(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131499
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】ガスバリア性プラスチック成形体
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20220831BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20220831BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220831BHJP
B65D 1/02 20060101ALI20220831BHJP
C23C 16/26 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B27/36
B32B27/00 H
B65D1/02 111
C23C16/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030473
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】柳原 英人
【テーマコード(参考)】
3E033
4F100
4K030
【Fターム(参考)】
3E033AA01
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3E033BA16
3E033BA17
3E033BA18
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4K030LA01
(57)【要約】
【課題】外力を受けてもガスバリア性の劣化が抑制できるガスバリア性プラスチック成形体を提供する。
【解決手段】プラスチック成形体の表面及び裏面の少なくとも一方の面に、炭素原子濃度に対する水素原子濃度のH/C比が0.75以上1.00以下である非晶質炭素膜を有するガスバリア性プラスチック成形体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック成形体の表面及び裏面の少なくとも一方の面に、炭素原子濃度に対する水素原子濃度のH/C比が0.75以上1.00以下である非晶質炭素膜を有し、酸素透過率が5.0cc/m2/day以下であり、屈曲試験を160回行った後の酸素透過率の増大比が1.80未満であることを特徴とするガスバリア性プラスチック成形体。
【請求項2】
前記プラスチック成形体がポリエステル系樹脂からなる請求項1に記載のガスバリア性プラスチック成形体。
【請求項3】
前記プラスチック成形体の表面及び裏面の少なくとも一方の面にポリエステル系樹脂層を有し、該ポリエステル系樹脂層上に前記非晶質炭素膜を有する請求項1に記載のガスバリア性プラスチック成形体。
【請求項4】
前記プラスチック成形体がフィルムまたは中空容器である請求項1~3の何れか1項に記載のガスバリア性プラスチック成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質炭素膜を有するガスバリア性プラスチック成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療用品、薬品、食品等の各種包装材には、酸素、湿気等による内容物の劣化を防ぐために、ガスバリア性の高い各種包装材が使用されてきた。例えば、プラスチックの表面に(1)酸化珪素や、窒化珪素等の珪素化合物膜、(2)酸化アルミ膜、(3)非晶質炭素(Diamond Like Carbon;DLC)膜を形成することによりガスバリア性を高めたプラスチックが知られている。しかし、(1)珪素化合物膜をコーティングしたガスバリア性フィルムにおいては、フィルムの屈曲・伸縮等の応力により珪素化合物膜が割れてガスバリア性が低下し易いという問題があり、基材フィルムにプライマー層を設ける必要がある。(2)酸化アルミ膜をコーティングしたガスバリア性フィルムにおいてはX線による異物検査等が使用できず、また、アルカリ性の内容物と直接触れることにより被膜が剥離するという問題があった。
【0003】
これらに対して、(3)DLC膜は、上述の(1)(2)の膜に比べてプラスチックフィルムの変形に対する追従性・柔軟性が高く、X線による異物検査機も使用できる点で優れている。このようなDLC膜が形成されたプラスチックフィルムとしては、例えば、プラスチックフィルムの少なくとも片面に、水素濃度が50原子%以下であり、かつ、酸素濃度が2~20原子%であるダイヤモンド状炭素膜が形成されてなる薬品用容器フィルム(特許文献1)、ラマン分光分析において全ピークの強度に対するG-bandの強度が0.1以下、D-bandの強度が0.05以下であり、かつ着色度が5.0以下であるダイヤモンドライクカーボン膜コーティングガスバリア性フィルム(特許文献2)などの技術が開示されている。
