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特開2022-136420キャビテーションに起因する材料の壊食量を予測する方法、装置、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136420
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】キャビテーションに起因する材料の壊食量を予測する方法、装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20220913BHJP
   G01N 3/32 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
G01N17/00
G01N3/32 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036018
(22)【出願日】2021-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】中本 浩章
(72)【発明者】
【氏名】早房 敬祐
【テーマコード(参考)】
2G050
2G061
【Fターム(参考)】
2G050AA07
2G050BA01
2G050BA10
2G050BA12
2G050CA04
2G050EA01
2G050EB07
2G050EC01
2G061AA13
2G061AB05
2G061BA15
2G061EA02
2G061EB07
2G061EC02
2G061EC06
2G061EC09
(57)【要約】
【課題】1回の点検作業で簡便にキャビテーション壊食の将来的な進行を予測することができる方法を提供する。
【解決手段】本方法は、流体機械1の表面のキャビテーション壊食量を測定し、キャビテーション壊食量の実測データ点を用いて壊食予測式を補正し、補正された壊食予測式を用いて、所与の時点における流体機械1のキャビテーション壊食量の予測値を算定する工程を含む。壊食予測式は、キャビテーションを受けた時間と、キャビテーション壊食量との関係を表す関数である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体機械の表面に生じたキャビテーション壊食量を予測する方法であって、
前記流体機械の前記表面のキャビテーション壊食量を測定し、
前記キャビテーション壊食量の実測データ点を用いて壊食予測式を補正し、
前記補正された壊食予測式を用いて、所与の時点における前記流体機械のキャビテーション壊食量の予測値を算定する工程を含み、
前記壊食予測式は、キャビテーションを受けた時間と、キャビテーション壊食量との関係を表す関数である、方法。
【請求項2】
前記流体機械の前記表面を構成する材料と同じ材料からなる試料にキャビテーション壊食を発生させるキャビテーション試験を行い、
前記キャビテーション試験の結果に基づいて前記壊食予測式を決定する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法は、前記流体機械の前記表面の表面壊食率を測定する工程をさらに含み、
前記表面壊食率は、測定対象領域の総面積に対する、キャビテーション壊食が生じている面積の割合であり、
前記表面壊食率が所定のしきい値以上である場合に、前記壊食予測式を、前記キャビテーション壊食量の実測データ点を用いて補正する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記表面壊食率が100%である場合に、前記壊食予測式を、前記キャビテーション壊食量の実測データ点を用いて補正する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記流体機械は、液体ポンプであり、前記表面は前記液体ポンプの内部の表面である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
流体機械の表面に生じたキャビテーション壊食量を予測するための予測装置であって、
プログラムおよび壊食予測式を格納する記憶装置と、
前記プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する演算装置を備え、
前記予測装置は、
前記流体機械の前記表面のキャビテーション壊食量の実測データ点を用いて前記壊食予測式を補正し、
