(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022013660
(43)【公開日】2022-01-18
(54)【発明の名称】滑膜由来間葉系幹細胞の製造方法および関節治療用細胞製剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20220111BHJP
A61K 35/32 20150101ALI20220111BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
C12N5/0775
A61K35/32
A61P19/02
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049723
(22)【出願日】2021-03-24
(62)【分割の表示】P 2020115374の分割
【原出願日】2020-07-03
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】関矢 一郎
(72)【発明者】
【氏名】水野 満
(72)【発明者】
【氏名】片野 尚子
(72)【発明者】
【氏名】大関 信武
(72)【発明者】
【氏名】中村 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智美
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BD44
4B065BD45
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB46
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZA96
(57)【要約】
【課題】滑膜組織から十分な量の滑膜由来間葉系幹細胞を得ることができるように増殖効率を向上させた、滑膜由来間葉系幹細胞の製造方法、上記した滑膜由来間葉系幹細胞の製造方法を利用した関節治療用細胞製剤の製造方法、滑膜由来間葉系幹細胞、及び関節治療用細胞製剤を提供すること。
【解決手段】滑膜組織から滑膜由来間葉系幹細胞を製造する方法であって、滑膜組織の消毒工程を経ずに、滑膜組織を、1種以上のコラゲナーゼと1種以上の中性プロテアーゼを含む混合酵素で2時間以上処理すること、を含む、滑膜由来間葉系幹細胞の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
滑膜組織から滑膜由来間葉系幹細胞を製造する方法であって、
滑膜組織の消毒工程を経ずに、滑膜組織を、コラゲナーゼクラスIとコラゲナーゼクラスIIと中性プロテアーゼとを含む混合酵素で2時間以上処理すること、および
酵素処理後の滑膜由来間葉系幹細胞を、100細胞/cm2以上5000細胞/cm2以下の細胞数で播種し培養すること、
を含む、滑膜由来間葉系幹細胞の製造方法。
【請求項2】
前記処理が、ヒト血清を含む水溶液中で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
混合酵素が、リベラーゼ(登録商標)である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
酵素処理における酵素濃度が、0.01mg/ml~10mg/mlである、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
滑膜組織がヒト由来である、請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
滑膜組織が、単一ドナー由来の滑膜組織である、請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
滑膜が採取される対象と、滑膜由来間葉系幹細胞が移植される対象とが、同一対象である、請求項1から6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
滑膜組織と酵素の質量比率が、1000:1~10:1である、請求項1から7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
酵素処理後の滑膜由来間葉系幹細胞を10日間以上培養することにより、滑膜由来間葉系幹細胞を増殖させることを含む、請求項1から8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記10日間以上の培養を、培地交換なしで行う、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記10日間以上の培養を、自己の血清を含む培地中で行う、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
