(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133003
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】複合導電性部材、試料保持具、静電チャック装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20220906BHJP
H02N 13/00 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H02N13/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031789
(22)【出願日】2021-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】日▲高▼ 宣浩
(72)【発明者】
【氏名】大友 恵
(72)【発明者】
【氏名】有川 純
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 良樹
【テーマコード(参考)】
5F131
【Fターム(参考)】
5F131AA02
5F131BA03
5F131BA04
5F131BA19
5F131CA02
5F131EA03
5F131EB13
5F131EB15
5F131EB16
5F131EB18
5F131EB19
(57)【要約】
【課題】従来よりも高い周波数までインピーダンスの変化が少ない複合導電性部材、その複合導電性部材から構成される導電層等を備える試料保持具、その試料保持具からなる静電チャック部材を備える静電チャック装置を提供する。
【解決手段】絶縁性材料と、導電性材料と、を含み、前記絶縁性材料からなり、直径10mm以上の試験片の両端のインピーダンスを測定した場合、100kHzで測定されるインピーダンスが、100Hzで測定されるインピーダンスの0.2倍以上5倍以下である、複合導電性部材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性材料と、導電性材料と、を含み、
前記絶縁性材料からなり、直径10mm以上の試験片の両端のインピーダンスを測定した場合、100kHzで測定されるインピーダンスが、100Hzで測定されるインピーダンスの0.2倍以上5倍以下である、複合導電性部材。
【請求項2】
前記試験片において、100kHzで測定されるインピーダンスが、100Hzで測定されるインピーダンスの1倍以上5倍以下である、請求項1に記載の複合導電性部材。
【請求項3】
前記導電性材料の粒径は20μm以下である、請求項1または2に記載の複合導電性部材。
【請求項4】
試料を載置する載置面を有するセラミックス部材と、前記セラミックス部材の内部に設けられた内部電極層と、前記内部電極層における前記載置面とは反対側の面に設けられた給電端子と、を備え、
前記内部電極層および前記給電端子の少なくとも一方が請求項1または2に記載の複合導電性部材から構成される、試料保持具。
【請求項5】
前記内部電極層の厚さは50μm以上である、請求項4に記載の試料保持具。
【請求項6】
前記内部電極層の厚さ方向の下面と前記セラミックス部材における前記載置面とは反対側の面との距離をd2、前記内部電極層の厚さ方向の下面と前記給電端子の厚さ方向の下面との距離をd3とした場合、1/2d2<d3≦d2を満たす、請求項4または5に記載の試料保持具。
【請求項7】
静電チャック部材と、温度調整用ベース部材とを、接着剤層を介して接合してなる静電チャック装置であって、
前記静電チャック部材は、請求項4~6のいずれか1項に記載の試料保持具からなる、静電チャック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合導電性部材、試料保持具、静電チャック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置等において、試料保持具等のセラミックス部材の内部には、プラズマ発生用の内部電極と給電端子を備えている。
試料保持具では、その載置面に半導体ウエハ等の板状試料を載置し、内部電極に高周波の電力を印加することによって、板状試料の処理を可能としている。
また、試料保持具の載置面に静電チャック部を備えている構成を有してもよい。
【0003】
内部電極としては、例えば、酸化アルミニウムを含むマトリックス相と、モリブデン、炭素およびケイ素を含む分散相とを含む複合焼結体が用いられている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、複合焼結体内の導電パスとなる分散相を大きくして、電気抵抗を下げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のプラズマ電極の機能を備える静電チャック装置は、表皮効果(相互インダクタンスの影響により高周波で導体中心に電流が流れ難くなる現象)の影響を大きく受けるため、高周波でプラズマ電極となる電極層や、電極層に電圧を伝えるため給電端子等のインピーダンスが大きくなり、発熱が大きくなっていた。この発熱により、静電チャック部材の載置面の温度の均一性が損なわれたり、静電チャック部材に電圧を印加した際に放電が生じ易くなったりする課題があった。また、静電チャック部材を構成する誘電体が熱膨張する。その熱膨張によって生じる熱応力により、静電チャック部材を構成する各層が剥離するという課題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、従来よりも高い周波数までインピーダンスの変化が少ない複合導電性部材、その複合導電性部材から構成され、交流電流を印加するための導電層等を備える試料保持具、その試料保持具からなる静電チャック部材を備える静電チャック装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、絶縁性材料と、導電性材料と、を含み、前記絶縁性材料からなり、直径10mm以上の試験片の両端のインピーダンスを測定した場合、100kHzで測定されるインピーダンスが、100Hzで測定されるインピーダンスの0.2倍以上5倍以下である、複合導電性部材を提供する。
【0008】
本発明の一態様においては、前記試験片において、100kHzで測定されるインピーダンスが、100Hzで測定されるインピーダンスの1倍以上5倍以下であってもよい。
【0009】
本発明の一態様においては、前記導電性材料の粒径は20μm以下であってもよい。
【0010】
本発明の一態様は、試料を載置する載置面を有するセラミックス部材と、前記セラミックス部材の内部に設けられた内部電極層と、前記内部電極層における前記載置面とは反対側の面に設けられた給電端子と、を備え、前記内部電極層および前記給電端子の少なくとも一方が本発明の一態様の複合導電性部材から構成される、試料保持具を提供する。
