(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135251
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】風味油の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/10 20160101AFI20220908BHJP
【FI】
A23L27/10 H
A23L27/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034935
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391036806
【氏名又は名称】和弘食品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松原 順一
(72)【発明者】
【氏名】長濱 晋也
【テーマコード(参考)】
4B047
【Fターム(参考)】
4B047LB10
4B047LG10
4B047LG37
4B047LG39
4B047LG50
4B047LP05
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、様々な食品に風味付けを行うことができ、当該食品の風味や香りを向上できる風味油の製造方法を提供することである。
【解決手段】水分含量が40~90質量%の食品素材を含む食用油脂を一次加熱する一次加熱工程と、前記食用油脂を一次加熱よりも10℃以上高い温度で二次加熱する二次加熱工程とを含む、風味油の製造方法とする。なお、前記一次加熱工程において、加熱温度は100~120℃であり、また、前記二次加熱工程において、加熱温度が130~150℃であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分含量が40~90質量%の食品素材を含む食用油脂を一次加熱する一次加熱工程と、前記食用油脂を一次加熱よりも10℃以上高い温度で二次加熱する二次加熱工程とを含む、風味油の製造方法。
【請求項2】
前記一次加熱工程において、加熱温度が100~120℃であり、また、前記二次加熱工程において、加熱温度が130~150℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記一次加熱工程において、加熱時間が30~180分であり、また、前記二次加熱工程において、加熱時間が1~60分である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
一次加熱工程と二次加熱工程との間及び/又は二次加熱工程の後に、さらに加熱によって生じた残渣を除去する工程を設ける、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
一次加熱工程の前及び/又は二次加熱工程の前に、さらに風味成分を加える工程を含む、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記食品素材として、ケチャップ、モロミ、マッシュルームやシイタケなどを含むキノコペースト、魚醤、味噌、肉類、チーズ、練乳、魚介、酵母、オニオンやニンニクなどを含む野菜ペースト、りんごやナシなどを含む果実ペースト、及びこれらから得られるエキスからなる群から選ばれる1種または2種以上が用いられる、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記食用油脂として、大豆油、菜種油、コーン油、ゴマ油、亜麻仁油、紅花油、高オレイン酸紅花油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、綿実油、エゴマ油、パーム油、パーム核油、牛脂、豚脂、鶏油、魚油、乳脂、米油、落花生油、オリーブ油、アーモンド油、及びココナッツ油からなる群から選ばれる1種または2種以上が用いられる、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記風味成分として、ベーコン、香辛料、魚粉、及び節からなる群から選ばれる1種または2種以上が用いられる、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記風味油の全原料100質量部に対して、食用油脂を45質量部以上95質量部以下、前記食品素材を5質量部以上50質量部以下で用いる、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記風味油の全原料100質量部に対して、風味成分を1質量部以上25質量部以下で用いる、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された、風味油。
【請求項12】