前記補正された壊食予測式を用いて、所与の時点における前記流体機械のキャビテーション壊食量の予測値を算定するように構成され、
前記壊食予測式は、キャビテーションを受けた時間と、キャビテーション壊食量との関係を表す関数である、予測装置。
【請求項7】
前記壊食予測式は、前記流体機械の前記表面を構成する材料と同じ材料からなる試料を用いて行ったキャビテーション試験の結果に基づいて決定された壊食予測式である、請求項6に記載の予測装置。
【請求項8】
前記予測装置は、前記流体機械の前記表面の表面壊食率が所定のしきい値以上である場合に、前記キャビテーション壊食量の実測データ点を用いて前記壊食予測式を補正するように構成されており、
前記表面壊食率は、測定対象領域の総面積に対する、キャビテーション壊食が生じている面積の割合である、請求項6または7に記載の予測装置。
【請求項9】
前記予測装置は、前記表面壊食率が100%である場合に、前記壊食予測式を、前記キャビテーション壊食量の実測データ点を用いて補正するように構成されている、請求項8に記載の予測装置。
【請求項10】
前記流体機械は、液体ポンプであり、前記表面は前記液体ポンプの内部の表面である、請求項6乃至9のいずれか一項に記載の予測装置。
【請求項11】
流体機械の表面のキャビテーション壊食量の実測データ点を用いて壊食予測式を補正するステップと、
前記補正された壊食予測式を用いて、所与の時点における前記流体機械のキャビテーション壊食量の予測値を算定するステップをコンピュータに実行させるためのプログラムであり、
前記壊食予測式は、キャビテーションを受けた時間と、キャビテーション壊食量との関係を表す関数である、プログラム。
【請求項12】
前記プログラムは、前記流体機械の前記表面を構成する材料と同じ材料からなる試料にキャビテーション壊食を発生させるキャビテーション試験の結果に基づいて前記壊食予測式を決定するステップを前記コンピュータにさらに実行させるように構成されている、請求項11に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を取り扱う液体ポンプなどの流体機械のキャビテーションに起因する壊食量を予測する方法および装置に関する。また、本発明はそのような方法をコンピュータに実行させるためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
液体ポンプなどの流体機械の運転中に、液体中にキャビテーションが起こることがある。キャビテーションは、液体の圧力低下に起因して気泡が液体中に生じ、液体の圧力上昇に伴って気泡が崩壊する現象である。気泡が崩壊するとき、強い衝撃圧が発生する。この衝撃圧が流体機械を構成する材料の表面に繰り返し作用すると、材料の表面が徐々に崩れ落ち、ついには材料に亀裂や穴が生じることがある。このようなキャビテーションに起因して材料の表面が崩れ落ちる現象は、キャビテーション壊食と呼ばれる。
【0003】
キャビテーション壊食は、材料損傷による流体機械の性能低下、異常振動の発生、流体機械の寿命低下や部材破断を引き起こす非常に深刻な問題である。キャビテーション自体を抑えるための様々な技術は従来から提案されているが、キャビテーションを完全に無くすことは難しい。したがって、キャビテーション壊食によって流体機械に深刻な影響が出る前に、流体機械を分解し、キャビテーション壊食を調査することが必要とされる。
【0004】
図7は、キャビテーション時間の経過に伴う壊食量の変化と、キャビテーション時間の経過に伴う壊食速度の変化を示すグラフである。図7に示すように、壊食の進行は、(1)潜伏期、(2)加速期と最大速度期、(3)減速期と定常期、の3つに大きく分けられる。
【0005】
潜伏期は、キャビテーション壊食が起こる前の期間である。潜伏期では、材料はキャビテーションの衝撃圧を受け続けるものの、損傷は材料内部に蓄積され、材料表面には現れない。具体的には、材料の塑性変形や結晶変化などが材料内で進行し、塑性変形の結果として凹凸が材料表面に生じることがあるが、材料の崩落は始まらない。
加速期は、キャビテーション壊食が発生し始め、壊食速度が急峻に上昇している期間である。最大速度期は、最大壊食速度でキャビテーション壊食が進んでいる期間である。
減速期は、壊食速度が徐々に低下する期間である。
定常期は、壊食速度がほぼ一定となる期間である。
【0006】