酵素処理後の滑膜由来間葉系幹細胞を、100細胞/cm2以上5000細胞/cm2以下の細胞数で播種して、10日間以上培養する、請求項9から11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記10日間以上の培養における増殖倍率が、3倍以上50倍以下である、請求項9から12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
滑膜由来間葉系幹細胞以外の他の細胞と共培養されることなく、滑膜由来間葉系幹細胞が製造される、請求項1から13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1から14の何れか一項に記載の方法により滑膜由来間葉系幹細胞を製造すること、および
前記滑膜由来間葉系幹細胞を用いて関節治療用細胞製剤を製造すること、
を含む、関節治療用細胞製剤の製造方法。
【請求項16】
関節治療が、半月板損傷の治療である、請求項15に記載の関節治療用細胞製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑膜組織の消毒工程を経ずに滑膜組織を酵素で所定の時間処理することを含む滑膜由来間葉系幹細胞を製造する方法に関する。本発明はさらに、上記方法を利用した関節治療用細胞製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
整形外科領域において、関節軟骨損傷や半月板損傷は、日常的な診療行為の対象として頻繁に見られ、多数の患者がいる疾病として広く認識されている。関節軟骨損傷や半月板損傷が生じた場合、関節痛、可動域の減少、関節水腫、および運動障害などを生じる。外傷で生じた関節軟骨損傷や半月板損傷を有する患者は、通常は整形外科医の治療を受ける。軟骨損傷や半月板損傷に対する外科的治療は、関節をさらに悪化させる要因となる破片を取り除き、患部関節の機能を回復させることを目的としている。しかし、一般的に軟骨および半月板組織は自己再生が困難であることが知られている。
【0003】
一方、近年の再生医療技術の進歩により、軟骨や半月板を修復し得る細胞治療が盛んになっている。中でも、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell:MSC)は、有用な細胞治療の細胞源として期待されている。間葉系幹細胞は種々の体組織から採取が可能であり、骨髄組織(非特許文献1)、脂肪組織(非特許文献2)、筋肉組織(非特許文献3)、滑膜組織(非特許文献4)、骨膜組織(非特許文献5)などから単離できることが報告されている。特に、滑膜由来間葉系幹細胞は、骨髄などのさまざまな間葉系組織由来の間葉系幹細胞に比べて高い増殖能および軟骨形成能を有することが報告されている(非特許文献6)。また、特許第5928961号公報および特許第5656183号公報には、滑膜由来間葉系幹細胞を用いて関節軟骨損傷や半月板損傷を治療する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Prockop, D.J., 1997, Science. 276:71-4
【非特許文献2】Zuk, P.A. et al., 2002, Mol Biol Cell. 13:4279-95
【非特許文献3】Cao et al., 2003, Nat Cell Biol. 5:640-6
【非特許文献4】De Bari, C. et al., 2001, Arthritis Rheum. 44:1928-42
【非特許文献5】Fukumoto, T. et al., 2003, OsteoarthritisCartilage. 11:55-64
【非特許文献6】Sakaguchi, et al, 2005, Arthritis Rhum. 52:2521-9
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5928961号公報
【特許文献2】特許第5656183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および2においては、滑膜由来間葉系幹細胞を用いた治療が開示されている。その一方、実際に細胞を製造していく過程において、上記で開示されている製造法では自家治療に供するだけの十分な細胞収量を達成できない場合があるという課題が明らかとなってきた。
【0007】
