(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134233
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】セメント組成物及びその製造方法、アルカリシリカ反応抑制剤、アルカリシリカ反応抑制方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20220908BHJP
C04B 24/04 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033232
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 慶一郎
(72)【発明者】
【氏名】石田 剛朗
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PB16
(57)【要約】
【課題】低コストでありながら、アルカリシリカ反応を抑制しつつ、硬化物の強度を発現できるセメント組成物及びアルカリシリカ反応抑制剤を提供すること。
【解決手段】セメント組成物は、セメント、酢酸又はその塩、骨材、並びに水を含み、 JIS A1146:2017に準拠して測定された前記骨材の材齢26週における膨張率が0.05%以上であるものである。酢酸又はその塩の無水物換算での含有量が、前記セメント100質量部に対して0質量部超5質量部以下であることも好適である。全アルカリイオンに対する酢酸イオンのモル比が、0超2.0以下であることも好適である。本発明は、セメント組成物用のアルカリシリカ反応抑制剤、及びセメント組成物のアルカリシリカ反応抑制方法も提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、酢酸又はその塩、骨材、並びに水を含み、
JIS A1146:2017に準拠して測定された前記骨材の材齢26週における膨張率が0.05%以上である、セメント組成物。
【請求項2】
前記酢酸又はその塩の無水物換算での含有量が、前記セメント100質量部に対して0質量部超5質量部以下である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
前記酢酸又はその塩として、酢酸とアルカリ土類金属との塩を含む、請求項1又は2に記載のセメント組成物。
【請求項4】
前記骨材として細骨材を含み、
前記細骨材の絶乾密度が2.4g/cm3以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項5】
全アルカリイオンに対する酢酸イオンのモル比が、0超2.0以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のセメント組成物の製造方法であって、
セメント、酢酸又はその塩、骨材、並びに水を混合する工程を有する、セメント組成物の製造方法。
【請求項7】
酢酸又はその塩を含み、
JIS A1146:2017に準拠して測定された材齢26週における膨張率が0.05%以上である骨材と併用される、セメント組成物用のアルカリシリカ反応抑制剤。
【請求項8】
前記酢酸又はその塩として、酢酸とアルカリ土類金属との塩を含む、請求項7に記載のアルカリシリカ反応抑制剤。
【請求項9】
JIS A1146:2017に準拠して測定された材齢26週における膨張率が0.05%以上である骨材を含むセメント組成物を製造する工程のうちのいずれかの工程において、酢酸又はその塩を添加する、セメント組成物のアルカリシリカ反応抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物及びその製造方法、アルカリシリカ反応抑制剤、アルカリシリカ反応抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリシリカ反応は、セメントから主に供給されるアルカリ金属と、反応性骨材中の非晶質シリカとの化学反応によって生成されるアルカリシリカゲルが吸水膨張して、コンクリートにひび割れを発生させる現象である。このひび割れは、反応の進行に伴って、コンクリート構造物全体に発生することも多く、該構造物の耐久性の低下につながる。したがって、アルカリシリカ反応を抑制できる技術が望まれている。
【0003】
アルカリシリカ反応の一般的な抑制方法として、例えば、コンクリート中のアルカリ総量をNa2Oeqで3.0kg/m3以下としたり、高炉セメントやフライアッシュセメントなどを用いたり、JIS A1145またはJIS A1146の試験に基づいて無害と判定された骨材を使用したりすることが挙げられる。
【0004】
その他の技術として、特許文献1には、セメント、高炉スラグに加えて、亜硝酸リチウムを添加したセメント組成物が開示されている。
【0005】
