(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131611
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】結晶質酸化タンタル粒子、及び結晶質酸化タンタル粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 35/00 20060101AFI20220831BHJP
【FI】
C01G35/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030636
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】西本 大夢
(72)【発明者】
【氏名】阿部 能之
(72)【発明者】
【氏名】後藤 孝
(72)【発明者】
【氏名】中山 忠親
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA02
4G048AB01
4G048AC02
4G048AC08
4G048AD04
4G048AE08
(57)【要約】
【課題】結晶性が高く略球状であるナノサイズの酸化タンタル粒子、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】平均粒子径が20nm以上500nm以下であり、且つ結晶子径が10nm以上である、略球状の結晶質酸化タンタル粒子。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径(Dm)が20nm以上500nm以下であり、且つ結晶子径(CS)が10nm以上である、略球状の結晶質酸化タンタル粒子。
【請求項2】
前記結晶質酸化タンタル粒子の結晶形が斜方晶系β型及び六方晶系δ型の少なくとも一方である、請求項1に記載の結晶質酸化タンタル粒子。
【請求項3】
前記結晶質酸化タンタル粒子の炭素含有率が3.0質量%以下である、請求項1又は2に記載の結晶質酸化タンタル粒子。
【請求項4】
平均粒子径(Dm)に対する結晶子径(CS)の比が0.05以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の結晶質酸化タンタル粒子。
【請求項5】
化学気相反応法による結晶質酸化タンタル粒子の製造方法であって、以下の工程;
タンタル源を準備する工程、
前記タンタル源を加熱及び気化させてタンタル含有ガスを発生させる工程、及び
前記タンタル含有ガスを500Pa以上50000Pa以下の圧力にて600℃以上1200℃以下の温度に保持して熱分解及び酸化反応を起こさせ、それにより平均粒子径が20nm以上500nm以下であり、且つ結晶子径が10nm以上である略球状の結晶質酸化タンタル粒子を生成させる工程、
を含む、方法。
【請求項6】
前記タンタル源が、タンタル-ペンタメトキシド、タンタル-ペンタエトキシド、タンタル-ペンタ-n-プロポキシド、タンタル-ペンタイソプロポキシド、タンタル-ペンタ-n-ブトキシド、塩化タンタル、及びフッ化タンタルからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記結晶質酸化タンタル粒子の結晶形が、斜方晶系β型及び六方晶系δ型の少なくとも一方である、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記結晶質酸化タンタル粒子の炭素含有率が3.0質量%以下である、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶質酸化タンタル粒子、及び結晶質酸化タンタル粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化タンタル(Ta2O5)は誘電率や屈折率が高いという特徴を有しており、この特徴を活かしてキャパシターや光学コーティング用の材料として有用である。そして、これらの用途に適用するために、酸化タンタルのナノ粒子とバインダーとを含むインクを調整し、このインクを基材上に塗布及び熱処理して酸化タンタル膜を作製することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、酸化タンタル粒子を用意する工程と、用意した前記酸化タンタル粒子を有機モノマーに分散させる工程と、前記有機モノマーを硬化させる工程と、を有することを特徴とする光学素子の製造方法が開示されている(特許文献1の請求項7)。また特許文献1には容器内の最高温度と最高圧力とが特定の関係式を満足するようにタンタルアルコキシドを加水分解して酸化タンタル粒子を製造する方法が開示されている(特許文献1の請求項1)。
