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特開2022-13137冷凍パン生地改良剤およびベーカリー製品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022013137
(43)【公開日】2022-01-18
(54)【発明の名称】冷凍パン生地改良剤およびベーカリー製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/24 20060101AFI20220111BHJP
   A21D 13/30 20170101ALI20220111BHJP
   A21D 10/02 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
A21D2/24
A21D13/30
A21D10/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020115498
(22)【出願日】2020-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】椎葉 究
(72)【発明者】
【氏名】畠山 昌和
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DB36
4B032DG02
4B032DK08
4B032DK18
4B032DK19
4B032DK51
4B032DK54
4B032DP13
4B032DP33
4B032DP38
4B032DP40
(57)【要約】      (修正有)
【課題】冷凍パン製造に適する、新規な冷凍パン生地改良剤、冷凍パン生地改良剤を含む冷凍パン生地組成物、及び冷凍パン生地改良剤を含むベーカリー製品の製造方法の提供。
【解決手段】ポリリジンを含む冷凍パン生地改良剤。好ましくは、アスコルビン酸、リポキシゲナーゼ、およびグルコースオキシダーゼからなる群から選ばれる1種又は2種以上である酸化剤をさらに含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリリジンを含む冷凍パン生地改良剤。
【請求項2】
酸化剤をさらに含む、請求項1記載の冷凍パン生地改良剤。
【請求項3】
酸化剤が、アスコルビン酸、リポキシゲナーゼ、およびグルコースオキシダーゼからなる群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項2に記載の冷凍パン生地改良剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の冷凍パン生地改良剤を含む、冷凍パン生地組成物。
【請求項5】
小麦粉に対して、ポリリジンを0.001~0.1重量%含む、請求項4に記載の冷凍パン生地組成物。
【請求項6】
請求項1~3のいずれかに記載の冷凍パン生地改良剤を含む、ベーカリー製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリリジンを含む冷凍パン生地改良剤及びそれを含む冷凍パン及びその製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリリジンは食品添加物として、主に保存料として使用されている。ポリリジンは発酵法でつくられ、食経験が長く、広く食品に使用されてきた。ポリリジンはL-リジンの重合体であり、苦みのある抗菌性物質である。
【0003】
通常のパン製造過程は、生地の混捏(こんねつ)、一次発酵、生地分割、成型、二次発酵(ホイロ)、及び焼成の各工程からなっている。従来から、上記工程によるパン製造に於いて、生産の合理化やフレッシュパンの供給を目的に、パン生地の冷凍生地製法が行われている。これは、パン生地を冷凍状態で保存し、必要に応じ冷凍生地を随時解凍し、パンを製造するものであり、従来のパン生地冷凍法に於いては、分割した玉生地冷凍法、成型済み冷凍法が主であった。これは、通常のパン生地を冷凍した場合、冷凍によりパン生地中のイースト(酵母)細胞の破壊等による、冷凍パン生地の劣化、生地組織の破壊等による生地内の包含ガス量の低下を及ぼし、ボリューム不足等の問題があった。さらには、二次発酵(ホイロ)まで取った生地を冷凍する方法が試みられたが、更に著しくボリューム感が劣る製品となり、冷凍障害等が生じ問題がある。
【0004】
冷凍パンにおける冷凍障害とは、生地中に氷結晶の生成やイースト細胞の破砕などが起こる現象のことを指す。生地中の水分が凍結して氷結晶を生成してしまうことによりグルテンネットワーク構造が損傷を受ける。またイースト細胞の破砕によりグルタチオンが細胞外に流出してしまい、生地中のジスルフィド結合を還元しグルテンネットワーク構造を損傷する。これらグルテンネットワークが損傷をうけることによりパン生地が弱体化し、パンのボリューム低下の原因となってしまう。
【0005】
従来、冷凍パン生地などの冷凍品の冷凍障害を抑制するために、そのまま急速冷凍する方法や冷凍障害抑制剤を添加する方法がある。急速冷凍法は、最大氷結温度帯を急速に通過させることにより商品内の氷結をできるだけ大きくしないようにして、商品内の組織の破壊を抑制する方法により行われるが、急速冷凍は設備コストが高く、かつ急速冷凍の効果は商品の種類が限定的である。
