(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134885
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/395 20060101AFI20220908BHJP
A61K 31/575 20060101ALI20220908BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220908BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20220908BHJP
A61P 39/02 20060101ALI20220908BHJP
C07D 498/22 20060101ALN20220908BHJP
C07J 31/00 20060101ALN20220908BHJP
C07J 41/00 20060101ALN20220908BHJP
【FI】
A61K31/395
A61K31/575
A61P43/00 121
A61P7/00
A61P39/02
C07D498/22 301
C07J31/00
C07J41/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034359
(22)【出願日】2021-03-04
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「革新的先端研究開発支援事業」「腸肝軸を介した腸内細菌叢が関わる肝疾患発症メカニズムの解明とその制御」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(71)【出願人】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】慶應義塾
(71)【出願人】
【識別番号】000002990
【氏名又は名称】あすか製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 直子
(72)【発明者】
【氏名】神谷 知憲
(72)【発明者】
【氏名】武藤 芳美
(72)【発明者】
【氏名】福田 真嗣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 郁也
【テーマコード(参考)】
4C072
4C086
4C091
【Fターム(参考)】
4C072AA03
4C072AA07
4C072BB04
4C072BB07
4C072CC03
4C072CC12
4C072DD08
4C072EE09
4C072FF16
4C072GG07
4C072UU01
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB25
4C086DA11
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZA51
4C086ZC37
4C086ZC75
4C091AA01
4C091BB01
4C091CC01
4C091DD01
4C091EE04
4C091FF01
4C091GG01
4C091HH01
4C091JJ03
4C091KK01
4C091LL02
4C091LL09
4C091MM03
4C091NN01
4C091PA02
4C091PA05
4C091PB04
4C091QQ01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高アンモニア血症及び肝性脳症の治療又は予防用医薬組成物の提供。
【解決手段】リファキシミン及び抱合型胆汁酸を含む、高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リファキシミン及び抱合型胆汁酸を含む、高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物。
【請求項2】
リファキシミン及び抱合型胆汁酸を含む、肝性脳症の治療又は予防用医薬組成物。
【請求項3】
抱合型胆汁酸を含む医薬組成物であって、
リファキシミンを投与される又は投与されたヒトに用いられるための医薬組成物。
【請求項4】
前記抱合型胆汁酸が、タウロデオキシコール酸又はグリコデオキシコール酸である、請求項1~3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
抱合型胆汁酸を含む、
リファキシミンの高アンモニア血症又は肝性脳症の治療又は予防効果増強剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、肝硬変にともなう肝性脳症(高アンモニア血症)の治療法として、分岐鎖アミノ酸投与、尿素サイクル活性化剤投与、非吸収性合成二糖類投与などが行われている。また、上記した治療が著効しない場合、アンモニア産生の多くは腸内細菌叢が行っていることから、アンモニア産生菌を標的とした、難吸収性抗生剤リファキシミン(Rifaximin、本明細書において「RFX」と表記することがある)を用いた治療が行われる(特許文献1)。
【0003】
しかし、リファキシミン投与も著効しない肝性脳症(高アンモニア血症)の患者に対しては、有効な治療法がないことが課題とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねていたところ、Streptococcus salivariusが高アンモニア血症の原因菌であること、Ruminococcus gnavusが他のアンモニア産生菌のウレアーゼ活性を増強させること、タウロデオキシコール酸の存在下で、S.salivariusとR.gnavusのリファキシミン感受性が増強することを見出し、さらに改良を重ねた。
【0007】
本開示は、例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
リファキシミン及び抱合型胆汁酸を含む、高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物。
項2.
リファキシミン及び抱合型胆汁酸を含む、肝性脳症の治療又は予防用医薬組成物。
項3.
抱合型胆汁酸を含む医薬組成物であって、
リファキシミンを投与される又は投与されたヒトに用いられるための医薬組成物。
項4.
前記抱合型胆汁酸が、タウロデオキシコール酸又はグリコデオキシコール酸である、項1~3のいずれかに記載の医薬組成物。
項5.
