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特開2022-134234セメント組成物及びその製造方法、アルカリシリカ反応抑制剤、アルカリシリカ反応抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134234
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】セメント組成物及びその製造方法、アルカリシリカ反応抑制剤、アルカリシリカ反応抑制方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20220908BHJP
   C04B 24/04 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033233
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 慶一郎
(72)【発明者】
【氏名】石田 剛朗
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PB16
(57)【要約】
【課題】アルカリシリカ反応を抑制できるセメント組成物及びアルカリシリカ反応抑制剤を提供すること。
【解決手段】セメント組成物は、セメント、骨材、及び水、並びに、ジカルボン酸、ジカルボン酸塩又はジカルボン酸エステルを含み、JIS A1146:2017に準拠して測定された前記骨材の材齢26週における膨張率が0.05%以上であるものである。ジカルボン酸、ジカルボン酸塩又はジカルボン酸エステルの無水物換算での含有量が、前記セメント100質量部に対して0質量部超5質量部以下であることも好適である。本発明は、セメント組成物用のアルカリシリカ反応抑制剤、及びセメント組成物のアルカリシリカ反応抑制方法も提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、骨材、及び水、並びに、ジカルボン酸、ジカルボン酸塩又はジカルボン酸エステルを含み、
JIS A1146:2017に準拠して測定された前記骨材の材齢26週における膨張率が0.05%以上である、セメント組成物。
【請求項2】
前記ジカルボン酸、ジカルボン酸塩又はジカルボン酸エステルの無水物換算での含有量が、前記セメント100質量部に対して0質量部超10質量部以下である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
前記ジカルボン酸エステルを含み、
前記ジカルボン酸エステルは、総炭素数が4以上8以下であり且つ直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸ジアルキルエステルである、請求項1又は2に記載のセメント組成物。
【請求項4】
前記骨材として細骨材を含み、
前記細骨材の絶乾密度が2.4g/cm以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のセメント組成物の製造方法であって、
セメント、骨材、及び水、並びに、ジカルボン酸、ジカルボン酸塩又はジカルボン酸エステルを混合する工程を有する、セメント組成物の製造方法。
【請求項6】
ジカルボン酸、ジカルボン酸塩又はジカルボン酸エステルを含み、
JIS A1146:2017に準拠して測定された材齢26週における膨張率が0.05%以上である骨材と併用される、セメント組成物用のアルカリシリカ反応抑制剤。
【請求項7】
JIS A1146:2017に準拠して測定された材齢26週における膨張率が0.05%以上である骨材を含むセメント組成物を製造する工程のうちのいずれかの工程において、ジカルボン酸、ジカルボン酸塩又はジカルボン酸エステルを添加する、セメント組成物のアルカリシリカ反応抑制方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物及びその製造方法、アルカリシリカ反応抑制剤、アルカリシリカ反応抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリシリカ反応は、セメントから主に供給されるアルカリ金属と、反応性骨材中の非晶質シリカとの化学反応によって生成されるアルカリシリカゲルが吸水膨張して、コンクリートにひび割れを発生させる現象である。このひび割れは、反応の進行に伴って、コンクリート構造物全体に発生することも多く、該構造物の耐久性の低下につながる。したがって、アルカリシリカ反応を抑制できる技術が望まれている。
【0003】
特許文献1には、アルコール及びエステルを含有してなる疎水性物質と、多孔質粉体とからなるプラスター又はモルタル用ひび割れ防止剤が開示されている。
【0004】
また特許文献2には、ヒドロキシプロポキシ基置換度が5~16質量%であって、かつアスペクト比が4~7である繊維状粒子形態の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの水分散液、セメント及び骨材を含むコンクリート組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-193416号公報
