(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131515
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】発光性部材、波長変換素子及び化合物
(51)【国際特許分類】
C09K 9/02 20060101AFI20220831BHJP
C08G 61/00 20060101ALI20220831BHJP
C09B 69/10 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
C09K9/02 Z
C08G61/00 ZAB
C09B69/10 Z CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030493
(22)【出願日】2021-02-26
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】田中 一生
(72)【発明者】
【氏名】中條 善樹
(72)【発明者】
【氏名】権 正行
(72)【発明者】
【氏名】大谷 俊介
(72)【発明者】
【氏名】山田 夏実
(72)【発明者】
【氏名】秋山 誠治
【テーマコード(参考)】
4J032
【Fターム(参考)】
4J032BA03
4J032BA12
4J032BB05
4J032BC03
4J032BC12
4J032BD07
4J032CG03
4J032CG08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ハロゲン系の揮発性有機化合物との接触に応答して発光し、センシング部材として有用な発光性部材及びこの発光性部材を用いた波長変換素子と、可視光赤色領域から深赤ないし近赤外領域まで溶液・薄膜を問わず、高効率に発光を示す化合物を提供する。
【解決手段】共役系高分子化合物からなる部材であって、ハロゲン系の揮発性有機化合物の接触に応答して発光する発光性部材。式(1)で表される部分構造を有する化合物。
[R
1~R
4は、置換基を有していてもよいアルキル基。R
5は、フッ素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよいアルコキシ基。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役系高分子化合物からなる部材であって、
ハロゲン系の揮発性有機化合物の接触に応答して発光する、発光性部材。
【請求項2】
前記発光が、可視光赤色領域から深赤ないし近赤外領域へ発光領域を変化させるものである、請求項1に記載の発光性部材。
【請求項3】
前記ハロゲン系の揮発性有機化合物がジクロロメタンである、請求項1又は2に記載の発光性部材。
【請求項4】
前記部材がフィルムである、請求項1~3のいずれかに記載の発光性部材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の発光性部材及び光源を有する、波長変換素子。
【請求項6】
下記式(1)で表される部分構造を有する化合物。
【化1】
[式(1)において、
R
1及びR
2は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、
R
3及びR
4は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、
R
1及びR
2のうち炭素数の多い方のアルキル基の炭素数と、R
3及びR
4のうち炭素数の多い方のアルキル基の炭素数との和が19以下であり、
R
5は、フッ素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を表す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光性部材、波長変換素子及び新規の化合物に関するものである。本発明の発光性部材及び波長変換素子はハロゲン系の揮発性有機化合物に応答して発光するため、センシング部材として有効に用いることができる。また、本発明の化合物は、可視光領域から近赤外領域まで溶液・薄膜を問わず、高効率に発光を示す典型元素含有発光性高分子材料であり、例えば発光マーカー、蛍光インジケーター、バイオイメージング、センサー、波長変換フィルム、発光トランジスター、OLED、電気化学発光セル、フォトダイナミックセラピー、光美容、ナイトビジョンディスプレイ、セキュリティー、偽造防止用途等の部材として好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
共役系高分子は、有機材料の利点である軽量性・柔軟性と高分子の特徴である成膜性を兼ね備えており、様々な分野で新たな材料として注目を集めている。また、高分子の物性がモノマーの共役ユニットに強く依存することから、新たな共役ユニットを導入することで、新規特性の付与や物性の向上を目指すことができる。