現在の壊食ステージが分かれば、今後の壊食傾向(殆ど壊食が進まないのか、これから壊食が激しくなるのか、一定の速度で壊食が進行するのか)を判断できるので、将来的なメンテナンスについての具体的な計画が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-209792号公報
【特許文献2】特開2013-249804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、壊食ステージを調べるためには壊食量の時間変化を長期間に亘って調べる必要がある。具体的には、ポンプを分解し、ポンプ内部の壊食量を測定する、という作業を複数繰り返す必要がある。ポンプの分解と壊食量の測定には、多大な労力と多大な費用を要するため、このような点検作業を何度も繰り返すことは極めて困難である。特に、国内官需向けの液体ポンプは、数十年オーダーの非常に長い寿命を有しているため、キャビテーション壊食のための点検作業を、数年から数十年に亘って繰り返し実施することは、現実には不可能である。
【0009】
そこで、本発明は、1回の点検作業で簡便にキャビテーション壊食の将来的な進行を予測することができる方法および装置を提供する。また、本発明はそのような方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様では、流体機械の表面に生じたキャビテーション壊食量を予測する方法であって、前記流体機械の前記表面のキャビテーション壊食量を測定し、前記キャビテーション壊食量の実測データ点を用いて壊食予測式を補正し、前記補正された壊食予測式を用いて、所与の時点における前記流体機械のキャビテーション壊食量の予測値を算定する工程を含み、前記壊食予測式は、キャビテーションを受けた時間と、キャビテーション壊食量との関係を表す関数である、方法が提供される。
【0011】
一態様では、前記方法は、前記流体機械の前記表面を構成する材料と同じ材料からなる試料にキャビテーション壊食を発生させるキャビテーション試験を行い、前記キャビテーション試験の結果に基づいて前記壊食予測式を決定する工程をさらに含む。
一態様では、前記方法は、前記流体機械の前記表面の表面壊食率を測定する工程をさらに含み、前記表面壊食率は、測定対象領域の総面積に対する、キャビテーション壊食が生じている面積の割合であり、前記表面壊食率が所定のしきい値以上である場合に、前記壊食予測式を、前記キャビテーション壊食量の実測データ点を用いて補正する。
一態様では、前記表面壊食率が100%である場合に、前記壊食予測式を、前記キャビテーション壊食量の実測データ点を用いて補正する。
一態様では、前記流体機械は、液体ポンプであり、前記表面は前記液体ポンプの内部の表面である。
【0012】
一態様では、流体機械の表面に生じたキャビテーション壊食量を予測するための予測装置であって、プログラムおよび壊食予測式を格納する記憶装置と、前記プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する演算装置を備え、前記予測装置は、前記流体機械の前記表面のキャビテーション壊食量の実測データ点を用いて前記壊食予測式を補正し、前記補正された壊食予測式を用いて、所与の時点における前記流体機械のキャビテーション壊食量の予測値を算定するように構成され、前記壊食予測式は、キャビテーションを受けた時間と、キャビテーション壊食量との関係を表す関数である、予測装置が提供される。
【0013】
一態様では、前記壊食予測式は、前記流体機械の前記表面を構成する材料と同じ材料からなる試料を用いて行ったキャビテーション試験の結果に基づいて決定された壊食予測式である。
一態様では、前記予測装置は、前記流体機械の前記表面の表面壊食率が所定のしきい値以上である場合に、前記キャビテーション壊食量の実測データ点を用いて前記壊食予測式を補正するように構成されており、前記表面壊食率は、測定対象領域の総面積に対する、キャビテーション壊食が生じている面積の割合である。
一態様では、前記予測装置は、前記表面壊食率が100%である場合に、前記壊食予測式を、前記キャビテーション壊食量の実測データ点を用いて補正するように構成されている。
一態様では、前記流体機械は、液体ポンプであり、前記表面は前記液体ポンプの内部の表面である。
【0014】
