(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131357
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】蛍光色素及びこれを用いた標識生体物質
(51)【国際特許分類】
C09B 57/00 20060101AFI20220831BHJP
G01N 33/58 20060101ALI20220831BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
C09B57/00 Z
G01N33/58 A
G01N33/58 Z
G01N21/64 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030260
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】金澤 吉憲
【テーマコード(参考)】
2G043
2G045
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA16
2G043DA02
2G043FA01
2G043KA01
2G043KA02
2G043MA01
2G043NA01
2G045AA25
2G045FB07
(57)【要約】
【課題】溶液、メンブレン及びドットプロットのいずれの状態においても優れた蛍光強度を示す標識生体物質を得ることができる蛍光色素及び標識生体物質を提供する。
【解決手段】
下記一般式(I)又は(II)で表される蛍光色素及び標識生体物質。
式中、Mはt価の連結基を示し、tは3以上の整数である。
Lは、-C≡C-、アリーレン基及びヘテロアリーレン基のうちの少なくとも2つを組合わせてなる2価の連結基を示す。
Xは、エーテル結合、チオエーテル結合、アルキレン基、アミド結合、エステル結合又はアミノ結合を示す。
Rは、蛍光体部を示す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)又は(II)で表される蛍光色素。
【化1】
式中、Mはt価の連結基を示し、tは3以上の整数である。
Lは、-C≡C-、アリーレン基及びヘテロアリーレン基のうちの少なくとも2つを組合わせてなる2価の連結基を示す。
Xは、エーテル結合、チオエーテル結合、アルキレン基、アミド結合、エステル結合又はアミノ結合を示す。
Rは、蛍光体部を示す。
【請求項2】
前記Rが、キサンテン色素、ローダミン色素、クマリン色素、シアニン色素、ピレン色素、オキサジン色素、ピリジルオキサゾール色素及びピロメテン色素のうちの少なくとも1種の色素からなる構造部である、請求項1に記載の蛍光色素。
【請求項3】
前記蛍光色素が前記一般式(I)で表され、前記tが3であり、前記Mが下記いずれかの構造の連結基である、請求項1又は2に記載の蛍光色素。
【化2】
上記構造式中、*はLとの結合位置を示す。
【請求項4】
前記蛍光色素が前記一般式(I)で表され、前記tが4であり、前記Mが下記構造の連結基である、請求項1又は2に記載の蛍光色素。
【化3】
上記構造式中、*はLとの結合位置を示す。
【請求項5】
前記Rのうちの少なくとも1つがカルボキシ基又は生体物質に結合可能な置換基を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の蛍光色素。
【請求項6】
前記L及びMのうちの少なくとも1つが水溶性置換基を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の蛍光色素。
【請求項7】
前記水溶性置換基が、カルボキシ基、スルホ基、ホスホノ基、ホスホノオキシ基、スルファモイル基及びポリオキシアルキレン基のうちの少なくとも1種である、請求項6に記載の蛍光色素。
【請求項8】
前記Rがシアニン色素からなる構造部である、請求項1~7のいずれか1項に記載の蛍光色素。
【請求項9】
前記シアニン色素が下記一般式(III)で表される、請求項8に記載の蛍光色素。
【化4】
式中、R
1~R
4は、アルキル基又は-(CH
2-CH
2-O)
m-R
21を示す。mは1~50であり、R
21はアルキル基を示す。
R
11~R
13は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基又はハロゲン原子を示し、隣接する基同士が互いに結合して5又は6員環を形成していてもよい。
R
22~R
25及びR
32~R
35は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、スルホ基、スルファモイル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、カルバモイル基、アシルアミノ基、ニトロ基又はハロゲン原子を示す。
R
41及びR
42は、アルキル基又は-(CH
2-CH
2-O)
m-R
21を示す。R
21及びmは、前記のR
21及びmと同義である。R
41及びR
42は互いに結合して環を形成していてもよい。
nは、1~3の整数である。
前記のR
1~R
4、R
11~R
13、R
22~R
25、R
32~R
35、R
41又はR
42のうちのいずれか1つにより、前記Xと結合する。
前記蛍光色素中における少なくとも1つの式(III)で表されるシアニン色素は、カルボキシ基又は生体物質に結合可能な置換基を有する。
ただし、式(III)で表されるシアニン色素からなる構造部は、中性の構造部である。
【請求項10】
前記R11~R13のうちのいずれか1つにより前記Xと結合する、請求項9に記載の蛍光色素。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の蛍光色素と生体物質とが結合してなる標識生体物質。
【請求項12】
前記生体物質がタンパク質、アミノ酸、核酸、糖鎖及びリン脂質のいずれかである請求項11に記載の標識生体物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光色素及びこれを用いた標識生体物質に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な刺激(病気、環境変化など)に対する生体内の変化を観察するために、目的の検出対象物質に対して結合性の生体分子(抗体等)を蛍光性化合物(蛍光色素)で標識した蛍光標識生体物質が多用されている。
例えば、タンパク質混合物から特定のタンパク質を検出するウエスタンブロッティング(以下、WBとも略す。)でも、上記特定のタンパク質の有無ないし存在量を、このタンパク質に対して結合性の蛍光標識抗体を用いて検出する蛍光法が利用されている。
また、生体中の生体分子、細胞及び組織等の動態及び機能等を解析するバイオイメージング技術においては、蛍光標識により可視化した生体の特定の部位を観察する生体蛍光イメージングが、生体観察の技術の一つとして利用されている。
【0003】
上記蛍光標識では、通常、複数の蛍光色素分子を結合させた蛍光標識生体物質を用いることにより、輝度(蛍光強度)を高めている。しかし、シアニン色素、ローダミン色素等の蛍光性を示す有機色素の大部分は、高い平面性を有する芳香族発色団を有するため、色素間での相互作用を生じやすく、その結果、標識後の色素間における自己会合等の相互作用による蛍光強度の低下が生じやすい。特に、生体分子1分子あたりの蛍光色素の分子数(蛍光標識率:DOL)が増加するにつれて、自己会合等による蛍光強度がより低下する傾向にある。
この問題に対処した技術として、例えば、特許文献1には、ポリヒドロキシ化合物、ポリアミノ化合物又はポリチオ化合物からなるコア部分を有する分岐鎖状ポリエーテル骨格により蛍光色素を多量体化することにより、高い蛍光強度を実現し、また、自己消光によるDOLの低下も抑制したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蛍光標識に用いられる色素は、溶液、メンブレン又はドットプロット等の多様な状態において優れた蛍光強度を示すことが求められる。しかし、本発明者が蛍光強度について更なる検討を重ねたところ、上記特許文献1に開示された分岐鎖状ポリエーテル骨格により多量体化した蛍光色素を用いた蛍光標識では、溶液、メンブレン及びドットプロットのいずれの状態においても、十分なレベルの蛍光強度を得ることができないことがわかってきた。
本発明は、溶液、メンブレン及びドットプロットのいずれの状態においても優れた蛍光強度を示す標識生体物質を得ることができる蛍光色素を提供することを課題とする。また本発明は、この蛍光色素と生体物質とを結合してなる標識生体物質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の上記課題は、下記の手段によって解決された。
〔1〕
下記一般式(I)又は(II)で表される蛍光色素。
【化1】
式中、Mはt価の連結基を示し、tは3以上の整数である。
Lは、-C≡C-、アリーレン基及びヘテロアリーレン基のうちの少なくとも2つを組合わせてなる2価の連結基を示す。
Xは、エーテル結合、チオエーテル結合、アルキレン基、アミド結合、エステル結合又はアミノ結合を示す。
Rは、蛍光体部を示す。
〔2〕
上記Rが、キサンテン色素、ローダミン色素、クマリン色素、シアニン色素、ピレン色素、オキサジン色素、ピリジルオキサゾール色素及びピロメテン色素のうちの少なくとも1種の色素からなる構造部である、〔1〕に記載の蛍光色素。
〔3〕
上記蛍光色素が上記一般式(I)で表され、上記tが3であり、上記Mが下記いずれかの構造の連結基である、〔1〕又は〔2〕に記載の蛍光色素。
【化2】
上記構造式中、*はLとの結合位置を示す。
〔4〕
上記蛍光色素が上記一般式(I)で表され、上記tが4であり、上記Mが下記構造の連結基である、〔1〕又は〔2〕に記載の蛍光色素。
【化3】
上記構造式中、*はLとの結合位置を示す。
〔5〕
上記Rのうちの少なくとも1つがカルボキシ基又は生体物質に結合可能な置換基を有する、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の蛍光色素。
〔6〕
上記L及びMのうちの少なくとも1つが水溶性置換基を有する、〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載の蛍光色素。
〔7〕
上記水溶性置換基が、カルボキシ基、スルホ基、ホスホノ基、ホスホノオキシ基、スルファモイル基及びポリオキシアルキレン基のうちの少なくとも1種である、〔6〕に記載の蛍光色素。
〔8〕
上記Rがシアニン色素からなる構造部である、〔1〕~〔7〕のいずれか1つに記載の蛍光色素。
〔9〕
上記シアニン色素が下記一般式(III)で表される、〔8〕に記載の蛍光色素。
【化4】
式中、R
1~R
4は、アルキル基又は-(CH
2-CH
2-O)
m-R
21を示す。mは1~50であり、R
21はアルキル基を示す。
R
11~R
13は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基又はハロゲン原子を示し、隣接する基同士が互いに結合して5又は6員環を形成していてもよい。
R
22~R
25及びR
32~R
35は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、スルホ基、スルファモイル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、カルバモイル基、アシルアミノ基、ニトロ基又はハロゲン原子を示す。
R
41及びR
42は、アルキル基又は-(CH
2-CH
2-O)
m-R
21を示す。R
21及びmは、上記のR
21及びmと同義である。R
41及びR
42は互いに結合して環を形成していてもよい。
nは、1~3の整数である。
上記のR
1~R
4、R
11~R
13、R
22~R
25、R
32~R
35、R
41又はR
42のうちのいずれか1つにより、上記Xと結合する。
上記蛍光色素中における少なくとも1つの式(III)で表されるシアニン色素は、カルボキシ基又は生体物質に結合可能な置換基を有する。
ただし、式(III)で表されるシアニン色素からなる構造部は、中性の構造部である。
〔10〕
上記R
11~R
13のうちのいずれか1つにより上記Xと結合する、〔9〕に記載の蛍光色素。
〔11〕
〔1〕~〔10〕のいずれか1つに記載の蛍光色素と生体物質とが結合してなる標識生体物質。
〔12〕
上記生体物質がタンパク質、アミノ酸、核酸、糖鎖及びリン脂質のいずれかである〔11〕に記載の標識生体物質。
【発明の効果】
【0007】
本発明の蛍光色素は、溶液、メンブレン及びドットプロットのいずれの状態においても優れた蛍光強度を示す標識生体物質を得ることができる。また、本発明の標識生体物質は優れた蛍光強度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において、特定の符号又は式で表示された置換基もしくは連結基等(以下、置換基等という)が複数あるとき、又は、複数の置換基等を同時に規定するときには、特段の断りがない限り、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよい。このことは、置換基等の数の規定についても同様である。また、複数の置換基等が近接するとき(特に、隣接するとき)には、特段の断りがない限り、それらが互いに連結して環を形成していてもよい。また、特段の断りがない限り、環、例えば脂環、芳香族環及びヘテロ環は、さらに縮環して縮合環を形成していてもよい。
