(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133940
(43)【公開日】2022-09-14
(54)【発明の名称】異性体調製装置
(51)【国際特許分類】
C07B 55/00 20060101AFI20220907BHJP
C07B 57/00 20060101ALI20220907BHJP
C07C 317/22 20060101ALI20220907BHJP
C07C 315/00 20060101ALI20220907BHJP
C07C 315/06 20060101ALI20220907BHJP
A61K 31/4439 20060101ALN20220907BHJP
C07D 401/12 20060101ALN20220907BHJP
【FI】
C07B55/00 A
C07B57/00 380
C07C317/22
C07C315/00
C07C315/06
A61K31/4439
C07D401/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021032905
(22)【出願日】2021-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(71)【出願人】
【識別番号】000000192
【氏名又は名称】岩崎電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【弁理士】
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀依
(72)【発明者】
【氏名】牧野 宏章
(72)【発明者】
【氏名】田中 優希
(72)【発明者】
【氏名】石原 英明
(72)【発明者】
【氏名】江湖 俊介
(72)【発明者】
【氏名】金丸 国夫
【テーマコード(参考)】
4C063
4C086
4H006
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB08
4C063CC26
4C063DD12
4C063EE01
4C086BC39
4C086GA07
4C086GA08
4C086NA05
4H006AA02
4H006AA04
4H006AC82
4H006AC83
4H006AD17
4H006BA95
4H006BD30
4H006BD51
4H006BD84
(57)【要約】
【課題】異性体混合物から所望の異性体を高収率に得ることが可能な異性体調製装置を提供すること。
【解決手段】異性体混合物の一方の異性体を選択的に調製する異性体調製装置であって、異性体混合物を一方の異性体と他方の異性体とに分割する分割部と、分割部により分割された他方の異性体に光を照射することで光異性化する光照射部と、を有し、分割部は、光照射部により光異性化された異性体混合物を一方の異性体と他方の異性体とに分割し、光照射部は、他方の異性体が流通する流路と、流路の周囲に複数配置される光源と、を含む、異性体調製装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異性体混合物の一方の異性体を選択的に調製する異性体調製装置であって、
前記異性体混合物を前記一方の異性体と他方の異性体とに分割する分割部と、
前記分割部により分割された他方の異性体に光異性化を誘起する光を照射可能に構成された光照射部と、を有し、
前記分割部は、前記光照射部により光異性化された異性体混合物を前記一方の異性体と前記他方の異性体とに分割し、
前記光照射部は、前記他方の異性体が流通する流路と、前記流路に沿って配置される光源と、前記流路と前記光源とを収容可能な筐体と、を含む、異性体調製装置。
【請求項2】
前記分割部は、前記光照射部により光異性化された異性体混合物を、前記一方の異性体と前記他方の異性体とに分割することを複数回繰り返し行うことが可能である、請求項1に記載の異性体調製装置。
【請求項3】
前記流路には、担体に光増感剤を固定化した固相光増感剤が充填される、請求項1又は2に記載の異性体調製装置。
【請求項4】
前記流路には、光透過性粒子が更に充填される、請求項3に記載の異性体調製装置。
【請求項5】
前記流路は、前記光源から照射される光が透過可能な材料で構成される、請求項1~4のいずれかに記載の異性体調製装置。
【請求項6】
前記筐体は、金属材料により構成され、前記光源から照射される光の外部への漏洩を防止する、請求項1~5のいずれかに記載の異性体調製装置。
【請求項7】
前記流路表面の温度及び放射照度のうち、少なくとも何れかを検出可能なセンサを有し、
前記光源から前記流路に対して照射される光の光量は、前記センサの検出結果により制御される、請求項1~6のいずれかに記載の異性体調製装置。
【請求項8】
前記光源から照射される光の波長範囲は、200nm~450nmの範囲内である、請求項1~7のいずれかに記載の異性体調製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異性体調製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、異性体同士は、それぞれ異なる性質を有することが知られている。例えば、スルホキシド基の硫黄原子を不斉中心としたスルホキシド化合物のエナンチオマーは、プロトンポンプ阻害薬として知られている。これらのスルホキシド化合物は、スルホキシド基の硫黄原子に不斉中心を有し、この不斉中心の立体配置に基づき、S体及びR体のエナンチオマーが存在する。
【0003】
上述したスルホキシド化合物は、エナンチオマー間で薬物動態等が異なることが知られている。例えば、オメプラゾールのS体であるエソメプラゾールは、ラセミ体であるオメプラゾールに比べて、薬物動態及び薬理作用の個体間変動が小さいことが知られている。また、ランソプラゾールのR体であるデクスランソプラゾールは、ラセミ体であるランソプラゾールに比べて、薬物代謝酵素に対する安定性や薬物動態に優れていることが知られている。
【0004】
このような背景から、ラセミ体であるスルホキシド化合物から所望のエナンチオマーを効率的に得る方法が種々提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0005】
しかし、ラセミ体であるスルホキシド化合物は、S体及びR体の等量混合物であるため、特許文献1~3に記載されている方法では、最大でも収率50%でしか所望のエナンチオマーを得ることができず、残りのエナンチオマーが無駄になっていた。
【0006】
一方、光学活性なスルホキシド化合物は、光照射によってラセミ化(光異性化)することが報告されている(例えば、非特許文献1、2参照)。しかし、ラセミ化に必要な光を照射する照射光の制御は困難であり、外部に照射光が漏れることによるエネルギーロスや安全上の課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2009-502906号公報
【特許文献2】特表2009-542624号公報
【特許文献3】特表平7-509499号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】K. Mislow et al.,J. Am. Chem. Soc.,1965,87(21),pp.4958-4959
【非特許文献2】木村翼 他、「医薬品に含まれるスルホキシドの光によるラセミ化現象の検討」、日本薬学会第138年会講演要旨集、2018年3月、27PA-am001S
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、異性体混合物から所望の異性体を高収率に得ることが可能な異性体調製装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の実施態様が含まれる。