本発明は、滑膜組織から十分な量の滑膜由来間葉系幹細胞を得ることができるように増殖効率を向上させた、滑膜由来間葉系幹細胞の製造方法を提供することを課題とする。本発明はさらに、上記した滑膜由来間葉系幹細胞の製造方法を利用した関節治療用細胞製剤の製造方法を提供することを課題とする。本発明はさらに、滑膜由来間葉系幹細胞、及び関節治療用細胞製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、滑膜組織を、消毒工程を経ずに、一定時間以上酵素処理する工程を付与することにより、治療に供することが可能な細胞量を製造でき、増殖倍率を向上させることに成功した。滑膜組織は殺菌、滅菌の観点から消毒工程を経た後に使用することが常識的であった。消毒工程を経ずに長時間の酵素処理を実施することは製造工程由来不純物(細菌、エンドトキシン等)を増加させてしまう等の悪影響があり、結果的に製造出来る細胞が少なくなると見込まれ、なるべく避ける方向に考えられていた。実際、消毒工程を経たのちに酵素処理時間を1時間1分から1.5時間にした場合には、細胞収量が大きく減少した。一方、通常では考えていなかった、消毒工程をあえて除いたことにより、予想外に細胞収量を増加させられることが分かり、増殖倍率としても顕著に高まることが判明した。本発明者は、酵素処理時間の延長と消毒工程の省略という2つの工夫がなされることによって、はじめて大幅な増殖倍率の向上という効果を得られることを見出した。本発明は上記知見に基づいて完成したものである。
【0009】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
<1> 滑膜組織から滑膜由来間葉系幹細胞を製造する方法であって、
滑膜組織の消毒工程を経ずに、滑膜組織を、1種以上のコラゲナーゼと1種以上の中性プロテアーゼを含む混合酵素で2時間以上処理すること、
を含む、滑膜由来間葉系幹細胞の製造方法。
<2> 混合酵素が、リベラーゼである、<1>に記載の方法。
<3> 酵素処理における酵素濃度が、0.01mg/ml~10mg/mlである、<1>又は<2>に記載の方法。
<4> 滑膜組織がヒト由来である、<1>から<3>の何れか一に記載の方法。
<5> 滑膜組織が、単一ドナー由来の滑膜組織である、<1>から<4>の何れか一に記載の方法。
<6> 滑膜が採取される対象と、滑膜由来間葉系幹細胞が移植される対象とが、同一対象である、<1>から<5>の何れか一に記載の方法。
<7> 滑膜組織と酵素の質量比率が、1000:1~10:1である、<1>から<6>の何れか一に記載の方法。
<8> 酵素処理後の滑膜由来間葉系幹細胞を10日間以上培養することにより、滑膜由来間葉系幹細胞を増殖させることを含む、<1>から<7>の何れか一に記載の方法。
<9> 上記10日間以上の培養を、培地交換なしで行う、<8>に記載の方法。
<10> 上記10日間以上の培養を、自己の血清を含む培地中で行う、<8>または<9>に記載の方法。
<11> 酵素処理後の滑膜由来間葉系幹細胞を、100細胞/cm2以上5000細胞/cm2以下の細胞数で播種して、10日間以上培養する、<8>から<10>の何れか一に記載の方法。
<12> 上記10日間以上の培養における増殖倍率が、3倍以上50倍以下である、<8>から<11>の何れか一に記載の方法。
<13> 滑膜由来間葉系幹細胞以外の他の細胞と共培養されることなく、滑膜由来間葉系幹細胞が製造される、<1>から<12>の何れか一に記載の方法。
<14> <1>から<13>の何れか一に記載の方法により滑膜由来間葉系幹細胞を製造すること、および
上記滑膜由来間葉系幹細胞を用いて関節治療用細胞製剤を製造すること、
を含む、関節治療用細胞製剤の製造方法。
<15> 関節治療が、半月板損傷の治療である、<14>に記載の関節治療用細胞製剤の製造方法。
<16> <1>から<13>の何れか一に記載の方法により製造された、滑膜由来間葉系幹細胞。
<17> <14>または<15>に記載の方法により製造された、関節治療用細胞製剤。
【0010】
<A> 軟骨損傷部または半月板損傷部を滑膜由来間葉系幹細胞により覆うように、本発明の方法により製造した滑膜由来間葉系幹細胞を移植する工程;および
滑膜由来間葉系幹細胞を軟骨細胞に分化させることによって、軟骨損傷部または半月板損傷部でin situで軟骨組織を再生させる工程;
を含む、関節の治療方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、滑膜組織から十分な量の滑膜由来間葉系幹細胞を得ることができるように増殖効率を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を、詳細に説明する。
[滑膜由来間葉系幹細胞の製造方法]
本発明による滑膜由来間葉系幹細胞の製造方法は、
滑膜組織から滑膜由来間葉系幹細胞を製造する方法であって、
滑膜組織の消毒工程を経ずに、滑膜組織を、1種以上のコラゲナーゼと1種以上の中性プロテアーゼを含む混合酵素で2時間以上処理すること、
を含む。
【0013】
<滑膜組織>
滑膜組織は、麻酔下で関節の非荷重部分から採取することができる。
滑膜組織の生物由来は特に限定されず、任意の生物、好ましくは哺乳動物に由来する滑膜組織を使用することができる。例えば、霊長類(例えば、チンパンジー、ニホンザル、ヒト)由来の滑膜組織を使用することができ、特に好ましくは、ヒト由来の滑膜組織を使用することができる。
【0014】
滑膜組織は、単一ドナー由来の滑膜組織でも、複数のドナーに由来する滑膜組織でもよいが、好ましくは単一ドナー由来の滑膜組織である。
