(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132382
(43)【公開日】2022-09-08
(54)【発明の名称】熱電変換モジュール及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 35/30 20060101AFI20220901BHJP
H01L 35/26 20060101ALI20220901BHJP
H01L 35/34 20060101ALI20220901BHJP
H01L 35/16 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
H01L35/30
H01L35/26
H01L35/34
H01L35/16
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111805
(22)【出願日】2022-07-12
(62)【分割の表示】P 2019502860の分割
【原出願日】2018-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2017037372
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度科学技術振興機構研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 邦久
(72)【発明者】
【氏名】武藤 豪志
(72)【発明者】
【氏名】森田 亘
(72)【発明者】
【氏名】勝田 祐馬
(72)【発明者】
【氏名】近藤 健
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 康次
(57)【要約】
【課題】基板上に形成される電極パターン及びその上の熱電素子の単位面積当たりの密度を低下させることなく、放熱性能を向上させることが可能である熱電変換モジュールを提供する。
【解決手段】第1の基板の一方の表面に第1の電極を有する第1の電極付き基板と、第2の基板の一方の表面に第2の電極を有する第2の電極付き基板と、前記第1の電極付き基板の前記第1の電極側の表面と、前記第2の電極付き基板の前記第2の電極側の表面との間に介在する熱電素子と、を有し、前記第1の基板及び前記第2の基板が、プラスチックフィルムであり、前記第1の電極付き基板のうち前記第1の電極と反対側の面及び前記第2の電極付き基板のうち前記第2の電極と反対側の面のうち1面又は2面に放熱層が設けられている、熱電変換モジュール、及び、その製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板の一方の表面に第1の電極を有する第1の電極付き基板と、
第2の基板の一方の表面に第2の電極を有する第2の電極付き基板と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に介在する熱電素子と、を有し、
さらに前記第2の電極と前記熱電素子との間に貼り合わせ剤層を有する、熱電変換モジュールであって、
前記熱電素子の一端は前記第1の電極に直接に接合されており、前記熱電素子の他端は貼り合わせ剤層を介して前記第2の電極に接合されおり、
前記貼り合わせ剤層の厚さが、30~100μmであり、
前記第1の基板及び前記第2の基板が、プラスチックフィルムであり、
前記第1の基板のうち前記第1の電極と反対側の面及び前記第2の基板のうち前記第2の電極と反対側の面のうち1面又は2面に放熱層が設けられており、
前記第1の基板のうち前記第1の電極側の面には放熱層が設けられておらず、
前記第2の基板のうち前記第2の電極側の面には放熱層が設けられていない、熱電変換モジュール。
【請求項2】
前記第1の基板のうち前記第1の電極と反対側の面と、前記第2の基板のうち前記第2の電極と反対側の面のうち、1面のみに放熱層が設けられている、請求項1に記載の熱電変換モジュール。
【請求項3】
前記第1の基板のうち前記第1の電極と反対側の面及び前記第2の基板のうち前記第2の電極と反対側の面の2面のうち、前記第2の基板のうち前記第2の電極と反対側の面のみに放熱層が設けられている、請求項1又は2に記載の熱電変換モジュール。
【請求項4】
前記貼り合わせ剤層は、エポキシ樹脂系接着剤層、アクリル樹脂系接着剤層、又はウレタン樹脂系接着剤層である、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項5】
前記第1の基板及び前記第2の基板が、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリアラミドフィルム及びポリアミドイミドフィルムから選ばれる少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項6】
前記第1の基板及び前記第2の基板の厚さのそれぞれが、5~100μmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項7】
前記放熱層の材質が、銅、アルミニウム、銀、及びニッケルの1種よりなる金属又は2種以上よりなる合金である、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項8】
前記放熱層の厚さが、0.1~20μmである、請求項1~7のいずれか1項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項9】
前記熱電素子は、熱電半導体微粒子、耐熱性樹脂、並びに、イオン液体及び無機イオン性化合物の一方又は双方を含む熱電半導体組成物の層である、請求項1~8のいずれか1項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項10】
前記耐熱性樹脂が、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂及びエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種である、請求項9に記載の熱電変換モジュール。
【請求項11】
前記熱電半導体微粒子が、ビスマス-テルル系熱電半導体材料の微粒子である、請求項9又は10に記載の熱電変換モジュール。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の熱電変換モジュールの製造方法であって、
一方の表面に第1の電極が形成された第1の基板と、一方の表面に放熱層が形成され他方の表面に第2の電極が形成された第2の基板とを用意する工程と、
前記第1の基板に形成された第1の電極と前記第2の基板に形成された第2の電極を、前記熱電素子を介して接合する接合工程と、
を含む、熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項13】
前記接合工程は、
前記第1の電極の表面に、熱電半導体微粒子、耐熱性樹脂及びイオン液体を含む熱電半導体組成物を塗布し、乾燥して熱電素子を形成する熱電素子形成工程と、
前記熱電素子と前記第2の電極とを、貼り合わせ剤を介して貼り合わせる貼り合わせ工程と、
を含む、請求項12に記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱と電気との相互エネルギー変換を行う熱電変換材料を用いた熱電変換モジュール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱電変換を利用したエネルギー変換技術として、熱電発電技術及びペルチェ冷却技術が知られている。熱電発電技術は、ゼーベック効果による熱エネルギーから電気エネルギーへの変換を利用した技術であり、この技術は、特にビル、工場等で使用される化石燃料資源等から発生する未利用の廃熱エネルギーを電気エネルギーとして回収できる省エネルギー技術として大きな脚光を浴びている。これに対し、ペルチェ冷却技術は、熱電発電の逆で、ペルチェ効果による電気エネルギーから熱エネルギーへの変換を利用した技術であり、この技術は、例えば、ワインクーラー、小型で携帯が可能な冷蔵庫、またコンピュータ等に用いられるCPU用の冷却、さらに光通信の半導体レーザー発振器の温度制御等の精密な温度制御が必要な部品や装置に用いられている。しかしながら、熱電変換効率が低く、そのため、これら技術の実用化に関しては、上記のように、未だ限定的な分野に留まっている。
【0003】