抱合型胆汁酸を含む、
リファキシミンの高アンモニア血症又は肝性脳症の治療又は予防効果増強剤。
【発明の効果】
【0008】
高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】臨床サンプルの内訳を図式化したものを示す。
【
図2A】腸内細菌叢組成の比較結果を示す(健常者と肝性脳症患者の比較)。
【
図2B】腸内細菌叢組成の比較結果を示す(健常者と肝性脳症患者の比較)。
【
図2C】HE(Hepatic Encephalopathy(肝性脳症)グループで多い菌属の解析結果を示す。
【
図2D】HE(Hepatic Encephalopathy)グループと健常者(HC:Healthy Control)との比較でHE群で多い菌種の解析結果を示す。
【
図3A】ヒト糞便DNAサンプル中のS. salivariusの定量結果を示す。
【
図3B】Streptococcus salivarius 16SrRNA遺伝子DNAとUreC DNAの存在量間の相関を示す。
【
図3C】S. salivarius NCTC 7366株及びS. salivarius ATCC 25975株を用いたウレアーゼテストの結果を示す。
【
図4A】マウス血漿中アンモニア量の測定結果を示す。
【
図4B】マウス糞便DNAサンプル中のS. salivariusの定量結果(左)とUreC(ウレアーゼ酵素のサブユニット)の存在量を示す。
【
図5】リファキシミン(RFX)の各濃度での培養液中のS. salivariusの存在量を示す。
【
図6】リファキシミン投与前と投与後4週間の血漿アンモニアレベルの変化(A)、糞便細菌の総量(B)、及びS. salivariusの相対的な存在量(C)を示す。
【
図7】リファキシミン投与前と投与後4週間のUreC 定量PCRによるS. salivariusの定量結果を示す。
【
図8A】ノンレスポンダーで多い菌種の解析結果を示す。
【
図8B】リファキシミン投与前と投与後4週間のRuminococcus gnavusの定量結果を示す。
【
図8C】R. gnavus(RG)又は組換えウレアーゼを用いたウレアーゼテストの結果を示す。
【
図9A】各種菌株を用いたウレアーゼテストの結果を示す。
【
図9B】組換えウレアーゼ及びR. gnavusを用いたウレアーゼテストの結果を示す。
【
図10A】RFX投与前のレスポンダー患者(R)と非レスポンダー患者(NR)の血漿胆汁濃度のヒートマップを示す。
【
図10B】RFX投与前のレスポンダー患者(R)と非レスポンダー患者(NR)の血漿中のCA(コール酸)、DCA(デオキシコール酸)、TDCA(タウロデオキシコール酸)、およびGDCA(グリコデオキシコール酸)量を示す。
【
図11】TDCA(R.gnavus:5 mM、S.salivarius :1mM)を添加した場合としない場合の、RFX存在下におけるR. gnavus(左)及びS. salivarius(右)の存在量を示す。
【
図12】DCAを添加した場合のDCAの各濃度での菌R.gnavus及びS.salivariusの培養液中の存在量を示す。
【
図13】DCA及びRFXを添加した場合のRFXの各濃度での菌R.gnavus及びS.salivariusの培養液中の存在量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。
【0011】
本開示は、リファキシミン及び抱合型胆汁酸を含む、高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物を包含する。本明細書において、当該高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物を「本開示の高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物」と表記することがある。
【0012】
リファキシミン(2S,16Z,18E,20S,21S,22R,23R,24R,25S,26R,27S,28E)-5,6,21,23-Tetrahydroxy-27-methoxy-2,4,11,16,20,22,24,26-octamethyl-1,15-dioxo-1,2-dihydro-2,7-(epoxypentadeca-[1,11,13]trienoimino)furo[2",3":7',8']naphtho-[1',2':4,5]imidazo[1,2-a ]pyridin-25-yl acetate )は、リファマイシン系の抗生物質であり、好気性グラム陽性菌、通性嫌気性グラム陰性菌などに対して、抗菌活性を示すことが知られている。また、リファキシミンは、すでに肝性脳症における高アンモニア血症の治療薬として使用されている。
【0013】
本開示に用いられるリファキシミンは、非晶質であってもよく、結晶性であってもよい。また、リファキシミンの結晶形は、特定の結晶形に限定されるものではなく、様々な多形体(例えば、結晶多形体α、β及びγ)を用いることができる。
【0014】
リファキシミンは、慣用の方法により製造することができる。例えば、リファキシミンの製造方法としては、前記特許文献1、特表2007-509904号公報、特表2008-531623号公報などを参照することができる。
【0015】
本開示に用いられる抱合型胆汁酸を構成する胆汁酸としては、一次胆汁酸、二次胆汁酸等が例示される。一次胆汁酸としては、例えば、コール酸、ケノデオキシコール酸等が挙げられる。二次胆汁酸としては、例えば、デオキシコール酸、リトコール酸等が挙げられる。
本開示に用いられる抱合型胆汁酸において、胆汁酸を抱合する化合物としては、例えば、グリシン、タウリン等のアミノ酸が挙げられる。中でもタウリンが好ましい。