たとえば、2-サリチリデンアミンフェノール誘導体のホウ素錯体からなるコポリマーが溶液中でもフィルム中でも発光することが知られている(非特許文献1)。なかでもビチオフェンからなるコポリマーはフルオレンからなるコポリマーに比べて約80nmほど発光波長を長波長側へシフトさせることができ、近赤外発光高分子として期待されている。
【0003】
一方、外部刺激や特定分子に応答し、光学特性の変化などによりセンシングできる材料は、品質管理、体調管理、危機管理用のセンサー用途として昨今重要視されている。なかでも有機ハロゲン蒸気に対してセンシング可能な材料は、地球環境保存の観点から大きな注目を集めている(非特許文献2,3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Shunsuke Ohtani,Masayuki Gon,Kazuo Tanaka and Yoshiki Chujo Macromolecules 2019,52,3387-3393
【非特許文献2】Indranil Bhattacharjee,Nirmalya Acharya,Saheli Karmakar,and Debdas Ray,J.Phys.Chem.C 2018,122,21589-21597
【非特許文献3】Hao Peng,Yumeng Xin,Wei Shen,Zhengtao Deng,and Jiuyang Zhang,Macromol.Rapid Commun.2018,39,1800165
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、上記非特許文献1で開示された共役系高分子をフィルム化する場合、配向制御が難しく、凝集などにより蛍光量子収率が低下する傾向にあることを見出した。これらを解決するためには、置換基の選定、成膜条件が非常に重要なファクターとなるが、非特許文献1においてはこれらが十分に検討なされていなかった。
また、非特許文献2では、低分子材料を用いているため成形が難しく、非特許文献3では、高分子材料を用いているものの、波長変化が確認し難いという課題があることを見出した。
【0006】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、ハロゲン系の揮発性有機化合物との接触に応答して発光し、センシング部材として有用な発光性部材及びこの発光性部材を用いた波長変換素子を提供することを課題とする。
本発明はまた、可視光領域から近赤外領域まで溶液・薄膜を問わず、高効率に発光を示す新規化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ハロゲン系の揮発性有機化合物との接触に応答して発光する発光性部材及び該発光性部材を用いた波長変換素子を見出した。また、上記非特許文献1で開示された化合物の置換基を種々変更・最適化することにより、溶解性、吸収・発光波長、発光安定性を調節できることを見出し、さらに得られた構造体は、ハロゲン蒸気に暴露させることにより、発光波長が可視光の赤色領域から深赤ないし近赤外領域に変化することを見出した。本発明は、このような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0008】
[1] 共役系高分子化合物からなる部材であって、ハロゲン系の揮発性有機化合物の接触に応答して発光する、発光性部材。
【0009】
[2] 前記発光が、可視光赤色領域から深赤ないし近赤外領域へ発光領域を変化させるものである、[1]に記載の発光性部材。
【0010】
[3] 前記ハロゲン系の揮発性有機化合物がジクロロメタンである、[1]又は[2]に記載の発光性部材。
【0011】
[4] 前記部材がフィルムである、[1]~[3]のいずれかに記載の発光性部材。
【0012】
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の発光性部材及び光源を有する、波長変換素子。
【0013】
[6] 下記式(1)で表される部分構造を有する化合物。
【0014】
【0015】
[式(1)において、
R1及びR2は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、
R3及びR4は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、
R1及びR2のうち炭素数の多い方のアルキル基の炭素数と、R3及びR4のうち炭素数の多い方のアルキル基の炭素数との和が19以下であり、
R5は、フッ素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を表す。]
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、共役系高分子化合物からなり、ハロゲン系の揮発性有機化合物との接触に応答して発光するため、センシング部材として有用な発光性部材及びこの発光性部材を用いた波長変換素子が提供される。
