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特開2022-133200ポリアミドイミド及びその前駆体、ならびにポリアミドイミドフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133200
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】ポリアミドイミド及びその前駆体、ならびにポリアミドイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/14 20060101AFI20220906BHJP
【FI】
C08G73/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021032168
(22)【出願日】2021-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119079
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 佐保子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 佳純
(72)【発明者】
【氏名】福田 斉二郎
【テーマコード(参考)】
4J043
【Fターム(参考)】
4J043PA09
4J043PA19
4J043PC145
4J043PC146
4J043QB15
4J043QB23
4J043QB26
4J043QB31
4J043QB33
4J043RA06
4J043RA35
4J043SA06
4J043SA54
4J043SA63
4J043SB03
4J043TA14
4J043TA47
4J043TA70
4J043TA71
4J043TB01
4J043UA022
4J043UA042
4J043UA122
4J043UA131
4J043UA132
4J043UA141
4J043UB062
4J043UB161
4J043UB221
4J043UB301
4J043UB401
4J043UB402
4J043VA021
4J043VA041
4J043VA042
4J043XA16
4J043YA08
4J043YA25
4J043ZA31
4J043ZA32
4J043ZB11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高硬度であり、かつ高強度であるポリアミドイミド及びその前駆体を提供する。
【解決手段】ジアミン残基、酸二無水物残基及びジカルボン酸化合物残基を含むポリアミドイミド又はその前駆体であって、ジアミン残基が、式(1)で示されるジアミンから誘導される残基を含み、酸二無水物残基が、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物から誘導される残基を含む、ポリアミドイミド又はその前駆体。

(式(1)中、R~Rのいずれかが、炭素数6~10の芳香族基、炭素数6~10のフェノキシ基、炭素数6~10のベンジル基及び炭素数6~10のベンジルオキシ基から選択され、それ以外のR~Rが水素原子である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミン残基、酸二無水物残基及びジカルボン酸化合物残基を含むポリアミドイミド又はその前駆体であって、
ジアミン残基が、式(1):
【化1】
(式(1)中、R~Rのいずれかが、炭素数6~10の芳香族基、炭素数6~10のフェノキシ基、炭素数6~10のベンジル基及び炭素数6~10のベンジルオキシ基から選択され、それ以外のR~Rが水素原子である。)で示されるジアミンから誘導される残基を含み、
酸二無水物残基が、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物から誘導される残基を含む、ポリアミドイミド又はその前駆体。
【請求項2】
ジアミン残基に占める、式(1)で示されるジアミンから誘導される残基の割合が、50モル%以上である、請求項1記載のポリアミドイミド又はその前駆体。
【請求項3】
酸二無水物残基に占める、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物の割合が、50モル%以上である、請求項1又は2記載のポリアミドイミド又はその前駆体。
【請求項4】
酸二無水物残基及びジカルボン酸化合物残基の合計に占める、ジカルボン酸化合物残基の割合が、20モル%以上90モル%以下である、請求項1~3のいずれか一項記載のポリアミドイミド又はその前駆体。
【請求項5】
ジアミン残基が、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン及び4,4’-ジアミノベンズアニリドからなる群より選択されるジアミンから誘導される残基を含む、請求項1~4のいずれか一項記載のポリアミドイミド又はその前駆体。
【請求項6】
酸二無水物残基が、3,4-オキシジフタル酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物及び4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物からなる群より選択される酸二無水物から誘導される残基を含む、請求項1~5のいずれか一項記載のポリアミドイミド又はその前駆体。
【請求項7】
ジカルボン酸化合物残基が、テレフタル酸、2-フルオロ―テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-オキシビス安息香酸及びこれらの酸クロリドからなる群より選択されるジカルボン酸化合物から誘導される残基を含む、請求項1~6のいずれか一項記載のポリアミドイミド又はその前駆体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項記載のポリアミドイミドを含むポリアミドイミドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドイミド及びその前駆体、ならびにポリアミドイミドフィルム
に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置には、フレキシブル化の要求があり、ガラス基板をプラスチック材料に置き換える試みがなされている。プラスチック材料の中でも、ポリイミドは、耐熱性、絶縁性及び寸法性安定性等において優れた材料であり、ガラス基板の代替材料として研究が進められている。