抱合型胆汁酸としては、例えば、タウロデオキシコール酸、グリコデオキシコール酸等が例示される。中でも、タウロデオキシコール酸が好ましい。
抱合型胆汁酸は、塩の形態であってもよい。具体的にはカリウムやナトリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウムやマグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩等の薬学的に許容される塩が例示される。また、抱合型胆汁酸は、溶媒和物(例えば、水和物、アルコール和物等)の形態であってもよい。
抱合型胆汁酸は、胆汁から精製されたもの、化学的に合成されたもの、商業的に入手可能なもの等、特に限定されず用いることができる。
抱合型胆汁酸は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
本開示の高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物中、リファキシミンと抱合型胆汁酸との含有質量比は、特に限定されず、適宜設定することができる。例えば、1:99~99:1程度とすることができる。
【0017】
本開示の高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物中、リファキシミンの含有量は、特に限定されず、適宜設定することができる。例えば、1~99質量%程度とすることができる。
【0018】
本開示の高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物中、抱合型胆汁酸の含有量は、特に限定されず、適宜設定することができる。例えば、1~99質量%程度とすることができる。
【0019】
本開示の高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物は、リファキシミン及び抱合型胆汁酸を含み、さらに他の成分を含むことができる。当該他の成分としては、薬学的に許容される基剤、担体、及び/又は添加剤(例えば溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、抗酸化剤、保存剤、コーティング剤、着色料、胃粘膜保護剤などのその他の薬剤等)等が例示される。これらの成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
本開示の高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物の剤形は、特に限定されず、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、トローチ剤、ゼリー剤、注射剤、硬膏剤、エキス剤、坐剤、懸濁剤、チンキ剤、軟膏剤、パップ剤、点鼻剤、吸入剤、リニメント剤、ローション剤、エアゾール剤等が例示される。中でも、錠剤が好ましい。
【0021】
本開示の高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物は、リファキシミン及び抱合型胆汁酸と、必要に応じて他の成分とを組み合わせて常法により調製することができる。
【0022】
本開示の高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物は、後述する実施例に示すように、抱合型胆汁酸により、高アンモニア血症の原因菌であるRuminococcus gnavusやStreptococcus salivariusのリファキシミン感受性を増強することができる。このため、高アンモニア血症の治療又は予防のために好適に用いることができる。高アンモニア血症としては、例えばウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎、自己免疫性肝炎、肝硬変等に起因するものが挙げられる。
また、本開示の高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物は、抱合型胆汁酸により、高アンモニア血症の原因菌であるRuminococcus gnavusやStreptococcus salivariusのリファキシミン感受性を増強することができるため、リファキシミン投与が著効を示さない患者に対しても、有効であることが期待される。
【0023】
本開示の高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物の投与(摂取)量は、特に限定されず、投与する対象の年齢、体重、性別、症状の程度、投与方法等により決定される。例えば、本開示の高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物の投与量は、リファキシミンの投与量として、1日当たり、1~2000mg程度とすることができる。当該投与量は、例えば、10~2000mg程度、又は100~1500mg程度であってもよい。また、例えば、本開示の高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物の投与量は、抱合型胆汁酸の投与量として、1日当たり、1~1000mg程度とすることができる。当該投与量は、例えば、10~1000mg程度、又は100~1000mg程度であってもよい。
本開示の高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物は、1日1回投与するものであってもよく、1日に複数回(例えば2、3、4、5回等)に分けて投与するものであってもよい。
