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  • 特開-肉質改良剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136547
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】肉質改良剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/00 20160101AFI20220913BHJP
【FI】
A23L13/00 Z
A23L13/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036214
(22)【出願日】2021-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】山内 優輝
(72)【発明者】
【氏名】梁田 健一
(72)【発明者】
【氏名】安田 健一
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC03
4B042AC05
4B042AD18
4B042AG02
4B042AG07
4B042AG68
4B042AH01
4B042AK02
4B042AK11
4B042AP04
4B042AP05
4B042AP13
4B042AP30
(57)【要約】
【課題】本発明は、畜肉、魚肉等の食肉類に加熱調理等の加工を施しても、柔らかくてジューシー感のある食肉加工食品を得ることができる肉質改良剤を提供することを課題とする。
【解決手段】五環性トリテルペンを含有する、肉質改良剤により畜肉、魚肉等の食肉類を処理することで上記課題を解決する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
五環性トリテルペンを含有する、肉質改良剤。
【請求項2】
五環性トリテルペンがオレアナン型トリテルペン、ウルサン型トリテルペン、ルパン型トリテルペン及びホパン型トリテルペンからなる群から選択されるいずれか1以上である、請求項1に記載の肉質改良剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の肉質改良剤により食肉類を処理する工程を含む、食肉類の肉質改良方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の肉質改良剤により食肉類を処理する工程および前記処理された食肉類を加熱する工程を含む、食肉加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉質改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
牛肉、豚肉、鶏肉等の畜肉又は獣肉、および魚、貝等の魚介肉等を含む食肉類には、調理した後に食する際の食感に柔らかさや水分が保持されたジューシー感があることが求められる。しかしながら、食肉類を油ちょう、オーブン加熱、フライパン加熱あるいは電子レンジ加熱等により加熱調理すると、食肉類の内部から水分や脂肪分が飛散や漏出等により失われるため、加熱した食肉類の食感は硬くパサついたものになりがちである。また、加熱により肉を構成するタンパク質が変性して収縮、凝固を起こすために、硬くパサついた食感はより際立つものとなりやすい。
このような問題を解決するために種々検討されており、例えば、油脂加工澱粉と卵白分解物を含有する食品改質剤(特許文献1)、熱でゲル化する水溶性セルロースエーテルを含む食肉添加剤(特許文献2)、プロテアーゼ等の蛋白質分解酵素を含む畜肉改良剤(特許文献3)、キサンタンガム等の多糖類を含む食肉単味品調理用粉体組成物(特許文献4)、化工澱粉と炭酸水素ナトリウムとを含有する食肉類加工用ミックス(特許文献5)等が提案されている。
【0003】
食肉類のフライ食品については、下処理方法として蛋白分解酵素溶液を注入して肉質を軟化させる方法や肉類に蛋白分解酵素を比較的長時間作用させるものが知られている。そのような技法のひとつとして、フライ食品に使用する食肉類を調味液に浸漬するマリネという調理方法が古くから行われている。マリネは、風味付けや肉汁を逃さずジューシーで、ボリュームがある外観のから揚げ等を製造する目的として、浸漬により調味液を食肉類に染み込ませる調理方法である。また、浸漬せず、調味液を肉等に染み込ませるタンブリング処理も行われている。柔らかさやジューシー感を得るための他の方法として、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する食肉加工用ピックル液を使用する方法(特許文献6)、マリネ中に蛋白分解酵素を配合する方法(特許文献7)等が知られている。さらに、特定のジグリセリドを含むことで、口溶けのよいフライ製品を提供出来ること(特許文献8)も知られている。
【0004】