【0004】
また酸化タンタルは、太陽エネルギーと水とから水素を発生させる水分解用光触媒の材料として注目されている。再生可能な自然エネルギーである太陽光と水とから効率的に水素を製造できれば、化石燃料社会から、水素をエネルギー源とする水素社会への移行を進めることができる。そのため酸化タンタルは水分解触媒材料として有望である。
【0005】
例えば、特許文献2には、一次粒子径が70nm以下であり、拡散反射スペクトルにより測定される波長1800nmにおける光吸収率が、0.32以下であることを特徴とする、酸化タンタル粒子が開示されている(特許文献2の請求項1)。また特許文献1には、当該酸化タンタル粒子に関して、高い結晶性、かつ微細な一次粒子径を両立するという特徴を有すること、光触媒として水の光分解に用いること、多層膜等の誘電体材料としても利用可能であることが記載されている(特許文献2の[0009]、[0021]及び[0022])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-111684号公報
【特許文献2】特開2014-004574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようにキャパシター、光学コーティング及び光触媒を始めとする様々な用途に酸化タンタル粒子を適用することが提案されている。またこれらの用途において、微細で結晶性が高い球状の酸化タンタル粒子が望まれる場合がある。例えば、酸化タンタル粒子を含むインクを塗布及び熱処理して、光学用途の酸化タンタル膜を作製する場合には、微細で結晶性が高いとともに、球状の酸化タンタル粒子が望まれる。球状の粒子を用いることで、塗布膜が緻密化するからである。また光触媒用途には、微細で且つ結晶性が高い酸化タンタル粒子が望まれる。粒子の結晶性が低いと、電子とホール(正孔)とが粒子内の格子欠陥で再結合してしまい、触媒活性が低下させてしまうからである。また微細な粒子は、比表面積が高いため活性点が多く、触媒性能に優れるからである。
【0008】
しかしながら従来から提案される技術では、ナノレベルに微細で且つ結晶性の高い球状酸化タンタル粒子を得ることは困難であった。すなわち、従来の製法では、結晶性の高い酸化タンタル粒子を得るために、高温且つ長時間の焼成処理を必要としていた。そのため焼成処理の際に酸化タンタル粒子の粒成長及び焼結が進み、その結果、粒子が粗大化して、高比表面積の粒子を得ることが困難という問題があった。
【0009】
本発明者らは、このような問題点に鑑みて鋭意検討を行った。その結果、化学気相反応法で特定の条件下で製造を行うことで、結晶性が良好なナノサイズの略球状酸化タンタル粒子を得ることができるとの知見を得た。
【0010】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、結晶性が良好なナノサイズの略球状酸化タンタル粒子、及びその製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記(1)~(8)の態様を包含する。なお本明細書において「~」なる表
現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0012】
(1)平均粒子径(Dm)が20nm以上500nm以下であり、且つ結晶子径(CS)が10nm以上である、略球状の結晶質酸化タンタル粒子。
【0013】
(2)前記結晶質酸化タンタル粒子の結晶形が斜方晶系β型及び六方晶系δ型の少なくとも一方である、上記(1)の結晶質酸化タンタル粒子。
【0014】
(3)前記結晶質酸化タンタル粒子の炭素含有率が3.0質量%以下である、上記(1)又は(2)の結晶質酸化タンタル粒子。