【特許文献2】特開2018-076219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び2に記載の技術は、アルカリシリカ反応の抑制について何ら検討されていない。
【0007】
したがって、本発明は、アルカリシリカ反応を抑制できるセメント組成物及びアルカリシリカ反応抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、セメント、骨材、及び水、並びに、ジカルボン酸、ジカルボン酸塩又はジカルボン酸エステルを含み、
JIS A1146:2017に準拠して測定された前記骨材の材齢26週における膨張率が0.05%以上である、セメント組成物を提供するものである。
【0009】
また本発明は、前記セメント組成物の製造方法であって、
セメント、骨材、及び水、並びに、ジカルボン酸、ジカルボン酸塩又はジカルボン酸エステルを混合する工程を有する、セメント組成物の製造方法を提供するものである。
【0010】
また本発明は、ジカルボン酸、ジカルボン酸塩又はジカルボン酸エステルを含み、
JIS A1146:2017に準拠して測定された材齢26週における膨張率が0.05%以上である骨材と併用される、セメント組成物用のアルカリシリカ反応抑制剤を提供するものである。
【0011】
また本発明は、JIS A1146:2017に準拠して測定された材齢26週における膨張率が0.05%以上である骨材を含むセメント組成物を製造する工程のうちのいずれかの工程において、ジカルボン酸、ジカルボン酸塩又はジカルボン酸エステルを添加する、セメント組成物のアルカリシリカ反応抑制方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アルカリシリカ反応を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の好適な実施形態を以下に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の説明において、「X~Y[Z]」(X及びYは任意の数値であり、[Z]は必要に応じて付される単位である。)と記載した場合、特に断りのない限り、「X[Z]以上Y[Z]以下」又は「X以上Y以下」を意味する。
【0014】
また以下の説明において、特に断りのない限り、本明細書のセメント組成物は、骨材として細骨材のみを含むモルタルと、細骨材及び粗骨材をともに含むコンクリートとの双方が包含される。また文脈に応じて、セメント組成物は、硬化前の流動体(いわゆるフレッシュコンクリート)を指す場合と、組成物の硬化物を指す場合とがある。
【0015】
本発明のセメント組成物は、セメント、骨材、及び水を含む。これに加えて、セメント組成物は、ジカルボン酸、ジカルボン酸塩又はジカルボン酸エステル(以下、これを総称して「ジカルボン酸類」ともいう。)を含む。
本発明者が鋭意検討したところ、有機酸類としてジカルボン酸類を選択して用いることによって、コンクリートの劣化の一因であるアルカリシリカ反応の発生を抑制できることを見出した。また、セメントと有機酸類とを共存させることは、得られるコンクリート等の硬化物の強度の発現に悪影響を及ぼしやすいので本技術分野では通常採用されづらいものであるところ、ジカルボン酸類を用いることによって、意外にも、製造コストを低減しつつ、得られるコンクリート等の硬化物における強度への悪影響が低減されることも見出した。
【0016】
ジカルボン酸類としては、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸等のジカルボン酸、前記各ジカルボン酸塩や、脂肪族ジカルボン酸モノエステル、脂肪族ジカルボン酸ジエステル、芳香族ジカルボン酸モノエステル及び芳香族ジカルボン酸ジエステル等のジカルボン酸エステルが挙げられる。
これらのジカルボン酸類は、それぞれ独立して、直鎖であってもよく、分枝鎖であってもよい。また、これらのジカルボン酸類は、それぞれ独立して、飽和であってもよく、不飽和であってもよい。これらのジカルボン酸類は、それぞれ独立して、無水物であってもよく、水和物であってもよい。これらは単独で又は複数組み合わせて用いることができる。
【0017】
脂肪族ジカルボン酸としては、例えば炭素数2~10の直鎖又は分枝鎖の化合物が挙げられ、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸や、フマル酸、マレイン酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸としては、例えば炭素数8~16の化合物が挙げられ、具体的には、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸並びにこれらのジカルボン酸誘導体等が挙げられる。