【0003】
例えば、ポリイミドにアミド結合を導入したポリアミドイミドとすることにより、耐スクラッチ性、機械的物性等の特性を向上させる技術が提案されている(特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-241196号公報
【特許文献2】特表2014-528490号公報
【特許文献3】特開2017-133012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フレキシブルな表示装置のカバーウィンドウやタッチパネルに使用されるプラスチック材料には、高硬度であるとともに、高強度であることが要求され、これらに十分応えるポリアミドイミドが依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ポリアミドイミドのジアミン残基及び酸二無水物残基として、特定の化学構造を有するものを用いることによって、この問題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]ジアミン残基、酸二無水物残基及びジカルボン酸化合物残基を含むポリアミドイミド又はその前駆体であって、
ジアミン残基が、式(1):
【化1】
(式(1)中、R~Rのいずれかが、炭素数6~10の芳香族基、炭素数6~10のフェノキシ基、炭素数6~10のベンジル基及び炭素数6~10のベンジルオキシ基から選択され、それ以外のR~Rが水素原子である。)で示されるジアミンから誘導される残基を含み、
酸二無水物残基が、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物から誘導される残基を含む、ポリアミドイミド又はその前駆体。
[2]ジアミン残基に占める、式(1)で示されるジアミンから誘導される残基の割合が、50モル%以上である、[1]のポリアミドイミド又はその前駆体。
[3]酸二無水物残基に占める、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物の割合が、50モル%以上である、[1]又は[2]のポリアミドイミド又はその前駆体。
[4]酸二無水物残基及びジカルボン酸化合物残基の合計に占める、ジカルボン酸化合物残基の割合が、20モル%以上90モル%以下である、[1]~[3]のいずれかのポリアミドイミド又はその前駆体。
[5]ジアミン残基が、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン及び4,4’-ジアミノベンズアニリドからなる群より選択されるジアミンから誘導される残基を含む、[1]~[4]のいずれかのポリアミドイミド又はその前駆体。
[6]酸二無水物残基が、3,4-オキシジフタル酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物及び4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物からなる群より選択される酸二無水物から誘導される残基を含む、[1]~[5]のいずれかのポリアミドイミド又はその前駆体。
[7]ジカルボン酸化合物残基が、テレフタル酸、2-フルオロ―テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-オキシビス安息香酸及びこれらの酸クロリドからなる群より選択されるジカルボン酸化合物から誘導される残基を含む、[1]~[6]のいずれかのポリアミドイミド又はその前駆体。
[8][1]~[7]のいずれかのポリアミドイミドを含むポリアミドイミドフィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高硬度であり、かつ高強度であるポリアミドイミドが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明はポリアミドイミド及びその前駆体、ならびにポリアミドイミドを含むポリイミドフィルムに関する。ポリアミドイミドは、ジアミン、酸二無水物及びジカルボン酸化合物を重合することにより得られるポリアミドイミドであって、ジアミンから誘導されるジアミン残基、酸二無水物から誘導される酸二無水物残基及びジカルボン酸化合物から誘導されるジカルボン酸化合物残基を有する。ポリアミドイミドの前駆体は、ポリアミック酸であり、ジアミンから誘導されるジアミン残基、酸二無水物から誘導される酸二無水物残基及びジカルボン酸化合物から誘導されるジカルボン酸化合物残基を有する。
【0010】
<ジアミン>
本発明のポリアミドイミド前駆体又はポリアミドイミドは、ジアミン残基として、式(1):
【化2】
(ここで、R~Rのいずれかが、炭素原子数6~10の芳香族基、炭素原子数6~10のフェノキシ基、炭素原子数6~10のベンジル基及び炭素原子数6~10のベンジルオキシ基から選択され、それ以外のR~Rが水素原子である。)で示されるジアミンから誘導される残基(「式(1)のジアミン残基」ともいう)を含む。
【0011】
<<式(1)で示されるジアミン>>
式(1)で示されるジアミンは、エステル結合で連結されるベンゼン環2つの一方は、アミノ基が結合する以外の位置において非置換であるのに対し、他方のベンゼン環は芳香族基を含有する基によって、少なくとも1つの位置において置換されている。このような構造により、主鎖の剛直性を維持したまま溶媒への可溶性を高められるため、溶液の加工性と塗膜の熱的、機械的特性を両立させることができる。
【0012】
式(1)におけるR~Rは、少なくともいずれか1つが、炭素原子数6~10の芳香族基、炭素原子数6~10のフェノキシ基、炭素原子数6~10のベンジル基又は炭素原子数6~10のベンジルオキシ基であり、それ以外は水素原子である。ここで、芳香族基には、酸素原子、窒素原子や炭素原子を介して主骨格と結合する置換基が含まれる。さらに、芳香族基には、ピロール基等のヘテロ芳香族基が含まれる。芳香族基は、非置換であることが好ましいが、アルキル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子等)、アミノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボキシ基、スルホン酸基等の置換基を1つ又は2以上有していてもよい。