【0011】
<1> 異性体混合物の一方の異性体を選択的に調製する異性体調製装置であって、
前記異性体混合物を前記一方の異性体と他方の異性体とに分割する分割部と、
前記分割部により分割された他方の異性体に光異性化を誘起する光を照射可能に構成された光照射部と、を有し、
前記分割部は、前記光照射部により光異性化された異性体混合物を前記一方の異性体と前記他方の異性体とに分割し、
前記光照射部は、前記他方の異性体が流通する流路と、前記流路に沿って配置される光源と、前記流路と前記光源とを収容可能な筐体と、を含む、異性体調製装置。
【0012】
<2> 前記分割部は、前記光照射部により光異性化された異性体混合物を、前記一方の異性体と前記他方の異性体とに分割することを複数回繰り返し行うことが可能である、<1>に記載の異性体調製装置。
【0013】
<3> 前記流路には、担体に光増感剤を固定化した固相光増感剤が充填される、<1>又は<2>に記載の異性体調製装置。
【0014】
<4>
前記流路には、光透過性粒子が更に充填される、<3>に記載の異性体調製装置。
【0015】
<5> 前記流路は、前記光源から照射される光が透過可能な材料で構成される、<1>~<4>のいずれかに記載の異性体調製装置。
【0016】
<6> 前記筐体は、金属材料により構成され、前記光源から照射される光の外部への漏洩を防止する、<1>~<5>のいずれかに記載の異性体調製装置。
【0017】
<7> 前記流路表面の温度及び放射照度のうち、少なくとも何れかを検出可能なセンサを有し、前記光源から前記流路に対して照射される光の光量は、前記センサの検出結果により制御される、<1>~<6>のいずれかに記載の異性体調製装置。
【0018】
<8> 前記光源から照射される光の波長範囲は、200nm~450nmの範囲内である、<1>~<7>のいずれかに記載の異性体調製装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、異性体混合物から所望の異性体を高収率に得ることが可能な異性体調製装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係る異性体調製装置の概略構成の一例を示す図である。
【
図2】第1実施形態に係る光照射部の構成を示す斜視図である。
【
図3】第1実施形態に係る光照射部の構成を示す正面図である。
【
図5】第2実施形態に係る光照射部の構成を示す正面図である。
【
図6】第3実施形態に係る光照射部の構成を示す正面図である。
【
図7】本実施形態に係る分割部による異性体検出強度の時間変化を示す図である。
【
図8】本実施形態に係る分割部による異性体検出強度の時間変化を示す図である。
【
図9】第1実施形態に係る光源に対する入力電流と放射照度との関係を示すグラフである。
【
図10】第1実施形態に係る光源に対する入力電流を変化させた場合の、光源点灯時間と流路表面温度との関係を示すグラフである。
【
図11】光増感剤であるTPT
+を担体に固定した固相光増感剤2の存在下で、光学活性なスルホキシド化合物の光ラセミ化反応を進行させた場合の、エナンチオマー過剰率の時間変化を示す図である。
【
図12】光増感剤であるTPT
+を担体に固定した固相光増感剤3の存在下で、光学活性なスルホキシド化合物の光ラセミ化反応を進行させた場合の、エナンチオマー過剰率の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施形態に係る異性体調製装置は、エナンチオマー等の異性体混合物を一方の異性体と他方の異性体とに分割する分割部と、分割部にて得られた他方の異性体に光を照射し、該異性体を光異性化する光照射部と、を備える。
【0022】
《第1実施形態》
<異性体調製装置>
本実施形態に係る異性体調製装置の概略構成の一例を
図1に示す。
図1に示すとおり、異性体調製装置1は、分割部10と、光照射部20と、を備える。
【0023】
(分割部)
分割部10は、異性体混合物を分割する。異性体混合物は、後述するように光異性化する異性体混合物であればよいが、以下、異性体混合物としてエナンチオマー混合物を例に挙げて説明する場合がある。分割部10は、例えば、異性体としてのエナンチオマー混合物を一方のエナンチオマー(例えば、S体)と他方のエナンチオマー(例えば、R体)とに分割し、一方のエナンチオマーを分取するとともに、他方のエナンチオマーを光照射部20に送る。分割部10は、異性体を分割することができるものであれば特に制限されない。例えばクロマトグラフィー法を採用する場合、分割部10にはキラルカラムが設けられる。
【0024】
[異性体]
分割部10で分割される異性体は、光照射により光異性化される異性体であればよい。異性体としては、例えば、スルホキシド化合物、アミノ酸、アミノ酸誘導体、カルボン酸、カルボン酸誘導体等のエナンチオマー、及び、シス-トランス異性体等のジアステレオマーが挙げられる。分割部10で分割された他方の異性体は、固体の状態であっても溶媒に溶解した状態であってもよいが、光異性化の効率から後者が好ましい。
【0025】
異性体として、スルホキシド化合物を例に挙げて以下に説明する。スルホキシド化合物は、例えば、スルホキシド基の硫黄原子に不斉中心を有し、この不斉中心の立体配置に基づき、S体及びR体のエナンチオマーが存在する化合物である。所望のエナンチオマーのみを効率的に調製する観点から、スルホキシド化合物は、不斉中心が1個のみである化合物が好ましい。
【0026】
好適なスルホキシド化合物としては、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。下記式(1)で表される化合物は、優れた胃酸分泌抑制作用、抗潰瘍作用、粘膜保護作用、抗ヘリコバクター・ピロリ作用等を有し、プロトンポンプ阻害薬として有用な化合物である。
【0027】
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基、アシルオキシ基、又はヘテロアリール基を示す。R
4、R
5、R
6はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、又は置換基を有していてもよいアミノ基を示す。R
7は水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、アシル基、又はアシルオキシ基を示す。X、Y、Zはそれぞれ独立に、窒素原子又はCHを示す。*は不斉中心を示す。)
【0028】
R1、R2、R3で示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0029】
R1、R2、R3で示される「置換基を有していてもよいアルキル基」の「アルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基等の直鎖状又は分岐鎖状のC1-7アルキル基が挙げられる。「置換基を有していてもよいアルキル基」の「置換基」としては、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基等)、C1-6アルコキシ-カルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基等)、カルバモイル基等が挙げられる。置換基の数は特に制限されず、例えば1個~3個であってもよい。置換基の数が2個以上の場合、各置換基は同一であっても異なっていてもよい。
【0030】
R1、R2、R3で示される「置換基を有していてもよいアルコキシ基」の「アルコキシ基」としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペントキシ基、n-ヘキシロキシ基等の直鎖状又は分岐鎖状のC1-6アルコキシ基が挙げられる。「置換基を有していてもよいアルコキシ基」の「置換基」としては、上述した「置換基を有していてもよいアルキル基」の「置換基」と同様のものが挙げられる。置換基の数は特に制限されず、例えば1個~3個であってもよい。置換基の数が2個以上の場合、各置換基は同一であっても異なっていてもよい。