【0018】
ジカルボン酸塩としては、上述の脂肪族ジカルボン酸又は芳香族ジカルボン酸と、塩基との塩が挙げられ、好ましくは水溶性の塩である。これらは単独で又は複数組み合わせて用いることができる。
ジカルボン酸塩を構成する塩基由来の対イオンとしては、例えばアンモニウム等の非金属イオン、ナトリウム及びカリウムなどのアルカリ金属イオン、カルシウムやマグネシウムなどのアルカリ土類金属イオンが挙げられる。コストの低減の点から、ジカルボン酸のリチウム塩は本発明のジカルボン酸塩から除外されることが好ましい。
【0019】
ジカルボン酸エステルとしては、上述の脂肪族ジカルボン酸又は芳香族ジカルボン酸のアルキルエステルが挙げられる。ジカルボン酸エステルの総炭素数は、好ましくは4~30、より好ましくは4~15、更に好ましくは4~8、一層好ましくは4~6である。
エステルを構成するアルコール由来のアルキル基は、それぞれ独立して、その炭素数が好ましくは1~10、より好ましくは1~4、更に好ましくは1~2である。当該アルキル基は、それぞれ独立して、同種のものであってもよく、異種のものであってもよい。
【0020】
ジカルボン酸ジアルキルエステルを例にとると、具体的には、シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジプロピル、シュウ酸ジブチル、シュウ酸ジヘキシル等のシュウ酸ジアルキルエステル;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジプロピル、マロン酸ジブチル、マロン酸ジヘキシル等のマロン酸ジアルキルエステル;コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、コハク酸ジプロピル、コハク酸ジブチル、コハク酸ジヘキシル等のコハク酸ジアルキルエステル;グルタル酸ジメチル、グルタル酸ジエチル、グルタル酸ジプロピル、グルタル酸ジブチル、グルタル酸ジヘキシル等のグルタル酸ジアルキルエステル;アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジヘキシル等のアジピン酸ジアルキルエステル;ピメリン酸ジメチル、ピメリン酸ジエチル、ピメリン酸ジプロピル、ピメリン酸ジブチル等のピメリン酸ジアルキルエステル;スベリン酸ジメチル、スベリン酸ジエチル、スベリン酸ジプロピル、スベリン酸ジブチル等のスベリン酸ジアルキルエステル;等の各種のジエステルが挙げられるが、これらに限られない。
【0021】
コストが低減され且つ取り扱い性が良好であるとともに、アルカリシリカ反応の発生を効果的に抑制する観点から、これらのジカルボン酸類のうち、好ましくは脂肪族ジカルボン酸ジエステルを含み、より好ましくは直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸ジアルキルエステルを含み、更に好ましくは直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸の直鎖ジアルキルエステルを含む。また同様の観点から、ジカルボン酸類の総炭素数は、好ましくは4~8、より好ましくは4~6である。
【0022】
上述の好適なジカルボン酸類としては、シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジプロピル、シュウ酸ジブチル等のシュウ酸ジアルキルエステル;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル等のマロン酸ジアルキルエステル;コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル等のコハク酸ジアルキルエステル;グルタル酸ジメチル;アジピン酸ジメチルなどが挙げられる。
硬化物における強度発現への悪影響を一層低減させる観点から、上述の好適なジカルボン酸類のうち、好ましくはシュウ酸ジアルキルエステル又はマロン酸ジアルキルエステルであり、より好ましくはシュウ酸ジアルキルエステルであり、更に好ましくはシュウ酸ジメチルである。
【0023】
ジカルボン酸類の含有量は、セメント100質量部に対して、好ましくは0質量部超10質量部以下、より好ましくは0質量部超5質量部以下、更に好ましくは0.1~5質量部、一層好ましくは0.5~3質量部、より一層好ましくは1~2.5質量部である。このような含有量とすることによって、得られる硬化物の強度に影響を及ぼさずに、アルカリシリカ反応を十分に抑制することができる。なお、上述の含有量は、無水物換算での値である。ジカルボン酸類を複数種含む場合には、ジカルボン酸類の含有量はその総量に基づく。
【0024】
ジカルボン酸類は、測定対象物としてセメント組成物の硬化体を微粉砕した粉体を用い、これをイオンクロマトグラフ法等の方法で測定することができる。ジカルボン酸類の量を上述の範囲に調整するためには、例えばジカルボン酸類をセメント組成物の練混ぜ時に他材料と一緒に添加する方法や、ジカルボン酸類をセメント組成物の硬化体に内部圧入するといった方法が挙げられる。