一方、五環性トリテルペンが様々な生理学的機能を有していることは広く知られている。例えば、マスリン酸は、抗肥満作用(非特許文献1)及び脂質代謝改善作用(非特許文献2)といった生理学的機能を有していることが知られている。このような生理学的機能を有する五環性トリテルペンを食品に使用する試みがなされている。特許文献9では、炭水化物食と、コロソリン酸、マスリン酸及びトルメンティック酸からなる群より選択される少なくとも1種のトリテルペンを含有する食品及びかかる食品原料を含有する食品が開示されており、グリセミック指数を低減することができることが記載されている。特許文献10では、五環性トリテルペンおよびそれらの生理的に許容される塩、またはそれらの誘導体からなる群から選ばれる化合物を有効成分として含有する皮膚の美白用飲食物又は経口美白剤が開示されており、メラニンの生成が抑制されたことが記載されている。いずれの発明についても生体における五環性トリテルペンの生理学的機能の発揮を期待したものであり、五環性トリテルペンが食肉類の食感を改良することについての記載も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-300918号公報
【特許文献2】特開2011-087490号公報
【特許文献3】特開2015-211654号公報
【特許文献4】特開2017-112852号公報
【特許文献5】WO2018/174229
【特許文献6】特開2007-043949号公報
【特許文献7】特開平05-252911号公報
【特許文献8】特開2005-237391号公報
【特許文献9】特開2006-121949号公報
【特許文献10】再表2002-043736号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Liou CJ et al., FASEB J. 2019.Nov;33(11):11791-11803
【非特許文献2】Perez-Jimenez A et al., Phytomedicine. 2016. Nov 15;23(12):1301-1311
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、畜肉、魚肉等の食肉類に加熱調理等の加工を施しても、柔らかくてジューシー感のある食肉加工食品を得ることができる肉質改良剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、五環性トリテルペンを含有する肉質改良剤により畜肉、魚肉等の食肉類を処理することにより、食肉類に加熱調理等の加工を施しても、柔らかくてジューシー感のある食肉加工食品を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
〔1〕五環性トリテルペンを含有する、肉質改良剤。
〔2〕五環性トリテルペンがオレアナン型トリテルペン、ウルサン型トリテルペン、ルパン型トリテルペン及びホパン型トリテルペンからなる群から選択されるいずれか1以上である、〔1〕記載の肉質改良剤。
〔3〕〔1〕又は〔2〕記載の肉質改良剤により食肉類を処理する工程を含む、食肉類の肉質改良方法。
〔4〕〔1〕又は〔2〕記載の肉質改良剤により食肉類を処理する工程および前記処理された食肉類を加熱する工程を含む、食肉加工食品の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、本発明の肉質改良剤により畜肉又は獣肉、および魚介肉等の食肉類を処理することにより、加熱調理等の加工を施しても肉質がパサついて硬くなることなく、柔らかくてジューシー感のある食肉加工食品を得ることができる。更には、五環性トリテルペンが元来有する抗肥満及び脂質代謝改善といった生理学的な健康機能も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】五環性トリテルペン粉末1(オリーブ果実由来オレアナン型トリテルペン粉末)のHPLC分析チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<五環性トリテルペン>
トリテルペンは炭素数30を基本骨格とする化合物であり、五環性トリテルペンは、イソプレン単位6個から成る五環性の化合物である。五環性トリテルペンはトリテルペンの一種であるから、炭素数は30個を基本とするが、生合成過程で転位、酸化、脱離あるいはアルキル化され炭素数が前後するものも含まれる。五環性トリテルペンは、一般に、その骨格により分類されている。例えば、オレアナン型トリテルペン、ウルサン型トリテルペン、ルパン型トリテルペン、ホパン型トリテルペン、セラタン型トリテルペン、フリーデラン型トリテルペン、タラキセラン型トリテルペン、タラキサスタン型トリテルペン、マルチフロラン型トリテルペン、ジャーマニカン型トリテルペン等が挙げられる。
【0013】
オレアナン型トリテルペンは、下記式1であらわされる構造を基本骨格として有する五環性トリテルペンであり、マスリン酸(式2)、オレアノール酸(式3)、グリチルレチン酸(式4)等がその一群に分類される。
【化1】
(式1)オレアナン型(Oleanane)トリテルペン
【化2】
(式2)マスリン酸(Maslinic acid)
【化3】
(式3)オレアノール酸(Oleanolic acid)
【化4】
(式4)グリチルレチン酸(Glycyrrhetinic acid)
【0014】
ウルサン型トリテルペンは、下記式5であらわされる構造を基本骨格として有する五環性トリテルペンであり、コロソリン酸(式6)、ウルソール酸(式7)等がその一群に分類される。
【化5】
(式5)ウルサン型(Ursane)トリテルペン
【化6】