一態様では、流体機械の表面のキャビテーション壊食量の実測データ点を用いて壊食予測式を補正するステップと、前記補正された壊食予測式を用いて、所与の時点における前記流体機械のキャビテーション壊食量の予測値を算定するステップをコンピュータに実行させるためのプログラムであり、前記壊食予測式は、キャビテーションを受けた時間と、キャビテーション壊食量との関係を表す関数である、プログラムが提供される。
一態様では、前記プログラムは、前記流体機械の前記表面を構成する材料と同じ材料からなる試料にキャビテーション壊食を発生させるキャビテーション試験の結果に基づいて前記壊食予測式を決定するステップを前記コンピュータにさらに実行させるように構成されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、補正された壊食予測式を用いて、将来の任意の時点における流体機械のキャビテーション壊食量を推定することができる。壊食予測式の補正に必要な実測データ点は1つであるので、液体ポンプなどの流体機械を分解して検査する作業も1回で済む。結果として、低コストで、かつ精度の高いキャビテーション壊食量の予測を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】流体機械の表面に生じたキャビテーション壊食量を予測するための予測装置の一実施形態を示す模式図である。
図2】キャビテーション発生装置の一例を示す模式図である。
図3】試料のキャビテーション試験によって得られた試験データ点に基づいて壊食予測式を決定する工程を説明するグラフである。
図4】キャビテーション壊食量の時間変化と、壊食速度の時間変化と、表面壊食率の時間変化を表すグラフである。
図5】壊食予測式(壊食曲線)を用いて、流体機械のキャビテーション壊食量を予測する一実施形態を説明するフローチャートである。
図6】壊食予測式を補正する工程を説明するグラフである。
図7】キャビテーション時間の経過に伴う壊食量の変化と、キャビテーション時間の経過に伴う壊食速度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。以下に説明する実施形態は、水などの液体を取り扱う液体ポンプなどの流体機械の表面に発生したキャビテーション壊食の量(壊食深さ)を予測する技術に関する。キャビテーションが起きやすい部位は、流体機械の内部の表面であり、より具体的な例としては、流体機械の液体吸込口、羽根車、羽根車を収容するケーシングの内面などが挙げられる。
【0018】
図1は、流体機械の表面に生じたキャビテーション壊食量を予測するための予測装置の一実施形態を示す模式図である。予測装置10は、以下に説明する壊食予測式およびプログラムが格納された記憶装置10aと、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する演算装置10bを備えている。記憶装置10aは、ランダムアクセスメモリ(RAM)などの主記憶装置と、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)などの補助記憶装置を備えている。演算装置10bの例としては、CPU(中央処理装置)、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)が挙げられる。ただし、予測装置10の具体的構成はこれらの例に限定されない。
【0019】
予測装置10は、少なくとも1台のコンピュータから構成されている。前記少なくとも1台のコンピュータは、1台のサーバまたは複数台のサーバであってもよい。予測装置10は、流体機械1の近くに配置されたエッジサーバであってもよいし、インターネットまたはローカルエリアネットワークなどの通信ネットワークに接続されたクラウドサーバまたはフォグサーバであってもよい。予測装置10は、ゲートウェイ、ルーターなどの中に配置されてもよい。
【0020】
予測装置10は、インターネットまたはローカルエリアネットワークなどの通信ネットワークにより接続された複数のサーバであってもよい。例えば、予測装置10は、エッジサーバとクラウドサーバとの組み合わせであってもよい。記憶装置10aと演算装置10bは、別々の場所に設置された複数のコンピュータ内にそれぞれ配置されてもよい。
【0021】
予測装置10は、その記憶装置10a内に格納された壊食予測式を有している。壊食予測式は、ある材料がキャビテーションを受けた時間と、その材料に生じたキャビテーション壊食量との関係を表す関数である。壊食予測式は、流体機械1の表面を構成する材料と同じ材料からなる試料を用いて行ったキャビテーション試験の結果に基づいて決定される。
