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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135027
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】積層フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20220908BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20220908BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20220908BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220908BHJP
   B32B 27/26 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
B32B27/00 L
B32B27/36
B32B7/06
B32B27/30 A
B32B27/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034589
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牛島 麻友香
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK25B
4F100AK41A
4F100AL01B
4F100BA02
4F100BA10A
4F100CA02B
4F100EH20
4F100EJ38
4F100JA07
4F100JK06B
4F100JL14B
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】各種工程用フィルムとして有用な、離型性に優れた積層フィルムを提供する。
【解決手段】ポリエステルフィルムの少なくとも片面に離型層を有する積層フィルムであって、該離型層は、飛行時間二次イオン質量分析計(TOF-SIMS)を用いて測定される、該離型層の深さ方向のC11 フラグメントイオン強度から算出した、該離型層の深さ方向全体のC11 含有量に対する、スパッタ時間0~10秒でのC11 含有量が5.6%以上である、積層フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に離型層を有する積層フィルムであって、
該離型層は、飛行時間二次イオン質量分析計(TOF-SIMS)を用いて測定される、該離型層の深さ方向のC11 フラグメントイオン強度から算出した、該離型層の深さ方向全体のC11 含有量に対する、スパッタ時間0~10秒でのC11 含有量が5.6%以上である、
積層フィルム。
【請求項2】
前記離型層が、炭素数9以上の長鎖アルキル基を有する化合物を含む離型層形成用組成物から形成される、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記長鎖アルキル基を有する化合物が、炭素数9以上のアルキル基を含有する(メタ)アクリル酸エステルを共重合成分として有する、請求項2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記長鎖アルキル基を有する化合物の酸価が、100mgKOH/g以上である、請求項2又は3に記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記離型層形成用組成物が、さらに、架橋剤を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項6】
粘着テープ(日東電工株式会社製、「No.31B」)に対する、前記離型層の剥離力が、100mN/cm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートに代表されるポリエステルフィルムは、機械的強度、寸法安定性、平坦性、耐熱性、耐薬品性、光学特性等に優れ、かつコストパフォーマンスに優れるため、各種用途に使用されている。
その一つとして離型フィルムがあり、用途として、成型同時転写等の転写用、フレキシブルプリント配線版の製造用、プラスチックシート製造用の工程紙用等、各種製造工程中で用いられる工程用フィルムが挙げられる。
【0003】
ポリエステルフィルムを離型フィルムとして使用する場合には、種々の樹脂や粘着剤に対する離型性を得るため、ポリエステルフィルム表面に、離型性塗膜を積層する方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、離型剤及び活性メチレンブロックイソシアネート化合物を含有する塗布液から形成された塗布層を有する離型フィルムが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ポリエステルフィルムからなる基材の一方の面上に、分子量が10万以下のポリマーが全体の5質量%以下で、未反応モノマーが仕込みモノマーに対して0.5~10質量%であり、ガラス転移温度が-30℃以下である(メタ)アクリル酸エステル共重合体と架橋剤とを含む粘着剤組成物を塗布する塗布工程と、前記未反応モノマーを除去する熱処理工程とを含むことを特徴とする透明導電性基板用表面保護フィルムの製造方法についての開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-151481号公報
【特許文献2】特開2015-193702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示の離型フィルムは、加工時の熱による離型性の悪化を低減できるとされている。しかし、熱や圧力がかけられた場合のフィルムの離型性の変化低減にはなお改善の余地がある。
【0007】
特許文献2に開示の表面保護フィルムは、かかる保護フィルムが貼り付けられた透明導電性基板に熱処理を行っても、保護フィルムの基材から透明導電性基板にオリゴマーの転移を抑制し得る粘着層を有することが記載されているが、かかる保護フィルムの剥離性を向上させることについてまでは検討されていない。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、上述の状況下、各種工程用フィルムとして有用な、離型性の優れた積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、離型層表面に長鎖アルキル基部分を偏在させることで、効果的に離型成分が機能し、優れた離型性を発現させられることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、下記[1]~[6]が提供される。
【0010】
[1]ポリエステルフィルムの少なくとも片面に離型層を有する積層フィルムであって、該離型層は、飛行時間二次イオン質量分析計(TOF-SIMS)を用いて測定される、該離型層の深さ方向のC11 フラグメントイオン強度から算出した、該離型層の深さ方向全体のC11 含有量に対する、スパッタ時間0~10秒でのC11 含有量が5.6%以上である、積層フィルム。
[2]前記離型層が、炭素数9以上の長鎖アルキル基を有する化合物を含む離型層形成用組成物から形成される、上記[1]に記載の積層フィルム。
[3]前記長鎖アルキル基を有する化合物が、炭素数9以上のアルキル基を含有する(メタ)アクリル酸エステルを共重合成分として有する、上記[2]に記載の積層フィルム。
[4]前記長鎖アルキル基を有する化合物の酸価が、100mgKOH/g以上である、上記[2]又は[3]に記載の積層フィルム。
[5]前記離型層形成用組成物が、さらに、架橋剤を含む、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の積層フィルム。
[6]粘着テープ(日東電工株式会社製、「No.31B」)に対する、前記離型層の剥離力が、100mN/cm以下である、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の積層フィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、各種工程用フィルムとして有用な、離型性に優れた積層フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<<積層フィルム>>
本発明の積層フィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に離型層を有する。また、該離型層は、飛行時間二次イオン質量分析計(TOF-SIMS)を用いて測定される、該離型層の深さ方向のC11 フラグメントイオン強度から算出した、該離型層の深さ方向全体のC11 含有量に対する、スパッタ時間0~10秒でのC11 含有量が5.6%以上である。
【0013】
