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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022013497
(43)【公開日】2022-01-18
(54)【発明の名称】X線分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20220111BHJP
【FI】
G01N23/223
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020127755
(22)【出願日】2020-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 昭
(72)【発明者】
【氏名】高橋 春男
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA04
2G001CA01
2G001EA03
2G001FA03
2G001FA06
2G001HA01
2G001JA09
2G001KA01
2G001PA11
(57)【要約】
【課題】蛍光X線分析装置において、小片試料を連続的に多数測定する方法を、一次X線X1照射領域に試料を配置するための位置調整機構や位置調整プロセスを廃し、簡単な構成で実現すること。
【解決手段】試料にX線を照射可能なX線照射部と、試料から発生した二次X線を検出するX線検出部と、試料を搬送する試料搬送部、および検出したX線強度を処理するデータ処理部を含めて蛍光X線分析装置を構成し、それぞれの構成要素に以下のような機能を持たせる。試料搬送部は試料がX線照射位置を通過するように試料を移動させる。X線検出部は、試料がX線照射部を通過するのに要する時間よりも短い時間間隔でX線スペクトルを連続的に取得する。データ処理部は、連続的に取得されたX線スペクトルの配列から、X線スペクトルの特徴にもとづき、試料が前記X線照射部にある時点のスペクトルを選択する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料にX線を照射可能なX線源と、
前記試料から発生した二次X線を検出するX線検出部と、
前記試料を搬送する試料搬送部と
前記X線検出部から出力された信号をエネルギー毎に弁別しエネルギー毎に入射回数を計数してX線強度としてスペクトルを得る分析器と、
前記分析器で得られたスペクトルの特定の元素のエネルギーの二次X線強度と設定したX線強度の閾値とから前記試料搬送部で移動している前記試料が前記X線の照射位置を通過しているか否かを判断することを特徴とするX線分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線分析装置において、前記データ処理部が前記試料の特定の元素のエネルギーのX線強度と設定したX線強度の前記閾値とを比較して、前記試料がX線の前記照射位置にあるか否かを判断することを特徴とするX線分析装置。
【請求項3】
請求項1に記載のX線分析装置において、前記データ処理部が前記試料搬送部の表面の材質の特定の元素のエネルギーのX線強度と設定したX線強度の前記閾値とを比較して、試料がX線照射部にあるか否かを判断することを特徴とするX線分析装置。
【請求項4】
請求項1に記載のX線分析装置において、前記データ処理部が一次X線の散乱線のX線強度と設定したX線強度の閾値を比較して、試料がX線照射部にあるか否かを判断することを特徴とするX線分析装置。
【請求項5】
請求項1に記載のX線分析装置において、前記分析器は前記X線検出部で検出した二次X線のX線強度を前記試料が前記X線照射位置を通過するのに要する時間よりも短い時間間隔でスペクトルを連続的に取得することを特徴とするX線分析装置。
【請求項6】
請求項1に記載のX線分析装置において、前記データ処理部は機械学習により得られたスペクトルの特徴量から、試料が前記X線照射部にある時点のスペクトルを選択することができることを特徴とするX線分析装置。
【請求項7】
請求項1から6に記載の蛍光X線分析装置において、X線スペクトルは連続したエネルギーまたは波長の範囲を等間隔に区切ったX線計数のヒストグラムによるものであることを特徴とするX線分析装置。
【請求項8】
