(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133495
(43)【公開日】2022-09-14
(54)【発明の名称】ジアザポルフィリン錯体
(51)【国際特許分類】
C07D 487/22 20060101AFI20220907BHJP
B01J 31/22 20060101ALI20220907BHJP
C07F 15/06 20060101ALN20220907BHJP
H01M 4/60 20060101ALN20220907BHJP
【FI】
C07D487/22
B01J31/22 M
C07F15/06
H01M4/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021032190
(22)【出願日】2021-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 光紀
(72)【発明者】
【氏名】大泉 淳一
(72)【発明者】
【氏名】水上 潤二
(72)【発明者】
【氏名】俣野 善博
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 悠那
【テーマコード(参考)】
4C050
4G169
4H050
5H050
【Fターム(参考)】
4C050PA11
4G169AA06
4G169AA08
4G169AA11
4G169BA27A
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4G169BE33A
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4G169CC33
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4G169HB10
4G169HE09
4H050AA01
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4H050AB91
4H050WB14
4H050WB21
5H050AA19
5H050BA08
5H050CA19
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】中心金属としてコバルトを有するジアザポルフィリン錯体を提供する。
【解決手段】配位子として置換基を有していてもよいジアザポルフィリン化合物を有し、中心金属としてコバルトを有するジアザポルフィリン錯体により、本発明の課題を解決する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配位子として置換基を有していてもよいジアザポルフィリン化合物を有し、かつ、中心金属としてコバルトを有する、ジアザポルフィリン錯体。
【請求項2】
下記一般式(1)、(1’)又は(1”)で表される、請求項1に記載のジアザポルフィリン錯体。
【化1】
(一般式(1)中、X
1~X
8及びR
1~R
4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、スルホン酸基、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノカルボニル基、アシルオキシ基、又はヘテロアリール基を表し;前記アミノ基、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノカルボニル基、アシルオキシ基、及びヘテロアリール基は、置換基を有していてもよく;Z
n-は、n価のアニオンを表し;nは、1又は2である。)
【請求項3】
前記一般式(1)中、R1及びR3の一方又は両方がメシチル基である、請求項2に記載のジアザポルフィリン錯体。
【請求項4】
置換基を有していてもよいジピリン化合物とコバルト(II)塩との反応によりコバルトに前記ジピリン化合物が二分子配位したジピリン-コバルト錯体を形成し、前記ジピリン-コバルト錯体における前記ジピリン化合物同士を反応させることによりジアザポルフィリン構造を形成する、鋳型環化反応工程を含む、請求項1~3いずれか1項に記載のジアザポルフィリン錯体の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3いずれか1項に記載のジアザポルフィリン錯体を含む、触媒。
【請求項6】
請求項1~3いずれか1項に記載のジアザポルフィリン錯体を含む、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアザポルフィリン錯体に関する。また、前記ジアザポルフィリン錯体の製造方法、並びに該ジアザポルフィリン錯体を含む触媒及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアザポルフィリン化合物の金属錯体は、半導体材料、光記録媒体、電荷輸送材料等として使用し得る化合物として注目されている。
例えば、特許文献1には、ジアザビシクロポルフィリン化合物の銅錯体の半導体膜を有する電界効果トランジスタ(FET)素子や太陽電池が開示されている。