請求項11に記載の風味油を含有する、食品。
【請求項13】
前記食品が、レンジアップされる食品である、請求項12に記載の食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味油の製造方法に関するものである。さらに、この製造方法によって得られる風味油及びこれを用いた食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食用油には、風味のある食材を油脂と一緒に加熱する等して、その風味を油脂に移行させた風味油が知られている。風味油は、外食チェーン等の業務用として一般的には用いられてきたが、最近では、専門店のような味を家庭でも簡単に再現できるため、家庭用としての需要も高まっている。
特に、コロナ禍の現代では持ち帰り専門店が増えるなど、自宅でレンジアップ(レンジで加熱)して食べるメニューも増えている。そのため、レンジアップした際に出来立ての香りや調理感を付与するための風味油の需要は益々高まっている。
【0003】
風味油の代表例としては、唐辛子油が挙げられる。唐辛子油は、赤唐辛子や一味唐辛子等と一緒に食用油脂を加熱して、食用油脂にその風味や色味を移行させて製造されているが、唐辛子油に相応しい辛味などの風味を補うために、唐辛子油に豆板醤等の中華醤を加えて用いることもよく行われている。例えば、特許文献1には、中華合わせ調味料のソース部分において、焙煎唐辛子油5kgと、ニンニク、豆板醤、醤油、グルタミン酸ナトリウムなどからなる調味液部45kgと水40kgを混合した後、レトルト殺菌して、当該ソース部分を製造したことが記載されている。
【0004】
また、風味油としては、野菜のロースト香を油に抽出し、風味を増強した風味油も知られている。例えば、特許文献2には、食用油脂に、細断した野菜を油脂に対して1重量質量%~200重量質量%加えて、105℃~200℃にて1分~30分間保持し、得られた香味油と加熱調理された野菜(以下、加熱野菜という)に、醤油、味噌、砂糖、味醂、香辛料、調味料等の原料を混合することを特徴とする焼肉のたれの製造方法が記載されている。
【0005】
このように、従来技術においては、中華醤や加熱野菜などを混ぜ合わせて風味油とすることはよく知られている。しかし、このような風味油では、風味油の中に中華醤や加熱野菜などがそのまま残っているため、ドロドロとした有色の液体状であり、そのまま喫食するあるいは特定の食品に用いるのであれば特に問題ないが、様々な食品に添加して風味付けを行うことは難しいという問題があった。そこで、様々な食品に風味付けを行うことができ、当該食品の風味や香りを向上できる風味油が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-151484号公報
【特許文献2】特開昭61-28362号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、様々な食品に風味付けを行うことができ、当該食品の風味や香りを向上できる風味油の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、風味油の製造方法を鋭意検討した結果、様々な風味のある食材から風味を抽出する際に、特定の水分含量を有する食品素材を用いること、そして、加熱温度を二段階に分けて抽出を行うことで、所望の風味油が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を含み得る。
〔1〕水分含量が40~90質量%の食品素材を含む食用油脂を一次加熱する一次加熱工程と、前記食用油脂を一次加熱よりも10℃以上高い温度で二次加熱する二次加熱工程とを含む、風味油の製造方法。
〔2〕前記一次加熱工程において、加熱温度が100~120℃であり、また、前記二次加熱工程において、加熱温度が130~150℃である、〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕前記一次加熱工程において、加熱時間が30~180分であり、また、前記二次加熱工程において、加熱時間が1~60分である、〔1〕又は〔2〕に記載の製造方法。
