(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133713
(43)【公開日】2022-09-14
(54)【発明の名称】ケーキの製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 6/00 20060101AFI20220907BHJP
A21D 13/80 20170101ALI20220907BHJP
【FI】
A21D6/00
A21D13/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021032560
(22)【出願日】2021-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増子 朝貞
(72)【発明者】
【氏名】椋田 貴寛
(72)【発明者】
【氏名】松浦 傳史
(72)【発明者】
【氏名】西津 貴久
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB05
4B032DP08
(57)【要約】
【課題】口どけの低下を防ぐことができる、ケーキの製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】ケーキ材料を撹拌してケーキ生地を得る撹拌工程、及び得られたケーキ生地を型に入れて焼成又は蒸成する焼成工程、を含むケーキの製造方法であって、
前記撹拌工程は、ケーキ生地の共鳴周波数を計測し、該共鳴周波数の計測結果を指標にして撹拌終点を判断する、製造方法により課題を解決する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーキ材料を撹拌してケーキ生地を得る撹拌工程、及び得られたケーキ生地を型に入れて焼成又は蒸成する焼成工程、を含むケーキの製造方法であって、
前記撹拌工程は、ケーキ生地の共鳴周波数を計測し、該共鳴周波数の計測結果を指標にして撹拌終点を判断する、製造方法。
【請求項2】
前記共鳴周波数の測定は、ヘルムホルツ共鳴測定装置を用いて行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ヘルムホルツ共鳴測定装置は、入力信号としてスイープ波を用いる、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記撹拌終点の判断は、撹拌開始後であって、且つ共鳴周波数Rf(Hz)が共鳴周波数最大値Rfmax到達後Rfmax-4.0となる時点までに行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記撹拌終点の判断は、撹拌開始後であって、且つ共鳴周波数Rf(Hz)が共鳴周波数最大値Rfmax到達後0.98Rfmaxとなる時点までに行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記撹拌終点の判断は、横軸に時間(分)、縦軸に共鳴周波数(Hz)をそれぞれプロットした共鳴周波数曲線において、接線の傾きが-0.5となる時点までに行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な口どけ感を有するケーキの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スポンジケーキを始めとするケーキは典型的に、ケーキの材料を撹拌する工程、及び撹拌した材料を型に流し込み、オーブンなどで焼成する又は蒸し器で蒸成する工程、を経て製造される。
ケーキの製造においては、口当たりを良くするため、様々な方法が検討されている。例えば特許文献1では、撹拌工程において加圧状態で撹拌することで、起泡状態が良好に維持され、焼き上がり状態がふんわりし、従来のスポンジケーキと比較してより大きく膨らみ、口当たりもよりソフトなものを提供できる、とされている。
【0003】
また、撹拌工程における撹拌の目安として、撹拌後のスポンジケーキの比重を確認することが行われており、例えば特許文献2では、生地比重が0.40~0.60g/mLになるまでホイップすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5792966号
【特許文献2】特許第6510364号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載されたように、従来、撹拌工程における撹拌終点は、ケーキ生地の比重により決定する場合があった。すなわち、ケーキ生地の比重を測定し、一定の比重まで低下したことを確認したうえで、撹拌工程を終了していた。