【0015】
(4)平均粒子径(Dm)に対する結晶子径(CS)の比が0.05以上である、上記(1)~(3)のいずれかの結晶質酸化タンタル粒子。
【0016】
(5)化学気相反応法による結晶質酸化タンタル粒子の製造方法であって、以下の工程;
タンタル源を準備する工程、
前記タンタル源を加熱及び気化させてタンタル含有ガスを発生させる工程、及び
前記タンタル含有ガスを500Pa以上50000Pa以下の圧力にて600℃以上1200℃以下の温度に保持して熱分解及び酸化反応を起こさせ、それにより平均粒子径が20nm以上500nm以下であり、且つ結晶子径が10nm以上である略球状の結晶質酸化タンタル粒子を生成させる工程、
を含む、方法。
【0017】
(6)前記タンタル源が、タンタル-ペンタメトキシド、タンタル-ペンタエトキシド、タンタル-ペンタ-n-プロポキシド、タンタル-ペンタイソプロポキシド、タンタル-ペンタ-n-ブトキシド、塩化タンタル、及びフッ化タンタルからなる群から選択される少なくとも一種である、上記(5)の方法。
【0018】
(7)前記結晶質酸化タンタル粒子の結晶形が、斜方晶系β型及び六方晶系δ型の少なくとも一方である、上記(5)又は(6)の方法。
【0019】
(8)前記結晶質酸化タンタル粒子の炭素含有率が2.0質量%以下である、上記(5)~(7)のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、結晶性が良好なナノサイズの略球状酸化タンタル粒子、及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】化学気相反応法による合成に用いられる粉末製造装置の概略図である。
【
図2】酸化タンタル粒子(実施例2)のTEM像を示す。
【
図3】酸化タンタル粒子(実施例5)のTEM像を示す。
【
図4】酸化タンタル粒子(実施例2)のXRDチャートを示す。
【
図5】酸化タンタル粒子(実施例4)のXRDチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0023】
1.酸化タンタル粒子
本実施形態の酸化タンタル粒子は結晶質である。粒子が結晶質であるか否かは、粒子をX線回折(XRD)分析により判別できる。X線回折チャートにおいて、結晶に基づく鋭い回折ピークが明確に観察されれば、結晶質であると判断できる。なお本明細書において、粒子とは、独立した一個の粒、または独立した複数個の粒の集合体を指す。粒子が複数個の粒の集合体である場合には、粒子は粉末と同義である。
【0024】
また本実施形態の酸化タンタル粒子は、その形状が略球状である。粒子形状を略球状にすることで、この酸化タンタル粒子を用いて、緻密な塗布膜を得ることができる。すなわち、粒子形状が不定形であると、塗布の際に粒子同士の接触点の数が多くなる。また粒子同士が物理的に噛み合うことで、その移動が妨げられる。そのため塗布膜中で多数の空隙が生じて、緻密化が阻害される。これに対して略球状の粒子を用いることで、塗布時に粒子がスムーズに移動できる、その結果、高充填な塗布膜を得ることが可能になる。なお本明細書において、略球状とは、平均アスペクト比が1.5以下の粒子を意味する。平均アスペクト比は、1.4以下が好ましく、1.3以下がより好ましい。
【0025】
本実施形態の酸化タンタル粒子は、その平均粒子径(Dm)が20nm以上500nm以下である。平均粒子径が20nm未満であると、粒子を含むインクを塗布して焼成膜を作製しようとしても、焼結時に粒子が凝集して海島状になりやすい。そのため緻密な焼成膜を得ることが困難になる恐れがある。また結晶子径が過度に小さくなり、結晶性が低い。緻密な焼成膜及び優れた結晶性を得る観点から、平均粒子径は50nm以上、100nm以上、150nm以上、200nm以上、250nm以上、または300nm以上であってもよい。一方で、平均粒子径が500nm超であると、粒子が粗大になり過ぎてしまい、焼結駆動力が小さくなってしまう。そのため、やはり緻密な焼成膜を得ることが困難になる恐れがある。また比表面積が小さくなり過ぎるため、触媒活性の点で不向きである。平均粒子径は450nm以下、400nm以下、350nm以下、300nm以下、250nm以下、または200nm以下であってもよい。なお平均粒子径は、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて酸化タンタル粒子を観察し、TEM観察像から画像処理により粒径を測定し、100個の粒子の粒径の平均値を算出することで求められる。