また、本発明によれば、可視光領域から近赤外領域まで溶液・薄膜を問わず、高効率に発光を示す新規化合物が提供される。
【0017】
本発明の化合物によれば、2-サリチリデンアミンフェノール誘導体のホウ素錯体を含有するコポリマー、およびそれらを用いたフィルムを提供することができ、その分子量、置換基を変えることで、溶液中であってもフィルムであっても、660nm以上の波長域にまで高効率に発光するものであることから、例えば、近赤外発光マーカー、インジケーター、バイオイメージング、センサー、波長変換フィルム、発光トランジスター、OLED、電気化学発光セル、フォトダイナミックセラピー、光美容、ナイトビジョンディスプレイ、セキュリティー、偽造防止用途等の部材として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
【0019】
[発光性部材]
本発明の発光性部材は、共役系高分子化合物からなり、ハロゲン系の揮発性有機化合物の接触に応答して発光する。これは、該発光性部材の発光波長が、ハロゲン系の揮発性有機化合物が該発光性部材に接触することで変化することを指す。
本発明の発光性部材の発光波長は特に限定されないが、ハロゲン系の揮発性有機化合物との接触で発光スペクトルは40nm以上長波長側にシフトすることが好ましく、具体的には、波長360~650nmの可視光領域での発光が、ハロゲン系の揮発性有機化合物の接触後に波長660nm~1000nmの深赤発光ないし近赤外領域へと発光領域が変化することが、センシング用途としては好ましい。
【0020】
ハロゲン系の揮発性有機化合物とは、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロメタン、ブロモメタン等であり、特にジクロロメタンであることが好ましい。
また、揮発性とは、常温(25℃)、常圧(1気圧)で揮発する物質(蒸気圧が760mmHg以下の物質)を指す。
【0021】
ハロゲン系の揮発性有機化合物との接触とは、密閉容器内で1時間以上ハロゲン系の揮発性有機化合物、例えばジクロロメタン蒸気に暴露することを指す。暴露後は、25℃で1時間以上真空乾燥等を行い、発光波長の測定を実施する。
【0022】
<共役系高分子化合物>
本発明の発光性部材は、共役系高分子化合物からなる。
【0023】
また、共役系高分子化合物とは、二重結合と単結合とが交互に並んだ構造を含む高分子化合物、二重結合と単結合とが窒素原子を介して並んだ構造を含む高分子化合物、又は二重結合と単結合とが交互に並んだ構造及び二重結合と単結合とが窒素原子を介して並んだ構造を含む高分子化合物のことを表す。
【0024】
本発明に係る共役系高分子化合物は、好ましくは、下記式(1)で表される部分構造を有する化合物(以下、「化合物(1)」と称す場合がある。)である。
【0025】
【0026】
[式(1)において、
R1及びR2は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、
R3及びR4は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、
R1及びR2のうち炭素数の多い方のアルキル基の炭素数と、R3及びR4のうち炭素数の多い方のアルキル基の炭素数との和が19以下であり、
R5は、フッ素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を表す。]
【0027】
(R1及びR2)
R1及びR2は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
該アルキル基は分岐していてもよい。また、該アルキル基の炭素数は特に限定されないが、溶解性の観点から2以上10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましい。なお、該炭素数は、有していてもよい置換基の炭素数を含まないものとする。
【0028】
R1,R2のアルキル基が有していてもよい置換基としては、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基等が挙げられる。芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、炭素数1~12の、アルキル基、アルコキシル基等が挙げられる。
【0029】
R1及びR2は同じであっても、異なっていてもよいが、同じである方が合成容易性の観点から好ましい。
【0030】
(R3及びR4)
R3及びR4は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
該アルキル基は分岐していてもよい。また、該アルキル基の炭素数は特に限定されないが、溶解性の観点から1以上16以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましい。なお、該炭素数は、有していてもよい置換基の炭素数を含まないものとする。
