(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132077
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】無機部材の製造方法、無機部材、シャワープレート、半導体製造装置、並びに、レーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/382 20140101AFI20220831BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20220831BHJP
B23K 26/12 20140101ALI20220831BHJP
B23K 26/386 20140101ALI20220831BHJP
B23K 26/16 20060101ALI20220831BHJP
C23C 16/455 20060101ALI20220831BHJP
C04B 41/91 20060101ALI20220831BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20220831BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
B23K26/382
B23K26/00 G
B23K26/12
B23K26/386
B23K26/16
C23C16/455
C04B41/91 E
H01L21/302 101G
H01L21/205
H01L21/302 101B
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203905
(22)【出願日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2021029900
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】柴田 章広
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 康章
(72)【発明者】
【氏名】東 慎也
(72)【発明者】
【氏名】河原 弘治
【テーマコード(参考)】
4E168
4K030
5F004
5F045
【Fターム(参考)】
4E168AD12
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(57)【要約】
【課題】レーザ加工の際のデブリの発生を抑制できる無機部材の製造方法等の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の無機部材(1)の製造方法は、厚さが2mm以上の無機物からなる基材(2)に、低酸素雰囲気、或いは、少量のO
2及びCO
2の少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気、又は、NF
3、F
2及びHFの少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気にて、レーザを照射し、貫通孔、或いは1mm以上の深さを有する止まり穴を形成することを特徴とする。本発明の無機部材は、厚さが2mm以上の無機物からなる基材と、前記基材に形成された貫通孔、或いは1mm以上の深さを有する止まり穴と、を有し、前記貫通孔の側壁面に変質層を有することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが2mm以上の無機物からなる基材に、
低酸素雰囲気、或いは、少量のO2及びCO2の少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気、又は、NF3、F2及びHFの少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気にて、レーザを照射し、貫通孔、或いは1mm以上の深さを有する止まり穴を形成することを特徴とする無機部材の製造方法。
【請求項2】
前記レーザは、前記基材の主結晶のバンドギャップよりも大きい光子エネルギーを有することを特徴とする請求項1に記載の無機部材の製造方法。
【請求項3】
前記レーザの波長は、400nm以下であることを特徴とする請求項2に記載の無機部材の製造方法。
【請求項4】
前記レーザは、多光子吸収が生じるパルス幅を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の無機部材の製造方法。
【請求項5】
前記パルス幅は、50nsec以下であることを特徴とする請求項4に記載の無機部材の製造方法。
【請求項6】
前記ドライエッチングガス雰囲気は、フッ化物ガスを含むことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の無機部材の製造方法。
【請求項7】
前記フッ化物ガスは、CF4、C2F6、C3F6、C4F6、C5F8、CHF3、C3F8、C4F10、HF、NF3、SF6、CF3Cl、CF2Cl2及びF2の少なくともいずれか1種を含むことを特徴とする請求項6に記載の無機部材の製造方法。
【請求項8】
前記ドライエッチングガス雰囲気は、CCl4及びCl2の少なくともいずれか1種を含むことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の無機部材の製造方法。
【請求項9】
前記無機物は、無機化合物を含むことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の無機部材の製造方法。
【請求項10】
前記無機化合物は、炭化物、窒化物、及び酸化物の少なくともいずれか1種を主成分として含むことを特徴とする請求項9に記載の無機部材の製造方法。
【請求項11】
前記炭化物は、シリコンカーバイド、ボロンカーバイド、タンタルカーバイド、及びタングステンカーバイドの少なくともいずれか1種を主成分として含むことを特徴とする請求項10に記載の無機部材の製造方法。
【請求項12】
前記窒化物は、シリコンナイトライド、及びボロンナイトライドの少なくともいずれか1種を主成分として含むことを特徴とする請求項10に記載の無機部材の製造方法。
【請求項13】
前記酸化物は、アルミナ、チタニア、石英、マグネシア、及びクロミアの少なくともいずれか1種を主成分として含むことを特徴とする請求項10に記載の無機部材の製造方法。
【請求項14】
前記レーザーの平均加工ピッチを0.1μm以上とすることを特徴とする請求項1から請求項13のいずれかに記載の無機部材の製造方法。
【請求項15】
厚さが2mm以上の無機物からなる基材と、
前記基材に形成された貫通孔、或いは1mm以上の深さを有する止まり穴と、を有し、
前記貫通孔、或いは前記止まり穴の側壁面に変質層を有することを特徴とする無機部材。
【請求項16】
前記変質層は、厚みが10μm以下であり、かつ、元素組成比率、結晶状態、重量密度、或いは、電気特性が前記基材と異なることを特徴とする請求項15に記載の無機部材。
【請求項17】
前記貫通孔、或いは前記止まり穴のアスペクト比は、2以上であることを特徴とする請求項15又は請求項16に記載の無機部材。
【請求項18】
前記基材には、前記貫通孔が形成されることを特徴とする請求項1から請求項17のいずれかに記載の無機部材の製造方法又は無機部材。
【請求項19】
請求項15から請求項17のいずれかに記載の無機部材に、複数の前記貫通孔、或いは前記止まり穴が形成されてなることを特徴とするシャワープレート。
【請求項20】
前記貫通孔、或いは前記止まり穴が0.1°以上40°以下の傾斜角度を有することを特徴とする請求項19に記載のシャワープレート。
【請求項21】
厚さが2mm以上の無機物からなる基材と、
前記基材に形成された複数の貫通孔、或いは1mm以上の深さを有する止まり穴と、を有し、
前記貫通孔、或いは前記止まり穴の中心軸は、前記基材の表面の法線方向から中心軸傾斜角θ1にて傾いており、前記貫通孔、或いは前記止まり穴の側壁面は、前記中心軸に対してテーパ角θ2にて傾いていることを特徴とするシャワープレート。
【請求項22】
前記中心軸傾斜角θ1と前記テーパ角θ2とを足した傾斜角度θが、0.1°以上40°以下であることを特徴とする請求項21に記載のシャワープレート。
【請求項23】
請求項19から請求項22のいずれかに記載の前記シャワープレートを具備することを特徴とする半導体製造装置。
【請求項24】
基材を格納可能なチャンバーと、
前記基材にレーザを照射するレーザ照射部と、
前記チャンバー内の加工雰囲気を、低酸素雰囲気、或いは、少量のO2及びCO2の少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気、又は、NF3、F2及びHFの少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気に制御するガス制御部と、を具備することを特徴とするレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機部材の製造方法、無機部材、前記無機部材からなるシャワープレート、前記シャワープレートを具備する半導体製造装置、並びに、レーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無機物からなる基材に、孔加工を施して貫通孔を形成する技術が知られている。孔加工の一つとして、ドリル、超音波、放電及び、研削研磨などの機械的加工が知られている。しかしながら、無機物からなる基材は、硬度や耐久性が高く、その高さに比例して、機械的加工の加工効率が著しく低下した。また、ドリル、超音波端子、及び放電端子などの工具損耗が激しく、かつ、除去速度が著しく遅いとの課題もあった。
【0003】