本明細書において、特段の断りがない限り、二重結合については、分子内にE型及びZ型が存在する場合、そのいずれであっても、またこれらの混合物であってもよい。また、特段の断りがない限り、化合物としてジアステレオマー及びエナンチオマーが存在する場合には、そのいずれであっても、またこれらの混合物であってもよい。
【0009】
本発明において、化合物及び置換基の表示については、化合物そのもの及び置換基そのもののほか、その塩、そのイオンを含む意味に用いる。例えば、カルボキシ基、スルホ基及びホスホノ基(-P(=O)(OH)2)等は、水素原子が解離してイオン構造を取っていてもよく、塩構造を取っていてもよい。すなわち、本発明において、「カルボキシ基」はカルボン酸イオン又はその塩を、「スルホ基」はスルホン酸イオン又はその塩を、「ホスホノ基」はホスホン酸イオン又はその塩を、それぞれ含む意味で使用する。上記塩構造を構成する際の1価若しくは多価のカチオンとしては、特に制限されず、無機カチオン、有機カチオン等が挙げられ、具体的には、Na+、Li+及びK+等のアルカリ金属のカチオン、Mg2+、Ca2+及びBa2+等のアルカリ土類金属のカチオン、並びに、トリアルキルアンモニウムカチオン、テトラアルキルアンモニウムカチオン等の有機アンモニウムカチオンが挙げられる。
塩構造の場合、その塩の種類は1種類でもよく、2種類以上混在していてもよく、化合物中で塩型と遊離酸構造の基が混在していてもよく、また、塩構造の化合物と遊離酸構造化合物が混在していてもよい。
本発明の化合物は、いずれも中性の化合物である。例えば、一般式(III)で表されるシアニン色素からなる構造部において、R42が結合する窒素原子の形式電荷は+1であり、この形式電荷と対となるようにして、一般式(III)で表されるシアニン色素中のスルホ基等の解離性基がスルホン酸イオン等のイオン構造を有することによって、一般式(III)で表されるシアニン色素からなる構造部を有する本発明の化合物は、化合物全体として電荷0の化合物となる。
本発明で規定する一般式(III)等で表されるシアニン色素においては、化合物が有する正電荷を、特定の窒素原子が有する構造として便宜上特定して示している。ただし、一般式(III)等で表されるシアニン色素は共役系を有するため、実際には、上記窒素原子以外の他の原子が正電荷を採りうることもあり、化学構造の1つとして一般式(III)等で表される構造を取りうる化合物であれば、一般式(III)等で表されるシアニン色素に包含される。このことは負電荷についても同様である。
また、本発明の効果を損なわない範囲で、構造の一部を変化させたものを含む意味である。更に、置換又は無置換を明記していない化合物については、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の置換基を有していてもよい意味である。このことは、置換基(例えば、「アルキル基」、「メチル基」、「メチル」などのように表現される基)及び連結基(例えば、「アルキレン基」、「メチレン基」、「メチレン」などのように表現される基)についても同様である。このような任意の置換基のうち、本発明において好ましい置換基は、後述の置換基群Tから選択される置換基である。
本発明において、ある基の炭素数を規定する場合、この炭素数は、本発明ないし本明細書において特段の断りのない限りは、基全体の炭素数を意味する。つまり、この基がさらに置換基を有する形態である場合、この置換基を含めた全体の炭素数を意味する。
【0010】
また、本発明において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
本発明の蛍光色素は、下記一般式(I)又は(II)で表される。本発明の蛍光色素が、溶液、メンブレン及びドットプロットのいずれの状態においても優れた蛍光強度を示す標識生体物質を得ることができる理由の詳細については定かではないが、次のように考えられる。
本発明の蛍光色素は、一般式(I)又は(II)で示されるように、2つ以上の蛍光体部Rを-X-L-X-又は-X-L-M-L-X-で表される特定の連結基で結合した化合物であって、上記Lが-C≡C-、アリーレン及びヘテロアリーレン基のうちの少なくとも2つを組合わせてなる剛直な2価の連結基であることにより、蛍光体部R同士の相互作用が抑制され、本発明の蛍光色素の自己会合による蛍光強度の低下を抑制することができると考えられる。また、上記Lと蛍光体部Rとを、π共役性を有しないX、すなわち、エーテル結合、チオエーテル結合、アルキレン基、アミド結合、エステル結合又はアミノ結合により結合することにより、蛍光体部Rが有する吸収発光波長を所望の範囲に維持しつつ、蛍光強度の低下を抑制することができる。また、本発明の蛍光色素の自己会合が効果的に抑制される結果、高いDOLを示す標識生体物質を用いた場合にも優れた蛍光強度を示すことができると考えられる。
【0012】
以下、本発明の一般式(I)又は(II)で表される蛍光色素について詳述する。
【0013】
<一般式(I)又は(II)で表される蛍光色素>
本発明の一般式(I)又は(II)で表される蛍光色素(以下、「本発明の化合物」とも称す。)は、下記の通りである。
【0014】
【0015】
式中、Mはt価の連結基を示し、tは3以上の整数である。
Lは、-C≡C-、アリーレン基及びヘテロアリーレン基のうちの少なくとも2つを組合わせてなる2価の連結基を示す。
Xは、エーテル結合、チオエーテル結合、アルキレン基、アミド結合、エステル結合又はアミノ結合を示す。
Rは、蛍光体部を示す。
【0016】
一般式(I)で表される化合物においては、Lが2価の連結基であって、Mがt価の多分枝構造を有し、かつ、Mを構成する原子数が最小となるように、Mを解釈する。
【0017】
1)M、n
Mはt価の連結基を示す。
Mとしては、本発明の効果を奏する限り、特に制限されることはなく、例えば、鎖状もしくは環状構造を有するt価の脂肪族基、t価の芳香族基、又は、鎖状もしくは環状構造を有する脂肪族基と芳香族基とを組合わせてなるt価の基が挙げられる。これらの基は置換基で置換されていてもよく、採り得る置換基としては、後述の置換基群Tにおける基が挙げられ、後述の水溶性置換基が好ましい。ただし、蛍光体部を含まないことが好ましい。なお、鎖状のt価の脂肪族基には、t価の結合手を有する1つの原子からなる基を含むものとする。
Mとして採り得るt価の基を構成する脂肪族基としては、後述する置換基群Tにおける1価の脂肪族基(アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基)の記載を、対応するt価の脂肪族基に置き換えた基が挙げられる。この脂肪族基を構成する炭素原子及び水素原子の一部又は全部が、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子等のヘテロ原子で置き換えられていてもよく、構成する原子は炭素原子及び水素原子であることが好ましい。
Mとして採り得るt価の基を構成する芳香族基としては、芳香族炭化水素環基又は芳香族ヘテロ環基のいずれであってもよく、後述する置換基群Tにおける1価の芳香族炭化水素環基又は芳香族ヘテロ環基の記載を、対応するt価の芳香族炭化水素環基又は芳香族ヘテロ環基に置き換えた基が挙げられる。
上記芳香族ヘテロ環基としては、環構成原子は炭素原子及び窒素原子であることが好ましい。
Mとして採り得るt価の基を構成する芳香族基としては、単環又は縮環のいずれの基であってもよいが、単環の基であることが好ましく、1、3及び5位、又は、2、4及び6位に結合手を有する3価の6員環芳香族基がより好ましい。
また、Mとして採り得る鎖状もしくは環状構造を有する脂肪族基と芳香族基とを組合わせてなるt価の基を構成する脂肪族基又は芳香族基については、Mとしてt価の基となる限り特に制限されず、上述の脂肪族基又は芳香族基を組合わせてなる基が挙げられる。
Mとしては、鎖状もしくは環状構造を有するt価の脂肪族基、又は、t価の芳香族基が好ましく、t価の鎖状の脂肪族基、又は、t価の芳香族基がより好ましく、t価の結合手を有する1つの原子からなる基、又は、t価の単環の芳香族基がさらに好ましい。
tは、3以上の整数であり、3~6の整数が好ましく、3~5の整数がより好ましく、3又は4の整数がさらに好ましい。
Mを構成する原子数としては、1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6がさらに好ましい。なお、Mを構成する原子数には、水素原子及びMとしてのt価の基が有する置換基を構成する原子数を含めないものとする。
Mとしては、例えば、下記に示す3価の基又は4価の基、また、鎖状もしくは環状構造を有する脂肪族基と芳香族基とを組合わせてなる6価の基を好ましく挙げることができる。下記構造式中における芳香族基は、それぞれ、無置換の基であってもよく、置換基によって置換されていてもよい。下記構造において*は結合手を意味する。
【0018】
【0019】
2)L
Lは、-C≡C-、アリーレン基及びヘテロアリーレン基のうちの少なくとも2つを組合わせてなる2価の連結基を示す。
【0020】
Lを構成するアリーレン基としては、後述の置換基群Tにおけるアリール基の記載を、対応する2価の基に置き換えた基が挙げられ、フェニレン基が好ましく、1,4-フェニレン基がより好ましい。
Lを構成するヘテロアリーレン基としては、後述の置換基群Tにおけるヘテロアリール基の記載を、対応する2価の基に置き換えた基が挙げられ、環構成原子は炭素原子及び窒素原子であることが好ましい。また、単環の基であることが好ましく、パラ位の位置に結合手を有する2価の6員環ヘテロアリーレン基がより好ましく、2,5-ピラジンジイル基、1,4-トリアジンジイル基又は1,2,4,5-テトラジンジイル基がさらに好ましい。
Lを構成し得るアリーレン基又はヘテロアリーレン基は置換基で置換されていてもよい。上記のアリーレン基又はヘテロアリーレン基が採り得る置換基としては、後述の置換基群Tにおける基が挙げられ、後述の水溶性置換基が好ましい。ただし、上記のアリーレン基及びヘテロアリーレン基は、蛍光体部を含まないことが好ましい。
【0021】
Lを構成する、-C≡C-、アリーレン基及びヘテロアリーレン基の合計数は、少なくとも2つであればよく、2~12が好ましく、2~10がより好ましく、2~7がさらに好ましい。
Lを構成する、-C≡C-、アリーレン基及びヘテロアリーレン基の種類は、1種以上であればよく、2種以上が好ましく、-C≡C-とアリーレン基又はヘテロアリーレン基との組み合わせがより好ましい。上限値に特に制限はなく、例えば、4種以下とすることができ、3種以下が好ましい。
なお、アリーレン基及びヘテロアリーレン基の種類については、結合部位を含め、化学構造が異なる場合には違う種類の基として解釈する。例えば、Lがフェニレン基とナフタレンジイル基により構成されている場合には、共にアリーレン基であるが、Lを構成する基の種類としては2種類として数える。結合部位の異なる、1,4-フェニレン基と1,3-フェニレン基についても、異なる種類の基として数える。
Lとしては、例えば、下記に示す骨格構造を有する基を上げることができる。ただし、これらの骨格構造を有する基に限定されるものではない。また、下記構造式中におけるアリーレン基及びヘテロアリーレン基は、それぞれ、無置換の基であってもよく、置換基によって置換されていてもよい。下記構造において*は結合手を意味し、一般式(I)で表される化合物においては、いずれの側でMと結合してもよい。
【0022】
【0023】
本発明の蛍光色素においては、L及びMのうちの少なくとも1つが水溶性置換基を有することが好ましい。すなわち、一般式(I)で表される蛍光色素においては、M及びt個のLのうちの少なくとも1つが水溶性置換基を有することが好ましく、一般式(II)で表される蛍光色素においては、Lが水溶性置換基を有することが好ましい。本発明の蛍光色素において、L及びMのうちの少なくとも1つが水溶性置換基を有することによって、蛍光色素の自己会合が抑制され、溶液、メンブレン及びドットプロットの状態における蛍光強度をより向上させることができると考えられる。
水溶性置換基としては、カルボキシ基、スルホ基(-SO2(OH))、ホスホノ基(ホスホン酸基、-PO(OH)2)、ホスホノオキシ基(リン酸基、-OPO(OH)2)、スルファモイル基(-SO2NH2)又はポリオキシアルキレン基(-(アルキレン-O)m-R21、m及びR21は後述の一般式(III)におけるm及びR21の記載を好ましく適用することができる。)が好ましく挙げられる。
上記のL又はMが水溶性置換基を置換基として有する場合、L又はM上に水溶性置換基を直接有していてもよく、連結基を介して有していてもよい。連結基を介する場合、連結基は特に制限されないが、例えば、アルキレン基を挙げることができる。
本発明においては、水溶性の観点から、少なくとも1つのLが上記水溶性置換基を有することが好ましく、少なくとも1つのLが、カルボキシ基、スルホ基、ホスホノ基、ホスホノオキシ基、スルファモイル基及びポリオキシアルキレン基のうちの少なくとも1種を有することがより好ましい。ここで、「少なくとも1つのL」とは、一般式(I)で表される蛍光色素においては、t個のLのうちの少なくとも1つを意味し、一般式(II)で表される蛍光色素においてはLを意味する。
【0024】
Lが水溶性置換基を有する場合、Lが有する水溶性置換基の数としては、下記関係を満たすことが好ましい。
Lが有する水溶性置換基の数+1≧Lを構成する芳香環の数
また、Lが水溶性置換基を有する場合、Lが有する水溶性置換基の数の上限値に特に制限はないが、下記関係を満たすことが好ましい。
Lが有する水溶性置換基の数≦2×[Lを構成する芳香環の数]
【0025】
