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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134526
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】工作機械および工作機械用制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 3/12 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
G05D3/12 305Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033691
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134430
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 卓士
(72)【発明者】
【氏名】藤本 博志
(72)【発明者】
【氏名】林 拓巳
(72)【発明者】
【氏名】寺田 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】伊佐岡 慶浩
【テーマコード(参考)】
5H303
【Fターム(参考)】
5H303AA01
5H303CC07
5H303DD01
5H303KK03
5H303KK21
5H303KK28
(57)【要約】
【課題】移動体の移動制御を高精度に行うこと。
【解決手段】工作機械において移動体を移動させるための送り駆動部と、送り駆動部において発生する転がり摩擦を補償するため、送り駆動部へ入力する電流値に対して、転がり摩擦の計測データから得た摩擦補償値、または転がり摩擦モデルを用いて算出した摩擦補償値をあらかじめ加算する摩擦補償部と、摩擦補償値の加算によって発生する逆応答を低減するため、摩擦補償値に所定のステップ入力値を加算するステップ入力部と、を備えた工作機械。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械において移動体を移動させるための送り駆動部と、
前記送り駆動部において発生する転がり摩擦を補償するため、前記送り駆動部へ入力する電流値に対して、転がり摩擦の計測データから得た摩擦補償値、または転がり摩擦モデルを用いて算出した摩擦補償値をあらかじめ加算する摩擦補償部と、
前記摩擦補償値の加算によって発生する逆応答を低減するため、前記摩擦補償値に所定のステップ入力値を加算するステップ入力部と、
を備えた工作機械。
【請求項2】
前記ステップ入力部は、前記ステップ入力値を加算する前の前記摩擦補償値を用いた場合の追従誤差から前記ステップ入力値のタイミングおよび大きさを算出する算出部を含む請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記ステップ入力部は、前記ステップ入力値を加算する前の前記摩擦補償値を用いた場合の追従誤差の符号が最初に逆転する前に前記追従誤差の絶対値が最大となるタイミングから、追従誤差の符号が最初に逆転するタイミングまでの間に、ステップ入力値の加算を開始する請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記ステップ入力部は、前記ステップ入力値を加算する前の前記摩擦補償値を用いた場合の追従誤差の値を用いて、前記ステップ入力値の大きさを決定する請求項3に記載の工作機械。
【請求項5】
前記ステップ入力部は、前記ステップ入力値を加算する前の前記摩擦補償値を用いた場合の追従誤差の絶対値が最大になるタイミングから、前記絶対値が0になるタイミングまでの間でタイミングを変えつつ、前記ステップ入力値を加算し、負の誤差の絶対値が、前記追従誤差の絶対値の最大値よりも大きくならないような前記ステップ入力値を決定する請求項4に記載の工作機械。
【請求項6】
工作機械において移動体を移動させるための送り駆動部において発生する転がり摩擦を補償するため、前記送り駆動部へ入力する電流値に対して、転がり摩擦の計測データから得た摩擦保証値、または転がり摩擦モデルを用いて算出した摩擦補償値をあらかじめ加算する摩擦補償部と、
前記摩擦補償によって発生する逆応答を低減するため、前記摩擦補償値に所定のステップ入力値を加算するステップ入力部と、