〔4〕一次加熱工程と二次加熱工程との間及び/又は二次加熱工程の後に、さらに加熱によって生じた残渣を除去する工程を設ける、〔1〕ないし〔3〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔5〕一次加熱工程の前及び/又は二次加熱工程の前に、さらに風味成分を加える工程を含む、〔1〕ないし〔4〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔6〕前記食品素材として、ケチャップ、モロミ、マッシュルームやシイタケなどを含むキノコペースト、魚醤、味噌、肉類、チーズ、練乳、魚介、酵母、オニオンやニンニクなどを含む野菜ペースト、りんごやナシなどを含む果実ペースト、及びこれらから得られるエキスからなる群から選ばれる1種または2種以上が用いられる、〔1〕ないし〔5〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔7〕前記食用油脂として、大豆油、菜種油、コーン油、ゴマ油、亜麻仁油、紅花油、高オレイン酸紅花油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、綿実油、エゴマ油、パーム油、パーム核油、牛脂、豚脂、鶏油、魚油、乳脂、米油、落花生油、オリーブ油、アーモンド油、及びココナッツ油からなる群から選ばれる1種または2種以上が用いられる、〔1〕ないし〔6〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔8〕前記風味成分として、ベーコン、香辛料、魚粉、及び節からなる群から選ばれる1種または2種以上が用いられる、〔1〕ないし〔7〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔9〕風味油の全原料100質量部に対して、食用油脂を45質量部以上95質量部以下、前記食品素材を5質量部以上40質量部以下で用いる、〔1〕ないし〔8〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔10〕風味油の全原料100質量部に対して、風味成分を1質量部以上25質量部以下で用いる、〔9〕に記載の製造方法。
〔11〕〔1〕ないし〔10〕のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された、風味油。
〔12〕〔11〕に記載の風味油を含有する、食品。
〔13〕前記食品が、レンジアップされる食品である、〔12〕に記載の食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によると、様々な食品に風味付けを行うことができ、当該食品の風味や香りを向上できる風味油が得られる。また、この風味油は、食品素材で風味付けされているので、調理後の風味がよりいっそう持続し、食品が持つ美味しさをさらに増強できる。特に、レンジアップされる食品においてその効果を発揮する。また、この風味油は、他の油脂や調味料とブレンドして、味わい深い調合油や調味料を作成するためにも利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔風味油の製造方法〕
本発明の一態様である、水分含量が40~90質量%の食品素材を含む食用油脂を一次加熱する一次加熱工程と、前記食用油脂を一次加熱よりも10℃以上高い温度で二次加熱する二次加熱工程とを含む、風味油の製造方法について、以下、食品素材および工程ごとに詳しく説明する。
【0012】
(水分含量が40~90質量%の食品素材)
本発明の風味油の原料との1つである水分含量が40~90質量%の食品素材は、所定の水分含量を有する食品素材であれば、特に限定されるものではなく、公知のものを任意に使用できる。
水分含量が40~90質量%の食品素材は、固体状又は液体状であってもペースト状であっても良い。該食品素材がペースト状の場合、その粘度は特に制限されないが、例えば、20℃での粘度が、0.001~0.5MPaであることが好ましく、0.002~0.4MPaであることがより好ましい。なお、粘度は、市販の粘度計、例えば、B型粘度計(東機産業株式会社製、VISCOMETER TVB-15)を用いて測定することができる。
本発明の水分含量が40~90質量%の食品素材としては、例えば、ケチャップ、モロミ、マッシュルームやシイタケなどを含むキノコペースト、魚醤、味噌、肉類、チーズ、練乳、魚介、酵母、オニオンやニンニクなどを含む野菜ペースト、りんごやナシなどを含む果実ペースト、又はこれらから得られるエキスを挙げることができ、これらから選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
但し、中華醤は、水分含量が40~90質量%の食品素材から除かれる。
ペースト状の食品素材の製造方法は、任意であるが、例えば、野菜又は果実などをそのまますり潰してペーストにする方法、一旦凍結乾燥した後、粉砕して得られた粉状物に糖液等の材料を加えてペーストにする製造方法等が挙げられる。
また、エキスの製造方法は、任意であるが、例えば、野菜又は果実などをそのまますり潰したものを加熱抽出法、溶媒抽出法、酵素分解法、あるいは自己消化法のいずれの方法も採用可能である。なお、エキスは、固体状又は液体状であっても良く、ペースト状であっても良い。