一方、レーザ加工では、基材の硬度や耐久性に依存しない利点がある。例えば、特許文献1に記載の発明には、厚さが0.4mmの窒化珪素からなるセラミック材に、YAGレーザにより孔加工を施した実施例が開示されている。特許文献2に記載の発明には、次のことが記載されている。すなわち、フェムト秒レーザの照射により、加工材に凹部を形成した際、微細な堆積物としてデブリが生じる。このデブリを、低出力のフェムトレーザにより除去する技術が開示されている。特許文献3に記載の発明には、基材にレーザで孔加工する際、酸素濃度を制御することで、孔の側壁面に成長する酸化物層の厚さを制御する技術が開示されている。特許文献4に記載の発明には、窒化珪素板に、四塩化炭素ガスを用いてレーザ加工を施した技術が開示されている。
また、特許文献5には、電極板に形成するガス穴を、ストレート細孔とスロープ細孔とで形成し、ストレート細孔をドリルで形成し、スロープ細孔をレーザで形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-248861号公報
【特許文献2】特開2008-119735号公報
【特許文献3】特表2005-507318号公報
【特許文献4】特開昭58-125677号公報
【特許文献5】特開2012-69868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、厚さが2mm以上の無機物からなる基材に、レーザを照射して、貫通孔を形成する際、デブリが発生し、そのデブリが、孔内部に堆積した。そして、デブリの堆積が、後続のレーザ加工を阻害し、加工効率が著しく低下した。
【0006】
特許文献1から特許文献4には、厚さが2mm以上の無機物からなる基材に対するレーザ加工において、デブリの発生を抑制しつつ、貫通孔を形成した適用例は開示されていない。
【0007】
また、特許文献5では、基材の厚みが定かでなく、厚さが2mm以上の無機物からなる基材に、レーザを用いて、デブリの発生を抑制しつつ、貫通孔を形成できた事例は開示されていない。
【0008】
また、貫通孔の形成のみならず、厚さが2mm以上の無機物からなる基材に対し、深さが深い止まり穴を形成する場合にも上記と同様の問題が生じた。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、デブリの発生を抑制し、加工効率を向上できる無機部材の製造方法の提供を目的とする。
【0010】
また、本発明は、高精度に形成された貫通孔、或いは止まり穴を有する無機部材、シャワープレート、及び、シャワープレートを具備する半導体製造装置の提供を目的とする。更には、本発明は、デブリの発生を抑制できる無機部材の製造方法を実現可能なレーザ加工装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の一態様によれば、厚さが2mm以上の無機物からなる基材に、低酸素雰囲気、或いは、少量のO2及びCO2の少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気、又は、NF3、F2及びHFの少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気にて、レーザを照射し、貫通孔、或いは1mm以上の深さを有する止まり穴を形成することを特徴とする無機部材の製造方法が提供される。
【0012】
また、本発明の一態様によれば、厚さが2mm以上の無機物からなる基材と、前記基材に形成された貫通孔、或いは1mm以上の深さを有する止まり穴と、を有し、前記貫通孔、或いは前記止まり穴の側壁面に変質層を有することを特徴とする無機部材が提供される。
【0013】
また、本発明の一態様によれば、上記に記載の無機部材に、複数の前記貫通孔、或いは前記止まり穴が形成されてなることを特徴とするシャワープレートが提供される。或いは、本発明の一態様によれば、厚さが2mm以上の無機物からなる基材と、前記基材に形成された複数の貫通孔、或いは1mm以上の深さを有する止まり穴と、を有し、前記貫通孔、或いは前記止まり穴の中心軸は、前記基材の表面の法線方向から中心軸傾斜角θ1にて傾いており、前記貫通孔、或いは前記止まり穴の内壁面は、前記中心軸に対してテーパ角θ2にて傾いていることを特徴とするシャワープレートが提供される。
【0014】
また、本発明の一態様によれば、上記に記載の前記シャワープレートを具備することを特徴とする半導体製造装置が提供される。
【0015】
また、本発明の一態様によれば、基材を格納可能なチャンバーと、前記基材にレーザを照射するレーザ照射部と、前記チャンバー内の加工雰囲気を、低酸素雰囲気、或いは、少量のO2及びCO2の少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気、又は、NF3、F2及びHFの少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気に制御するガス制御部と、を具備することを特徴とするレーザ加工装置が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、基材に貫通孔、或いは深さが深い止まり穴をレーザ加工にて形成する際、デブリの発生を抑制でき、加工効率を向上させた無機部材の製造方法が提供される。
【0017】
本発明の一態様によれば、デブリの堆積が抑制され、貫通孔、或いは止まり穴が高精度に形成された無機部材が提供される。更に、複数の貫通孔、或いは止まり穴が高精度に形成されたシャワープレート及びそれを用いた半導体製造装置が提供される。
【0018】
本発明の一態様によれば、デブリの発生を抑制できる無機部材の製造方法を実現可能なレーザ加工装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1Aは、本実施形態による無機部材の製造方法を示す断面図である。
図1Bは、
図1Aの製造方法により、デブリの堆積を抑制できることを概念的に示す断面図である。
【
図2】
図2A及び
図2Bは、従来例として、デブリが堆積する過程を概念的に示す断面図である。
【
図4】例1及び例2による、デブリ成分のSEM/EDX分析結果を示す図である。
【
図5】化学蒸着法により結晶成長させたSiCに対し、波長及びパルス幅を変えた種々のパルスレーザを照射した際の照射フルーエンスと、アブレーションレートとの関係を示すグラフである。
【
図7】
図7A~
図7Dは、基材に貫通孔が形成された各実施形態を示す無機部材の断面図である。
【
図8】
図8A~
図8Fは、基材に斜めに傾く貫通孔が形成された各実施形態を示す無機部材の断面図である。
【
図9】
図9A、
図9Bは、基材に複数の貫通孔が形成された各実施形態を示す無機部材の断面図である。
【
図10】
図10Aは、レーザ加工により形成した貫通孔の上部付近のSEM写真及び元素分析結果を示し、
図10Bは、レーザ加工により形成した貫通孔の中間部付近のSEM写真及び元素分析結果を示す。
【
図12】シャワープレートを有する半導体製造装置の一例の模式図である。
【
図14】レーザ加工装置を用いて、レーザ加工面の傾斜角度を調整する方法を説明するための基材の断面図である。
【
図17】単結晶Siを複数層積層した基材に貫通孔を形成した実験において、各層に形成された貫通孔を観察した写真である。
【
図18】平均加工ピッチと孔深さとの関係を示すグラフである。
【
図19】
図19Aは、基材にレーザ加工により貫通孔を形成し、該貫通孔を二分するように基材を切削加工により分断した基材の模式図であり、
図19Bは、切削面と、切削面に現れる貫通孔の側壁面を示す写真である。
【
図20】基材に止まり穴が形成された無機部材の断面を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。各図面において、同一の又は対応する構成には、同一の又は対応する符号を付して説明を省略する。
用語の定義に関しては、明細書中に適宜説明を加えた。特に説明をしていない用語に関しては、広く一般的に知られている意味で解釈される。
【0021】
ただし、説明の便宜上、最初に、「貫通孔」、「止まり穴」、「孔」、「孔内部」、及び「孔加工」についてまとめて説明する。「貫通孔」とは、後述の
図7A~
図7Dや
図8A~
図8D、
図9A、
図9Bに示すように、基材2の表面2aから裏面2bにかけて貫通した細長い穴を指す。「止まり穴」とは、基材を貫通せず底を備えた有底の穴である。単に「孔」という場合は、貫通孔或いは止まり穴を形成するに至る途中の状態も含まれる。「孔内部」とは、前記に定義した孔の内部を指すが、特に断らない限り、貫通孔或いは止まり穴を形成するに至るまでの加工途中の内部を指す。「孔加工」とは、貫通孔或いは止まり穴を形成するための加工を指す。なお、以下では、基材に貫通孔を形成する形態を中心に説明する。
【0022】
[本実施形態に至る経緯]
機械的耐久性が高いSiCなどの無機物からなる基材に対し、ドリルや超音波などの機械的加工を施すと、基材の硬度や耐久性が高いほど、加工効率が著しく低下する。これに対し、レーザ加工では、基材の硬度や耐久性に依存しない利点がある。ここで、レーザを照射して、無機物からなる基材に孔加工を施すと、デブリが発生するが、基材の厚さが1mm以下であれば、デブリの飛散距離は、基材の厚さより概ね大きくなる。このため、厚さが1mm以下の無機物からなる基材であれば、レーザの照射により、貫通孔を形成できる。
【0023】
しかしながら、無機物からなる基材の厚さが1mmより厚いと、具体的には、2mm以上の厚さの基材に貫通孔を形成しようとすると、加工の途中から孔の深さのほうが、デブリの飛散距離より大きくなる。そのため、デブリが、孔内部に堆積することで、後続のレーザ加工を阻害し、加工効率が低下した。その結果、厚さが2mm以上の無機物からなる基材に対しては、貫通孔を精度よく形成できなかった。
【0024】
そこで本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、レーザを照射する際の加工雰囲気を制御することで、デブリの発生を抑制し、加工効率を向上させ、高精度に貫通孔を形成できるに至った。