請求項1から5に記載の蛍光X線分析装置において、X線スペクトルは特定のエネルギー範囲の計数、またはその複数の組合せであることを特徴とするX線分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の組成や被覆の膜厚を測定するための蛍光X線分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析は、試料にX線を照射することで試料に含まれる元素を励起し、その結果放出される元素に固有の特性X線を分析する手法である。得られた蛍光X線スペクトルはX線が照射された領域内に存在する元素の量の多い少ないに関連した情報を含むため、適切なモデルでスペクトルを解析することで試料の組成比や、多層構造の膜厚などを求めることができる。これらの分析の過程は非破壊非接触で行える場合も多いため、JIS H8501で定義されているめっきの膜厚試験など工業製品の品質管理に用いられることがある。
【0003】
蛍光X線分析はその原理から、X線が照射された部位が分析対象領域となる。そのため、照射するX線の照射径を測定領域の大きさに合わせて適切に制限することと、X線の照射領域に測定対象部位が正しく配置された状態で蛍光X線スペクトルを取得することが必要となる。
【0004】
対象領域に正しくX線が照射された状態での蛍光X線スペクトルを取得する蛍光X線分析装置として、測定対象の試料を直交2軸または3軸の駆動が可能な試料ステージに載せて、試料の測定部位がX線照射位置に配置されるよう、試料の位置を調節した後に試料が静止した状態で測定する。この際、X線照射位置を、視野中心と焦点を合わせて試料を光学的手段で観察する光学系を設け、これを用いて試料をX線照射位置に調節することも広く行われている。(特許文献1参照)
【0005】
また、長尺のシート状試料の表面に備えた被膜の厚さを測定する蛍光X線分析装置の場合、X線照射位置を通過するように試料を連続的に送りながら測定を行い、測定時間の間にX線照射位置と通過した線上の領域の平均的な情報として分析を行う方法をとることもある。前記の試料位置を調整して、静止した状態で測定する方法と比べると、試料位置調整の時間が不要となり効率よく多くの部位を検査することが可能である。
【0006】
しかし、この方式は長尺の試料に連続的に測定対象が分布する場合に適用可能であり、断続的に多数の小片の試料が送られてくる場合には適用できない。
そこで、位置調整の自動化により試料ステージ上に配置した多数の試料を自動で検知することで測定の効率化を行ってきた。
【0007】
試料位置の自動調節には、いくつかのアプローチがあり、その一つは、光学的な試料観察像によるものである。前述のように光学的な試料観察手段を設け、そこで得られた試料画像でパターンマッチングをはじめとした画像処理技術を用いて照射位置と試料のずれを検知し、そのずれ量に従って試料ステージを制御し、試料をX線照射位置に配置するものである。
【0008】
この第一のアプローチは、光学的な試料観察手段の画像と、X線照射位置が一致しているまたは、相互の軸の相対位置が正確にわかっていることを前提としている。しかし、これらの相対的な位置関係は、経時変化や熱膨張などのさまざまな要因でずれる場合がある。測定対象が小さくなるほどこの、観察光軸とX線照射軸のずれの影響が無視できなくなってくる。
【0009】
このような場合、第2のアプローチとしてステージ座標とX線強度の関係を用いて試料位置を補正する方法が特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平06-273147号公報
【特許文献2】特開平06-273146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の従来持術では、試料の位置を調整して試料を静止した状態で測定する工程であり、試料の位置調整に要する時間があるため多数の試料を短時間で検査するためには課題があった。また、高精細な試料観察光学系や高精度の多軸試料ステージが必要となり、測定システムが高価になるという課題もあった。
【0012】
本発明は、前述の課題を鑑みてなされるもので、小片の試料を静止させずに連続的に多数測定することが可能なX線分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明では、試料にX線を照射するX線照射部と、試料から発生した二次X線を検出するX線検出部と、試料を搬送する試料搬送部と、X線検出部で検出した二次X線のX線強度を試料がX線照射部を通過するのに要する時間よりも短い時間間隔でX線スペクトルを連続的に取得する分析器と、分析器で得られたスペクトルの特定の元素のエネルギーの二次X線強度と設定したX線強度の閾値とから試料搬送部で移動している試料がX線の照射位置を通過しているか否かを判断することを特徴とするX線分析装置である。
