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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135472
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】びびり振動検知方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G01H 17/00 20060101AFI20220908BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20220908BHJP
【FI】
G01H17/00 Z
G01M99/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035296
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】八木 大介
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AD08
2G024AD09
2G024BA15
2G024CA13
2G024FA06
2G024FA11
2G064AA01
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB16
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC42
2G064CC43
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】
本発明の課題は、切削加工プロセスにおける加工中のびびり振動の発生を、工場等の外乱が発生しうる環境中であっても、外乱起因の誤報を抑制し、かつ、ワークや切削工具の状態に依存せずに検知することである。
【解決手段】
本発明では、上記の課題を解決するために、加工状態判定部111が、切削設備101が運転すると、運転毎に、空運転状態か加工状態かを判断し、加工状態と判断した直後から、判定規則生成部112がマイク104で取得する音響データと振動センサ103で取得する振動データに対して、振動数や実行値等の特徴量を抽出し、特徴量からびびり振動が発生しない正常状態の学習を行うことで、音響判定規則及び振動判定規則を生成し、びびり振動検知部113が、その際の特徴量と正常状態との乖離を異常度として算出し、音響データと振動データ両方の異常度が同時に閾値を超えた際にびびり振動発生と判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
びびり振動検知装置を用いて、切削加工におけるびびり振動を検知するびびり振動検知方法において、
入出力部により、前記切削加工を実行する切削設備の稼働により発生する音響データ及び振動データの入力を受け付け、
判定規則生成部により、前記切削設備での切削加工中の第1期間における第1の音響データ及び第1の振動データそれぞれについてのびびり振動の発生有無を判定するための音響判定規則及び振動判定規則を作成し、
びびり振動検知部により、前記切削設備での切削加工中の期間であって、前記第1期間以降の第2期間における第2の音響データを、前記音響判定規則に適用し、前記第2期間における第2の振動データを、前記振動判定規則に適用し、当該第2期間における前記切削設備でのびびり振動の発生を検知するびびり振動検知方法。
【請求項2】
請求項1に記載のびびり振動検知方法において、
前記第1期間の起点は、前記切削設備が前記切削加工の対象に対して、前記切削加工を開始する時点であるびびり振動検知方法。
【請求項3】
請求項1に記載のびびり振動検知方法において、
前記びびり振動検知部により、前記音響判定規則及び前記振動判定規則を用いて、前記音響データの音響異常度および前記振動データの振動異常度を算出し、算出された前記音響異常度および前記振動異常度の両方がびびり振動の発生条件を示す場合に、前記びびり振動が発生したと判断するびびり振動検知方法。
【請求項4】
請求項1に記載のびびり振動検知方法において、
前記びびり振動を検知した場合、前記びびり振動検知部により、前記入出力部を介して、前記切削設備の制御機器に対して、びびり振動抑制信号を出力するびびり振動検知方法。
【請求項5】
請求項4に記載のびびり振動検知方法において、
前記びびり振動検知部により、びびり振動抑制信号として、前記切削加工の対象の切削加工における送りを一時停止し、検知されたびびり振動が発生した際の送り速度から減速した送り速度で前記送りを再開する制御信号を出力するびびり振動検知方法。
【請求項6】
請求項3に記載のびびり振動検知方法において、
前記判定規則生成部により、
前記第1期間中の複数の区間それぞれにおける前記第1の音響データの実行値および前記第1の振動データの実行値を算出し、
前記第1の音響データの実行値の平均値である第1平均値、前記第1の音響データの実行値の標準偏差である第1標準偏差、および、前記第1の音響データに基づくびびり振動発生の有無を判別するための第1閾値を算出し、
前記第1の振動データの実行値の平均値である第2平均値、前記第1の振動データの実行値の標準偏差である第2標準偏差、および、前記第1の振動データに基づくびびり振動発生の有無を判別するための第2閾値を算出し、
前記びびり振動検知部により、
前記第2期間中の複数の区間それぞれにおける前記第2の音響データおよび前記第2の振動データの実行値を算出し、
前記第1標準偏差に対する、前記第2の音響データの実行値と前記第1平均値との差分の二乗値を、前記音響異常度として算出し、
前記第2標準偏差に対する、前記第2期間中の前記振動データの実行値と前記第2平均値との差分の二乗値を、前記振動異常度として算出し、
前記音響異常度および前記振動異常度の両方が、前記第1閾値および前記第2閾値を超過した場合に、前記びびり振動が発生したと判断するびびり振動検知方法。
【請求項7】
請求項1に記載のびびり振動検知方法において、
前記切削設備は、
ピーリングマシンであるびびり振動検知方法。
