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特開2022-133542鋼材の水素チャージ方法及び水素脆化特性評価方法
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  • 特開-鋼材の水素チャージ方法及び水素脆化特性評価方法 図1
  • 特開-鋼材の水素チャージ方法及び水素脆化特性評価方法 図2
  • 特開-鋼材の水素チャージ方法及び水素脆化特性評価方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133542
(43)【公開日】2022-09-14
(54)【発明の名称】鋼材の水素チャージ方法及び水素脆化特性評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20220907BHJP
   G01N 17/04 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
G01N17/00
G01N17/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021032273
(22)【出願日】2021-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】杉本 隼之
(72)【発明者】
【氏名】藤松 威史
【テーマコード(参考)】
2G050
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050BA04
2G050DA01
2G050EB03
(57)【要約】
【課題】 陰極チャージ法において、電流密度を所定範囲内になるように制御しようとすると、鋼材に印加する電位が、実際の使用環境を模擬した場合の電位から大きく乖離することが起こり得る。実際の環境を模した環境下における、鋼材に対する水素侵入の特性を評価することは難しい。
【解決手段】 鋼材の水素チャージ方法では、サイクリックボルタンメトリーを用いて、鋼材に印加する電位を所定の電位範囲内で掃引しながら応答電流を測定することにより、サイクリックボルタモグラムを求める。求めたサイクリックボルタモグラムに基づいて、陰極チャージ法において鋼材の表面に所定の水素量を発生させるための電位を決定する。陰極チャージ法によって鋼材に水素をチャージするとき、鋼材に印加する電位を決定した電位に固定する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイクリックボルタンメトリーを用いて、鋼材に印加する電位を所定の電位範囲内で掃引しながら応答電流を測定することにより、サイクリックボルタモグラムを求め、
求めたサイクリックボルタモグラムに基づいて、陰極チャージ法において鋼材の表面に所定の水素量を発生させるための電位を決定し、
陰極チャージ法によって鋼材に水素をチャージするとき、鋼材に印加する電位を決定した電位に固定する、ことを特徴とする鋼材の水素チャージ方法。
【請求項2】
鋼種が異なる複数の鋼材のそれぞれについてサイクリックボルタモグラムを求めるとき、各鋼材の表面粗さを基準となる表面粗さに揃えることを特徴とする請求項1に記載の鋼材の水素チャージ方法。
【請求項3】
前記所定の電位範囲は、陰極チャージ法によって鋼材の表面に水素を発生させる電位から、応答電流の向きが反転する電位までの範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼材の水素チャージ方法。
【請求項4】
前記所定の水素量は、鋼材が使用される環境に応じた水素量であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の鋼材の水素チャージ方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の水素チャージ方法によって得られた鋼材に対して、水素脆化特性の評価を行うことを特徴とする水素脆化特性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰極チャージ法によって鋼材に水素をチャージする方法と、水素がチャージされた鋼材について、水素脆化特性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の中に取り込まれた水素が鋼の機械的特性を低下させて鋼を破壊させてしまう現象は、水素脆化と呼ばれている。特に高強度鋼については、鋼中に水素が侵入する環境下において、一定期間を経て突然、鋼が破壊される「遅れ破壊」が問題となっている。ここで、鋼中に水素が侵入する場合としては、主に、環境中に存在する水素が鋼中に取り込まれる場合や、電気化学的反応によって生じた水素が鋼中に取り込まれる場合がある。
【0003】