(式6)コロソリン酸(Corosolic acid)
【化7】
(式7)ウルソール酸(Ursolic acid)
【0015】
ルパン型トリテルペンは、下記式8であらわされる構造を基本骨格として有する五環性トリテルペンであり、ベツリン酸(式9)、アルフィトール酸(式10)等がその一群に分類される。
【化8】
(式8)ルパン型(Lupane)トリテルペン
【化9】
(式9)ベツリン酸(Betulinic acid)
【化10】
(式10)アルフィトール酸(Alphitolic acid)
【0016】
ホパン型トリテルペンは、下記式11であらわされる構造を基本骨格として有する五環性トリテルペンであり、ロイコチル酸(式12)等がその一群に分類される。
【化11】
(式11)ホパン型(Hopane)トリテルペン
【化12】
(式12)ロイコチル酸(Leucotylic acid)
【0017】
本発明の肉質改良剤において、五環性トリテルペンは好ましくはオレアナン型トリテルペン、ウルサン型トリテルペン、ルパン型トリテルペン及びホパン型トリテルペンからなる群から選択されるいずれか1以上であり、より好ましくはオレアナン型トリテルペン及びウルサン型トリテルペンからなる群から選択されるいずれか1以上であり、更に好ましくはマスリン酸、オレアノール酸及びウルソール酸からなる群から選択されるいずれか1以上である。なお、その分子内にカルボキシル基を有する場合、一般に五環性トリテルペン酸と称されるが、本明細書において五環性トリテルペン酸は五環性トリテルペンに含まれる。
【0018】
五環性トリテルペンは、各種の植物により生合成され、その植物の果実、花弁、子葉、茎、根などに遍在又は局在している。例えば、オレアナン型トリテルペンの一群に分類されるマスリン酸は、オリーブ果実及び葉、ナツメ、アーモンド、バナバ葉、セージ、リンゴ、クランベリー、カリン等に含まれる。オレアナン型トリテルペンの一群に分類されるオレアノール酸は、オリーブ果実及び葉、ブドウ、ビート、ナツメ、アーモンド、バナバ葉、セージ、サンザシ、ラズベリー、カリン、ローズマリー葉、グァバ、シソ葉、ブルーベリー、プルーン、ビワ、ザクロ、レモンバーム、バジル、ローズヒップ、カキ、センブリ等に含まれる。ウルサン型トリテルペンの一群に分類されるウルソール酸は、リンゴ、バジル、ビルベリー、クランベリー、エルダーフラワー、ペパーミント、ローズマリー、ラベンダー、オレガノ、タイム、サンザシ、プルーン等に含まれる。
【0019】
五環性トリテルペンは、それを含有する植物から公知の方法で抽出、分画、精製して得ることができるほか、化学合成によって得ることもできる。また、市販品も好適に利用することができる。薬理学的に許容される塩及び/又は誘導体の形態で使用することもできる。五環性トリテルペンは、単独の成分又は2以上の種類の成分の混合物(組合せ)であっても良い。
【0020】
五環性トリテルペンは、それを含有する植物の抽出物の形態で用いても良い。オレアナン型トリテルペンであれば、その含有率が相応に高く、古くからの食経験があり、搾油後の二次利用が可能なことから、オリーブ果実抽出物やアーモンド種実抽出物等の形態で用いることが好適である。ウルサン型トリテルペンであれば、搾汁や食品加工後の二次利用が可能なことから、リンゴ果皮抽出物の形態で用いることが好適である。
【0021】
オリーブ果実抽出物であれば、乾燥又は水分を含む半乾燥ないしは未乾燥のオリーブ果実や、搾油工程で発生するオリーブオイル搾油粕、n-ヘキサン等の脂溶性有機溶媒で油分を除去した脱脂物等を出発原料として用いてオリーブ果実抽出物を得ることができる。具体的には、オリーブオイル搾油粕を出発原料として用いる場合であれば、オレアナン型トリテルペンを抽出可能な低級アルコール(例えば、エタノール、メタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール等)又はその含水低級アルコールで五環性トリテルペンを抽出し、任意にケン化処理や中和処理を行い、吸着剤としてオクタデシルシリカ(ODS)、シリカゲル、合成吸着剤等を使用して分画、精製することによりオレアナン型トリテルペンを主成分として含む五環性トリテルペンの混合物を得ることができる。このようにしてオリーブオイル搾油粕から抽出される五環性トリテルペン画分には、概ねマスリン酸とオレアノール酸とが4:1の割合で含まれているが、オリーブ果実の生育状況や生育地域、あるいは搾油条件等により、当該比が1:1~7:1になる場合もある。更に高度に分画及び精製することにより、マスリン酸やオレアノール酸等の個々のオレアナン型トリテルペンを単独で又は微量の他の五環性トリテルペンを含む画分として得ることができる。使用するオリーブの品種には特に限定はなく、国内産、外国産等の産地、食用、搾油用、観賞用を問わず使用できる。
【0022】
アーモンド種実抽出物であれば、乾燥又は水分を含む半乾燥ないしは未乾燥のアーモンド種実、アーモンド油の搾油粕、スナック菓子等の加工食品の製造で排出される副産物、あるいはアーモンドの脱穀時に排出される殻や外皮などの副産物を出発原料として、低級アルコール又は含水低級アルコールで五環性トリテルペンを抽出し、任意にケン化処理や中和処理を行い、吸着剤としてオクタデシルシリカ(ODS)、シリカゲル、合成吸着剤等を使用して分画、精製することによりマスリン酸及び/又はオレアノール酸を主成分として含む五環性トリテルペンの混合物を得ることもできる。なお、一般的にアーモンドの殻は燃料材料、外皮は堆肥などに使用されている。