【請求項8】
請求項7に記載のびびり振動検知方法において、
前記びびり振動検知装置は、前記切削設備の音響を検知するマイクおよび前記切削設備の振動を検知する振動センサと接続し、
前記マイクは、下記(1)および(2)の双方を満たし、
(1)前記切削設備のワーク投入口が視覚的に確認可能であって、
(2)前記切削設備のワーク投入口との間に障害物もしくは音源が存在しないこと、
前記振動センサは、
前記切削設備の切削工具の保護カバーに設置されるびびり振動検知方法。
【請求項9】
請求項1に記載のびびり振動検知方法を、コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項10】
切削加工を実行する切削設備の稼働により発生する音響データ及び振動データの入力を受け付ける入出力部と、
前記切削設備での切削加工中の第1期間における第1の音響データ及び第1の振動データそれぞれについてのびびり振動の発生有無を判定するための音響判定規則及び振動判定規則を作成する判定規則生成部と、
前記切削設備での切削加工中の期間であって、前記第1期間以降の第2期間における第2の音響データを、前記音響判定規則に適用し、前記第2期間における第2の振動データを、前記振動判定規則に適用し、当該第2期間における前記切削設備でのびびり振動の発生を検知するびびり振動検知部とを有するびびり振動検知装置。
【請求項11】
請求項10に記載のびびり振動検知装置において、
前記第1期間の起点は、前記切削設備が前記切削加工の対象に対して、前記切削加工を開始する時点であるびびり振動検知装置。
【請求項12】
請求項10に記載のびびり振動検知装置において、
前記びびり振動検知部は、前記音響判定規則及び前記振動判定規則を用いて、前記音響データの音響異常度および前記振動データの振動異常度を算出し、算出された前記音響異常度および前記振動異常度の両方がびびり振動の発生条件を示す場合に、前記びびり振動が発生したと判断するびびり振動検知装置。
【請求項13】
請求項10に記載のびびり振動検知装置において、
前記びびり振動を検知した場合、前記びびり振動検知部は、前記入出力部を介して、前記切削設備の制御機器に対して、びびり振動抑制信号を出力するびびり振動検知装置。
【請求項14】
請求項13に記載のびびり振動検知装置において、
前記びびり振動検知部は、びびり振動抑制信号として、前記切削加工の対象の切削加工における送りを一時停止し、検知されたびびり振動が発生した際の送り速度から減速した送り速度で前記送りを再開する制御信号を出力するびびり振動検知装置。
【請求項15】
請求項12に記載のびびり振動検知装置において、
前記判定規則生成部は、
前記第1期間中の複数の区間それぞれにおける前記第1の音響データの実行値および前記第1の振動データの実行値を算出し、
前記第1の音響データの実行値の平均値である第1平均値、前記第1の音響データの実行値の標準偏差である第1標準偏差、および、前記第1の音響データに基づくびびり振動発生の有無を判別するための第1閾値を算出し、
前記第1の振動データの実行値の平均値である第2平均値、前記第1の振動データの実行値の標準偏差である第2標準偏差、および、前記第1の振動データに基づくびびり振動発生の有無を判別するための第2閾値を算出し、
前記びびり振動検知部は、
前記第2期間中の複数の区間それぞれにおける前記第2の音響データおよび前記第2の振動データの実行値を算出し、
前記第1標準偏差に対する、前記第2の音響データの実行値と前記第1平均値との差分の二乗値を、前記音響異常度として算出し、
前記第2標準偏差に対する、前記第2期間中の前記振動データの実行値と前記第2平均値との差分の二乗値を、前記振動異常度として算出し、
前記音響異常度および前記振動異常度の両方が、前記第1閾値および前記第2閾値を超過した場合に、前記びびり振動が発生したと判断するびびり振動検知装置。
【請求項16】
請求項10に記載のびびり振動検知装置において、
前記切削設備は、
ピーリングマシンであるびびり振動検知装置。
【請求項17】
請求項16に記載のびびり振動検知装置において、
前記入出力部は、前記切削設備の音響を検知するマイクおよび前記切削設備の振動を検知する振動センサと接続し、
前記マイクは、下記(1)および(2)の双方を満たし、
(1)前記切削設備のワーク投入口が視覚的に確認可能であって、
(2)前記切削設備のワーク投入口との間に障害物もしくは音源が存在しないこと、
前記振動センサは、
前記切削設備の切削工具の保護カバーに設置されるびびり振動検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削加工プロセスにおいて発生するいわゆるびびり振動を検知するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
切削設備の切削工具と加工対象であるワークとを相対運動させ、ワークに加工を施す切削加工プロセスにおいては、切削加工中にびびり振動が発生することがある。びびり振動が発生することがある。この場合、ワーク加工面に縞模様が生じ、加工品質の低下や、切削工具の刃先の摩耗を引き起こす。また、びびり振動が発生した際は作業者が切削設備の操作盤等を操作してびびり振動の対策を行うため、切削加工プロセスの省人化や自動化を妨げる要因となる。このため、従来から様々なびびり振動検知装置が開発されている。
【0003】
特許文献1では、切削工具がワークに接触した加工開始直後に、装置に備わっている、振動を検出するセンサが取得する振動データをFFT処理し、周波数帯域毎の振動の大きさ(パワースペクトル)を保存しておく。そして、その後の加工中に、所定の時間毎の差を設けて振動を測定し、FFT処理を行うことで、周波数帯域毎の振動を算出する。そして、この算出結果と加工開始直後の振動の大きさとを比較することで、振動の増加度合いを評価し、増加度合いが所定値を超過した際にびびり振動が発生したと判定する。
【0004】
