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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135954
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】タンパク質のフォールディング剤
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/113 20060101AFI20220908BHJP
   C07K 1/02 20060101ALI20220908BHJP
   C07D 233/64 20060101ALI20220908BHJP
   C07D 213/34 20060101ALI20220908BHJP
   C07D 213/32 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
C07K1/113
C07K1/02
C07D233/64 104
C07D213/34
C07D213/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020271
(22)【出願日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2021033583
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村岡 貴博
(72)【発明者】
【氏名】岡田 隼輔
(72)【発明者】
【氏名】松本 陽佑
(72)【発明者】
【氏名】奥村 正樹
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 謙次
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 元紀
【テーマコード(参考)】
4C055
4H045
【Fターム(参考)】
4C055AA01
4C055AA04
4C055BA01
4C055BA02
4C055BA20
4C055BA21
4C055BB02
4C055BB17
4C055CA01
4C055DA20
4C055DA21
4C055DB02
4C055DB17
4C055EA01
4C055FA13
4C055FA37
4H045AA20
4H045AA50
4H045BA05
4H045EA20
4H045EA60
4H045FA65
4H045GA01
4H045GA45
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高い効率でタンパク質をフォールディングすることが可能なタンパク質のフォールディング剤を提供する。
【解決手段】式(1)ないし(14)で表される化合物、並びにその塩及び溶媒和物から選択される少なくとも1種を有効成分として含むタンパク質のフォールディング剤。

【選択図】図2B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式:
【化1】
[式中、
、X及びXは、それぞれ独立して、分子鎖中に1~5個の酸素原子を含んでい
てもよい炭素数1~10個のアルキレン基であり、
は、それぞれ独立して、分子鎖中に1~5個の酸素原子を含んでいてもよい炭素数
1~10個のアルキレン基であり、
、Z、Z、Z及びZは、それぞれ独立して、分子鎖中に1~5個の酸素原
子を含んでいてもよい炭素数1~10個のアルキレン基であり、
及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~24個のアルキル基であり、
は、それぞれ独立して、塩素イオン、臭素イオン又はヨウ素イオンである]
で表される化合物、並びにその塩及び溶媒和物から選択される少なくとも1種を有効成分
として含むタンパク質のフォールディング剤。
【請求項2】
式(1)ないし(7)で表される化合物、並びにその塩及び溶媒和物から選択される少
なくとも1種を有効成分として含む、請求項1に記載のタンパク質のフォールディング剤
【請求項3】
式(8)ないし(14)で表される化合物、並びにその塩及び溶媒和物から選択される
少なくとも1種を有効成分として含む、請求項1に記載のタンパク質のフォールディング
剤。
【請求項4】
式(1)ないし(7)で表される化合物、並びにその塩及び溶媒和物から選択される少
なくとも1種;並びに式(8)ないし(14)で表される化合物、並びにその塩及び溶媒
和物から選択される少なくとも1種を有効成分として含む、請求項1に記載のタンパク質
のフォールディング剤。
【請求項5】
請求項1に定義される式(1)ないし(14)で表される化合物、並びにその塩及び溶
媒和物から選択される少なくとも1種の存在下で、アンフォールディングされたタンパク
質を処理する工程を含む、タンパク質のフォールディング方法。
【請求項6】
請求項1に定義される式(1)ないし(14)で表される化合物、並びにその塩及び溶
媒和物から選択される少なくとも1種の存在下で、アンフォールディングされたタンパク
質を処理する工程を含む、タンパク質の再生方法。
【請求項7】
請求項1に定義される式(1)ないし(14)で表される化合物、並びにその塩及び溶
媒和物から選択される少なくとも1種を有効成分として含むタンパク質の可溶化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質のフォールディング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質は,製剤を中心に広く産業で利用される材料である。タンパク質が個々の機
能、活性を発揮するためには天然構造の形成が必須であることから、効率的な天然構造へ
のフォールディング技術はタンパク質の産業利用において、コスト削減等に直結し重要で
ある。したがって、天然構造への酸化的フォールディング促進剤は、タンパク質製剤の大
規模生産に有益である。例えば、インスリンや免疫グロブリン等重要なタンパク質製剤の
酸化的フォールディングプロセスにおいては、天然型ジスルフィド結合の導入を伴う天然
構造形成が律速段階反応となっている。
【0003】
酸化的フォールディングプロセスの典型的な制御法として、ジスルフィド結合のシャッ
フリングがある。フォールディング過程に還元剤と酸化剤を共存させ、ジスルフィド結合
の形成と切断を繰り返し起こすことで、最安定な天然構造へと導く方法である。その際用
いられる典型的な還元剤と酸化剤は、それぞれ、グルタチオン(GSH)、β-メルカプトエ
タノール(β-ME)、及びジチオスレイトール(DTT)と、グルタチオン酸化体(GSSG)で
ある。例えばRNase Aの場合、GSH/GSSG存在下、及び非存在下(空気下)での回収収率が
比較されており、GSH/GSSG存在下の方が、フォールディング初期過程における同一時間で
の酵素活性は約2倍高く、活性回復の速さ(1/2活性回復時間)は約2.8倍速い(非
特許文献1)。また、酸化的フォールディングにおいて用いられる小分子還元剤(及びこ
れと組み合わせる酸化剤)として、GSH/GSSG(非特許文献1)、GSH+(±)-トランス
-1,2-ビス(2-メルカプトアセトアミド)シクロヘキサン(BMC)/GSSG(非特許文
献2)、芳香族チオール及びその二硫化物(Aromatic thiols and their disulfides)(
非特許文献3)、環状セレノキシド(Cyclic selenoxide)(非特許文献4)、Cys-XX-Cy
s構造(Xは任意のアミノ酸であり、Cysはシステインである)を有するペプチド(非特許
文献5)、セレノグルタチオン(Seleno glutathione)(非特許文献6)や、セレノール
含有ペプチド(非特許文献7)が知られる。しかしながら、環状セレノキシド及びセレノ
グルタチオンについては、重金属セレンを用いることによる毒性の問題があった。またBM
Cについては、GSHに対する補助剤として用いられるためGSH/GSSG系に比べ多種多量の添加
剤を加える必要がある点で問題があった。芳香族チオールについては、ベンゼン環を持つ
物質であることから、タンパク質への疎水性相互作用による非特異的吸着が起こり得る点
で問題であった。Cys-XX-Cys構造を有するペプチドについては、プロテアーゼのコンタミ
ネーションによる分解等の構造不安定性、またその合成にかかる高いコストが問題であっ
た。また、システアミン等の低分子チオールは、高い揮発性に伴う強い悪臭が問題であっ
た。また、これら既存の化合物を用いた場合には、酸化的フォールディング中間体の凝集
抑制効果が低く、このことは収率を下げる一因となっていた。
【0004】
したがって、従来技術の問題点を回避しつつ、高い効率でタンパク質をフォールディン
グすることが可能なタンパク質のフォールディング剤が望まれていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A. K. Ahmed et al., J. Biol. Chem., 1975, 250, 8477-8482
【非特許文献2】K. J. Woycechowsky et al., Chem. Biol., 1999, 6, 871-879
【非特許文献3】D. J. Madar et al., J. Biotech., 2009, 142, 214-219
【非特許文献4】K. Arai, K et al., Chem. Eur. J., 2011, 17, 481-485
【非特許文献5】W. J. Lees et al., Curr. Opin. Chem. Biol., 2008, 12, 740-745
【非特許文献6】J. Beld et al., Biochemistry. 2007 May 8;46(18):5382-90
【非特許文献7】S. Tsukagoshi et al., Chem. Asian J. 2020 September 1;15(17):2646-52
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
それ故、本発明は、高い効率でタンパク質をフォールディングすることが可能なタンパ
ク質のフォールディング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するための手段を種々検討した結果、特定の構造を有す
る化合物、及びその塩及び溶媒和物を用いることにより、高い効率で、すなわち高収率及
び/又は高速で、タンパク質にジスルフィド結合を導入することができることを見出し、
本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1]下記式:
【化1】
[式中、
、X及びXは、それぞれ独立して、分子鎖中に1~5個の酸素原子を含んでい
てもよい炭素数1~10個のアルキレン基であり、
は、それぞれ独立して、分子鎖中に1~5個の酸素原子を含んでいてもよい炭素数
1~10個のアルキレン基であり、
、Z、Z、Z及びZは、それぞれ独立して、分子鎖中に1~5個の酸素原
子を含んでいてもよい炭素数1~10個のアルキレン基であり、
及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~24個のアルキル基であり、
は、それぞれ独立して、塩素イオン、臭素イオン又はヨウ素イオンである]
で表される化合物、並びにその塩及び溶媒和物から選択される少なくとも1種を有効成分
として含むタンパク質のフォールディング剤。
[2]式(1)ないし(7)で表される化合物、並びにその塩及び溶媒和物から選択され
る少なくとも1種を有効成分として含む、上記[1]に記載のタンパク質のフォールディ
ング剤。
[3]式(8)ないし(14)で表される化合物、並びにその塩及び溶媒和物から選択さ
れる少なくとも1種を有効成分として含む、上記[1]に記載のタンパク質のフォールデ
ィング剤。
[4]式(1)ないし(7)で表される化合物、並びにその塩及び溶媒和物から選択され
る少なくとも1種;並びに式(8)ないし(14)で表される化合物、並びにその塩及び
溶媒和物から選択される少なくとも1種を有効成分として含む、上記[1]に記載のタン