【0024】
本開示の高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物の投与対象としては、哺乳動物が好ましい。ヒトのみならず、非ヒト哺乳動物であってもよい。対象となるヒトとしては、例えば、高アンモニア血症患者、高アンモニア血症が疑われるヒト;肝性脳症患者、肝性脳症が疑われるヒト;リファキシミンを投与されるヒト、リファキシミンを投与されたヒト;等が挙げられる。
また、非ヒト哺乳動物としては、例えばペット、家畜、実験動物等として飼育される哺乳動物などが例示される。このような非ヒト哺乳動物としては、例えば、イヌ、ネコ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、ラクダ、リャマ等が挙げられる。
【0025】
本開示の高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物の投与方法としては、例えば、経口投与、及び非経口(例えば静脈、動脈、筋肉、皮下、腹腔、直腸、経皮、局所など)投与等が挙げられる。中でも、経口投与が好ましい。
【0026】
本開示は、リファキシミン及び抱合型胆汁酸を含む、肝性脳症の治療又は予防用医薬組成物をも包含する。本明細書において、当該肝性脳症の治療又は予防用医薬組成物を「本開示の肝性脳症の治療又は予防用医薬組成物」と表記することがある。
【0027】
本開示の肝性脳症の治療又は予防用医薬組成物については、上述した本開示の高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物についての記載を援用することができる。
【0028】
本開示の肝性脳症の治療又は予防用医薬組成物は、後述する実施例に示すように、抱合型胆汁酸により、高アンモニア血症の原因菌であるRuminococcus gnavusやStreptococcus salivariusのリファキシミン感受性を増強することができる。このため、高アンモニア血症に起因する疾患の治療又は予防のために好適に用いることができる。高アンモニア血症に起因する疾患としては、例えば、肝性脳症などが挙げられる。Ruminococcus gnavusやStreptococcus salivarius以外のリファキシミン感受性菌への作用を増強できる可能性もある。例えば、腸炎を増悪させる菌などに対しては適用される可能性がある。Ruminococcus gnavusやStreptococcus salivarius以外のリファキシミン感受性菌としては、例えば、Streptococcus属、Clostridium属、Proteus属、Bacteroides属等が挙げられる。
また、本開示の肝性脳症の治療又は予防用医薬組成物は、抱合型胆汁酸により、高アンモニア血症の原因菌であるRuminococcus gnavusやStreptococcus salivariusのリファキシミン感受性を増強することができるため、リファキシミン投与が著効を示さない患者に対しても、有効であることが期待される。
【0029】
本開示は、抱合型胆汁酸を含む医薬組成物であって、リファキシミンを投与される又は投与されたヒトに用いられるための医薬組成物をも包含する。本明細書において、当該医薬組成物を「本開示の医薬組成物」と表記することがある。
【0030】
本開示の医薬組成物に含まれる抱合型胆汁酸については、上述した本開示の高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物についての記載を援用することができる。
【0031】
本開示の医薬組成物中、抱合型胆汁酸の含有量は、特に限定されず、適宜設定することができる。例えば、1~99質量%程度とすることができる。
【0032】
本開示の医薬組成物は、抱合型胆汁酸を含み、さらに他の成分を含むことができる。他の成分としては、上述した本開示の高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物についての記載を援用することができる。
【0033】
本開示の医薬組成物の剤形、調製方法については、上述した本開示の高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物についての記載を援用することができる。
【0034】
本開示の医薬組成物は、後述する実施例に示すように、抱合型胆汁酸により、高アンモニア血症の原因菌であるRuminococcus gnavusやStreptococcus salivariusのリファキシミン感受性を増強することができる。このため、リファキシミンを(有効成分として)投与される又は投与されたヒトに用いられるための医薬組成物として好適である。リファキシミンは、高アンモニア血症の治療薬として使用されているため、本開示の医薬組成物は、高アンモニア血症の治療又は予防のために好適に用いることができる。また、本開示の医薬組成物は、高アンモニア血症に起因する疾患の治療又は予防のために用いることもできる。高アンモニア血症に起因する疾患としては、例えば、肝性脳症などが挙げられる。
また、本開示の医薬組成物は、抱合型胆汁酸により、高アンモニア血症の原因菌であるRuminococcus gnavusやStreptococcus salivariusのリファキシミン感受性を増強することができるため、リファキシミン投与が著効を示さない患者に対しても、有効であることが期待される。
【0035】