【0031】
R3、R4のアルキル基が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シリル基、シロール基などが挙げられる。
【0032】
R3及びR4は同じであっても、異なっていてもよいが、同じである方が合成容易性の観点から好ましい。
【0033】
(R1又はR2とR3又はR4の炭素数の和)
R1及びR2のうち炭素数の多い方のアルキル基の炭素数と、R3及びR4のうち炭素数の多い方のアルキル基の炭素数との和は19以下である。ここで、R1及びR2のうち炭素数の多い方のアルキル基の炭素数と、R3及びR4のうち炭素数の多い方のアルキル基の炭素数との和(以下、「R1又はR2とR3又はR4の炭素数の和」と称す。)とは、例えば、R1の炭素数が2、R2の炭素数が4、R3の炭素数が5、R4の炭素数が6の場合、R2とR4の炭素数の和をとることを意味する。
【0034】
R1又はR2とR3又はR4の炭素数の和が19以下であることで、式(1)で表される部分構造を有する共役系高分子化合物のポリマー主鎖間の距離が最適となり、振動による失活の抑制や凝集による濃度消光の抑制が可能となる傾向にあることから、ハロゲン系の揮発性有機化合物との接触で発光波長が大きく長波長側へシフトし、センシング部材として有効に用いることができる。これに対して、R1又はR2とR3又はR4の炭素数の和が20以上であると高分子の主鎖間の距離が近づくことができず、相互作用が起こらないため、ハロゲン系の揮発性有機化合物との接触の前後で発光波長は殆ど変わらない。
このような観点から、R1又はR2とR3又はR4の炭素数の和は好ましくは17以下であり、より好ましくは16以下である。一方、R1又はR2とR3又はR4の炭素数の和が小さ過ぎると高分子の主鎖間の距離が近くて、相互作用が強すぎて発光が抑制させることから、好ましくは6以上であり、より好ましくは8以上である。
【0035】
化合物(1)において、R1又はR2の炭素数とR3又はR4の炭素数のバランスにより、発現する効果が異なる傾向にある。R1又はR2とR3又はR4の炭素数の差は特に限定されないが、差が大きい方が好ましく、R1及びR2のうち炭素数の多い方のアルキル基の炭素数と、R3及びR4のうちの炭素数の多い方のアルキル基の炭素数との差は、2以上が好ましく、3以上がより好ましい。
なお、ここでR1又はR2とR3又はR4の炭素数の和には、これらのアルキル基が有していてもよい置換基の炭素数は含まないものとする。R1又はR2とR3又はR4の炭素数の差についても同様である。
【0036】
(R5)
R5は、フッ素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を表す。
置換基を有していてもよいアルキル基については、R1及びR2における置換基を有していてもよいアルキル基と同義であり、好ましい範囲、有していてもよい置換基も同義である。
【0037】
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基は、単環基であってもよく、縮合環基であってもよく、特に限定されない。該芳香族炭化水素基の炭素数は特に限定されないが、安定性の観点から6以上16以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましい。なお、該炭素数は、有していてもよい置換基の炭素数を含まないものとする。
【0038】
該芳香族炭化水素基の芳香族炭化水素環としては、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環等が挙げられる。これらの中でも、ベンゼン環が、合成容易性の観点から好ましい。
【0039】
該芳香族炭化水素基が有していてもよい置換基は特に限定されないが、アルキル基、アルコキシル基、アミノ基、ハロゲン原子及びこれらの組み合わせなどが挙げられ、これらの中でもアルキル基が好ましく、該アルキル基の炭素数は1以上12以下が好ましい。
【0040】
置換基を有していてもよいアルコキシ基は、直鎖でも分岐していてもよい。該アルコキシ基の炭素数は、1以上20以下が好ましく、12以下がより好ましく、10以下がさらに好ましい。炭素数が上記範囲であることで溶剤溶解性が向上する傾向にある。なお、該炭素数は、有していてもよい置換基の炭素数を含まないものとする。
【0041】
該アルコキシ基が有していてもよい置換基としては、スルファニル基、アルキルチオ基、スルホ基、アミノ基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、これらの基の組み合わせ等などが挙げられる。芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、炭素数1~12の、アルキル基、アルコキシル基等が挙げられる。