【0015】
ヒトへの投与を目的として、滑膜由来間葉系幹細胞を製造する場合、好ましくはレシピエントと組織適合性抗原のタイプが一致または類似したドナーより採取された滑膜組織を使用することが好ましい。より好ましくは、滑膜が採取される対象と、滑膜由来間葉系幹細胞が移植される対象とが、同一対象である。即ち、レシピエント自身より採取された滑膜組織を使用すること(自家移植)が好ましい。
【0016】
滑膜組織の採取量は、ドナーの種類、または必要とされる滑膜由来間葉系幹細胞の量を考慮して決めることができる。例えば、0.1g~10g、好ましくは0.1g~2.0g、より好ましくは0.1g~1.5g、さらに好ましくは0.1g~1.0gの滑膜組織から滑膜由来間葉系幹細胞を得ることができる。 採取した滑膜組織は、必要に応じてハサミ等で細断した後、後記する酵素処理に供される。本発明においては、滑膜組織は、消毒工程を経ずに酵素処理に供される。
【0017】
<酵素による処理>
本発明においては、滑膜組織を酵素で2時間以上処理する。
酵素としては、1種以上のコラゲナーゼと1種以上の中性プロテアーゼを含む混合酵素を使用する。特に好ましい酵素は、リベラーゼである。リベラーゼとしては、例えば、リベラーゼMNP-S(ロシュ製)を使用することができるが、これはコラゲナーゼクラスIとコラゲナーゼクラスIIと中性プロテアーゼ(サーモシリン)とを含む酵素である。
【0018】
酵素反応は、酵素を含む水溶液中で行うことができ、ヒト血清を含む水溶液を用いてもよい。
酵素処理における酵素濃度は、好ましくは0.01mg/ml~10mg/mlであり、より好ましくは0.1mg/ml~10mg/mlであり、さらに好ましくは0.5mg/ml~10mg/mlであり、さらに一層好ましくは0.5mg/ml~5.0mg/mlであり、特に好ましくは0.5mg/ml~2.0mg/mlであり、最も好ましくは0.7mg/ml~2.0mg/mlである。
滑膜組織と酵素の質量比率は、好ましくは1000:1~10:1であり、より好ましくは500:1~20:1であり、さらに好ましくは200:1~40:1である。
【0019】
酵素反応は、好ましくは15℃から40℃、より好ましくは20℃から35℃、更に好ましくは25℃から35℃の温度で行うことができる。
反応時間は、2時間以上であればよく、より好ましくは、2.5時間以上、さらに好ましくは3時間以上である。反応時間の上限は特に限定されないが、10時間以内、9時間以内、8時間以内、7時間以内、6時間以内、5時間以内、または、4時間以内でもよい。
酵素処理された混合物には、滑膜由来間葉系幹細胞が含まれている。
酵素処理された混合物は、セルストレーナーを通して遠沈管に移し、遠心処理することにより滑膜由来間葉系幹細胞を回収することができる。
【0020】
<洗浄>
本発明においては、酵素処理後の混合物を、洗浄してもよい。
洗浄は、上記した遠心処理により回収した滑膜由来間葉系幹細胞を培地に再懸濁し、再度遠心(400gで5分間など)することにより行うことができる。培地としては、α改変イーグル最小必須培地(αMEM)を用いることができるが、特に限定されない。洗浄の回数は1回でもよいし、複数回でもよい。
【0021】
<増殖>
本発明においては、滑膜由来間葉系幹細胞を10日間以上培養することにより、滑膜由来間葉系幹細胞を増殖させてもよい。
【0022】
上記の培養において使用する培地は、通常の動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。通常の動物細胞の培養に用いられる培地としては、αMEM、DMEM(Dulbecco Modified Eagle Medium)、DMEMとF12の混合培地(DMEM:F12=1:1)、RPMI培地(GIBCO(登録商標)RPMI1640培地など)、DMEM/F12とRPMIの混合培地(DMEM/F12:RPMI=1:1)などを挙げることができるが、特に限定されない。
【0023】
培地としては、血清を含む培地でもよいし、血清を含まない培地でもよい。生体への投与を目的として、自己の組織から滑膜由来間葉系幹細胞を製造する場合には、培地は、同種血清を含有するものであってもよい。即ち、ヒトへの投与を目的として、ヒトの組織から滑膜由来間葉系幹細胞を製造する場合には、ヒト血清を含む培地を使用してもよい。血清を使用する場合、自己の血清であってもよいし、同種異型の血清であってもよいが、好ましくは自己の血清である。血清を使用する場合には、培地における血清の添加量は、例えば、20体積%以下、10体積%以下、または5体積%以下である。
【0024】
細胞の培養条件は特に限定されず、通常の細胞培養の条件を採用できる。例えば、温度30~40℃、3~7%CO2での培養を挙げることができるが、特に限定されるものではない。一例としては、温度37℃、5%CO2での培養を挙げることができる。
【0025】
