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特開2022-132160がんの治療又は予防剤、及びがんの治療又は予防のためのRF経路阻害剤とMEK阻害剤との組み合わせ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132160
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】がんの治療又は予防剤、及びがんの治療又は予防のためのRF経路阻害剤とMEK阻害剤との組み合わせ
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20220831BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220831BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220831BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20220831BHJP
   A61K 31/525 20060101ALI20220831BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20220831BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220831BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/06
A61K31/525
A61K31/519
C12N15/12 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026434
(22)【出願日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2021029585
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】509346689
【氏名又は名称】学校法人都築学園
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】大塩 貴子
(72)【発明者】
【氏名】園下 将大
(72)【発明者】
【氏名】市川 聡
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 悠介
(72)【発明者】
【氏名】藤井 清永
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084AA19
4C084AA20
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZC202
4C084ZC412
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB09
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
【課題】新規の作用機序による、すなわち、リボフラビン経路の阻害を介した、がんの治療又は予防剤、及びがんの治療又は予防のためのRF経路阻害剤とMEK阻害剤との組み合わせを提供する。
【解決手段】がんの治療又は予防剤は、RF経路阻害剤を有効成分として含有する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RF経路阻害剤を有効成分として含有する、がんの治療又は予防剤。
【請求項2】
前記がんは、膵がんである、
ことを特徴とする請求項1に記載のがんの治療又は予防剤。
【請求項3】
前記RF経路阻害剤は、ロゼオフラビンである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のがんの治療又は予防剤。
【請求項4】
さらにMEK阻害剤を有効成分として含有する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のがんの治療又は予防剤。
【請求項5】
前記MEK阻害剤は、トラメチニブである、
ことを特徴とする請求項4に記載のがんの治療又は予防剤。
【請求項6】
がんの治療又は予防のための、RF経路阻害剤とMEK阻害剤との組み合わせ。
【請求項7】
前記がんは、膵がんである、
ことを特徴とする請求項6に記載の組み合わせ。
【請求項8】
前記RF経路阻害剤は、ロゼオフラビンである、
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の組み合わせ。
【請求項9】
前記MEK阻害剤は、トラメチニブである、
ことを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の組み合わせ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんの治療又は予防剤、及びがんの治療又は予防のためのRF経路阻害剤とMEK阻害剤との組み合わせに関する。
【背景技術】
【0002】
膵がんは、早期発見が困難で、かつ有効な治療法がほとんど存在しない代表的な難治がんである。膵がん死は今後も世界的に増加することが確実視されており、その発症機序の解明や新規治療法の開発は喫緊の福祉課題である(非特許文献1)。
【0003】
膵がんでは、がん遺伝子KRASの活性化変異や、がん抑制遺伝子群TP53・P16・SMAD4の不活性化変異がそれぞれ40~90%の患者に観察され、最も予後の悪い患者群はこれら4遺伝子全ての変異を有する(非特許文献2、3)。
【0004】
リボフラビンは、ビタミンB2とも呼ばれ、水溶性ビタミンに分類される生理活性物質である。哺乳類はリボフラビンを体内で産生できないため、食物等を介してこれを取り入れる必要があり、これが欠乏すると成長の停止、角膜炎、皮膚炎、口内炎等が生じる。リボフラビンには様々な類縁体が存在するが、リボフラビン類縁体の一つであるロゼオフラビンは、抗菌薬として知られている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Rahib et al.Cancer Res.2014 Jun 1;74(11):2913-21.
【非特許文献2】Qian et al.JAMA Oncol.2018;4(3):e173420.
【非特許文献3】Makohon-Moore et al.Nat Rev Cancer.2016 Sep;16(9):553-65.