【0025】
ジカルボン酸類としてシュウ酸、シュウ酸塩又はシュウ酸エステル(以下、これらを総称してシュウ酸類ともいう)を用いる場合には、その含有量は、セメント100質量部に対する量として、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上、より更に好ましくは1.0質量部以上、一層好ましくは1.5質量部以上、特に一層好ましくは3質量部以上であり、10質量部以下が現実的であり、好ましくは5質量部以下である。
シュウ酸類をこのような含有量とすることによって、得られる硬化物の強度に影響を及ぼさずに、アルカリシリカ反応を十分に抑制することができる。なお、上述の含有量は、無水物換算での値である。シュウ酸類を複数種含む場合には、シュウ酸類の含有量はその総量に基づく。
【0026】
セメント組成物1m当たりの全アルカリ(NaOeq)の含有量は、好ましくは1~10kg、より好ましくは2~7kg、更に好ましくは3~5kgである。このような範囲であることによって、得られる硬化物に強度を十分に発現させることができる。
全アルカリは、測定対象物としてセメント組成物の硬化体を微粉砕した粉体を用い、これをJIS R5202:2010に記載の測定方法で測定することができる。セメント組成物に使用された各材料中のアルカリ量が判明している場合には、JIS A5308:2019の附属書Bの記載に従って、各材料中のアルカリを総和して算出してもよい。全アルカリを上述の範囲に調整するためには、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの金属水酸化物を添加する等の方法が挙げられる。
【0027】
セメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、等の各種のポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等の混合セメント、エコセメント、アルミナセメント等の特殊セメント等を用いることができる。これらは単独で使用してもよく、複数組み合わせて用いることができる。これらのセメントとして、例えばJIS R5210、JIS R5211、JIS R5212、JIS R5213及びJIS R5214にそれぞれ規定されるセメントを用いることもできる。
【0028】
骨材としては、細骨材及び粗骨材が挙げられる。これらの骨材は、目的とする組成物の性状に応じて、細骨材のみを使用したモルタルの態様とするか、あるいは、細骨材及び粗骨材をともに使用したコンクリートの態様とすることができる。
【0029】
細骨材としては、例えば、川砂、山砂、陸砂及び海砂等の天然骨材、砕砂、珪砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材及び電気炉酸化スラグ細骨材等の人工細骨材や、再生細骨材等が挙げられる。細骨材として、JIS A1102に規定される細骨材を用いることもできる。これらは単独で又は複数組み合わせて用いることができる。
粗骨材としては、例えば、川砂利、海砂利、山砂利、砕石、スラグ砕石等が挙げられる。粗骨材として、JIS A5005に規定される粗骨材を用いることもできる。これらは単独で又は複数組み合わせて用いることができる。
【0030】
密度を高めて強度が十分に発現した硬化物を得る観点から、細骨材の含有量は、セメント100質量部に対して、好ましくは50~400質量部、より好ましくは100~300質量部、更に好ましくは150~250質量部である。
また同様の観点から、粗骨材を含む場合、該粗骨材の含有量は、セメント100質量部に対して、好ましくは100~400質量部、より好ましくは150~350質量部、更に好ましくは200~300質量部である。
【0031】
セメント組成物に含まれる骨材は、その膨張率が所定の範囲であることが好ましい。詳細には、JIS A1146:2017に準拠して測定された材齢26週における骨材の膨張率は、好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.05~5%、更に好ましくは0.10~3%,一層好ましくは0.20~2%、より一層好ましくは0.40~1%である。
また、JIS A1146:2017に準拠して測定された材齢13週における骨材の膨張率は、好ましくは0.05~5%、より好ましくは0.10~3%,更に好ましくは0.20~2%、一層好ましくは0.20~1%である。
【0032】
骨材の膨張率とアルカリシリカ反応の発生とは相関関係があるところ、このような膨張率であることによって、上述のJIS規格にて判定されたアルカリシリカ反応性が「無害でない」とされた膨張率(材齢26週で0.1%以上)を有する骨材を使用した場合でも、アルカリシリカ反応を十分に抑制することができる。また骨材は、その産地や採取時期、あるいは用いる原材料によって膨張率の変動が生じ得るところ、使用する骨材の選別に時間やコストを過度に要する必要がなくなるとともに、資源を有効に利用することができる。
