(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137150
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】損傷情報処理装置、損傷情報処理方法、及び損傷情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/88 20060101AFI20220913BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20220913BHJP
【FI】
G01N21/88 J
G06T7/00 610Z
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108793
(22)【出願日】2022-07-06
(62)【分割の表示】P 2021045527の分割
【原出願日】2016-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2015254976
(32)【優先日】2015-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】苅部 樹彦
(57)【要約】
【課題】本発明は、損傷ベクトル同士の連結関係を容易に把握できる損傷情報処理装置、損傷情報処理方法、及び損傷情報処理プログラムを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の一の態様に係る損傷情報処理装置では、プロセッサは、構造物の損傷についての損傷情報を取得し、取得した損傷情報をベクトル化して複数の損傷ベクトルを生成し、複数の損傷ベクトルについての損傷ベクトル情報を取得し、損傷ベクトル情報に応じた表示条件で、複数の損傷ベクトルの線画を表示部に表示する。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサを備える損傷情報処理装置であって、
前記プロセッサは、
構造物の損傷についての損傷情報を取得し、
前記取得した損傷情報をベクトル化して複数の損傷ベクトルを生成し、
前記複数の損傷ベクトルについての損傷ベクトル情報を取得し、
前記損傷ベクトル情報に応じた表示条件で、前記複数の損傷ベクトルの線画を表示部に表示する、
損傷情報処理装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記複数の損傷ベクトルから、指定された条件で損傷ベクトルを抽出し、前記抽出された損傷ベクトルについて前記線画を表示する請求項1に記載の損傷情報処理装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記損傷ベクトル情報に応じて前記複数の損傷ベクトルの色、太さ、線種、損傷ベクトルの向きを示す矢印の有無のうち少なくとも一つを変えた前記表示条件で前記線画の表示を行う請求項1または2に記載の損傷情報処理装置。
【請求項4】
前記損傷ベクトル情報は、損傷の寸法、削除操作フラグ、追加操作フラグ、点検日、補修情報、のうち少なくとも一つを含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の損傷情報処理装置。
【請求項5】
前記プロセッサは、前記損傷を撮像した画像と前記線画とを重ね合わせて、または並べて前記表示部に表示する、請求項1から4のいずれか1項に記載の損傷情報処理装置。
【請求項6】
前記プロセッサは、
前記複数の損傷ベクトルの階層構造情報を生成し、
前記階層構造情報を含む前記損傷ベクトル情報を取得する、
請求項1から5のいずれか1項に記載の損傷情報処理装置。
【請求項7】
前記プロセッサは、前記階層構造情報を前記表示部に表示する請求項6に記載の損傷情報処理装置。
【請求項8】
前記プロセッサは、前記構造物を撮像した画像を画像処理して前記損傷情報を取得する請求項1から7のいずれか1項に記載の損傷情報処理装置。
【請求項9】
前記構造物はコンクリート構造物であり、前記損傷はひび割れと遊離石灰とのうち少なくとも一方を含む請求項1から8のいずれか1項に記載の損傷情報処理装置。
【請求項10】
プロセッサを備える損傷情報処理装置により実行される損傷情報処理方法であって、
前記プロセッサは、
構造物の損傷についての損傷情報を取得する損傷情報取得工程と、
前記取得した損傷情報をベクトル化して複数の損傷ベクトルを生成する損傷ベクトル生成工程と、
前記複数の損傷ベクトルについての損傷ベクトル情報を取得する損傷ベクトル取得工程と、
前記損傷ベクトル情報に応じた表示条件で、前記複数の損傷ベクトルの線画を表示部に表示する表示工程と、
を実行する損傷情報処理方法。
【請求項11】
プロセッサを備える損傷情報処理装置に損傷情報処理方法を実行させる損傷情報処理プログラムであって、
前記損傷情報処理方法は、
構造物の損傷についての損傷情報を取得する損傷情報取得工程と、