【非特許文献4】Pedrolli et al.Biochem Pharmacol.2011 Dec 15;82(12):1853-9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
がんの死亡数及び罹患数は、人口の高齢化を主な要因として、ともに増加し続けており、特に、膵がんをはじめとする予後が不良な難治がんに対する有効な治療法の開発が待たれている状況にあった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、新規の作用機序による、すなわち、リボフラビン経路の阻害を介した、がんの治療又は予防剤、及びがんの治療又は予防のためのRF経路阻害剤とMEK阻害剤との組み合わせを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係るがんの治療又は予防剤は、
RF経路阻害剤を有効成分として含有する。
【0009】
例えば、前記がんは、膵がんである。
【0010】
例えば、前記RF経路阻害剤は、ロゼオフラビンである。
【0011】
例えば、さらにMEK阻害剤を有効成分として含有する。
【0012】
例えば、前記MEK阻害剤は、トラメチニブである。
【0013】
本発明の第2の観点に係る組み合わせは、
がんの治療又は予防のための、RF経路阻害剤とMEK阻害剤との組み合わせである。
【0014】
例えば、前記がんは、膵がんである。
【0015】
例えば、前記RF経路阻害剤は、ロゼオフラビンである。
【0016】
例えば、前記MEK阻害剤は、トラメチニブである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、新規の作用機序による、すなわち、リボフラビン経路の阻害を介した、がんの治療又は予防剤、及びがんの治療又は予防のためのRF経路阻害剤とMEK阻害剤との組み合わせを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】4-hitハエにキナーゼ遺伝子のヘテロ接合性変異を導入して、キナーゼヘテロ接合性変異4-hitハエを作出するプロトコールの概略を示す図である。
図2】RFK(リボフラビンキナーゼ)ヘテロ接合性変異の導入による4-hitハエの生存率の回復を示すグラフ図である。
図3】特定の遺伝子をノックダウンした4-hitハエを作出するプロトコールの概略を示す図である。
図4】RF経路関連遺伝子ノックダウンによる4-hitハエの生存率の回復を示すグラフ図である。
図5】培養ヒト膵がん細胞株におけるロゼオフラビンによる相対生存率への影響を示すグラフ図であり、(a)はMIAPaCa-2、(b)PANC-1、(c)Capan-1のグラフ図である。
図6】ロゼオフラビンによるRF経路阻害の概略を示す図である。
図7】ロゼオフラビンとトラメチニブとの併用による培養ヒト膵がん細胞株(AsPC-1)におけるスフェロイド形成の抑制を示すグラフ図であり、(a)は培養21日目の各群の写真図であり、(b)は培養21日目の各群におけるスフェロイドの数をサイズごとに計測したグラフ図である。
図8】ロゼオフラビンとトラメチニブとの併用による培養ヒト膵がん細胞株(Capan-1)におけるスフェロイド形成の抑制を示すグラフ図であり、(a)は培養21日目の各群の写真図であり、(b)は培養21日目の各群におけるスフェロイドの数をサイズごとに計測したグラフ図である。
図9】ロゼオフラビンとトラメチニブとの併用による4-hitハエ生存率の回復を示すグラフ図である。
図10】ロゼオフラビンとトラメチニブとの併用によるヒト膵がん細胞同所移植マウスにおける腫瘍抑制を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(1.がんの治療又は予防剤)
本発明によるがんの治療又は予防剤は、RF経路阻害剤を有効成分として含有する。
【0020】
本明細書において「がんの治療」は、がんの進行の遅延又は停止、がんの寛解又は一時的寛解、がん病変の退縮又は消失、がん細胞の増殖抑制、がんの再発の防止等を含む、種々の目的の医学的に許容される治療的介入を包含する。また、「がんの治療剤」とは、がんの進行を遅延又は停止する剤、がんを寛解させる剤又は一時的に寛解させる剤、がん病変を退縮又は消失する剤、がん細胞の増殖を抑制させる剤、がんの再発を防止する剤等を指す。
【0021】
本明細書において「がんの予防」は、がんの発症又は罹患の予防、がん病変の発生の予防、前がん状態の発生の予防等を含む、種々の目的の医学的に許容される予防的介入を包含する。また、「がんの予防剤」とは、がんの発症又は罹患を予防する剤、がん病変の発生を予防する剤、前がん状態の発生を予防する剤等を指す。
【0022】
