一方が形成されていてもよい。また、貫通孔340、スリット350、他の形状の研削粉排出部330を組み合わせてもよい。
【0048】
貫通孔340は、ドリル等を用いて形成することができる。また、スリット350は、円盤状の砥石を回転させて、積層体300の厚さ方向に当てて研削することにより形成することができる。このように、研削粉排出部330が貫通孔340またはスリット350であれば、汎用的な加工用工具を用いて研削粉排出部330を形成することができる。
【0049】
また、
図1(B)、
図2(B)に示す積層体300Aには、研削粉排出部330として、2つの貫通孔340と、2つのスリット350が形成されている。なお、研削粉排出部330を形成する箇所は1箇所でもよく、より効率よく研削粉を排出するために複数箇所形成してもよい。
【0050】
また、研削粉排出部330の幅寸法は5mm以上とすることができる。例えば、研削粉排出部330が貫通孔340である場合には、貫通孔340の直径寸法を5mm以上とすることかでき、研削粉排出部330がスリット350である場合には、スリット350の幅寸法を5mm以上とすることができる。
【0051】
また、研削対象部位310の外周311と研削粉排出部330が交わる2カ所の交点の直線距離は、例えば1.5mm~5mmとすることができる。ここで、
図7(A)は
図1(B)の点線Pで囲まれた部分を拡大して示す拡大図であり、
図7(B)は
図1(B)の点線Qで囲まれた部分を拡大して示す拡大図である。
【0052】
図7(A)に示すように、研削粉排出部330が貫通孔340である場合、2カ所の交点は、研削対象部位310の外周311と貫通孔340の外縁341が交わる2カ所の交点R1、R2を指し、2カ所の交点R1、R2の間の直線距離L1を例えば1.5mm~5mmとすることができる。
図7(B)に示すように、研削粉排出部330がスリット350である場合、2カ所の交点は、研削対象部位310の外周311とスリット350の外縁351が交わる2カ所の交点R3、R4を指し、2カ所の交点R3、R4の間の直線距離L2を例えば1.5mm~5mmとすることができる。これにより、研削対象部位310と研削粉排出部330とが連なる箇所が十分な大きさとなり、コアドリルを用いた研削により発生した研削粉を研削粉排出部330から外部に効率よく排出することができる。
【0053】
次に、排出部形成工程の手順を説明する。まず、積層体300をガラス板Gにワックス等を用いて固定する。ガラス板Gに固定した積層体300を加工装置に保持させる。加工装置には、貫通孔340を形成するためのドリル、または、スリット350を形成するための円板状の砥石が設置されている。加工装置により、貫通孔340、スリット350を形成して、
図1(B)、
図2(B)に示す積層体300Aが得られる。このとき、積層体300が固定されたガラス板Gも一体に研削粉排出部330が形成されている。得られた積層体300Aは研削加工工程に供される。
【0054】
なお、研削粉排出部330を形成する前に、研削対象部位310の位置を明確にするために、研削加工工程において用いる分離用器具により研削対象部位310をわずかに研削しておいてもよい。
【0055】
(研削加工工程)
研削加工工程は、積層体300Aから研削対象部位310の内側を分離して円盤状積層体320を得る工程である。研削用工具としては、例えば、
図2(C)、
図6に示したコアドリルCが用いられる。研削用工具としてコアドリルを用いることにより、円形状に効率よく研削することかできる。研削対象部位310の外径と内径は、コアドリルCの大きさに合わせて設定することができる。例えば、砥石の厚さが0.5mm、砥石の内径が直径150.5mm~151mmのコアドリルを用いて、6インチの多結晶基板を製造するための円盤状積層体320を得る場合には、研削対象部位310の外径は、151.5mm~152mmと設定することができる。
【0056】
図6(A)は、コアドリルCの全体を示す斜視図、
図6(B)はコアドリルCを砥石C3側から示す斜視図である。コアドリルCは、軸部C1と砥石C3を保持するホルダーC2と、砥石C3を有している。また、コアドリルCは、スリットの無い一枚刃を有しており、円盤状積層体320の中心に穴があかないようにセンターピン、センタードリル、また、その他の円盤状積層体320を損傷させる部材は有していない。砥石C3の厚さは0.4mm~1.0mm程度とすることができる。砥石C3に固定された砥粒としては、研削対象に適したものを用いることができ、例えば、ダイヤモンド砥粒を用いることができる。
【0057】
コアドリルCは
図5に示したコアドリルC’とは異なり、コアドリルCの砥石C3にはスリットが形成されていないが、本実施形態の研削加工工程にはスリットSが形成されたコアドリルC’を用いてもよい。スリットSが形成されていない一枚刃のコアドリルCを用いる方が、スリットSが形成されていないことにより刃の強度が高くなること、研削するときに回転軸がぶれなくなり研削位置がずれることがなく効率よく研削できること、砥石の面積がより大きくなることから砥石の耐久性を向上させることができることから、本実施形態の研削加工工程に対してより好適に用いることができる。特に、回転軸がぶれると研削対象部位310と実際に研削した箇所がずれる可能性があり、回転軸がぶれることを抑制することが好ましい。
【0058】