を備えた工作機械用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械および工作機械用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野において、特許文献1には、摩擦力を推定して物体の移動を制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許5560068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記文献に記載の技術では、摩擦補償により逆応答が生じ、物体の移動精度が低い場合があった。
【0005】
本発明の目的は、上述の課題を解決する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明にかかる工作機械は、
工作機械において移動体を移動させるための送り駆動部と、
前記送り駆動部において発生する転がり摩擦を補償するため、前記送り駆動部へ入力する電流値に対して、転がり摩擦の計測データから得た摩擦補償値、または転がり摩擦モデルを用いて算出した摩擦補償値をあらかじめ加算する摩擦補償部と、
前記摩擦補償によって発生する逆応答を低減するため、前記摩擦補償値に所定のステップ入力値を加算するステップ入力部と、
を備えた工作機械である。
上記目的を達成するため、本発明にかかる装置は、
工作機械において移動体を移動させるための送り駆動部において発生する転がり摩擦を補償するため、前記送り駆動部へ入力する電流値に対して、転がり摩擦の計測データから得た摩擦保証値、または転がり摩擦モデルを用いて算出した摩擦補償値をあらかじめ加算する摩擦補償部と、
前記摩擦補償によって発生する逆応答を低減するため、前記摩擦補償値に所定のステップ入力値を加算するステップ入力部と、
を備えた工作機械用制御装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、移動体の移動制御を高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る工作機械の構成を示すブロック図である。
図2】第2実施形態に係る工作機械のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3】第2実施形態に係る工作機械の機能構成を示すブロック図である。
図4】第2実施形態に係る工作機械の処理の流れを示すフローチャートである。
図5】第2実施形態に係る工作機械の摩擦特性のテーブルを示す図である。
図6】第2実施形態に係る工作機械の制御系を示すブロック図である。
図7】第2実施形態に係る工作機械の各種の値の変化を示す図である。
図8】第2実施形態に係る工作機械の逆応答の抑圧を説明する図である。
図9】第2実施形態に係る工作機械の逆応答の抑圧処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態について例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施の形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0010】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態としての物体移動装置100について、図1を用いて説明する。物体移動装置100は、工作機械に組み込まれ、ステージ上に載置されたワークを移動させるための装置である。
【0011】
図1に示すように、工作機械100は、送り駆動部101と、摩擦補償部102と、ステップ入力部103とを備える。
【0012】
駆動部101は、工作機械100において移動体120を移動させる。
【0013】
摩擦補償部102は、送り駆動部101において発生する転がり摩擦を補償するため、送り駆動部101へ入力する電流値121に対して、転がり摩擦の計測データから得た摩擦補償値122、または転がり摩擦モデルを用いて算出した摩擦補償値122をあらかじめ加算する。
【0014】
ステップ入力部103は、摩擦補償によって発生する逆応答を低減するため、摩擦補償値122に所定のステップ入力値123を加算する。
【0015】
本実施形態によれば、移動体をより高精度に移動させることができる。
【0016】
[第2実施形態]
次に本発明の第2実施形態に係る工作機械200について、図2以降を用いて説明する。図2は、本実施形態に係る工作機械200の構成を説明するための図である。工作機械200は、移動体としてのステージ201を移動させる送り駆動部としてのボールねじ202を備えている。このようなボールねじ駆動ステージは、エネルギー変換効率が高く、摩耗が少なく、長寿命であることから工作機械などの産業機械の送り装置としてよく利用されている。