3)X
Xは、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、アルキレン基、アミド結合(-NHCO-)、エステル結合(-COO-)又はアミノ結合(-NH-)を示す。
アルキレン基としては、後述の置換基群Tにおけるアルキル基から水素原子を1つ除いて得られるアルキレン基を適用することができる。
Xは、エーテル結合又はアミド結合が好ましく、エーテル結合がより好ましい。
【0026】
4)R
Rは、蛍光体部を示す。
化合物中に複数存在するRは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
Rとして採り得る蛍光体部としては、Xを介してLと結合することが可能な、蛍光を示す有機化合物からなる構造部である限り、特に制限することなく用いることができる。
Rとしては、例えば、キサンテン色素、ローダミン色素、クマリン色素、シアニン色素、ピレン色素、オキサジン色素、ピリジルオキサゾール色素及びピロメテン色素のうちの少なくとも1種の色素からなる構造部が挙げられ、好ましい。
上記のキサンテン色素、ローダミン色素、クマリン色素、シアニン色素、ピレン色素、オキサジン色素、ピリジルオキサゾール色素及びピロメテン色素としては、これらの式として通常知られている色素を特に制限することなく用いることができる。
【0027】
Rのうちの少なくとも1つは、バイオイメージングにおける汎用性の観点から、カルボキシ基又は後述する生体物質に結合可能な置換基を有することが好ましい。
本発明の化合物は、上記のカルボキシ基または生体物質に結合可能な置換基により、生体物質と結合し、目的とする標識生体物質を得ることができる。なお、カルボキシ基は、生体物質に結合可能な置換基を常法により容易に誘導することができる。
本発明において、「生体物質に結合可能な置換基」は、カルボキシ基から誘導される生体物質に結合可能な置換基を含む。
本発明の化合物が有するカルボキシ基または生体物質に結合可能な置換基の数は、合計で、少なくとも1つ以上であることが好ましく、検出対象物質の定量の観点から、1~3つがより好ましく、1つ又は2つがさらに好ましく、1つが特に好ましい。
【0028】
上記Rはシアニン色素からなる構造部であることが好ましく、下記一般式(III)で表されるシアニン色素からなる構造部であることがより好ましい。
【0029】
【0030】
式中、R1~R4は、アルキル基又は-(CH2-CH2-O)m-R21を示す。mは1~50であり、R21はアルキル基を示す。
R11~R13は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基又はハロゲン原子を示し、隣接する基同士が互いに結合して5又は6員環を形成していてもよい。
R22~R25及びR32~R35は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、スルホ基、スルファモイル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、カルバモイル基、アシルアミノ基、ニトロ基又はハロゲン原子を示す。
R41及びR42は、アルキル基又は-(CH2-CH2-O)m-R21を示す。R21及びmは、上記のR21及びmと同義である。R41及びR42は互いに結合して環を形成していてもよい。
nは、1~3の整数である。
上記のR1~R4、R11~R13、R22~R25、R32~R35、R41又はR42のうちのいずれか1つにより、上記Xと結合する。
上記蛍光色素中における少なくとも1つの式(III)で表されるシアニン色素は、カルボキシ基又は生体物質に結合可能な置換基を有する。
ただし、式(III)で表されるシアニン色素からなる構造部は、中性の構造部である。
【0031】
上記一般式(III)で表されるシアニン色素は、共役二重結合によって結ばれた繰り返し数2n+3のメチン鎖の長さに依存して、n=1の場合に585nm付近に、n=2の場合に685nm付近に、n=3の場合に785nm付近に、それぞれ励起吸収波長を有する。そのため、一般式(III)で表されるシアニン色素からなる構造部を蛍光体部Rとして有する本発明の化合物は、それぞれ、励起光源として600nm、700nm、800nm付近のものを使用する蛍光標識において、優れた蛍光強度を示す化合物として使用できる。
【0032】
多色WBでは、可視領域から近赤外領域までの範囲内において、複数の発光色を検出する。そのため、色素を励起発光させた際に互いに干渉してクロストークが起こらないように、複数の色素の吸収発光波形が適切な波長関係となるように選択する必要がある。ある励起光では1つの色素だけが光り、他の色素が光らないように調整されるのが理想的である。この観点で、例えば、多色WBの近赤外領域の発光には、700nm付近と800nm付近という、ある程度波長の離れた2種類の励起光源が用いられている。
近赤外光励起による蛍光検出は、可視光励起による検出に比べてメンブレンの自家蛍光、すなわちバックグラウンド蛍光を抑制できるため、シグナルノイズ比(S/N比)を高めやすく、目的のタンパク質を高感度に検出することが可能となる。そのため、近年、微量タンパク質の解析研究において、近赤外領域の発光を利用した蛍光検出WBの必要性が増してきている。
しかし、近赤外領域では、一般的に蛍光色素の蛍光量子収率が低く、高いシグナル量を得ることが難しい。一般式(III)で表されるシアニン色素からなる構造部を蛍光体部Rとして有する本発明の化合物のうちn=2又は3である化合物は、上記の700nm付近と800nm付近の2種類のものを有する多色WBにおいても、優れた蛍光強度を示す化合物として使用でき、特に、タンパク質をより高感度に観察、検出するという要望に対しても、従来のシアニン色素を用いた蛍光標識と比較して、優れた蛍光強度を示すことができる。
【0033】
(i)R1~R4
R1~R4は、各々独立に、アルキル基又は-(CH2-CH2-O)m-R21を示す。
【0034】
R1~R4として採りうるアルキル基は、後述する置換基群Tにおけるアルキル基と同義である。
無置換のアルキル基の炭素数は、1~6が好ましく、1~4がより好ましく、1~2がさらに好ましい。
アルキル基が置換基を有する場合、置換基を有するアルキル基のアルキル基部分の炭素数としては、1~10が好ましく、1~8がより好ましく、2~6がさらに好ましく、2~5が特に好ましい。また、置換基を有するアルキル基の最長鎖を構成する原子数としては、3~35が好ましく、3~25がより好ましく、3~15がさらに好ましく、3~11が特に好ましい。
本発明において、「置換基を有するアルキル基のアルキル基部分の炭素数」とは、アルキル基が有する置換基部分を除く炭素数を意味する。
本発明において、「置換基を有するアルキル基の最長鎖を構成する原子数」とは、置換基部分を含む原子数(すなわち、全原子数から、最長鎖を構成しない分子鎖の原子数を引いた原子数)を意味する。なお、スルホ基、カルボキシ基等の解離性の水素原子を有する置換基が最長鎖を構成する場合、解離の有無にかかわらず、水素原子を含めて計算する。また、後述する生体物質に結合可能な置換基部分における原子数は含めない。
【0035】
R1~R4として採りうるアルキル基が有していてもよい置換基としては、アルコキシ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、カルバモイル基、アシルアミノ基、スルホ基、ホスホノ基及び-(CH2-CH2-O)m-R21、並びにこれらの置換基の組み合わせからなる基が挙げられる。また、後述する生体物質に結合可能な置換基を挙げることができる。なお、上記のアルコキシ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、カルバモイル基、アシルアミノ基、スルホ基及びホスホノ基並びにこれらの置換基の組み合わせからなる基におけるアルキル基部分が、後述する生体物質に結合可能な置換基を有していてもよい。
R1~R4として採りうる置換基を有するアルキル基としては、上記置換基を有するアルキル基であれば特に制限はないが、末端にカルボキシ基又は生体物質に結合可能な置換基を有するアルキル基であることが好ましい。この場合、カルボキシ基又は生体物質に結合可能な置換基がアルキル基に直接置換していてもよく、アルコキシ基とカルボキシ基又は生体物質に結合可能な置換基との組み合わせからなる基として置換していてもよい。
R1~R4として採りうるアルキル基としては、無置換のアルキル基が好ましい。
【0036】
(-(CH2-CH2-O)m-R21)
R1~R4として採りうる-(CH2-CH2-O)m-R21において、mは1~50であり、R21はアルキル基を示す。
mは平均繰り返し数(単に、繰り返し数とも称す。)を意味し、1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~10がさらに好ましく、4~10が特に好ましく、4~8が最も好ましい。
上記平均繰り返し数は、化合物について1H-NMR測定を行い、平均積分値より算出することができる。本発明において規定する平均繰り返し数は、上記方法により算出される平均繰り返し数の小数第一位を四捨五入して得られる数を意味する。
R21におけるアルキル基は、上記R1~R4として採りうるアルキル基の記載を適用することができる。
R1~R4として採りうる-(CH2-CH2-O)m-R21及びR1~R4としてのアルキル基が置換基として有しうる-(CH2-CH2-O)m-R21としては、-(CH2-CH2-O)m-無置換のアルキル基が好ましい。
【0037】
R1~R4の少なくとも1つが、-(CH2-CH2-O)m-で表される構造を含むことが好ましく、R1及びR2の少なくとも1つとR3及びR4の少なくとも1つとが、-(CH2-CH2-O)m-で表される構造を含むことがより好ましい。R1及びR2の少なくとも1つとR3及びR4の少なくとも1つとが、-(CH2-CH2-O)m-で表される構造を含むことによって、蛍光色素の自己会合が抑制され、溶液、メンブレン及びドットプロットの状態における蛍光強度をより向上させることができると考えられる。
本発明の化合物中における全てのRが一般式(III)で表されるシアニン色素からなる構造部であって、R1及びR2の少なくとも1つとR3及びR4の少なくとも1つとが、-(CH2-CH2-O)m-で表される構造を含むことがさらに好ましい。
上記-(CH2-CH2-O)m-で表される構造は、R1~R4として-(CH2-CH2-O)m-R21を採ることにより導入されていることが好ましい。
上記-(CH2-CH2-O)m-におけるmは、上記-(CH2-CH2-O)m-R21におけるmと同義である。
R1~R4の置換基はシアニン色素骨格(平面)に対し垂直方向へ張り出すため、この置換基として-(CH2-CH2-O)m-で表される構造を含むことにより、縮環部分がπ-π相互作用しにくくなり(会合抑制効果が強まり)、会合による蛍光強度の低下を抑制できると推定している。
【0038】
(ii)R11~R13
R11~R13は、各々独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基又はハロゲン原子を示す。隣接する基同士が互いに結合して5又は6員環を形成していてもよい。
R11~R13として採りうるアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基及びハロゲン原子は、後述する置換基群Tにおけるアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基及びハロゲン原子と同義であり、好ましい範囲も同じである。
R11~R13におけるアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基及びアミノ基が有していてもよい置換基としては、後述する置換基群Tにおける置換基が挙げられる。
【0039】
R11~R13のうち、隣接する基同士が互いに結合して形成される5又は6員環は、芳香族性又は脂肪族性のいずれであってもよく、脂肪族性であることが好ましい。また、6員環を形成することが好ましい。化合物中における上記の5又は6員環の数は特に制限されないが、1又は2個が好ましく、1個がより好ましい。
例えば、n=3の場合を例にすると、R11~R13のうち隣接する基同士が結合して形成される環を有する構造としては、下記構造が好ましく挙げられる。なお、下記例においては、環構造を形成していないR11~R13は水素原子であり、環構造は置換基を有しない構造を記載しているが、これらに限定されるものではない。また、下記において、波線の先の構造は省略して記載する。
【0040】
【0041】
R11及びインドレニン環に結合する炭素原子が有するR13は、水素原子が好ましい。
R12及び上記以外のR13は、水素原子又はアルキル基が好ましい。
R11~R13のうち、R11及びインドレニン環に結合する炭素原子が有するR13以外のR12~R13における隣接する基同士が、互いに結合して5又は6員環を形成していることが好ましく、6員環を形成していることがより好ましい。また、インドリン環及びインドレニン環を結ぶ結合の中心部分に上記5又は6員環を形成していることが好ましい。インドリン環及びインドレニン環を結ぶ結合の中心部分に形成される環とは、インドリン環及びインドレニン環からの結合原子数が等しくなる炭素原子を環構成原子として含む環を意味する。
【0042】
上記Rは、上記のR1~R4、R11~R13、R22~R25、R32~R35、R41又はR42のうちのいずれか1つにより上記Xと結合する。
