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特開2022-131418シリカの製造方法、並びに、セメントクリンカ及びセメント組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131418
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】シリカの製造方法、並びに、セメントクリンカ及びセメント組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/193 20060101AFI20220831BHJP
   C04B 7/24 20060101ALI20220831BHJP
   C04B 7/38 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
C01B33/193
C04B7/24
C04B7/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030359
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】山口 敦至
(72)【発明者】
【氏名】境 徹浩
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 知昭
(72)【発明者】
【氏名】丸屋 英二
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072BB05
4G072GG03
4G072HH21
4G072HH40
4G072JJ12
4G072JJ14
4G072JJ22
4G072KK01
4G072KK03
4G072MM01
4G072MM03
4G072MM04
4G072MM21
4G072MM22
4G072MM23
4G072MM24
4G072MM26
4G072MM31
4G072SS01
4G072SS12
4G072UU30
(57)【要約】
【課題】種々の産業で利用可能なシリカを、ケイ素含有廃棄物から低コスト且つ高い安全性で製造することが可能なシリカの製造方法を提供する。
【解決手段】ケイ素含有廃棄物と水酸化ナトリウムの濃度が1~24質量%である水溶液とを混合し、ケイ酸塩を含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、スラリーからケイ酸塩を含む抽出液と残渣とを分取する分取工程と、抽出液とCO含有ガスとを接触させてシリカを晶析する晶析工程と、を有する、シリカの製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素含有廃棄物と水酸化ナトリウムの濃度が1~24質量%である水溶液とを混合し、ケイ酸塩を含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、
前記スラリーから前記ケイ酸塩を含む抽出液と残渣とを分取する分取工程と、
前記抽出液とCO含有ガスとを接触させてシリカ粒子を晶析する晶析工程と、
を有する、シリカの製造方法。
【請求項2】
前記分取工程では、前記スラリーからNaOの含有量が0.01~5質量%である残渣を得る、請求項1記載のシリカの製造方法。
【請求項3】
前記スラリー調製工程では、前記スラリーを50~200℃に加熱して前記ケイ素含有廃棄物と前記水酸化ナトリウムとを反応させる、請求項1又は2記載のシリカの製造方法。
【請求項4】
前記晶析工程の後に、晶析した前記シリカ粒子を含む固相を洗浄する洗浄工程を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のシリカの製造方法。
【請求項5】
前記固相の洗浄を、酸及び水をこの順に用いて行う、請求項4に記載のシリカの製造方法。
【請求項6】
前記ケイ素含有廃棄物が石炭灰を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のシリカの製造方法。
【請求項7】
前記CO含有ガスは工場で発生する排ガスを含む、請求項1~6の何れか一項に記載のシリカの製造方法。
【請求項8】
前記残渣をセメント原料として使用する、請求項1~7のいずれか一項に記載のシリカの製造方法。
【請求項9】
ケイ素含有廃棄物と水酸化ナトリウムの濃度が1~24質量%である水溶液とを混合し、ケイ酸塩を含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、
前記スラリーから前記ケイ酸塩を含む抽出液と残渣とを分取し、NaOの含有量が0.01~5質量%である前記残渣を得る分取工程と、
前記残渣をセメントの原料として用いる焼成工程と、を有する、セメントクリンカの製造方法。
【請求項10】
請求項9の製造方法で得られるセメントクリンカと石膏とを配合する配合工程を有する、セメント組成物の製造方法。
【請求項11】
ケイ素含有廃棄物と水酸化ナトリウムの濃度が1~24質量%である水溶液とを混合し、ケイ酸塩を含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、
前記スラリーから前記ケイ酸塩を含む抽出液と残渣とを分取し、NaOの含有量が0.01~5質量%である前記残渣を得る分取工程と、
前記残渣とセメントクリンカと石膏とを配合する配合工程と、を有する、セメント組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカの製造方法、並びに、セメントクリンカ及びセメント組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭灰、焼却灰、スラグ及び廃ガラス等のケイ素含有廃棄物は、年間数千万トン発生しており、リサイクルしきれないものは埋め立てにより最終処分されている。廃棄物において多量に含まれるケイ素は、産業上有用な成分であるため、これらの廃棄物からケイ素が再利用可能な形態で回収できれば、最終処分量の削減及び循環型社会の形成への貢献が期待される。
