(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133367
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20220906BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220906BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106968
(22)【出願日】2022-07-01
(62)【分割の表示】P 2017175657の分割
【原出願日】2017-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592197418
【氏名又は名称】株式会社田中化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(74)【代理人】
【識別番号】100214215
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼梨 航
(72)【発明者】
【氏名】秋山 雄大
(72)【発明者】
【氏名】中尾 公保
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮太
(57)【要約】
【課題】固定床方式であって、焼成効率が高いリチウム二次電池用正極活物質の製造方法の提供。
【解決手段】粉体混合物の供給方向を基準とし、加熱設備の中央部から粉体混合物が加熱設備から出る出口までの領域における、加熱設備の外部から加熱設備の内部に供給するガスの量が、加熱設備の中央部から粉体混合物が加熱設備に入る入口までの領域における、加熱設備の外部から加熱設備の内部に供給するガスの量よりも多く、かつ、加熱設備の中央部から粉体混合物が加熱設備に入る入口までの領域における、加熱設備の内部から加熱設備の外部に排気するガスの量が、加熱設備の中央部から粉体混合物が加熱設備から出る出口までの領域における、加熱設備の内部から加熱設備の外部に排気するガスの量よりも多いことを特徴とする、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定床方式の加熱設備内において、リチウム化合物及び正極活物質前駆体を含む粉体混合物を、搬送しながら連続的に焼成する焼成工程を含むリチウム二次電池用正極活物質の製造方法であって、
前記粉体混合物の供給方向を基準とし、
前記加熱設備の中央部から前記粉体混合物が加熱設備から出る出口までの領域における、前記加熱設備の外部から前記加熱設備の内部に供給するガスの量が、前記加熱設備の中央部から前記粉体混合物が加熱設備に入る入口までの領域における、前記加熱設備の外部から前記加熱設備の内部に供給するガスの量よりも多く、かつ、前記加熱設備の中央部から前記粉体混合物が加熱設備に入る入口までの領域における、前記加熱設備の内部から前記加熱設備の外部に排気するガスの量が、前記加熱設備の中央部から前記粉体混合物が加熱設備から出る出口までの領域における、前記加熱設備の内部から前記加熱設備の外部に排気するガスの量よりも多いことを特徴とする、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記加熱設備は、前記粉体混合物の出口近傍にガスの全量を供給する少なくとも1つ以上のガス供給口を備え、前記粉体混合物の入口近傍に、供給されたガスおよび焼成によって発生するガスの全量を排気する少なくとも1つ以上のガス排気口を備えている、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記焼成工程は、前記粉体混合物にガスを向流接触させる、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記焼成工程は、前記ガスの全量を前記ガス供給口から供給する、請求項2又は3に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記リチウム二次電池用正極活物質が、下記組成式(I)で表される、請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
Li[Lix(Ni(1-y-z-w)CoyMnzMw)1-x]O2 ・・・(I)(組成式(I)中、-0.1≦x≦0.2、0<y≦0.5、0≦z≦0.8、0≦w≦0.1、1-y-z-w<1、y+z+w<1、MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表す。)
【請求項6】
前記粉体混合物の供給速度(kg/min)に対するガス供給速度(Nm3/min)の比が、0.5Nm3/kg以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記加熱設備の内部に供給するガスに含まれる酸素濃度が20体積%以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記焼成工程を、500℃以上1100℃以下で行う、請求項1~7のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記加熱設備がローラーハースキルンである、請求項1~8のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項10】
加熱設備の外部に排気されるガスに含まれる二酸化炭素濃度が20体積%以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム金属複合酸化物は、リチウム二次電池用正極活物質として用いられている。リチウム二次電池は、既に携帯電話用途やノートパソコン用途などの小型電源だけでなく、自動車用途や電力貯蔵用途などの中・大型電源においても、実用化が進んでいる。
【0003】
リチウム金属複合酸化物の製造方法は、一般的に、原料のリチウム化合物と、正極活物質前駆体とを混合する混合工程と、得られた混合物を焼成する焼成工程とを有する。正極活物質の製造方法における焼成工程には、一般的に、ローラーハースキルン等の固定床の搬送方式が用いられる。固定床方式の場合、被焼成物を容器に充填し、搬送することで連続的に焼成することができる。そのため、設備が簡便であり、かつ接粉部材質を選定する上での制約が少ないため、例えば800℃以上の高温で焼成できるという利点もある。
【0004】
焼成工程の焼成条件は、正極活物質の結晶成長に大きく影響を与える。このため、焼成条件を制御することはリチウム二次電池用正極材料を用いた電池の電池特性を向上させるためには重要である。
特許文献1には、リチウムと遷移金属を主体とする複合酸化物の製造方法において、リチウム化合物と遷移金属を主体とする混合粉体中に、加熱した空気若しくは酸素または酸素と窒素の混合ガスのいずれかを強制通気させながら焼成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
固定床方式の加熱設備には上述のような長所があるものの、ロータリーキルン等の流動方式の加熱設備に比べて焼成効率が低いという課題があった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、固定床方式の加熱設備を用いる場合であって、焼成効率が高いリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、下記[1]~[10]の発明を包含する。