また、非特許文献1には、ジアザポルフィリン化合物のニッケル錯体が、可逆的な酸化還元反応を示すことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 2235-223
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ジアザポルフィリンのコバルト錯体については、酸化還元活性等の特性が知られておらず、その合成方法も確立されていない。
そこで、本発明は、中心金属としてコバルトを有するジアザポルフィリン錯体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、配位子として置換基を有していてもよいジアザポルフィリン化合物を有し、かつ、中心金属としてコバルトを有するジアザポルフィリン錯体を合成し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0007】
[1]
配位子として置換基を有していてもよいジアザポルフィリン化合物を有し、かつ、中心金属としてコバルトを有する、ジアザポルフィリン錯体。
[2]
下記一般式(1)、(1’)又は(1”)で表される、[1]に記載のジアザポルフィリン錯体。
【化1】
(一般式(1)中、X
1~X
8及びR
1~R
4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、スルホン酸基、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノカルボニル基、アシルオキシ基、又はヘテロアリール基を表し;前記アミノ基、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノカルボニル基、アシルオキシ基、及びヘテロアリール基は、置換基を有していてもよく;Z
n-は、n価のアニオンを表し;nは、1又は2である。)
[3]
前記一般式(1)中、R
1及びR
3の一方又は両方がメシチル基である、[2]に記載のジアザポルフィリン錯体。
[4]
置換基を有していてもよいジピリン化合物とコバルト(II)塩との反応によりコバルトに前記ジピリン化合物が二分子配位したジピリン-コバルト錯体を形成し、前記ジピリン-コバルト錯体における前記ジピリン化合物同士を反応させることによりジアザポルフィリン構造を形成する、鋳型環化反応工程を含む、[1]~[3]いずれかに記載のジアザポルフィリン錯体の製造方法。
[5]
[1]~[3]いずれかに記載のジアザポルフィリン錯体を含む、触媒。
[6]
[1]~[3]いずれかに記載のジアザポルフィリン錯体を含む、二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、配位子として置換基を有していてもよいジアザポルフィリン化合物を有し、かつ、中心金属としてコバルトを有するジアザポルフィリン錯体を提供することができる。また、本発明の好適な態様では、可逆的な酸化還元反応を示し、酸化還元反応を繰り返しても酸化還元電位の変動が小さいジアザポルフィリン錯体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1で製造したジアザポルフィリン錯体1”aのサイクリックボルタモグラムである。
【
図2】実施例3で製造したジアザポルフィリン錯体1”bのサイクリックボルタモグラムである。
【
図3】実施例5で製造したジアザポルフィリン錯体1”cのサイクリックボルタモグラムである。
【
図4】実施例6で製造したジアザポルフィリン錯体1”dのサイクリックボルタモグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値または物性値を含む表現として用いるものとする。
【0011】
<1.ジアザポルフィリン錯体>
本発明の一実施形態に係るジアザポルフィリン錯体は、配位子として置換基を有していてもよいジアザポルフィリン化合物を有し、中心金属としてコバルトを有する。本実施形態に係るジアザポルフィリン錯体は、好ましくは下記一般式(1)、(1’)又は(1”)で表される。一般式(1)、(1’)及び(1”)で表されるジアザポルフィリン錯体は、それぞれ、20π電子系、19π電子系及び18π電子系のジアザポルフィリン錯体である(以下、一般式(1)、(1’)及び(1”)で表されるジアザポルフィリン錯体を、それぞれ、「20π型化学種」、「19π型化学種」及び「18π型化学種」と称することがある。)。
【0012】
【0013】
一般式(1)、(1’)及び(1”)中、X1~X8及びR1~R4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、スルホン酸基、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノカルボニル基、アシルオキシ基、又はヘテロアリール基を表し;前記アミノ基、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノカルボニル基、アシルオキシ基、及びヘテロアリール基は、置換基を有していてもよく;Zn-は、n価のアニオンを表し;nは、1又は2である。