また特許文献2には、プロピオン酸又はその塩、エタンスルホン酸又はその可溶性塩のうち少なくとも一種を用いたアルカリ性低減材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-061852号公報
【特許文献2】特開2007-169144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した一般的な抑制方法では、高強度コンクリートの利用が増えることに起因してアルカリ総量を所定の範囲以下に制御できなかったり、需要の増加に伴って、高炉スラグやフライアッシュ、あるいは無害と判定された骨材の供給や入手が困難となったりすることがある。
【0008】
また特許文献1に記載の技術は高価なリチウム塩を用いるので、コンクリートの製造コストが増大してしまい、適用が困難である。
【0009】
また特許文献2に記載の技術は、モルタルやコンクリートの強度発現性に関して何ら検討されていない。
【0010】
したがって、本発明は、低コストでありながら、アルカリシリカ反応を抑制しつつ、コンクリート等の硬化物の強度を発現できるセメント組成物及びアルカリシリカ反応抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、セメント、酢酸又はその塩、骨材、並びに水を含み、
JIS A1146:2017に準拠して測定された前記骨材の材齢26週における膨張率が0.05%以上である、セメント組成物を提供するものである。
【0012】
また本発明は、前記セメント組成物の製造方法であって、
セメント、酢酸又はその塩、骨材、並びに水を混合する工程を有する、セメント組成物の製造方法を提供するものである。
【0013】
また本発明は、酢酸又はその塩を含み、
JIS A1146:2017に準拠して測定された材齢26週における膨張率が0.05%以上である骨材と併用される、セメント組成物用のアルカリシリカ反応抑制剤を提供するものである。
【0014】
また本発明は、JIS A1146:2017に準拠して測定された材齢26週における膨張率が0.05%以上である骨材を含むセメント組成物を製造する工程のうちのいずれかの工程において、酢酸又はその塩を添加する、セメント組成物のアルカリシリカ反応抑制方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低コストでありながら、アルカリシリカ反応を抑制しつつ、硬化物の強度を発現できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好適な実施形態を以下に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の説明において、「X~Y[Z]」(X及びYは任意の数値であり、[Z]は必要に応じて付される単位である。)と記載した場合、特に断りのない限り、「X[Z]以上Y[Z]以下」又は「X以上Y以下」を意味する。
【0017】
本発明のセメント組成物は、セメント、酢酸又はその塩、骨材、並びに水を含む。
以下の説明において、特に断りのない限り、本明細書のセメント組成物は、骨材として細骨材のみを含むモルタルと、細骨材及び粗骨材をともに含むコンクリートとの双方が包含される。また文脈に応じて、セメント組成物は、硬化前の流動体(いわゆるフレッシュコンクリート)を指す場合と、組成物の硬化物を指す場合とがある。
【0018】
セメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、等の各種のポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等の混合セメント、エコセメント、アルミナセメント等の特殊セメント等を用いることができる。これらは単独で使用してもよく、複数組み合わせて用いることができる。これらのセメントとして、例えばJIS R5210、JIS R5211、JIS R5212、JIS R5213及びJIS R5214にそれぞれ規定されるセメントを用いることもできる。
【0019】
本発明のセメント組成物は、酢酸又はその塩を含むことを特徴の一つとしている。
セメントと有機酸とを共存させることは、得られるコンクリート等の硬化物の強度の発現に悪影響を及ぼしやすいので、強度の発現及び向上の観点からは、本技術分野では通常採用されづらい。この点に関して本発明者が鋭意検討したところ、有機酸として酢酸を選択して用いることによって、意外にも、得られるコンクリート等の硬化物における強度への悪影響を十分に低減しつつ、コンクリートの劣化の一因であるアルカリシリカ反応の発生を抑制できることを見出した。また酢酸又はその塩は比較的安価であるので、セメント組成物の製造コストを低減できる点でも有利である。
【0020】
酢酸又はその塩としては、氷酢酸などの酢酸そのものや、酢酸の水溶性塩が好ましく挙げられる。これらは無水物であってもよく、水和物であってもよい。これらは単独で又は複数組み合わせて用いることができる。