また、特許文献2では、加工装置の振動を検出するセンサの振動データに基づいて、びびり振動の発生を判定する装置であり、びびり振動判定を監視する加工前に、予め蓄積された、びびり振動発生有無のラベルがついた振動センサのデータベースを元に、機械学習により振動センサの特徴量からびびり振動の発生有無を予測する学習モデルを構築しておき、加工中のびびり振動判定対象データがびびり振動と予測されるかどうかを、前記学習モデルを参照して判定する。
【0005】
なお、特許文献1と特許文献2においては、共通して、びびり振動により発生する振動を、振動センサを用いて測定し、それらをデータ処理することでびびり振動を検知している。また、各特許文献において、振動センサの代わりに、マイク等の音センサを用いて、振動に起因する音波を測定してもよいと、記述されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-36912号公報
【特許文献2】特開2020-82304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、工場等の切削加工プロセス現場では、複数の異なる切削設備が近い場所に設置されていたり、フォークリフト等の重機の稼働や場内アナウンスによる、環境要因の振動や音が突発的に発生したりする。これらは、びびり振動を検知する上での外乱となる。このような外乱が発生しうる環境下で従来のびびり振動検知装置を稼働させると、外乱による誤報を発生する可能性が高くなる。つまり、びびり振動が発生していない場合でも、びびり振動が発生したと誤検知することがある。
【0008】
ここで、誤検知を含むびびり振動の検知を行った際は、ワークや切削速度の減速、切削加工の一時停止等、切削加工の設定値を変更することでびびり振動の対策をすることが求められる。このため、びびり振動を確実に検知できたとしても、誤検知が多発する場合、切削加工プロセスの生産性の低下や自動化を妨げる恐れがある。
【0009】
また、加工するワークが多品種であったり、同じ品種であっても硬さや形状等の個体差を持つ場合、加工毎にワークや切削工具の状態が異なる。びびり振動の振動周波数は、ワークと切削工具の状態に応じて変動する。このため、加工毎に事前にびびり振動判定のための振動数や閾値を設定することでびびり振動を検知する場合、判定基準や条件ごとの設定値の保守が困難になる恐れがある。
【0010】
上記のような加工中にびびり振動以外の振動が発生しうる環境中で、特許文献1に記載の装置を使用する場合、以下の課題が存在する。加工開始直後の振動スペクトルと監視中の振動スペクトルとを比較する際に、監視中の振動スペクトル中に環境起因の振動信号が混入すると、振動の増加度合いを上昇させる。このため、びびり振動が発生していなくてもびびり振動と誤判定する場合が多くなる。また、特許文献1によれば、切削工具やワークの個体差がある場合であっても、びびり振動を検知することが可能であるが、工具がワークに接触していない空運転状態と工具とワークとが接触する加工状態とを区別する機能を有していないため、切削加工開始から加工状態になるまでは、作業者による監視が必要となる。
【0011】
また、特許文献2に記載の装置を上記の環境で使用する場合も、びびり振動による振動と環境起因の振動とを区別する機能を備えていないため、誤検知が多発する可能性がある。さらに、びびり振動の発生有無を予測する学習モデルの入力データには、ワークや切削工具の個体差の情報を含んでいない。このため、同種類のワークを同じ切削条件で加工する場合であっても、びびり振動として認識できない可能性がある。
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、音(音響)や振動の外乱が発生する環境であっても、びびり振動の検知において外乱起因の誤検知を抑止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明では、切削加工以前、例えば、試行の際に発生する振動データ及び音響データ個別処理(独立に)それぞれについて特徴量を算出して、びびり振動の発生を判定する判定規則を生成しておき、切削加工の際に発生する音響データ及び振動データを取得し、取得された音響データ及び振動データと、対応する判定規則を用いて、びびり振動の発生を検知する。
【0014】
より詳細な本発明の一態様は、びびり振動検知装置を用いて、切削加工におけるびびり振動を検知するびびり振動検知方法において、入出力部により、前記切削加工を実行する切削設備の稼働により発生する音響データ及び振動データの入力を受け付け、判定規則生成部により、前記切削設備での切削加工中の第1期間における第1の音響データ及び第1の振動データそれぞれについてのびびり振動の発生有無を判定するための音響判定規則及び振動判定規則を作成し、びびり振動検知部により、前記切削設備での切削加工中の期間であって、前記第1期間以降の第2期間における第2の音響データを、前記音響判定規則に適用し、前記第2期間における第2の振動データを、前記振動判定規則に適用し、当該第2期間における前記切削設備でのびびり振動の発生を検知するびびり振動検知方法である。
【0015】
また、本発明には、びびり振動検知装置、びびり振動検知方法を実行させるコンピュータプログラムやこれを格納した記憶媒体も含まれる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、切削加工プロセスにおける加工中のびびり振動の発生を、外乱が発生しうる環境内であっても、外乱起因の誤検知を抑制することが可能になる。また、このようにより正確なびびり振動の検知ができ、制御機器等へのびびり振動抑制信号を出力することで、びびり振動の抑制が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施例におけるびびり振動検知システムの構成図
図2】本発明の一実施例におけるピーリングマシンでの各種センサの設置位置を説明するための図
図3A】本発明の一実施例における計算機サーバ110処理内容を示すフローチャート(その1)
図3B】本発明の一実施例における計算機サーバ110処理内容を示すフローチャート(その2)
図4】運転状態判断モードの処理を説明するための主軸電流実行値の時系列チャート図