パク質のフォールディング剤。
[5]上記[1]に定義される式(1)ないし(14)で表される化合物、並びにその塩
及び溶媒和物から選択される少なくとも1種の存在下で、アンフォールディングされたタ
ンパク質を処理する工程を含む、タンパク質のフォールディング方法。
[6]上記[1]に定義される式(1)ないし(14)で表される化合物、並びにその塩
及び溶媒和物から選択される少なくとも1種の存在下で、アンフォールディングされたタ
ンパク質を処理する工程を含む、タンパク質の再生方法。
[7]上記[1]に定義される式(1)ないし(14)で表される化合物、並びにその塩
及び溶媒和物から選択される少なくとも1種を有効成分として含むタンパク質の可溶化剤
【発明の効果】
【0009】
本発明によるタンパク質のフォールディング剤によれば、高い効率でタンパク質をフォ
ールディングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A図1Aは、ウシ膵臓トリプシン阻害剤(BPTI)の構造及びそのフォールディング経路における各ジスルフィド結合種のジスルフィド結合架橋位置を示す図である。
図1B図1Bは、逆相HPLCを用いてBPTIのジスルフィド結合架橋位置を決定する際のHPLC保持時間と各ジスルフィド結合種との関係を示す図である。
図2A図2Aは、GSH/GSSG(比較例1)を用いて還元変性BPTIのフォールディング反応を行った場合の逆相HPLC分析結果を示す図である。
図2B図2Bは、LDA-SH/LDA-SS(実施例1)を用いて還元変性BPTIのフォールディング反応を行った場合の逆相HPLC分析結果を示す図である。
図2C図2Cは、BDA-SH/BDA-SS(実施例2)を用いて還元変性BPTIのフォールディング反応を行った場合の逆相HPLC分析結果を示す図である。
図3図3は、LDA-SH/LDA-SS(実施例3)、GSH/GSSG(比較例2)又はGSSGを用いて還元変性RNase Aのフォールディング反応を行った場合の活性回復評価を示すグラフである。
図4A図4Aは、GSH/GSSG(比較例3)を用いた還元変性β2mへのジスルフィド結合導入反応を逆相HPLCにより追跡した図である。
図4B図4Bは、LDA-SH/LDA-SS(実施例4)を用いた還元変性β2mへのジスルフィド結合導入反応を逆相HPLCにより追跡した図である。
図4C図4Cは、BDA-SH/BDA-SS(実施例5)を用いた還元変性β2mへのジスルフィド結合導入反応を逆相HPLCにより追跡した図である。
図5図5は、GSH/GSSG(比較例3)、LDA-SH/LDA-SS(実施例4)又はBDA-SH/BDA-SS(実施例5)による還元変性β2mへのジスルフィド結合導入による酸化型β2mを定量したグラフである。
図6図6は、GSH/GSSG(比較例4)、ImdM-SH/ImdM-SS(実施例6)又はoPyM-SH/oPyM-SS(実施例7)を用いて還元変性RNase Aのフォールディング反応を行った場合の活性回復評価を示すグラフである。
図7図7はGSH/GSSG(比較例5)、pPyM-SH-NMe・Cl/SS(実施例8)、pPyM-SH-NMe・I/SS(実施例9)又はoPyM-SH-NMe・I/SS(実施例10)を用いて還元変性RNase Aのフォールディング反応を行った場合の活性回復評価を示すグラフである。
図8図8は、加熱によるβ2mの凝集実験にて得られた各試料溶液(遠心分離前)の写真である。
図9図9は、加熱によるβ2mの凝集実験の各試料溶液を遠心分離して得た上清中の天然型β2mの残存率を示すグラフである。
図10図10は、GSH/GSSG(比較例4)、ImdM-SH/ImdM-SS(実施例6)、oPyM-SH/oPyM-SS(実施例7)又はpPyM-SH/GSSG(実施例13)を用いて還元変性RNase Aのフォールディング反応を行った場合の活性回復評価を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態に基づき本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明はタンパク質のフォールディング剤に関する。本発明のタンパク質のフォールデ
ィング剤は式(1)ないし(14)で表される化合物、並びにその塩及び溶媒和物から選
択される少なくとも1種を有効成分として含む。本発明のタンパク質のフォールディング
剤によれば、従来のグルタチオンを用いる系に比べ、高い効率で、すなわち高収率及び/
又は高速で、タンパク質にジスルフィド結合を導入することができ、これにより、タンパ
ク質の酸化的フォールディングを高い効率で進行させることが可能となる。このことは、
製剤等に用いられるタンパク質の生産にかかる時間の短縮及び収量の向上につながるため
、タンパク質製剤の大規模生産及び生産コストの低下という効果が得られる。以下、式(
1)ないし(7)で表される化合物、並びにその塩及び溶媒和物を単に「チオール化合物
」ともいい、また、式(8)ないし(14)で表される化合物、並びにその塩及び溶媒和
物を単に「ジスルフィド化合物」ともいう。
【0013】
上記チオール化合物は、下記式:
【化2】
[式中、
、X及びXは、それぞれ独立して、分子鎖中に1~5個の酸素原子を含んでい
てもよい炭素数1~10個のアルキレン基であり、
は、分子鎖中に1~5個の酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~10個のアルキ
レン基であり、
、Z、Z、Z及びZは、それぞれ独立して、分子鎖中に1~5個の酸素原
子を含んでいてもよい炭素数1~10個のアルキレン基であり、
及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~24個のアルキル基であり、
は、それぞれ独立して、塩素イオン、臭素イオン又はヨウ素イオンである]
で表される化合物、並びにその塩及び溶媒和物である。一般にチオール化合物は悪臭を発
するが、上記チオール化合物はいずれも悪臭が抑えられており、この点は応用する上で従
来の関連化合物に対して利点を有する。また、上記チオール化合物はタンパク質と比べて
十分に小さい分子であるため、ジスルフィド結合導入反応を行った後にサイズ排除クロマ
トグラフィーや透析を用いてタンパク質からの分離を容易に行うことができる。
【0014】
上記ジスルフィド化合物は、下記式:
【化3】
[式中、
、X及びXは、それぞれ独立して、分子鎖中に1~5個の酸素原子を含んでい
てもよい炭素数1~10個のアルキレン基であり、
は、それぞれ独立して、分子鎖中に1~5個の酸素原子を含んでいてもよい炭素数
1~10個のアルキレン基であり、
、Z、Z、Z及びZは、それぞれ独立して、分子鎖中に1~5個の酸素原
子を含んでいてもよい炭素数1~10個のアルキレン基であり、
及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~24個のアルキル基であり、
は、それぞれ独立して、塩素イオン、臭素イオン又はヨウ素イオンである]
で表される化合物、並びにその塩及び溶媒和物である。また、上記ジスルフィド化合物は
タンパク質と比べて十分に小さい分子であるため、ジスルフィド結合導入反応を行った後
にサイズ排除クロマトグラフィーや透析を用いてタンパク質からの分離を容易に行うこと
ができる。
【0015】
本発明のタンパク質のフォールディング剤の一実施形態は、式(1)ないし(7)で表
される化合物、並びにその塩及び溶媒和物から選択される少なくとも1種;並びに式(8
)ないし(14)で表される化合物、並びにその塩及び溶媒和物から選択される少なくと
も1種を有効成分として含むことを特徴とする。本実施形態のタンパク質のフォールディ
ング剤に含まれる上記チオール化合物と上記ジスルフィド化合物とのモル比は、効率的に
フォールディングが進行する限り特に制限されないが、例えば、1:1~20:1である
ことが好ましく、2:1~10:1であることがさらに好ましい。本実施形態のタンパク
質のフォールディング剤は、上記チオール化合物と上記ジスルフィド化合物が混合された
状態で販売又は流通されるものであっても、キット又はセット等として、それぞれ別個に
包装された状態で販売又は流通されるものであってもよい。
【0016】
本発明のタンパク質のフォールディング剤の別の一実施形態は、式(1)ないし(7)で表される化合物、並びにその塩及び溶媒和物から選択される少なくとも1種を有効成分として含むことを特徴とする。本実施形態のタンパク質のフォールディング剤は、式(8)ないし(14)で表される化合物、並びにその塩及び溶媒和物から選択される少なくとも1種と併用することができる。この場合、本実施形態のタンパク質のフォールディング剤に含まれる上記チオール化合物と併用する上記ジスルフィド化合物とのモル比は、効率的にフォールディングが進行する限り特に制限されないが、例えば、1:1~20:1であることが好ましく、2:1~10:1であることがさらに好ましい。上記チオール化合物を含む本タンパク質のフォールディング剤は、別途入手した上記ジスルフィド化合物とともにタンパク質のフォールディング反応に用いることができる。また、併用するジスルフィド化合物は、GSSG等の従来から用いられているものでもよく、この場合の好ましい実施形態は別段の記載がない限り上記ジスルフィド化合物についての記載を引用するものとする。
【0017】
本発明のタンパク質のフォールディング剤の別の一実施形態は、式(8)ないし(14)で表される化合物、並びにその塩及び溶媒和物から選択される少なくとも1種を有効成分として含むことを特徴とする。本実施形態のタンパク質のフォールディング剤は、式(1)ないし(7)で表される化合物、並びにその塩及び溶媒和物から選択される少なくとも1種と併用することができる。この場合、併用する上記チオール化合物と本実施形態のタンパク質のフォールディング剤に含まれる上記ジスルフィド化合物とのモル比は、効率的にフォールディングが進行する限り特に制限されないが、例えば、1:1~20:1であることが好ましく、2:1~10:1であることがさらに好ましい。上記ジスルフィド化合物を含む本タンパク質のフォールディング剤は、別途入手した上記チオール化合物とともにタンパク質のフォールディング反応に用いることができる。また、併用するチオール化合物は、GSH等の従来から用いられているものでもよく、この場合の好ましい実施形態は別段の記載がない限り上記チオール化合物についての記載を引用するものとする。
【0018】
本明細書において、「有効成分」とは、タンパク質をフォールディングする過程で、そ
の過程のある状態のタンパク質に作用する物質及び当該物質に作用する物質であって、タ
ンパク質のフォールディングを促進させる機能を有するものをいう。本明細書において、
「タンパク質のフォールディング」には、(1)タンパク質を還元変性によりアンフォー
ルディングする工程、及び(2)アンフォールディングされたタンパク質に対して酸化的
フォールディングを行う工程を含むものとする。本発明のタンパク質のフォールディング
剤は、上記チオール化合物及び上記ジスルフィド化合物が、特に工程(2)の酸化的フォ
ールディング反応において、それぞれ還元剤及び酸化剤として機能してタンパク質にジス
ルフィド結合を導入することにより、高い効率でタンパク質をフォールディングすること
ができる。
【0019】
上記チオール化合物及び上記ジスルフィド化合物を合成するに当たっては、当業者にと
って一般的な有機合成法を適宜採用して行うことができる。具体的には、下記実施例にお
いて示す式(1)~(7)で表されるチオール化合物、及び式(8)~(14)で表され
るジスルフィド化合物に該当する化合物の製造方法を参照することができる。
【0020】
上記チオール化合物及び上記ジスルフィド化合物は、いずれも塩の形態や溶媒和物の形
態であってもよい。上記塩としては、特に制限されず、例えば、ナトリウムやカリウム等
のアルカリ金属との塩;マグネシウムやカルシウム等のアルカリ土類金属との塩;アンモ
ニウム塩;又は塩酸、燐酸、硝酸、硫酸、亜硫酸等の無機酸との塩;ギ酸、酢酸、プロピ
オン酸、酪酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、リンゴ
酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸等の有
機酸との塩等が挙げられる。また上記溶媒和物としては、水和物、アルコール(例えば、
メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)、アセトン、テトラヒドロ
フラン、ジオキサン、DMF、DMSO等の溶媒との溶媒和物が挙げられる。
【0021】
上記「分子鎖中に1~5個の酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~10個のアルキレ
ン基」の具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、
n-ブチレン基、イソブチレン基、tert-ブチレン基、n-ペンチレン基、イソペン
チレン基、ネオペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基
、デシレン基、ポリオキシアルキレン基(ここで、アルキレンは、例えばエチレン基、プ
ロピレン基である)が挙げられるが、これに限定されるものではない。ポリオキシアルキ
レン基としては、これに限定されるものではないが、*-(CHCHO)a-(ここ
で、aは1~5の整数であり、*は、X、X及びXについては-NHとの結合点
、Yについては-SHとの結合点、Zについてはイミダゾール環との結合点、Z
、Z及びZについてはピリジン環との結合点を示す)、*-(OCHCH
b-(ここで、bは1~5の整数であり、*は、X、X及びXについては-NH
との結合点、Yについては-SHとの結合点、Zについてはイミダゾール環との結合
点、Z、Z、Z及びZについてはピリジン環との結合点を示す)、*-(CH
CHCHO)c-(ここで、cは1~3の整数であり、*は、X、X及びX
ついては-NHとの結合点、Yについては-SHとの結合点、Zについてはイミダ
ゾール環との結合点、Z、Z、Z及びZについてはピリジン環との結合点を示す
)、*-(OCHCHCH)d-(ここで、dは1~3の整数であり、*は、X
、X及びXについては-NHとの結合点、Yについては-SHとの結合点、Z
についてはイミダゾール環との結合点、Z、Z、Z及びZについてはピリジン環
との結合点を示す)が挙げられる。
【0022】
また、本明細書に記載される「分子鎖中に1~3個の酸素原子を含んでいてもよい炭素
数1~6個のアルキレン基」の具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基
、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、tert-ブチレン基、n-ペ
ンチレン基、イソペンチレン基、ネオペンチレン基、ヘキシレン基、ポリオキシアルキレ
ン基(ここで、アルキレンは、例えばエチレン基、プロピレン基である)が挙げられるが
、これに限定されるものではない。ポリオキシアルキレン基としては、これに限定される
ものではないが、*-(CHCHO)a-(ここで、aは1~3の整数であり、*は
、X、X及びXについては-NHとの結合点、Yについては-SHとの結合点
、Zについてはイミダゾール環との結合点、Z、Z、Z及びZについてはピリ
ジン環との結合点を示す)、*-(OCHCH)b-(ここで、bは1~3の整数で
あり、*は、X、X及びXについては-NHとの結合点、Yについては-SH
との結合点、Zについてはイミダゾール環との結合点、Z、Z、Z及びZにつ
いてはピリジン環との結合点を示す)、*-(CHCHCHO)c-(ここで、c
は1又は2であり、*は、X、X及びXについては-NHとの結合点、Yにつ
いては-SHとの結合点、Zについてはイミダゾール環との結合点、Z、Z、Z
及びZについてはピリジン環との結合点を示す)、*-(OCHCHCH)d-
(ここで、dは1又は2であり、*は、X、X及びXについては-NHとの結合
点、Yについては-SHとの結合点、Zについてはイミダゾール環との結合点、Z
、Z、Z及びZについてはピリジン環との結合点を示す)が挙げられる。
【0023】
また、本明細書に記載される「分子鎖中に1又は2個の酸素原子を含んでいてもよい炭
素数1~4個のアルキレン基」の具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン
基、イソプロピレン基、ポリオキシアルキレン基(ここで、アルキレンは、例えばエチレ
ン基、プロピレン基である)が挙げられるが、これに限定されるものではない。ポリオキ
シアルキレン基としては、これに限定されるものではないが、*-(CHCHO)a
-(ここで、aは1又は2の整数であり、*は、X、X及びXについては-NH
との結合点、Yについては-SHとの結合点、Zについてはイミダゾール環との結合
点、Z、Z、Z及びZについてはピリジン環との結合点を示す)、*-(OCH
CH)b-(ここで、bは1又は2の整数であり、*は、X、X及びXについ
ては-NHとの結合点、Yについては-SHとの結合点、Zについてはイミダゾー
ル環との結合点、Z、Z、Z及びZについてはピリジン環との結合点を示す)、
*-(CHCHCHO)c-(ここで、cは1であり、*は、X、X及びX
については-NHとの結合点、Yについては-SHとの結合点、Zについてはイミ
ダゾール環との結合点、Z、Z、Z及びZについてはピリジン環との結合点を示
す)、*-(OCHCHCH)d-(ここで、dは1であり、*は、X、X
びXについては-NHとの結合点、Yについては-SHとの結合点、Zについて
はイミダゾール環との結合点、Z、Z、Z及びZについてはピリジン環との結合
点を示す)が挙げられる。
【0024】
上記「炭素数1~24個のアルキル基」の具体例としては、メチル基、エチル基、n-
プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-へプチル基、n-オ
クチル基、n-ノニル基、n-デシル、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデ
シル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデ
シル、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-イコシル基、n-ヘンイコシル基、
n-ドコシル基、n-トリコシル基、n-テトラコシル基等が挙げられるが、これに限定
されるものではない。
【0025】
本発明のタンパク質のフォールディング剤に用いる上記チオール化合物と上記ジスルフ
ィド化合物の組み合わせは、特に制限されないが、酸化的フォールディング反応における
ジスルフィド結合のシャッフリングにおいて、上記チオール化合物と上記ジスルフィド化
合物とをそれぞれ還元剤と酸化剤として効率的に作用させる観点から、対応関係にある組
み合わせ(例えば式(1)で表されるチオール化合物とそのジスルフィド体である式(8
)で表されるジスルフィド化合物との組み合わせ)で含まれる、又は併用されることが好
ましい。但し、チオール化合物又はジスルフィド化合物の一方を本発明のタンパク質のフ
ォールディング剤の有効成分とする場合であっても、フォールディング工程において、フ
ォールディング液中にチオール化合物とジスルフィド化合物との両方を平衡状態にて存在
させ、ジスルフィド結合のシャッフリングにおける還元剤と酸化剤として機能させること
もできる。
【0026】
一般に酸化的フォールディングプロセスで過渡的に生成される反応中間体は凝集性が高
く、収率を減少させる要因となる。したがって、タンパク質の酸化的フォールディングの
収率を向上させる観点から、本発明のタンパク質のフォールディング剤は反応中間体の凝
集を抑制する機能を持つものであることが好ましい。尚、このような性質を有する本発明
のタンパク質のフォールディング剤の有効成分又は併用される成分であるチオール化合物
及びジスルフィド化合物はタンパク質の可溶化剤の有効成分として用いることができる。
【0027】
また、本発明のタンパク質のフォールディング剤は、天然構造に加えて非天然構造を速
やかに生成するという観点から、極めて速くジスルフィド結合を導入する高い活性を有す
ることが好ましい。タンパク質は、天然構造と非天然構造とで、全く異なる生化学的性質
を示す。タンパク質製剤の場合、天然型では期待される薬効を示す反面、非天然型では低
い薬効、さらには重篤な副作用を生む可能性もある。したがって、本発明のタンパク質の
フォールディング剤は、非天然構造タンパク質の生化学的性質を調べ、タンパク質製剤中
に不純物として含まれ得る非天然構造タンパク質(ミスフォールドタンパク質)が有する
薬効による潜在的な副作用を網羅的に解明する観点から、多種の非天然構造タンパク質を
一度に与える機能を有することが好ましい。従来技術において、複数のシステインペアを
持つタンパク質に対し、多種の非天然構造体を一度に生成させる化合物は報告がない。非
天然構造タンパク質を優先的に与える手法として、タンパク質内の一部のシステイン残基
をセレノシステイン残基に置き換える手法が報告されている(N.Metanis et al., Angew.
Chem.Int.Ed. 2012 51:5585-88)。しかし、この方法はタンパク質自体を構造変換するも
のである。また生体内セレン含有のセレノプロテインは数種しか報告例がなく、これらセ
レノプロテインの生理的な機能が未だ不明であることや、過剰のセレン摂取がヒトにとっ
て有害であることを考慮すると、セレン含有低分子化合物について薬理的な応用は難しい
と考えられる。
【0028】
さらには、本発明のタンパク質のフォールディング剤は、凝集を抑制しつつ非天然構造
タンパク質を生じさせる機能を有することが好ましい。一般に非天然構造タンパク質は凝
集性が高く、測定系を著しく制限するため研究が困難だったが、上記機能を有することは
、非天然構造タンパク質が持つ生化学的性質や細胞毒性を簡便な系で調べる上で有利であ
り、よって、非天然構造タンパク質が原因となるフォールディング病の治療法等の研究に
役立つものと考えられる。尚、このような性質を有する本発明のタンパク質のフォールデ
ィング剤の有効成分又は併用される成分であるチオール化合物及びジスルフィド化合物は
非天然構造タンパク質の可溶化剤の有効成分として用いることができる。
【0029】
本発明のタンパク質のフォールディング剤を用いてフォールディングする対象のタンパ
ク質は、少なくとも1つのジスルフィド結合を含むものであれば特に制限されず、天然又
は人造(化学合成法、発酵法、遺伝子組み換え法)等の由来や製造方法の別にかかわらず
、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、及びこれらの複合体が含まれる。タンパク質の
種類は問わず、例えば細胞内タンパク質、細胞外タンパク質、膜タンパク質、及び核内タ
ンパク質がいずれも含まれる。具体的には、以下に示す酵素、組み換えタンパク質及び抗
体等が挙げられる。
【0030】
酵素としては、加水分解酵素、異性化酵素、酸化還元酵素、転移酵素、合成酵素及び脱
離酵素等が挙げられる。加水分解酵素としては、プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、ア
ミラーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、グルコアミラーゼ等が挙げられる。異性化酵素として
は、グルコースイソメラーゼが挙げられる。酸化還元酵素としては、プロテインジスルフ
ィドイソメラーゼ、ペルオキシダーゼ等が挙げられる。転移酵素としては、アシルトラン
スフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼ等が挙げられる。合成酵素としては、脂肪酸シ
ンターゼ、リン酸シンターゼ、クエン酸シンターゼ等が挙げられる。脱離酵素としては、
ペクチンリアーゼ等が挙げられる。
【0031】
組み換えタンパク質としては、タンパク製剤、ワクチン等が挙げられる。大腸菌等の原
核生物や酵母等の真核生物や無細胞抽出系等の異種発現系を用いて遺伝子工学的に生産さ
れた組み換えタンパク質は、しばしば不溶性で不活性の凝集体、いわゆる封入体として得