【0031】
R1、R2、R3で示される「アルコキシカルボニル基」としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基、n-ペントキシカルボニル基、n-ヘキシロキシカルボニル基等の、アルコキシ部分が直鎖状又は分岐鎖状のC1-6アルコキシ基である基が挙げられる。
【0032】
R1、R2、R3で示される「アリール基」としては、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、ビフェニリル基、2-アンスリル基等のC6-14アリール基が挙げられる。
【0033】
R1、R2、R3で示される「アリールオキシ基」としては、例えば、フェニルオキシ基、1-ナフチルオキシ基、2-ナフチルオキシ基、ビフェニリルオキシ基、2-アンスリルオキシ基等のC6-14アリールオキシ基が挙げられる。
【0034】
R1、R2、R3で示される「アシル基」としては、ホルミル基;アセチル基、プロピオニル基等のC1-6アルキル-カルボニル基;ベンゾイル基、ナフタレンカルボニル基等のC6-14アリール-カルボニル基;などが挙げられる。
【0035】
R1、R2、R3で示される「アシルオキシ基」としては、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基等のC1-6アルキル-カルボニルオキシ基;ベンゾイルオキシ基、ナフタレンカルボニルオキシ基等のC6-14アリール-カルボニルオキシ基;などが挙げられる。
【0036】
R1、R2、R3で示される「ヘテロアリール基」としては、例えば、窒素原子、硫黄原子、及び酸素原子から選ばれるヘテロ原子を1個~3個含む5員環~10員環の基が挙げられる。具体例としては、1-,2-又は3-チエニル基、1-,2-,3-又は4-ピリジル基、2-又は3-フリル基、1-,2-又は3-ピロリル基、2-,3-,4-,5-又は8-キノリル基、1-,3-,4-又は5-イソキノリル基、1-,2-又は3-インドリル基等が挙げられる。
【0037】
R4、R5、R6で示される「置換基を有していてもよいアルキル基」、「置換基を有していてもよいアルコキシ基」としては、R1、R2、R3で示される「置換基を有していてもよいアルキル基」、「置換基を有していてもよいアルコキシ基」と同様のものが挙げられる。
【0038】
R4、R5、R6で示される「置換基を有していてもよいアミノ基」としては、アミノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基等のモノ-C1-6アルキルアミノ基;フェニルアミノ基、1-ナフチルアミノ基、2-ナフチルアミノ基等のモノ-C6-14アリールアミノ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、メチルイソブチルアミノ基等のジ-C1-6アルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基等のジ-C6-14アリールアミノ基;などが挙げられる。
【0039】
R7で示される「置換基を有していてもよい炭化水素基」の「炭化水素基」としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基等のC1-19炭化水素基が挙げられる。
【0040】
R7におけるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基等の直鎖状又は分岐鎖状のC1-6アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状のC3-14アルキル基;などが挙げられる。
【0041】
R7におけるアルケニル基としては、アリル基、イソプロペニル基、イソブテニル基、2-ペンテニル基、2-ヘキセニル基等の直鎖状又は分岐鎖状のC2-6アルケニル基;2-シクロヘキセニル基等の環状のC3-14アルケニル基;などが挙げられる。
【0042】
R7におけるアルキニル基としては、例えば、プロパルギル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、3-ペンチニル基、3-ヘキシニル基等の直鎖状又は分岐鎖状のC2-6アルキニル基が挙げられる。
【0043】
R7におけるアリール基としては、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、ビフェニリル基、2-アンスリル基等のC6-14アリール基が挙げられる。
【0044】
R7におけるアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等のフェニル-C1-4アルキル基;ベンズヒドリル基;トリチル基;などのC7-19アラルキル基が挙げられる。
【0045】
R7で示される炭化水素基がアルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基である場合、該炭化水素基は、アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、イソプロピルチオ基等のC1-4アルキルチオ基など)、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基等のC1-6アルコキシ基など)、アシルオキシ基(アセチルオキシ基、n-プロピオニルオキシ基等のC1-6アルキル-カルボニルオキシ基;ベンゾイルオキシ基、ナフタレンカルボニルオキシ基等のC6-14アリール-カルボニルオキシ基;など)、ニトロ基、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基等のC1-6アルコキシ-カルボニル基など)、アルキルアミノ基(メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、メチルイソブチルアミノ基等のモノ-又はジ-C1-6アルキルアミノ基など)、アルコキシイミノ基(メトキシイミノ基、エトキシイミノ基、n-プロポキシイミノ基、イソプロポキシイミノ基等のC1-6アルコキシ-イミノ基など)、ヒドロキシイミノ基等で置換されていてもよい。置換基の数は特に制限されず、例えば1個~3個であってもよい。置換基の数が2個以上の場合、各置換基は同一であっても異なっていてもよい。
【0046】
また、上記炭化水素基がアリール基又はアラルキル基である場合、該炭化水素基は、アルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等の直鎖状又は分岐鎖状のC1-6アルキル基;シクロヘキシル基等の環状のC3-6アルキル基;など)、アルケニル基(アリル基、イソプロペニル基、イソブテニル基、1-メチルアリル基、2-ペンテニル基、2-ヘキセニル基等のC2-6アルケニル基など)、アルキニル基(プロパルギル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、3-ペンチニル基、3-ヘキシニル基等のC2-6アルキニル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基等のC1-6アルコキシ基など)、アシル基(ホルミル基;アセチル基、プロピオニル基等のC1-6アルキル-カルボニル基;ベンゾイル基、ナフタレンカルボニル基等のC6-14アリール-カルボニル基;など)、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、スルファモイル基、メルカプト基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、イソプロピルチオ基等のC1-4アルキルチオ基など)等で置換されていてもよい。置換基の数は特に制限されず、例えば1個~5個であってもよい。置換基の数が2個以上の場合、各置換基は同一であっても異なっていてもよい。