本開示の医薬組成物の投与(摂取)量は、特に限定されず、投与する対象の年齢、体重、性別、症状の程度、投与方法等により決定される。例えば、抱合型胆汁酸の投与量として、1日当たり、1~1000mg程度とすることができる。当該投与量は、例えば、10~1000mg程度、又は100~1000mg程度であってもよい。
本開示の医薬組成物は、1日1回投与するものであってもよく、1日に複数回(例えば2、3、4、5回等)に分けて投与するものであってもよい。
【0036】
本開示の医薬組成物の投与対象、投与方法ついては、上述した本開示の高アンモニア血症の治療又は予防用医薬組成物についての記載を援用することができる。
【0037】
本開示は、抱合型胆汁酸を含む、リファキシミンの高アンモニア血症又は肝性脳症の治療又は予防効果増強剤をも包含する。本明細書において、当該医薬組成物を「本開示の増強剤」と表記することがある。
【0038】
本開示の増強剤については、上述した本開示の医薬組成物についての記載を援用することができる。
【0039】
本開示の増強剤は、後述する実施例に示すように、抱合型胆汁酸により、高アンモニア血症の原因菌であるRuminococcus gnavusやStreptococcus salivariusのリファキシミン感受性を増強することができる。このため、リファキシミンの高アンモニア血症又は肝性脳症の治療又は予防効果増強剤として好適である。
また、本開示の増強剤は、抱合型胆汁酸により、高アンモニア血症の原因菌であるRuminococcus gnavusやStreptococcus salivariusのリファキシミン感受性を増強することができるため、リファキシミン投与が著効を示さない患者に対しても、有効であることが期待される。
【0040】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0041】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0042】
本開示の内容を以下の実験例を用いて具体的に説明する。しかし、本開示はこれらに何ら限定されるものではない。下記において、特に言及する場合を除いて、実験は大気圧及び常温条件下で行っている。また特に言及する場合を除いて、「%」は「重量%」を意味する。
【0043】
臨床サンプル
2017年4月から2020年3月までに、大阪市立大学病院を受診した肝硬変患者のうち、West Haven CriteriaによるグレードIまたはIIの肝性脳症、かつ、末梢静脈血中アンモニア濃度70μg/ dL以上の高アンモニア血症を発症した患者を対象とし、次の除外基準(吐血、重度の感染症、急性肝炎、急性肝不全、または慢性肝炎の急性増悪)を満たさない患者、計28名(HE:Hepatic Encephalopathy)の便中腸内細菌叢を調べた。
リファキシミン(RFX)は難吸収性抗生剤で、腸内のアンモニア産生菌を除去できることから、高アンモニア血症が原因の肝性脳症患者の治療に使われる。28名の肝性脳症患者のうち、20名にリファキシミンが投与され、うち9名はRFX投与の4週間後にも便が採取され、腸内細菌叢を調べることができた。「レスポンダー」とは、RFXによって血漿アンモニアレベルが25%以上低下した患者、「ノンレスポンダー」とは、RFXによって血漿アンモニアレベルが25%未満しか低下しなかったまたは上昇した患者と定義した。
健常者の便のサンプルは、2020年1月から2020年6月まで大阪市立大学医学部病院の健診センターMedcity21を受診した健診者から採取された。合計73人の健診者から以下の4つの除外基準に従い除外した。除外基準(a)年齢<50歳(b)BMIが18~25 kg / m2。(c)肝疾患および糖尿病の病歴のある者; (d)サンプリング前2週間以内にRFXを含む抗生物質およびプロバイオティクスを使用した者。除外後、残った26名のサンプルを健常者コントロールのサンプル(HC:Healthy Control)とした。各サンプルの情報を表1に示す。大阪市立大学大学院医学研究科・倫理委員会に承認を得て、本研究が実施された(承認番号:3722)。研究はヘルシンキ宣言IIの宣言に従って実施され、書面によるインフォームドコンセントがすべての参加者から得られた。
【0044】
【0045】
ヒト便サンプルの収集とDNA抽出法
ヒトの糞便サンプル採取は、便サンプリング用キット(テクノスルガラボ社製、ブラシ型)を使用した。糞便DNA抽出は、ビケンバイオミクス社に委託した。自動DNA抽出機(GENE PREP STAR PI-480、倉敷紡績株式会社)によって糞便DNAが抽出され、抽出されたDNAの濃度は、Qubit Assays(Thermo Fisher Scientific Inc.、DE、USA)を使用して測定した。
【0046】
16SリボソームRNA遺伝子の増幅、配列決定、分析
DNAライブラリーの調製と配列決定は、ビケンバイオミクス社に委託した。各DNAライブラリーは、「Illumina 16S Metagenomic Sequencing Library Preparation Guide」に従って、プライマーセット27Fmod:5‘-AGRGTTTGATCMTGGCTCAG-3 ’および338R:5‘-TGCTGCCTCCCGTAGGAGT-3‘を用いて、細菌の16SリボソームRNA(rRNA)の超可変V1-V2領域が増幅され、作製された。アンプリコンの251bpペアエンドシーケンスは、MiSeq Reagent v2 500サイクルキットを使用してMiSeqシステム(Illumina)で実施された。イルミナMiSeqで得られたシーケンスは、Quantitative Insights into Microbial Ecology 2バージョン2019.4(QIIME2)パイプラインを使用して分析された。得られたペアエンドシーケンスは、QIIME2のDADA2 Rライブラリを使用してノイズ除去され決定された。また、得られたDNA配列情報は、SILVA 132 16SrRNA遺伝子配列データベースを用いて99%の相同性をもってASV分類子として決められた。細菌の存在量の比較解析は、linear discriminant analysis (LDA) effect size (LEfSe) online galaxy versionを使用して、解析された。QIIME2及びLEfSeによる分析結果を