られるため、本発明のタンパク質のフォールディング剤を好適に使用することができる。
タンパク製剤としては、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターロイキン1
~12、成長ホルモン、エリスロポエチン、インスリン、顆粒状コロニー刺激因子(G-
CSF)、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ディフェンシン、ナトリウム利
尿ペプチド、血液凝固第2因子、ソマトメジン、グルカゴン、成長ホルモン放出因子、血
清アルブミン、カルシトニン等が挙げられる。ワクチンとしては、A型肝炎ワクチン、B
型肝炎ワクチン、C型肝炎ワクチン等が挙げられる。抗体としては、特に限定はないが、
医療用抗体が挙げられる。
【0032】
本発明のタンパク質のフォールディング剤を酸化的フォールディングに用いる場合、本
発明のタンパク質のフォールディング剤の存在下で、アンフォールディングされたタンパ
ク質を処理する工程(以下、単に処理工程ともいう)、例えばアンフォールディングされ
たタンパク質と、本発明のタンパク質のフォールディング剤と、場合により併用するチオ
ール化合物又はジスルフィド化合物とをフォールディング緩衝液中に配合して撹拌等によ
り混合することにより行う。
【0033】
タンパク質のアンフォールディングは、当業者にとって一般的な方法を適宜採用して行
うことができる。例えば、塩酸グアニジン、尿素、チオ尿素又はこれらの併用によりアン
フォールディングされたタンパク質を得ることができる。その他下記実施例「8)還元変
性タンパク質の作成」に記載した方法にてタンパク質のアンフォールディングを行うこと
もできる。
【0034】
上記処理工程の処理時間は、目的のタンパク質が高い効率で得られるよう適宜調整する
ことができる。また温度は、対象とするタンパク質の熱耐性に応じて適宜選択することが
でき、例えば、0~100℃の範囲、好ましくは4~40℃の範囲である。
【0035】
上記処理工程において使用されるチオール化合物と酸化剤であるジスルフィド化合物(
合計量)の濃度は特に制限されないが、例えば、対象タンパク質を含む溶液(例えばフォ
ールディング緩衝液)に対して、通常0.01~100mMである。また、上記対象タン
パク質を含む溶液(例えばフォールディング緩衝液)中に含まれるアンフォールディング
タンパク質の濃度は、通常0.01~100μMである。
【0036】
上記処理工程における対象タンパク質を含む溶液(例えばフォールディング緩衝液)に
おいて、還元剤であるチオール化合物(合計量)と酸化剤であるジスルフィド化合物(合
計量)とのモル比は、目的のタンパク質を得るためのジスルフィド結合の導入が効率的に
進行する限り特に制限されないが、例えば、1:1~20:1である。
【0037】
上記フォールディング緩衝液は、目的のタンパク質の機能を失わせるような濃度及び組
成でなければ特に限定されず、具体的には、トリス緩衝液、MES緩衝液及びトリシン緩
衝液等のアミン系緩衝液、リン酸緩衝液、又は各種Good’s buffer等が挙げ
られる。上記フォールディング緩衝液のpHは、通常pH4~10、好ましくはpH5~
9の範囲、さらに好ましくはpH7~9の範囲で調整することができる。
【0038】
上記フォールディング緩衝液には、本発明のタンパク質のフォールディング剤と、必要
により併用するチオール化合物又はジスルフィド化合物の他に、種々の添加物を添加する
ことができる。そのような添加物としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム等の塩類;
クエン酸塩、リン酸塩、及び酢酸塩等の緩衝液;水酸化ナトリウム等の塩基類;塩酸や酢
酸等の酸類;メタノール、エタノール、プロパノール等の有機溶媒等が挙げられる。また
、上記緩衝剤には、本発明のフォールディング剤及び上記添加物の他に、界面活性剤、p
H調整剤、又はタンパク質安定化剤を配合することもできる。当業者であれば適宜その使
用量を調節することができる。
【0039】
本発明のタンパク質のフォールディング剤の有効成分又は併用される成分である、式(
1)~(7)で表されるチオール化合物、及び式(8)~(14)で表されるジスルフィ
ド化合物について以下に説明する。
【0040】
本発明のタンパク質のフォールディング剤の有効成分としての下記チオール化合物(1
)及び下記ジスルフィド化合物(8):
【化4】
[式中、
は、それぞれ独立して、分子鎖中に1~5個の酸素原子を含んでいてもよい炭素数
1~10個のアルキレン基であり、
は、それぞれ独立して、分子鎖中に1~5個の酸素原子を含んでいてもよい炭素数
1~10個のアルキレン基である]
、並びに併用される成分としての上記組み合わせは、酸化的フォールディングにより天然
構造タンパク質を高収率で得る観点から好ましい。この場合のフォールディングの対象と
なるタンパク質としては、特に制限されず、上述したタンパク質、さらにはRNase A、ウ
シ膵臓トリプシン阻害剤、β2-ミクログロブリン、インスリン、主要組織適合遺伝子複合
体、免疫グロブリン等が挙げられ、上記効果を得る観点から、複数のジスルフィド結合を
有するタンパク質、例えばRNase A等の4本のジスルフィド結合を有するものが好ましい
【0041】
また上記化合物又は組み合わせは、酸化的フォールディングの反応中間体の凝集を抑制
して天然構造タンパク質を高収率で得る観点から好ましい。この場合のフォールディング
の対象となるタンパク質としては、特に制限されず、上述したタンパク質、さらにはRNas
e A、ウシ膵臓トリプシン阻害剤、β2-ミクログロブリン、インスリン、主要組織適合遺
伝子複合体、免疫グロブリン等が挙げられ、上記効果を得る観点から、複数のジスルフィ
ド結合を有するタンパク質、例えばウシ膵臓トリプシン阻害剤等の3本のジスルフィド結
合を有するものが好ましい。
【0042】
また上記化合物又は組み合わせは、酸化的フォールディングにより天然構造タンパク質
を高収率かつ高速で得る観点から好ましい。この場合のフォールディングの対象となるタ
ンパク質としては、特に制限されず、上述したタンパク質、さらにはRNase A、ウシ膵臓
トリプシン阻害剤、β2-ミクログロブリン、インスリン、主要組織適合遺伝子複合体、免
疫グロブリン等が挙げられ、上記効果を得る観点から、β2-ミクログロブリン(β2m)等
の1つのジスルフィド結合を有するタンパク質が好ましい。
【0043】
上記のような効果を得る観点から、Xは、分子鎖中に1~3個の酸素原子を含んでい
てもよい炭素数1~6個のアルキレン基であることが好ましく、分子鎖中に1又は2個の
酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~4個のアルキレン基であることがさらに好ましい
。また、上記のような効果を得る観点から、Yは、分子鎖中に1~3個の酸素原子を含
んでいてもよい炭素数1~6個のアルキレン基であることが好ましく、分子鎖中に1又は
2個の酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~4個のアルキレン基であることがさらに好
ましい。
【0044】
本発明のタンパク質のフォールディング剤の有効成分としての下記チオール化合物(2
)及び下記ジスルフィド化合物(9):
【化5】
[式中、
及びXは、それぞれ独立して、分子鎖中に1~5個の酸素原子を含んでいてもよ
い炭素数1~10個のアルキレン基である]
、並びに併用される成分としての上記組み合わせは、酸化的フォールディングにおいて、
極めて速くジスルフィド結合を導入し、多種の非天然構造体を一度に生成させる観点から
好ましい。この場合のフォールディングの対象となるタンパク質としては、特に制限され
ず、上述したタンパク質、さらにはRNase A、ウシ膵臓トリプシン阻害剤、β2-ミクログ
ロブリン、インスリン、主要組織適合遺伝子複合体、免疫グロブリン等が挙げられ、上記
効果を得る観点から、複数のジスルフィド結合を有するタンパク質、例えばウシ膵臓トリ
プシン阻害剤等の3本のジスルフィド結合を有するものが好ましい。
【0045】
また上記化合物又は組み合わせは、酸化的フォールディングにおいて、凝集を抑制しつ
つ非天然構造タンパク質を生じさせる観点から好ましい。この場合のフォールディングの
対象となるタンパク質としては、特に制限されず、上述したタンパク質、さらにはRNase
A、ウシ膵臓トリプシン阻害剤、β2-ミクログロブリン、インスリン、主要組織適合遺伝
子複合体、免疫グロブリン等が挙げられ、上記効果を得る観点から、複数のジスルフィド
結合を有するタンパク質、例えばウシ膵臓トリプシン阻害剤等の3本のジスルフィド結合
を有するものが好ましい。
【0046】
また上記化合物又は組み合わせは、酸化的フォールディングにより天然構造タンパク質
を高収率かつ高速で得る観点から好ましい。この場合のフォールディングの対象となるタ
ンパク質としては、特に制限されず、上述したタンパク質、さらにはRNase A、ウシ膵臓
トリプシン阻害剤、β2-ミクログロブリン、インスリン、主要組織適合遺伝子複合体、免
疫グロブリン等が挙げられ、上記効果を得る観点から、β2-ミクログロブリン(β2m)等
の1つのジスルフィド結合を有するタンパク質が好ましい。
【0047】
上記のような効果を得る観点から、Xは、分子鎖中に1~3個の酸素原子を含んでい
てもよい炭素数1~6個のアルキレン基であることが好ましく、分子鎖中に1又は2個の
酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~4個のアルキレン基であることがさらに好ましい
。また、上記のような効果を得る観点から、Xは、分子鎖中に1~3個の酸素原子を含
んでいてもよい炭素数1~6個のアルキレン基であることが好ましく、分子鎖中に1又は
2個の酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~4個のアルキレン基であることがさらに好
ましい。
【0048】
本発明のタンパク質のフォールディング剤の有効成分としての下記チオール化合物(3
)及び下記ジスルフィド化合物(10):
【化6】
[式中、
は、それぞれ独立して、分子鎖中に1~5個の酸素原子を含んでいてもよい炭素数
1~10個のアルキレン基である]
、並びに併用される成分としての上記組み合わせは、酸化的フォールディングにより天然
構造タンパク質を高収率で得る観点から好ましい。この場合のフォールディングの対象と
なるタンパク質としては、特に制限されず、上述したタンパク質、さらにはRNase A、ウ
シ膵臓トリプシン阻害剤、β2-ミクログロブリン、インスリン、主要組織適合遺伝子複合
体、免疫グロブリン等が挙げられ、上記効果を得る観点から、複数のジスルフィド結合を
有するタンパク質、例えばRNase A等の4本のジスルフィド結合を有するものが好ましい
【0049】
上記のような効果を得る観点から、Zは、分子鎖中に1~3個の酸素原子を含んでい
てもよい炭素数1~6個のアルキレン基であることが好ましく、分子鎖中に1又は2個の
酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~4個のアルキレン基であることがさらに好ましい
【0050】
本発明のタンパク質のフォールディング剤の有効成分としての下記チオール化合物(4
)及び下記ジスルフィド化合物(11):
【化7】
[式中、
は、それぞれ独立して、分子鎖中に1~5個の酸素原子を含んでいてもよい炭素数
1~10個のアルキレン基である]
、並びに併用される成分としての上記組み合わせは、酸化的フォールディングを促進させ
る観点から好ましい。この場合のフォールディングの対象となるタンパク質は特に制限さ
れず、上述したタンパク質、さらにはRNase A、ウシ膵臓トリプシン阻害剤、β2-ミクロ
グロブリン、インスリン、主要組織適合遺伝子複合体、免疫グロブリン等が挙げられる。
上記のような効果を得る観点から、Zは、分子鎖中に1~3個の酸素原子を含んでいて
もよい炭素数1~6個のアルキレン基であることが好ましく、分子鎖中に1又は2個の酸
素原子を含んでいてもよい炭素数1~4個のアルキレン基であることがさらに好ましい。