【0006】
冷凍パンの冷凍障害を抑制する方法としては、砂糖やグルコースなどの糖類や油脂、ダイコン類に含まれるアミノ酸の一種であるグリシンベタインやそれを含むダイコン抽出液などが利用されている(特許文献1)。しかしながら、それらは冷凍障害抑制効果を有するためには大量に添加する必要がある。食品の種類によっては物性や食味への影響が強いだけでなく、そのためのコストがかけられないため、食品への添加は限定的であった。
【0007】
酸化剤により、グルテン中の含硫アミノ酸のS-S結合によって網状組織が形成され、生地の抗張力が増大することにより、焼成後のパン製品のボリュームが増し、風味、食感の優れたパン製品を得ることができることが知られている。これまで、アスコルビン酸の添加量を小麦粉に対し250~450ppmに調節することにより冷凍、解凍に耐えうる方法が開示されている(特許文献2)。
【0008】
また、生地にインスタント活性ドライイーストとリポキシゲナーゼ等の改良剤組成物を添加し完全発酵後、ブラスト冷凍などの技術を用い、冷凍ドー(冷凍生地)を製造する方法が公開されている(特許文献3)。
【0009】
一方、ポリリジンの食品の品質改善への応用例として、ポリリジンとトランスグルタミナーゼの併用で麺や餅に弾力を付与する食品蛋白の改質を行った例がある(特許文献4)が冷凍障害抑制効果については言及されていない。
【0010】
また、長期間冷凍保存可能で解凍した場合に風味や味を損なうことのない冷凍品およびその製造法として、冷凍保存する食品材料に、ハロゲン化アルカリ金属等と有機酸ならびにポリリジンを含む食品が開示されている。しかし、ここでのポリリジンは解凍後の腐敗を防ぐために配合されている(特許文献5)。
【0011】
更に、ポリリジンの無水コハク酸の反応物は細胞の凍結保存用組成物として開示されている(特許文献6)。これはポリリジンのアミノ基を無水コハク酸と一定量反応させることにより凍結細胞の保存が可能となる。これはポリリジンの合成物であり通常、冷凍食品などへの使用はできない。
【0012】
これまでは、二次発酵後の生地を冷凍し、解凍してから焼成する製パン方法は生地中に強い冷凍障害が発生してしまうため、確立されていないのが現状である。更に、食品保存料のポリリジンを有効成分とした冷凍パン用品質改良剤は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2016-158540号公報
【特許文献2】特開平2-150229号公報
【特許文献3】特表2011-517956号公報
【特許文献4】特開平7-79707号公報
【特許文献5】特開平11-225725公報
【特許文献6】国際公開2009/157209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、低コストで冷凍パン生地を改良する製剤と、冷凍保存しても良好な膨らみを与え、ベーカリー製品の品質を向上させる手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、従来の生地混捏時にポリリジンを少量添加することにより、ベーカリー製品に良好な膨らみを与え、更に酸化剤を併用することによって飛躍的に本課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0016】
本発明を用いることにより、冷凍パン生地の冷凍障害を軽減できることができ、経済的に優れたベーカリー製品用の改良剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、以下の構成を含む。
[1]ポリリジンを含む冷凍パン生地改良剤。
[2]酸化剤をさらに含む、[1]記載の冷凍パン生地改良剤。
[3]酸化剤が、アスコルビン酸、リポキシゲナーゼ、グルコースオキシダーゼからなる群から選ばれる1種又は2種以上である、[2]記載の冷凍パン生地改良剤。
[4][1]~[3]のいずれかに記載の冷凍パン生地改良剤を含む、冷凍パン生地組成物。
[5]小麦粉に対して、ポリリジンを0.001~0.1重量%含む、[4]に記載の冷凍パン生地組成物。
[6][1]~[3]のいずれかに記載の冷凍パン生地改良剤を含む、ベーカリー製品の製造方法。
【0018】
本発明中、用語「ベーカリー製品」は、例えば、最初の硬さが品質問題となるパン、ソフトロール、ベーグル、ドーナッツ、デニッシュペストリ、ハンバーガーロール、ピザ、ピタパン、チャバッタ、ケーキ、及び他のベークド製品を含む群から選択されるような、当該技術分野で既知のあらゆる種類のベーカリー製品、好ましくはパンを指す。柔らかい製品範囲の他に、バケット、ロール、クラッカー、ビスケット、クッキー、パイクラスト、ラスク等の堅くパリパリとした製品範囲も存在する。より好ましくは、本発明は、当該技術分野で既知のあらゆる種類のパン製品について言及するものである。
【0019】