鋼の水素脆化特性を評価する方法では、陰極チャージ法(非特許文献1)によって試験片(鋼)に強制的に水素をチャージした後に、各種の試験を行っている。陰極チャージ法では、電流密度を所定範囲内に制御する定電流制御を行っており、電流密度を所定範囲内とするために、陰極として用いられる鋼材(試験片)に印加する電圧値を変化させている。陰極チャージ法は、鋼材の成分、表面状態、応力状態などといった試験片の状態にかかわらず、試験片に水素を添加することができるため、水素脆化の発生度合いを評価する上では優れている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】水素脆化の基盤構築研究の進展と今後の展望、ふぇらむVоl.19(2014)No.12、第911~919頁、一般社団法人日本鉄鋼協会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
試験片を陰極(カソード)として行う陰極チャージ法では、電流密度を所定範囲内になるように制御しようとすると、試験片(陰極)に印加する電圧値を大きく変化させなければならないことがあるため、印加する電圧値が、実際の使用環境(上述した遅れ破壊を引き起こす環境等)を模擬した場合の電圧値から大きく乖離することが起こり得る。このため、実際の環境を模した環境下における、鋼に対する水素侵入の特性を評価することは難しい。そこで、実際の環境を模した条件下で水素をチャージすることができるようになれば、鋼の水素脆化特性を評価することができることになる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願第1の発明である鋼材の水素チャージ方法では、サイクリックボルタンメトリーを用いて、鋼材に印加する電位を所定の電位範囲内で掃引しながら応答電流を測定することにより、サイクリックボルタモグラムを求める。このサイクリックボルタモグラムは、後述の通り、鋼材(試験片)の表面粗さの影響によっても変化するものの、表面粗さを揃えた条件のもとでは、鋼材から作製した試験片を陰極として陰極チャージ法を行う場合の試験片表面での水素の発生のしやすさをあらわしている。求めたサイクリックボルタモグラムに基づいて、陰極チャージ法において鋼材の表面に所定の水素量を発生させるための電位を決定する。つづいて陰極チャージ法によって鋼材に水素をチャージするとき、鋼材に印加する電位を、上記の通り決定した電位に固定する。そうすることにより、一定電圧下での水素発生状態をつくりだすことができ、その後の鋼材への水素の侵入条件も安定な条件にしてチャージを行うことができるようになる。
【0007】
鋼種が異なる複数の鋼材のそれぞれについて、サイクリックボルタモグラムを求めるとき、各鋼材の表面粗さを基準となる表面粗さに揃えることができる。所定の電位範囲は、陰極チャージ法によって鋼材の表面に水素を発生させる電位から、応答電流の向きが反転する電位までの範囲とすることができる。鋼材の表面に発生する水素量は、陰極(鋼材)表面でのクーロン量の測定結果に基づいて推定することができる。また、本発明の方法により推定される対象鋼材表面で発生する水素量と、水素脆化特性を評価したい対象材と接触する材料や潤滑油等との間で発生する水素量(別途電気化学的に調査する)を比較することで、この推定した水素量が、鋼材が部品として使用されている環境に応じた水素量であるか否かを確認することができる。この確認に基づいて、水素量を調整しても良い。
【0008】
本願第2の発明である水素脆化特性評価方法では、本願第1の発明である水素チャージ方法によって得られた鋼材に対して、水素脆化特性の評価を行う。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、陰極チャージ法によって水素がチャージされる鋼材に対して、この鋼材のサイクリックボルタモグラムから上記の通りに決定された電位につき、一定電位で印加することにより、実際の鋼材の使用環境を模擬した水素量を発生させることができる。これを利用して、水素がチャージされた鋼材について、使用環境を踏まえた水素脆化特性の評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】陰極チャージ法で用いられる装置の構成を示す概略図である。
図2】陰極チャージ法による水素チャージ方法と水素脆化特性の評価方法を説明するフローチャートである。
図3】試験片(SUJ2,SCM420)について、サイクリックボルタンメトリーによって得られた印加電位、及び応答電流の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態は、水素脆化特性を評価するための鋼材から試験片を作製して、それをカソードとして用いる陰極チャージ法において、試験片の実際の使用環境に応じた水素を試験片にチャージする方法である。
【0012】
陰極チャージ法では、図1に示すように、容器1に収容された電解液ESに対して、カソード2、アノード3及び参照電極4が浸漬されている。カソード2としては試験片(鋼材)が用いられる。試験片は、水素脆化特性を評価するための鋼材であればよく、各種の鋼材が用いられる。アノード3の材質としては、例えば、白金、金、グラッシーカーボン、ナノカーボンが用いられる。参照電極4としては、例えば、カロメル電極や銀/塩化銀電極が用いられる。
【0013】
カソード2、アノード3及び参照電極4は、電位制御装置5に接続されている。電位制御装置5は、カソード2に印加する電位や電流を制御するものであり、電位制御装置5として、例えば、ポテンショスタット(電位の制御)を用いることができる。