本明細書において「がん」とは、例えば、膵がん、白血病(例えば、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病)、悪性リンパ腫(ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫(例えば、成人T細胞白血病、濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫))、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、頭頸部癌、消化管癌(例えば、食道癌、食道腺癌、胃癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌)、肝臓癌(例えば、肝細胞癌)、胆嚢・胆管癌、胆道癌、甲状腺癌、肺癌(例えば、非小細胞肺癌(例えば、扁平上皮非小細胞肺癌、非扁平上皮非小細胞肺癌)、小細胞肺癌)、乳癌、泌尿生殖器癌(例えば、卵巣癌(例えば、漿液性卵巣癌)、子宮頚癌、子宮体癌、子宮内膜癌、膣癌、外陰部癌、腎癌(例えば、腎細胞癌)、尿路上皮癌(例えば、膀胱癌、上部尿路癌)、前立腺癌、精巣腫瘍(例えば、胚細胞腫瘍))、骨・軟部肉腫、皮膚癌(例えば、ブドウ膜悪性黒色腫、メラノーマ、メルケル細胞癌)、神経膠腫、脳腫瘍(例えば、膠芽腫)、胸膜中皮腫及び原発不明癌)等が挙げられるが、これらに限定されない。がんは、好ましくは膵がんである。膵がんとしては、外分泌腫瘍、例えば浸潤性膵管がん、膵腺房細胞がん、膵管内乳頭粘液性腫瘍等、及び内分泌腫瘍、例えば神経内分泌腫瘍等を挙げることができる。
【0023】
本明細書において、RF経路とは、RF(Riboflavin:リボフラビン)代謝経路を指す。RFは食物に含まれる栄養素(別名:ビタミンB2)であって、細胞膜に局在するRFT(RFトランスポーター)を介して細胞内に取り込まれ、RFK(RFキナーゼ)によってリン酸化されてFMN(Flavin mononucleotide)となる。RFKは、RF代謝の律速酵素である。FMNはさらに、FLAD1(FAD synthetase 1)によってFAD(Flavin adenine dinuclotide)に変換される。FMN及びFADは補酵素として様々なフラボタンパクと結合し、エネルギー産生や酸化還元反応など恒常性の維持に重要な各種代謝反応を調節する(Lienhart et al.Arch Biochem Biophys.2013 Jul 15;535(2):150-62.)。
【0024】
本明細書において「RF経路阻害剤」とは、RF経路に関与する物質のうち1種以上に作用することによって、RF経路を阻害する剤を意味する。したがって、RF経路阻害剤が作用するのは、RF、RFT、RFK、FMN、FLAD1、FADのいずれであってもよく、これら以外の物質に作用してRF経路を阻害してもよい。すなわち、「RF経路阻害剤」のRF経路「阻害」の形態は、例えば、(i)RFと競合する、(ii)直接的にRFT、RFK、FMN、FLAD1又はFADの機能を阻害する、(iii)RF経路上の上記以外の物質の機能に必要な物質を捕捉するなどして間接的にRF経路を阻害する等、特に制限はない。
【0025】
「RF経路阻害剤」は、例えば、RF類縁体(リボフラビン類縁体)である。本明細書において「RF類縁体」とは、リボフラビンと構造が類似しており、リボフラビン中の一部の原子又は官能基が他の原子又は官能基に置換された化合物であって、RF経路阻害能を有する化合物を指す。RF類縁体として、例えば、ロゼオフラビン、T308471を挙げることができる。RF類縁体は、好ましくはロゼオフラビンである。
【0026】
本発明によるがんの治療又は予防剤は、RF経路阻害剤の他に、さらにMEK阻害剤を有効成分として含有していてもよい。
【0027】
MEK(MAPK(マイトジェン活性化プロテインキナーゼ)/ERK(細胞外シグナル制御キナーゼ)キナーゼ)は、MAPKカスケードを構成するプロテインキナーゼの1種である。MAPKカスケードは、細胞増殖、成長、分化及びアポトーシスといった多種多様な細胞プロセスを制御する複雑なシグナル伝達ネットワークを形成している。MEKを阻害することにより細胞増殖が停止してアポトーシスが誘導されることから、MEKは抗がん剤のターゲット分子として注目されており、様々なMEK阻害剤が報告されている。
【0028】
本発明において用いられるMEK阻害剤の例としては、トラメチニブ(Trametinib)、コビメチニブ(Cobimetinib)、ビニメチニブ(Binimetinib)、セルメチニブ(Selumetinib)、ピマセルチブ(Pimasertib)、ミルダメチニブ(Mirdametinib)、レファメチニブ(Refametinib)、PD184352、PD98059、BIX02189、BIX02188、TAK-733、AZD8330、PD318088、Myricetin、BI-847325、GDC-0623、Ro5126766、PD334581、PD198306、RO4987655、HI TOPK 032等を挙げることができる。MEK阻害剤は、好ましくはトラメチニブである。
【0029】
本発明によるがんの治療又は予防剤が、RF経路阻害剤の他に、さらにMEK阻害剤を有効成分として含有する場合、RF経路阻害剤及びMEK阻害剤は1つの化合物に限定されない。例えば、1つのRF経路阻害剤と1つのMEK阻害剤との組み合わせに限られず、1つのRF経路阻害剤と2つ以上のMEK阻害剤との組み合わせ、2つ以上のRF経路阻害剤と1つのMEK阻害剤との組み合わせ、及び2つ以上のRF経路阻害剤と2つ以上のMEK阻害剤との組み合わせを包含する。