図5】学習モードと監視モードの各処理を説明するため各種センサの時系列チャート図
図6】びびり振動発生有無の判定を説明するための音響異常度及び振動異常度の時系列チャート図
図7】びびり振動への対策を説明するための主軸電流実行値の時系列チャート図
図8】クライアント計算機の表示装置のGUI画面を示す図
図9】本発明の一実施例における計算機サーバ110のハードウエア構成図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施例を図面参照して説明する。なお、以下に説明する実施例は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施形例の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0019】
図1は、本実施例におけるびびり振動検知システムの構成図である。なお、図1では、本実施例の主たる処理を実行する計算機サーバ110の機能ブロックを示す。本実施例のびびり振動検知システムでは、切削設備101、振動センサ103、マイク104、主軸電流センサ105、A/D変換器106、制御機器107および計算機サーバ110を備える。また、びびり振動検知システムには、クライアント計算機114を備えてもよい。なお、クライアント計算機114は、計算機サーバ110と一体構成としてもよい。
【0020】
ここで、切削設備101は、加工対象であるワーク102に対して切削加工を行うもので、旋盤、フライス盤、ピーリングマシンなどが含まれる。振動センサ103及びマイク104は、センサとしての機能、つまり、それぞれ切削設備101の振動と音響を検知する。より好適には、振動センサ103及びマイク104は、切削設備101に設置されることが望ましい。この際、振動センサ103及びマイク104は、びびり振動に伴う振動が直接検知可能であり、かつ、切削加工による切りくず等がセンサに被弾しない位置に設置されることが望ましい。
【0021】
また、主軸電流センサ105は、切削設備101の切削工具のモータの主軸電流を測定する。なお、主軸電流センサ105は、加工運転状態を監視するために使用するため、切削加工中の切削抵抗に比例する量を測定する主軸電流センサ105を用いることが好ましいが、加工運転状態をモニタリング可能な切削動力計等の信号を代わりに用いてよい。A/D変換器106は、各センサの取得データをアナログ信号からデジタル信号に変換する。つまり、A/D変換器106は、検知された振動や音響を、振動データや音響データに変換する。計算機サーバ110は、A/D変換器106から出力されるデジタル信号を記憶し、解析を行う。
【0022】
ここで、計算機サーバ110は、本実施例の主たる処理を実行するびびり検知装置として機能するものである。そして、計算機サーバ110は、センサデータ用記憶媒体108、判定規則用記憶媒体109、加工状態判定部111、判定規則生成部112、びびり振動検知部113及び入出力部1101を有する。ここで、センサデータ用記憶媒体108は、A/D変換器106から出力された各種センサのデジタル信号を一時的に保存する。判定規則用記憶媒体109は、判定規則生成部112で生成された、びびり振動の判定規則を一時保存しておく。
【0023】
また、加工状態判定部111、判定規則生成部112及びびびり振動検知部113は、センサデータ1080によりびびり振動の判定規則の生成及びびびり振動発生有無を判定する。これら各部の機能ついては、追って説明する。なお、これら加工状態判定部111、判定規則生成部112及びびびり振動検知部113は、以下で説明するように、プログラム(コンピュータプログラム)に従って処理を実行するプロセッサで実現してもよい。なお、センサデータ用記憶媒体108と判定規則用記憶媒体109は、1つの記憶媒体ないし記憶装置で実現してもよい。ここで、また、センサデータには、音響データと振動データが含まれる。
【0024】
計算機サーバ110は、入出力部1101を備え、クライアント計算機114、制御機器107やA/D変換器106と通信が可能である。これらの通信は、ネットワーク200を介して実現してもよいし、これらの通信は、ネットワーク200を介さずに有線で直接つながれていてもよい。
【0025】
ここで、図9を用いて、計算機サーバ110のハードウエア構成を説明する。計算機サーバ110は、いわゆるコンピュータで実現され、入出力部1101、プロセッサ1102、メモリ1103および記憶装置1104を有する。そして、これらはバスなどの通信経路を介して互いに接続されている。
【0026】
入出力部1101は、図1に記載したものと同じであり、各種情報、データのインターフェース機能を有する。プロセッサ1102は、CPUやGPUなどで実現され、後述する各プログラムに従って処理を実行する。また、プロセッサは、CPUやGPUでない他の半導体デバイスで実現できる。
【0027】
メモリ1103は、センサデータ1080や判定規則1090を記憶する。また、プロセッサ1102で処理を実行する際、後述する各プログラが展開される。また、記憶装置1104は、加工状態判定プログラム1110、判定規則生成プログラム1120およびびびり振動検知プログラム1130を記憶する。また、記憶装置1104は、センサデータ1080や判定規則1090を記憶してもよい。なお、記憶装置1104は、いわゆるストレージや記憶媒体で実現される。
【0028】
ここで、上述のプログラムで実現される機能、処理は、図1に示す各部で実行される。このプログラムと図1の各部の対応関係は、以下のとおりである。
加工状態判定プログラム1110:加工状態判定部111
判定規則生成プログラム1120:判定規則生成部112
びびり振動検知プログラム1130:びびり振動検知部113
以上で、図9の説明を終了し、図1の説明に戻る。クライアント計算機114は、タブレット、PCなどの情報処理装置で実現でき、びびり振動発生の有無を作業者に視覚的に伝えるための表示装置115およびプロセッサ116を備える。
【0029】