【0004】
また、非晶質炭素(DLC)膜は、上述の特徴に加え、酸アルカリ耐性が強いこと、安全衛生に関して米国食品医薬局(FDA)から食品接触材料としてFCN185の認可が得られていることから、ペットボトルの内面に形成され、飲料や調味料などの包装容器に利用されている。
【0005】
しかしながら、食品の消費期限の長期化を図り食品ロス低減に繋げる活動において、近年、開発が大いに進められているデラミボトルに関しては、これまでのDLC膜をもってしても柔軟性が不足していた。
デラミボトルは、プラスチック製中空容器(ボトル)が二重構造になっており、硬質の外層体と軟質の内層体とからなり、内層体の内部に醤油等の内容物が収容され、ボトルの胴部を押圧すると内容物が注出され、押圧を解くと外層体の形状は復元するが内層体の形状は復元しないことにより、内層体の内部に外気が入ることなく内容物を新鮮な状態で保つことができるという、構造、機能を有するボトルである。
すなわち、DLC膜は、ボトル内面に成膜されてガスバリア性を発揮し、内容物の酸化、腐敗を防止する用途に有効であるが、デラミボトルの内層体の内面に特許文献1または特許文献2に開示された技術のDLC膜を付与した場合では、内層体が押圧されて変形することにより、DLC膜が損傷しガスバリア性が著しく劣化してしまうものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-070152号公報
【特許文献2】特開2008-229968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情を鑑み、外力を受けてもガスバリア性の劣化が抑制できるガスバリア性プラスチック成形体の提供に存する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題について鋭意検討し、以下の発明を完成させた。
第1の本発明は、プラスチック成形体の表面及び裏面の少なくとも一方の面に、炭素原子濃度に対する水素原子濃度のH/C比が0.75以上1.00以下である非晶質炭素膜を有し、酸素透過率が5.0cc/m2/day以下であり、屈曲試験を160回行った後の酸素透過率の増大比が1.80未満であることを特徴とするガスバリア性プラスチック成形体である。
【0009】
第1の本発明において、前記プラスチック成形体がポリエステル系樹脂からなることが好ましい。
【0010】
第1の本発明において、前記プラスチック成形体の表面及び裏面の少なくとも一方の面にポリエステル系樹脂層を有し、該ポリエステル系樹脂層上に前記非晶質炭素膜を有することが好ましい。
【0011】
第1の本発明において、前記プラスチック成形体がフィルムまたは中空容器であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のガスバリア性プラスチック成形体は、外力を受けてもガスバリア性の劣化を抑制できる。そのため、本発明のガスバリア性プラスチック成形体は、内容物を押圧して出す、絞り出す(スクイーズ)ようなボトル(デラミボトル)や袋体等の包装体に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】は、比較例2の屈曲160回試験後の非晶質炭素膜表面の偏光顕微鏡像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態の一例としてのガスバリア性プラスチック成形体について説明する。ただし、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
なお、数値範囲を示す「a~b」の記述は、特にことわらない限り「a以上b以下」を意味すると共に、「好ましくはaより大きい」及び「好ましくはbより小さい」の意を包含するものである。
また、本明細書における数値範囲の上限値及び下限値は、本発明が特定する数値範囲内から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の均等範囲に包含するものとする。
【0015】
<ガスバリア性プラスチック容器>
本発明のガスバリア性プラスチック成形体は、プラスチック成形体の表面及び裏面の少なくとも一方の面に非晶質炭素膜を有する。つまり、プラスチック成形体の表面または裏面の一面に非晶質炭素膜を有していてもよいし、プラスチック成形体の表面および裏面の両面に非晶質炭素膜を有していてもよい。
