(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135291
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】一酸化炭素の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/40 20170101AFI20220908BHJP
B01J 23/22 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
C01B32/40
B01J23/22 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035013
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】511027552
【氏名又は名称】国際有機ハイドライド株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(71)【出願人】
【識別番号】391033517
【氏名又は名称】太陽鉱工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 泰和
(72)【発明者】
【氏名】庄野 厚
(72)【発明者】
【氏名】吉永 英雄
【テーマコード(参考)】
4G146
4G169
【Fターム(参考)】
4G146JA01
4G146JB02
4G146JC02
4G146JC22
4G169AA01
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC54A
4G169BC54B
4G169BD02A
4G169BD02B
(57)【要約】
【課題】
有機高分子化合物を原料とし、350℃以下の穏和な条件で一酸化炭素を効率よく製造する。
【解決手段】
4~11族、14族または15族元素元素の金属酸化物の存在下に製造を行う。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機高分子化合物を、4~11族、14族または15族元素の金属酸化物の存在下に加熱する、一酸化炭素の製造方法。
【請求項2】
250~350℃で行う請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
5族及び6族元素の金属酸化物の存在下に行う、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
金属酸化物が、五酸化二バナジウムである請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
有機高分子化合物が、ポリスチレン、ポリエチレンまたはポリプロピレンである請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
有機高分子化合物が、粒状、粉末状または発泡状である請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一酸化炭素(以下、CO)の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
COは、アルコール、アルデヒド、ポリカーボネート、イソシアネート等の化合物を合成する原料、金属の熱処理、水素製造等、様々な工業的用途がある重要な化合物である。COの製造方法として、コークスや石炭の酸素による部分酸化や水蒸気改質、ナフサや液化天然ガスの水蒸気や二酸化炭素による改質等が知られている。中でも、コークスを原料として用いる方法は、大規模にCOを製造することが可能で、広く用いられている方法である(例えば、「工業有機化学第5版」化学同人社、向山光昭監訳、14-29ページ、2003年)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
コークスや石炭の部分酸化、水蒸気改質は、いずれの方法も、800℃以上の高温での加熱が必要となる。また、硫化カルボニル、二硫化炭素、硫化水素等の硫黄化合物が含有される可能性があるため、より穏和な条件かつ副生成物の少ない原料を用いる方法が、切望されている。
【0004】
例えば、メタノールを種々の触媒の存在下に分解する方法が知られており、300~550℃程度まで反応温度を下げることは可能である(例えば、特開2003-93879号公報)。
【0005】
一方、有機高分子化合物を、金属酸化物の存在下に300℃程度の穏和な温度条件で加熱してCOを製造する方法はこれまでに開示がない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一方、プロパンを五酸化二バナジウム(以下、V
2O