[1]固定床方式の加熱設備内において、リチウム化合物及び正極活物質前駆体を含む粉体混合物を、搬送しながら連続的に焼成する焼成工程を含むリチウム二次電池用正極活物質の製造方法であって、前記粉体混合物の供給方向を基準とし、前記加熱設備の中央部から前記粉体混合物が加熱設備から出る出口までの領域における、前記加熱設備の外部から前記加熱設備の内部に供給するガスの量が、前記加熱設備の中央部から前記粉体混合物が加熱設備に入る入口までの領域における、前記加熱設備の外部から前記加熱設備の内部に供給するガスの量よりも多く、かつ、前記加熱設備の中央部から前記粉体混合物が加熱設備に入る入口までの領域における、前記加熱設備の内部から前記加熱設備の外部に排気するガスの量が、前記加熱設備の中央部から前記粉体混合物が加熱設備から出る出口までの領域における、前記加熱設備の内部から前記加熱設備の外部に排気するガスの量よりも多いことを特徴とする、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[2]前記加熱設備は、前記粉体混合物の出口近傍にガスの全量を供給する少なくとも1つ以上のガス供給口を備え、前記粉体混合物の入口近傍に、供給されたガスおよび焼成によって発生するガスの全量を排気する少なくとも1つ以上のガス排気口を備えている、[1]に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[3]前記焼成工程は、前記粉体混合物にガスを向流接触させる、[1]又は[2]に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[4]前記焼成工程は、前記ガスの全量を前記ガス供給口から供給する、[2]又は[3]に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[5]前記リチウム二次電池用正極活物質が、下記組成式(I)で表される、[1]~[4]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
Li[Lix(Ni(1-y-z-w)CoyMnzMw)1-x]O2 ・・・(I)(組成式(I)中、-0.1≦x≦0.2、0<y≦0.5、0≦z≦0.8、0≦w≦0.1、1-y-z-w<1、y+z+w<1、MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表す。)
[6]前記粉体混合物の供給速度(kg/min)に対するガス供給速度(Nm3/min)の比が、0.5Nm3/kg以上である、[1]~[5]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[7]前記加熱設備の内部に供給するガスに含まれる酸素濃度が20体積%以上である、[1]~[6]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[8]前記焼成工程を、500℃以上1100℃以下で行う、[1]~[7]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[9]前記加熱設備がローラーハースキルンである、[1]~[8]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[10]加熱設備の外部に排気されるガスに含まれる二酸化炭素濃度が20体積%以下である、[1]~[9]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、固定床方式の加熱設備を用いる場合であって、焼成効率が高いリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】リチウムイオン二次電池の一例を示す概略構成図である。
【
図2】本実施形態の焼成工程で用いる加熱設備の一例を示す概略図である。
【
図3】従来のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法の焼成工程に用いる加熱設備の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<リチウム二次電池用正極活物質の製造方法>
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、固定床方式の加熱設備内において、リチウム化合物及び正極活物質前駆体を含む粉体混合物を、搬送しながら連続的に焼成する焼成工程を含むリチウム二次電池用正極活物質の製造方法であって、前記粉体混合物の供給方向を基準とし、前記加熱設備の中央部から前記粉体混合物が加熱設備から出る出口までの領域における、前記加熱設備の外部から前記加熱設備の内部に供給するガスの量が、前記加熱設備の中央部から前記粉体混合物が加熱設備に入る入口までの領域における、前記加熱設備の外部から前記加熱設備の内部に供給するガスの量よりも多く、かつ、前記加熱設備の中央部から前記粉体混合物が加熱設備に入る入口までの領域における、前記加熱設備の内部から前記加熱設備の外部に排気するガスの量が、前記加熱設備の中央部から前記粉体混合物が加熱設備から出る出口までの領域における、前記加熱設備の内部から前記加熱設備の外部に排気するガスの量よりも多いことを特徴とする。
【0011】
本実施形態においては、焼成工程を必須工程とし、正極活物質前駆体製造工程、混合工程、焼成工程をこの順で有することが好ましい。
以下、各工程について説明する。
【0012】
≪正極活物質前駆体製造工程≫
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法において、まず、リチウム以外の金属、すなわち、Ni及びCoから構成される必須金属、並びに、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVのうちいずれか1種以上の任意金属を含む金属複合化合物(以下、「正極活物質前駆体」と記載する場合がある)を調製することが好ましい。
その後、当該正極活物質前駆体を適当なリチウム化合物と混合し、焼成することが好ましい。正極活物質前駆体としては、金属複合水酸化物又は金属複合酸化物が好ましい。以下に、正極活物質前駆体の製造方法の一例を説明する。
【0013】
(正極活物質前駆体の製造工程)
正極活物質前駆体は、通常公知のバッチ共沈殿法又は連続共沈殿法により製造することが可能である。以下、金属として、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む金属複合水酸化物を例に、その製造方法を詳述する。
【0014】
まず共沈殿法、特に特開2002-201028号公報に記載された連続法により、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液、及び錯化剤を反応させ、NiaCobMnc(OH)2(式中、a+b+c=1)で表される金属複合水酸化物を製造する。
【0015】
上記ニッケル塩溶液の溶質であるニッケル塩としては、特に限定されないが、例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル及び酢酸ニッケルのうちの何れかを使用することができる。上記コバルト塩溶液の溶質であるコバルト塩としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト、及び塩化コバルトのうちの何れかを使用することができる。上記マンガン塩溶液の溶質であるマンガン塩としては、例えば硫酸マンガン、硝酸マンガン、及び塩化マンガンのうちの何れかを使用することができる。以上の金属塩は、上記NiaCobMnc(OH)2の組成比に対応する割合で用いられる。また、溶媒として水が使用される。
【0016】
錯化剤としては、水溶液中で、ニッケル、コバルト、及びマンガンのイオンと錯体を形成可能なものであり、例えばアンモニウムイオン供給体(硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等)、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシンが挙げられる。
【0017】
沈殿に際しては、水溶液のpH値を調整するため、必要ならばアルカリ金属水酸化物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)を添加する。