【0016】
(非晶質炭素膜)
本発明のガスバリア性プラスチック容器における非晶質炭素膜は、炭素原子と水素原子とを含有し、炭素の結合はsp3混成軌道とsp2混成軌道の両方が存在する、ダイアモンド・ライク・カーボン(Diamond Like Carbon;DLC)膜である。
炭素原子濃度に対する水素原子濃度のH/C比の下限は0.75以上であり、0.80以上が好ましく、0.85以上がより好ましい。H/C比は低いほど、sp3混成軌道が増し、ガスバリア性が高まる。H/C比が高いほど、sp2混成軌道が増し、DLC膜の耐屈曲性が高まる。H/C比の上限は、特に制限はないが、ガスバリア性の点から、1.00以下が好ましく、ガスバリア性プラスチック成形体の酸素透過率が5.0cc/m2/day以下となり易い。
【0017】
非晶質炭素膜中の炭素原子濃度および水素原子濃度は、ラザフォード後方散乱測定装置(RBS)を用い、炭素原子濃度は核反応法(NRA)、水素原子濃度は弾性反跳検出法(ERDA)、水素前方散乱法(HFS)で分析することができる。
【0018】
非晶質炭素(DLC)膜は、公知のプラズマ化学蒸着法を用い、プラスチック成形体の表面に成膜することができる。プラスチック成形体は、予め加熱処理して低分子量成分を揮発させたり、表面をプラズマ処理したりしてもよい。
原料ガスは、アセチレン、エチレン、プロピレン等の不飽和炭化水素化合物;メタン、エタン、プロパン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素化合物;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を混合して用いてもよい。中でも、原料ガス化学式における炭素原子に対する水素原子の比率が低いことから、エチレン又はアセチレンガスを用いることが好ましい。
【0019】
非晶質炭素(DLC)膜の炭素原子濃度に対する水素原子濃度のH/C比を高めるには、上述の原料ガスの他に、水素、炭素原子に対する水素原子の比率の高いガスを混合して用いることが好ましい。例えば、アセチレンガスと水素ガスとを混合して用いる場合、アセチレンガスに対する水素ガスの流量(sccm)比は、1.0以上が好ましく、1.1以上がより好ましく、1.2以上が更に好ましい。上限は特に制限はないが、ガスバリア性、成膜速度の観点から、1.5以下が好ましい。
また、成膜時の電源出力(パワー)を相対的に低くすることで、原料ガスの分解を抑え、ポリマーにより近い膜となるために、H/C比を高めることもできる。
また、成膜時の基材の温度を冷却等により低く保つことも、有効である。これは、一般的に、DLCは350℃以上で、膜構造がダイヤモンド化よりもグラファイト化する傾向にあるため、この温度以下に抑えることにより、H/C比を高くすることができる。基材として樹脂を用いる場合、その融点から、100℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましい。
【0020】
プラズマ化学蒸着法では、真空排気(減圧)とガス導入を行い、内部が所定の圧力(真空度)となった時点で原料ガスをプラズマ化させて成膜する。成膜時の内部圧力は、良好な膜質や物性と成膜所要時間との兼ね合いから、1Pa以上50Pa以下が好ましい。
プラスチック成形体がフィルム形状の場合は、平板電極間にフィルムを配置したプラズマ化学蒸着装置を用いると良い。特開平11-070152号公報に例示されるような、真空装置内に設けられた平行平板電極の片側に基材を設置し、1Pa以下になるまで真空装置内を排気する。その後、原料ガスをマスフローコントローラーなどを介して供給し、圧力を1~50Pa程度に調整する。DLCの場合は、原料ガスとして、炭化水素系のガスを用い、1種類あるいは複数のガスを混合したものを使用する。圧力が一定になった後、高周波電源にて高周波電力を印加し、プラズマを生成し、基材表面に膜を生成する。この場合、高周波の周波数は、一般的に商用周波数である13.56MHzが使用されることが多いが、装置の大きさ、ガスの種類などにより、周波数を変更することも可能である。その場合、通常4kHz~100MHz、好ましくは4kHz~13.56MHzである。想定される膜厚が堆積される時間、放電を維持し、成膜を継続する。
【0021】
プラスチック成形体が中空容器(ボトル)の場合は、特開平8-53116号公報に代表されるような、ボトルの周囲に外部電極を配置し、ボトルの内部に内部電極と原料ガス導入孔を設置したプラズマ化学蒸着装置を用いる。チャンバ内部を所定の真空度とし、原料ガスを供給し、且つ、外部電極とグランド電位の内部電極との間に電圧を印加して、外部電極に収容している容器の内部にプラズマを発生させることで、容器内面にガスバリア性膜を成膜することができる。例えば、電源として高周波電源を用いる場合、その周波数は数MHz以上数100MHz以下、汎用性の観点から好ましくは6MHz又は13.56MHzとすることができる。成膜時間は、例えば0.2~20秒、好ましくは1.0~10秒とすることができる。