しかしながら本発明者が検討したところ、ケーキ生地の比重を確認することで撹拌終点を決定する方法では、比重測定の度に攪拌を停止するため、製造時間が長くかかり、生地が不安定化するため、ケーキ品質が低下し易かった。更に、比重としては適正な範囲にあるケーキ生地を焼き上げたり蒸し上げたりしてケーキとした際、その口どけが低下する場合があった。
本発明は、口どけの低下を防ぐことができる、ケーキの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ね、ケーキ材料の比重が低下するのに応じて共鳴周波数が上昇して、ある時点で共鳴周波数が飽和し、その後のオーバーミキシングにより共鳴周波数が減少するという知見を得た。そして、ケーキの共鳴周波数の計測結果を指標にして撹拌終点を判断することで、ケーキの口どけ低下を防止できることを見出た。
【0007】
すなわち本発明は、以下のものを含む。
[1]ケーキ材料を撹拌してケーキ生地を得る撹拌工程、及び得られたケーキ生地を型に入れて焼成又は蒸成する焼成工程、を含むケーキの製造方法であって、
前記撹拌工程は、ケーキ生地の共鳴周波数を計測し、該共鳴周波数の計測結果を指標にして撹拌終点を判断する、製造方法。
[2]前記共鳴周波数の測定は、ヘルムホルツ共鳴測定装置を用いて行われる、[1]に
記載の製造方法。
[3]前記ヘルムホルツ共鳴測定装置は、入力信号としてスイープ波を用いる、[2]に記載の製造方法。
[4]前記撹拌終点の判断は、撹拌開始後であって、且つ共鳴周波数Rf(Hz)が共鳴周波数最大値Rfmax到達後Rfmax-4.0となる時点までに行う、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]前記撹拌終点の判断は、撹拌開始後であって、且つ共鳴周波数Rf(Hz)が共鳴周波数最大値Rfmax到達後0.98Rfmaxとなる時点までに行う、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記撹拌終点の判断は、横軸に時間(分)、縦軸に共鳴周波数(Hz)をそれぞれプロットした共鳴周波数曲線において、撹拌開始後であって、接線の傾きが-0.5となる時点までに行う、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、口どけの低下を防ぐことができる、ケーキの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】実施例で用いたケーキ生地比重と共鳴周波数測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
本発明の一実施形態は、ケーキ材料を撹拌してケーキ生地を得る撹拌工程、及び得られたケーキ生地を型に入れて焼成又は蒸成する焼成工程、を含むケーキの製造方法であって、前記撹拌工程は、ケーキ生地の共鳴周波数を計測し、該共鳴周波数の計測結果を指標にして撹拌終点を判断する、製造方法である。
本実施形態で製造するケーキは、撹拌工程、焼成工程を経て製造されるケーキであれば特段限定されず、スポンジケーキ、シフォンケーキ、パウンドケーキ、バターケーキ、マドレーヌ、フィナンシェ、ガトーショコラ、チーズケーキ、マフィン、パンケーキ、サブレ、ブッセ、カステラ、蒸しケーキなどがあげられる。生地管理が難しく、オーバーミキシングによる食感低下が起こりやすい点から、攪拌工程において気泡を多く含ませる、スポンジケーキやシフォンケーキであることが好ましい。
【0012】
<撹拌工程>
(ケーキ材料)
ケーキ材料は、澱粉類、卵類、糖類・甘味料、油脂類、起泡剤、ベーキングパウダーなどを含み得るが、これらに限られない。ミキシング時間を短縮し、安定した製造を行う点で、起泡剤を含むことが好ましい。
澱粉類としては、強力粉、中力粉、薄力粉等の小麦粉、ライ麦粉、大麦粉、米粉、そば粉、大豆粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉などが挙げられる。
卵類としては、全卵、卵黄、卵白などが挙げられ、これらが雑菌されたものや、これらに加塩・加糖されたものであってもよい。
【0013】
糖類・甘味料としては、上白糖、グラニュー糖、粉糖、ブドウ糖、果糖、ショ糖、ソルビトール、トレハロース、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、オリゴ糖、ステビア、アスパルターム、などが挙げられる。