【0003】
ケイ素含有廃棄物からシリカを回収する技術として、例えば特許文献1、2には、石炭灰を原料とし、70~150℃の加熱条件下、40質量%以上又は25質量%以上といった高濃度の水酸化ナトリウム水溶液を用いてシリカ成分を抽出した後、抽出液に炭酸ガスを通気して得られるシリカ晶析液を固液分離することでシリカを回収する技術が開示されている。
【0004】
特許文献1は、アルミナ分に富む残渣から人工骨材を製造することを目的としており、石炭灰からシリカ成分を抽出した後の残渣の処理方法として、加熱固化して成形するか、又はセメント及び水を添加し造粒成型する技術が開示されている。また、特許文献2は、シリカ成分とともにアルミナ成分を回収することを目的としており、シリカ成分を抽出した後の残渣からAlを生成させるとともに、さらにその残渣をフィラー材又はセメント原料として利用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-67526号公報
【特許文献2】特表2009-519829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2のように、従来のシリカ抽出工程ではシリカの高い収率を達成するために、高温及び高濃度の水酸化ナトリウム水溶液による処理が行われており、安全性について改善の余地がある。また、水酸化ナトリウムの濃度を高くすると、シリカ粒子を晶析する際に妨害因子となり得るNaが抽出液中に多く含まれるという問題、及び、シリカ以外のケイ素含有廃棄物由来の成分が多く抽出されるという問題がある。また、高濃度の水酸化ナトリウム水溶液を使用した場合、抽出残渣にセメント忌避成分であるNaO成分が多量に残留するため、セメント原料化が難しくなるという問題もある。
【0007】
本発明は、種々の産業で利用可能なシリカを、ケイ素含有廃棄物から低コスト且つ高い安全性で製造することが可能なシリカの製造方法を提供する。また、原料のシリカ成分の含有量の変動を抑制することで、調合条件の設定が容易であり、品質面で安定したセメントクリンカを製造することが可能なセメントクリンカの製造方法を提供する。また、このようなセメントクリンカを用いることによって、調合条件の設定が容易であり、品質面で安定したセメント組成物を製造することが可能なセメント組成物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、一つの側面において、ケイ素含有廃棄物と水酸化ナトリウムの濃度が1~24質量%である水溶液とを混合し、ケイ酸塩を含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、スラリーからケイ酸塩を含む抽出液と残渣とを分取する分取工程と、抽出液とCO含有ガスとを接触させてシリカ粒子を晶析する晶析工程と、を有する、シリカの製造方法を提供する。
【0009】
上記製造方法では、ケイ素含有廃棄物と水酸化ナトリウムの濃度が従来よりも低い水溶液を用いて、ケイ酸塩を含むスラリーを調製し、このスラリーから得られるケイ酸塩を含む抽出液とCO含有ガスとを接触させてシリカ粒子を晶析している。このように、原料としてケイ素含有廃棄物と低濃度の水酸化ナトリウム水溶液を用いているため、低コスト且つ高い安全性でシリカを製造することができる。また、この製造方法によって得られるシリカは、抽出液に含まれるケイ酸塩以外の不純物が低減されているため、種々の産業で利用することができる。一方、残渣は、例えばセメント原料として有効活用することができる。
【0010】
上記分取工程では、スラリーからNaOの含有量が0.01~5質量%である残渣を得ることが好ましい。このような残渣は、NaOの含有量が十分に低減されていることから、セメント原料として好適に用いることができる。
【0011】
上記スラリー調製工程では、スラリーを50~200℃に加熱してケイ素含有廃棄物と水酸化ナトリウムとを反応させることが好ましい。これによって、ケイ素含有廃棄物からのケイ酸塩の抽出率が向上し、最終的に得られるシリカの収量を増やすことができる。
【0012】
上記製造方法は、晶析工程の後に、晶析したシリカ粒子を含む固相を洗浄する洗浄工程を有することが好ましい。これによって、不純物を低減してシリカの純度を高くすることができる。固相の洗浄に、酸及び水をこの順に用いて行うことが好ましい。これによって、シリカの純度及び比表面積を一層高くすることができる。このような効果が得られる理由としては、炭酸ナトリウムの溶解除去、及び、未反応成分の低減等が推察される。ただし、効果が得られる理由は上述の内容に限定されない。
【0013】
上記ケイ素含有廃棄物は石炭灰を含むことが好ましい。これによって、純度の高いシリカを製造することができる。また、残渣中のアルカリ量を低減できるため、残渣をセメント原料として一層好適に用いることができる。
【0014】
CO含有ガスは、工場で発生する排ガスを含むことが好ましい。これによって、シリカを一層低い製造コストで製造することができる。
【0015】
上記製造方法では、上記残渣をセメント原料として使用することが好ましい。スラリーを調製する際に水酸化ナトリウムの濃度が低い水溶液を用いていることから、残渣に残留するNaOを低減することができる。これによって、残渣をセメント原料として好適に使用することができる。このように残渣を有効活用することによって、シリカの製造コストをさらに低減することができる。
