(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131785
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】磁気テープおよび磁気テープ収容体
(51)【国際特許分類】
G11B 5/70 20060101AFI20220831BHJP
G11B 5/78 20060101ALI20220831BHJP
G11B 5/738 20060101ALI20220831BHJP
G11B 5/735 20060101ALI20220831BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20220831BHJP
G11B 5/31 20060101ALI20220831BHJP
G11B 5/39 20060101ALI20220831BHJP
G11B 15/43 20060101ALI20220831BHJP
G11B 23/037 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
G11B5/70
G11B5/78
G11B5/738
G11B5/735
G11B5/84 C
G11B5/31 L
G11B5/39
G11B15/43
G11B23/037
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030917
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】笠田 成人
(72)【発明者】
【氏名】村田 悠人
【テーマコード(参考)】
5D006
5D033
5D034
5D112
【Fターム(参考)】
5D006CB01
5D006EA01
5D006FA05
5D033BB01
5D033BB31
5D033BB41
5D034BA02
5D112JJ04
5D112JJ07
(57)【要約】
【課題】磁気テープへのデータの記録および/または磁気テープに記録されたデータの再生における転送レートの向上を可能にすること。
【解決手段】非磁性支持体と強磁性粉末を含む磁性層とを有する磁気テープ。長手方向のテンション変化に対する幅方向の寸法変化量Δwが400ppm/N以上900ppm/N以下であり、かつ上記磁性層は複数のサーボバンドを有し、式A:CV=(σG/Δw)×100、により算出される変動係数CVが10%以下である。上記σGは、長手方向に0.6Nのテンションをかけて磁気テープの長手方向の100mにわたる領域において測定されるサーボバンド間隔の標準偏差である。上記磁気テープを含む磁気テープ収容体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気テープであって、
長手方向のテンション変化に対する幅方向の寸法変化量Δwが400ppm/N以上900ppm/N以下であり、かつ
前記磁性層は複数のサーボバンドを有し、
下記式A:
CV=(σG/Δw)×100
により算出される変動係数CVが10%以下であり、
前記σGは、長手方向に0.6Nのテンションをかけて磁気テープの長手方向の100mにわたる領域において測定されるサーボバンド間隔の標準偏差である、磁気テープ。
【請求項2】
前記変動係数CVは、1%以上10%以下である、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項3】
テープ厚みが5.3μm以下である、請求項1または2に記載の磁気テープ。
【請求項4】
前記非磁性支持体と前記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を更に有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項5】
前記非磁性支持体の前記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を更に有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項6】
前記磁気テープの垂直方向角型比は0.60以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の磁気テープが巻回された巻芯を含む磁気テープ収容体。
【請求項8】
磁気テープカートリッジである、請求項7に記載の磁気テープ収容体。
【請求項9】
磁気記録再生装置であり、磁気ヘッドを更に含む、請求項7に記載の磁気テープ収容体。
【請求項10】
前記磁気ヘッドは、再生素子幅が0.8μm以下である再生素子を含む、請求項9に記載の磁気テープ収容体。
【請求項11】
磁気記録再生装置内を走行する磁気テープの長手方向にかかるテンションを調整可能なテンション調整機構を有する、請求項9または10に記載の磁気テープ収容体。
【請求項12】
前記巻回された磁気テープを前記巻芯から引き出す際に前記磁気テープが描く1回転分の軌跡の真円度が、前記磁気テープの幅方向の3箇所における測定値の算術平均として、100μm以下である、請求項7~11のいずれか1項に記載の磁気テープ収容体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気テープおよび磁気テープ収容体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体にはテープ状のものとディスク状のものがあり、データストレージ用途には、テープ状の磁気記録媒体、即ち磁気テープが主に用いられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気テープへのデータの記録および記録されたデータの再生は、通常、2つのリールの間で、一方のリールに巻回された磁気テープを引き出して他方のリールに巻取ることを繰り返すことによって磁気テープを磁気記録再生装置(一般にドライブと呼ばれる)内で走行させながら行われる。こうして走行する磁気テープに対して、ドライブ内で磁気ヘッドによってデータの記録および記録されたデータの再生が行われる。
【0005】
磁気テープは、一般に他の記録媒体と比べて、記録されるデータ容量あたりの価格が安価であること、データ保存時の消費電力が少ないこと等の理由でコストパフォーマンスに優れると言われている。記録されるデータ容量が多くなるほど、そのコストメリットは高くなる。そのため近年、磁気テープは大容量データストレージメディアとして注目を集めている。データ転送レート(書き込み速度および/または読み出し速度)が一定ならば、記録されるデータ容量が多くなるほど、データの記録および記録されたデータの再生に要する時間は長くなってしまう。そのため、磁気テープに記録されるデータの大容量化を更に進めるためには、磁気テープのデータ転送レート(書き込み速度および/または読み出し速度)を高めることが望ましい。
【0006】
本発明の一態様は、磁気テープへのデータの記録および/または磁気テープに記録されたデータの再生における転送レートの向上を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気テープであって、
長手方向のテンション変化に対する幅方向の寸法変化量Δwが400ppm/N以上900ppm/N以下であり、かつ
上記磁性層は複数のサーボバンドを有し、
下記式A:
CV=(σG/Δw)×100
により算出される変動係数CVが10%以下であり、
上記σGは、長手方向に0.6Nのテンションをかけて磁気テープの長手方向の100mにわたる領域において測定されるサーボバンド間隔の標準偏差である、磁気テープ、
に関する。なお、「ppm」は、parts per millionの略称であり、「CV」は、Coefficient of Variationの略称である。
【0008】
一形態では、上記変動係数CVは、1%以上10%以下であることができる。
【0009】
一形態では、上記磁気テープのテープ厚みは、5.3μm以下であることができる。
【0010】
一形態では、上記磁気テープは、上記非磁性支持体と上記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を更に有することができる。
【0011】
一形態では、上記磁気テープは、上記非磁性支持体の上記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を更に有することができる。
【0012】
一形態では、上記磁気テープの垂直方向角型比は、0.60以上であることができる。
【0013】
本発明の一態様は、上記磁気テープが巻回された巻芯を含む磁気テープ収容体に関する。
【0014】
一形態では、上記磁気テープ収容体は、磁気テープカートリッジであることができる。
【0015】
一形態では、上記磁気テープ収容体は、磁気記録再生装置であることができ、磁気ヘッドを更に含むことができる。
【0016】
一形態では、上記磁気ヘッドは、再生素子幅が0.8μm以下である再生素子を含むことができる。
【0017】
一形態では、上記磁気記録再生装置は、磁気記録再生装置内を走行する磁気テープの長手方向にかかるテンションを調整可能なテンション調整機構を有することができる。
【0018】
一形態では、上記巻回された磁気テープを上記巻芯から引き出す際に上記磁気テープが描く1回転分の軌跡の真円度は、上記磁気テープの幅方向の3箇所における測定値の算術平均として、100μm以下であることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、磁気テープへのデータの記録および/または磁気テープに記録されたデータの再生における転送レートの向上を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】磁気テープカートリッジの一例の斜視図である。
【
図2】リールに磁気テープを巻回し始めるときの斜視図である。
【
図3】リールに磁気テープを巻回し終えたときの斜視図である。
【
図4】磁気テープカートリッジが挿入された状態の磁気記録再生装置の一例の概略図を示す。
【
図6】ケースに開口部を形成した磁気テープカートリッジを
図4に示す磁気記録再生装置に装着させた状態の概略図を示す。
【
図7】データバンドおよびサーボバンドの配置例を示す。
【
図8】LTO(Linear Tape-Open) Ultriumフォーマットテープのサーボパターン配置例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一態様は、非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気テープに関する。上記磁気テープの長手方向のテンション変化に対する幅方向の寸法変化量Δwは、400ppm/N以上900ppm/N以下である。上記磁性層は複数のサーボバンドを有し、式A:CV=(σG/Δw)×100、により算出される変動係数CVは10%以下である。上記σGは、長手方向に0.6Nのテンションをかけて磁気テープの長手方向の100mにわたる領域において測定されるサーボバンド間隔の標準偏差である。
【0022】
また、本発明の一態様は、上記磁気テープが巻回された巻芯を含む磁気テープ収容体に関する。
磁気記録媒体として磁気テープを用いる磁気記録再生装置では、通常、磁気ヘッドは磁気記録再生装置に内蔵されるのに対し、磁気テープは取り外し可能な媒体(いわゆる可換媒体)として扱われる。例えば、磁気テープを収容した磁気テープカートリッジが磁気記録再生装置に挿入され、磁気テープカートリッジのリールと磁気記録再生装置に内蔵されている巻取りリールとの間で磁気テープを走行させて磁気テープへのデータの記録および/または磁気テープに記録されたデータの再生が行われる。その後、磁気テープは磁気テープカートリッジに収容されて、磁気テープカートリッジごと磁気記録再生装置から取り出される。かかる形態においては、磁気テープカートリッジが上記磁気テープ収容体であることができ、上記巻芯は磁気テープカートリッジに備えられたリールであることができる。
他の一形態では、磁気テープは可換媒体として扱われず、磁気ヘッドを備えた磁気記録再生装置内に磁気テープが収容される。かかる形態においては、磁気記録再生装置が上記磁気テープ収容体であることができ、上記巻芯は磁気記録再生装置内に備えられたリールであることができる。
磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置の構成については、更に後述する。
【0023】
本発明および本明細書において、「Δw」は、特許第6590102号明細書(特許文献1)の段落0093~0097に記載の方法によって求められる値である。
【0024】
本発明および本明細書における「σG」は、以下の方法によって求められる値である。
測定は、雰囲気温度が25℃であって相対湿度が50%の環境において行う。
測定対象の磁気テープが収容されている磁気テープ収容体を、測定環境に馴染ませるために同環境に5日間以上置く。その後、この測定環境において、磁気テープの長手方向にテンションをかけるテンション調整機構を有する磁気記録再生装置において、磁気テープの長手方向に0.6Nのテンション(磁気記録再生装置において設定されるテンションの設定値)をかけた状態で磁気テープを走行させる。磁気テープ収容体が磁気記録再生装置ならば、この装置内で磁気テープを走行させる。磁気テープ収容体が磁気テープカートリッジならば、この磁気テープカートリッジを磁気記録再生装置に装着させて磁気テープを走行させる。上記テンションをかけた状態で磁気テープを走行させ、データバンドを挟んで隣り合う2本のサーボバンドの間隔を1 LPOSワード毎に求め、磁気テープの任意の位置でテープ長100mの長手方向にわたる全範囲かつサーボバンド間隔が複数存在する場合には全サーボバンド間隔について求められた全LPOSワードについて1m置きにサーボバンド間隔を求める。隣り合う2本のサーボバンドに挟まれた領域をデータバンドと呼ぶ。サーボバンドの間隔の数は、データバンドの本数と同じである。例えば、データバンドの合計本数が4の場合、サーボバンドの間隔の数も4である。サーボバンド間隔の数を「n」とすると、上記のように長手方向の100mにわたる領域で1m置きにサーボバンド間隔を求めると、「100×n」個の測定値が求められる。こうして求められた「100×n」個のサーボバンド間隔の測定値を用いて算出される標準偏差σ(即ち分散の正の平方根)を、「σG」とする。データバンドを挟んで隣り合う2本のサーボバンドの間隔は、例えば、サーボ信号読み取り素子によってサーボパターンを読み取って得られるサーボ信号から求められるPES(Position Error Signal)を用いて求めることができる。詳細については、後述の実施例の記載を参照できる。なお、上記測定においては、磁気記録再生装置において走行する磁気テープの長手方向にかかり得るテンションの例示として0.6Nのテンションを採用する。ただし、これは例示に過ぎず、上記磁気テープの走行中に長手方向にかかり得るテンションは限定されない。
【0025】
上記方法によって求められるΔwとσGにより、下記式Aから変動係数CVが算出される。
式A:CV=(σG/Δw)×100
【0026】
先に記載したように、磁気テープへのデータの記録および記録されたデータの再生は、通常、2つのリールの間で、一方のリールに巻回された磁気テープを引き出して他方のリールに巻取ることを繰り返すことによって磁気テープを磁気記録再生装置内で走行させながら行われる。詳しくは、磁気テープへのデータの記録は、通常、磁気記録再生装置内で磁気テープを走行させ、磁気ヘッドを磁気テープのデータバンドに追従させてデータバンド上にデータを記録することにより行われる。これにより、データバンドにデータトラックが形成される。また、記録されたデータの再生時には、磁気記録再生装置内で磁気テープを走行させ、磁気ヘッドを磁気テープのデータバンドに追従させてデータバンド上に記録されたデータの読み取りを行う。このような記録および/または再生において磁気ヘッドが磁気テープのデータバンドに追従する精度を高めるために、サーボ信号を利用してヘッドトラッキングを行うシステム(以下、「サーボシステム」と記載する)が実用化されている。更に、サーボ信号を利用して走行中の磁気テープの幅方向の寸法情報を取得し、取得された寸法情報に応じて磁気テープの長手方向にかかるテンションを調整することによって、磁気テープの幅方向の寸法を制御することも行われている(一例として、特許文献1(特許第6590102号明細書)の段落0171等参照)。上記のテンション調整は、記録または再生時、磁気テープの幅変形によってデータを記録または再生するための磁気ヘッドが狙いのトラック位置からずれてしまい、記録済データの上書き、再生不良等の現象が発生してしまうことを抑制することに寄与し得ると考えられる。
磁気テープの幅方向における位置ズレに関しては、本発明者は、磁気テープへのデータの記録および/または磁気テープに記録されたデータの再生における転送レート(以下、単に「転送レート」と記載する)を向上すべく検討を重ねる中で、先に記載した現象の発生を上記のテンション調整によって抑制することは転送レート向上につながると考えた。更に本発明者は、巻回された磁気テープを引き出す際に、上記のテンション調整が行われる周期よりも短い周期で磁気テープの幅方向において位置ズレが生じることが、転送レートを低下させる原因になり得ると推察した。詳しくは、本発明者は、そのような短い周期での磁気テープの幅方向における位置ズレが、磁気記録再生装置が磁気テープの走行を一旦停止させ、磁気テープを逆行させて再度データの書き込みまたは読み出しを行う「スタート・ストップ(start/stop)」または「リポジショニング(repositioning)」を行う頻度を高める原因になり得ると推察した。「スタート・ストップ(start/stop)」および/または「リポジショニング(repositioning)」が高頻度に行われるほど、データの書き込みおよび/またはデータの読み出しに要する時間が長くなるため、転送レートは低下してしまう。そして本発明者は更に鋭意検討を重ねた結果、上記の短い周期での幅方向における位置ズレの発生を抑制するためには、Δwおよび変動係数CVをいずれも制御すべきと考えるに至った。そして本発明者は、Δwおよび変動係数CVをそれぞれ先に記載した範囲に制御することによって、磁気テープへのデータの記録および/または記録されたデータの再生において転送レート向上が可能になることを新たに見出した。なお、先に記載した特許文献1(特許第6590102号明細書)には、Δwに関する記載はあるものの、上記のように求められる変動係数CVを制御すべきことは何ら示唆されていない。これに対し、本発明者は、上記変動係数CVの値が小さいことは、磁気テープが長手方向にテンションをかけられて走行する際に生じる幅方向の寸法変化のばらつきが抑制されていることを意味し、この値を10%以下とすることが上記の短い周期での幅方向における位置ズレの発生を抑制することに寄与すると推察している。ただし、上記の推察を含む本明細書に記載の推察に、本発明は限定されない。
【0027】
以下、上記磁気テープおよび上記磁気テープ収容体について、更に詳細に説明する。
【0028】
[磁気テープ]
<Δw>
上記磁気テープのΔwは、400ppm/N以上900ppm/N以下である。Δwの値が大きい磁気テープは、長手方向のテンション変化に対する幅方向の寸法変化が大きい。この点は、記録または再生時、磁気テープの幅変形によってデータを記録または再生するための磁気ヘッドが狙いのトラック位置からずれてしまって記録済データの上書き、再生不良等の現象が発生してしまうことを、テンション調整を行うことによって抑制することを容易にする観点から好ましい。かかる観点から、上記磁気テープのΔwは、450ppm/N以上であることが好ましく、500ppm/N以上であることがより好ましく、550ppm/N以上であることが更に好ましく、600ppm/N以上であることが一層好ましい。また、テンション調整を行うことによって磁気テープの幅方向において大きな変形が生じることはエラーの発生原因となり得る。そのようなエラー発生を抑制できることが、転送レートを向上させる観点からは好ましい。かかる観点から、上記磁気テープのΔwは900ppm/N以下であり、850ppm/N以下であることが好ましく、800ppm/N以下であることがより好ましく、750ppm/N以下であることが更に好ましく、700ppm/N以下であることが一層好ましい。Δwの制御方法については後述する。
【0029】
<変動係数CV>
上記磁気テープの先に記載した式Aによって算出される変動係数CVは、転送レート向上の観点から10%以下であり、9%以下であることが好ましく、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下の順により好ましい。上記変動係数CVは、例えば0%、0%以上、0%超または1%以上であることができる。転送レート向上の観点からは、上記変動係数CVの値は小さいほど好ましい。上記変動係数CVの制御方法については後述する。
【0030】
<非磁性支持体>
上記磁気テープは、非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を含む。非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する)としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレートが好ましい。
