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特開2022-133693ラジカル発生組成物、殺菌組成物、及び有機物の分解組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133693
(43)【公開日】2022-09-14
(54)【発明の名称】ラジカル発生組成物、殺菌組成物、及び有機物の分解組成物
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/22 20060101AFI20220907BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20220907BHJP
   A01N 65/00 20090101ALI20220907BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20220907BHJP
   A62D 3/38 20070101ALI20220907BHJP
   C02F 1/72 20060101ALI20220907BHJP
   A61L 9/013 20060101ALI20220907BHJP
   A62D 101/22 20070101ALN20220907BHJP
   A62D 101/28 20070101ALN20220907BHJP
【FI】
B01J31/22 M
A01P3/00
A01N65/00 H
A01N59/16 Z
A62D3/38
C02F1/72 Z
A61L9/013
A62D101:22
A62D101:28
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021032527
(22)【出願日】2021-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森川 クラウジオ 健治
【テーマコード(参考)】
4C180
4D050
4G169
4H011
【Fターム(参考)】
4C180AA05
4C180EA36X
4C180EA53X
4C180EA54X
4C180EB41X
4C180EB42X
4C180EB43X
4C180EC01
4D050AA02
4D050AA13
4D050AA15
4D050AA16
4D050AB01
4D050AB04
4D050AB19
4D050AB24
4D050BB09
4D050BC07
4G169AA06
4G169AA09
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BA22A
4G169BA22B
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BA27C
4G169BA29A
4G169BA29B
4G169BA32A
4G169BB02C
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BE40A
4G169BE40B
4G169CA10
4G169CA11
4G169CB07
4G169CB59
4G169DA02
4H011AA02
4H011BB18
4H011BB20
(57)【要約】
【課題】優れたフェントン反応が得られ、人体や環境への影響をより抑制することが可能なラジカル発生組成物、殺菌組成物又は有機物の分解組成物を提供する。
【解決手段】食用キノコの搾液及び/又はその抽出物と、鉄供給原料と、を含む。食用キノコが、ホウライタケ科シイタケ属、シメジ科シロタモギタケ属、ヒラタケ科ヒラタケ属、ハラタケ科ハラタケ属、及びタマチョレイタケ目トンビマイタケ科マイタケ属、から選択される1以上からなることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用キノコの搾液及び/又はその抽出物と、鉄供給原料と、を含む、ラジカル発生組成物。
【請求項2】
前記食用キノコが、ハラタケ目ホウライタケ科シイタケ属、ハラタケ目シメジ科シロタモギタケ属、ハラタケ目ヒラタケ科ヒラタケ属、ハラタケ目ハラタケ科ハラタケ属、及びタマチョレイタケ目トンビマイタケ科マイタケ属、から選択される1以上からなる、請求項1に記載のラジカル発生組成物。
【請求項3】
前記鉄供給原料が、ポリフェノール鉄錯体、二価鉄化合物、三価鉄化合物、土壌、鉄鉱石、金属鉄からなる群より選ばれた1以上のものである、請求項1又は2に記載のラジカル発生組成物。
【請求項4】
前記ポリフェノール鉄錯体が、ポリフェノール類又はその供給原料と、二価鉄化合物、三価鉄化合物、土壌、鉄鉱石、金属鉄からなる群より選ばれた1以上の鉄供給原料と、を、水存在下にて混合することによって得られた反応生成物である、請求項3に記載のラジカル発生組成物。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載のラジカル発生組成物を含む、殺菌組成物。
【請求項6】
請求項1~4の何れか一項に記載のラジカル発生組成物を含む、有機物の分解組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フェントン反応を利用するラジカル発生組成物、このラジカル発生組成物を含む殺菌組成物、及び有機物の分解組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
農業分野や食品加工分野において、殺菌や有害物質を除去する処理は重要である。しかし従来の多くの方法のように薬剤を用いた場合、薬剤が食品や農産物に残留する恐れがあり好ましくない。また、次亜塩素酸による殺菌は塩素臭が発生する欠点がある。そこで、食品分野においては、食品に臭いの残らない殺菌法としてオゾン殺菌を挙げることができるが、オゾン生成装置は高価で大規模施設以外は導入が難しいという問題がある。これらの状況から、多くの産業分野において、人体への影響がなく、安価な殺菌技術の開発に対するニーズは高い。
【0003】
このような問題を解決する技術として、フェントン反応が注目されている。発明者はこれまで、還元性有機物と鉄供給原料とを、水存在下にて混合し、得られた反応生成物を活性成分とするフェントン反応触媒を開発している(例えば、特許文献1~3参照)。また、フェントン反応の強力な酸化力を利用して、真菌類等の殺菌を行う技術も開示されている(特許文献4参照。)