【0016】
本発明は、一つの側面において、ケイ素含有廃棄物と水酸化ナトリウムの濃度が1~24質量%である水溶液とを混合し、ケイ酸塩を含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、スラリーからケイ酸塩を含む抽出液と残渣とを分取し、NaOの含有量が0.01~5質量%である残渣を得る分取工程と、残渣をセメントの原料として用いる焼成工程と、を有する、セメントクリンカの製造方法を提供する。
【0017】
上記製造方法では、ケイ素含有廃棄物と水酸化ナトリウムの濃度が従来よりも低い水溶液を用いてケイ酸塩を含むスラリーを調製し、このスラリーから得られる残渣をセメントの原料として用いている。このように、原料としてケイ素含有廃棄物と低濃度の水酸化ナトリウム水溶液を用いているため、原料としてケイ素含有廃棄物をそのまま用いる場合よりもシリカ成分の含有量の変動を抑制できる。したがって、調合条件の設定が容易であり、品質面で安定したセメントクリンカを製造することができる。また、残渣は、NaOの含有量が十分に低減されていることから、セメントキルンに導入したときにアルカリ成分の揮発分の発生が抑制される。これによって揮発分の生成及び析出が低減され、セメントキルンの負荷が軽減される。したがって、安定的にセメントクリンカを製造することができる。
【0018】
本発明は、一つの側面において、上述の製造方法で得られるセメントクリンカと石膏とを配合する配合工程を有する、セメント組成物の製造方法を提供する。この製造方法は、上述の製造方法で得られるセメントクリンカを用いる。したがって、調合条件の設定が容易であり、品質面で安定したセメント組成物を製造することができる。
【0019】
本発明は、一つの側面において、ケイ素含有廃棄物と水酸化ナトリウムの濃度が1~24質量%である水溶液とを混合し、ケイ酸塩を含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、スラリーからケイ酸塩を含む抽出液と残渣とを分取し、NaOの含有量が0.01~5質量%である残渣を得る分取工程と、残渣とセメントクリンカと石膏とを配合する配合工程と、を有する、セメント組成物の製造方法を提供する。この製造方法は、ケイ素含有廃棄物から得られる残渣をセメント組成物の配合原料の新たな選択肢として有効活用することができる。そして、原料としてケイ素含有廃棄物をそのまま用いる場合よりも、原料のシリカ成分の含有量の変動を抑制することができる。したがって、調合条件の設定が容易であり、品質面で安定したセメント組成物を製造することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、種々の産業で利用可能なシリカを、ケイ素含有廃棄物から低コスト且つ高い安全性で製造することが可能なシリカの製造方法を提供することができる。また、原料のシリカ成分の含有量の変動を抑制することで、調合条件の設定が容易であり、品質面で安定したセメントクリンカを製造することが可能なセメントクリンカの製造方法を提供することができる。また、このようなセメントクリンカを用いることによって、調合条件の設定が容易であり、品質面で安定したセメント組成物を製造することが可能なセメント組成物の製造方法を提供することができる。さらに、ケイ素含有廃棄物の有効利用量を増大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】シリカ、セメントクリンカ及びセメント組成物の製造方法の一例を示す図である。
図2】シリカの製造方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、場合により図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0023】
一実施形態に係るシリカの製造方法は、ケイ素含有廃棄物と水酸化ナトリウムの濃度が1~24質量%である水溶液とを混合し、ケイ酸塩を含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、スラリーからケイ酸塩を含む抽出液と残渣とを分取する分取工程と、抽出液とCO含有ガスとを接触させてシリカを晶析する晶析工程と、を有する。図1は、本実施形態の製造方法の一例を示す図である。
【0024】
スラリー調製工程では、原料として、ケイ素含有廃棄物と水酸化ナトリウムの濃度が1~24質量%である水溶液を用いる。ケイ素含有廃棄物は、石炭灰、焼却灰、スラグ及び廃ガラスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよい。これらのうち、シリカの純度向上の観点及び残渣中のアルカリ量低減の観点から、ケイ素含有廃棄物は石炭灰を含むことが好ましい。石炭灰は、石炭の燃焼によって生成したものであれば特に限定されない。
【0025】
石炭灰は、例えば、石炭火力発電所にて微粉炭を燃焼した際に生成する灰であってよい。より具体的には、電気集塵機等で回収されるフライアッシュ、及び、燃焼ボイラーから落下採取されるクリンカアッシュ等が挙げられる。特にフライアッシュは微細な粒子であり水酸化ナトリウム水溶液との反応性が高く、また、カルシウム、ナトリウム、及び重金属類等の不純物の含有量が少ない。したがって、ケイ素含有廃棄物はフライアッシュを含むことが好ましい。
【0026】
ケイ素含有廃棄物のケイ素含有量は、SiO換算で、好ましくは30~80質量%であり、より好ましくは40~80質量%であり、さらに好ましくは60~80質量%である。ケイ素含有量が上述の範囲であれば、シリカの製造に必要となるケイ酸塩成分を十分に確保できる。また、残渣におけるケイ素含有量も、ある程度の量を維持できるためセメント原料として好適に用いることができる。