【0011】
本発明の一態様においては、前記内部電極層の厚さは50μm以上であってもよい。
【0012】
本発明の一態様においては、前記内部電極層の厚さ方向の下面と前記セラミックス部材における前記載置面とは反対側の面との距離をd2、前記内部電極層の厚さ方向の下面と前記給電端子の厚さ方向の下面との距離をd3とした場合、1/2d2<d3≦d2を満たしてもよい。
【0013】
本発明の一態様は、静電チャック部材と、温度調整用ベース部材とを、接着剤層を介して接合してなる静電チャック装置であって、前記静電チャック部材は、本発明の一態様の試料保持具からなる、静電チャック装置を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来よりも高い周波数までインピーダンスの変化が少ない複合導電性部材、その複合導電性部材から構成される導電層等を備える試料保持具、その試料保持具からなる静電チャック部材を備える静電チャック装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る試料保持具を示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る静電チャック装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の複合導電性部材、試料保持具、静電チャック装置の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0017】
<複合導電性部材>
本発明の一実施形態に係る複合導電性部材は、絶縁性材料と、導電性材料と、を含む。
本実施形態の複合導電性部材は、絶縁性材料からなり、直径10mm以上の試験片の両端のインピーダンスを測定した場合、100kHzで測定されるインピーダンスが、100Hzで測定されるインピーダンスの0.2倍以上5倍以下であり、1倍以上5倍以下であることが好ましく、1倍以上2倍以下であることがより好ましい。100kHzで測定されるインピーダンスと100Hzで測定されるインピーダンスが0.2倍未満では、プラズマを発生させる高周波の位相がずれるため、静電チャックを使用する半導体製造装置を正常に動作させるのが難しくなる。100kHzで測定されるインピーダンスと100Hzで測定されるインピーダンスが5倍を超えると、静電チャックの発熱の周波数による変化が大きくなり静電チャックの温度制御を適切に行うことができなくなる。
【0018】
上記試験片のインピーダンスは、一般的にセラミックス材料の誘電率測定に用いられる円盤状の試験片を電極に挟んで測定する方法によって測定することができる。
試験片の直径は、試験片に電流が流れる面積が、試験片を電極層に用いた場合の電流が流れる面の断面の面積よりも大きくなればよい。しかしながら、試験片を試料保持具の電極材料として使用する場合には、試料保持具の給電端子の導通方向の直径は最大でも10mm程度である。そのため、直径が10mm以上の試験片を使用すればよく、例えば、厚さ3mm、直径28mmの平面視で円盤状の試験片を用い、試験片両面の間でのインピーダンスを直径13mmの電極を用いて測定することができる。
表皮効果によりインピーダンスが大きくなる影響は、導体に電流が流れる断面の面積が大きいほど受けやすくなる。そのため、試験片の直径は、試験片に電流が流れる面積が、試験片を電極層に用いた場合の電流が流れる面の断面の面積よりも大きければ、試料保持具の給電端子や内部電極層等に用いが場合でも、周波数によりインピーダンスが変化する影響が小さい試料保持具とすることができる複合導電性部材であることが確認できる。
なお、インピーダンスの測定は複合導電性部材を試料保持具部材などに内部電極層および(または)給電端子として組み込んだ後、試料保持具が実際に使用されるのと同様の状態で電圧を印加して周波数によるインピーダンスの変化を測定してもよい。
本実施形態の複合導電性部材は、上記内部電極層以外にも用いられるため、その形状は平面視で円盤状に限定されない。
【0019】
上記試験片での直流での抵抗値は体積固有抵抗率が10×10-3Ω・cm以下であることが好ましく、1×10-3Ω・cm以下であることがより好ましく、0.5×10-3Ω・cm以下であることがさらに好ましい。直流での抵抗値が前記値以下にすることで電流による発熱の少ない複合導電性焼結体となる。体積固有抵抗率はJIS K 7194に準拠した測定方法により測定できる。
【0020】
上記試験片は、本実施形態の複合導電性部材を構成する絶縁性材料と同一組成である。
【0021】
本実施形態の複合導電性部材は、絶縁性材料と導電性材料が一体となった成形体または焼結体であり、絶縁性材料と導電性材料とが複合化した組織を有する。
【0022】
本実施形態の複合導電性部材は、複合導電性部材内に形成される導電パスを細くすることで、導電パスそれぞれの表皮効果の影響を減らしている。また、本実施形態の複合導電性部材は、導電パスが複合導電性部材内で様々な方向を向いて折り重なった状態にすることで、導電パス間の相互インダクタンスの影響を小さくしている。さらに、本実施形態の複合導電性部材は、導電に寄与せず、導電パスとなっていない導電性粒子を減らすことで、複合導電性焼結体のリアクタンスにコンデンサとして作用する成分を減らしている。
【0023】
本実施形態の複合導電性部材において、全体の体積に占める導電性材料の配合量は体積比で、10%以上70%以下であることが好ましく、35%以上65%以下であることがより好ましい。上記含有量の比が上記下限値以上であると。絶縁性材料内で個別の導電性粒子が接触することなく独立した状態で存在し導電に寄与しない導電性粒子の割合が増える。周波数の低い領域においてもインピーダンスが高くなり、導電性材料として使用できなくなる。また、導電に寄与しない粒子の割合が増えると、高周波を印加した際にコンデンサとして作用する成分が多くなり、高周波の位相に影響を与えてプラズマの制御が難しくなる問題が生じる。上記含有量の比が上記上限値以下であると、任意の断面において、絶縁性材料に周囲を囲まれ独立する導電性材料の領域が大きくなり表皮効果の影響を小さくする効果が得られ難くなる。導電性材料の配合量を前記の範囲内にすることによって、複合導電性部材内の導電パスの経路が複雑になり、電流が流れる方向が一定ではなくなりやすくなり、導電パス同士の相互インダクタンスの影響を小さくする効果が得やすくなる。そのため、インピーダンスの周波数による変化を小さくすることができる。
【0024】
[導電性材料]
導電性材料としては、例えば、導電性セラミックス、炭素(C)、高融点金属、およびこれらの混合物や化合物等が挙げられる。
