(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135037
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】エルゴチオネイン高含有麹菌固体発酵物、並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 13/04 20060101AFI20220908BHJP
C12N 1/14 20060101ALN20220908BHJP
A23L 33/175 20160101ALN20220908BHJP
【FI】
C12P13/04
C12N1/14 B
A23L33/175
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034603
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】市川 惠一
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 遼子
【テーマコード(参考)】
4B018
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B018MD19
4B018MD80
4B018ME06
4B018ME10
4B018MF13
4B064AE03
4B064BH07
4B064CA05
4B064CC03
4B064CC06
4B064CC08
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4B064CD20
4B064CD21
4B064CD22
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4B064DA01
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4B065AA60X
4B065AA63X
4B065AC14
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4B065BB26
4B065BB27
4B065BB29
4B065BC32
4B065BC33
4B065BC36
4B065BD16
4B065CA17
4B065CA41
4B065CA44
4B065CA50
(57)【要約】
【課題】エルゴチオネイン高含有食品の提供を目的とする
【解決手段】固体培地と麹菌を混合して培養する工程において、発酵中の混合物の水分量を25%以上に維持し、4日以上発酵することにより、0.35g/麹菌固体発酵物1kg以上のエルゴチオネイン高含有麹菌固体発酵物を提供する
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.35g/麹菌固体発酵物1kg以上のエルゴチオネインを含む麹菌固体発酵物。
【請求項2】
タンパク質を10%以上含む固体培地と麹菌とを混合して培養する工程を含む、0.35g/麹菌固体発酵物1kg以上のエルゴチオネイン高含有麹菌固体発酵物の製造方法であって、4日以上発酵することを特徴とする、前記製造方法。
【請求項3】
発酵中に水添加を行わず、前記固体培地と前記麹菌の混合物の初発の水分量を45%以上に調整することを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
発酵中の混合物の水分量を25%以上に維持することを特徴とする、請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記発酵工程が、20~40℃で発酵することを含む、請求項2~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項2~5のいずれか一項に記載の製造方法により製造された、エルゴチオネイン高含有麹菌固体発酵物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エルゴチオネイン(以下、ERGと表記する場合がある。)高含有麹菌固体発酵物の製造方法、製造方法により製造されたERG高含有麹菌固体発酵物の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
ERGは、強力な抗酸化作用を有する含硫アミノ酸であり、植物や動物の生体内にも存在することが見いだされている。ERGは、強力な抗酸化作用を有するのみならず、エラスターゼ阻害作用、チロシナーゼ阻害作用を有することが報告されており、美白やしわ予防といった美容・食品分野で特に注目されている。また、ERGが生体酸化防御システムに関与することが判明してきており、医療分野での応用も試みられている。最近では、高齢になるとERG含量が低下すること、ERGには酸化ストレス下におけるテロメア長低減の緩和効果があることなど、長寿や軽度認知症障害などとの関連でも注目されている。軽度認知症障害の認知機能改善効果を発揮するためには5mg/1日のERGが必要とされる(例えば、非特許文献1を参照)