【0018】
上記ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、及びマンガン塩溶液のほか、錯化剤を反応槽に連続して供給させると、ニッケル、コバルト、及びマンガンが反応し、NiaCobMnc(OH)2が製造される。反応に際しては、反応槽の温度が例えば20℃以上80℃以下が挙げられ、30℃以上70℃以下の範囲内で制御することが好ましい。また、反応槽内のpH値は例えばpH9以上pH13以下が挙げられ、pH11以上pH13以下の範囲内で制御することが好ましい。また、反応槽内の物質は適宜撹拌することが好ましい。反応槽は、形成された反応沈殿物を分離するためオーバーフローさせるタイプのものである。
【0019】
反応槽に供給する金属塩の濃度、攪拌速度、反応温度、反応pH、及び後述する焼成条件等を適宜制御することにより、最終的に得られるリチウム金属複合酸化物を所望の物性に制御することができる。
【0020】
以上の反応後、得られた反応沈殿物を水で洗浄した後、乾燥し、ニッケルコバルトマンガン複合化合物としてのニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を単離する。また、必要に応じて弱酸水や水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを含むアルカリ溶液で洗浄してもよい。なお、上記の例では、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を製造しているが、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を調製してもよい。
【0021】
乾燥条件は、特に制限されない。例えば、金属複合酸化物又は金属複合水酸化物が酸化・還元されない条件(酸化物が酸化物のまま維持される、水酸化物が水酸化物のまま維持される)、金属複合水酸化物が酸化される条件(水酸化物が酸化物に酸化される)、金属複合酸化物が還元される条件(酸化物が水酸化物に還元される)のいずれの条件でもよい。
金属複合水酸化物が酸化・還元がされない条件のためには、窒素、ヘリウム及びアルゴン等の希ガス等の不活性ガスを使用すればよい。
金属複合水酸化物が酸化される条件では、酸素又は空気を雰囲気下として行えばよい。 また、金属複合酸化物が還元される条件としては、不活性ガス雰囲気下、ヒドラジン、亜硫酸ナトリウム等の還元剤を使用すればよい。
【0022】
≪混合工程≫
本実施形態においては、上述の方法により製造した正極活物質前駆体と、リチウム化合物とを混合して粉体混合物を得る。
【0023】
本工程は、上記金属複合酸化物又は金属複合水酸化物を乾燥した後、リチウム化合物と混合する。
リチウム化合物としては、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化リチウム水和物、酸化リチウムのうち何れか一つ、または、二つ以上を混合して使用することができる。
【0024】
金属複合酸化物又は金属複合水酸化物の乾燥後に、適宜分級を行ってもよい。以上のリチウム化合物と金属複合水酸化物とは、最終目的物の組成比を勘案して用いられる。例えば、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を用いる場合、リチウム化合物と当該金属複合水酸化物は、組成(I)の組成比に対応する割合で用いられる。
【0025】
≪焼成工程≫
本実施形態は、前記混合工程で得られた粉体混合物を焼成する焼成工程を有する。正極活物質前駆体及びリチウム化合物の粉体混合物を焼成することによって、リチウム二次電池用正極活物質が得られる。焼成工程は加熱設備を用いて行う。本実施形態においては固定床方式の加熱設備を用いる。なお、上記の焼成の前に、仮焼成を行うことも有効である。
【0026】
図2は、本実施形態の焼成工程で用いる加熱設備の一例の加熱設備20を示す概略図である。
加熱設備20は、一方向に延在する焼成炉28と、焼成炉28内において鞘22を一方向に搬送する不図示のローラーと、を有する。
焼成炉28の入口27には、第1置換室23aが設けられ、出口24には、第2置換室23bが設けられている。
【0027】
鞘22に充填された粉体混合物は、まず第1置換室23aに搬入される。鞘22の搬入時、第1置換室23aの焼成炉28との間は、可動壁(不図示)により仕切られている。第1置換室23aでは、内部の気体を焼成炉28内の雰囲気に置換した後に、可動壁を動かして焼成炉28の内部と接続される。これにより、焼成炉28内への外気の持ち込みを低減している。
【0028】
焼成炉28は、鞘22の供給方向R1にわたって、独立に1又は複数のゾーン29を備える。焼成炉28の各ゾーン29は、それぞれ独立に温度制御が可能である。鞘22に充填された粉体混合物は、各ゾーン29を通過する間に焼成処理がされる。
【0029】
焼成炉28を通過した鞘22は、第2置換室23bに搬入される。第2置換室23bでは、鞘22の搬入後、第2置換室23bと焼成炉28との間を、不図示の可動壁により仕切った後、外部に接続される。
【0030】
本実施形態においては、粉体混合物の供給方向R1を基準とし、加熱設備20の中央部から粉体混合物が加熱設備から出る出口までの領域における、加熱設備外部から加熱設備内部に供給するガスの量が、加熱設備20の中央部から粉体混合物が加熱設備に入る入口までの領域における、加熱設備20外部から加熱設備内部に供給するガスの量よりも多い。かつ、加熱設備20の中央部から粉体混合物が加熱設備に入る入口までの領域における、加熱設備20内部から加熱設備20外部に排気するガスの量が、加熱設備20の中央部から粉体混合物が加熱設備から出る出口までの領域における、加熱設備20内部から加熱設備20外部に排気するガスの量よりも多い。つまり、粉体混合物の出口近傍から入口近傍に向かって一方向にガスを供給しながら焼成工程を実施する。
【0031】
本実施形態において、「粉体混合物が加熱設備に入る入口」とは、第1置換室の入口ではなく、焼成炉の入口を意味する。以下、「粉体混合物が加熱設備に入る入口」を「粉体混合物の入口」と記載する場合がある。
本実施形態において、「粉体混合物が加熱設備から出る出口」とは、第2置換室の出口ではなく、焼成炉の出口を意味する。以下、「粉体混合物が加熱設備から出る出口」を「粉体混合物の出口」と記載する場合がある。
本実施形態において、「加熱設備の中央部」とは、焼成炉の全長Lを100としたときに、焼成炉の入口側から40%~60%の割合を占める領域を意味する。
本実施形態において、「入口近傍」とは、焼成炉の全長Lを100としたときに、焼成炉の入口側から0%~30%の割合を占める領域を意味する。
本実施形態において、「出口近傍」とは、焼成炉の全長Lを100としたときに、焼成炉の入口側から70%~100%の割合を占める領域を意味する。
本実施形態において、「向流接触」とは、粉体混合物の供給方向とは逆向きに(対向に)ガスを粉体混合物に接触させることを意味する。
【0032】
本実施形態において好適に使用される加熱設備20は、粉体混合物の供給方向R1を基準とし、入口近傍に1つ以上のガス排気口26を備えていてもよい。また、出口近傍に1つ以上のガス供給口25を備えていてもよい。本実施形態の好ましい態様においては、加熱設備20は、粉体混合物の供給方向R1を基準とし、入口近傍に供給されたガスおよび焼成によって発生するガスの全量を排気する1つのガス排気口26を備え、出口近傍にガスの全量を供給する1つのガス供給口25を備える。このようにガス排気口及びガス供給口を配置することにより、ガス供給口25から符号25a示す方向にガスが供給され、ガス排気口26から符号26aに示す方向にガスが排気され、粉体混合物の出口近傍から入口近傍に向かって一方向にガスを供給することができる。
【0033】
図3に、従来の加熱設備30の一例の概略断面図を示す。従来の加熱設備30は、入口37から出口34までの間に等間隔にガス供給口35とガス排気口36とを備えている。鞘32に充填された被焼成物は、加熱設備30内に入り、置換室33aを経由して入口37から焼成炉内に入る。その後、出口34から焼成炉外に出て、置換室33bを経由して加熱設備の外に出る。