具体的には、R1~R4、R11~R13、R22~R25、R32~R35、R41又はR42として採り得る置換基から水素原子が1つ除かれた状態で上記Xと結合するか、R1~R4、R11~R13、R22~R25、R32~R35、R41又はR42として採り得る水素原子が除かれ、R11~R13、R22~R25又はR32~R35が結合していた炭素原子と上記Xとが直接結合する。
なかでも、上記Rは、上記R11~R13のいずれか1つにより上記Xと結合することが好ましく、R11~R13として採り得る水素原子のうちのいずれか1つが除かれ、R11~R13が結合していた炭素原子と上記Xとが直接結合することがより好ましく、R12及び上記のインドレニン環に結合する炭素原子が有するR13以外のR13として採り得る水素原子のうちのいずれか1つが除かれ、R12又は上記のインドレニン環に結合する炭素原子が有するR13以外のR13が結合していた炭素原子と上記Xとが直接結合することがさらに好ましく、上述のインドリン環及びインドレニン環からの結合原子数が等しくなる炭素原子と上記Xとが直接結合することが特に好ましい。
【0043】
(iii)R22~R25及びR32~R35
R22~R25及びR32~R35は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、スルホ基、スルファモイル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、カルバモイル基、アシルアミノ基、ニトロ基又はハロゲン原子を示す。これらR22~R25及びR32~R35は、隣接する基同士が互いに結合して縮合環を形成していていてもよい。
R22~R25及びR32~R35として採りうるアルキル基、アルコキシ基、アリール基、スルホ基、スルファモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、カルバモイル基、アシルアミノ基、ニトロ基及びハロゲン原子は、それぞれ、後述する置換基群Tにおけるアルキル基、アルコキシ基、アリール基、スルホ基、スルファモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、カルバモイル基、アシルアミノ基、ニトロ基及びハロゲン原子と同義である。
R22~R25及びR32~R35のうち隣接する基同士が互いに結合して形成される縮合環としては、特に制限はないが、例えば、ナフタレン環が挙げられる。なお、会合抑制の観点から、R22~R25及びR32~R35のうち隣接する基同士が互いに結合しておらず、縮合環を形成していないことが好ましい。
【0044】
水溶性の向上および会合抑制の観点から、R22~R25の少なくとも1つとR32~R35の少なくとも1つとが親水性基を有することが好ましく、R22~R25が結合する環及びR32~R35が結合する環の数1つに付き少なくとも1つの親水性基を有することがより好ましい。例えば、R22~R25及びR32~R35うち隣接する基同士が互いに結合して縮合環としてナフタレン環をそれぞれ形成している場合、R22~R25が結合する環の数は2つ、R32~R35が結合する環の数は2つとなり、R22~R25の少なくとも2つ及びR32~R35の少なくとも2つが親水性基を有することがより好ましいことを意味する。上限値は、構造として可能な限り特に制限されず、後述する化合物全体としての親水性基の数にあわせて、適宜調整することができる。
親水性基としては、特に制限されないが、例えば、置換基を有するアルコキシ基、カルボキシ基、スルホ基及びホスホノ基が挙げられ、スルホ基が好ましい。
【0045】
R22~R25及びR32~R35は、水素原子、アルキル基、スルホ基、ニトロ基又はハロゲン原子が好ましく、水素原子、アルキル基、スルホ基又はハロゲン原子がより好ましく、水素原子、アルキル基又はスルホ基がさらに好ましい。
【0046】
(iv)R41及びR42
R41及びR42は、各々独立に、アルキル基又は-(CH2-CH2-O)m-R21を示す。R21及びmは、上記のR21及びmと同義である。
R41及びR42におけるアルキル基が有していてもよい置換基としては、アルコキシ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、カルバモイル基、アシルアミノ基、スルホ基及びホスホノ基並びにこれらの置換基の組み合わせからなる基が挙げられる。また、後述する生体物質に結合可能な置換基を挙げることができる。なお、上記のアルコキシ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、カルバモイル基、アシルアミノ基、スルホ基及びホスホノ基並びにこれらの置換基の組み合わせからなる基におけるアルキル基部分が、後述する生体物質に結合可能な置換基を有していてもよい。
【0047】
R41及びR42として採りうるアルキル基は、後述する置換基群Tにおけるアルキル基と同義である。
無置換のアルキル基の炭素数は、1~6が好ましく、1~4がより好ましく、1~3がさらに好ましい。
置換基を有するアルキル基のアルキル基部分の炭素数は、1~10が好ましく、1~8がより好ましく、1~7がさらに好ましく、1~6がさらに好ましく、1~5がさらに好ましい。また、置換基を有するアルキル基の最長鎖を構成する原子数は、3~14が好ましく、3~12がより好ましく、3~10がさらに好ましい。
【0048】
R41及びR42として採り得る置換基を有するアルキル基としては、水溶性をより向上させる観点からは、アルコキシ基、カルボキシ基、スルホ基及びホスホノ基の少なくとも1つを置換基として有するアルキル基が好ましく、カルボキシ基及びスルホ基の少なくとも1つを置換基として有するアルキル基がより好ましい。なお、上記の好ましい置換基(アルコキシ基、カルボキシ基、スルホ基及びホスホノ基)と、これらの置換基以外の基との組合わせからなる置換基を有するアルキル基であってもよい。
また、上記R1~R4が採り得る、置換基を有するアルキル基の形態も好ましく適用できる。
【0049】
R41及びR42として採りうる-(CH2-CH2-O)m-R21は、上記R1~R4における-(CH2-CH2-O)m-R21の記載を好ましく適用することができる。
R41及びR42として採りうる-(CH2-CH2-O)m-R21としては、R21は無置換のアルキル基であるか、末端にカルボキシ基又は後述する生体物質に結合可能な置換基を有するアルキル基であることが好ましい。末端にカルボキシ基又は生体物質に結合可能な置換基を有するアルキル基である場合、カルボキシ基又は生体物質に結合可能な置換基がアルキル基に直接置換していてもよく、アルコキシカルボニル基とカルボキシ基又は生体物質に結合可能な置換基との組み合わせからなる基として置換していてもよい。
【0050】
R41及びR42は互いに結合して環を形成していてもよい。
上記一般式(III)で表されるシアニン色素のうち、R41及びR42が互いに結合して環を形成した構造としては、下記一般式(IV)で表されるシアニン色素が好ましく挙げられる。
【0051】
【0052】
式中、L3及びL4はアルキレン基又は-(CH2-CH2-O)m-アルキレン-*を示す。*はUとの結合位置を示す。
連結基Uは原子数1~100の2価の連結基を示す。
R1~R4、R11~R13、R22~R25、R32~R25、m及びnは上記一般式(III)におけるR1~R4、R11~R13、R22~R25、R32~R25、m及びnと同義であり、特段の断りのない限り、好ましい範囲も同じである。
R1~R6、L1、R31及びL3~L6の少なくとも1つは-(CH2-CH2-O)m-で表される構造を含む。mは、上記mと同義である。
ただし、式(III)で表されるシアニン色素からなる構造部は、中性の構造部である。
【0053】
L3及びL4として採りうるアルキレン基は、R41及びR42として採りうる置換基を有するアルキル基から水素原子又は置換基を1つ除いて得られるアルキレン基に相当する。
L3及びL4として採りうるアルキレン基のアルキレン基部分の炭素数は、R41及びR42における置換基を有するアルキル基のアルキル基部分の炭素数の記載を好ましく適用することができる。
【0054】
L3及びL4として採りうる-(CH2-CH2-O)m-アルキレン-*は、R41及びR42として採りうる-(CH2-CH2-O)m-R21(R21は置換基を有するアルキル基を示す。)のうち、R21としてのアルキル基から水素原子又は置換基を1つ除いて得られる-(CH2-CH2-O)m-アルキレンに相当する。
L3及びL4として採り得うる-(CH2-CH2-O)m-アルキレン-*において、mは1~10が好ましく、1~8がより好ましく、アルキレン基部分の炭素数は、R41及びR42における置換基を有するアルキル基のアルキル基部分の炭素数の記載を好ましく適用することができる。
【0055】
蛍光強度をより向上させる観点から、L3及びL4はいずれも、-(CH2-CH2-O)m-で表される構造を含むことが好ましい。
【0056】
連結基Uを構成する総原子数は、1~100であり、10~90が好ましく、20~90がより好ましく、30~80がさらに好ましい。
連結基Uは、アルキレン基、-O-、-NR50-、-COO-、-CONR50-及び-SO2NR50-から選ばれる3つ以上が結合して形成される2価の連結基であることが好ましい。R50は、水素原子又はアルキル基を示す。
連結基Uとして採り得るアルキレン基のアルキレン部分の炭素数は、1~10が好ましく、1~8がより好ましく、1~7がさらに好ましく、1~6が特に好ましく、1~5が最も好ましい。
R50として採り得るアルキル基は、上記R1~R4におけるアルキル基の記載を好ましく適用することができる。
R50としては水素原子が好ましい。
連結基Uを構成する上記のアルキレン基、-O-、-NR50-、-COO-、-CONR50-及び-SO2NR50-の数は、3~11が好ましく、3~7がより好ましく、3~5がさらに好ましく、3が特に好ましい。
連結基Uは、L3及びL4との連結部が-O-、-NR50-、-COO-、-CONR50-又は-SO2NR50-であることが好ましい。すなわち、連結基Uは、連結基Uを構成する、-O-、-NR50-、-COO-、-CONR50-又は-SO2NR50-を介して、L3及びL4のアルキレン基に対して結合していることが好ましい。連結基Uは、L3及びL4との連結部が-O-、-NR50-、-COO-、-CONR50-又は-SO2NR50-であって、上記の連結部同士がアルキレン基で結ばれた2価の連結基であることがより好ましい。
連結基Uは、カルボキシ基又は後述する生体物質に結合可能な置換基を有する2価の連結基であることが好ましい。連結基Uにおいて、カルボキシ基又は生体物質に結合可能な置換基を有する箇所としては、アルキレン基又はR50としてのアルキル基が挙げられ、アルキレン基が好ましい。
連結基Uにおいて、アルキレン基又はR50としてのアルキル基に対して、カルボキシ基又は生体物質に結合可能な置換基は直接結合していてもよく、連結基ZZZを介して結合していてもよい。
上記連結基ZZZとしては、アルキレン基、-NR50-、-COO-、-CONR50-及び-(CH2-CH2-O)p-、並びにこれらの置換基の組み合わせからなる基が挙げられる。組み合わせる数は、例えば、2~7が好ましく、2~5がより好ましい。
R60は上記R60と同義であるが、R60がカルボキシ基又は生体物質に結合可能な置換基を有することはない。
pは繰り返し数を表し、1~10が好ましく、1~8がより好ましく、1~4がさらに好ましい。
【0057】
(v)n
nは、1~3の整数であって、2又は3の整数が好ましい。
【0058】
本発明の化合物が、Rとして上記一般式(III)で表されるシアニン色素からなる構造部を有する場合、化合物中における少なくとも1つの上記一般式(III)で表されるシアニン色素は、カルボキシ基又は後述する生体物質に結合可能な置換基を有する。
一般式(III)で表されるシアニン色素において、カルボキシ基又は生体物質に結合可能な置換基を有する位置に特に制限はないが、R1~R4、R41又はR42のいずれかの位置に少なくとも1つ有することが好ましく、R41又はR42に少なくとも1つ有することがより好ましく、R41とR42とが連結して形成した環上に少なくとも1つ有することがさらに好ましい。
本発明の化合物中におけるカルボキシ基または生体物質に結合可能な置換基を有する基の数については、前述の通りである。
【0059】
上記一般式(III)で表されるシアニン色素において、R1~R4、R41及びR42の少なくとも1つは、-(CH2-CH2-O)m-で表される構造を含むことが好ましい。mは上記mと同義である。これにより、一般式(III)で表されるシアニン色素からなる構造部を有する本発明の化合物は適度な親水性と、適度な排除体積効果を有することができ、得られる標識生体物質は優れた蛍光強度を示すことができると考えられる。
【0060】
また、上記一般式(III)で表されるシアニン色素は、本発明の化合物として十分な親水性を付与する観点から、一般式(III)で表されるシアニン色素1分子あたりの親水性基の数は、2個以上であることが好ましく、2~8個であることがより好ましく、2~6個であることがさらに好ましく、3~6個であることが特に好ましい。
親水性基としては、前述のR22~R25及びR32~R35が採りうる親水性基の記載を適用することができる。
親水性基の位置は、特段の断りがない限り特に制限されず、上記親水性基を有する基としては、例えば、R22~R25、R32~R35、R41又はR42が好ましく挙げられる。