【0025】
すなわち、本実施形態の無機部材の製造方法は、厚さが2mm以上の無機物からなる基材に、低酸素雰囲気、或いは、少量のO2及びCO2の少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気、又は、NF3、F2及びHFの少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気にて、レーザを照射し、貫通孔を形成することにある。
【0026】
[本実施形態による無機部材の製造方法の説明]
図1Aは、本実施形態による無機部材1の製造方法を示す断面図である。
図1Bは、
図1Aの製造方法により、デブリの堆積を抑制できることを概念的に示す断面図である。
【0027】
図1Aに示すように、無機部材1は、厚さtが2mm以上の無機物からなる基材2を有する。本実施形態では、基材2を構成する無機物の材質を限定するものでないが、デブリの発生を抑制する原理を説明する便宜上、特に断らない限り、以下では、基材2をSiC基材として説明する。
【0028】
図1Aに示すように、基材2の表面2aに、レーザL1を照射する。
図1Aは、基材2に貫通孔を形成する加工途中の状態を示している。本実施形態では、デブリの発生を抑制すべく、レーザを照射する際の加工雰囲気を、低酸素雰囲気、或いは、少量のO
2及びCO
2の少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気、又は、NF
3、F
2及びHFの少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気とする。
【0029】
これにより、デブリの主成分であるSiO
2の発生を抑制できる。
図1Bに示すように、生成された反応物3を、ガス化、或いは微粒子化できる。このため、反応物3は、孔内部に堆積せず、或いは、孔内部の反応物3の堆積量を少なくできる。このように、本実施形態では、後続のレーザ加工を阻害する要因であったデブリの発生を抑制でき、したがって、加工効率を向上させることができる。
【0030】
<低酸素雰囲気でのデブリ抑制効果>
低酸素雰囲気でのデブリ抑制効果について説明する。「低酸素雰囲気」とは、酸素分圧が、大気中の酸素分圧よりも低いことを意味する。低酸素雰囲気に制御する方法を限定するものではないが、例えば、窒素置換により、基材2を設置したチャンバ内の酸素分圧を大気中の酸素分圧より低減させることができる。また、酸素分圧の範囲を限定するものではないが、酸素分圧は2000Pa以下、好ましくは500Pa以下、より好ましくは、10Pa以下である。なお、酸素分圧は、0Paでなく、微量ながら含まれている。酸素分圧の下限値は、0.00001Pa程度であることが好ましい。
【0031】
図2Aに示すように、例えば、大気中の酸素分圧のままレーザを、SiCからなる基材2に照射して孔加工を施すと、SiとO
2とが反応し、SiO
2のデブリ4が生じる。SiO
2は比重が大きく飛散距離が短い。このため、基材2の厚さtが厚く、具体的には2mm以上に厚いと、
図2Bに示すように、孔内部にSiO
2のデブリ4が堆積する。デブリ4の堆積は、後続のレーザ加工を阻害する要因となり、加工効率の低下につながる。これに対して、本実施形態のように、低酸素雰囲気とすることで、SiとO
2との反応を抑制できる。このため、反応物3中にSiO
2が含まれず、或いはその量が従来に比して少なく、反応物3は、主としてガス化或いは微粒子化されている。よって、反応物3は、SiO
2に比して、飛散距離が大きく、基材2の厚さtが2mm以上であっても、孔内部に溜まらず、或いはその堆積量が少ない。このように、本実施形態では、無酸素とせず、低酸素雰囲気に設定することで、SiO
2の発生を抑制しつつ、CO
2等のガスや微粒子の反応物3を発生させることができる。以上により、本実施形態では、加工効率を向上させ、基材2に精度よく、貫通孔を形成できる。
【0032】
ここで、加工雰囲気を、低酸素雰囲気、或いは大気雰囲気として、レーザを照射した際に生じるデブリに関する実験について説明する。実験では、SiC基材の表面に、レーザを1000回(時間は13msec)、定点照射した。次に、その照射点から20μm移動した位置で、同じように、レーザを1000回、定点照射した。この定点照射と20μm移動を、40×40行列で、繰り返して行った。
【0033】
実験では、レーザを照射した際、酸素分圧を窒素置換により低下させた例1と、窒素置換せずに、大気中の酸素分圧のままとした例2を行った。例1での酸素分圧を、3Paとし、例2の酸素分圧を20600Paとした。例1が、実施例であり、例2が、比較例である。なお、例1及び例2のどちらも、加工雰囲気の主成分は窒素であるが、例1は、加工雰囲気中の酸素分圧が、例2に比して極端に低くなっている。
【0034】
図3Aは、例1による、孔を基板表面から見た写真である。
図3Bは、
図3Aの部分模式図である。
図3Cは、例2による、孔を基板表面から見た写真である。
図3Dは、
図3Cの部分模式図である。
図3A及び
図3Bに示すように、低酸素雰囲気とした例1では、デブリは孔内部にほとんど堆積していなかった。これに対し、
図3C及び
図3Dに示すように、酸素分圧を大気雰囲気とした例2では、デブリが孔内部に多く堆積していることがわかった。
【0035】
孔内部に堆積したデブリ成分を、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)及び、エネルギー分散型X線分析(Energy Dispersive X-ray spectrometry:EDX)にて観察した。使用したSEMは、日立ハイテクノロジーズS-3400N、EDXは、AMETEK製OCTANE PROである。
【0036】
図4は、例1及び例2による、デブリ成分のSEM/EDX分析結果を示す図である。
図4に示すリファレンス(Ref.)は、SiC基材の成分の分析結果である。例2は、例1よりも、SiとOの検出カウント数が、多かった。この結果から、大気中の酸素分圧のまま、SiC基材に対し、レーザを照射すると、SiとOとの反応が活発に進み、SiO
2が発生することがわかった。一方、低酸素雰囲気とすることで、Oの検出カウント数が大幅に減り、SiO
2の発生を抑制できることがわかった。
【0037】
このように、本実施形態では、加工雰囲気を、低酸素雰囲気とすることで、デブリの発生を抑制でき、したがって、後続のレーザ加工を阻害せず、加工効率の向上を図ることができ、貫通孔を高精度に形成できる。
【0038】
<少量のO2、CO2の少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気でのデブリ抑制効果>
次に、少量のO2、CO2の少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気でのデブリ抑制効果について説明する。本実施形態では、ドライエッチングガス雰囲気で使用するガスの種類を限定するものではないが、フッ化物ガスであることが好適である。具体的には、フッ化物ガスとしては、CF4、C2F6、C3F6、C4F6、C5F8、CHF3、C3F8、C4F10、HF、NF3、SF6、F2、CF3Cl、及びCF2Cl2の少なくともいずれか1種を含むことが好ましい。或いは、ドライエッチングガス雰囲気は、CCl4及びCl2の少なくともいずれか1種を含んでもよい。CCl4及びCl2は、フッ化物ガスと一緒に含んでもよい。例えば、基材が単結晶Siである場合、Cl2も含むドライエッチング雰囲気にて貫通孔を高精度に形成できる。
【0039】
例えば、ドライエッチングガスとして、CF4を選択した場合のSiC基材に対するエッチング反応式は、以下の通りである。
SiC(s)+CF4(g)+2O2(g)→SiF4(g)+2CO2(g)
(式1)
ここで、(式1)中、(s)は固体成分、(g)はガス成分を示す。
【0040】
CF4は、室温下ではほとんど反応せず、レーザが照射された箇所だけ反応活性にする。(式1)に示すように、Siと反応活性種であるFとが反応して、ガス成分としてのSiF4を発生させることができ、デブリ堆積の要因であったSiO2の発生を抑制できる。
【0041】
本実施形態では、ドライエッチングガスに、少量のO2、CO2の少なくともいずれか1種を含む。「少量」とは、ドライエッチングガスよりも少ない量と定義される。限定されるものではないが、ドライエッチングガスに対し、O2、CO2のいずれか1種及び2種の合計量は、体積比で0%より大きく30%以下であり、好ましくは上限値が15%以下、より好ましくは5%以下である。O2、CO2のいずれか1種及び2種の合計量の下限値は、0.0001%程度であることが好ましい。酸素成分は少量であるため、Siとの反応は抑制されるとともに、式(1)に示すように、固体成分としてのCと反応して、ガス成分としてのCO2を発生させることができる。
【0042】
なお、(式1)の上では消費されるO2の体積は、ドライエッチングガスであるCF4の体積比よりも多い量となっているが、実際には、レーザ照射により反応活性を得た一部のCF4のみが消費されるため、雰囲気中にはより多量のCF4が必要になる。すなわち、(式1)は、一部の反応活性したCF4に対する反応式であり、したがって、少量のO2、CO2の少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気とすることが望ましい。
【0043】
上記では、CF4を例に挙げたが、他のフッ化物ガスやフッ化物ガス以外のドライエッチングガスについても、(式1)に準じたエッチング反応式を得ることができる。以上により、レーザを照射する際、少量のO2、CO2の少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気とすることで、デブリの発生を抑制できる。したがって、後続のレーザ加工を阻害せず、加工効率の向上を図ることができ、貫通孔を精度よく形成することができる。
【0044】