【0014】
本発明のX線分析装置は、前記データ処理部が試料の特定の元素のエネルギーのX線強度が設定したX線強度の閾値を比較して、試料がX線照射部にあるか否かを判断することを特徴とする。
【0015】
本発明のX線分析装置は、前記データ処理部が試料搬送部表面の材質の特定の元素のエネルギーのX線強度が設定したX線強度の閾値を比較して、試料がX線照射部にあるか否かを判断することを特徴とする。
【0016】
本発明のX線分析装置は、前記データ処理部が一次X線の散乱線のX線強度と設定したX線強度の閾値を比較して、試料がX線照射部にあるか否かを判断することを特徴とする。
【0017】
上記課題を解決するための本発明の第5の様態は第1の様態において、前記データ処理部は機械学習により得られたスペクトルの特徴量から、試料が前記X線照射部にある時点のスペクトルを選択することである。
【0018】
上記課題を解決するための本発明の第6の様態は第1から第5の様態において、連続したエネルギーまたは波長の範囲を等間隔に区切ったX線計数のヒストグラムによるX線スペクトルを用いることである。
【0019】
上記課題を解決するための本発明の第7の様態は第1から第5の様態において、特定のエネルギー範囲の計数、またはその複数の組合によるX線スペクトルを用いることである。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、試料にX線を照射可能なX線照射部と、試料から発生した二次X線を検出するX線検出部と、試料を搬送する試料搬送部、および検出したX線強度を処理するデータ処理部により蛍光X線分析装置を校正でき、一次X線照射領域に試料を配置するための位置調整機構や位置調整プロセスを廃し、簡単な構成で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る蛍光X線装置の実施例において、一次X線が試料に照射していない状態のX線装置を示す概略的な全体構成図である。
図2】一次X線が試料に照射していない状態のスペクトルを示す図である。
図3】本発明に係る蛍光X線装置の実施例において、一次X線が試料に照射している状態のX線装置を示す概略的な全体構成図である。
図4】一次X線が試料に照射している状態のスペクトルを示す図である。
図5】試料を搬送しながら所定の時間間隔で連続して測定したスペクトルを示す図である。
図6】試料搬送部がプラスチックの場合のスペクトルを示す図である。
図7】エネルギーを等間隔ΔE毎に区切ったチャンネルで示すスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るX線分析装置の実施形態を、図を参照しながら説明する。
【0023】
本実施形態のX線分析装置は、試料Sを載置して搬送方向Dに移動可能な試料搬送部3と、試料Sに対して一次X線X1を照射するX線照射部1と、試料に照射する一次X線X1の照射径を成形する一次X線調整手段4と、一次X線X1を照射された試料Sから発生した散乱X線や蛍光X線などの二次X線を検出するX線検出部2と、X線検出器2に接続されこの二次X線のエネルギー情報の信号を分析する分析器5と、分析器5に接続されたデータ処理部7とを備え、試料Sが照射位置6にない場合を図1に示す。
また、試料Sが照射位置6にある場合を図3に示す。
【0024】
試料Sに一次X線X1を照射するX線照射部1は、X線管球を用いる。X線管球は印加する高電圧の適切な絶縁、発生する熱を排出するための冷却機構および安全のために不要な方向へのX線の遮蔽を備えたハウジングに収められる。一次X線調整手段4は、例えばX線遮蔽能力十分に大きなタングステンや真鍮などの材質に細孔を設けたコリメータや、中空ガラス管内面の全反射現象を利用したポリキャピラリやモノキャピラリなどのX線集光素子を使用することができる。一次X線調整手段4で成形された照射径は、試料Sの大きさ及び、試料Sを載置して搬送方向Dに移動可能な試料搬送部3の搬送速度に基づいて決定される。試料Sが搬送方向Dと直交する方向の配置が試料の大きさに対して無視できない場合は、そのずれ量も加味して照射径を決定する。一例としては、試料の大きさから、想定される配置ずれ量を減じた程度の照射径を設定する。これにより、試料が照射位置にあるときは発生する蛍光X線は実用的には全て試料からのものと見なせるようになる。
【0025】