本発明においては、上記した10日間以上の培養を、培地交換なしで行うことが好ましい。また、上記した10日間以上の培養においては、滑膜由来間葉系幹細胞以外の他の細胞と共培養されることなく、滑膜由来間葉系幹細胞が製造されることが好ましい。
【0026】
滑膜由来間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化は、培養期間が長くなるほど進行し、従って培養期間が特定の長さを超えると滑膜由来間葉系幹細胞のin situでの軟骨形成能は低下することが知られている。そのため、本発明においては、滑膜由来間葉系幹細胞を未分化の状態で、そして良好なin situ軟骨形成能を有する状態で増殖させるために、培養期間を調整することが好ましい。また、本発明においては、軟骨損傷部を覆い、そして患部を再生させるために十分な数の未分化滑膜幹細胞を用意する必要性を考慮することが必要である。従って、培養期間は、5日間以上、7日間以上、、10日間以上であることがより好ましく、10~14日間、10~21日間、または、10~28日間がより好ましく、10~21日間がさらに好ましい。
【0027】
間葉系幹細胞を、トランスフォーミング増殖因子β3(TGF-β3)、デキサメタゾン、骨形成因子2(BMP-2)を添加した軟骨形成培地中で培養することにより、軟骨細胞に分化し、in vitroで軟骨組織を作製することが可能であることが知られている。従って、本発明では、滑膜由来間葉系幹細胞が軟骨細胞へ分化しないようにするためには、TGF-β3、デキサメタゾン、またはBMP-2の非存在下で、単離した滑膜由来間葉系幹細胞を培養することが好ましい。
【0028】
滑膜由来間葉系幹細胞は、in vitroでの間葉系幹細胞の継代数と反比例して、in situ軟骨形成能が低下することも知られている。従って、未分化の間葉系幹細胞を調製するためには、初代あるいは第1継代での滑膜由来間葉系幹細胞を製造することが好ましい。
【0029】
本発明においては、自家治療において使用する血清は自己由来であり、自家治療においてドナーから採取できる血清の量は限られており、また、滑膜由来幹細胞の増殖の観点で一定以上の細胞密度が必要であるため、酵素処理後の滑膜由来間葉系幹細胞を、100細胞/cm2以上5000細胞/cm2以下、200細胞/cm2以上5000細胞/cm2以下、500細胞/cm2以上5000細胞/cm2以下、500細胞/cm2以上2500細胞/cm2以下、または500細胞/cm2以上2000細胞/cm2以下の細胞数で播種し、培養することが好ましい。また、酵素処理後に滑膜由来間葉系幹細胞を増殖させるために、10日間以上培養することがより好ましい。
上記した10日間以上の培養における増殖倍率は、3倍以上50倍以下であることが好ましく、4倍以上30倍以下であることがより好ましく、5倍以上20倍以下であることがさらに好ましく、7倍以上15倍以上であることが特に好ましい。
【0030】
培養終了時に得られる細胞数は、1.0×107細胞以上、2.0×107細胞以上、2.5×107細胞以上、または、3.0×107細胞以上であることが好ましく、4.0×107細胞以上であることがより好ましく、5.0×107細胞以上であることがさらに好ましく、6.0×107細胞以上であることが特に好ましい。
【0031】
<滑膜由来間葉系幹細胞>
間葉系幹細胞とは、中胚葉性組織(間葉)に由来する体性幹細胞である。間葉系幹細胞は骨髄、滑膜、骨膜、脂肪組織、筋肉組織に存在することが知られており、そして骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、および筋細胞に分化する能力を有することが知られている。間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化に関連して、BMPあるいはTGF-βを培養液に添加することにより、未分化間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化が促進され、そして軟骨組織がin vitro条件下で再生できることが知られている。
【0032】
間葉系幹細胞は、間葉系幹細胞に特徴的な分子、例えば酵素、レセプター、低分子化合物等を検出して確認することができる。間葉系幹細胞に特徴的な分子としては、細胞表面マーカー(ポジティブマーカー)であるCD73、CD90、CD105、CD166、等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、間葉系幹細胞には発現していないネガティブマーカーとしては、CD19、CD34、CD45、HLA-DR、CD11b、CD14等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、CDは、Clusters of differentiationの略であり、HLA-DRは、human leukocyte antigen-D-relatedの略である。これらのポジティブマーカーおよびネガティブマーカーを利用して、間葉系幹細胞であることを確認することができる。これらのマーカーの検出には免疫学的方法を利用できるが、各分子のmRNA量の定量により検出を実施してもよい。