【0017】
ボールねじ202は、カップリング203を介してモータ204に接続され、かつベアリング205によって軸支されている。ボールねじ202の回転に伴い、ナット206が図中左右方向に移動し、これによってステージ201がリニアガイド207に案内されつつX軸方向に移動する。
【0018】
工作機械200は、工具208を備えており、ステージ201に固定された被加工物であるワーク209を加工する。
【0019】
図3は、工作機械200におけるステージ201の駆動制御のための構成を説明する図である。ステージ201は、移動領域330の中で往復移動する。このようなボールねじ駆動のステージで201は、転がり摩擦が追従性の低下を招く。転がり摩擦は、ボールねじ202とナット206との間のボールや、リニアガイド207内のボールによって発生する。
【0020】
グラフ350は、ステージ位置とボールねじの転がり摩擦との関係を示す。転がり摩擦は、速度反転点からの変位に依存する。例えば、始動位置351からステージ201が動き始め、速度反転位置352で速度が反転して、元の始動位置351へステージ201が戻るとする。始動位置351からステージ201が所定距離移動するまでの間の領域353では、転がり摩擦は非線形ばね特性を示す。一方、ステージ201が始動位置351から所定距離移動した後、速度反転位置352までの間の領域354は、転がり摩擦は一定値となる。
【0021】
また、速度反転位置352において反転してからステージ201が所定距離移動するまでの間の領域355では、転がり摩擦は非線形ばね特性を示し、その後、始動位置351までの間の領域356は、転がり摩擦は一定値となる。そこで、工作機械200は、このような転がり摩擦の特性を考慮してステージ201の動きを制御する。
【0022】
転がり摩擦により、速度反転点付近ではスパイク状の大きな追従誤差が発生する。この追従誤差は象限突起と呼ばれることがある。ステージ201を高精度に追従制御するためには、転がり摩擦を補償し、象限突起を抑制する必要がある。
【0023】
転がり摩擦の補償方法としては、外乱オブザーバなどのフィードバックアプローチと比較して、モデルベースや学習ベースのフィードフォワードアプローチが有効である。
【0024】
これまでに、LuGreモデル、一般化Maxwell-slipモデル、レオロジーベースモデル、データベース摩擦モデル、弾塑性ベースモデルなど、多くの転がり摩擦モデルが提案され、評価されてきた。モデルベースの摩擦補償アプローチでは、転がり摩擦を精密に測定し、カーブフィッティングによりモデルを生成する。そして、得られたモデルに基づいて計算された制御入力で転がり摩擦を補償する。これに対して、学習ベースのアプローチ、例えば反復学習制御などでは、転がり摩擦モデルを用いるのではなく、複数回の移動制御の中で摩擦補償入力を徐々に整形することで象限突起を抑制する。
【0025】
このように転がり摩擦を補償するため、工作機械200は、データ取得部302、導出部303、摩擦補償部304、蓄積部305、制御部306、更新部307および判定部308を有する。
【0026】
データ取得部302は、モータ204を駆動させるための電流値を示す電流データ322(=fnp j+1)と、ステージ201の変位を示す指令データ321(変位データrj)とを取得する。
【0027】
データ取得部302は、変位データrjから導出される速度によって速度反転位置352、351を検出し、速度反転位置351,352からの変位量によって、ステージ201が線形領域354,356に存在するのか、または非線形領域353,355に存在するのか判定する。
【0028】
導出部303は、線形領域354,356での電流データ322と指令データ321とから、指令データ321に基づく基底関数Ψ(rj)と、電流データ322(=fnp j+1)との線形関係式333(=(fp j+1=Ψ(rj)θj+1))を推定する。線形関係式333中のθj+1はステージ201の物理特性に対応している。
【0029】
算出部304は、非線形領域353,355において導出部303で推定したパラメータθj+1のうちイナーシャJと粘性摩擦係数Dと、基底関数Ψ(rj)のうち加速度と速度を用いて、電流データ341を算出する。
【0030】
非線形領域353,355における、データ取得部302で取得した電流データ322(=fnp j+1)と、算出部304で算出した電流データ341とに基づいて補正データ391を導く。そして、蓄積部309は、導かれた補正データ391を、ステージ201の速度反転位置352からの変位に紐づけて蓄積する。なお、指令位置の変化と共に始動位置351や速度反転位置352が変化した場合には、対応する補正データ391が存在しない場合が生じ得るため、以下のような対応をする。