また、水分含量が40~90質量%の食品素材は、例えば、塩分濃度0~20質量%であるものが好ましい。塩分濃度が低いと焦げ付きが少なく好ましい。そして、前記食品素材としては、特に、例えば、ケチャップ、モロミ、マッシュルームやシイタケなどを含むキノコペースト、魚醤、味噌、肉類、チーズ、練乳、魚介、酵母、オニオンやニンニクなどを含む野菜ペースト、りんごやナシなどを含む果実ペースト、及びこれらから得られるエキスからなる群から選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましい。
但し、水分含量が40~90質量%の食品素材から、中華醤は除かれる。
水分含量が40~90質量%の食品素材とは、食品素材の全体を100質量%としたとき、40~90質量%の水分を含んでいるものである。さらに、水分含量が50~90質量%が好ましく、50~80質量%より好ましく、55~75質量%がさらに好ましい。食品素材は、このように水分を多く含むため、風味油を製造する原料には向いていないと考えられてきたが、本発明においては、一次加熱よりも温度が10℃以上高い二次加熱工程を設けて、余分な水分を飛ばしているために、このような水分含量の高い原料であっても好適に用いることができる。
【0013】
本発明における水分含量が40~90質量%の食品素材の使用量は、風味油の全原料100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下であり、より好ましくは、7質量部以上45質量部以下であり、さらに好ましくは、10質量部以上40質量部以下である。風味油に前記食品素材の風味をちょうどよく含ませるために、このような使用量とすることが好ましい。
ここで、風味油の全原料とは、食品素材、食用油脂、風味成分、その他の原料の合計量であり、それぞれの量は風味油の製造に用いられる前に測定されたものである。また、風味油の製造において、前記食品素材及び食用油脂は必須であるが、前記風味成分及びその他の原料は、後述するように任意である。
【0014】
(食用油脂)
本発明の風味油の原料である食用油脂は、特に限定されるものではなく、公知のものを使用できる。食用油脂としては、例えば、菜種油、高オレイン酸菜種油、大豆油、高オレイン酸大豆油、コーン油、綿実油、紅花油、高オレイン酸紅花油、オリーブ油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、米油、落花生油、パーム油、ゴマ油、紫蘇油、エゴマ油、亜麻仁油、ぶどう油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、アーモンド油、かぼちゃ油、くるみ油、椿油、茶油、小麦胚芽油、パーム核油、ココナッツ油等の植物油脂、牛脂、豚脂、魚油、鶏油、乳脂等の動物油脂、及びこれらの硬化油、分別油あるいはエステル交換油が挙げられる。上記食用油脂は、1種類で使用されてもよいし、2種類以上組み合せて使用されてもよい。特に、大豆油、菜種油、コーン油、ゴマ油、亜麻仁油、紅花油、高オレイン酸紅花油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、綿実油、エゴマ油、パーム油、パーム核油、牛脂、豚脂、魚油、鶏油、乳脂、米油、落花生油、オリーブ油、アーモンド油、ココナッツ油からなる群から選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましい。
【0015】
本発明における食用油脂の使用量は、風味油の全原料100質量部に対して、45質量部以上95質量部以下であり、より好ましくは、50質量部以上90質量部以下であり、さらに好ましくは、55質量部以上85質量部以下であり、殊更好ましくは、60質量部以上80質量部以下である。風味油に前記食品素材の風味をちょうどよく含ませるために、このような使用量とすることが好ましい。
【0016】
(風味成分)
本発明の風味油の原料には、上記した食品素材、食用油脂のほか、必要に応じて、風味成分を用いることもできる。この風味成分としては、特に制限されないが、ベーコン、スパイスやハーブなどの香辛料、魚粉、節等挙げることができる。特に、ベーコン、香辛料、魚粉、及び節からなる群から選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましい。
風味成分を加えるタイミングは、一次加熱工程前、又は二次加熱工程前のいずれでもよく、また両方でもよいが、フレッシュな香りを付与し、同香りがあまり飛ばないようにするためには、長時間の過加熱を避けることが好ましく、例えば、二次加熱工程の前に添加することが好ましい。
【0017】
本発明における風味成分の使用量は、風味油の全原料100質量部に対して、1質量部以上25質量部以下であり、より好ましくは、2質量部以上20質量部以下であり、さらに好ましくは、4質量部以上15質量部以下である。風味油に風味成分の風味をちょうどよく付与するために、このような使用量とすることが好ましい。
【0018】
(その他の原料)