【0031】
上記磁気テープの非磁性支持体は、一形態では、芳香族ポリエステル支持体であることができる。本発明および本明細書において、「芳香族ポリエステル」とは、芳香族骨格および複数のエステル結合を含む樹脂を意味し、「芳香族ポリエステル支持体」とは、少なくとも1層の芳香族ポリエステルフィルムを含む支持体を意味する。「芳香族ポリエステルフィルム」とは、このフィルムを構成する成分の中で質量基準で最も多くを占める成分が芳香族ポリエステルであるフィルムをいうものとする。本発明および本明細書における「芳香族ポリエステル支持体」には、この支持体に含まれる樹脂フィルムがすべて芳香族ポリエステルフィルムであるものと、芳香族ポリエステルフィルムと他の樹脂フィルムとを含むものとが包含される。芳香族ポリエステル支持体の具体的形態としては、単層の芳香族ポリエステルフィルム、構成成分が同じ2層以上の芳香族ポリエステルフィルムの積層フィルム、構成成分が異なる2層以上の芳香族ポリエステルフィルムの積層フィルム、1層以上の芳香族ポリエステルフィルムおよび1層以上の芳香族ポリエステル以外の樹脂フィルムを含む積層フィルム等を挙げることができる。積層フィルムにおいて隣り合う2層の間に接着層等が任意に含まれていてもよい。また、芳香族ポリエステル支持体には、一方または両方の表面に蒸着等によって形成された金属膜および/または金属酸化物膜が任意に含まれていてもよい。以上については、本発明および本明細書における「ポリエチレンテレフタレート支持体」および「ポリエチレンナフタレート支持体」についても同様である。
【0032】
芳香族ポリエステルが有する芳香族骨格に含まれる芳香環は特に限定されるものではない。芳香環の具体例としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環等を挙げることができる。
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)は、ベンゼン環を含むポリエステルであって、エチレングリコールとテレフタル酸および/またはテレフタル酸ジメチルとの重縮合によって得られる樹脂である。本発明および本明細書における「ポリエチレンテレフタレート」には、上記成分に加えて1種以上の他の成分(例えば、共重合成分、末端または側鎖に導入される成分等)を有する構造のものも包含される。
ポリエチレンナフタレート(PEN)は、ナフタレン環を含むポリエステルであって、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチルとエチレングリコールとのエステル化反応を行い、その後にエステル交換反応および重縮合反応を行って得られる樹脂である。本発明および本明細書における「ポリエチレンナフタレート」には、上記成分に加えて1種以上の他の成分(例えば、共重合成分、末端または側鎖に導入される成分等)を有する構造のものも包含される。
【0033】
また、非磁性支持体は、二軸延伸フィルムであることができ、コロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理等が施されたフィルムであってもよい。
【0034】
非磁性支持体の物性の指標としては、例えば、ヤング率が挙げられる。本発明および本明細書において、非磁性支持体のヤング率は、温度23℃相対湿度50%の測定環境において、以下の方法によって測定される値である。後述の表に示されているヤング率は、万能引張試験装置として東洋ボールドウィン社製テンシロンを使用して以下の方法によって求めた値である。
測定対象の非磁性支持体から切り出した試料片を、チャック間距離100mm、引張速度10mm/分およびチャート速度500mm/分の条件で、万能引張試験装置にて引っ張る。万能引張試験装置としては、例えば、東洋ボールドウィン社製テンシロン等の市販の万能引張試験装置または公知の構成の万能引張試験装置を使用することができる。こうして得られた荷重-伸び曲線の立ち上がり部の接線より、上記試料片の長手方向および幅方向のヤング率をそれぞれ算出する。ここで試料片の長手方向および幅方向とは、この試料片が磁気テープに含まれていたときの長手方向および幅方向を意味する。
例えば、磁気テープから磁性層等の非磁性支持体以外の部分を公知の方法(例えば有機溶媒を使用した脱膜等)によって除去した後、上記方法によって非磁性支持体の長手方向および幅方向のヤング率を求めることもできる。
【0035】
一形態では、上記磁気テープの非磁性支持体は、長手方向のヤング率および幅方向のヤング率が、それぞれ2500MPa以上であることが好ましく、3000MPa以上であることがより好ましい。また、上記磁気テープの非磁性支持体の長手方向のヤング率および幅方向のヤング率は、それぞれ10000MPa以下、9000MPa以下または8000MPa以下であることができる。非磁性支持体の長手方向のヤング率が大きいとΔwが小さくなる傾向がある。また、非磁性支持体の幅方向のヤング率が大きいとΔwが小さくなる傾向がある。磁気テープの製造時、非磁性支持体は、通常、フィルムのMD方向(Machine direction)を長手方向、TD方向(Transverse diretion)を幅方向として使用される。非磁性支持体の長手方向のヤング率と幅方向のヤング率は、一形態では同じ値であることができ、他の一形態では異なる値であることができる。一形態では非磁性支持体の長手方向のヤング率は幅方向のヤング率より大きな値であることができ、他の一形態では非磁性支持体の長手方向のヤング率は幅方向のヤング率より小さな値であることができる。非磁性支持体のヤング率は、支持体を構成する成分の種類および混合比、支持体の製造条件等によって制御することができる。例えば、二軸延伸処理において各方向での延伸倍率を調整することによって、長手方向におけるヤング率と幅方向におけるヤング率をそれぞれ制御することができる。
【0036】
<磁性層>
(強磁性粉末)
磁性層に含まれる強磁性粉末としては、各種磁気記録媒体の磁性層において用いられる強磁性粉末として公知の強磁性粉末を1種または2種以上組み合わせて使用することができる。強磁性粉末として平均粒子サイズの小さいものを使用することは記録密度向上の観点から好ましい。この点から、強磁性粉末の平均粒子サイズは50nm以下であることが好ましく、45nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることが更に好ましく、35nm以下であることが一層好ましく、30nm以下であることがより一層好ましく、25nm以下であることが更に一層好ましく、20nm以下であることがなお一層好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、強磁性粉末の平均粒子サイズは5nm以上であることが好ましく、8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることが更に好ましく、15nm以上であることが一層好ましく、20nm以上であることがより一層好ましい。
【0037】
六方晶フェライト粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、六方晶フェライト粉末を挙げることができる。六方晶フェライト粉末の詳細については、例えば、特開2011-225417号公報の段落0012~0030、特開2011-216149号公報の段落0134~0136、特開2012-204726号公報の段落0013~0030および特開2015-127985号公報の段落0029~0084を参照できる。
【0038】
本発明および本明細書において、「六方晶フェライト粉末」とは、X線回折分析によって、主相として六方晶フェライト型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。主相とは、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが帰属する構造をいう。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが六方晶フェライト型の結晶構造に帰属される場合、六方晶フェライト型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。X線回折分析によって単一の構造のみが検出された場合には、この検出された構造を主相とする。六方晶フェライト型の結晶構造は、構成原子として、少なくとも鉄原子、二価金属原子および酸素原子を含む。二価金属原子とは、イオンとして二価のカチオンになり得る金属原子であり、ストロンチウム原子、バリウム原子、カルシウム原子等のアルカリ土類金属原子、鉛原子等を挙げることができる。本発明および本明細書において、六方晶ストロンチウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がストロンチウム原子であるものをいい、六方晶バリウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がバリウム原子であるものをいう。主な二価金属原子とは、この粉末に含まれる二価金属原子の中で、原子%基準で最も多くを占める二価金属原子をいうものとする。ただし、上記の二価金属原子には、希土類原子は包含されないものとする。本発明および本明細書における「希土類原子」は、スカンジウム原子(Sc)、イットリウム原子(Y)、およびランタノイド原子からなる群から選択される。ランタノイド原子は、ランタン原子(La)、セリウム原子(Ce)、プラセオジム原子(Pr)、ネオジム原子(Nd)、プロメチウム原子(Pm)、サマリウム原子(Sm)、ユウロピウム原子(Eu)、ガドリニウム原子(Gd)、テルビウム原子(Tb)、ジスプロシウム原子(Dy)、ホルミウム原子(Ho)、エルビウム原子(Er)、ツリウム原子(Tm)、イッテルビウム原子(Yb)、およびルテチウム原子(Lu)からなる群から選択される。
【0039】
以下に、六方晶フェライト粉末の一形態である六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、更に詳細に説明する。
【0040】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800~1600nm3の範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化された六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気テープの作製のために好適である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800nm3以上であり、例えば850nm3以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、1500nm3以下であることがより好ましく、1400nm3以下であることが更に好ましく、1300nm3以下であることが一層好ましく、1200nm3以下であることがより一層好ましく、1100nm3以下であることが更により一層好ましい。六方晶バリウムフェライト粉末の活性化体積についても、同様である。
【0041】
「活性化体積」とは、磁化反転の単位であって、粒子の磁気的な大きさを示す指標である。本発明および本明細書に記載の活性化体積および後述の異方性定数Kuは、振動試料型磁力計を用いて保磁力Hc測定部の磁場スイープ速度3分と30分とで測定し(測定温度:23℃±1℃)、以下のHcと活性化体積Vとの関係式から求められる値である。なお異方性定数Kuの単位に関して、1erg/cc=1.0×10-1J/m3である。
Hc=2Ku/Ms{1-[(kT/KuV)ln(At/0.693)]1/2}
[上記式中、Ku:異方性定数(単位:J/m3)、Ms:飽和磁化(単位:kA/m)、k:ボルツマン定数、T:絶対温度(単位:K)、V:活性化体積(単位:cm3)、A:スピン歳差周波数(単位:s-1)、t:磁界反転時間(単位:s)]
【0042】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、好ましくは1.8×105J/m3以上のKuを有することができ、より好ましくは2.0×105J/m3以上のKuを有することができる。また、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のKuは、例えば2.5×105J/m3以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0043】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含んでいてもよく、含まなくてもよい。六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、鉄原子100原子%に対して、0.5~5.0原子%の含有率(バルク含有率)で希土類原子を含むことが好ましい。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一形態では、希土類原子表層部偏在性を有することができる。本発明および本明細書における「希土類原子表層部偏在性」とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により部分溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子表層部含有率」または希土類原子に関して単に「表層部含有率」と記載する)が、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により全溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子バルク含有率」または希土類原子に関して単に「バルク含有率」と記載する)と、
希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0
の比率を満たすことを意味する。後述の六方晶ストロンチウムフェライト粉末の希土類原子含有率とは、希土類原子バルク含有率と同義である。これに対し、酸を用いる部分溶解は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部を溶解するため、部分溶解により得られる溶解液中の希土類原子含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部における希土類原子含有率である。希土類原子表層部含有率が、「希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0」の比率を満たすことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。本発明および本明細書における表層部とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面から内部に向かう一部領域を意味する。
【0044】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、希土類原子含有率(バルク含有率)は、鉄原子100原子%に対して0.5~5.0原子%の範囲であることが好ましい。上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることは、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することに寄与すると考えられる。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末が上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることにより、異方性定数Kuを高めることができるためと推察される。異方性定数Kuは、この値が高いほど、いわゆる熱揺らぎと呼ばれる現象の発生を抑制すること(換言すれば熱的安定性を向上させること)ができる。熱揺らぎの発生が抑制されることにより、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の粒子表層部に希土類原子が偏在することが、表層部の結晶格子内の鉄(Fe)のサイトのスピンを安定化することに寄与し、これにより異方性定数Kuが高まるのではないかと推察される。
また、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末を磁性層の強磁性粉末として用いることは、磁気ヘッドとの摺動によって磁性層表面が削れることを抑制することにも寄与すると推察される。即ち、磁気テープの走行耐久性の向上にも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末が寄与し得ると推察される。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面に希土類原子が偏在することが、粒子表面と磁性層に含まれる有機物質(例えば、結合剤および/または添加剤)との相互作用の向上に寄与し、その結果、磁性層の強度が向上するためではないかと推察される。
繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点および/または走行耐久性の更なる向上の観点からは、希土類原子含有率(バルク含有率)は、0.5~4.5原子%の範囲であることがより好ましく、1.0~4.5原子%の範囲であることが更に好ましく、1.5~4.5原子%の範囲であることが一層好ましい。
【0045】
上記バルク含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる含有率である。なお本発明および本明細書において、特記しない限り、原子について含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められるバルク含有率をいうものとする。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子として1種の希土類原子のみ含んでもよく、2種以上の希土類原子を含んでもよい。2種以上の希土類原子を含む場合の上記バルク含有率は、2種以上の希土類原子の合計について求められる。この点は、本発明および本明細書における他の成分についても同様である。即ち、特記しない限り、ある成分は、1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。2種以上用いられる場合の含有量または含有率とは、2種以上の合計についていうものとする。
【0046】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、含まれる希土類原子は、希土類原子のいずれか1種以上であればよい。繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点から好ましい希土類原子としては、ネオジム原子、サマリウム原子、イットリウム原子およびジスプロシウム原子を挙げることができ、ネオジム原子、サマリウム原子およびイットリウム原子がより好ましく、ネオジム原子が更に好ましい。
【0047】
希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、偏在の程度は限定されるものではない。例えば、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は1.0超であり、1.5以上であることができる。「表層部含有率/バルク含有率」が1.0より大きいことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。また、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は、例えば、10.0以下、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下、5.0以下、または4.0以下であることができる。ただし、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、上記の「表層部含有率/バルク含有率」は、例示した上限または下限に限定されるものではない。
【0048】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の部分溶解および全溶解について、以下に説明する。粉末として存在している六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、部分溶解および全溶解する試料粉末は、同一ロットの粉末から採取する。一方、磁気テープの磁性層に含まれている六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、磁性層から取り出した六方晶ストロンチウムフェライト粉末の一部を部分溶解に付し、他の一部を全溶解に付す。磁性層からの六方晶ストロンチウムフェライト粉末の取り出しは、例えば、特開2015-91747号公報の段落0032に記載の方法によって行うことができる。