【0030】
本発明によるがんの治療又は予防剤が、RF経路阻害剤の他に、さらにMEK阻害剤を有効成分として含有する場合、RF経路阻害剤は好ましくはロゼオフラビンであり、MEK阻害剤は好ましくはトラメチニブである。
【0031】
本発明によるがんの治療又は予防剤が、RF経路阻害剤の他に、さらにMEK阻害剤を有効成分として含有する場合、RF経路阻害剤とMEK阻害剤とを共に含有する製剤の形態であってもよく、両者を別個の製剤として組み合わせた形態であってもよい。RF経路阻害剤とMEK阻害剤とを別個の製剤として組み合わせた形態である場合、それぞれの製剤の投与順序及び投与時期は特に制限されず、同時に投与されてもよく、時間を置いて異なる時間に又は異なる日に投与されてもよい。
【0032】
本発明によるがんの治療又は予防剤は、がんに罹患した対象、例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモットを含むげっ歯類、ヒト、チンパンジー、アカゲザルを含む霊長類、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジを含む家畜、イヌ、ネコを含む愛玩動物といった哺乳動物に投与される。好ましい対象は、ヒトである。
【0033】
本発明によるがんの治療又は予防剤の投与方法は、経口投与、局所投与、静脈内投与、腹腔内投与、皮内投与、舌下投与等、適宜選択され得る。投与剤型も任意であってよく、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤、注射剤などの非経口用液体製剤等に適宜調製することができる。また、適切なドラッグデリバリーシステム(DDS)を用いてもよい。これらの剤形は、有効成分を常法により製剤化することによって製造される。さらに製剤上の必要に応じて、医薬的に許容し得る各種の製剤用物質を配合することができる。製剤用物質は製剤の剤形により適宜選択でき、例えば、緩衝化剤、界面活性剤、安定化剤、防腐剤、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤等が挙げられる。
【0034】
本発明によるがんの治療又は予防剤の投与量及び投与回数は、有効量が患者に投与されるように、がんの種類、患者の健康状態、年齢、体重、投与経路、投与形態等に応じて当業者が適宜設定できる。
【0035】
(2.組み合わせ)
本発明のがんの治療又は予防のための組み合わせは、RF経路阻害剤とMEK阻害剤との組み合わせである。
【0036】
「がん」、「治療」、「予防」、「RF経路阻害剤」及び「MEK阻害剤」の各用語の詳細については、前述同様である。
【0037】
本発明の組み合わせが適用されるがんは、好ましくは膵がんである。膵がんとしては、外分泌腫瘍、例えば浸潤性膵管がん、膵腺房細胞がん、膵管内乳頭粘液性腫瘍等、及び内分泌腫瘍、例えば神経内分泌腫瘍等を挙げることができる。
【0038】
本発明の組み合わせに用いられるRF経路阻害剤は、好ましくはロゼオフラビンである。
【0039】
本発明の組み合わせに用いられるMEK阻害剤は、好ましくはトラメチニブである。
【0040】
「組み合わせ」とは、その必要がある、すなわちがんの治療が望まれる対象に、一緒に又は別々に、同時に又は逐次的に投与することを意図した組み合わせを意味する。組み合わせは、RF経路阻害剤とMEK阻害剤とを共に含有する製剤の形態であってもよく、両者を別個の製剤として組み合わせた形態であってもよい。RF経路阻害剤とMEK阻害剤とを別個の製剤として組み合わせた形態である場合、それぞれの製剤の投与順序及び投与時期は特に制限されず、同時に投与されてもよく、時間を置いて異なる時間に又は異なる日に投与されてもよい。
【0041】
本発明の組み合わせを構成するRF経路阻害剤及びMEK阻害剤は、1つの化合物には限定されない。例えば、1つのRF経路阻害剤と1つのMEK阻害剤との組み合わせに限られず、1つのRF経路阻害剤と2つ以上のMEK阻害剤との組み合わせ、2つ以上のRF経路阻害剤と1つのMEK阻害剤との組み合わせ、及び2つ以上のRF経路阻害剤と2つ以上のMEK阻害剤との組み合わせを包含する。
【0042】
本発明の組み合わせにおいて、RF経路阻害剤は好ましくはロゼオフラビンであり、MEK阻害剤は好ましくはトラメチニブである。
【0043】
本発明の組み合わせが適用される対象、並びに本発明の組み合わせの投与方法、投与剤型、製剤化の方法、投与量及び投与回数については、前述同様である。
【0044】
(3.まとめ)
以上説明したように、本発明によるがんの治療又は予防剤は、RF経路阻害剤を有効成分として含有し、新規の作用機序を介して膵がんをはじめとするがんを治療又は予防する剤である。RF経路阻害剤にMEK阻害剤を組み合わせることで、さらに有効ながんの治療又は予防剤を提供することができる。
【0045】
また、本発明によるがんの治療又は予防のための組み合わせは、RF経路阻害剤とMEK阻害剤との組み合わせであり、膵がんをはじめとしたがんに対する新規の治療又は予防薬となる。