なお、本明細書において、特段の記載がない限り、一般式中の記号が他の一般式においても用いられる場合、同一の記号は同一の意味を示す。
【0014】
上記置換基としては、特に制限されず、ジアザポルフィリン錯体の用途、所望の特性等に応じて適宜選択することができる。例えばジアザポルフィリン錯体を二次電池の正極活物質等の電池材料として使用する場合は、ジアザポルフィリン錯体の酸化反応及び/又は還元反応を阻害しない基を選択することができる。また、例えばジアザポルフィリン錯体をカップリング反応等の反応触媒として使用する場合は、目的とする反応に反応物質として直接関与せず、当該反応を阻害または促進しない基を選択することができる。
【0015】
このような置換基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基等の炭素数1~6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基、n-ペンチルオキシカルボニル基等の炭素数2~6のアルコキシカルボニル基;ジメチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等の炭素数2~6のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、ジ(α-ナフチル)アミノ基、ジ(β-ナフチル)アミノ基等の炭素数12~20のジアリールアミノ基;等が挙げられる。
【0016】
X1~X8及びR1~R4で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が挙げられる。
【0017】
X1~X8及びR1~R4で表されるアルキル基は、直鎖、分岐又は環状のアルキル基であってよい。アルキル基の炭素数は、特に制限されず、通常1以上、好ましくは2以上、また、通常15以下、好ましくは12以下、より好ましくは10以下である。具体的なアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基等が挙げられる。
【0018】
X1~X8及びR1~R4で表されるアラルキル基の炭素数は、特に制限されず、通常7以上、好ましくは8以上、また、通常15以下、好ましくは13以下、より好ましくは11以下である。具体的なアラルキル基としては、例えばベンジル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、1-フェニルイソプロピル基、2-フェニルイソプロピル基、フェニル-tert-ブチル基、α-ナフチルメチル基、1-α-ナフチルエチル基、2-α-ナフチルエチル基、1-α-ナフチルイソプロピル基、2-α-ナフチルイソプロピル基、β-ナフチルメチル基、1-β-ナフチルエチル基、2-β-ナフチルエチル基、1-β-ナフチルイソプロピル基、2-β-ナフチルイソプロピル基等が挙げられる。
【0019】
X1~X8及びR1~R4で表されるアリール基の炭素数は、特に制限されず、通常6以上、好ましくは8以上、また、通常25以下、好ましくは20以下、より好ましくは15以下である。具体的なアリール基としては、例えばフェニル基、メシチル基、4-(ジフェニルアミノ)フェニル基、4-(エトキシカルボニル)フェニル基、ビフェニリル基
、ターフェニリル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ペリレニル基等が挙げられ、好ましくはフェニル基、メシチル基、4-(ジフェニルアミノ)フェニル基、又は4-(エトキシカルボニル)フェニル基である。
【0020】
X1~X8及びR1~R4で表されるアルケニル基は、直鎖、分岐又は環状のアルケニル基であってよい。アルケニル基の炭素数は、特に制限されず、通常2以上、好ましくは3以上、また、通常12以下、好ましくは10以下、より好ましくは6以下である。具体的なアルケニル基としては、例えばビニル基、1-プロペニル基、1-ブテニル基、イソブテニル基、1-ペンテニル基、2-メチル-1-ブテニル基、1-シクロペンテニル基等が挙げられる。
【0021】
X1~X8及びR1~R4で表されるアルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニルチオ基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、及びアリールオキシカルボニル基中のアルキル部位、アラルキル部位、アリール部位及びアルケニル部位としては、X1~X8及びR1~R4で表されるアルキル基、アラルキル基、アリール基及びアルケニル基の説明において示した基を採用することができ、好ましい態様も同様である。
【0022】