本実施形態において、加熱設備は粉体混合物の出口近傍から入口近傍に向かって一方向にガスを供給することができればよい。このため入口37から出口34までの間に等間隔に設けられた既設のガス供給口35とガス排気口36のうち、加熱設備の中央部のガス供給口とガス排気口とを封鎖する等、設定を変更することによっても実施できる。
【0034】
本実施形態においては、ガス供給口25は焼成炉28の全長を100とした場合に、入口側から70%以上99%以下の範囲に設けることが好ましく、75%以上95%以下の範囲に設けることがより好ましい。
さらに、本発明のある態様においては、ガス排気口26は焼成炉28の全長を100とした場合に、入口側から1%以上30%以下の範囲に設けることが好ましく、5%以上15%以下の範囲に設けることがより好ましい。
【0035】
焼成工程は、乾燥空気、酸素、等のガスを供給しながら連続的に行う。また、供給するガスの酸素濃度を調整するために、窒素等の不活性ガスを混合したガスを供給しても良い。本実施形態においては、前記粉体混合物にガスを向流接触させることができる。向流方式でガスを接触させることにより、出口近傍の気相部の二酸化炭素濃度を低くし、酸素濃度を高めることができる。これにより、粉体混合物に接触する酸素量が増加し、焼成効率が高いリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供することができる。本実施形態において、加熱設備20は、ローラーハースキルンであることが好ましい。
本明細書において「焼成効率が高い」とは、製造されるリチウム二次電池用正極活物質に含まれる残留炭酸リチウム量が低いことを意味する。
【0036】
本実施形態において、前記粉体混合物の供給速度(kg/min)に対するガス供給速度(Nm3/min)の比が、0.5Nm3/kg以上であることが好ましく、0.75Nm3/kg以上がより好ましく、1.0Nm3/kg以上が特に好ましい。上限値は特に限定されず、一例を挙げると、2.5Nm3/kg以下、2.4Nm3/kg以下、2.3Nm3/kg以下である。
上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
【0037】
本実施形態においては、前記加熱設備内部に供給するガスに含まれる酸素濃度が20体積%以上であることが好ましく、40体積%以上がより好ましく、60体積%以上が特に好ましい。上限値は特に限定されず、一例を挙げると、99体積%以下、98体積%以下、97体積%以下である。
上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
【0038】
本実施形態においては、前記ガス排気口から排気されるガスに含まれる二酸化炭素濃度が20体積%以下であることが好ましく、10体積%以下がより好ましく、5体積%以下が特に好ましい。
排ガス中の二酸化炭素濃度は低い方が好ましく、下限値としては、例えば0.01体積%以上、0.02体積%以上、0.03体積%以上が挙げられる。
上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
【0039】
本実施形態においては、焼成効率を高める観点から加熱設備内の二酸化炭素濃度は低いことが好ましい。加熱設備内の二酸化炭素濃度は、ガス供給口25から供給するガス量を増加させることによって制御できる。
【0040】
従来の加熱設備30が有する焼成炉38は、各ゾーン39にそれぞれ排気口36と、供給口35が、供給方向R2にわたって等間隔に配置している。この場合、ガスの供給及び排気の方向は符号36aに示す排気方向と、符号35aに示す供給方向となる。そうすると、出口近傍から入口近傍に向かってガスを通気する方法に比べて、出口近傍の気相部の二酸化炭素濃度が高まり、酸素濃度が低くなるため、焼成効率が低下すると推察される。 従来の加熱設備に比べ、本実施形態に用いる加熱設備は、粉体混合物に酸素を向流接触させることができる。このため粉体混合物に接触する酸素量を増加させ、焼成効率をより向上させることができると推察される。
【0041】
焼成温度としては、500℃以上が好ましく、600℃以上がより好ましく、700℃以上が特に好ましい。上限値は1100℃以下が好ましく、1000℃以下がより好ましく、900℃以下が特に好ましい。
上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができるが、本実施形態においては、500℃以上1000℃以下で焼成することが好ましい。
【0042】
焼成時間は、3時間以上50時間以下が好ましい。焼成時間が50時間を超えると、リチウムの揮発によって実質的に電池性能に劣る傾向となる。焼成時間が3時間より少ないと、結晶の発達が悪く、電池性能が悪くなる傾向となる。なお、上記の焼成の前に、仮焼成を行うことも有効である。この様な仮焼成の温度は、300℃以上850℃以下の範囲で、1時間以上10時間以下行うことが好ましい。
【0043】
焼成によって得たリチウム金属複合酸化物は、粉砕後に適宜分級され、リチウム二次電池に適用可能な正極活物質とされる。
【0044】
本実施形態において、製造されるリチウム二次電池用正極活物質は下記組成式(I)で表されることが好ましい。
Li[Lix(Ni(1-y-z-w)CoyMnzMw)1-x]O2 ・・・(I)
(組成式(I)中、-0.1≦x≦0.2、0<y≦0.5、0≦z≦0.8、0≦w≦0.1、1-y-z-w<1、y+z+w<1、MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表す。))
【0045】
サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるxは0を超えることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.02以上であることが特に好ましい。また、初回クーロン効率がより高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるxは0.1以下であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましく、0.06以下であることが特に好ましい。
xの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0046】
また、電池抵抗が低いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるyは0.005以上であることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.05以上であることが特に好ましい。また、熱的安定性が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるyは0.35以下であることがより好ましく、0.33以下であることが特に好ましい。
yの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0047】
また、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるzは0以上であることが好ましく、0.03以上であることがより好ましく、0.1以上であることが特に好ましい。また、高温(例えば60℃環境下)での保存特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるzは0.4以下であることが好ましく、0.38以下であることがより好ましく、0.35以下であることが特に好ましい。
zの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0048】