【実施例0046】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
ヒト膵がんショウジョウバエモデルを以下のとおり作出した。
【0048】
ショウジョウバエw(Bloomington Drosophila Stock Center)から常法にてゲノムDNAを抽出した。このゲノムDNAを鋳型として、Ras85D遺伝子を増幅するように設計されたプライマーDNAを用いてPCRを行い、Ras85D遺伝子の塩基配列を含むDNA断片を得た。さらに、Ras85Dのアミノ酸配列の12番目のグリシンをコードするコドンをアスパラギン酸をコードするコドンに置換するための部位特異的変異導入用プライマーDNAを設計、合成し、前記DNA断片を鋳型としたPCRを行って、Ras85D変異体(RasG12D)をコードするDNA断片を作製した。このDNA断片をショウジョウバエのノックダウン用ベクターであるpWALIUMベクター(Harvard Medical School)に挿入し、pWALIUM.UAS-RasG12Dベクターを作製した。これをショウジョウバエy67c23;P{CaryP}attP2にマイクロインジェクションし、相同組換えにより3番染色体L領域にRasG12DをコードするDNAが挿入されたUAS-RasG12Dハエを作出した。
【0049】
また、RasG12DをコードするDNA断片と共にp53遺伝子ノックダウン配列(センス鎖TGCTGAAGCAATAACCACCGA(配列番号1)、ヘアピンループTAGTTATATTCAAGCATA(配列番号5)及びアンチセンス鎖TCGGTGGTTATTGCTTCAGCA(配列番号2)を連結した配列)を含むDNA断片をpWALIUMベクターに挿入して、pWALIUM.UAS-RasG12D,UAS-p53 shRNAベクターを作製した。これを同様にショウジョウバエy67c23;P{CaryP}attP2にマイクロインジェクションすることで、3番染色体L領域にRasG12DをコードするDNA及びp53遺伝子に対するshRNAが挿入されたUAS-RasG12D,UAS-p53 shRNAハエを作出した。
【0050】
さらに、ショウジョウバエwのゲノムDNAを鋳型として、Cyclin E(CycE)遺伝子を増幅するように設計されたプライマーDNAを用いてPCRを行い、CycE遺伝子の塩基配列を含むDNA断片を得た。このDNA断片を、Med遺伝子ノックダウン配列(センス鎖TTCAGTGCGATGAACATTGCT(配列番号3)、ヘアピンループTAGTTATATTCAAGCATA(配列番号5)及びアンチセンス鎖AGCAATGTTCATCGCACTGAA(配列番号4)を連結した配列)を含むDNA断片と共にpWALIUMベクターに挿入して、pWALIUM.UAS-CycE,UAS-Med shRNAベクターを作製した。これをショウジョウバエPBac{yellow[+]-attP-9A}VK00027にマイクロインジェクションし、相同組換えにより3番染色体R領域にCycE遺伝子をコードするDNA及びMed遺伝子に対するshRNAが挿入されたUAS-CycE,UAS-Med shRNAハエを作出した。
【0051】
次いで、UAS-RasG12D,UAS-p53 shRNAハエとUAS-CycE,UAS-Med shRNAハエを25℃で3日間交配し、UAS-RasG12D,UAS-p53 shRNA,UAS-CycE,UAS-Med shRNAハエを作出した。
【0052】
UAS-RasG12D,UAS-p53 shRNA,UAS-CycE,UAS-Med shRNAハエのそれぞれをSer-gal4,UAS-GFPハエ(Ser>GFPハエ、Bloomington Drosophila Stock Center)と25℃で3日間交配し、Ser>GFP;UAS-RasG12D,UAS-p53 shRNA,UAS-CycE,UAS-Med shRNAハエ(4-hitハエ(Ser>GFP)と表す)を作出した。これらのハエにおいては、Serプロモーターの制御下で翅原基の限局した上皮細胞に導入遺伝子の発現が誘導された(図示せず)。
【0053】
このようにして得られた4-hitハエを、ヒト膵がんショウジョウバエモデルとして、以下の試験に用いた。
【0054】
(実施例2)
リボフラビンキナーゼ(RFK)のヘテロ接合性変異の4-hitハエを作出し、RF経路阻害による4-hitハエの生存率への影響について検証した。
【0055】
Sonoshitaら(Curr.Top.Dev.Biol.,2017,121,287-309)の方法に従って、図1に示されるように交配を行って、リボフラビンキナーゼ(RFK)のヘテロ接合性変異による4-hitハエの生存率への影響を検証した。具体的には、実施例1で作出したUAS-RasG12D,UAS-p53 shRNA,UAS-CycE,UAS-Med shRNAハエをSM5tubgal80-TM6Bバランサーハエ(Dr.Ross Cagan,Icahn School of Medicine at Mount Sinai,NY,USA)と交配し、UAS-RasG12D,UAS-p53 shRNA,UAS-CycE,UAS-Med shRNA/SM5tubgal80-TM6Bハエを作出した。次いでこれをSer>GFPハエ(Bloomington Drosophila Stock Center)と交配し、Ser>GFP;UAS-RasG12D,UAS-p53 shRNA,UAS-CycE,UAS-Med shRNA/SM5tubgal80-TM6Bハエを作出した。