本発明の風味油の原料には、上述した食品素材、食用油脂、風味成分のほかに、必要に応じて、さらにその他の原料が用いられることがある。その他の原料としては、一般的に風味油に配合される原料であれば特に制限されず使用することができる。例えば、食塩、岩塩などの塩分系、砂糖、デキストリンなどの甘味料系、野菜、魚貝、畜肉エキスなどのエキス類、脱脂粉乳などの乳製品、食物繊維、乳化剤、酸化防止剤、増粘剤、ミネラル、香料、色素などを挙げることができる。そして、これらその他の原料を1種又は2種以上組み合わせて適宜使用することができる。上記その他の原料を加える方法として、従来公知の方法で構わない。また、その他の原料を加える量は、本発明の効果を損なわない範囲で当業者が適宜決定することができる。
【0019】
[食品素材を含む食用油脂を一次加熱する一次加熱工程]
上述したような水分含量が40~90質量%の食品素材と食用油脂を購入もしくは準備し、水分含量が40~90質量%の食品素材を含む食用油脂を一次加熱する工程である。より詳細には、水分含量が40~90質量%の食品素材を含む食用油脂を加熱し、食品素材に含まれる水分を飛ばし、加熱調理による香り(調理香)を生じさせるとともに、食品素材に含まれる風味を食用油脂に抽出し、その風味を食用油脂に含ませる工程である。例えば、直火釜に水分含量が40~90質量%の食品素材と食用油脂を入れて火にかける。食品素材と食用油脂がよく混ざるように攪拌しながら、温度を上げて、食品素材を含む食用油脂を加熱し、水分を飛ばしながら、調理香を生じさせるとともに、食品素材に由来する香りや風味を食用油脂へ移行させる。食品素材に由来する調理香や風味を食用油脂に望ましく移行させるためには、一次加熱工程の加熱温度は、100~120℃が好ましく、105~115℃がより好ましく、108~112℃がさらに好ましい。他方、一次加熱工程の加熱時間は、食品素材や食用油脂等の原料の量に依存するので、特に制限されないが、例えば、30~180分が好ましく、35~160分がより好ましく、40~140分がさらに好ましい。このように一次加熱することによって、食品素材から水分を飛ばし、食品素材から調理香を生じさせ、食品素材の香りや風味を食用油脂に十分移行させることができる。
【0020】
[前記工程で一次加熱された食用油脂を二次加熱する二次加熱工程]
上述のように一次加熱された食用油脂を、一次加熱よりも10℃以上高い温度で二次加熱する工程である。より詳細には、食品素材の風味をさらに抽出し、食用油脂に移行した食品素材の風味を強化するとともに、余分な水分を除去する工程である。例えば、直火釜に一次加熱された食用油脂を入れて火にかける。適温になるまで加熱し、食品素材の風味をさらに抽出し、風味を強化するとともに、余分な水分が除去されることを考慮すると、二次加熱工程の加熱温度は、130~150℃が好ましく、135~145℃がより好ましく、138~142℃がさらに好ましい。他方、二次加熱工程の加熱時間は、食品素材の風味を有する食用油脂の量に依存するので、特に制限されないが、例えば、1~60分が好ましく、10~50分がより好ましく、15~40分がさらに好ましい。上述のように二次加熱することによって、食品素材の風味がさらに食用油脂に抽出され、風味が強化されるとともに、食用油脂に香ばしい香りが付与され、さらに余分な水分が除去される。
なお、風味成分に由来するフレッシュな香りを付与し、同香りが飛ばないようにするためには、風味成分を添加する工程を二次加熱工程の前に設けることが好ましい。
【0021】
[風味成分添加工程]
食品素材を含む食用油脂に風味成分を添加する工程である。風味成分を添加するタイミングは、一次加熱工程の前及び/又は二次加熱工程の前である。一次加熱工程の前であれば、食品素材や食用油脂と混ぜて添加しても良い。また、風味油にフレッシュな香りを付与し、同香りが飛ばないようにするためには、長時間の過加熱を避ける必要があるので、風味成分は二次加熱工程の前に添加することが好ましい。二次加熱工程の前であれば、一次加熱された食品素材を含む食用油脂に添加する。風味成分を添加するときの温度は任意であるが、一次加熱工程の前に添加する場合は室温であり、二次加熱工程前に添加する場合は一次加熱工程の最終温度である。また、風味成分を添加した後は、風味成分が食品素材を含む食用油脂の全体になじむよう、適宜撹拌される。この撹拌は手動で行ってもよく、また、ミキサーなどの機械で行ってもよい。
【0022】
[前記加熱によって生じた残渣を除去する工程]
上述したような一次加熱又は二次加熱により、食品素材や風味成分、又はその他の原料は加熱され、食用油脂中で焦げ付いて残渣が残るので、このような加熱によって生じた残渣を取り除く工程である。例えば、直火釜の火を一旦止め、直火釜の中にある残渣を、ろ紙、布、金網や濾し器等の器具を用いてろ過して取り除く。ろ過用器具の網目の大きさは、残渣が効率よく除ければ、特に制限されないが、例えば、50~200メッシュが好ましく、70~150メッシュがより好ましく、80~120メッシュがさらに好ましい。一次加熱又は二次加熱で用いた直火釜には、焦げ付いた残渣が付着しているので、工程を切り替える際には別の容器に移し替えた方が好ましい。上述のように残渣を除去することによって、透明感のある、濁りの少ない風味油を得ることができる。