前記取得した損傷情報をベクトル化して複数の損傷ベクトルを生成する損傷ベクトル生成工程と、
前記複数の損傷ベクトルについての損傷ベクトル情報を取得する損傷ベクトル取得工程と、
前記損傷ベクトル情報に応じた表示条件で、前記複数の損傷ベクトルの線画を表示部に表示する表示工程と、
を含む損傷情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は構造物の損傷を処理する装置、方法、及びプログラムに係り、特に損傷をベクトル化した情報を処理する装置、方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁、トンネル、道路、及びビル等の構造物には各種の損傷が発生し、時間と共に進行してゆくため、構造物の安全を確保するには、損傷の状況に応じて補修を行う必要がある。従来、損傷の検査は作業員による目視あるいは器具を用いた検査により行われてきたが、作業時間及びコスト、作業場所の環境等の問題により、近年は撮像装置及び/または画像処理装置により電子的な処理が行われるようになってきている。
【0003】
例えば特許文献1には、コンクリート等のひび割れ測定において、ひび割れのベクトルデータを作成し、グループ番号並びに継続点、端点、及び分岐点等の情報を与えることが記載されている。また特許文献2には、コンクリートの欠陥検査においてひび割れのベクトルデータを作成し、ひび割れの交差の情報をファイルに書き込むことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-148089号公報
【特許文献2】特開2002-257744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上述の特許文献1,2に記載の技術では、損傷ベクトルの端点の分類(特許文献1を参照)、あるいはパターンの分類(特許文献2を参照)はされていても、どのベクトルにどの点でどのベクトルがどのように連結しているのか(損傷ベクトル同士の連結関係)の把握が困難であり、その結果損傷の検索、分析、及び評価が困難であった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、損傷ベクトル同士の連結関係を容易に把握できる損傷情報処理装置、損傷情報処理方法、及び損傷情報処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するため、本発明の第1の態様に係る損傷情報処理装置は、構造物の損傷についての損傷情報を取得する損傷情報取得部と、取得した損傷情報をベクトル化して損傷ベクトルを生成する損傷ベクトル生成部と、生成した損傷ベクトルに基づいて損傷ベクトル同士の連結関係を階層的に表現した情報である階層構造情報を生成する階層構造情報生成部と、を備える。
【0008】
第1の態様に係る損傷情報処理装置では、損傷情報をベクトル化して損傷ベクトルを生成し、これに基づいて損傷ベクトル同士の連結関係を階層的に表現した情報である階層構造情報を生成するので、損傷ベクトル同士の連結関係を容易に把握でき、また階層構造情報により損傷ベクトルの分析及び/または検索を容易に行うことができる。
【0009】
なお第1の態様において、損傷情報は構造物を撮影した画像を入力しこの画像を画像処理して取得するようにしてもよいし、画像から抽出された損傷情報を直接取得するようにしてもよい。また第1の態様において「階層的に」とは、損傷ベクトル同士に、連結関係によって決まる上位または下位の関係があることを意味する。損傷ベクトルの階層は種々の手法により決定することができ、用いる手法は分析及び/または評価の目的等に応じて決定してよい。
【0010】
また、ある損傷ベクトルの端点に複数の損傷ベクトルが連結している場合、そのような端点において損傷ベクトルが分岐していると考えることができるので、分岐を連結の一態様として把握するようにしてもよい。
【0011】
なお第1の態様において「構造物」としては例えば橋梁、トンネル、ビル、及び道路を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
第2の態様に係る損傷情報処理装置は第1の態様において、階層構造情報生成部は、一の損傷ベクトルが属するベクトルグループの情報と、一の損傷ベクトルと連結する他の損傷ベクトルの情報と、一の損傷ベクトルの固有情報と、を含む階層構造情報を生成する。第2の態様は階層構造情報の構成の一例を示すもので、注目する一の損傷ベクトルの固有情報のみならず、ベクトルグループの情報、及び一の損傷ベクトルと連結する他の損傷ベクトルの情報を把握できる。このようにして、第2の態様では損傷ベクトル同士の関係をいっそう容易に把握することができる。なお第2の態様において、「ベクトルグループ」とは一または複数の損傷ベクトルから構成されるベクトルの集合体であり、例えば互いに連結している複数の損傷ベクトル、あるいは分離しているが近接している損傷ベクトルをベクトルグループとすることができる。
【0013】