<NF3、F2及びHFの少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気でのデブリ抑制効果>
次に、NF3、F2及びHFの少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気でのデブリ抑制効果について説明する。本実施形態では、ドライエッチングガス雰囲気で使用するガスの種類は、ガス単体が熱分解した際に発生する物質が加工環境において気体であることが好適である。
【0045】
例えば、ドライエッチングガスとして、NF3を選択した場合、ガス単体が熱分解した際の発生物質は、N2とF2及びそのラジカルである。常温における沸点は、N2は-196℃であり、F2は-188℃であり、いずれも気体である。このためガス単体として、レーザを照射した際に固体成分が発生しない。
ドライエッチングガスとして、NF3を選択した場合のSiC基材に対するエッチング反応式は、以下の通りである。
3SiC(s)+8NF3(g)→3SiF4(g)+3CF4(g)+4N2(g)
(式2)
【0046】
NF3は、室温下ではほとんど反応せず、レーザが照射された箇所だけ反応活性にする。(式2)に示すように、Siと反応活性種であるFとが反応して、ガス成分としてのSiF4を発生させることができ、デブリ堆積の要因であったSiO2の発生を抑制できる。
【0047】
本実施形態では、ドライエッチングガスは、NF3、F2及びHFのいずれか1種以上を主たる成分とすることが望ましい。限定されるものではないが、ドライエッチングガスに対し、NF3、F2及びHFのいずれか1種以上の合計量は、体積比で10%より大きく100%以下であり、好ましくは下限値が50%以上、より好ましくは80%以上である。なお、O2、CO2は必ずしも含む必要はない。すなわち、NF3、F2及びHFのいずれか1種以上のみからなるドライエッチングガス雰囲気にできる。或いは、NF3、F2及びHFのいずれか1種以上と、NF3、F2及びHF以外であって、熱分解した際に発生する物質が加工環境において気体であるガスと、からなるドライエッチングガス雰囲気にできる。
【0048】
上記では、NF3を例に挙げたが、F2及びHFについても、(式2)に準じたエッチング反応式を得ることができる。以上により、レーザを照射する際、NF3、F2及びHFの少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気とすることで、デブリの発生を抑制できる。したがって、後続のレーザ加工を阻害せず、加工効率の向上を図ることができ、貫通孔を精度よく形成できる。
【0049】
<レーザのエネルギー当たりの除去効率について>
ところで、本実施形態のように、厚さtが2mm以上の基材2に対する孔加工では、除去する基材2の体積が増加する。このため、レーザのエネルギー当たりの除去効率を大きくすることが好ましい。
【0050】
そこで、本実施形態では、上記した加工雰囲気において、基材2の主結晶のバンドギャップよりも大きい光子エネルギーを有するレーザを照射する。ここで、「主結晶」とは、基材2を構成するどの結晶よりも多い含有量の結晶を指す。
このように本実施形態では、バンドギャップを基準にして、それよりも大きい光子エネルギーを有するレーザを照射して除去効率の向上を図る。
【0051】
図5は、化学蒸着法(CVD)により結晶成長させたSiCに、波長及びパルス幅を変えた種々のパルスレーザを照射した際の照射フルーエンスと、アブレーションレートとの関係を示すグラフである。
【0052】
図5に示すように、実験では、波長が343nm及び355nmのUVレーザ、波長が532nmのグリーンレーザ、及び波長が1026nmのIRレーザを使用した。
図5に示すように、UVレーザは、グリーンレーザ及び、IRレーザに比して、アブレーションレートを大きくできた。
【0053】
ここで、SiCのバンドギャップと光吸収過程について考察する。以下の表1に、基材を構成する各無機材料のバンドギャップと、それに対応する波長とを記載した。
【0054】
【0055】
表1に示すように、SiCの結晶体は3つ存在するが、いずれも比較的、バンドギャップが大きい。また、化学蒸着法により結晶成長させたCVD-SiCや、SiCの焼結体では、結晶欠陥や結晶間に混入元素が存在する。このため、レーザのエネルギー当たりの除去効率を向上させるには、バルク体を基準とせず、基材の主結晶のバンドギャップを基準とすることが必要である。
【0056】
そこで、
図5及び表1に基づき、基材2の主結晶のバンドギャップよりも大きい光子エネルギーを有するように、レーザの波長は、400nm以下であることが好ましい。より好ましくは、レーザの波長は、355nm以下である。これにより、基材2の主結晶のバンドギャップよりも大きい光子エネルギーを有するレーザを照射でき、このとき、単光子吸収を実現できる。
【0057】
また、多光子吸収が生じる短いパルス幅のレーザを照射することで、光子エネルギーを大きくできる。具体的には、パルス幅を50nsec以下とし、好ましくは、ピコ秒とし、より好ましくは、フェムト秒とする。このとき、レーザの波長が400nm以上であっても多光子吸収を生じさせることができる。
なお、レーザの波長を400nm以下とし、且つパルス幅を50nsec以下に調整することが更に好ましい。
【0058】
上記した400nm以下のレーザ波長及び50nsec以下のパルス幅は、基材2の主結晶がSiCの場合やSiCのバンドギャップ以下の無機物に対して、好ましく適用できる。本実施形態では、主結晶の材質に応じて、レーザの波長及びパルス幅を適宜調整することが好適である。
【0059】
以上により、本実施形態では、加工雰囲気に加えて、基材2の主結晶のバンドギャップよりも大きい光子エネルギーを有するレーザを照射することで、厚さ2mm以上の無機物からなる基材に、高精密且つ高スループットにて、貫通孔を形成することができる。
【0060】
<基材>
本実施形態の基材について説明する。本実施形態の基材は、無機物からなるが、製造過程で含まれる不純物や、基材の製造に添加される添加剤成分が含まれることを除外しない。
【0061】
(無機物)
基材2を構成する無機物について説明する。無機物は、単一元素、或いは、2種類以上の元素からなる無機化合物である。単一元素としては、Siやダイヤモンドなどを例示できる。
【0062】
無機化合物は、炭化物、窒化物、及び酸化物のいずれか1種を主成分として含むことが好ましい。これら、炭化物、窒化物及び酸化物は、共有結合型化合物、或いは侵入型化合物であることが好ましい。ここで、「主成分」とは、全体の50質量%以上を占め、好ましくは、80質量%以上である。
【0063】
炭化物は、シリコンカーバイド(SiC)、ボロンカーバイド(B4C)、タンタルカーバイド(TaC)、及びタングステンカーバイド(WC)の少なくともいずれか1種を主成分として含むことが好ましい。
【0064】
また、窒化物は、シリコンナイトライド(Si3N4)、及びボロンナイトライド(BN)の少なくともいずれか1種を主成分として含むことが好ましい。
【0065】
また、酸化物は、アルミナ(Al2O3)、チタニア(TiO2)、石英(SiO2)、マグネシア(MgO)、及びクロミア(Cr2O3)の少なくともいずれか1種を主成分として含むことが好ましい。本実施形態では、上記のうち、SiCを主成分として含むことがより好ましい。無機化合物は、SiSiC等のマトリクス材料であってもよい。
【0066】
また、無機物に液相が存在しないことが好ましい。アブレーションの際は、蒸散及びプラズマ発生時の衝撃波が発生するため、液相箇所も除去される可能性がある。そこで、無機物に液相が存在しないことで、高精度な孔加工を実現できる。例えば、SiCやSi3N4は、液相が存在せず、SiCの昇華温度は、約2700℃であり、Si3N4の昇華温度は、約1900℃である。
【0067】
なお、上記の<低酸素雰囲気でのデブリ抑制効果>欄、<少量のO2、CO2の少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気でのデブリ抑制効果>欄、及び、<NF3、F2及びHFの少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気でのデブリ抑制効果>欄では、基材をSiCとして説明したが、SiC以外の無機物からなる基材を用いた場合でも同様の効果を得ることができる。すなわち、低酸素雰囲気とすることで、酸素と反応しデブリの発生原因となる固体成分の発生を抑制できる。また、少量のO2、CO2の少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気とすることで、上記(式1)に準じた反応を生じさせることができる。また、NF3、F2及びHFの少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気とすることで、上記(式2)に準じた反応を生じさせることができる。すなわち、基材を構成する元素とフッ素及び少量の酸素とが反応してガス化させることができ、或いは、基材を構成する元素とフッ素とが反応してガス化させることができ、デブリの発生を抑制できる。
【0068】
(基材の厚さt)
厚さtは、基材2の表面2aから反対側の裏面2bに向けて垂直に引いた直線の長さと規定される。厚さtを平均厚さで規定でき、このとき、任意の複数の測定点で測定した基材2の厚さtの平均値と規定される。測定点は、5点以上が好ましい。なお、例えば、シャワープレートなどでは、基材2の外延部に段差を有するものもあり、部分的に厚みが異なる場合がある。この場合は、基材2の面積の主要部を占める部位の厚み、もしくは、貫通孔のある部位を厚さtと規定する。
【0069】