【0014】
カソード2に所定の電位を印加すると、電解液ESの電気分解によって水素が発生し、カソード2を水素に暴露することができる。これにより、カソード2である試験片内部に水素をチャージすることができる。
【0015】
カソード2に水素をチャージする方法と、水素がチャージされたカソード2(試験片)の水素脆化特性を評価する方法について、図2に示すフローチャートを用いて説明する。
【0016】
ステップS101では、サイクリックボルタンメトリーにより、試験片に印加する電位を上限電位及び下限電位の間で直線的に掃引することにより、応答電流を測定する。これにより、電位[V vs SCE]及び応答電流[mA]の対応関係を示すサイクリックボルタモグラム(CV曲線)が得られる。電位を掃引する方法は、上限電位から下限電位に向かって電位を掃引したり、下限電位から上限電位に向かって電位を掃引したりすることができる。
【0017】
電位を掃引する範囲は、電位の掃引によって電流の向きが反転する範囲を含んでいればよい。上限電位は、試験片がカソード2として十分に機能し、多量の水素を発生させる電位であることが好ましい。下限電位は、試験片がカソードからアノードに切り替わる電位であることが好ましい。
【0018】
ステップS102では、ステップS101の処理で得られたサイクリックボルタモグラムに基づいて、陰極チャージ法においてカソード2(試験片)に印加する電位を決定する。サイクリックボルタモグラムによれば、印加電位に応じて電流値が変化し、この電流値が変化すれば、陰極チャージ法で発生する水素量が変化する。この電流値及び水素量の相関関係を考慮すれば、試験片(鋼材)が使用される環境(言い換えれば、水素量)を想定することにより、サイクリックボルタモグラムに基づいて想定する水素量を発生させるための電流値を決めることができ、それをもとにこの電流値を発生させるための印加電位を決めることができる。
【0019】
ここで、カソード2(試験片)の表面におけるクーロン量を測定すれば、この測定結果に基づいて、陰極チャージ法で発生する水素量を推定することができる。そして、推定した水素量を、電気化学的な調査から得られる実際に水素脆化特性を評価したい対象材と、接触する材料や潤滑油等との間で発生する水素量とを比較することで鋼材が部品として使用されている環境に応じた水素量であるか否かを確認することができる。この確認により、陰極チャージ法で発生する水素量が、鋼材が部品として使用されている環境に応じた水素量となるように調整することができる。
【0020】
ステップS103では、陰極チャージ法により試験片(カソード2)に水素をチャージする。ここで、試験片に印加する電位は、一定とし、ステップS102の処理で決められた電位とする。ステップS104では、ステップS103の処理によって水素がチャージされた試験片に対して、水素脆化特性の評価を行う。
【0021】
水素がチャージされた試験片について、水素脆化特性を評価する方法としては、様々な方法があり、例えば、CLT(定荷重試験;Constant Load Test)、SSRT(低ひずみ速度法;Slow Strain Rate Test)、CSRT(通常速度法;Conventional Strain Rate Test)、水素昇温脱離分析(Thermal Desorption Analysis;TDA)がある。
【0022】
CLTは、水素がチャージされた試験片に対して一定の単軸荷重を与え、単軸荷重を与えたときから試験片が破断するまでの時間を測定するものである。ここで、試験片に水素をチャージしながら、試験片に単軸荷重を与えることもできる。SSRTは、水素がチャージされた試験片を破断するまで低ひずみ速度、すなわち低速度で引っ張る方法である。ここで、試験片に水素をチャージしながら、試験片を引っ張ることもできる。CSRTは、試験片に平衡濃度に達する多量の水素量をチャージしておき、一般的な引張試験における速度(クロスヘッドスピード:数mm/min)で試験片を引っ張る方法である。
【0023】
水素昇温脱離分析では、水素がチャージされた試験片を一定の割合で過熱しながら水素の脱離を測定することにより、試験片の温度に対する水素脱離割合の関係である水素熱脱離曲線が得られる。試験片中で水素は、鋼中の各種の欠陥にそれぞれ異なる強さで捕らわれているため、欠陥から水素が放出される温度はその強さの程度に依存し、捕獲される水素量も欠陥の種類や量に依存して変化する。したがって、水素熱脱離曲線は、試験片中に存在する水素を捕らえる欠陥の種類や量を反映しており、特に水素を多く捕獲している欠陥においては熱脱離ピークが見られる。よって、水素熱脱離曲線の形状や、同曲線に現れる熱脱離ピークの温度などを調べることにより、水素を捕らえている欠陥の種類や捕らわれている水素量を推定することができる。つまり、試験片中の水素存在状態を推定することができる。この挙動を調べることで、水素脆化に対する感受性を間接的に評価することができる。
【0024】