X1~X8及びR1~R4で表されるアシル基は、-COR5で表される基である。R5は、水素原子、並びにX1~X8及びR1~R4の説明において示したアルキル基、アラルキル基、アリール基及びアルケニル基と同様の基を表す。具体的なアシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、n-ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、ピバロイル基、n-ヘキサノイル基、アクリロイル基、ベンゾイル基、トルオイル基、α-ナフトイル基、β-ナフトイル基等が挙げられる。
【0023】
X1~X8及びR1~R4で表されるアシルオキシ基は、-OCOR6で表される基である。R6としては、R5の説明において示した基を採用することができる。
【0024】
X1~X8及びR1~R4で表されるヘテロアリール基が有するヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等が挙げられる。ヘテロアリール基の炭素数は、特に制限されず、通常2以上、好ましくは3以上、また、通常18以下、好ましくは16以下、より好ましくは8以下である。ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピリミジニル基、トリアゾリル基、フリル基、チエニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基等が挙げられる。
【0025】
なお、X1~X8及びR1~R4で表される各基の説明において示した炭素数は、置換基の炭素数を含むものである。
【0026】
Zn-で表されるn価のアニオンとしては、特に限定されず、例えばPF6
-、ClO4
-、BF4
-、AsF6
-、SbF6
-、CF3SO3
-、(CF3SO2)2N-、Br-、Cl-、I-、SO4
2-等が挙げられる。Zn-は、1価のアニオン(n=1)であることが好ましく、具体的にはPF6
-であることが好ましい。なお、一般式(1’)又は(1”)で表される塩一分子中に複数のZn-が含まれる場合、当該複数のZn-は、互いに同一でもよく、異なっていてもよい。
【0027】
一般式(1)、(1’)又は(1”)で表されるジアザポルフィリン錯体は、後述する鋳型環化反応工程を含む製造方法により製造する場合、合成容易性の観点から、コバルトを中心とした対称構造を有することが好ましい。すなわち、X1及びX5、X2及びX6
、X3及びX7、X4及びX8、R1及びR3、並びにR2及びR4の2つの基の組み合わせにおいて、当該2つの基は、互いに同一であることが好ましい。
或いは、R1及びR3の一方又は両方がメシチル基である態様が好ましい。
また、X1とX2、X3とX4、X5とX6、及びX7とX8とが、互いに結合して環を形成しない態様も好ましい。
【0028】
<2.ジアザポルフィリン錯体の製造方法>
本実施形態に係るジアザポルフィリン錯体は、鋳型環化反応工程を含む方法により製造することができる。鋳型環化反応工程とは、置換基を有していてもよいジピリン化合物とコバルト(II)塩との反応によりコバルトに前記ジピリン化合物が二分子配位した四面体型のジピリン-コバルト錯体を中間体として形成し、前記ジピリン-コバルト錯体における前記ジピリン化合物同士を反応させることによりジアザポルフィリン構造を形成する工程である。鋳型環化反応工程を採用することにより、少ない工程数で簡便にジアザポルフィリン構造を形成することができる。
【0029】
以下、一般式(1)、(1’)又は(1”)で表されるジアザポルフィリン錯体の製造スキームを用いて、鋳型環化反応工程を含む方法をより詳細に説明する。なお、下記スキームにおいて、一般式(2)、(2’)及び(3)中のX1~X8及びR1~R4は、一般式(1)中のX1~X8及びR1~R4と同様に定義される。また、X9は、それぞれ独立に、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表し、好ましくは塩素原子である。一般式(2)又は(2’)で表されるジピリン化合物は、公知の製造方法、例えばAngew. Chem.
Int. Ed. 2016, 55, 2235-2238に記載の方法に準じて容易に製造し得るものである。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
鋳型環化反応工程では、一般式(2)で表されるジピリン化合物、一般式(2’)で表されるジピリン化合物及びコバルト(II)塩の反応により一般式(3)で表される四面体型のジピリン-コバルト錯体を中間体として形成し、さらにジピリン化合物同士をコバルトに配位した状態のまま反応させて分子内環化を行うことにより配位子のジアザポルフィリン構造を形成する(Scheme1)。本工程は、ワンポットで行うことができる。
鋳型環化反応をワンポットで行う場合、反応温度及び反応時間は、原料の反応性等に応じて適宜選択すればよく、例えば反応温度は10~150℃程度、反応時間は1~100時間程度である。本工程において、一般式(2)で表されるジピリン化合物と一般式(2’)で表されるジピリン化合物とは、製造コスト、精製容易性等の観点から、同一の化合物であることが好ましい。また、鋳型環化反応工程後に単離されるジアザポルフィリン構造は、通常、19π電子系のジアザポルフィリン構造及び/又は18π電子系のジアザポルフィリン構造である。