近年、エレクトロニクス機器には、それらの動作や制御に係り半導体素子が実装されることが当たり前のものとなっている中、微細化による半導体素子のさらなる小型化、高性能化等に伴い、半導体素子自体が高温になりかつ多量の熱を放出する発熱体となってきている。このような状況下、半導体素子の発熱を効率良く吸熱する冷却デバイスの小型化が求められている。
その対応方法の一つとして、特許文献1には、裏面に複数の上電極からなる熱電素子用電極パターンが形成された上基板と、表面に複数の下電極からなる熱電素子用電極パターンが形成された下基板と、これらの両基板の前記熱電素子用電極パターン間で直列接続されるように配置・固定された複数の熱電素子とからなる熱電モジュールであって、上基板のうち熱電素子用電極パターンが形成された面と、下基板のうち熱電素子用電極パターンが形成された面の一方又は双方に、ヒートスプレッダーが形成されている熱電モジュールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、基板のうち熱電素子用電極パターンが形成された面にヒートスプレッダーを形成している。そのため、ヒートスプレッダーの分だけ熱電素子用電極パターン及びその上に形成される熱電素子の単位面積当たりの密度が低下し、単位面積当たりの出力が低下するという不都合があった。
また、特許文献1では、基板としてセラミックス基板を用いているが、一般にセラミックス基板よりも熱伝導率の低い樹脂基板を用いた場合にも、ヒートスプレッダーにより熱電性能を十分に向上させることができるか否かが不明であった。
【0006】
本発明は、上記実情を鑑み、基板上に形成される電極パターン及びその上の熱電素子の単位面積当たりの密度を低下させることなく、放熱性能を向上させることが可能である熱電変換モジュール及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、プラスチックフィルム製の基板のうち電極が設けられていない方の面に放熱層を設けることにより、基板上に形成される電極パターン及びその上の熱電素子の単位面積当たりの密度を低下させることなく、放熱性能を十分に向上させることが可能であることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[15]を提供するものである。
【0008】
[1]第1の基板の一方の表面に第1の電極を有する第1の電極付き基板と、第2の基板の一方の表面に第2の電極を有する第2の電極付き基板と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に介在する熱電素子と、を有する熱電変換モジュールであって、前記第1の基板及び前記第2の基板が、プラスチックフィルムであり、前記第1の基板のうち前記第1の電極と反対側の面及び前記第2の基板のうち前記第2の電極と反対側の面のうち1面又は2面に放熱層が設けられており、前記第1の基板のうち前記第1の電極側の面には放熱層が設けられておらず、前記第2の基板のうち前記第2の電極側の面には放熱層が設けられていない、熱電変換モジュール。
【0009】
[2]前記第1の基板のうち前記第1の電極と反対側の面と、前記第2の基板のうち前記第2の電極と反対側の面のうち、1面のみに放熱層が設けられている、前記[1]に記載の熱電変換モジュール。
[3]さらに前記第2の電極と前記熱電素子との間に貼り合わせ剤層を有しており、前記熱電素子の一端は前記第1の電極に直接に接合されており、前記熱電素子の他端は貼り合わせ剤層を介して前記第2の電極に接合されている、前記[1]又は[2]に記載の熱電変換モジュール。
[4]前記第1の基板のうち前記第1の電極と反対側の面及び前記第2の基板のうち前記第2の電極と反対側の面の2面のうち、前記第2の基板のうち前記第2の電極と反対側の面のみに放熱層が設けられている、前記[3]に記載の熱電変換モジュール。
[5]前記貼り合わせ剤層は、エポキシ樹脂系接着剤層、アクリル樹脂系接着剤層、又はウレタン樹脂系接着剤層である、前記[3]又は[4]に記載の熱電変換モジュール。
【0010】
[6]前記貼り合わせ剤層の厚さが、10~100μmである、前記[3]~[5]のいずれかに記載の熱電変換モジュール。
[7]前記第1の基板及び前記第2の基板が、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリアラミドフィルム及びポリアミドイミドフィルムから選ばれる少なくとも1種である、前記[1]~[6]のいずれかに記載の熱電変換モジュール。
[8]前記第1の基板及び前記第2の基板の厚さのそれぞれが、5~100μmである、前記[1]~[7]のいずれかに記載の熱電変換モジュール。
[9]前記放熱層の材質が、銅、アルミニウム、銀、及びニッケルの1種よりなる金属又は2種以上よりなる合金である、前記[1]~[8]のいずれかに記載の熱電変換モジュール。
[10]前記放熱層の厚さが、0.1~20μmである、前記[1]~[9]のいずれかに記載の熱電変換モジュール。
【0011】
[11]前記熱電素子は、熱電半導体微粒子、耐熱性樹脂、並びに、イオン液体及び無機イオン性化合物の一方又は双方を含む熱電半導体組成物の層である、前記[1]~[10]のいずれかに記載の熱電変換モジュール。
[12]前記耐熱性樹脂が、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂及びエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種である、前記[11]に記載の熱電変換モジュール。
[13]前記熱電半導体微粒子が、ビスマス-テルル系熱電半導体材料の微粒子である、前記[11]又は[12]に記載の熱電変換モジュール。
【0012】
[14]前記[1]~[13]のいずれかに記載の熱電変換モジュールの製造方法であって、一方の表面に第1の電極が形成された第1の基板と、一方の表面に放熱層が形成され他方の表面に第2の電極が形成された第2の基板とを用意する工程と、前記第1の基板に形成された第1の電極と前記第2の基板に形成された第2の電極を、前記熱電素子を介して接合する接合工程と、を含む、熱電変換モジュールの製造方法。
[15]前記接合工程は、前記第1の電極の表面に、熱電半導体微粒子、耐熱性樹脂及びイオン液体を含む熱電半導体組成物を塗布し、乾燥して熱電素子を形成する熱電素子形成工程と、前記熱電素子と前記第2の電極とを、貼り合わせ剤を介して貼り合わせる貼り合わせ工程と、を含む、[14]に記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基板上に形成される電極パターン及びその上の熱電素子の単位面積当たりの密度を低下させることなく、放熱性能を向上させることが可能である熱電変換モジュール及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の態様に係る熱電変換モジュール1を示す断面図である。
【
図2】第1の態様に係る熱電変換モジュール1の
図1におけるII-II線に沿う断面図である。
【
図3】第1の態様に係る熱電変換モジュール1の
図1におけるIII-III線に沿う断面図である。
【
図4】第1の態様に係る熱電変換モジュール1の
図1におけるIV-IV線に沿う断面図である。
【
図5】
図1の熱電変換モジュール1の製造方法を説明する断面図である。
【
図6】
図1の熱電変換モジュール1の製造方法を説明する断面図である。
【
図7】熱電変換モジュールの冷却特性を評価するためのユニットの一例を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[熱電変換モジュール]
本実施の形態に係る熱電変換モジュールは、第1の基板の一方の表面に第1の電極を有する第1の電極付き基板と、第2の基板の一方の表面に第2の電極を有する第2の電極付き基板と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に介在する熱電素子と、を有する熱電変換モジュールであって、前記第1の基板及び前記第2の基板が、プラスチックフィルムであり、前記第1の基板のうち前記第1の電極と反対側の面及び前記第2の基板のうち前記第2の電極と反対側の面のうち1面又は2面に放熱層が設けられており、前記第1の基板のうち前記第1の電極側の面には放熱層が設けられておらず、前記第2の基板のうち前記第2の電極側の面には放熱層が設けられていない、熱電変換モジュールである。
【0016】
このように本実施の形態に係る熱電変換モジュールは、放熱層を有するため、放熱性能に優れる。