【0003】
植物や動物は、ERGを合成することはできず、生体内のERGは、担子菌類などの微生物により合成されたERGに由来すると考えられている。ERGは、担子菌類の一部のキノコ、例えばエノキダケ、ヒラタケ、シイタケ、マイタケ、エリンギ、マッシュルームなどの食用キノコにも含まれており、特にタモギタケに多く含まれていることが知られている。きのこ以外の食品中には、効果を発揮するに十分量なERGが含まれていない。麹菌が生産することも知られているが、ERG量として5mg/1日接取するためには一般的に販売されている麹を100g/1日以上接取必要がある。
【0004】
ERGの製造方法として、タモギタケなどの担子菌からの抽出、化学合成、微生物を用いた発酵が試みられている。タモギタケなどの担子菌からの抽出は、原材料の取得に時間がかかり、大量生産には適していない。ERGを大量に得るために、C1化合物資化性の細菌や酵母を用いた発酵(特許文献1:国際公開第2016/104437号)、さらにはERG生合成遺伝子を過剰発現させた微生物を用いた発酵(特許文献2:国際公開第2017/150304号)について研究がされている。ERG生合成遺伝子を過剰発現させた麹菌を用いた固体培養も試みられているが生産量は231mg/kgである(非特許文献2)。
【0005】
しかしながら、こうして特定されたERG産生微生物株は、食品に通常用いられない微生物であり、また、遺伝子を導入した微生物を用いた場合、食品への利用が制限される。そこで、様々な食品への応用を考え、食経験のある非組み換え株で、高いERG生産性を有する株が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2016/104437号
【特許文献2】国際公開第2017/150304号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】薬理と治療 Volume 48, Issue 4, 685 ― 697 (2020)
【非特許文献2】BIOSCIENCE, BIOTECHNOLOGY, AND BIOCHEMISTRY, 2019, VOL. 83, NO. 1, 181‐184
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
食品中のERG含量を高め、キノコ以外の食品からも、ERGを十分摂取できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが、ERG高含有食品の提供にあたり、鋭意研究を行ったところ、所定の条件で固体発酵物を製造することで、ERG含有量が高まることを見出し、本発明に至った。
そこで、本発明は下記に関する:
[1] 0.35g/麹菌固体発酵物1kg以上のエルゴチオネインを含む麹菌固体発酵物。
[2] タンパク質を10%以上含む固体培地と麹菌とを混合して培養する工程を含む、0.35g/麹菌固体発酵物1kg以上のエルゴチオネイン高含有麹菌固体発酵物の製造方法であって、4日以上発酵することを特徴とする、前記製造方法。
[3]
発酵中に水添加を行わず、前記固体培地と前記麹菌の混合物の初発の水分量を45%以上に調整することを特徴とする、項目2に記載の製造方法。
[4] 発酵中の混合物の水分量を25%以上に維持することを特徴とする、項目2又は3に記載の製造方法。
[5] 前記発酵工程が、20~40℃で発酵することを含む、項目2~4のいずれか一項に記載の製造方法。
[6] 項目2~5のいずれか一項に記載の製造方法により製造された、エルゴチオネイン高含有麹菌固体発酵物。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、発酵により食品中のERG含有量を高めた食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は麹菌を用いて、麹菌固体発酵物中のERGを高含有にさせる発酵条件で発酵した際の、発酵日数に対するERG含有量の変化を示すグラフである。
【
図2】
図2は、発酵中の麹菌固体発酵物の水分量変化を示すグラフである。
【
図3】
図3は、NISL2180株、RIB326株、RIB646株、RIB1370株、RIB408株、RIB40株、及びNBRC4239株の麹菌を用いて、所定条件で7日間発酵後の麹菌固体発酵物中のERG含有量を示す。
【
図4】