図2A、Bに、HEグループで多い菌属を
図2Cに、種レベルでの菌の相対的な存在量を示すグラフを
図2Dに示す。
【0047】
個々の菌叢構成を比較するとStreptococcus属がHE群で多いことが分かった(
図2A)。また、HE群で有意な属はLactobacillus、Streptococcus、Bifidobacterium、Veillonellaであった(
図2B、C)。HE群で有意に多い菌種はStreptococcus salivariusであった(
図2D)。
【0048】
細菌の定量的PCRと分析
細菌DNAはキット(QIAamp Fast DNA Stool Mini Kit、Qiagen)を使用して、マウスの糞便から分離した。 DNA量はSYBR Premix EX Taq II(Takara、Shiga、Japan)を用いて、StepOnePlusリアルタイムPCRシステム(Thermo fisher Scientific、Waltham、MA、America)にて、菌特異的PCRプライマーで増幅、定量化した。
定量PCR(平均値±SEM、マンホイットニーのU検定)によって評価されたヒト便DNA中のStreptococcus salivariusの存在量(16S rRNAおよびUreC(ウレアーゼ・オペロンの中で中心的な酵素をコードする遺伝子DNA)により定量)を
図3Aに、相関係数に基づくS. salivarius 16SrRNA遺伝子DNAとUreC DNAの存在量間の相関を
図3Bに示す。
【0049】
S. salivarius 16SrRNA遺伝子DNAとUreC DNAの存在量には、有意に相関があるため、試験に用いたHEグループのサンプル中のS. salivariusは、ほぼUreCを有する菌であることが分かった。
【0050】
ウレアーゼテスト(ウレアーゼ活性を反映するアンモニア濃度の測定)
Streptococcus salivarius NCTC 7366株(Ur+SS 7366と表記することがある)及びStreptococcus salivarius ATCC 25975株(Ur-SS 25975と表記することがある)を用いてウレアーゼ活性を測定した。ウレアーゼ活性測定用反応溶液中のアンモニア濃度の測定には、LabAssay TMアンモニア(FUJIFILM和光純薬株式会社)を使用した。反応液により赤く発症させ、吸光度計(波長OD545)で測定しその値を用いた。結果を
図3Cに示す。
【0051】
7366株はウレアーゼ活性を有するが、25975株はウレアーゼ活性を有さないことが分かった。
【0052】
実験動物
日本クレアから購入した8週齢の雌C57BL / 6Nマウスを使用した。すべての動物実験は、動物実験委員会によって承認されている(承認番号:17206、18079)。
【0053】
マウス実験
マウスに四塩化炭素(CCl4)を週2回投与することにより、実験的肝線維症を誘発した。8週齢の雌C57BL / 6Nマウスに、0.5 mg / kg体重(オリーブオイルで20%に希釈)のCCl4を週2回、16週間腹腔内(i.p.)注射した。対照マウスにはオリーブオイルのみを注射した。腸内の常在細菌を除去するため、マウスにアンピシリン 1 g/L, ネオマイシン 1 g/L, メトロニダゾール 0.5 g/L, バンコマイシン 0.5 g/Lを含む水を12~14週の14日間、与えた。Streptococcus属に殺菌効果がないメトロニダゾールのみをさらに3日間与え、他の菌の増殖を抑えた。
ウレアーゼの重要性を確認するため、ウレアーゼ活性を欠くS. salivarius ATCC 25975およびウレアーゼ活性を有するS. salivarius NCTC 7366の2種類の菌株を用い、5.0×109の細菌CFUを含む200μLの生理食塩水を、プラスチック製の給餌ゾンデ(フチガミ社製)を用いて、14~16週の間に14日間、毎日マウスに投与した。
【0054】
四塩化炭素を腹腔内注射し肝臓の線維化をおこしたマウスからの血漿アンモニアの測定 右心室から採取したマウスの血液サンプルを低速遠心分離し、血漿を抽出した。血漿中アンモニアは、FUJIFILM DRI-CHEM NX10NおよびDRI-CHEMスライドNH3-PII(FUJIFILM)を使用して遠心分離直後に測定した。結果(平均値±SEM、1元配置分散分析)を
図4Aに示す。
【0055】
ウレアーゼ活性を有する7366株を投与したマウスにおいて血漿アンモニア値が有意に高いことが確認された。
【0056】
細菌ゲノムの分離と種の同定
細菌のDNAは、NucleoSpin(商標)MicrobialDNA(TaKaRa)を用いて抽出した。分離された細菌種を同定するため、細菌のユニバーサルPCRプライマーであるBact-27FおよびBact-1492Rを使用して、16S rRNA遺伝子を菌のDNAからPCR増幅し、PCR産物の16SrRNA遺伝子配列を決定した。塩基配列の決定にはBigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems、Carlsbad、CA)およびシーケンスプライマー(Bact-27F、Bact-1492R)によって、ABI 3130x1キャピラリーシーケンサー(Applied Biosystems)を用いた。得られた配列は、NCBI(米国国立バイオテクノロジー情報センター)BLASTおよび種同定のための16SリボソームRNA配列データベースを使用して分析した(同定基準:同一性> 97%、カバレッジ> 95%)。