【0033】
本明細書において滑膜由来間葉系幹細胞とは、滑膜に含まれる幹細胞である。滑膜由来間葉系幹細胞は間葉系幹細胞の一種である。滑膜由来間葉系幹細胞は、例えば、CD90陽性、CD45陰性、軟骨分化能を検出することにより検出することができるが、検出方法は特に限定されない。
【0034】
本発明によれば、本発明の方法により製造された、滑膜由来間葉系幹細胞が提供される。
本発明の方法で製造される滑膜由来間葉系幹細胞は、関節治療用細胞製剤として使用することができる。さらに、本発明の方法で製造される滑膜由来間葉系幹細胞は、例えば、間葉系幹細胞の分化に関する研究や種々の疾患に関する医薬スクリーニング、医薬候補化合物の効能・安全性評価等に使用することもできる。
【0035】
[関節治療用細胞製剤の製造方法]
本発明は、上記した本発明の方法により滑膜由来間葉系幹細胞を製造すること、および
上記滑膜由来間葉系幹細胞を用いて関節治療用細胞製剤を製造すること、
を含む、関節治療用細胞製剤の製造方法に関する。本発明によれば、上記した関節治療用細胞製剤の製造方法方法により製造された、関節治療用細胞製剤が提供される。
即ち、本発明によれば、本発明の方法で得られる滑膜由来間葉系幹細胞を有効成分として含有する関節治療用細胞製剤を製造することができる。
【0036】
関節治療としては、関節の損傷、損害または炎症を伴う疾患の治療を挙げることができ、軟骨等の結合組織の変性および/または炎症から起こる関節疾患、または非炎症性の関節疾患の治療を挙げることができる。関節治療としては、例えば、半月板損傷、外傷性軟骨損傷、離断性骨軟骨炎、無腐性骨壊死、変形性関節症(変形性膝関節症など)、関節リウマチ(慢性関節リウマチなど)、痛風、反応性関節炎、乾癖性関節炎、若年性関節炎、炎症性関節炎、関節軟骨欠損からなる群より選択される疾患の治療を挙げることができるが、これらの疾患に限定されるものではない。
【0037】
本発明の方法により製造された滑膜由来間葉系幹細胞を、関節治療用細胞製剤とする場合には、常法により、上記細胞を医薬的に許容される担体と混合するなどして、個体への投与に適した形態の製剤とすればよい。担体としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウム等)を加えて等張とした注射用蒸留水を挙げることができる。さらに、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤、酸化防止剤等を配合してもよい。
【0038】
[関節の治療方法]
本発明はさらに、関節の治療方法に関する。より具体的には、本発明は、半月板損傷、外傷性軟骨損傷、離断性骨軟骨炎、無腐性骨壊死変形性関節症(例えば、変形性膝関節症)、関節リウマチ(例えば、慢性関節リウマチ)、痛風、反応性関節炎、乾癖性関節炎、若年性関節炎、炎症性関節炎、関節軟骨欠損からなる群より選択される疾患の治療方法に関する。
【0039】
本発明の関節の治療方法は、
軟骨損傷部または半月板損傷部を滑膜由来間葉系幹細胞により覆うように、本発明の方法により製造した滑膜由来間葉系幹細胞を移植する工程;および
滑膜由来間葉系幹細胞を軟骨細胞に分化させることによって、軟骨損傷部または半月板損傷部でin situで軟骨組織を再生させる工程;
を含む。
【0040】
本発明の方法により製造された滑膜由来間葉系幹細胞を患者に移植する際、軟骨損傷部または半月板損傷部を効率的に治療するためには、軟骨損傷部または半月板損傷部あたり、少なくとも2.0×107~1.0×1011個、または、2.5×107~1.0×1011個、または、3.0×107~1.0×1011個、4×107~1.0×1011個、または、2.5×107~1.0×1010個、または、2.5×107~1.0×109個、または、2.5×107~1.0×108個、または、2.0×107~1.0×108個、の滑膜由来間葉系幹細胞、より好ましくは2.0×107~1.0×108個の滑膜由来間葉系幹細胞を適用することが好ましい。
【0041】
滑膜由来間葉系幹細胞を軟骨損傷部または半月板損傷部に移植することにより、軟骨損傷部または半月板損傷部は滑膜由来間葉系幹細胞で覆われる。滑膜由来間葉系幹細胞の移植は、観血的手術により、または関節鏡視下手術により行うことができる。侵襲を出来る限り小さくするために、関節鏡視下に滑膜由来間葉系幹細胞を移植することが好ましい。
【0042】
軟骨損傷部または半月板損傷部は、滑膜由来間葉系幹細胞の懸濁液で覆われても、滑膜由来間葉系幹細胞の細胞シートで覆われてもよい。例えば、ゼラチンやコラーゲンなどの生体吸収性のゲルをゲル状物質として使用することができる。滑膜由来間葉系幹細胞は、軟骨損傷部や半月板損傷部に接着する能力が高い。
【0043】