次に、図2を用いて、本実施例における各センサの設置について説明する。図2は、切削設備101の一例であるピーリングマシンでの各種センサの設置位置を説明するための図である。ここで、ピーリングマシンとは、切削プロセスが、「円筒状のワークや円柱状のワーク(以下、単に円筒状ワーク)が一方向のみに動き、かつ、切削工具は該ワークの中心軸を回転軸としてワークと接触しながら回転することでワーク表面に加工を施す」ピーリングプロセスを実行する
図2において、マイク104は、ワーク102を切削加工するピーリングマシン202に対してピーリングマシン202のワーク投入口が確認可能であり、マイク104とワーク投入口との間に障害物や音源が存在しない位置に設置されている。ここで、マイク104を、ワーク投入口付近に設置する理由は、ワーク排出口よりも投入口の方が切削工具の回転音を直接センシングするためである。
【0030】
振動センサ103は、切削工具と接触している保護カバー207に設置されている。このため、切削加工による切りくず等が振動センサに被弾せず、かつ、びびり振動を直接検知可能である。マイク104と振動センサ103の取得データはA/D変換器106でアナログ信号からデジタル信号に変換され、図1の計算機サーバ110へと出力される。つまり、マイク104と振動センサ103で取得された音響や振動が、A/D変換器106で音響データや振動データを含むセンサデータに変換される。このように、本実施例では、マイク104や振動センサ103が、A/D変換器106を介して、入出力部1101と接続される。なお、本実施例に対する以後の説明は、全てピーリングプロセスの場合を例にしている。
【0031】
次に、本実施例における計算機サーバ110の処理の内容を、図3A及び図3Bのフローチャートに沿って、以下で説明する。なお、図3A及び図3Bは、併せて1つのフローチャートを示めしている。以下の説明ではまず、処理フローの概要を説明した後に、各ステップで行われる詳細な計算を後述する。また、以下の説明では、各ステップの処理主体を、図1に示す構成を用いて説明する。
【0032】
まず前提として、切削設備101の運転が開始(ピーリングマシンにおける切削工具が回転)されると、切削工具の運転が終了(ピーリングマシンにおける切削工具の回転が停止)するまでの切削加工プロセス中に、センサデータ1080が継続的に取得される。そして、このセンサデータ1080は、計算機サーバ110のセンサデータ用記憶媒体108に逐次的に保存される。そして、加工状態判定部111、判定規則生成部112及びびびり振動検知部113は、センサデータ1080に対して、以下の各モードを実行する。
加工状態判定部111:加工状態判定モードM1(M11~M12)
判定規則生成部112:学習モードM2(M21~M22)
びびり振動検知部113:監視モードM3(M31~M33)
なお、びびり振動検知部113は、監視モードM3以降の処理も実行する。以下、これらの各モードは、異なる構成(部)で実行するが、1つの構成で実行してもよい。このため、図9に示すプログラムを用いる場合も、各モードを個別のプログラムで実現するが、3つのモードを1つのプログラムで実行してもよい。
【0033】
まず、図3Aにおいて、加工状態判定モードM1では、加工状態判定部111は、切削設備101の稼働の状態を示す加工状態を判定する。つまり、加工状態判定部111は、主軸電流センサ105の取得データを用いて、切削設備101の運転状態、つまり、空運転状態か、加工状態かを判定する(ステップS01)。ここで、空運転状態とは、切削設備101の切削工具とワーク102とが接触していない状態を示す。加工状態とは、切削工具とワーク102とが接触し切削加工が実施されている状態を示す。加工状態の場合は、加工状態判定モードM1を終了し(M12)、学習モードM2が開始、つまり、M21に遷移する。空運転状態の場合は、引き続き加工状態判定モードM1を継続、つまり、M11に遷移する。
【0034】
次に、学習モードM2では、判定規則生成部112が、判定規則1090を生成する。この学習モードM2は、加工状態と判定されてから所定時間までの第1期間において動作するモードである。この第1期間には、加工を開始する時点を起点とすることが含まれる。本実施例の第1期間は、切削設備101がワーク102に対して切削加工を開始する時点、つまり、削り始める時点を起点とすることが望ましい。
【0035】
本モードでは、まず、判定規則生成部112が、センサデータ1080のうち、音響データからその特徴を示し、びびり振動に相関する音響特徴量を抽出する(ステップS02)。この音響データは、第1期間における音響データであって、第1の音響データと称することが可能である。
【0036】
また、判定規則生成部112は、ステップS02と同様に、センサデータ1080に含まれる振動データからその特徴を示し、びびり振動に相関する振動特徴量を抽出する(ステップS03)。この振動データは、第1期間における振動データであって、第1の振動データと称することが可能である。
【0037】
次に、判定規則生成部112は、抽出された音響特徴量に基づいて、該当するマイク104ごとの音響判定規則を生成する(ステップS04)。また、判定規則生成部112は、抽出された振動特徴量に基づいて、該当する振動センサ103ごとの振動判定規則を生成する(ステップS05)。これら、音響判定規則と振動判定規則は、判定規則1090を構成し、それぞれびびり振動が発生していない状態とびびり振動が発生する状態とを判定するための規則を示す。
【0038】
このように、本実施例では、判定規則生成部112は、音響判定規則および振動判定規則を、それぞれ個別に生成する。
【0039】
そして、判定規則生成部112は、これらの判定規則1090を、判定規則用記憶媒体109に保存する。ここで、判定規則1090には、少なくとも異常度算出に用いる変換パラメータと異常度の算出方法が含まれる。なお、学習モードM2において、ステップS02およびステップS04と、ステップS03およびステップS05は並列処理されることが望ましい。
【0040】
次に、図3Bにおいて、監視モードM3では、びびり振動の発生を検知する。このために、本モードは、切削加工中の第1期間よりも後の第2期間において動作するモードである。
【0041】