上記部分溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認できる程度に溶解することをいう。例えば、部分溶解により、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子について、粒子全体を100質量%として10~20質量%の領域を溶解することができる。一方、上記全溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認されない状態まで溶解することをいう。
上記部分溶解および表層部含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。ただし、下記の試料粉末量等の溶解条件は例示であって、部分溶解および全溶解が可能な溶解条件を任意に採用できる。
試料粉末12mgおよび1mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度70℃のホットプレート上で1時間保持する。得られた溶解液を0.1μmのメンブレンフィルタでろ過する。こうして得られたろ液の元素分析を誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)分析装置によって行う。こうして、鉄原子100原子%に対する希土類原子の表層部含有率を求めることができる。元素分析により複数種の希土類原子が検出された場合には、全希土類原子の合計含有率を、表層部含有率とする。この点は、バルク含有率の測定においても、同様である。
一方、上記全溶解およびバルク含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。
試料粉末12mgおよび4mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持する。その後は上記の部分溶解および表層部含有率の測定と同様に行い、鉄原子100原子%に対するバルク含有率を求めることができる。
【0049】
磁気テープに記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気テープに含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、希土類原子を含むものの希土類原子表層部偏在性を持たない六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含まない六方晶ストロンチウムフェライト粉末と比べてσsが大きく低下する傾向が見られた。これに対し、そのようなσsの大きな低下を抑制するうえでも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末は好ましいと考えられる。一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のσsは、45A・m2/kg以上であることができ、47A・m2/kg以上であることもできる。一方、σsは、ノイズ低減の観点からは、80A・m2/kg以下であることが好ましく、60A・m2/kg以下であることがより好ましい。σsは、振動試料型磁力計等の磁気特性を測定可能な公知の測定装置を用いて測定することができる。本発明および本明細書において、特記しない限り、質量磁化σsは、磁場強度15kOeで測定される値とする。1[kOe]=106/4π[A/m]である。
【0050】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の構成原子の含有率(バルク含有率)に関して、ストロンチウム原子含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば2.0~15.0原子%の範囲であることができる。一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、この粉末に含まれる二価金属原子がストロンチウム原子のみであることができる。また他の一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、ストロンチウム原子に加えて1種以上の他の二価金属原子を含むこともできる。例えば、バリウム原子および/またはカルシウム原子を含むことができる。ストロンチウム原子以外の他の二価金属原子が含まれる場合、六方晶ストロンチウムフェライト粉末におけるバリウム原子含有率およびカルシウム原子含有率は、それぞれ、例えば、鉄原子100原子%に対して、0.05~5.0原子%の範囲であることができる。
【0051】
六方晶フェライトの結晶構造としては、マグネトプランバイト型(「M型」とも呼ばれる)、W型、Y型およびZ型が知られている。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、いずれの結晶構造を取るものであってもよい。結晶構造は、X線回折分析によって確認することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によって、単一の結晶構造または2種以上の結晶構造が検出されるものであることができる。例えば一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によってM型の結晶構造のみが検出されるものであることができる。例えば、M型の六方晶フェライトは、AFe12O19の組成式で表される。ここでAは二価金属原子を表し、六方晶ストロンチウムフェライト粉末がM型である場合、Aはストロンチウム原子(Sr)のみであるか、またはAとして複数の二価金属原子が含まれる場合には、上記の通り原子%基準で最も多くをストロンチウム原子(Sr)が占める。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の二価金属原子含有率は、通常、六方晶フェライトの結晶構造の種類により定まるものであり、特に限定されるものではない。鉄原子含有率および酸素原子含有率についても、同様である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、少なくとも、鉄原子、ストロンチウム原子および酸素原子を含み、更に希土類原子を含むこともできる。更に、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、これら原子以外の原子を含んでもよく、含まなくてもよい。一例として、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、アルミニウム原子(Al)を含むものであってもよい。アルミニウム原子の含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば0.5~10.0原子%であることができる。繰り返し再生における再生出力低下をより一層抑制する観点からは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子を含み、これら原子以外の原子の含有率が、鉄原子100原子%に対して、10.0原子%以下であることが好ましく、0~5.0原子%の範囲であることがより好ましく、0原子%であってもよい。即ち、一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子以外の原子を含まなくてもよい。上記の原子%で表示される含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる各原子の含有率(単位:質量%)を、各原子の原子量を用いて原子%表示の値に換算して求められる。また、本発明および本明細書において、ある原子について「含まない」とは、全溶解してICP分析装置により測定される含有率が0質量%であることをいう。ICP分析装置の検出限界は、通常、質量基準で0.01ppm(parts per million)以下である。上記の「含まない」とは、ICP分析装置の検出限界未満の量で含まれることを包含する意味で用いるものとする。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一形態では、ビスマス原子(Bi)を含まないものであることができる。
【0052】
金属粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、強磁性金属粉末を挙げることもできる。強磁性金属粉末の詳細については、例えば特開2011-216149号公報の段落0137~0141および特開2005-251351号公報の段落0009~0023を参照できる。
【0053】
ε-酸化鉄粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、ε-酸化鉄粉末を挙げることもできる。本発明および本明細書において、「ε-酸化鉄粉末」とは、X線回折分析によって、主相としてε-酸化鉄の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークがε-酸化鉄の結晶構造に帰属される場合、ε-酸化鉄の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。ε-酸化鉄粉末の製造方法としては、ゲーサイトから作製する方法、逆ミセル法等が知られている。上記製造方法は、いずれも公知である。また、Feの一部がGa、Co、Ti、Al、Rh等の置換原子によって置換されたε-酸化鉄粉末を製造する方法については、例えば、J. Jpn. Soc. Powder Metallurgy Vol. 61 Supplement, No. S1, pp. S280-S284、J. Mater. Chem. C, 2013, 1, pp.5200-5206等を参照できる。ただし、上記磁気テープの磁性層において強磁性粉末として使用可能なε-酸化鉄粉末の製造方法は、ここで挙げた方法に限定されない。
【0054】
ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300~1500nm3の範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化されたε-酸化鉄粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気テープの作製のために好適である。ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300nm3以上であり、例えば500nm3以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、1400nm3以下であることがより好ましく、1300nm3以下であることが更に好ましく、1200nm3以下であることが一層好ましく、1100nm3以下であることがより一層好ましい。
【0055】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。ε-酸化鉄粉末は、好ましくは3.0×104J/m3以上のKuを有することができ、より好ましくは8.0×104J/m3以上のKuを有することができる。また、ε-酸化鉄粉末のKuは、例えば3.0×105J/m3以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し、好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0056】
磁気テープに記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気テープに含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、一形態では、ε-酸化鉄粉末のσsは、8A・m2/kg以上であることができ、12A・m2/kg以上であることもできる。一方、ε-酸化鉄粉末のσsは、ノイズ低減の観点からは、40A・m2/kg以下であることが好ましく、35A・m2/kg以下であることがより好ましい。
【0057】
本発明および本明細書において、特記しない限り、強磁性粉末等の各種粉末の平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡を用いて、以下の方法により測定される値とする。
粉末を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントするかディスプレイに表示する等して粉末を構成する粒子の写真を得る。得られた粒子の写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行う。こうして得られた500個の粒子の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H-9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて行うことができる。後述の実施例に示す平均粒子サイズは、特記しない限り、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H-9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて測定された値である。本発明および本明細書において、粉末とは、複数の粒子の集合を意味する。例えば、強磁性粉末とは、複数の強磁性粒子の集合を意味する。また、複数の粒子の集合とは、集合を構成する粒子が直接接触している形態に限定されず、後述する結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している形態も包含される。粒子との語が、粉末を表すために用いられることもある。
【0058】
粒子サイズ測定のために磁気テープから試料粉末を採取する方法としては、例えば特開2011-048878号公報の段落0015に記載の方法を採用することができる。
【0059】
本発明および本明細書において、特記しない限り、粉末を構成する粒子のサイズ(粒子サイズ)は、上記の粒子写真において観察される粒子の形状が、
(1)針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、
(2)板状または柱状(ただし、厚みまたは高さが板面または底面の最大長径より小さい)の場合は、その板面または底面の最大長径で表され、
(3)球形、多面体状、不定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
【0060】
また、粉末の平均針状比は、上記測定において粒子の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粒子の(長軸長/短軸長)の値を求め、上記500個の粒子について得た値の算術平均を指す。ここで、特記しない限り、短軸長とは、上記粒子サイズの定義で(1)の場合は、粒子を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚みまたは高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、特記しない限り、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合、平均粒子サイズは平均板径である。同定義(3)の場合、平均粒子サイズは、平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
【0061】
磁性層における強磁性粉末の含有率(充填率)は、磁性層の全質量に対して、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。磁性層において強磁性粉末の充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
【0062】
(結合剤)
上記磁気テープは塗布型の磁気テープであることができ、磁性層に結合剤を含むことができる。結合剤とは、1種以上の樹脂である。結合剤としては、塗布型磁気記録媒体の結合剤として通常使用される各種樹脂を用いることができる。例えば、結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選ばれる樹脂を単独で用いるか、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、ホモポリマーでもよく、コポリマー(共重合体)でもよい。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。
以上の結合剤については、特開2010-24113号公報の段落0028~0031を参照できる。結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。結合剤は、強磁性粉末100.0質量部に対して、例えば1.0~30.0質量部の量で使用することができる。
【0063】
(硬化剤)
結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一形態では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一形態では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。硬化剤は、磁性層形成工程の中で硬化反応が進行することにより、少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。この点は、他の層を形成するために用いられる組成物が硬化剤を含む場合に、この組成物を用いて形成される層についても同様である。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011-216149号公報の段落0124~0125を参照できる。硬化剤は、磁性層形成用組成物中に、結合剤100.0質量部に対して例えば0~80.0質量部、磁性層の強度向上の観点からは好ましくは50.0~80.0質量部の量で使用することができる。
【0064】
(添加剤)
磁性層には、必要に応じて1種以上の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、一例として、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれる添加剤としては、非磁性粉末(例えば無機粉末、カーボンブラック等)、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を挙げることができる。例えば、潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030~0033、0035および0036を参照できる。後述する非磁性層に潤滑剤が含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030、0031、0034~0036を参照できる。分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061および0071を参照できる。分散剤を非磁性層形成用組成物に添加してもよい。非磁性層形成用組成物に添加し得る分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061を参照できる。また、磁性層に含まれ得る非磁性粉末としては、研磨剤として機能することができる非磁性粉末、磁性層表面に適度に突出する突起を形成する突起形成剤として機能することができる非磁性粉末(例えば非磁性コロイド粒子等)等が挙げられる。なお後述の実施例に示すコロイダルシリカ(シリカコロイド粒子)の平均粒子サイズは、特開2011-048878号公報の段落0015に平均粒径の測定方法として記載されている方法により求められた値である。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して、または公知の方法で製造して、任意の量で使用することができる。研磨剤を含む磁性層に研磨剤の分散性を向上するために使用され得る添加剤の一例としては、特開2013-131285号公報の段落0012~0022に記載の分散剤を挙げることができる。
【0065】
以上説明した磁性層は、非磁性支持体表面上に直接、または非磁性層を介して間接的に、設けることができる。
【0066】
<非磁性層>
次に非磁性層について説明する。上記磁気テープは、非磁性支持体表面上に直接磁性層を有していてもよく、非磁性支持体表面上に非磁性粉末を含む非磁性層を介して磁性層を有していてもよい。非磁性層に使用される非磁性粉末は、無機物質の粉末でも有機物質の粉末でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質の粉末としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2011-216149号公報の段落0146~0150を参照できる。非磁性層に使用可能なカーボンブラックについては、特開2010-24113号公報の段落0040および0041も参照できる。非磁性層における非磁性粉末の含有率(充填率)は、非磁性層の全質量に対して、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。