【0022】
(プラスチック成形体)
本発明に用いるプラスチック成形体は、一対の表面と裏面を有していれば特に形状の制限はなく、包装用途に用いる点からフィルム、中空容器(ボトル)が好ましい。フィルムの場合は、一面が表面、他面が裏面となり、中空容器の場合は、ボトル外面が表面となり、ボトル内面が裏面となる。
フィルムは、未延伸、一軸延伸、二軸延伸の何れでもよく、機械的強度の点から二軸延伸が好ましく、延伸倍率は縦方向、横方向ともに2.0~5.0倍が好ましい。層構成は単層でも多層でもよい。厚みは、機械的強度、経済性の点から5~100μmが好ましく、8~50μmがより好ましく、10~25μmが更に好ましい。非晶質炭素膜を形成したフィルムは、シーラントフィルム等と積層し袋体などの包装体に加工される。
中空容器の成形方法は、射出成型、ブロー成形の何れでもよく、機械的強度、耐熱性の点から、延伸配向の効いたブロー成形が好ましく、延伸面倍率は6~14倍が好ましい。また、デラミボトルのように、外層体と内層体を備えた多重ボトルであってもよい。多重ボトルの場合は、内層体に非晶質炭素膜を成膜することが好ましく、内層体の内面に非晶質炭素膜を成膜することがより好ましい。
【0023】
プラスチック成形体の組成は、特に制限はないが、ホモポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート系樹脂などが挙げられ、耐熱性、汎用性の点からポリエステル系樹脂が好ましく、中でもポリエチレンテレフタレートが好ましい。
プラスチック成形体が多層の場合は、共押出多層が好ましく、層構成は、例えば組成の異なるポリエステル系樹脂の多層、ポリプロピレン系樹脂/ポリエステル系樹脂の多層、ポリオレフィン系樹脂/ポリアミド系樹脂/ポリエステル系樹脂の多層などが挙げられ、層間の密着性向上のために、上述の樹脂層間に熱可塑性エラストマー等の接着性樹脂層を配してもよい。また、プラスチック成形体が多層の場合は、プラスチック成形体の表面及び裏面の少なくとも一方の面にポリエステル系樹脂層を有し、非晶質炭素膜をポリエステル系樹脂層の表面に成膜することが望ましい。
【0024】
(ガスバリア性)
本発明のガスバリア性プラスチック成形体は、酸素透過率が5.0cc/m2/day以下であり、4.0cc/m2/day以下が好ましく、低いほどガスバリア性が良好である。
・酸素透過率
酸素透過率は、プラスチック成形体がフィルムの場合は、MOCON社製Oxtran 2/22機を用い、温度23℃、相対湿度0%の条件で測定する。また、プラスチック成形体が中空体(ボトル)の場合は、MOCON社製Oxtran 2/21機を用い、球栓式アダプターを装着し、温度23℃、相対湿度50%の条件で酸素透過率(単位:cc/pkg/day)を測定し、中空容器(ボトル)の内面表面積を用いて単位換算する。
【0025】
・屈曲試験、膜表面観察
一般に、ガスバリア性プラスチック成形体は、ガスバリア性膜を成膜した直後に比べ、内容物を収容する包装体に二次加工され、更に包装体が使用されるに従い、プラスチック成形体が外力により変形することで、ガスバリア性は次第に或いは急激に劣化してしまう。特に、酸化珪素や、窒化珪素等の珪素化合物膜は硬質なため、その不具合が顕著に表れやすい。それに比べ、非晶質炭素(DLC)膜は、柔軟性を有することが知られているが、パウチやデラミボトルのように、包装体を押圧したり内容物を搾り出したり(スクイーズ)する用途では、変形によるガスバリア性の低下抑制は不十分であった。その点に関し、本発明のガスバリア性プラスチック成形体は、ガスバリア性の低下を抑制できる特徴を有する。これは、本発明に関する非晶質炭素膜は、膜中の炭素と水素との結合が多く、膜に高い柔軟性が付与され、膜にクラック(亀裂)が発生し難いからである。
【0026】
膜の柔軟性とガスバリア性の低下抑制の評価として、プラスチック成形体がフィルムの場合は次の屈曲試験を行い、酸素透過率の測定と膜表面の観察を行う。
本発明に係る屈曲試験は、幅170mm、長さ240mmのフィルムの一方の表面に非晶質単層(DLC)膜を成膜し、DLC膜を上方に向けて成膜フィルム10を平板40上に置き、その上にフィルム10の幅方向に平行に直径5mmのガラス棒30を静置する。屈曲試験は、成膜フィルム10をガラス棒30の円周方向に半周沿わせ、次いで水平に戻すことで1回と計測し、その屈曲試験を60回、160回行った(