導電性セラミックスとしては、特に限定されないが、例えば、炭化ケイ素(SiC)、酸化チタン(TiO2)、窒化チタン(TiN)、炭化チタン(TiC)、炭化タングステン(WC)、炭化モリブデン(Mo2C)、タンタル(Ta)、炭化タンタル(TaC、Ta4C5)等が挙げられる。炭素(C)としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレン等が挙げられる。高融点金属としては、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、等が挙げられる。
【0025】
導電性材料の、マトリックス相に周囲を囲まれ独立する分散相の領域の粒径を制御することによってインピーダンスの周波数による変化の小さい導電性材料を得ることができる。
導電性材料の粒径は最大フェレー径が20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。また、フェレー径のD10は4.5μm以下であることが好ましく、4.0μm以下であることがより好ましく、3.0μm以下であることがさらに好ましい。フェレー径のD50は10μm以下であることが好ましい。フェレー径のD90は15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。フェレー径を上記下限以下にすることによって、導電パスの太さが小さくなり、表皮効果の影響を小さくする効果が得られる。
フェレー径のD10に対するフェレー径のD90比率(D90/D10)は5以下 であることが好ましく4以下であることがより好ましく、3.5以下であることがさらに好ましい。前記比率(D90/D10)を4以下とすれば、導電性材料の粒径のばらつきが小さくなるため、導電に寄与しない粒子を減らすことができ、直流での抵抗値を低くすることができる。また、高周波を印加した際にコンデンサとして作用する成分を減らすことができる。
フェレー径は、複合導電性部材の断面をSEMにより観察した画像(SEM画像)から測定することができる。SEM画像を二値化することにより、測定対象となる領域の境界を明確にして測定することが好ましい。測定における基本的操作については、JIS Z8827-1「粒子径解析-画像解析法-第1部:静的画像解析法」に記載の方法に準拠した方法を用いることが好ましい。
【0026】
[絶縁性材料]
絶縁性材料としては、例えば、絶縁性セラミックス、ガラス、プラスチック、シリコーン等が挙げられる。
絶縁性セラミックスとしては、特に限定されないが、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si3N4)、酸化イットリウム(Y2O3)、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)、サマリウム-アルミニウム酸化物(SmAlO3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ケイ素(SiO2)等が挙げられる。
【0027】
なお、本実施形態の複合導電性部材を、試料保持具の内部電極層として使用する場合には、絶縁性材料には内部電極層と接する試料保持具の主成分と同一のものであることが好ましい。絶縁性材料には内部電極層と接する試料保持具の主成分と同一とすることによって、試料保持具と内部電極層との接合強度が高くなり、信頼性の高い試料保持具とすることができる。
【0028】
本実施形態の複合導電性部材の製造方法について説明する。
導電性複合部材は、導電性材料の原料粉末を絶縁性材料の原料と混合し、成形または焼結することによって、導電性材料と絶縁性材料が一体となった複合体を形成する。
【0029】
導電性材料の粒径を上述の範囲とするためには、導電性材料の原料粉末は5μm以下のものを用いることが好ましく、2μm以下とすることがより好ましく、1μm以下とすることが最も好ましい。原料粉末の粒径を前記の値以下とすることによって導電パスが細くなりやすくなり、インピーダンスの周波数依存性の小さい複合導電性部材を得やすくなる。また、導電性材料の原料粉末は後述する分散処理により、溶媒中に分散しやすいものを選定することが好ましく、絶縁性材料の原料粉末と混合した際に均一に混合できる材料であることが好ましい。導電性材料の原料粉末の溶媒中への分散しやすさや、絶縁性材料の原料粉末と混合した際に均一に混合できる材料であるかは、得られた複合導電性部材内の導電性材料の粒径を確認することなどで評価することができる。
【0030】
絶縁性材料に絶縁性セラミックスを使用する場合には、絶縁性セラミックスの原料粉末の粒径は、導電性材料の原料粉末の粒径の10倍以下とすることが好ましい。絶縁性セラミックスの原料粉末の粒径を前記の値以下とすることによって、絶縁性セラミックスの原料粉末と導電性材料の原料粉末を均一に混合することができるようになり、インピーダンスの周波数依存性の小さい複合導電性部材を得やすくなる。
【0031】
導電性材料の原料粉末と絶縁性材料の原料粉末とを混合する際には、導電性材料の原料粉末を均一に分散することが好ましい。そのため、導電性部材の原料粉末は分散媒中に分散させた後に、絶縁性材料の原料と混合する。この分散の際に導電性材料の原料粉末の分散をよくするために、分散材や表面処理剤等を加えて分散させる。また、原料粉末を分散させるために、ビーズミル、遊星式ボールミル等の分散・粉砕力が強い機器を使用する。
【0032】
分散媒中に分散した導電性材料の原料粉末と絶縁性材料の原料粉末とを混合し、さらに分散機を使用して分散処理を行う。分散媒中で均一に混合した導電性材料の原料粉末と絶縁性材料の原料粉末とを含む分散液を乾燥し、分散媒を取り除くことによって、導電性材料の原料粉末と絶縁性材料の原料粉末とが均一に混合した複合導電性部材の原料粉末を得ることができる。
【0033】
絶縁性部材が絶縁性セラミックスの場合には、複合導電性部材の原料粉末を成形した後、焼結させることによって複合導電性部材が得られる。成形方法としては、加圧成形やグリーンシート成形等公知の方法を使用できる。本実施形態の複合導電性部材を、試料保持具の内部電極層として使用する場合には、複合導電性部材の原料粉末を用いてスクリーン印刷を行うための内部電極形成用ペーストを調製し、試料保持具となる板状部材に塗布した後に、焼結させることによって、内部電極層が得られる。内部電極形成用ペーストを調製するには、溶媒としてテルピネオール等を用いることができる。内部電極形成用ペーストには、エチルセルロース、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルブチラール等のバインダーをさらに添加してもよい。
【0034】
複合導電性部材の原料粉末は、焼結前に、分散材、内部電極形成用ペーストに含まれる溶媒、バインダー等を揮発させるために乾燥させた後に焼結する。
【0035】