【0004】
フェントン反応とは、鉄に過酸化水素が作用することでヒドロキシラジカルと呼ばれる強力な活性酸素を発生させるものである。ヒドロキシラジカルは極めて反応性が高く、殺菌や有機物の分解等に利用することができる。また、フェントン反応終了後には、過酸化水素が酸素と水に変化するため、人体や環境への負荷を抑制できる。
【0005】
ところで、キノコには過酸化水素が含まれることが知られている(非特許文献1、2参照。)また、特許文献5には、ハラタケ科ササクレヒトヨタケ属のキノコから抽出した過酸化水素を殺菌やフェントン反応による色素類の脱色・分解に利用する技術が開示されている。
【0006】
以上の状況から、殺菌又は有機物の分解に利用可能であって、優れたフェントン反応が得られ、人体や環境への影響をより抑制することができる技術の開発が期待されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6179957号公報
【特許文献2】特許第6202770号公報
【特許文献3】特許第6478209号公報
【特許文献4】特開2009-062350号公報
【特許文献5】特開2004-305013号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Assessment of the antimicrobial, antioxidant and cytotoxic activities of the wild edible mushroom Agaricus lanipes (F.H. Moller & Jul. Schaeff.) Hlavacek, Cytotechnology, Vol.69 No.1 Page.135-144 (2017.01)
【非特許文献2】農産物,畜産物,水産物及びそれらの加工品中の過酸化水素の含有量,日本食品工業学会誌,第37巻2号,111-123,1990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決し、優れたフェントン反応が得られ、人体や環境への影響をより抑制することが可能なラジカル発生組成物、殺菌組成物又は有機物の分解組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らはこのような状況を鑑み、鋭意検討を重ねたところ、キノコと鉄とを混合して得た反応生成物には、極めて強力なフェントン反応能が付与されることを見出した。
【0011】
本開示はこれらの知見に基づいてなされたものである。
即ち、本開示に係るラジカル発生組成物は、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物と、鉄供給原料と、を含む。
また、本開示に係る殺菌組成物は、上述のようなラジカル発生組成物を含み、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物と、鉄供給原料と、を含む。
また、本開示に係る有機物の分解組成物は、上述のようなラジカル発生組成物を含み、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物と、鉄供給原料と、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物に含まれる高濃度の過酸化水素と、鉄とのフェントン反応により、ヒドロキシラジカルと呼ばれる強力な活性酸素が発生する。また、過酸化水素として食用キノコの搾液及び/又はその抽出物に含まれる天然由来の過酸化水素を用いているため、人体や環境に対する影響を適切に抑制できる。したがって、優れたフェントン反応が得られ、人体や環境への影響をより抑制することが可能なラジカル発生組成物、殺菌組成物又は有機物の分解組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実験例1の過酸化水素の検出実験に用いたシイタケの搾液と、検査後の過酸化水素試験紙の写真像図である。
図2】実験例1の過酸化水素の検出実験に用いたブナシメジと、検査後の過酸化水素試験紙の写真像図である。
図3】実験例1の過酸化水素の検出実験に用いたヒラタケと、検査後の過酸化水素試験紙の写真像図である。
図4】実験例1の過酸化水素の検出実験に用いたマッシュルームと、検査後の過酸化水素試験紙の写真像図である。
図5】実験例1の過酸化水素の検出実験に用いたマイタケと、検査後の過酸化水素試験紙の写真像図である。
図6】実施例1のシイタケの搾液と鉄塩を含有する有機物の分解組成物による、メチレンブルーの分解効果の実験結果を示す写真像図である。
図7】実施例2のシイタケの搾液と鉄塩を含有する有機物の分解組成物による、メチレンブルーの分解効果の実験結果を示すグラフである。
図8】実施例2のシイタケの搾液と鉄塩を含有する有機物の分解組成物のESRスペクトルの測定結果を示す図である。
図9】実施例3のシイタケの搾液と鉄塩を含有する殺菌組成物のフェントン反応による殺菌効果の実験結果を示す写真像図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示のラジカル発生組成物は、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物と、鉄供給原料と、を含む。また、本開示のラジカル発生組成物を用いたラジカル発生方法は、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物と、鉄供給原料と、を混合して、過酸化水素からヒドロキシラジカルを発生させる工程、を含む。
ラジカル発生組成物とは、本明細書では「ラジカルを発生させる組成物」(プロオキシダント)の意味で用いている。すなわち、当該組成物は、過酸化水素(本開示では、食用キノコの搾液及び/又は抽出物に含まれる過酸化水素)と鉄を作用させることで、フェントン反応によってヒドロキシラジカルを発生させる組成物であるため、「ラジカル発生組成物」とした。
以下、本開示のラジカル発生組成物の第1の実施形態としての殺菌組成物と、第2の実施形態としての有機物の分解組成物について説明するが、本開示が以下の実施形態等に限定されるものではない。
【0015】
(第1の実施形態:殺菌組成物)