研削対象部位310をコアドリルCにより研削すると、積層体300Aの表面が研削されて溝が形成されると同時に、研削粉が発生する。従来の製造過程においては、研削により発生した研削粉が砥石と積層体との間に挟まることがあり、砥石と積層体の間に研削粉が挟まった状態で研削すると砥石への負荷が大きくなり、砥石の摩滅等による研削不良が発生し得る。また、砥石の摩滅により過負荷となり、研削装置が停止したり、摩滅した砥石における砥粒のドレス作業を行う時間や費用の負担が大きくなったりすることがあった。
【0059】
本実施形態の積層体の研削方法であれば、積層体300Aには、厚さ方向に貫通した研削粉排出部330が形成されていることから、積層体300Aの外部に研削粉を排出することができる。これにより、砥石C3と積層体300Aの間に研削粉が挟まった状態で研削することが抑制され、研削用工具であるコアドリルCの摩耗を抑制して、コアドリルCの長寿命化によりコストを低減することができる。
【0060】
また、本実施形態の積層体300Aであれば、研削対象部位310の一部に形成された積層体300Aの厚さ方向に貫通した研削粉排出部330を備えることから、成膜用支持基板100と炭化ケイ素多結晶膜200との積層体330Aを研削するときに研削粉を効率よく排出することができ、研削用工具であるコアドリルCの摩耗を抑制して、コアドリルCの長寿命化によりコストを低減することができる。
【0061】
[多結晶基板の製造方法]
本実施形態の多結晶基板の製造方法は、前述した実施形態の積層体の研削方法により得た円盤状の積層体(円盤状積層体320)から成膜用支持基板100を除去して、炭化ケイ素多結晶基板200Bを得る除去工程を含む。
【0062】
(除去工程)
除去工程は、積層体300Aから分離された円盤状積層体320から成膜用支持基板100を除去する工程である。
【0063】
積層体300Aのように、成膜用支持基板100としてカーボン製の支持基板が用いられている場合には、ガラス板Gからはずした円盤状積層体320をO
2や空気等の酸化性ガス雰囲気下で数百度に加熱して、成膜用支持基板100のみを燃焼させることにより、除去することができる。円盤状積層体320の加熱は、例えば、
図2(D)に示すオーブンHを用いることができる。オーブンHは、耐熱性の壁部H1に囲まれた加熱室H2を有する。
【0064】
除去工程により、
図2(E)に示すように、炭化ケイ素多結晶基板200Bが得られる。
【0065】
なお、成膜用支持基板としてシリコン製の支持基板を用いた場合には、円盤状積層体を硝フッ酸(硝酸とフッ化水素酸の混合酸)に浸漬して、シリコン製の支持基板のみを溶解することで、炭化ケイ素多結晶基板が得られる。
【0066】
さらに、除去工程ののち、必要に応じて、直径・面取り加工、厚さ・平坦度加工、洗浄を行う。直径・面取り加工とは、ダイヤモンド砥石等を用いて外周部分を研削することにより、余分な部分を除去して、所望の直径寸法に調整するとともに、炭化ケイ素多結晶基板の外周部分全体の角を落とす加工を施すものである。また、厚さ・平坦度炭化ケイ素単結晶基板との貼り合わせ基板を製造する等の用途に適した厚さ・平坦度とするために、成膜面を研削・研磨して厚さと平坦度を調整するものである。
【0067】
本実施形態の多結晶基板の製造方法によれば、前述した実施形態の積層体の研削方法により成膜用支持基板100と炭化ケイ素多結晶膜200との積層体300Aを研削することで、研削粉を効率よく排出することができ、研削用工具であるコアドリルCの摩耗を抑制して、コアドリルCの長寿命化によりコストを低減することができる。
【0068】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、前述した実施形態の変形等も本発明に含まれる。
【0069】
例えば、前述した積層体の研削方法において、研削対象部位が、積層体において互いに重ならないように複数設けられていてもよい。
【0070】
図3に示す積層体400Aは、3つの研削対象部位410が互いに重ならないように設けられており、研削対象部位410のそれぞれに対して、研削粉排出部として、2つの貫通孔430と1つのスリット440が形成されている。研削対象部位410を研削することにより、3つの円盤状積層体420を得ることができる。なお、1つの積層体に設ける研削対象部位の数は限定されない。例えば、直径380mmの成膜用支持基板に多結晶膜を成膜して得られた積層体を用いて直径6インチの多結晶基板を製造する場合には、4つの円盤状積層体を得ることができる。1つの積層体において、研削対象部位が、互いに重ならないように複数設けられていることにより、製造効率を向上させることができる。
【0071】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法等は、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。従って、上記に開示した形状、材質等を限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質等の限定の一部、もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0072】
100 成膜用支持基板
200 炭化ケイ素多結晶膜
300 積層体
300A、400A 積層体
310 研削対象部位
320 円盤状積層体(円盤状の積層体)
330 研削粉排出部
340、430 貫通孔
350、440 スリット
200B 炭化ケイ素多結晶基板
C コアドリル