【0013】
~Rの1つ又は2つが上記のいずれか1つ又は2つが芳香族基であることが好ましく、より好ましくはR及び/又はRが芳香族基であり、さらに好ましくはR又はRが芳香族基であり、特に好ましくはRが芳香族基である。
【0014】
炭素原子数6~10の芳香族基としては、フェニル基、トリル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、エチルフェニル基、ジエチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、クロルフェニル基、ブロモフェニル基、メトキシフェニル基、ジメトキシフェニル基、エトキシフェニル基、ジエトキシフェニル基、メトキシベンジル基、ジメトキシベンジル基、エトキシベンジル基、ジエトキシベンジル基、アミノフェニル基、アミノベンジル基、ニトロフェニル基、ニトロベンジル基、シアノフェニル基、シアノベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ビフェニル基及びナフチル基等が挙げられる。
炭素原子数6~10のフェノキシ基としては、メチルフェノキシ基、エチルフェノキシ基、プロピルフェノキシ基、ジメチルフェノキシ基、ジエチルフェノキシ基、メトキシフェノキシ基、エトキシフェノキシ基及びジメトキシフェノキシ基等が挙げられる。
炭素原子数6~10のベンジル基としては、ベンジル基、メチルベンジル基、エチルベンジル基、プロピルベンジル基、ジメチルベンジル基、メトキシベンジル基、エトキシベンジル基及びメトキシベンジル基等が挙げられる。
炭素原子数6~10のベンジルオキシ基としては、メチルベンジルオキシ基としては、ベンジルオキシ基、ベチルベンジルオキシ基、エチルベンジルオキシ基、プロピルベンジルオキシ基、ジメチルベンジルオキシ基、メトキシベンジルオキシ基及びエトキシベンジルオキシ基等が挙げられる。
上記した中でも、透明性という観点からは、炭素原子数6~10の芳香族基がより好ましく、フェニル基、トリル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、エチルフェニル基及びジエチルフェニル基がさらに好ましく、フェニル基が特に好ましい。
【0015】
式(1)のジアミン残基は1種でも、2種以上の任意の比率での組み合わせであってもよい。
【0016】
<<その他のジアミン>>
ジアミン残基は、式(1)のジアミン以外のジアミン化合物(「その他のジアミン」ともいう)から誘導される残基を含むことができる。そのようなジアミン化合物は、特に限定されず、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミンのいずれも使用することができる。
ここで、「芳香族ジアミン」とは、アミノ基が芳香環に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に脂肪族基またはその他の置換基を含んでいてもよい。この芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環およびフルオレン環等が例示されるが、これらに限定されない。中でも、好ましくはベンゼン環である。
また「脂肪族ジアミン」とは、アミノ基が脂肪族基に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に芳香環やその他の置換基を含んでいてもよい。
【0017】
脂肪族ジアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン等の非環式脂肪族ジアミン;1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の環式脂肪族ジアミン等が挙げられる。
【0018】
芳香族ジアミンの具体例としては、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-トルエンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン等の芳香環を1つ有する芳香族ジアミン;4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(3,3‘-DDS)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート(APAB)、4,4’-ジアミノベンズアニリド(DABA)等の芳香環を2つ以上有する芳香族ジアミンが挙げられる。
【0019】
その他のジアミンを用いる場合、ポリアミドイミドフィルムとしての無色透明性、力学的特性の保持や向上の点から、芳香族ジアミンが好ましい。透明性を維持しつつ、力学特性を向上させる点から、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート、4,4’-ジアミノベンズアニリド等が好ましく、力学的特性を維持しつつ、透明性を確保する点から、ビフェニル構造を有する芳香族ジアミン(例えば、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル等)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン等が好ましい。無色透明性を向上しやすい観点から、芳香族環上水素原子の一部又は全てがフルオロ基、トリフルオロメチル基又はトリフルオロメトキシ基で置換されたジアミンが好ましく、そのようなジアミンでビフェニル構造を有するものがより好ましい。
【0020】
その他のジアミン残基が存在する場合、その他のジアミン残基は1種でも、2種以上の任意の比率での組み合わせでもよい。
【0021】
<<ジアミン残基の割合>>
全ジアミン残基に占める、式(1)のジアミン残基の割合は、ポリアミドイミドにおける高硬度と高強度を得る点から、40モル%以上であることが好ましく、より好ましくは50モル%以上である。式(1)のジアミン残基の割合は100モル%であってもよいが、所望の特性に応じて、その他のジアミンから誘導される残基を導入することができる。その他のジアミン残基の全ジアミン残基に占める割合は、合計で、60モル%以下であることが好ましい。
【0022】