【0067】
上記変動係数CVに関して、本発明者は、磁気テープの厚み変動(位置による厚みの違い)を低減することは上記変動係数CVの値を小さくすることにつながると考えている。磁気テープの厚み変動を低減する手段の1つとしては、非磁性層における非磁性粉末の分散性を高めることが挙げられる。この点からは、非磁性層形成用組成物は、この組成物に含まれる非磁性粉末の分散性を高めることができる成分(分散剤)を含むことが好ましい。そのような分散剤の一例としては、下記式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物を使用することができる。なお、「アルキルエステルアニオン」は、「アルキルカルボキシラートアニオン」と呼ぶこともできる。
【0068】
【0069】
式1中、Rは炭素数7以上のアルキル基または炭素数7以上のフッ化アルキル基を表し、Z+はアンモニウムカチオンを表す。
【0070】
また、非磁性粉末の分散性向上の観点から、一形態では、上記塩構造を有する化合物を形成し得る2種以上の成分を、非磁性層形成用組成物の調製時に使用することができる。これにより、非磁性層形成用組成物の調製時、それら成分の少なくとも一部が、上記塩構造を有する化合物を形成し得る。
【0071】
特記しない限り、以下に記載されている基は置換基を有してもよく無置換であってもよい。また、置換基を有する基について「炭素数」とは、特記しない限り、置換基の炭素数を含まない炭素数を意味するものとする。本発明および本明細書において、置換基としては、例えば、アルキル基(例えば炭素数1~6のアルキル基)、ヒドロキシ基、アルコキシ基(例えば炭素数1~6のアルコキシ基)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、アシル基、カルボキシ基、カルボキシ基の塩、スルホン酸基、スルホン酸基の塩等を挙げることができる。
【0072】
以下、式1について更に詳細に説明する。
【0073】
式1中、Rは、炭素数7以上のアルキル基または炭素数7以上のフッ化アルキル基を表す。フッ化アルキル基は、アルキル基を構成する水素原子の一部または全部がフッ素原子により置換された構造を有する。Rで表されるアルキル基またはフッ化アルキル基は、直鎖構造であってもよく、分岐を有する構造であってもよく、環状のアルキル基またはフッ化アルキル基でもよく、直鎖構造であることが好ましい。Rで表されるアルキル基またはフッ化アルキル基は、置換基を有していてもよく、無置換であってもよく、無置換であることが好ましい。Rで表されるアルキル基は、例えばCnH2n+1-で表すことができる。ここでnは7以上の整数を表す。また、Rで表されるフッ化アルキル基は、例えばCnH2n+1-で表されるアルキル基を構成する水素原子の一部または全部がフッ素原子により置換された構造を有することができる。Rで表されるアルキル基またはフッ化アルキル基の炭素数は、7以上であり、8以上であることが好ましく、9以上であることがより好ましく、10以上であることが更に好ましく、11以上であることが一層好ましく、12以上であることがより一層好ましく、13以上であることが更に一層好ましい。また、Rで表されるアルキル基またはフッ化アルキル基の炭素数は、20以下であることが好ましく、19以下であることがより好ましく、18以下であることが更に好ましい。
【0074】
式1中、Z+はアンモニウムカチオンを表す。アンモニウムカチオンは、詳しくは、以下の構造を有する。本発明および本明細書において、化合物の一部を表す式中の「*」は、その一部の構造と隣接する原子との結合位置を表す。
【0075】
【0076】
アンモニウムカチオンの窒素カチオンN+と式1中の酸素アニオンO-とが塩架橋基を形成して式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造が形成され得る。式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物が非磁性層に含まれていることは、磁気テープについてX線光電子分光法(ESCA;Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)、赤外分光法(IR;infrared spectroscopy)等により分析を行うことによって確認できる。後述するバックコート層に式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物が含まれていることも同様の方法で確認できる。
【0077】
一形態では、Z+で表されるアンモニウムカチオンは、例えば、含窒素ポリマーの窒素原子がカチオンとなることによってもたらされ得る。含窒素ポリマーとは、窒素原子を含むポリマーを意味する。本発明および本明細書において、「ポリマー」および「重合体」との語は、ホモポリマーとコポリマーとを包含する意味で用いられる。窒素原子は、一形態ではポリマーの主鎖を構成する原子として含まれることができ、また一形態ではポリマーの側鎖を構成する原子として含まれることができる。
【0078】
含窒素ポリマーの一形態としては、ポリアルキレンイミンを挙げることができる。ポリアルキレンイミンは、アルキレンイミンの開環重合体であって、下記式2で表される繰り返し単位を複数有するポリマーである。
【0079】
【0080】
式2中の主鎖を構成する窒素原子Nが窒素カチオンN+となって式1中のZ+で表されるアンモニウムカチオンがもたらされ得る。そしてアルキルエステルアニオンと、例えば以下のようにアンモニウム塩構造を形成し得る。
【0081】
【0082】
以下、式2について更に詳細に説明する。
【0083】
式2中、R1およびR2は、それぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表し、n1は2以上の整数を表す。
【0084】
R1またはR2で表されるアルキル基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基を挙げることができ、好ましくは炭素数1~3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基またはエチル基であり、更に好ましくはメチル基である。R1またはR2で表されるアルキル基は、好ましくは無置換アルキル基である。式2中のR1およびR2の組み合わせとしては、一方が水素原子であって他方がアルキル基である形態、両方が水素原子である形態および両方がアルキル基(同一または異なるアルキル基)である形態があり、好ましくは両方が水素原子である形態である。ポリアルキレンイミンをもたらすアルキレンイミンとして、環を構成する炭素数が最少の構造はエチレンイミンであり、エチレンイミンの開環により得られたアルキレンイミン(エチレンイミン)の主鎖の炭素数は2である。したがって、式2中のn1は2以上である。式2中のn1は、例えば10以下、8以下、6以下または4以下であることができる。ポリアルキレンイミンは、式2で表される繰り返し構造として同一構造のみを含むホモポリマーであってもよく、式2で表される繰り返し構造として2種以上の異なる構造を含むコポリマーであってもよい。式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物を形成するために使用可能なポリアルキレンイミンの数平均分子量は、例えば200以上であることができ、300以上であることが好ましく、400以上であることがより好ましい。また、上記ポリアルキレンイミンの数平均分子量は、例えば10,000以下であることができ、5,000以下であることが好ましく、2,000以下であることがより好ましい。
【0085】
本発明および本明細書において、平均分子量(重量平均分子量および数平均分子量)とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC;Gel Permeation Chromatography)により測定され、標準ポリスチレン換算により求められる値をいうものとする。後述の実施例に示す平均分子量は、特記しない限り、GPCを用いて下記測定条件により測定された値を標準ポリスチレン換算して求めた値(ポリスチレン換算値)である。
GPC装置:HLC-8220(東ソー社製)
ガードカラム:TSKguardcolumn Super HZM-H
カラム:TSKgel Super HZ 2000、TSKgel Super HZ 4000、TSKgel Super HZ-M(東ソー社製、4.6mm(内径)×15.0cm、3種カラムを直列連結)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)、安定剤(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール)含有
溶離液流速:0.35mL/分
カラム温度:40℃
インレット温度:40℃
屈折率(RI;Refractive Index)測定温度:40℃
サンプル濃度:0.3質量%
サンプル注入量:10μL
【0086】
また、含窒素ポリマーの他の一形態としては、ポリアリルアミンを挙げることができる。ポリアリルアミンは、アリルアミンの重合体であって、下記式3で表される繰り返し単位を複数有するポリマーである。
【0087】
【0088】
式3中の側鎖のアミノ基を構成する窒素原子Nが窒素カチオンN+となって式1中のZ+で表されるアンモニウムカチオンがもたらされ得る。そしてアルキルエステルアニオンと、例えば以下のようにアンモニウム塩構造を形成し得る。
【0089】
【0090】
式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物を形成するために使用可能なポリアリルアミンの重量平均分子量は、例えば200以上であることができ、1,000以上であることが好ましく、1,500以上であることがより好ましい。また、上記ポリアリルアミンの重量平均分子量は、例えば15,000以下であることができ、10,000以下であることが好ましく、8,000以下であることがより好ましい。
【0091】
式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物として、ポリアルキレンイミンまたはポリアリルアミン由来の構造を有する化合物が非磁性層に含まれることは、非磁性層表面を飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS:Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)等により分析することによって確認できる。後述するバックコート層に式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物が含まれていることも同様の方法で確認できる。
【0092】
式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物は、含窒素ポリマーと炭素数7以上の脂肪酸および炭素数7以上のフッ化脂肪酸からなる群から選ばれる脂肪酸類の1種以上との塩であることができる。塩を形成する含窒素ポリマーは、1種または2種以上の含窒素ポリマーであることができ、例えばポリアルキレンイミンおよびポリアリルアミンからなる群から選択される含窒素ポリマーであることができる。塩を形成する脂肪酸類は、炭素数7以上の脂肪酸および炭素数7以上のフッ化脂肪酸からなる群から選ばれる脂肪酸類の1種または2種以上であることができる。フッ化脂肪酸は、脂肪酸においてカルボキシ基COOHと結合しているアルキル基を構成する水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換された構造を有する。例えば、含窒素ポリマーと上記脂肪酸類とを室温で混合することによって、塩形成反応は容易に進行し得る。室温とは、例えば20~25℃程度である。一形態では、非磁性層形成用組成物の成分として含窒素ポリマーの1種以上と上記脂肪酸類の1種以上を使用し、非磁性層形成用組成物の調製工程においてこれらを混合することによって、塩形成反応を進行させることができる。また、一形態では、非磁性層形成用組成物の調製前に、含窒素ポリマーの1種以上と上記脂肪酸類の1種以上とを混合して塩を形成した後に、この塩を非磁性層形成用組成物の成分として使用して非磁性層形成用組成物を調製することができる。なお、含窒素ポリマーと上記脂肪酸類とを混合して式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩を形成する際、併せて含窒素ポリマーを構成する窒素原子と上記脂肪酸類のカルボキシ基とが反応して下記構造が形成される場合もあり、そのような構造を含む形態も上記化合物に包含される。
【0093】
【0094】
上記脂肪酸類としては、先に式1中のRとして記載したアルキル基を有する脂肪酸および先に式1中のRとして記載したフッ化アルキル基を有するフッ化脂肪酸を挙げることができる。
【0095】
式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物を形成するために使用する含窒素ポリマーと上記脂肪酸類との混合比は、含窒素ポリマー:上記脂肪酸類の質量比として、10:90~90:10であることが好ましく、20:80~85:15であることがより好ましく、30:70~80:20であることが更に好ましい。また、式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物は、非磁性層形成用組成物の調製時、非磁性粉末100.0質量部に対して、例えば1.0~20.0質量部使用することができ、1.0~10.0質量部使用することが好ましい。また、例えば非磁性層形成用組成物の調製時、非磁性粉末100.0質量部あたり、0.1~10.0質量部の含窒素ポリマーを使用することができ、0.5~8.0質量部の含窒素ポリマーを使用することが好ましい。上記脂肪酸類は、非磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0.05~10.0質量部使用することができ、0.1~5.0質量部使用することが好ましい。
【0096】
非磁性層は、結合剤を含むことができ、添加剤を含むこともできる。非磁性層の結合剤、添加剤等のその他詳細については、非磁性層に関する公知技術を適用できる。また、例えば、結合剤の種類および含有量、添加剤の種類および含有量等に関しては、磁性層に関する公知技術も適用できる。
【0097】
本発明および本明細書において、非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下である層をいうものとする。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
【0098】
<バックコート層>
上記磁気テープは、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有することもでき、有さなくてもよい。バックコート層の非磁性粉末については、非磁性層の非磁性粉末に関する先の記載を参照できる。バックコート層における非磁性粉末の含有率(充填率)は、バックコート層の全質量に対して、50~90質量%の範囲であることが好ましく、60~90質量%の範囲であることがより好ましい。
【0099】
上記変動係数CVに関して、磁気テープの厚み変動を低減する手段の1つとしては、バックコート層における非磁性粉末の分散性を高めることも挙げられる。この点からは、バックコート層形成用組成物は、この組成物に含まれる非磁性粉末の分散性を高めることができる成分(分散剤)を含むことが好ましい。そのような分散剤の一例としては、上記式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物を使用することができる。かかる化合物を含むバックコート層形成用組成物の詳細については、非磁性層形成用組成物に関する先の記載を参照できる。式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物を形成するために使用する含窒素ポリマーと上記脂肪酸類との混合比は、含窒素ポリマー:上記脂肪酸類の質量比として、10:90~90:10であることが好ましく、20:80~85:15であることがより好ましく、30:70~80:20であることが更に好ましい。また、式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物は、バックコート層形成用組成物の調製時、非磁性粉末100.0質量部に対して、例えば1.0~20.0質量部使用することができ、1.0~10.0質量部使用することが好ましい。また、例えばバックコート層形成用組成物の調製時、非磁性粉末100.0質量部あたり、0.1~10.0質量部の含窒素ポリマーを使用することができ、0.5~8.0質量部の含窒素ポリマーを使用することが好ましい。上記脂肪酸類は、非磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0.05~10.0質量部使用することができ、0.1~5.0質量部使用することが好ましい。
【0100】
バックコート層に含まれ得る成分について、バックコート層は、結合剤を含むことができ、添加剤を含むこともできる。バックコート層の結合剤および添加剤については、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することもできる。例えば、特開2006-331625号公報の段落0018~0020および米国特許第7,029,774号明細書の第4欄65行目~第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。
【0101】
<各種厚み>
磁気テープの厚み(総厚)に関して、近年の情報量の莫大な増大に伴い、磁気テープには記録容量を高めること(高容量化)が求められている。高容量化のための手段としては、磁気テープの厚みを薄くし(以下、「薄型化」とも記載する)、磁気テープカートリッジ1巻あたりに収容される磁気テープ長を増すことが挙げられる。この点から、上記磁気テープの厚み(総厚)は、5.6μm以下であることが好ましく、5.5μm以下であることがより好ましく、5.4μm以下であることがより好ましく、5.3μm以下であることが更に好ましい。また、ハンドリングの容易性の観点からは、磁気テープの厚みは3.0μm以上であることが好ましく、3.5μm以上であることがより好ましい。磁気テープの厚みについては、厚みが薄くなるとΔwの値は大きくなる傾向がある。
【0102】
磁気テープの厚み(総厚)は、以下の方法によって測定することができる。
磁気テープの任意の部分からテープサンプル(例えば長さ5~10cm)を10枚切り出し、これらテープサンプルを重ねて厚みを測定する。測定された厚みを10分の1して得られた値(テープサンプル1枚当たりの厚み)を、テープ厚みとする。上記厚み測定は、0.1μmオーダーでの厚み測定が可能な公知の測定器を用いて行うことができる。
【0103】
非磁性支持体の厚みは、好ましくは3.0~5.0μmである。
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量、ヘッドギャップ長、記録信号の帯域等により最適化することができ、一般には0.01μm~0.15μmであり、高密度記録化の観点から、好ましくは0.02μm~0.12μmであり、更に好ましくは0.03μm~0.1μmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する二層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。二層以上に分離する場合の磁性層の厚みとは、これらの層の合計厚みとする。
非磁性層の厚みは、例えば0.1~1.5μmであり、0.1~1.0μmであることが好ましい。
バックコート層の厚みは、0.9μm以下であることが好ましく、0.1~0.7μmであることが更に好ましい。
磁性層の厚み等の各種厚みは、以下の方法により求めることができる。
磁気テープの厚み方向の断面を、イオンビームにより露出させた後、露出した断面において走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡によって断面観察を行う。断面観察において任意の2箇所において求められた厚みの算術平均として、各種厚みを求めることができる。または、各種厚みは、製造条件等から算出される設計厚みとして求めることもできる。
【0104】
<製造工程>
(各層形成用組成物の調製)