【0023】
リンゴ果皮抽出物であれば、リンゴ果汁の搾汁粕や食品工場等で剥皮されたリンゴ果皮などの副産物を出発原料として低級アルコール又は含水低級アルコールで五環性トリテルペンを抽出し、任意にケン化処理や中和処理を行い、吸着剤としてオクタデシルシリカ(ODS)、シリカゲル、合成吸着剤等を使用して分画、精製することによりウルソール酸を主成分として含む五環性トリテルペンの混合物を得ることもできる。
【0024】
オリーブ果実やアーモンド、リンゴ果皮以外の他の植物を出発原料とする場合には、原料として使用する植物に適した方法で五環性トリテルペンを得ることができる。また、得られる五環性トリテルペンの成分の種類及びその構成比は原料として使用する植物に依存する。
【0025】
五環性トリテルペンは、水酸基、カルボキシル基、アルデヒド基、ケトン基等の官能基を有しており、植物体内ではこれら官能基が各種の化合物により修飾あるいは分子内架橋されて存在している。例えば、甘草に含まれ、甘味料として利用されるグリチルリチンは、オレアナン型トリテルペンに分類されるグリチルレチン酸の3β水酸基を介して2つのグルクロン酸がエーテル結合した配糖体である。一般的にこのような官能基を修飾している化合物は抽出、分画、精製の過程で脱離し、抽出、分画、精製の過程を経て得られる五環性トリテルペンは概ね遊離型となる。
【0026】
また、五環性トリテルペンの生理学的に許容される塩としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、ピロ硫酸、メタリン酸等の無機酸との塩;クエン酸、安息香酸、酢酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、スルホン酸等の有機酸との塩;ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0027】
<肉質改良剤>
本発明の肉質改良剤は、五環性トリテルペンを有効成分として含有する。好ましくは、前記五環性トリテルペンはオレアナン型トリテルペン、ウルサン型トリテルペン、ルパン型トリテルペン及びホパン型トリテルペンからなる群から選択されるいずれか1以上であり、より好ましくはオレアナン型トリテルペン及びウルサン型トリテルペンからなる群から選択されるいずれか1以上であり、更に好ましくはマスリン酸、オレアノール酸及びウルソール酸からなる群から選択されるいずれか1以上である。
【0028】
本発明の肉質改良剤は、五環性トリテルペンからなっていてもよく、使用の目的あるいは使用の態様に応じて他の成分と混合して粉末状、顆粒状、錠剤状、液体状等の形態にすることができる。
粉末状、顆粒状、錠剤状等の形態で使用する場合、他の成分としては、寒天、ゼラチン、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、カードラン、セルロース誘導体等の増粘多糖類;デキストリン、乳糖、マンニトール、澱粉(生澱粉、加工澱粉)等の賦形剤;クエン酸鉄アンモニウム、無水リン酸ナトリウム、リン酸カルシウム、無水硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、微粒二酸化ケイ素、酸化マグネシウム等の固結防止剤;サイクロデキストリン、高度分岐環状デキストリン等の包接化合物等が挙げられ、これらの一種又は二種以上のものを適宜選択して用いられる。
【0029】
液体状の形態で使用する場合、他の成分として液体を選択し、その液体に溶解又は分散させることにより得られる。そのような液体としては、水、エタノール、プロピレングリコール、水飴、蜂蜜等が挙げられ、これらの一種又は二種以上の混合液であってもよい。
【0030】
その他、五環性トリテルペンを食用油脂に溶解又は分散させた油脂組成物あるいは食用油脂と水分と乳化剤とのW/O型又はO/W型乳化組成物としてもよい。そのような食用油脂としては、大豆油、綿実油、サフラワー油、米油、コーン油、ナタネ油、シソ油、エゴマ油、アマニ油、オリーブ油、ゴマ油、小麦胚芽油、コメヌカ油、ヒマワリ油、落花生油、アボガド油、卵黄油、魚油、鯨油、鶏油、豚脂、牛脂、乳脂、カカオ脂、シア脂、ヤシ油、パーム油、パーム核油等、並びにこれらに水素添加処理、分別処理及びエステル交換処理等の処理を一又は二以上を施した加工油脂等が挙げられる。乳化剤としては、レシチン(大豆、卵黄等に由来)、サポニン(キラヤやダイズ等に由来)、カゼインナトリウム(牛乳由来)等の天然乳化剤;親油基が炭素数8~22の飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸で構成され、親水基がグリセリン、ポリグリセリン、ショ糖、プロピレングリコール、ソルビタン等で構成される食品利用可能な合成乳化剤が挙げられる。乳化組成物とする場合、五環性トリテルペンと油脂と水分と乳化剤とを高圧ホモゲナイザーや高速撹拌機等を用いて公知の方法で製造することができる。
【0031】