軟骨損傷の治療の場合、本発明の低侵襲性手技は、滑膜由来間葉系幹細胞により軟骨損傷部を覆うことを特徴としており、以下のステップ:
軟骨損傷部を上方に向けるように体位を保持すること;
滑膜由来間葉系幹細胞の細胞シート、滑膜由来間葉系幹細胞の懸濁液、または滑膜由来間葉系幹細胞を含むゲル状物質を軟骨損傷部の表面に静置すること;そして
特定の時間体位を保持して、それにより滑膜由来間葉系幹細胞を軟骨損傷部の表面に接着させること;
を含む。
【0044】
半月板損傷の治療の場合、本発明の低侵襲性手技は、滑膜由来間葉系幹細胞により半月板損傷部を覆うことを特徴としており、以下のステップ:
半月板損傷部が下向きになるように体位を保持すること;
滑膜由来間葉系幹細胞の懸濁液を膝関節内に注射すること;そして
特定の時間体位を保持して、滑膜由来間葉系幹細胞を半月板損傷部に接着させること;
を含む。
【0045】
軟骨損傷部あるいは半月板損傷部の表面に滑膜由来間葉系幹細胞を確実に接着させるために、移植した滑膜由来間葉系幹細胞を、軟骨損傷部あるいは半月板損傷部の表面に少なくとも10分間、好ましくは15分間、保持することが好ましい。これを実現するため、軟骨損傷部または半月板損傷部を上方に向けること、そして上方に向けた軟骨損傷部または半月板損傷部に滑膜由来間葉系幹細胞を保持することを目的として、体位を少なくとも10分間、好ましくは15分間保持する。
【0046】
滑膜由来間葉系幹細胞を伴う軟骨損傷部や半月板損傷部をさらに、滑膜由来間葉系幹細胞の軟骨損傷部または半月板損傷部への接着をより強固にするため、骨膜で覆うことができる。滑膜由来間葉系幹細胞を軟骨損傷部の表面や半月板損傷部の表面に少なくとも10分間保持したのち手術は完了する。
【0047】
本発明において、移植した滑膜由来間葉系幹細胞は、軟骨損傷部や半月板損傷部で軟骨細胞に分化し、そして軟骨損傷部または半月板損傷部にてin situで軟骨組織を再生する。
【0048】
滑膜由来間葉系幹細胞のin situでの軟骨形成過程の間、局所微小環境(栄養供給およびサイトカイン環境など)に従って、軟骨組織が再生するため、外部からの操作は必要とされない。滑膜由来間葉系幹細胞のin situ軟骨形成の結果、軟骨組織が軟骨損傷部または半月板損傷部にて再生されて、損傷を修復し、そして軟骨損傷の場合には骨領域、軟骨と骨との境界、軟骨中心部、表面領域、そしてもとの軟骨に隣接する領域がもとの軟骨組織として形成され、または半月板損傷の場合には半月板軟骨が形成される。
【0049】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例0050】
<比較例1>通常の製造工程による滑膜由来間葉系幹細胞の製造(組織消毒有り、酵素処理時間1時間1分)
ヒト検体を用いて、通常の製造法により滑膜組織から滑膜由来間葉系幹細胞を作製した。具体的には、M1検体(滑膜組織0.62g)に対して、組織消毒工程として0.1%イソジン溶液で1分間消毒を実施した。その後、上記の組織をハサミで細断し、リベラーゼ水溶液5.0mLに浸漬させた。尚、リベラーゼ水溶液はリベラーゼMNP-S(ロシュ製)5.0mgを、最終濃度20%ヒト自己血清を含む注射用水5.0mLに溶解したものを用いた。酵素反応は室温25℃で1時間1分反応させた。その後、組織消化液をセルストレーナーを通して、50mL遠沈管に移して400gで5分間遠心した。上清を除き、得られた細胞濃厚懸濁液を培地に懸濁しフラスコへ全量を播種した(1000個/cm2)。尚、培地はαMEMに最終濃度10%ヒト自己血清を溶解させた物を用いた。培養はCO2インキュベーター(37℃、5%CO2)にて行い、2週間後にフラスコから細胞を回収し、滑膜由来間葉系幹細胞を製造した。尚、培養期間中、培地交換を実施しない点は本細胞製造の特徴でもある。こうして、最終的に得られた細胞収量はM1で1.5×107cellsであった。また、播種時の細胞数に対する、2週間培養後の細胞数の比率として計算される、増殖倍率は2.0倍であった。結果のまとめを表1に記載した。
【0051】
<比較例2>酵素処理時間を延長した製造工程による滑膜由来間葉系幹細胞の製造(組織消毒有り、酵素処理時間1.5時間)
ヒト検体を用いて、通常の製造法よりも酵素処理時間を30分延長した条件で、滑膜組織から滑膜由来間葉系幹細胞を作製した。具体的には、M2検体(滑膜組織0.85g)に対して、組織消毒工程として0.1%イソジン溶液で1分間消毒を実施した。その後、上記の組織をハサミで細断し、リベラーゼ水溶液5.0mLに浸漬させた。尚、リベラーゼ水溶液はリベラーゼMNP-S(ロシュ製)5.0mgを、最終濃度20%ヒト自己血清を含む注射用水5.0mLに溶解したものを用いた。酵素反応は室温25℃で1.5時間反応させた。その後、組織消化液をセルストレーナーを通して、50mL遠沈管に移して400gで5分間遠心した。上清を除き、得られた細胞濃厚懸濁液を培地に懸濁しフラスコへ全量を播種した(1880個/cm2)。尚、培地はαMEMに最終濃度10%ヒト自己血清を溶解させたものを用いた。培養はCO2インキュベーター(37℃、5%CO2)にて行い、2週間後にフラスコから細胞を回収し、滑膜由来間葉系幹細胞を製造した。尚、培養期間中、培地交換を実施しない点は本細胞製造の特徴でもある。こうして、最終的に得られた細胞収量はM2として0.8×107cellsとなった。これは治療に必要と考えられる1.0×107cellsを下回っており、治療に必要な細胞量を提供出来ない水準になった。また、播種時の細胞数に対する、2週間培養後の細胞数の比率として計算される、増殖倍率は0.6倍であった。結果のまとめを表1に記載した。