【0031】
(1)最も近い位置の補正データ391を使用する
(2)前後の位置の補正データ391から線形補間する
(3)各位置のデータを平均して1つのテーブルにしておく。
(1)において、例えば、転がり摩擦として、速度反転位置240から1μmでの転がり摩擦が-3Nm、速度反転位置240からの2μmでの転がり摩擦が-2Nmの場合、1.2μmを入力すると、-3Nmが出力される。
(3)において、例えば、速度反転位置240が複数ある場合には、複数の転がり摩擦のデータを平均化したテーブルを作成する。
【0032】
すなわち、蓄積部309は非線形領域353,355において、算出部304で求めた電流データ341とデータ取得部302で取得した電流データ322とから、転がり摩擦を表す補正データ391を導く。
【0033】
制御部306は、線形領域354,356においてモータ204を駆動させるための電流データ363を、次の動作の指令値軌道データrj+1に基づく基底関数Ψ(rj+1)と、導出部303で推定した線形関係式333(=(fp j+1Ψ(rj)θj+1))とを用いて算出する。また、制御部306は、非線形領域353,355においてモータ204を駆動させるための電流データ364を、電流データ322および補正データ391を用いて導出する。この時、ステップ入力部362は、線形関係式333や補正データ391を用いて算出した摩擦補償値に対して、逆応答(指令と逆方向の制御)を低減するため所定のステップ入力値を加算する。そして、制御部306は、算出した電流データ363および導出した電流データ364を用いてモータ204を駆動させる。
【0034】
更新部307は、線形関係式333および補正データ391の少なくともいずれか一方を逐次更新する。また、更新部307は、所定のタイミングでデータ取得部302において取得した最新の電流データ322および指令データ321に基づいて更新処理を行う。ここで、所定のタイミングとは、例えば、工作機械200の工具が工作対象であるワークを離れているタイミング、工具交換中のタイミング、工作機械200の内部の温度が所定値以上になったタイミングである。また、工作機械200の使用期間が一定期間を経過したタイミング、モータ204によるステージ201の移動距離が所定値を超えたタイミング、モータ204の累積駆動時間が一定時間を経過したタイミングでもよい。さらに、工作機械200の内部の温度が所定値以下になったタイミング、最後の更新処理を行った時点からの工作機械200の内部の温度変化量が所定変化量を超えたタイミングである。更新部307は、上述の所定のタイミングの少なくともいずれか1つのタイミングで、更新処理を行う。
【0035】
図4は、摩擦補償処理の流れを説明する図である。STEP1では、通常のILC(Standard-ILC)を用いて、電流データ322(=fnp j+1=Q(fj+Lej))を求める。ここで、fはFF(Feedforward)入力(電流データ322)、eは追従誤差、Lは学習フィルタ(Learning Filter)、Qはロバストフィルタ(Robust Filter)を示す。なお、fnpの右肩の添え字npは、Standard-ILCで得られたFF入力であることを示す。すなわち、ステージ201を移動させたい位置を指令する指令データ321(=rj)に対して、FF入力fjによる電流(学習開始時の初期値はゼロ)でモータ204を動作させる。モータ204の動作により移動したステージ201の変位データを得る。
【0036】
追従誤差ej=指令データ321-変位データを算出する。FF入力fjと追従誤差ejとから電流データ322(fnp j+1=Q(fj+Lej))を算出する(通常のILCによるFF入力)。なお、モータ204の線形関係式333や摩擦モデルは、追従誤差を通して電流データ322に反映されている。なお、指令データ321は、ステージ201の指令値軌道(目標軌道)、すなわち、ステージ201をどう動かしたいかという位置の入力を表す。
【0037】
STEP2では、パラメータθj+1を推定する。Ψ(rj)は基底関数である。モータ204の線形関係式333に基づくFF入力の式Ψ(rj)θj+1が、fnp j+1にフィットするように線形最小二乗法でパラメータθj+1を求める。ここで、重みづけ行列Wjによって非線形領域353,355を除外することで、パラメータθj+1の精度が高くなる。
【0038】