本開示の第1の実施の形態に係る殺菌組成物は、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物と、鉄供給原料と、を含む。また、第1の実施形態に係る殺菌組成物を用いた殺菌方法は、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物と、鉄供給原料と、を混合して、過酸化水素からヒドロキシラジカルを発生させる工程、を含む。
【0016】
[食用キノコの搾液及び/又はその抽出物]
第1の実施形態に係る殺菌組成物は、過酸化水素の供給原料として、天然由来の過酸化水素を多く含む「食用キノコの搾液及び/又はその抽出物」を用いる。一般的には、菌類のうち、肉眼で見える大きさで、柄や傘、若しくは糸状体、球塊状体等からなる子実体(担子器果)そのものが、「キノコ」と呼ばれる。また、子実体の先端は、石突(いしづき)と呼ばれる。また、食用キノコは、おがくず等の基材に、フスマ、おから、米ぬか等の栄養源を塩化された人工培地に、菌種を植え付けることにより栽培される。この菌種を含む人工培地は、菌床と呼ばれる。
【0017】
本実施形態及び以降の実施形態では、「キノコ」は、子実体だけでなく、菌床(「石突」も「菌床」に含むものとする)も含むものとする。また、第1の実施形態では、過酸化水素の供給原料として、人間等が喫食する「食用キノコ」を用いることで、天然由来の過酸化水素を使用でき、人体や環境への影響を適切に抑制可能としている。
【0018】
この「食用キノコ」は、子実体及び菌床の少なくとも何れかからなる。子実体及び菌床は、いずれも過酸化水素を含有する。「食用キノコ」の過酸化水素の含有量としては、5ppm以上が好ましく、100ppm以上が特に好ましい。「食用キノコ」は、乾燥処理や加熱処理がされていないものが好ましく、過酸化水素の適切な含有量を保持できる。
【0019】
ところで、キノコの人工栽培においては、子実体を収穫した後の菌床は、廃菌床として廃棄される。この廃菌床は、年間数千トンが排出され、その処分費用(焼却費用)がキノコ栽培業者の経営を圧迫し、増産の阻害要因ともなっている。そのため、低コストかつ短時間で大量の廃菌床を処分する技術の開発が切望されている。そこで、廃菌床を過酸化水素の供給原料として利用することで、殺菌や有機物の分解に好適なフェントン反応が得られる組成物を提供できるだけでなく、廃菌床や、廃棄される規格外品等の新たな再利用技術の確立が期待できるとともに、新たなビジネスチャンスも生まれ得る。
【0020】
「食用キノコ」としては、人が喫食可能であれば何れのものでもよく、天然のものでもよいし、人工栽培されたものでもよい。「食用キノコ」の種類としては、特に限定されないが、例えば、ハラタケ目、タマチョレイタケ目等に属するものが、天然由来の過酸化水素を多く含み、人体や環境への影響がなく、安価に入手できる等の点で好適である。
【0021】
より詳細には、「食用キノコ」は、シイタケ(ハラタケ目ホウライタケ科シイタケ属)、ブナシメジ(ハラタケ目シメジ科シロタモギタケ属)、ヒラタケ(ハラタケ目ヒラタケ科ヒラタケ属)、マッシュルーム(ハラタケ目ハラタケ科ハラタケ属)、マイタケ(タマチョレイタケ目トンビマイタケ科マイタケ属)、エノキタケ(ハラタケ目タマバリタケ科エノキタケ属)、ウスヒラタケ(ハラタケ目ヒラタケ科ヒラタケ属)、チャナメツムタケ(ハラタケ目モエギタケ科スギタケ属)、ムキタケ(ハラタケ目ガマノホタケ科ムキタケ属)、ハタケシメジ(ハラタケ目シメジ科シメジ属)、ヤマブシタケ(ハラタケ綱ベニタケ目サンゴハリタケ科サンゴハリタケ属)、カミハリタケ(ヒダナシタケ目エゾハリタケ科ブナハリタケ属)、ナメコ(ハラタケ目モエギタケ科スギタケ属)、ヌメリスギタケモドキ(ハラタケ目モエギタケ科スギタケ属)、アカゲキクラゲ(キクラゲ目キクラゲ科キクラゲ属)、タモギタケ(ハラタケ目ヒラタケ科ヒラタケ属)、サンゴハリタケ(ハラタケ網ベニタケ目サンゴハリタケ科サンゴハリタケ属)、ヤニタケ(タマチョレイタケ目ツガサルノコシカケ科ヤニタケ属)、等が好適に挙げられ、これらから選択される1以上からなることが好ましい。
【0022】
この中でも、「食用キノコ」として、シイタケ(ハラタケ目ホウライタケ科シイタケ属)、ブナシメジ(ハラタケ目シメジ科シロタモギタケ属)、ヒラタケ(ハラタケ目ヒラタケ科ヒラタケ属)、マッシュルーム(ハラタケ目ハラタケ科ハラタケ属)、及びマイタケ(タマチョレイタケ目トンビマイタケ科マイタケ属)が最も好適に挙げられ、これらの中から1種以上を選択することが好ましい。これらは、天然由来の過酸化水素を100ppm以上含有している、市場に多く出回っている、廃菌床の再利用に適している、等の点で、過酸化水素の供給原料として最も好適である。
【0023】
また、「食用キノコの搾液」(「搾汁液」ともいう。)は、食用キノコに強い圧力をかけたり、砕いたりして得られる液体又は、これを濾過して固形物を除いた液体である。「食用キノコの抽出物」は、搾液を濾過した後の残渣等でもよいし、搾液や残渣等から抽出した所定の成分(エキス)等でもよい。抽出物の抽出溶媒としては、水、熱水、アルコール(特にエタノール)、含水アルコール(特に含水エタノール)等が好適である。
【0024】
[鉄供給原料]
第1の実施形態に係る殺菌組成物は、鉄元素を供給する原料として、二価鉄の供給原料及び三価鉄の供給原料の少なくとも何れかを含有する。また、鉄元素を供給する原料として、ポリフェノール鉄錯体を用いることや、金属鉄の供給原料を用いることもできる。また、これらから選択された複数のものを混合して用いることもできる。これらの鉄供給原料を用いることで人体や環境への影響を抑制可能な殺菌組成物が得られる。さらに、第1の実施形態では、天然由来の過酸化水素を用いているので、以降で説明する鉄供給原料の中でも天然由来の鉄供給原料を用いることで、人体や環境への影響を、顕著に抑制可能な、天然由来の殺菌組成物(天然由来のラジカル発生組成物)を提供できる。
【0025】
ここで、「二価鉄化合物(二価鉄の供給原料)」としては、塩化鉄(II)、硝酸鉄(II)、硫酸鉄(II)、水酸化鉄(II)、酸化鉄(II)、酢酸鉄(II)、乳酸鉄(II)、クエン酸鉄(II)ナトリウム、グルコン酸鉄(II)など水溶性の鉄化合物、;炭酸鉄(II)、フマル酸鉄(II)などの不溶性の二価鉄化合物が挙げられる。
【0026】