上述した骨材の膨張率は、アルカリシリカ反応抑制の観点から、少なくとも細骨材において満たすことが好ましく、粗骨材を用いる場合には、細骨材及び粗骨材の双方において満たすことがより好ましい。
【0033】
細骨材の絶乾密度は、好ましくは2.4~5g/cm、より好ましくは2.5~4g/cm、更に好ましくは2.5~3g/cmである。細骨材がこのような密度であることによって、アルカリシリカ反応を効果的に抑制することができるとともに、得られるセメント組成物及びその硬化物の品質が向上する。絶乾密度は、例えばJIS A1109に準じて測定することができる。
【0034】
細骨材の表乾密度は、好ましくは2.4~5g/cm、より好ましくは2.5~4g/cm、更に好ましくは2.6~3g/cmである。細骨材がこのような密度であることによって、アルカリシリカ反応を効果的に抑制することができるとともに、得られるセメント組成物及びその硬化物の品質が向上する。表乾密度は、例えばJIS A1109に準じて測定することができる。
【0035】
細骨材の吸水率は、少なければ少ないほど好ましいが、好ましくは0%超4.0%以下、より好ましくは0.5~3.0%、更に好ましくは1.0%~2.0%である。細骨材がこのような吸水率であることによって、アルカリシリカ反応の媒体である水分を低減することができるので、アルカリシリカ反応の発生を更に効果的に抑制することができる。また、打設時や圧送時におけるセメント組成物の取り扱い性が向上するとともに、得られるセメント組成物及びその硬化物の品質が向上する。吸水率は、例えばJIS A1109に準じて測定することができる。
【0036】
細骨材の粗粒率は、好ましくは1.0~4.5、より好ましくは1.5~4.0、更に好ましくは2.0~3.5、一層好ましくは2.5~3.0である。細骨材がこのような粗粒率であることによって、アルカリシリカ反応の発生を効果的に抑制することができるとともに、フレッシュ時のセメント組成物のワーカビリティを向上させるといった効果が奏される。粗粒率は、例えばJIS A1102に準じて測定することができる。
【0037】
水は、例えば上水道水、井戸水、雨水、蒸留水、精製水、イオン交換水等の本技術分野において通常用いられる水を特に制限なく用いることができる。
【0038】
得られる硬化物の強度を更に高める観点から、水セメント比(セメント質量に対する水質量の比)は、好ましくは0.3~0.6、より好ましくは0.35~0.55、更に好ましくは0.4~0.5である。
【0039】
セメント組成物は、フレッシュ時のワーカビリティを向上させたり、耐凍害性を向上させるために微細な空気泡を導入する目的や、水分逸散による硬化物収縮を低減させたりする目的で、高級アルコールを更に含むことも好ましい。
このような高級アルコールとしては、炭素数が好ましくは12~30、より好ましくは15~25の一価アルコールが挙げられる。高級アルコールは、直鎖又は分枝鎖ものであり、また、飽和又は不飽和のものである。これらは単独で又は複数種を用いることができる。
【0040】
耐凍害性のさらなる向上と、硬化物の収縮低減とを両立する観点から、高級アルコールは、炭素数15~25の直鎖飽和一価アルコールであることがより好ましく、構造末端に水酸基を有するアルコールであることが更に好ましい。このような高級アルコールとしては、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イコシルアルコール、ドコシルアルコール、テトラコシルアルコール等が挙げられる。
【0041】
高級アルコールを含む場合、高級アルコールの含有量は、ジカルボン酸類の総量100質量部に対して、好ましくは5~200質量部、より好ましくは10~100質量部、更に好ましくは15~50質量部である。このような含有量とすることによって、アルカリシリカ反応を十分に抑制しながらも、耐凍害性と、硬化物の収縮低減とをより効果的に発現させることができる。高級アルコールを複数種含む場合には、高級アルコールの含有量はその総量に基づく。
【0042】
上述した実施形態のセメント組成物は、セメント、骨材、水、及びジカルボン酸類、並びに必要に応じて高級アルコールを、任意の順序で、あるいはこれらを同時に投入して混合する工程を経て製造することができる。これによって、流動性のあるペースト状混合物からなる組成物となる。混合に使用するミキサは特に限定されず、ケミカルミキサ、モルタル用ミキサ、二軸強制練りミキサ、パン型ミキサ、グラウトミキサ等を使用することができる。
【0043】
本発明の効果が奏される限りにおいて、必要に応じて、上述したセメント、骨材、水、並びにジカルボン酸類以外の他の混和材料を、任意の順序で又は同時に更に添加してもよい。
他の混和材料としては、例えばJIS R5212に規定されるシリカ質混合材、石膏、炭酸カルシウム、高炉スラグ微粉末、石灰石又はその粉末、化学混和剤等が挙げられる。化学混和剤としては、例えばJIS A6204に規定される混和剤などが挙げられ、具体的には、減水剤、高性能減水剤、AE剤、AE減水剤、消泡剤、収縮低減剤、流動化剤、増粘剤、硬化促進剤等が挙げられる。