試料搬送部3は、無端状のベルトが一対のローラに巻回されたベルトコンベヤーであって、試料Sを載置して所定の走査方向に相対移動可動で試料Sを連続的に搬送できる。試料Sを載せる試料搬送部3の表面材料は、試料Sから発生する二次X線のエネルギーに対して、試料搬送部3の表面から発生する二次X線のエネルギーと干渉しないものを選ぶ。例えば、試料Sは銅(Cu)やニッケル(Ni)で構成された場合、試料搬送部3の表面の材料はアルミニウム(Al)を用いる。なお、試料搬送部3は搭載した試料Sの移動の軌跡は一次X線X1が照射される照射位置6を通過するように配置される。
【0026】
ここで、試料の搬送方向Dに直交する方向には試料の配置は一次X線X1の照射径を考慮して規制されるが、試料の搬送方向Dに対する配置、すなわち個々の試料Sが搬送される間隔は連続した2つの試料間に少なくとも1点試料が存在しない状態の測定が挟まれる状態を最低限度とし、その間隔より大きければ制限はなく、等間隔である必要もない。試料搬送部3の形状はベルトコンベヤー以外にも、円盤状など限定されるものではく、試料が搬送される軌跡が一次X線X1と交差することである。
なお、搬送される試料は1つであってもよい。
【0027】
X線検出部2は、半導体検出器あるいは比例計数管などのエネルギー分散型X線検出器を用いる。これは、入射した1個のX線光子が持つエネルギーに比例した電荷を発生するものであり、この電荷量に比例した電圧信号に変換し、さらにこれをAD変換してデジタル値として出力する。
なお、X線検出部は、波長分散型X線検出器を用いてもよい。
【0028】
分析器5は、X線検出部2に接続されて上記信号を分析する。分析器5は例えば、上記信号から電圧パルスの波高を得てエネルギースペクトルを生成する波高分析器(マルチチャンネルアナライザー)である。分析器5は、X線検出部2から出力されたX線光子の信号をエネルギー毎に弁別しエネルギー毎に入射回数を計数してX線強度としてスペクトルを得る。
【0029】
図7は、分析器5でエネルギー毎に弁別しエネルギー毎に入射回数を計数してX線強度としてスペクトルのエネルギーを等間隔ΔE毎に区切ったチャンネル42を複数並べ、それぞれのチャンネル42ごとの計数の配列として表したものである。この入射計数を積算する時間Tmを、下記の数式1になるように設定する。
【数1】
【0030】
ここでLは試料S上の測定対象部分の搬送方向Dの長さ、Vは試料Sの搬送速度である。ここでは例としてTmをL/Vの1/10に設定する。
なお、入射計数を積算する時間Tmは、試料が前記X線照射部を通過するのに要する時間よりも短いのが望ましい。
【0031】
このスペクトルの積算動作を連続的に実施し、得られたスペクトルはスペクトルの配列としてデータ処理部7のメモリに蓄えられる。データ処理部7は、得られたスペクトルと設定した閾値から、試料搬送部3で移動している試料Sが照射位置6を通過しているか否かを判断する。
また、データ処理部7のメモリに保存したスペクトルは、古い順に上書きすることで記憶領域が飽和しないようにするが、一度に書き込めるスペクトルの個数が十分多くなるようにメモリを実装することで、後の処理に必要な時間内に次のスペクトルに上書きされないようにする。
【0032】
上記分析器5は、X線検出部2からの信号から電圧パルスの波高を得てエネルギースペクトルを生成する波高分析器(マルチチャンネルパルスハイトアナライザー)である。
データ処理部7では、逐次取得されていくスペクトルを監視し、試料Sの有無によるスペクトルの変化を検出する。
【0033】
試料搬送部3の材質の主成分が元素A、試料Sが主要成分として元素Bを含む場合で説明する。図1のように試料Sが照射位置6にない場合で、横軸にエネルギー、縦軸にX線強度としたときのスペクトル10を図2に示す。試料搬送部3の表面が照射位置6にあるので、スペクトル10は試料搬送部3の材質の主成分が元素Aの蛍光X線のエネルギー11にX線強度のピークを持つ。次に、図3のように試料Sが照射位置6にあるときのスペクトル12を図4に示す。試料Sが照射位置6にあるので、試料Sの主要成分である元素Bの蛍光X線のエネルギー13にX線強度のピークを持つ。このとき、図4の元素Aの蛍光X線のエネルギー11のX線強度は、図2のときより小さくなる。
この性質を利用し、所定のX線強度の閾値14を設け、試料Sが主要成分の元素Bの蛍光X線のエネルギー13のX線強度が、閾値14を上回っているとき、試料Sが照射位置6に存在すると判定する。
【0034】