「三価鉄の供給原料」としては、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、クエン酸鉄(III)、クエン酸鉄(III)アンモニウム、EDTA鉄(III)などの水溶性の三価鉄化合物;酸化鉄(III)、硝酸鉄(III)、水酸化鉄(III)、ピロリン酸鉄(III)などの不溶性の三価鉄化合物が挙げられる。
【0027】
また、これらの三価鉄化合物を多く含む天然原料としては、赤玉土、鹿沼土、ローム(アロフェン質の鉄分を多く含む土壌)、ラテライト(酸化鉄(III)を多く含む土壌)、ゲータイト(非結晶質の鉱物を含む土壌)などの土壌、;黄鉄鉱、白鉄鉱、菱鉄鉱、磁鉄鉱、針鉄鉱など天然の鉄鉱石、;これらの鉄鉱石が砂塵化した砂鉄、;ヘム鉄、貝殻などの生体由来の物質;などが挙げられる。
【0028】
また、「金属鉄の供給原料」としては、製錬鉄や合金などの鉄材が挙げられる。その他にも、「金属鉄の供給原料」として、錆び(サビ)も用いることができる。
【0029】
なお、上記の鉄供給原料は、水不溶性のものであっても、上記食用キノコに含まれる炭素のキレート能によって水溶化するため、鉄供給原料として直接用いることが可能である。また、上記鉄化合物が水に溶解した二価鉄イオン及び/又は三価鉄イオンを含む水溶液を用いることもできる。
【0030】
上記鉄供給原料のうち、フェントン反応を効率よく発生させるためには、水溶性の二価鉄化合物又は三価鉄化合物を用いることが好適である。特に、安価な塩化鉄、硫酸鉄などを用いることが好適である。また、原料コスト及び安定供給の観点を踏まえて製造するためには、天然物である土壌(特に赤玉土、鹿沼土、ロームなど)、金属鉄を鉄供給原料として用いることが好適である。
【0031】
「ポリフェノール鉄錯体」は、前述の特許文献1~3等に記載される、ポリフェノール類又はその供給原料と、鉄供給原料とを水の存在下で混合し、得られた反応生成物であって、二価鉄イオン(Fe2+)がポリフェノール類と錯体構造を形成してなるものである。
【0032】
ここで水存在下とは、ポリフェノール類と鉄が、水を媒質として反応できる条件であればよい。当該反応とは、具体的には、当該ポリフェノール類が鉄イオンを還元状態(二価鉄イオンであるFe2+の状態)にして、錯体を形成する反応であると推測される。混合の際のポリフェノール類と鉄の混合比率、水の量、混合温度、混合時間、混合手段等は、特許文献1~3に記載のこれらと同様のものとすることができる。
【0033】
鉄供給原料としては、上述した二価鉄化合物、三価鉄化合物、土壌、鉄鉱石、金属鉄からなる群より選ばれた1以上の鉄供給原料が用いられる。
【0034】
ポリフェノール類又はその供給原料と鉄供給原料との混合比率は、ポリフェノール類又はその供給原料の乾燥重量100重量部に対して、鉄供給原料を、鉄元素の重量換算で0.1重量部以上、100重量部以下となるように混合する比率とする。
【0035】
「ポリフェノール類」とは、複数のヒドロキシ基を有するフェノール性分子の総称である。「ポリフェノール類」は、ほとんどの植物に含有される化合物であり、フラボノイドやフェノール酸など様々な種類が知られている。
【0036】
具体的な化合物の例としては、カテキン(エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレートなど)、タンニン酸、タンニン、クロロゲン酸、カフェイン酸、ネオクロロゲン酸、シアニジン、プロアントシアニジン、テアルビジン
、ルチン、フラボノイド(ケルシトリン、アントシアニン、フラバノン、フラバノール、フラボノール、イソフラボンなど)、フラボン、カルコン類(ナリンゲニンカルコン等)、キサントフィル、カルノシン酸、エリオシトリン、ノビレチン、タンジェレチン、マグノロール、ホノキオール、エラグ酸、リグナン、クルクミン、クマリン、カテコール、プロシアニジン、テアフラビン、ロズマリン酸、キサントン、ケルセチン、レスベラトロール、没食子酸、フロロタンニン、などが挙げられる。また、分子内にこれらの化合物を1以上有する化合物(例えば、これらの化合物を含む形で結合し高分子化した複合体)も挙げられる。
【0037】
ポリフェノール鉄錯体に用いる「ポリフェノール類」は、上記のうち1種のみであってもよく、2種以上からなる組成物であってもよい。
【0038】
また、ある植物体から抽出したポリフェノール組成物については、その植物体の名称を付したポリフェノールとして呼ぶこともある。例えば、ブドウから抽出したポリフェノール類はブドウポリフェノールと呼ばれる。
【0039】
「ポリフェノール類の供給原料」としては、ポリフェノール類を含有する植物体(以下、「ポリフェノール含有植物体」と呼ぶ。)又はその加工品を用いることができる。ここで、「植物体」としては、植物体の果実、種子、茎、葉、外皮、芽、花、根、及び地下茎から選ばれる1以上が挙げられる。「ポリフェノール類の供給原料」として、このような天然由来の供給原料を用いることで、人体や環境への影響をより適切に抑制できる。
【0040】
「ポリフェノール含有植物体」としては、例えば、ハーブ類(ラベンダー、ミント、コリアンダー、クミン、セージ、レモングラス、ヨモギ、コンフリー、シソ、レモンバーム、オレガノ、キャットニップ、コモンタイム、ディル、ダークオパール、バジル、ヒソップ、ペパーミント、ラムズイヤーなど)、ドクダミ、マリゴールド、ブドウ、コーヒー(コーヒーノキ)、茶(チャノキ)、カカオ、アカシア、スギ、マツ、サトウキビ、マンゴー、バナナ、パパイア、アボカド、リンゴ、サクランボ(桜桃)、グァバ、オリーブ、イモ類(サツマイモ、紫イモ(紫色素を多く含有するサツマイモ)、ジャガイモ、ヤマイモ、タロイモ(サトイモ、エビイモなど)、コンニャクイモなど)、柿(カキノキ)、クワ、ブルーベリー、ポプラ、イチョウ、キク、ヒマワリ、竹、柑橘類(レモン、ライム、オレンジ、グレープフルーツ、ネーブル、ゆず、きんかん、かぼす、夏みかん、はっさく、いよかん、ライム、温州ミカン、シークヮーサー、マンダリンなど)、イチゴ、ブラックベリー、クランベリー、ラズベリー、ビルベリー、ハックルベリー、ウメ、桃、スモモ、ナシ、西洋ナシ、ビワ、キウイフルーツ、マンゴスチン、シシトウ、プルーン、メロン、ドラゴンフルーツ、クコ、カシス、カシュー、ガマズミ、ザクロ、アサイー、アロニア、ナス、トマト、大豆、黒大豆、小豆、サヤインゲン、落花生、黒胡麻、蕎麦、ダッタンソバ、ゴマ、紫キャベツ、ウルシ、ヌルデ、シュンギク、ブロッコリー、ホウレンソウ、コマツナ、ミツバ、オクラ、蕗、タマネギ、モロヘイヤ、シュンギク、ニンニク、紫タマネギ、アスパラガス、パセリ、ユーカリ、ウド、ギムネマ・シルベスタ、センナ、タンポポ、スギナ、シダ(ワラビ、ゼンマイなど)、ナラ、クヌギ、カエデ、セコイヤ、メタセコイヤ、ヒノキ、アカメガシワ、タカノツメ、アマチャ、アケビ、ヤマウコギ、リョウブ、タムシバ、コブシ、サルナシ、シロモジ、クロモジ、コシアブラ、クサギ、ホオノキ、マタタビ、バナバ、ルイボス、ラフマ、クズ、メグスリノキ、ウリン、メルバオ、アオギリ、スオウ、ブラジルボク、メリンジョ、サクラ、モクレン、イェルバ・マテ、メヒルギ、オヒルギ、ヤエヤマヒルギ、ハマザクロ、ニッパヤシ、ヒルギダマシ、ヒルギモドキ、サキシマスオウノキ、ゴボウ、ウコン、レンコン、海藻(海苔、ワカメ、昆布、アオサ、アラメ、サガラメなど)などが挙げられる。