複合導電性部材の焼結は、ホットプレス(一軸加圧焼結)で行う。複合導電性部材は、800℃に到達するまでは圧力をかけないで昇温することが好ましい。800℃まで圧力をかけないで昇温することによって、複合導電性部材の原料粉末に残存している揮発成分を充分に除去することができる。また、焼結時の圧力は1000℃以上の温度で5MPa以上であることが好ましく、10MPa以上であることがより好ましく、15MPa以上がさらに好ましい。焼結時の圧力を大きくすることによって、複数の導電性材料が焼結して粒子径が大きくなることを防ぐことができ、導電性材料の粒径を小さくすることができるためである。
焼結温度は、複合導電性部材の焼結が充分に行える温度範囲でなるべく低い温度とすることが好ましく、例えば、絶縁性材料として酸化アルミニウムを使用する場合には1500℃以上1800℃以下であることが好ましく、1600℃以上1700℃以下であることがより好ましい。焼結温度が前記の下限値未満であると、導電性材料の焼結を充分に行うことができない。焼結温度が前記の上限値を超えると、導電性材料の焼結が進み、導電性材料の粒子径が大きくなってしまう。
【0036】
本実施形態の複合導電性部材によれば、直径10mm以上の試験片の両端のインピーダンスを測定した場合、100kHzで測定されるインピーダンスが、100Hzで測定されるインピーダンスの0.2倍以上5倍以下であるため、従来よりも高い周波数までインピーダンスの変化が少ない。従って、100kHz以上の高周波電流を印加した場合であっても、インピーダンスが大きくなることを抑制することができる。結果として、発熱を抑制することができる。
【0037】
<試料保持具>
本発明の一実施形態に係る試料保持具は、試料を載置する載置面を有するセラミックス部材と、セラミックス部材の内部に設けられた内部電極層と、セラミックス部材における載置面とは反対側の面に設けられ、内部電極層に電圧を印加する給電端子と、を備える。
【0038】
以下、
図1を参照しながら、本実施形態の試料保持具を具体的に説明する。
図1は、本実施形態の試料保持具を示す断面図である。
なお、以下の全ての図面においては、図面を見易くするため、各構成要素の寸法や比率等は適宜異ならせてある。
【0039】
図1に示す本実施形態の試料保持具としては、例えば、半導体製製造工程や液晶表示装置の製造工程に用いられる試料保持具等が挙げられる。
図1に示すように、本実施形態の試料保持具1は、上面が半導体ウエハ等の板状試料を載置する載置面2aとされたセラミックスからなる載置板2と、載置板2の載置面2aとは反対の面側に設けられたセラミックスからなる支持板3と、これら載置板2と支持板3との間に挟持された内部電極層4と、内部電極層4における上記載置面2aとは反対側の面(下面)4bに設けられた給電端子5と、を有している。また、本実施形態の試料保持具1は、内部電極層4の周囲を囲む環状の絶縁材6を有する。
支持板3には、その厚さ方向に貫通する固定孔7が形成されている。給電端子5の外周部と固定孔7は焼結により接合されている。また、給電端子5の厚さ方向の上面5aと内部電極層4の下面4bは焼結により接合されている。
以下の説明においては、載置板2の載置面2a側を「上」、支持板3側を「下」として記載し、各構成の相対位置を表すことがある。
【0040】
なお、試料保持具1を静電チャックとして使用する場合には、内部電極層4とは別に、試料を静電吸着させるための静電吸着用内部電極層を載置板2に内蔵させてもよい。試料保持具1を加熱装置として使用する場合には、加熱用のヒーター電極層を載置板2または支持板3に内蔵させてもよい。静電吸着電極やヒーター電極層を試料保持具1に内蔵させる場合には、静電吸着電極層やヒーター電極層に電圧を印加するための給電端子を別途設けることができる。
【0041】
本実施形態の試料保持具1において、載置板2と支持板3とから構成される積層体がセラミックス部材である。内部電極層4は、載置板2と支持板3とから構成される積層体の内部に設けられている。
【0042】
本実施形態の試料保持具1では、内部電極層4および給電端子5の少なくとも一方が本実施形態の複合導電性部材から構成される。内部電極層4の発熱を抑制する効果をより高めるためには、内部電極層4が本実施形態の複合導電性部材から構成されていることが好ましい。さらに、給電端子5が本実施形態の複合導電性部材から構成されていれば、給電端子5が発熱し、その熱が内部電極層4に伝わることを抑制することができる。
【0043】
本実施形態の試料保持具1では、内部電極層4の厚さは電極層の中央部、外周部ともに1μm以上100μm以下であることが好ましく、5μm以上30μm以下であることがより好ましい。内部電極層4の厚さが上記下限値以上であると、プラズマを発生させるための電流を充分に流すことができる。内部電極層の厚さが上記上限値以下であると、製造コストの増大を抑制することができる。また、内部電極層4の厚さは、その中心部から外周部まで同じ厚さにすることが好ましい。内部電極層4の厚さのばらつきは、面内における厚さの最大値と最小値の差が10μm以下であることが好ましく、6μm以下であることがより好ましい。内部電極層4の厚さを面内で一定にすることで、載置面2a内の垂直方向の熱伝達が面内で均一になるため、試料保持具1は均熱性に優れる。また、内部電極層4と載置板2を焼結させる際に、内部電極層4に加わる圧力が一定になるため、内部電極層4のインピーダンスの周波数依存性が面内で均一になる。そのため、プラズマの制御性が向上する。また、製造工程が簡便になる効果もある。
【0044】
給電端子5の直径は、3mm以上10mm以下であることが好ましく、4mm以上8mm以下であることがより好ましい。給電端子5の直径をこの範囲にすることによって、給電端子5の存在による静電チャックの均熱性の悪化を抑制した上で、プラズマを発生させるための高周波電流を充分に流すことができる。
【0045】
本実施形態の試料保持具1では、給電端子5の上面5aと載置板2の載置面2aとの距離をd1、内部電極層4の下面4bと支持板3における上記載置面2aとは反対側の面(下面)3bとの距離をd2、内部電極層4の下面4bと給電端子5の厚さ方向の下面5bとの距離をd3とした場合、1/2d2<d3≦d2を満たすことが好ましく、3/4d2<d3≦d2を満たすことがより好ましく、d3=d2であることが最も好ましい。距離d3をこの範囲にすることによって、給電端子5と載置板2の間の熱伝達が充分に行えるようになるため、試料保持具1は、給電端子5の周囲においても均熱性に優れる。また、給電端子5を中心として支持板3に外部の電源と接続するための電極を接続するために、支持板3に穿孔してもよい。その場合、距離d2を、支持板3における穿孔されてない場所の値とする。距離d2および距離d3の値を、前記の範囲にすれば給電端子5と載置板2の間の熱伝達が充分に行えるようになる。
また、距離d1および距離d3は、d1<d3の関係を満たすことが好ましい。距離d3が距離d1よりも大きくなることで、給電端子5の周囲の熱容量が給電端子5の上部における載置板2の熱容量よりも多くなる。さらに、給電端子5と載置板2との間の熱伝達を向上することができるため、試料保持具1は、給電端子5の周囲においても均熱性に優れる。