第3の態様に係る損傷情報処理装置は第2の態様において、階層構造情報生成部は、一の損傷ベクトルに他の複数の損傷ベクトルが連結している場合、他の複数の損傷ベクトルは一の損傷ベクトルよりも下位の階層に属するものとして階層構造情報を生成する。第3の態様は損傷ベクトルの階層を決定する手法の一例を示すもので、この態様では一の損傷ベクトルに他の複数の損傷ベクトルが連結している(即ち、分岐している)場合、連結(分岐)を経るごとに階層が下位になる。
【0014】
第4の態様に係る損傷情報処理装置は第2の態様において、階層構造情報生成部は、一の損傷ベクトルと一の損傷ベクトルに連結している他の損傷ベクトルとのなす角度が閾値以下であるときは、他の損傷ベクトルは一の損傷ベクトルと同じ階層に属するものとして階層構造情報を生成する。第4の態様は損傷ベクトルの階層を決定する手法の他の例を示すもので、この態様では、損傷ベクトル同士のなす角度が小さく(閾値以下であり)実質的に同一直線上のベクトルと見なすことができる場合は、それら損傷ベクトルが同じ階層に属するものとしている。
【0015】
第5の態様に係る損傷情報処理装置は第2の態様において、階層構造情報生成部は、一の損傷ベクトルに連結する他の損傷ベクトルが一の損傷ベクトルよりも時間的に後に生じた損傷ベクトルである場合は、他の損傷ベクトルは一の損傷ベクトルよりも下位の階層に属するものとして階層構造情報を生成する。第5の態様は損傷ベクトルの階層を決定する手法のさらに他の例を示すものであり、構造物に生じた損傷は一般的に時間と共にその形状及び大きさが変化し、また新たな損傷ベクトルが発生することを考慮して、時間的に後に生じた損傷ベクトルを下位の階層に属するものとしている。なお第5の態様において、損傷ベクトル発生の前後関係は、例えば構造物の画像を撮影した日時または構造物を点検した日時に基づいて判断することができる。
【0016】
第6の態様に係る損傷情報処理装置は第2の態様において、階層構造情報生成部は、一の損傷ベクトルに連結している他の損傷ベクトルが1つのみである場合、他の1つの損傷ベクトルは一の損傷ベクトルと同じ階層に属するものとして階層構造情報を生成する。第6の態様は損傷ベクトルの階層を決定する手法のさらに他の例を示すものであり、一の損傷ベクトルに連結している他の損傷ベクトルが1つのみの場合、それら損傷ベクトルは損傷として連続しているものとして把握し、同じ階層に属するものとしている。
【0017】
第7の態様に係る損傷情報処理装置は第2から第6の態様のいずれか1つにおいて、固有情報は、一の損傷ベクトルの識別情報と、一の損傷ベクトルが階層構造のどの階層に属するかを示す所属階層情報と、始点及び終点の位置と、を含む。第7の態様は損傷ベクトルの固有情報の構成を示すものであり、固有情報は一の損傷ベクトルの識別情報、所属階層情報、始点及び終点の位置を含む。
【0018】
第8の態様に係る損傷情報処理装置は第1から第7の態様のいずれか1つにおいて、階層構造情報生成部は損傷ベクトルの属する階層によらず同一の項目及び形式により階層構造情報を生成する。第8の態様によれば、階層構造情報が損傷ベクトルの属する階層によらず同一の項目及び形式なので、損傷ベクトル同士の連結関係を迅速かつ容易に把握することができる。
【0019】
第9の態様に係る損傷情報処理装置は第1から第8の態様のいずれか1つにおいて、損傷ベクトル生成部は、空間的に分離した複数の損傷ベクトルを連結させて1または複数のベクトルを生成する。損傷が構造物の内部では連続しているが表面では分離しているため分離した損傷ベクトルとして認識される場合、実際には連続しているが画像処理等により分離したベクトルとして抽出されてしまう場合等があるため、第9の態様では、複数の損傷ベクトルを連結して1または複数のベクトルを生成する。なお損傷ベクトルの連結は、損傷ベクトル同士の距離及び角度等の条件に基づいて判断するようにしてもよいし、ユーザ入力に基づいて判断するようにしてもよい。
【0020】
第10の態様に係る損傷情報処理装置は第1から第9の態様のいずれか1つにおいて、階層構造情報を参照して、指定された条件を満たす損傷ベクトルを抽出する損傷ベクトル抽出部を備える。第10の態様によれば、損傷ベクトル同士の連結関係を階層的に表現した情報である階層構造情報を参照して損傷ベクトルを抽出することで、損傷の検索、分析、及び評価を容易に行うことができる。
【0021】
第11の態様に係る損傷情報処理装置は第10の態様において、損傷ベクトル抽出部は、指定された損傷ベクトルと連結し指定されたベクトルよりも上位の階層に属する損傷ベクトルと、指定された損傷ベクトルと連結し指定されたベクトルと同じ階層に属する損傷ベクトルと、指定された損傷ベクトルと連結し指定されたベクトルよりも下位の階層に属する損傷ベクトルと、のうち少なくとも1つを抽出する。第11の態様によれば、指定された損傷ベクトルと連結し、階層が上位、同じ、または下位の損傷ベクトルを迅速かつ容易に抽出することができる。
【0022】