図4は、NISL2180株、RIB326株、RIB646株、RIB1370株、RIB408株、RIB40株、及びNBRC4239株の麹菌を用いて所定条件で7日間発酵後の麹菌固体発酵物中の水分量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<麹菌>
麹菌としては、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する任意の菌を用いることができる。一例として、アスペルギルス オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス リューキューエンシス(Aspergillus luchuensis)、アスペルギルス・タマリ(Aspergillus tamarii)が挙げられる。麹菌の菌株としては、例えば、Aspergillus oryzae RIB326株など公的に入手可能な菌株、種麹屋などから市販されている種麹に含まれる菌株、又は清酒、醤油醸造蔵等の飲食品製造環境などから分離して得られる菌株を使用することができる。
【0013】
また、麹菌としては、野生株を使用してもよいし、一般的な変異導入方法を用いてさらにERG高生産の変異株を使用してもよい。変異導入方法としては、例えば、物理的にDNAを損傷し変異を導入する紫外線(UV)やX線照射、化学的にDNAを損傷し変異を導入するN―メチル―N’―ニトロ―N―ニトロソグアニジン(NTG)やエチルメタンスルホン酸(EMS)などのアルキル化試薬による処理などが挙げられる。食品を製造する観点から、遺伝子非組み換え株を使用することが好ましい。麹菌は、麹菌を培地に培養したもの、又は麹菌を培養し、胞子を十分に着生させて乾燥させたものであってもよい。原料と共に乾燥されてもよいし、胞子のみが回収された物であってもよい。
【0014】
<ERG高含有化方法>
本開示の一実施形態にかかるERG高含有化方法とは、下記に詳述する麹菌固体発酵物中のERGを高含有にさせる発酵条件で麹菌固体発酵する方法を意味する。かかるERG高含有化方法は、原料及び通常の発酵条件により製造された麹菌固体発酵物に比較して、ERG含有量が増大された麹菌固体発酵物を製造する方法を意味する。ERG高含有麹菌固体発酵方法では、通常の発酵条件、例えば麹菌固体発酵物水分量を25%以下で発酵した場合、と比較してERGの含有量が、5倍以上、好ましくは10倍以上、より好ましくは20倍以上、さらに好ましくは50倍以上、さらにより好ましくは100倍以上増加する。一例として、ERG高含有麹菌固体発酵物は、0.35g/麹菌固体発酵物1kg以上、好ましくは0.4g/麹菌固体発酵物1kg以上、より好ましくは0.5g/麹菌固体発酵物1kg以上、さらに好ましくは0.8g/麹菌固体発酵物1kg以上、さらにより好ましくは1.0g/麹菌固体発酵物1kg以上のERGを含有する。本開示のERG高含有麹菌固体発酵物に含まれるERGは、麹菌により生成されたものであり、添加や濃縮されたものではない。ERG高含有麹菌固体発酵物は、その製造工程によってのみ識別されるものであり、生成したERG高含有麹菌固体発酵物の成分や特性による特定は不可能であるか又は非実際的である。
【0015】
麹菌固体発酵物中のERGを高含有にさせる培養条件には、固体培地と麹菌の混合物の初発の水分量及び発酵中の水分量を4日間以上制御することが重要である。より具体的に、発酵中の固体培地と麹菌の混合物の水分量を、4日目以降も25%以上に維持することが必要である。発酵中の固体培地と麹菌の混合物の水分量を25%未満にした場合、麹菌固体発酵物中のERGを高含量にすることはできない。したがって、本開示の一実施形態にかかるERG高含有麹菌固体発酵物の製造方法では、固体培地と麹菌とを混合して発酵する工程において、発酵工程にわたり混合物中の水分量を25%以上に維持することを特徴とする。しょうゆ、味噌、酒などの食品を製造する場合には、通常発酵途中に水を添加することはなく、製麹は4日を超えて行わない。また、発酵初期に発熱し、水分が急激に失われうる。したがって、発酵期間及び過程を考慮すると、培養開始時の固体培地と麹菌の混合物の初発の水分量が45%未満である場合、発酵中の発酵物の水分量を25%以上に維持させることが困難となる(
図2)。そこで、本開示の一実施形態にかかるERG高含有麹菌固体発酵物の製造方法は、固体培地と麹菌の混合物の初発の水分量を45%以上に調整する工程を含みうる。
【0016】
ERG高含有麹菌固体発酵物は、麹菌を培養する通常の固体培地を発酵することで調製される。このような固体培地は、好ましくは固形分中にタンパク質10%以上含む固体培地である。このような固体培地の原料として、タンパク質20%以上を含む豆類、魚、肉、藻類並びにそれらの加工物を利用することができる。タンパク質20%以上を含む加工物として、脱脂大豆、魚粉、肉紛、スピルリナ粉が挙げられる。本発明の固体培地は、膨化処理した原料を含むことがさらに好ましい。固体培地は、上述の原料を沸騰したお湯で蒸すか又は煮込み、場合により破砕することで調製することができる。