なお、距離d2は、支持板3の厚さに相当する。また、距離d3は、給電端子5の厚さに相当する。
【0046】
[載置板]
載置板2を構成するセラミックスとしては、誘電体材料であり、機械的な強度を有し、しかも腐食性ガスおよびそのプラズマに対する耐久性を有するものであれば特に限定されない。このようなセラミックスとしては、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)焼結体、窒化アルミニウム(AlN)焼結体、酸化アルミニウム(Al2O3)-炭化ケイ素(SiC)複合焼結体等が好適に用いられる。
【0047】
載置板2の厚さは、0.5mm以上かつ5mm以下であることが好ましく、2mm以上かつ3mm以下であることがより好ましい。載置板2の厚さが前記下限値以上であると、耐電圧性に優れる。載置板2の厚さが前記上限値以下であると、載置板2の熱容量が小さくなるため、処理中の板状試料の温度を均一にすることができる。
【0048】
[支持板]
支持板3は、載置板2と内部電極層4を下側から支持している。
【0049】
支持板3は、載置板2を構成するセラミックスと同様の材料からなる。
支持板3の厚さは、0.5mm以上かつ5mm以下であることが好ましく、0.5mm以上かつ3mm以下であることがより好ましい。支持板3の厚さが前記下限値以上であると、充分な耐電圧を確保することができる。支持板3の厚さが前記上限値以下であると、載置板2の熱容量が小さくなり、処理中の板状試料の温度を均一にすることができるため、板状試料の温度を制御することが容易になる。
【0050】
[内部電極層]
内部電極層4では、高周波電圧を印加することにより、載置板2に載置した基板を処理するために用いる。
【0051】
内部電極層4を構成する材料としては、チタン、タングステン、モリブデン、白金等の高融点金属、グラファイト、カーボン等の炭素材料、炭化ケイ素、窒化チタン、炭化チタン等の導電性セラミックス等が好適に用いられる。本実施形態の試料保持具1では、上述のように、内部電極層4が本実施形態の複合導電性部材から構成されていることが好ましい。
【0052】
内部電極層4は、スパッタ法や蒸着法等の成膜法、あるいはスクリーン印刷法等の塗工法により容易に形成することができるが、載置板2および支持板3と焼結により接合していることが好ましい。内部電極層4は、載置板2および支持板3と焼結により接合していることによって、内部電極層4と載置板2および支持板3との間の熱伝達を向上することができる。そのため試料保持具1は、均熱性に優れる。
【0053】
[給電端子]
給電端子5は、内部電極層4に高周波電圧を印加するためのものである。給電端子5は、支持板3を厚さ方向に貫通するように形成された固定孔7内に設けられている。
給電端子5の厚さd3は、支持板3の厚さd2に対して、1/2d2<d3≦d2の範囲であることが好ましい。給電端子5の厚さd3をこの範囲にすることによって、給電端子5と載置板2の間の熱伝達が充分に行えるようになるため、試料保持具1は、給電端子5の周囲においても均熱性に優れる。
【0054】
給電端子5の材料は、耐熱性に優れた導電性材料であれば特に限定されない。給電端子5の材料としては、熱膨張係数が内部電極層4および支持板3の熱膨張係数に近似したものであることが好ましい。給電端子5の材料としては、例えば、コバール合金、ニオブ(Nb)等の金属材料、各種の導電性セラミックス、導電性セラミックスと絶縁性セラミックスとの複合セラミックスが好適に用いられる。本実施形態の試料保持具1では、上述のように、給電端子5が本実施形態の複合導電性部材から構成されていることが好ましい。
給電端子5は、焼結により固定孔7と接合していることが好ましい。焼結により給電端子5と固定孔7が接合していることで、給電端子5の近傍での熱伝達が向上し、試料保持具1は、給電端子5の周囲においても均熱性に優れるものとなる。
【0055】
[絶縁材]
絶縁材6は、内部電極層4を囲繞して、腐食性ガスおよびそのプラズマから、内部電極層4を保護するためのものである。
絶縁材6は、載置板2および支持板3と同一組成、または主成分が同一の絶縁性材料から構成されている。絶縁材6により、載置板2と支持板3とが、内部電極層4を介して接合一体化されている。
【0056】
本実施形態の試料保持具1によれば、内部電極層4および給電端子5の少なくとも一方が本実施形態の複合導電性部材から構成されるため、内部電極層4および給電端子5に100kHz以上の高周波電流を印加した場合であっても、それらのインピーダンスが大きくなることを抑制することができる。結果として、高周波電流を印加したことによる内部電極層4および給電端子5の発熱を抑制することができる。
【0057】
<試料保持具の製造方法>
以下、
図1を参照しながら、本実施形態の試料保持具の製造方法について説明する。
本実施形態の試料保持具の製造方法は以下の通りである。
【0058】
[第1の工程]
載置板および支持板を準備する。なお、試料保持具を静電チャックとして使用する場合には、試料を静電吸着させるための静電吸着用内部電極層を内蔵した支持板を準備する。試料保持具を加熱装置として使用する場合には、加熱用のヒーター電極層を内蔵させた支持板または載置板を準備する。載置板および支持板に静電吸着用内部電極層やヒーター電極層を内蔵させる方法としては、公知の方法を適宜用いることができる。例えば、2枚のセラミックス板を用意し、一方のセラミックス板の一面に、焼結することによって静電吸着用内部電極層またはヒーター電極層となるペーストを塗布し、2枚のセラミックス板の間にペーストを塗布した面を挟み、ホットプレス等によって加熱して接合、焼結する方法用いることができる。なお、試料保持具に静電吸着用の電極層やヒーター電極層を設ける場合や、試料保持具に使用目的に応じた貫通孔を穿孔する必要がある場合には、目的に応じで電極層となる塗膜の中に絶縁層となる塗膜を設けておくことができる。
【0059】
[第2の工程]
前記支持板に給電端子を設置するための固定孔を穿孔する。また、上述の方法で作製した本実施形態の複合導電性部材を固定孔と同じ形状に加工する。この際、複合導電性部材の直径を、固定孔の直径よりも0.01mm以上0.1mm以下の範囲内で小さくすることが好ましい。複合導電性部材の直径を前記範囲内にすることによって、後述する第4の工程において、給電端子と固定孔および内部電極層とを良好に接合することができる。
なお、給電端子は固定孔に挿入し、テープ等で仮止めしておく。
【0060】
[第3の工程]
第1の工程で得られた載置板または支持板の一方に、内部電極層形成用ペーストを塗布して、内部電極層形成用の塗膜を形成するとともに、絶縁層形成用ペーストを塗布して絶縁層形成用の塗膜を形成する。
なお、試料保持具に静電吸着用の電極層やヒーター電極層を設ける場合やガス導入孔等の使用目的に応じた貫通孔を穿孔する必要がある場合には、目的に応じで電極層となる塗膜の中に絶縁層となる塗膜を設けておくことができる。