本実施例では、前述の通りTmをL/Vの1/10に設定しているので、図5に示したように、試料Sを搬送しながら所定の時間間隔で連続して測定したスペクトルT1からT21を示す。
図5の場合、スペクトルT2からT20では、元素Bの蛍光X線のエネルギー13のX線強度が閾値14より大きくなっているので、試料Sが照射位置6にあると判定される。判定されたエネルギー13のX線強度は、試料の測定スペクトルとして分析する。この連続した測定スペクトルは、全て個別のスペクトルとして扱う。または、スペクトルT2やT20のように最初と最後の測定スペクトルを排除しT3からT29を積算または平均化して一つのスペクトルとして扱ってもよい。または、連続した測定スペクトルの中心や重心を試料のスペクトルとして選択するなどしてもよい。
【0035】
前記の本実施形態のX線分析装置は、試料Sが照射位置6に存在するか否かは、試料Sの主要成分の元素Bの蛍光X線のエネルギー13のX線強度で判定したが、試料搬送部の材質の主成分が元素Aの蛍光X線のエネルギーにX線強度と特定の閾値を用いて試料の有無を判断してもよい。
なお、このときの閾値は前記の本実施形態の閾値と異なっていてもよい。
図2図4で示すように、試料搬送部3の材質である元素Aの蛍光X線のエネルギー11のX線強度も試料Sの位置に応じて変化する。試料Sが照射位置6にあることで、一次X線X1が試料搬送部3に照射される量が減衰し、元素Aの蛍光X線のエネルギー11のX線強度は大幅に減衰する。元素Aの特定の閾値を設定することで、元素Aの蛍光X線のエネルギー11のX線強度がこの閾値を比較して、試料Sが照射位置6にあるか否かを判定してもよい。
【0036】
また、別の本実施形態のX線分析装置は、試料搬送部3の表面がプラスチック材料である場合、プラスチックは一次X線の散乱の効率が高く、加えてプラスチックの主成分である炭素や酸素の蛍光X線ピークはほとんど検出されない。そのため、試料Sが照射位置6にない場合は図6のスペクトル15に示したように、X線管球からの連続X線成分を反映した、蛍光X線ピークと比較して顕著に幅広な散乱線のスペクトルとなる。この性質を利用し、試料Sの主要成分の元素Bのエネルギー13と干渉しない、散乱線の強度が顕著なエネルギー領域16のX線強度が、閾値17を下回ったことで、試料Sが照射位置6にある場合のスペクトルであるか否かを判定してもよい。
【0037】
また、別の本実施形態のX線分析装置は、試料搬送部3の材質が試料Sの材質と蛍光X線が干渉しないように選べない場合や、試料Sの成分が安定せず適切な閾値の設定が難しい場合を述べる。準備段階として、試料Sを載せない状態で多数のスペクトルを取得し、次に試料を照射位置またはその近辺に配置したスペクトルを取得する。
試料の成分や被膜の厚さのばらつきなど、測定系のばらつき以外の試料個体差による試料間のスペクトルの差異が予測される場合は試料間の個体差のばらつきを適切に反映した多数の試料のスペクトルが含まれるように留意する。これらの2つのグループのスペクトルの差異をディープラーニングにより学習させる。ここまでの準備段階で得られた学習結果を用いて、試料Sが照射位置6にある場合のスペクトルであるかどうかを判定する。
【0038】
図7で示したように、X線検出部2が生成するスペクトルは等間隔に区切られたエネルギー範囲毎の計数の配列であった。この場合、試料搬送部の材質の主成分が元素Aの蛍光X線のエネルギー11のX線強度は、エネルギーEA0からEA1の間のチャンネルの計数を合計したものとして与えられた。同様に試料Sの主成分が元素BのX線のエネルギー13のX線強度もエネルギーEB0からEB1の間のチャンネルの計数を合計したものとして与えられた。後のデータ処理でスペクトルのピーク形状が重要な場合にはこの手法は理にかなっているが、後のデータ処理においてそれぞれの元素の蛍光X線強度が、EA0からEA1の間およびEB0からEB1の間のそれぞれの計数の和のみで事足りるような場合は、等間隔でチャンネルを区切りスペクトルを生成する必要がない。このような場合は、チャンネルを等間隔で区切らず、必要な元素のエネルギーのピークを含むエネルギー領域をいくつかのチャンネルとして設定し、複数のシングルチャンネルアナライザーとして動作させることでも本発明の目的を達成できる。
【符号の説明】
【0039】
1 X線照射部
2 X検出部
3 試料搬送部
4 一次X線調整手段
5 分析器
6 照射位置
7 データ処理部
X1 一次X線
X2 二次X線
D 試料の搬送方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7