【0035】
ジピリン-コバルト錯体の形成に用いるコバルト(II)塩は、特に限定されず、酢酸コバルト(II)、塩化コバルト(II)、硝酸コバルト(II)、硫酸コバルト(II)等が挙げられ、好ましくは酢酸コバルト(II)である。ジピリン-コバルト錯体の形成は、通常、ジアザポルフィリン前駆体及びコバルト(II)塩を溶解し得る溶媒中で行われる。このような溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素とメタノール、エタノール等のアルコールとの混合溶媒が挙げられる。
【0036】
分子内環化は、DMF、DMSO、トルエン等の有機溶媒中、炭酸カリウム、炭酸セシウム、ナトリウムtert-ブトキシド、カリウムtert-ブトキシド等の塩基の存在下で行うことができる。分子内環化を進行させるために、これらの塩基を反応系に添加してもよく、塩基を反応系に添加することなく分子内環化が進行する場合は、意図的にこれらの塩基を反応系に添加しなくてもよい。後者の場合としては、ジピリン-コバルト錯体の形成に用いたコバルト(II)塩に由来するアニオン(例えば、酢酸イオン)が塩基として働いて分子内環化が進行するようなケースが考えられ、この場合、ジピリン-コバルト錯体を形成するための反応条件のまま分子内環化まで進行させることができる。
【0037】
鋳型環化反応工程の後、鋳型環化反応工程の生成物中のアニオンを所望のアニオン(Zn-)に交換するアニオン交換工程を行うことで、一般式(1’)で表される19π型化学種、一般式(1”)で表される18π型化学種、又はそれらの混合物を得ることができる(Scheme1)。アニオン交換の際の反応条件は、鋳型環化反応工程の生成物の反応性等に応じて適宜選択すればよい。例えば、アニオン交換工程は、目的アニオン(Zn-)を含む化合物の存在下、反応温度10~150℃程度、反応時間1~100時間程度の反応条件で行うことができる。なお、上記スキームでは、鋳型環化反応工程に引き続いてアニオン交換工程を行っているが、アニオン交換工程は、後述する一電子酸化工程又は一電子還元工程の後に行ってもよい。
【0038】
アニオン交換工程の生成物が19π型化学種及び18π型化学種の混合物である場合、当該混合物中の19π型化学種を、ヘキサフルオロリン酸銀(I)、トリ(ブロモフェニル)アンモニウムヘキサクロロアンチモネート等の酸化剤を用いて酸化する一電子酸化工程を経ることにより、主として18π型化学種を得ることができる(Scheme2)。また、当該混合物中の18π型化学種を、コバルトセン、デカメチルコバルトセン等の還元剤を用いて還元する一電子還元工程を経ることにより、主として19π型化学種を得ることができる(Scheme2)。
【0039】
また、18π型化学種を、水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を用いて還元する還元工程により、一般式(1)で表される20π型化学種を得ることができる(Scheme3)。
さらに、18π型化学種にコバルトセン、デカメチルコバルトセン等の一電子還元剤を2当量反応させる還元工程(Scheme3)、或いは19π型化学種に同様の一電子還元剤を1当量反応させる還元工程(Scheme4)によっても、20π型化学種を得ることができる。
【0040】
反対に、20π型化学種にヘキサフルオロリン酸銀(I)、トリ(ブロモフェニル)アンモニウムヘキサクロロアンチモネート等の酸化剤を2当量反応させる酸化工程により、18π型化学種を得ることができ(Scheme3)、20π型化学種に同様の酸化剤を1当量反応させる酸化工程により、19π型化学種を得ることもできる(Scheme4)。
【0041】
上記製造方法により得られるジアザポルフィリン錯体は、必要に応じて精製を行ってもよい。精製方法としては、ろ過、吸着、カラムクロマトグラフィー、再沈殿、洗浄、乾燥等の有機金属錯体合成分野で通常行われる精製方法を採用することができる。
【0042】
<3.ジアザポルフィリン錯体の用途>
本実施形態に係るジアザポルフィリン錯体は、好適には可逆的な酸化還元反応を示す錯体であり、より好適には酸化還元反応を繰り返しても酸化還元電位の変動が小さいものである。したがって、レドックスフロー電池等の二次電池用の材料として有用である。可逆的な酸化還元反応の進行の可否、及び酸化還元反応を繰り返した場合の酸化還元電位の変動は、サイクリックボルタンメトリー測定により評価することができる。
【0043】
また、本実施形態に係るジアザポルフィリン錯体は、ジアザポルフィリンと類似構造の配位子を有するコバルト錯体、例えばポルフィリン-コバルト(II)錯体、フタロシアニン-コバルト(II)錯体等と同様の触媒活性を示すと考えられる。したがって、本実施形態に係るジアザポルフィリン錯体は、還元的酸素付加反応、フェノール誘導体の酸化的カップリング反応、末端オレフィンのクロロトリフルオロメチル化等の各種有機反応の触媒;水の光酸化反応等の各種無機反応の触媒;などとして利用し得ると考えられる。
【実施例0044】