本発明においては、一次加熱する工程と二次加熱する工程との間及び/又は二次加熱する工程の後に、上述した残渣を除去する工程を設けることができる。なお、一次加熱工程後によりも二次加熱工程によって多くの残渣が生じるので、上述した残渣を除去する工程は、二次加熱工程の後に設けることが好ましい。
【0023】
[特定の用途に適した風味油に加工する工程]
本発明の風味油は、二次加熱工程後(さらに、残渣を除去した後)、風味油をそのまま流通に付してもよいが、任意の工程として、この風味油をベースとして、さらに必要なその他の原料を加えて、特定の使用用途に適した風味油に加工する工程を有してもよい。その他の原料としては、上記で説明したその他の原料を挙げることができる。すなわち、例えば、食塩、岩塩などの塩分系、砂糖、デキストリンなどの甘味料系、野菜、魚貝、畜肉エキスなどのエキス類、脱脂粉乳などの乳製品、食物繊維、乳化剤、酸化防止剤、増粘剤、ミネラル、色素などを挙げることができる。そして、これらその他の原料を1種又は2種以上組み合わせて適宜使用することができる。上記その他の原料を加える方法として、従来公知の方法で構わない。また、その他の原料を加える量は、本発明の効果を損なわない範囲で当業者が適宜決定することができる。なお、このようなその他の原料を含む風味油はそのまま調味料としても使用することができる。
また、本発明の風味油は、他の油脂とブレントして、味わい深い調合油とすることもできる。そのような他の油脂としては、上記で説明した食用油脂を挙げることができる。これらの食用油脂を1種又は2種以上組みわせて使用することができる。
【0024】
〔本発明に係る風味油〕
本発明は、さらに上述のごとき製造方法で製造された、風味油自体にも関する。本発明に係る「風味油」は、水分含量が40~90質量%の食品素材から抽出された香りや風味を含む風味油であって、食用油脂と食品素材や風味成分とを一緒に一次加熱し、さらに二次加熱することによって、香ばしい香りが付与され、余分な水分が除去された、サラサラとした流動性の高い風味油である。特に色にこだわらないが、無色あるいは透明感のある外観を有していることが好ましい。
このような風味油は通常液体状であるが、任意の方法で、固形化、粉末化、ぺースト化することもできる。固形化、粉末化、ペースト化する方法としては、例えば、噴霧乾燥法、真空凍結乾燥法、真空乾燥法等を単独または組み合わせて用いることができる。
【0025】
上述したように、本発明の風味油には、水分含量が40~90質量%の食品素材から抽出された成分が含まれているが、これら抽出された様々な成分を1つ1つ分析して、どのような成分であるのかを具体的に明らかにすることは膨大な時間とコストを要する作業である。したがって、この風味油を製造方法でなく機能または特性で特定するには、不可能もしくは非実際的事情が存在するといえる。
【0026】
〔本発明に係る食品〕
本発明に係る食品は、上記の風味油を用いて製造した、風味油を含有する食品である。
【0027】
かかる食品としては、任意であるが、例えば、チャーハン等の炒め物、五目御飯等の炊き込みご飯、焼き魚等の焼き物、大根煮等の煮物、ほうれん草のナムル等の和え物、麺類、冷奴、スープ、ドレッシングなどが挙げられる。これら食品の調理は、公知の一般的な方法により行なうことができる。
また、かかる食品としては、レンジアップした食品が好ましい。既存のメニューに、本発明の風味油を添加することで、レンジアップの際に本格的な調理感のある香りを付与できる可能性がある。特にレンジアップする前に、本発明の風味油を食品に添加することが好ましい。本発明の風味油を用いれば、内食・中食需要が高まる中、今までにない美味しさを提案できる。
【0028】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。以下において「g」「質量%」とは、特別な記載がない場合、質量、質量%を意味する。
【実施例0029】
<原料>
本発明の実施例および比較例においては以下の原料を用いて行った。本発明の原料としては、いずれも市販のもの、もしくは自分で製造したものを使用することができる。
菜種油:日清オイリオグループ株式会社製、商品名「日清キャノーラ油」
もろみ:正田醤油株式会社製、商品名「エステースト」
鰹節A:マルトモ株式会社製、商品名「S厚削り本かつお」
鰹節B:イズミ食品株式会社製、商品名「かつおふしチップ(枕崎産)-8」
鯖節A:マルトモ株式会社製、商品名「S厚削りさば」
鯖節B:株式会社金虎製、商品名「鯖節粗砕品D」
煮干し:小林食品株式会社製、商品名「煮干荒粉 中華スープ用」