また、本実施の形態に係る熱電変換モジュールは、第1の基板のうち第1の電極側の面には放熱層が設けられておらず、また、第2の基板のうち第2の電極側の面には放熱層が設けられていない。そのため、特許文献1とは異なり、電極及びその上に形成される熱電素子の単位面積当たりの密度が放熱層の分だけ低下することがなく、単位面積当たりの出力が低下することがない。
【0017】
本実施の形態において、前記第1の基板のうち前記第1の電極と反対側の面と、前記第2の基板のうち前記第2の電極と反対側の面のうち、1面のみに放熱層が設けられており、他方の面には放熱層が設けられていなくてもよい。これにより、当該他方の面の絶縁性が確保できる。
【0018】
本実施の形態において、さらに前記第2の電極と前記熱電素子との間に貼り合わせ剤層を有しており、前記熱電素子の一端は前記第1の電極に直接に接合されており、前記熱電素子の他端は貼り合わせ剤層を介して前記第2の電極に接合されていてもよい。これにより、第1の基板と第2の基板を別々に作製し、その後貼り合わせることにより熱電変換素子を作製できるため、製造の効率化が図れる。
【0019】
この場合、前記第1の基板のうち前記第1の電極と反対側の面及び前記第2の基板のうち前記第2の電極と反対側の面の2面のうち、前記第2の基板のうち前記第2の電極と反対側の面のみに放熱層が設けられていてもよい。これにより、空気界面との熱抵抗が低減し放熱性が向上する。
【0020】
<第1の態様に係る熱電変換モジュール1>
以下に、図面を参照して本実施の形態に係る熱電モジュールの一例を説明する。
図1は、第1の態様に係る熱電変換モジュール1を示す断面図である。詳しくは、
図1は、熱電変換モジュール1の
図2におけるI-I線に沿う断面図である。
図2は、熱電変換モジュール1の
図1におけるII-II線に沿う断面図である。
図3は、熱電変換モジュール1の
図1におけるIII-III線(又は
図2におけるIII-III線)に沿う断面図である。
図4は、熱電変換モジュール1の
図1におけるIV-IV線に沿う断面図である。
【0021】
図1に示すとおり、第1の態様に係る熱電変換モジュール1は、第1の基板11の一方の表面に第1の電極12を有する第1の電極付き基板10と、第2の基板21の一方の表面に第2の電極22を有する第2の電極付き基板20と、第1の電極12と第2の電極22との間に介在する熱電素子30と、を有する。第1の基板11及び第2の基板21は、プラスチックフィルムである。
【0022】
熱電素子30のうち第1の電極12側の面(
図1の下面)は、第1の電極12に直接に接合されている。また、熱電素子30のうち第2の電極22側の面(
図1の上面)は、貼り合わせ剤層40を介して、第2の電極22に接合されている。
したがって、熱電変換モジュール1の厚さ方向(
図1における下から上に向かう方向)に、第1の基板11、第1の電極12、熱電素子30、貼り合わせ剤層40、第2の電極22、及び第2の基板21がこの順に配置されている。
【0023】
第2の基板21のうち第2の電極22と反対側の面(
図1における上面)に、放熱層50が設けられている。放熱層50のうち第2の基板21が接合されている面とは反対側の面(
図1における上面)には、他の層が設けられていない。したがって、放熱層50のうち第2の基板21が接合されている面とは反対側の面(
図1における上面)は露出している。
また、第1の基板11のうち第1の電極12と反対側の面(
図1における下面)には、放熱層が設けられていない。したがって、第1の基板11のうち第1の電極12と反対側の面(
図1における下面)は露出している。
第1の基板11のうち第1の電極12側の面には放熱層が設けられていない。また、第2の基板21のうち前記第2の電極22側の面には放熱層が設けられていない。
【0024】
(第1の電極付き基板10)
図2に示すとおり、本実施の形態では、第1の基板11は、平面視形状が四角形である。この第1の基板11の一方の表面に、第1の電極12が形成されている。
この第1の電極12は、20個の電極要素12aと、1個の第1の端子用電極要素12cと、1個の第2の端子用電極要素12dとからなる。
図2に示すとおり、これら計22個の電極要素12a、12c、12dは、互いに間隔をあけて配置されている。
【0025】
(第2の電極付き基板20)
図4に示すとおり、本実施の形態では、第2の基板21は、平面視形状が四角形である。この第2の基板21の一方の表面に、第2の電極22が形成されている。
この第2の電極22は、21個の電極要素22aからなる。
図4に示すとおり、これら計21個の電極要素22aは、互いに間隔をあけて配置されている。
なお、本実施の形態に係る熱電変換モジュール1において、
図4における第2の基板21の一辺21a(
図4の下辺)と、
図2における第1の基板11の一辺11a(
図2の上辺)とが、対向している。
【0026】
(熱電素子30)
図1に示すとおり、第1の電極12の表面に、熱電素子30が設けられている。熱電素子30は、第1の電極12の表面に直接に接合されている。
図2に示すとおり、熱電素子30は、42個の熱電素子要素31からなる。これら42個の熱電素子要素31のうち、21個がp型熱電素子要素31aであり、21個がn型熱電素子要素31bである。
第1の電極12を構成する20個の電極要素12aの各々に、1個のp型熱電素子要素31a及び1個のn型熱電素子要素31bが配置されている。また、第1の電極12を構成する1個の第1の端子用電極要素12cに、1個のp型熱電素子要素31aが配置されている。更に、第1の電極12を構成する1個の第2の端子用電極要素12dに、1個のn型熱電素子要素31bが配置されている。
【0027】
(貼り合わせ剤層40)
図1に示すとおり、第2の電極22の表面に、貼り合わせ剤層40が設けられている。貼り合わせ剤層40は、第2の電極22の表面に直接に接合されている。この貼り合わせ剤層40は、上記42個の熱電素子要素31の各々に設けられた、42個の貼り合わせ剤要素41からなる。
【0028】
(電気的接続)
図3中に矢印で示すとおり、この熱電モジュール1は、第1の電極の端子用電極要素12cを起点として、p型熱電素子要素31a、貼り合わせ剤要素41、第2の電極22の電極要素22a、貼り合わせ剤要素41、n型熱電素子要素31b及び第1の電極の電極要素12aの順に、電気的に直列に接続されている。ここで、「p型熱電素子要素31a-貼り合わせ剤要素41-電極要素22a-貼り合わせ剤要素41-n型熱電素子要素31b-電極要素12a」を繰り返し単位とすると、第1の電極の端子用電極要素12cを起点として、繰り返し単位が複数にわたり直列に接続され、最後に電極要素12dに直列に接続される。
なお、
図3に示すとおり、
図4における第2の基板21の一辺21a(
図4の下辺)と、
図2における第1の基板11の一辺11a(
図2の上辺)とが、対向している。
【0029】
上記のとおり、この熱電変換モジュール1は、p型熱電素子要素31aとn型熱電素子要素31bとが交互に配列し、かつ電気的には直列接続に、熱的には並列接続になるように貼り合わせられたものである。このような構造の熱電変換モジュールは、一般に、π型熱電変換モジュールと称される。
【0030】
(放熱層50)
図1に示すとおり、熱電変換モジュール1において、第2の基板21のうち第2の電極22が設けられている面と反対側の面(
図1における上面)のみに、放熱層50が設けられている。本態様では、放熱層50は、第2の基板21のうち第2の電極22が設けられている面と反対側の面(
図1における上面)の全面に設けられている。
熱電変換モジュール1は、放熱層50以外の放熱層を有しない。これにより、熱伝導率の高い材料が空気界面に設けられるため界面での熱抵抗が低減し放熱性、熱拡散性を向上させるという効果を奏する。
【0031】
<変形例>
本実施の形態に係る熱電変換モジュールは、上記の第1の態様に係る熱電変換モジュール1に限定されるものではない。
例えば、第1の電極12を構成する電極要素12a、12c、12d、第2の電極22を構成する電極要素22a、熱電素子30を構成する熱電素子要素31、及び貼り合わせ剤層40を構成する貼り合わせ剤要素41の個数、形状及び配置は、適宜変更されてもよい。
放熱層50は、第2の基板21のうち第2の電極22が設けられている面と反対側の面(
図1における上面)の一部に設けられていてもよい。但し、当該面の全面に設けられている方が、放熱効果に優れる。
【0032】
放熱層50は、第2の基板21のうち第2の電極22が設けられている面と反対側の面(
図1における上面)に設けると共に、第1の基板11における第1の電極12が設けられている面とは反対側の面に設けてもよい。これにより、放熱効果がより向上する。また、放熱層50は、第2の基板21のうち第2の電極22が設けられている面と反対側の面(