STEP3では、パラメータθj+1から転がり摩擦Trfを求め、rjとTrfとでテーブル501(図5)を作成する。つまり、パラメータθj+1のうちJとDと、基底関数Ψ(rj)のうち加速度と速度から電流データ341を導出する。そして、電流データ322(=fnp j+1)から電流データ341を差し引くことで、非線形領域353,355の補正データ391を算出し、蓄積する。そして、指令データ321と補正データ391からテーブル501を作成する。ここで、Jは慣性、Dは粘性係数、Rはボールねじリード(ねじの1回転にともないナットが軸方向に進む距離)、KTはトルク定数を示す。なお、電流データ341は、Trf=(fnp j+1-J/RKT<<rj>>-D/RKT<rj>)KTに相当する。<rj>は、rjの微分、<<rj>>は、<rj>の微分を表す。
【0039】
STEP4では、STEP2で推定したパラメータθj+1およびSTEP3で作成したテーブル501からFF入力を再計算する。つまり、線形領域354,356では、次の指令rj+1に基づくΨ(rj+1)と、先ほど求めたθj+1とから、Ψ(rj+1)θj+1(J/(R×Kt)×加速度+D/(R×KT)×速度+Tc/KT×b_rf)によってFF入力を求める。次に非線形領域353,355では、J/(R×KT)×加速度+D/(R×Kt)×速度+(テーブル501に記憶された転がり摩擦)/KTによって求め、次回のFF入力fj+1とする。さらにこれらのFF入力に対して、逆応答を低減するため所定のステップ入力値を加算する。
【0040】
パラメータθj+1は、モータ204のうち機械特性に相当する部分であり、指令とは独立な値である。そのため、Ψ(rj+1)を指令に応じて算出すれば、任意の指令に対して電流データが適切なFF入力となる。線形領域354,356のFF入力の計算には、「J/(R×KT)×加速度+D/(R×KT)×速度+Tc/KT×b_rf」を用いる。なお、b_rfは、線形領域354,356では1となり、非線形領域353,355では-1~1となる(速度反転位置240からの距離と摩擦モデルとによる)。以上のSTEP1~4を繰り返すことで、追従誤差eが減少する(学習制御)。学習後のθと補正データ391とを保存しておくことで、別の指令に変更しても適切なFF補正を行うことができる。
以上、図4を用いてパラメータを推定して、摩擦補償を行う場合の処理の流れについて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、パラメータが既知であってもよい。
【0041】
図5は、非線形領域353,355における変位と転がり摩擦との関係を示すテーブル501を説明する図である。テーブル501は、蓄積部309に蓄積されている。非線形領域353,355においては、数式を用いることなく、転がり摩擦の非線形特性をステージ201の変位(位置)と補正データ391(転がり摩擦)とを対応付けたテーブル501を用いて、電流データ364を導く。テーブル501は、速度反転位置240からの変位に関連付けて転がり摩擦を記憶する。
【0042】
線形関係式333およびテーブル501を用いた摩擦補償のアプローチでは、象限突起を効率的に抑制することができるが、象限突起とは逆方向の追従誤差である逆応答が発生する場合がある。機械加工においては、この逆応答は、削りすぎの要因やワークの粗面化の原因となる。
【0043】
そこで本実施形態では、ステップ入力部362において、逆応答を解析し、抑制する。具体的には、ステップ入力部362は、ステップ入力がない状態でのシミュレーションで逆応答を確認し、その結果に基づいて、逆応答の解析を行い、逆応答を抑制するタイミングおよび大きさでステップ入力を行う。
【0044】
図6は、本実施形態における上記の処理を制御系で表した図である。この制御系の目的は、位置基準rと出力xの追従誤差e=r-xを減少させることである。追従誤差(象限突起)は、速度反転時に大きくなるため、フィードフォワード的な摩擦補償が有効と考えられる。そこで、フィードフォワード制御器601が制御対象607のノミナルモデルPの安定逆系として導入されている。フィードフォワード制御器601は、モデル化誤差や外乱がなければ完全な追従制御を実現する。また、定常誤差を抑圧するためのフィードバック制御器602として比例積分微分(PID)制御器が設けられている。
【0045】
フィードフォワード制御による転がり摩擦の補正には、グラフ350に示すような摩擦モデル^Trfを用いる。さらに、転がり摩擦モデル^Trfを用いて転がり摩擦Trfを補償するため、摩擦補償部603が設けられている。フィードフォワード制御による転がり摩擦の補正には、グラフ350に示すような摩擦モデル^Trfを用いる。摩擦補償値は摩擦モデルと位置基準に基づいて計算される。