第12の態様に係る損傷情報処理装置は第10または第11の態様において、抽出した損傷ベクトル及び生成した階層構造情報を表示する表示部を備える。第12の態様によれば、抽出した損傷ベクトル及び生成した階層構造情報を表示することで、損傷ベクトル同士の連結関係及び損傷ベクトルの情報を容易に把握することができる。
【0023】
第13の態様に係る損傷情報処理装置は第1から第12の態様のいずれか1つにおいて、階層構造情報を記録する階層構造情報記録部を備える。階層構造情報記録部に記録された階層構造情報は、損傷ベクトルの分析及び/または評価などの目的に使用することができる。
【0024】
第14の態様に係る損傷情報処理装置は第1から第13の態様のいずれか1つにおいて、損傷情報取得部は構造物を撮像した画像を画像処理して損傷情報を取得する。第14の態様は、損傷情報を取得する手法の一態様を規定するものである。
【0025】
第15の態様に係る損傷情報処理装置は第1から第14の態様のいずれか1つにおいて、構造物はコンクリート構造物であり、損傷はひび割れと遊離石灰とのうち少なくとも一方を含む。第15の態様は構造物及び損傷の一例を規定するものである。
【0026】
上述した目的を達成するため、本発明の第16の態様に係る損傷情報処理方法は、構造物の損傷についての損傷情報を取得する損傷情報取得工程と、取得した損傷情報をベクトル化して損傷ベクトルを生成する損傷ベクトル生成工程と、生成した損傷ベクトルに基づいて損傷ベクトル同士の連結関係を階層的に表現した情報である階層構造情報を生成する階層構造情報生成工程と、を含む。第16の態様は本発明を損傷情報処理方法として規定したもので、第1の態様と同様に、損傷ベクトル同士の連結関係を容易に把握でき、また階層構造情報により損傷ベクトルの分析及び/または検索を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、本発明の損傷情報処理装置、損傷情報処理方法、及び損傷情報処理プログラムによれば、損傷ベクトル同士の連結関係を容易に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、構造物の例である橋梁を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る損傷情報処理装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る損傷情報処理方法の手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、曲線状の損傷を分割して複数の損傷ベクトルを生成する様子を示す図である。
【
図5】
図5は、損傷ベクトルの始点を決める様子を説明するための図である。
【
図6】
図6は、損傷ベクトルの始点を決める様子を説明するための他の図である。
【
図7】
図7は、分離した損傷ベクトルの連結を示す図である。
【
図8】
図8は、分離した損傷ベクトルの連結を示す他の図である。
【
図9】
図9は、階層構造情報に含まれる画像情報を示す表である。
【
図10】
図10は、階層構造情報に含まれる損傷ベクトルの情報の例(階層決定手法の例1に対応)を示す図である。
【
図11】
図11は、損傷ベクトルの階層決定手法の例1を説明するための図である。
【
図12】
図12は、損傷ベクトルの階層決定手法の例2を説明するための他の図である。
【
図13】
図13は、階層決定手法の例2に対応した階層構造情報(損傷ベクトル情報)の例を示す表である。
【
図14】
図14は、損傷ベクトルの階層決定手法の例3を説明するための図である。
【
図15】
図15は、損傷ベクトルの階層決定手法の例3を説明するための他の図であり、
図14よりも時間的に後に撮影した画像を示す図である。
【
図16】
図16は、損傷ベクトルの階層決定手法の例3を説明するためのさらに他の図であり、
図15よりも時間的に後に撮影した画像を示す図である。
【
図17】
図17は、階層決定手法の例3に対応した階層構造情報(損傷ベクトル情報)の例を示す表である。
【
図18】
図18は、損傷ベクトルの階層決定手法の例4を説明するための図である。
【
図19】
図19は、階層決定手法の例4に対応した階層構造情報(損傷ベクトル情報)の例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明に係る損傷情報処理装置及び損傷情報処理方法の実施形態について説明する。
【0030】
<第1の実施形態>
図1は、本発明に係る損傷情報処理装置及び損傷情報処理方法が適用される構造物の例である橋梁1(構造物、コンクリート構造物)の構造を示す斜視図である。
図1に示す橋梁1は主桁3を有し、主桁3は接合部3Aで接合されている。主桁3は橋台及び/または橋脚の間に渡され、床版2上の車輌等の荷重を支える部材である。また主桁3の上部には、車輌等が走行するための床版2が打設されている。床版2は鉄筋コンクリート製のものとする。なお橋梁1は、床版2及び主桁3の他に図示せぬ横桁、対傾構、及び横構等の部材を有する。