飛行時間二次イオン質量分析計(TOF-SIMS)は、固体試料にイオンビーム(一次イオン)を照射し、表面から放出されるイオン(二次イオン)を、その飛行時間差(飛行時間は重さの平方根に比例)を利用して質量分離する方法である。TOF-SIMSでは、試料表面から1nm以下の深さに存在する元素や分子種に関する情報を高い検出感度で得ることができる。
一方、1nmを超える深さに存在する元素や分子種に関する情報を検出するには、スパッタリングを組み合わせることで測定できる。
スパッタとTOF-SIMSによる測定を交互に繰り返して得られたスペクトル情報から、1nmを超える深さに存在する元素や分子種に関する情報を検出することができる。
【0014】
なお、「スパッタ時間0~10秒でのC11 含有量」は、スパッタ時間0~10秒の間に検出されたC11 フラグメントイオン強度の総和をいい、「離型層の深さ方向全体のC11 含有量」は、スパッタ時間0~測定終了時の間に検出されたC11 フラグメントイオン強度の総和をいう。
また、「測定終了時」とは、基材であるポリエステルフィルム由来の二次イオンとして検出されるCフラグメントイオン強度が一定となった点をいう。
【0015】
また、スパッタ時間0~10秒でのC11 含有量は、後述する実施例に記載の方法にて測定、算出できる。
【0016】
前記C11 フラグメントイオンは、離型層中の離型剤に含まれる長鎖アルキル基由来の二次イオンとして検出される。したがって、前記含有量が高いほど、離型剤の長鎖アルキル基部分が離型層表面に偏在しているといえ、一方、前記含有量が低いほど、離型剤の長鎖アルキル基部分が離型層中に分散しているといえる。前記スパッタ時間0~10秒でのC11 の含有量を5.6%以上であることで、離型剤の長鎖アルキル基部分が離型層表面に偏在し、優れた離型性を発現させることができる。
前記スパッタ時間0~10秒でのC11 の含有量は、6.0%以上が好ましく、6.5%以上がより好ましく、7.0%以上がさらに好ましく、7.5%以上がよりさらに好ましく、8.0%以上がよりさらに好ましく、9.0%以上がよりさらに好ましく、10.0%以上が特に好ましい。
【0017】
本発明の積層フィルムの積層構成としては、ポリエステルフィルムの片面側に離型層を有し、他方の面側はポリエステルフィルムの表面をそのままにした構成であってよいし、該他方の片面側に他の層を形成してなる構成であってもよい。
また、ポリエステルフィルムの両面側に離型層を有する構成であってもよい。
さらにまた、ポリエステルフィルムと離型層との間に他の層を設けてもよいが、該離型層はポリエステルフィルムの少なくとも一方の最表面であることが好ましい。
好適には、本発明の積層フィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも片面側に、ポリエステルフィルムと隣接した離型層を有する積層形態であるのが好ましい。
【0018】
以下、本発明の積層フィルムを構成するポリエステルフィルム及び離型層について、詳細に説明する。
【0019】
<ポリエステルフィルム>
本発明の積層フィルムを構成するポリエステルフィルムは、単層構造であっても、2層以上の多層構造であってもよく、層数は特に限定されない。
また、ポリエステルフィルムは、無延伸フィルム(シート)であっても延伸フィルムであってもよい。中でも、一軸方向又は二軸方向に延伸された延伸フィルムであることが好ましく、力学特性のバランス、平面性及び薄膜化の観点から、二軸延伸フィルムであることがより好ましい。
【0020】
前記ポリエステルフィルムの原料であるポリエステルは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。ホモポリエステルからなる場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なホモポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート等が例示される。
一方、共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、オキシカルボン酸(例えば、p-オキシ安息香酸など)等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられ、グリコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0021】
ポリエステルの重合触媒は、ポリエステル重合触媒として知られている従来公知の化合物を使用することができ、例えば、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、マンガン化合物、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物等が挙げられる。
【0022】
フィルム表面へのオリゴマー成分の析出量を抑えるために、オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステルを原料としてフィルムを製造してもよい。オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステルの製造方法としては、種々公知の方法を用いることができ、例えば、ポリエステル製造後に固相重合する方法等が挙げられる。
また、ポリエステルフィルムを3層以上の構成とし、ポリエステルフィルムの最外層を、オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステル原料を用いた層とすることで、オリゴマー成分の析出量を抑えてもよい。
なお、ポリエスエルは、エステル化又はエステル交換反応をした後に、さらに反応温度を高くして減圧下で溶融重縮合して得てもよい。
【0023】
ポリエステルフィルムは、フィルムの耐候性の向上、被着体等の劣化防止のために、紫外線吸収剤を含有していてもよい。
紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤と無機系紫外線吸収剤が挙げられるが、ポリエステルフィルムの透明性の観点から有機系紫外線吸収剤が好ましい。有機系紫外線吸収剤としては、例えば環状イミノエステル系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等が挙げられる。耐久性及び耐熱性、例えばポリエステルフィルムの製造工程で付加される熱に耐え得る観点からは環状イミノエステル系、ベンゾトリアゾール系がより好ましい。
これらの紫外線吸収剤は、1種類を単独で用いても2種以上併用して用いてもよい。
【0024】
ポリエステルフィルム中には、易滑性の付与及びポリエステルフィルムの製造における各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を配合してもよい。
配合する粒子の種類は、易滑性を付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、例えばシリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機粒子;アクリル樹脂、スチレン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の有機粒子等が挙げられる。
さらに、ポリエステルの製造工程中において、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0025】
使用する粒子の形状に関しても特に限定されず、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。
また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これらの粒子は、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
【0026】
また、粒子の平均粒径は5μm以下であることが好ましい。平均粒径が5μm以下であると、ポリエステルフィルムの表面粗度を適度なものとすることができ、例えば、本発明の積層フィルムを転写シートとして用いる場合に、転写する成型面の表面形状に影響を与えることがなく、好適である。フィルムの表面粗度、前述の易滑性付与の観点から、粒径は0.1~3μmの範囲であることがより好ましい。
【0027】
さらに、ポリエステルフィルム中の粒子の含有量は、5質量%以下であることが好ましい。粒子の含有量が5質量%以下であると、ポリエステルフィルムの透明性を良好とすることができる。ポリエステルフィルムの透明性、前述の易滑性付与の観点から、粒子の含有量は、0.0003~3質量%の範囲であることがより好ましい。
粒子を含有させる場合、例えば、ポリエステルフィルムを多層構造として表層と中間層を設け、表層に粒子を含有させることが好ましい。この場合、より好ましくは、粒子を含有する表層、中間層及び粒子を含有する表層をこの順に有する多層構造とするとよい。
【0028】