【0044】
以上の実施形態のセメント組成物は、アルカリシリカ反応を抑制しつつ、得られる硬化物の強度を発現することができる。この組成物はアルカリシリカ反応を抑制するための特徴の一つであるジカルボン酸類を含むので、アルカリシリカ反応を予防保全的に抑制できる点でも有利である。またジカルボン酸類を用いるので、製造コストが低減され、また簡便にアルカリシリカ反応を抑制できる点でも有利である。
【0045】
また本発明によれば、上述の説明から明らかなように、セメント組成物用のアルカリシリカ反応抑制剤及びセメント組成物のアルカリシリカ反応抑制方法も提供される。
アルカリシリカ反応抑制剤は、ジカルボン酸類を含み、JIS A1146:2017に準拠して測定された材齢26週における膨張率が0.05%以上である骨材と併用されるものである。
アルカリシリカ反応抑制方法は、JIS A1146:2017に準拠して測定された材齢26週における膨張率が0.05%以上である骨材を含むセメント組成物を製造する工程のうちのいずれかの工程において、ジカルボン酸類を添加するものである。
これらの方法に関する説明はそれぞれ、上述の実施形態に関する説明が適宜適用され、また各実施形態を適宜組み合わせることも可能である。
【実施例0046】
以下に、実施例を挙げて本発明の内容を詳細に説明する。本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0047】
[1.使用材料]
使用した材料を以下の表1に示す。なお本実施例では、評価の便宜上、骨材として細骨材のみを含むモルタルを用いて評価しているが、コンクリートについても同様の結果が得られるものである。
各アルカリ量は、JIS R5202によって測定された値である。また絶乾密度、表乾密度及び吸水率はいずれもJIS A1109によって測定された値である。粗粒率はJIS A1102によって測定された値である。
【0048】
【表1】
【0049】
[2.モルタルの配合]
試験に用いたセメント組成物(モルタル)の配合を表3に示す。配合は、JIS A1146:2017に準拠した。水酸化ナトリウムは、セメントの全アルカリ量がNaOeqで1.2%となるように添加した。ジカルボン酸類は、表1に示す材料を後述する表3に示す添加割合となるように外割りで添加した(実施例1)。またこれとは別に、ジカルボン酸類を非含有のものも併せて作製した(比較例1)。
【0050】
【表2】
【0051】
[3.アルカリシリカ反応性の評価]
上述のとおり材料を配合したセメント組成物を用いて、JIS A1146:2017に記載の方法に準じて供試体を作成し、材齢8週における供試体の膨張率を測定した。なお、細骨材の粒度調整は行わずに使用した。養生は、外部に流出しないように水分が常に保たれている吸取紙で供試体を覆い、これをビニール袋に入れ密閉した状態で、温度40±2℃、相対湿度95%以上の環境下で、材齢8週となるまで行った。
膨張率の値が小さいほど、アルカリシリカ反応が抑制されていることを意味する。結果を以下の表3に示す。
【0052】
[4.圧縮強度の評価]
上述のとおり材料を配合したセメント組成物を、内径50mm、高さ100mmの型枠に打設し、温度20±3℃、相対湿度95%以上で24±2時間、初期養生を行った後に脱型し、供試体を得た。その後、材齢28日まで、水分が常に保たれている吸取紙で該供試体を覆い、ビニール袋に入れ密閉することで水の流出入を防ぎ、20±3℃で封緘養生し、JSCE-G 505-2010(円柱供試体を用いたモルタルまたはセメントペーストの圧縮強度試験方法(案))に準拠して、材齢28日おける圧縮強度(N/mm)を測定した。
圧縮強度の値が大きいほど、得られる硬化物の強度が高いことを意味する。結果を以下の表3に示す。
【0053】
[5.15打モルタルフローの評価]
モルタルフローの評価は、上述の組成のモルタルを用い、JIS R5201:2015に記載の「12.2 フロー値の測定」に準じて測定した。フロー値(mm)が大きいほど、流動性が高く、施工性に優れることを示す。結果を以下の表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
表3に示すように、実施例1の膨張率は、比較例1よりも小さくなっており、アルカリシリカ反応を抑制できることが判る。特に実施例1は、アルカリシリカ反応性判定において「無害でない」と判定された細骨材(表1参照)を用いた場合でも、膨張率が更に低減されているので、アルカリシリカ反応の抑制効果に優れることが判る。
また表3に示すように、実施例1の圧縮強度は、比較例のものと比較して高くなっているので、強度発現性が向上していることが判る。更に、実施例1におけるフロー値は、比較例1の値と同程度となっており、流動性に対する悪影響が非常に少ないことが判る。
したがって、本発明によれば、アルカリシリカ反応の抑制効果に優れるとともに、また強度発現や流動性に対する影響も少ないので、施工性に優れる。