【0051】
本発明のタンパク質のフォールディング剤の有効成分としての下記チオール化合物(5
)及び下記ジスルフィド化合物(12):
【化8】
[式中、
は、それぞれ独立して、分子鎖中に1~5個の酸素原子を含んでいてもよい炭素数
1~10個のアルキレン基である]
、並びに併用される成分としての上記組み合わせは、酸化的フォールディングにより天然
構造タンパク質を短時間かつ高収率で得る観点から好ましい。この場合のフォールディン
グの対象となるタンパク質としては、特に制限されず、上述したタンパク質、さらにはRN
ase A、ウシ膵臓トリプシン阻害剤、β2-ミクログロブリン、インスリン、主要組織適合
遺伝子複合体、免疫グロブリン等が挙げられ、上記効果を得る観点から、複数のジスルフ
ィド結合を有するタンパク質、例えばRNase A等の4本のジスルフィド結合を有するもの
が好ましい。
【0052】
上記のような効果を得る観点から、Zは、分子鎖中に1~3個の酸素原子を含んでい
てもよい炭素数1~6個のアルキレン基であることが好ましく、分子鎖中に1又は2個の
酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~4個のアルキレン基であることがさらに好ましい
【0053】
本発明のタンパク質のフォールディング剤の有効成分としての下記チオール化合物(6
)及び下記ジスルフィド化合物(13):
【化9】
[式中、
は、それぞれ独立して、分子鎖中に1~5個の酸素原子を含んでいてもよい炭素数
1~10個のアルキレン基であり、
は、それぞれ独立して、炭素数1~24個のアルキル基であり、
は、それぞれ独立して、塩素イオン、臭素イオン又はヨウ素イオンである]
、並びに併用される成分としての上記組み合わせは、タンパク質の酸化的フォールディン
グにより天然構造タンパク質を高収率で得る観点から好ましい。この場合のフォールディ
ングの対象となるタンパク質としては、特に制限されず、上述したタンパク質、さらには
RNase A、ウシ膵臓トリプシン阻害剤、β2-ミクログロブリン、インスリン、主要組織適
合遺伝子複合体、免疫グロブリン等が挙げられ、上記効果を得る観点から、複数のジスル
フィド結合を有するタンパク質、例えばRNase A等の4本のジスルフィド結合を有するも
のが好ましい。
【0054】
上記のような効果を得る観点から、Zは、分子鎖中に1~3個の酸素原子を含んでい
てもよい炭素数1~6個のアルキレン基であることが好ましく、分子鎖中に1又は2個の
酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~4個のアルキレン基であることがさらに好ましい
。また上記のような効果を得る観点から、Rは、炭素数1~6個のアルキル基であるこ
とが好ましく、炭素数1又は2個のアルキル基であることがさらに好ましい。また上記の
ような効果を得る観点から、Mは、塩素イオン又はヨウ素イオンであることが好ましい
【0055】
また、上記チオール化合物(6)及び上記ジスルフィド化合物(13)、並びにこの組
み合わせは、R基の疎水性相互作用により水中で集合してミセルを形成し、ミセルの疎
水性内部空間と親水性表面の両親媒性効果により変性タンパク質及びタンパク質フォール
ディング中間状態の凝集を抑制するため、高い効率でタンパク質にジスルフィド結合を導
入することにより酸化的フォールディングを促進させることもできる。この場合、R
、炭素数3~18個のアルキル基であることが好ましく、炭素数4~12個のアルキル基
であることがさらに好ましい。この場合のフォールディングの対象となるタンパク質とし
ては、特に制限されず、上述したタンパク質、さらにはRNase A、ウシ膵臓トリプシン阻
害剤、β2-ミクログロブリン、インスリン、主要組織適合遺伝子複合体、免疫グロブリン
等が挙げられる。
【0056】
本発明のタンパク質のフォールディング剤の有効成分としての下記チオール化合物(7
)及び下記ジスルフィド化合物(14):
【化10】
[式中、
は、それぞれ独立して、分子鎖中に1~5個の酸素原子を含んでいてもよい炭素数
1~10個のアルキレン基であり、
は、それぞれ独立して、炭素数1~24個のアルキル基であり、
は、それぞれ独立して、塩素イオン、臭素イオン又はヨウ素イオンである]
、並びに併用される成分としての上記組み合わせは、酸化的フォールディングにより天然
構造タンパク質を高収率で得る観点から好ましい。この場合のフォールディングの対象と
なるタンパク質としては、特に制限されず、上述したタンパク質、さらにはRNase A、ウ
シ膵臓トリプシン阻害剤、β2-ミクログロブリン、インスリン、主要組織適合遺伝子複合
体、免疫グロブリン等が挙げられ、上記効果を得る観点から、複数のジスルフィド結合を
有するタンパク質、例えばRNase A等の4本のジスルフィド結合を有するものが挙げられ
る。
【0057】
上記のような効果を得る観点から、Zは、分子鎖中に1~3個の酸素原子を含んでい
てもよい炭素数1~6個のアルキレン基であることが好ましく、分子鎖中に1又は2個の
酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~4個のアルキレン基であることがさらに好ましい
。また上記のような効果を得る観点から、Rは、炭素数1~6個のアルキル基であるこ
とが好ましく、炭素数1又は2個のアルキル基であることがさらに好ましい。また上記の
ような効果を得る観点から、Mは、ヨウ素イオンであることが好ましい。
【0058】
また、上記チオール化合物(7)及び上記ジスルフィド化合物(14)、並びにこの組
み合わせは、R基の疎水性相互作用により水中で集合してミセルを形成し、ミセルの疎
水性内部空間と親水性表面の両親媒性効果により変性タンパク質及びタンパク質フォール
ディング中間状態の凝集を抑制するため、高い効率でタンパク質にジスルフィド結合を導
入することにより酸化的フォールディングを促進させることもできる。この場合、R
、炭素数3~18個のアルキル基であることが好ましく、炭素数4~12個のアルキル基
であることがさらに好ましい。この場合のフォールディングの対象となるタンパク質とし
ては、特に制限されず、上述したタンパク質、さらにはRNase A、ウシ膵臓トリプシン阻
害剤、β2-ミクログロブリン、インスリン、主要組織適合遺伝子複合体、免疫グロブリン
等が挙げられる。
【0059】
本発明は、式(1)ないし(14)で表される化合物、並びにその塩及び溶媒和物から
選択される少なくとも1種の存在下で、アンフォールディングされたタンパク質を処理す
る工程を含む、タンパク質のフォールディング方法にも関する。本発明のフォールディン
グ方法における、上記化合物の存在下で、アンフォールディングされたタンパク質を処理
する工程(以下、単に処理工程ともいう)としては、アンフォールディングされたタンパ
ク質と上記化合物とを接触させる工程が挙げられ、具体的には、アンフォールディングさ
れたタンパク質と上記化合物とをフォールディング緩衝液中に配合して撹拌等により混合
する工程、さらには、当該工程の後、必要によりフォールディングをより十分に進めるた
めに一定時間静置する工程も含まれる。本発明のフォールディング方法の好ましい態様は
、別段の記載がない限り、上記本発明のフォールディング剤についての記載を引用するも
のとする。
【0060】
本発明は、式(1)ないし(14)で表される化合物、並びにその塩及び溶媒和物から
選択される少なくとも1種の存在下で、アンフォールディングされたタンパク質を処理し
てフォールディングする工程を含む、タンパク質の再生方法にも関する。本発明のタンパ
ク質の再生方法は、上記化合物の存在下で、アンフォールディングされたタンパク質を処
理してフォールディングする工程(以下、単に処理工程ともいう)、さらには、当該工程
の後、必要によりフォールディングされたタンパク質を単離する工程(以下、単離工程と
もいう)も含まれる。本発明のタンパク質の再生方法の好ましい態様は、別段の記載がな
い限り、上記本発明のフォールディング剤及び本発明のフォールディング方法についての
記載を引用するものとする。
【0061】
上記単離工程としては、例えば上記フォールディング工程で得られたタンパク質懸濁液
から、目的とする正常タンパク質(フォールディングタンパク質)を、カラムクロマトグ
ラフィー等を用いて単離することが挙げられる。カラムクロマトグラフィーに使用される
充填剤としてはシリカ、デキストラン、アガロース、セルロース、アクリルアミド、ビニ
ルポリマー等が挙げられる。商業的に入手できる市販品としては、Sephadexシリ
ーズ、Sephacrylシリーズ、Sepharoseシリーズ(以上、Pharma
cia社)、Bio-Gelシリーズ(Bio-Rad社)等を挙げることができる。ま
た透析法により目的とする正常タンパク質(フォールディングタンパク質)を単離しても
よい。
【0062】
また本発明は、式(1)ないし(14)で表される化合物、並びにその塩及び溶媒和物
から選択される少なくとも1種を有効成分として含むタンパク質の可溶化剤にも関する。
本発明の可溶剤によれば、天然構造又は非天然構造のタンパク質の凝集を抑制し、可溶化
することができる。本発明のタンパク質のフォールディング剤について上に説明したよう
に、本発明のタンパク質のフォールディング剤の有効成分又は併用される成分である式(
1)ないし(7)で表されるチオール化合物、及び式(8)ないし(14)で表されるジ
スルフィド化合物は、天然構造又は非天然構造のタンパク質の凝集を抑制する機能、特に
はタンパク質の酸化的フォールディングにおいて生成される反応中間体及び天然構造のタ
ンパク質の凝集を抑制する機能、並びに1種以上の非天然構造のタンパク質を生成させる
酸化的フォールディング反応において非天然構造のタンパク質の凝集を抑制する機能を有
するため、可溶化剤として機能する。式(1)ないし(14)で表される化合物、及び対
象のタンパク質等についての好ましい態様は、本発明のタンパク質のフォールディング剤
について上述した記載を引用するものとする。
【実施例0063】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲は
これら実施例に限定されるものではない。
【0064】
1)LDA-SH(2-((2-アミノエチル)アミノ)エタン-1-チオール)及びLDA-SSの合成
上記化合物(それぞれ式(1)及び(8)で表される化合物に該当する)を以下のスキ
ームにより合成した。
【化11】
【0065】
1-1)化合物2の合成
窒素雰囲気下、氷浴上で化合物1(1.90 g、18.3 mmol、東京化成工業)を脱水塩化メ
チレン(25 mL、関東化学)に溶解させた。そこに(Boc)2O(5.22 g、23.9 mmol、関東化
学)を加えた後、室温へ昇温させた。19時間後、溶媒を減圧留去し、水(25 mL)を加
え、酢酸エチル(25 mL、2回、キシダ化学)で抽出した。抽出した酢酸エチル溶液を飽和
食塩水(25 mL)で洗浄した。回収した酢酸エチル溶液に硫酸ナトリウム(キシダ化学)
を加えた後、濾過した。濾液を減圧留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(
関東化学)によって化合物2を得た。収量:3.62 g、収率:65%。
【0066】
1-2)化合物3の合成
室温、窒素雰囲気下で、N-クロロスクシンイミド(NCS、0.849 g、6.36 mmol、キシダ
化学)を脱水テトラヒドロフラン(THF、36 mL、関東化学)に溶解させた。そこにPPh3
1.67 g、6.38 mmol、富士フイルム和光純薬)の脱水THF溶液(13 mL)を滴下した。20
分後、化合物2(1.75 g、5.74 mmol)の脱水THF溶液(13 mL)を滴下した。11時間後
、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学)にかけ
ることにより、化合物3を得た。収量:0.60 g、収率:32%。
【0067】
1-3)化合物4の合成
室温、窒素雰囲気下で化合物3(0.597 g、1.85 mmol)を脱水N,N-ジメチルホルムアミ
ド(DMF、3 mL、関東化学)に溶解させた。そこにチオ酢酸カリウム(AcSK、0.285 g、2.