【0057】
細菌の定量的PCRと分析
マウスの糞便から単離したDNAを用いて、試薬はSYBR Premix EX Taq II(Takara、Shiga、Japan)にて、リアルタイムPCR機はStepOnePlusリアルタイムPCRシステム(Thermo fisher Scientific、Waltham、MA、America)にて、菌特異的PCRプライマーで増幅、定量化した。
16S rRNA の定量PCRで定量されたマウス糞便DNAサンプル中のS. salivariusの量(平均値±SEM、マンホイットニーのU検定)及びUreC(ウレアーゼ酵素のサブユニット)の存在量を
図4Bに示す。
【0058】
マウスにS. salivariusを投与するとマウス糞便内に菌は存在し、UreCは7366株投与群で認められた。
【0059】
菌の培養
Streptococcus salivarius NCTC7366は、ブレインハートインフュージョン(BHI)培地(日本水産本社)で、37℃で一晩嫌気的に培養した。Ruminococcus gnavus ATCC 29149は、改変岐阜嫌気性培地(mGAM)(日本水産本社)で、37℃で一晩嫌気的に培養した。
【0060】
細菌増殖アッセイ
マイクロプレートリーダー(Bio-Rad、Hercules、CA)を使用して、595 nm(OD595)で比色値を測定することにより、細菌の増殖を解析した。RFXに対する細菌の感受性を調べるために、mGAM培地で一晩増殖させた菌株をOD595 = 0.01に調整し、96ウェルマイクロタイタープレートに2
-11 から2
7μg/mLの範囲のリファキシミンを加えて37℃で24時間インキュベートし、OD595の値を測定した。
BHI培地中のリファキシミン(0.125μg/ mlからの連続2倍希釈の7ポイントの濃度を使用)の存在下でのS. salivariusの存在量を
図5に示す(平均値±SD)。
【0061】
S. salivariusは、リファキシミン感受性を有することが確認された。
【0062】
レスポンダーとノンレスポンダーの2つのグループにおける、RFX投与前と投与後4週間の血漿アンモニアレベルの変化(レスポンダー:n = 5、ノンレスポンダー:n = 4)を調べた。結果を
図6(A)に示す。
【0063】
RFX投与後、レスポンダーでは、血漿中アンモニア値が減少したことが確認された。
【0064】
レスポンダーとノンレスポンダーの2つのグループにおける、RFX投与前および投与後4週間の患者の糞便細菌の総量を16SrRNA遺伝子の定量PCRによって測定した。結果を
図6(B)に示す。
【0065】
腸内細菌量自体には有意差がないことが確認された。
【0066】
レスポンダーとノンレスポンダーの2つのグループにおける、RFX投与の前と4週間後の時点でのS. salivariusの相対的な存在量(Qiime2解析で明らかになった16SrRNA遺伝子量で比較、ウィルコクソン符号順位検定)を測定した。結果を
図6(C)に示す。
【0067】
S. Salivariusはリファキシミン投与により減少したことが確認された。
【0068】
レスポンダーとノンレスポンダーの2つのグループにおける、RFX投与前および投与後4週間の患者の糞便を用いて、UreC 定量PCRによりS. salivariusの量を測定した。結果(Paired t-test)を
図7に示す。
【0069】
特にレスポンダーにおいて、有意にS. salivariusが減少したことが確認された。
【0070】
以上のことから、S. salivariusはレスポンダーにおける高アンモニア血症の原因菌の1つであることが示唆された。
【0071】
RFX投与の4週間後にLEfSe解析によりレスポンダーとノンレスポンダーの間で細菌の存在量を比較した。ノンレスポンダーにおいて多かった腸内細菌種を解析した結果を
図8Aに示す。
【0072】
ノンレスポンダーにおいて多かった腸内細菌種はRuminococcus gnavusのみであった(LDAスコア> 3)。
【0073】
RFX投与前と投与後4週間後のR. gnavusの相対的な存在量(Qiime2解析のデータから定量)を測定量した。結果を
図8Bに示す。
【0074】
ノンレスポンダーにおいては、RFXの投与により、R. gnavusは減少しないことが分かった。
【0075】
R. gnavusを用いてウレアーゼ活性を測定した。なお、コントロールとして組換えウレアーゼ(rUrease)を用いた。結果を
図8Cに示す。
【0076】
R. gnavusはウレアーゼ活性を有しないことが分かった。
【0077】
ウレアーゼ産生菌のin vitroウレアーゼ活性の定量
細菌を37℃で24時間前培養し、1mlの前培養溶液を50mlの培地に加え、37℃で18時間インキュベートした。培養培地を3,000xgで4℃で10分間遠心分離し、ペレットを0.85%NaClで2回洗浄して培地成分を除去した後、ウレアーゼテストを行った。
【0078】
菌の培養
Streptococcus salivarius NCTC 7366は、ブレインハートインフュージョン(BHI)培地(日本水産本社)で、37℃で一晩嫌気的に培養した。Ruminococcus gnavus ATCC29149は、改変岐阜嫌気性培地(mGAM)(日本水産本社)で、37℃で一晩嫌気的に培養した。Citrobacter freundii (CF)とLactobacillus salivarius (LS)は、mGAM寒天培地上で37℃で嫌気的に培養した患者の糞便サンプルから単離した。