本実施形態における基材2の厚さtは、大気中の酸素分圧でレーザ加工した際にデブリが生じる厚さ以上である。具体的には、本実施形態では、厚さtが2mm以上の厚さのある基材2に対し、加工効率よく、貫通孔6を形成することができる。また、本実施形態では、基材2の厚さtが5mm以上或いは8mm以上であっても、高アスペクト比の貫通孔を基材に精度よく形成できる。また、基材2の厚さtの上限は、デブリの発生を抑制でき、貫通孔の形成が可能な厚さである。特に限定しないが、例えば、厚さtの上限値は、30mm程度である。なお、基材2の厚さtが2mm以下の場合でも、基材2の材質によっては、デブリが発生して貫通孔6を形成できないことがある。したがって、「厚さtが2mm」との数値は、厳密な境界を示すものでなく、基材2の厚さtが2mmを多少下回っても、大気中の酸素分圧でレーザ加工した際にデブリが生じる厚さであり、且つ本実施形態の製造方法により、貫通孔を形成できる場合、本実施形態の範囲に含まれる。
【0070】
<平均加工ピッチ>
本実施形態では、後述の実験で示すように、レーザを用いて、基材に貫通孔を形成する際のレーザの平均加工ピッチを0.1μm以上とすることが好ましい。
ここで、「加工ピッチ」とは、
図6(a)~
図6(c)の各模式図に示すように、所定の開口径の貫通孔を形成するために、基材2の表面2aに、レーザLの照射点を横にずらしながら照射した際の照射点の中心間隔を加工ピッチPhと定義する。
図6(a)は、レーザLの1ショット目、
図6(b)はレーザLの2ショット目、
図6(c)は、レーザLの3ショット目を示す。略円形の開口を有する貫通孔を形成する場合、貫通孔の開口の中心に近い箇所と貫通孔の外周に近い箇所では、厳密に同じピッチにするのは装置制御上コストがかかるため、加工ピッチPhを平均化した平均加工ピッチをパラメータとして使用する。
【0071】
後述する実験で示すように、平均加工ピッチが小さくなると単位加工時間当たりの孔深さは小さくなることがわかっている。このため、貫通孔の形成に要する時間を短縮するには平均加工ピッチを適度に大きくすることが好ましい。そこで本実施形態では、平均加工ピッチは0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましく、0.4μm以上が更に好ましく、0.5μm以上が更により好ましいと規定した。また、平均加工ピッチの上限は、ビーム径に依存し、貫通孔の形成を妨げない範囲であれば限定するものではないが、概ね、100μm~200μmを上限とすることができる。
【0072】
<貫通孔を形成した後の工程>
基材2を、低酸素雰囲気、或いは、少量のO2、CO2の少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気、又は、NF3、F2及びHFの少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気で、レーザを照射して、貫通孔を形成した後、洗浄工程を施すことができる。洗浄工程は、既存の洗浄方法を用いることができる。また、洗浄工程前もしくは後に、基材2の表面に必要に応じて表面層の形成等を行うことができる。例えば、SiSiC基材の表面に、高純度のSiC膜を成膜できる。
【0073】
[本実施形態による無機部材の説明]
図7Aは、本実施形態における基材2に貫通孔6が形成された無機部材1の断面図である。
図7Aに示す貫通孔6を有する無機部材1は、上記した無機部材1の製造方法により形成できる。すなわち、無機物からなる基材2に、低酸素雰囲気、或いは、少量のO
2、CO
2の少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気、又は、NF
3、F
2及びHFの少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気にて、レーザを照射し、基材2の表面2aから裏面2bに貫く貫通孔6を形成できる。これにより、貫通孔6の側壁面6aは、レーザ加工面で形成される。側壁面6aが、レーザ加工面であることは、例えば、レーザ照射の際の熱の影響で、側壁面6aの組成が基材2とは変化しており、側壁面6aの組成から知ることができる。すなわち本実施形態では、貫通孔6の側壁面6aに変質層を有する。ここで、「組成の変化」とは、例えば、元素組成比率の変化、結晶状態の変化、重量密度の変化、電気特性の変化などがあげられる。
【0074】
元素組成比率は、レーザ照射の際、瞬間的に高温状態となることで、大気中に放出される元素の割合が元素種類ごとに異なり、相対的な元素組成比率が変化する。この元素比率は、SEM/EDXやTEM/EDX、X線解析などの既知の解析手法で検出することができる。TEMは、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope)を意味する。また、結晶状態の変化は、電子線後方散乱回折法(Electron Back Scatter Diffraction Patterns)で測定することができる。また、重量密度の変化は、アルキメデス法で測定することができる。また、電気特性の変化は、例えば、電気抵抗値であり、走査型広がり抵抗顕微鏡(Scanning Spreading Resistance Microscopy)で測定することができる。
【0075】
例えば、上記した実施例1でSiC基材に形成した貫通孔について、孔内の側壁面が観察できるように、基材の表面と平行な平面方向に沿って、基材を切断して現れる横断面を、CMP法で研磨し、SEM、及び、EDXにて観察した。使用したSEMは、日立ハイテクノロジーズ製SU6600、EDXは、Thermo製NORANSYSTEM6である。
【0076】
図10A及び
図10Bに示す左図はSEM写真であり、右図がEDX分析結果である。
図10Aは、貫通孔の上部付近の実験結果であり、
図10Bは、貫通孔の中間部付近の結果である。
図10A及び
図10BにおけるSEM写真及びEDX分グラフは、図示右側が貫通孔の側壁面側であり、図示左方向に離れるにつれて、側壁面から平面方向に離れる。
図10A及び
図10Bに示すように、EDX分析結果により、上記横断面の側壁面の表面から、平面方向に向けての厚み約4μmの範囲では、厚み4μm以上の平面方向に十分離れた基材2の内部と比べてCの比率が多く、相対的にSiが少なくなっていることが示された。したがって、レーザー照射によって形成された貫通孔6の側壁面6aは、表層に変質層を有する。変質層の厚みは、最大で10μm程度である。ただし、レーザ照射後の後工程として、洗浄やアニール、コーティングを実施することで変質層の厚みは変化しうるため、4μm以下の値となる場合もある。すなわち、変質層の厚みを、0μmより大きく10μm以下にできる。基材がSiCの場合、変質層のSiの原子比率は、50原子%~65原子%であり、Cの原子比率は、35原子%~50原子%であり、SiとCとを足して100原子%、或いは5原子%以下のOを含み、SiとCとOを足して100原子%である。変質層から離れた領域ではSiの原子比率が変質層よりも大きく、65原子%~80原子%であり、変質層から離れた領域ではCの原子比率が変質層よりも小さく、20原子%~35原子%である。なお、
図10A及び
図10Bに示す実験は洗浄後の結果である。また
図10A及び
図10Bに示すように、貫通孔の上部付近と中間部付近とでは元素組成分析に大きな差は見られなかった。
【0077】
なお、
図10A及び
図10Bの結果は、F系ガス使用時の結果であり、N
2置換による低酸素雰囲気では、厚み4μm以上の平面方向に十分離れた基材2の内部と比べてCの比率が少なくなり、相対的にSiが多くなることがわかっている。
【0078】
本実施形態では、
図7Aに示すように、貫通孔6を、基材2の表面2aから裏面2aにかけて垂直方向に形成できる。ここで、「垂直方向」とは、貫通孔6の側壁面6a間の幅寸法の中心点を、基材2の厚み方向に繋いだ中心軸Cが、基材2の表面2aの法線方向Nと一致した方向を指す。また、
図7Aでは、側壁面6aも垂直方向に延出しており、側壁面6aは中心軸Cと平行に形成された垂直面である。「垂直面」とは、基材2の表面2a又は裏面2bに対して直交する方向に延びる面である。なお、側壁面6aが垂直面でなく、中心軸Cに対して傾く傾斜面であってもよい。後述するレーザ加工装置を用いることで、側壁面6aの傾き制御を精度よく行うことができる。
【0079】
例えば、
図7Bも
図7Aと同様に、貫通孔6の中心軸Cは、基材2の表面2aの法線方向Nに一致するが、
図7Bでは、基材2の表面2aから裏面2bに向けて、貫通孔6の孔径が徐々に大きくなるように、側壁面6aが傾斜する形状に調整できる。あるいは、
図7Cに示すように、基材2の表面2aから裏面2bに向けて、貫通孔6の孔径が徐々に小さくなるように、側壁面6aが傾斜する形状に調整できる。又は、
図7Dに示すように、基材2の表面2aから裏面2bへの途中まで、貫通孔6の孔径が徐々に小さくなり、途中から裏面2bに向けて貫通孔6の孔径が徐々に大きくなる形状に調整することができる。いずれの傾斜面も直線状に形成でき、あるいは湾曲した形状とすることも可能である。
図7B~
図7Dに示すこれらの形状は、いずれも従来手法の機械的加工では実現が難しい形状である。
図7A~
図7Dに示す貫通孔6は、いずれも中心軸Cが、基材2の表面2aの法線方向Nと一致している。したがって、中心軸Cの法線方向Nに対する傾き角度を中心軸傾斜角θ1で表すと、
図7A~
図7Dは、いずれも中心軸傾斜角θ1が0°である。また、中心軸Cに対する側壁面6aの傾き角度をテーパ角θ2で示すと、
図7Aでは、テーパ角θ2は0°であるが、
図7B~
図7Dのテーパ角θ2は0°より大きい。
以上から、
図7Aの実施形態では、中心軸傾斜角θ1とテーパ角θ2とを足した傾斜角度θは0°であるが、
図7B~
図7Dでは、中心軸傾斜角θ1とテーパ角θ2とを足した傾斜角度θは0°よりも大きくなる。本実施形態では、貫通孔6のほぼ全域にわたり0.1°以上40°以下の傾斜角度θに調整できる。また、
図7B~
図7Dの実施形態においては、テーパ角θ2を0.1°以上20°以下で調整できる。本実施形態では、後述するレーザ加工装置を用いることで、傾斜角度θを適切に調整できる。
【0080】