ポリエステルフィルム中に粒子を添加する方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用しうる。例えば、多層のポリエステルフィルムであれば、各層を構成するポリエステルを製造する任意の段階において添加することができ、エステル化又はエステル交換反応終了後、添加することが好ましい。
【0029】
なお、ポリエステルフィルム中には、上述の粒子以外に、必要に応じて従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0030】
ポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、機械的強度、ハンドリング性及び生産性などの点から、通常5~350μm、好ましくは25~250μm、より好ましくは38~125μmの範囲である。
【0031】
ポリエステルフィルムの製造方法の一例について具体的に説明するが、以下の説明に何ら限定されるものではない。例えば、二軸延伸フィルムを製造する場合、先に述べたポリエステルの乾燥したペレットを、押出機を用いてダイから溶融シートとして押し出し、回転冷却ドラム上でガラス転移温度以下の温度になるように急冷固化して、まず未延伸シートを得る。この場合、未延伸シートの平面性を向上させるため、溶融シートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、静電印加密着法及び/又は液体塗布密着法が好ましく採用される。
次に、得られた未延伸シートを一方向にロール又はテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70~120℃、好ましくは80~110℃であり、延伸倍率は通常2.5~7倍、好ましくは3.0~6倍である。
次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に通常70~170℃、延伸倍率は通常3.0~7倍、好ましくは3.5~6倍で延伸する。
そして、引き続き180~270℃の温度で緊張下又は30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸延伸フィルムを得る。
上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0032】
また、ポリエステルの二軸延伸フィルムを製造するに際して、同時二軸延伸法を採用することもできる。
同時二軸延伸法は、前記の未延伸シートを通常70~120℃、好ましくは80~110℃に温度コントロールされた状態で機械方向及び幅方向に同時に延伸する方法であり、延伸倍率としては、面積倍率で4~50倍、好ましくは7~35倍、さらに好ましくは10~25倍である。
そして、引き続き、170~270℃の温度で緊張下又は30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸延伸フィルムを得る。同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式、リニアー駆動方式等、従来公知の延伸方式を採用することができる。
【0033】
<離型層>
本発明の積層フィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に離型層を有する。
離型層は離型剤を含む離型層形成用組成物から形成され、かかる離型剤としては長鎖アルキル基を有する化合物、具体的には長鎖アルキル基含有化合物や、ワックスを主成分として用いることが好ましい。これらの離型剤は1種を単独で用いてもよいし、複数種使用してもよい。
離型剤が長鎖アルキル基を含むと、離型層形成用組成物中の離型剤以外の成分との相溶性が良好となるだけでなく、少量でも良好な離型性を発揮し得る。
なお、ここでいう主成分とは、離型剤の中で最も含有割合の多い成分を意味する。
また、前記した長鎖アルキル基含有化合物やワックスに加えて、従来公知の離型剤、例えば、フッ素化合物、シリコーン化合物等を併用してもよい。
【0034】
本発明の積層フィルムが有する離型層は、上記のとおり、飛行時間二次イオン質量分析計(TOF-SIMS)を用いて測定される、離型層の深さ方向全体のC11 +含有量に対する、スパッタ時間0~10秒でのC11 含有量が5.6%以上である。前記スパッタ時間0~10秒でのC11 含有量を5.6%以上であることで、前述したように、優れた離型性を得ることができる。
【0035】
前記スパッタ時間0~10秒でのC11 含有量を5.6%以上にする方法としては、離型層を形成する離型層形成用組成物中の化合物、例えば離型剤としての炭素数9以上のアルキル基含有化合物やワックス、後述するバインダー等の分子量を増大させる方法、該化合物等を架橋剤により架橋させる方法、離型剤の酸価を高くする方法などがある。
【0036】
離型層の厚みは、0.003~1μmであることが好ましい。0.003μm以上であれば、離型層としての機能を十分に発揮することができ、1μm以下であれば、外観や透明性が良好となる。離型層の厚みは、0.005~0.5μmの範囲がより好ましく、0.01~0.2μmの範囲がさらに好ましい。
【0037】
(長鎖アルキル基を有する化合物)
離型剤としての、長鎖アルキル基を有する化合物とは、炭素数4以上の直鎖又は分岐のアルキル基を有する化合物をいう。アルキル基の炭素数は9以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましく、15以上であることがさらに好ましく、18以上であることが特に好ましい。
アルキル基の炭素数を4以上とすることで、本発明の積層フィルムの離型層に離型性を付与することができ、9以上とすることで、離型性にさらに優れる。アルキル基の炭素数の上限に特に制限はないが、通常30程度であり、25以下であることが、後述する離型層形成用組成物の好ましい形態である塗布液が含有する溶媒への溶解性の観点から好ましい。
炭素数4以上の直鎖又は分岐のアルキル基としては、例えば、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ステアリル基、イソステアリル基、ベヘニル基等が挙げられる。
長鎖アルキル基を有する化合物としては、例えば、各種の長鎖アルキル基含有高分子化合物、長鎖アルキル基含有アミン化合物、長鎖アルキル基含有エーテル化合物、長鎖アルキル基含有四級アンモニウム塩等が挙げられる。良好な離型性を発現させる観点から、長鎖アルキル基含有高分子化合物であることが好ましい。
【0038】
長鎖アルキル基含有高分子化合物としては、側鎖に長鎖アルキル基を有する高分子化合物が好ましく、その製造方法としては、
(1)長鎖アルキル基を有するモノマーを重合するか、長鎖アルキル基を有するモノマーと、該モノマーと共重合可能なモノマーとを共重合する方法、
(2)反応性基を有する高分子と、当該反応性基と反応可能な、長鎖アルキル基を有する化合物とを反応させる方法、などが挙げられる。
長鎖アルキル基を有する化合物としては、好適には上記(1)の方法で製造することができる、炭素数9以上のアルキル基を含有する(メタ)アクリル酸エステルを共重合成分として有する長鎖アルキル基含有高分子化合物がより好ましい。
【0039】
上記(1)の方法において、長鎖アルキル基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル系モノマーが好ましく、例えば、炭素数が4~30のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。より具体的には、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-へプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。この場合も、上記同様、アルキル基の炭素数は9以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましく、15以上であることがさらに好ましく、18以上であることが特に好ましい。
上記(1)の方法で得られる長鎖アルキル基含有高分子化合物は、好適には(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体であり、該長鎖アルキル基を有するモノマー由来の構成単位の含有量は、10~100質量%の範囲であることが好ましい。
後述する離型層形成用組成物の好ましい形態である塗布液が含有する溶媒との相溶性の観点から、当該構成単位の含有量は10~80質量%の範囲であることが好ましく、10~60質量%の範囲であることがより好ましい。10質量%以上であると十分な離型性が得られ、80質量%以下であると、溶媒との相溶性が良好となる。ただし、溶媒との相溶性を向上させるために界面活性剤等の添加剤を使用した際は、上記範囲に制限されない。
また、離型性の観点からは、当該構成単位の含有量は10~100質量%の範囲であることが好ましく、20~100質量%の範囲であることがより好ましく、30~100質量%の範囲であることがさらに好ましく、35~100質量%の範囲であることが特に好ましい。