Streptococcus salivariusまたはCitrobacter freundiiと、Ruminococcus gnavusまたはLactobacillus salivariusをバッファーに再懸濁し、反応させた[反応液最終濃度:500 mg /L NaCl 、200 mg /L KH2PO4、200 mg /L 尿素, および30mg /L フェノールレッド]。24時間37℃で振とうし、発色程度をOD545の波長で分光光度計によって測定した。結果を
図9Aに示す。データは、平均値±SD、多重比較補正を使用し、一元配置分散分析を以下のように各グループに適用した(1:コントロール、RGおよびLS。2:コントロール、RGおよびLSとSS。3:コントロール、RGおよびLSとCF)。なお、LS; Lactobacillus salivariusは、R. gnavusによるウレアーゼ活性を増強しないネガティブコントロールとして使用した。
【0079】
図9Aに示す通り、ウレアーゼを有する細菌(SS; Streptococcus salivarius、CF; Citrobacter freundii)とR. gnavusを共培養すると、ウレアーゼ活性が上昇した。
【0080】
R. gnavusを組換えウレアーゼ(1ユニットからの2倍希釈から倍々希釈で5ポイント)と培養し、ウレアーゼ活性を測定した。結果(平均±SD、スチューデントのt検定)を
図9Bに示す(RG+)。なお、組換えウレアーゼ(1ユニットからの2倍希釈から倍々希釈で5ポイント)単独で、ウレアーゼ活性を測定した結果をあわせて示す(RG-)。
【0081】
R. gnavusと組換えウレアーゼを併用すると、組換えウレアーゼのウレアーゼ活性が上昇することが確認された。
【0082】
以上のことから、R. gnavusはノンレスポンダーにおける高アンモニア血症の原因菌の1つであること、及びR. gnavusは他のアンモニア産生菌のウレアーゼ活性を増強させることが示唆された。
【0083】
LC-MS / MSによるヒト血漿中の胆汁酸の定量
ヒト血漿代謝物は、内部標準として20μM CSA(10-カンファースルホン酸、D-camphor-10-sulfonic acid)を添加したMilli-Q水中の250μLの50%メタノールに懸濁した50μLから抽出した。液体クロマトグラフィー(LC)分離は、Agilent 1290 UPLCシステム(Agilent Technologies)を使用し、ACQUITY UPLC HSS T3カラム(1.8μm、50mm×2.1mm ID; Waters)でグラジエント溶出を行った。質量分析計(MS)分析は、Agilent6490トリプル四重極質量分析計MS(Agilent Technologies)を使用した。
【0084】
図10Aに、RFX投与前のレスポンダー患者(R)と非レスポンダー患者(NR)の血漿胆汁濃度のヒートマップを示す。
図10Bに、CA(コール酸)、DCA(デオキシコール酸)、TDCA(タウロデオキシコール酸)、およびGDCA(グリコデオキシコール酸)の量を示す(平均±SEM、マンホイットニーのU検定)。
【0085】
抱合型二次胆汁酸のTDCA(タウロデオキシコール酸)と、GDCA(グリコデオキシコール酸)は、ノンレスポンダーで低く、レスポンダーで有意に高いという結果が得られた。
【0086】
細菌増殖アッセイ
マイクロプレートリーダー(Bio-Rad、Hercules、CA)を使用して、595 nm(OD595)で比色値を測定することにより、細菌の増殖を解析した。
RFXに対する細菌の感受性を調べるために、mGAM培地で一晩増殖させた菌株をOD595 = 0.01に調整し、96ウェルマイクロタイタープレートに2
-11 から2
7μg/mL範囲のリファキシミンを加えて37℃で24時間インキュベートし、OD595の値を測定した。 胆汁酸が細菌のRFXに対する感受性を高めるかどうかを調べるため、mGAMで一晩増殖させた菌株をOD595 = 0.1に調整し、培地中のTDCA(R.gnavus:5 mM、S.salivarius :1mM)とリファキシミンの各濃度が2
-12 to 2
-3μg / mLの範囲になるようにmGAM培地に添加し、同様にOD595の値を測定した。
TDCA(R.gnavus:5 mM、S.salivarius :1mM)を添加した場合としない場合で、RFX(0.016μg/ mlからの連続2倍希釈の7ポイント)の存在下でのR. gnavus(左)及びS. salivarius(右)の存在量を
図11に示す(平均値±SD、student t-test)。なお、細菌の存在量は、OD595での吸光度により測定した。
【0087】
タウロデオキシコール酸の非存在下と比較して、タウロデオキシコール酸の存在下では、S.salivariusとR.gnavusのリファキシミン感受性が高いことが明らかになった。つまり、タウロデオキシコール酸を用いることにより、高アンモニア血症の原因菌であるS.salivariusとR.gnavusのリファキシミン感受性が増強することが分かった。
【0088】
TDCAに代えて、DCAを用いて同様に、細菌増殖アッセイを行った。RFX非存在下における各菌株の存在量を
図12に、RFX存在下における各菌株の存在量を
図13に示す。
【0089】
非抱合型である、デオキシコール酸の添加では、リファキシミンの感受性増強効果は確認されなかった。