酢酸の水溶性塩における酢酸の対イオンとしては、例えばアンモニウム等の非金属イオン、ナトリウム及びカリウムなどのアルカリ金属イオン、カルシウムやマグネシウムなどのアルカリ土類金属イオンが挙げられる。
これらのうち、取り扱い性の向上、アルカリ源の供給に起因するコンクリート強度の増加、及びアルカリシリカ反応の効果的な抑制を兼ね備える観点から、酢酸の水溶性塩を用いることがより好ましく、酢酸とアルカリ土類金属との塩を用いることが更に好ましく、酢酸とカルシウム又はマグネシウムとの塩を用いることが一層好ましい。また、コストの低減の点から、酢酸リチウムは酢酸塩から除外されることが好ましい。
【0021】
酢酸又はその塩の含有量は、セメント100質量部に対して、好ましくは0質量部超5質量部以下、より好ましくは0.5~3質量部、更に好ましくは1~2.5質量部である。このような含有量とすることによって、得られる硬化物の強度に影響を及ぼさずに、アルカリシリカ反応を十分に抑制することができる。なお、上述の含有量は、無水物換算での値である。
【0022】
セメント組成物中の全アルカリイオンに対する酢酸イオンのモル比は、好ましくは0超2.0以下、より好ましくは0.1~1.8、更に好ましくは0.2~1.5、一層好ましくは0.3~1.0、より一層好ましくは0.4~0.8である。このようなモル比の範囲にあることによって、得られる硬化物に強度を十分に発現させつつ、骨材の膨張に起因するアルカリシリカ反応を効果的に抑制することができる。
【0023】
また別の実施形態において、セメント組成物中の全アルカリイオンに対する酢酸イオンのモル比は、好ましくは0超2.0以下、より好ましくは0.1~1.0、更に好ましくは0.1~0.5、一層好ましくは0.2~0.4である。このようなモル比の範囲であっても、得られる硬化物に強度を十分に発現させつつ、骨材の膨張に起因するアルカリシリカ反応を効果的に抑制することができる。
【0024】
また更に別の実施形態において、セメント組成物中の全アルカリイオンに対する酢酸イオンのモル比は、好ましくは0超2.0以下、より好ましくは0.5~2.0、更に好ましくは1.0~1.8、一層好ましくは1.1~1.6である。このようなモル比の範囲であっても、得られる硬化物に強度を十分に発現させつつ、骨材の膨張に起因するアルカリシリカ反応を効果的に抑制することができる。
【0025】
セメント組成物1m3当たりの全アルカリイオンのモル量は、好ましくは20~300モル、より好ましくは40~250モル、更に好ましくは60~170モルである。このような範囲であることによって、得られる硬化物に強度を十分に発現させることができる。
全アルカリイオンは、測定対象物としてセメント組成物の硬化体を微粉砕した粉体を用い、これをJIS R5202:2010に記載の測定方法で測定することができる。セメント組成物に使用された各材料中のアルカリ量が判明している場合には、JIS A5308:2019の附属書Bの記載に従って、各材料中のアルカリを総和して算出してもよい。
全アルカリイオンを上述の範囲に調整するためには、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの金属水酸化物を添加する等の方法が挙げられる。
【0026】
セメント組成物1m3当たりの酢酸イオンのモル量は、好ましくは6~180モル、より好ましくは12~150モル、更に好ましくは18~100モルである。このような範囲であることによって、得られる硬化物の強度発現に影響を及ぼしづらく、アルカリシリカ反応を更に効果的に抑制することができる。
酢酸イオンは、測定対象物としてセメント組成物の硬化体を微粉砕した粉体を用い、これをイオンクロマトグラフ法といった測定方法で測定することができる。酢酸イオンを上述の範囲に調整するためには、例えば酢酸又はその塩をセメント組成物の練混ぜ時に他材料と一緒に添加する方法や、酢酸又はその塩をセメント組成物の硬化体に内部圧入するといった方法が挙げられる。
【0027】
骨材としては、細骨材及び粗骨材が挙げられる。これらの骨材は、目的とする組成物の性状に応じて、細骨材のみを使用したモルタルの態様とするか、あるいは、細骨材及び粗骨材をともに使用したコンクリートの態様とすることができる。
【0028】
細骨材としては、例えば、川砂、山砂、陸砂及び海砂等の天然骨材、砕砂、珪砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材及び電気炉酸化スラグ細骨材等の人工細骨材や、再生細骨材等が挙げられる。細骨材として、JIS A1102に規定される細骨材を用いることもできる。これらは単独で又は複数組み合わせて用いることができる。
粗骨材としては、例えば、川砂利、海砂利、山砂利、砕石、スラグ砕石等が挙げられる。粗骨材として、JIS A5005に規定される粗骨材を用いることもできる。これらは単独で又は複数組み合わせて用いることができる。
【0029】