本発明の肉質改良剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で上記以外の他の成分として各種の品質改良剤や添加剤と併用することができる。そのような成分として、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、ソルビトール、トレハロース、ステビア等の甘味料;グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム等のうま味調味料;アスコルビン酸、チアミン、パントテン酸、ナイアシン、葉酸等のビタミン類;酢酸、乳酸、クエン酸等の有機酸;トコフェロール、没食子酸プロピル、クロロゲン酸、亜硫酸ナトリウム、ブチルヒドロキシアニソール、カテキン等の酸化防止剤;β-カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料;コンソメ、ブイヨン、かつお出汁、イーストエクストラクト等のエキス;ヨーグルト、チーズ、醤油等の発酵調味料;アミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、トランスグルタミナーゼ等の酵素;香料;酒類;オリゴ糖;安定剤;卵類;乳類;保存料;果汁;香辛料等が挙げられる。
【0032】
本発明の肉質改良剤中における五環性トリテルペンの含有量は特に制限されるものではなく、食肉加工食品を製造した際に本発明の効果が得られるように適宜調節することができる。例えば、肉質改良剤全量に対して1質量%以上であればよく、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上である。
本発明の肉質改良剤は、五環性トリテルペンと前記任意の成分と共に混合及び/又は溶解することにより製造することができ、特にその製造方法が制限されるものではない。
【0033】
本発明の肉質改良剤を適用する食肉類は特に制限されるものではなく、一般に食される食肉類であれば何れも好適に適用することができる。
そのような食肉類としては、牛、豚、馬、羊、山羊、兎、猪、鹿等の哺乳類;鶏、ウズラ、アヒル、ガチョウ、鴨、七面鳥、ダチョウ等の鳥類;マグロ、サケ、タラ、タイ、カジキ、イワシ、サバ、アジ、サンマ、ウナギ、コイ、フナ等の魚類;クジラ、イルカ、アザラシ、セイウチ等の海獣類;ワニ、カメ、ヘビ等の爬虫類;カエル、サンショウウオ等の両生類;タコ、イカ等の軟体動物類;ホタテ、アサリ、ハマグリ等の貝類;イセエビ、クルマエビ等の甲殻類等が挙げられる。これら食肉類は、単独であってもよく、二種以上を混合したものであってもよい。
食肉の部位についても特に制限はなく、牛肉であればサーロイン、ヒレ、ロース、バラ、リブロース、ランプ等、豚肉であればロース、ヒレ、バラ、モモ等、鶏肉であればムネ、モモ、手羽、ササミ等が挙げられる。食肉の形状についても特に制限はなく、ブロック状、切り身状、賽の目状、スティック状、スライス状、ミンチ状、すり身状等の形態の肉塊が挙げられる。
【0034】
<肉質改良方法>
本発明の肉質改良方法は、本発明の五環性トリテルペンを含有する肉質改良剤により食肉類を処理する工程を含む。ここで「肉質改良剤により食肉類を処理する」とは五環性トリテルペンと食肉類とを接触させることができる処理方法であれば特に制限されるものではなく、例えば、インジェクション(食肉に調味液等を機械的に注入する処理)、タンブリング(食肉に調味液等を機械的に浸透させる処理)、漬け込み(食肉に調味液等を加えて静置して漬け込む処理)、噴霧(食肉に調味液等を機械的に吹き付ける処理)、塗布(食肉に刷毛などを用いて調味液等を塗り付ける処理)、まぶし(食肉に粉末調味料等を被覆させる処理)、煮込み(食肉を出汁等と共に煮込む処理)等の方法が挙げられ、これらの方法から選択される一又は二以上の方法を採用することができる。
【0035】
肉質改良剤の使用量は、用いる食肉の種類、肉質、大きさ、形状、採用する肉質改良方法等を考慮して適宜設定することができる。効果的に肉質を改良する観点から、五環性トリテルペンの使用量は、食肉100質量部に対して0.001質量部以上であり、好ましくは0.003質量部以上であり、より好ましくは0.01質量部以上であり、更に好ましくは0.05質量部以上であり、より更に好ましくは0.1質量部以上である。五環性トリテルペンの使用量の上限は特に限定されるものではないが、製造効率の観点から食肉100質量部に対して20質量部以下であり、好ましくは10質量部以下であり、より好ましくは5質量部以下である。この範囲の五環性トリテルペンを使用することにより、食肉の肉質を良好に改良することができる。
肉質改良剤(五環性トリテルペン)による食肉類の処理時間は、特に制限されるものではないが、好ましくは10秒間~24時間であり、より好ましくは1分間~2時間であり、更に好ましくは2分間~1時間である。処理時間が長いほど肉質改良効果を得ることができるが、製造効率の観点から1時間以下にすることが望ましい。
【0036】
<食肉加工食品の製造方法>
本発明において、食肉加工食品とは食肉を加熱により加工した食品をいう。
本発明の食肉加工食品の製造方法は、上述の肉質改良剤により食肉類を処理する工程と肉質改良剤により改質された食肉類を加熱する工程を含む。