例えば、その他のジアミン残基として、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート、4,4’-ジアミノベンズアニリド等から誘導される残基を導入する場合、取り扱い性の点から30モル%以下で導入することができ、導入の効果を十分に得る点からは、5モル%以上20モル%以下が好ましい。
【0023】
その他のジアミン残基として、ビフェニル構造を有する芳香族ジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン等を導入する場合、60モル%以下で導入することができ、導入の効果を十分に得る点からは、20モル%以上50モル%以下が好ましい。
【0024】
<酸二無水物>
本発明のポリアミドイミド前駆体は、酸二無水物残基として、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)から誘導される残基を含む。CBDA残基と式(1)のジアミン残基を導入することにより、ポリアミドイミドにおいて、高い硬度と高い強度が得られる。
【化3】
【0025】
酸二無水物残基は、CBDA以外の酸二無水物(「その他の酸二無水物」ともいう)から誘導される残基を含むことができる。そのような酸二無水物は、特に限定されず、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物のいずれも使用することができる。
【0026】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、環式又は非環式の脂肪族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物とは、脂環式炭化水素構造を有するテトラカルボン酸二無水物であり、例えば、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(HPMDA)、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等のシクロアルカンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物(HBPDA)及びこれらの位置異性体等が挙げられる。
非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられ
る。
【0027】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物、単環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物及び縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0028】
非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、3,4-オキシジフタル酸二無水物(aODPA)、4,4’-オキシジフタル酸二無水物(sODPA)、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(aBPDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(sBPDA)、4,4‘-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸二無水物(BPADA)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、1,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4’-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物等が挙げられる。
単環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0029】
その他の酸二無水物を用いる場合、ポリアミドイミドフィルムとしての強度の観点から芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましく、中でも、ポリアミドイミドフィルムとしての柔軟性と透明性の点から、3,4-オキシジフタル酸二無水物(aODPA)、4,4’-オキシジフタル酸二無水物(sODPA)、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(aBPDA)、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)がより好ましい。
【0030】
全酸二無水物残基に占める、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)残基の割合は、ポリアミドイミドにおける高硬度と高強度を得る点から、30モル%以上であることが好ましく、より好ましくは50モル%以上である。CBDA残基の割合は100モル%であってもよいが、所望の特性に応じて、その他の酸二無水物から誘導される残基を導入することができる。その他の酸二無水物残基の全酸二無水物残基に占める割合は、合計で、70モル%以下であることが好ましい。
【0031】
その他の酸二無水物残基が存在する場合、その他の酸二無水物残基は1種でも、2種以上の任意の比率での組み合わせでもよい。
【0032】
<ジカルボン酸化合物>
本発明のポリアミドイミド前駆体又はポリアミドイミドは、ジカルボン酸化合物残基として、ジカルボン酸化合物からから誘導される残基を含む。ジカルボン酸化合物は、ジカルボン酸及びジカルボン酸誘導体であり、ジカルボン酸誘導体としてはジカルボン酸の酸クロリド、エステル体が挙げられる。
【0033】
ジカルボン酸としては、例えば、1,3-シクロブタンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’-オキシビス安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、3,3’-ビフェニルジカルボン酸、2つのシクロヘキサンカルボン酸又は2つの安息香酸が単結合、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-又はフェニレン基で連結された化合物等の脂環式又は芳香族ジカルボン酸、鎖式炭化水素(好ましくは炭素原子8以下)のジカルボン酸化合物等の鎖式脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。これらの酸クロリド、エステル体等の誘導体もジカルボン酸化合物として使用することができ、中でも、酸クロリドが好ましい。