本実施形態によれば、厚さtが2mm以上の基材2に対し、高精度に貫通孔6が形成された無機部材1を得ることができる。貫通孔6を高精度に形成できるのは、低酸素雰囲気、或いは、少量のO2、CO2の少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気、又は、NF3、F2及びHFの少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気で、レーザを照射することで、孔加工の際のデブリの堆積を抑制でき、加工効率を向上できたためである。更に、基材2の主結晶のバンドギャップよりも大きい光子エネルギーを有するレーザを照射することで、レーザのエネルギー当たりの除去効率を大きくできる。このように、加工効率と除去効率との相乗効果で、貫通孔6をより高精度に形成できる。
【0081】
本実施形態では、貫通孔6のアスペクト比を、2以上に調整できる。「アスペクト比」は、貫通孔6の高さh/孔径dで計算できる。本実施形態では、例えば、貫通孔6の開口形状が円であり、孔径dは直径である。あるいは、貫通孔6の開口形状が、円以外であってもよく、例えば、楕円形や多角形であってもよい。このとき、孔径dは、開口形状の長径或いは長辺の長さである。また、
図7B~
図7Dに示すように、貫通孔6の孔径が変化する場合、アスペクト比は、高さh/孔径dの最大値で求められる。本実施形態では、アスペクト比を5以上、或いは10以上に調整できる。このように本実施形態では、高アスペクト比を実現できる。
【0082】
本実施形態では、貫通孔6の孔径dを、2mm以下で調整できる。好ましくは、貫通孔6の孔径dを、1mm以下で調整できる。また、
図7B~
図7Dに示すように、貫通孔6の孔径が変化する場合、孔径dの最大値を2mm以下、好ましくは、1mm以下にできる。
【0083】
図7A~
図7Dでは、貫通孔6の中心軸Cを、基材2の表面2aの法線方向Nと一致させたが、中心軸Cを法線方向Nに対し傾けることができる。
図8Aでは、貫通孔7の中心軸Cが、基材2の表面2aの法線方向Nから傾いており、中心軸傾斜角θ1は0°より大きくなっている。
図8Aでは、貫通孔7の側壁面7aは、中心軸Cと平行であり、側壁面7aの中心軸Cに対するテーパ角θ2は0°である。また、
図8B及び
図8Cでは、いずれも中心軸傾斜角θ1を有するとともに、側壁面7aは中心軸Cに対して傾いており、テーパ角θ2を有している。
図8Bでは、基材2の表面2aから裏面2bに向けて、貫通孔7の孔径が徐々に小さくなっている。また、
図8Cでは、基材2の表面2aから裏面2bに向けて、貫通孔6の孔径が徐々に大きくなっている。又は、
図8Dに示すように、基材2の表面2aから裏面2bへの途中まで、貫通孔7の孔径が徐々に小さくなり、途中から裏面2bに向けて貫通孔7の孔径が徐々に大きくなる形状に調整することができる。
上記したように、傾斜角度θは、中心軸傾斜角θ1と側壁面7aのテーパ角θ2との和として表現される。なお、中心軸傾斜角θ1及びテーパ角θ2は、貫通孔6、7の側壁面の場所によって異なっていても良い。本実施形態では、傾斜角度θは、0.1°~40°の範囲内であり、貫通孔6、7の側壁面の各箇所にて任意の値をとることができる。
【0084】
従来の加工技術において、傾斜角度θを有する貫通孔を形成することは困難である。例えば、ドリル加工であれば工具にかかる加工負荷が非対称となるため工具破損してしまうという問題がある。また、同じく従来の加工技術である超音波加工であれば工具を挿入する方向を1孔ごとに変える必要がある。このため、基材2に同時に複数の貫通孔を形成することができず、著しく加工速度が低下してしまうという問題がある。
【0085】
本実施形態のように、低酸素雰囲気、或いは、少量のO
2、CO
2の少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気、又は、NF
3、F
2及びHFの少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気で、レーザを照射して、基材2に貫通孔を形成する方法では、傾斜角度θを有する貫通孔を、速い加工速度にて形成できる。傾斜角度θを有する貫通孔を基材2に形成することにより、例えば、シャワープレートにおいては、チャンバー内のプラズマによる異常放電を抑止でき、プラズマ処理を安定化することができる。特に、
図8A~
図8Dに示すように中心軸傾斜角θ1を有する貫通孔7を基材2に形成することで、より効果的に、プラズマが貫通孔7内に侵入しにくくなり、異常放電の抑制効果を向上できる。
【0086】
また、
図9Aに示すように、基材2に傾斜角度θが異なる複数の貫通孔7を基材2に形成することもできる。
図9Aでは、全ての貫通孔7が基材2の表面2aから裏面2bにかけて傾いているが、基材2の表面2aから裏面2bにかけて垂直方向に延出した貫通孔7を備えていてもよい。また、
図9Bでは、基材2の表面2aからのレーザ照射と、裏面2bからのレーザ照射を組み合わせることにより、傾斜角度θの異なる複合的な孔構造を形成することもできる。このような複合的な孔構造を有することで、流体力学的な設計を可能にし、例えば、シャワープレートにおいては、貫通孔8a~8dを通過するガスの流束を制御でき、プラズマ処理の均一性やパーティクル発生を抑止できる。一例であるが、貫通孔8a~8cは、垂直貫通孔9aと傾斜貫通孔9bとを組み合わせた形態である。貫通孔8aでは、垂直貫通孔9aと傾斜貫通孔9bとが連続して形成されている。貫通孔8bでは、傾斜貫通孔9bが垂直貫通孔9aの途中から枝分かれしている。貫通孔8cでは、垂直貫通孔9aから傾斜貫通孔9bが二股に分かれている。一方、貫通孔8dは、貫通孔8a~8cと異なって、基材2の表面2aから裏面2bにかけて垂直方向に延出している。貫通孔8dでは、基材2の裏面2bから表面2aにかけての途中まで開口幅が一定の第1の貫通孔9cと、第1の貫通孔9cと連続して表面2aまで演出し開口幅が広がる第2の貫通孔9dとを組み合わせた形態である。
【0087】
[シャワープレート、及びそれを用いた半導体製造装置の説明]
本実施形態の無機部材の用途を限定するものでないが、例えば、半導体製造装置や航空宇宙輸送機部材などに用いられる超高耐久性の無機物材料に適用できる。本実施形態では、一例として、半導体製造装置に使用されるシャワープレートに適用できる。
【0088】
図10は、シャワープレート10の一例の平面図である。シャワープレート10は、無機物からなる基材11と、基材11に形成された複数の貫通孔12とを有して構成される。なお、
図11に示すように、基材11には多数の貫通孔12が形成されるが、代表的に一つの貫通孔にのみ符号12を付した。なお、限定されるものではないが、貫通孔12は数百個、形成される。
【0089】
本実施形態では、基材11に、低酸素雰囲気、或いは、少量のO2、CO2の少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気、又は、NF3、F2及びHFの少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気にて、レーザを照射することで、多数の貫通孔12を高アスペクト比で形成できる。本実施形態では、貫通孔12のアスペクト比を2以上にできる。
一例として、シャワープレート10は、高純度SiC基材、或いは、SiSiC基材の表面に高純度にSiC膜を成膜した厚さ5mm~15mm程度の基材11に、孔径が2mm以下の微細な貫通孔12が数百個形成された構成である。
【0090】
図11は、シャワープレートを有する半導体製造装置の一例の模式図である。
図12の半導体製造装置20は、チャンバーウォール21と、シャワープレート10と、載置台22と、載置台22上の静電気チャック23及びフォーカスリング24と、を有して構成される。
図12に示すように、シャワープレート10は、チャンバーウォール21の上部に組み込まれる。また、載置台22は、チャンバーウォール21内に配置される。シャワープレート10は、上部電極として機能し、載置台22は、下部電極として機能する。
図12に示すように、静電気チャック23上にウェハWが載置される。ウェハWの外周にフォーカスリング24が位置している。
図12に示すように、載置台22には、高周波電源25が接続されている。
図12に示すように、上部電極としてのシャワープレート10とウェハWとの間で、プラズマPが生成され、ウェハWの被処理面をエッチングできる。
【0091】
ここで、シャワープレート10は、交換部材であるが、従来では、特に、長時間の使用により交換サイクルが高頻度化した。そこで、シャワープレート10のエッチング耐性の向上が求められた。
【0092】
シャワープレート10に形成される貫通孔12の開口付近や開口周りに、特開2005-236124号公報、特開2006-245214号公報、及び、特開2007-180136号公報に記載されるように、C面取り形状、R面取り形状、段付き形状を付与できる。これにより、プラズマの電位分布の均一化、異常放電の抑止、ガス対流による堆積物形成の抑止、などの効果を発現させることができる。上記した形状は、全ての貫通孔12の開口付近や開口周りに付与されても、一部の貫通孔12の開口付近や開口周りにのみ付与されてもよい。
【0093】
本実施形態では、超高耐久性の無機物として、厚さが2mm以上の高純度SiCやSiSiCの基材11を用い、この基材11に多数の貫通孔12が形成されたシャワープレート10を得ることができる。これによりシャワープレートのエッチング耐久性を向上させることができ、半導体製造装置20の長時間使用によっても交換サイクルを従来より低減させることができる。したがって、半導体製造装置20による生産性の向上を図ることができる。
【0094】
また、シャワープレート10に形成された貫通孔12の側壁面はレーザ加工面であり、側壁面は、元素組成比率、結晶状態、重量密度、或いは、電気特性が変化した変質層を備える。これにより、電気特性に起因する高周波電圧印加時のプラズマの制御性を付与することができ、半導体製造装置による生産性の向上を図ることができる。