本発明の食肉加工食品の製造方法で得られる食肉加工食品は特に限定されるものではなく、鶏から揚げ、竜田揚げ、フライドチキン、トンカツ、ビーフカツ、マグロフライ、鮭フライ、エビフライ、ホタテフライ、フリッター等の揚げ肉類及びノンフライ揚げ肉類;ステーキ、ローストビーフ、ローストポーク、焼き鳥、焼魚等の焼き肉類;カレー、シチュー、ポトフ等の煮込み肉類;ボーンレスハム、ベーコン、ソーセージ、スモークサーモン等の塩蔵及び/又は燻製肉類;ハンバーグ、肉団子、つくね、つみれ、かまぼこ、ちくわ等の練肉類;ビーフジャーキー、アジ開き等の干肉類等が挙げられる。
これらの中でも、本発明の効果が良好に得られる観点から、揚げ物類、焼き肉類、煮込み肉類であり、より好ましくは揚げ肉類及び焼き肉類である。また、好ましくはすりつぶしやミンチ加工していない塊状の食肉を使用した食肉加工食品である。
【0037】
本発明の食肉加工食品の製造方法において、肉質改良剤により食肉類を処理する工程における処理方法は特に制限されるものではなく、例えば、インジェクション(食肉に調味液等を機械的に注入する処理)、タンブリング(食肉に調味液等を機械的に浸透させる処理)、漬け込み(食肉に調味液等を加えて静置して漬け込む処理)、噴霧(食肉に調味液等を機械的に吹き付ける処理)、塗布(食肉に刷毛などを用いて調味液等を塗り付ける処理)、まぶし(食肉に粉末調味料等を被覆させる処理)、煮込み(食肉を出汁等と共に煮込む処理)等の方法が挙げられ、これらの方法から選択される一又は二以上の方法を採用することができる。
肉質改良剤の使用量は、用いる食肉の種類、肉質、大きさ、形状、採用する肉質改良方法等を考慮して適宜設定することができる。効果的に肉質を改良する観点から、五環性トリテルペンの使用量は、食肉加工食品の製造に用いる食肉100質量部に対して0.001質量部以上であり、好ましくは0.003質量部以上であり、より好ましくは0.01質量部以上であり、更に好ましくは0.05質量部以上であり、より更に好ましくは0.1質量部以上である。五環性トリテルペンの使用量の上限は特に限定されるものではないが、製造効率の観点から食肉加工食品の製造に用いる食肉100質量部に対して20質量部以下であり、好ましくは10質量部以下であり、より好ましくは5質量部以下である。この範囲の五環性トリテルペンを使用することにより、食肉の肉質を良好に改良することができる。
肉質改良剤による食肉類の処理時間は、特に制限されるものではないが、好ましくは10秒間~24時間であり、より好ましくは1分間~2時間であり、更に好ましくは2分間~1時間である。処理時間が長いほど肉質改良効果を得ることができるが、製造効率の観点から1時間以下にすることが望ましい。
【0038】
本発明の食肉加工食品の製造方法は、さらに肉質改良剤により処理された食肉類を加熱する工程を含む。加熱する方法は特に制限されるものではなく、フライ(油ちょう)加熱、フライパン加熱、オーブン加熱、直火加熱、燻製加熱、スチーム加熱、スチームコンベクション加熱、過熱水蒸気加熱、煮込み加熱、マイクロ波加熱等が挙げられる。加熱温度は特に制限されるものではなく、製造する食肉加工食品に応じて適宜調節することができる。例えば、フライ加熱であれば160~220℃、フライパン加熱であれば170~240℃、オーブン加熱であれば70~300℃、燻製加熱であれば30~100℃、スチーム加熱であれば50~100℃、スチームコンベクション加熱であれば120~300℃、過熱水蒸気加熱であれば100~350℃、煮込み加熱であれば50~100℃である。
【0039】
得られた食肉加工食品は、急速冷凍した後冷凍保存し、解凍してから或いは解凍することなく再加熱してもよい。例えば、鶏から揚げであれば、肉質改良剤を適用した鶏モモ肉を衣材で被覆し、熱した油浴中でフライ加熱し、粗熱を取った後に-40℃で急速凍結して冷凍鶏から揚げとし、家庭用冷凍冷蔵庫の冷凍庫で10日間を保存し、解凍することなく熱した油浴中で再フライ加熱ないしは電子レンジ加熱して鶏から揚げを得ることができる。
【0040】
また、本発明において、肉質改良剤で処理した後、加熱することなく冷凍加工食肉又は冷蔵加工食肉とすることもできる。例えば、鶏から揚げであれば、肉質改良剤により処理した鶏モモ肉を衣材で被覆し、容器に収容した後、-40℃で急速凍結して冷凍未油ちょう鶏から揚げとすることができる。家庭用冷凍冷蔵庫の冷凍庫等で保存した後、解凍あるいは未解凍の状態で熱した油浴中でフライ加熱することにより鶏から揚げを得ることができる。
【実施例0041】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0042】
<製造例1 五環性トリテルペン粉末1の製造>
(1)オリーブ果実をコールドプレス法によりオリーブオイルを搾油し、オリーブ果実搾油粕を得た。
(2)オリーブ果実搾油粕100質量部に250質量部の90%含水エタノール(v/v)を加え、70℃で攪拌しながら2時間加熱し、固液分離により得られた液体部分をエバポレーターで減圧留去して濃縮液を得た。
(3)濃縮液を水に分散させ、合成吸着樹脂アンバーライトXAD4(オルガノ株式会社)を担体としたカラムクロマトグラフィーに供し、50%含水エタノールから100%エタノールに至る10%刻みのステップワイズ溶出によりトリテルペン高含有画分を分取した。
(4)トリテルペン高含有画分を減圧留去し、液油体状のオリーブ果実由来トリテルペン含有液を調製した。
(5)このトリテルペン含有液100質量部に20%含水エタノール100質量部を加えて十分に混合して溶解し、4℃で一晩静置して析出させ、析出物を濾過により回収及び洗浄し、減圧乾燥した後ピンミルを用いて粉末化することにより五環性トリテルペン粉末1を得た。