本モードにおいて、まず、びびり振動検知部113は、学習モードM2と同様の計算規則に基づいて特徴量を抽出する。つまり、びびり振動検知部113は、第2期間における第2の音響データの音響特徴量を抽出する(ステップS06)。また、判定規則生成部112は、ステップS06と同様に、第2期間における第2の振動データの振動特徴量を抽出する(ステップS07)。
【0042】
次に、びびり振動検知部113は、ステップS06で抽出された音響特徴量と音響判定規則とに基づいて、第2の音響データに対するびびり振動発生具合を定量的に示す異常度を算出する(ステップS08)。また、びびり振動検知部113は、ステップS07で抽出された振動特徴量と振動判定規則とに基づいて、第2の振動データに対するびびり振動発生具合を定量的に示す異常度を算出する(ステップS09)
このように、本実施例では、びびり振動検知部113は、音響異常度と振動異常度の算出を、それぞれ個別に実行する。さらに、ステップS06とステップS07、ステップS08とステップS09は、それぞれ並列処理することが望ましい。
【0043】
なお、音響異常度と振動異常度は、音響データ及び振動データを合成して、合成結果に基づく1つの異常度を算出して、びびり振動を検知してもよい。但し、音響異常度と振動異常度の算出を、それぞれ個別に算出する場合の方が、より誤検知を低減できる。この理由は、以下のとおりである。
【0044】
まず、前提としてびびり振動が発生する場合は、音と振動の両方が同時並行的に発生する。また、異常度とは、正常の際のデータ(正常データ)と、びびり振動が発生した際のデータ(監視データ)との乖離を表しており、正常データと監視データとの距離が離れるほど大きくなる。
【0045】
ここで、1つの異常度を算出する場合においては、例えば、外乱(例:他設備起因の振動)による振動が発生した際、音響データと振動データの合成データは、びびり振動が発生していない合成データから乖離するので、大きめの異常度が算出されてしまう。このため、場合によっては、環境起因の音および振動、他設備起因の音および振動等の外乱を予め排除して設定された閾値を超過し、誤検知となり易い。
【0046】
これに対して、個別算出の場合では、振動データの異常度は高めに計算されるが、音響データの異常度は正常の際と同程度の値が算出される。ここで、個別算出では、両方の異常度が高い場合にびびり振動と判定する。このため、外乱による誤検知をより抑制できる。
【0047】
次に、びびり振動検知部113は、音響異常度及び振動異常度の両方が、びびり振動の発生条件を示すかにより、びびり振動の発生を判定する。例えば、びびり振動検知部113は、環境起因の音および振動、他設備起因の音および振動等の外乱を予め排除して設定された閾値に基づき、びびり振動が発生したかを判定する(ステップS10)。具体的には、びびり振動検知部113は、音響異常度及び振動異常度の両方が閾値を超過した場合は、第2期間でびびり振動が発生したと判定し(YES)、M31で監視モードが終了する。それ以外は、びびり振動が発生していないと判定し(NO)、ステップS11に遷移する。
【0048】
そして、びびり振動検知部113は、びびり振動発生無しと判定した場合に、その際における主軸電流データを用いて空運転状態もしくは加工状態の判定を行う(ステップS11)。この結果、加工状態の場合は引き続き監視モードM3を継続する。また、空運転状態の場合は、再び加工状態判定モードM1の処理を行う(M11に遷移する)。
【0049】
そして、びびり振動発生有りと判定された場合は、監視モードM3を終了する(M33)。そして、びびり振動検知部113は、びびり振動抑制信号を制御機器107に出力する(ステップS12)。また、びびり振動検知部113は、クライアント計算機114にびびり振動が発生したことを、入出力部1101を介して通知する(ステップS13)。この結果、クライアント計算機114の表示装置115に、びびり振動発生のアラートが表示される。
【0050】
さらに、びびり振動検知部113は、びびり振動抑制信号に応じた切削設備101が稼働しているかを判定する(ステップS14)。この結果、稼働中である場合は(YES)、M11に遷移し加工状態判定モードの処理を行う。切削設備101が稼働していない場合は(NO)、本処理を終了する(ステップS14)。
【0051】
次に、本実施例のステップS01における、運転状態(空運転状態と加工状態)の判定の詳細について説明する。一般的な切削加工において、加工負荷が増加すると、切削工具のモータへの入力電流が増加する。このため、主軸電流センサ105で測定する電流も増加することになる。ステップS01において、加工状態判定部111は、この性質を利用して、空運転状態と加工状態とを判別する。
【0052】
このために、まず、サンプリング周期Trmsごとに、主軸電流センサ105で測定された電流値は、デジタル信号として、センサデータ用記憶媒体108に、時間tにおける電流値y(t)の時系列データとして記憶されている。y(t)に基づいて、電流の平均的な大きさを表す実効値yrmsを(数1)により算出する。
【0053】
【数1】
【0054】
(数1)における実行値の計算周期Trmsは、主軸電流センサ105のサンプリング周期Trmsと同じ値であるのが好ましいが、他の値を用いてもよい。本実施例における主軸電流センサ105のサンプリング周期は2kHzであったので、Trmsは2kHzとした。また、本実施例では、電流の大きさを表す指標として、実行値を用いているが、例えば、フーリエ変換により特定の周波数帯の信号を抽出し、その周波数の振幅値を用いる等、その他の指標を用いてもよい。ここで、図4は、本実施例におけるピーリングプロセス中の、主軸電流の実行値yrmsの時系列チャート図である。そして、図4中、401(点線)は空運転状態と加工状態とを判別するための閾値である。また、期間402は工具運転停止期間、期間403は空運転状態の期間、期間404は加工状態の期間を示す。本実施例では、図4のように、予め閾値401を設定しておき、これとの比較結果を用いることで、主軸電流実行値から空運転状態と加工状態とを判別した。ここで、本実施例において、閾値401は、過去に実施された空運転時の主軸電流実行値の分布より、適切な値を算出したが、空運転状態と加工状態とを判別できれば他の方法によって定めてもよい。