また、本実施形態の試料保持具の製造方法では、内部電極層形成用ペーストまたは給電端子の少なくとも一方が本実施形態の複合導電性部材を含む。
【0061】
[第4の工程]
載置板と支持板を、上記内部電極層形成用の塗膜および上記絶縁層形成用の塗膜を形成した面が内側になるように挟み、ホットプレス装置に設置する。載置板と支持板を設置する際に、給電端子を固定孔に仮止めするために用いたテープ等を剥がしておく。
ホットプレス装置を加圧、昇温して、載置板、支持体、電極層、給電端子が一体化する。ホットプレスの温度や圧力、雰囲気等の条件は、上述の複合導電性部材を焼結する際と同様の条件とすることができる。
得られた部材の表面等を研削加工して、目的の形状とすることによって、本実施形態の試料保持具が得られる。
【0062】
<静電チャック装置>
本発明の一実施形態に係る静電チャック装置100は、載置板に静電吸着電極層を内蔵した本発明の試料保持具を用い、温度調整用ベース部材と載置板に静電吸着電極層を内蔵した本発明の試料保持具とを、接着剤層を介して接合してなる静電チャック装置であってもよい。
【0063】
以下、
図2を参照しながら、本実施形態の静電チャック装置を具体的に説明する。
図2は、本実施形態の試料保持具を有する静電チャック装置を示す断面図である。
図2に示すように、静電チャック装置100は、支持板内に静電吸着用の電極層を有する試料保持具1と温度調整用ベース部材30と、これら試料保持具1および温度調整用ベース部材30を接合・一体化する接着剤層40と、を有している。本実施形態の静電チャック装置100では、試料保持具1は静電チャック部材である。
【0064】
内部電極層4は、外部の高周波電源61に接続される。
【0065】
載置板2は、誘電体板22と、中間板23と、静電吸着用内部電極層24と、静電吸着用給電端子25と、絶縁材26とから構成される。
【0066】
誘電体板22を構成する材料としては、静電チャックに用いる公知のセラミックス材料を用いることができ、載置板2に用いた材料と同様の材料を用いることができる。セラミックス材料としては、誘電体材料であり、機械的な強度を有し、しかも腐食性ガスおよびそのプラズマに対する耐久性を有するものであれば特に限定されない。このようなセラミックス材料としては、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)焼結体、窒化アルミニウム(AlN)焼結体、酸化アルミニウム(Al2O3)-炭化ケイ素(SiC)複合焼結体等が好適に用いられる。セラミックス材料としては、酸化アルミニウム(Al2O3)-炭化ケイ素(SiC)複合焼結体が特に好ましい。
【0067】
誘電体板22の厚さは、0.2mm以上0.7mm以下であることが好ましく、0.3mm以上0.6mm以下であることがより好ましい。誘電体板22の厚さが前記下限値以上であると、耐電圧性に優れる。誘電体板22の厚さが前記上限値以下であると、試料保持具1の静電吸着力が低下することがなく、載置板2の載置面2aに載置される板状試料と後述する温度調整用ベース部材30との間の熱伝導性が低下することもなく、処理中の板状試料の温度を好ましい一定の温度に保つことができる。
【0068】
中間板23を構成する材料は、誘電体板22と主成分が同じ材料であることが好ましく、誘電体板22を構成する材料と同じ材料とすることがより好ましい。
【0069】
中間板23の厚さは、0.2mm以上0.7mm以下であることが好ましく、0.3mm以上0.6mm以下であることがより好ましい。中間体板23の厚さが前記下限値以上であると、耐電圧性に優れる。中間板23の厚さが前記上限値以下であると、試料保持具1の静電吸着力が低下することがなく、載置板2の載置面2aに載置される板状試料と後述する温度調整用ベース部材30との間の熱伝導性が低下することもなく、処理中の板状試料の温度を好ましい一定の温度に保つことができる。
【0070】
静電吸着用内部電極層24を構成する材料としては、酸化アルミニウム-炭化タンタル(Al2O3-Ta4C5)導電性焼結体、酸化アルミニウム-タングステン(Al2O3-W)導電性焼結体、酸化アルミニウム-炭化ケイ素(Al2O3-SiC)導電性焼結体、窒化アルミニウム-タングステン(AlN-W)導電性焼結体、窒化アルミニウム―タンタル(AlN-Ta)導電性焼結体、酸化イットリウム-モリブデン(Y2O3-Mo)導電性焼結体等の導電性焼結体、あるいはタングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)等の高融点金属が挙げられる。また、静電吸着用内部電極層24の高周波による誘電損失を減らすために、本発明の複合導電性部材を用いることが好ましい。
【0071】
静電吸着用内部電極層24の厚さは、特に限定されないが、5μm以上40μm以下であることが好ましく、20μm以上30μm以下であることがより好ましい。静電吸着用内部電極層24の厚さが前記下限値以上であると、充分な導電性を確保することができる。静電吸着用内部電極層24の厚さが前記上限値以下であると、静電吸着用内部電極層24と誘電体板22および中間板23との間の熱膨張差に起因して、静電吸着用内部電極層24と誘電体板22および中間板23との接合界面に亀裂が生じ難くなる。なお、電極の数は、クーロン型静電チャック部、ジョンソンラーベック型静電チャック部等の構造に応じて、単極であってもよいし、複数であってもよい。
【0072】
静電吸着用給電端子25を構成する材料は、耐熱性に優れる導電性材料であれば特に限定されない。静電吸着用給電端子25を構成する材料としては、熱膨張係数が静電吸着用内部電極層24および中間板23の熱膨張係数に近似したものであることが好ましい。静電吸着用給電端子25を構成する材料としては、例えば、コバール合金、ニオブ(Nb)等の金属材料、各種の導電性セラミックス、導電性セラミックスと絶縁性セラミックスとの複合セラミックスが好適に用いられる。本実施形態の静電チャック装置100では、静電吸着用給電端子25が本発明の複合導電性部材から構成されていることが好ましい。
【0073】
静電吸着用給電端子25では、静電吸着用給電端子25の厚さ方向の下面25bと静電吸着用給電端子25に隣接する固定孔7とが焼結により接合していることが好ましい。静電吸着用給電端子25の下面25bと静電吸着用給電端子25に隣接する固定孔7とが焼結により接合していることによって、給電端子5の近傍での熱伝達が向上し、試料保持具1は均熱性に優れる。
【0074】
絶縁材26は、静電吸着用内部電極層24の外周に配置され、腐食性ガスおよびそのプラズマから静電吸着用内部電極層24を保護するとともに、誘電体板22と中間板23との境界部、すなわち静電吸着用内部電極層24以外の外周部領域を接合一体化するものである。絶縁材26を構成する材料としては、誘電体板22および中間板23を構成する材料と同一組成または成分が同一の絶縁材料により構成されている。
【0075】
[温度調整用ベース部材]