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含むことができる。個々の工程はそれぞれ二段階以上に分かれていてもかまわない。各層形成用組成物の調製に用いられる成分は、どの工程の最初または途中で添加してもかまわない。溶媒としては、塗布型磁気記録媒体の製造に通常用いられる各種溶媒の1種または2種以上を用いることができる。溶媒については、例えば特開2011-216149号公報の段落0153を参照できる。また、個々の成分を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、結合剤を混練工程、分散工程および分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。上記磁気テープを製造するためには、公知の製造技術を各種工程において用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつものを使用することが好ましい。混練処理の詳細については、特開平1-106338号公報および特開平1-79274号公報を参照できる。分散機は公知のものを使用することができる。各層形成用組成物を調製する任意の段階において、公知の方法によってろ過を行ってもよい。ろ過は、例えばフィルタろ過によって行うことができる。ろ過に用いるフィルタとしては、例えば孔径0.01~3μmのフィルタ(例えばガラス繊維製フィルタ、ポリプロピレン製フィルタ等)を用いることができる。
【0105】
(塗布工程)
磁性層は、磁性層形成用組成物を、非磁性支持体表面上に直接塗布するか、または非磁性層形成用組成物と逐次もしくは同時に重層塗布することにより形成することができる。バックコート層は、バックコート層形成用組成物を、非磁性支持体の非磁性層および/または磁性層を有する(または非磁性層および/または磁性層が追って設けられる)表面とは反対側の表面に塗布することにより形成することができる。各層形成のための塗布の詳細については、特開2010-231843号公報の段落0066を参照できる。
【0106】
(その他の工程)
磁気テープの製造のためのその他の各種工程については、公知技術を適用できる。各種工程については、例えば特開2010-231843号公報の段落0067~0070を参照できる。
例えば、磁性層形成用組成物の塗布層には、この塗布層が湿潤状態にあるうちに、配向ゾーンにおいて配向処理を行うことができる。配向処理については、特開2010-24113号公報の段落0052の記載をはじめとする各種公知技術を適用することができる。例えば、垂直配向処理は、異極対向磁石を用いる方法等の公知の方法によって行うことができる。配向ゾーンでは、乾燥風の温度、風量および/または配向ゾーンにおける搬送速度によって塗布層の乾燥速度を制御することができる。また、配向ゾーンに搬送する前に塗布層を予備乾燥させてもよい。
カレンダ処理については、カレンダ条件を強化することは、磁気テープの厚み変動を低減することに寄与し得る。磁気テープの厚み変動を低減することは、上記変動係数CVを小さくすることにつながり得る。カレンダ条件としては、カレンダ圧力、カレンダ温度(カレンダロールの表面温度)、カレンダ速度等が挙げられる。カレンダ圧力およびカレンダ温度は、これらの値を大きくするほどカレンダ処理は強化され、カレンダ速度は遅くするほどカレンダ処理は強化される。例えば、カレンダ圧力(線圧)は200~500kg/cmの範囲であることができ、250~350kg/cmの範囲であることが好ましい。カレンダ温度(カレンダロールの表面温度)は、例えば85~120℃の範囲であることができ、90~110℃の範囲であることが好ましい。カレンダ速度は、例えば50~300m/分の範囲であることができ、50~200m/分の範囲であることが好ましい。
各種工程を経ることによって、長尺状の磁気テープ原反を得ることができる。得られた磁気テープ原反は、公知の裁断機によって、磁気テープカートリッジに巻装すべき磁気テープの幅に裁断(スリット)される。上記の幅は規格にしたがい決定され、通常、1/2インチである。1/2インチ=12.65mmである。
スリットして得られた磁気テープには、サーボパターンが形成される。サーボパターンについて、詳細は後述する。
【0107】
(熱処理)
一形態では、上記磁気テープは、以下のような熱処理を経て製造された磁気テープであることができる。以下の熱処理を行うことは、上記変動係数CVの値を小さくすることに寄与し得る。また、かかる熱処理を行う場合、熱処理条件を強化すること(例えば熱処理温度を高めること)は、上記変動係数CVの値を小さくすることに寄与し得る。
【0108】
熱処理としては、スリットして規格にしたがい決定された幅に裁断された磁気テープを、芯状部材に巻き付け、巻き付けた状態で行う熱処理を行うことができる。
【0109】
一形態では、熱処理用の芯状部材(以下、「熱処理用巻芯」と呼ぶ。)に磁気テープを巻き付けた状態で上記熱処理を行い、熱処理後の磁気テープを磁気テープカートリッジのリールに巻き取り、磁気テープがリールに巻装された磁気テープカートリッジを作製することができる。
熱処理用巻芯は、金属製、樹脂製、紙製等であることができる。熱処理用巻芯の材料は、スポーキング等の巻き故障の発生を抑制する観点から、剛性が高い材料であることが好ましい。この点から、熱処理用巻芯は、金属製または樹脂製であることが好ましい。また、剛性の指標として、熱処理用巻芯の材料の曲げ弾性率は0.2GPa以上が好ましく、0.3GPa以上がより好ましい。他方、高剛性の材料は一般に高価であるため、巻き故障の発生を抑制できる剛性を超える剛性を有する材料の熱処理用巻芯を用いることはコスト増につながる。以上の点を考慮すると、熱処理用巻芯の材料の曲げ弾性率は250GPa以下が好ましい。また、熱処理用巻芯は中実または中空の芯状部材であることができる。中空状の場合、剛性を維持する観点から、肉厚は2mm以上であることが好ましい。また、熱処理用巻芯は、フランジを有していてもよく、有さなくてもよい。
熱処理用巻芯に巻き付ける磁気テープとして最終的に磁気テープカートリッジに収容する長さ(以下、「最終製品長」と呼ぶ)以上の磁気テープを準備し、この磁気テープを熱処理用巻芯に巻き付けた状態で熱処理環境下に置くことにより熱処理を行うことが好ましい。熱処理用巻芯に巻き付ける磁気テープ長は最終製品長以上であり、熱処理用巻芯等への巻き取りの容易性の観点からは、「最終製品長+α」とすることが好ましい。このαは、上記の巻き取りの容易性の観点からは5m以上であることが好ましい。熱処理用巻芯への巻き取り時のテンションは、0.1N(ニュートン)以上が好ましい。また、過度な変形が発生することを抑制する観点から、熱処理用巻芯への巻き取り時のテンションは1.5N以下が好ましく、1.0N以下がより好ましい。熱処理用巻芯の外径は、巻き付けの容易性およびコイリング(長手方向のカール)の抑制の観点から、20mm以上が好ましく、40mm以上がより好ましい。また、熱処理用巻芯の外径は100mm以下が好ましく、90mm以下がより好ましい。熱処理用巻芯の幅は、この巻芯に巻き付ける磁気テープの幅以上であればよい。また、熱処理後、熱処理用巻芯から磁気テープを取り外す際には、取り外す操作中に意図しないテープ変形が生じることを抑制するために、磁気テープおよび熱処理用巻芯が十分冷却された後に磁気テープを熱処理用巻芯から取り外すことが好ましい。取り外した磁気テープは、一度別の巻芯(「一時巻き取り用巻芯」と呼ぶ)に巻き取り、その後、一時巻き取り用巻芯から磁気テープカートリッジのリール(一般に外径は40~50mm程度)へ磁気テープを巻き取ることが好ましい。これにより、熱処理時の磁気テープの熱処理用巻芯に対する内側と外側との関係を維持して、磁気テープカートリッジのリールへ磁気テープを巻き取ることができる。一時巻き取り用巻芯の詳細およびこの巻芯へ磁気テープを巻き取る際のテンションについては、熱処理用巻芯に関する先の記載を参照できる。上記熱処理を「最終製品長+α」の長さの磁気テープに施す形態においては、任意の段階で、「+α」の長さ分を切り取ればよい。例えば、一形態では、一時巻き取り用巻芯から磁気テープカートリッジのリールへ最終製品長分の磁気テープを巻き取り、残りの「+α」の長さ分を切り取ればよい。切り取って廃棄される部分を少なくする観点からは、上記αは20m以下であることが好ましい。
【0110】
上記のように芯状部材に巻き付けた状態で行われる熱処理の具体的形態について、以下に説明する。
熱処理を行う雰囲気温度(以下、「熱処理温度」と呼ぶ)は、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。一方、過度な変形を抑制する観点からは、熱処理温度は75℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、65℃以下が更に好ましい。
熱処理を行う雰囲気の重量絶対湿度は、0.1g/kg Dry air以上が好ましく、1g/kg Dry air以上がより好ましい。重量絶対湿度が上記範囲の雰囲気は、水分を低減するための特殊な装置を用いずに準備できるため好ましい。一方、重量絶対湿度は、結露が生じて作業性が低下することを抑制する観点からは、70g/kg Dry air以下が好ましく、66g/kg Dry air以下がより好ましい。熱処理時間は、0.3時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましい。また、熱処理時間は、生産効率の観点からは、48時間以下が好ましい。
【0111】
(サーボパターンの形成)
「サーボパターンの形成」は、「サーボ信号の記録」ということもできる。以下に、サーボパターンの形成について説明する。
【0112】
サーボパターンは、通常、磁気テープの長手方向に沿って形成される。サーボ信号を利用する制御(サーボ制御)の方式としては、タイミングベースサーボ(TBS)、アンプリチュードサーボ、周波数サーボ等が挙げられる。
【0113】
ECMA(European Computer Manufacturers Association)―319(June 2001)に示される通り、LTO(Linear Tape-Open)規格に準拠した磁気テープ(一般に「LTOテープ」と呼ばれる)では、タイミングベースサーボ方式が採用されている。このタイミングベースサーボ方式において、サーボパターンは、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(「サーボストライプ」とも呼ばれる。)が、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置されることによって構成されている。本発明および本明細書において、「タイミングベースサーボパターン」とは、タイミングベースサーボ方式のサーボシステムにおけるヘッドトラッキングを可能とするサーボパターンをいう。上記のように、サーボパターンが互いに非平行な一対の磁気ストライプにより構成される理由は、サーボパターン上を通過するサーボ信号読み取り素子に、その通過位置を教えるためである。具体的には、上記の一対の磁気ストライプは、その間隔が磁気テープの幅方向に沿って連続的に変化するように形成されており、サーボ信号読み取り素子がその間隔を読み取ることによって、サーボパターンとサーボ信号読み取り素子との相対位置を知ることができる。この相対位置の情報が、データトラックのトラッキングを可能にする。そのために、サーボパターン上には、通常、磁気テープの幅方向に沿って、複数のサーボトラックが設定されている。
【0114】
サーボバンドは、磁気テープの長手方向に連続するサーボパターンにより構成される。このサーボバンドは、通常、磁気テープに複数本設けられる。例えば、LTOテープにおいて、その数は5本である。隣接する2本のサーボバンドに挟まれた領域が、データバンドである。データバンドは、複数のデータトラックで構成されており、各データトラックは、各サーボトラックに対応している。
【0115】
また、一形態では、特開2004-318983号公報に示されているように、各サーボバンドには、サーボバンドの番号を示す情報(「サーボバンドID(identification)」または「UDIM(Unique DataBand Identification Method)情報」とも呼ばれる)が埋め込まれている。このサーボバンドIDは、サーボバンド中に複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のものを、その位置が磁気テープの長手方向に相対的に変位するように、ずらすことによって記録されている。具体的には、複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のもののずらし方を、サーボバンド毎に変えている。これにより、記録されたサーボバンドIDはサーボバンド毎にユニークなものとなるため、一つのサーボバンドをサーボ信号読み取り素子で読み取るだけで、そのサーボバンドを一意に(uniquely)特定することができる。
【0116】
なお、サーボバンドを一意に特定する方法には、ECMA―319(June 2001)に示されているようなスタッガード方式を用いたものもある。このスタッガード方式では、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置された、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(サーボストライプ)の群を、サーボバンド毎に磁気テープの長手方向にずらすように記録する。隣接するサーボバンド間における、このずらし方の組み合わせは、磁気テープ全体においてユニークなものとされているため、2つのサーボ信号読み取り素子によりサーボパターンを読み取る際に、サーボバンドを一意に特定することも可能となっている。
【0117】
また、各サーボバンドには、ECMA―319(June 2001)に示されている通り、通常、磁気テープの長手方向の位置を示す情報(「LPOS(Longitudinal Position)情報」とも呼ばれる)も埋め込まれている。このLPOS情報も、UDIM情報と同様に、一対のサーボストライプの位置を、磁気テープの長手方向にずらすことによって記録されている。ただし、UDIM情報とは異なり、このLPOS情報では、各サーボバンドに同じ信号が記録されている。
【0118】
上記のUDIM情報およびLPOS情報とは異なる他の情報を、サーボバンドに埋め込むことも可能である。この場合、埋め込まれる情報は、UDIM情報のようにサーボバンド毎に異なるものであってもよいし、LPOS情報のようにすべてのサーボバンドに共通のものであってもよい。
また、サーボバンドに情報を埋め込む方法としては、上記以外の方法を採用することも可能である。例えば、一対のサーボストライプの群の中から、所定の対を間引くことによって、所定のコードを記録するようにしてもよい。
【0119】
サーボパターン形成用ヘッドは、サーボライトヘッドと呼ばれる。サーボライトヘッドは、通常、上記一対の磁気ストライプに対応した一対のギャップを、サーボバンドの数だけ有する。通常、各一対のギャップには、それぞれコアとコイルが接続されており、コイルに電流パルスを供給することによって、コアに発生した磁界が、一対のギャップに漏れ磁界を生じさせることができる。サーボパターンの形成の際には、サーボライトヘッド上に磁気テープを走行させながら電流パルスを入力することによって、一対のギャップに対応した磁気パターンを磁気テープに転写させて、サーボパターンを形成することができる。各ギャップの幅は、形成されるサーボパターンの密度に応じて適宜設定することができる。各ギャップの幅は、例えば、1μm以下、1~10μm、10μm以上等に設定可能である。
【0120】
磁気テープにサーボパターンを形成する前には、磁気テープに対して、通常、消磁(イレース)処理が施される。このイレース処理は、直流磁石または交流磁石を用いて、磁気テープに一様な磁界を加えることによって行うことができる。イレース処理には、DC(Direct Current)イレースとAC(Alternating Current)イレースとがある。ACイレースは、磁気テープに印加する磁界の方向を反転させながら、その磁界の強度を徐々に下げることによって行われる。一方、DCイレースは、磁気テープに一方向の磁界を加えることによって行われる。DCイレースには、更に2つの方法がある。第一の方法は、磁気テープの長手方向に沿って一方向の磁界を加える、水平DCイレースである。第二の方法は、磁気テープの厚み方向に沿って一方向の磁界を加える、垂直DCイレースである。イレース処理は、磁気テープ全体に対して行ってもよいし、磁気テープのサーボバンド毎に行ってもよい。
【0121】
形成されるサーボパターンの磁界の向きは、イレースの向きに応じて決まる。例えば、磁気テープに水平DCイレースが施されている場合、サーボパターンの形成は、磁界の向きがイレースの向きと反対になるように行われる。これにより、サーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号の出力を、大きくすることができる。なお、特開2012-53940号公報に示されている通り、垂直DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、単極パルス形状となる。一方、水平DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、双極パルス形状となる。
【0122】
<垂直方向角型比>
一形態では、上記磁気テープの垂直方向角型比は、例えば0.55以上であることができ、0.60以上であることが好ましい。上記磁気テープの垂直方向角型比が0.60以上であることは、電磁変換特性向上の観点から好ましい。角型比の上限は、原理上、1.00以下である。上記磁気テープの垂直方向角型比は、1.00以下であることができ、0.95以下、0.90以下、0.85以下または0.80以下であることができる。磁気テープの垂直方向角型比の値が大きいことは、電磁変換特性向上の観点から好ましい。磁気テープの垂直方向角型比は、垂直配向処理の実施等の公知の方法によって制御することができる。
【0123】
本発明および本明細書において、「垂直方向角型比」とは、磁気テープの垂直方向において測定される角型比である。角型比に関して記載する「垂直方向」とは、磁性層表面と直交する方向であり、厚み方向ということもできる。本発明および本明細書において、垂直方向角型比は、以下の方法によって求められる。
測定対象の磁気テープから振動試料型磁力計に導入可能なサイズのサンプル片を切り出す。このサンプル片について、振動試料型磁力計を用いて、最大印加磁界3979kA/m、測定温度296K、磁界掃引速度8.3kA/m/秒にて、サンプル片の垂直方向(磁性層表面と直交する方向)に磁界を印加し、印加した磁界に対するサンプル片の磁化強度を測定する。磁化強度の測定値は、反磁界補正後の値として、かつ振動試料型磁力計のサンプルプローブの磁化をバックグラウンドノイズとして差し引いた値として得るものとする。最大印加磁界における磁化強度をMs、印加磁界ゼロにおける磁化強度をMrとしたとき、角型比SQ(Squareness Ratio)は、SQ=Mr/Msとして算出される値である。測定温度はサンプル片の温度をいい、サンプル片の周囲の雰囲気温度を測定温度にすることにより、温度平衡が成り立つことによってサンプル片の温度を測定温度にすることができる。
【0124】
[磁気テープ収容体]
本発明の一態様は、上記磁気テープが巻回された巻芯を含む磁気テープ収容体に関する。
【0125】
<磁気テープ収容体の一形態(磁気テープカートリッジ)>
上記磁気テープ収容体の一形態は、磁気テープカートリッジである。
【0126】
磁気テープカートリッジ(以下、単に「カートリッジ」とも記載する)には、カートリッジ本体内部に磁気テープがリール(巻芯)に巻回された状態で収容される。カートリッジのリール等の磁気テープ収容体において磁気テープが巻回される巻芯は、少なくともハブ(hub)から構成され、通常、ハブの両端部にフランジがそれぞれ設けられている。磁気テープ収容体の巻芯は、磁気テープ収容体の内部に回転可能に備えられている。磁気テープカートリッジとしては、カートリッジ本体内部にリールを1つ具備する単リール型の磁気テープカートリッジおよびカートリッジ本体内部にリールを2つ具備する双リール型の磁気テープカートリッジが広く用いられている。単リール型の磁気テープカートリッジは、磁気テープへのデータの記録および/または再生のために磁気記録再生装置に装着されると、磁気テープカートリッジから磁気テープが引き出されて磁気記録再生装置に備えられたリール(以下、「巻取りリール」とも記載する)に巻取られる。磁気テープカートリッジから巻取りリールまでの磁気テープ搬送経路には、磁気ヘッドが配置されている。磁気テープカートリッジのリール(供給リール)と磁気記録再生装置のリール(巻取りリール)との間で、磁気テープの引き出しと巻取りが行われる。この間、例えば磁気ヘッドと磁気テープの磁性層表面とが接触し摺動することにより、データの記録および/または再生が行われる。これに対し、双リール型の磁気テープカートリッジは、供給リールと巻取りリールの両リールが、磁気テープカートリッジ内部に具備されている。上記磁気テープ収容体は、一形態では単リール型の磁気テープカートリッジであることができ、他の一形態では双リール型の磁気テープカートリッジであることができる。上記磁気テープ収容体が双リール型の磁気テープカートリッジである場合、詳細を後述する真円度の測定のために磁気テープが引き出される巻芯は、2つのリールの中で、磁気テープカートリッジが未使用の状態で、磁気テープのより多くの部分が巻回されているリールをいうものとする。単リール型および双リール型の磁気テープカートリッジについて、詳細を後述する真円度の測定は、未使用の磁気テープカートリッジを用いて行うものとする。本発明および本明細書において、磁気テープ収容体(例えば磁気テープカートリッジまたは磁気記録再生装置)について「未使用」とは、製品として提供された後に磁気テープ収容体に収容されている磁気テープの走行が行われていないことをいうものとする。一形態では、上記磁気テープ収容体は、データストレージ分野で近年主に採用されている単リール型の磁気テープカートリッジであることが好ましい。