【0047】
R7で示される「アシル基」、「アシルオキシ基」としては、R1、R2、R3で示される「アシル基」、「アシルオキシ基」と同様のものが挙げられる。
【0048】
上記式(1)で表される化合物の中でも、R1が水素原子であり、R2が水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-4アルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-4アルコキシ基、又はヘテロアリール基(好ましくは1-,2-又は3-ピロリル基)であり、R3が水素原子又はC1-4アルコキシ-カルボニル基であり、R4が水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-4アルキル基、又はハロゲン原子若しくはC1-4アルコキシ基で置換されていてもよいC1-4アルコキシ基であり、R5が水素原子、又はハロゲン原子若しくはC1-4アルコキシ基で置換されていてもよいC1-4アルコキシ基であり、R6が水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-4アルキル基、ハロゲン原子若しくはC1-4アルコキシ基で置換されていてもよいC1-4アルコキシ基、又はジ-C1-4アルキルアミノ基であり、R7が水素原子である化合物が好ましい。
【0049】
上記式(1)で表される化合物の具体例を下記に示す。ただし、本実施形態におけるスルホニル化合物は、これらの例に限定されない。
【0050】
【0051】
上記式(1)で表される化合物は、塩や水和物の形態であってもよい。塩としては、薬学的に許容される塩が好ましく、例えば、無機塩基との塩、有機塩基との塩、塩基性アミノ酸との塩等が挙げられる。無機塩基との塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;などが挙げられる。有機塩基との塩としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン等との塩が挙げられる。塩基性アミノ酸との塩としては、アルギニン、リジン、オルニチン等との塩が挙げられる。
【0052】
分割部10は、異性体混合物を一方の異性体と他方の異性体とに分割する。分割部10は、分割された異性体を検出可能な検出器を備える。
【0053】
異性体混合物は、異なる構造を有する異性体が含まれていれば特に制限されず、等量混合物でなくてもよい。異性体混合物の異性体過剰率は、0%~25%であってもよく、0%~10%であってもよく、0%~5%であってもよい。
【0054】
分割部10における分割方法は特に制限されず、任意の方法を採用することができる。異性体としてのスルホキシド化合物を分割する分割方法の例としては、キラルカラムを用いたクロマトグラフィー法;光学活性なホスト分子(1,1’-ビ-2-ナフトール等)を用いた包接錯体法(例えば、特許文献1、2参照);光学分割剤を用いて2種類のジアステレオマーへと誘導した後、ジアステレオマーを分離するジアステレオマー法(例えば、特許文献3参照);等が挙げられる。これらの中でも、簡便性の点から、キラルカラムを用いたクロマトグラフィー法を採用することが好ましい。
【0055】
(光照射部)
光照射部20は、分割部10にて得られた他方の異性体に光を照射し、該異性体を光異性化する。光照射部20にて得られた異性体混合物は、再度分割部10に送られる。このように、異性体調製装置1によれば、分割部10及び光照射部20において分割及び光異性化を繰り返すことで、所望の異性体の収率を大幅に向上させることができる。
【0056】
本実施形態に係る光照射部20は、
図2に示すように、光源21と、基板22と、筐体23と、他方の異性体が流通する流路である流路24と、センサSと、を有する。また、光照射部20は、流路24の両端部に、流路24を支持する支持部材(図示せず)を有し、該支持部材と筐体23とで外部への光の漏洩を防止する構成となっている。これにより、光源21から照射される光の外部への漏洩を防止できるため、光が人体に有害な波長を有する場合であっても、安全に異性体調製装置1を使用できる。
【0057】
[光源]
光源21は、流路24を流通する他方の異性体に対し、光異性化に必要な波長の光(例えば、波長200nm~450nmの光、好ましくは波長254nm~365nmの光)を照射する。光源21としては、特に制限されない。光源の具体例としては、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンランプ、LEDランプ光源、レーザ、有機EL等が挙げられる。LEDランプ光源としては、狭い空間への実装の利便性及び、広角に照射可能であることから、SMD(Surface Mount Device)が好ましく適用できる。なお、光源と他方の異性体との間に光源からの光を吸収、若しくは拡散する材料、又は光源からの光の波長を変化させる材料が介在している場合には、光の吸収、若しくは拡散、又は光の波長の変化を考慮した上で、光を照射することが好ましい。
【0058】
光源21は、
図3に示すように、流路24の周囲に複数設けられる。光源21は、光源21から流路24の中心軸Cに対して垂直に光が入光するように配置されることが好ましい。即ち、光源21の光軸L1は、流路24の中心軸Cに対して垂直であることが好ましい。複数の光源21と、中心軸Cとの距離は等しいことが好ましい。また、中心軸C方向から視た、隣接する複数の光軸L1同士のなす角度は、それぞれ等角度となるように配置されることが好ましい。なお、流路24が複数配置される場合、中心軸Cは、複数の流路24の流路断面の中心に位置する軸として、上記構成を適用できる。本実施形態においては、隣接する光軸L1同士のなす角度が、それぞれ略90°となるように、流路24の周囲の4方向に光源21が配置される。上記構成により、複数の光源21から、流路24を流通する他方の異性体に対して均一に光を照射することができる。
【0059】
図4は、
図3におけるA-A断面図である。光源21は、
図4に示すように、流路24の中心軸C方向に沿って複数(本実施形態では、9つ)、均等間隔で一列に並べられる。本実施形態において、光源21は、流路24の周囲1方向にそれぞれ9つずつ設けられ、流路24の周囲4方向から流路24に対して光を照射する。これにより、光源21から流路24に対して照射される光の光量を容易に制御できる。上記制御は、以下に示すように光源21に対する入力電流を変化させ、光源21から照射される光の放射照度を制御することにより行うことができる。
【0060】
複数の光源21から流路24に対して照射される光の放射照度は、複数の光源21への入力電流により算出される。
図9は、本実施形態に係る光源21に対する入力電流と、流路24表面の放射照度との関係を示すグラフである。
図9の測定時において、光源21は、流路24の中心軸C方向に沿った長さ40mmの設置範囲内に等間隔に9つ配置した。光源21は、流路24の周囲4方向にそれぞれ配置した。また、光源21と、流路24の表面との間の距離は、各5mmとした。光源21としては、波長365nmのLED光源を用いた。流路24としては、外径12mmの流路を用いた。放射照度は、流路24の表面に、波長365nmの放射照度計の受光部を設置して実測した数値である。
【0061】