【0026】
本実施形態の酸化タンタル粒子は、その結晶子径(CS)が10nm以上である。結晶子径は、粒子の結晶性の指標となるものであり、結晶子径が大きいほど格子欠陥が少なく結晶性が高いと言える。結晶子径が10nm未満であると、結晶性が低下して粒子の触媒活性が不十分になる恐れがある。結晶性の低い粒子は格子欠陥を粒子内に有しており、触媒として使用する際に発生する電子とホールとが欠陥にて再結合して、触媒活性に悪影響を及ぼすからである。特に非晶質粒子は、その結晶子が測定できないほど小さく、触媒活性を期待することができない。結晶性の観点から、結晶子径は40nm以上、45nm以上、50nm以上、60nm以上、70nm以上、80nm以上、90nm以上、または100nm以上であってもよい。一方で結晶子径が大きいと粒子径も必然的に大きくなる。結晶子径が過度に大きいと比表面積低下に伴い活性点数が減り、助触媒を担持させても触媒性能が高くならない場合がある。比表面積の観点から、結晶子径は300nm以下、200nm以下、100nm以下、90nm以下、80nm以下、70nm以下、60nm以下、または50nm以下であってもよい。なお結晶子径は、酸化タンタル粒子をX線回折(XRD)法で分析し、XRDチャートにおける酸化タンタル(Ta2O5)の(001)回折ピークの半値全幅(FWHM)を求め、得られたFWHMの値をScherrerの公式に導入して算出することができる。また結晶子径は、粒子中結晶子の大きさの目安になるものの、その測定方法及び算出方法が平均粒子径とは異なる。したがって結晶子径は、必ずしも平均粒子径以下になるとは限らない。
【0027】
酸化タンタル粒子は、好ましくは結晶形が斜方晶系β型及び六方晶系δ型の少なくとも一方である。酸化タンタルには、α型、β型、及びδ型の結晶型が知られている。α型は比較的高温で生成する不安定相であるのに対し、β型及びδ型は低温で生成する安定相である。β型酸化タンタルは斜方晶系の結晶系を有し、δ型酸化タンタルは六方晶系の結晶系を有する。
【0028】
酸化タンタル粒子は、好ましくは平均粒子径(Dm)に対する結晶子径(CS)の比(CS/Dm)が0.05以上である。CS/Dmを高めることで、粒子の結晶性をより一層高めることが可能になる。結晶性の観点から、CS/Dmは0.10以上、0.15以上、0.20以上、0.25以上、0.30以上、または0.35以上であってもよい。CS/Dmは高いほど好ましいが、典型的には1.50以下である。
【0029】
酸化タンタル粒子は、タンタル(Ta)及び酸素(O)以外の他の成分を含んでもよい。しかしながら、触媒性能などの特性を十分に発揮させるためには、他の成分の含有量はは少ない方が好ましい。他の成分の含有量は10.0質量%以下、5.0質量%以下、2.0質量%以下、1.0質量%以下、0.5質量%以下、または0.1質量%以下であってもよい。
【0030】
特に酸化タンタル粒子は炭素含有量が少ないことが好ましい。炭素(C)含有タンタル源を用いて酸化タンタル粒子を合成すると、合成後の酸化タンタル粒子が原料由来の炭素成分(炭素、有機化合物)を含むことがある。このような炭素成分が粒子表面に存在すると、活性点の数が少なくなり、触媒性能が低下する恐れがある。触媒性能の観点から、炭素含有率は5.0質量%以下、3.0質量%以下、1.5質量%以下、1.0質量%以下、0.5質量%以下、または0.1質量%以下であってもよい。なお炭素含有量は、熱天分-質量分析法や酸素気流中燃焼-赤外性吸収法で粒子を分析することで求めることができる。
【0031】
2.酸化タンタル粒子の製造方法
本実施形態の酸化タンタル粒子は、上述した要件を満足する限り、その製造方法は限定されない。しかしながら化学気相反応法で合成することが好適である。化学気相反応法は、加熱して気化させた原料をキャリアガスと共に反応室内に導入し、反応室内での加熱により反応を進行させる手法である。気化した原料粒子が反応室内で熱分解して酸化タンタルになり、酸化タンタルが成長して酸化タンタル粒子になる。