以下、実施例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
なお、実施例中、「室温」とは、15~35℃の温度範囲を意味する。
【0045】
【0046】
塩化メチレン10mL及びメタノール5mLの混合溶媒、ジピリン化合物2a 195
mg(0.466mmol)、及び酢酸コバルト(II)58mg(0.23mmol)の混合物を室温で12.5時間攪拌した。反応液をサンプリングしてTLCを行い、UV照射により反応が完了したことを確認した後、KPF6によるアニオン交換及びカラムク
ロマトグラフィー(塩化メチレン/アセトン/ピリジン=400/20/1)を順次行い、溶媒を除去した。続いて、得られた残渣をヘキサフルオロリン酸銀(I)60mg(0.24mmol)とともに塩化メチレン15mL中で5分間攪拌することで、残渣中の19π型化学種を18π型化学種に変換した。その後、反応液にヘキサンを加えて生成物を沈殿させることで生成物の単離精製を行い、18π電子系のジアザポルフィリン錯体1”aを得た(収率71%)。
【0047】
ジアザポルフィリン錯体1”aの分析結果は、以下の通りである。
HRMS(ESI):m/z 819.2837(z=1),409.6416(z=2
)(C50H44CoN6O2([M-PF6]z+)計算値 819.2852(z=
1),409.6423(z=2))
紫外可視吸収スペクトル(CHCl3):λmax 328nm,390nm,630n
m
【0048】
ジアザポルフィリン錯体1”aのサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。具体的には、作用極glassy carbon、対極Pt wire、参照極Ag/Ag
+[0.01M AgNO
3,0.1M Bu
4NPF
6(MeCN)]を用いて、CH
Instruments社製model 650E electrochemical workstationにより測定した。サンプルの調製として、化合物1aを蒸留塩化メチレン(Bu
4NPF
6溶液)に溶かし、測定直前に溶液をアルゴンガスで約2分間バブリングを行った。ジアザポルフィリン錯体1”aのサイクリックボルタモグラムを
図1に示す。
図1より、ジアザポルフィリン錯体1”aの酸化還元電位は-0.728V,-0.162V,+0.418V(vs. Fc/Fc
+)と算出された。また、CV測定を3回
繰り返しても、サイクリックボルタモグラムの波形の変化は小さく、酸化還元電位の再現性は良好であることが確認された。すなわち、ジアザポルフィリン錯体1”aは、可逆的な酸化還元反応を示す化合物であり、レドックスフロー電池等の二次電池に有効に活用し得ることがわかった。
【0049】
【0050】
塩化メチレン6mL及びメタノール4mLの混合溶媒、ジピリン化合物2b 155m
g(0.279mmol)、及び酢酸コバルト(II)35mg(0.14mmol)の混合物を室温で32時間攪拌した。反応液をサンプリングしてTLCを行い、UV照射により反応が完了したことを確認した後、KPF6によるアニオン交換を行い、溶媒を除去
した。続いて、得られた残渣をコバルトセン30mg(0.16mmol)とともにTHF 8mL中で5分間攪拌することで、残渣中の18π型化学種を19π型化学種に変換
した。その後、カラムクロマトグラフィー(塩化メチレン/アセトンメタノール=40/1→30/1→20/1)及びヘキサンを用いた再沈殿により生成物の単離精製を行い、19π電子系のジアザポルフィリン錯体1’bを得た(収率59%)。
【0051】
ジアザポルフィリン錯体1’bの分析結果は、以下の通りである。
HRMS(ESI):m/z 1093.40088(C72H58CoN8([M-P
F6]+)計算値 1093.4111)
紫外可視吸収スペクトル(CHCl3):λmax 304nm,426nm,813n
m
【0052】
【0053】
塩化メチレン5mL、19π電子系のジアザポルフィリン錯体1’b 38mg(0.
031mmol)、及びヘキサフルオロリン酸銀(I)18mg(0.071mmol)の混合物を室温で5分攪拌した。反応液をサンプリングしてUV照射により反応が完了したことを確認した後、反応液をセライト濾過した。得られた濾液にヘキサンを加えて生成物を沈殿させることで生成物の単離精製を行い、18π電子系のジアザポルフィリン錯体1”bを得た(収率85%)。
【0054】
ジアザポルフィリン錯体1”bの分析結果は、以下の通りである。
HRMS(ESI):m/z 1093.4092(z=1),546.7042(z=
2)(C72H58CoN8([M-2PF6]z+)計算値 1093.4111(z
=1),546.7053(z=2))
紫外可視吸収スペクトル(CHCl3):λmax 329nm,400nm,627n
m,820nm
【0055】
実施例1と同様にしてジアザポルフィリン錯体1”bのCV測定を行った。ジアザポルフィリン錯体1”bのサイクリックボルタモグラムを
図2に示す。
図2より、ジアザポルフィリン錯体1”bの酸化還元電位は-0.657V,-0.095V,+0.651V,+0.715V(vs. Fc/Fc