【0030】
<実施例1>
風味油の原料として、菜種油250kgを用意し、350kgの直火釜に室温で投入した。これに、食品素材として、もろみ40kgを用意し、風味成分として、鰹節A7.50kg、鰹節B2.5kg、鯖節A7.5kg、鯖節B2.5kg、煮干し2.5kgを用意し、その他の原料として、食塩1kg、酸化防止剤150gを用意し、これらを前記直火釜に加えた。そして、室温から110℃までガス直火で加熱した。約70分で適温になり、一次加熱を終了した。110℃では泡がぶくぶくと出てくる。加熱後の直火釜には焦げが付着しているのが観察された。その後、追加原料として、鰹節A7.5kg、鰹節B2.5kg、鯖節A7.5kg、鯖節B2.5kg、煮干し2.5kgを用意し、前記直火釜に加えた。さらにガス直火で140℃まで加熱した。約40分で適温になり、二次加熱を終了した。この直火釜を傾け、100メッシュの布を敷いた別の容器に風味油を移して、上記の香ばしく加熱された原料(残渣)を取り除いた。実施例1の配合を表1にまとめた。
【0031】
<比較例1>
比較例1は、実施例1において、加熱工程を2段階に分けずに抽出した場合の風味油に関する。
原料としては実施例1のものと同様のものを用いるが、節を2段階に分けず、全量を最初の直火釜に投入した。これに、食塩1kg、酸化防止剤150gを加えて、室温から140℃までガス直火で加熱した。約90分で適温になり、加熱を終了した。その他は実施例1と同様に行った。比較例1の配合を表1にまとめた。
【0032】
【0033】
〔風味油についての風味の評価〕
以下の方法により、実施例1及び比較例1について風味の評価を行なった。
【0034】
<風味の評価方法1>
実施例1で製造した風味油と比較例1の風味油そのものの生の風味を評価するため、1質量%となるように前記風味油をお湯に添加してその風味を7名のパネルで話し合い、総合的に評価した。
【0035】
実施例1で製造した風味油を含むお湯は、比較例1の風味油を含むお湯に比べて、節からとった出汁のような風味(節における調理香)が特徴的であり、香り立ちがいいことがわかった。2段階に分けて抽出していない比較例1の場合では、実施例1の場合と比較して、焦げたような香ばしさが強く出てしまっていた。また、調理香のない、節そのものの香りに近くなるという印象も受け、あまりおいしく感じられなかった。
【0036】
〔風味油を加えた食品についての風味の評価〕
<風味の評価方法2>
実施例1及び比較例1の風味油を、市販の炊き込みご飯の素(丸美屋食品工業株式会社製、商品名「とり釜めしの素」)を用いて炊いたご飯に、1質量%となるように加えて、冷凍後、レンジアップし、実施例2及び比較例2を作成した。なお、コントロールとして菜種油(日清オイリオグループ株式会社製、商品名「日清キャノーラ油」)を等量添加したもの(基準例)を用意した。風味の評価は、出汁の香り、出汁の風味の2項目について、前記基準例を用いた場合を3点(普通)として、実施例2及び比較例2について、7名のパネルで5段階の総合評価(平均)を行った。評価結果を表2に示す。
〇風味の評価基準
5:優れている
4:やや優れている
3:普通
2:やや劣っている
1:劣っている
【0037】
【0038】
<風味の評価方法3>
実施例1及び比較例1の風味油を、茶碗蒸しの材料に3質量%となるように加えて、電子レンジ200Wで3分間加熱後、室温に冷まして、実施例3及び比較例3を作成した。なお、前記茶碗蒸しのレシピは表3に示す。また、コントロールとして菜種油(日清オイリオグループ株式会社製、商品名「日清キャノーラ油」)を等量添加したもの(基準例)を用意した。風味の評価は、出汁の香り、出汁の風味の2項目について、基準例を用いた場合を3点(普通)として、実施例3及び比較例3について、7名のパネルで5段階の総合評価(平均)を行った。評価結果を表4に示す。
〇風味の評価基準
5:優れている
4:やや優れている
3:普通
2:やや劣っている
1:劣っている
【0039】
【0040】
【0041】
表2、4より、実施例1の風味油は、菜種油に比べて、明らかに出汁の風味を際立たせる効果があった。比較例1の風味油は、混ぜ込みご飯や茶碗蒸しに単に魚粉や節を振りかけたような印象を受け、料理と馴染んでいないように感じた。以上の結果より、実施例1の風味油は、比較例1の風味油よりも、香り、風味を向上できる風味油であることが分かった。
【0042】
以上の結果より、風味油の製造に関して、食用油脂で食品素材及び風味成分を抽出する際に、加熱する工程を2段階に分けて行うことにより、香り立ちが良く食品の本来のバランスを崩さず、当該食品の風味を増強できる風味油が得られることが分かった。また、食用油脂に添加する風味成分の半分を二次加熱工程の前に添加することにより、焦げたような香ばしさを抑え、よりフレッシュな香りや調理された香り(調理香)が感じられる風味油が得られることがわかった。さらに、混ぜ込みご飯や茶碗蒸しのような様々な食品に添加でき、当該食品の風味や香りを向上させる風味油が得られることがわかった。