また、電池抵抗が低いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるwは0を超えることが好ましく、0.0005以上であることがより好ましく、0.001以上であることが特に好ましい。また、高い電流レートにおいて放電容量が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるwは0.09以下であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましく、0.07以下であることが特に好ましい。
wの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0049】
前記組成式(I)におけるMはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表す。
【0050】
また、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、組成式(I)におけるMは、Ti、Mg、Al、W、B、Zrからなる群より選択される1種以上の金属であることが好ましく、熱的安定性が高いリチウム二次電池を得る観点から、Al、W、B、Zrからなる群より選択される1種以上の金属であることがより好ましい。
【0051】
(層状構造)
リチウム二次電池用正極活物質の結晶構造は、層状構造であり、六方晶型の結晶構造又は単斜晶型の結晶構造であることがより好ましい。
【0052】
六方晶型の結晶構造は、P3、P31、P32、R3、P-3、R-3、P312、P321、P3112、P3121、P3212、P3221、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P-31m、P-31c、P-3m1、P-3c1、R-3m、R-3c、P6、P61、P65、P62、P64、P63、P-6、P6/m、P63/m、P622、P6122、P6522、P6222、P6422、P6322、P6mm、P6cc、P63cm、P63mc、P-6m2、P-6c2、P-62m、P-62c、P6/mmm、P6/mcc、P63/mcm、P63/mmcからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0053】
また、単斜晶型の結晶構造は、P2、P21、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P21/m、C2/m、P2/c、P21/c、C2/cからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0054】
これらのうち、放電容量が高いリチウム二次電池を得る観点から、結晶構造は、空間群R-3mに帰属される六方晶型の結晶構造、又はC2/mに帰属される単斜晶型の結晶構造であることが特に好ましい。
【0055】
本発明に用いるリチウム化合物は、炭酸リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム、塩化リチウム、フッ化リチウムのうち何れか一つ、又は、二つ以上を混合して使用することができる。これらの中では、水酸化リチウム及び炭酸リチウムのいずれか一方又は両方が好ましい。
【0056】
<リチウム二次電池>
次いで、リチウム二次電池の構成を説明しながら、本発明のリチウム二次電池用正極活物質を、リチウム二次電池の正極活物質として用いた正極、およびこの正極を有するリチウム二次電池について説明する。
【0057】
本実施形態のリチウム二次電池の一例は、正極および負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0058】
図1は、本実施形態のリチウム二次電池の一例を示す模式図である。本実施形態の円筒型のリチウム二次電池10は、次のようにして製造する。
【0059】
まず、
図1(a)に示すように、帯状を呈する一対のセパレータ1、一端に正極リード21を有する帯状の正極2、および一端に負極リード31を有する帯状の負極3を、セパレータ1、正極2、セパレータ1、負極3の順に積層し、巻回することにより電極群4とする。
【0060】
次いで、
図1(b)に示すように、電池缶5に電極群4および不図示のインシュレーターを収容した後、缶底を封止し、電極群4に電解液6を含浸させ、正極2と負極3との間に電解質を配置する。さらに、電池缶5の上部をトップインシュレーター7および封口体8で封止することで、リチウム二次電池10を製造することができる。
【0061】
電極群4の形状としては、例えば、電極群4を巻回の軸に対して垂直方向に切断したときの断面形状が、円、楕円、長方形、角を丸めた長方形となるような柱状の形状を挙げることができる。
【0062】
また、このような電極群4を有するリチウム二次電池の形状としては、国際電気標準会議(IEC)が定めた電池に対する規格であるIEC60086、又はJIS C 8500で定められる形状を採用することができる。例えば、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0063】
さらに、リチウム二次電池は、上記巻回型の構成に限らず、正極、セパレータ、負極、セパレータの積層構造を繰り返し重ねた積層型の構成であってもよい。積層型のリチウム二次電池としては、いわゆるコイン型電池、ボタン型電池、ペーパー型(又はシート型)電池を例示することができる。
【0064】
以下、各構成について順に説明する。
(正極)
本実施形態の正極は、まず正極活物質、導電材およびバインダーを含む正極合剤を調整し、正極合剤を正極集電体に担持させることで製造することができる。
【0065】
(導電材)
本実施形態の正極が有する導電材としては、炭素材料を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、繊維状炭素材料などを挙げることができる。カーボンブラックは、微粒で表面積が大きいため、少量を正極合剤中に添加することにより正極内部の導電性を高め、充放電効率および出力特性を向上させることができるが、多く入れすぎるとバインダーによる正極合剤と正極集電体との結着力、および正極合剤内部の結着力がいずれも低下し、かえって内部抵抗を増加させる原因となる。
【0066】
正極合剤中の導電材の割合は、正極活物質100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であると好ましい。導電材として黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料を用いる場合には、この割合を下げることも可能である。
【0067】
(バインダー)
本実施形態の正極が有するバインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;を挙げることができる。
【0068】
これらの熱可塑性樹脂は、2種以上を混合して用いてもよい。バインダーとしてフッ素樹脂およびポリオレフィン樹脂を用い、正極合剤全体に対するフッ素樹脂の割合を1質量%以上10質量%以下、ポリオレフィン樹脂の割合を0.1質量%以上2質量%以下とすることによって、正極集電体との密着力および正極合剤内部の結合力がいずれも高い正極合剤を得ることができる。
【0069】
(正極集電体)
本実施形態の正極が有する正極集電体としては、Al、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を用いることができる。なかでも、加工しやすく、安価であるという点でAlを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0070】
正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、正極合剤を正極集電体上で加圧成型する方法が挙げられる。また、有機溶媒を用いて正極合剤をペースト化し、得られる正極合剤のペーストを正極集電体の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体に正極合剤を担持させてもよい。