【0022】
より具体的には、壊食予測式は、以下の通りである。
【数1】
Dはキャビテーション壊食量を表し、tは試料がキャビテーションを受けた時間を表し、α、β、k、cは係数であり、eはネイピア数である。ただし、上記式(1)は壊食予測式の一例であって、壊食予測式は上記式(1)に限定されない。
【0023】
流体機械1の表面(具体的には内面)に形成されたキャビテーション壊食の量は、図1に示す測定装置5により測定される。測定装置5には、立体形状測定装置などが使用される。キャビテーション壊食量の測定は、流体機械1のキャビテーション壊食量を測定装置5で直接測定する態様と、間接的に測定する態様のいずれであってもよい。一例では、測定装置5は、流体機械1の表面をレーザ光で走査し、流体機械1のキャビテーション壊食量を直接測定してもよい。他の例では、シリコーン樹脂などからなる粘性材料を流体機械1の表面に押し付けて、流体機械1の表面形状を粘性材料に転写してレプリカを作成し、測定装置5は、レプリカの転写された表面形状をレーザ光で走査し、流体機械1のキャビテーション壊食量を間接的に測定してもよい。
【0024】
次に、キャビテーション試験について説明する。キャビテーション試験は、キャビテーション発生装置を用いて実行される。図2は、キャビテーション発生装置の一例を示す模式図である。キャビテーション発生装置20は、超音波発生器21を有する磁歪式振動装置22と、磁歪式振動装置22に連結された振動増幅装置としての増幅ホーン24と、増幅ホーン24の下方に配置された試料ステージ26と、試料ステージ26が配置された液体槽29と、液体槽29内の液体の温度を制御する液体温度制御装置31を備えている。液体槽29内には、水などの液体が貯留されている。液体温度制御装置31は、液体槽29内の液体を予め設定された温度に保つように構成されている。試料40は試料ステージ26上に配置される。
【0025】
超音波発生器21が作動すると、磁歪式振動装置22は振動を発生するように構成されている。振動は増幅ホーン24内で増幅され、振動は増幅ホーン24の端部から液体に伝わり、液体中にキャビテーションを発生させる。試料ステージ26上の試料40は、キャビテーションの気泡が崩壊するときに発生する衝撃圧を受け、損傷を受ける。
【0026】
試料40は、キャビテーションが起こることが想定される流体機械1の部位と同じ材料から構成されている。試料40は、試料ステージ26上に置かれ、試料40の表面を液体槽29内の液体に接触させる。キャビテーション発生装置20は、液体中にキャビテーションを発生させ、試料40の表面にキャビテーション壊食を発生させる(キャビテーション壊食工程)。キャビテーション壊食が発生した後、試料40を液体から取り出し、試料40の表面のキャビテーション壊食量および表面壊食率を図示しない測定装置により測定する(壊食測定工程)。測定装置には、立体形状測定装置などが使用される。試料40のキャビテーション壊食量および表面壊食率の測定には、図1に示す測定装置5を用いてもよい。
【0027】
キャビテーション壊食量は、キャビテーションに起因して生じた壊食の深さである。表面壊食率は、測定対象領域の総面積に対する、キャビテーション壊食が生じている面積の割合である。表面壊食率が0%であるということは、測定対象領域にキャビテーション壊食が全く発生していないことを意味する。表面壊食率が100%であるということは、測定対象領域の全体にキャビテーション壊食が発生していることを意味する。
【0028】
壊食量測定後、試料40を試料ステージ26上に再び置き、試料40を液体に接触させ、液体中にキャビテーションを発生させる。同様にして、キャビテーション壊食工程と、壊食測定工程を繰り返し、試料40の表面のキャビテーション壊食を進行させながら、試料40の表面のキャビテーション壊食量および表面壊食率を測定する。結果として、複数の測定時間に対応する複数のキャビテーション壊食量と複数の表面壊食率が取得される。このようにして得られた試験データは、図1に示す記憶装置10a内に保存される。予測装置10は、得られた試験データから、壊食速度を算定する。
【0029】
図2に示すキャビテーション発生装置20は、ASTM G32磁歪式壊食試験装置であるが、試料40のキャビテーション試験に使用されるキャビテーション発生装置は、図2に示す装置20には限定されない。例えばASTM G134噴流式壊食試験装置、ベンチュリー式壊食試験装置、回転円板式壊食試験装置、などが使用されてもよい。