図9に示すように、本実施形態に係る複数の光源21に対する入力電流と、流路24に対する放射照度とは、ほぼ比例関係にある。従って、予め光源21に対する入力電流と、放射照度との関係を求めておくことにより、光源21への入力電流から放射照度を算出することができる。流路24の温度は、上記放射照度に加え、筐体の断面形状、光源21の数、光源21と流路24の表面との間の距離、光源21から光が照射される流路24の長さ等により調整できる。このため、上記構成を有する複数の光源21によって、他方の異性体に対して照射される光の光量、及び流路24の温度の制御が容易となる。流路24の温度の制御については後段で詳述する。
【0062】
[基板]
基板22は、流路24の中心軸C方向に沿って複数並べられる光源21を支持する。基板22は例えばアルミニウム基板であり、筐体23に支持される。光源21、基板22、及び筐体23は熱的に接続されており、光源21から発せられた熱は、基板22を介して筐体23に伝熱される。
【0063】
[筐体]
筐体は、光源21と流路24を収容可能に構成される。筐体は、内部に流路24が挿通可能な空間が形成された中空の筒状部材である。筐体の内面側には、光源21及び基板22が固定されて配置される。流路24の中心軸C方向から視た、筐体の断面形状は、特に制限されず、円、楕円、多角形等から適宜選択することができる。筐体の素材は特に限定されず、筐体から外部への光の漏洩を防止できるものであればよいが、筐体は、アルミニウム等の熱伝導率の高い金属材料により構成されることが好ましい。これにより、基板22を介して伝達される熱を外部に効率よく放熱できる。
更に放熱の効率を上げるために、筐体にヒートシンク、水冷機構を追加してもよい。又は、筐体内を冷却するための筐体内で照射される光の外部への漏洩が防止された開口部、空冷ファン等を設けてもよい。
【0064】
本実施形態において、筐体は、略直方体形状を有する複数の筐体23を組み合わせることで構成される。筐体23は、光源21及び基板22が取り付けられる取付面を有する。該取付面の一端側は端部方向に延出し、接続部231が構成される。接続部231には、固定具が挿通可能な複数の孔部232が設けられる。接続部231を、他の筐体23の取付面の他端側の端面に当接させ、孔部232に固定具(図示省略)を連通させて固定することで、複数の筐体23は、内面に取付面が配置されるように組み合わせられる。本実施形態において、4つの筐体23が内面に光源21を有する取付面が配置されるように組み合わされて配置される。上記構成により、光照射部20の内部に、光源21から光が照射され、流路24が挿通可能な、矩形の断面形状を有する空間が形成される。これにより、光照射部20を簡便に構成できる。
【0065】
[流路]
流路24は、分割部10にて得られた他方の異性体が流通する流路である。流路24は、1つの流路であってもよいし、複数の流路であってもよい。流路24は光透過性を有していればよく、材質は特に制限されない。流路24には、光増感剤が存在することが好ましい。光増感剤の存在下で他方の異性体に光を照射することにより、光異性化の効率をより高めることが可能となる。光増感剤を流路24に存在させる方法としては、例えば、シリカゲル等の担体に光増感剤を固定化させた固相光増感剤Fを作成し、流路24に充填する方法が挙げられる。光増感剤を担体に固定化させる方法としては、特に限定されず、担体にイオン結合させる方法や共有結合させる方法等が挙げられる。固相光増感剤Fは、本実施形態において、
図4に示すように流路24の中心軸C方向に沿った長さ40mmの光源21の設置範囲内に充填されるが、これに限定されない。固相光増感剤は光源21の設置範囲外に配置してもよい。担体に光増感剤が固定されることにより、光照射部20により得られる異性体混合物と光増感剤とを分離することが容易となる。担体に光増感剤を固定化する固定化方法は特に制限されず、共有結合であってもイオン結合であってもよい。
【0066】
流路24には、固相光増感剤F以外に、光透過性粒子が充填されることが好ましい。流路24に対して固相光増感剤Fのみを充填した場合、流路24の内径の大きさによっては、流路24の中心部に光異性化を進行させるために十分な放射照度を有する光が照射されない懸念がある。流路24に固相光増感剤F以外に光透過性粒子を充填することで、流路24の中心部まで光源21から照射される光を十分に行き渡らせることができる。また、固相光増感剤Fの使用量を低減することができると共に、固相光増感剤Fの漏出リスクも低減することができる。光透過性粒子としては、特に制限されないが、ガラスビーズ、不定形ガラス粉末、樹脂ビーズ等が挙げられる。光透過性粒子のメディアン径(D50)は、例えば10~100μm程度のものを使用できる。流路24に対して充填される固相光増感剤Fと光透過性粒子との質量割合は、固相光増感剤Fと光透過性粒子の合計質量に対して、固相光増感剤Fの質量割合が1~50質量%であることが好ましく、5~25質量%であることがより好ましく、5~10質量%がさらに好ましい。
【0067】
(光増感剤)
光増感剤としては、特に制限されず、従来公知の光増感剤を使用することができる。光増感剤の中でも、365nm~450nmの波長域に極大吸収波長を有する光増感剤が好ましい。光増感剤の具体例としては、例えば、1,2,4,5-テトラシアノベンゼン、6,6’-ジシアノ-2,2’-ビピリジル、1,2-ジシアノナフタレン、9,10-ジシアノアントラセン等のシアノアレーン系化合物;2,4,6-トリフェニルピリリウム塩、2,4,6-トリフェニルチオピリリウム塩等のピリリウム系化合物;10-メチル-9-(2,4,6-トリメチルフェニル)アクリジニウム塩、3,6-ジアミノ-10-メチルアクリジニウム塩等のアクリジニウム系化合物;2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン、アントラキノン等のキノン系化合物;1-メチルキノリニウム塩、1-メチル-6-メトキシキノリニウム塩等のキノリニウム系化合物;フルオレセイン、ローダミンB等のキサンテン系化合物;10-フェニルフェノチアジン、メチルチオニニウム塩等のチアジン系化合物;ベンゾフェノン、チオキサントン等のベンゾフェノン系化合物;などが挙げられる。これらの中でも、シアノアレーン系化合物、ピリリウム系化合物、アクリジニウム系化合物、キノン系化合物、及びキノリニウム系化合物が好ましい。
【0068】
[センサ]
センサSは、流路24の表面の温度及び放射照度のうち、少なくとも何れかを検出可能である。センサSにより検出された温度及び放射照度に基づき、流路24内の温度及び放射照度を、流路24を構成する材質や壁厚さ等から推定できる。センサSにより検出された温度及び放射照度のうち、少なくとも何れかを元に、複数の光源21から照射される光の光量がフィードバック制御されることが好ましい。これにより、異性体等の流路24内に存在する化合物が熱分解すること、及び他方の異性体が溶解される溶媒が沸点を超過することを防止できる。また、必要最低限のエネルギーで異性体調製装置1を稼働させることができる。センサSとしては、特に制限されず、公知の温度センサ及び照度センサを用いることができる。温度センサとしては、例えば、熱電対温度計、サーミスタ、放射温度計等を用いることができる。照度センサとしては、例えば、フォトダイオード、フォトトランジスタ、フォトコンダクタ等を用いた照度センサを用いることができる。センサSの配置される箇所は、
図4上、筐体23の内面に接する箇所であるが、流路24の表面の温度又は放射照度を検出可能であれば特に制限されない。例えば、流路24の表面にセンサSを配置し、直接流路24の表面の温度又は放射照度を測定してもよいし、流路24の表面以外の箇所に遠隔で温度を測定可能なセンサSを配置し、流路24の温度を遠隔で測定してもよい。上記以外に、流路24の表面以外の箇所にセンサSを設置し、事前に測定値と流路24の表面の温度又は放射照度との相関性を求めておき、測定値から流路24の表面の温度又は放射照度を算出してもよい。
【0069】
センサSとして温度センサを用いる場合、センサSにより検出される流路24の表面温度が所定の閾値を超えないよう、複数の光源21から照射される光の光量をフィードバック制御することができる。上記光量のフィードバック制御は、