【0027】
ケイ素含有廃棄物の化学成分は、乾燥質量を基準として、Alが1~40質量%、Feが0~5質量%、CaOが0~5質量%、MgOが0~5質量%、SOが0~5質量%、NaOが0~5質量%、及び、KOが0~5質量%であることが好ましい。このような性状のケイ素含有廃棄物であれば、シリカ晶析時に析出する不純物が少なくなり、高純度のシリカが得られやすくなる。
【0028】
ケイ素含有廃棄物の平均粒径は、好ましくは0.1~100μmであり、より好ましくは0.5~50μmであり、さらに好ましくは1~10μmである。ケイ素含有廃棄物の粒径が上述の範囲であれば、ケイ酸塩成分を効率よく抽出することができる。なお、上記平均粒径は、レーザー回折/散乱法によって求められるメジアン径(D50)である。
【0029】
水酸化ナトリウムの濃度が1~24質量%である水溶液(水酸化ナトリウム水溶液)は、工業的に製造される水酸化ナトリウム水溶液をそのまま用いてもよく、水酸化ナトリウム水溶液と水とを混合して所定の濃度に調製したものを用いてもよい。また、顆粒状、又は粉末状等の固形の水酸化ナトリウムを水と混合して所定濃度の水溶液に調整して用いてもよい。
【0030】
水酸化ナトリウム水溶液における水酸化ナトリウム濃度は1~24質量%である。この水酸化ナトリウム濃度は、ケイ酸塩成分を十分に抽出する観点から、好ましくは3質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上である。一方、Ca等の不純物の抽出を抑制しシリカの純度を高くする観点、及び残渣への水酸化ナトリウム水溶液由来のNaの残留を抑制してセメント原料として好適に利用する観点から、水酸化ナトリウム濃度は、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは18質量%以下である。
【0031】
スラリー調製工程では、上述の原料を混合してケイ酸塩を含むスラリーを調製する。このスラリー調製工程では、ケイ素含有廃棄物と混合する水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウムの濃度を上述の範囲とすることで、Ca等の不純物の抽出を抑制しつつ、ケイ酸塩を高純度で抽出することができる。この理由は明らかではないが、例えば、24質量%を超える濃度で水酸化ナトリウムを含む水溶液中でケイ素含有廃棄物を加熱すると、水溶液中のNa量が過多となり、ケイ素含有廃棄物に含まれるCa含有鉱物中のCaと水溶液中のNaの置換が生じ易くなる。これによって、Caの抽出率が高くなってしまう。一方、水酸化ナトリウム水溶液の濃度が24質量%以下であると、水溶液中のNa量が適正量となり、Ca含有鉱物等と水溶液中のNaとの置換が抑制され、その結果、Caの抽出率が低くなると推測される。
【0032】
スラリーを調製する際のケイ素含有廃棄物に対する水酸化ナトリウム水溶液の配合比、すなわち、液/固比は、質量基準で好ましくは1~20であり、より好ましくは1~5であり、さらに好ましくは2~3である。液/固比が上記範囲であれば、スラリーの流動性を確保しつつ、水酸化ナトリウムに含まれるNaとケイ素含有廃棄物に含まれるSiのモル比を1.0~2.0の範囲に調整し易くなる。これによって、抽出液中のNa量が過剰になることを抑制し、高純度のシリカが得られ易くなる。
【0033】
スラリーは、ケイ素含有廃棄物と水酸化ナトリウムとの反応を促進する観点から、加熱することが好ましい。スラリーの加熱は、スラリーを混合撹拌しながら、且つ必要に応じて加圧しながら行ってもよい。スラリーの温度は、好ましくは50~200℃である。これによって、ケイ素含有廃棄物からケイ酸塩を十分に抽出することができる。ケイ酸塩の抽出を一層促進する観点から、スラリーの温度は、好ましくは65℃以上であり、より好ましくは80℃以上である。一方、設備を簡素化する観点から、スラリーの温度は、好ましくは150℃以下であり、より好ましくは100℃以下である。
【0034】
上記温度範囲において、スラリーを、好ましくは0.5~4時間、より好ましくは1~3.5時間、さらに好ましくは2~3.5時間加熱する。これによって、ケイ素含有廃棄物からケイ酸塩を効率よく十分に抽出させることができる。
【0035】
分取工程では、スラリーからケイ酸塩を含む抽出液と残渣とを分取する。スラリーは、ケイ酸塩を含む抽出液と固形分である残渣とに分離してもよい。例えば、スラリーを、公知の脱水機を用いて抽出液と残渣とに分離してよい。脱水機としては、フィルタープレス、ベルトプレス、ロールプレス、遠心脱水機、及びセラミックフィルター等が挙げられる。ただし、分離手段はこれらに限定されるものではない。
【0036】
ケイ素含有廃棄物から抽出液に抽出されるケイ酸塩の抽出率は、好ましくは5~60%であり、より好ましくは10~50%であり、さらに好ましくは15~40%である。ケイ酸塩の抽出率が上述の範囲であれば、シリカ製造に必要なケイ酸塩を十分に確保して高純度のシリカの収量を増やすことができる。また、残渣にもケイ酸塩がある程度含まれることとなるため、残渣をセメント原料として好適に利用することができる。なお、本明細書中において、ケイ酸塩の抽出率とは、ケイ酸塩が抽出された抽出液中のケイ素含有量を、石炭灰中のケイ素含有量で除して求められる値である。導出方法の詳細は後述の実施例に記載する。
【0037】
ケイ素含有廃棄物に含まれていたケイ酸塩が残渣に残留する比率(残留率)は、好ましくは40~95%であり、より好ましくは50~90%であり、さらに好ましくは60~85%である。ケイ酸塩の残留率が上述の範囲であれば、シリカ製造に必要なケイ酸塩を十分に確保してシリカの収量を増やすことができる。また、残渣にもケイ酸塩がある程度含まれることとなるため、残渣をセメント原料として好適に利用することができる。なお、スラリーを抽出液と残渣の2つに分離する場合、残渣におけるケイ酸塩の残留率は、100(%)から、上述のケイ酸塩の抽出率を差し引いて求めることができる。