なお、上記一般式(III)で表されるシアニン色素が、上記のカルボキシ基又は生体物質に結合可能な置換基として上記親水性基を有する場合、上記のカルボキシ基又は生体物質に結合可能な置換基の他に、親水性基を1個以上有することが実際的であり、好ましい。具体例としては、カルボキシ基又はスルホ基が挙げられる。
【0061】
以下に、本発明の化合物の具体例を示すが、本発明はこれらの化合物に限定されない。下記具体例において、スルホ基は、水素原子が解離して塩構造を採っていてもよい。下記具体例において、EOm、mPEG4及びPEG4は以下の構造を示し、EOmにおけるmは平均繰り返し数であり、Meはメチル基を示す。ただし、EOm及びPEG4は、窒素原子もしくは酸素原子に対して炭素原子側で結合する。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
本発明の化合物が生体物質に結合可能な置換基を有する場合、化合物が有する少なくとも1つの生体物質に結合可能な置換基によって、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、核酸、糖鎖及び脂質などの生体物質に結合させることができ、標識生体物質として用いることができる。
生体物質に結合可能な置換基としては、生体物質に作用(付着を含む)もしくは結合するための基であれば、特に制限することなく用いることができ、国際公開第2002/026891号等に記載の置換基を挙げることができる。なかでも、NHSエステル構造(N-ヒドロキシスクシンイミドエステル)、スクシンイミド構造、マレイミド構造、アジド基、アセチレン基、ペプチド構造(ポリアミノ酸構造)、長鎖アルキル基(好ましくは、炭素数12~30)、4級アンモニウム基が好ましく挙げられる。
【0068】
本発明の化合物のうち、生体物質に結合可能な置換基を少なくとも1つ有する化合物の具体例としては、例えば、本発明の化合物の例示化合物におけるカルボキシ基を後述する生体物質に結合可能な置換基に適宜置き換えた形態を、具体例として挙げられる。なお、本発明はこれらの化合物に限定されない。例えば、これらの具体例において、カルボキシ基及びスルホ基等の解離性の水素原子を有する基については、水素原子が解離して塩構造を採っていてもよい。
【0069】
本発明の化合物は、化合物構造を一般式(I)又は(II)で規定する構造とすること以外は、公知の方法で合成できる。例えば、M、L及びXの構造の合成については、Acidochromicity of Bisarylethynylbenzenes: Hydroxy versus Dialkylamino Substituents, J. Org. Chem. 2009, 74, 8909-8913及びFourfold Suzuki-Miyaura and Sonogashira Cross-Coupling Reactions on Tetrahedral Methane and Adamantane Derivatives, Eur. J. Org. Chem. 2011, 1743-1754等に記載の方法が挙げられ、シアニン色素の合成については、国際公開第2005/000218号、国際公開第2006/047452号及び国際公開第2012/012595号等に記載の方法が挙げられる。
生体物質に結合可能な置換基を有する化合物は、化合物構造を一般式(I)又は(II)で規定する構造とすること以外は、公知の方法で合成できる。例えば、Bioconjugate Techniques(Third Edition、Greg T. Hermanson著)を参照することができる。
【0070】
<<標識生体物質>>
本発明の標識生体物質は、本発明の化合物と生体物質とが結合した物質である。本発明の化合物は蛍光性を有し、近赤外領域の発色用として適した吸収波長ピークと優れた蛍光強度を示すため、標識生体物質に好ましく用いることができる。一般式(I)又は(II)で表される化合物と生体物質との結合は、一般式(I)又は(II)で表される化合物と生体物質とが直接結合した形態でもよいし、連結基を介して連結した形態でもよい。
【0071】
上記生体物質としては、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、核酸、糖鎖及び脂質が好ましく挙げられる。タンパク質としては抗体が好ましく挙げられ、脂質としてはリン脂質、脂肪酸及びステロールが好ましく挙げられ、リン脂質がより好ましい。
上記生体物質のうち、臨床病理的に有用な物質としては、特に制限されるものではないが、例えば、IgG、IgM、IgE、IgA、IgD等の免疫グロブリン、補体、C反応性蛋白(CRP)、フェリチン、α1マイクログロブリン、β2マイクログロブリン等の血漿タンパク及びそれらの抗体、α-フェトプロテイン、癌胎児抗原(CEA)、前立線性酸性フォスファターゼ(PAP)、CA19-9、CA‐125等の腫瘍マーカー及びそれらの抗体、黄体化ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、ヒト繊毛性ゴナドトロビン(hCG)、エストロゲン、インスリン等のホルモン類及びそれらの抗体、B型肝炎ウイルス(HBV)関連抗原(HBs、HBe、HBc)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、成人T細胞白血病(ATL)等のウイルス感染関連物質及びそれらの抗体、等が挙げられる。
さらに、ジフテリア菌、ボツリヌス菌、マイコプラズマ、梅毒トレポネーマ等のバクテリア及びそれらの抗体、トキソプラズマ、トリコモナス、リーシュマニア、トリバノゾーマ、マラリア原虫等の原虫類及びそれらの抗体、ELM3、HM1、KH2、v6.5、v17.2、v26.2(由来マウス129、129/SV、C57BL/6、BALB/c)等のES細胞及びそれらの抗体、フェニトイン、フェノバルビタール等の抗てんかん薬、キニジン、ジゴキニシン等の心血管薬、テオフィリン等の抗喘息薬、クロラムフェニコール、ゲンタマイシン等の抗生物質等の薬物類及びそれらの抗体、その他の酵素、菌体外毒素(スチレリジンO等)及びそれらの抗体等も挙げられる。また、Fab’2、Fab、Fv等の抗体断片も用いる事ができる。
【0072】
本発明の化合物と生体物質が相互作用して結合した具体的な形態としては、例えば、下記に記載する形態が挙げられる。
i)本発明の化合物中のペプチドと生体物質中のペプチドとの非共有結合(例えば、水素結合、キレート形成を含むイオン結合)又は共有結合、
ii)本発明の化合物中の長鎖アルキル基と生体物質中の脂質二重膜及び脂質などとのファンデルワールス力、
iii)本発明の化合物中のNHSエステル(N-ヒドロキシスクシンイミドエステル)と生体物質中のアミノ基との反応によるアミド結合、
iv)本発明の化合物中のマレイミド基と生体物質中のスルファニル基(-SH)との反応によるチオエーテル結合、
v)本発明の化合物中のアジド基と生体物質中のアセチレン基とのClick反応又は本発明の化合物中のアセチレン基と生体物質中のアジド基とのClick反応によるトリアゾール環の形成、
が挙げられる。
上記i)~v)の形態以外にも、例えば、Lucas C. D. de Rezende and Flavio da Silva Emery,. A Review of the Synthetic Strategies for the Development of BODIPY Dyes for Conjugation with Proteins, Orbital: The Electronic Journal of Chemistry, 2013, Vol 5, No. 1, p.62-83に記載の形態により結合することができる。また、本発明の標識生体物質の作製においても、同文献に記載の方法等を適宜参照することができる。
【0073】
本発明の化合物のうち、生体物質に結合可能な置換基を有する化合物と、これと相互作用により結合する生体物質とから得られる本発明の標識生体物質については、特開2019-172826号公報の段落0038の化合物例及び生成物の記載において、生体物質に結合可能な置換基以外の部分を本発明の化合物における色素部分に置き換えた化合物ならびにその生成物が挙げられる。ただし、本発明はこれらの化合物等に限定されない。
【0074】
<標識生体物質を含む試薬>
本発明の標識生体物質を含む試薬において、本発明の標識生体物質は、例えば、生理食塩水及びリン酸緩衝液等の水系媒体に溶解した溶液形態、並びに、微粒子状粉末及び凍結乾燥粉末等の固形形態等、特に制限されることなく、使用目的等に応じてその形態を適宜選択することができる。
例えば、蛍光標識試薬として本発明の標識生体物質を用いる場合に、上記いずれかの形態の標識生体物質を含む試薬として使用することもできる。
【0075】
<標識生体物質の用途>
本発明の化合物から得られる本発明の標識生体物質は、優れた蛍光強度を示すことができ、光照射により励起された標識生体物質から放出される蛍光を安定的に検出することができる。このため、本発明の標識生体物質は、蛍光標識を用いた種々の技術に適用することができ、例えば、多色WB若しくはドットブロッティングにおける蛍光標識試薬又は生体蛍光イメージング試薬として好適に用いることができる。
【0076】
本発明の標識生体物質を用いて行う蛍光検出は、通常、以下(i)~(iii)または(iv)~(vii)の工程を含む。(i)~(iii)の工程を含む蛍光検出は、本発明の化合物で蛍光標識した一次抗体を用いる直接法に該当し、(iv)~(vii)の工程を含む蛍光検出は、本発明の化合物で蛍光標識した二次抗体を用いる間接法に該当する。
(i)下記(a)及び(b)をそれぞれ用意する工程
(a)標的とする生体物質(以下、「標的生体物質」とも称す。)を含む試料
(b)上記(a)における標的生体物質と結合可能な生体物質(以下、「一次生体物質」とも称す。)と、本発明の化合物と、が結合した本発明の標識生体物質(以下、「本発明の標識生体物質A」とも称す。)
(ii)上記(a)における標的生体物質と、上記(b)の本発明の標識生体物質Aにおける一次生体物質と、が結合した結合体(以下、「蛍光標識された結合体A」とも称す。)を用意する工程
(iii)上記の蛍光標識された結合体Aに、本発明の標識生体物質Aが吸収する波長域の光を照射し、本発明の標識生体物質Aが発する蛍光を検出する工程
(iv)下記(c)~(e)をそれぞれ用意する工程
(c)標的生体物質を含む試料
(d)上記(c)における標的生体物質と結合可能な生体物質(以下、「一次生体物質」とも称す。)
(e)上記(d)の一次生体物質と結合可能な生体物質(以下、「二次生体物質」とも称す。)と、本発明の化合物と、が結合した本発明の標識生体物質(以下、「本発明の標識生体物質B」とも称す。)
(v)上記(c)における標的生体物質と、上記(d)の一次生体物質と、が結合した結合体(以下、「結合体b」とも称す。)を用意する工程
(vi)上記結合体bにおける一次生体物質と、本発明の標識生体物質Bにおける二次生体物質と、が結合した結合体(以下、「蛍光標識された結合体B2」とも称す。)を用意する工程
(vii)上記の蛍光標識された結合体B2に、本発明の標識生体物質Bが吸収する波長域の光を照射し、本発明の標識生体物質Bが発する蛍光を検出する工程
【0077】
上記の標的生体物質と結合可能な生体物質(一次生体物質)、及び、一次生体物質と結合可能な生体物質(二次生体物質)としては、上記本発明の標識生体物質における生体物質が挙げられる。標的生体物質(被検体中の生体物質)又は一次生体物質にあわせて適宜選択することができ、被検体中の生体物質又は一次生体物質に対して特異的に結合可能な生体物質を選択することができる。
【0078】
上記標的生体物質としては、タンパク質、いわゆる疾患マーカーが挙げられる。疾患マーカーとしては、特に制限はされるものではないが、例えば、α-フェトプロテイン(AFP)、PIVKA-II、BCA225、塩基性フェトプロテイン(BFP)、CA15-3、CA19-9、CA72-4、CA125、CA130、CA602、CA54/61(CA546)、癌胎児性抗原(CEA)、DUPAN-2、エラスターゼ1、免疫抑制酸性タンパク(IAP)、NCC-ST-439、γ-セミノプロテイン(γ-Sm)、前立腺特異抗原(PSA)、前立腺酸性フォスファターゼ(PAP)、神経特異エノラーゼ(NSE)、Iba1、アミロイドβ、タウ、フロチリン、扁平上皮癌関連抗原(SCC抗原)、シアリルLeX-i抗原(SLX)、SPan-1、組織ポリペプタイド抗原(TPA)、シリアルTn抗原(STN)、シフラ(cytokeratin:CYFRA)ペプシノゲン(PG)、C-反応性タンパク(CRP)、血清アミロイドAタンパク(SAA)、ミオグロビン、クレアチンキナーゼ(CK)、トロポニンT、心室筋ミオシン軽鎖I等が挙げられる。
【0079】
上記標的生体物質は細菌でもよく、この細菌としては、細胞微生物学的検査の対象とされる細菌が挙げられ、特に制限されるものではないが、例えば、大腸菌、サルモネラ菌、レジオネラ菌、公衆衛生に問題の生じる菌等が挙げられる。
【0080】
上記標的生体物質はウイルスでもよく、このウイルスとしては、特に制限されるものではないが、例えば、C型、B型肝炎ウイルスの抗原等の肝炎ウイルス抗原、HIVウイルスのp24タンパク抗原、CMV(サイトメガロウイルス)のpp65タンパク抗原、HPV(ヒトパピローマウイルス)のE6及びE7タンパク等が挙げられる。
【0081】
上記(i)または(iv)において、標的生体物質を含む試料は、特に制限されることなく、常法に従って調製することができる。