【0041】
中でも、ブドウ、コーヒー(コーヒーノキ)、茶(チャノキ)、カカオ、アカシア、スギ、マツ、ゆず、レモン、ハーブ類(ラベンダー、ミント、コリアンダー、クミン、セージ、シソ、レモングラス、ヨモギ、コンフリー、レモンバーム、オレガノ、キャットニップ、コモンタイム、ディル、ダークオパール、バジル、ヒソップ、ペパーミント、ラムズイヤーなど)、ドクダミ、マリゴールド、サトウキビ、マンゴー、バナナ、パパイア、アボカド、リンゴ、サクランボ(桜桃)、グァバ、オリーブ、イモ類(サツマイモ、紫イモ(紫色素を多く含有するサツマイモ)、ジャガイモ、ヤマイモ、タロイモ(サトイモ、エビイモなど)、コンニャクイモなど)、柿(カキノキ)、クワ、ブルーベリー、ポプラ、イチョウ、キク、ヒマワリ、竹が好適に用いられる。
【0042】
ポリフェノール含有植物体の「加工品」としては、ポリフェノール含有植物体の乾燥物、搾汁液、抽出物、抽出液などを挙げることができる。また、搾汁液や抽出液を、さらに乾燥物としたものであってもよい。
【0043】
「乾燥物」としては、破砕、粉砕、粉末化などの処理を行ったものが望ましい。また、鉄との反応効率の観点を考慮すると、粒子径の小さい粉末にしたものが好適である。
【0044】
「抽出物」及び「抽出液」の抽出溶媒としては、水、熱水、アルコール(特にエタノール)、含水アルコール(特に含水エタノール)が好適である。
【0045】
ポリフェノール類の供給原料としては、ポリフェノール含有植物体又はその加工品を水もしくは熱水で抽出し、その後に残った残渣についても、好適に用いることができる。このような抽出残渣としては、例えばコーヒー粕、茶殻等が挙げられる。
【0046】
「コーヒー粕」とは、コーヒー豆の焙煎粉砕物を水又は熱水で抽出した後の残渣を指す。コーヒー粕は、ポリフェノール類を非常に多く含んでいるうえに、廃棄物であるため原料コストが低く抑えられるので、ポリフェノール類の供給原料として好適である。また、コーヒー豆の焙煎粉砕物を水又は熱水で抽出した成分(いわゆる淹れたコーヒーの成分)や、コーヒー豆、その焙煎物、粉砕物なども、ポリフェノール類を多く含んでいるため、好適に用いることができる。
【0047】
「茶殻」とは、茶葉又はその粉砕物を水又は熱水で抽出した後の残渣を指す。茶殻は、ポリフェノール類を非常に多く含んでいるうえに、廃棄物であるため原料コストが低く抑えられるので、ポリフェノール類の供給原料として好適である。
【0048】
茶殻の原料である「茶葉」としては、チャノキの茎葉を摘んだものであれば如何なるものも用いることができる。具体的には、緑茶(煎茶、番茶、茎茶、ほうじ茶など)、青茶(ウーロン茶など)、紅茶、黒茶(プーアル茶など)などを挙げることができる。中でも、緑茶、紅茶、ウーロン茶が好適である。
【0049】
また、茶葉又はその粉砕物を水又は熱水で抽出した成分(いわゆる淹れた茶の成分)や、茶葉、その加工品、粉砕物なども、ポリフェノール類を多く含んでいるため、ポリフェノール類の供給原料として好適に用いることができる。
【0050】
第1の実施形態においては、ポリフェノール含有植物体又はその加工品を、還元状態で熱分解することによって得られる乾留液(植物乾留液)についても、ポリフェノール類の供給原料として好適に用いることができる。
【0051】
この植物乾留液には、ポリフェノール類が多く含まれることに加えて、フェノール類、有機酸、カルボニル類、アルコール類、アミン類、塩基性成分、その他中性成分などの多くの還元性有機物の分子が含まれると推測される。ここで「還元性有機物」とは、還元力が強く、三価鉄を二価鉄に還元する作用を有する有機物を指す。
【0052】
植物乾留液は粘りけのある液体で、外見は赤褐色~暗褐色を呈する。原料とする植物体によって木酢液、竹酢液、籾酢液などの種類があり、いずれも好適に用いることができる。これらの植物乾留液は原液のまま用いることもできるが、濃縮液、希釈液、これらの乾燥物として用いることも可能である。
【0053】
〔食用キノコの搾液及び/又はその抽出物と鉄供給原料との混合処理〕
第1の実施形態に係る殺菌組成物は、上述のような食用キノコの搾液及び/又はその抽出物と、上述のような鉄供給原料(若しくは鉄イオン)を、混合することによって、フェントン反応が発生し、強い殺菌力が得られる。
【0054】
食用キノコの搾液及び/又はその抽出物と鉄供給原料の混合比率としては、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物の乾燥重量100重量部に対して、鉄供給原料を鉄元素の重量換算で0.1重量部以上、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは1重量部以上、さらに好ましくは2重量部以上、特に好ましくは3重量部以上、一層好ましくは4重量部以上を含有するように配合すればよい。鉄元素の割合が少なすぎる場合(鉄元素に対して食用キノコの混合割合が多すぎる場合)には、ラジカル消去によってフェントン反応が抑制されるため、好ましくない。
【0055】
また、鉄元素量の上限としては、鉄元素の重量換算で10重量部以下、好ましくは8重量部以下、より好ましくは6重量部以下を挙げることができる。鉄元素の割合が多すぎる場合(鉄元素に対して食用キノコの混合割合が少なすぎる場合)には、酸化鉄のスラッジが発生し、発生したスラッジのラジカル消去によってフェントン反応が抑制されるため、好ましくない。
【0056】