【0071】
正極合剤をペースト化する場合、用いることができる有機溶媒としては、N,N―ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミンなどのアミン系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸メチルなどのエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPということがある。)などのアミド系溶媒;が挙げられる。
【0072】
正極合剤のペーストを正極集電体へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法および静電スプレー法が挙げられる。
【0073】
以上に挙げられた方法により、正極を製造することができる。
(負極)
本実施形態のリチウム二次電池が有する負極は、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能であればよく、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、および負極活物質単独からなる電極を挙げることができる。
【0074】
(負極活物質)
負極が有する負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属又は合金で、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。
【0075】
負極活物質として使用可能な炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維および有機高分子化合物焼成体を挙げることができる。
【0076】
負極活物質として使用可能な酸化物としては、SiO2、SiOなど式SiOx(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;TiO2、TiOなど式TiOx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの酸化物;V2O5、VO2など式VOx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの酸化物;Fe3O4、Fe2O3、FeOなど式FeOx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の酸化物;SnO2、SnOなど式SnOx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;WO3、WO2など一般式WOx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの酸化物;Li4Ti5O12、LiVO2などのリチウムとチタン又はバナジウムとを含有する金属複合酸化物;を挙げることができる。
【0077】
負極活物質として使用可能な硫化物としては、Ti2S3、TiS2、TiSなど式TiSx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの硫化物;V3S4、VS2、VSなど式VSx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの硫化物;Fe3S4、FeS2、FeSなど式FeSx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の硫化物;Mo2S3、MoS2など式MoSx(ここで、xは正の実数)で表されるモリブデンの硫化物;SnS2、SnSなど式SnSx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの硫化物;WS2など式WSx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの硫化物;Sb2S3など式SbSx(ここで、xは正の実数)で表されるアンチモンの硫化物;Se5S3、SeS2、SeSなど式SeSx(ここで、xは正の実数)で表されるセレンの硫化物;を挙げることができる。
【0078】
負極活物質として使用可能な窒化物としては、Li3N、Li3-xAxN(ここで、AはNiおよびCoのいずれか一方又は両方であり、0<x<3である。)などのリチウム含有窒化物を挙げることができる。
【0079】
これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、1種のみ用いてもよく2種以上を併用して用いてもよい。また、これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、結晶質又は非晶質のいずれでもよい。
【0080】
また、負極活物質として使用可能な金属としては、リチウム金属、シリコン金属およびスズ金属などを挙げることができる。
【0081】
負極活物質として使用可能な合金としては、Li-Al、Li-Ni、Li-Si、Li-Sn、Li-Sn-Niなどのリチウム合金;Si-Znなどのシリコン合金;Sn-Mn、Sn-Co、Sn-Ni、Sn-Cu、Sn-Laなどのスズ合金;Cu2Sb、La3Ni2Sn7などの合金;を挙げることもできる。
【0082】
これらの金属や合金は、例えば箔状に加工された後、主に単独で電極として用いられる。
【0083】
上記負極活物質の中では、充電時に未充電状態から満充電状態にかけて負極の電位がほとんど変化しない(電位平坦性がよい)、平均放電電位が低い、繰り返し充放電させたときの容量維持率が高い(サイクル特性がよい)などの理由から、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0084】
前記の負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンおよびポリプロピレンを挙げることができる。
【0085】
(負極集電体)
負極が有する負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を挙げることができる。なかでも、リチウムと合金を作り難く、加工しやすいという点で、Cuを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0086】
このような負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様に、加圧成型による方法、溶媒などを用いてペースト化し負極集電体上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法が挙げられる。
【0087】
(セパレータ)
本実施形態のリチウム二次電池が有するセパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する材料を用いることができる。また、これらの材質を2種以上用いてセパレータを形成してもよいし、これらの材料を積層してセパレータを形成してもよい。
【0088】
本実施形態において、セパレータは、電池使用時(充放電時)に電解質を良好に透過させるため、JIS P 8117で定められるガーレー法による透気抵抗度が、50秒/100cc以上、300秒/100cc以下であることが好ましく、50秒/100cc以上、200秒/100cc以下であることがより好ましい。
【0089】
また、セパレータの空孔率は、好ましくは30体積%以上80体積%以下、より好ましくは40体積%以上70体積%以下である。セパレータは空孔率の異なるセパレータを積層したものであってもよい。
【0090】
(電解液)
本実施形態のリチウム二次電池が有する電解液は、電解質および有機溶媒を含有する。
【0091】