【0032】
化学気相反応法に好適に使用される粉末製造装置の概略図を
図1に示す。粉末製造装置(100)は、原料室(10)と、反応室(20)と、原料室(10)及び反応室(20)を連結する連絡管(30)と、を備える。原料室(10)には、酸化タンタル粒子の原料である化合物を格納できる原料容器(12)が配され、また原料室(10)の周囲には、原料を気化させるための原料室加熱ヒーター(14)が配されている。さらに原料室(10)にはキャリアガス導入口(16)が配され、このキャリアガス導入口(16)を通じてキャリアガスが導入される。キャリアガス導入口(16)に対向する原料室(10)の壁面には反応室連絡口(18)が配されている。反応室連絡口(18)は、反応室(20)の原料投入口(22)と連絡管(30)を介して連通している。連絡管(30)はバルブ(32)を備えている。反応室(20)では、原料投入口(22)が配された壁面と対向する壁面に回収フィルター(24)を備えた排気口(26)が配される。また反応室(20)の周囲には反応用ヒーター(28)が配されている。反応室(20)での反応は減圧雰囲気下で行われる。そのため原料室(10)、反応室(20)及び連絡管(30)は、減圧雰囲気に耐え得る構造を有することが好ましい。
【0033】
本実施形態の酸化タンタル粒子の特に好適な製造方法は、以下の工程;タンタル源を準備する工程(準備工程)、準備したタンタル源を加熱及び気化させてタンタル含有ガスを発生させる工程(ガス化工程)、及びタンタル含有ガスを500Pa以上50000Pa以下の圧力にて600℃以上1200℃以下の温度に保持して熱分解及び酸化反応を起こさせ、それにより平均粒子径(Dm)が20nm以上500nm以下であり、且つ結晶子径が10nm以上である略球状の結晶質酸化タンタル粒子を生成させる工程(反応工程)、を含む。各工程の詳細について以下に説明する。
【0034】
<準備工程>
準備工程では、タンタル(Ta)源を準備する。タンタル源として、タンタルアルコキシド(タンタル-ペンタメトキシド、タンタル-ペンタエトキシド、タンタル-ペンタ-n-プロポキシド、タンタル-ペンタイソプロポキシド、タンタル-ペンタ-n-ブトキシド等)などの有機タンタル化合物を用いることができる。あるいは塩化タンタルやフッ化タンタル等の無機タンタル化合物を用いることができる。ただし製造される酸化タンタル粒子を光触媒の用途に用いる場合には、ハロゲン元素を含まないタンタル源を用いることが望ましい。酸化タンタル粒子にハロゲン元素が残留すると、ハロゲン元素により触媒活性が失われることがあるからである。
【0035】
<ガス化工程>
ガス化工程では、準備したタンタル源を加熱及び気化させてタンタル含有ガスを発生させる。具体的には、原料室加熱ヒーターを用いて原料室を加熱し、原料容器に装入したタンタル源を気化させる。なお本明細書において、気化とは昇華を含む概念である。その後、原料室にキャリアガスを導入して、発生したタンタル含有ガスを、連絡管を介して反応室内に導入する。反応室では、後続する反応工程でタンタル含有ガスが熱分解して酸化タンタルになり、生成した酸化タンタルが成長して酸化タンタル粒子になる。
【0036】
ガス化工程での原料加熱温度、原料室ガス圧、及びキャリアガス流量といったガス化パラメータは、最終的に得られる酸化タンタル粒子の平均粒子径が20nm以上500nm以下になるように制御する。ガス化パラメータの最適値は装置の大きさや構造に依存するため、これを一概に決めることは困難である。したがって装置に応じて最適値を決められよい。
【0037】
原料加熱温度は、タンタル源の気化又は昇華に影響を及ぼす。そのため原料加熱温度を制御することで、タンタル含有ガスの発生量及び反応室への導入量を調整できる。タンタル含有ガスの導入量が多いと、得られる酸化タンタル粒子の平均粒子径が小さくなり、また導入量が少ないと平均粒子径が大きくなる。反応室では、微細な酸化タンタル粒子を核とし、その周囲にタンタル含有ガスが吸着及び分解することで、酸化タンタル粒子が成長する。タンタル含有ガスの導入量が少ないと、核となる微細酸化粒子の個数が少なくなる。そのため平均粒子径が大きくなる。原料加熱温度が低いほど、タンタル含有ガスの発生量が少なくなるため、酸化タンタル粒子の平均粒子径が大きくなる。一方で、原料加熱温度が高いほど、タンタル含有ガスの発生量が多くなるため、平均粒子径が小さくなる。なお原料加熱温度は、タンタル源の気化開始温度以上気化完了温度以下が好ましい。気化開始温度は、熱天秤(TG;Thermo Gravimetry)を用いてタンタル源を熱分析した際の質量減少が始まる温度であり、タンタル源が液体の場合にはその沸点に近い。一方で気化完了温度はタンタル源が消滅する温度のことである。またタンタル含有ガスの発生量は、装置の構成によって異なるものの、1g/時間以下が好適である。