すなわち、溶媒との相溶性及び離型性の観点から、当該構成単位の含有量は30~80質量%の範囲であることがより好ましく、35~60質量%の範囲であることがさらに好ましい。
【0040】
一方、長鎖アルキル基を有するモノマーと共重合可能なモノマーとしては、特に限定されないが、(メタ)アクリル系モノマー、ビニル基含有モノマー等が好ましい。
(メタ)アクリル系モノマーとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有モノマー;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、アクリル酸カルボキシエチル、コハク酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)、ω-カルボキシ-ジカプロラクトンモノアクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチルアクリレートなどのカルボキシ基含有モノマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレートなどの、前記長鎖アルキル基を有する化合物以外の炭素数4未満のアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
ビニル基含有モノマーとしては、スチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。
中でも、共重合可能なモノマーとしては、後述する架橋剤との反応に寄与する観点から、水酸基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマーなどの官能基を含有するモノマーを含むことが好ましく、(メタ)アクリル酸などのカルボキシ基含有モノマーを含むことが好ましい。
なお、本願明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0041】
上記(2)の方法において、反応性基を有する高分子の反応性基としては、例えば水酸基、アミノ基、カルボキシ基、酸無水物等が挙げられる。反応性基を有する高分子の具体例としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリエチレンアミン、反応性基含有ポリエステル樹脂、反応性基含有ポリ(メタ)アクリル樹脂等が挙げられる。中でも離型性や取り扱い易さの観点から、ポリビニルアルコール、反応性基含有ポリ(メタ)アクリル樹脂が好ましい。
【0042】
長鎖アルキル基含有化合物の良好な水溶性を発現させるためには、反応性基を中和することが好ましい。塩基性の安定化剤としては、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の無機系塩基性化合物や、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ジメチルアミノエタノール等のアミン化合物が挙げられる。中でも、離型層表面に長鎖アルキル基部分を効率的に偏在させるためには、中和剤として、無機系塩基性化合物を使用することが好ましく、架橋剤添加時の反応阻害とのバランスを考慮すると、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化リチウムが好ましい。
【0043】
上記の反応性基と反応可能なアルキル基を有する化合物としては、例えば、オクチルイソシアネート、デシルイソシアネート、ラウリルイソシアネート、オクタデシルイソシアネート、ステアリルイソシアネート、ベヘニルイソシアネート等の長鎖アルキル基含有イソシアネート;ヘキサノイルクロライド、オクタノイルクロライド、デカノイルクロライド、ラウロイルクロライド、オクタデカノイルクロライド、ベヘノイルクロライド等の長鎖アルキル基含有酸クロライド;長鎖アルキル基含有アミン;長鎖アルキル基含有アルコール等が挙げられる。中でも離型性や取り扱い易さの観点から、長鎖アルキル基含有イソシアネートが好ましく、ステアリルイソシアネートが特に好ましい。
【0044】
上記(1)及び上記(2)の方法により得られる長鎖アルキル基含有高分子化合物の数平均分子量(Mn)は、いずれも、1000~100000であることが好ましく、2000~100000であることがより好ましい。これらの数平均分子量が下限値以上であると、離型層中の低分子量成分を低減させることで、長鎖アルキル基部分を離型層表面に効率的に偏在させることができ、十分な離型性が得られる。一方、上限値以下であると、後述する離型層形成用組成物の好ましい形態である塗布液が含有する溶媒に溶解しやすく、ポリエステルフィルムへの塗布が容易となる。
また、分散度(Mw/Mn)は1.1~10であることが好ましい。分散度が1.1以上であると一般的な重合プロセスでの条件管理面の汎用性という点で好ましく、10以下であると剥離力が安定化する。
なお、平均分子量は、上記(1)の方法の場合は、重合時間などの重合条件により制御できる。
上記(2)の方法では、反応性基を有する高分子と、反応性基と反応可能なアルキル基を有する化合物のそれぞれの平均分子量により制御できる。
【0045】
上記(1)の方法としては、溶液重合、懸濁重合、塊状重合、乳化重合等の従来公知の重合方法を適用でき、中でも溶液重合が好ましい。
上記溶液重合は、例えば、有機溶媒中に、長鎖アルキル基を有するモノマー及び他の共重合可能なモノマーを、重合開始剤の存在下で重合することで行う。重合温度は、例えば60~100℃、好ましくは70~90℃、重合時間は例えば30分間~10時間、好ましくは3~8時間等、適宜設定できる。
上記重合開始剤としては、通常のラジカル重合開始剤を用いることができ、具体的には、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル等のアゾ系重合開始剤等が挙げられる。重合開始剤の使用量は、目標とする数平均分子量にもよるが、モノマー100質量部に対して、通常、0.1~5質量部であることが好ましく、0.5~3質量部であることがより好ましい。0.1質量部以上であれば、重合が十分に進み、5質量部以下であれば、コスト的に有利である。
【0046】
前記長鎖アルキル基含有化合物の酸価は、100mgKOH/g以上であることが好ましく、105mgKOH/g以上であることがより好ましく、110mgKOH/g以上であることがさらに好ましく、115mgKOH/g以上であることが特に好ましい。
100mgKOH/g以上であれば、酸成分と長鎖アルキル基部分の相溶性の差から、離型層表面に長鎖アルキル基部分を効率的に偏在させることができ、優れた離型性を発現させることができる。
なお、上限値については、離型剤の塗工性や、離型剤の重合時における低分子量成分の抑制の観点から、通常300mgKOH/gが好ましい。
【0047】
前記長鎖アルキル基含有化合物の融点は、0℃以上100℃以下であることが好ましく、10℃以上100℃以下であることがより好ましく、20℃以上90℃以下であることがさらに好ましい。
0℃以上であれば、長鎖アルキル基含有化合物の合成、精製プロセスにおけるハンドリング性の観点から望ましい。
なお、100℃以下であれば、後述する、離型層形成用組成物の好ましい形態である塗布液をポリエステルフィルムに塗布する過程における離型層の外観の悪化や、ヘイズの上昇などが生じにくい。
【0048】
(ワックス)
ワックスとしては、天然ワックス、合成ワックス、これらを配合したワックスなどが挙げられる。
【0049】
天然ワックスには、植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、石油ワックスがある。
植物系ワックスとしては、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木ロウ、ホホバ油等が挙げられる。動物系ワックスとしては、みつろう、ラノリン、鯨ロウ等が挙げられる。鉱物系ワックスとしてはモンタンワックス、オゾケライト、セレシン等が挙げられる。石油ワックスとしてはパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等が挙げられる。
【0050】
合成ワックスとしては、合成炭化水素、変性ワックス、水素化ワックス、脂肪酸、脂肪酸アミド、アミン類、イミド類、エステルワックス、ケトン類が挙げられる。
合成炭化水素としては、フィッシャー・トロプシュワックス(サゾールワックス)、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックスなどが挙げられる。また低分子量のポリマー(数平均分子量500~20000)も含まれ、具体的には、ポリプロピレン、エチレン・アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのブロック又はグラフト結合体などで挙げられる。