【0038】
ケイ素含有廃棄物からスラリーの抽出液に抽出されるCaの抽出率は、好ましくは0.1~5%であり、より好ましくは0.1~2%であり、さらに好ましくは0.1~1%である。Caの抽出率が上述の範囲であれば、シリカ晶析時に晶出する炭酸カルシウムの量を低減でき、シリカの純度を高くすることができる。なお、本明細書中において、Caの抽出率とは、ケイ酸塩が抽出された抽出液中のカルシウム含有量を、石炭灰中のカルシウム含有量で除して求められる値である。導出方法の詳細は後述の実施例にて記載する。
【0039】
抽出液のNa濃度は、十分に高い純度を有するシリカを得る観点から、好ましくは300g/L以下であり、より好ましくは200g/L以下であり、さらに好ましくは100g/L以下である。なお、Na濃度の下限は、例えば10g/Lであってよい。
【0040】
残渣におけるNaのNaO換算の含有量(NaO含有量)は、好ましくは0.01~5質量%であり、より好ましくは0.01~3質量%であり、さらに好ましくは0.01~1質量%である。残渣におけるNaO含有量が上記範囲であれば、残渣をセメント原料として好適に利用することができる。本実施形態では、スラリー調製工程において、低濃度の水酸化ナトリウム水溶液を用いているため、残渣のNaO含有量を、上記範囲に円滑に調製することができる。
【0041】
残渣におけるSiのSiO換算の含有量(SiO含有量)は、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは35質量%以上である。残渣におけるSiO含有量が上記範囲であれば、残渣をセメント原料として好適に利用することができる。残渣におけるSiO含有量は、好ましくは70質量%以下であり、より好ましくは60質量%以下である。残渣におけるSiO含有量が上記範囲であれば、SiOの収量を十分に多くすることができる。残渣のSiO含有量は、Siの含有量をSiO換算することによって求められる。
【0042】
晶析工程では、抽出液とCO含有ガスとを接触させてシリカ粒子を晶析する。CO含有ガスと接触させる前に、分取工程で得られた抽出液を水で希釈し、希釈した抽出液をCO含有ガスと接触させてもよい。希釈水としては、上水道水、工業用精製水、工業廃水、残渣の水洗ろ過水等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。抽出液を希釈し、ケイ酸塩の濃度を適宜変更することにより、晶析するシリカ粒子の一次粒子径を調整することができる。抽出液とCO含有ガスとの接触方法も特に限定されず、例えば、抽出液中にCO含有ガスをバブリングして通気してもよいし、接触塔等を用いて、下降する抽出液と上昇するCO含有ガスとを向流接触させてもよい。
【0043】
CO含有ガスの通気流量は、抽出液1Lあたり、好ましくは1~30L/minであり、より好ましくは5~20L/minであり、さらに好ましくは10~15L/minである。通気流量が上記範囲であれば、微細で高い比表面積を有するシリカ粒子を晶析することができる。また、上記範囲内で通気流量を適宜変更することでシリカ粒子の一次粒子径を所望の値に調整することができる。
【0044】
晶析工程で用いられるCO含有ガスは、コスト削減の観点から、工場から排出される排ガスを含むことが好ましい。工場から排出される排ガスとして、例えば、ボイラーの排ガス、セメントキルンの排ガス、塩素バイパスの排ガス及び化学工場の合成ガスの排ガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。CO含有ガスは、CO純度向上の観点から、工業ガスを含んでもよい。
【0045】
CO含有ガスのCO濃度は、好ましくは10~100%であり、より好ましくは10~98%であり、さらに好ましくは30~90%である。CO濃度が上述の範囲であるCO含有ガスを用いれば、高純度のシリカを製造し易くなる。晶析工程ではシリカ粒子が生成し、抽出液がスラリー状(シリカ含有スラリー)となる。抽出液とCO含有ガスとの接触は、抽出液(シリカ含有スラリー)のpHが好ましくは7~12、より好ましくは8~10になるまで行うことが好ましい。これによって、シリカが十分に晶析し、シリカの収量を多くすることができる。得られるシリカ含有スラリーの固液分離を行ってシリカを回収してもよい。これによって、粉末状のシリカが得られる。上述の固液分離でシリカが回収されたアルカリ溶液から炭酸ナトリウム成分を回収し、抽出工程で原料の一部として再利用してもよい。
【0046】
上述のシリカの製造方法は、晶析工程の後に、晶析したシリカ粒子を含む固相を洗浄する洗浄工程を有してもよい。洗浄は、シリカ含有スラリーの溶媒置換で行ってもよい。具体的には、固液分離と洗浄液添加とを繰り返して行ってもよい。固液分離は遠心分離で行ってもよいし、濾過で行ってもよい。
【0047】
洗浄には、水を用いることが好ましく、酸及び水を用いることが好ましい。酸及び水で洗浄する場合、酸で洗浄した後に、水で洗浄することが特に好ましい。酸で洗浄した後に水で洗浄することで、より少ない洗浄量で不純物を除去できる。また、より高純度且つ高比表面積のシリカを製造することができる。その要因としては、シリカ粒子と共に晶出する炭酸塩などの塩が酸によって溶解し易くなり、その後の水による洗浄で除去され易くなること、未反応のケイ酸塩が酸と反応することでシリカ粒子の晶出量が増すこと、及び、不純物が除去されたことによって塞がれていた細孔が露出すること等が挙げられる。
【0048】