図1における上面)に設けることに代えて、第1の基板11における第1の電極12が設けられている面とは反対側の面に設けてもよい。ただし、本実施の形態に係る熱電変換モジュールは、上記2面(すなわち、
図1における第1の基板11の下面及び第2の基板21の上面)以外の箇所には、放熱層を有しない。
【0033】
上記態様に係る熱電変換モジュール1において、熱電素子30を構成するp型熱電素子要素31a及びn型熱電素子要素31bは共に、その第1の電極12側の端面が第1の電極12に直接に接合され、その第2の電極22側の端面が貼り合わせ剤層40を介して第2の電極22に接合されている。
しかし、その逆に、熱電素子30を構成するp型熱電素子要素31a及びn型熱電素子要素31bは共に、その第2の電極22側の端面が第2の電極22に直接に接合され、その第1の電極12側の端面が貼り合わせ剤層40を介して第1の電極12に接合されていてもよい。
また、p型熱電素子要素31aの第1の電極12側の端面が第1の電極12に直接に接合され、p型熱電素子要素31aの第2の電極22側の端面が貼り合わせ剤層40を介して第2の電極22に接合されており、かつn型熱電素子要素31bの第2の電極22側の端面が第2の電極22に直接に接合され、n型熱電素子要素31bの第1の電極12側の端面が貼り合わせ剤層40を介して第1の電極12に接合されていてもよい。
その逆に、p型熱電素子要素31aの第2の電極22側の端面が第2の電極22に直接に接合され、p型熱電素子要素31aの第1の電極12側の端面が貼り合わせ剤層40を介して第1の電極12に接合されていており、かつn型熱電素子要素31bの第1の電極12側の端面が第1の電極12に直接に接合され、n型熱電素子要素31bの第2の電極22側の端面が貼り合わせ剤層40を介して第2の電極22に接合されていてもよい。
【0034】
次に、本実施の形態に係る熱電変換モジュールの構成要素の材質、寸法等の一例に関して、詳細に説明する。
【0035】
<第1の基板>
本実施の形態で用いる第1の基板は、熱電素子の電気伝導率の低下及び熱伝導率の増加に影響を及ぼすことがなく、また屈曲性に優れるという点から、プラスチックフィルム(樹脂フィルム)である。
プラスチックフィルムとしては、具体的には、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリアラミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、ポリエーテル・エーテルケトンフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリ(4-メチルペンテン-1)フィルム等が挙げられる。また、これらフィルムの積層体であってもよい。
これらの中でも、熱電素子をアニール処理した場合でも、第1の基板が熱変形することなく、熱電素子の性能を維持することができ、耐熱性及び寸法安定性が高いという点から、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリアラミドフィルム、ポリアミドイミドフィルムが好ましく、さらに、汎用性が高いという点から、ポリイミドフィルムが特に好ましい。
【0036】
前記第1の基板の厚さは、放熱性、屈曲性、耐熱性及び寸法安定性の観点から、1~1000μmが好ましく、10~500μmがより好ましく、20~100μmがさらに好ましい。
また、上記プラスチックフィルムは、熱重量分析で測定される5%重量減少温度が300℃以上であることが好ましく、400℃以上であることがより好ましい。JIS K7133(1999)に準拠して200℃で測定した加熱寸法変化率が0.5%以下であることが好ましく、0.3%以下であることがより好ましい。JIS K7197(2012)に準拠して測定した平面方向の線膨脹係数が0.1ppm・℃-1以上50ppm・℃-1以下であり、0.1ppm・℃-1以上30ppm・℃-1以下であることがより好ましい。
【0037】
<第1の電極>
本実施の形態で用いる第1の電極の材料としては、導電性の高い材料であれば特に制限は無く、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金やこれらの積層体などが挙げられる。これらの中で、空気中での安定性の観点からは、銅、ニッケル、ニッケル・金の積層体、銅・ニッケル・金の積層体が好ましい。
第1の電極の厚さは、屈曲性、導電性及び寸法安定性の観点から、10~1000nmが好ましく、50~500nmがより好ましく、50~200nmがさらに好ましい。
【0038】
<第2の基板>
第2の基板の詳細は、第1の基板と同様である。第2の基板は、第1の基板と同じ材質や同じ厚みのものを用いてもよいし、第1の基板と異なる材質や異なる厚みのものを用いてもよい。
<第2の電極>
第2の電極の詳細は、第1の電極と同様である。第2の電極は、第1の電極とを同じ材質としてもよいし、第1の電極とは異なる材質としてもよい。
【0039】
<熱電素子>
本実施の形態で用いる熱電素子は、p型熱電素子要素及びn型熱電素子要素を交互に配列し、かつ電気的には直列接続し、熱的には並列接続して使用することが好ましい。
この熱電素子は、熱電半導体微粒子、耐熱性樹脂、並びに、イオン液体及び無機イオン性化合物の一方又は双方を含む熱電半導体組成物の層であることが好ましい。
【0040】
(熱電半導体微粒子)
本実施の形態で用いる熱電半導体微粒子は、熱電半導体材料を、微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕することにより得られる。
【0041】
前記熱電半導体材料としては、特に制限されず、例えば、p型ビスマステルライド、n型ビスマステルライド、Bi2Te3等のビスマス-テルル系熱電半導体材料;GeTe、PbTe等のテルライド系熱電半導体材料;アンチモン-テルル系熱電半導体材料;ZnSb、Zn3Sb2、Zn4Sb3等の亜鉛-アンチモン系熱電半導体材料;SiGe等のシリコン-ゲルマニウム系熱電半導体材料;Bi2Se3等のビスマスセレナイド系熱電半導体材料;β―FeSi2、CrSi2、MnSi1.73、Mg2Si等のシリサイド系熱電半導体材料;酸化物系熱電半導体材料;FeVAl、FeVAlSi、FeVTiAl等のホイスラー材料、TiS2等の硫化物系熱電半導体材料等が用いられる。
【0042】
これらの中でも、本発明に用いる前記熱電半導体材料は、p型ビスマステルライド、n型ビスマステルライド等のビスマス-テルル系熱電半導体材料であることが好ましい。
前記p型ビスマステルライドは、キャリアが正孔で、ゼーベック係数が正値であり、例えば、BiXTe3Sb2-Xで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Xは、好ましくは0<X≦0.8であり、より好ましくは0.4≦X≦0.6である。Xが0より大きく0.8以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、p型熱電変換材料としての特性が維持されるので好ましい。
また、前記n型ビスマステルライドは、キャリアが電子で、ゼーベック係数が負値であり、例えば、Bi2Te3-YSeYで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Yは、好ましくは0≦Y≦3であり、より好ましくは0≦Y≦2.7である。Yが0以上3以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、n型熱電変換材料としての特性が維持されるので好ましい。n型ビスマステルライドとしては、Bi2Te3等が挙げられる。
【0043】
前記熱電半導体組成物中における熱電半導体微粒子の含有量は、好ましくは、30~99質量%である。より好ましくは、50~96質量%であり、さらに好ましくは、70~95質量%である。熱電半導体微粒子の含有量が、上記範囲内であれば、ゼーベック係数すなわちペルチェ係数の絶対値が大きく、また電気伝導率の低下が抑制され、熱伝導率のみが低下するため高い熱電性能を示すとともに、十分な皮膜強度、屈曲性を有する膜が得られ好ましい。
【0044】
熱電半導体微粒子の平均粒径は、好ましくは、10nm~200μm、より好ましくは、10nm~30μm、さらに好ましくは、50nm~10μm、特に好ましくは、1~6μmである。上記範囲内であれば、均一分散が容易になり、電気伝導率を高くすることができる。