変性ワックスとしてはモンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体が挙げられる。ここでの誘導体とは、精製、酸化、エステル化、ケン化のいずれかの処理、又はそれらの組み合わせによって得られる化合物をいう。
水素化ワックスとしては硬化ひまし油、及び硬化ひまし油誘導体が挙げられる。
【0051】
これらのワックスの中でも離型性能に優れ、かつ入手が容易であるという観点から合成ワックスが好ましく、合成炭化水素がより好ましく、酸化ポリエチレンワックスや酸化ポリプロピレンワックスがさらに好ましい。
なお、離型層中の低分子量成分を低減させることで、長鎖アルキル基部分を離型層表面に効率的に偏在させる観点から、ワックスの数平均分子量(Mn)は1000~100000の範囲であることが好ましく、重量平均分子量(Mw)は2000~100000の範囲が好ましい。
【0052】
ワックスの酸価は、0.5mgKOH/g以上であることが好ましく、1mgKOH/g以上であることがより好ましく、4mgKOH/g以上であることがさらに好ましく、7mgKOH/g以上であることが特に好ましい。
1mgKOH/g以上であれば、酸成分と長鎖アルキル基部分の相溶性の差から、離型層表面に長鎖アルキル基部分を効率的に偏在させることができ、優れた離型性を発現させることができる。
なお、上限値については、離型剤の塗工性の観点から、通常50mgKOH/gが好ましい。
【0053】
また、ワックスの融点又は軟化点は、使用時の熱処理に対する耐久性などを考慮すると、好ましくは80℃以上、より好ましくは110℃以上であり、熱処理を行った後に離型性能を制御する観点から、好ましくは200℃以下、より好ましくは170℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。
なお、ワックスの融点は、示差走査熱量計(DSC)によって測定できる。
【0054】
(フッ素化合物)
フッ素化合物としては、分子内にフッ素原子を含有している高分子化合物であればよく、例えば、パーフルオロアルキル基含有高分子化合物、フッ素原子を含有するオレフィン化合物の重合体等が挙げられる。少ない含有量で離型性を発現させることができる観点から、パーフルオロアルキル基含有高分子化合物が好ましい。
パーフルオロアルキル基含有高分子化合物を形成するためのモノマーとしては、パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレートや、パーフルオロアルキル基含有ビニルエーテルなどが好ましい。
【0055】
パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、パーフルオロアルキル(メタ)アクリレート、パーフルオロアルキルメチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロアルキルエチル(メタ)アクリレート、3-パーフルオロアルキルプロピル(メタ)アクリレート、3-パーフルオロアルキル-1-メチルプロピル(メタ)アクリレート、3-パーフルオロアルキル-2-プロペニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、パーフルオロアルキル基含有ビニルエーテルとしては、パーフルオロアルキルメチルビニルエーテル、2-パーフルオロアルキルエチルビニルエーテル、3-パーフルオロプロピルビニルエーテル、3-パーフルオロアルキル-1-メチルプロピルビニルエーテル、3-パーフルオロアルキル-2-プロペニルビニルエーテル等が挙げられる。
これらは1種類を単独で重合しても、2種以上を併用して重合してもよい。また、少ない含有量で離型性を発現できる観点から、パーフルオロアルキル基は炭素原子数が3~11であることが好ましい。
なお、離型層中の低分子量成分を低減させることで、長鎖アルキル基部分を離型層表面に効率的に偏在させる観点から、当該フッ素化合物(高分子化合物)の数平均分子量(Mn)は1000~100000の範囲であることが好ましく、重量平均分子量(Mw)は2000~100000の範囲が好ましい。
【0056】
(シリコーン化合物)
シリコーン化合物とは、分子内にシロキサン結合(-Si-O-)を有する化合物のことであり、シリコーンエマルション、アクリルグラフトシリコーン、シリコーングラフトアクリル、アミノ変性シリコーン、パーフルオロアルキル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン等が挙げられる。離型性、耐熱性等の点から、硬化型シリコーン樹脂が好ましい。
硬化型シリコーン樹脂の種類としては、付加型、縮合型、紫外線硬化型、電子線硬化型等が挙げられ、いずれの硬化型も用いることができる。
なお、離型層中の低分子量成分を低減させることで、長鎖アルキル基部分を離型層表面に効率的に偏在させる観点から、当該シリコーン化合物の数平均分子量(Mn)は100~100000の範囲であることが好ましく、重量平均分子量(Mw)は200~100000の範囲が好ましい。
【0057】
離型層を形成する離型層形成用組成物は、上記離型剤の他に、粒子、バインダー、架橋剤、添加剤をさらに含んでいてもよい。粒子は、ブロッキング性や滑り性改善のために加えられるもので、その種類、形状、平均粒径、含有量は、前述のポリエステルフィルムに配合してもよい粒子と同様である。
【0058】
(バインダー)
離型層形成用組成物は、バインダーを含有していてもよい。バインダーは、離型剤、粒子、添加剤などを後述する離型層形成用組成物の好ましい形態である塗布液にて分散させる役割を有する。バインダーとしては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0059】
バインダーとしてのポリエステル樹脂としては、主な構成成分として、例えば下記のような酸成分及び多価ヒドロキシ化合物からなるものが挙げられる。
酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、フタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2-カリウムスルホテレフタル酸、5-ソジウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、グルタル酸、コハク酸等のジカルボン酸;トリメリット酸、トリメシン酸等のトリカルボン酸;ピロメリット酸等のテトラカルボン酸;無水トリメリット酸、無水フタル酸等の酸無水物;p-ヒドロキシ安息香酸;トリメリット酸モノカリウム塩;及びこれらのエステル形成性誘導体等を用いることができる。
多価ヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、p-キシリレングリコール、ビスフェノールA-エチレングリコール付加物、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリテトラメチレンオキシドグリコール、ジメチロールプロピオン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジメチロールエチルスルホン酸ナトリウム、ジメチロールプロピオン酸カリウム等を用いることができる。これらの化合物の中から、それぞれ適宜1つ以上を選択し、常法の重縮合反応によりポリエステル樹脂を得ることができる。
【0060】
また、上記酸成分の一部としてスルホイソフタル酸を共重合して、ポリエステル骨格にスルホン酸基を導入し、中和して親水化した物が好ましく用いられる。共重合する量は、酸成分全体に対し通常1~10モル%、好ましくは2~8モル%である。スルホン酸基を適量導入することで、後述する離型層形成用組成物の好ましい形態である塗布液、特に水性塗布液において、さらに分散安定性を向上させることができる。
【0061】
バインダーとしてのアクリル樹脂とは、(メタ)アクリル系モノマーを含む重合性モノマー由来の構成単位を有する重合体である。これらは、単独重合体あるいは共重合体、さらには(メタ)アクリル系モノマー以外の重合性モノマーとの共重合体のいずれでもよい。
また、それら重合体と他のポリマー(例えばポリエステル、ポリウレタン等)とのブロック共重合体又はグラフト共重合体、例えばアクリル変性ポリエステル樹脂や、アクリル変性ポリウレタン樹脂であってもよい。
また、ポリエステル、ポリウレタンもしくは他のポリマーの溶液又は分散液中で、(メタ)アクリル系モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマーの混合物)も含まれる。
また、ポリエステルフィルムに対する離型層の密着性をより向上させるために、アクリル樹脂が水酸基やアミノ基を含有することも可能である。
【0062】