洗浄に用いる酸は、塩酸、硫酸、硝酸及びリン酸からなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでよい。これらは単独で又は組み合わせて用いることができる。これらのうち、シリカの純度を一層高くする観点から、洗浄には塩酸を用いることが好ましい。なお、本明細書では、希塩酸も塩酸に含まれる。
【0049】
洗浄工程では、溶媒添加と固液分離とを行う溶媒置換を繰り返し行うことで、シリカの純度を向上することができる。溶媒置換の繰り返し回数は、好ましくは3回以上であり、より好ましくは4回以上であり、さらに好ましくは5回以上である。このように繰り返し回数を多くすることによって、シリカ中の主な不純物を除去することができ、高純度のシリカを回収することができる。
【0050】
本実施形態のシリカの製造方法で製造されるシリカのSiO純度は、乾燥質量を基準として、好ましくは85質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上であり、特に好ましくは97質量%以上である。シリカは粉末状であってよい。このような高純度のシリカ粉末は、例えば、フィラー材、塗料、接着剤、研磨剤、及びファインセラミックス等の原料に好適に用いることができる。ただし、その用途は上述のものに限定されない。
【0051】
本実施形態のシリカの製造方法で製造されるシリカ粉末のBET比表面積は、好ましくは30m/g以上であり、より好ましくは200m/g以上であり、さらに好ましくは400m/g以上である。このような高比表面積のシリカは、フィラー材、吸着材、吸湿材、コンクリート用混和材、アンチブロッキング材等に好適に用いることができる。
【0052】
図1に示すように、本実施形態のシリカの製造方法は、スラリーから分取した残渣を、セメント原料の一つとして、ロータリーキルン等のセメントキルンに導入する焼成工程を有していてもよい。分取工程においてスラリーから分取される残渣は、Si及びAlを含むとともに、NaOの含有量が少ない。このようにNaOの含有量が少ないことから、セメントキルンで焼成する際に生じる揮発分を低減することができる。このため、焼成に伴って生じるダストが低減され、設備負荷を軽減することができる。したがって、セメントクリンカを安定的に製造することができる。
【0053】
セメントキルンには、残渣とともに他のセメント原料(石灰石、けい石、粘土、建設発生土、高炉スラグ及び製鋼スラグ等)が導入されてよい。セメントキルンではセメント原料が焼成されセメントクリンカが得られる。セメントクリンカは、例えば粉砕機(仕上げミル)等において、石膏と混合しながら粉砕してよい。これによって、セメント(セメント組成物)が得られる。必要に応じてフライアッシュ及びスラグ粉等を配合してもよい。得られるセメント組成物はポルトランドセメントであってよく、混合セメントであってよい。
【0054】
本実施形態のシリカの製造方法によれば、シリカを高い安全性で製造することができる。また、調合条件の設定が容易であり、安定した品質を有するセメントクリンカ及びセメント組成物を製造することができる。
【0055】
なお、図1の例では、シリカとともにセメントクリンカ及びセメントを製造する例を説明したが、セメントクリンカ及びセメントを製造することは必須ではない。例えば、図2に示すように、シリカのみを製造してもよい。この場合、残渣は他の用途に用いてもよい。
【0056】
一実施形態に係るセメントクリンカの製造方法は、ケイ素含有廃棄物と水酸化ナトリウムの濃度が1~24質量%である水溶液とを混合し、ケイ酸塩を含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、スラリーからケイ酸塩を含む抽出液と残渣とを分取し、NaOの含有量が0.01~5質量%である残渣を得る分取工程と、残渣をセメントキルンの原料として用いる焼成工程と、を有する。この製造方法におけるスラリー調製工程、分取工程及び焼成工程は、上述のシリカの製造方法におけるスラリー調製工程及び分取工程と同様にして行うことができる。このため、上述のシリカの製造方法の説明内容を、本実施形態に係るセメントクリンカの製造方法にも適用し、重複する記載を省略する。
【0057】
本実施形態のセメントクリンカの製造方法の分取工程で得られるケイ酸塩を含む抽出液は、シリカの製造原料として好適に用いることができる。したがって、上述の晶析工程及び洗浄工程によってシリカを製造してもよい。ただし、シリカを製造することは必須ではなく、ケイ酸塩を含む抽出液を別の用途に用いてもよい。このように、本実施形態のセメントクリンカの製造方法では、セメントクリンカとともにシリカを製造してもよいし、シリカを製造することなく、セメントクリンカを製造してもよい。
【0058】
本実施形態のセメントクリンカの製造方法では、NaOの含有量が0.01~5質量%である残渣をセメント原料として用いることから、焼成工程においてセメントキルンでセメント原料を焼成する際に生じる揮発分を低減することができる。このため、焼成に伴って生じるダストが低減され、設備負荷を軽減することができる。したがって、セメントクリンカを安定的に製造することができる。
【0059】
一実施形態に係るセメント組成物の製造方法は、上述のセメントクリンカの製造方法における焼成工程の後に、セメントクリンカと石膏とを配合する配合工程を有する。配合は、通常の粉砕機(仕上げミル)を用いてセメントクリンカを粉砕しながら行ってもよい。得られるセメント組成物はポルトランドセメントであってよく、混合セメントであってよい。本実施形態のセメント組成物の製造方法によれば、調合条件の設定が容易であり、品質面で安定したセメント組成物を製造することができる。
【0060】