【0038】
原料室ガス圧もタンタル源の気化又は昇華に影響を及ぼす。そのため原料室ガス圧を制御することでもタンタル含有ガスの発生量及び酸化タンタル粒子の平均粒子径を調整することができる。すなわち原料室ガス圧が低いほど、タンタル含有ガスの反応室内での滞留時間が長くなるため、核発生時のタンタル濃度が高くなる。そのため核発生量が多くなり、平均粒子径が小さくなる。原料室ガス圧は50000Pa以下が好適である。原料室を減圧雰囲気下に保持することで、タンタル源の気化又は昇華を容易に制御することが可能になる。
【0039】
キャリアガスの流量も酸化タンタル粒子の平均粒子径に影響を及ぼす。流量が多いと、タンタル含有ガスの反応室での滞在時間が短くなり、その結果、平均粒子径が大きくなる。一方で流量が少ないと平均粒子径は小さくなる。キャリアガスの流量は、タンタル源が反応室に到達して反応温度に達するまでに要する時間が0.01~20秒となり、反応室での滞留時間が0.1~30秒となるように制御することが好適である。またキャリアガスとしてアルゴン(Ar)などの不活性ガスを含有するガスを用いることができる。好適にはキャリアガスは、アルゴン(Ar)、またはアルゴン(Ar)と酸素(O2)との混合ガスであり、特に好適には酸素濃度1~20体積%の混合ガスである。酸素濃度を1体積%以上にすることで、タンタル源の熱分解を促進し、炭素などの不純物が酸化タンタル粒子に残留することを防ぐことが可能になる。また酸素濃度を20体積%以下にすることで急激な酸化反応を抑制し、酸化タンタル粒子の粗大化を防ぐことができる。
【0040】
<反応工程>
反応工程では、タンタル含有ガスを500Pa以上50000Pa以下の圧力にて600℃以上1200℃以下の温度に保持して熱分解及び酸化反応を起こさせる。それにより平均粒子径が20nm以上500nm以下であり、且つ結晶子径が10nm以上の略球状の結晶質酸化タンタル粒子が生成する。具体的には、反応室に導入したタンタル含有ガスを、反応用ヒーターを用いて加熱する。その結果、タンタル含有ガスの熱分解及び酸化反応が起こり、初期核として働く微細な酸化タンタル粒子が生成する。タンタル含有ガスを継続して導入すると、生成した微細粒子の周囲にタンタル含有ガスが吸着し、さらに熱分解及び酸化反応が起こり、酸化タンタル粒子が成長する。
【0041】
反応工程での圧力(反応圧力)は、反応生成物の形状や生成速度に影響を及ぼす。反応圧力が500Pa未満であると、反応生成物が膜状になってしまい、酸化タンタル粒子を得ることが困難になる。粒子性状の観点から、反応圧力は1000Pa以上、1500Pa以上、または2000Pa以上であってもよい。一方で、反応圧力が50000Pa超であると、酸化タンタル粒子を得ることができるものの、生成速度が著しく遅くなるため生産性を阻害する恐れがある。生産性の観点から、反応圧力は10000Pa以下、7500Pa以下、または5000Pa以下であってもよい。
【0042】
保持温度(反応温度)は、酸化タンタル粒子の粒子径、結晶性及び残留不純物量に影響を及ぼす。反応温度が600℃未満であると、結晶性に優れた酸化タンタル粒子を得ることが困難になる。またタンタル含有ガスの分解反応が十分に進行せず、不純物たる未反応炭素成分が粒子中に残留する恐れがある。結晶性及び不純物の観点から、反応温度は650℃以上、700℃以上、750℃以上、800℃以上、850℃以上、900℃以上、950℃以上、または1000℃以上であってもよい。一方で反応温度が1200℃超であると、酸化タンタル粒子が粗大化する。その結果、平均粒子径が500nmを超えたり、あるいは粒子径2μm以上の粗大粒子が生成したりする恐れがある。粒子径の観点から、反応温度は1100℃以下、1050℃以下、1000℃以下、950℃以下、900℃以下、850℃以下、800℃以下、750℃以下、または700℃以下であってもよい。