また、本発明の標識生体物質も、特に制限されることなく、標的生体物質と結合可能な生体物質と本発明の化合物とを常法に従って結合させて調製することができる。結合の形態及び結合を形成する反応は、上記本発明の標識生体物質で説明した通りである。
【0082】
上記(v)において、標的生体物質と一次生体物質とは、直接結合させても、標的生体物質及び一次生体物質とは異なるその他の生体物質を介して結合させてもよい。また、上記(vi)において、結合体bにおける一次生体物質と、本発明の標識生体物質Bにおける二次生体物質とは、直接結合させても、一次生体物質及び二次生体物質とは異なるその他の生体物質を介して結合させてもよい。
本発明の標識生体物質は、直接法及び間接法のいずれにおける蛍光標識抗体としても用いることができるが、間接法における蛍光標識抗体として用いることが好ましい。
上記(ii)または(v)及び(vi)において、本発明の標識生体物質等と標的生体物質との結合は、特に制限されることなく、常法に従って行うことができる。
【0083】
上記(iii)または(vii)において、本発明の標識生体物質を励起するための波長は、本発明の標識生体物質を励起可能な発光波長(波長光)であれば特に限定されない。
本発明の化合物のうち、蛍光体部Rとして前述の一般式(III)で表されるシアニン色素からなる構造部を有し、nが1である化合物を用いた標識生体物質は、585nm付近(560~620nm)に吸収極大波長を有するため、照射する光の波長域は530~650nmが好ましく、550~630nmがより好ましい。この化合物を用いた標識生体物質は、可視領域における600nm付近の励起光源に対して、優れた蛍光強度を示す標識生体物質として、好適に用いることができる。
本発明の化合物のうち、蛍光体部Rとして前述の一般式(III)で表されるシアニン色素からなる構造部を有し、nが2である化合物を用いた標識生体物質は、685nm付近(660~720nm)に吸収極大波長を有するため、照射する光の波長域は630~750nmが好ましく、650~730nmがより好ましい。この化合物を用いた標識生体物質は、多色WB等の近赤外領域における700nm付近の励起光源に対して、優れた蛍光強度を示す標識生体物質として、好適に用いることができる。
本発明の化合物のうち、蛍光体部Rとして前述の一般式(III)で表されるシアニン色素からなる構造部を有し、nが3である化合物を用いた標識生体物質は、785nm付近(760~820nm)に吸収極大波長を有するため、照射する光の波長域は730~850nmが好ましく、750~830nmがより好ましい。この化合物を用いた標識生体物質は、多色WB等の近赤外領域における800nm付近の励起光源に対して、優れた蛍光強度を示す標識生体物質として、好適に用いることができる。
【0084】
本発明に用いられる蛍光励起光源としては、本発明の標識生体物質を励起可能な発光波長(波長光)を発光するものであれば特に限定されず、例えば、各種レーザー光源を用いることができる。また、各種光学フィルターを用いて、好ましい励起波長を得たり、蛍光のみを検出したりする事ができる。
【0085】
上記(i)~(vii)におけるその他の事項については、特に制限されることなく、蛍光標識を用いる蛍光検出において通常用いられる手法、試薬、装置等の条件を適宜選択することができる。
また、上記(i)~(vii)以外の工程についても、蛍光標識を用いる種々の手法にあわせて、通常用いられる手法、試薬、装置等の条件を適宜選択することができる。
【0086】
例えば、本発明の標識生体物質を用いた多色WBは、標的生体物質として通常用いられる手法(電気泳動によるタンパク質の分離、メンブレンへのブロッティング、メンブレンのブロッキング)によりブロットメンブレンを作製し、本発明の標識生体物質を標識抗体(好ましくは、二次抗体)として用いることにより、優れた蛍光強度で標的生体物質を検出することができる。本発明の標識生体物質を用いたドットブロッティングについても、多色WBと同様、標的生体物質として通常用いられる手法によりブロットニトロセルロース膜又はブロットPVDF(ポリフッ化ビニリデン)膜等を作製し、本発明の標識生体物質を標識抗体(好ましくは、二次抗体)として用いることにより、優れた蛍光強度で標的生体物質を検出することができる。
【0087】
- 置換基群T -
本発明において、好ましい置換基としては、下記置換基群Tから選ばれる置換基が挙げられる。
また、本発明において、単に置換基としてしか記載されていない場合は、この置換基群Tを参照するものであり、各々の基、例えば、アルキル基、が記載されているのみの場合は、この置換基群Tの対応する基が好ましく適用される。
さらに、本明細書において、アルキル基を環状(シクロ)アルキル基と区別して記載している場合、アルキル基は、直鎖アルキル基及び分岐アルキル基を包含する意味で用いる。一方、アルキル基を環状アルキル基と区別して記載していない場合、及び、特段の断りがない場合、アルキル基は、直鎖アルキル基、分岐アルキル基及びシクロアルキル基を包含する意味で用いる。このことは、環状構造を採りうる基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等)を含む基(アルコキシ基、アルキルチオ基、アルケニルオキシ基等)、環状構造を採りうる基を含む化合物についても同様である。基が環状骨格を形成しうる場合、環状骨格を形成する基の原子数の下限は、この構造を採りうる基について下記に具体的に記載した原子数の下限にかかわらず、3以上であり、5以上が好ましい。
下記置換基群Tの説明においては、例えば、アルキル基とシクロアルキル基のように、直鎖又は分岐構造の基と環状構造の基とを明確にするため、これらを分けて記載していることもある。
【0088】
置換基群Tに含まれる基としては、下記の基を含む。
アルキル基(好ましくは炭素数1~30、より好ましくは炭素数1~20、さらに好ましくは炭素数1~12、さらに好ましくは炭素数1~8、さらに好ましくは炭素数1~6、特に好ましくは炭素数1~3)、アルケニル基(好ましくは炭素数2~30、より好ましくは炭素数2~20、さらに好ましくは炭素数2~12、さらに好ましくは炭素数2~6、さらに好ましくは炭素数2~4)、アルキニル基(好ましくは炭素数2~30、より好ましくは炭素数2~20、さらに好ましくは炭素数2~12、さらに好ましくは炭素数2~6、さらに好ましくは炭素数2~4)、シクロアルキル基(好ましくは炭素数3~20)、シクロアルケニル基(好ましくは炭素数5~20)、アリール基(単環の基であってもよく、縮環の基(好ましくは2~6環の縮環の基)であってもよい。縮環の基である場合、5~7員環等からなる。アリール基は好ましくは炭素数6~40、より好ましくは炭素数6~30、さらに好ましくは炭素数6~26、特に好ましくは炭素数6~10)、ヘテロ環基(環構成原子として少なくとも1つの窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子又はセレン原子を有し、単環の基であってもよく、縮環の基(好ましくは2~6環の縮環の基)であってもよい。単環の基である場合、その環員数は5~7員が好ましく、5員又は6員がより好ましい。ヘテロ環基の炭素数は好ましくは2~40、より好ましくは2~20である。ヘテロ環基は芳香族ヘテロ環基(ヘテロアリール基)及び脂肪族ヘテロ環基(脂肪族複素環基)が包含される。)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~20、より好ましくは炭素数1~12)、アルケニルオキシ基(好ましくは炭素数2~20、より好ましくは炭素数2~12)、アルキニルオキシ基(好ましくは炭素数2~20、より好ましくは炭素数2~12)、シクロアルキルオキシ基(好ましくは炭素数3~20)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6~40、より好ましくは炭素数6~26、さらに好ましくは炭素数6~14)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは炭素数2~20)、ポリアルキレンオキシ基(好ましくは炭素数2~40、より好ましくは炭素数2~20)、
【0089】
アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2~20)、シクロアルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数4~20)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数6~20)、アミノ基(好ましくは炭素数0~20で、無置換アミノ基(-NH2)、(モノ-又はジ-)アルキルアミノ基、(モノ-又はジ-)アルケニルアミノ基、(モノ-又はジ-)アルキニルアミノ基、(モノ-又はジ-)シクロアルキルアミノ基、(モノ-又はジ-)シクロアルケニルアミノ基、(モノ-又はジ-)アリールアミノ基、(モノ-又はジ-)ヘテロ環アミノ基を含む。無置換アミノ基を置換する上記各基は置換基群Tの対応する基と同義である。)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0~20で、アルキル、シクロアルキルもしくはアリールのスルファモイル基が好ましい。)、アシル基(好ましくは炭素数1~20、より好ましくは炭素数2~15)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数1~20)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1~20で、アルキル、シクロアルキルもしくはアリールのカルバモイル基が好ましい。)、
【0090】
アシルアミノ基(好ましくは炭素数1~20)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1~20、より好ましくは炭素数1~12)、シクロアルキルチオ基(好ましくは炭素数3~20)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6~40、より好ましくは炭素数6~26、さらに好ましくは炭素数6~14)、ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数2~20)、アルキル、シクロアルキルもしくはアリールスルホニル基(好ましくは炭素数1~20)、
【0091】
シリル基(好ましくは炭素数1~30、より好ましくは炭素数1~20で、アルキル、アリール、アルコキシもしくはアリールオキシが置換したシリル基が好ましい。)、シリルオキシ基(好ましくは炭素数1~20で、アルキル、アリール、アルコキシもしくはアリールオキシが置換したシリルオキシ基が好ましい。)、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子)、酸素原子(具体的には、環を構成する>CH2を>C=Oに置き換える)、カルボキシ基(-CO2H)、ホスホノ基〔-PO(OH)2〕、ホスホリル基〔-O-PO(OH)2〕、スルホ基(-SO3H)、ホウ酸基〔-B(OH)2〕、オニオ基(環状アンモニオを含むアンモニオ基、スルホニオ基、ホスホニオ基を含み、好ましくは炭素数0~30、より好ましくは1~20)、スルファニル基(-SH)、アミノ酸残基、又は、ポリアミノ酸残基が挙げられる。
また、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、オニオ基、アミノ酸残基、ポリアミノ酸残基又は-(CH2-CH2-O)m-アルキル基(mはR1~R6におけるmと同義である。)を置換基として有する上記のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルコキシカルボニル基、シクロアルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノ基、スルファモイル基、アシル基、アシルオキシ基、カルバモイル基、アシルアミノ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、アルキル、シクロアルキルもしくはアリールスルホニル基が挙げられる。
【0092】
置換基群Tから選ばれる置換基は、より好ましくは、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、シクロアルコキシカルボニル基、アミノ基、アシルアミノ基、シアノ基又はハロゲン原子であり、特に好ましくは、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシルアミノ基又はシアノ基である。
【0093】
置換基群Tから選ばれる置換基は、特段の断りがない限り、上記の基を複数組み合わせてなる基をも含む。例えば、化合物又は置換基等がアルキル基、アルケニル基等を含むとき、これらは置換されていても置換されていなくてもよい。また、アリール基、ヘテロ環基等を含むとき、それらは単環でも縮環でもよく、置換されていても置換されていなくてもよい。
【実施例0094】
以下に実施例に基づき、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。なお、室温とは25℃を意味する。
【0095】
実施例で用いた化合物(1-NHS)~(5-NHS)のカルボキシ体である化合物(1)~(5)、及び、比較化合物(1-NHS)~(3-NHS)を、以下に示す。