図9を用いて説明したように、複数の光源21に対する入力電流を変化させることにより、放射照度を制御することで行うことができる。上記温度センサを用いたフィードバック制御以外に、流路24の表面の温度が所定の閾値を超えないようにするため、光源21に対する入力電流及び照射時間を制御することも考えられる。
【0070】
図10は、光源21に対する入力電流を変化させた場合における、光源21の点灯時間と、流路表面温度との関係を示すグラフである。
図10における横軸が光源21の点灯時間(分)を示し、
図10における縦軸が流路24の表面温度(℃)を示す。
図10における測定時の条件は、入力電流をそれぞれ50mA、100mA、200mA、300mA、及び400mAとし、表面温度を熱電対温度計で測定したこと以外は、
図9における条件と同一とした。
【0071】
図10に示すように、所定の入力電流における、点灯時間と流路表面温度との関係は、有意な相関性を示す。このため、事前に上記関係を求めておくことにより、センサSとして温度センサを用いない場合であっても、光源21に対する入力電流及び照射時間に基づき、流路24の表面の温度を推定できる。従って、流路24の表面の温度が所定の閾値を超えないような光源21の制御が可能である。
【0072】
センサSとして照度センサを用いる場合、他方の異性体の光異性化に必要な最低限の放射照度の光が照射されるよう、複数の光源21から照射される光の放射照度をフィードバック制御することができる。なお、上記光異性化に必要な最低限の放射照度は、流路24の光が照射される箇所の容積と、流路24を流通する他方の異性体の流速(ml/s)から、光が照射される箇所を他方の異性体が通過するのに要する時間(s)を求め、事前に求めておいた照射時間と所望の異性化度を得るために必要な放射照度との相関性から算出することができる。実際に他方の異性体に照射される光の放射照度である、流路24内に対して照射される光の放射照度は、光源21から照射される光の、流路24の材質及び壁厚さに対する透過率から算出することができる。また、センサSとして照度センサを用いない場合であっても、複数の光源21に対する入力電流を制御することで、複数の光源21から照射される光の放射照度を制御し、他方の異性体の光異性化に必要な最低限の放射照度の光が照射されるような制御を行ってもよい。
【0073】
上記流路24の表面の温度が所定の閾値を超えないようにする制御及び、他方の異性体の光異性化に必要な最低限の放射照度の光を照射する制御を共に行うことも考えられる。例えば、上記流路24の表面の温度が所定の閾値を超えない範囲内で、他方の異性体の光異性化に必要な最低限の放射照度の光を照射するような制御を行うことができる。これにより、光源21から照射される光の光量を最適化することができる。
【0074】
異性体調製装置1は、光照射部20の後段かつ光照射部20と分割部10との間にガードカラムを有していてもよい。これにより、万が一光照射部から光増感剤が漏出しても、これを吸着除去することができる。したがって分割部10にキラルカラムを設ける場合、キラルカラムの汚染防止、装置内への拡散、目的生成物への混入を回避できる。ガードカラムとしては、特に限定されず、光増感剤を選択的に吸着可能なシリカゲル等を用いた順相ガードカラム等の公知のガードカラムを用いることができる。なお、異性体調製装置1にガードカラムを設けた場合であっても、各異性体に起因する信号強度のピーク位置が全体的にシフトするものの、キラルカラムの分離能や異性化には特に影響がない。
【0075】
本実施形態に係る異性体調製装置1は、分割部10で分割された一方の異性体を分取し、他方の異性体を光照射部20に送る。光照射部20は、他方の異性体に光を照射し、異性体混合物が生成する。該異性体混合物は、再度分割部10に送られる。即ち、異性体調製装置1は循環式の装置であり、装置内で循環を繰り返すことで、一方の異性体の収率を大幅に向上させることができる。なお、分割部10により一方の異性体と他方の異性体とが十分に分割されない場合、一方の異性体の分取を行うサイクルの間に分取を行わないサイクルを設け、一方の異性体と他方の異性体とが完全に分割されたサイクルにおいてのみ、分取を行うようにしてもよい。異性体調製装置1は、循環式の装置であることから、溶媒の再利用が可能であり、かつ、分割及び光異性化を繰り返し易い。更に、光照射部20により、安全性を確保しつつ、均一に効率よく他方の異性体に光を照射できる。
【0076】
<異性体調製方法>
上記異性体調製装置1を用いた異性体調製方法は、下記の工程A~工程Cを含む。
工程A:異性体混合物を一方の異性体と他方の異性体とに分割する工程。
工程B:工程A又は工程Cにて得られた他方の異性体に光を照射し、該異性体を光異性化する工程。
工程C:工程Bにて得られた異性体混合物を一方の異性体と他方の異性体とに分割する工程。
【0077】
工程Aにおける分割方法は、分割部10により実行され、工程Cにおける分割方法は、工程Aと同じ分割部10により実行される。工程A及び工程Cにおいて、分割される異性体混合物としてスルホキシド化合物を用いる場合、分割方法としては、キラルカラムを用いたクロマトグラフィー法を採用することが好ましい。工程Bにおける光異性化方法は、光照射部20により実行される。
【0078】
以下、本発明の好ましい他の実施形態について説明する。上記実施形態と同様の構成については、説明を省略する場合がある。
【0079】
《第2実施形態》
第2実施形態に係る光照射部20aは、
図5に示すように、6つの筐体23aを有する。筐体23aの光源21及び基板22が固定される取付面の一端側は端部方向に延出し、接続部231が構成される。接続部231を、他の筐体23の取付面の他端側の端面233に当接させて固定し、複数の筐体23aを組み合わせることで、六角形の断面形状を有する内部空間が形成される。他端側の端面233は、取付面に対して略60°傾斜している。上記光照射部20aの構成により、筐体23aに固定される光源21から隣接する光軸L2同士のなす角度が、それぞれ略60°となるように、流路24の周囲の6方向に均等に光源21が配置される。
【0080】
《第3実施形態》
第3実施形態に係る光照射部20bは、
図6に示すように、8つの筐体23bを有する。筐体23bの光源21及び基板22が固定される取付面の一端側は端部方向に延出し、接続部231が構成される。接続部231を、他の筐体23の取付面の他端側の端面234に当接させて固定し、複数の筐体23bを組み合わせることで、八角形の断面形状を有する内部空間が形成される。他端側の端面234は、取付面に対して略45°傾斜している。上記光照射部20bの構成により、筐体23bに固定される光源21から隣接する光軸L3同士のなす角度が、それぞれ略45°となるように、流路24の周囲の8方向に均等に光源21が配置される。
【0081】
上記第2実施形態及び第3実施形態の光照射部の構成は一例であるが、このように光照射部における筐体23を組み合わせる数は任意に調整可能である。また、光源21から流路24までの距離も、筐体23の取付面の断面長さを調整することで任意に調整可能である。従って、光源21から流路24に対して光を照射する方向数、及び流路24までの距離を、流路24の径の大きさ、数等に応じて任意に調整できる。
【実施例0082】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。
【0083】
<実施例1:ラセミ体のスルホキシド化合物の光学分割>
実施例1では、
図2~
図4に示す光照射部を有する異性体調製装置1を用いて、下記式で表される異性体混合物としてのラセミ体の化合物を光学分割し、S体の化合物を選択的に調製した。
【化3】
【0084】