上記のなかでも、R5はR5を有するホウ素の安定化が得られる傾向があるため、フッ素原子であることが好ましい。
【0042】
式(1)で表される部分構造の具体例を以下示すが、これらに限定されるものではない。
【0043】
【0044】
化合物(1)の分子量については特に限定されないがフィルム加工のしやすさの観点からは5,000以上であることが好ましく、溶解性の観点からは100万以下であることが好ましい。化合物(1)の分子量は5,000~100万であることがより好ましく、1万~50万であることが更に好ましい。
ここで、化合物(1)の分子量とは、サイズ排除クロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量の値である。
【0045】
化合物(1)の製造方法は特に限定されないが、上述した非特許文献1等に記載の方法で合成することができる。
【0046】
<発光性部材の形状>
本発明の発光性部材の形状は特に限定されず、使用用途等に合わせて適宜選択することができる。例えば、フィルム等の二次元的形状、ブロック等の三次元的形状のいずれであってもよい。
【0047】
発光性部材がフィルムの場合、その厚さも特に限定されないが200nm以上であることが好ましく、300nm以上であることがより好ましい。また厚さの上限は特に限定されないが、700nm以下が好ましい。厚さが上記範囲であることで、ハロゲン系の揮発性有機化合物への感度が良好となる傾向にある。
【0048】
<発光性部材の製造方法>
以下に発光性部材がフィルムである場合について具体的な製造方法を示す。ただし、発光性部材の形状は、上述のようにフィルムに限定されず、適宜公知の方法にて製造することができる。
【0049】
フィルム状の発光性部材は、ガラス基材等の基材上に、前述の共役系高分子化合物を含む塗布液を塗布して乾燥させることにより製造することができる。
【0050】
塗布液を製造する方法は特に限定されず、化合物(1)等の本発明に係る共役系高分子化合物が溶解される溶媒を適宜選択して常法に従って製造することができる。具体的には、溶媒としては、クロロホルム、トルエン、ジクロロエタン、THF(テトラヒドロフラン)、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の1種又は2種以上が使用できる。
【0051】
塗布液の共役系高分子化合物濃度も特に限定されないが、10-5~10mol/L、例えば1.0×10-3mol/Lが挙げられる。
塗布方法としてはスプレーコートが利用できる。
【0052】
塗布条件は、塗布液に合わせて適宜調整して用いることができるが、スプレーコートを用いる場合は、例えば、0.2mmのノズル径を有するスプレーガンを用いて0.1mbar以上0.8mbar以下の圧力で塗布することが好ましい。
【0053】
塗布膜の厚さは特に限定されないが、乾燥後の膜厚が200nm以上、特に300nm以上で700nm以下となるように塗布膜を形成することが好ましい。
【0054】
得られた塗布膜の乾燥方法も特に限定されないが、例えば25℃で1時間以上、真空乾燥することが好ましい。
【0055】
[波長変換素子]
本発明の発光性部材は、波長変換素子としても用いることができる。波長変換素子の構成は特に限定されないが、本発明の発光性部材と光源を有していることが好ましい。
その光源についても特に限定されないが、光スペクトルの青紫色又は紫外線部分の光を発する、例えばLED又はレーザなどの、固体光源であることが好ましい。
【0056】
[式(1)で表される部分構造を有する化合物]
本発明の化合物は、下記式(1)で表される部分構造を有する新規化合物(化合物(1))である。
【0057】
【0058】
[式(1)において、
R1及びR2は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、
R3及びR4は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、
R1及びR2のうち炭素数の多い方のアルキル基の炭素数と、R3及びR4のうち炭素数の多い方のアルキル基の炭素数との和が19以下であり、
R5は、フッ素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を表す。]
【0059】
化合物(1)は、上述した発光性部材が含む共役系高分子化合物で示したものと同義であり、各置換基、好ましい範囲、例示化合物、製造方法等も同義である。
【実施例0060】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の合成例、合成化合物及び実施例に限定されるものではない。なお、下記の実施例における各種の条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における好ましい範囲と同様に、本発明の好ましい範囲を示すものであり、本発明の好ましい範囲は前記した実施態様における好ましい範囲と下記実施例の値又は実施例同士の値の組合せにより示される範囲を勘案して決めることができる。