温度調整用ベース部材30は、金属およびセラミックスの少なくとも一方からなる厚みのある円板状のものである。温度調整用ベース部材30の躯体は、プラズマ発生用内部電極を兼ねた構成としてもよい。温度調整用ベース部材30の躯体の内部には、水、Heガス、N2ガス等の冷却媒体を循環させる流路(図示略)が形成されている。また、温度調整用ベース部材30の躯体には、収容孔41が形成されている。収容孔41は、支持板3の固定孔7と連通している。
【0076】
温度調整用ベース部材30を構成する材料は、熱伝導性、導電性、加工性に優れた金属、またはこれらの金属を含む複合材であれば特に限定されない。温度調整用ベース部材30を構成する材料としては、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ステンレス鋼(SUS)等が好適に用いられる。
温度調整用ベース部材30における少なくともプラズマに曝される面は、アルマイト処理またはポリイミド系樹脂による樹脂コーティングが施されていることが好ましい。また、温度調整用ベース部材30の全面が、前記のアルマイト処理または樹脂コーティングが施されていることがより好ましい。
【0077】
温度調整用ベース部材30にアルマイト処理または樹脂コーティングを施すことにより、温度調整用ベース部材30の耐プラズマ性が向上するとともに、異常放電が防止される。したがって、温度調整用ベース部材30の耐プラズマ安定性が向上し、また、温度調整用ベース部材30の表面傷の発生も防止することができる。
【0078】
温度調整用ベース部材30に設けられた収容孔41内には、接着剤を介し、セラミックスからなる碍子51が固定されている。
【0079】
碍子51を構成する材料としては、絶縁性であり、プラズマやラジカル(フリーラジカル)に対して耐久性を有するセラミックスが好ましく、このセラミックスとしては、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化ケイ素(Si3N4)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、サイアロン、窒化ホウ素(BN)、炭化ケイ素(SiC)から選択される1種からなるセラミックス、あるいは2種以上を含む複合セラミックス等が好適に用いられる。
【0080】
碍子51には、碍子51の中央部を、その厚さ方向に貫通する貫通孔52が形成されている。碍子51に設けられた貫通孔52内には電源接続部71が配置される。
【0081】
電源接続部71は、高周波電源61からの電流を給電端子5および静電吸着用給電端子25に伝えるためのものである。電源接続部71を構成する材料としては、静電チャックとして使用する際に発熱量の小さい材料や形状のものが用いられる。電源接続部71を構成する材料としては、例えば、金属撚り線、金属網組線、金属管、金属棒等を適宜用いるこができ、表面の抵抗を下げるためにメッキ処理をしたものを用いてもよい。
【0082】
電源接続部71と給電端子5および静電吸着用給電端子25とは、接合せずに接触させることで導通させてもよいが、ロウ材81などを用いて接合させることが好ましい。なお、ロウ付けの際に給電端子5の下面5bおよび/または支持板3の厚さ方向の下面3bに凹部を設けて、ロウ付け時にロウ材81が流出することを防いでもよい。なお、凹部は給電端子5の厚さd3が支持板の厚さd2に対して、1/2d2<d3≦d2の範囲となるように設けることが好ましい。厚さd3をこの範囲にすることによって、給電端子5と載置板2との間の熱伝達が充分に行えるようになるため、試料保持具1は、給電端子5の周囲においても均熱性に優れる。
【0083】
電源接続部71は、外部の高周波電源61および静電吸着用の直流電源62に接続されていてもよい。
【0084】
[接着剤層]
接着剤層40は、試料保持具1と温度調整用ベース部材30とを接合・一体化するものである。
【0085】
接着剤層40の厚さは、50μm以上500μm以下であることが好ましく、100μm以上200μm以下であることがより好ましい。
接着剤層40の厚さが上記の範囲内であれば、試料保持具1と温度調整用ベース部材30との間の接着強度を充分に保持することができる。また、試料保持具1と温度調整用ベース部材30との間の熱伝導性を充分に確保することができる。
【0086】
接着剤層40は、例えば、シリコーン系樹脂組成物を加熱硬化した硬化体、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等で形成されている。
シリコーン系樹脂組成物は、シロキサン結合(Si-O-Si)を有するケイ素化合物であり、耐熱性、弾性に優れた樹脂であるので、より好ましい。
【0087】
このようなシリコーン系樹脂組成物としては、特に、熱硬化温度が70℃~140℃のシリコーン樹脂が好ましい。
ここで、熱硬化温度が70℃を下回ると、試料保持具1と温度調整用ベース部材30とを対向させた状態で接合する際に、接合過程で硬化が充分に進まないことから、作業性に劣ることになるため好ましくない。一方、熱硬化温度が140℃を超えると、試料保持具1および温度調整用ベース部材30との熱膨張差が大きく、試料保持具1と温度調整用ベース部材30との間の応力が増加し、これらの間で剥離が生じることがあるため好ましくない。
【0088】
本実施形態の静電チャック装置100によれば、静電チャック部材が試料保持具1からなるため、内部電極層4および給電端子5に100kHz以上の高周波電流を印加した場合であっても、それらのインピーダンスが大きくなることを抑制することができる。結果として、高周波電流を印加したことによる内部電極層4および給電端子5の発熱を抑制することができる。
【0089】
以下、本実施形態の静電チャック装置の製造方法について説明する。
【0090】
上述の試料保持具の製造方法と同様に、本実施形態の静電チャック装置100に用いる試料保持具1を作製する。
誘電体板22と、中間板23と、支持板3となる3枚のセラミックス板を用意する。
中間板23における静電吸着用内部電極層24が形成される一方の面に、焼結することで静電吸着用内部電極層24となるペーストを塗布する。同様に、支持板3における内部電極層4が形成される一方の面に、焼結することで内部電極層4となるペーストを塗布する。
次いで、誘電体板22と中間板23との間に静電吸着用内部電極層24となるペーストを塗布した面を挟み込む。また、中間板23と支持板3との間に内部電極層4となるペーストを塗布した面を挟み込む。これにより、上記のペーストを介して積層された誘電体板22と中間板23と支持板3との積層体を形成する。
次いで、上記の積層体をホットプレス等で加熱して焼結し、誘電体板22と中間板23と支持板3とを接合するとともに、誘電体板22と中間板23との間に静電吸着用内部電極層24を形成し、中間板23と支持板3との間に内部電極層4を形成する。これにより、試料保持具1が得られる。