【0055】
次に、図5を用いて、本実施例における学習モードと監視モードの各処理、つまり、ステップS02、ステップS03、ステップS06及びステップS07における、音響特徴量及び振動特徴量の抽出の方法を説明する。図5では、主軸電流、マイク104、振動センサ103の時系列データである音響データ、振動データに対して、(数1)をもとにそれぞれ計算した実行値の時系列チャート図である。
【0056】
図5において、3つの実行値の時系列チャートの時間軸は共通している。そして、期間501は空運転状態の期間、期間502は学習モードの期間、期間503は監視モードの期間を示している。本実施例では、判定規則生成部112やびびり振動検知部113が、まず、学習モードの期間Ttrainにおいて、Trmsごとに、(数1)を用いて、マイク104及び振動センサ103について各取得値の実行値を逐次計算し、これらを特徴量とした。ここで、Ttrainは、Trmsよりも長い時間であれば、いくらでもよく、本実施例ではTrainは10秒とした。また、本実施例では、特徴量として、実行値を採用したが、フーリエ変換により生データをN次元の周波数空間に変換し、各周波数の振幅値(N個)を特徴量として使用してもよい。
【0057】
次に、本実施例におけるステップS04及びステップS05における音響判定規則及び振動判定規則を生成する方法について説明する。びびり振動発生有無は、ステップS06及びステップS07において抽出される各特徴量が、ステップS02及びステップS03で抽出される特徴量空間の分布に対してどの程度乖離しているかを異常度として算出することで定量評価される。すなわち、異常度を算出するためのパラメータを学習モード中で算出しておく必要がある。ここで、音響判定規則及び振動判定規則は、少なくとも、パラメータ及び異常度の算出方法を含んでいる。以下、このパラメータと異常度の算出方法を説明する。
【0058】
まず、判定規則生成部112は、学習モード期間の特徴量空間の分布を推定する。このために、判定規則生成部112は、マイク104及び振動センサ103毎に、算出した(Ttrain/Trms)個の実行値より、音響データの実行値の平均値μmicと標準偏差σmic及び振動データの平均値μvibと標準偏差σvibを計算する。そして、判定規則生成部112は、これらを用いて該期間中の特徴量空間内での分布を推定する。ここで、本実施例では、特徴量(実行値)が正規分布に従うことを仮定し、その正規分布を推定する。但し、例えばk近傍法、主成分分析、One Class Sサポートベクタマシン等の公知の教師なし学習技術を用いて、該期間中の特徴量空間の分布を推定してもよい。
【0059】
次に、音響異常度及び振動異常度の算出方法について説明する。音響異常度(amic)及び振動異常度(avib)は、監視モード中、Trmsごとに算出される音響データの実行値yrms(mic)及び、振動データの実行値yrms(vib)及び、前記平均値と標準偏差より、(数2)及び(数3)によって算出される。(数2)及び(数3)で算出される異常度は、マハラノビス距離を意味するが、学習モード中の特徴量空間との乖離が評価できる指標であるならば、マハラノビス距離以外の指標を用いてもよい。
【0060】
【数2】
【0061】
【数3】
【0062】
以下、図6を用いて、本実施例におけるステップS10のびびり振動判定方法について説明する。図6は(数2)及び(数3)によって算出される音響異常度及び振動異常度の時系列チャート図であり、時間軸は共通している。図6における点線602はマイク異常度の閾値、点線604は振動センサの異常度の閾値、期間601内の事象はマイク異常度が閾値を超過した事象、期間605内は実際にびびり振動が発生している期間を示している。
【0063】
ここで、本実施例における閾値は、本実施例よりも過去に行った、加工中にびびり振動が発生したことが判明しているデータやびびり振動が発生していないデータを用いて、環境起因の音および振動、他設備起因の音および振動等の外乱を予め排除して設定することが望ましい。つまり、図3の処理フローと同様の処理を行い、びびり振動の検知精度が高くかつ誤報率が低くなるように設定することが望ましい。
【0064】
また、ステップS10では、びびり振動検知部113は、音響異常度及び振動異常度の両方が閾値を超過した際に、びびり振動が発生したと判定する。このため、図6の601及び602は、びびり振動は発生していないが、外乱起因により音響異常度、振動異常度が上昇した例であり、外乱起因の誤報を抑制できていることが確認できる。
【0065】
以下、図7を用いて、本実施例におけるステップS12における、びびり振動への対策、つまり、びびり振動抑制信号を制御機器107に出力した結果を示す。図7は、主軸電流センサ105の取得データに対して、(数1)を用いた算出した電流実行値の時系列チャート図を示している。そして、矢印線701がびびり振動発生タイミング、期間702が加工一時停止期間、期間703がびびり振動抑制後の再稼働期間を示す。
【0066】
ここで、一般的な切削加工プロセスにおける、びびり振動を抑制するための対策には、切削加工におけるワークの切削除去部の量を減らすことが知られている。また、本実施例でのピーリング加工における切削除去部の量は、ワークへの切削工具の切り込み量(円筒状ワークの中心軸方向への押し込み量)と、ワークの送り量と、切削工具の回転数とに依存する。ここで、加工後の仕様により、仕上げ寸法を変更することはできないため、切削工具の切り込み量を減らすことはできない。また、切削工具の回転数を変えると、回転数によってはびびり振動を増加させる場合もある。
【0067】
このため、本実施例のピーリングプロセスにおいては、びびり振動が発生した場合に、びびり振動検知部113は、入出力部1101を介して、以下のびびり振動抑制信号を、制御機器107に出力する。このびびり振動抑制信号は、ワークの送り速度を一時停止、送り速度の設定値を下げたうえで、再稼働する信号である。ここで、図7のびびり振動抑制後の再稼働期間において、切削抵抗と相関を持つ電流実行値が、びびり振動発生時よりも減少していることから、ワーク速度の減速によるびびり振動発生抑制を実施していることが確認できる。