【0034】
力学的特性及び低粘度化による塗工性向上の観点から、フッ素原子を含有するジカルボン酸化合物が好ましい。例えば、上記で例示したジカルボン酸化合物の脂肪環又は芳香族環上水素原子の一部又は全てが、フッ素原子、トリフルオロメチル基又はトリフルオロメトキシ基で置換された化合物が挙げられる。
【0035】
中でも、テレフタル酸、2-フルオロ-テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-オキシビス安息香酸及びこれらの酸クロリドが好ましい。
【0036】
ジカルボン酸化合物残基は1種でも、2種以上の任意の比率での組み合わせでもよい。
【0037】
<ポリアミドイミド前駆体>
本発明のポリアミドイミド前駆体は、酸二無水物とジアミンとジカルボン酸化合物とを重合させることにより得ることができる。反応に用いるジアミンのモル数と、酸二無水物及びジカルボン酸化合物とのモル数の比(ジアミンのモル数:酸二無水物とジカルボン酸化合物のモル数の合計)は、高分子化の点から、モル比で、0.95:1~1.05:1とすることができ、好ましくは0.97:1~1.03:1である。反応に用いる各成分のモル比は、得られるポリアミドイミド前駆体及び前駆体のイミド化物であるポリアミドイミド中の各成分の残基のモル比に、実質的に相当する。
【0038】
酸二無水物とジアミンとの反応により、式(2):
【化4】
(ここで、Xは酸二無水物残基であり、Yはジアミン残基である)で示されるイミド前駆体構造が形成される。
【0039】
ジアミンとジカルボン酸化合物との反応により、式(3):
【化5】
(ここで、Zはジカルボン酸化合物残基であり、Yはジアミン残基である)で示されるアミド構造が形成される。
【0040】
ポリアミドイミド前駆体は、Xが1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)から誘導される残基:
【化6】
(ここで、*は結合手を示す)である式(2)の構造を含む。
【0041】
ポリアミドイミド前駆体は、Yが式(1)のジアミン残基:
【0042】
【化7】
(ここで、R、R、R及びRは、式(1)におけるR、R、R及びRと同義であり、*は結合手を示す)である式(2)の構造(イミド前駆体構造)及び式(3)の構造(アミド構造)の一方又は両方を含み、好ましくは両方を含む。
【0043】
酸二無水物とジカルボン酸化合物の合計に占める、ジカルボン酸化合物の割合が、40モル%以上90モル%以下であることが好ましく、より好ましくは50モル%以上80モル%以下である。ジカルボン酸化合物の量が上記の範囲とすることにより、剛直な性質を有するイミド構造に加えて、柔軟な性質を有するアミド構造を有し、良好な強靭性を備えるポリアミドイミドを得ることができる。
【0044】
反応は、酸二無水物とジアミンとを反応させた後、得られた反応生成物とジカルボン酸化合物とを反応させることにより段階的に行うことが好ましい。
【0045】
反応は有機溶媒中で行うことができ、有機溶媒は、反応に不活性な有機溶媒であれば、特に限定されない。ポリアミドイミド前駆体の重合溶液をそのままイミド化工程に使用する点からは、有機溶媒は、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、m-クレゾール、γ-ブチロラクトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン等が挙げられ、中でも溶解性の点から、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン等が好ましい。有機溶媒は1種であっても、2種以上の任意の比率の組み合わせであってもよい。
【0046】
反応を段階的に行う場合、各段階の反応を上記の有機溶媒中で行うことが好ましい。有機溶媒中で、酸二無水物とジアミンとを反応させた後、反応溶液中に、さらにジカルボン酸化合物を添加して反応させてもよい。
【0047】
反応の際、反応溶液中の固形分濃度は、反応速度を高める点から、3質量%以上とすることができ、好ましくは5質量%以上であり、また、40質量%以下とすることができ、好ましくは25質量%以下である。
反応温度は、反応速度向上の点から、0℃以上とすることができ、また、100℃以下とすることができる。
反応時間は、反応の完結と作業効率の点から、1時間以上とすることができ、また、10時間以下とすることができ、好ましくは8時間以下である。
反応を段階的に行う場合、各段階の反応を上記の条件下で行うことが好ましい。
【0048】
得られたポリアミドイミド前駆体は、ポリイミドアミドにおける所望の重量平均分子量(Mw)に応じて調整することができる。
【0049】
<ポリアミドイミド>
本発明はまた、上記ポリアミドイミド前駆体のイミド化物であるポリアミドイミドに関する。式(2)の構造(イミド前駆体構造)が閉環することで、式(4):
【化8】
(ここで、Xは酸二無水物残基であり、Yはジアミン残基である)で示される構造が形成される。
【0050】
ポリアミドイミドは、Xが1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)から誘導される残基であり、Yが式(1)のジアミン残基である式(4)のイミド構造を有し、これにより高い硬度と高い強度をポリアミドイミドにもたらすことができる。さらに、ポリアミドイミドは、式(3)のアミド構造を有し、これにより柔軟性が付与され、強靭性をポリアミドにもたらすことができる。
【0051】
ポリアミドイミドは、ポリアミドイミド前駆体を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。イミド化は熱イミド化、還流イミド化であっても、脱水剤を使用する化学イミド化であってもよいが、低温にて閉環反応が進行することで無色透明性が維持され、かつ、分子構造内で部分的な秩序(結晶性)領域が形成し易いことで機械的特性も向上することから、化学イミド化が好ましい。
【0052】
熱イミド化は、ポリアミドイミド前駆体の溶液をキャストし段階的に加熱することにより行うことができ、還流イミド化は、ポリアミドイミド前駆体の溶液にイミド化反応時に生成する水と共沸する共沸溶媒(例えば、トルエン、キシレン等)を添加し、加熱することにより行うことができる。これらのイミド化では反応促進剤を使用してもよい。