【0043】
このようにして、本実施形態の酸化タンタル粒子を製造することができる。得られた酸化タンタル粒子は、反応室の回収フィルターに捕集される。捕集された粒子をフィルターから回収することで、酸化タンタル粒子を得ることができる。
【0044】
なお、化学気相反応法による製造方法を主に説明したが、本実施形態の酸化タンタル粒子は、化学気相反応法により製造されたものに限定される訳ではない。例えば、水溶液熱分解法、固相反応法、ゾル・ゲル法、錯体重合法、及び水熱反応法などの手法を用いてもよい。このうち水溶液熱分解法は、金属含有前駆体を原料として用い、この金属含有前駆体を含む水溶液を加熱することで溶媒である水を蒸発し、それにより金属含有前駆体の脱水重縮合反応を引き起こす手法である。本実施形態の要件を満足する酸化タンタル粒子が得られる限り、いずれの手法を採用してもよい。
【実施例0045】
本発明を、以下の実施例及び比較例を用いて更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
(1)酸化タンタル粒子の製造
[実施例1]
実施例1では、タンタル源としてタンタルエトキシドを用い、
図1に示す粉末製造装置を用いて化学気相反応法で酸化タンタル粒子を合成した。この粉末製造装置は、内容積が400cm
3の原料室と内容積が200cm
3の反応室とを備えていた。具体的には、以下の手順で粒子を作製した。
【0047】
まず原料室の原料容器にタンタルエトキシド(タンタル源)を装入した。バルブを開いた状態で反応室と原料室を真空引きした後に、キャリアガスを流さずに反応室の加熱を開始し、反応室が所定温度に達するまで1~2時間待った。反応室が所定温度に達した時点でキャリアガスを流し、その後、原料室の加熱を開始した。原料室が所定温度に達するまで15~25分待った。原料室が所定温度に達した後にその状態で1時間保持した。原料室加熱により酸化タンタル粒子の析出が反応室で始まった。その際、熱電対を用いて原料室(外側)と反応管入口(内部)の温度を測定し、それぞれ原料加熱温度及び反応温度とした。析出した酸化タンタル粒子は反応室のフィルターで捕集された。析出反応の終了後にフィルターに捕集された酸化タンタル粒子を回収した。
【0048】
実施例1では、キャリアガスとして90vol%のアルゴン(Ar)と10vol%の酸素(O2)を含む混合ガスを用い、キャリアガスの流量を280SCCMに設定した。また原料加熱温度を220℃、反応室のガス圧を5000Pa、反応温度を1025℃にした。さらにタンタルエトキシド(タンタル源)の蒸発量は1g/時間であった。
【0049】
[実施例2]
実施例2では反応温度を938℃にした。それ以外は実施例1と同様にして酸化タンタル粒子を作製した。
【0050】
[実施例3]
実施例3では反応温度を830℃にした。それ以外は実施例1と同様にして酸化タンタル粒子を作製した。
【0051】
[実施例4]
実施例4では反応温度を729℃にした。それ以外は実施例1と同様にして酸化タンタル粒子を作製した。なお例4では、原料室におけるタンタルエトキシド(タンタル源)の蒸発量は0.54g/時間であった。
【0052】
[実施例5]
実施例5ではキャリアガスとしてアルゴン(Ar)ガスを用いた。また反応温度を824℃にした。それ以外は実施例1と同様にして酸化タンタル粒子を作製した。
【0053】
[実施例6]
実施例6では原料加熱温度を200℃、反応室のガス圧を2000Pa、反応温度を629℃にした。それ以外は実施例1と同様にして酸化タンタル粒子を作製した。なお実施例6に係る酸化タンタル粒子は、得られた量が少なく、後述する熱分析は行えなかった。
【0054】
[比較例1]
比較例1では原料加熱温度を200℃、反応室のガス圧を2000Pa、反応温度を580℃にした。それ以外は実施例1と同様にして酸化タンタル粒子を作製した。なお比較例1に係る酸化タンタル粒子は、黒っぽい灰色であり、後述する目視観察以外の評価は行わなかった。
【0055】
【0056】
(2)評価