前記熱電半導体材料を粉砕して熱電半導体微粒子を得る方法は特に限定されず、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル、コニカルミル、ディスクミル、エッジミル、製粉ミル、ハンマーミル、ペレットミル、ウィリーミル、ローラーミル等の公知の微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕すればよい。
なお、熱電半導体微粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分析装置(CILAS社製、1064型)にて測定することにより得られ、粒径分布の中央値とした。
【0045】
また、熱電半導体微粒子は、アニール処理(以下、「アニール処理A」ということがある。)されたものであることが好ましい。アニール処理Aを行うことにより、熱電半導体微粒子は、結晶性が向上し、さらに、熱電半導体微粒子の表面酸化膜が除去されるため、熱電変換材料のゼーベック係数すなわちペルチェ係数が増大し、熱電性能指数をさらに向上させることができる。アニール処理Aは、特に限定されないが、熱電半導体組成物を調製する前に、熱電半導体微粒子に悪影響を及ぼすことがないように、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、同じく水素等の還元ガス雰囲気下、または真空条件下で行うことが好ましく、不活性ガス及び還元ガスの混合ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。具体的な温度条件は、用いる熱電半導体微粒子に依存するが、通常、微粒子の融点以下の温度で、かつ100~1500℃で、数分~数十時間行うことが好ましい。
【0046】
(イオン液体)
本実施の形態で用いるイオン液体は、カチオンとアニオンとを組み合わせてなる溶融塩であり、-50~500℃の幅広い温度領域において液体で存在し得る塩をいう。イオン液体は、蒸気圧が極めて低く不揮発性であること、優れた熱安定性及び電気化学安定性を有していること、粘度が低いこと、かつイオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。また、イオン液体は、非プロトン性のイオン構造に基づく高い極性を示し、耐熱性樹脂との相溶性に優れるため、熱電変換材料の電気伝導率を均一にすることができる。
【0047】
イオン液体は、公知または市販のものが使用できる。例えば、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピラゾリウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、イミダゾリウム等の窒素含有環状カチオン化合物及びそれらの誘導体;テトラアルキルアンモニウムのアミン系カチオン及びそれらの誘導体;ホスホニウム、トリアルキルスルホニウム、テトラアルキルホスホニウム等のホスフィン系カチオン及びそれらの誘導体;リチウムカチオン及びその誘導体等のカチオン成分と、Cl-、AlCl4
-、Al2Cl7
-、ClO4
-等の塩化物イオン、Br-等の臭化物イオン、I-等のヨウ化物イオン、BF4
-、PF6
-等のフッ化物イオン、F(HF)n
-等のハロゲン化物アニオン、NO3
-、CH3COO-、CF3COO-、CH3SO3
-、CF3SO3
-、(FSO2)2N-、(CF3SO2)2N-、(CF3SO2)3C-、AsF6
-、SbF6
-、NbF6
-、TaF6
-、F(HF)n
-、(CN)2N-、C4F9SO3
-、(C2F5SO2)2N-、C3F7COO-、(CF3SO2)(CF3CO)N-等のアニオン成分とから構成されるものが挙げられる。
【0048】
上記のイオン液体の中で、高温安定性、熱電半導体微粒子及び樹脂との相溶性、熱電半導体微粒子間隙の電気伝導率の低下抑制等の観点から、イオン液体のカチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。イオン液体のアニオン成分が、ハロゲン化物アニオンを含むことが好ましく、Cl-、Br-及びI-から選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。
【0049】
カチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、4-メチル-ブチルピリジニウムクロライド、3-メチル-ブチルピリジニウムクロライド、4-メチル-ヘキシルピリジニウムクロライド、3-メチル-ヘキシルピリジニウムクロライド、4-メチル-オクチルピリジニウムクロライド、3-メチル-オクチルピリジニウムクロライド、3、4-ジメチル-ブチルピリジニウムクロライド、3、5-ジメチル-ブチルピリジニウムクロライド、4-メチル-ブチルピリジニウムテトラフルオロボレート、4-メチル-ブチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファート、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヨージド等が挙げられる。この中で、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファート、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヨージドが好ましい。
【0050】
また、カチオン成分が、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ドデシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-テトラデシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-メチル-3-ブチルイミダゾリウムメチルスルフェート、1、3-ジブチルイミダゾリウムメチルスルフェート等が挙げられる。この中で、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]が好ましい。
【0051】
上記のイオン液体は、電気伝導率が10-7S/cm以上であることが好ましく、10-6S/cm以上であることがより好ましい。イオン伝導度が上記範囲であれば、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。
【0052】
また、上記のイオン液体は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0053】
また、上記のイオン液体は、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0054】
前記熱電半導体組成物中における前記イオン液体の含有量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~20質量%である。前記イオン液体の含有量が、上記範囲内であれば、電気伝導率の低下が効果的に抑制され、高い熱電性能を有する膜が得られる。
【0055】
(無機イオン性化合物)
本実施の形態で用いる無機イオン性化合物は、少なくともカチオンとアニオンから構成される化合物である。無機イオン性化合物は400~900℃の幅広い温度領域において固体で存在し、イオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を抑制することができる。
【0056】
カチオンとしては、金属カチオンを用いる。
金属カチオンとしては、例えば、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、典型金属カチオン及び遷移金属カチオンが挙げられ、アルカリ金属カチオン又はアルカリ土類金属カチオンがより好ましい。
アルカリ金属カチオンとしては、例えば、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+及びFr+等が挙げられる。
アルカリ土類金属カチオンとしては、例えば、Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+等が挙げられる。
【0057】
アニオンとしては、例えば、F-、Cl-、Br-、I-、OH-、CN-、NO3
-、NO2
-、ClO-、ClO2
-、ClO3
-、ClO4
-、CrO4
2-、HSO4
-、SCN-、BF4
-、PF6
-等が挙げられる。
【0058】
無機イオン性化合物は、公知または市販のものが使用できる。例えば、カリウムカチオン、ナトリウムカチオン、又はリチウムカチオン等のカチオン成分と、Cl-、AlCl4