上記原料の混合操作は、水存在下において行われるが、水存在下とは、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物と鉄とが、水を媒質として反応できる条件であればよい。第1の実施形態に係る殺菌組成物は、食用キノコの搾液や抽出物(抽出液)等の液体を用いていることから、新たに水等の媒質を添加することなく、当該液体を直接に鉄供給原料と混合して反応させることができる。しかし、残渣やエキス等、水分量が少ないものを用いる場合は、水を添加してもよい。
【0057】
混合操作としては、かき混ぜ棒等によって単純な攪拌混合を行えばよいが、スターラー、ミキサー、大型攪拌槽、ボルテックス、シェーカーなどによっても行うことができる。ここで、水の温度としては、液体状態である温度であって(例えば、1℃以上)、食用キノコに含まれるカタラーゼ等の過酸化水素分解酵素を不活性化して、食用キノコ中の過酸化水素の消失を抑制できる温度であればよく、低温処理温度程度(10℃~60℃)、より好ましくは室温程度(例えば、10℃~40℃)で特に加熱を要することなく行うことができる。
【0058】
なお、鉄供給原料として特定の天然物(具体的には土壌)を用いた場合や、不溶性の鉄化合物が主体である場合、混合後、反応時間を長く取ることによって、鉄と食用キノコの搾液及び/又は抽出物が反応し易くする処理が必要となる。
【0059】
また、混合時間としては、食用キノコの搾液及び/又は抽出物と鉄が十分に接触するまで、約10秒以上行えばよいが、均一性を向上させるためには、好ましくは3分以上の混合処理を行うことが望ましい。また、混合時間の上限としては、微生物の繁殖による腐敗を防止するため、240時間以下で行うことが望ましい。
【0060】
以上説明したように、第1の実施形態では、過酸化水素の供給原料として、天然由来の過酸化水素を多く含む食用キノコの搾液及び/又はその抽出物を用いているため、人体や環境に対する影響を適切に抑制できる。また、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物に含まれる過酸化水素と鉄とによって、安定したフェントン反応が得られる。したがって、優れたフェントン反応が得られ、人体や環境への影響をより抑制することが可能な殺菌組成物を提供できる。
【0061】
殺菌対象としては、具体的には、医療器具、病室の壁、患者の患部、衣服、寝具など、食品の製造機器のライン、食材、まな板、包丁等の台所用品、食器、便座、手すり、農機具、養液栽培の装置や養液などが挙げられる。これらの殺菌に、第1の実施形態の殺菌組成物を用いることによって、通常の過酸化水素のみを用いた殺菌方法に比べて、大幅に(約99~99.9%程度も)過酸化水素の使用量を削減することが可能となる。また、食用キノコの搾液及び/又は抽出物に含まれる天然由来の過酸化水素を用いることから、人体や環境への影響を著しく抑制できる。
【0062】
また、このように人体や環境に対する影響が極めて少ないことから、第1の実施形態の殺菌組成物は、医薬、食品、公衆衛生、農業等、工業等、様々な用途に用いることができる。すなわち、過酸化水素として、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物に含まれる天然由来の過酸化水素を用いており、フェントン反応終了後には、過酸化水素が酸素と水に変化するため、特に食品分野での使用が期待される。さらに、過酸化水素の供給原料として食用キノコの廃菌床を用いることで、原料コストを低減できるとともに、廃菌床の再利用も可能となり、廃棄コストも低減できるため、農業、医薬、公衆衛生等の分野での使用が期待される。
【0063】
第1の実施形態においては、殺菌対象が固体か液体かで、実施態様が異なる場合がある。殺菌対象が固体である場合、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物と鉄供給原料とを含む溶液を調製し、殺菌対象に、噴霧、塗布、練り込み等することによって行うことができる。なお、殺菌対象を当該溶液中に浸漬することによっても行うことができる。また、鉄供給原料の殺菌対象への塗布や練り込み等を行い、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物を含む液体を噴霧等することによっても行うことができる。
【0064】
また、殺菌対象が液体である場合、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物と、鉄供給原料を、殺菌対象に添加、混合等することによって、行うことができる。
【0065】
これら殺菌に用いる溶液における食用キノコの搾液及び/又はその抽出物と鉄供給原料の使用量としては、上記フェントン反応が得られる濃度で調製して使用すればよい。また、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物から放出される過酸化水素の使用量としては、極めて微量でよく、0.1~20mM程度含むように用いればよい。当該殺菌効果は、極めて強力であるため、例えば、数分程度の浸漬によって、顕著な殺菌効果を奏する。
【0066】
(第2の実施形態:有機物の分解組成物)
本開示の第2の実施の形態に係る有機物の分解組成物は、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物と、鉄供給原料と、を含む。また、第2の実施の形態の有機物の分解組成物を用いた有機物の分解方法は、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物と、鉄供給原料と、を混合して、過酸化水素からヒドロキシラジカルを発生させる工程、を含む。
【0067】
第2の実施の形態に係る有機物の分解組成物は、過酸化水の供給原料として天然由来の過酸化水素を多く含む「食用キノコの搾液及び/又はその抽出物」を用いる。この「食用キノコの搾液及び/又はその抽出物」は、上述した第1の実施の形態の「殺菌組成物」で用いた「食用キノコの搾液及び/又はその抽出物」と同様のものを用いることができるため、詳細な説明は省略する。
【0068】
また、第2の実施の形態の有機物の分解組成物は、「鉄供給原料」を用いる。この「鉄供給原料」も、上述した第1の実施の形態の「殺菌組成物」で用いた「鉄供給原料の抽出物」と同様のものを用いることができるため、詳細な説明は省略する。
【0069】