【0046】
上述したとおり、フィードフォワード摩擦補償によれば、追従誤差を効果的に低減することができるが、摩擦補償の結果、象限突起とは逆方向の追従誤差となる逆応答を生じることがある。そこで、本実施形態では、シミュレーションによる逆応答の解析を行い、その解析結果をもとに、逆応答を抑制する。具体的には、ステップ入力値を加算し、逆応答をキャンセルするステップ入力部362を設ける。
【0047】
図7にシミュレーション結果を示す。図7(a)のような典型的な移動指示に対して、図7(b)に示すように、摩擦補償により追従誤差(象限突起の要因)は抑制されるが、図7(c)に示すように、逆応答701が発生する場合がある。図7(d)は、速度反転タイミング付近での転がり摩擦とその補償入力を示している。図7(e)と図7(f)は、印加された転がり摩擦と摩擦補償値との差として定義される等価入力外乱を示す。等価入力外乱はサンプル点では小さいが、制御入力がゼロ次ホールドブロック606で離散化されているため、サンプル点間では相対的に大きくなる。図7(e)および図7(f)によれば、等価入力外乱の特性は摩擦補償によって決まる。ゼロ次ホールドブロック606により摩擦補償値は階段状の値となるため、スパイク状の入力外乱が発生する。摩擦補償をしない場合、入力端外乱は図7(e) w/o comp.に示すステップ外乱となる。
【0048】
一般に、制御対象Pおよびフィードバック制御器CFBが線形時不変である閉ループ系において、制御対象Pへの入力端外乱と追従誤差は以下の式を満足することが知られている。フィードバック制御器602が持つ積分の個数をiとする。このとき、制御対象Pの入力端にインパルス外乱が入ってきたときの誤差eiについて、下記の式(1)を満足する。
【数1】




入力端にステップ外乱が入ってくると、摩擦補償をしない場合の誤差es=r-xは、以下の数式(2)で表されるようになる。
【数2】





フィードバック制御器602は積分器を1つ持ち、等価的な外乱がインパルス状であると考えられる。これにより、摩擦補償(ステップ入力なし)をしたときは式(1)に従って逆応答が生じる。逆応答701は、モデル化誤差がない場合でも、フィードバック制御器602の積分器とゼロ次ホールドブロック606で離散化された制御入力によって引き起こされる。摩擦補償をしない場合、入力端外乱がステップ状であるため、式(2)に従い逆応答は発生しない。
【0049】
このような逆応答701を低減するため、図8に示すように、パラメータ算出部605で算出したパラメータに基づいて算出したステップ入力値Gsを、タイミングTsから摩擦補償値に加算する(604)。これにより、摩擦による追従誤差801を増加させることなく、逆応答701を抑制する(803)ことができる。
【0050】
パラメータ算出部605は、ステップ入力値604を加算する前の摩擦補償値を用いた場合の追従誤差からステップ入力値のタイミングおよび大きさを算出する。
【0051】
図9は、パラメータ算出部605におけるパラメータ算出処理の流れを示すフローチャートである。
【0052】
Tは時間を表しており、T=0はステージの速度反転タイミングである。まず、ステップS901において、摩擦補償(ステップ入力なし)による追従誤差Ec(T)を取得する。
【0053】
次に、ステップS902において、象限突起の発生タイミングTqと大きさEqおよび追従誤差のゼロクロスタイミングTiを取得する。
【0054】
さらにステップS903において、Tsに初期値としてTqを入力してステップS904に進み、Eus(T-Ts)を算出する。ここで、Tsはステップ入力が追加されたタイミング、Eus(T)はステップ入力による追従誤差を表す。
【0055】
フィードバック制御器602は、比例利得をkp、積分利得をki、微分利得をkd、擬似微分の時定数をTfとした場合、下記の式(3)で表される。
【数3】



フィードバック制御器602は、閉ループノミナルモデルが-wcで4重極を持つようなPID制御器であるため、T=Tsとなるタイミングで加算されるステップ入力により、追従誤差Eus(Ts)は、Snをノミナル感度関数とすると、以下のように表される。
【数4】




上記式から、Eusは、以下の数式のように算出できる。
【数5】


なお、ここではPID制御器を利用する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、積分器が一つのフィードバック制御器なら適用できる。また、PID制御器でも違う設計法(数4・数5が変化)でもよい。
次にステップS905において、以下の数式に基づいて、加算すべきステップ入力の大きさGsを算出する。