電解液に含まれる電解質としては、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(COCF3)、Li(C4F9SO3)、LiC(SO2CF3)3、Li2B10Cl10、LiBOB(ここで、BOBは、bis(oxalato)borateのことである。)、LiFSI(ここで、FSIはbis(fluorosulfonyl)imideのことである)、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl4などのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。なかでも電解質としては、フッ素を含むLiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2およびLiC(SO2CF3)3からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものを用いることが好ましい。
【0092】
また前記電解液に含まれる有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4-トリフルオロメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、1,2-ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2-ジメトキシエタン、1,3-ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ-ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3-メチル-2-オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3-プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、又はこれらの有機溶媒にさらにフルオロ基を導入したもの(有機溶媒が有する水素原子のうち1以上をフッ素原子で置換したもの)を用いることができる。
【0093】
有機溶媒としては、これらのうちの2種以上を混合して用いることが好ましい。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒および環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒が好ましい。このような混合溶媒を用いた電解液は、動作温度範囲が広く、高い電流レートにおける充放電を行っても劣化し難く、長時間使用しても劣化し難く、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという多くの特長を有する。
【0094】
また、電解液としては、得られるリチウム二次電池の安全性が高まるため、LiPF6などのフッ素を含むリチウム塩およびフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテルなどのフッ素置換基を有するエーテル類とジメチルカーボネートとを含む混合溶媒は、高い電流レートにおける充放電を行っても容量維持率が高いため、さらに好ましい。
【0095】
上記の電解液の代わりに固体電解質を用いてもよい。固体電解質としては、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖又はポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を用いることができる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。またLi2S-SiS2、Li2S-GeS2、Li2S-P2S5、Li2S-B2S3、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-Li2SO4、Li2S-GeS2-P2S5などの硫化物を含む無機系固体電解質が挙げられ、これらの2種以上の混合物を用いてもよい。これら固体電解質を用いることで、リチウム二次電池の安全性をより高めることができることがある。
【0096】
また、本実施形態のリチウム二次電池において、固体電解質を用いる場合には、固体電解質がセパレータの役割を果たす場合もあり、その場合には、セパレータを必要としないこともある。
【0097】
以上のような構成のリチウム二次電池は、上述した本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法により製造されるリチウム二次電池用正極活物質を用いている。このため残留炭酸リチウム等の不純物の含有量が少ないリチウム二次電池を得ることができる。
【実施例0098】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0099】
本実施例においては、リチウム二次電池用正極活物質の評価を次のようにして行った。
【0100】
<組成分析>
後述の方法で製造されるリチウム二次電池用正極活物質粉末の組成分析は、得られたリチウム金属複合酸化物の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000)を用いて行った。
【0101】
<リチウム二次電池用正極活物質中の残存炭酸リチウム定量(中和滴定)>
リチウム二次電池用正極活物質20gと純水100gを100mLビーカーに入れ、5分間撹拌した。撹拌後、リチウム二次電池用正極活物質を濾過し、残った濾液の60gに0.1mol/L塩酸を滴下し、pHメーターにて濾液のpHを測定した。pH=8.3±0.1時の塩酸の滴定量をAmL、pH=4.5±0.1時の塩酸の滴定量をBmLとして、下記の計算式より、リチウム二次電池用正極活物質中に残存する炭酸リチウム濃度を算出した。下記の式中、炭酸リチウムの分子量は、各原子量を、Li;6.941、C;12、O;16、として算出した。
炭酸リチウム濃度(%)=0.1×(B-A)/1000×73.882/(20×60/100)×100
【0102】
<加熱設備>
固定床方式の加熱設備を使用した。具体的には加熱設備は均等間隔に複数の加熱ゾーンを有するローラーハースキルンであり、ガス供給口とガス排気口が各ゾーンにつき、それぞれ1個ずつ設置されている。以下の実施例1~4は、ガスの供給を粉体の搬送方向を基準として焼成炉の全長を100としたときに入口から80%から100%までの領域から全量を供給し、入口から0%から20%までの領域から全量を排気した。粉体混合物にガスを向流接触させた。
以下の比較例1~3は、ガスの供給及び排気を全てのゾーンから行い、ガスの供給量は全てのゾーンで均等にした。
【0103】
(実施例1)
[混合工程]
炭酸リチウム(Li2CO3)とニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物(Ni0.55Co0.21Mn0.24(OH)2)とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.07となるように秤量して混合し、混合粉を得た。
【0104】
[仮焼成工程]
次いで、該粉体混合物を760℃で3時間焼成を行った。
【0105】
[本焼成工程]
続いて、仮焼成工程で得られた焼成物を該ローラーハースキルンに入れ、酸素を90体積%含むガスを、粉体混合物の供給速度(kg/min)に対するガス供給速度(Nm3/min)の比が、1.61Nm3/kgとなるようにガス供給口から通気しながら、850℃で5時間焼成を行った。
加熱設備外部に排気されるガスに含まれる二酸化炭素濃度は、0.26体積%であった。
【0106】
その後、室温まで冷却し、これを解砕して、リチウム二次電池用正極活物質1を得た。リチウム二次電池用正極活物質1の組成分析を行い、一般式(I)に対応させたところ、x=0.03、y=0.210、z=0.240、w=0.00であった。