また、第2の実施の形態における食用キノコの搾液及び/又はその抽出物と鉄供給原料との混合操作、混合比率等も、第1の実施の形態の「殺菌組成物」と同様のものとすることができるため、詳細な説明は省略する。
【0070】
第2の実施の形態では、過酸化水素として食用キノコの搾液及び/又はその抽出物に含まれる天然由来の過酸化水素を用いているため、人体や環境に対する影響を適切に抑制できる。また、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物に含まれる天然由来の過酸化水素と鉄とによって、安定したフェントン反応が得られる。したがって、優れたフェントン反応が得られ、人体や環境への影響をより抑制することが可能で、安価な有機物の分解組成物を提供できる。
【0071】
特に、この第2の実施形態の有機物の分解組成物は、有機物の分解、具体的には、有機系の汚染物質や有害物質の分解に好適に用いることができるため、環境浄化の一工程において有用である。
【0072】
ここで、汚染物質や有害物質としては、水質汚染、土壌汚濁、大気汚染を引き起こす物質をいう。例えば、生活排水、し尿水、工場排水、汚染された河川や湖沼水、ゴミ廃棄場の土壌、産業廃棄物、農地、工場跡地などに含まれる人体や環境に影響を与える有機系物質などが挙げられる。
【0073】
分解対象となる具体的な有機物としては、例えば、洗剤、飲食品残渣、し尿、糞便、農薬、悪臭物質、廃油、ダイオキシン、PCB、DNA、RNA、タンパク質など有機性廃棄物などが挙げられる。
【0074】
第2の実施形態でも、有機物の分解対象が固形か液体かで、有機物の分解組成物の態様が異なる場合がある。分解対象が固体である場合、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物と鉄供給原料とを含む溶液を調製し、対象に、噴霧、散布、塗布、練り込み等することによって行うことができる。なお、分解対象を当該溶液中に混合浸漬することによっても行うことができる。また、鉄供給原料の分解対象への塗布や練り込み等を行い、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物を含む液体を噴霧等することによっても行うことができる。
【0075】
また、分解対象が液体である場合、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物と、鉄供給原料を、分解対象に添加、混合、散布、浸漬等することによって、行うことができる。
【0076】
有機物の分解に用いる溶液における食用キノコの搾液及び/又はその抽出物と鉄供給原料の使用量としては、上記フェントン反応触媒能が得られる濃度で調製して使用すればよい。また、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物から放出される過酸化水素の使用量としては、極めて微量でよく、0.1~100mM程度含むように用いればよい。当該分解効果は極めて強力であるため、例えば、30分程度の浸漬によって、顕著な分解効果を奏することができる。
【0077】
以上説明したように、上記第1、第2の実施形態によれば、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物と、鉄供給原料と、を含むことから、食用キノコに含まれる高濃度の過酸化水素と、鉄とのフェントン反応により、ヒドロキシラジカルと呼ばれる強力な活性酸素が発生し、強い酸化力が得られる。また、過酸化水素として食用キノコの搾液及び/又はその抽出物に含まれる天然由来の過酸化水素を用いており、また、反応終了後に過酸化水素が水と酸素に変化するため、人体や環境への影響をより抑制することが可能な殺菌組成物又は有機物の分解組成物を提供できる。したがって、食用キノコの搾液及び/又はその抽出物と、鉄供給原料と、を含むことで、優れたフェントン反応が得られ、人体や環境への影響をより抑制することが可能なラジカル発生組成物を提供できる。
【0078】
また、上記各実施の形態で用いる食用キノコが、ハラタケ目ホウライタケ科シイタケ属、ハラタケ目シメジ科シロタモギタケ属、ハラタケ目ヒラタケ科ヒラタケ属、ハラタケ目ハラタケ科ハラタケ属、及びタマチョレイタケ目トンビマイタケ科マイタケ属、から選択される1以上からなる。これらの食用キノコは、高濃度の天然由来の過酸化水素を多く含むため、より適切にフェントン反応が得られ、より強力な殺菌効果又は有機物の分解効果が得られる。また、過酸化水素の供給原料を、安価で安定的に供給可能となる。
【0079】
また、上記各実施の形態では、食用キノコの子実体だけでなく、廃菌床として廃棄されていた菌床や、廃棄物として廃棄されていた傷んだものや規格外品をも、過酸化水素の供給原料として利用可能としている。このため、廃菌床や廃棄物の再利用の可能性が広がり、これらの廃棄のコストを大幅に削減できる。
【0080】
また、上記各実施の形態で用いる鉄供給原料は、ポリフェノール鉄錯体、二価鉄化合物、三価鉄化合物、土壌、鉄鉱石、金属鉄からなる群より選ばれた1以上のものである。このため、二価の鉄を長期間安定維持できる安定したフェントン反応が得られ、より適切な殺菌効果又は有機物の分解効果が得られる。また、これらは安価であるため、鉄供給原料のコストの削減、安定供給等が図られ、人体や環境への影響も抑制でき、農業、食品、医療などの分野でも好適に利用できる。また、土壌や金属鉄等は、有機農業で利用する場合等、原料に天然物を用いるのが望ましい場合に好適に利用できる。
【0081】
特に、鉄供給原料として、ポリフェノール鉄錯体を用いることで、二価の鉄を長期間安定維持でき、安定したフェントン反応を発生させることが可能となる。また、三価鉄や金属鉄についても二価に変換して長期間安定維持でき、安定したフェントン反応を発生させることが可能となる。ポリフェノール鉄錯体は、ポリフェノール類又はその供給原料と、二価鉄化合物、三価鉄化合物、土壌、鉄鉱石、金属鉄からなる群より選ばれた1以上の鉄供給原料と、を、水存在下にて混合することによって得られた反応生成物であり、製造が容易であるとともに、人体や環境への影響を抑制可能な鉄供給原料である。
【実施例0082】
以下、実施例及び実験例を挙げて本開示を具体的に説明するが、本開示が以下の実施例等に限定されるものではない。
【0083】
(実験例1)
[食用キノコに含まれる過酸化水素の検出]