【0043】
<実施例4>
次に、上記食品素材を違う原料に代えて、以下の実験を行った。原料としては、いずれも市販のもの、もしくは自分で製造したものを使用することができる。
菜種油:日清オイリオグループ株式会社製、商品名「日清キャノーラ油」
オリーブオイル:日清オイリオグループ株式会社製、商品名「ボスコEXVオリーブオイル」
ケチャップ:カゴメ株式会社製、商品名「カゴメ トマトケチャップ標準10kg」
人参ペースト:淡路農産食品株式会社製、商品名「人参ペースト200」
ミートペースト:三共食品株式会社製、商品名「ポークミートペーストA5650」
りんごペースト:株式会社マルハニチロ北日本製、商品名「りんごパルプ」
にんにくペースト:株式会社丸北北海道製、商品名「ガーリックペースト20」
ベーコン:伊藤ハム株式会社製、商品名「ベーコンビッツスモール」
ハーブ:株式会社ケー・アイ・エス製、商品名「ローズマリーコースHJ」
風味油の原料として、菜種油140kg、オリーブオイル35kgを用意し、350kgの直火釜に室温で投入した。これに、食品素材として、ケチャップ30kg、人参ペースト20kg、ミートペースト20kg、りんごペースト18.5kg、にんにくペースト5kgを用意し、その他原料として食塩0.35kg、酸化防止剤100gを用意し、これらを前記直火釜に加えた。そして、室温から110℃までガス直火で加熱した。約70分で適温になり、一時加熱を終了した。110℃では泡がぶくぶくと出てくる。加熱後の直火釜には焦げが付着しているのが観察された。その後、追加原料として、ベーコン20kg、ハーブ1kgを用意し、前記直火釜に加えた。さらにガス直火で140℃まで加熱した。約40分で適温になり、二次加熱を終了した。この直火釜を傾け、100メッシュの布を敷いた別の容器に風味油を移して、上記の香ばしく加熱された原料(残渣)を取り除いた。実施例4の配合を表5にまとめた。
【0044】
<比較例4>
比較例4は、実施例4において、二次加熱時に加えた風味成分を一次加熱時に加えて、2段階に分けずに抽出した場合の風味油に関する。
原料としては実施例4のものと同様のものを用いるが、風味成分の全量を最初から直火釜に投入し、室温から140℃までガス直火で加熱した。約120分で適温になり、加熱を終了した。その他は実施例4と同様に行った。比較例4の配合を表5にまとめた。
【0045】
【0046】
〔風味油についての風味の評価〕
以下の方法により、実施例4及び比較例4について風味の評価を行なった。
【0047】
<風味の評価方法4>
実施例4で製造した風味油と比較例4の風味油そのものの生の風味を評価するため、1質量%となるように前記風味油をお湯に添加してその風味を7名のパネルで話し合い、総合的に評価した。
【0048】
実施例4で製造した風味油は、トマトや野菜を加熱して調理した香り(調理香)とベーコン、ハーブの香りがしっかりと感じられた。一方、比較例4は、ベーコンやハーブを長時間加熱していることから風味が飛んでしまい、単に焦げたような香ばしさの残る風味油となっていた。
【0049】
〔風味油を加えた食品についての風味の評価〕
<風味の評価方法5>
実施例4及び比較例4の風味油を、ナポリタンに2質量%加えて、実施例5及び比較例5を作成した。なお、ナポリタンのレシピは表6に示す。また、コントロールとして、菜種油(日清オイリオグループ株式会社製、商品名「日清キャノーラ油」)を等量添加したもの(基準例)を用意した。風味の評価は、調理感のある風味について、基準例を用いた場合を3点(普通)として、実施例5及び比較例5について、7名のパネルで5段階の総合評価(平均)を行った。評価結果を表7に示す。
〇風味の評価基準
5:優れている
4:やや優れている
3:普通
2:やや劣っている
1:劣っている
【0050】
【0051】
【0052】
表7より、実施例4の風味油は、菜種油に比べて、トマトや野菜、ベーコンを炒めた風味を際立たせる効果があった。比較例4の風味油は、香ばしい風味が感じられても、ベーコンやハーブの風味が飛んでしまっていることにより、ナポリタンと合っていない、浮いているような印象を受けた。以上の結果より、実施例4の風味油は、比較例4の風味油よりも、香り、風味を向上させる風味油であることが分かった。
【0053】
以上の結果より、風味油の製造に関して、食用油脂で食品素材及び風味成分を抽出する際に、加熱する工程を2段階に分けて行うことにより、香り立ちが良く食品の本来のバランスを崩さず、当該食品の風味の向上させる風味油が得られることが分かった。また、食用油脂に添加する風味成分を二次加熱工程の前に添加することにより、風味成分に由来する風味がしっかりと備わった風味油が得られることがわかった。さらに、ナポリタンのような様々な食品に添加でき、当該食品の風味や香りを向上させる風味油が得られることがわかった。