【0053】
化学イミド化は、有機溶媒中、縮合剤及び反応促進剤を用いて行うことが好ましい。例えば、有機溶媒中、ポリアミドイミド前駆体を、縮合剤及び反応促進剤を用いてイミド化することができる。
【0054】
有機溶媒は、反応に不活性な有機溶媒であれば、特に限定されない。ポリアミドイミドの重合溶液をそのままイミド化工程に使用する点からは、有機溶媒は、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、m-クレゾール、γ-ブチロラクトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン等が挙げられ、中でも溶解性向上の点から、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン等が好ましい。有機溶媒は1種でも、2種以上の任意の比率の組み合わせでもよい。
【0055】
縮合剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸等の酸無水物、亜リン酸エステル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリブチル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸トリフェニル等の亜リン酸エステル等が挙げられる。副生成物の沸点が低く、除去が容易という観点から、好ましくは、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸であり、より好ましくは無水酢酸である。
縮合剤は、1種であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
縮合剤の使用量は、反応速度向上の点から、酸二無水物に対して、2当量以上とすることができ、4当量以上が好ましく、また、20当量以下とすることができ、10当量以下が好ましい。
【0056】
反応促進剤としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルピペリジン、ピリジン、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、3-エチルピリジン、3,5-ジメチルピリジン、3,5-ジエチルピリジン、イソキノリン、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾールが挙げられ、反応速度向上と無色透明性維持の点から、好ましくはピリジン、3-メチルピリジン、3-エチルピリジン、3,5-ジメチルピリジン、3,5-ジエチルピリジン、イソキノリン、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾールであり、より好ましくはピリジン、3-メチルピリジン、3-エチルピリジン、イソキノリンである。
反応促進剤は、1種であっても、2種以上の任意の比率の組み合わせであってもよい。
反応促進剤の使用量は、反応速度向上と無色透明性維持の点から、酸二無水物に対して、1当量以上とすることができ、2当量以上が好ましく、また、20当量以下とすることができ、10当量以下が好ましい。
【0057】
反応温度は、反応速度向上と無色透明性維持の点から、10℃以上100℃以下とすることができる。
反応時間は、反応完結と作業効率の点から、1時間以上27時間以下とすることができる。
反応雰囲気は、無色透明性維持の点から、窒素雰囲気下で合成することが好ましい。
【0058】
反応により生成したポリアミドイミドは、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組合せた分離手段により単離(分離精製)してもよい。例えば、透明ポリアミドイミド樹脂を含む反応液に、多量のメタノール等のアルコールを加え、樹脂を析出させ、濃縮、濾過、乾燥等を行うことにより単離することができる。
【0059】
反応によるイミド化率は、好ましくは90%以上であり、より好ましくは93%以上であり、さらに好ましくは96%以上である。透明性等の光学的均質性を高めやすい観点からは、イミド化率は高い方が好ましい。また、イミド化率の上限は100%以下である。イミド化率は、イミド構造単位中の酸二無水物残基のモル量の2倍の値に対する、イミド構造単位中のイミド結合のモル量の割合を示し、IR法、NMR法などにより求めることができる。
【0060】
反応により得られるポリアミドイミドの重量平均分子量(Mw)は、良好な硬度及び靭性の点から、50,000以上1,000,000以下が好ましく、80,000以上800,000以下がより好ましく、150,000以上650,000以下がさらに好ましい。ここで、重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)により測定し、ポリスチレン換算により算出された値をいう。
【0061】
本発明のポリアミドイミドは、上記構造を有するものであれば、ポリアミドイミド前駆体のイミド化を経て製造されたものに限定されない。
【0062】
例えば、酸無水物とジアミンとを反応させた後、得られたポリアミック酸である反応生成物をイミド化し、次いでジカルボン酸化合物を反応させて、ポリアミドイミドとすることができる。
酸二無水物、ジアミン、ジカルボン酸化合物の種類及び量は、上記のポリアミドイミド前駆体に関する記載を適用することができる。
酸二無水物とジアミンとの反応条件は、ポリアミドイミド前駆体に関する記載を適用することができる。
ポリアミック酸である反応生成物のイミド化は、熱イミド化、環流イミド化、化学イミド化のいずれでもよいが、化学イミド化が好ましい。イミド化の条件は、ポリアミドイミド前駆体に関する記載を適用することができる。
イミド化した後の反応溶液に、ジカルボン酸化合物を添加して反応させることにより、アミド結合を導入し、ポリアミドイミドとすることができる。
【0063】
<ポリアミドイミドフィルム>
本発明は、上記ポリアミドイミドを含むポリアミドイミドフィルムに関する。
【0064】
本発明のフィルムは、ポリアミドイミドを含む溶液(樹脂ワニス)を支持体上にキャストして、得られた塗膜を乾燥、フィルム化することにより作製することができる。本発明のフィルムはまた、ポリアミドイミド前駆体を含む溶液(樹脂ワニス)を支持体上にキャストして、イミド前駆体構造をイミド化させることにより作製することができる。