また、残留炭酸リチウム量は0.12質量%であった。
【0107】
(実施例2)
[混合工程及び仮焼成工程]
混合工程及び仮焼成工程は、前記実施例1と同様の方法により行った。
【0108】
[本焼成工程]
続いて、仮焼成工程で得られた焼成物を該ローラーハースキルンに入れ、870℃で5時間焼成を行った以外は実施例1と同等とした。
加熱設備外部に排気されるガスに含まれる二酸化炭素濃度は、0.27体積%であった。
【0109】
その後、室温まで冷却し、これを解砕して、リチウム二次電池用正極活物質2を得た。リチウム二次電池用正極活物質2の組成分析を行い、一般式(I)に対応させたところ、x=0.04、y=0.210、z=0.241、w=0.00であった。
また、残留炭酸リチウム量は0.09質量%であった。
【0110】
(実施例3)
[混合工程及び仮焼成工程]
混合工程及び仮焼成工程は、前記実施例1と同様の方法により行った。
【0111】
[本焼成工程]
続いて、仮焼成工程で得られた焼成物を該ローラーハースキルンに入れ、酸素を90体積%含むガスを、粉体混合物の供給速度(kg/min)に対するガス供給速度(Nm3/min)の比が、1.14Nm3/kgとなるようにガス供給口から通気しながら、焼成を行った以外は実施例2と同等とした。
加熱設備外部に排気されるガスに含まれる二酸化炭素濃度は、0.27体積%であった。
【0112】
その後、室温まで冷却し、これを解砕して、リチウム二次電池用正極活物質3を得た。リチウム二次電池用正極活物質3の組成分析を行い、一般式(I)に対応させたところ、x=0.03、y=0.210、z=0.242、w=0.00であった。
また、残留炭酸リチウム量は0.11質量%であった。
【0113】
(実施例4)
[混合工程]
炭酸リチウム(Li2CO3)とニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物(Ni0.51Co0.225Mn0.265(OH)2)とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量して混合し、混合粉を得た。
【0114】
[本焼成工程]
続いて、粉体混合物を該ローラーハースキルンに入れ、酸素を90体積%含むガスを、粉体混合物の供給速度(kg/min)に対するガス供給速度(Nm3/min)の比が、1.64Nm3/kgとなるようにガス供給口から通気しながら、870℃で5.6時間焼成を行った。
加熱設備外部に排気されるガスに含まれる二酸化炭素濃度は、4.8体積%であった。
【0115】
その後、室温まで冷却し、これを解砕して、リチウム二次電池用正極活物質4を得た。リチウム二次電池用正極活物質4の組成分析を行い、一般式(I)に対応させたところ、x=0.02、y=0.224、z=0.262、w=0.00であった。
また、残留炭酸リチウム量は0.05質量%であった。
【0116】
(比較例1)
[混合工程及び仮焼成工程]
混合工程及び仮焼成工程は、前記実施例1と同様の方法により行った。
【0117】
[本焼成工程]
続いて、仮焼成工程で得られた焼成物を該ローラーハースキルンに入れ、酸素を90体積%含むガスを、粉体混合物の供給速度(kg/min)に対するガス供給速度(Nm3/min)の比が、1.61Nm3/kgとなるように全てのゾーンのガス供給口から均等に通気した以外は実施例1と同様の条件により行った。
加熱設備外部に排気されるガスに含まれる二酸化炭素濃度は、0.24体積%であった。
【0118】
その後、室温まで冷却し、これを解砕して、リチウム二次電池用正極活物質5を得た。リチウム二次電池用正極活物質5の組成分析を行い、一般式(I)に対応させたところ、x=0.03、y=0.210、z=0.241、w=0.00であった。
また、残留炭酸リチウム量は0.26質量%であった。
【0119】
(比較例2)
[混合工程及び仮焼成工程]
混合工程及び仮焼成工程は、前記実施例1と同様の方法により行った。
【0120】
[本焼成工程]
続いて、仮焼成工程で得られた焼成物を該ローラーハースキルンに入れ、酸素を90体積%含むガスを、粉体混合物の供給速度(kg/min)に対するガス供給速度(Nm3/min)の比が、2.30Nm3/kgとなるように全てのゾーンのガス供給口から均等に通気した以外は実施例1と同様の条件により行った。
加熱設備外部に排気されるガスに含まれる二酸化炭素濃度は、0.25体積%であった。
【0121】
その後、室温まで冷却し、これを解砕して、リチウム二次電池用正極活物質6を得た。リチウム二次電池用正極活物質6の組成分析を行い、一般式(I)に対応させたところ、x=0.03、y=0.209、z=0.243、w=0.00であった。
また、残留炭酸リチウム量は0.20質量%であった。
【0122】
(比較例3)
[混合工程]
混合工程は、前記実施例4と同様の方法により行った。
【0123】
[本焼成工程]
続いて、粉体混合物を該ローラーハースキルンに入れ、酸素を90体積%含むガスを、粉体混合物の供給速度(kg/min)に対するガス供給速度(Nm3/min)の比が、1.64Nm3/kgとなるように全てのゾーンのガス供給口から均等にガスを通気しながら、870℃で5.6時間焼成を行った。 加熱設備外部に排気されるガスに含まれる二酸化炭素濃度は、4.8体積%であった。
【0124】
その後、室温まで冷却し、これを解砕して、リチウム二次電池用正極活物質7を得た。リチウム二次電池用正極活物質7の組成分析を行い、一般式(I)に対応させたところ、x=0.03、y=0.225、z=0.263、w=0.00であった。
また、残留炭酸リチウム量は0.11質量%であった。
【0125】
下記表1~2に、実施例1~4、比較例1~3の結果等をまとめて記載する。
【0126】
【0127】
【0128】
上記結果に記載の通り、本発明を適用した実施例1~4は、得られたリチウム二次電池用正極活物質中に含まれる残留炭酸リチウムの量が比較例1~3よりも大幅に減少しており、焼成効率が高いことが確認できた。
1…セパレータ、2…正極、3…負極、4…電極群、5…電池缶、6…電解液、7…トップインシュレーター、8…封口体、10…リチウム二次電池、21…正極リード、31…負極リード、20、30…加熱設備、22、32…鞘、23a、23b、33a、33b…置換室、24、34…出口、25、35…ガス供給口、26、36…ガス排気口、27、37…入口、28、38…焼成炉、29、39…ゾーン、R1、R2…供給方向
固定床方式の加熱設備内において、リチウム化合物及び正極活物質前駆体を含む粉体混合物を、搬送しながら連続的に焼成する焼成工程を含むリチウム二次電池用正極活物質の製造方法であって、
前記粉体混合物の供給方向を基準とし、
前記加熱設備の中央部から前記粉体混合物が加熱設備から出る出口までの領域における、前記加熱設備の外部から前記加熱設備の内部に供給するガスの量が、前記加熱設備の中央部から前記粉体混合物が加熱設備に入る入口までの領域における、前記加熱設備の外部から前記加熱設備の内部に供給するガスの量よりも多く、かつ、前記加熱設備の中央部から前記粉体混合物が加熱設備に入る入口までの領域における、前記加熱設備の内部から前記加熱設備の外部に排気するガスの量が、前記加熱設備の中央部から前記粉体混合物が加熱設備から出る出口までの領域における、前記加熱設備の内部から前記加熱設備の外部に排気するガスの量よりも多く、
前記焼成工程は、前記粉体混合物を焼成して前記リチウム二次電池用正極活物質を得る本焼成工程のみからなることを特徴とする、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
前記加熱設備は、前記粉体混合物の出口近傍にガスの全量を供給する少なくとも1つ以上のガス供給口を備え、前記粉体混合物の入口近傍に、供給されたガスおよび焼成によって発生するガスの全量を排気する少なくとも1つ以上のガス排気口を備えている、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。