実施例1~6及び比較例1で得られた酸化タンタル粒子について、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0057】
<目視観察>
酸化タンタル粒子を目視にて観察し、その色調を調べた。
【0058】
<TEM観察>
走査透過電子顕微鏡(STEM;株式会社日立ハイテク、HD2700)を用いて酸化タンタル粒子を観察した。そして100個の粒子について粒径を測定し、その平均値を平均粒子径とした。
【0059】
<XRD>
粉末X線回折装置(スペクトリス株式会社、X’Pert PRO MRD)を用いて酸化タンタル粒子のX線回折(XRD)分析を行い、得られた結果に基づき生成相の同定とその結晶性を評価した。分析はCuKα線を線源に用いた。
【0060】
またXRD分析結果に基づき、酸化タンタル粒子の結晶子径を算出した。具体的には、分析により得られたXRDチャートを解析し、2θ=22.9°近傍に存在する酸化タンタル(Ta2O5)の(001)回折ピークの半値全幅(FWHM)を求めた。そして、得られたFWHMの値をScherrerの公式に導入して、結晶子径を算出した。
【0061】
<熱分析>
熱天秤(TG;Bruker―AXS、2020SA)を用いて、酸化タンタル粒子について熱分析を行い、それにより粒子中の未反応物量を調べた。熱分析は、N2-21%O2ガス雰囲気下で昇温速度20℃/分の条件で行った。
【0062】
(3)評価結果
【0063】
<目視観察>
実施例1~6の酸化タンタル粒子の色調を表2にまとめて示す。実施例1~4で白色の粒子が得られた一方で、実施例5及び6では淡灰色の粒子が得られた。これは有機物が残留したためと考えられた。比較例1では、濃灰色の粒子が得られた。実施例と比較して炭素成分が多く含まれているためにこのような色となったと考えられる。
<TEM観察>
実施例2及び実施例5の酸化タンタル粒子のTEM像を
図2及び
図3のそれぞれに示す。得られた粒子は、その形状が実質的に球状であった。また粒子の内部に結晶粒界が見られ、多結晶粒子であることが確認された。殆どの粒子は、ネット成長しておらず、他の粒子と結合していなかった。輸送中の粒子が気相で成長した特徴が表れていると考えられた。実施例2の粒子10点についてアスペクト比を測定したところ、平均アスペクト比は1.16であった(最小1.01、最大1.61)。
【0064】
<XRD>
実施例2の酸化タンタル粒子のXRDチャートを
図4に示す。このサンプルの回折ピーク角度は、斜方晶系β型酸化タンタル(β-Ta
2O
3)の標準回折データ(JCPDSカード01-89-2843)の値と一致していた。また回折ピークは鋭く、結晶性が良好であることが確認された。同様の結果は、実施例1の酸化タンタル粒子でも得られた。
【0065】
実施例4で得られた酸化タンタル粒子のXRDチャートを
図5に示す。このサンプルの回折ピーク角度は、六方晶系δ型酸化タンタル(δ-Ta
2O
3)の標準回折データ(JCPDSカード19-1299)の値と一致していた。同様の結果は、実施例3、実施例5及び実施例6の酸化タンタル粒子でも得られた。
【0066】
実施例1~6で得られた酸化タンタル粒子の結晶子径を表2にまとめて示す。比較例1の酸化タンタル粒子はアモルファス(非晶質)であったため、結晶子径を算出できなかった。実施例1~6は、いずれも結晶子径が40nm以上と大きかった。特に製造時の反応温度が1025℃と高かった実施例1は、結晶子径が100nm超と非常に大きかった。このことから、実施例サンプルの酸化タンタル粒子は結晶性に優れることが分かった。
【0067】
<熱分析>
実施例1~6で得られた酸化タンタル粒子について、1200℃での質量減少率を表2にまとめて示す。また表2において、質量減少率が3.0質量%以下のサンプルを、未反応物が「無」と判断した。
【0068】
実施例サンプルは、いずれも質量減少率が3.0質量%以下と小さかった。特に実施例1は質量減少率が0.0質量%であった。原料である未分解タンタルエトキシドやその中間生成物が、合成された酸化タンタルに未反応炭素成分として残留し、これら残留物が質量減少として熱分析で検出されると考えられる。実施例サンプルは、原料由来の未反応炭素成分を殆ど含まないことが確認された。
【0069】