【0065】
ポリアミドイミド又はその前駆体を含む溶液(樹脂ワニス)は、有機溶媒にポリアミドイミド又はその前駆体を溶解させることにより得ることができる。有機溶媒としては、ポリアミドイミド又はその前駆体を溶解し得るものであれば特に限定されないが、樹脂ワニスの塗布性や得られるフィルムの透明性等の観点から、エステル基、エーテル基、ケトン基、水酸基、スルホン基及びスルフィニル基からなる群より選択される官能基を有する溶媒が好ましい。有機溶媒は、1種でも、2種以上の任意の比率での組み合わせでもよい。
【0066】
エステル基を有する溶媒としては、エステル系溶媒、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、炭酸ジメチル等が挙げられる。環状エステル基を有する溶媒も使用することができ、例えば、γ-ブチロラクトン(GBL)、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-クロトノラクトン、γ-ヘキサノラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、α-アセチル-γ-ブチロラクトン、δ-ヘキサノラクト
ン等のラクトン系溶媒等が挙げられる。
エーテル基を有する溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジブチルエーテル等が挙げられる。
ケトン基を有する溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒等が挙げられる。
水酸基を有する溶媒としては、例えば、m-クレゾール等のフェノール系溶媒等が挙げられる。
スルホン基を有する溶媒としては、メチルスルホン、エチルフェニルスルホン、ジエチルスルホン、ジフェニルスルホン、スルホラン、ビスフェノールS、ソラプソン、ダプソン、ビスフェノールAポリスルホン、スルホラン等が挙げられる。
スルフィニル基を有する溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド系溶媒等が挙げられる。
上記の溶媒以外に、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等のアミド系溶媒も使用することができる。
【0067】
ポリアミドイミド又はその前駆体を含む溶液(樹脂ワニス)には、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリアミドイミド又はその前駆体以外の任意成分を含むことができ、例えば、ワニスの塗工性を改善するためのレベリング剤、分散剤、界面活性剤、レタデーション調整剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、可塑剤、粘度調整剤、ワックス類、充填剤、顔料、染料、発泡剤、消泡剤、脱水剤、イミド化促進剤、帯電防止剤、抗菌剤、防カビ剤、フィルムの黄色度を低減するためのブルーイング剤等が挙げられる。
【0068】
ポリアミドイミド又はその前駆体を含む溶液(樹脂ワニス)中のポリアミドイミド又はその前駆体の含有量は、溶媒を除く固形分総量に対して65質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。ポリアミドイミドの含有量は、固形分総量に対して100質量%であってもよい。
【0069】
支持体は、特に限定されず、ガラス、セラミック、金属(アルミニウム箔等)、樹脂フィルム(PET、PEN等のポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム等の熱可塑性フィルム等)等の基板やフィルム等が挙げられる。これらの基板やフィルムは、銅等により回路が形成されていてもよい。
【0070】
ポリアミドイミド又はその前駆体を含む溶液(樹脂ワニス)の支持体への塗布方式は、特に限定されず、例えば、ディップコート法、フローコート法、ロールコート法、バーコーター法、ブレードコーター法、スクリーン印刷法、カーテンコート法、スプレーコート法等が挙げられる。
【0071】
ポリアミドイミド又はその前駆体を含む溶液(樹脂ワニス)の塗布厚は、所望のポリアミドイミドフィルムの厚みに応じて、設定することができる。
【0072】
塗膜の乾燥の方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができ、例えば風乾、オーブン又はホットプレートによる加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。
ポリアミドイミドを含む溶液を使用した場合、塗膜を乾燥させることで、ポリアミドイミドフィルムを得ることができる。乾燥の条件は、有機溶媒が揮発する条件であれば特に限定されないが、透明性に優れるフィルムを得る観点からは、60℃以上300℃以下で10分以上3時間以下の条件であることが好ましい。
【0073】
ポリアミドイミド前駆体を含む溶液(樹脂ワニス)を使用した場合、乾燥後の塗膜を熱処理することでポリアミドフィルムとすることができる。乾燥及び熱処理の条件は特に限定されず、例えば50℃以上150℃以下で塗膜を乾燥させた後、200℃以上500℃以下で熱処理を行うことができる。
【0074】
本発明のフィルムの厚みは、特に限定されず、用途に応じて適宜、設定することができる。厚みは5μm以上150μm以下が好ましく、10μm以上120μm以下がより好ましい。
【0075】
本発明のフィルムは、高硬度と高強度を兼ね備える点で優れている。
高硬度としては、6.5GPa以上の引張弾性率が挙げられ、好ましくは8.0GPa以上の引張弾性率をフィルムが有することである。
高強度としては、250MPa以上の引張強度が挙げられ、好ましくは300MPa以上の引張強度をフィルムが有することである。
【0076】
さらに、本発明によれば、強靭性を有するフィルムを得ることができる。強靭性としては、5%以上の破断伸びが挙げられ、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上の破断伸びをフィルムが有することである。
また、本発明によれば、低い黄色度のフィルムを得ることができる。例えば、ジアミン残基の少なくともいずれかにフッ素原子を有するものを使用することによって、7未満のイエローインデックスを実現することができ、より好ましくは5未満のイエローインデックス、さらに好ましくは3未満のイエローインデックスを実現することができる。