具体的には、分割部としてキラルカラムを用いたリサイクルHPLCにより、ラセミ体の化合物を光学分割してS体の化合物を分取するとともに、R体の化合物をカラム出口からカラム入口へと戻した。また、R体の化合物をカラム入口へと戻す過程で、光照射部により光を照射し、R体の化合物を光ラセミ化した。光照射部の流路及び溶媒としては、リサイクルHPLCと同様のカラム及び溶媒を用いた。リサイクルHPLC及び光照射部の条件は下記のとおりである。
【0085】
-リサイクルHPLC条件-
カラム:CHIRALPAK ID(10mm×250mm、粒子径5μm)+CHIRALPAK ID(10mm×250mm、粒子径5μm)((株)ダイセル製)
移動相(溶媒):アセトニトリル
-光照射部条件-
光源:LEDランプ(波長365nm、100mA)
固相光増感剤(PS-0.5):光増感剤としての2,4,6-トリフェニルピリリウムテトラフルオロボラート(TPT
+)(Aldrich社製)を、担体としてのイオン交換樹脂DOWEX 50Wx8 200-400 H(ムロマチテクノス株式会社製)に固定化させたものを用いた(設置範囲:70mm)。
流速:2.0mL/分
放射照度:40.6mW/cm
2(
図9から算出)
温度:28.7℃(点灯時間10分、
図10から算出)
【0086】
図7は、上記実施例1の光学分割及び光異性化を2回繰り返したリサイクルHPLCによる分割結果である、信号強度の時間変化を記録したクロマトグラムの結果である。
図7における縦軸は信号強度を示し、横軸は時間(s)を示す。
図7に示すように、1回目の光学分割により各異性体に起因するピークP1及びP2が検出され、2回目の光学分割により各異性体に起因するピークP3及びピークP4が検出された。従って、2回目の光学分割時に、他方の異性体は異性化されていることが確認された。このため、光学分割及び光異性化を繰り返すことで、所望の異性体の収率向上が可能であることが明らかである。
【0087】
<実施例2:ラセミ体のスルホキシド化合物の光学分割(光透過性粒子の影響)>
実施例2では、光照射部の流路に対して固相光増感剤(PS-0.5)以外に光透過性粒子としてのガラスビーズ(フジガラスビーズFGB-320、メディアン径53~38μm、株式会社不二製作所製)を以下の表1に示す量でそれぞれ充填したこと以外は、実施例1と同様の異性体調製装置1及び異性体混合物としてのラセミ体の化合物を用いて、S体の化合物を選択的に調製した。
【0088】
【0089】
図8は、上記実施例2の光学分割及び光異性化を2回繰り返したリサイクルHPLCによる2回目の分割結果である、信号強度の時間変化を記録したクロマトグラムの結果である。
図8における縦軸は信号強度を示し、横軸は時間(s)を示す。
図8における100%、50%、25%、10%、5%のグラフは、それぞれ表1に示す固相光増感剤の質量割合(%)(固相光増感剤とガラスビーズの合計質量に対する、固相光増感剤の質量割合)に対応する。
図8に示すように、固相光増感剤の質量割合が100質量%であるものと比較して、固相光増感剤の一部(特に90質量%以上)をガラスビーズに置換したものの方が、信号強度を示すピークP3及びP4がシャープに表れており、異性化がより進行している結果が確認された。このため、光照射部の流路に対して固相光増感剤と共に光透過性粒子を充填することで、固相光増感剤の使用量を低減できるだけでなく、光異性化の効率を向上できることが明らかである。
【0090】
固相光増感剤の質量割合が5質量%(光透過性粒子が95質量%)流路に充填された光照射部を用いて、実施例2の条件でS体の化合物の分取を6サイクル繰り返し、以下の条件によりキラルHPLCによりエナンチオマー過剰率を算出した。その結果、S体の化合物の収率96%(エナンチオマー過剰率94%ee)を得ることができた。
【0091】
-キラルHPLC条件-
カラム:CHIRALPACK IG(粒子径5μm)((株)ダイセル製)
移動相:アセトニトリル
流速:0.5mL/分
【0092】
【0093】
上記スキームに示すように、各種光増感剤の存在下で光学活性なスルホキシド化合物に光を照射し、光ラセミ化反応における光増感剤の影響について検討した。使用した光増感剤は下記の8種である。
【0094】
【0095】
光学活性なスルホキシド化合物((+)-1)(3.08mg,0.02mmol)を含有するアセトニトリル溶液(2.0mL,0.01M)に光増感剤(0.02μmol~2μmol,0.1mol%~10mol%)を加え、18WのLEDライト(波長365nm~425nm)又は分光蛍光光度計(波長290nm~330nm、(株)島津製作所製、RF-5300PC)を用いて光を照射した。また、比較のため、光増感剤を添加せずに同様の実験を行った。光照射中、経時的にサンプリング(20μL)を行い、キラルHPLCによりエナンチオマー過剰率を算出した。キラルHPLCの条件は下記のとおりである。
【0096】
-キラルHPLC条件-
カラム:CHIRALPACK IH(10mm×250mm、粒子径5μm)((株)ダイセル製)
移動相:ヘキサン/イソプロパノール=60/40
流速:0.5mL/分
検出:254nm
【0097】
【0098】
表2に示すとおり、光増感剤の存在下で光を照射したエントリー1~8では、効率的に光ラセミ化反応を進行させることができた。一方、光増感剤を用いなかったエントリー9では、波長425nmの光を60分間照射しても光ラセミ化反応はあまり進行しなかった。
【0099】
<参考例2:光増感剤として9,10-DCAを用いた光ラセミ化反応における溶媒の検討>
【化6】
【0100】
光学活性なスルホキシド化合物((+)-1)(3.08mg,0.02mmol)を各種溶媒(2.0mL)に溶解した溶液に9,10-ジシアノアントラセン(9,10-DCA)(0.45mg,2μmol,10mol%)を加え、18WのLEDライト(波長425nm)を用いて光を照射した。光照射中、経時的にサンプリング(20μL)を行い、キラルHPLCによりエナンチオマー過剰率を算出した。キラルHPLCの条件は下記のとおりである。
【0101】
-キラルHPLC条件-
カラム:CHIRALPACK IH(10mm×250mm、粒子径5μm)((株)ダイセル製)
移動相:ヘキサン/イソプロパノール=60/40
流速:0.5mL/分
検出:254nm
【0102】
【0103】
表3に示すとおり、いずれの溶媒を用いた場合にも光ラセミ化が可能であり、特にアセトニトリルを用いた場合の光ラセミ化反応が速かった。
【0104】
<参考例3:光増感剤としてTPT
+を用いた光ラセミ化反応における溶媒の検討>
【化7】
【0105】
光学活性なスルホキシド化合物((+)-1)(3.08mg,0.02mmol)を各種溶媒(2.0mL)に溶解した溶液に2,4,6-トリフェニルピリリウムテトラフルオロボラート(TPT+)(80μg,0.2μmol,1mol%)を加え、18WのLEDライト(波長425nm)を用いて光を照射した。光照射中、経時的にサンプリング(20μL)を行い、キラルHPLCによりエナンチオマー過剰率を算出した。キラルHPLCの条件は下記のとおりである。
【0106】
-キラルHPLC条件-
カラム:CHIRALPACK IH(10mm×250mm、粒子径5μm)((株)ダイセル製)
移動相:ヘキサン/イソプロパノール=60/40
流速:0.5mL/分
検出:254nm
【0107】
【0108】
表4に示すとおり、いずれの溶媒を用いた場合にも光ラセミ化が可能であり、特にアセトニトリルを用いた場合の光ラセミ化反応が速かった。
【0109】
<参考例4:光増感剤としてMes-Acr-Me
+を用いた光ラセミ化反応における溶媒の検討>
【化8】
【0110】