50 mmol、東京化成工業)を加えた後、90℃へ昇温した。12時間後、水(20 mL)を加え
た後、酢酸エチル(25 mL、2回、キシダ化学)で抽出した。抽出した酢酸エチル溶液を飽
和食塩水(25 mL)で洗浄した。回収した酢酸エチル溶液に硫酸ナトリウム(キシダ化学
)を加えた後、濾過した。濾液を減圧留去した。得られた残渣に対し、室温、窒素雰囲気
下で脱水メタノール(5 mL、関東化学)を加え、炭酸ナトリウム(0.757 g、5.48 mmol、
キシダ化学)を加えた。1時間後、塩酸(1 M、キシダ化学)をpHが8から9になるまで加
えた。反応混合物に水(25 mL)を加え、塩化メチレン(25 mL、3回、AGC)で抽出した。
抽出した塩化メチレン溶液を飽和食塩水(25 mL、2回)で洗浄した。回収した塩化メチ
レン溶液に硫酸ナトリウム(キシダ化学)を加えた後、濾過した。濾液を減圧留去し、残
渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学)にかけることにより、化合物4を
得た。収量:0.257 g、収率:43%。
【0068】
1-4)化合物5の合成
化合物4(0.257 g、0.803 mmol)を空気中室温で酢酸エチル(5.0 mL、関東化学)に
溶解させた。そこにヨウ化ナトリウム(6.9 mg、46 μmol、キシダ化学)を加えた後、30
%過酸化水素水(30 mL、キシダ化学)を加えた。1時間撹拌後、水(20 mL)を加え、酢
酸エチル(50 mL、2回、キシダ化学)で抽出した。抽出した酢酸エチル溶液を飽和食塩水
(25 mL)で洗浄した。回収した酢酸エチル溶液に硫酸ナトリウム(キシダ化学)を加え
た後、濾過した。濾液を減圧留去し、化合物5を得た。収量:0.241 g、収率:94%。
【0069】
1-5)LDA-SSの合成
化合物5(256 mg、0.401 mmol)を空気中室温で塩化メチレン(3 mL、AGC)に溶解さ
せた。そこにトリフルオロ酢酸(2 mL、キシダ化学)を加えた。1時間撹拌後、溶媒を減
圧留去した。残渣に塩化メチレン(10 mL、AGC)を加え、水(10 mL)で抽出した。抽出
した水溶液を減圧留去し、高速液体クロマトグラフィー(装置:日本分光、PU-4086、UV-
4075、カラム:TA12S05-2520WX)によってLDA-SSを得た。収量:87 mg、収率:60%。
【0070】
1-6)LDA-SHの合成
LDA-SS (76 mg、0.632 mmol)を室温、窒素雰囲気下で水(2 mL)に溶解させた。そこ
にジチオスレイトール(112 mg、0.726 mmol、ナカライテスク)を加えた。24時間撹拌後
、高速液体クロマトグラフィー(装置:日本分光、PU-4086、UV-4075、カラム:TA12S05-
2520WX)によってLDA-SHを得た。収量:33 mg、収率:43%。
【0071】
2)BDA-SH(1,3-ジアミノプロパン-2-チオール)及びBDA-SSの合成
上記化合物(それぞれ式(2)及び(9)で表される化合物に該当する)を以下のスキ
ームにより合成した。
【化12】
【0072】
2-1)化合物7の合成
窒素雰囲気下、室温で化合物6(0.539 g、5.98 mmol)を脱水メタノール(30 mL、関
東化学)に溶解させた。45℃に昇温後、(Boc)2O(2.84 g、13.0 mmol、関東化学)、トリ
エチルアミン(6.91 mL、シグマ)を加えた。20時間後、溶媒を減圧留去し、得られた
残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学)にかけることによって化合物7
を得た。収量:1.72 g、収率:99%。
【0073】
2-2)化合物8の合成
窒素雰囲気下、室温で化合物7(1.57g、5.41 mmol)を脱水塩化メチレン(57 mL、関
東化学)に溶解させた。0℃に降温後、トリエチルアミン(2.20 mL、シグマ)、メシルク
ロリド(0.544 mL、7.03 mmol、東京化成工業)を加えた。5時間撹拌後、水(30 mL)を
加え、塩化メチレン(30 mL、2回、AGC)で抽出した。回収した塩化メチレン溶液を、飽
和重曹水(10 mL)、飽和食塩水(10 mL)で洗浄後、硫酸ナトリウム(キシダ化学)を加
え、濾過した。濾液を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化
学)にかけることにより、化合物8を得た。収量:1.64 g、収率:82%。
【0074】
2-3)化合物9の合成
窒素雰囲気下、室温で化合物8(0.756g、2.05 mmol)を脱水N,N-ジメチルホルムアミ
ド(DMF、13 mL、関東化学)に溶解させた。チオ酢酸カリウム(0.392 g、3.428 mmol、
東京化成工業)、トリエチルアミン(0.30 mL、シグマ)を加えた。60℃で13時間撹拌
後、水(50 mL)を加え、酢酸エチル(50 mL、3回、キシダ化学)で抽出した。回収した
酢酸エチル溶液を、水(50 mL、2回)、飽和食塩水(10 mL)で洗浄後、硫酸ナトリウム
(キシダ化学)を加え、濾過した。濾液を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマト
グラフィー(関東化学)にかけることにより、チオアセチル中間体を得た。窒素雰囲気下
、室温でチオアセチル中間体(0.346 g、0.994 mmol)を脱水メタノール(3 mL、関東化
学)に溶解させ、炭酸カリウム(0.414 g、2.998 mmol、キシダ化学)を加えた。2時間
撹拌後、溶媒を減圧留去した。水(10 mL)を加え、塩化メチレン(10 mL、3回、AGC)で
抽出した。回収した塩化メチレン溶液を、飽和塩化アンモニウム水溶液(10 mL、キシダ
化学)、飽和食塩水(10 mL)で洗浄後、硫酸ナトリウム(キシダ化学)を加え、濾過し
た。濾液を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学)にかけ
ることにより、化合物9を得た。収量:0.275 g、収率:43%。
【0075】
2-4)化合物10の合成
室温で化合物9(0.279 g、0.897 mmol)を酢酸エチル(5 mL、関東化学)に溶解させ
、ヨウ化ナトリウム(11.8 mg、0.079 mmol、キシダ化学)、30%過酸化水素水(0.05 mL
、キシダ化学)を加えた。1時間撹拌後、水(30 mL)を加え、酢酸エチル(30 mL、2回
)で抽出した。回収した酢酸エチル溶液を飽和食塩水(10 mL)で洗浄後、硫酸ナトリウ
ムを加え、濾過した。濾液を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(
関東化学)にかけることにより、化合物10を得た。収量:0.274 g、収率:99%。
【0076】
2-5)BDA-SSの合成
化合物10(0.274 g、0.449 mmol)を塩化メチレン(5 mL、AGC)に溶解させ、0℃に
降温した。トリフルオロ酢酸(1 mL、キシダ化学)を加えた後、室温へ昇温した。2時間
撹拌後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣にクロロホルム(10 mL、キシダ化学)を加
え、水(10 mL)で抽出した。得られた水溶液の溶媒を減圧留去し、残渣に塩酸(1 M、5
mL、キシダ化学)を加えた。1時間撹拌後、溶媒を減圧留去し、BDA-SSを得た。収量:0.
103 g、収率:64%。
【0077】
2-6)BDA-SHの合成
窒素雰囲気下、室温でBDA-SS(92.3 mg、0.259 mmol)を水(3 mL)に溶解させ、ジチ
オスレイトール(183 mg、1.19 mmol、ナカライテスク)を加えた。24時間撹拌後、クロ
ロホルム(キシダ化学)と1-プロパノール(キシダ化学)混合溶媒(1:5、5 mL)を加
え、水(5 mL)で抽出した。得られた水溶液の溶媒を減圧留去し、BDA-SHを得た。収量:
85.5 mg、収率:93%。
【0078】
3)ImdM-SH((1H-イミダゾール-4-イル)メタンチオール)及びImdM-SSの合成
上記化合物(それぞれ式(3)及び(10)で表される化合物に該当する)を以下のス
キームにより合成した。
【化13】
【0079】
3-1)化合物12の合成
窒素雰囲気下、室温で化合物11(5.512 g、57.36 mmol、東京化成工業)を脱水エタ
ノール(100 mL、関東化学)に溶解させた。0℃に降温後、水素化ホウ素ナトリウム(2.1
65 g、57.24 mmol、東京化成工業)を加えた。3時間撹拌後、水(10 mL)を加え、溶媒
を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学)にか
けることにより、化合物12を得た。収量:4.10 g、収率:73%。
【0080】
3-2)化合物13の合成
窒素雰囲気下、室温で化合物12(0.565 g、5.76 mmol)を脱水テトラヒドロフラン(
1.7 mL、関東化学)、トリエチルアミン(0.85 mL、シグマ)に溶解させた。(Boc)2O(1.
37 g、6.28 mmol、関東化学)の脱水テトラヒドロフラン溶液(8.1 mL、関東化学)を滴
下した。13時間撹拌後、溶媒を減圧留去し、水(15 mL)を加え、塩化メチレン(20 mL、
5回、キシダ化学)で抽出した。回収した塩化メチレン溶液に硫酸ナトリウム(キシダ化
学)を加え、濾過した。濾液を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー
(関東化学)にかけることにより、化合物13を得た。収量:0.763 g、収率:67%。
【0081】
3-3)化合物14の合成
窒素雰囲気下、室温で化合物13(0.917 g、4.63 mmol)を脱水塩化メチレン(8.4 mL
、関東化学)、脱水N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、0.2 mL、関東化学)に溶解させた
。0℃に降温後、塩化オキサリル(1.22 g、9.58 mmol、キシダ化学)の脱水塩化メチレン
溶液(7.0 mL、関東化学)を滴下した。室温に昇温後、1.5時間撹拌後、水(15 mL)を加
え、塩化メチレン(15 mL、2回、キシダ化学)で抽出した。回収した塩化メチレン溶液に
硫酸ナトリウム(キシダ化学)を加え、濾過した。濾液を減圧留去し、残渣をシリカゲル
カラムクロマトグラフィー(関東化学)にかけることにより、化合物14を得た。収量:
0.432 g、収率:43%。
【0082】
3-4)化合物15の合成
窒素雰囲気下、室温で化合物14(0.168 g、0.774 mmol)を脱水アセトン(4.7 mL、
関東化学)に溶解させた。ヨウ化ナトリウム(0.233 g、1.55 mmol、キシダ化学)、チオ
酢酸カリウム(0.142 g、1.25 mmol、東京化成工業)を加えた。21時間撹拌後、水(20
mL)を加え、酢酸エチル(30 mL、2回、キシダ化学)で抽出した。回収した酢酸エチル
溶液を飽和食塩水(10 mL)で洗浄後、硫酸ナトリウム(キシダ化学)を加え、濾過した
。濾液を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学)にかける
ことにより、化合物15を得た。収量:0.140 g、収率:70%。
【0083】
3-5)ImdM-SSの合成
窒素雰囲気下、室温で化合物15(0.911 g、3.55 mmol)を脱水メタノール(10 mL、
関東化学)に溶解させ、炭酸カリウム(1.00 g、7.24 mmol、キシダ化学)を加えた。3時
間撹拌後、溶媒を減圧留去し、水(10 mL)を加え、塩酸(1 M)で中和した。クロロホル
ム(キシダ化学)と1-プロパノール(キシダ化学)混合溶媒(3:1、25 mL、4回)で抽
出した。溶媒を減圧留去し、得られた残渣を逆相高速液体クロマトグラフィー(装置:日
本分光、PU-4086、UV-4075、カラム:TA12S05-2520WX)によって精製し、ImdM-SSを得た
。収量:27 mg、収率:4%。
【0084】
3-6)ImdM-SHの合成
窒素雰囲気下、室温でImdM-SS(0.105 g、0.464 mmol)を水(7 mL)に溶解させ、ジチ