【0077】
引張弾性率、引張強度、破断伸び、イエローインデックスは、後述の実施例の測定方法により測定することができる。
【0078】
<用途>
本発明のフィルムは、ガラス代替材料として、種々の部材のカバーフィルム、ベースフィルム等に用いることができる。
ディスプレイ用部材としては、例えば、フォルダブルタイプの有機ELディスプレイ、スマートフォンや腕時計型端末等の携帯端末、自動車内部の表示装置、腕時計等が挙げられ、本発明のフィルムは、これら部材のフレキシブルパネル等に用いることができる。
さらに、本発明のフィルムは、液晶表示装置、有機EL表示装置等の画像表示装置用部材、タッチパネル用部材、フレキシブルプリント基板、太陽電池パネル用部材、光導波路用部材、その他半導体関連部材等においても使用することができる。
中でも、本発明のフィルムは、フォルダブルタイプの有機ELディスプレイを構成するカバーウィンドウ、TFT用基板等の部材用途に好適である。
【実施例0079】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0080】
フィルムの評価は以下のようにして行った。
<引張弾性率、引張強度、破断伸び>
フィルムをサンプルカッターでフィルム幅10mmに裁断したものを測定試料として用いた。測定装置として、島津製作所社製「EZ-LX」を用いて、ASTM D882に準拠した測定を行った。掴み具間距離は50mm、試験速度は3mm/minで、1サンプルにつき5~7回測定し、各特性において高い3点の平均値を測定し、以下の基準で評価した。
【0081】
<<引張弾性率>>
◎:引張弾性率が8.0GPa以上
〇:引張弾性率が6.5GPa以上8.0GPa未満
×:引張弾性率が6.5GPa未満
【0082】
<<引張強度>>
◎:引張強度が300MPa以上
〇:引張強度が250MPa以上300MPa未満
×:引張強度が250MPa未満
【0083】
<<破断伸び>>
◎:破断伸びが15%以上
〇:破断伸びが10%以上15%未満
△:破断伸びが5%以上10%未満
×:破断伸びが5%未満
【0084】
<イエローインデックス(YI)>
フィルムをそのまま測定試料として用い、測定装置としてはコニカミノルタ株式会社製の「測色分光計CM-5」を用いて、ASTM E313に準拠した測定を行うことにより求めた。
【0085】
実施例及び比較例で使用した成分の化学構造及び略称は以下のとおりである。
【化9】
【0086】
[実施例1]
100mLの反応器に、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)66.9gを充填し、PHBAAB 4.395g(14.44mmol)を加え、攪拌して溶解させた。次いで、CBDA 1.214g(6.189mmol)を添加後、30℃で2時間攪拌することでイミド前駆体構造を有する重合体の溶液を得た。その後、2FTPC 1.824g(8.252mmol)を添加し、1.5時間攪拌することで、イミド前駆体構造とアミド構造を有する共重合体の溶液を得た。
その後、ピリジン 1.96g及び無水酢酸 2.53gを投入して20~30℃で8時間撹拌することで、ポリアミドイミド溶液を得た。さらに、DMAcを68.6g加えて均一になるまで撹拌した後、この溶液をメタノール4L入りの容器に徐々に投入して沈殿させた。沈殿した固形分を濾過して粉砕し、真空条件下80℃で18時間乾燥させ、ポリアミドイミドを7.8gの粉末として得た。GPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は180,000であった。
【0087】
得られた粉末状のポリアミドイミド5.0gをDMAc 45gに溶解させて樹脂ワニスを調製した。次いで、テーブルコーター(コーテック社製 AFA-standard)を用いて、乾燥後のフィルム厚が50μmとなるようにガラス板上にワニスを塗布し、イナートガスオーブン(ヤマト科学社製 INL-45N1)で70℃1時間、続いて250℃1時間の条件で乾燥させ、ガラス板より剥離することによりポリアミドイミドフィルムを作製し、各評価を行った。
【0088】
[実施例2~7、比較例3~4]
表1に示される種類及び量のジアミン、酸二無水物、ジカルボン酸化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~7、比較例3~4のポリアミドイミドフィルムを作製し、各評価を行った。
【0089】
[比較例1]
100mLの反応器にDMAc 22.3gを充填し、PHBAAB 3.044g(10.00mmol)を加え、攪拌して溶解させた。次いで、6FDA 4.442g(10.00mmol)を添加後、室温で16時間攪拌することでイミド前駆体構造を有する重合体の溶液を得た。
この溶液にDMAc 38.3gを加えて希釈した後、ピリジン 2.94gおよび無水酢酸 3.80gを投入して20~30℃で8時間撹拌することで、ポリイミド溶液を得た。さらに、DMAc 74.9gを加えて均一になるまで撹拌した後、この溶液をメタノール4L入りの容器に徐々に投入して沈殿させた。沈殿した固形分を濾過して粉砕し、真空条件下80℃で18時間乾燥させ、ポリイミドを6.4gの粉末として得た。GPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量は71,000であった。
実施例1と同様にして、ポリイミドフィルムを作製した。
【0090】
[比較例2]
表1に示される種類及び量のジアミン及び酸二無水物を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、比較例2のポリイミドフィルムを作製し、各評価を行った。
【0091】
【表1】
【0092】
実施例の各フィルムは、引張弾性率及び引張強度が良好で、高い硬度と高い強度を有することがわかる。中でも、実施例4では、一層優れた力学的特性(硬度及び強度)が付与されており、実施例6では、透明性を維持しつつ一層優れた力学的特性が付与されており、実施例7は極めて良好な透明性を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、高硬度であり、かつ高強度であるポリアミドイミドを提供することができ、産業上の有用性が高い。