なお、実施例化合物において、特に記載しない場合にも、スルホ基は塩構造(例えば、カリウム塩、ナトリウム塩、TEA(トリエチルアミン)塩あるいはDIPEA(N,N-ジイソプロピルエチルアミン)塩)を含んでいてもよい。EO3及びEO4は、前述の一般式(I)又は(II)で表される化合物の具体例におけるEO3及びEO4と同義である。mは、平均繰り返し数を意味する。いずれの化合物も、平均繰り返し数の小数第一位が0である化合物を原料として用いて合成した。
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
以下に、各化合物の合成方法を詳しく説明するが、出発物質、色素中間体及び合成ルートはこれらに限定されるものではない。
以下の合成ルートにおいて、室温とは25℃を意味する。
【0100】
なお、以下に示す各成分の合成に用いた略語は下記の通りである。
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
Pd/SPhos G3:SPhos Pd G3(商品名)、Sigma-Aldrich社製、クロスカップリング用Pd触媒
TBAF:テトラブチルアンモニウムフルオリド
TEA:トリエチルアミン
THF:テトラヒドロフラン
Ac:アセチル基
tBu:tert-ブチル基
Et:エチル基
TMS:トリメチルシリル基
Ts:p-トルエンスルホニル基
【0101】
特に記載のない場合、逆相カラムクロマトグラフィーにおける担体は、SNAP Ultra C18(商品名、Biotage社製)またはSfar C18(商品名、Biotage社製)を使用し、順相カラムクロマトグラフィーにおける担体は、Hi-Flash Column(商品名、山善社製)を使用した。
逆相カラムクロマトグラフィー又は順相カラムクロマトグラフィーにおいて使用する溶離液における混合比は、容量比である。例えば、「アセトニトリル:水=0:100→20:80」は、「アセトニトリル:水=0:100」の溶離液を「アセトニトリル:水=20:80」の溶離液へ変化させたことを意味する。
分取HPLC(High Performance Liquid Chromatography)は、2767(商品名、waters社製)を使用した。
【0102】
MSスペクトルは、ACQUITY SQD LC/MS System〔商品名、Waters社製、イオン化法:ESI(ElectroSpray Ionization、エレクトロスプレーイオン化)〕又はLCMS-2010EV〔商品名、島津製作所社製、イオン化法:ESI及びAPCI(Atomospheric Pressure ChemicalIonization、大気圧化学イオン化)を同時に行うイオン化法〕を用いて測定した。
【0103】
<化合物(1-NHS)の合成>
下記のスキームに基づき、化合物(1-NHS)を合成した。
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
1)化合物(1-B)の合成
1L容の三ツ口フラスコに化合物(1-A)20g及び蒸留水150mlを入れ、攪拌しているところへ、30%塩酸水溶液75mlを滴下した。塩氷浴で冷却し、3℃以下を維持しながら、亜硝酸ナトリウム7gを蒸留水80mlに溶かした溶液をゆっくり滴下し、その後0~3℃で45分間攪拌した。続いて、塩化スズ(II)38gを蒸留水90mlと30%HCl 30mlに溶解した溶液をゆっくり滴下し、その後40分間7℃以下で攪拌した。溶媒を濃縮して、残渣をイソプロパノールで洗浄し、化合物(1-B)14gを得た。
【0108】
2)化合物(1-D)の合成
200ml容のナスフラスコに化合物(1-B)1.9g、酢酸(AcOH)20ml、化合物(1-C)1.3g及び酢酸カリウム(AcOK)0.98gを入れ、窒素雰囲気下140℃にて1時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、逆相カラムクロマトグラフィー(溶離液:アセトニトリル/水=0/100→35/65)で精製し、化合物(1-D)0.99gを得た。
【0109】
3)化合物(1-E)の合成
化合物(1-D)478mg、スルホラン2ml、ブタンスルトン680mg及びトリエチルアミン(Et3N)0.132mlを50ml容のナスフラスコに入れ、120℃にて6時間加熱撹拌した。反応液へ、酢酸エチルを加え、沈殿を生じさせた。沈殿物を逆相カラムクロマトグラフィー(溶離液:アセトニトリル/水=0/100→20/100)にて精製し、化合物(1-E)344mgを得た。
【0110】
4)化合物(1-F)の合成
化合物(1-D)478mg、スルホラン2ml、6-ブロモヘキサン酸772mg及びトリエチルアミン(Et3N)0.132mlを50ml容のナスフラスコに入れ、120℃にて6時間加熱撹拌した。反応液へ、酢酸エチルを加え、沈殿を生じさせた。沈殿物を逆相カラムクロマトグラフィー(溶離液:アセトニトリル/水=0/100→20/100)にて精製し、化合物(1-F)296mgを得た。
【0111】
5)化合物(1-H)の合成
試験管に化合物(1-E)187mg、化合物(1-G)43mg、酢酸カリウム(AcOK)49mg及び無水酢酸(Ac2O)2mLを加え、窒素雰囲気下、60℃で2時間攪拌した。反応収束後、蒸留水を加え、逆相カラムクロマトグラフィー(溶離液:アセトニトリル/水=0/100→25/75)にて精製し、化合物(1-H)141mgを得た。
【0112】
6)化合物(1-I)の合成
試験管に化合物(1-E)94mg、化合物(1-F)88mg、化合物(1-G)43mg、酢酸カリウム(AcOK)49mg及び無水酢酸(Ac2O)2mLを加え、窒素雰囲気下、60℃で2時間攪拌した。反応収束後、蒸留水を加え、逆相カラムクロマトグラフィー(溶離液:アセトニトリル/水=0/100→25/75)にて精製し、化合物(1-I)63mgを得た。
【0113】
7)化合物(1-K)の合成
200ml容のナスフラスコに化合物(1-J)10g、塩化メチレン50mL、無水酢酸(Ac2O)6.32mLを加え、トリエチルアミン9.3mLを室温でゆっくり滴下した。室温にて1時間撹拌したのち、溶媒を減圧留去し、順相カラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=100/0→25/75)で精製し、化合物(1-K)11.5gを得た。
【0114】
8)化合物(1-L)の合成
100ml容のナスフラスコに化合物(1-K)2.4g、トリメチルシリルアセチレン1.9mL、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)500mg、ヨウ化銅(I)86mg、トリエチルアミン30mLを加えた。真空脱気したのち、窒素気流下、80℃で3時間撹拌した。反応液を室温まで冷却し、セライトろ過後、溶媒を減圧留去した。残渣に、テトラヒドロフラン(THF)20mLを加え、氷水で0℃まで冷却した。1Mテトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)のTHF溶液10mLをゆっくり滴下し、0℃にて1時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、順相カラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=100/0→80/20)で精製し、化合物(1-L)1.1gを得た。
【0115】
9)化合物(1-O)の合成
300ml容のナスフラスコに化合物(1-M)7g、化合物(1-N)8.3g、THF70mLを加えた。氷水で冷却しながら、tBuOK5.4gをゆっくり加えた。窒素気流下、室温で3時間撹拌した。溶媒を減圧留去したのち、酢酸エチル50mLを加え、ろ過したのち、ろ液を溶媒を減圧留去した。順相カラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=100/0→0/100→酢酸エチル/メタノール50/50)で精製し、化合物(1-O)7.8gを得た。
【0116】
10)化合物(1-P)の合成
50ml容のナスフラスコに化合物(1-L)200mg、化合物(1-O)1.2g、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)100mg、ヨウ化銅(I)12mg、トリエチルアミン10mL、THF5mLを加えた。真空脱気したのち、窒素気流下、80℃で3時間撹拌した。反応液を室温まで冷却し、セライトろ過後、溶媒を減圧留去した。順相カラムクロマトグラフィー(溶離液:メタノール/酢酸エチル=0/100→50/50)で精製し、化合物(1-P)850mgを得た。
【0117】
11)化合物(1-Q)の合成
50ml容のナスフラスコに化合物(1-P)850mg、トリメチルシリルアセチレン0.48mL、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)80mg、ヨウ化銅(I)11mg、トリエチルアミン5mL、THF2.5mLを加えた。真空脱気したのち、窒素気流下、80℃で3時間撹拌した。反応液を室温まで冷却し、セライトろ過後、溶媒を減圧留去した。残渣に、テトラヒドロフラン(THF)10mLを加え、氷水で0℃まで冷却した。1MテトラブチルアンモニウムフルオリドのTHF溶液1mLをゆっくり滴下し、0℃にて1時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、順相カラムクロマトグラフィー(溶離液:メタノール/酢酸エチル=0/100→50/50)で精製し、化合物(1-Q)550mgを得た。
【0118】
12)化合物(1-R)の合成
50ml容のナスフラスコに化合物(1-P)110mg、化合物(1-Q)102mg、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)20mg、ヨウ化銅(I)2.8mg、トリエチルアミン5mL、THF2.5mLを加えた。真空脱気したのち、窒素気流下、80℃で3時間撹拌した。反応液を室温まで冷却し、セライトろ過後、溶媒を減圧留去した。残渣に、テトラヒドロフラン(THF)1mL、MeOH1mL、3N 水酸化ナトリウム水溶液440μLを加え、室温にて1時間撹拌した。酢酸エチル、飽和食塩水で分液後、有機層を減圧留去し、順相カラムクロマトグラフィー(溶離液:メタノール/酢酸エチル=0/100→50/50)で精製し、化合物(1-R)28mgを得た。
【0119】
13)化合物(1)の合成
試験管に化合物(1-H)8.9mg、化合物(1-I)8.6mg、化合物(1-R)7.7mg及び蒸留水300μL、アセトニトリル300μLを加え、95℃で攪拌した。この溶液へ、水酸化ナトリウム1mgを蒸留水100μLに溶解した溶液を滴下して、95℃で30分撹拌した。反応液を室温に冷却し、分取HPLCにて精製し、凍結乾燥を施して、化合物(1)7.1mgを得た。化合物(1)のMS測定の結果は以下の通りであった。
MS(ESI m/z):(M+H+)+=2970、(M-H+)-=2968
【0120】
14)化合物(1-NHS)の合成
化合物(1)3.0mgに、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)0.30ml、N,N,N’,N’-テトラメチル-O-(N-スクシンイミジル)ウロニウムヘキサフルオロホスファート 1mgを溶解させたN,N-ジメチルホルムアミド溶液、及びトリエチルアミン(Et3N)を加えて1時間攪拌させた。その後、溶媒を減圧留去し、酢酸エチル1.5mLを加えて上澄みを除去、真空乾燥を施すことで化合物(1-NHS)を得た。
【0121】
<化合物(2-NHS)の合成>
下記のスキームに基づき、化合物(1-NHS)と同様に化合物(2-NHS)を合成した。化合物(2)のMS測定の結果は以下の通りであった
MS(ESI m/z):(M+H+)+=3197、(M-H+)-=3195
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
<化合物(3-NHS)の合成>
下記のスキームに基づき、化合物(1-NHS)と同様に化合物(3-NHS)を合成した。化合物(3)のMS測定の結果は以下の通りであった
MS(ESI m/z):(M+H+)+=3610、(M-H+)-=3608
【0127】
【0128】
【0129】
<化合物(4-NHS)の合成>
下記のスキームに基づき、化合物(1-NHS)と同様に化合物(4-NHS)を合成した。化合物(4)のMS測定の結果は以下の通りであった
MS(ESI m/z):(M+H+)+=4178、(M-H+)-=4176
【0130】
【0131】
<化合物(5-NHS)の合成>
下記のスキームに基づき、化合物(1-NHS)と同様に化合物(5-NHS)を合成した。化合物(5)のMS測定の結果は以下の通りであった
MS(ESI m/z):(M+H+)+=8728、(M-H+)-=8726
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
比較化合物(1-NHS)はLI-COR Biotechnology社製のIRDye800CW(商品名)である。
比較化合物(2-NHS)は、N-(acid-PEG3)-N-bis(PEG3-amine) (BROADPHARM社製、商品名:BP-23868)と比較化合物(1-NHS)とから得られた、比較化合物(2-NHS)のカルボキシ体である化合物を用いて、上記の各NHSエステル体の合成と同様にして合成した。比較化合物(2-NHS)のカルボキシ体である化合物のMS測定の結果は以下の通りであった。
MS(ESI m/z):(M+H+)+=2541、(M-H+)-=2539