【0056】
また、Bloomington Drosophila Stock Center(米国)から、RFK変異系統(BDSC No.30081)を入手し、これを、27℃で3日間、Ser>GFP;UAS-RasG12D,UAS-p53 shRNA,UAS-CycE,UAS-Med shRNA/SM5tubgal80-TM6Bハエと交配し、RFKのヘテロ接合性変異4-hitハエの卵を得た。対照として、wハエをSer>GFP;UAS-RasG12D,UAS-p53 shRNA,UAS-CycE,UAS-Med shRNA/SM5tubgal80-TM6Bハエと交配し、キナーゼ野生型4-hitハエの卵を得た。これらのハエを27℃で13日間飼育した後、羽化した個体の数を蛹の総数で割り、生存率を算出した。
【0057】
結果を図2に示す。RFKのヘテロ接合性変異4-hitハエでは、対照に比して、致死性が抑制されることが示された。このことから、RF経路の阻害が膵がんの予防又は治療に有効であることが示された。
【0058】
(実施例3)
リボフラビン(RF)経路関連遺伝子のノックダウンによる4-hitハエを作出し、RF経路阻害による4-hitハエの生存率への影響について検証した。
【0059】
RF代謝経路に関わる遺伝子として、ヒトでは、Riboflavin transporter(RFT:SLC52A1,SLC52A2,SLC52A3の3種)、Riboflavin kinase(RFK)、FAD synthetase(FLAD1)が報告されている。一方、ハエでは、RFT及びRFKが1種類ずつ、FLAD1のオルソログとしてCG16848及びFADSの2種類が知られている。
【0060】
図3に示されるように交配を行って以下8種類のRF経路関連遺伝子のノックダウンによる4-hitハエを作出し、各々の生存率への影響を検証した。
RFTノックダウン:KD♯1、KD♯2
RFKノックダウン:KD♯1、KD♯2
CG16848ノックダウン:KD♯1、KD♯2
FADSノックダウン:KD♯1、KD♯2
【0061】
これらのノックダウンに必要なハエは、以下に示すようにBloomington Drosophila Stock Center(BDSC、米国)、Fly Stocks of National Institute of Genetics(NIG、国立遺伝学研究所)及びVienna Drosophila RNAi Center(VDRC、オーストリア ウィーン)より入手した。
RFT KD♯1:BDSC 29531
RFT KD♯2:NIG 11576R-3
RFK KD♯1:BDSC 57405
RFK KD♯2:VDRC 100266
CG16848 KD♯1:BDSC 61938
CG16848 KD♯2:NIG 16848R-1
FADS KD♯1:BDSC 44055
FADS KD♯2:NIG 4407R-4
【0062】
RFT KD♯1については、BDSCから入手したUAS-RFT(Rift) shRNA/TM3(BDSC 29531)をMKRS/TM6Bのハエと交配して、UAS-RFT shRNA/TM6Bのハエを作出した。このハエを、27℃で2日間、Ser>GFP;UAS-RasG12D,UAS-p53 shRNA,UAS-CycE,UAS-Med shRNA/SM5tubgal80-TM6Bハエと交配し、UAS-RFT shRNAを持つ4-hitハエの卵を得た。
【0063】
RFT KD♯2、RFK KD♯1、CG16848 KD♯1、FADS KD♯1については、FM7C-Tb-RFP/Y(BDSC 36337)のハエと交配して、UAS-RFT shRNA/CyO-Tb-RFP、UAS-RFK shRNA/CyO-Tb-RFP、UAS-CG16848 shRNA/CyO-Tb-RFP、UAS-FADS shRNA/CyO-Tb-RFPのハエを作出した。
【0064】
FADS KD♯2については、CyO-Tb-RFP/ap(BDSC 36336)のハエと交配して、UAS-FADS shRNA/CyO-Tb-RFPのハエを作出した。
【0065】
上記のハエ及びRFK KD♯2、CG16848 KD♯2のハエを、27℃で2日間、Ser>GFP;UAS-RasG12D,UAS-p53 shRNA,UAS-CycE,UAS-Med shRNA/SM5tubgal80-TM6Bハエと交配し、UAS-RF経路関連遺伝子 shRNAを持つ4-hitハエの卵を得た。
【0066】
対照として、w-ハエをSer>GFP;UAS-RasG12D,UAS-p53 shRNA,UAS-CycE,UAS-Med shRNA/SM5tubgal80-TM6Bハエと交配し、キナーゼ野生型4-hitハエの卵を得た。これらのハエを27℃で13日間飼育した後、羽化した個体の数を蛹の総数で割り、生存率を算出した。