【0017】
その他の発酵条件は、本技術分野において用いられる通常の条件を使用することができる。例えば、培地の初発pHは5~10に調整される。発酵温度は20~40℃に設定され、発酵時間は4日以上であり、好ましくは4~10日間、好ましくは5~7日間、より好ましくは6~7日間が望ましい。発酵中に麹菌固体発酵物の水分量を維持する観点から、高湿度下で培養することが好ましく、麹菌固体発酵物の水分値を制御するために湿度を調整することができる。また、発酵は4日以上の長期間、高水分量の発酵となるため雑菌の繁殖を防止した環境下で行うことが望ましい。無菌的に培養できる容器、山崎式製麹装置やドラム製麹装置を使ってもよい。
【0018】
一例として、麹菌の代表的な株であるAspergillus oryzae RIB326株を用いた場合、本発明にかかる製造方法でERG高含有麹菌固体発酵物を製造した場合、0.35g/麹菌固体発酵物1kg以上、好ましくは0.4g/麹菌固体発酵物1kg以上、より好ましくは0.5g/麹菌固体発酵物1kg以上、さらに好ましくは0.8g/麹菌固体発酵物1kg以上、さらにより好ましくは1.0g/麹菌固体発酵物1kg以上のERGを含むERG高含有麹菌固体発酵物を製造することができる(
図1)。
【0019】
ERGは、抗酸化作用をはじめ、エラスターゼ阻害作用、チロシナーゼ阻害作用、ポリフェノールオキシダーゼ(PPO)阻害作用など種々の作用を有することが知られている。したがって、ERG高含有麹菌固体発酵物を、機能性表示食品とすることもできる。かかる機能性表示として、ERGのエラスターゼ阻害作用に基づく抗しわ作用、チロシナーゼ阻害活性に基づく美肌又は美白作用、過酸化脂質の生成に基づく生活習慣病予防作用、活性酸素除去に基づく認知症やアルツハイマー病の予防作用がなどの機能を表示することができる。さらに別の実施形態では、ERG高含有麹菌固体発酵物を含む、抗しわ、美白用の組成物、或いは生活習慣病予防、又は認知症やアルツハイマー病の予防用組成物を提供する。加えて、ERG高含有麹菌固体発酵物を原料または掛原料とし、さらに乳酸菌および酵母等を用いた発酵を行う調味料製造に使用しても良い。さらには、ERG高含有麹菌固体発酵物をペットフードや観賞魚用の餌や、代替肉の原料などにも使用できる。
【0020】
<ERGの分析方法>
発酵終了後のERG高含有麹菌固体発酵物からERGを抽出する方法は、本技術分野に周知の方法を用いて行われうる。抽出溶媒は、ERGが溶解するものであれば特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトンなどの有機溶媒;これらの有機溶媒と水とを混合させた含水有機溶媒;水、温水及び熱水などが挙げられる。溶媒を加えた後、適宜、破砕処理を加えながらERGを抽出することができる。抽出溶媒温度は、室温から100℃に設定することができる。
【0021】
ERGの抽出方法の一実施態様としては、例えば、ERG高含有麹菌固体発酵物を水に加えた懸濁液を調製し、次いで得られた懸濁液を98~100℃、15分間などの加温処理に供した後に、遠心分離することにより上清を回収し、次いで回収した上清をろ過して不溶物を取り除く方法が挙げられる。また、該加熱処理した懸濁液を、遠心分離に供することなく、ろ過してもよい。
【0022】
また、上記加温処理に代えて、例えば、超音波破砕機、フレンチプレス、ダイノミル、乳鉢などの破壊手段を用いて菌体を破壊する方法;ヤタラーゼなどの細胞壁溶解酵素を用いて菌体細胞壁を溶解する方法;SDS、トリトンX-100などの界面活性剤を用いて菌体を溶解する方法などの菌体破砕処理に供してもよい。これらの方法は単独又は組み合わせて使用することができる。
【0023】
得られた抽出液は、遠心分離、フィルターろ過、限外ろ過、ゲルろ過、溶解度差による分離、溶媒抽出、クロマトグラフィー(吸着クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーなど)、結晶化、活性炭処理、膜処理などの精製処理に供することによりERGを精製することができる。
【0024】
ERGの定性的又は定量的分析は、特に限定されず、例えば、HPLCなどにより行うことができる。HPLC分離条件は、当業者であれば適宜選択することができ、例えば、後述する実施例に記載がある条件で実施できる。
【0025】
本開示において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。本開示において%は、特に言及がない限り質量%を意味する。