別の実施形態に係るセメント組成物の製造方法は、ケイ素含有廃棄物と水酸化ナトリウムの濃度が1~24質量%である水溶液とを混合し、ケイ酸塩を含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、スラリーからケイ酸塩を含む抽出液と残渣とを分取し、NaOの含有量が0.01~5質量%である残渣を得る分取工程と、残渣とセメントクリンカと石膏とを配合する配合工程と、を有する。スラリー調製工程及び分取工程は、上述のシリカの製造方法におけるスラリー調製工程及び分取工程と同じであってよい。したがって、シリカの製造方法における説明内容が、このセメント組成物の製造方法にも適用される。ここでは重複する説明を省略する。
【0061】
配合工程で配合するセメントクリンカは、上述のセメントクリンカの製造方法で得られるセメントクリンカであってもよいし、上述のセメントクリンカの製造方法とは異なる製造方法で得られるセメントクリンカであってもよい。配合は、通常の粉砕機(仕上げミル)を用いてセメントクリンカを粉砕しながら、残渣と石膏を混合してもよい。得られるセメント組成物はポルトランドセメントであってよく、混合セメントであってよい。
【0062】
分取工程で得られるケイ酸塩を含む抽出液は、シリカの製造原料として好適に用いることができる。したがって、上述の晶析工程及び洗浄工程によってシリカを製造してもよい。ただし、シリカを製造することは必須ではなく、ケイ酸塩を含む抽出液を別の用途に用いてもよい。このように、本実施形態のセメント組成物の製造方法では、セメント組成物とともにシリカを製造してもよいし、シリカを製造することなく、セメント組成物を製造してもよい。
【0063】
本実施形態のセメント組成物の製造方法によれば、残渣をセメント組成物の配合原料の新たな選択肢として有効活用することができる。したがって、調合条件の設定が容易であり、品質面で安定したセメント組成物を製造することができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例0065】
実施例及び比較例を参照して、本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0066】
[1:ケイ素含有廃棄物からのケイ酸塩の抽出]
ケイ素含有廃棄物と混合する水酸化ナトリウム水溶液の濃度、スラリーを調製する際の加熱温度、及び加熱時間の少なくとも一つの条件が異なる複数の実験を行った。これによって、各条件が、ケイ素含有廃棄物からのSi及びCaの抽出率、抽出液中のNa濃度、並びに残渣におけるNaOの含有量等に与える影響を検討した。具体的な手順と結果を以下に説明する。
【0067】
ケイ素含有廃棄物として、微粉炭を燃焼する石炭火力発電所から発生する石炭灰(宇部興産株式会社製、フライアッシュ)を使用した。使用した石炭灰の強熱減量と化学成分を表1に示す。表1に示す値は下記の方法で測定した値である。
【0068】
・石炭灰の強熱減量:JIS R 5202「セメントの化学分析方法」に規定される強熱減量測定方法に準拠して測定した。
・石炭灰のSiO、Al、Fe、CaO、MgO、SO、NaO、KO含有量:JIS M 8853「セラミックス用アルミノケイ酸塩質原料の化学分析方法」に準拠して測定した。
【0069】
【表1】
【0070】
(実施例1)
水酸化ナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社製、試薬1級、顆粒状)と蒸留水とを混合し、3.7質量%の水酸化ナトリウム水溶液を調製した。石炭灰50gと濃度3.7質量%の水酸化ナトリウム水溶液550gとを計量した。これらを、80℃に調整した容器の中で撹拌機(新東科学株式会社製、スリーワンモータtype600G)を用いて200rpmで混合し、1時間反応させた。石炭灰に対する水酸化ナトリウム水溶液の質量比は表2の「液/固比」に示すとおりであった。このようにして得られたスラリーを、市販のろ紙(円形定量ろ紙No.5C)と、吸引ろ過装置(アドバンテック東洋株式会社製)を用いてろ過し、抽出液と残渣(固形分)とに分離した。
【0071】
抽出液に含まれるSi及びCa濃度をICP発光分光分析装置(株式会社日立ハイテク
サイエンス製、型式:PS3520UVDDII)を用いて定量した。抽出液に含まれるNa濃度を原子吸光分光光度計(株式会社島津製作所製、型式:AA-7000)を用いて定量した。以下の計算式によって、(1)ケイ酸塩の抽出率、(2)Caの抽出率、及び(3)残渣中のNaO含有量を求めた。なお、(3)におけるNaOの質量は、Naの定量分析結果を換算して求めた。結果を表2に示す。
【0072】
(1)ケイ酸塩の抽出率(%)=抽出液中のSi(g)/{石炭灰の質量(g)×石炭灰のSi含有量(質量%)}×100
(2)Caの抽出率(%)=抽出液中のCa(g)/{石炭灰の質量(g)×石炭灰のCa含有量(質量%)}×100
(3)残渣中のNaO含有量(質量%)={原料配合時のNaO(g)-抽出液に含まれるNaO(g)}/残渣の質量(g)×100
【0073】
(実施例2~4、及び比較例1)
水酸化ナトリウム水溶液の濃度を表2に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして実験を行い、抽出液と残渣を得た。実施例1と同様にして、各測定及び計算を行って、ケイ酸塩及びCaの抽出率、残渣中のNaOの含有量を求めた。結果を表2に示す。
【0074】
実施例1~4及び比較例1の結果から、水酸化ナトリウム水溶液における水酸化ナトリウム濃度が高いほどケイ酸塩の抽出率が高くなることが確認された。しかしながら、水酸化ナトリウム濃度が高いほど抽出液に含まれるNaの濃度が高くなることが確認された。また、水酸化ナトリウム濃度が40質量%である比較例1では、Caの抽出率も極めて高くなっていた。Ca成分は、晶析時にCaCOとして沈殿し、得られるシリカの純度低下の要因となる。このため、CaOの抽出率は低い方が好ましい。