【0127】
巻芯のハブは、磁気テープが巻回される軸心部を構成する円筒状部材である。巻芯のハブは、単層構成の円筒状部材であることができ、2層以上の多層構成の円筒状部材であることもできる。製造コストおよび製造の容易性の観点からは、巻芯のハブは、単層構成の円筒状部材であることが好ましい。
【0128】
ハブの少なくとも外周側表層部を構成する材料の曲げ弾性率は、例えば3GPa(ギガパスカル)以上であることができる。磁気テープが巻回されている巻芯のハブの剛性が高いことは、巻回された磁気テープを引き出す際に先に記載した短い周期で幅方向において位置ズレが生じることを抑制することに寄与し得ると本発明者は考えている。このことは、転送レートの更なる向上の観点から好ましいと本発明者は推察している。かかる観点から、一形態では、ハブの少なくとも外周側表層部を構成する材料の曲げ弾性率は、5GPa(ギガパスカル)以上であることが好ましく、6GPa以上であることがより好ましく、7GPa以上であることが更に好ましく、8GPa以上であることが一層好ましい。上記曲げ弾性率は、例えば、20GPa以下、15GPa以下または10GPa以下であることができる。ただし、上記曲げ弾性率が高いことは、上記の短い周期で幅方向において位置ズレが生じることを抑制するうえで好ましいと考えられる。したがって、上記曲げ弾性率は、ここで例示した値を超えてもよい。
【0129】
上記曲げ弾性率は、巻芯のハブが単層構成の円筒状部材である場合、かかる円筒状部材を構成する材料の曲げ弾性率である。一方、ハブが2層以上の多層構成の円筒状部材の場合、上記曲げ弾性率は、かかるハブの少なくとも外周側表層部を構成する材料の曲げ弾性率である。本発明および本明細書において、「曲げ弾性率」とは、JIS(Japanese Industrial Standards) K 7171:2016にしたがい求められる値である。JIS K 7171:2016は、2010年に第5版として発行されたISO(International Organization for Standardization) 178およびAmendment 1:2013を基に、技術内容を変更することなく作成された日本工業規格である。曲げ弾性率を測定するために使用する試験片は、JIS K 7171:2016の項目6「試験片」にしたがい準備する。
【0130】
磁気テープカートリッジのリール等の巻芯のハブを構成する材料としては、樹脂、金属等を挙げることができる。金属としては、例えばアルミニウムを挙げることができる。コスト面、生産性等の観点からは、樹脂が好ましい。樹脂としては、例えば、繊維強化樹脂を挙げることができる。繊維強化樹脂としては、例えば、ガラス繊維強化樹脂、炭素繊維強化樹脂等が挙げられる。かかる繊維強化樹脂としては、繊維強化ポリカーボネートが好ましい。ポリカーボネートは調達容易であり、射出成形機等の汎用的な成形機によって高精度かつ安価に成形可能であるためである。また、ガラス繊維強化樹脂において、ガラス繊維の含有率は、例えば10質量%以上であることができ、15質量%以上であることが好ましい。ガラス繊維の含有率が高いほど、ガラス繊維強化樹脂の曲げ弾性率は高くなる傾向がある。一例として、ガラス繊維強化樹脂のガラス繊維の含有率は、50質量%以下または40質量%以下であることができる。一形態では、上記ハブを構成する樹脂としては、ガラス繊維強化ポリカーボネートが好ましい。また、上記ハブを構成する樹脂としては、一般にスーパーエンジニアリングプラスチックと呼ばれる高強度の樹脂等を挙げることもできる。スーパーエンジニアリングプラスチックの一例としては、ポリフェニレンサルファイド(PPS)が挙げられる。
【0131】
上記ハブの厚みは2.0~3.0mmの範囲であることが、ハブの強度および成形時の寸法精度を両立する観点から好ましい。ハブの厚みとは、2層以上の多層構成のハブについては、かかる多層の総厚をいうものとする。ハブの外径は、通常、磁気記録再生装置の規格により定められており、例えば20~60mmの範囲であることができる。
【0132】
以下に、図面を参照して磁気テープカートリッジの構成について説明する。ただし、図面に示す形態は例示であり、かかる例示に本発明は限定されない。
【0133】
図1は、磁気テープカートリッジの一例の斜視図である。
図1には、単リール型の磁気テープカートリッジが示されている。
【0134】
図1に示されている磁気テープカートリッジ10は、ケース12を有している。ケース12は、矩形の箱状に形成されている。ケース12は、通常、ポリカーボネート等の樹脂製である。ケース12の内部には、リール20が1つだけ回転可能に収容されている。
【0135】
図2は、リールに磁気テープを巻回し始めるときの斜視図である。
図3は、リールに磁気テープを巻回し終えたときの斜視図である。
【0136】
リール20は、軸心部を構成する円筒状のリールハブ22を有する。リールハブについては、先に詳述した通りである。
【0137】
リールハブ22の両端部には、リールハブ22の下端部および上端部からそれぞれ半径方向外側に張り出すフランジ(下フランジ24および上フランジ26)が設けられている。ここでは、「上」および「下」について、磁気テープカートリッジが磁気記録再生装置に装着される際、上方に位置する側を「上」、下方に位置する側を「下」と記載する。下フランジ24および上フランジ26の一方または両方は、リールハブ22の上端部側および/または下端部側を補強する観点から、リールハブ22と一体的に構成されていることが好ましい。一体的に構成されているとは、別部材ではなく、1つの部材として構成されていることをいうものとする。第一の形態では、リールハブ22と上フランジ26とが1つの部材として構成され、この部材が、別部材として構成された下フランジ24と公知の方法で接合される。第二の形態では、リールハブ22と下フランジ24とが1つの部材として構成され、この部材が、別部材として構成された上フランジ26と公知の方法で接合される。上記磁気テープカートリッジのリールは、いずれの形態であってもよい。各部材は、射出成形等の公知の成形方法によって作製することができる。
【0138】
磁気テープTは、テープ内側末端Tf(
図2参照)を起点として、リールハブ22の外周に巻回される。磁気テープをリールハブに巻回する際に磁気テープ長手方向に加わるテンションは、1.5N(ニュートン)以下であることが好ましく、1.0N以下であることがより好ましく、テンションフリーとすることも好ましい。
【0139】
ケース12の側壁には、リール20に巻回された磁気テープTを引き出すための開口14があり、この開口14から引き出される磁気テープTのテープ外側末端Teには、磁気記録再生装置(図示せず)の引出部材(図示せず)によって係止されつつ引き出し操作されるリーダーピン16が固着されている。
【0140】
また、開口14は、ドア18によって開閉されるようになっている。ドア18は、開口14を閉塞可能な大きさの矩形の板状に形成されており、その開口14を閉塞する方向へ付勢部材(図示せず)により付勢されている。そして、ドア18は、磁気テープカートリッジ10が磁気記録再生装置に装着されると、付勢部材の付勢力に抗して開放されるようになっている。
【0141】
磁気テープカートリッジのその他の詳細については、磁気テープカートリッジに関する公知技術を適用することができる。
【0142】
上記の形態では、磁気テープが取り外し可能な媒体(いわゆる可換媒体)として扱われ、磁気テープを収容した磁気テープカートリッジ(磁気テープ収容体)を磁気記録再生装置内に挿入することができ、磁気テープを収容した磁気テープカートリッジを磁気記録再生装置から取り出すこともできる。
【0143】
図4に、磁気テープカートリッジが挿入された状態の磁気記録再生装置の一例の概略図を示す。
図4では、磁気テープカートリッジ10が磁気記録再生装置60の筐体H内に挿入され、磁気テープTが筐体H内に引き出され、巻取りリール606に巻取られる。筐体Hは、例えば、金属製、樹脂製等であることができる。
磁気テープカートリッジ10については、単リール型の磁気テープカートリッジに関する先の記載を参照できる。
磁気テープTへのデータの記録および再生は、制御装置601からの命令により記録再生ヘッドユニット602を制御して行われる。
磁気記録再生装置60は、カートリッジリール20と巻取りリール606を回転制御するスピンドルモーター607A、607Bおよびそれらの駆動装置608A、608Bから磁気テープの長手方向にかかるテンションの検出および調整が可能な構成を有している。
磁気記録再生装置60は、磁気テープカートリッジ10を装着可能な構成を有している。
磁気記録再生装置60は、磁気テープカートリッジ10内のカートリッジメモリ27について読み取りおよび書き込みが可能なカートリッジメモリリードライト装置604を有している。カートリッジメモリは、例えば不揮発メモリであることができ、一形態では、後述するテンション調整に関する情報が既に記録されているか、またはテンション調整に関する情報が記録される。テンション調整に関する情報は、磁気テープの長手方向にかかるテンションを調整するための情報である。
磁気記録再生装置60の筐体H内に挿入された磁気テープカートリッジ10からは、磁気テープTの一方の末端またはリーダーピンが自動のローディング機構または手動により引き出され、磁気テープTの磁性層表面が記録再生ヘッドユニット602の記録再生ヘッド表面に接する向きでガイドローラー605A、605Bを通して記録再生ヘッド上をパスし、磁気テープTが巻取りリール606に巻取られる。一形態では、磁気記録再生装置における磁気テープへのデータの記録時および/または磁気テープに記録されたデータの再生時、磁気ヘッドが磁気テープの磁性層表面と接触し摺動する。かかる磁気記録再生装置は、一般に、摺動型ドライブまたは接触摺動型ドライブと呼ばれる。他の一形態では、磁気記録再生装置において、磁気ヘッドは、磁性層表面とは、不作為に接触する場合を除き、非接触の状態で、磁気テープへのデータの記録および/または磁気テープに記録されたデータの再生を行う。かかる形態の磁気記録再生装置は、一般に浮上型ドライブと呼ばれる。
制御装置601からの信号によりスピンドルモーター607Aとスピンドルモーター607Bの回転およびトルクが制御され、磁気テープTが任意の速度とテンションで走行される。テープ速度の制御には、磁気テープ上に予め形成されたサーボパターンを利用することができる。テンションの検出のために、磁気テープカートリッジ10と巻取りリール606との間にテンション検出機構を設けてもよい。テンションの調整は、スピンドルモーター607Aおよび607Bによって行われる制御の他に、ガイドローラー605Aおよび605Bを用いて行ってもよい。
カートリッジメモリリードライト装置604は、制御装置601からの命令により、カートリッジメモリ27の情報の読み出しと書き込みが可能に構成されている。カートリッジメモリリードライト装置604とカートリッジメモリ27との間の通信方式としては、例えば、ISO(International Organization for Standardization)14443方式を採用できる。
【0144】
制御装置601は、例えば、制御部、記憶部、通信部等を含む。
【0145】
記録再生ヘッドユニット602は、例えば、記録再生ヘッド、記録再生ヘッドのトラック幅方向の位置を調整するサーボトラッキングアクチュエータ、記録再生アンプ609、制御装置601と接続するためのコネクタケーブル等から構成される。記録再生ヘッドは、例えば、磁気テープにデータを記録する記録素子、磁気テープのデータを再生する再生素子および磁気テープ上に記録されたサーボ信号を読み取るサーボ信号読み取り素子から構成される。1つの磁気ヘッド内に、記録素子、再生素子およびサーボ信号読み取り素子は、例えば、それぞれ1個以上搭載されている。または、磁気テープの走行方向に応じた複数の磁気ヘッド内に別々にそれぞれの素子を有していてもよい。
【0146】
記録再生ヘッドユニット602は、制御装置601からの命令に応じて、磁気テープTに対してデータを記録することが可能に構成されている。また、制御装置601からの命令に応じて、磁気テープTに記録されたデータを再生することが可能に構成されている。
【0147】
制御装置601は、磁気テープTの走行時にサーボバンドから読み取られるサーボ信号から磁気テープの走行位置を求め、狙いの走行位置(トラック位置)に記録素子および/または再生素子が位置するように、サーボトラッキングアクチュエータを制御する機構を有している。このトラック位置の制御は、例えば、フィードバック制御により行われる。制御装置601は、磁気テープTの走行時に隣り合う2本のサーボバンドから読み取られるサーボ信号から、サーボバンド間隔を求める機構を有している。またサーボバンド間隔が狙いの値になるように、スピンドルモーター607Aおよびスピンドルモーター607Bのトルクおよび/またはガイドローラー605Aおよび605Bを制御して磁気テープの長手方向にかけるテンションを調整して変化させ得る機構を有している。このテンションの調整は、例えば、フィードバック制御により行われる。また、制御装置601は、求めたサーボバンド間隔の情報を、磁気記録再生装置60の筐体H内に配置されている制御装置601の内部の記憶部、制御装置とは別の装置として筐体H内に配置されている記憶装置(図示せず)、カートリッジメモリ27、筐体Hの外部に配置されている外部記憶装置(図示せず)等に保存することができる。
【0148】
磁気記録再生装置60において、記録時および/または再生時、磁気テープの長手方向にテンションをかけることができる。磁気テープの長手方向にかけるテンションは、一形態では一定値であり、他の一形態では変化する。例えば、先に記載したように、
図4中、磁気テープカートリッジ10と巻取りリール606との間にテンション検出機構を設けて検出することができる。更に、例えば、最小テンションが規格等により定められた値または推奨された値を下回らないように、および/または、最大テンションが規格等により定められた値または推奨された値を上回らないように、磁気記録再生装置の制御装置等により制御することもできる。例えばこうして、磁気記録再生装置内を走行する磁気テープの長手方向にかかるテンションを調整可能なテンション調整機構によって、磁気テープの長手方向にかかるテンションを可変に制御することができる。好ましくは、磁気テープの長手方向にかかるテンションを調整することによって、磁気テープの幅方向の寸法を制御することができる。上記テンション調整において、磁気テープの長手方向にかかるテンションは変化し得る。
【0149】
磁気テープへのデータの記録は、巻取りリール606とカートリッジリール20との間で磁気テープTを走行させながら行われる。磁気テープに記録されたデータの再生も、巻取りリール606とカートリッジリール20との間で磁気テープTを走行させながら行われる。記録および/または再生の終了後、磁気テープTは、通常、磁気テープカートリッジ10のカートリッジリール20に巻取られ、磁気テープTの全長が磁気テープカートリッジ10内に収容される。磁気テープTが収容された磁気テープカートリッジ10は、一形態では磁気記録再生装置60の筐体H内に保持され、他の一形態では筐体Hから取り出される。磁気記録再生装置60の筐体H内には、任意に温湿度計610を配置することができる。温湿度計610によって、磁気記録再生装置60の筐体H内の温度および湿度を計測してモニタリングすることができる。
【0150】
[磁気テープ収容体の他の一形態(磁気記録再生装置)]
上記磁気テープ収容体の他の一形態は、磁気記録再生装置である。本形態では、磁気テープは可換媒体として扱われず、磁気テープおよび磁気ヘッドが磁気テープ収容体(磁気記録再生装置)内に収容される。本形態において、詳細を後述する真円度の測定のために磁気テープが引き出される巻芯は、未使用の磁気記録再生装置内の2つのリールの中で、磁気テープのより多くの部分が巻回されているリールをいうものとする。また、本形態において、詳細を後述する真円度の測定は、未使用の状態の磁気記録再生装置を用いて行うものとする。
【0151】
図5は、上記形態の例として、磁気テープが巻取られているリールと磁気記録再生装置とが一体となっている例の概略図を示す。
図5中、テープリール911Aおよびテープリール911Bは、磁気記録再生装置90の筐体H内に固定されており、磁気テープTは可換媒体として扱われない。磁気テープへのデータの記録は、テープリール911Aと911Bとの間で磁気テープTを走行させながら行われる。磁気テープに記録されたデータの再生も、テープリール911Aと911Bとの間で磁気テープTを走行させながら行われる。記録および/または再生の終了後、磁気テープTは、通常、テープリール911Aまたはテープリール911Bに大部分が巻取られた状態で、磁気記録再生装置90内で保管される。
【0152】
図5中の筐体H、制御装置901、記録再生ヘッドユニット902、ガイドローラー905A、905B、スピンドルモーター907A、907B、駆動装置908A、908B、記録再生アンプ909および温湿度計910については、それぞれ
図4の各部についての先の記載を参照できる。テープリール911Aおよび911Bについては、それぞれ
図2、3および
図4の各部についての先の記載を参照できる。
【0153】
磁気記録再生装置90は、筐体H内に収容されている記憶装置912と、筐体H外に配置されている外部記憶装置913と、を有する。制御装置901は、例えば
図4に関して先に記載したように求めたサーボバンド間隔の情報を、記憶装置912および/または外部記憶装置913に保存することができる。
【0154】
いずれの形態においても、磁気テープ収容体に収容される磁気テープの全長は、特に限定されず、例えば200m以上であることができ、または800m以上(例えば800m~2500m程度の範囲)であることもできる。1つの磁気テープ収容体に収容されるテープ全長が長いほど、その磁気テープ収容体の高容量化の観点から好ましい。
【0155】
<真円度>
上記磁気テープ収容体に収容されている磁気テープについて、巻芯に巻回された磁気テープを巻芯から引き出す際に磁気テープが描く1回転分の軌跡の真円度は、磁気テープの幅方向の3箇所における測定値の算術平均として、例えば120μm以下であることができ、100μm以下であることが好ましい。上記真円度が100μm以下であることは、転送レートの更なる向上の観点から好ましいと、本発明者は考えている。より一層の転送レート向上の観点から、上記真円度は、95μm以下であることがより好ましく、90μm以下であることが更に好ましく、85μm以下であることが一層好ましく、80μm以下であることがより一層好ましく、75μm以下であることが更に一層好ましく、70μm以下であることが更により一層好ましい。また、上記真円度は、例えば30μm以上、35μm以上、40μm以上または45μm以上であることができ、ここに例示した値を下回ることもできる。真円度の値がより小さいことは、転送レートの更なる向上の観点から好ましい。真円度は、巻芯のハブの曲げ弾性率の値が大きいほど小さくできる傾向がある。
【0156】
本発明および本明細書における上記の「真円度」は、以下の方法によって求められる値である。
以下の測定は、雰囲気温度が20~25℃の範囲であり、相対湿度が40~60%の範囲である測定環境において行う。測定に使用する装置および測定対象の磁気テープ収容体を測定環境に慣らすために、それらを測定環境に1日以上置いた後に測定を実施する。
以下に、測定対象の磁気テープ収容体が単リール型の磁気テープカートリッジである場合を例にとり測定方法を説明する。
磁気テープカートリッジのリール(巻芯)から磁気テープを引き出すために、磁気テープカートリッジの着脱が可能な磁気記録再生装置(ドライブ)を使用する。ドライブにセットした状態で磁気テープカートリッジのケース内でリール(巻芯)から引き出される磁気テープ表面とリールの上フランジの上面を観察するために、磁気テープカートリッジに以下の加工を行う。測定対象の磁気テープカートリッジを上記測定環境に1日以上置いた後、磁気テープカートリッジのケースから、磁気テープが巻回された状態のリールを取り出す。リールの取り出しは、上記測定環境において実施する。リールに巻回されている磁気テープにリーダーテープおよび/またはリーダーピンが付いている場合には、それらが付いた状態で上記の取り出しを行う。こうして取り出されたリール(磁気テープが巻回されている)は、開口部を有するケースへの移し替えが行われるまで上記測定環境に置かれる。磁気テープカートリッジにカートリッジメモリが含まれている場合には、カートリッジメモリも取り出す。取り出したリールおよびカートリッジメモリを、ケースの外部からリールの上フランジの上面および磁気テープ表面が、それぞれ光判別センサおよびレーザー変位計で観察できるように開口部が設けられたカートリッジのケースに移し替える。開口部が設けられたケースへの移し替えは上記測定環境において実施する。または、測定対象の磁気テープカートリッジのケースに上記の開口部を形成するための加工を施してもよい。開口部を形成するための加工は、磁気テープが巻回された状態のリールをケースに収容したままで、または、磁気テープが巻回された状態のリールを一旦ケース外へ取り出してから、実施することができる。リールの取り出しは、測定対象の磁気テープカートリッジを上記測定環境に1日以上置いた後、上記測定環境において実施する。リールに巻回されている磁気テープにリーダーテープおよび/またはリーダーピンが付いている場合には、それらが付いた状態で上記の取り出しを行う。こうして取り出されたリール(磁気テープが巻回されている)は、開口部の形成後にケースに再び収容されるまで上記測定環境に置かれる。開口部を形成するための加工を磁気テープが巻回された状態のリールをケースに収容したまま実施する場合、測定対象の磁気テープカートリッジを上記測定環境に1日以上置いた後、引き続き上記測定環境において開口部の形成を実施する。開口部の形成は、公知の方法で行うことができる。