【0067】
結果を図4に示す。RF経路関連遺伝子ノックダウンによる4-hitハエでは、対照に比して、致死性が著しく抑制されることが示された。このことから、RF経路の阻害が膵がんの予防又は治療に有効であることが示された。
【0068】
(実施例4)
ヒト膵がん細胞をロゼオフラビン(RoF)で処理し、ミトコンドリア呼吸鎖の活性を生存率と仮定し、相対生存率を算出した。
【0069】
ヒト膵がん細胞株であるMIAPaCa-2、PANC-1及びCapan-1を用いてRoFによるMTSアッセイを行った。いずれの細胞株も、ATCCより入手した。各細胞株を以下に示す培地を用い、5%CO存在下、37℃で培養した。
・MIAPaCa-2:Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(nakalai tesque)に10%ウシ胎児血清(gibco)及び1% penicillin-streptomycin(nakalai tesque)を加えた培地
・PANC-1:RPMI 1640培地(nakalai tesque)に10%ウシ胎児血清(gibco)及び1% penicillin-streptomycin(nakalai tesque)を加えた培地
・Capan-1:IMDM培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)(nakalai tesque)に20%ウシ胎児血清(gibco)及び1% penicillin-streptomycin(nakalai tesque)を加えた培地
【0070】
ロゼオフラビン(RoF)を0μM(DMSOのみ)、0.1mM、0.3mM、1mM、3mM、10mMに各々調製し、培地で1000倍に希釈して薬剤液とした(RoF最終濃度:0μM、0.1μM、0.3μM、1μM、3μM、10μM)。
【0071】
96ウェルプレートに、MIAPaCa-2を500細胞/ウェル、PANC-1を2,000細胞/ウェル、Capan-1を10,000細胞/ウェル播種した(100μL培地中)。1日培養した後、各濃度のRoFの薬剤液を10μLずつ96ウェルプレートの細胞に添加した(DMSOの最終濃度0.1%)。各組み合わせは3ウェルずつ試験した。薬剤液添加後、5%CO存在下、37℃で24、48、72時間培養した後、MTSアッセイ(CellTiter96(登録商標)、Promega)を使用して細胞生存率を測定した。生存率は、対照(溶媒のみ)72時間に対する割合で表記した。
【0072】
結果を図5に示す。各ヒト膵がん細胞株において、ロゼオフラビン(RoF)は用量依存的にミトコンドリア呼吸鎖の活性を低下させ、相対生存率を減少させることが示された。このことから、RF経路阻害剤であるRoFは、膵がんの予防又は治療に有効であることが示された。
【0073】
なお、ロゼオフラビン(RoF)10μM又は対照としてDMSO(最終濃度0.1%)で48時間処置したヒト膵がん細胞(MIAPaCa-2、PANC-1、Capan-1)を回収し、細胞内でのRoF、RF(リボフラビン)、FMN(Flavin mononucleotide)、FAD(Flavin adenine dinuclotide)の量を液体クロマトグラフィー質量分析法にて測定すると、RoF処置細胞でのみRoFが検出され、RF、FMN、FAD量が対照に比べて減少していた(図示せず)。したがって、RoFは、RFと競合することで、FMN及びFADを抑制し、RF経路を阻害することが示された(図6)。
【0074】
(実施例5)
RF経路阻害剤であるロゼオフラビンとMEK阻害薬であるトラメチニブの併用による膵がん抑制効果について、膵がん細胞株(AsPC-1、Capan-1)を用いて検証した。
【0075】
4-hitの変異を有する膵がん細胞株(AsPC-1、Capan-1)を用いて、メチルセルロース含有培地で3次元培養を行った。メチルセルロースは粘性が高く、細胞が自由に動けなくなるため、細胞同士が凝集して塊になってスフェロイドを形成する。
【0076】
24ウェルプレート(上層:1.8%メチルセルロース、下層:0.48%アガロース)にAsPC-1を5×10細胞/ウェル播種した(100μL培地中)。1日培養した後(1日目)、DMSO(コントロール)、10μMのロゼオフラビン(RoF)、1nMのトラメチニブ(Tr)、10μMのRoF+1nMのTrとなるように24ウェルプレートに各々添加した(DMSOの最終濃度0.1%)。薬剤液添加後、5%CO存在下、37℃で培養し、14日目に培養液を追加した。さらに培養後、21日目に各群を撮影し、スフェロイドの大きさ及び数を測定した。なお、各細胞株の培養において以下に示す培地を用いた。
・AsPC-1:RPMI 1640培地(nakalai tesque)に10%ウシ胎児血清(gibco)及び1% penicillin-streptomycin(nakalai tesque)を加えた培地