5)上で反応させることにより、主生成物としてプロペンが、副生成物としてCO及びCO
2が生成することが開示されている(Jounal of Physical Chemistry B、109巻、2414-2420ページ、2005年)。発明者らは、該反応を有機高分子を基質として行えば、下図に示すように高分子主鎖のC-C結合の開裂に先立ち、C-H水素がV
2O
5の酸素に酸化されてH
2Oを生成し、同時に末端の炭素とV
2O
5の酸素との反応によりCO生成が進行すると考え、本願の着想に至った。実際、350℃でポリスチレンを基質とした反応を行ったところ(例えば実施例2)、小分子炭化水素が全く生成することなく、COが効率よく生成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【化1】
すなわち、本発明は、
(i)有機高分子化合物を、4~11族元素、14族または15族元素の金属酸化物の存在下に加熱する一酸化炭素の製造方法;
(i i)250~350℃で行う(i)に記載の製造方法;
(i i i)5族及び6族元素の金属酸化物の存在下に行う、(i)または(i i)のいずれかに記載の方法;
(iv)金属酸化物が、五酸化二バナジウムである(i)から(i i i)のいずれかに記載の製造方法;
(v)有機高分子化合物が、ポリスチレン、ポリエチレンまたはポリプロピレンである(i)から(iv)のいずれかに記載の製造方法;
(vi)有機高分子化合物が、粒状、粉末状または発泡状である(i)から(v)のいずれかに記載の製造方法。
に関するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明の製造方法では、有機高分子化合物を原料として用いる。用いることのできる有機高分子化合物としては、合成有機高分子化合物を例示することができ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の炭素と水素から構成される有機高分子化合物、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ノボラック樹脂、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリビニルアルコール、ポリアルキレンオキシド、ポリ酢酸ビニル等の炭素、酸素及び水素から構成される有機高分子化合物、ポリウレタン、ポリ尿素等の炭素、窒素及び水素から構成される有機高分子化合物、ポリ塩化ビニル等の炭素、ハロゲン原子及び水素から構成される有機高分子化合物等を用いることができ、また、これらの中から選ばれた2種以上を用いることができる。
【0009】
また、有機高分子化合物として、ポリアミン、脂質、セルロース、アミロース、デンプン、キチン、天然ゴム等の天然有機高分子化合物、三酢酸セルロース、二酢酸セルロース、硝酸セルロース、セルロイド、再生繊維レーヨン等の半合成有機高分子化合物を用いることができる。
【0010】
また、有機高分子化合物として、いわゆる廃棄プラスチックを用いることもできる。廃棄プラスチックとしてはプレコンシュマー廃棄プラスチック、ポストコンシュマー廃棄プラスチックのいずれも用いることができる。
【0011】
有機高分子化合物の常温常圧での形状は、粉末状、粒状、チップ状、高粘度の液体状のいずれでもよい。また廃棄ポリスチレンのような発泡状の有機高分子化合物を用いることもできる。
【0012】
有機高分子化合物として、いわゆる廃棄プラスチックや酸素、窒素、ハロゲン原子等のヘテロ原子を含む有機高分子化合物を用いる場合、本願の工程の前に、これらの有機高分子化合物は前処理して、夾雑物やヘテロ原子を取り除くことが、反応効率の点で好ましい。前処理は例えば、250~350℃程度の温度で、加熱することにより行うことができ、その際、金属酸化物等の存在下で行ってもよい。金属酸化物としては、下記に示すCO製造で用いる金属酸化物を用いることが、利便性が良い点で好ましい。
【0013】
これらを高分子化合物として用いる場合も、上記の前処理により、夾雑物やヘテロ原子を取り除くことが、反応効率の点で好ましい。
【0014】
有機高分子化合物として、石油系重質油、石炭系重質油やシェールオイル等の高沸点の有機物を用いる場合も、本願の工程の前に、これらの有機高分子化合物は前処理して、夾雑物やヘテロ原子を取り除くことが、反応効率の点で好ましい。前処理は例えば、250~350℃程度の温度で、加熱することにより行うことができ、その際金属酸化物等の存在下で行ってもよい。金属酸化物としては、下記に示すCO製造で用いる金属酸化物を用いることが、利便性が良い点で好ましい。
【0015】