【0068】
次に、図8を用いて、びびり振動が発生したと判定した際のアラート表示について説明する。図8は、クライアント計算機114の表示装置115の画面上において、びびり振動発生有無を表示するプログラムのGUI画面の概要である。ここで、GUI画面801は、上述の各処理を開始するための測定開始ボタン802、該処理を終了するための測定中断ボタン803、びびり振動検知ライト804、マイク異常ライト805、振動センサ異常ライト806を備える。
【0069】
上述のステップS10において、音響異常度が閾値を超過した場合は、マイク異常ライト805が点灯し、振動異常度が閾値を超過した場合は振動センサ異常ライト806が点灯する。このために、プロセッサ116は、計算機サーバ110から出力された超過したことを示す情報を受け付け、これに基づいて上述の点灯を行う。なお、この点灯の代わり、もしくは点灯に加え、クライアント計算機114は、音声を出力してもよい。
【0070】
また、これら二つの異常度が閾値を超過し、びびり振動が発生したと判定された場合に、びびり振動検知ライト804が点灯する。このことで、切削加工プロセスの監視者に対してびびり振動の発生有無を視覚的に伝えることが可能である。このために、プロセッサ116は、計算機サーバ110から出力されたびびり振動が発生したことを示す情報を受け付け、これに基づいて上述の点灯を行う。なお、この点灯の代わり、もしくは点灯に加え、クライアント計算機114は、音声を出力してもよい。
【0071】
以上で、本実施例の処理についての説明を終了する。なお、本実施例は、以下のとおりとも表現可能である。びびり振動検知システムは、切削設備101と、振動センサ103と、マイク104と、計算機サーバ110とを備えている。そして、振動センサ103及びマイク104は、切削設備101に取り付けられた切削工具と切削設備101を用いて加工するワーク102の接触面付近かつ、加工による切りくず等の障害物が当たらない位置に設置されている。また、振動センサ103により取得された振動データ及びマイク104により取得された音響データは計算機サーバ110に入力される。そして、振動データ及び音響データを含むセンサデータ1080を、計算機サーバ110でデータ処理することで、切削加工中のびびり振動発生の有無を判定する 。
【0072】
ここで、切削設備101が、直径及び表面状態が個体差をもつ円筒状ワークが一方向のみに動き、切削工具は前記円筒状ワークの中心軸を回転軸として回転し、円筒状のワーク102の表面を切削する、ピーリングマシンの場合は、以下の構造となる。マイク104は、ピーリングマシンの円筒状ワーク投入口を視覚的に確認可能であり、かつ、マイク104とピーリングマシンの前記円筒状ワーク投入口との間に障害物や音源が存在しないこと、の両方を満たす空間に配置されている。また、振動センサ103は、切削設備101の切削工具の保護カバーに設置される。
【0073】
また、計算機サーバ110は、少なくとも音響データと振動データの両方を一時保存するための第1記憶媒体(センサデータ用記憶媒体108)と、音響データ及び振動データを元に前記びびり振動発生の判定規則の生成と、切削加工中のびびり振動発生の有無を判定と、を行うプログラムと、当該プログラムを実行するためのプロセッサ1102と、びびり振動発生の判定規則を保存するための第2記憶媒体(判定規則用記憶媒体109)と、を備える。
【0074】
さらに、計算機サーバ110では、ワーク102の切削加工毎に、切削加工開始から所定時間までの第1期間に於いて、当該期間に入力された振動データと音響データに基づいて、びびり振動発生の判定規則(音響判定規則、振動判定規則)を生成する。そして、この第1期間よりも後の第2期間に於いて、当該第2期間に受信した、振動データ及び音響データと、振動判定規則及び音響判定規則とに基づいて、切削加工中のびびり振動の発生を検知する。この構成により振動判定規則及び音響判定規則を、ワーク102の加工毎に生成することで、ワーク102の個体差や切削工具の状態に依存せずにびびり振動が検知可能となる。
さらに、計算機サーバ110では、切削設備101の主軸電流データを元に、加工中に切削工具とワーク102とが接触していない空運転状態と、切削工具とワーク102とが接触し切削加工が実施されている切削加工状態とを、前記切削設備の主軸電流の実効値を元に判定する。この空運転状態と、切削加工状態とでは、発生する音及び振動が異なる。このため、第1期間中の処理に、空運転状態のデータを使用する場合、加工状態におけるびびり振動の検知精度及び誤報率が悪化する。このため、空運転状態と加工状態とを区別し、加工状態において、前記第1期間の判定規則を生成することにより、びびり振動検知精度の高度化および誤検知やこれに基づく誤報の抑制が可能となる。
また、さらに、計算機サーバ110において、びびり振動を検知した際は、計算機サーバ110と通信可能なクライアント計算機114の表示装置115に、びびり振動の発生有無を表示する。このことにより、切削設備101の作業者や管理者にびびり振動の発生有無を視覚的に伝えることが可能となる。
【0075】
さらに、計算機サーバ110において、びびり振動を検知した際は、切削設備101の制御機器107に、ワーク102の送り速度の停止や減速等の制御信号を出力可能であり、これによりびびり振動の抑制が可能となる。
【符号の説明】
【0076】
101…切削設備、102…ワーク、103…振動センサ、104…マイク、105…主軸電流センサ、106…A/D変換器、107…制御機器、108…センサデータ用記憶媒体、109…判定規則用記憶媒体、110…計算機サーバ、111…加工状態判定部、112…判定規則生成部、113…びびり振動検知部、200…ネットワーク、114…クライアント計算機、115…表示装置、116…プロセッサ
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9