+)と算出された。また
、CV測定を3回繰り返しても、サイクリックボルタモグラムの波形の変化は見られず、酸化還元電位の再現性は良好であることが確認された。すなわち、ジアザポルフィリン錯
体1”bは、可逆的な酸化還元反応を示す化合物であり、レドックスフロー電池等の二次電池に有効に活用し得ることがわかった。
【0056】
【0057】
塩化メチレン5mL及びメタノール2.5mLの混合溶媒、ジピリン化合物2c 16
1mg(0.415mmol)、及び酢酸コバルト(II)52mg(0.21mmol)の混合物を室温で40時間攪拌した。反応液をサンプリングしてTLCを行い、UV照射により反応が完了したことを確認した後、KPF6によるアニオン交換を行い、溶媒を除去した。続いて、得られた残渣をコバルトセン46mg(0.24mmol)とともにTHF 5mL中で5分間攪拌することで、残渣中の18π型化学種を19π型化学種に
変換した。その後、カラムクロマトグラフィー(塩化メチレン/メタノール=30/1)及びヘキサンを用いた再沈殿により生成物の単離精製を行い、19π電子系のジアザポルフィリン錯体1’cを得た(収率42%)。
【0058】
ジアザポルフィリン錯体1’cの分析結果は、以下の通りである。
HRMS(ESI):m/z 759.2604(C48H40CoN6([M-PF6
]+)計算値 759.2641)
紫外可視吸収スペクトル(CHCl3):λmax 307nm,425nm,815n
m
【0059】
【0060】
塩化メチレン10mL、19π電子系のジアザポルフィリン錯体1’c 28.5mg(0.0315mmol)、ヘキサフルオロリン酸銀(I)17.7mg(0.070mmol)の混合物を室温で5分攪拌した。反応液をサンプリングしてUV照射により反応が完了したことを確認した後、反応液をセライト濾過した。
得られた濾液にヘキサンを加えて生成物を沈殿させることで生成物の単離精製を行い、18π電子系のジアザポルフィリン錯体1”cを得た(収率83%)。
【0061】
ジアザポルフィリン錯体1”cの分析結果は、以下の通りである。
HRMS(ESI):m/z 759.2627(z=1),379.6312(z=2
)(C48H40CoN6([M-2PF6]z+)計算値 759.2641(z=1
),379.6318(z=2))
紫外可視吸収スペクトル(CHCl3):λmax 333nm,398nm,628n
m
【0062】
実施例1と同様にしてジアザポルフィリン錯体1”cのCV測定を行った。ジアザポルフィリン錯体1”cのサイクリックボルタモグラムを
図3に示す。
図3より、ジアザポルフィリン錯体1”cの酸化還元電位は-0.656V,-0.087V(vs. Fc/Fc
+)と算出された。また、CV測定を3回繰り返しても、サ
イクリックボルタモグラムの波形の変化は見られず、酸化還元電位の再現性は良好であることが確認された。すなわち、ジアザポルフィリン錯体1”cは、可逆的な酸化還元反応を示す化合物であり、レドックスフロー電池等の二次電池に有効に活用し得ることがわかった。
【0063】
【0064】
塩化メチレン6mL及びメタノール3mLの混合溶媒、ジピリン化合物2d 235m
g(0.511mmol)、及び酢酸コバルト(II)64mg(0.26mmol)の混合物を室温で65時間攪拌した。反応液をサンプリングしてTLCを行い、UV照射により反応が完了したことを確認した後、KPF6によるアニオン交換及びカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン/メタノール=40/1)を順次行い、溶媒を除去した。続いて、得られた残渣をヘキサフルオロリン酸銀(I)20mg(0.079mmol)とともに塩化メチレン10mL中で5分間攪拌することで、残渣中の19π型化学種を18π型化学種に変換した。その後、反応液にヘキサンを加えて生成物を沈殿させることで生成物の単離精製を行い、18π電子系のジアザポルフィリン錯体1”dを得た(収率39%)。
【0065】
ジアザポルフィリン錯体1”dの分析結果は、以下の通りである。
HRMS(ESI):m/z 903.3050(z=1),451.6521(z=2
)(C54H48CoN6O4([M-2PF6]z+)計算値 903.3064(z
=1),451.6529(z=2))
紫外可視吸収スペクトル(CHCl3):λmax 333nm,398nm,630n
m
【0066】
実施例1と同様にしてジアザポルフィリン錯体1”dのCV測定を行った。ジアザポルフィリン錯体1”dのサイクリックボルタモグラムを
図4に示す。
図4より、ジアザポルフィリン錯体1”dの酸化還元電位は-0.580V,-0.050V(vs. Fc/Fc
+)と算出された。また、CV測定を3回繰り返しても、サ
イクリックボルタモグラムの波形の変化は見られず、酸化還元電位の再現性は良好であることが確認された。すなわち、ジアザポルフィリン錯体1”dは、可逆的な酸化還元反応を示す化合物であり、レドックスフロー電池等の二次電池に有効に活用し得ることがわかった。