図1(a)に、平板40上の成膜フィルム10の上にガラス棒30を静置した状態を示し、
図1(b)に、成膜フィルム10をガラス棒30の円周方向に半周沿わせた状態を示した。)。屈曲未試験品に対する、屈曲160回試験品の酸素透過率の比(増大比)は1.80未満であり、1.60以下が好ましく、1.50以下がより好ましい。
【0027】
膜表面の観察は、屈曲試験前後の成膜フィルムについて、DLC膜を上方に向けて設置し、偏光顕微鏡を用い、観察倍率1000倍で、視野角325μm×240μmを観察し、長さ25μm以上のクラックの本数を計測した。観察は2箇所行い、クラックの計測本数を平均し、0.1mm2単位面積当たりに換算した。屈曲160回試験後のクラック本数は、5.0本/0.1mm2以下が好ましく、3.0本/0.1mm2以下がより好ましく、2.0本/0.1mm2以下が更に好ましい。更には、長さ10~25μmのクラックが1.0本/0.1mm2以下であることが好ましい。
【0028】
プラスチック成形体が中空容器(ボトル)の場合の屈曲試験は、例えば、ボトルの円筒状の胴部を周方向に特定の幅で切り出して試験片とし、フィルムの場合と同様に屈曲試験を行い、評価することができる。
また、例えば、ボトル胴部を外側から内側に向けて押圧し、放すという屈曲試験を行い、評価することもできる。
【実施例0029】
以下、本発明を実施例比較例により説明するが、本発明は実施例に制約されるものではない。
<実施例1、比較例1~2>
厚み50μmのポリエチレンテレフタレート二軸延伸単層フィルムを被着体とし、プラズマCVD成膜装置を用い、フィルムの一方の表面に厚み100nmのDLC膜を成膜し、成膜フィルムを得た。DLC成膜は次の手順と条件で行った。先ず、電極間距離130mmの平行平板電極の片方にフィルムを設置し、1Pa以下になるまで減圧した。減圧後、表1に示す原料ガス流量を装置内にマスフローコントローラーを介して導入し、周波数が13.56MHzの高周波電力200Wまたは500Wを印加した。成膜時の圧力は、1~8Paであった。成膜時間は、予め実施例1、比較例1~2の原料ガス条件ごとに、膜厚100nmとなる条件を調べ、表1に示す成膜時間を設定した。また、フィルムを設置した平板電極を冷却し、フィルム温度が50℃以下の状態で成膜を行った。
得られた成膜フィルムを用い、上述の屈曲試験、酸素透過率測定、膜表面観察を行い、表2に纏めた。なお、表2中の「未試験比」とは、「屈曲未試験品に対する、屈曲試験品の酸素透過率の比(増大比)」を意味する。
【0030】
また、シリコンウェハー上にDLC膜を被着体とし、上記のプラズマCVD装置を用い、実施例1、比較例1~2と同じ成膜条件でそれぞれ成膜し、そのDLC膜の炭素原子濃度、水素原子濃度の分析について、ラザフォード後方散乱測定装置(RBS)を用い、炭素原子濃度は核反応法(NRA)、水素原子濃度は弾性反跳検出分析(ERDA)で分析した。
NRAは、入射イオン種としてエネルギー0.98MeVの重陽子(D+)を使用し、検出器設置角150°の条件で分析し、DLC膜中の炭素原子濃度を、標準試料のピーク面積との比較により解析した。ERDAは、入射イオン種としてエネルギー2.0MeVのヘリウムイオン(4He+)を使用し、検出器設置角30°の条件で分析し、DLC膜中の水素原子濃度をシミュレーションソフトSIMNRA ver.6.03を使用し解析した。
得られた炭素原子濃度(C濃度)、水素原子濃度(H濃度)および原子濃度比(H/C)を表1に纏めた。
【0031】
【0032】
【0033】
実施例1は、原料ガスとしてアセチレンガスの流量に対して1.25倍の水素ガスを用い、DLC膜の炭素原子濃度に対する水素原子濃度のH/C比が0.75以上1.00以下であった。その結果、成膜フィルムの酸素透過率が5.0cc/m
2/day以下であり、屈曲試験を160回行った後の酸素透過率の増大比が1.80未満であり、ガスバリア性の低下抑制ができた。また、屈曲試験後の長さ25μm以上クラックは2.0本/0.1mm
2以下であり、耐屈曲性が著しく良好であった。
比較例1は、少量の水素ガスを用いた例であり、比較例2に比べH/C比は高いが、屈曲160回試験後の酸素透過率の増大比は1.80であり、クラック本数も多く、耐屈曲性は水素ガスを混合しない比較例2に近く不十分であった。
図2に、比較例2の屈曲160回試験後のDLC膜表面のクラックの偏光顕微鏡像を示す。長さ25μm以上のクラックが多数存在していることが確認できる。
本発明のガスバリア性プラスチック成形体は、中空容器(ボトル)や袋体等の包装体に好適である。例えば、デラミボトル、レトルトパウチの搾り出しに対し、ガスバリア性の劣化が少なく、内容物を長期間新鮮に保つことができる。そのため、食品ロスの低減に有益である。