【0052】
<実施例1>組織消毒工程をなくし、酵素処理時間を延長した製造工程による滑膜由来間葉系幹細胞の製造(組織消毒無し、酵素処理時間3時間)
ヒト検体を用いて、通常の製造法と異なり、組織消毒工程をなくし、かつ酵素処理時間を2時間延長した条件で、滑膜組織から滑膜由来間葉系幹細胞を作製した。具体的には、N1検体(滑膜組織0.42g)、N2検体(滑膜組織0.60g)、N3検体(滑膜組織0.86g)、N4検体(滑膜組織0.33g)について、組織消毒工程を経ずに、当上記の組織をハサミで細断し、リベラーゼ水溶液5.0mLに浸漬させた。尚、リベラーゼ水溶液はリベラーゼMNP-S(ロシュ製)5.0mgを、最終濃度20%ヒト自己血清を含む注射用水5.0mLに溶解したものを用いた。酵素反応は室温25℃で3時間反応させた。その後、組織消化液をセルストレーナーを通して、50mL遠沈管に移して400gで5分間遠心した。上清を除き、回収された細胞濃厚懸濁液を培地に懸濁しフラスコへ全量を播種した(N1が690個/cm2、N2が1059個/cm2、N3が1028個/cm2、N4が787個/cm2)。尚、培地はαMEMに最終濃度10%ヒト自己血清を溶解させたものを用いた。培養はCO2インキュベーター(37℃、5%CO2)にて行い、2週間後にフラスコから細胞を回収し、滑膜由来間葉系幹細胞を製造した。尚、培養期間中、培地交換を実施しない点は本細胞製造の特徴でもある。こうして、最終的に得られた細胞収量はN1が4.9×107cells、N2が7.6×107cells、N3が7.0×107cells、N4が6.5×107cellsとなった。これは治療に必要と考えられる1.0×107cellsを大幅に上回っており、治療に必要な細胞量を十分に、かつ安定に提供出来る水準であった。また、播種時の細胞数に対する、2週間培養後の細胞数の比率として計算される、増殖倍率はそれぞれ9.5倍、9.6倍、9.1倍、11.0倍であり、顕著な増殖倍率の向上効果が認められた。結果のまとめを表1に記載した。
【0053】
<実施例2>間葉系幹細胞マーカーの確認試験
比較例1および2、並びに実施例1で作製した滑膜由来間葉系幹細胞について、間葉系幹細胞マーカーの発現について確認試験を実施した。その結果、いずれの細胞においても、CD90陽性、CD45陰性、軟骨分化能が示されたことから滑膜由来間葉系幹細胞であることが確認できた。
【0054】
【0055】
<結果の解釈>
表1に記した結果から、細胞収量に対して滑膜組織の重量が支配的なパラメータではなく、増殖倍率には酵素処理時間の延長と消毒工程の削除という2つが必須であることが明らかとなった。また、酵素処理時間を延長することは、滑膜組織に対して損傷を与えることから忌避するべきものと考えられていた通り、実際に、M1に対して酵素処理時間を30分延長したM2では細胞収量が著しく減じ、増殖倍率も低下してしまうことが分かった。一方で、組織消毒工程を経ないことは、組織中の製造工程由来不純物、特に細菌や微生物等が酵素処理時間および培養期間において増加する可能性を高めることから、忌避すべきことだと考えていた。しかし、あえて組織消毒工程をなくすことと酵素処理時間を大幅に延長することにより、予想外に増殖倍率という部分に良い影響を及ぼすということが明らかとなった。加えて、上記の増殖倍率を達成することにより、結果として本発明による製造により得られる細胞収量は、治療に必要と考えられる1.0×107cellsを大幅に上回り、これが他家細胞であっても効果を示し得る細胞量(2.0×107cells)をも大幅に上回ることになった。本増殖倍率を達成する組合せは、自家細胞治療を想定とした滑膜由来間葉系幹細胞製造の方法において顕著な価値を有すると考えられた。
【0056】
<実施例3>
N1~N4として製造された滑膜由来間葉系幹細胞は、実際に半月板損傷患者自身の検体から製造され、製造後に自家細胞治療として半月板損傷患者に投与された。その結果、N1~N4として製造された滑膜由来間葉系幹細胞が投与された全ての半月板損傷患者において、投与52週後までに良好な症状緩和が認められた。症状のスコアとして知られるリスホルムスコア(下記表2を参照)において、治療前と比較し投与52週後では、22点以上の改善が確認され、MRI(磁気共鳴画像診断)での半月板確認においても、整復されていることが認められ、良好な治療成績を示すことが分かった。
【0057】