-、Al2Cl7
-、ClO4
-等の塩化物イオン、Br-等の臭化物イオン、I-等のヨウ化物イオン、BF4
-、PF6
-等のフッ化物イオン、F(HF)n
-等のハロゲン化物アニオン、NO3
-、OH-、CN-等のアニオン成分とから構成されるものが挙げられる。
【0059】
上記の無機イオン性化合物の中で、高温安定性、熱電半導体微粒子及び樹脂との相溶性、熱電半導体微粒子間隙の電気伝導率の低下抑制等の観点から、無機イオン性化合物のカチオン成分が、カリウム、ナトリウム、及びリチウムから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。また、無機イオン性化合物のアニオン成分が、ハロゲン化物アニオンを含むことが好ましく、Cl-、Br-、及びI-から選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。
【0060】
カチオン成分が、カリウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、KBr、KI、KCl、KF、KOH、K2CO3等が挙げられる。この中で、KBr、KIが好ましい。
カチオン成分が、ナトリウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、NaBr、NaI、NaOH、NaF、Na2CO3等が挙げられる。この中で、NaBr、NaIが好ましい。
カチオン成分が、リチウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、LiF、LiOH、LiNO3等が挙げられる。この中で、LiF、LiOHが好ましい。
【0061】
上記の無機イオン性化合物は、電気伝導率が10-7S/cm以上であることが好ましく、10-6S/cm以上であることがより好ましい。電気伝導率が上記範囲であれば、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。
【0062】
また、上記の無機イオン性化合物は、分解温度が400℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0063】
また、上記の無機イオン性化合物は、熱重量測定(TG)による400℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0064】
前記無機イオン性化合物の前記熱電半導体組成物中の含有量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~10質量%である。前記無機イオン性化合物の含有量が、上記範囲内であれば、電気伝導率の低下を効果的に抑制でき、結果として熱電性能が向上した膜が得られる。
なお、無機イオン性化合物とイオン液体とを併用する場合においては、前記無機イオン性化合物の前記熱電半導体組成物中における、無機イオン性化合物及びイオン液体の含有量の総量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~10質量%である。
【0065】
(耐熱性樹脂)
本実施の形態で用いられる耐熱性樹脂は、熱電半導体微粒子間のバインダーとして働き、熱電素子の屈曲性を高めるためのものである。該耐熱性樹脂は、特に制限されるものではないが、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理等により熱電半導体微粒子を結晶成長させる際に、樹脂としての機械的強度及び熱伝導率等の諸物性が損なわれず維持される耐熱性樹脂を用いる。
前記耐熱性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、エポキシ樹脂、及びこれらの樹脂の化学構造を有する共重合体等が挙げられる。前記耐熱性樹脂は、単独でも又は2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、耐熱性がより高く、且つ薄膜中の熱電半導体微粒子の結晶成長に悪影響を及ぼさないという点から、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂が好ましく、屈曲性に優れるという点からポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂がより好ましい。前述の支持体として、ポリイミドフィルムを用いた場合、該ポリイミドフィルムとの密着性などの点から、耐熱性樹脂としては、ポリイミド樹脂がより好ましい。なお、本発明においてポリイミド樹脂とは、ポリイミド及びその前駆体を総称する。なお、ポリイミドの前駆体としては、ポリ(ピロメリト酸二無水物-co-4,4´-オキシジアニリン)等のポリアミド酸が好ましい。
【0066】
前記耐熱性樹脂は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、バインダーとして機能が失われることなく、熱電素子の屈曲性を維持することができる。
【0067】
また、前記耐熱性樹脂は、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、バインダーとして機能が失われることなく、熱電変換材料の屈曲性を維持することができる。
【0068】
前記熱電半導体組成物中における前記耐熱性樹脂の含有量は、0.1~40質量%、好ましくは0.5~20質量%、より好ましくは、1~20質量%、さらに好ましくは2~15質量%である。前記耐熱性樹脂の含有量が、上記範囲内であれば、高い熱電性能と皮膜強度が両立した膜が得られる。
【0069】
本実施の形態で用いられる熱電半導体組成物には、前記熱半導体微粒子、前記耐熱性樹脂及び前記イオン液体以外に、必要に応じて、さらに分散剤、造膜助剤、光安定剤、酸化防止剤、粘着付与剤、可塑剤、着色剤、樹脂安定剤、充てん剤、顔料、導電性フィラー、導電性高分子、硬化剤等の他の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0070】
本実施の形態で用いられる熱電半導体組成物の調製方法は、特に制限はなく、超音波ホモジナイザー、スパイラルミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパーサー、ハイブリッドミキサー等の公知の方法により、前記熱電半導体微粒子と前記イオン液体及び前記耐熱性樹脂、必要に応じて前記その他の添加剤、さらに溶媒を加えて、混合分散させ、当該熱電半導体組成物を調製すればよい。
前記溶媒としては、例えば、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アルコール、テトラヒドロフラン、メチルピロリドン、エチルセロソルブ等の溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。熱電半導体組成物の固形分濃度としては、該組成物が塗工に適した粘度であればよく、特に制限はない。
【0071】
前記熱電半導体組成物からなる熱電素子は、後述する熱電変換モジュールの製造方法で説明するように、第1の基板上に、前記熱電半導体組成物を塗布し、乾燥することで形成することができる。このように形成することで、簡便に低コストで大面積の熱電素子を得ることができる。
【0072】
前記熱電半導体組成物からなる熱電素子の厚みは、特に制限はないが、熱電性能と皮膜強度の点から、好ましくは100nm~200μm、より好ましくは300nm~150μm、さらに好ましくは5μm~150μmである。
【0073】
<貼り合わせ剤層>
本実施の形態で用いられる貼り合わせ剤層は、導電接着剤層であってもよく、導電ペースト層であってもよく、ハンダペースト層であってもよい。
すなわち、貼り合わせ剤層の材料は、導電性を有することが好ましく、導電ペースト、導電接着剤等が挙げられる。導電ペーストとしては、銅ペースト、銀ペースト、ニッケルペースト等が挙げられる。導電接着剤としては、エポキシ樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤等が挙げられる。これらの導電接着剤は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等の樹脂と、銅、銀、ニッケル等の金属とを含有するものである。ハンダペーストとしては、低融点の金属粉末をフラックスと混練したものが使用できる。
【0074】