・Capan-1:IMDM培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)(nakalai tesque)に20%ウシ胎児血清(gibco)及び1% penicillin-streptomycin(nakalai tesque)を加えた培地
【0077】
AsPC-1における結果を図7、Capan-1における結果を図8に示す。AsPC-1において、0.1-0.2mm及び0.2mmより大きいスフェロイドのサイズでは、ロゼオフラビン(RoF)単独、トラメチニブ(Tr)単独及びRoF+Tr併用のいずれにおいてもスフェロイド形成が抑制され、0.1mmより小さいスフェロイドのサイズでは、RoF+Tr併用によってスフェロイド形成がさらに抑制されることが示された(図7(b))。Capan-1においても、0.1-0.2mm及び0.2mmより大きいスフェロイドのサイズでは、RoF単独、Tr単独及びRoF+Tr併用のいずれにおいてスフェロイド形成が抑制された。一方、RoF単独及びTr単独処置では0.1mm以下のスフェロイドの数を増加させたが、RoF+Tr併用ではその増加が抑えられ、全体のスフェロイドの数が減少した(図8(b)。これらのことから、トラメチニブとロゼオフラビンとの併用は、膵がんの予防又は治療に非常に有効であることが示された。
【0078】
(実施例6)
RF経路阻害剤であるロゼオフラビンとMEK阻害薬であるトラメチニブの併用による膵がん抑制効果について、4-hitハエを用いて検証した。
【0079】
ロゼオフラビン及びトラメチニブをDMSO(SIGMA)に溶解し、-20℃で保存した。
【0080】
agar(Wako)、brewers’yeast(MPBio)、yeast extract(Sigma Aldrich)、bacto casitone (BD)、sucrose(Wako)、glucose(Wako)、MgCl(Wako)、CaCl(Wako)、Propionic acid (Wako)、Mold inhibitor(10% Methyl-4-hydroxy Benzoate in 95% Ethanol;Wako)を超純水に溶解して標準餌を作製した。これを50℃に保温しながら、DMSOに溶解した薬剤(トラメチニブ単独、又はロゼオフラビンとトラメチニブとの組み合わせ)を添加混合し、冷却して薬餌を調製した。各化合物の餌中最終濃度は、トラメチニブ0.5μM、ロゼオフラビン50μMとした。
【0081】
実施例1で作出したUAS-RasG12D,UAS-p53 shRNA,UAS-CycE,UAS-Med shRNAハエをSer-gal4ハエ(Bloomington Drosophila Stock Center)と交配したのち、親ハエに標準餌又は薬餌上で2日間産卵させ、1バイアルあたり20~50個のSer-gal4;UAS-RasG12D,UAS-p53 shRNA,UAS-CycE,UAS-Med shRNA 4-hitハエ(non-GFP)の卵を得た。これを25℃で13日間飼育した後、羽化した個体の数を蛹の総数で割り、各餌上で飼育した4-hitハエ(non-GFP)の生存率を算出した。
【0082】
結果を図9に示す。トラメチニブは単独で4-hitハエ(non-GFP)の生存率を約10%向上させた。一方で、トラメチニブにロゼオフラビンを組み合わせると、該生存率は約50%も向上し、両者の併用により生存率向上の相乗効果が得られることが示された。このことから、トラメチニブとロゼオフラビンとの併用は、膵がんの予防又は治療に非常に有効であることが示された。
【0083】
(実施例7)
RF経路阻害剤であるロゼオフラビンとMEK阻害薬であるトラメチニブの併用による膵がん抑制効果について、膵がん移植マウスを用いて検証した。
【0084】
BALB/cAJcl nu/nuマウスの膵臓にLuciferase遺伝子を組み込んだ膵がん細胞(AsPC-1)を1×10cellsずつ移植した。経時的にマウスにLuciferin(15μg Luciferin/g mouse body weight)を投与し、Luciferase活性を、IVIS Imaging Systemを用いて計測した。同所移植から約2週間後、マウスを下記のとおり4群に分けた。なお、ロゼオフラビン(RoF)については3mg/kg腹腔内投与、トラメチニブ(Tr)については1mg/kgを経口投与した。
(1)コントロール(溶媒(DMSO)のみ投与)(n=7)
(2)ロゼオフラビン(RoF)投与(n=6)
(3)トラメチニブ(Tr)投与(n=5)
(4)ロゼオフラビン(RoF)+トラメチニブ(Tr)併用(n=5)
【0085】
結果を図10に示す。トラメチニブ(Tr)は単独でマウスの腫瘍の成長を抑制したが、トラメチニブ(Tr)にロゼオフラビン(RoF)を組み合わせると、腫瘍抑制効果は著しく向上し、両者の併用により腫瘍抑制の相乗効果が得られることが示された。このことから、トラメチニブとロゼオフラビンとの併用は、膵がんの予防又は治療に非常に有効であることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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