光学活性なスルホキシド化合物((+)-1)(3.08mg,0.02mmol)を各種溶媒(2.0mL)に溶解した溶液に10-メチル-9-(2,4,6-トリメチルフェニル)アクリジニウム過塩素酸塩(Mes-Acr-Me+)(82.3μg,0.2μmol,1mol%)を加え、18WのLEDライト(波長425nm)を用いて光を照射した。光照射中、経時的にサンプリング(20μL)を行い、キラルHPLCによりエナンチオマー過剰率を算出した。キラルHPLCの条件は下記のとおりである。
【0111】
-キラルHPLC条件-
カラム:CHIRALPACK IH(10mm×250mm、粒子径5μm)((株)ダイセル製)
移動相:ヘキサン/イソプロパノール=60/40
流速:0.5mL/分
検出:254nm
【0112】
【0113】
表5に示すとおり、いずれの溶媒を用いた場合にも光ラセミ化が可能であり、特にアセトニトリルを用いた場合の光ラセミ化反応が速かった。
【0114】
<参考例5:TPT
+を担体に共有結合させた固相光増感剤の調製>
【化9】
【0115】
2,4,6-トリフェニルピリリウムテトラフルオロボラート(TPT+)(0.40g,1.0mmol,1.0当量)を含有するエタノール溶液(10mL)に、酢酸ナトリウム(0.32g,4.0mmol,4.0当量)及びR-Cat-Sil TA(1.0g,1.0mmol,1.0当量;関東化学(株)製)を加え、80℃で終夜撹拌した。0℃に冷却した後、濾過し、残留物をメタノール及びジクロロメタンで洗浄した後、乾燥することにより、固相光増感剤2(1.12g)を得た。
【0116】
【0117】
固相光増感剤2(0.50g)を含有するジクロロメタン溶液(10mL)に、無水酢酸(0.90mL,10.0mmol,20当量)及びピリジン(0.8mL,10.0mmol,20当量)を加え、室温で5時間撹拌した。濾過後、残留物をジクロロメタンで洗浄して乾燥することにより、固相光増感剤3(478mg)を得た。
【0118】
<参考例6:固相光増感剤2又は固相光増感剤3を用いた光ラセミ化の検討>
【化11】
【0119】
光学活性なスルホキシド化合物((+)-1)(1.54mg,0.01mmol)を含有するアセトニトリル溶液(1.0mL,0.01M)に固相光増感剤2(5mg)又は固相光増感剤3(5mg)を加え、分光蛍光光度計(波長310nm、(株)島津製作所製、RF-5300PC)を用いて光を照射した。光照射中、経時的にサンプリング(20μL)を行い、キラルHPLCによりエナンチオマー過剰率を算出した。キラルHPLCの条件は下記のとおりである。
【0120】
-キラルHPLC条件-
カラム:CHIRALPACK IH(10mm×250mm、粒子径5μm)((株)ダイセル製)
移動相:ヘキサン/イソプロパノール=60/40
流速:0.5mL/分
検出:254nm
【0121】
固相光増感剤2及び固相光増感剤3を用いた場合のエナンチオマー過剰率の時間変化をそれぞれ
図11及び
図12に示す。
図11及び
図12に示すとおり、光増感剤を担体に固定化した場合であっても、効率的に光ラセミ化反応を進行させることができた。
【0122】
<参考例7:9,10-DCAを担体に共有結合させた固相光増感剤の調製>
【化12】
【0123】
アルゴン気流下、2-メチルアントラキノン(1.50g,6.75mmol)及びシアン化カリウム(22.0mg,0.38mmol,0.05当量)を含有するN,N-ジメチルホルムアミド溶液(6.7mL)に、トリメチルシリルシアニド(1.71mL,13.9mmol,2.05当量)を加え、室温で終夜撹拌した。反応終了後、アセトニトリル(30mL)を加え、続いて三臭化リン(1.54mL,16.2mmol,1.2当量)を加え、室温で終夜撹拌した。ジクロロメタンを加えて反応を停止した後、濾過し、濾液を濃縮して得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン=1/1)で精製することにより、化合物6(200mg,0.826mmol,収率:12%)を得た。
【0124】
【0125】
アルゴン気流下、化合物6(207mg,0.86mmol)を含有する四塩化炭素溶液(10mL)に、N-ブロモスクシンイミド(290mg,1.90mmol,2.0当量)及び過酸化ベンゾイル(10.0mg,0.04mmol,0.05当量)を加え、加熱還流下、7時間撹拌した。反応終了後、濃縮して得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=20/1)により精製し、化合物7を得た。得られた化合物7をジクロロメタン(9.3mL)に溶解し、アルゴン気流下、R-Cat-Sil TA(1.0g,1.0mmol,1.1当量;関東化学(株)製)及びトリエチルアミン(0.42mL,3.00mmol,3当量)を加え、室温で終夜撹拌した。濾過後、残留物を水、メタノール、ジクロロメタン、及び酢酸エチルで洗浄し、乾燥することにより、固相光増感剤8(1.23g)を得た。
【0126】
<参考例8:TPT
+を担体にイオン結合させた固相光増感剤の調製>
【化14】
【0127】
2,4,6-トリフェニルピリリウムテトラフルオロボラート(TPT+)(0.20g,0.50mol)を含有する水溶液(60mL)にDOWEX 50Wx8(2.0g;富士フイルム和光純薬(株)製)を加え、室温で17時間撹拌した。濾過後、残留物を水、メタノール、ジクロロメタン、及びアセトニトリルで洗浄し、乾燥することにより、固相光増感剤9(1.70g)を得た。
【0128】
<参考例9:固相光増感剤9を用いた光ラセミ化の検討>
【化15】
【0129】
光学活性なスルホキシド化合物((+)-1)(1.54mg,0.01mmol)を含有するアセトニトリル溶液(1.0mL,0.01M)に固相光増感剤9(5mg)を加え、18WのLEDライト(波長425nm)を用いて光を照射した。光照射中、経時的にサンプリング(20μL)を行い、キラルHPLCによりエナンチオマー過剰率を算出した。キラルHPLCの条件は下記のとおりである。
【0130】
-キラルHPLC条件-
カラム:CHIRALPACK IH(10mm×250mm、粒子径5μm)((株)ダイセル製)
移動相:ヘキサン/イソプロパノール=60/40
流速:0.5mL/分
検出:254nm
【0131】
固相光増感剤9の存在下で波長425nmの光を10分間照射することにより、エナンチオマー過剰率が99.2%eeから2.7%eeまで減少しており、光ラセミ化反応が効率的に進行していることが確認された。
【0132】
【0133】
光学活性なスルホキシド化合物((+)-10a)(4.30mg,0.03mmol)を含有するアセトニトリル溶液(3.0mL,0.01M)に9,10-ジシアノアントラセン(9,10-DCA)(0.70mg,0.003mmol,10mol%)を加え、18WのLEDライト(波長425nm)を用いて光を照射した。光照射中、経時的にサンプリング(20μL)を行い、キラルHPLCによりエナンチオマー過剰率を算出した。また、(+)-10aの代わりに(+)-10b~10iを用いるほかは上記と同様の操作を行った。キラルHPLCの条件は下記のとおりである。
【0134】
-キラルHPLC条件(10a~10d、10f~10h)-
カラム:CHIRALPACK IH(10mm×250mm、粒子径5μm)((株)ダイセル製)
移動相:ヘキサン/イソプロパノール=60/40
流速:0.5mL/分
検出:254nm
【0135】
-キラルHPLC条件(10e)-
カラム:CHIRALPACK IA(10mm×250mm、粒子径5μm)((株)ダイセル製)
移動相:ヘキサン/エタノール=50/50
流速:0.5mL/分
検出:254nm
【0136】
-キラルHPLC条件(10i)-
カラム:CHIRALPACK IH(10mm×250mm、粒子径5μm)((株)ダイセル製)
移動相:ヘキサン/イソプロパノール=80/20
流速:0.5mL/分
検出:254nm
【0137】
【0138】
表6に示すとおり、いずれのスルホキシド化合物を用いた場合にも光ラセミ化が可能であった。