貼り合わせ剤層の厚さは、屈曲性、導電性及び寸法安定性の観点から、10~100μmが好ましく、20~70μmがより好ましく、30~50μmがさらに好ましい。
【0075】
<放熱層>
本実施の形態で用いられる放熱層の材料としては、放熱性を有するものであれば特に制限されないが、好ましくは金属であり、より好ましくは銅、アルミニウム、銀、及びニッケルのいずれか1種であり、更に好ましくは銅、アルミニウム、及び銀のいずれか1種であり、より更に好ましくは銅及びアルミニウムのいずれか1種である。
【0076】
放熱層の厚さは、屈曲性、放熱性及び寸法安定性の観点から、0.1~100μmが好ましく、0.2~10μmがより好ましく、0.2~1μmがさらに好ましい。
【0077】
[熱電変換モジュールの製造方法]
本実施の形態に係る熱電変換モジュールの製造方法は、前述の熱電変換モジュールの製造方法であって、一方の表面に第1の電極が形成された第1の基板と、一方の表面に放熱層が形成され他方の表面に第2の電極が形成された第2の基板とを用意する工程と、前記第1の基板に形成された第1の電極と前記第2の基板に形成された第2の電極を、前記熱電素子を介して接合する接合工程と、を含む。
【0078】
第2の基板に対して、第2の電極及び放熱層を形成する順序には特に制限はなく、放熱層を形成した後に第2の電極を形成してもよく、第2の電極を形成した後に放熱層を形成してもよく、放熱層及び第2の電極を同時に形成してもよい。ただし、放熱層を形成した後に第2の電極を形成することが好ましい。
また、予め第2の基板の表面に放熱層が形成されている基板を入手し、当該基板に第2の電極を形成してもよい。同様に、予め第2の基板の表面に第2の電極が形成されている第2の電極付き基板を入手し、当該基板に放熱層を形成してもよい。
【0079】
また、上記の接合工程は、前記第1の電極の表面に、熱電半導体微粒子、耐熱性樹脂及びイオン液体を含む熱電半導体組成物を塗布し、乾燥して熱電素子を形成する熱電素子形成工程と、前記熱電素子と前記第2の電極とを、貼り合わせ剤を介して貼り合わせる貼り合わせ工程と、を含んでいてもよい。
【0080】
<第1の態様に係る熱電変換モジュール1の製造方法>
以下に、図面を参照して本実施の形態に係る熱電モジュール1の製造方法の一例を説明する。
図5及び
図6は、
図1の熱電変換モジュールの製造方法を説明する平面図である。
【0081】
第1の態様に係る熱電モジュール1の製造方法は、後述するとおり、第1の電極付き基板形成工程、放熱層及び第2の電極付き基板形成工程、熱電素子形成工程、及び貼り合わせ工程を有する。
【0082】
(第1の電極付き基板形成工程)
本工程は、第1の基板11の一方の表面上に、第1の電極12を形成することにより、第1の電極付き基板10を形成する工程である(
図6)。
第1の基板11の表面に第1の電極12を形成する方法には特に制限はない。例えば、第1の基板11上にメタルマスクを介して金属を真空蒸着法により蒸着することにより第1の電極12を形成することができる。また、スクリーン印刷等によって導電ペーストを塗布し、加熱硬化させることにより、第1の電極12を形成してもよい。
なお、予め第1の電極付き基板10を入手することにより、本工程を省略してもよい。
【0083】
(放熱層及び第2の電極付き基板形成工程)
本工程は、第2の基板21の一方の表面上に放熱層50を形成し、第2の基板21の他方の表面上に第2の電極22を形成する工程である(
図5)。
第2の基板21の表面に第2の電極22を形成する方法は、第1の電極付き基板形成工程の場合と同様である。
第2の基板21の表面に放熱層50を形成する方法には特に制限はない。例えば、第2の基板21上に金属を真空蒸着法により蒸着することにより形成することができる。また、導電ペーストの貼付や金属箔を貼付することにより形成することができる。
放熱層50を形成した後に第2の電極22を形成してもよく、第2の電極22を形成した後に放熱層50を形成してもよく、放熱層50及び第2の電極22を同時に形成してもよい。ただし電極22の形成で生じる凹凸が放熱層50の形成に影響を与えないようにする観点から、放熱層50を形成した後に第2の電極22を形成するのが好ましい。
また、予め第2の基板21の表面に放熱層50が形成されている基板を入手し、当該基板に第2の電極22を形成してもよい。同様に、予め第2の基板21の表面に第2の電極22が形成されている第2の電極付き基板を入手し、当該基板に放熱層50を形成してもよい。
また、第2の基板21の一方の表面に第2の電極22が形成され、第2の基板21の他方の表面に放熱層50が形成された基板を入手することにより、本工程を省略してもよい。
【0084】
(熱電素子形成工程)
本工程は、前記第1の電極12の表面に、熱電半導体微粒子、耐熱性樹脂及びイオン液体を含む熱電半導体組成物を塗布し、乾燥して熱電素子30を形成する工程である(
図6)。
【0085】
熱電半導体組成物を第1の基板11の表面に塗布する方法としては、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スピンコート、ディップコート、ダイコート、スプレーコート、バーコート、ドクターブレード等の公知の方法が挙げられ、特に制限されない。塗膜をパターン状に形成する場合は、所望のパターンを有するスクリーン版を用いて簡便にパターン形成が可能なスクリーン印刷、スロットダイコート等が好ましく用いられる。
次いで、得られた塗膜を乾燥することにより、熱電素子用薄膜が形成される。乾燥方法としては、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等、従来公知の乾燥方法が採用できる。乾燥温度(加熱温度)は、通常、80~150℃であり、乾燥時間(加熱時間)は、加熱方法により異なるが、通常、数秒~数十分である。
また、熱電半導体組成物の調製において溶媒を使用した場合、加熱温度は、使用した溶媒を乾燥できる温度範囲であれば、特に制限はない。
【0086】
熱電半導体組成物を塗布し、乾燥した後に、更にアニール処理(以下、「アニール処理B」ということがある。)を行うことにより、熱電素子30を形成してもよい。該アニール処理Bを行うことで、熱電性能を安定化させるとともに、薄膜中の熱電半導体微粒子を結晶成長させることができ、熱電性能をさらに向上させることができる。アニール処理Bは、特に限定されないが、通常、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、同じく水素等の還元ガス雰囲気下、または真空条件下で行われ、用いる樹脂及びイオン性流体の耐熱温度等に依存するが、100~500℃で、数分~数十時間行われ、不活性ガス及び還元ガスの混合ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。
【0087】
(貼り合わせ工程)
本工程は、前記第1の電極12及び熱電素子30が形成された第1の基板11における熱電素子30と、第2の電極22及び放熱層50が形成された第2の基板21における第2の電極22とを、貼り合わせ剤を介して貼り合わせる工程である。
この場合、高温度でのアニール処理を、熱電素子30を有する一方の基板(第1の基板11)に対して行うだけでよく、また、貼り合わせ時のアライメント(重ね合わせ位置制御)が簡便になる等から、生産性が高く、コスト減に繋がるため好ましい。
【0088】
前述のとおり、貼り合わせ剤としては、導電ペースト及び導電接着剤が好ましい。
導電接着剤を用いる場合、第2の電極と熱電素子30とを、貼り合わせ剤を介して貼り合わせた後、加熱して貼り合わせ剤の硬化を行うのが好ましい。
加熱温度は、通常、80~150℃であり、加熱時間は、加熱方法により異なるが、通常、数秒~数十分である。
【0089】
<変形例>
本実施の形態に係る熱電変換モジュールの製造方法は、上記の第1の態様に係る熱電変換モジュール1の製造方法に限定されるものではない。
例えば、上記貼り合わせ工程において、アニール処理されたp型熱電素子要素を有する第1の電極付き基板と、アニール処理されたn型熱電素子要素を有する第2の電極付き基板とを、前記貼り合わせ剤を介して貼り合わせ、接着してもよい。その逆に、アニール処理されたn型熱電素子要素を有する第1の電極付き基板と、アニール処理されたp型熱電素子要素を有する第2の電極付き基板とを、前記貼り合わせ剤を介して貼り合わせ、接着してもよい。
【実施例0090】
次に、本発明の具体的な実施例を説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例及び比較例で用いられる材料は、次のとおりである。
【0091】