リールの上フランジの上面に光を反射するシール等を貼り、これを測定中に光判別センサ等で検出することによって、磁気テープカートリッジのリール(巻芯)の回転周期を検出する。光判別センサとしては、例えばスポット径5mm程度の光を出射可能であり、かつインデックスに同期した電気信号を外部出力することが可能な光判別センサを使用することができる。具体例としては、KEYENCE社製CZ-H35SおよびCZ-C21Aを挙げることができる。
リール(巻芯)から引き出される磁気テープの表面の変位を測定するためのレーザー変位計としては、レーザースポット径が1.5mm以下であり、変位分解能が0.5μm以下であり、時間分解能が50μ秒以下であって、かつ変位量に応じた電気信号を外部出力可能なものを用いる。使用可能なレーザー変位計の具体例としては、例えばKEYENCE社製LK-G85およびLK-GD500を挙げることができる。
上記磁気テープカートリッジを磁気記録再生装置に挿入し、磁気テープをローディングする。測定に使用する磁気記録再生装置は、上記磁気テープカートリッジの装着および上記磁気テープカートリッジに収容されている磁気テープの走行が可能であれば、規格および世代は問わない。測定対象の磁気テープカートリッジのリール(磁気テープが巻回されている)およびカートリッジメモリを、ケースに開口部を有する別の磁気テープカートリッジに移し替えた場合には、磁気テープのローディングは、移し替えたカートリッジメモリに記録されている情報にしたがって行われる。
図6に、ケースに開口部を形成した磁気テープカートリッジを
図4に示す磁気記録再生装置に装着させた状態の概略図を示す。レーザー変位計によって磁気テープの表面の変位を測定できるように、磁気記録再生装置の上部を開放してもよく、または磁気記録再生装置の筐体Hに開口部を設けてもよい。例えば
図6に示したように、レーザー変位計によって磁気テープの表面の変位を測定する位置は、磁気テープが磁気テープカートリッジのリール(巻芯)から完全に巻き解かれていない回転角度位置とする。
図6中、レーザー変位計から延びる点線は、レーザー光を模式的に示している。磁気テープの表面の幅方向に対する測定箇所は、テープ幅方向の中央部、上エッジから1mm下側および下エッジから1mm上側の3箇所とする。磁気テープの幅は、規格にしたがい決定され、例えば1/2インチである。1/2インチ=12.65mmである。ただし、1/2インチ以外の幅の磁気テープにおいても、幅方向に対する測定箇所は、上記の3箇所とする。
測定時には、デジタルオシロスコープ、データロガー等を用いて、レーザー変位計によって得られる磁気テープ表面の変位の電気信号と光判別センサによって得られるリール回転インデックスの電気信号とを、それぞれ連続的に計測する。計測ピッチは、リール回転角度1°より細かい計測ピッチとする。
磁気記録再生装置において磁気テープをローディングした後、磁気テープを長手方向に0.3N(ニュートン)~1.1Nの範囲のテンションをかけて2m/秒~8m/秒の範囲の一定の速度で磁気記録再生装置のリール(
図6に示す例では巻取りリール606)に巻取りながら、磁気テープの表面の変位の電気信号とリールの回転インデックスの電気信号とを上記のようにデジタルオシロスコープ、データロガー等を用いて計測して保存する。上記のテンションの値および速度の値は、磁気記録再生装置における設定値とする。
変位の電気信号は、使用したレーザー変位計について定められている、変位の電気信号(電圧値)を変位量に換算するための係数を用いて変位量(単位:μm)に換算する。かかる係数は、例えばレーザー変位計のスペックシートに記載されている。上記計測で取得されたリールの回転インデックスの電気信号を用いて、変位量の測定結果の中から、真円度の算出に用いる測定結果を抜き出す。詳しくは、磁気テープカートリッジのリール(巻芯)に巻回されていた状態において、磁気テープのリール側の末端を内側末端、他方の末端を外側末端と呼び、巻芯1回転分を1周期として、磁気テープの外側末端から約50mの長さが磁気記録再生装置のリールに巻取られた後の連続する3回転分(3周期分)の測定結果を抜き出す。
抜き出した測定結果(変位量)を用いて、巻芯から引き出される磁気テープの軌跡の真円度の算出を1回転(1周期)毎に行い、幅方向の測定箇所3箇所において、それぞれ3回転分(3周期分)の算術平均として1回転分の軌跡の真円度を求める。3箇所についてそれぞれ求められた値の算術平均を、測定対象の磁気テープカートリッジ(磁気テープ収容体)における磁気テープの1回転分の軌跡の真円度の値とする。真円度の算出は、JISB0621:1984で規定されている方法(最小領域中心法)によって行う。真円度とは、JISB0621:1984の項目4.3で規定されているように、円形形体の幾何学的に正しい円(幾何学的円という)からの狂いの大きさをいう。真円度は、同JISの項目5.3で規定されているように、円形形体の2つの同心の幾何学的円で挟んだとき、同心二円の間隔が最小となる場合の、二円の半径の差で表される。巻芯から引き出される磁気テープの一回転分の軌跡が幾何学的円ならば、レーザー変位計によって測定されるレーザー変位計と磁気テープの表面の測定位置との距離は、一回転中、常に同じ値(以下、Xと呼ぶ)である。しかし、その軌跡が幾何学的円からずれると、レーザー変位計によって測定されるレーザー変位計と磁気テープの表面の測定位置との距離はXより短くなるか、または長くなる。この距離のXとの違いが、レーザー変位計によって計測される変位量であり、この変位量から、巻芯から引き出される磁気テープの一回転分の軌跡を描くことができる。こうして描かれる軌跡について、上記のように真円度を求める。
【0157】
磁気テープ収容体が磁気記録再生装置である場合には、装置の外部からリールのフランジの上面および磁気テープ表面が、それぞれ光判別センサおよびレーザー変位計で観察できるように、磁気記録再生装置の上部を開放するか、または磁気記録再生装置の筐体に開口部を設ける。未使用の磁気記録再生装置を用いて、この磁気記録再生装置において磁気テープを走行させることで一方のリール(巻芯)から他方のリールへ磁気テープを巻取る点以外、磁気テープ収容体が単リール型の磁気テープカートリッジである場合を例に先に記載した方法によって、上記真円度を求める。
【0158】
磁気テープ収容体が双リール型の磁気テープカートリッジである場合には、ケースの外部からリールのフランジの上面および磁気テープ表面が、それぞれ光判別センサおよびレーザー変位計で観察できるように、磁気テープカートリッジに開口部を設ける。未使用の双リール型の磁気テープカートリッジを磁気記録再生装置に装着し、磁気テープカートリッジの一方のリール(巻芯)から他方のリールへ磁気テープを巻取る点以外、磁気テープ収容体が単リール型の磁気テープカートリッジである場合を例に先に記載した方法によって、上記真円度を求める。
【0159】
通常、サーボパターンの形成後、磁気テープは磁気テープ収容体の巻芯に巻取られて磁気テープ収容体に収容される。先に記載したように、磁気テープ収容体は、一形態では磁気テープカートリッジであり、他の一形態では磁気ヘッドを含む磁気記録再生装置である。
【0160】
<磁気ヘッド>
本発明および本明細書において、「磁気記録再生装置」とは、磁気テープへのデータの記録および磁気テープに記録されたデータの再生の少なくとも一方を行うことができる装置を意味するものとする。かかる装置は、一般にドライブと呼ばれ、デジタルデータ記録用テープドライブであることができる。上記磁気テープ収容体は、一形態では磁気テープカートリッジであることができ、他の一形態では磁気ヘッドを含む磁気記録再生装置であることができる。磁気テープカートリッジを磁気記録再生装置に挿入し、磁気記録再生装置内で磁気テープを走行させて磁気ヘッドによって磁気テープへのデータの記録および/または記録されたデータの再生を行うことができる。磁気記録再生装置に含まれる磁気ヘッドは、磁気テープへのデータの記録を行うことができる記録ヘッドであることができ、磁気テープに記録されたデータの再生を行うことができる再生ヘッドであることもできる。また、磁気記録再生装置は、一形態では、別々の磁気ヘッドとして、記録ヘッドと再生ヘッドの両方を含むことができる。他の一形態では、磁気記録再生装置に含まれる磁気ヘッドは、記録素子と再生素子の両方を1つの磁気ヘッドに備えた構成を有することもできる。再生ヘッドとしては、磁気テープに記録された情報を感度よく読み取ることができる磁気抵抗効果型(MR;Magnetoresistive)素子を再生素子として含む磁気ヘッド(MRヘッド)が好ましい。MRヘッドとしては、公知の各種MRヘッド(例えば、GMR(Giant Magnetoresistive)ヘッド、TMR(Tunnel Magnetoresistive)ヘッド等)を用いることができる。また、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドには、サーボパターン読み取り素子が含まれていてもよい。または、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドとは別のヘッドとして、サーボパターン読み取り素子を備えた磁気ヘッド(サーボヘッド)が磁気記録再生装置に含まれていてもよい。例えば、データの記録および/または記録されたデータの再生を行う磁気ヘッド(以下、「記録再生ヘッド」とも呼ぶ)は、サーボ信号読み取り素子を2つ含むことができ、2つのサーボ信号読み取り素子のそれぞれが、データバンドを挟んで隣り合う2本のサーボバンドを同時に読み取ることができる。2つのサーボ信号読み取り素子の間に、1つまたは複数のデータ用素子を配置することができる。データの記録のための素子(記録素子)とデータの再生のための素子(再生素子)を、「データ用素子」と総称する。
【0161】
再生素子として再生素子幅が狭い再生素子を使用してデータの再生を行うことにより、高密度記録されたデータを高感度に再生することができる。この観点から、再生素子の再生素子幅は、0.8μm以下であることが好ましい。再生素子の再生素子幅は、例えば0.1μm以上であることができる。ただし、この値を下回ることも上記観点からは好ましい。
他方、再生素子幅が狭くなるほど、オフトラックに起因する再生不良等の現象が発生し易くなる。このような現象の発生を抑制するために、走行中、磁気テープの長手方向にかけるテンションを調整して変化させることによって、磁気テープの幅方向の寸法を制御する磁気記録再生装置は好ましい。
ここで「再生素子幅」とは、再生素子幅の物理的な寸法をいうものとする。かかる物理的な寸法は、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡等により測定が可能である。
【0162】
データの記録および/または記録されたデータの再生の際には、まず、サーボ信号を利用したヘッドトラッキングを行うことができる。即ち、サーボ信号読み取り素子を所定のサーボトラックに追従させることによって、データ用素子が、目的とするデータトラック上を通過するように制御することができる。データトラックの移動は、サーボ信号読み取り素子が読み取るサーボトラックを、テープ幅方向に変更することにより行われる。
また、記録再生ヘッドは、他のデータバンドに対する記録および/または再生を行うことも可能である。その際には、先に記載したUDIM情報を利用してサーボ信号読み取り素子を所定のサーボバンドに移動させ、そのサーボバンドに対するトラッキングを開始すればよい。
【0163】
図7に、データバンドおよびサーボバンドの配置例を示す。
図7中、磁気テープTの磁性層には、複数のサーボバンド1が、ガイドバンド3に挟まれて配置されている。2本のサーボバンドに挟まれた複数の領域2が、データバンドである。サーボパターンは、磁化領域であって、サーボライトヘッドにより磁性層の特定の領域を磁化することによって形成される。サーボライトヘッドにより磁化する領域(サーボパターンを形成する位置)は規格により定められている。例えば業界標準規格であるLTO Ultriumフォーマットテープには、磁気テープ製造時に、
図8に示すようにテープ幅方向に対して傾斜した複数のサーボパターンが、サーボバンド上に形成される。詳しくは、
図8中、サーボバンド1上のサーボフレームSFは、サーボサブフレーム1(SSF1)およびサーボサブフレーム2(SSF2)から構成される。サーボサブフレーム1は、Aバースト(
図8中、符号A)およびBバースト(
図8中、符号B)から構成される。AバーストはサーボパターンA1~A5から構成され、BバーストはサーボパターンB1~B5から構成される。一方、サーボサブフレーム2は、Cバースト(
図8中、符号C)およびDバースト(
図8中、符号D)から構成される。CバーストはサーボパターンC1~C4から構成され、DバーストはサーボパターンD1~D4から構成される。このような18本のサーボパターンが5本と4本のセットで、5、5、4、4、の配列で並べられたサブフレームに配置され、サーボフレームを識別するために用いられる。
図8には、説明のために1つのサーボフレームを示した。ただし、実際には、タイミングベースサーボ方式のヘッドトラッキングが行われる磁気テープの磁性層には、各サーボバンドに、複数のサーボフレームが走行方向に配置されている。
図8中、矢印は走行方向を示している。例えば、LTO Ultriumフォーマットテープは、通常、磁性層の各サーボバンドに、テープ長1mあたり5000以上のサーボフレームを有する。
【実施例0164】
以下に、本発明の一態様を実施例に基づき説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。以下に記載の「部」、「%」の表示は、特に断らない限り、「質量部」、「質量%」を示す。「eq」は、当量(equivalent)であり、SI単位に換算不可の単位である。
また、以下の各種工程および操作は、特記しない限り、温度20~25℃および相対湿度40~60%の環境において行った。
【0165】
[非磁性支持体]
表1中、「PET」はポリエチレンテレフタレート支持体を示し、「PEN」はポリエチレンナフタレート支持体を示す。表1中のヤング率は、先に記載の方法によって測定された値である。
【0166】
[強磁性粉末]
表1中、強磁性粉末の欄における「BaFe」は、平均粒子サイズ(平均板径)21nmの六方晶バリウムフェライト粉末を示す。
【0167】
表1中、強磁性粉末の欄における「SrFe1」は、以下のように作製された六方晶ストロンチウムフェライト粉末を示す。
SrCO3を1707g、H3BO3を687g、Fe2O3を1120g、Al(OH)3を45g、BaCO3を24g、CaCO3を13g、およびNd2O3を235g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶融温度1390℃で溶融し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ローラーで圧延急冷して非晶質体を作製した。
作製した非晶質体280gを電気炉に仕込み、昇温速度3.5℃/分にて635℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持して六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、ガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gと濃度1%の酢酸水溶液を800mL加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の平均粒子サイズは18nm、活性化体積は902nm3、異方性定数Kuは2.2×105J/m3、質量磁化σsは49A・m2/kgであった。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって部分溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子の表層部含有率を求めた。
別途、上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって全溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子のバルク含有率を求めた。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の鉄原子100原子%に対するネオジム原子の含有率(バルク含有率)は、2.9原子%であった。また、ネオジム原子の表層部含有率は8.0原子%であった。表層部含有率とバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は2.8であり、ネオジム原子が粒子の表層に偏在していることが確認された。
【0168】
上記で得られた粉末が六方晶フェライトの結晶構造を示すことは、CuKα線を電圧45kVかつ強度40mAの条件で走査し、下記条件でX線回折パターンを測定すること(X線回折分析)により確認した。上記で得られた粉末は、マグネトプランバイト型(M型)の六方晶フェライトの結晶構造を示した。また、X線回折分析により検出された結晶相は、マグネトプランバイト型の単一相であった。
PANalytical X’Pert Pro回折計、PIXcel検出器
入射ビームおよび回折ビームのSollerスリット:0.017ラジアン
分散スリットの固定角:1/4度
マスク:10mm
散乱防止スリット:1/4度
測定モード:連続
1段階あたりの測定時間:3秒
測定速度:毎秒0.017度
測定ステップ:0.05度
【0169】
表1中、強磁性粉末の欄における「SrFe2」は、以下のように作製された六方晶ストロンチウムフェライト粉末を示す。
SrCO3を1725g、H3BO3を666g、Fe2O3を1332g、Al(OH)3を52g、CaCO3を34g、BaCO3を141g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶融温度1380℃で溶解し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ロールで圧延急冷して非晶質体を作製した。
得られた非晶質体280gを電気炉に仕込み、645℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持し六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、ガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gと濃度1%の酢酸水溶液を800mL加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の平均粒子サイズは19nm、活性化体積は1102nm3、異方性定数Kuは2.0×105J/m3、質量磁化σsは50A・m2/kgであった。
【0170】
表1中、強磁性粉末の欄における「ε-酸化鉄」は、以下のように作製されたε-酸化鉄粉末を示す。
純水90gに、硝酸鉄(III)9水和物8.3g、硝酸ガリウム(III)8水和物1.3g、硝酸コバルト(II)6水和物190mg、硫酸チタン(IV)150mg、およびポリビニルピロリドン(PVP)1.5gを溶解させたものを、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、大気雰囲気中、雰囲気温度25℃の条件下で、濃度25%のアンモニア水溶液4.0gを添加し、雰囲気温度25℃の温度条件のまま2時間撹拌した。得られた溶液に、クエン酸1gを純水9gに溶解させて得たクエン酸水溶液を加え、1時間撹拌した。撹拌後に沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で乾燥させた。
乾燥させた粉末に純水800gを加えて再度粉末を水に分散させて分散液を得た。得られた分散液を液温50℃に昇温し、撹拌しながら濃度25%アンモニア水溶液を40g滴下した。50℃の温度を保ったまま1時間撹拌した後、テトラエトキシシラン(TEOS)14mLを滴下し、24時間撹拌した。得られた反応溶液に、硫酸アンモニウム50gを加え、沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で24時間乾燥させ、強磁性粉末の前駆体を得た。
得られた強磁性粉末の前駆体を、大気雰囲気下、炉内温度1000℃の加熱炉内に装着し、4時間の熱処理を施した。