【0061】
[実施例1]
<共役系高分子化合物の合成>
【化5】
【0062】
1_C2(1.30g,5.04mmol)と4-ブロモ-2-ヒドロキシベンズアルデヒド(1.01g,5.04mmol)を窒素雰囲気下で脱酸素エタノール(20mL)に溶かし、室温で4h撹拌した。その後、溶媒をエバポレーターで飛ばし、ヘキサンとクロロホルム(v/v=7/3)でカラムクロマトグラフィーを行って精製した。得られ2_C2の黄色液体(1.17g,2.66mmol)はそのまま次の反応に用いた。
【0063】
2_C2(0.70g,1.59mmol)を窒素雰囲気下でトルエン(47mL)に溶かし、トリメチルアミン(0.44mL,3.17mmol)を加えた。さらに、ジエトキシトリフルオロブロミド(0.60mL,4.76mmol)を加えて加熱撹拌した(2.5h,100℃)。室温まで徐冷した後、エタノールでクエンチし、エバポレーターで濃縮したところ黄色粉末が得られた。これをヘキサンと酢酸エチル(v/v=4/1)でカラムクロマトグラフィーを行って精製し、黄色固体BAmM_C2(0.37g,収率50%)を得た。
【0064】
【0065】
BAmM_C2(63.8mg,0.13mmol)、BT_C12(106mg,0.13mmol)、Pd2(dba)3(3.5mg,0.0039mmol)、X-Phos(3.7mg,0.0077mmol)を窒素雰囲気下でトルエン(2.0mL)に溶かして加熱撹拌した(80℃,24h)。室温まで徐冷した後、アルミナカラムに通し、メタノールで再沈殿した。得られた固体はメンブレンフィルターで回収した後、25℃で真空乾燥させた。これにより、赤色固体BAm2BT12(数平均分子量:17,000、重量平均分子量:50,500)が55.1mg,51%の収率で得られた。
【0066】
<発光性部材(フィルム)の製造>
上記赤色固体BAm2BT12を1.0×10-3mol/Lとなるようにクロロホルムに溶解させ、塗布液を調製した。該塗布液をエアスプレー式でガラス基板(0.9cm×5cm)に吹き付け塗布膜(乾燥膜厚200nm)を得、その後25℃で1時間真空乾燥して発光性部材1を得た。エアスプレーは、0.3mbar圧(Mr.Linear Compressor L5)を用いた。
【0067】
<ハロゲン系の揮発性有機化合物との接触>
密閉したガラス容器(高さ11cm、直径8cm、容積300mL)内で、静置した発光性部材1をジクロロメタン蒸気に25℃で1時間曝し、その後25℃で1時間真空乾燥した。
【0068】
発光性部材1のハロゲン系の揮発性有機化合物との接触前後の紫外可視吸収スペクトル及び発光スペクトルの測定を実施した。測定には、SHIMADZU UV-3600 spectrophotometerを用いた。
発光性部材1はハロゲン系の揮発性有機化合物との接触前の発光ピーク波長が644nmであり、接触後の発光ピーク波長が700nmで、発光波長が56nm波長長側にシフトしたことが確認された。
【0069】
[比較例1]
<共役系高分子化合物の合成>
【化7】
【0070】
実施例1の共役系高分子化合物の合成における1_C2を1_C8とした以外は同様にして、BAmM_C8(1.40g,収率57%))を得た。
【0071】
【0072】
実施例1の共役系高分子化合物の合成におけるBAmM_C2をBAmM_C8とした以外は実施例1と同様にして、BAm8BT12(数平均分子量:33,100、重量平均分子量:93,000)を得た(68.0mg,収率67%)。
【0073】
<発光性部材(フィルム)の製造>
実施例1の発光性部材(フィルム)の製造におけるBAm2BT12をBAmM8BT12としたこと以外は実施例1と同様にして、発光性部材2を得た。
【0074】
<ハロゲン系の揮発性有機化合物との接触>
密閉したガラス容器(高さ11cm、直径8cm、容積300mL)内で、静置した発光性部材2をジクロロメタン蒸気に25℃で1時間曝し、その後25℃で1時間真空乾燥した。
【0075】
発光性部材2のハロゲン系の揮発性有機化合物との接触前後の紫外可視吸収スペクトル及び発光スペクトルの測定を実施例1と同様に実施した。
結果を実施例1の結果と共に表1に示す。
【0076】
【0077】
表1より明らかなように、R1又はR2とR3又はR4の炭素数の和が14で、本発明の化合物(1)の要件を満たすBAm2BT12を用いた実施例1の発光性部材1は、ハロゲン系の揮発性有機化合物との接触後の発光ピーク波長が接触前に比べて大きく長波長側へシフトしており、センシング部材として有用であることが分かる。
これに対して、R1又はR2とR3又はR4の炭素数の和が20で、本発明の化合物(1)の要件を満たさないBAm8BT12を用いた比較例1の発光性部材2は、ハロゲン系の揮発性有機化合物との接触の前後で発光ピーク波長に差異は殆どなく、センシング部材として使用不可である。