【0030】
図3は、試料40のキャビテーション試験によって得られた試験データ点に基づいて壊食予測式を決定する工程を説明するグラフである。各試験データ点は、キャビテーション試験によって得られたキャビテーション壊食量の測定値と、対応する測定時間とから特定される点である。予測装置10は、キャビテーション試験によって得られたキャビテーション壊食量の測定値と、壊食予測式から得られた、対応するキャビテーション壊食量の算定値との誤差が最も小さくなる係数α、β、k、cを決定することで、壊食予測式を決定する。予測装置10は、決定された壊食予測式を記憶装置10a内に保存する。
【0031】
図4は、キャビテーション壊食量の時間変化と、壊食速度の時間変化と、表面壊食率の時間変化を表すグラフである。図4の太線で示すキャビテーション壊食量は、上記誤差が最も小さくなる係数α、β、k、cを備えた壊食予測式によって算定されたキャビテーション壊食量である。予測装置10は、壊食予測式を用いてキャビテーション壊食量を算定し、キャビテーション壊食量の時間変化から壊食速度を算定する。
【0032】
本実施形態で使用された試料40は、鋳鉄である。図4から分かるように、最大速度期を超えた後に、表面壊食率は100%に達する。言い換えれば、表面壊食率が100%に達したということは、最大速度期を超えたことを示している。試験結果によれば、鋳鉄以外の材料、例えば、銅合金、ステンレス鋼などの液体ポンプに使用される金属は、図4と同様の傾向を示すことが分かっている。すなわち、材料の種類によらず、表面壊食率が100%に達した時点は、最大速度期を超えた後の時点である。表面壊食率が100%に達した後の壊食速度の変化率は概ね一定である。
【0033】
次に、流体機械1のキャビテーション壊食量を予測する一実施形態について図5を参照して説明する。図5に示すステップ1~ステップ3は、図2に示すキャビテーション発生装置20を用いたキャビテーション試験である。すなわち、ステップ1では、キャビテーションが起こることが想定される流体機械1の部位と同じ材料からなる試料40は、試料ステージ26上に置かれ、試料40の表面を液体槽29内の液体に接触させる。液体中にキャビテーションを発生させ、試料40の表面にキャビテーション壊食を発生させる(キャビテーション壊食工程)。
【0034】
ステップ2では、キャビテーション壊食が発生した後、試料40を液体から取り出し、試料40の表面のキャビテーション壊食量を測定装置により測定する(壊食測定工程)。キャビテーション壊食量の具体例としては、平均壊食量(平均壊食深さ)、最大壊食量(最大壊食深さ)などが挙げられる。
ステップ1とステップ2を予め定められた時間に達するまで繰り返し、ステップ3にて壊食予測式を決定する。壊食予測式の決定は、図3を参照して説明したように、複数の試験データ点を用いて壊食予測式の係数を決定する工程である。決定された壊食予測式は、予測装置10の記憶装置10a内に格納される。
【0035】
キャビテーションが起こることが想定される流体機械1の部位と同じ材料からなる試料を用いたキャビテーション試験が過去に既に行われていて、得られた試験データ点から壊食予測式の係数が既に決定されている場合は、上記ステップ1~3は省略してもよい。
【0036】
ステップ4~ステップ7は、流体機械1のキャビテーション壊食量の実測である。すなわち、ステップ4では、流体機械1(例えば液体ポンプ)を分解し、ステップ5では、流体機械1のキャビテーション壊食が発生している表面の表面壊食率を測定装置5(図1参照)により直接または間接的に測定する。流体機械1のキャビテーション壊食が発生している表面の例としては、流体機械1の液体吸込口の表面、羽根車の表面、羽根車を収容するケーシングの内面などが挙げられる。
【0037】
ステップ6では、予測装置10は、上記ステップ5で測定された表面壊食率が所定のしきい値以上であるか否かを判定する。しきい値は、予め定められた数値であり、具体的には90%、好ましくは95%、さらに好ましくは98%、最も好ましくは100%である。表面壊食率が所定のしきい値以上である場合は、流体機械1のキャビテーション壊食のステージは、図4に示す最大速度期にあるか、または最大速度期を超えているということが分かる。
【0038】
ステップ7では、表面壊食率が所定のしきい値以上である場合は、測定装置5(図1参照)により流体機械1の上記表面のキャビテーション壊食量を直接または間接的に測定する。キャビテーション壊食量の測定値および測定時間を含む測定データは、予測装置10に入力され、記憶装置10a内に保存される。