(6)1gの五環性トリテルペン粉末1をメタノールに溶解してHPLC分析に供した。 図1はそのHPLCチャートであり、Aのピークはマスリン酸、Bのピークはオレアノール酸であった。なお、ピークの同定は標準品とのリテンションタイムの比較及びLC/MS解析により行い、定量値は標準品のピーク面積を基準に算出した。その結果、五環性トリテルペン粉末1にはマスリン酸が50質量%、オレアノール酸が30質量%含まれていることが判った(何れもオリーブ果実由来オレアナン型トリテルペン)。
【0043】
<製造例2 五環性トリテルペン粉末2の製造>
(1)上記ステップワイズ溶出に替えて50%含水エタノールから100%エタノールに至るグラディエント溶出を行った以外は製造例1に従って液油体状のオリーブ果実由来トリテルペン含有液を調製し、粉末化して五環性トリテルペン粉末2を得た。
(2)得られた五環性トリテルペン粉末2をHPLC分析に供したところ(HPLCチャートは省略)、オレアナン型トリテルペンの含有率は90質量%、マスリン酸の含有率は90質量%、オレアノール酸の含有率は0質量%であった。
【0044】
<製造例3 マリネート液の製造>
0.2質量部の食塩、0.3質量部のグルタミン酸ナトリウム及び13.6質量部の水をミキサーに投入して溶解し、更に0.2質量部の五環性トリテルペン粉末1を投入して均質になるまで混合し、マリネート液(肉質改良剤)を製造した。
【0045】
<製造例4 鶏から揚げの製造>
(1)250gの鶏モモ肉塊を約25gの鶏モモ肉片10個に切り分けた。
(2)製造例3に従って得たのマリネート液全量(14.3質量部)と鶏モモ肉片100質量部とを合わせ、30分間タンブリング処理した(鶏モモ肉片100質量部に対して0.2質量部の五環性トリテルペン粉末1)。なお、タンブリング後、タンブラー内に残存するマリネート液はほぼ存在しなかった。
(3)下味を付けた鶏モモ肉片をバッター液(株式会社ニップン、パリから醤油)に投入し、鶏モモ肉片をバッター液で被覆させて未油ちょう鶏から揚げを得た。なお、被覆前後のバッター重量を測定したところ、鶏モモ肉片は、1個当たり10gのバッター液で被覆されていた。
(4)得られた未油ちょう鶏から揚げを170℃に予熱した油浴に投入して4分間油ちょうし、金属製の油切りバットに重ならないように並べ、油切りして鶏から揚げを得た。
【0046】
<評価例1 鶏から揚げの官能評価>
得られた鶏から揚げを10名の熟練パネラーにより下記基準に従って評価した。なお、五環性トリテルペン粉末を水に置換して五環性トリテルペン粉末を含まないマリネート液を用いて製造した鶏から揚げ(参考例1)の評価点を3点とした。
【0047】
食感(肉の柔らかさ)
【0048】
食感(肉のジューシー感)
【0049】
<試験例1 鶏から揚げの食感に与える五環性トリテルペンの影響>
表1記載の質量部の五環性トリテルペン粉末を用いた以外は製造例3に従ってマリネート液を調製し、製造例4に従って鶏から揚げを製造し、評価例1に従って評価した。SDは標準偏差の略である。なお、マリネート液の調製に際して、五環性トリテルペン粉末は、五環性トリテルペン粉末以外の成分全量に対して外配合で添加した。
その結果、鶏モモ肉片100質量部当たり0.008質量部のオリーブ果実由来オレアナン型トリテルペン(五環性トリテルペン)を使用した実施例1で肉の柔らかさ及び肉のジューシー感がやや良好になり、オリーブ果実由来オレアナン型トリテルペンの使用量の増加に依存して肉の柔らかさ及びジューシー感共に良化した。オリーブ果実由来オレアナン型トリテルペンがマスリン酸のみである実施例6及び7においても同様にその使用量の増加に伴って肉の柔らかさ及びジューシー感のある共に良化した。オリーブ果実由来オレアナン型トリテルペンがマスリン酸とオレアノール酸とからなる実施例4とマスリン酸からなる実施例6とでは肉の柔らかさ及びジューシー感の評価が同等であったことから、マリネート液中にオレアナン型トリテルペンが含まれていれば鶏から揚げの食感が改善されることが判った。
【0050】
表1

5TTは五環性トリテルペンの略である。
OTTはオレアナン型トリテルペンの略である。
*:鶏モモ肉片100質量部当たりのタンブリング量(質量部)である。
【0051】
<試験例2 タンブリング処理時間の検討>
表2記載のタンブリング処理時間にした以外は、製造例4に従って鶏から揚げを製造し、評価例1に従って評価した。なお、タンブラー内に残存したマリネート液の量は、タンブリング後、タンブラーから鶏肉を取り出し、残存したマリネート液と共にタンブラーの重量を測定し、空のタンブラーの重量を差し引くことにより求めた。
その結果、タンブラー内に残存するマリネート液の減少に依存して肉の柔らかさ及びジューシー感共に良好になった。このことから、食肉(鶏肉)に対するオリーブ果実由来オレアナン型トリテルペンの付着量あるいは吸収量に依存して食肉の食感が改良されることが判った。なお、実施例2よりも実施例11の方がわずかに肉の柔らかさが改善されたのは、タンブリングの衝撃により肉の繊維が解されたためである。
【0052】
表2
【0053】
<製造例5 ビーフステーキの製造>
(1)製造例3のマリネート液に水を加えて全量を20質量部とし、これをピックル液(肉質改良剤)とした。
(2)オーストラリア産牛赤身肉を厚さ2cmの略直方体になるようにトリミングした。