本発明中のポリリジンは小麦粉の重量に対して0.001~0.1%の少量で効果を発揮することができる。ベーカリー製品中では0.1%以下であれば、風味に影響する可能性がなく、好ましい。また、酸化剤0.003~0.1%と併用することで更に凍結障害を抑制する効果が高い。
【0020】
本発明で用いる酸化剤は、アスコルビン酸、リポキシゲナーゼ、グルコースオキシダーゼからなる群から選ばれる1種又は2種以上である冷凍パン生地改良剤から成る。
【0021】
本発明の冷凍パン生地改良剤は市販のポリリジン粉末(50重量%デキストリン配合品)、ポリリジン溶液(25重量%水溶液)、ポリリジン塩酸塩(又は有機酸塩)等の塩、その他グリシン、脂肪酸エステル等を含む製剤であれば良い。更に好ましくは、酸化剤を配合した製剤を用いることができる。
【0022】
ベーカリー製品の生地に本発明に係る冷凍パン生地改良剤を添加すれば、生地のグルテンネットワークを保持し、ボリュームのある焼成が可能となる。
【実施例0023】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、ベーカリー製品の比容積については、下記のようにして評価した。
【0024】
〔比容積の測定〕
焼成したパンを焼成後1日間、室温にて放置した後、パンの比容積(cm/g)を菜種置換法により測定した。本試験では、パンの比容積を測定し、その平均値を比容積の値(単位:cm/g)とした(n=5)。
【0025】
〔冷凍パン加工試験(ポリリジンの添加量)〕
(比較例1、実施例1~3)
ミキサー(装置名:Micro Mixer、National MFG社製)の容器に、表1に示す水及び油脂以外の原材料を投入して混合した後、水を加えミキサー5分間混合した。その後、油脂を加え更に1分間混合し、パン生地を得た。得られたパン生地を、30℃のホイロ・オーブン(装置名:COMPOmini NCM GH型、三幸機械社製)に60分間収容し一次発酵した。一次発酵後の生地をガス抜きし再び成形し、30℃のホイロ・オーブン内で20分二次発酵した。二次発酵後の生地を冷凍庫(装置名:メディカルディープフリーザー MDF-332、サンヨー社製)内で―70℃で1週間保管して冷凍パン生地を得た。1週間後、得られた冷凍パン生地にそのままボウルをかぶせオーブン(装置名:COMPOmini NCM G型、三幸機械社製)で200℃、20分放置して解凍した。その後ボウルを外し、オーブンで15分間、200℃、スチームを用いて焼成し、パンを得た。得られたパンについて、上記の測定法によりパンの比容積を評価した。結果を表2に示す。
【0026】
主な原料
A)小麦粉(強力粉、カメリヤ、日清製粉社製)
B)パン酵母(日清 スーパーカメリヤ ドライイースト、日清フーズ社製)
C)ポリリジン(JNC株式会社製)
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
実施例1~3でポリリジンの添加により比容積が大きくなり、ボリュームのある焼成ができた。
【0030】
〔冷凍パン加工試験(ポリリジンと酸化剤の併用効果及びベタインとの比較)〕
(比較例2~6、実施例4~9)
ミキサー(装置名:Micro Mixer、National MFG社製)の容器に、表3および表4に示す水及び油脂以外の原材料を投入して混合した後、水を加えミキサー5分間混合した。その後、油脂を加え更に1分間混合し、パン生地を得た。得られたパン生地を、30℃のホイロ・オーブン(装置名:COMPO mini NCM GH型、三幸機械社製)に60分間収容し一次発酵した。一次発酵後の生地をガス抜きし再び成形し、30℃のホイロ・オーブン内で20分二次発酵した。二次発酵後の生地を冷凍庫(装置名:メディカルディープフリーザー MDF-332、サンヨー社製)内で―70℃で1週間保管して冷凍パン生地を得た。1週間後、得られた冷凍パン生地にそのままボウルをかぶせオーブン(装置名:COMPOmini NCM G型、三幸機械社製)で200℃、20分放置して解凍した。その後ボウルを外し、オーブンで15分間、200℃、スチームを用いて焼成し、パンを得た。得られたパンについて、上記の測定法によりパンの比容積を評価した。結果を表5に示す。
【0031】
主な原料
A)小麦粉(強力粉、カメリヤ、日清製粉社製)
B)パン酵母(日清 スーパーカメリヤ ドライイースト、日清フーズ社製)
C)リポキシゲナーゼ(モチフレッシュ、日清オイリオ社製)
D)ポリリジン(JNC株式会社製)
E)ベタイン(和光純薬製)
F)アスコルビン酸(和光純薬製)
【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
【表5】

【0035】
実施例4~9でポリリジンと酸化剤の併用により酸化剤単独の場合より更に、比容積が大きくなり、ボリュームのある焼成ができた。
ベタインはポリリジンと同程度の添加では比較例3と変わらず、ポリリジンと同等の効果を出すには大量に加える必要があった。
【0036】
叙上の通り、本発明品を用いることにより、冷凍パン生地の冷凍障害を軽減することができ、経済的に優れたベーカリー製品用の改良剤を提供することができた。この様に本発明のベーカリー業界における貢献は極めて大である。