比較化合物(3-NHS)は、下記スキームに基づき合成した比較化合物(3)を用いて、上記の各NHSエステル体の合成と同様にして合成した。比較化合物(3)のMS測定の結果は以下の通りであった。
MS(ESI m/z):(M+H+)+=2042、(M-H+)-=2040
【0136】
【0137】
<実施例1>
上記の各化合物のNHSエステル(N-ヒドロキシスクシンイミドエステル)体について、蛍光標識率、メンブレン上蛍光強度及びドットブロットを評価した。
なお、以降においては、各化合物のNHSエステル体を単に「化合物」と略して称す。すなわち、化合物(1-NHS)については化合物1と略して称し、化合物(2-NHS)~(5-NHS)並びに比較化合物(1-NHS)~(3-NHS)についても同様に、それぞれ化合物2~5並びに比較化合物1~3と略して称す。
【0138】
[0]蛍光標識抗体の作製
マイクロチューブに、抗ウサギIgG抗体(2.3mg/ml)217μL及び炭酸塩バッファー21.7μLを入れ、振とう撹拌を施した後、化合物1のジメチルスルホキシド溶液を、抗体に対して表1に示すモル当量比になるように加え、さらに振とう撹拌を行った。4℃にて24間静置させ、反応液を遠心限外ろ過フィルター アミコンウルトラUFC510096(商品名、Merck社製)とPBS溶液(リン酸緩衝食塩水)を用いて精製を施し、標識抗体1を得た。得られた標識抗体について、下記に示す方法により蛍光標識率を算出した。この蛍光標識率は、DOL(抗体1分子あたりに結合した蛍光色素の分子数)を意味する。
同様にして、各化合物及び比較化合物の標識抗体を得た。表Aに結果をまとめて示す。
【0139】
蛍光標識率の算出方法は、下記に示すような一般的な手法を用いた。[ ]の中の記載は単位を示し、[-]は単位がないことを意味する。本試験においては、タンパク質は抗ウサギIgG抗体を意味する。
蛍光標識率=蛍光色素の濃度/タンパク質の濃度
蛍光色素の濃度とは、標識されている蛍光色素の総モル濃度[M]を意味し、タンパク質の濃度とは、蛍光標識したタンパク質のモル濃度[M]を意味し、それぞれ、下記式により算出される。
蛍光色素の濃度=Dyemax/εdye
タンパク質の濃度=(IgG280-(Dyemax×CF))/εprotein
上記式中の各符号は、下記の通りである。
Dyemax;蛍光色素の最大吸収波長における吸収[-]
εdye;蛍光色素のモル吸光係数[M-1cm-1]
IgG280;蛍光標識タンパク質の280nmにおける吸収[-]
Dye280;蛍光色素の280nmにおける吸収[-]
εprotein;タンパク質のモル吸光係数[M-1cm-1]
CF(Correction Factor);Dye280/Dyemax[-]
【0140】
【0141】
(表の注)
標識抗体の欄において、化合物Z-IgG又は比較化合物Z-IgGとの表記は、それぞれ、化合物ZのIgG標識抗体又は比較化合物ZのIgG標識抗体を意味する。Zは、各化合物の番号を意味する。以降の表においても同義である。
【0142】
上記表Aの結果から、以下のことがわかる。
本発明の化合物である化合物1~5は、抗体に対して3当量、5当量、10当量及び25当量のいずれのモル当量で添加した場合にも、市販の標識化合物である比較化合物1を用いた場合と同程度又はそれ以上の蛍光標識率を示しており、抗体への結合性としては、実用上問題のない十分なレベルを示していた。このことは、No.cA11とNo.A1~A5との対比から読み取ることができる。
なかでも、化合物2~5は、蛍光体部Rとして有する一般式(III)で表されるシアニン色素のうちの少なくとも1つのシアニン色素が、R41及びR42が互いに結合してなる置換基上に生体物質に結合可能な置換基を有し、より高い蛍光標識率を示すことがわかる(No.A1に対するNo.A2~A5)。
【0143】
[1]溶液蛍光強度の評価
上記で作製した標識抗体の溶液を、タンパク質濃度0.005mg/mLに調整し、分光蛍光強度計(商品名:RF-5300、島津製作所社製)を用いて、785nmの励起光で、露光条件を統一して、蛍光波長810~840nmの範囲の蛍光強度の積分値を算出した。比較化合物1-IgGのDOL2.1の蛍光強度を基準値とし、この基準値に対する比を算出し、以下の評価基準に基づき評価した。表1に結果をまとめて示す。
本試験において、蛍光強度は、評価ランク「D」以上が合格である。
【0144】
- 蛍光強度の評価基準 -
A:基準値に対する蛍光強度の比が7.0倍以上
B:基準値に対する蛍光強度の比が4.0倍以上7.0倍未満
C:基準値に対する蛍光強度の比が2.5倍以上4.0倍未満
D:基準値に対する蛍光強度の比が1.5倍以上2.5倍未満
E:基準値に対する蛍光強度の比が1.2倍以上1.5倍未満
F:基準値に対する蛍光強度の比が0.8倍以上1.2倍未満
G:基準値に対する蛍光強度の比が0.8倍未満
【0145】
【0146】
上記表1の結果から、以下のことがわかる。
比較化合物2は、蛍光体部を連結する基がポリオキシアルキレン基である点で、本発明で規定する構造ではなく、比較化合物3は、蛍光体部を連結する基がフェニレン基とポリオキシアルキレン基とからなる点で、本発明で規定する構造ではない。これらの比較化合物2又は3を用いた標識抗体の溶液での蛍光強度は、低かった(No.c12及びc13)。
これに対して、本発明の化合物1~5の標識抗体は、いずれも、上記比較標識抗体1の蛍光強度に対して1.5倍以上の蛍光強度を有し、優れた蛍光強度を示していた(No.c11に対するNo.101~105)。また、比較化合物1~3を用いた場合には、DOLの増加に伴って、自己会合による蛍光強度の低下がみられたのに対し、本発明の化合物1~5の標識抗体では、DOLの増加に伴う自己会合による蛍光強度の低下が効果的に抑制されていることがわかった(各No.101~105、c11~c13における、a~d間の蛍光強度の参照)。
なかでも、蛍光体部R間を結ぶ連結基上に親水性基を有し、さらに、一般式(III)で表されるシアニン色素からなる構造部として、R1及びR2の少なくとも1つとR3及びR4の少なくとも1つとが、-(CH2-CH2-O)m-で表される構造を含む構造部を有する本発明の化合物3~5は、溶液の状態においてより優れた蛍光強度を示していた(No.101及び102に対するNo.103~105)。特に、蛍光体部R間を3価以上の連結基Mを用いて結合している本発明の化合物5を用いた標識抗体は、蛍光色素1分子中における蛍光体部Rの数に応じ、溶液の状態においてより優れた蛍光強度を示していた(No.103及び104に対するNo.105)。
【0147】
[2]メンブレン上蛍光強度評価
抗ウサギIgG溶液をタンパク質濃度5.0ng/mLに調整し、2μLをニトロセルロースメンブレン上に慎重にスポットした。メンブレンを乾燥後、次いでTBS-T中、Fish Gelatinブロッキング緩衝液でブロックした。膜を室温で1時間攪拌しながらインキュベートした。ブロッキング溶液を取り除き、標識抗体のPBS溶液をTBS緩衝液で20000倍希釈した。メンブレンを希釈した溶液に浸し、1時間攪拌しながらインキュベートした。メンブレンをTBS-T緩衝液で10分間、3回洗浄し、最後にTBS緩衝液で10分洗浄した。得られたメンブレンを40℃のホットプレートで1時間乾燥させ、Amersham Typhoon scanner(GEHC社製)を用いて画像化し、785nmの励起光で、露光条件を統一して、蛍光波長810~840nmの範囲の蛍光強度を算出した。比較化合物1-IgGのDOL2.1の蛍光強度を基準値とし、この基準値に対する比を算出し、以下の評価基準に基づき評価した。表2に結果をまとめて示す。
本試験において、蛍光強度は、評価ランク「D」以上が合格である。
【0148】
- 蛍光強度の評価基準 -
A:基準値に対する蛍光強度の比が7.0倍以上
B:基準値に対する蛍光強度の比が4.0倍以上7.0倍未満
C:基準値に対する蛍光強度の比が2.5倍以上4.0倍未満
D:基準値に対する蛍光強度の比が1.5倍以上2.5倍未満
E:基準値に対する蛍光強度の比が1.2倍以上1.5倍未満
F:基準値に対する蛍光強度の比が0.8倍以上1.2倍未満
G:基準値に対する蛍光強度の比が0.8倍未満
【0149】
【0150】
上記表2の結果から、以下のことがわかる。
上述の通り、本発明で規定する構造を有しない比較化合物2又は3を用いた標識抗体のメンブレン上における蛍光強度は、いずれも低かった(No.c22及びc23)。
これに対して、本発明の化合物1~5の標識抗体は、いずれも、上記比較標識抗体1の蛍光強度に対して1.5倍以上の蛍光強度を有し、優れた蛍光強度を示していた(No.c21に対するNo.201~205)。また、比較化合物1~3を用いた場合には、DOLの増加に伴って、自己会合による蛍光強度の低下がみられたのに対し、本発明の化合物1~5の標識抗体では、DOLの増加に伴う自己会合による蛍光強度の低下が効果的に抑制されていることがわかった(各No.201~205、c21~c23における、a~d間の蛍光強度の参照)。
なかでも、蛍光体部R間を結ぶ連結基上に親水性基を有し、さらに、一般式(III)で表されるシアニン色素からなる構造部として、R1及びR2の少なくとも1つとR3及びR4の少なくとも1つとが、-(CH2-CH2-O)m-で表される構造を含む構造部を有する本発明の化合物3~5は、メンブレン上においてより優れた蛍光強度を示していた(No.201及び202に対するNo.203~205)。特に、蛍光体部R間を3価以上の連結基Mを用いて結合している本発明の化合物5を用いた標識抗体は、蛍光色素1分子中における蛍光体部Rの数に応じ、メンブレン上においてより優れた蛍光強度を示していた(No.203及び204に対するNo.205)。
【0151】
[3]ドットブロット評価
トランスフェリン(20mg/mL)をTBS-T緩衝液で50ng/mLに調整し、2μLをニトロセルロースメンブレン上に慎重にスポットした。メンブレンを乾燥後、次いでTBS-T中、Fish Gelatinブロッキング緩衝液でブロックした。続いて、PBS-T緩衝液30mLにウサギ抗ヒトトランスフェリンのポリクローナル抗体6μLを加え、メンブレンを浸して1時間振とうした。その後、メンブレンを取り出し、TBS-T緩衝液で4回洗浄した。その後、TBS-T緩衝液30mLに標識抗体(抗ウサギIgG)15μLを加え、そこにメンブレンを浸し、室温で1時間攪拌しながらインキュベートした。メンブレンをTBS-T緩衝液で10分間、3回洗浄し、最後にTBS緩衝液で10分洗浄した。得られたメンブレンを40℃のホットプレートで1時間乾燥させ、Amersham Typhoon scanner(GEHC社製)を用いて画像化し、785nmの励起光で、露光条件を統一して、蛍光波長810~840nmの範囲の蛍光強度を算出した。比較化合物1-IgGのDOL2.1の蛍光強度を基準値とし、この基準値に対する比を算出し、以下の評価基準に基づき評価した。表3に結果をまとめて示す。
本試験において、蛍光強度は、評価ランク「D」以上が合格である。
【0152】
- 蛍光強度の評価基準 -
A:基準値に対する蛍光強度の比が7.0倍以上
B:基準値に対する蛍光強度の比が4.0倍以上7.0倍未満
C:基準値に対する蛍光強度の比が2.5倍以上4.0倍未満
D:基準値に対する蛍光強度の比が1.5倍以上2.5倍未満
E:基準値に対する蛍光強度の比が1.2倍以上1.5倍未満
F:基準値に対する蛍光強度の比が0.8倍以上1.2倍未満
G:基準値に対する蛍光強度の比が0.8倍未満
【0153】
【0154】
上記表3の結果から、以下のことがわかる。
上述の通り、本発明で規定する構造を有しない比較化合物2又は3を用いた標識抗体のドットブロット上における蛍光強度は、いずれも低かった(No.c32及びc33)。
これに対して、本発明の化合物1~5の標識抗体は、いずれも、上記比較標識抗体1の蛍光強度に対して1.5倍以上の蛍光強度を有し、優れた蛍光強度を示していた(No.c31に対するNo.301~305)。また、比較化合物1~3を用いた場合には、DOLの増加に伴って、自己会合による蛍光強度の低下がみられたのに対し、本発明の化合物1~5の標識抗体では、DOLの増加に伴う自己会合による蛍光強度の低下が効果的に抑制されていることがわかった(各No.301~305、c31~c33における、a~d間の蛍光強度の参照)。
なかでも、蛍光体部R間を結ぶ連結基上に親水性基を有し、さらに、一般式(III)で表されるシアニン色素からなる構造部として、R1及びR2の少なくとも1つとR3及びR4の少なくとも1つとが、-(CH2-CH2-O)m-で表される構造を含む構造部を有する本発明の化合物3~5は、ドットブロット上においてより優れた蛍光強度を示していた(No.301及び302に対するNo.303~305)。特に、蛍光体部R間を3価以上の連結基Mを用いて結合している本発明の化合物5を用いた標識抗体は、蛍光色素1分子中における蛍光体部Rの数に応じ、ドットブロット上においてより優れた蛍光強度を示していた(No.303及び304に対するNo.305)。
【0155】
このように、一般式(I)又は(II)で表される本発明の化合物は、2つ以上の蛍光体部Rを-X-L-X-又は-X-L-M-L-X-で表される連結基で結合した化合物であって、上記Lが-C≡C-、アリーレン及びヘテロアリーレン基のうちの少なくとも2つを組合わせてなる2価の連結基であって、Xがエーテル結合、チオエーテル結合、アルキレン基、アミド結合、エステル結合又はアミノ結合であることにより、得られる標識生体物質に、溶液、メンブレン、ドットプロットのいずれの状態においても、優れた蛍光強度を付与することができる。