なお、使用目的に応じで、内部電極層4や静電吸着用内部電極層24となる塗膜の中に、絶縁層となる塗膜を設けておくことができる。
ホットプレスの温度や圧力、雰囲気等の条件は、上述の複合導電性部材を焼結する際と同様の条件とすることができる。
【0091】
得られた試料保持具1と温度調整用ベース部材30とを、接着剤層40を介して接合・一体化することにより、本実施形態の静電チャック装置100が得られる。
【0092】
なお、本実施形態の試料保持具1および静電チャック装置100には、使用する目的に応じ載置板2の載置面2aには、半導体ウエハ等の板状試料を支持するための多数の突起が立設してもよい(図示略)。さらに、載置板2の載置面2aの周縁部には、ヘリウム(He)等の冷却ガスが漏れないように、高さが上記の突起と同じ高さの周縁壁が形成してもよい(図示省)。
また、試料保持具1および静電チャック装置100には、使用する目的に応じて冷却用のヘリウム(He)ガスを流すための貫通孔や板状試料を搬送する際に使用するリフトピンを通すための貫通孔等を公知の技術を用いて、適宜設けることができる。
【0093】
なお、本実施形態に係る板状試料としては、半導体ウエハに限るものではなく、例えば、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、有機ELディスプレイ等の平板型ディスプレイ(FPD)用ガラス基板等であってもよい。また、その基板の形状や大きさに合わせて本実施形態の静電チャック装置を設計すればよい。
【実施例0094】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0095】
[実施例1]
出発原料に、絶縁性材料の原料として酸化アルミニウム粉末(平均粒子径0.2μm、大明化学社製)と、導電性材料の原料として炭化タングステン粉末(平均粒子径1μm、日本新金属社製)とを用いた。
分散媒としての2-プロパノールに、炭化タングステン粉末と、分散剤としての高分子分散剤とを加え、直径0.1mmの酸化ジルコニウム製のビーズを用いたビーズミルにて2時間分散処理を行い、炭化タングステン粉末分散液を得た。
得られた炭化タングステン粉末分散液に、酸化アルミニウム粉末と2-プロパノールとを加え、直径が1mm以上5mm以下の酸化アルミニウム製のメディアを用いたボールミルを使用し、5時間混合した。なお、酸化アルミニウム粉末と炭化タングステン粉末の割合は、酸化アルミニウム粉末が60体積%、炭化タングステン粉末が40体積%となるようにした。ボールミルで混合して得られた分散液を乾燥して、複合導電性部材の原料粉末を得た。
複合導電性部材の原料粉末を、金型成形法によりプレス圧5MPaで一軸プレス成形し、直径50mm×厚さ6mmの円盤状の複合導電性部材の成形体を得た。
得られた成形体を黒鉛製のモールドにセットし、加圧焼結を行った。まず、成形体を、真空雰囲気下、プレス圧を加えることなく、室温から900℃まで10℃/分の昇温速度で昇温させた。加熱温度が900℃に達した後、1時間保持し、その後、大気圧のアルゴン雰囲気、プレス圧を20MPaとし、1650℃まで10℃/分の昇温速度で昇温させ、3時間保持することにより焼結を行い、実施例1の複合導電性部材を得た。
【0096】
[実施例2]
導電性材料の原料として炭化タンタル粉末(平均粒子径1μm、日本新金属社製)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法により、実施例2の複合導電性部材を得た。
【0097】
[実験例1]
導電性材料の原料として炭化モリブデン粉末(平均粒子径1μm、日本新金属社製)を用い、ビーズミルによる導電性材料の原料の分散処理を行わないこと以外は実施例1と同様の方法により、実験例1の複合導電性部材を得た。
【0098】
[比較例1]
導電性材料の原料として炭化モリブデン粉末(平均粒子径1μm、日本新金属社製)を用い、加圧焼結における最高温度を1800℃、プレス圧を10MPaとしたこと以外は実施例1と同様の方法により、比較例1の複合導電性部材を得た。
【0099】
実施例1、実施例2、実験例1および比較例1における複合導電性部材の製造条件を表1に示す。
【0100】
【0101】
[評価]
実施例1、実施例2、実験例1および比較例1における複合導電性部材について、導電性粒子のフェレー径、導電性粒子のフェレー径のばらつき、インピーダンスを測定した。
【0102】
「導電性粒子のフェレー径、導電性粒子のフェレー径のばらつき」
導電性粒子のフェレー径を、複合導電性部材の断面をSEMにより観察した画像(SEM画像)から測定した。測定における基本的操作には、JIS Z8827-1「粒子径解析-画像解析法-第1部:静的画像解析法」に記載の方法に準拠した方法を用いた。
上記の方法により、導電性粒子のフェレー径のD90とD10を測定し、フェレー径のD10に対するフェレー径のD90比率(D90/D10)を算出して、導電性粒子のフェレー径のばらつきを評価した。
結果を表2に示す。
【0103】
「インピーダンスの測定」
実施例1、実施例2、実験例1および比較例1における複合導電性部材について、直径を28mm、厚さを3mmの試験片を作成してインピーダンスを測定した。測定に用いる電極の主電極の直径は13mmとし、100Hz、100kHzおよび1MHzでインピーダンスを測定した。測定にはキーサイトテクノロジーズ社製のインピーダンスアナライザE4990A、テストフィクスチャー16451B電極タイプTypeD(試験片サイズ:直径28mm、厚さ3mm、主電極の直径13mm)を使用した。100kHzでのインピーダンスから100Hzでのインピーダンスを除した値を100kHzでのインピーダンス変化率とし、1MHzでのインピーダンスから100Hzでのインピーダンスを除した値を100kHzでのインピーダンス変化率とした。
結果を表2に示す。
【0104】
【0105】
実施例1および実施例2の複合導電性部材は、実験例1および比較例1の複合導電性部材に比べて、インピーダンス変化率が小さかった。これは、実施例1および実施例2の複合導電性部材は、実験例1および比較例1の複合導電性部材に比べて、複合導電性部材を構成する導電性粒子のフェレー径が小さいためである。
また、実施例1の複合導電性部材のインピーダンス変化率は1以上であり、実施例2の複合導電性部材のインピーダンス変化率は1.9以下であった。これは、実施例2の複合導電性部材のフェレー径のばらつき(D90/D10)が大きいため、導電に寄与しない導電性粒子の割合が増え、複合導電性部材のリアクタンスにコンデンサとして作用する成分が増えたためである。
以上より、本発明は、高周波数においてもインピーダンス変化率が小さく、発熱が抑えられる複合導電性部材であり、本複合導電性部材を用いることで、高周波でも発熱を抑えられる試料保持具として利用することができる。また、載置面に試料保持具を用いることにより、静電チャック装置としても利用することができる。