密度を高めて強度が十分に発現した硬化物を得る観点から、細骨材の含有量は、セメント100質量部に対して、好ましくは50~400質量部、より好ましくは100~300質量部、更に好ましくは150~250質量部である。
また同様の観点から、粗骨材を含む場合、該粗骨材の含有量は、セメント100質量部に対して、好ましくは100~400質量部、より好ましくは150~350質量部、更に好ましくは200~300質量部である。
【0030】
セメント組成物に含まれる骨材は、その膨張率が所定の範囲であることが好ましい。詳細には、JIS A1146:2017に準拠して測定された材齢26週における骨材の膨張率は、好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.05~5%、更に好ましくは0.10~3%,一層好ましくは0.20~2%、より一層好ましくは0.40~1%である。
また、JIS A1146:2017に準拠して測定された材齢13週における骨材の膨張率は、好ましくは0.05~5%、より好ましくは0.10~3%,更に好ましくは0.20~2%、一層好ましくは0.20~1%である。
【0031】
骨材の膨張率とアルカリシリカ反応の発生とは相関関係があるところ、このような膨張率であることによって、上述のJIS規格にて判定されたアルカリシリカ反応性が「無害でない」とされた膨張率(材齢26週で0.1%以上)を有する骨材を使用した場合でも、アルカリシリカ反応を十分に抑制することができる。また骨材は、その産地や採取時期、あるいは用いる原材料によって膨張率の変動が生じ得るところ、使用する骨材の選別に時間やコストを過度に要する必要がなくなるとともに、資源を有効に利用することができる。
上述した骨材の膨張率は、アルカリシリカ反応抑制の観点から、少なくとも細骨材において満たすことが好ましく、粗骨材を用いる場合には、細骨材及び粗骨材の双方において満たすことがより好ましい。
【0032】
細骨材の絶乾密度は、好ましくは2.4~5g/cm3、より好ましくは2.5~4g/cm3、更に好ましくは2.5~3g/cm3である。細骨材がこのような密度であることによって、アルカリシリカ反応を効果的に抑制することができるとともに、得られるセメント組成物及びその硬化物の品質が向上する。絶乾密度は、例えばJIS A1109に準じて測定することができる。
【0033】
細骨材の表乾密度は、好ましくは2.4~5g/cm3、より好ましくは2.5~4g/cm3、更に好ましくは2.6~3g/cm3である。細骨材がこのような密度であることによって、アルカリシリカ反応を効果的に抑制することができるとともに、得られるセメント組成物及びその硬化物の品質が向上する。表乾密度は、例えばJIS A1109に準じて測定することができる。
【0034】
細骨材の吸水率は、少なければ少ないほど好ましいが、好ましくは0%超4.0%以下、より好ましくは0.5~3.0%、更に好ましくは1.0%~2.0%である。細骨材がこのような吸水率であることによって、アルカリシリカ反応の媒体である水分を低減することができるので、アルカリシリカ反応の発生を更に効果的に抑制することができる。また、打設時や圧送時におけるセメント組成物の取り扱い性が向上するとともに、得られるセメント組成物及びその硬化物の品質が向上する。吸水率は、例えばJIS A1109に準じて測定することができる。
【0035】
細骨材の粗粒率は、好ましくは1.0~4.5、より好ましくは1.5~4.0、更に好ましくは2.0~3.5、一層好ましくは2.5~3.0である。細骨材がこのような粗粒率であることによって、アルカリシリカ反応の発生を効果的に抑制することができるとともに、フレッシュ時のセメント組成物のワーカビリティを向上させるといった効果が奏される。粗粒率は、例えばJIS A1102に準じて測定することができる。
【0036】
水は、例えば上水道水、井戸水、雨水、蒸留水、精製水、イオン交換水等の本技術分野において通常用いられる水を特に制限なく用いることができる。
【0037】
得られる硬化物の強度を更に高める観点から、水セメント比(セメント質量に対する水質量の比)は、好ましくは0.3~0.6、より好ましくは0.35~0.55、更に好ましくは0.4~0.5である。
【0038】
上述した実施形態のセメント組成物は、セメント、酢酸又はその塩、骨材並びに水を、任意の順序で、あるいはこれらを同時に投入して混合する工程を経て製造することができる。これによって、流動性のあるペースト状混合物からなる組成物となる。混合に使用するミキサは特に限定されず、ケミカルミキサ、モルタル用ミキサ、二軸強制練りミキサ、パン型ミキサ、グラウトミキサ等を使用することができる。
【0039】
本発明の効果が奏される限りにおいて、必要に応じて、上述したセメント、骨材、酢酸又はその塩並びに水以外の他の混和材料を、任意の順序で又は同時に更に添加してもよい。