上記(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸等のカルボキシ基含有モノマー類及びこれらの塩;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、モノブチルヒドロキシフマレート、モノブチルヒドロキシイタコネート等の水酸基含有モノマー類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド又は(メタ)アクリロニトリル等の窒素含有化合物;N-メチロール(メタ)アクリルアミド等の水酸基含有の窒素含有化合物;γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の珪素含有モノマーが挙げられる。中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル類が好ましい。
これらの(メタ)アクリル系モノマーは、スチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエンのような各種スチレン誘導体;プロピオン酸ビニルのような各種のビニルエステル類;ビニルトリメトキシシラン等のような種々の珪素含有重合性モノマー類;燐含有ビニル系モノマー類;塩化ビニル、塩化ビニリデンのような各種のハロゲン化ビニル類;ブタジエンのような各種共役ジエン類と共重合してもよい。
【0063】
また、後述する離型層形成用組成物の好ましい形態である塗布液、特に水性塗布液において、バインダーを溶解又は分散しやすくする観点から、アクリル樹脂は、水酸基やカルボキシ基等の親水性基を有することが好ましい。したがって、アクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル類と、水酸基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマー等の親水性基含有モノマーを含む重合性モノマーを重合してなる重合体も好ましい。
また、アクリル樹脂は、例えば界面活性剤の存在下に重合性モノマーを重合した乳化重合体でもよい。
【0064】
バインダーとしてのポリウレタン樹脂とは、ウレタン結合を分子内に有する高分子化合物で、水分散性又は水溶性のものが好ましい。ポリウレタン樹脂は、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0065】
水分散性又は水溶性を付与させるために、水酸基、カルボキシ基、スルホン酸基、スルホニル基、リン酸基、エーテル基等の親水性基をポリウレタン樹脂に導入することが一般的であり好ましい。前記親水性基の中でも、易接着性向上の点からカルボキシ基又はスルホン酸基が特に好ましい。
【0066】
かかるポリウレタン樹脂を製造する方法の一つに、水酸基含有化合物とイソシアネートとの反応によるものがある。水酸基含有化合物としては、ポリオールが好適に用いられ、例えば、ポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネート系ポリオール類、ポリオレフィンポリオール類、アクリルポリオール類が挙げられる。これらは1種類を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0067】
ポリエーテルポリオール類としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。
【0068】
ポリエステルポリオール類としては、例えば多価カルボン酸(マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等)又はそれらの酸無水物と多価アルコール(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-ヘキシル-1,3-プロパンジオール、シクロヘキサンジオール、ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、ジメタノールベンゼン、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、アルキルジアルカノールアミン、ラクトンジオール等)の反応から得られるものが挙げられる。
【0069】
ポリカーボネート系ポリオール類としては、多価アルコール類とジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート等とから、脱アルコール反応によって得られるポリカーボネートジオール、例えば、ポリ(1,6-ヘキシレン)カーボネート、ポリ(3-メチル-1,5-ペンチレン)カーボネート等が挙げられる。
【0070】
これらの中でもポリエステルポリオールが好ましい。
【0071】
ポリウレタン樹脂を得るために使用されるイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート等が例示される。これらは1種類を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0072】
ポリウレタン樹脂を製造する際に鎖延長剤を使用してもよい。鎖延長剤としては、イソシアネート基と反応する活性基を2個以上有するものであれば特に制限はなく、一般的には、水酸基又はアミノ基を2個有する鎖延長剤を主に用いることができる。
【0073】
水酸基を2個有する鎖延長剤としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等の脂肪族グリコール;キシリレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン等の芳香族グリコール;ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレート等のエステルグリコールといったグリコール類が挙げられる。
【0074】
アミノ基を2個有する鎖延長剤としては、例えばトリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン等の芳香族ジアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサンジアミン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、トリメチルヘキサンジアミン、2-ブチル-2-エチル-1,5-ペンタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン等の脂肪族ジアミン;1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン等の脂環族ジアミン等が挙げられる。
【0075】
また、ポリウレタン樹脂に水分散性又は水溶性を付与するために、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等を用いて、ウレタン骨格にカルボキシ基を導入し、後に塩基性化合物で中和してウレタンを親水化する手法も好ましく用いられる。
【0076】
バインダーとしては、ポリエステルフィルムへの離型層の密着性の観点から、ポリエステル樹脂が好ましい。
なお、バインダーは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0077】
(架橋剤)
離型層形成用組成物は、架橋剤をさらに含んでいてもよい。架橋剤は、前記離型層形成用組成物、好適には塗布液中に添加することができ、例えばメラミン化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物、シランカップリング剤などが挙げられる。これらの架橋剤のうち、架橋密度及び弾性率が高いという点で、メラミン化合物を使用することが好ましい。
架橋剤は、ポリエステルフィルムの表面に前記離型層形成用組成物、好適には塗布液を塗工後の乾燥工程や、延伸などの製膜工程において、反応させて離型層の性能を向上させるものであり、本発明においては、架橋剤によって、離型剤を離型層表面に効果的に偏在させることができ、本発明の効果を生じさせやすくする場合もある。
なお、当該架橋剤は、離型層中には未反応物、反応後の化合物のいずれの形態としても存在していると思われる。
【0078】
メラミン化合物とは、分子内にメラミン骨格を有する化合物のことであり、例えば、トリメトキシメチルメラミン、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサエトキシメチルメラミン、ヘキサプロポキシメチルメラミン、ヘキサブトキシメチルメラミンなどが挙げられる。
【0079】
オキサゾリン化合物とは、分子内にオキサゾリン基を有する化合物であり、特にオキサゾリン基を含有する重合体が好ましい。オキサゾリン基含有モノマーとしては、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリン等を挙げることができる。
【0080】
エポキシ化合物とは、分子内にエポキシ基を有する化合物であり、例えば、エピクロロヒドリンとエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ビスフェノールA等の水酸基やアミノ基との縮合物が挙げられ、ポリエポキシ化合物、ジエポキシ化合物、モノエポキシ化合物、グリシジルアミン化合物等がある。
【0081】