【0039】
ステップ8では、予測装置10は、キャビテーション壊食量の実測データ点を用いて、上記ステップ3で決定された壊食予測式を補正する。より具体的には、図6に示すように、予測装置10は、キャビテーション壊食量の実測値と、壊食予測式によって算定される、対応するキャビテーション壊食量との差が最小となるように(好ましくは、差が0となるように)、壊食予測式を補正する。壊食予測式の補正に用いられる実測データ点は、ステップ7で得られたキャビテーション壊食量の測定値と測定時間から特定される点である。補正された壊食予測式は、予測装置10の記憶装置10a内に保存される。
【0040】
図5に戻り、ステップ9では、予測装置10は、補正された壊食予測式を用いて、所与の時点におけるキャビテーション壊食量の予測値を算定する。所与の時点は将来の時点であり、例えば、数年後、あるいは数十年後の時点である。
【0041】
本実施形態によれば、補正された壊食予測式を用いて、将来の任意の時点における流体機械1のキャビテーション壊食量を推定することができる。壊食予測式の補正に必要な実測データ点は1つであるので、液体ポンプなどの流体機械1を分解して検査する作業も1回で済む。結果として、低コストで、かつ精度の高いキャビテーション壊食量の予測を提供することができる。
【0042】
上記ステップ3で決定された壊食予測式は、キャビテーション試験により求められた式であるので、実際のキャビテーション壊食の進行から乖離していることがある。本実施形態によれば、キャビテーション試験により求められた壊食予測式は、実測データ点に基づいて補正されるので、補正された壊食予測式は、実際のキャビテーション壊食の進行を正確に表していると推測できる。したがって、予測装置10は、補正された壊食予測式を用いて、将来のキャビテーション壊食量を正確に算定することができる。
【0043】
上述したように、本実施形態では、表面壊食率が所定のしきい値以上である場合に、キャビテーション壊食量の実測データ点に基づいて壊食予測式が補正される。表面壊食率が所定のしきい値以上であるということ、特に、表面壊食率が100%に達したということは、図4のグラフに示すように、その後のキャビテーション壊食の進行がある程度安定的であることを意味している。したがって、表面壊食率が所定のしきい値以上であるときに取得された実測データ点に基づいて補正された壊食予測式は、将来的なキャビテーション壊食量を正確に算定できる。
【0044】
図5に示すフローチャートにおいて、表面壊食率が所定のしきい値未満である場合は、検査を終了する。表面壊食率が所定のしきい値未満であるということは、流体機械1のキャビテーション壊食があまり進行していない、すなわち流体機械1に不具合が発生するおそれはないということを意味する。ただし、この場合でも、上記ステップ7,8と同様に、流体機械1の表面のキャビテーション壊食量を測定し、キャビテーション壊食量の実測データ点に基づいて壊食予測式を補正してもよい。表面壊食率が所定のしきい値未満のときに取得された実測データ点に基づいて補正された壊食予測式の精度は、あまり高くないと想定されるが、多くの流体機械の実測データの蓄積により、補正された壊食予測式の精度を誤差率として提示できることもありうる。したがって、補正された壊食予測式を用いて算定された予測値と、その予測値の誤差率から、将来的なキャビテーション壊食のおおよその量を推定できる。
【0045】
上記ステップを予測装置10に実行させるためのプログラムは、非一時的な有形物であるコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録され、記録媒体を介して予測装置10に提供される。または、プログラムは、インターネットまたはローカルエリアネットワークなどの通信ネットワークを介して予測装置10に入力されてもよい。
【0046】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0047】
1 流体機械
5 測定装置
10 予測装置
10a 記憶装置
10b 演算装置
20 キャビテーション発生装置
21 超音波発生器
22 磁歪式振動装置
24 増幅ホーン
26 試料ステージ
29 液体槽
31 液体温度制御装置
40 試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7