油脂類としては、食用油脂であれば限定されず、植物性油脂であっても動物性油脂であってもよく、また常温固体の油脂であってもよく、常温液体の油脂であってもよく、油脂を粉末化した粉末油脂であってもよい。
【0014】
起泡剤としては、生地を起泡させることができるものであればよい。起泡効率や泡の安定性が良いことから、乳化剤主体のものが好ましい。また、複数の乳化剤を配合してもよく、タンパク、糖、油脂などを含んでもよい。市販の起泡剤としては、リョートーエステルSP-A、オイルホップ-P(三菱ケミカルフーズ)、エマアップKM-100、エマルジーKM-500、パティグラース100、パティグラース300、フレンジーF、フレンジーL、パティグラースTD(理研ビタミン)、 マリッシュゴールド、ロフティF、ハイロフティ(花王)、ユニテックスSP、ユニテックスSAV、ユニテックスS-1NV、ユニテックスHV、ユニテックスHV、ユニテックスFV、スパール、ユニアップ(旭東化学)、クレビスGL(カネカ)、トルテ(ADEKA)、ケークドール、パルファンドール、デリドール、マジカルケーク(ミヨシ油脂)、パフォーマーG、クレマトルテ、パスキーG(月島食品工業)、サンショート、アルエット、サンシフォン(日油)などが挙げられるが、これらに限らない。
【0015】
乳化剤としてはショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸ナトリウム、ステアロイル乳酸カルシウム、レシチンなどが挙げられる。ケーキ生地の起泡性を向上させるために、グリセリン脂肪酸エステルを用いることが好ましい。また、これら乳化剤を食感改良や、品質維持の目的で別途添加してもよい。
【0016】
ベーキングパウダーとしては、ガス発生源となる、炭酸水素ナトリウム、塩化アンモニウム等のアルカリ性成分と、ガス発生促進の役割を果たす酸性成分から成る組成物が挙げられる。酸性成分としては、酒石酸水素カリム、リン酸二水素カルシム、酒石酸、焼きミョウバン、フマル酸、リン酸ナトリウム、グルコノデルタラクトンなどが挙げられ、分散剤として、澱粉、デキストリン等の分散剤が添加されてもよい。
その他、通常ケーキ生地に配合され得る乳製品、ココアパウダー、チョコレート、抹茶、食塩、香料、着色剤、水などを適宜配合してもよい。
【0017】
ケーキ材料におけるそれぞれの成分の含有量も特に限定されず、通常澱粉類100質量部に対して、卵類を50~300質量部、糖類・甘味料を0~200質量部、油脂類を0~200質量部、起泡剤を0~30質量部、ベーキングパウダーを0~10質量部配合できる。
【0018】
(ケーキの製造方法)
ケーキ材料の添加方法、ケーキの製造方法は特に限定されない。ケーキの製造方法としては、卵白を起泡させる別立て法、卵白および卵黄を起泡させる共立て法、全ての材料を起泡させるオールインミックス法、一部の粉体材料および/または、一部の油脂材料をオールインミックス法の終盤に添加する後粉法、後油法などが挙げられるが、製造の簡便さからオールインミックス法が好ましい。
【0019】
(撹拌条件)
撹拌工程における撹拌速度、撹拌温度などの撹拌条件は特に限定されず、通常ケーキ生地を撹拌する条件であれば特段限定されない。また、撹拌は比重が所望の値となるまで行うことが好ましい。
【0020】
(ヘルムホルツ共鳴測定装置)
本実施形態では、ケーキ生地の共鳴周波数を計測し、該共鳴周波数の計測結果を指標にして撹拌終点を判断する。ケーキ生地の共鳴周波数は、ヘルムホルツ共鳴測定装置により測定できる。
図1にヘルムホルツ共鳴測定装置の模式図を示す。
【0021】
ヘルムホルツ共鳴測定装置10は、PC11とサウンド入出力用デバイス12とアンプ13とスピーカー14とからなる。スピーカー14はアンプ13と接続されており、PC11に入力した音波をサウンド入出力用デバイス12から出力できる。アンプ13を配置することで、スピーカー14から発する音を増幅することができる。撹拌ボウル17とスピーカー14の間には、音波を逃がさないための容器カバー15と、ヘルムホルツ共鳴のためのネックチューブ16とが取り付けられる。この構成により、撹拌されている生地(図示せず)に対して、スピーカー14より音を出し、その共鳴音を検知し、共鳴周波数を測定する測定装置(図示せず)により、撹拌ボウル17中の生地の共鳴音を検知し、共鳴周波数を測定できる。
【0022】