本願の製造方法は、金属酸化物の存在下で行うことが必須である。用いることができる金属酸化物としては、4~11族元素の金属酸化物を用いることができる。具体的には、4族元素の金属酸化物であるZrO2、HfO2等、5族元素の金属酸化物であるV2O5、NbO、Nb2O5等、6族元素の金属酸化物であるMoO3、WO3、7族元素の金属酸化物であるMnO2、ReO2、8族元素の金属酸化物であるFe3O4、Fe2O3、FeO、RuO2、9族元素の金属酸化物であるCo3O4、Rh2O3、Ir2O3、10族元素の金属酸化物であるNiO、PdO、PdO2、PtO、PtO2、11族元素の金属酸化物であるCu2O,CuO等、14族元素の金属酸化物であるGeO2、SnO,SnO2、PbO、PbO2等、15族元素の金属酸化物であるBi2O3、Sb2O3等を例示することができる。また、これらの中から選ばれた2種以上を用いることができる。
【0016】
中でも、5族及び6族元素の金属酸化物が、CO収率が良い点で好ましく、V2O5がさらに好ましい。また、V2O5に加えて、他の金属酸化物、例えばMoO3、Fe3O4、Fe2O3、FeOまたはCuO等を添加してもよい。
【0017】
反応温度は、250~350℃が、CO収率が良い点で好ましく、300~350℃がさらに好ましい。
【0018】
有機高分子化合物と金属酸化物の接触モル比は、1:100~100:1の範囲から選ばれたモル比を用いることができる。CO収率が良い点で、1:20~10:1が好ましく、1:5~2:1がさらに好ましい。
【0019】
有機高分子化合物と金属酸化物は、双方をそのままの状態で混合して加えてもよいし、反応を阻害しない溶媒に溶解または分散させて加えてもよい。双方をそのままの状態で混合して加えることが、接触が良好な点、利便性の点で好ましい。
【0020】
本願の製造方法工程は、密閉系、開放系いずれの方法でも行うことができる。また、有機高分子化合物と金属酸化物を予め混合して反応を行ってもよいし、有機高分子化合物を適宜添加しながら行ってもよい。有機高分子化合物の添加は、固体のまま供給してもよいし、溶融温度に加熱して溶融状態で添加しても行ってもよい。金属酸化物との接触が良好な点で、溶融状態で添加することが好ましい。また、金属酸化物を固定床としてもよいし移動床としてもよい。
【0021】
本願の製造方法工程は、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス中や、空気中で行うことができる。また、空気を不活性ガスで希釈して、酸素の分圧を20%より小さくして行ってもよい。COの選択率が高い点で不活性ガス中が好ましく、窒素ガス中で行うことがコストの点でより好ましい。
【0022】
本願の製造方法は、0.1気圧の常圧より低い圧力から20気圧の常圧より高い圧力まで、広い圧力範囲で行うことができるが、常圧下で反応は十分に進行する。
【0023】
反応時間は、反応温度、有機高分子化合物と金属酸化物の接触モル比、圧力等の条件に依存するが、5分以上であれば、効率よくCOを得ることができる。
【実施例及び比較例】
【0024】
以下、実施例及び比較例を示し、本開示をさらに具体的に明らかにするが、本開示は以下の記載によって何ら制限を受けるものではない。
【0025】
先ず、実施例および比較例の説明に先立って、種々の測定方法、評価方法について、説明する。
【0026】
<V2O5存在下でのCO製造例>
以下に、一酸化炭素製造実験を、実施例1の手順を一例として挙げて説明する。
ボールバルブを備えた内容量8.4mLのSUS304製反応容器に、粒状ポリスチレン0.025g(以下、PSと略す。重量平均分子量260,000)、五酸化二バナジウム2.62g(14.4mmol)を入れ、密閉した。反応器内を十分に減圧とし、その後窒素ガスを充填した。このとき、反応器内の圧力は0.15MPaであった。
その後、反応容器を電気炉の温度を、30分かけて350℃まで加熱し、そのまま2時間保持した。反応後、容器を室温まで冷却後、ボールバルブより内部の気体をガスタイトシリンジで抜き取り、ガスクロマトグラフィーにより、生成物の定性・定量分析した。ガスクロマトグラフィーによる分析は、島津製作所製GC-8A、ポラパックQカラムを用いて行った。
【0027】
種々の条件を変え、反応を行った結果を次の表に示す。なお、
炭素気体化率=([CO]+[CO2])/[PS]
CO選択率=[CO]/([CO]+[CO2])
CO得率=[CO]/[PS](=炭素気体化率×CO選択率)
により、算出した。
【0028】
実施例1の手順に従い、他の形状のPSやPP(ポリプロピレン)並びにPE(ポリエチレン)を用い、種々の条件でCO製造を検討した結果を表1に示す。
【0029】
【0030】
実施例1~17に示すように、粒状、粉末状、発泡状のいずれの形状のPSを用いてもCOを製造することができた。またPP(実施例18)及びPE(実施例19)からもCO製造が可能であった。実施例1の条件で、V2O5を添加せずに反応を行ったところ(比較例1)、COは全く生成しなかった。