(1)第1の基板及び第2の基板
・ポリイミドフィルム(東レデュポン社製、商品名「カプトン 200H」、厚み:50μm)
(2)熱電素子の原料
(2-1)熱電半導体微粒子T1
・p型ビスマステルライド(Bi0.4Te3.0Sb1.6)微粒子(平均粒径1.2μm)
(2-2)熱電半導体微粒子T2
・n型ビスマステルライド(Bi2.0Te3.0)微粒子(平均粒径1.2μm)
(2-3)耐熱性樹脂
・ポリアミック酸溶液1
ポリ(ピロメリト酸二無水物-co-4,4´-オキシジアニリン)(シグマアルドリッチ社製、固形分濃度:15質量%)
(2-4)イオン液体1
・1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド(電気伝導率:3.5×10-5S/cm)
(2-5)溶媒1
・N-メチルピロリドン(NMP)とメチルセロソルブとの混合溶液(NMP:80質量%、メチルセロソルブ:20質量%)
(3)導電接着剤
・エポキシ系銀ペースト(ニホンハンダ社製、商品名「ECA100」)
【0092】
また、実施例及び比較例における評価方法は、次のとおりである。
<放熱性評価>
実施例及び比較例で作製した熱電変換モジュールを、
図7に模式的に構造を示す放熱性評価ユニット70の所定の位置に配置することで、放熱性評価を行った。
具体的には、加熱ユニット(AS ONE社製、製品名:EC HOTPLATE EC-1200N)71に、熱電変換モジュール1の冷却面側(吸熱側。第1の基板11側。)を貼付し、排熱面側(放熱側。第2の基板21側。)には、ヒートシンク72を介してチラーユニット(AS ONE社製、製品名:LTC-i-150H)73(冷却水;温度設定5℃)を配置した。
なお、加熱ユニット71と熱電変換モジュール1との間に熱伝導グリス74を、熱電変換モジュール1とヒートシンク72との間に熱伝導グリス75を、ヒートシンク72とチラーユニット73との間に熱伝導グリス76を設け、それぞれの界面において、空気を巻き込みにくくし、熱抵抗を低く抑えた。
加熱ユニット71を80℃に設定し、得られた電圧値よりモジュール間の温度差を算出した。温度差は、
温度差=得られた電圧値(V)/モジュール全体の起電力
より計算した。
また、熱電変換モジュール1の出力を、次のようにして測定した。すなわち、作製したモジュールの片面をホットプレートにより80℃で加熱し、冷却面を5℃の冷却水を流した銅版で冷却することでモジュール両端に温度差を付与し、80℃での電気抵抗及び電圧から出力を評価した。電気抵抗及び電圧は、Agilet社製デジタル・マルチメータ、製品名:34401Aを使用して測定した。
【0093】
実施例1
下記の手順に従い、
図1~
図4と同様の構造の熱電変換モジュールを作製した。
(1)第1の電極付き基板の作製
ポリイミドフィルム(東レデュポン社製、商品名「カプトン 200H」、厚み:50μm)上に、メタルマスクを介してニッケル(100nm)、金(50nm)の順番で真空蒸着により
図2に示すパターンの電極を形成して、第1の電極付き基板を得た。
【0094】
(2)第2の基板への放熱層及び電極の形成
ポリイミドフィルム(東レデュポン社製、商品名「カプトン 200H」、厚み:50μm)上に、真空蒸着によってCu薄膜(500nm)よりなる放熱層を形成した。
次いで、第2の基板のうちCu薄膜が形成された面とは反対側の表面に、メタル版を介して銅(100nm)を真空蒸着法により
図4に示すパターンに形成することにより、電極を形成した。
このようにして、第2の基板に、放熱層及び電極を形成した。
【0095】
(3)熱電半導体微粒子の作製
ビスマス-テルル系熱電半導体材料であるp型ビスマステルライドBi0.4Te3Sb1.6(高純度化学研究所製、粒径:180μm)を、遊星型ボールミル(フリッチュジャパン社製、Premium line P-7)を使用し、窒素ガス雰囲気下で粉砕することで、平均粒径1.2μmのp型熱電半導体微粒子T1を作製した。粉砕して得られた熱電半導体微粒子に関して、レーザー回折式粒度分析装置(CILAS社製、1064型)により粒度分布測定を行った。
また、ビスマス-テルル系熱電半導体材料であるn型ビスマステルライドBi2Te3(高純度化学研究所製、粒径:180μm)を上記と同様に粉砕し、平均粒径1.2μmのn型熱電半導体微粒子T2を作製した。
【0096】
(4)熱電半導体組成物(塗工液)の作製
(4-1)p型熱電半導体組成物(塗工液p)の作製
ポリアミック酸溶液1(固形分濃度:15質量%)を溶媒1で希釈して、希釈液を得た(溶媒1:ポリアミック酸溶液1=14:86(質量比))。
この希釈液に、得られたp型熱電半導体微粒子T1を加え、更にイオン液体1を加えて熱電半導体組成物を調整した。各混合物の配合比は、p型熱電半導体微粒子T1:ポリアミック酸:イオン液体1=92:3:5(質量比)とした。
【0097】
(4-2)n型熱電半導体組成物(塗工液n)の作製
ポリアミック酸溶液1(固形分濃度:15質量%)を溶媒1で希釈して、希釈液を得た(溶媒1:ポリアミック酸溶液1=14:86(質量比))。
この希釈液に、得られたn型熱電半導体微粒子T2を加え、更にイオン液体1を加えて熱電半導体組成物を調整した。各混合物の配合比は、n型熱電半導体微粒子T2:ポリアミック酸:イオン液体1=92:3:5(質量比)とした。
【0098】
(5)第1の電極付き基板への熱電素子の形成
ステンシル印刷により、厚み100μmとなるように、調製したp型熱電半導体組成物(塗工液p)を、ステンシル印刷版を介して第1の電極付き基板に塗布した。この際、
図2に示すパターンとなるように塗布した。塗布後、150℃で10分間大気中で加熱乾燥を行った。
続いて、ステンシル印刷により、厚み100μmとなるように、調製したn型熱電半導体組成物(塗工液n)を、ステンシル印刷版を介して第1の電極付き基板に塗布した。この際、
図2に示すパターンとなるように塗布した。塗布後、150℃で10分間大気中で加熱乾燥を行った。
次いで、得られたp型熱電半導体組成物及びn型熱電半導体組成物が形成された第1の電極付き基板を、325℃で1時間、アルゴン-水素混合ガス雰囲気下でアニール処理した。このようにして、第1の電極付き基板に熱電素子を形成した。
【0099】
(6)熱電変換モジュールの作製
前述の放熱層及び電極が形成された第2の基板のうち、電極が形成された面側に、ステンシル印刷により、導電接着剤を、ステンシル印刷版を介して塗布した。この際、
図4に示すパターンとなるように塗布した。
この導電接着剤の塗布面に、前述の熱電素子が形成された第1の電極付き基板の熱電素子側の面を貼り合わせ、110℃で20分間大気中で加熱することにより、導電接着剤の硬化を行い、貼り合わせ剤層を得た。
このようにして、熱電変換モジュールを作製した。得られた熱電変換モジュールにおける各要素の厚さは、次のとおりである。
・放熱層 :500nm
・第2の基板 :50μm
・第2の電極 :100nm
・熱電素子 :100μm
・貼り合わせ剤層 :50μm
・第1の電極 :Ni(100nm)-Au(50nm)
・第1の基板 :50μm
【0100】
実施例2
放熱層の厚みを3μmとしたこと以外は実施例1と同様にして、熱電変換モジュールを作製した。
実施例3
放熱層の材料をアルミとし厚みを1μmとしたこと以外は実施例1と同様にして、熱電変換モジュールを作製した。
実施例4
放熱層の材料を銀ペーストとし厚みを50μmとしたこと以外は実施例1と同様にして、熱電変換モジュールを作製した。
比較例1
放熱層を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして、熱電変換モジュールを作製した。
【0101】
実施例1~4及び比較例1で得られた熱電変換モジュールの冷却特性評価に係る結果を表1に示す。
【0102】
【0103】
放熱層を有する実施例1~4の熱電変換モジュールは、放熱層を有しない比較例1に比べて、冷却面(吸熱側)と排熱面(発熱側)との温度差が大きいことから、冷却効果が優れていることが分かった。
本発明の熱電変換モジュールは、簡便に低コストで製造可能で、熱電性能に優れる熱電変換材料を用い構成されていることから、エレクトロニクス機器の小型化、コンパクト化において発生する蓄熱を抑制する用途に用いられる。例えば、半導体素子である、CCD(Charge Coupled Device)、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、受光素子等の各種センサーの温度制御、光通信用レーザーや産業用高出力レーザーの温度制御、半導体分野におけるシリコンウェハーや薬液の温度制御等に用いられる。