ヘルムホルツ共鳴測定装置の、入力信号は、スピーカーの性能と共鳴させる攪拌ボウルのサイズにより適宜選択できるが、スイープ波を用いることが好ましく、リニアスイープ波を用いることで、特定の周波数域の共鳴周波数のみを短時間で効率よく計測することができる。周波数は、20Hz~400Hzを用いることが好ましく、より好ましくは100Hz~300Hzであり、更に好ましくは170Hz~220Hzである。上記範囲の入力信号を用いることでミキサーボール内の生地の共鳴を安定して取得することができる。低すぎると、スピーカーの最低周波数帯以下となる傾向にあるため好ましくない。また、高すぎると、攪拌ボウル内で共鳴が上手くいかない場合があるため好ましくない。
【0023】
共鳴周波数は、ケーキ生地の比重の低下に伴い増加するため、事前に測定されていた比重とのキャリブレーションをとることで比重値に換算することができる。キャリブレーションは、同組成、同重量からなる、異なる比重値のケーキ生地を用い、共鳴周波数を測定することで、実施することができる。
【0024】
本実施形態では、撹拌終点の判断を、従来行われていたケーキ生地の比重ではなく、ケーキの共鳴周波数の計測結果を指標にして撹拌終点を判断する。併せてケーキの比重を測定してもよい。
具体的には、撹拌終点の判断の方法として、以下の方法が挙げられる。
【0025】
第1の方法としては、前記撹拌終点の判断を、目標比重と相関する共鳴周波数Rf(Hz)に到達した時点で行う方法である。これは、気泡をあまり含ませず、最低比重到達前、すなわち、共鳴周波数最大値到達前に生地を焼成したい場合に有効である。
第2の方法としては、前記撹拌終点の判断を、撹拌開始後であって、且つ共鳴周波数Rf(Hz)が共鳴周波数最大値Rfmax到達後Rfmax-4.0となる時点までに行う方法である。
第3の方法としては、前記撹拌終点の判断を、撹拌開始後であって、且つ共鳴周波数Rf(Hz)が共鳴周波数最大値Rfmax到達後0.98Rfmaxとなる時点までに行う方法である。
第4の方法としては、前記撹拌終点の判断を、横軸に時間(分)、縦軸に共鳴周波数(Hz)をそれぞれプロットした共鳴周波数曲線において、接線の傾きが-0.5となる時点までに行う方法である。
第2~第4の方法は、できるだけ多くの気泡を含ませた、ソフトな食感のスポンジケーキなどのオーバーミキシング防止に有効である。
【0026】
本発明者が得た知見では、ケーキ材料の比重が低下するのに応じて共鳴周波数が上昇し、ケーキ材料の比重が低下しなくなっても共鳴周波数が上昇する場合がある。そして、共
鳴周波数はある点で飽和し、緩やかに減少を始める。そして、オーバーミキシングにより、共鳴周波数も減少し、それに伴い口どけも低下する。
したがって、従来行われていたケーキ生地の比重ではなく、ケーキの共鳴周波数の計測結果を指標にして撹拌終点を判断することで、口どけの低下を抑制しえる、ケーキの製造方法を提供することができる。
【0027】
上記第2の方法において、前記撹拌終点の判断を、撹拌開始後であって、且つ共鳴周波数Rf(Hz)が共鳴周波数最大値Rfmax到達後Rfmax-3.0となる時点までに行うことが好ましい。
上記第3の方法において、前記撹拌終点の判断を、撹拌開始後であって、且つ共鳴周波数Rf(Hz)が共鳴周波数最大値Rfmax到達後0.985Rfmaxとなる時点までに行うことが好ましい。
【0028】
<焼成工程>
焼成工程は、得られたケーキ生地を型に入れて焼成する。焼成工程には蒸気で蒸し上げる蒸成も含まれる。型の形状は適宜選択してよく、また焼成時間、焼成温度も常法に従い決定すればよい。
【0029】
<ケーキの特徴>
こうして得られたケーキは、撹拌工程におけるオーバーミキシングを防ぐことができており、口どけ感が非常に良好なケーキとなる。
【実施例0030】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲が実施例の記載により限定されないことはいうまでもない。
【0031】
(比重測定方法)
比重測定は、一定容器にケーキ生地を詰めて、摺切り、質量を測定した。その重量を、同体積の水質量で割り、ケーキ生地の比重とした。
【0032】
(共鳴周波数測定方法)
図1に模式図を示すヘルムホルツ共鳴測定装置(170Hz~220Hzのリニアスイープ波3秒照射)を用いて、試料に対してヘルムホルツ共鳴測定を行った。得られた音波データは共鳴周波数測定解析ソフトウエアを用いて解析し、ミキシング中の生地の連続的な共鳴周波数の経時変化を測定した。
測定したデータをFFT(高速フーリエ変換)等でスペクトルを計算し、Savitzky-Golayフィルター(2次)をかけた後、1次微分を実施し、そのゼロクロス点を検出することで、共鳴周波数を決定した。