鋼種が互いに異なる複数の試験片について、同様の評価を行おうとする場合、電位の掃引を行う際に、各試験片における表面粗さを、基準となる表面粗さ(以下、「基準表面粗さ」という)に揃えておくことが好ましい。複数の試験片の表面粗さが互いに異なっていると、鋼種の相違による影響だけでなく、表面粗さの相違に水素の発生特性が影響を受けてサイクリックボルタモグラムが変化してしまうことがあるため、複数の試験片に関するサイクリックボルタモグラムを対比しても、鋼種に起因する水素の発生しやすさを正しく評価できなくなる。そこで、複数の試験片の表面粗さを基準表面粗さに揃えておくことで、表面粗さの相違に起因するサイクリックボルタモグラムの変化の影響を排除することができるため、鋼種に起因する水素の発生しやすさを評価しやすくなる。
【0025】
試験片の表面粗さは、例えば、試験片の表面を研磨することによって調整することができる。表面粗さの指標としては、例えば、算術平均粗さRa(JIS B0601)を用いることができる。試験片の表面粗さは、基準表面粗さと完全に一致していなくてもよく、基準表面粗さに対して許容範囲内に含まれていればよい。許容範囲としては、表面粗さの測定時の誤差を許容範囲とすればよく、基準表面粗さよりも大きい上限値と、基準表面粗さよりも小さい下限値とによって規定される。
【0026】
本実施形態によれば、陰極チャージ法で用いるカソード(=評価鋼材から作製した試験片)に対して、試験片のサイクリックボルタモグラムをもとに決定された一定の電位(電圧)を印加することにより、試験片(鋼材)の使用環境を模擬した水素量を発生させることができる。この陰極チャージ法によって水素がチャージされた試験片では、使用環境に応じた水素がチャージされることになるため、使用環境を踏まえた水素脆化特性の評価を行うことができる。
【実施例0027】
(試験片の用意)
下記表1に示す化学組成と、残部としてFeを有する鋼材(試験片1,2)を用意した。試験片1の鋼材は、JIS G4805に規定されている鋼種SUJ2であり、試験片2の鋼材は、JIS G4053に規定されている鋼種SCM420である。
【0028】
【表1】
【0029】
上述した鋼材を用いて、外径7mm、長さ30mmである円柱に粗加工し、鋼材の表面をペーパー(♯2000)によって研磨して試験片1,2をそれぞれ作製した。各試験片1,2を陰極チャージ法のカソードとして用いた。
【0030】
陰極チャージ法の電解液としては、チオシアン酸アンモニウム(0.3%)、食塩(3%)及び蒸留水(96.7%)を混合した溶液を用いた。参照電極としては、カロメル電極を用いた。アノードとしては、プラチナで形成された電極を用いた。
【0031】
電気化学測定装置(ALS1000C電気化学アナライザー;ビー・エー・エス株式会社製)を用いて、電位を掃引するとともに、電位の掃引に伴う応答電流を測定した。電位の掃引は、試験片に十分なカソード電流が流れるときの電位(上限電位;-1.2[V vs SCE])から、試験片にアノード電流が流れ始める電位(下限電位;-0.4[V vs SCE])まで行った。
【0032】
上述した測定によって得られたサイクリックボルタモグラムを図3に示す。図3において、横軸は電位[V vs SCE]であり、縦軸は電流値(応答電流)[mA]である。
【0033】
図3から分かるとおり、上限電位(-1.2[V vs SCE])を印加したとき、試験片1,2については、電流値が+10mA(上述した電気化学測定装置の測定限界値)であった。そして、電位を上限電位から下限電位に向かって掃引させるにつれて、電流値が減少した。試験片1については、電位が-0.90[V vs SCE]であるときに電流値が0[mA]となり、試験片2については、電位が-0.98[V vs SCE]であるときに電流値が0[mA]となった。
【0034】
電流値が0[mA]となった後、さらに電位を低下させることにより、電流値がマイナスの値を示し、電流の向きが反転した。試験片1については、電位が-0.6[V vs SCE]であるときに電流値が-10[mA](上述した電気化学測定装置の測定限界値)となり、試験片2については、電位が-0.57[V vs SCE]であるときに電流値が-10[mA]となった。
【0035】
試験片1のサイクリックボルタモグラムと、試験片2のサイクリックボルタモグラムとを対比すると、試験片1(SUJ2)は試験片2(SCM420)よりも低い電位で水素を発生させることができることが分かった。言い換えれば、試験片1(SUJ2)は試験片2(SCM420)よりも水素を発生させやすいことが分かった。この点を考慮して、陰極チャージ法において、SUJ2やSCM420の鋼材に対して、この鋼材の使用環境に応じた水素量を発生させるための電位を決めることができる。
【0036】
このようにして決定する水素を発生させるための電位に基づき、あらためて水素脆化特性を評価するための試験片(例えば引張試験片)に対して、陰極チャージ法による水素のチャージを行い、水素脆化特性を評価すると良い。また、実施例において水素を発生させるための電位を決定するための試験片を例示しているが、その試験片の大きさは変更しても良い。水素脆化特性を評価する方法は、各種の試験方法(例えば引張試験)を用いることができる。ただし、水素チャージ後の試験片の表面からは、徐々に水素が脱離していくので、その脱離挙動を考慮した試験条件で評価を行う。
【符号の説明】
【0037】
1:容器、2:カソード、3:アノード、4:参照電極、5:電位・電流制御装置
ES:電解液
図1
図2
図3