他の混和材料としては、例えばJIS R5212に規定されるシリカ質混合材、石膏、炭酸カルシウム、高炉スラグ微粉末、石灰石又はその粉末、化学混和剤等が挙げられる。化学混和剤としては、例えばJIS A6204に規定される混和剤などが挙げられ、具体的には、減水剤、高性能減水剤、AE剤、AE減水剤、消泡剤、収縮低減剤、流動化剤、増粘剤、硬化促進剤等が挙げられる。
【0040】
以上の実施形態のセメント組成物は、アルカリシリカ反応を抑制しつつ、得られる硬化物の強度を発現することができる。この組成物はアルカリシリカ反応を抑制するための特徴の一つである酢酸又はその塩を含むので、アルカリシリカ反応を予防保全的に抑制できる点でも有利である。また酢酸又はその塩を用いるので、製造コストが低減され、また簡便にアルカリシリカ反応を抑制できる点でも有利である。
【0041】
また本発明によれば、上述の説明から明らかなように、セメント組成物用のアルカリシリカ反応抑制剤及びセメント組成物のアルカリシリカ反応抑制方法も提供される。
アルカリシリカ反応抑制剤は、酢酸とアルカリ土類金属との塩などの酢酸又はその塩を含み、JIS A1146:2017に準拠して測定された材齢26週における膨張率が0.05%以上である骨材と併用されるものである。
アルカリシリカ反応抑制方法は、JIS A1146:2017に準拠して測定された材齢26週における膨張率が0.05%以上である骨材を含むセメント組成物を製造する工程のうちのいずれかの工程において、酢酸とアルカリ土類金属との塩などの酢酸又はその塩を添加するものである。
これらの方法に関する説明はそれぞれ、上述の実施形態に関する説明が適宜適用され、また各実施形態を適宜組み合わせることも可能である。
【実施例0042】
以下に、実施例を挙げて本発明の内容を詳細に説明する。本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0043】
[1.使用材料]
使用した材料を以下の表1及び表2に示す。なお本実施例では、評価の便宜上、骨材として細骨材のみを含むモルタルを用いて評価しているが、コンクリートについても同様の結果が得られるものである。
各アルカリ量は、JIS R5202によって測定された値である。また絶乾密度、表乾密度及び吸水率はいずれもJIS A1109によって測定された値である。粗粒率はJIS A1102によって測定された値である。
【0044】
【0045】
【0046】
[2.モルタルの配合]
試験に用いたセメント組成物(モルタル)の配合を表3に示す。配合は、JIS A1146:2017に準拠した。水酸化ナトリウムは、セメントの全アルカリ量がNa2Oeqで1.2%となるように添加した。有機酸は、表2に示す材料を後述する表4に示す添加割合となるように外割りで添加した。またこれとは別に、有機酸非含有のものも併せて作製した。
【0047】
【0048】
[3.アルカリシリカ反応性の評価]
上述のとおり材料を配合したセメント組成物を用いて、JIS A 1146:2017に記載の方法に準じて供試体を作成し、材齢6週および材齢13週における供試体の膨張率を測定した。なお、細骨材の粒度調整は行わずに使用した。養生は、外部に流出しないように水分が常に保たれている吸取紙で供試体を覆い、これをビニール袋に入れ密閉した状態で、温度40±2℃、相対湿度95%以上の環境下で、材齢6週又は材齢13週となるまで行った。
膨張率の値が小さいほど、アルカリシリカ反応が抑制されていることを意味する。結果を以下の表4に示す。
【0049】
[4.圧縮強度の評価]
上述のとおり材料を配合したセメント組成物を、内径50mm、高さ100mmの型枠に打設し、温度20±3℃、相対湿度95%以上で24±2時間、初期養生を行った後に脱型し、供試体を得た。その後、材齢28日まで、水分が常に保たれている吸取紙で該供試体を覆い、ビニール袋に入れ密閉することで水の流出入を防ぎ、20±3℃で封緘養生し、JSCE-G 505-2010(円柱供試体を用いたモルタルまたはセメントペーストの圧縮強度試験方法(案))に準拠して、材齢28日おける圧縮強度(N/mm2)を測定した。
圧縮強度の値が大きいほど、得られる硬化物の強度が高いことを意味する。結果を以下の表4に示す。
【0050】
【0051】
表4に示すように、各実施例の膨張率は、有機酸非含有の比較例1よりも小さく、また比較例2~4と同程度の値となっており、アルカリシリカ反応を抑制できることが判る。特に各実施例は、アルカリシリカ反応性判定において「無害でない」と判定された細骨材(表1参照)を用いた場合でも、膨張率が更に低減されているので、アルカリシリカ反応の抑制効果に優れることが判る。
【0052】
また表4に示すように、各実施例の圧縮強度は、有機酸非含有の比較例1や、比較例2~4と同程度またはそれ以上の値となっており、強度発現に対する影響が非常に少ないことが判る。
特に、酢酸又はその塩の含有量並びにモル比を好適な範囲とした実施例1,4及び7は、膨張率が低減されてアルカリシリカ反応性判定において「無害」とされる程度までにアルカリシリカ反応を効果的に抑制できるとともに、他の実施例や比較例と比較して優れた強度を兼ね備えて発現できることも判る。