【0033】
更に、ミキシング時間(分)を横軸に、共鳴周波数(Hz)を縦軸にプロットしたグラフより、共鳴周波数の最大値Rf
maxを求め、各ミキシング時間における共鳴周波数Rfを用いて、以下の値を算出した。実施例で用いた原料のミキシング時間と生地の共鳴周波数とをプロットしたグラフを
図2に示す。なお、
図2には併せて生地の比重も示す。
(i)共鳴周波数最大値と各時間における共鳴周波数との差(ΔHz)=共鳴周波数最大値-各時間における共鳴周波数
(ii)共鳴周波数最大値と各時間における共鳴周波数との差(%)=各時間における共鳴周波数最大値との差/共鳴周波数最大値×100
(iii)各ミキシング時間におけるグラフ接線の傾き
【0034】
(ケーキ食感の評価方法)
ケーキ生地を用いて焼成したケーキを放射状に16等分し、クラム中心部のみを試料とした。試料には無作為な記号を割り当て、サーストンの一対比較による官能評価を行い、2者間でより口どけ感の悪いものを8名のパネルに選択させた。対象に比べ、口どけが悪いと評価した回答数をサーストンの一対比較法に準じ、解析を行い、尺度値を口どけの悪さのスコアとして算出した。なお,一意性の係数を用いて1以下となったパネルは回答に矛盾があるとして排除した。
また、口どけ感が悪いと選択したケーキについて、「大きな塊となって残る」・「細かい粒が口に残る」・「ペースト状に残る」・「口腔内に付着する」の4用語から複数用語を選択させた。各用語は、「大きな塊となって残る」は崩壊した粒が結着して大きな塊になる、「細かい粒が口に残る」は崩壊した粒がかすとして残る、「ペースト状に残る」はさらさらと液体化し流動して残る、「口腔内に付着する」は歯や頬などにくっつくと定義し、評価パネルに事前に説明を行った。
【0035】
(ケーキ内相の観察)
焼成ケーキの内相を1cm角に切り取り、X線μCTスキャナ(Sky scan社製、1172型)を用いて観察した。撮影したX線μCTスキャナ透視画像は、再構築プログラム(NRecon,SkyScan)を用いて再構築した。再構築した画像について、画像ソフトimageJを用いて、2値化処理することで気泡と気泡膜を判別し、気泡膜厚を算出した。
【0036】
(実施例1)
表1の重量比の原料のうち、全卵をミキサーボール(エフエムアイ製 KitchenAid KSM150WH)に入れ、卵白・卵黄を混ぜた後、砂糖、起泡剤、水をミキサーボールに加え、1速で2分・2速で1分撹拌し均一に分散させた。
次に、一緒にふるいにかけた薄力粉とベーキングパウダーをミキサーボールに加え、1速1分で撹拌後、バッター比重と共鳴周波数を測定しながら、4速でホイップを行った。この4速ホイップの時間をホイップ時間とし、バッター比重が目標値0.40(±0.03)となるまで6分撹拌した。攪拌終了後、250gのバッターを直径15cmのデコ型に入れ、オーブン(フジサワ QueenOven EPQ-8-2)で、上火170℃、下火180℃で40分間焼成し、実施例1のケーキとした。攪拌停止時の共鳴周波数Rfを表2に記載した。焼成したケーキは官能評価により、口どけを評価した。また、X線μCTスキャンにより、ケーキ内相の膜の厚さを測定した。
【0037】
(実施例2)
4速ホイップ開始から、10分経過後の生地を用いた以外、実施例1と同様に作成したケーキを実施例2とした。攪拌停止時の共鳴周波数Rfを表2に記載した。
【0038】
(比較例1)
4速ホイップ開始から、16分経過後の生地を用いた以外、実施例1と同様に作成したケーキを比較例1とした。攪拌停止時の共鳴周波数Rfを表2に記載した。
【0039】
【0040】
【0041】
表2に示す通り、比重管理では、ホイップ時間6分、10分、16分では、いずれも比重0.4(±0.03)を示しており目標比重の範囲内であった。一方共鳴周波数は、8分を最大値として減少した。
焼成したケーキの口どけは、ホイップ時間10分では許容範囲であったが、口どけの悪さを示す口どけスコアは共鳴周波数の低下と共に増加し、食べた時に大きな塊となって残るペースト状に残ると回答した人数も増加した。
【0042】
共鳴周波数の低下に伴う、口どけの悪さの増加に伴い、焼成したケーキの気泡膜厚も増加した。ケーキの気泡膜は、ケーキ生地の気泡が不安定化し、合一することで、厚くなる
ことが知られている。共鳴周波数の低下は、気泡による吸音エネルギーの増加を示していることから、ケーキ生地ホイップ中に共鳴周波数を測定することで、気泡が不安定化し、口どけが悪くなる前にホイップを停止することができ、口どけの良いケーキを提供することができる。