【0026】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例0027】
実施例1:脱脂大豆を培地としたERG高含有麹菌固体発酵物の製造
ビニール袋に、膨化処理した脱脂大豆(タンパク質含量約48%)640gを入れ、沸騰したお湯480mlを添加し蒸した(お湯を添加し蒸した後の固体培地のタンパク質含量約27%)。室温に冷却後、2.4gのAspergillus oryzae RIB326株の種培養物(小麦ふすま培養物)を加えよく攪拌し、板蓋に平らに盛り込んだ。湿度95%、32℃で発酵し、麹菌固体発酵物の温度が40℃に達したら、室温を25℃に変更し、湿度管理は停止させ、7日間発酵し、ERG高含有麹菌固体発酵物を得た。発酵開始後、1日目、3日目、4日目、7日目に麹菌固体発酵物を秤量し、水分量を計算した(
図2)。また、発酵開始後1日目、2日目、3日目、6日目に麹菌固体発酵物の一部を取得した。
【0028】
実施例2:ERGの分析方法
(1)ERGの抽出
ERG高含有麹菌固体発酵物を5g秤量し、75%エタノールを加えた後にERG高含有発酵物を破砕し、1日室温で放置し、ERG高含有麹菌固体発酵物からERGを抽出した。下記の分析条件でERG含有量を測定したところ、1kgのERG高含有麹菌固体発酵物に含まれるERGの含有量は、1.1gであった。同様に、発酵開始後1日目、2日目、3日目、6日目の発酵物についてもERG含有量を測定し、グラフに示した(
図1)。
参考例として、みやここうじ四角型(株式会社 伊勢惣社製)、米こうじH(コーセ-フーズ社製)、米こうじS(コーセーフーズ社製)について、同様にERGを抽出し、下記の分析条件でERG含有量を測定した。それぞれのエルゴチオネイン含有量は、下記の通りであった。
【表1】
【0029】
(2)LCMS解析条件
分析装置: UPLC CQ micro;Waters
UPLC
カラム: 2.5 HILIC 3.0mml.D.×150mm
溶媒A: アセトニトリル
溶媒B: 5mM 酢酸アンモニウム/H2O
流速: 0.5ml/min 80%溶媒A
inject: 2μL
質量分析計
ESI: ES+
Cone V: 21V
Capillary V:4.5kV
Source temperature:120℃
Desolvation temperature:400℃
MS Scanモード
【0030】
(3)LC―MS/MSでのエルゴチオネイン分析条件
分析装置: UPLC CQ micro;Waters
UPLC
カラム: 2.5 HILIC 3.0 mml.D.×150 mm
溶媒A: 0.1%ギ酸/アセトニトリル
溶媒B: 0.1%ギ酸/H2O
流速: 0.5ml/min 80%A
inject: 2μL
質量分析計
ESI: ES+
Cone V: 21V
Capillary V: 4.5kV
Source temperature:120℃
Desolvation temperature:400℃
Collision energy:11V
Trace: m/z 230.1>186.1
Collision energy:20V
Trace: m/z 230.1>127.0
【0031】
実施例3:各麹菌のERG生産量の比較
ビニール袋に、膨化処理した脱脂大豆640g(タンパク質含量約48%)を入れ、沸騰したお湯480mlを添加し蒸した(お湯を添加し蒸した後の固体培地のタンパク質含量約27%、初発水分量47%)。室温に冷却後、アスペルギルス オリゼのNISL2180株、RIB326株、RIB646株、RIB1370株、RIB408株、RIB40株、アスペルギルス ソーヤのNBRC4239株それぞれ2.4gの種培養物(小麦ふすま培養物)を加えよく攪拌し、板蓋に平らに盛り込んだ。湿度95%、32℃で発酵し、麹菌固体発酵物の温度が40℃に達したら、室温を25℃に変更し、湿度管理は停止させ、7日間発酵し、ERG高含有麹菌固体発酵物を得た。7日間発酵後の発酵物について、実施例2と同様の分析方法に基づいて、ERG含量を測定し、各株ごとのERG生産量を比較した(
図3)。また、7日間発行後の培養物の水分量についても測定し、各株ごとに発酵物の水分量を比較した(
図4)。
【0032】
実施例4:脱脂大豆と小麦を混合した培地でのERG高含有麹菌固体発酵物の製造
ビニール袋に、膨化処理した脱脂大豆と割砕処理した小麦との等量の混合物(タンパク質含量25.2%)640gに沸騰したお湯480mlを添加し蒸した(お湯を添加し蒸した後の固体培地のタンパク質含量14.4%、初発水分量47%)。室温に冷却後、Aspergillus oryzae RIB326株の2.4gの種培養物(小麦ふすま培養物を加えよく攪拌し、板蓋に平らに盛り込んだ。湿度95%、32℃で発酵し、麹菌固体発酵物の温度が40℃に達したら、室温を25℃に変更し、湿度管理は停止させ、7日間発酵し、ERG高含有麹菌固体発酵物を得た。実施例2と同様に抽出しERGを分析した。ERG含量は、0.42g/麹菌固体発酵物1kgであった。