また、シャワープレート10に形成された各貫通孔12が、0.1°以上40°以下の傾斜角度θを有する構成にできる。一例として、
図7B~
図7D、
図8A~
図8D、及び
図9A、
図9Bに示す傾斜形状にできる。このうち、
図8A~
図8D、及び
図9A、
図9Bのように、中心軸傾斜角θ1を有する複数の貫通孔12を備えることが好ましい。これにより、貫通孔12の内部、又は、貫通孔12の開口部近辺でのガス流束の制御性を付与でき、半導体製造装置による生産性の向上を図ることができる。
【0095】
[レーザ加工装置]
図12は、レーザ加工装置の一例の模式図である。
図13に示すように、レーザ加工装置40は、基材2を格納可能なチャンバー41と、基材2にレーザを照射するレーザ照射部42と、ガス制御部43と、を有して構成される。
【0096】
図13に示すように、基材2は、チャンバー41内でステージ44上に載置される。ステージ44は、軸Cを中心として回転可能であり、また軸Cを垂直方向に対し、斜めに傾けることができる。ここでの「垂直方向」は、レーザLの照射方向に一致しており、したがって、軸Cを斜めに傾けることで、軸CをレーザLの照射方向から傾けることができる。
【0097】
図12に示すように、レーザ照射部42は、レーザ光源46と対物レンズ47と入射窓48を有して構成される。レーザ光源46にて、波長及びパルス幅が適宜選択されたレーザLを対物レンズ47及び入射窓48を介して基材2に照射できる。本実施形態では、レーザLは、基材2の主結晶のバンドギャップよりも大きい光子エネルギーを有するように、波長及びパルス幅が適宜選択されることが好ましい。これにより、レーザのエネルギー当たりの除去効率を大きくできる。
【0098】
ガス制御部43は、チャンバー41内の加工雰囲気を、低酸素雰囲気、或いは、少量のO2、CO2の少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気、又は、NF3、F2及びHFの少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気に制御する。ガス制御部43は、ガス供給部50とガス排出部51とを有する。例えば、一例として、ガス排出部51により、チャンバー41内を減圧し、ガス供給部50から大気中よりも高い濃度の窒素をチャンバー41内に供給し、酸素分圧を相対的に下げる。これにより、チャンバー41内を低酸素雰囲気に制御できる。あるいは、ガス供給部50から、CF4ガス等のフッ化物ガスや、フッ化物ガスとArガス等の混合ガスからなるドライエッチングガスをチャンバー41内に導入する。このとき、少量のO2、CO2の少なくともいずれか1種も併せて導入する。或いは、ドライエッチングガス雰囲気に、NF3、F2及びHFの少なくともいずれか1種を含む場合は、少量のO2、及びCO2を含めなくてもよい。これにより、チャンバー41内を、少量のO2、CO2の少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気、或いは、NF3、F2及びHFの少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気に制御できる。
【0099】
本実施形態では、
図12に示すレーザ加工装置40を用いて、基材2にレーザを照射し孔加工を施すことで、デブリの発生を抑制でき加工効率を向上させることができる。更には、レーザのエネルギー当たりの除去効率を大きくできる。これにより、基材2に高精密且つ高スループットにて貫通孔を形成できる。
【0100】
ステージ44の軸CをレーザLの照射方向に一致させた状態で、基材2にレーザ照射を行うと、
図13に示すように、レーザ加工面12aは傾斜した側壁面となる。また、図中のステージ44の直下のゴニオステージを用いて、
図13に示すようにステージ44の軸Cを垂直方向から斜めに傾ける。軸の傾斜角度を制御することで、
図14に示すレーザ加工面12aのテーパ角θ2を調整できる。
【0101】
例えば、
図8A~
図8Dに示すように、貫通孔の中心軸Cが傾くように、中心軸傾斜角θ1を調整するには、
図15A、
図15Bに示すように、ゴニオステージ53、54を複数用意する。第1のゴニオステージ53の表面53aは、水平面方向に対して傾斜角θ1で傾いている。また、第1のゴニオステージ53上に回転ステージ44を介して重ねられた第2のゴニオステージ54の表面54aは、第1のゴニオステージ53の表面53aに対して傾斜角θ2で傾いている。このため、第2のゴニオステージ54の表面54aに設置された基材2に対して、
図13に示すレーザ加工装置40によりレーザ照射を行うと、基材2には、基材2の表面2aから裏面2bにかけて傾斜する貫通孔7を形成できる。貫通孔7は、中心軸傾斜角θ1とテーパ角θ2を有している。なお、
図15Bは、
図15Aの回転ステージ44を180°回転させたときの模式図を示している。
【0102】
なお、
図14Aでは、中心軸傾斜角θ1とテーパ角θ2を、第1のゴニオステージ53の表面53aの傾斜角θ1と、第2のゴニオステージ54の表面54aの傾斜角θ2とが等しくなるよう配置しているが、対物レンズのNAや照射パルスエネルギーなどのレーザ加工条件に応じて、適宜、角度調整が可能である。また、ビームローテータ光学系や多軸ガルバノミラー光学系においても、光学系とワークとの相対角度の調整など、適宜、当業者の取りうる技術思想を利用することで、中心軸傾斜角θ1、テーパ角θ2、及び傾斜角度θを制御できる。
【0103】
図16Aにビームローテータ光学系の例を示す。
図16Aに示すように、集光レンズ60と、回転ステージに取付られた複数のウェッジプリズム61、62が、ミラー63により屈折して基材2に照射される光路中に設置される。
図16Aに示すように、各ウェッジプリズム61、62を回転させることで、レーザ照射の入射角度と、集光照射位置を高速に制御することができる。これにより、貫通孔6の傾斜角度θを制御することができる。
また、
図16Bに示すように、ビームローテータ光学系のうちミラー63から基材2の間の光路中の集光レンズ60、及び、各ウェッジプリズム61、62を傾斜させることで、基材2に傾斜する貫通孔7を精度よく形成できる。
【0104】
図16A及び
図16Bにおいては、ミラー63、集光レンズ60及び複数のウェッジプリズム61、62からなる単純な光学系の構成を例示したが、縮小結像系やガルバノスキャニングなどといった他の構成についても、本実施形態の構成及び本実施形態により得られる効果を逸脱しない範囲で適用することができる。
【0105】
以上のように、本実施形態のレーザ加工装置40では、貫通孔の傾斜角度θの調整が可能であり、このとき、レーザ加工面12aは、上記した変質層となる。
【0106】
[止まり穴の形成]
上記では、いずれも基材に貫通孔を形成した実施形態について説明したが、貫通孔に代えて、或いは貫通孔とともに、基材に止まり穴を形成できる。
【0107】
止まり穴は、1mmの深さを有する。或いは、止まり穴は、2mm以上の深さを有することが好ましい。更に、止まり穴を、5mm以上の深さ或いは8mm以上の深さとすることが可能である。また、基材の厚さに対する止まり穴の深さの比率を特に限定するものではなく、50%以上の深さとすることができるし、或いは、50%以下の深さであってもよい。
本実施形態では、止まり穴を、貫通孔の形成に準じて形成でき、上記の無機部材の製造方法、或いは無機部材、又はシャワープレートに適用できる。したがって、止まり穴の形態は、貫通していない点を除いて貫通孔を備えた形態と共通している。
【0108】
本実施形態では、無機部材の製造方法において、基材に、深さが1mm以上、好ましくは2mm以上の深い止まり穴をレーザ加工にて形成する際、デブリの発生を抑制でき、加工効率を向上させることができる。
また、本実施形態では、デブリの堆積が抑制され、止まり穴が高精度に形成された無機部材を提供でき、更に、複数の止まり穴が高精度に形成されたシャワープレート及びそれを用いた半導体製造装置を提供できる。
【0109】
本実施形態は、上記の実施形態及び変形例に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。更に、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【0110】
下記に、上記の実施形態における特徴点を整理する。
上記実施形態に記載の無機部材の製造方法は、厚さが2mm以上の無機物からなる基材に、低酸素雰囲気、或いは、少量のO2、CO2の少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気、又は、NF3、F2及びHFの少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気にて、レーザを照射し、貫通孔、或いは1mm以上の深さを有する止まり穴を形成することを特徴とする。この構成によれば、レーザ照射の際、デブリの発生を抑制できる。これにより、加工効率よく、基材に貫通孔、或いは止まり穴を形成できる。
【0111】
上記実施形態に記載の無機部材の製造方法において、前記レーザは、前記基材の主結晶のバンドギャップよりも大きい光子エネルギーを有することが好ましい。これにより、レーザのエネルギー当たりの除去効率を大きくできる。
【0112】
上記実施形態に記載の無機部材の製造方法において、前記レーザの波長は、400nm以下であることが好ましい。これにより、レーザの光子エネルギーを、基材の主結晶のバンドギャップよりも適切に大きくできる。このとき、主結晶はSiCであることが好ましい。
【0113】
上記実施形態に記載の無機部材の製造方法において、前記レーザは、多光子吸収が生じるパルス幅を有することが好ましい。このとき、前記パルス幅は、50nsec以下であることが好ましい。これにより、レーザのエネルギー当たりの除去効率を大きくできる。
【0114】