【数6】



さらに、ステップS906において、摩擦補償(ステップ入力あり)による予測追従誤差Ep(T)を以下の式に基づいて算出する。
Ep(T)=Ec(T)+GsEus(T-Ts)
【0056】
次に、ステップS907において、以下の式が成り立つか判定する。
-Eq≦Ep(T)の最小値≦0
この式が成り立てば、処理を終了する。
【0057】
上記不等式が成り立たなければ、ステップS908に進み、Tsをインクリメント、すなわちTsに1サンプリング周期を加算する。そしてステップS909において、Ts≦Tiと判断される間、ステップS904~S908の処理を繰り返し、-Eq≦Ep(T)≦0の関係を満たすTsとGsを決定する。つまり、ステップ入力部362(パラメータ算出部605)は、ステップ入力値Gsを加算する前の摩擦補償値を用いた場合の追従誤差の絶対値が最大になるタイミングTqから、その絶対値が0になるタイミングTiまでの間でタイミングを変えつつ、ステップ入力値Gsを加算し、負の誤差の絶対値が、最大値Eqよりも大きくならないようなステップ入力値Gsを決定する。
【0058】
一方、Tiまでのタイミングで、-Eq≦Ep(T)≦0の関係を満たすTsとGsを決定できない場合には微小な逆応答・微小な象限突起の増大を許容する。
【0059】
すなわち、パラメータ算出部605は、ステップ入力値を加算する前の摩擦補償値を用いた場合の追従誤差の符号が最初に逆転する前に、追従誤差の絶対値が最大となるタイミングTqから、追従誤差の符号が最初に逆転するタイミングTiまでの間に、ステップ入力値Gsの加算を開始させる。また、パラメータ算出部605は、ステップ入力値を加算する前の摩擦補償値を用いた場合の追従誤差の値を用いて、ステップ入力値の大きさGsを決定する。
【0060】
なお、-Eq≦Ep(T)の最小値≦0を初めて満たしたときに終了するのではなく、0≦Ts≦Tiの全てのTsについて処理を繰り返した後に、Ep(T)≦0かつEp(T)の最小値が最大となるTs、Gsを採用してもよい。
また、Tsの変更はTiからTqへ減少する方向で処理してもよい。すなわちS903でTsをTiに設定し、S908でTsから1サンプリング周期を減算し、条件判定Ts≦TiをTs≧0にそれぞれ変更してもよい。
以上それぞれの場合において、Tsの変更は複数サンプリング周期ずつ加算または減算してもよい。
以上の処理を行うことにより、適正なステップ入力値およびそのタイミングを決定できる。すなわち、象限突起を発生させうる追従誤差を増加させることなく、逆応答を抑制することができる。
【0061】
なお、本実施形態では、送り駆動部の一例としてボールねじを挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。また、上記実施形態では、転がり摩擦モデルを用いて算出した摩擦補償値を電流値に加算したが、本発明はこれに限定されるものではなく、転がり摩擦の計測データから得た摩擦補償値を電流値に加算してもよい。
【0062】
さらに上述の制御を工作機械において実現するため摩擦補償部とステップ入力部とを備えた工作機械用制御装置も本発明の範疇に含まれる。
【0063】
[他の実施形態]
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明の技術的範囲で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。また、それぞれの実施形態に含まれる別々の特徴を如何様に組み合わせたシステムまたは装置も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0064】
また、本発明は、複数の機器から構成されるシステムに適用されてもよいし、単体の装置に適用されてもよい。さらに、本発明は、実施形態の機能を実現する情報処理プログラムが、システムあるいは装置に供給され、内蔵されたプロセッサによって実行される場合にも適用可能である。本発明の機能をコンピュータで実現するために、コンピュータにインストールされるプログラム、あるいはそのプログラムを格納した媒体、そのプログラムをダウンロードさせるサーバも、プログラムを実行するプロセッサも本発明の技術的範囲に含まれる。特に、少なくとも、上述した実施形態に含まれる処理ステップをコンピュータに実行させるプログラムを格納した非一時的コンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)は本発明の技術的範囲に含まれる。
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