熱処理した強磁性粉末の前駆体を、4mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に投入し、液温を70℃に維持して24時間撹拌することにより、熱処理した強磁性粉末の前駆体から不純物であるケイ酸化合物を除去した。
その後、遠心分離処理により、ケイ酸化合物を除去した強磁性粉末を採集し、純水で洗浄を行い、強磁性粉末を得た。
得られた強磁性粉末の組成を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES;Inductively Coupled Plasma-Optical Emission Spectrometry)により確認したところ、Ga、CoおよびTi置換型ε-酸化鉄(ε-Ga0.28Co0.05Ti0.05Fe1.62O3)であった。また、先に六方晶ストロンチウムフェライト粉末SrFe1に関して記載した条件と同様の条件でX線回折分析を行い、X線回折パターンのピークから、得られた強磁性粉末が、α相およびγ相の結晶構造を含まない、ε相の単相の結晶構造(ε-酸化鉄の結晶構造)を有することを確認した。
得られたε-酸化鉄粉末の平均粒子サイズは12nm、活性化体積は746nm3、異方性定数Kuは1.2×105J/m3、質量磁化σsは16A・m2/kgであった。
【0171】
上記の六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε-酸化鉄粉末の活性化体積および異方性定数Kuは、各強磁性粉末について、振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて、先に記載の方法により求められた値である。
また、質量磁化σsは、振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて磁場強度1194kA/m(15kOe)で測定された値である。
【0172】
[実施例1]
(1)アルミナ分散物の調製
アルファ化率約65%、BET(Brunauer-Emmett-Teller)比表面積20m2/gのアルミナ粉末(住友化学社製HIT-80)100.0部に対し、3.0部の2,3-ジヒドロキシナフタレン(東京化成社製)、極性基としてSO3Na基を有するポリエステルポリウレタン樹脂(東洋紡社製UR-4800(極性基量:80meq/kg))の32%溶液(溶媒はメチルエチルケトンとトルエンの混合溶媒)を31.3部、溶媒としてメチルエチルケトンとシクロヘキサノン1:1(質量比)の混合溶液570.0部を混合し、ジルコニアビーズ存在下で、ペイントシェーカーにより5時間分散させた。分散後、メッシュにより分散液とビーズとを分け、アルミナ分散物を得た。
【0173】
(2)磁性層形成用組成物処方
(磁性液)
強磁性粉末(表1参照) 100.0部
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂 14.0部
重量平均分子量:70,000、SO3Na基:0.2meq/g
シクロヘキサノン 150.0部
メチルエチルケトン 150.0部
(研磨剤液)
上記(1)で調製したアルミナ分散物 6.0部
(シリカゾル(突起形成剤液))
コロイダルシリカ(平均粒子サイズ120nm) 2.0部
メチルエチルケトン 1.4部
(その他の成分)
ステアリン酸 2.0部
ステアリン酸アミド 0.2部
ブチルステアレート 2.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネート(登録商標)L) 2.5部
(仕上げ添加溶媒)
シクロヘキサノン 200.0部
メチルエチルケトン 200.0部
【0174】
(3)非磁性層形成用組成物処方
非磁性無機粉末:α-酸化鉄 100.0部
平均粒子サイズ(平均長軸長):0.15μm
平均針状比:7
BET比表面積:52m2/g
カーボンブラック 20.0部
平均粒子サイズ:20nm
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂 18.0部
重量平均分子量:70,000、SO3Na基:0.2meq/g
ポリエチレンイミン(日本触媒社製、数平均分子量600) 表1参照
ステアリン酸 表1参照
ステアリン酸アミド 0.2部
ブチルステアレート 2.0部
シクロヘキサノン 300.0部
メチルエチルケトン 300.0部
【0175】
(4)バックコート層形成用組成物処方
カーボンブラック 100.0部
DBP(Dibutyl phthalate)吸油量74cm3/100g
ニトロセルロース 27.0部
スルホン酸基および/またはその塩を含有するポリエステルポリウレタン樹脂
62.0部
ポリエステル樹脂 4.0部
アルミナ粉末(BET比表面積:17m2/g) 0.6部
ポリエチレンイミン(日本触媒社製、数平均分子量600) 表1参照
ステアリン酸 表1参照
メチルエチルケトン 600.0部
トルエン 600.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネート(登録商標)L) 15.0部
【0176】
(5)各層形成用組成物の調製
磁性層形成用組成物を、以下の方法により調製した。上記磁性液を、各成分をバッチ式縦型サンドミルを用いて24時間分散(ビーズ分散)することにより調製した。分散ビーズとしては、ビーズ径0.5mmのジルコニアビーズを使用した。上記サンドミルを用いて、調製した磁性液、上記研磨剤液、シリカゾル、その他の成分および仕上げ添加溶媒を混合し5分間ビーズ分散した後、バッチ型超音波装置(20kHz、300W)で0.5分間処理(超音波分散)を行った。その後、0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過を行い磁性層形成用組成物を調製した。
非磁性層形成用組成物を、以下の方法により調製した。ステアリン酸、ステアリン酸アミドおよびブチルステアレートを除く上記成分を、オープンニーダにより混練および希釈処理し、その後、横型ビーズミル分散機により分散処理を実施した。その後、ステアリン酸、ステアリン酸アミドおよびブチルステアレートを添加して、ディゾルバー撹拌機にて撹拌および混合処理を施して非磁性層形成用組成物を調製した。
バックコート層形成用組成物を、以下の方法により調製した。ポリイソシアネートを除く上記成分を、ディゾルバー撹拌機に導入し、周速10m/秒で30分間撹拌した後、横型ビーズミル分散機により分散処理を実施した。その後、ポリイソシアネートを添加して、ディゾルバー撹拌機にて撹拌および混合処理を施し、バックコート層形成用組成物を調製した。
【0177】
(6)磁気テープおよび磁気テープカートリッジの作製方法
表1に記載の種類および厚みの二軸延伸された支持体の表面上に、乾燥後の厚みが表1に記載の厚みとなるように上記(5)で調製した非磁性層形成用組成物を塗布および乾燥させて非磁性層を形成した。次いで、非磁性層上に乾燥後の厚みが表1に記載の厚みとなるように上記(5)で調製した磁性層形成用組成物を塗布して塗布層を形成した。その後に、磁性層形成用組成物の塗布層が未乾燥状態にあるうちに、磁場強度0.3Tの磁場を塗布層の表面に対し垂直方向に印加して垂直配向処理を行った後、乾燥させ、磁性層を形成した。その後、支持体の非磁性層および磁性層を形成した表面とは反対側の表面に、乾燥後の厚みが表1に記載の厚みとなるように上記(5)で調製したバックコート層形成用組成物を塗布および乾燥させてバックコート層を形成した。
その後、金属ロールのみから構成されるカレンダロールを用いて、表1に記載のカレンダ速度、カレンダ圧力(線圧)およびカレンダ温度(カレンダロールの表面温度)にて、表面平滑化処理(カレンダ処理)を行った。
その後、長尺状の磁気テープ原反を雰囲気温度70℃の熱処理炉内に保管することにより熱処理を行った(熱処理時間:36時間)。熱処理後、1/2インチ幅にスリットして、磁気テープを得た。得られた磁気テープの磁性層に市販のサーボライターによってサーボ信号を記録することにより、LTO(Linear Tape-Open) Ultriumフォーマットにしたがう配置でデータバンド、サーボバンド、およびガイドバンドを有し、かつサーボバンド上にLTO Ultriumフォーマットにしたがう配置および形状のサーボパターン(タイミングベースサーボパターン)を有する磁気テープを得た。こうして形成されたサーボパターンは、JIS(Japanese Industrial Standards) X6175:2006およびStandard ECMA-319(June 2001)の記載にしたがうサーボパターンである。サーボバンドの合計本数は5、データバンドの合計本数は4である。
上記サーボパターン形成後の磁気テープ(長さ970m)を熱処理用巻芯に巻き取り、この巻芯に巻き付けた状態で熱処理した。熱処理用巻芯としては、曲げ弾性率0.8GPaの樹脂製の中実状の芯状部材(外径:50mm)を使用し、巻き取り時のテンションは0.6Nとした。熱処理は、表1に示す熱処理温度で5時間行った。熱処理を行った雰囲気の重量絶対湿度は、10g/kg Dry airであった。
上記熱処理後、磁気テープおよび熱処理用巻芯が十分冷却された後に磁気テープを熱処理用巻芯から取り外し、一時巻き取り用巻芯に巻き取り、その後、一時巻き取り用巻芯から磁気テープカートリッジ(LTO Ultrium7データカートリッジ)のリール(リール外径:44mm)へ最終製品長分(960m)の磁気テープを巻き取り、残り10m分は切り取り、切り取り側の末端に、市販のスプライシングテープによって、Standard ECMA(European Computer Manufacturers Association)-319(June 2001) Section 3の項目9にしたがうリーダーテープを接合させた。一時巻き取り用巻芯としては、熱処理用巻芯と同じ材料製で同じ外径を有する中実状の芯状部材を使用し、巻き取り時のテンションは0.6Nとした。
上記で磁気テープを収容する磁気テープカートリッジとしては、
図1に示す構成の単リール型の磁気テープカートリッジを使用した。この磁気テープカートリッジのリールハブは、ガラス繊維強化ポリカーボネートを射出成形した単層構成のリールハブ(厚み:2.5mm、外径:44mm)である。このガラス繊維強化ポリカーボネートのガラス繊維の含有率は、表1に示す値である。射出成形用のガラス繊維強化ポリカーボネートの一部を採取し、JIS K 7171:2016の項目6.3.1(成形材料からの作製)にしたがい、同JISの項目6.1.2に記載されている推奨試験片を作製し、同JISにしたがい曲げ弾性率(5つの試験片の算術平均)を求めたところ、表1に示す値であった。この後に記載の実施例および比較例についても、リールハブ材料の曲げ弾性率は、上記方法により求めた。上記の熱処理用巻芯の曲げ弾性率も同様に求めた値である。
上記磁気テープカートリッジのリールハブに、テープ長手方向に1.0N以下のテンションをかけながら、磁気テープを巻回させ、磁気テープカートリッジに磁気テープを収容した。
以上により、長さ960mの磁気テープがリールに巻装された単リール型の実施例1の磁気テープカートリッジを作製した。
【0178】
磁気テープにポリエチレンイミンとステアリン酸により形成された、式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を含む化合物が含まれることは、先に記載した方法によって確認できる。例えば、バックコート層にポリエチレンイミンとステアリン酸により形成された、式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を含む化合物が含まれることは、以下の方法により確認できる。
磁気テープからサンプルを切り出し、バックコート層表面(測定領域:300μm×700μm)においてESCA装置を用いてX線光電子分光分析を行う。詳しくは、下記測定条件でESCA装置によりワイドスキャン測定を行う。測定結果では、エステルアニオンの結合エネルギーの位置およびアンモニウムカチオンの結合エネルギーの位置にピークが確認される。
装置:島津製作所製AXIS-ULTRA
励起X線源:単色化Al-Kα線
スキャン範囲:0~1200eV
パスエネルギー:160eV
エネルギー分解能 1eV/step
取り込み時間:100ms/step
積算回数:5
また、磁気テープから長さ3cmのサンプル片を切り出し、バックコート層表面のATR-FT-IR(Attenuated total reflection-fourier transform-infrared spectrometer)測定(反射法)を行うと、測定結果において、COO-の吸収に対応する波数(1540cm-1または1430cm-1)、およびアンモニウムカチオンの吸収に対応する波数(2400cm-1)に吸収が確認される。
【0179】
以上の工程を繰り返し、4つの磁気テープカートリッジを作製した。4つの磁気テープカートリッジの中の1つの磁気テープカートリッジを下記(7)および(8)のために使用し、もう1つの磁気テープカートリッジを下記(9)のために使用し、もう1つの磁気テープカートリッジを下記(10)のために使用し、残りの1つの磁気テープカートリッジを下記(11)のために使用した。
【0180】
(7)テープ厚み
磁気テープの任意の部分からテープサンプル(長さ5cm)を10枚切り出し、これらテープサンプルを重ねて厚みを測定した。厚みの測定は、MARH社製Millimar 1240コンパクトアンプとMillimar 1301誘導プローブのデジタル厚み計を用いて行った。測定された厚みを10分の1して得られた値(テープサンプル1枚当たりの厚み)を、テープ厚みとした。各磁気テープについて、テープ厚みは、それぞれ表1に示す厚みであった。
【0181】
(8)Δwの測定
磁気テープカートリッジから取り出した磁気テープについて、先に記載した方法によってΔwを求めた。
【0182】
(9)σGの測定、変動係数CVの算出
測定対象の磁気テープが収容されている磁気テープカートリッジを、測定環境(雰囲気温度25℃、相対湿度50%)に馴染ませるために同環境に5日間以上置いた。その後、その測定環境にて、
図4に示す磁気テープ装置において、磁気テープの長手方向に0.6Nのテンションをかけた状態で磁気テープを走行させ、先に記載した方法によってσGを求めた。データバンドを挟んで隣り合う2本のサーボバンドの間隔は、以下のように求めた。
データバンドを挟んで隣り合う2本のサーボバンドの間隔を求めるためには、サーボパターンの寸法が必要である。サーボパターンの寸法の規格は、LTOの世代によって異なる。そこでまず、磁気力顕微鏡等を用いて、AバーストとCバーストの対応する4ストライプ間の平均距離AC、およびサーボパターンのアジマス角αを計測する。
次に、リールテスタと、磁気テープの長手方向と直交する方向に間隔をおいて固定された2つのサーボ信号読み取り素子(以下では、一方を上側、他方を下側と呼ぶ)を備えたサーボヘッドとを用いて、磁気テープに形成されたサーボパターンをテープ長手方向に沿って順次読み取る。1LPOSワードの長さにわたるAバーストとBバーストに対応する5ストライプ間の平均時間をaと定義する。1LPOSワードの長さにわたるAバーストとCバーストの対応する4ストライプの平均時間をbと定義する。このとき、AC×(1/2-a/b)/(2×tan(α))で定義される値が、1LPOSワードの長さにわたってサーボ信号読み取り素子により得られたサーボ信号に基づく幅方向の読み取り位置PESを表す。1 LPOSワードについてのサーボパターンの読み取りは、上側と下側の2つのサーボ信号読み取り素子により同時に行う。上側のサーボ信号読み取り素子により得られたPESの値をPES1、下側のサーボ信号読み取り素子により得られたPESの値をPES2とする。「PES2-PES1」として、1 LPOSワードについて、データバンドを挟んで隣り合う2本のサーボバンドの間隔を求めることができる。これは、上側と下側のサーボパターン読み取り素子がサーボヘッドに固定されてその間隔が変わらないからである。
上記で求められたΔwとσGから、先に示した式Aによって変動係数CVを算出した。
【0183】
(10)真円度の測定
レーザー変位計としてKEYENCE社製LK-G85およびLK-GD500を使用し、光判別センサとしてKEYENCE社製CZ-H35SおよびCZ-C21Aを使用し、先に記載した方法によって、磁気テープカートリッジのリール(巻芯)に巻回された磁気テープを巻芯から引き出す際に磁気テープが描く1回転分の軌跡の真円度を求め、更に、磁気テープの幅方向の3箇所について、1回転分の軌跡の平均の最小領域基準円半径の最大値と最小値との差(基準円半径差)および平均の最小領域基準円の中心位置のズレの最大値(基準円中心位置ズレ)を求めた。上記測定は、上記磁気テープカートリッジのケースから磁気テープが巻回された状態のリールを取り出し、このリールを先に記載したように開口部が形成されたカートリッジケースに移し替えて実施した。
【0184】
(11)転送レートの測定
磁気テープカートリッジを磁気記録再生装置に挿入し、磁気テープへのデータの記録および記録されたデータの再生を行った。磁気記録再生装置としては、再生素子幅0.8μmの再生素子および記録素子を32チャンネル以上有し、その両側にサーボ信号読み取り素子を有する記録再生ユニットを備えた、
図4に示した構成の磁気記録再生装置を使用した。
磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置を測定環境(雰囲気温度20~25℃、相対湿度40~60%)に1日間以上慣らした後、テープ全長全幅で記録および再生を行った。上記記録再生時、ドライブ制御ソフトを使用して磁気テープの最大容量を記録再生した。また、上記記録再生時、磁気記録再生装置の制御装置によって行われたテンション調整により、磁気テープの長手方向にかかるテンションは変化した。上記記録再生について、「記録または再生した容量」を「記録または再生に要した時間」で割ることで、単位時間当たりに記録または再生された容量(MB/秒)として転送レートを算出した。記録した容量を記録に要した時間で割って算出された値と再生した容量を再生に要した時間で割った値とが異なる場合には、より低い値を転送レートとして採用した。表1には、転送レートを、磁気記録再生装置と磁気テープとの組み合わせでの最大転送レートを100.0%とする相対値として示す。
上記最大転送レートは、例えば以下の方法によって求められる。
LTO-G8(Generation8)メディア、LTO-8ドライブおよびIBM社製フリーソフト(IBM Tape Diagnostic Tool - Graphical Edition)を用いて、「Read And Write Tests」コマンドをして最大容量を記録再生し、得られたlogデータファイルを読み込むことで「DataRate」を取得できる。LTO-G8メディア(非圧縮、フルハイトドライブ)の場合、転送レート100.0%=360MB/秒が得られる。
【0185】
[実施例2~22、比較例1~14]
表1中の項目を表1に示されているように変更した点以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
表1中、「熱処理温度」の欄に「なし」と記載されている比較例では、熱処理用巻芯に巻き付けた状態での熱処理を行わなかった。
【0186】
以上の結果を、表1(表1-1~表1-3)に示す。
【0187】
【0188】
【0189】
【0190】
表1に示すように、実施例において、比較例と比べて高い転送レートでの記録再生が可能であった。
【0191】
磁気テープ作製時に垂直配向処理を行わなかった点以外、実施例1について先に記載した方法で磁気テープカートリッジを作製した。
上記磁気テープカートリッジから取り出した磁気テープからサンプル片を切り出した。このサンプル片について、振動試料型磁力計として玉川製作所製TM-TRVSM5050-SMSL型を用いて、先に記載した方法によって垂直方向角型比を求めたところ、0.55であった。
実施例1の磁気テープカートリッジからも磁気テープを取り出し、この磁気テープから切り出したサンプル片について同様に垂直方向角型比を求めたところ、0.60であった。
【0192】
上記2つの磁気テープカートリッジから取り出した磁気テープを、それぞれ1/2インチリールテスターに取り付け、以下の方法によって電磁変換特性(SNR;Signal-to-Noise Ratio)を評価した。その結果、実施例1の磁気テープカートリッジから取り出した磁気テープについて、垂直配向処理なしで作製された上記磁気テープと比べて、2dB高いSNRの値が得られた。
温度23℃相対湿度50%の環境において、磁気テープの長手方向に0.7Nのテンションをかけて記録および再生を10パス行った。磁気テープと磁気ヘッドとの相対速度は6m/秒とし、記録は、記録ヘッドとしてMIG(Metal-in-gap)ヘッド(ギャップ長0.15μm、トラック幅1.0μm)を使用し、記録電流を各磁気テープの最適記録電流に設定して行った。再生は、再生ヘッドとしてGMR(Giant-magnetoresistive)ヘッド(素子厚み15nm、シールド間隔0.1μm、再生素子幅0.8μm)を使用して行った。線記録密度300kfciの信号を記録し、再生信号をシバソク社製のスペクトラムアナライザーで測定した。単位kfciとは、線記録密度の単位(SI単位系に換算不可)である。信号としては、磁気テープ走行開始後に信号が十分に安定した部分を使用した。