オスレイトール(123 mg、0.797 mmol、ナカライテスク)を加えた。7時間撹拌後、クロ
ロホルム(キシダ化学)と1-プロパノール(キシダ化学)混合溶媒(9:1、25 mL、4回
)を加え、抽出した。硫酸ナトリウムを加え、濾過し、濾液を減圧留去し、得られた残渣
を逆相高速液体クロマトグラフィー(装置:日本分光、PU-4086、UV-4075、カラム:TA12
S05-2520WX)によって精製し、ImdM-SHを得た。収量:38 mg、収率:18%。
【0085】
4)pPyM-SH(パラ-ピリジン-4-イルメタンチオール)及びpPyM-SSの合成
上記化合物(それぞれ式(4)及び(11)で表される化合物に該当する)を以下のス
キームにより合成した。
【化14】
【0086】
4-1)pPyM-SHの合成
化合物16(2.175 g、13.26 mmol)を水に溶解させ、チオ尿素(1.450 g、19.04 mmol
、キシダ化学)を加えた。90℃に昇温後、1.5時間撹拌し、室温へ降温した。水酸化ナト
リウム(2.058 g、51.45 mmol、キシダ化学)を加え、22時間撹拌後、tert-ブチルメチ
ルエーテル(30 mL、2回、関東化学)で洗浄した。得られた水溶液を塩酸(1 M、キシダ
化学)で中和し、クロロホルム(30 mL、キシダ化学)で抽出した。硫酸ナトリウム(キ
シダ化学)を加え、濾過した。濾液を減圧留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロ
マトグラフィー(関東化学)で精製し、pPyM-SHを得た。収量:459 mg、収率:14%。
【0087】
4-2)pPyM-SSの合成
pPyM-SH(51 mg、0.41 mmol)を水(1 mL)に溶解させ、30%過酸化水素水(1 mL、キシ
ダ化学)を加えた。14時間撹拌後、塩化メチレン(10 mL、3回、キシダ化学)で抽出した
。硫酸ナトリウムを加え、濾過した。濾液を減圧留去し、pPyM-SSを得た。収量:46 mg、
収率:91%。
【0088】
5)oPyM-SH(オルト-ピリジン-2-イルメタンチオール)及びoPyM-SSの合成
上記化合物(それぞれ式(5)及び(12)で表される化合物に該当する)を以下のス
キームにより合成した。
【化15】
【0089】
5-1)oPyM-SHの合成
化合物17(1.035 g、6.309 mmol、東京化成工業)を水に溶解させ、チオ尿素(0.713
g、9.36 mmol、キシダ化学)を加えた。90℃に昇温後、1時間撹拌し、室温へ降温した。
水酸化ナトリウム(1.00 g、25.0 mmol、キシダ化学)を加え、9時間撹拌後、tert-ブチ
ルメチルエーテル(40 mL、関東化学)で洗浄した。得られた水溶液を塩酸(1 M、キシダ
化学)で中和し、塩化メチレン(30 mL、3回、キシダ化学)で抽出した。回収した塩化メ
チレン溶液に硫酸ナトリウム(キシダ化学)を加え、濾過した。濾液を減圧留去し、得ら
れた残渣(oPyM-SH粗生成物)を高速液体クロマトグラフィー(装置:日本分光、PU-4086
、UV-4075、カラム:TA12S05-2520WX)で精製し、oPyM-SHを得た。収量:113 mg、収率:
8%。
【0090】
5-2)oPyM-SSの合成
上記手法で得られたoPyM-SH粗生成物を、30%過酸化水素水(8 mL、キシダ化学)に溶解
させ、1時間室温で撹拌した。クロロホルム(30 mL、3回、キシダ化学)で抽出し、回収
したクロロホルム溶液に硫酸ナトリウム(キシダ化学)を加え、濾過した。濾液を減圧留
去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(富士シリシア化学)で精製
し、oPyM-SSを得た。収量:916 mg、収率:58%。
【0091】
6)pPyM-SH-NMe・M((4-(メルカプトメチル)-1-メチルピリジン-1-イウム)ハライド)及
びpPyM-SS-NMe・Mの合成
上記化合物(それぞれ式(6)及び(13)で表される化合物に該当する)を以下のス
キームにより合成した。
【化16】
【0092】
6-1)pPyM-SS-NMe・I(4,4'-(ジスルファンジイルビス(メチレン))ビス(1-メチルピリ
ジン-1-イウム)ジヨージド)の合成
上記手法で得られたpPyM-SS(254 mg、1.02 mmol)をアセトニトリル(3.0 mL、キシダ
化学)とアセトン(3 mL、キシダ化学)に溶解させ、ヨードメタン(1.503 g、10.59 mmo
l、東京化成)を加えた。60℃に昇温後、16時間撹拌し、室温へ降温した。生じた沈殿
を濾過し、得られた残渣からpPyM-SS-NMe・Iを得た。収量:446 mg、収率:82%。
【0093】
6-2)pPyM-SS-NMe・Cl(4,4'-(ジスルファンジイルビス(メチレン))ビス(1-メチルピ
リジン-1-イウム)ジクロリド)の合成
pPyM-SS-NMe・I(192 mg、0.361 mmol)を水(3.5 mL)に溶解させ、塩化銀(I)(115
mg、0.805 mmol、キシダ化学)を加えた。暗所下、室温で4時間撹拌した後、生じた沈
殿を濾過した。濾液を減圧留去し、エタノール(2 mL、キシダ化学)を加え、生じた沈殿
を濾過した。濾液を減圧留去し、pPyM-SS-NMe・Clを得た。収量:80 mg、収率:63%。
【0094】
6-3)pPyM-SH-NMe・Cl((4-(メルカプトメチル)-1-メチルピリジン-1-イウム)クロリ
ド)の合成
pPyM-SS-NMe・Cl(39 mg、0.141 mmol)を脱気した水(2.1 mL)に溶解させ、ジチオス
レイトール(DTT、29 mg、0.187 mmol、ナカライテスク)を加えた。室温で6時間撹拌し
た後、減圧留去し、得られた残渣(pPyM-SH-NMe・Cl粗生成物)を高速液体クロマトグラ
フィー(装置:日本分光、PU-4086、UV-4075、カラム:TA12S05-2520WX)で精製し、pPyM
-SH-NMe・Clを得た。収量:40 mg、収率:81%。
【0095】
6-4)pPyM-SH-NMe・I((4-(メルカプトメチル)-1-メチルピリジン-1-イウム)ヨージド
)の合成
上記手法で得られたpPyM-SS-NMe・I(104 mg、0.195 mmol)を脱気した水(3.1 mL)に
溶解させ、ジチオスレイトール(DTT、125 mg、0.809 mmol、ナカライテスク)を加えた
。室温で3時間撹拌した後、2M塩酸(1 mL、キシダ化学)を加え、減圧留去し、得られ
た残渣(pPyM-SH-NMe・I粗生成物)を高速液体クロマトグラフィー(装置:日本分光、PU
-4086、UV-4075、カラム:TA12S05-2520WX)で精製し、pPyM-SH-NMe・Iを得た。収量:23
mg、収率:22%。
【0096】
7)oPyM-SH-NMe・M((2-(メルカプトメチル)-1-メチルピリジン-1-イウム)ハライド)及
びoPyM-SS-NMe・M(2,2'-(ジスルファンジイルビス(メチレン))ビス(1-メチルピリジン-1
-イウム)ハライド)の合成
上記化合物(それぞれ式(7)及び(14)で表される化合物に該当する)を以下のス
キームにより合成した。
【化17】
【0097】
7-1)oPyM-SS-NMe・I(2,2'-(ジスルファンジイルビス(メチレン))ビス(1-メチルピリ
ジン-1-イウム)ジヨージド)の合成
上記手法で得られたoPyM-SS(739 mg、2.97 mmol)をアセトニトリル(9.7 mL、キシダ
化学)とアセトン(10 mL、キシダ化学)に溶解させ、ヨードメタン(4.434 g、31.24 mm
ol、東京化成)を加えた。65℃に昇温後、16時間撹拌し、室温へ降温した。生じた沈殿
を濾過し、得られた残渣からoPyM-SS-NMe・Iを得た。収量:1.286 g、収率:81%。
【0098】
7-2)oPyM-SH-NMe・I((2-(メルカプトメチル)-1-メチルピリジン-1-イウム)ヨージド
)の合成
oPyM-SS-NMe・I(108 mg、0.203 mmol)を脱気した水(3 mL)に溶解させ、ジチオスレ
イトール(DTT、130 mg、0.840 mmol、ナカライテスク)を加えた。室温で5時間撹拌し
た後、2M塩酸(1 mL、キシダ化学)を加え、塩化メチレン(20 mL、5回、キシダ化学)
で洗浄した。回収した水溶液を減圧留去し、得られた残渣(oPyM-SH-NMe・I粗生成物)を
高速液体クロマトグラフィー(装置:日本分光、PU-4086、UV-4075、カラム:TA12S05-25
20WX)で精製し、oPyM-SH-NMe・Iを得た。収量:80 mg、収率:74%。
【0099】
8)還元変性タンパク質の作成
モデル基質としてウシ膵臓トリプシン阻害剤(Bovine Pancreas Trypsin Inhibitor:BP
TI) (下記参考文献1及び2を参照した)、RNase A(下記参考文献3を参照した)、及
びβ2-ミクログロブリン(β2-microglobulin: β2m)を採用した。BPTIとRNase Aはそれ
ぞれ3本、4本のジスルフィド結合を有すタンパク質であり、当該分野におけるモデル基質
として一般である。また、β2mは1本のジスルフィド結合を持つモデル基質として採用し
た。
【0100】
BPTI(タカラバイオ社)の還元変性体(3つのジスルフィド結合の還元体)を作製する
ために、BPTI 10 mgを8 M尿素、20 mM DTT存在下pH 8.0、50℃で3時間インキュベートし
、逆相HPLCによって精製した。MALDI-TOF/MSによって精製標品の全てのジスルフィド結合
が切断されたことを確認した後、凍結乾燥し、-80℃で保存した(下記参考文献1を参照
した)。
【0101】
RNase A (sigma)の還元変性体(4つのジスルフィド結合の還元体)を作製するために
、RNase A 8 mgを6 Mグアニジン塩酸、100 mM DTT存在下pH 8.7、25℃で2時間インキュベ
ートし、10 mM HClで透析した。さらに2回透析を行い、DTT等を除いて溶液を10 mM HClに
交換した(下記参考文献3を参照した)。
【0102】
β2mは大腸菌発現系によりリコンビナントとして発現させ、集菌後の菌体に破砕液A(5
0 mM Tris-HCl pH 8.1、300 mM NaCl)に懸濁後、超音波破砕した。遠心分離後に得られ
た画分を8 M尿素、20 mM DTT存在下pH 8.0、50℃で3時間インキュベートし、Cosmosil 5C
18‐AR‐II columnを用いた逆相カラムクロマトグラフィー(Hitachi)で精製した。
【0103】
参考文献1:M. Okumura, H. Kadokura, S. Hashimoto, K. Yutani, S. Kanemura, T.
Hikima, Y. Hidaka, L. Ito, K. Shiba, S. Masui, D. Imai, S. Imaoka, H. Yamaguchi,
K. Inaba, Inhibition of the functional interplay between endoplasmic reticulum
(ER) oxidoreduclin-1α (Ero1α) and protein-disulfide isomerase (PDI) by the end
ocrine disruptor bisphenol A. J Biol Chem. 2014 289(39):27004-27018.
参考文献2:J.S. Weissman, P.S. Kim, Reexamination of the folding of BPTI: pre
dominance of native intermediates. Science 1991 253(5026):1386-93.
参考文献3:M.M. Lyles, H.F. Gilbert Catalysis of the oxidative folding of rib
onuclease A by protein disulfide isomerase: dependence of the rate on the compos
ition of the redox buffer. Biochemistry. 1991 30(3):613-9.