【0075】
水酸化ナトリウムの濃度が低い(24質量%以下)水酸化ナトリウム水溶液を用いた実施例1~3では、残渣中のNaO含有量が十分に低かった。
【0076】
(実施例5~8)
実施例5、6は実施例4に対してスラリー調製時の加熱温度を変更し、実施例7、8は実施例4に対してスラリー調製時の加熱時間を変更したものである。その他の条件は実施例4と同様にして、スラリー調製及び分離操作を行い、実施例5~8の抽出液と残渣を得た。実施例5~8においても、実施例4と同様にして、各測定及び計算を行って、ケイ酸塩及びCaの抽出率、抽出液中のNa濃度、残渣中のNaOの含有量を求めた。結果を表2に示す。
【0077】
実施例4~8より、水酸化ナトリウム濃度が一定の条件下、スラリーの加熱温度及び/又は加熱時間を変更することで、抽出液中のNa濃度とCaの抽出率を抑制しつつ、ケイ酸塩の抽出率を調整できることが確認された。
【0078】
【表2】
【0079】
[2.ケイ酸塩の抽出、シリカの晶析・回収及び洗浄]
本実験では、抽出液から晶析・回収したシリカを含む固相(固形分)の洗浄方法を変更し、得られるシリカの純度及びBET比表面積への影響を検討した。
【0080】
(実施例9)
実施例1~8及び比較例1で用いた石炭灰と同様の石炭灰を準備した。この石炭灰200gと実施例1と同様の方法で調製した水酸化ナトリウム濃度が16質量%である水酸化ナトリウム水溶液500gとを混合し、撹拌機を用いて、95℃で3.5時間撹拌しながら反応させた。このようにして得られたスラリーを、市販のろ紙(円形定量ろ紙No.5C)と、吸引ろ過装置(アドバンテック東洋株式会社製)を用いてろ過し、抽出液と残渣(固形分)とに分離した。
【0081】
上述の計算式によって求めたケイ酸塩の抽出率は34%、及び、Caの抽出率は0.7%、であった。また、以下の計算式によって求められる残渣のSiO含有量は45.2質量%であった。なお、SiOの質量は、抽出液中のSiの定量分析結果をSiO換算して求めた。
残渣中のSiO含有量(質量%)={原料配合時のSiO(g)-抽出液に含まれるSiO(g)}/残渣の質量(g)×100
【0082】
反応終了後、ケイ酸塩成分を含む抽出液0.3Lを液量が1Lとなるように蒸留水で希釈し、希釈液を晶析反応槽に移した。撹拌機を用いて450rpmで混合しながら、炭酸ガス(日本エア・リキード製、CO濃度:99.5体積%以上)を15L/minでバブリングし、pHが9になるまで反応させた。これによってシリカ粒子が晶析し、シリカ粒子を含むシリカ含有スラリーを得た。
【0083】
反応終了後、遠心分離でシリカ含有スラリーを固液分離した。シリカ粒子を含む固相(固形分)を洗浄するため、シリカ含有スラリーの液相を蒸留水で置換して撹拌し、再度遠心分離により固液分離を行った。このような遠心分離による蒸留水置換を計6回行ってシリカ粒子を含む固相を洗浄した(水洗浄)。水洗浄を6回繰り返して行った後、乾燥して固形分を得た。
【0084】
遊星ミル(伊藤製作所製、型式LA-PO.1)を用いて乾燥して得られた固形分を340rpmで8分間解砕し、粉末状のシリカとして回収した。このシリカ粉末の乾燥質量基準のSiO含有量(純度)及びBET比表面積は、表3に示すとおりであった。
【0085】
シリカ粉末のSiO純度は以下の手順で求めた。シリカ粉末中の不溶Siを過塩素酸脱水重量法にて定量した。また、酸溶存SiをICP発光分光分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製、型式:PS3520UVDDII)を用いて定量した。それぞれの定量値を合算して、粉末シリカのSiO純度を求めた。シリカ粉末のBET比表面積は、以下の手順で求めた。シリカ粉末を110℃で30分間、窒素雰囲気中で加熱した。その後、比表面積・細孔分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、装置名:BEL-SORP-mini)を用いて測定した。
【0086】
[実施例10]
実施例9と同じ手順でシリカ粒子を晶析し、シリカ粒子を含むシリカ含有スラリーを得た。シリカ含有スラリーを得た後、遠心分離でシリカ含有スラリーを固液分離した。シリカ粒子を含む固相を洗浄するため、シリカ含有スラリーの液相を希塩酸(HCl濃度:9.5~10.5w/v%)で置換して撹拌した(酸洗浄)。その後、遠心分離による蒸留水置換を計5回行って固形分を洗浄した(水洗浄)。このように1回目の洗浄を、蒸留水に代えて希塩酸で行ったこと以外は、実施例9と同じ手順で洗浄、乾燥及び解砕を行ってシリカ粉末を得た。このシリカ粉末のSiO純度及びBET比表面積を実施例9と同様の方法で測定した。結果を表3に示す。
【0087】
【表3】
【0088】
実施例9、10では、十分に高い純度を有するシリカ粉末を得ることができた。シリカを含む固相を水のみで洗浄した実施例9に比べて、酸と水とを併用して洗浄した実施例10では、より高純度且つ高比表面積のシリカ粉末を製造することができた。この要因としては、晶析反応によってシリカ粒子の細孔内部等に析出した炭酸ナトリウムが酸により溶解し、洗浄で除去されたこと、並びに、シリカ含有スラリー中に存在していた未反応のケイ酸ナトリウムと塩酸とが反応し、炭酸ガスの通気により晶析したシリカ粒子表面に多孔質なゲル状シリカが生成したこと等が推察される。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のシリカ製造方法によれば、低濃度の水酸化ナトリウム水溶液を用いることで、安全且つ低コストにケイ素含有廃棄物から高品位な性状を有するシリカを回収することができる。その結果、ケイ素含有廃棄物の有効利用量の拡大に繋げることができる。
図1
図2