イソシアネート系化合物としては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート等のトリレンジイソシアネート系化合物;1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等のキシリレンジイソシアネート系化合物;1,5-ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等の芳香族イソシアネート系化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、及びこれらのイソシアネート系化合物とトリメチロールプロパン等のポリオール化合物とのアダクト体、これらポリイソシアネート化合物のビュレット体やイソシアヌレート体等が挙げられる。
【0082】
カルボジイミド系化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t-ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ-t-ブチルカルボジイミド、ジ-β-ナフチルカルボジイミド等のモノカルボジイミド化合物;ジイソシアネートの脱二酸化炭素を伴う縮合反応により得られる、イソシアネート末端ポリカルボジイミドなどが挙げられる。
【0083】
シランカップリング剤としては、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミンなどが挙げられる。
離型層形成用組成物、好適には塗布液が架橋剤を含有する場合、架橋剤の含有量としては、離型剤100質量部に対して、10~100質量部添加することができる。10質量部以上であれば、架橋剤の機能が十分に発揮され、長鎖アルキル基部分を効果的に離型層表面に偏在させることができる。一方、100質量部以下であれば、離型剤の性能発現の点で有利である。以上の観点から、架橋剤の含有量は15~80質量部の範囲がより好ましく、20~70質量部の範囲がさらに好ましい。
【0084】
(添加剤)
離型層形成用組成物には、必要に応じて、各種添加剤を加えることができる。具体的には、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤、潤滑剤、発泡剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0085】
(離型層形成用組成物)
本発明の積層フィルムにおける離型層は、ポリエステルフィルムの少なくとも片面側に、離型層形成用組成物を用いて形成され、かかる離型層形成用組成物は、前記長鎖アルキル基を有する化合物、ワックス、フッ素化合物、シリコーン化合物等の離型剤を含み、さらにバインダー、架橋剤、粒子、その他の添加剤、溶媒を含んでいてもよい。特に、溶媒を含んだ塗布液の形態であることが好ましい。
塗布液とした場合の当該組成物の固形分濃度は、0.1~50質量%であることが好ましい。0.1質量%以上であれば、効率的に所望の厚みの離型層を形成することができ、50質量%以下であれば、溶媒に溶解させやすく、かつ塗工が容易である。以上の観点から、固形分濃度は0.5~40質量%であることがより好ましく、1~30質量%であることがさらに好ましい。
固形分中の離型剤の含有量は、10~100質量%の範囲であることが好ましく、20~100質量%の範囲がより好ましく、30~99質量%の範囲がさらに好ましい。
【0086】
(溶媒)
離型層形成用組成物は、溶媒を含有することで液状の塗布液とし、これを前記ポリエステルフィルムの表面に塗布し、必要に応じて乾燥、かつ硬化させることで離型層を形成することができる。
なお、塗布液における、離型層を形成する各成分は、溶媒に溶解していてもよいし、溶媒中に分散していてもよい。
前記溶媒としては、水及び有機溶剤のいずれも使用できる。有機溶剤としては、トルエン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、ヘプタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;エチルメチルケトン、イソブチルメチルケトン等のケトン;エタノール、2-プロパノール等のアルコール;ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル等を挙げることができる。これらは、溶解性、塗布性や沸点等を考慮して単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。
環境への影響を低減する観点からは、離型層形成用組成物を塗布液とする際、水を主溶媒(塗布液を構成する溶媒の50質量%以上)とする水性塗布液とすることが好ましい。水の含有量は、好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。水性塗布液は、少量の有機溶剤を含有していてもよい。有機溶剤の量は、質量基準で例えば、溶媒中の30質量%未満、好ましくは20質量%未満、より好ましくは10質量%未満である。
水性塗布液が含有していてもよい有機溶剤としては、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール;エチルセロソルブ、t-ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;酢酸エチル等のエステル;ジメチルエタノールアミン等のアミン等が挙げられる。これらは単独、もしくは複数を組み合わせて用いることができる。水性塗布液に、必要に応じてこれらの有機溶剤を適宜選択し、含有させることで、塗布液の安定性、塗布性を良好にできる場合がある。
【0087】
(離型層の形成方法)
離型層の形成に際し、前記離型層形成用組成物、好適には塗布液のポリエステルフィルムへの塗工方法は特に限定されず、例えばリバースグラビアコート、ダイレクトグラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、カーテンコート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。
離型層の形成方法としては、インラインコーティング及びオフラインコーティングがある。乾燥及び硬化条件に関しては特に限定されず、例えばオフラインコーティングにより離型層を設ける場合、通常、80~200℃で3~40秒間、好ましくは100~180℃で3~40秒間を目安として熱処理を行うのがよい。一方、インラインコーティングにより離型層を設ける場合、通常、70~280℃で3~200秒間を目安として熱処理を行うのがよい。
【0088】
本発明の積層フィルムは、ポリエステルフィルムの製造工程中にフィルム表面を処理する、インラインコーティングにより形成されるのが好ましい。
インラインコーティングは、ポリエステルフィルム製造の工程内で、前記塗布液のポリエステルフィルムへの塗工及び熱処理を施してコーティングを行う方法である。具体的には、ポリエステルを溶融押し出しし、延伸後、熱固定して巻き上げるまでの任意の段階でコーティングを行う。
通常は、溶融、急冷して得られる未延伸シート、延伸された一軸延伸フィルム、熱固定前の二軸延伸フィルム、熱固定後で巻き上げ前のフィルムの何れかに前記塗布液を塗工し、熱処理を施してコーティングする。
以下に限定するものではないが、例えば逐次二軸延伸においては、特に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルムに前記塗布液を塗工し、熱処理を施してコーティングした後に横方向に延伸する方法が好ましい。かかる方法によれば、ポリエステルフィルムの製造と離型層形成を同時に行うことができるため製造コスト上のメリットがあり、また、コーティング後に延伸を行うために、離型層の厚みを延伸倍率により変化させることもでき、オフラインコーティングに比べ、薄膜の離型層コーティングをより容易に行うことができる。
また、延伸前にフィルム上に離型層を設けることにより、離型層をポリエステルフィルムと共に延伸することができ、それにより離型層をポリエステルフィルムに強固に密着させることができる。
さらに、二軸延伸ポリエステルフィルムの製造において、クリップ等によりフィルム端部を把持しつつ延伸することで、フィルムを縦及び横方向に拘束することができ、熱固定工程において、しわ等が入らず平面性を維持したまま高温をかけることができる。
それゆえ、塗布液の塗工後に施される熱処理が、他の方法では達成されない高温とできるために、離型層の塗工性が良好となり、離型層とポリエステルフィルムをより強固に密着させることができる。
【0089】
また、オフラインコーティングあるいはインラインコーティングに係わらず、離型層の形成に際して、必要に応じて熱処理と紫外線照射等の活性エネルギー線照射とを併用してもよい。本発明の積層フィルムを構成するポリエステルフィルムにはあらかじめ、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施してもよい。
【0090】
(離型層の剥離力)