【0033】
実施例5:魚粉を原料としたERG高含有麹菌固体発酵物の製造
ビニール袋に、60%魚粉(伊豆川飼料社製 タンパク含量60%以上)27.8g、割砕小麦30.4g、水41.7gを良く混ぜた後、10gずつ150ml容三角フラスコに分注し、121℃で50分間オートクレーブし(オートクレーブ後の固体培地のタンパク質含量約19%、初発水分量46%)、RIB326株の分生子(1×107個/ml)を100μLずつ、各3本接種し、固体培養を行った。16時間、24時間後に手入れを行い培養6日間で培養を行った。培養終了後実施例1同様にERGの分析を行った。エルゴチオネインの生産量は、0.9g/麹菌固体発酵物1kgであった。
【0034】
実施例6:おからパウダーを培地としたERG高含有麹菌固体発酵物の製造
ビニール袋に、キッコーマンソイフーズ社製おからパウダー(タンパク含量23.1%)640gを入れ、沸騰したお湯480mlを添加し蒸した(お湯を添加し蒸した後の固体培地のタンパク質含量13.2%、初発水分量、45%)。室温に冷却後、Aspergillus oryzae RIB326株の2.4gの種培養物(小麦ふすま培養物)を加えよく攪拌し、板蓋に平らに盛り込んだ。湿度95%、32℃で発酵し、麹菌固体発酵物の温度が40℃に達したら、室温を25℃に変更し、湿度管理は停止させ、7日間発酵し、ERG高含有麹菌固体発酵物を得た。ERGを分析し0.35g/麹菌固体発酵物1kgであった。
【0035】
実施例7:えんどう豆を培地としたERG高含有麹菌固体発酵物の製造
ビニール袋に、割砕えんどう豆(タンパク質含量21.7%)640gを入れ、沸騰したお湯480mlを添加し蒸した(お湯を添加し蒸した後の固体培地のタンパク質含量12.4%、初発水分量49%)。室温に冷却後、Aspergillus oryzae RIB326株の2.4gの種培養物(小麦ふすま培養物)を加えよく攪拌し、板蓋に平らに盛り込んだ。湿度95%、32℃で発酵し、麹菌固体発酵物の温度が40℃に達したら、室温を25℃に変更し、湿度管理は停止させ、7日間発酵し、ERG高含有麹菌固体発酵物を得た。ERGを分析し0.59g/麹菌固体発酵物1kgであった。
【0036】
実施例8:スピルリナを培地としたERG高含有麹菌固体発酵物の製造
ビニール袋に、スピルリナ粉末(タンパク質含量約60%)340g、小麦ふすま(タンパク質含量16%)を入れ、沸騰したお湯480mlを添加し蒸した(お湯を添加し蒸した後の固体培地のタンパク質含量約21%、初発水分量47%)。室温に冷却後、Aspergillus oryzae RIB326株の2.4gの種培養物(小麦ふすま培養物)を加えよく攪拌し、板蓋に平らに盛り込んだ。湿度95%、32℃で製麹し、麹菌固体発酵物の温度が40℃に達したら、室温を25℃に変更し、湿度管理は停止させ、7日間発酵し、ERG高含有麹菌固体発酵物を得た。ERGを分析し0.36g/麹菌固体発酵物1kgであった。
【0037】
実施例9:乾燥酵母粉末を培地としたERG高含有麹菌固体発酵物の製造
乾燥酵母粉末(タンパク質含量54.7%)3.4g、小麦ふすま3.0gを150ml容三角フラスコに分注し、水を4.8g加え、121℃で50分間オートクレーブし(オートクレーブ後の固体培地のタンパク質含量20.9%、初発水分量47 %)、RIB326株の分生子(1×107個/ml)を100μL接種し、発酵を行った。16時間、24時間後に手入れを行い、6日間発酵を行った。発酵終了後、実施例2と同様にERGの分析を行った。ERGの生産量は、0.42g/麹菌固体発酵物1kgであった。
【0038】
比較例1:しょうゆ麹製麹方法でのERG生産
ビニール袋に、膨化処理した脱脂大豆と割砕処理した小麦との等量の混合物(タンパク質含量25.2%)640gを入れ、沸騰したお湯480mlを添加し蒸した(お湯を添加し蒸した後の固体培地のタンパク質含量14.4%、初発水分量47%)。室温に冷却後、Aspergillus oryzae RIB326株の2.4gの種培養物(小麦ふすま培養物)を加えよく攪拌し、板蓋に平らに盛り込んだ。湿度95%、32℃で発酵し、麹温度が40℃に達したら、室温を25℃に変更し、3日間製麹しERG含量を測定した。ERG生産量は0.15g/麹菌固体発酵物1kgであった。
【0039】
比較例2:低たんぱく原料でのERG生産
小麦ふすま(タンパク質含量約16%)を原料に実施例1と同様な方法で固体培養を行った(お湯を添加し蒸した後の固体培地のタンパク質含量9.1%、初発水分量48%)。ERG生産量は、0.034g/麹菌固体発酵物1kgであった。