上記実施形態に記載の無機部材の製造方法において、前記ドライエッチングガス雰囲気は、フッ化物ガスを含むことが好ましい。具体的には、前記フッ化物ガスは、CF4、C2F6、C3F6、C4F6、C5F8、CHF3、C3F8、C4F10、HF、NF3、SF6、CF3Cl、CF2Cl2及びF2の少なくともいずれか1種を含むことが好ましい。或いは、前記ドライエッチングガス雰囲気は、CCl4及びCl2の少なくともいずれか1種を含んでもよい。これにより、デブリの発生を効果的に抑制できる。
【0115】
上記実施形態に記載の無機部材の製造方法において、前記無機物は、無機化合物を含むことができる。
上記実施形態に記載の無機部材の製造方法において、前記無機化合物は、炭化物、窒化物、及び酸化物の少なくともいずれか1種を主成分として含むことが好ましい。具体的には、前記炭化物は、シリコンカーバイド、ボロンカーバイド、タンタルカーバイド、及びタングステンカーバイドの少なくともいずれか1種を主成分として含むことが好ましい。また、前記窒化物は、シリコンナイトライド、及びボロンナイトライドの少なくともいずれか1種を主成分として含むことが好ましい。また、前記酸化物は、アルミナ、チタニア、石英、マグネシア、及びクロミアの少なくともいずれか1種を主成分として含むことが好ましい。これら無機化合物は、高硬度で耐久性が高く、半導体製造装置や航空宇宙輸送機部材等、様々な分野で応用できる。
【0116】
上記実施形態に記載の無機部材の製造方法において、前記レーザーの平均加工ピッチを0.1μm以上とすることが好ましい。これにより、貫通孔や止まり穴の形成に要する時間の短縮を図ることができる。
【0117】
本実施形態の無機部材は、厚さが2mm以上の無機物からなる基材と、前記基材に形成された貫通孔、或いは1mm以上の深さを有する止まり穴と、を有し、前記貫通孔、或いは前記止まり穴の側壁面に変質層を有することを特徴とする。本実施形態では、基材に高精度な貫通孔、或いは止まり穴が形成された無機部材を提供できる。
【0118】
上記実施形態に記載の無機部材において、前記変質層は、厚みが10μm以下であり、かつ、元素組成比率、結晶状態、重量密度、或いは、電気特性が前記基材と異なる構成にできる。また、上記実施形態に記載の無機部材において、前記貫通孔、或いは前記止まり穴のアスペクト比は、2以上であることが好ましい。このように、本実施形態では、高アスペクト比の貫通孔、或いは止まり穴を得ることができる。
上記本実施形態に記載の無機部材において、前記基材には、前記貫通孔が形成されることが好ましい。
【0119】
本実施形態のシャワープレートは、上記記載の無機部材に、複数の前記貫通孔、或いは前記止まり穴が形成されてなることを特徴とする。本実施形態では、前記貫通孔、或いは前記止まり穴が0.1°以上40°以下の傾斜角度を有する形態とすることができる。
或いは、本実施形態のシャワープレートは、厚さが2mm以上の無機物からなる基材と、前記基材に形成された複数の貫通孔、或いは1mm以上の深さを有する止まり穴と、を有し、前記貫通孔、或いは前記止まり穴の中心軸は、前記基材の表面上の法線方向から中心軸傾斜角θ1にて傾いており、前記貫通孔、或いは前記止まり穴の側壁面は、前記中心軸に対してテーパ角θ2にて傾いていることを特徴とする。本実施形態では、前記中心軸傾斜角θ1と前記テーパ角θ2とを足した傾斜角度θが、0.1°以上40°以下であることが好ましい。
【0120】
また、本実施形態の半導体製造装置は、上記記載の前記シャワープレートを具備することを特徴とする。本実施形態では、高精度に複数の貫通孔、或いは止まり穴が形成されたシャワープレートを提供できる。なお、シャワープレートは、1例である。例えば、
図9に示すフォーカスリング24や、航空機エンジンパーツのコールドセクションやホットセクションを構成するパーツを製造できる。
【0121】
本実施形態のレーザ加工装置は、基材を格納可能なチャンバーと、前記基材にレーザを照射するレーザ照射部と、前記チャンバー内の加工雰囲気を、低酸素雰囲気、或いは、ドライエッチングガス雰囲気、又は、NF3、F2及びHFの少なくともいずれか1種を含むドライエッチングガス雰囲気に制御するガス制御部と、を具備することを特徴とする。これにより、デブリの発生を抑制できる無機部材の製造方法を実現可能なレーザ加工装置を提供できる。
【実施例0122】
以下、本発明の実施例及び比較例により本発明の効果を説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0123】
[加工雰囲気に関する実験]
実験では、厚さが2mm或いは5mmのSiCからなる基材に、レーザを照射して孔加工を施した。このとき、レーザを照射する際の加工雰囲気を調整し、更には、レーザの波長及びパルス幅を適宜調整して、複数のサンプルを得た。そして、各サンプルの孔径やアスペクト比を測定した。
その実験結果が、以下の表2に示されている。
【0124】
【0125】
表2に示す例3~例7は、実施例であり、例8~例9は、比較例である。表2に示すように、例3~例6では、加工雰囲気として、N2の主成分に対し、酸素分圧を大気中よりも低減させた低酸素雰囲気、或いは、少量のO2を含むエッチングガス雰囲気とした。また、例7では、NF3を含むドライエッチングガス雰囲気とした。なお、例7では、O2を含んでいない。また、レーザ条件として、波長が355nmのUVレーザ、或いは、1026nmのIRレーザを使用し、パルス幅を、50nsec以下にした。
これに対し、例8~例9では、加工雰囲気を大気中とし、したがって、酸素分圧は20600Paであった。
【0126】
表2に示すように、例8~例9では、デブリの堆積量が多く、貫通孔を形成することができなかった。これに対し、例3~例7では、貫通孔を精度よく形成できた。例3~例7では、貫通孔の孔径を、2mm以下にでき、アスペクト比を、2以上にできた。
【0127】
[単結晶Siの実験]
実験では、基材として厚さが0.525mmの単結晶Siを用い、この単結晶Siを10層重ねた。そして、酸素濃度を500ppm程度とし、ビームローテータ光学系のビーム回転速度を2000rpm、又は5000rpm、平均加工ピッチを1.0~2.6μmとして、SF6ガス雰囲気下で、多層の単結晶Siに貫通孔を形成した。
【0128】
単結晶Siの夫々の層に対する孔加工の状態を確認したところ、
図17に示すように、各層に精度よく貫通孔を形成できた。SF
6ガス雰囲気下で、孔加工を行うことで、大気雰囲気下やN
2ガス雰囲気下での孔加工に比べて、深い孔加工を実現できた。実験では、厚さ0.525mmの単結晶Siを10層積層して貫通孔を形成したところ各層に貫通孔を形成できたため、厚さ5mm以上の単結晶Siに対して貫通孔を形成できることがわかった。また、孔内部のデブリの付着を少量に抑えることができ、基材にSiCを用いた場合と同様の傾向が得られた。
以上から基材として単結晶Siを用いた場合でも、F系ガスを用いて孔加工を行うことで、デブリの発生を抑制しつつ貫通孔を形成できるとわかった。
【0129】
[平均加工ピッチの実験]
実験では、厚さが5mmのSiCからなる基材に、レーザを照射して孔加工を施した。このとき、酸素濃度を200ppm程度とし、ビームローテータ光学系のビーム回転速度及び平均加工ピッチを変化させ、加工後にレーザ顕微鏡で孔深さを測定した。実験ではレーザとしてUVナノ秒レーザを用いた。その実験結果が以下の表3及び
図18に示されている。
【0130】
【0131】
表3及び
図18に示すように、平均加工ピッチが小さくなると単位加工時間当たりの孔深さは小さくなることがわかった。このため、貫通孔の形成に要する時間を短縮するには平均加工ピッチを適度に大きくすることが好ましいとわかった。そこで、実験結果に基づいて、平均加工ピッチは0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましく、0.4μm以上が更に好ましく、0.5μm以上が更により好ましいと規定した。また、平均加工ピッチの上限は、ビーム径に依存し、貫通孔の形成を妨げない範囲であれば限定するものではないが、100μm~200μmを上限とすることができる。
【0132】
[レーザ加工と機械による切削加工の表面粗さに関する実験]
次に、SiCからなる基材に、レーザ加工により貫通孔を形成し、
図19Aに示すように、貫通孔を二分するように、機械による切削加工により基材を切断した。実験で使用した基材の厚さは10mmであり、酸素濃度を200ppm程度とし、レーザとしてUVナノ秒レーザを用いた。貫通孔の孔径は1mmであった。
【0133】
測定機器としてDektakを用い、
図19Aの模式図に示す矢印A方向から見た切削面及び貫通孔の側壁面の表面粗さを測定した。
図19Bは、
図19Aに示す矢印A方向から見た切削面及び貫通孔の側壁面の写真であり、(i)~(iii)の位置は、レーザ加工による貫通孔の側壁面、及び(iv)の位置は、機械による切削面を示す。そして、(i)~(iv)の各位置の表面粗さを測定した。その実験結果を表4に示す。
【0134】
【0135】
表4に示すように、レーザ加工による貫通孔の側壁面の表面粗さは、機械による切削面の表面粗さより小さくなり、具体的には半分以下の表面粗さにできた。具体的には、貫通孔の側壁面の表面粗さは、150nm以上450nm以下であった。更には、貫通孔の側壁面の表面粗さを、200nm以上320nm以下に調整できるとわかった。以上から、機械加工に比べてレーザ加工による貫通孔の形成によりパーティクルの発生を抑制できると考えられる。
【0136】
[止まり穴の形成に関する実験]
実験では、SiCからなる基材に、レーザ加工により止まり穴を形成した。NF3を含むドライエッチングガス雰囲気(0.2atm)とし、レーザとしてUVナノ秒レーザを用いた。
【0137】
図20に示すように、厚さが10mmの基材に複数の止まり穴を形成した。なお
図20は基材の断面写真である。各止まり穴の深さは、最も深いもので、6358μm、次に深いもので5807μm、3番目に深いもので4644μmであった。また、各止まり穴の直径は1mmであった。