下記表1に示す食用キノコについて、過酸化水素の検出実験を行った。
実験方法:
表1に示す各試料のそれぞれから搾液を作製し、精製した。具体的には、市販のニンニク圧縮機(ニンニク絞り機)を用意し、このニンニク圧縮機に濾紙をセットし、各試料を入れて手動で圧縮することで、キノコから液体を搾り出し、濾過することで、精製された搾液を得た。各試料の搾液について、過酸化水素試験紙を用いて過酸化水素の有無を検査した。
実験結果:
下記表1に、検証した食用キノコの名前、学名、及び検査結果を示す。表1中の「+」は、過酸化水素が検出されたことを示す。
【0084】
【表1】
【0085】
上記表1に示すように、全ての試料(食用キノコ)の搾液から過酸化水素が検出された。これらの中でも、特に、シイタケ(クヌギ原木で栽培したシイタケ)、ブナシメジ、ヒラタケ、マッシュルーム、及びマイタケの搾液には、試験紙が青く変化するほど高い過酸化水素濃度が認められ、それぞれ100ppm以上の過酸化水素が検出された。図1図5に、実験に使用したシイタケの搾液、ブナシメジ(子実体)、ヒラタケ(子実体)、マッシュルーム(子実体)、及びマイタケ(子実体)と、検査後の過酸化水素試験紙を示す。
【0086】
(実施例1)
実施例1として、食用キノコ(シイタケ)の搾液と、鉄塩(硫酸鉄)を含有する有機物の分解組成物を作製した。この分解組成物を用いて、食用キノコの搾液と、鉄塩とを用いたフェントン反応による有機物の分解効果を検証する実験を行った。
実験方法:
メチレンブルー液200mlをビーカーに入れ、シイタケ20gと、硫酸鉄200mgを添加し、攪拌した後、放置した。シイタケは、全体的に茶色でブヨブヨして傷みが進んだ状態であり、圧搾しなくても手で絞るだけで、崩れて液体が滲み出る状態のものを使用した。
【0087】
実験結果:攪拌から30分間で、メチレンブルーの殆どが分解された。図6は、実施例1のシイタケの搾液と鉄塩を含有する有機物の分解組成物による、メチレンブルーの分解効果の実験結果を示す写真像図である。この図6の紙面左図は、攪拌前のメチレンブルー液の写真像図であり、紙面右図は、攪拌から30分後のメチレンブルー液の写真像図である。この図6に示すように、攪拌前はメチレンブルー液の色はブルーであったが、攪拌から30分後は、ブルーの色がほぼ消失した。
【0088】
また、図7に、シイタケの搾液と鉄塩を添加しないメチレンブルー液(無処理区)と、シイタケと硫酸鉄を添加したメチレンブルー液(攪拌から30分後)のメチレンブルー濃度の測定グラフを示す。この図7のグラフからも、シイタケの搾液中の過酸化水素と硫酸鉄とのフェントン反応により、メチレンブルー液の殆どが分解されたことがわかる。よって、図6図7の結果から、実施例1の有機物の分解組成物は、優れたフェントン反応が得られ、有機物の分解効果に優れることがわかった。また、喫食に適さないほど傷んで、廃棄せざるを得ないような食用キノコを使用した場合でも、優れた殺菌効果が得られることがわかり、廃棄物の低減、廃棄物の有効利用が可能となる。
【0089】
(実施例2)
[シイタケの搾液と鉄塩の反応によるラジカル発生の検討]
ESRスピントラッピング法によって、シイタケの過酸化水素と鉄塩の反応で発生するヒドロキシラジカル(・OH)の同定を行った。
実験(測定)方法:
過酸化水素を含有するシイタケの搾液を鉄塩と反応させた反応物(実施例2の有機物の分解組成物)について、スピントラップを用いたESR法によるヒドロキシラジカルの測定を行った。
測定装置:Magnettech ESR5000 EPR分光計
分析条件:Magnetic field, 337.5mT
Field modulation frequency:100kHz
Field modulation width:0.16mT
Sweep time:60s
Microwave frequency:9.463GHz;
Microwave power:5mW
分析試料の作製:
1)DMPO(スピントラップ剤) 220mM液 100μL
2)リン酸バッファー pH7.4 100μL
3)硫酸鉄 1mM液 10μL
4)シイタケの搾液 100μL
上記1)~4)の試薬を反応セールに入れ測定を行った。
【0090】
・実験結果:
図8にスピントラップを用いたESR法によるヒドロキシラジカルの同定実験の結果として、ESRスペクトルの測定結果を示す。この図8中、矢印で示した箇所は、ヒドロキシラジカル(・OH)が存在した場合のみに生じる特徴的なスペクトルである。したがって、シイタケの搾液中の過酸化水素と鉄塩の反応によって、ヒドロキシラジカル(・OH)が発生することが示された。
【0091】
(実施例3)
[シイタケの搾液と鉄塩を用いたフェントン反応による大腸菌の殺菌効果の実験]
シイタケの搾液と鉄塩を用いたフェントン反応による殺菌効果を、大腸菌を用いて検証した。
実験方法:
シイタケの搾液890μLに、大腸菌の菌液10μL(1.0×106cfu/m)を添加して混合した。この混合液に、100μLの鉄塩液(10mM Fe)を混合し、攪拌した。シイタケの搾液と鉄塩による反応生成物が、実施例3の殺菌組成物である。なお、対照として、蒸留水990μLと大腸菌10μLの混合液を調製した。そして、攪拌して30分後に、各溶液から0.1mLを分取し、LB培地で平板培養し、大腸菌の生存の状態を確認した。
【0092】
実験結果:
実験結果を図9に示す。図9の(1)は、蒸留水と大腸菌の混合液(対照)の殺菌効果を示す写真像図であり、図9の(2)は、実施例3の殺菌組成物としてのシイタケの搾液と鉄塩と大腸菌との混合液の殺菌効果を示す写真像図である。この図9に示されるように、蒸留水と大腸菌を混合した対照区では、大腸菌が生存していたのに対し、シイタケの搾液と鉄塩と大腸菌とを混合したものでは、30分間で大腸菌が全滅した。この実験により、実施例3の殺菌組成物は、シイタケに含まれる過酸化水素と鉄塩とのフェントン反応により、強力な殺菌作用を奏することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本開示の殺菌組成物及び有機物の分解組成物は、フェントン反応による強い酸化力を示し、人体や環境への影響も抑制できることから、例えば、食品、医療、公衆衛生、農業、環境浄化などの幅広い分野での殺菌や有機物分解に幅広く利用されることが期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9