(3)トレーに隙間なく牛赤身肉を敷き詰め、牛赤身肉100質量部に対して20質量部のピックル液をインジェクションした。
(4)220℃に予熱した鉄板にピックル液をインジェクションした牛赤身肉をのせ、ミディアムレアになるように焼成してビーフステーキを得た。
【0054】
<試験例3 ビーフステーキの食感に与える五環性トリテルペンの影響>
表3記載の五環性トリテルペンの使用量にした以外は製造例5に従ってビーフステーキを製造し、評価例1に準じて評価した。ピックル液の調製に際して、五環性トリテルペン粉末は内配合である。評価に際して、五環性トリテルペンを水分に置き換えたピックル液をインジェクションしたビーフステーキ(参考例2)の肉の柔らかさ及びジューシー感を3点とした。
その結果、牛赤身肉にインジェクションしたオレアナン型トリテルペンの増加に伴って肉の柔らかさ及びジューシー感は改善した。オレアナン型トリテルペンの含有量が同じであるマスリン酸とオレアノール酸とを含む実施例14とマスリン酸のみを含む実施例15とでは、肉の柔らかさ及びジューシー感共に同等であった。
【0055】
表3

5TTは五環性トリテルペンの略である。
OTTはオレアナン型トリテルペンの略である。
*:牛赤身肉100質量部当たりのインジェクション量(質量部)である。
【0056】
<製造例6 イカから揚げの製造>
(1)内臓と薄皮を除いたイカを開いて水気を十分にぬぐい取り、両面に格子状の切れ目を入れ、5cm×2cmの短冊切りにしてイカ切り身を得た。
(2)97.5質量部の薄力粉、1.5質量部の粉末鶏ガラスープ及び1質量部の五環性トリテルペン粉末1をミキサーに投入し、均質になるまで混合してまぶし粉(肉質改良剤)を得た。
(3)イカ切り身100質量部とまぶし粉5質量部を樹脂製袋に投入し、イカ切り身にまぶし粉が満遍なく付着するまで1分間タッピングした。
(4)まぶし粉が付着したイカ切り身を170℃に予熱した油浴に投入して2分間フライし、金属製の油切りバットに重ならないように並べて油切りしてイカから揚げを得た。
【0057】
<試験例4 イカから揚げの食感に与える五環性トリテルペンの影響>
表4記載の質量部の五環性トリテルペン粉末を用いた以外は製造例6に従ってイカから揚げを製造し、評価例1に準じて評価した。なお、まぶし粉の製造に当たり、五環性トリテルペン粉末は薄力粉と置換した。評価に際して、五環性トリテルペンを含まないまぶし粉を使用したイカから揚げ(参考例3)の肉の柔らかさ及びジューシー感を3点とした。
その結果、イカ切り身へのオリーブ果実由来オレアナン型トリテルペン(五環性トリテルペン)の付着量の増加に伴って肉の柔らかさ及びジューシー感が改善した。その改善の傾向は、試験例1の鶏から揚げ及び試験例3のビーフステーキと同等であった。
【0058】
表4

5TTは五環性トリテルペンの略である。
OTTはオレアナン型トリテルペンの略である。
*:まぶし粉100質量部当たりの含有量(質量部)である。
**:イカ切り身100質量部当たりの付着量(まぶし粉5質量部当たりの含有量、単位は質量部)である。
【0059】
<試験例5 各種から揚げの食感に与える五環性トリテルペンの影響>
揚げ種として牛肉切り身、鴨肉切り身、アジ開き、ホタテ貝柱、バナメイエビを用いて試験例4と同様にから揚げを製造した。イカ切り身の場合と同様に、何れのから揚げもオリーブ果実由来オレアナン型トリテルペン(五環性トリテルペン)の付着量の増加に伴って肉の柔らかさ及びジューシー感が改善した。
【0060】
<製造例7 五環性トリテルペン粉末3の製造>
(1)リンゴ果実からリンゴ果皮を剥皮し、卓上ミキサーに投入してリンゴ果皮粉砕物を得た。
(2)リンゴ果皮粉砕物を出発原料とした以外は製造例2に従って五環性トリテルペン粉末3を得た。
(3)得られた五環性トリテルペン粉末3をHPLC分析に供したところ(HPLCチャートは省略)、ウルサン型トリテルペンの含有率は90質量%、ウルソール酸の含有率は90質量%であった。
【0061】
<試験例6 鶏から揚げの食感に与えるウルサン型トリテルペンの影響>
表5記載の質量部の五環性トリテルペン粉末を用いた以外は製造例3に従ってマリネート液を調製し、製造例4に従って鶏から揚げを製造し、評価例1に従って評価した従って鶏唐揚げを製造し、評価例1に従って評価した。結果を表5に示す。実施例2及び3は再掲である。
その結果、ウルサン型トリテルペンであるウルソール酸を用いた場合でも、その使用量に依存して肉の柔らかさ及びジューシー感が良好になり、その食感改良効果はオレアナン型トリテルペンを用いた実施例2及び3とほぼ同等であった。
【0062】
表5

5TTは五環性トリテルペンの略である。
*:鶏モモ肉片100質量部当たりのタンブリング量(質量部)である。
【0063】
以上の結果から、五環性トリテルペンがどのような作用機序で肉質改良効果を発揮しているかを解明するには猶予が必要ではあるが、親油性の五環性トリテルペン骨格とその骨格内に付属している水酸基やカルボキシル基等の親水性の官能基とによる両親媒性の性質と、五環性トリテルペン骨格自身の性質とが相まって、肉質改良効果をもたらしたものと考えられた。一般的に五環性トリテルペンは水酸基やカルボキシル基等の親水性基を有していることから、本試験例で示された肉質改良効果は五環性トリテルペンの何れもが有しているものと推察された。
図1