後述する実施例に記載の方法に従って測定した、積層フィルムの離型層の上に粘着層(両面粘着テープ(日東電工株式会社製、「No.31B」)を張り合わせたとき、該粘着テープに対する離型層の剥離力は、100mN/cm以下であることが好ましく、95mN/cm以下であることがより好ましく、90mN/cm以下であることがさらに好ましい。
【0091】
本発明の積層フィルムは離型性に優れるので、離型フィルム用途として、例えば成型同時転写等の転写用、フレキシブルプリント配線版の製造用、プラスチックシート製造用の工程紙用等、各種製造工程中で用いられる工程用フィルムとして好適に使用できる。
【実施例0092】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、その要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0093】
<評価方法>
(1)ポリエステルの極限粘度
ポリエステルに非相溶な成分を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(質量比)の混合溶媒100mLを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0094】
(2)粒子の平均粒径
透過型電子顕微鏡(TEM)(株式会社日立ハイテク製、「H-7650」、加速電圧100kV)を使用して、実施例及び比較例の積層フィルムを観察し、粒子10個の粒径の平均値を平均粒径とした。
【0095】
(3)離型層の膜厚
実施例及び比較例の積層フィルムの離型層の表面をRuOで染色し、エポキシ樹脂中に包埋した。その後、超薄切片法により作成した切片をRuOで染色し、離型層断面を透過型電子顕微鏡(TEM)(株式会社日立ハイテク製、「H-7650」、加速電圧100kV)を用いて測定した。
【0096】
(4)スパッタ時間0~10秒でのC11 含有量
積層フィルムの離型層表面からの深さ方向における離型剤の長鎖アルキル基の分布をTOF-SIMS(ION TOF社製、「TOF-SIMS IV」及び「IONPTIKA GCIB-10S」)を用いて、デプスプロファイルから評価した。
なお、離型剤の長鎖アルキル基の分布は、検出された長鎖アルキル基由来の二次イオンC11 フラグメントイオン強度を用いて算出した。
【0097】
(測定条件及び算出方法)
一次イオンとしてBi 2+を用い、加速電圧は25kVとした。
深さ方向における単位面積当たりの長鎖アルキル基の分布を評価するために、Ar3000 イオンによるスパッタ(加速電圧:10kV,面積:3mm角)を行った。
そして、スパッタ時間0~測定終了時の間に検出されたC11 フラグメントイオン強度の総和を、離型層の深さ方向全体のC11 含有量、スパッタ時間0~10秒の間に検出されたC11 フラグメントイオン強度の総和を、スパッタ時間0~10秒でのC11 含有量とし、離型層の深さ方向全体のC11 含有量に対するスパッタ時間0~10秒でのC11 含有量を算出した。
【0098】
なお、スパッタ時間の測定終了点は、基材であるポリエステルフィルム由来の二次イオンとして検出されるCフラグメントイオン強度が一定となった点とした。
また、スパッタ時間0~10秒とは離型層表面近傍を意味しており、スパッタ時間0~10秒の間に検出されたフラグメントイオンから、離型層表面近傍における化合物分布を推測することができる。
【0099】
TOF-SIMSの測定条件は以下のとおりである。
2次イオン極性:正
ラスターサイズ:200μm
帯電中和:有り
1次イオン:Bi 2+
1次イオン加速電圧:25kV
スパッタイオン:Ar3000
スパッタイオン加速電圧:10kV
【0100】
(5)積層フィルムの剥離力
試料フィルムの離型層表面に5cm幅にカットした両面粘着テープ(日東電工株式会社製、「No.31B」)の片面を2kgゴムローラーにて1往復圧着し、室温にて1時間放置後の剥離力を測定した。剥離力は、小型卓上試験機「EZ Graph」(株式会社島津製作所製)を使用し、引張速度300mm/分の条件下、180°剥離を行った。
剥離力は100mN/cm以下であることが好ましく、95mN/cm以下であることがより好ましく、90mN/cm以下であることがさらに好ましい。
【0101】
(6)離型剤の酸価
離型剤の酸価を中和滴定法によって求めた。離型剤をトルエン/エタノール混合溶液50/50(v/v)に溶解させて1質量%溶液を調製して測定サンプルとし、自動滴定装置(東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて、0.5N KOHエタノール溶液で滴定を行い、pH変曲点から酸価を算出した。
【0102】
(7)離型剤の数平均分子量(Mn)及び分散度(Mw/Mn)
ゲル浸透クロマトグラフィーにて測定したポリスチレン換算の値を用いて、離型層の数平均分子量及び分散度を求めた。測定サンプルは、絶乾した離型剤をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させて調製した。
なお、測定装置及び測定条件は、以下の通りである。
測定装置:東ソー株式会社製「EcoSEC 8320」
カラム:東ソー株式会社製「TSKgel GMHXL」4本
測定溶媒:THF
測定温度:40℃
【0103】
<使用した材料>
(a)ポリエステル(A);極限粘度が0.63dL/gであるポリエチレンテレフタレートホモポリマー
(b)ポリエステル(B);平均粒子径2μmのシリカ粒子を0.2質量%含有する、極限粘度が0.65dL/gであるポリエチレンテレフタレートホモポリマー
(c)架橋剤;ヘキサメトキシメチルメラミン
【0104】
(積層フィルム形成用塗布液の調製)
以下に示す調製例又は比較調製例の記載に基づいて、長鎖アルキル基含有ポリアクリレートを含む溶液1~3を調製した。表1に溶液の組成と反応条件を示す。
次いで、これらの溶液に、必要に応じて、前記架橋剤を加え、積層フィルム形成用塗布液とした。各実施例及び比較例で用いた塗布液について、表2に示す。
【0105】
調製例1(溶液1)
窒素ガス導入管、撹拌機、温度計、冷却器を備えた4つ口フラスコに、エタノール500質量部、ステアリルアクリレート70質量部、グルタコン酸30質量部を仕込み、系中を窒素ガスで置換した。昇温し、還流状態となった後、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1質量部を添加することで反応を開始させ、85℃で4時間反応させた。反応終了後、溶媒を除去し、水に溶解させ、長鎖アルキル基含有ポリアクリレートを含む溶液を調製した。なお、長鎖アルキル基含有ポリアクリレートの数平均分子量は5600、分散度は1.8であった。以下、溶液1と称する。
【0106】
調製例2(溶液2)
調製例1において、モノマーをステアリルアクリレート55質量部、アクリル酸45質量部としたこと以外は、調製例1と同様にして長鎖アルキル基含有ポリアクリレートを含む溶液を調製した。なお、長鎖アルキル含有ポリアクリレートの数平均分子量は10000、分散度は2.6であった。以下、溶液2と称する。
【0107】
比較調製例1(溶液3)
調製例1において、モノマーをステアリルアクリレート60質量部、アクリル酸30質量部、カルボキシエチルアクリレート10質量部としたこと以外は、調製例1と同様にして長鎖アルキル基含有ポリアクリレートを含む溶液を調製した。なお、長鎖アルキル基含有ポリアクリレートの数平均分子量は10000、分散度は2.4であった。以下、溶液3と称する。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
[実施例1~3及び比較例1]
(積層フィルムの製造)
ポリエステル(A)、(B)をそれぞれ90質量%、10質量%の割合で混合した混合原料を最外層(表層)の原料とし、ポリエステル(A)のみを中間層の原料として、2台の押出機に各々を供給し、各々温度285℃で溶融した後、温度40℃に設定した冷却ロール上に、2種3層(表層/中間層/表層=1:8:1の吐出量)の層構成で共押出し冷却固化させて未延伸シートを得た。
次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.4倍延伸した後、この縦延伸フィルムの片面に、上記表2に示す組成の塗布液1~4を塗布し、テンターに導き、横方向に温度110℃で4.3倍延伸し、温度235℃で熱処理を行った後、横方向に2%弛緩し、膜厚(乾燥後)が0.02~0.04μmの離形層を有する厚さ50μmの積層フィルムを得た。得られた各積層フィルムについての評価結果を表3に示す。
【0111】
【表3】
【0112】
表3に示すように、離型層中の飛行時間二次イオン質量分析計(TOF-SIMS)を用いて測定される、離型層の深さ方向全体のC11 含有量に対するスパッタ時間0~10秒でのC11 含有量を高くすることで、粘着テープに対する離型層の剥離力を低減できる。これは、離型層中の離型剤が有する長鎖アルキル基部分が離型層表面に偏在することで、効果的に離型剤がその機能を発揮し、優れた離型性を発現させることができたためだと考えられる。