【0104】
9)還元変性BPTIへのジスルフィド結合導入能の評価
上記8)で調製した還元変性BPTI 30 μMに対し、チオール化合物1 mM/0.2 mM ジスル
フィド化合物の以下の組み合わせ:
比較例1:GSH(nakalai)/GSSG(nakalai)
実施例1:LDA-SH/LDA-SS
実施例2:BDA-SH/BDA-SS
を含む緩衝液(50 mM Tris-HCl pH 7.5、300 mM NaCl)を30℃でインキュベートし、フォ
ールディング反応を行った。経時的に反応液を分取し、等量の1N HClを加え、チオール基
とジスルフィド結合交換反応をクエンチした。反応液中における分子種(図1A参照)を
同定するため、逆相HPLCに供した。逆相HPLCを用いた解析は、図1A及び図1Bで示すよ
うに、BPTIがフォールディングする際の各ジスルフィド結合種を分離、同定でき、経時変
化におけるジスルフィド結合架橋位置を追跡できる。
【0105】
逆相HPLCの測定・分析条件を以下に示す:
カラムはTSKgel Protein C4-300 column(4.6×150mm;Tosoh Bioscience)を使用し、2
29nmの吸光度で検出した。0.05% トリフルオロ酢酸を含む水溶液(A液)と、0.05% トリ
フルオロ酢酸を含むアセトニトリル溶液(B液)の混合について、混合液におけるB液の
割合の容量増加率が0~15分まで1%/分、15~115分まで0.5%/分となる直線濃度勾配で展開
した。
【0106】
GSH/GSSGを用いた場合(比較例1)、フォールディング反応時間60分の天然型(N)の
収率は26%であった(図2A)。また、LDA-SH/LDA-SSを用いた場合(実施例1)、フォー
ルディング反応時間60分の天然型(N)の収率は31%であった(図2B)。このことから、
LDA-SHがGSHよりも高いフォールディング促進効果を有することが示された。
【0107】
BDA-SH/BDA-SSを用いた場合(実施例2)、反応開始1分でBPTIの還元変性体(全てチ
オール基)であるRが消失し、天然型(N)が生成しており、極めて速くジスルフィド結合
の導入が行われていることがわかる(図2C)。また、非天然構造のBPTI(図2C中NonN
で示される)も多種類同時に生成していることがわかる。通常、非天然型のジスルフィド
結合が起きたタンパク質は凝集性を示す。しかしながら、このようにHPLCによる測定に供
することができることから、BDA-SH/BDA-SSは非天然型のBPTIの凝集性を抑制し、可溶化
剤としての特性を有することがわかった。
【0108】
10)RNase A活性評価1
フォールディング促進効果を評価するために、上記8)で調製したRNase Aの活性回復
測定を行った。チオール化合物1 mM/ジスルフィド化合物0.2 mMの以下の組み合わせ:
比較例2:GSH/GSSG
実施例3:LDA-SH/LDA-SS
の存在下で8 μM RNase Aを含む緩衝液(50 mM Tris-HCl pH 7.5、300 mM NaCl)を30℃
でインキュベートした。経時的に反応液を分取し、RNase Aの基質となるシチジン 2′:3
′-環状一リン酸(cytidine 2′:3′-cyclic monophosphate: cCMP)を含む同緩衝液で希
釈し、最終濃度4 μM RNase A、0.4 mM cCMPとした。分光光度計により284 nmの吸光度の
変化を測定し、天然構造へフォールディングされたRNase Aの核酸分解活性を定量した。
【0109】
図3に示す通り、3時間インキュベート後のRNase Aの回復活性は、0.2 mM GSSGの場合
(14%)及びGSH/GSSG(比較例2)の場合(33%)と比較して、LDA-SH/LDA-SS(実
施例3)存在下では42%と、高い回復活性を示した。このことから、LDA-SH/LDA-SSが
フォールディング促進効果を有することが示された。
【0110】
11)還元変性β2mへのジスルフィド結合導入能の評価
上記8)で調製した還元変性β2m 10 μMに対し、チオール化合物1 mM/0.2 mM ジスル
フィド化合物の以下の組み合わせ:
比較例3:GSH/GSSG
実施例4:LDA-SH/LDA-SS
実施例5:BDA-SH/BDA-SS
を含む緩衝液(50 mM Tris-HCl pH 7.5、300 mM NaCl)を30℃でインキュベートし、フォ
ールディング反応を行った。経時的に反応液を分取し、6 M グアニジン塩酸、1.5 M HCl
を等量加え、ジスルフィド結合導入反応をクエンチした。反応液中における分子種を同定
するため、逆相HPLCに供しβ2mの酸化型(N)、還元型(R)を分析した(図4A~C及び
図5)。酸化型(N)、還元型(R)の分子種は、MALDI-TOF/MSによって同定した。
【0111】
逆相HPLCの測定・分析条件を以下に示す:カラムは5C18-AR2 column(4.6×150mm;
Nacalai tesque)を使用し、229nmの吸光度で検出した。0.1% トリフルオロ酢酸を含む水
溶液(A液)と、0.1% トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリル溶液(B液)の混合につ
いて、混合液におけるB液の割合の容量増加率が0~10分まで1%/分、10~35分まで0.5%/
分となる直線濃度勾配で展開した。
【0112】
図4A~C及び図5より、GSH/GSSGを用いた場合(比較例3)、フォールディング反応
時間60分の収率は36%であった。LDA-SH/LDA-SSを用いた場合(実施例4)、フォールディ
ング反応時間60分の収率は95%であった。BDA-SH/BDA-SSを用いた場合(実施例5)、フォ
ールディング反応時間60分の収率は100%であった。
【0113】
この結果から、還元変性β2mへのジスルフィド結合導入反応を擬一次反応として反応速
度定数を算出したところ、GSSG: 1.12 ×10-4、LDA-SS: 6.96 ×10-4、BDA-SS: 3.59 ×1
0-2となり、GSH/GSSG(比較例3)と比較して、LDA-SH/LDA-SS(実施例4)が6.2倍、BDA
-SH/BDA-SS(実施例5)が約320倍高いジスルフィド結合導入能を有することが示された
。β2mは免疫に関わる成分の1つであること、またそのミスフォールド体は透析アミロイ
ドーシスの病態との関連性がある。免疫システムの根幹を担う主要組織適合遺伝子複合体
の軽鎖であるβ2mに対して高速にジスルフィド結合を導入することができる本発明のジス
ルフィド結合導入剤は、効率的な蛋白質製剤の生産という点で有用である。
【0114】
12)RNase A活性評価2
フォールディング促進効果を評価するために、上記8)で調製したRNase Aの活性回復
測定を行った。チオール化合物1 mM/ジスルフィド化合物0.2 mMの以下の組み合わせ:
比較例4:GSH/GSSG
実施例6:ImdM-SH/ImdM-SS
実施例7:oPyM-SH/oPyM-SS
の存在下で8 μM RNase Aを含む緩衝液(50 mM Tris-HCl pH 7.5、300 mM NaCl)を30℃
でインキュベートした。経時的に反応液を分取し、RNase Aの基質となるシチジン 2′:3
′-環状一リン酸(cytidine 2′:3′-cyclic monophosphate: cCMP)を含む同緩衝液で希
釈し、最終濃度4 μM RNase A、0.4 mM cCMPとした。分光光度計により284 nmの吸光度の
変化を測定し、天然構造へフォールディングされたRNase Aの核酸分解活性を定量した。
【0115】
図6に示す通り、6時間インキュベート後のRNase Aの回復活性は、GSH/GSSG(比較例4
)の場合(38%)と比較して、ImdM-SH/ImdM-SS(実施例6)存在下では45%と、高い回復
活性を示した。このことから、ImdM-SH/ImdM-SSがフォールディング促進効果を有するこ
とが示された。またoPyM-SH/oPyM-SS(実施例7)は、3時間インキュベート後のRNase A
の回復活性が、GSH/GSSG(比較例4)の場合と比較して高く、3時間までの初期段階で高
いフォールディング促進効果を有することが示された。
【0116】
13)RNase A活性評価3
フォールディング促進効果を評価するために、上記8)で調製したRNase Aの活性回復
測定を行った。チオール化合物1 mM/ジスルフィド化合物0.2 mMの以下の組み合わせ:
比較例5:GSH/GSSG
実施例8:pPyM-SH-NMe・Cl/pPyM-SS-NMe・Cl
実施例9:pPyM-SH-NMe・I/pPyM-SS-NMe・I
実施例10:oPyM-SH-NMe・I/oPyM-SS-NMe・I
の存在下で8 μM RNase Aを含む緩衝液(50 mM Tris-HCl pH 7.5、300 mM NaCl)を30℃
でインキュベートした。経時的に反応液を分取し、RNase Aの基質となるシチジン 2′:3
′-環状一リン酸(cytidine 2′:3′-cyclic monophosphate: cCMP)を含む同緩衝液で希
釈し、最終濃度4 μM RNase A、0.4 mM cCMPとした。分光光度計により284 nmの吸光度の
変化を測定し、天然構造へフォールディングされたRNase Aの核酸分解活性を定量した。
【0117】
図7に示す通り、6時間インキュベート後のRNase Aの回復活性は、GSH/GSSG(比較例5
)の場合(38%)と比較して、pPyM-SH-NMe・Cl/pPyM-SS-NMe・Cl(実施例8)存在下では
65%、pPyM-SH-NMe・I/pPyM-SS-NMe・I(実施例9)存在下では54%、oPyM-SH-NMe・I/oPyM
-SS-NMe・I(実施例10)存在下では43%と高い回復活性を示した。このことから、pPyM-
SH-NMe・Cl/pPyM-SS-NMe・Cl、pPyM-SH-NMe・I/pPyM-SS-NMe・I、及びoPyM-SH-NMe・I/oP
yM-SS-NMe・Iがフォールディング促進効果を有することが示された。
【0118】
14)加熱によるβ2mの凝集実験
(添加剤なし)
天然型β2m 10 μMを含む緩衝液(50 mM Tris-HCl pH 7.5、300 mM NaCl)を25℃から5
0℃まで加熱し、50℃に達した時点で10分間平衡化を行い、その後25℃に冷却した。遠心
分離後に得られた画分の上清について分光光度計により280 nmの吸光度を測定することに
より、上清中の天然型β2mの残存率を測定した。
【0119】
(添加剤あり)
天然型β2m 10 μMを含む緩衝液(50 mM Tris-HCl pH 7.5、300 mM NaCl)に対し、以
下のチオール化合物1 mM:
比較例6;GSH
実施例11:LDA-SH
実施例12:BDA-SH
を添加し、25℃から50℃まで加熱し、50℃に達した時点で10分間平衡化を行い、その後25
℃に冷却した。遠心分離後に得られた画分の上清について分光光度計により280 nmの吸光
度を測定することにより、上清中の天然型β2mの残存率を測定した。
【0120】
図8に、冷却後の溶液(遠心分離前)の写真を示す。図8より、LDA-SH(実施例11)
及びBDA-SH(実施例12)では、添加剤なし、GSH(比較例6)の場合と比較して、溶液
が透明であり、天然型β2mの凝集が抑制されていることがわかった。また、遠心分離によ
り得た上清中の天然型β2mの残存率を測定した結果を図9に示す。図9より、LDA-SH(実
施例11)及びBDA-SH(実施例12)では、添加剤なし、GSH(比較例6)の場合と比較
して、天然型β2mの残存率が高く、よって、LDA-SH及びBDA-SHはタンパク質の凝集を抑制
して可溶化する機能が高いことがわかった。
【0121】
15)RNase A活性評価4
フォールディング促進効果を評価するために、上記8)で調製したRNase Aの活性回復測定を行った。チオール化合物1 mM/ジスルフィド化合物0.2 mMの以下の組み合わせ:
実施例13:pPyM-SH/GSSG
の存在下で8 μM RNase Aを含む緩衝液(50 mM Tris-HCl pH 7.5、300 mM NaCl)を30℃でインキュベートした。経時的に反応液を分取し、RNase Aの基質となるシチジン 2′:3′-環状一リン酸(cytidine 2′:3′-cyclic monophosphate: cCMP)を含む同緩衝液で希釈し、最終濃度4 μM RNase A、0.4 mM cCMPとした。分光光度計により284 nmの吸光度の変化を測定し、天然構造へフォールディングされたRNase Aの核酸分解活性を定量した。結果を「上記12)RNase A活性評価2」の比較例4、実施例6及び7と共に図10に示す。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明のタンパク質のフォールディング剤は、多数のジスルフィド結合を有する抗体等
のタンパク質製剤への酸化的フォールディング促進剤として利用することができる。本発
明のタンパク質のフォールディング剤は、単一ジスルフィド結合を有するタンパク質の高
速酸化的フォールディング促進剤として利用することができる。また、本発明のタンパク
質のフォールディング剤は、タンパク質のミスフォールド体を人工的に可溶性の状態で蓄
積する試薬として、生化学分野の基礎研究における研究試薬として利用することができる

図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9
図10