【0031】
<画像の取得>
橋梁1の損傷を検査する場合、検査員はデジタルカメラ104(
図2参照)を用いて橋梁1を下方から撮影し(
図1のC方向)、検査範囲について画像を取得する。撮影は、橋梁1の延伸方向(
図1のA方向)及びその直交方向(
図1のB方向)に適宜移動しながら行う。なお橋梁1の周辺状況により検査員の移動が困難な場合は、橋梁1に沿って移動可能な移動体にデジタルカメラ104を設置して撮影を行ってもよい。このような移動体には、デジタルカメラ104の昇降機構及び/またはパン・チルト機構を設けてもよい。なお移動体の例としては車輌、ロボット、及び飛翔体を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
<損傷情報処理装置の構成>
図2は、本実施形態に係る損傷情報処理装置100の概略構成を示すブロック図である。損傷情報処理装置100は、損傷情報取得部102、損傷ベクトル生成部110、階層構造情報生成部112、損傷ベクトル抽出部114、階層構造情報記録部116、表示部118、及び操作部120を備え、互いに接続されていて、必要な情報を互いに送受信できるようになっている。
【0033】
各部の機能は、例えばCPU(Central Processing Unit)等の制御デバイスがメモリ
に記憶されたプログラムを実行することで実現できる。また、損傷情報取得部102は無線通信用アンテナ及び入出力インタフェース回路を含み、階層構造情報記録部116はHDD(Hard Disk Drive)等の非一時的記録媒体を含んで構成される。また表示部118
は液晶ディスプレイ等の表示デバイスを含み、操作部120はキーボード等の入力デバイスを含む。なおこれらは本発明に係る損傷情報処理装置の構成の一例を示すものであり、他の構成を適宜採用し得る。
【0034】
上述のようにデジタルカメラ104を用いて撮影された画像は、無線通信により画像取得部106に入力されて、画像処理部108により損傷情報が取得される。デジタルカメラ104、画像取得部106、及び画像処理部108は損傷情報取得部102を構成する。損傷ベクトル生成部110は、損傷情報取得部102が取得した損傷情報から損傷ベクトル(ひび割れベクトル)を生成し、また空間的に分離した損傷ベクトルを連結させる。階層構造情報生成部112は損傷ベクトル生成部110が生成した損傷ベクトルに基づいて階層構造情報を生成し、生成された階層構造情報は階層構造情報記録部116に記録される。損傷ベクトル抽出部114は、階層構造情報を参照して、損傷ベクトルの所属階層等の指定された条件を満たす損傷ベクトルを抽出する。表示部118は、入力した画像、生成あるいは抽出した損傷ベクトル、階層構造情報等を表示する。表示部118はまた、損傷ベクトルの情報から線分の画像を生成する等、表示の際に必要な画像処理を行う。操作部120は、損傷ベクトル及び階層構造情報の抽出条件並びに表示条件の設定、及び階層構造情報の編集等に関するユーザの指示入力を受け付ける。
【0035】
<損傷情報処理の手順>
次に、上述した構成の損傷情報処理装置100を用いた損傷情報処理について説明する。
図3は本実施形態に係る損傷情報処理の手順を示すフローチャートである。なお、本実施形態では損傷が床版2に生じたひび割れである場合について説明し、損傷を適宜「ひび割れ」と記載するが、本発明が適用可能な損傷はひび割れに限らず、遊離石灰等他の損傷でもよい。
【0036】
<損傷情報取得工程>
まず、上述のようにデジタルカメラ104で撮影した橋梁1の画像を、無線通信により画像取得部106に入力する(ステップS100;画像入力工程)。橋梁1の画像は検査範囲に応じて複数入力され、また入力する画像には、デジタルカメラ104により撮影日時の情報が付加されている。なお入力画像の撮影日時は必ずしも全ての画像において同一である必要はなく、複数日に亘っていてもよい。画像は複数の画像を一括して入力してもよいし、一度に1つの画像を入力するようにしてもよい。なお、橋梁1の画像は無線通信でなく各種メモリカード等の非一時的記録媒体を介して入力するようにしてもよいし、既に撮影され記録されている画像のデータをネットワーク経由で入力してもよい。なおステップS100で入力する橋梁1の画像は、撮影画像そのままでもよいし、撮影画像に前処理を施したものでもよい。
【0037】
<損傷抽出工程>
次に、画像処理部108は、入力した画像から損傷(ひび割れ)を抽出する(ステップS110;損傷抽出工程)。ステップS100の画像入力工程及びステップS110の損傷抽出工程は、本発明の損傷情報処理方法における損傷情報取得工程を構成する。なおステップS110では、ステップS100で入力した画像から損傷が抽出されていれば、即ち画像における損傷の領域が識別されていれば損傷情報が取得できたものと考えてよく、損傷の詳細な特徴が把握されることまでは要しない。
【0038】
ステップS110における損傷の抽出は種々の手法により行うことができるが、例えば特許4006007号公報に記載されたひび割れ検出方法を用いることができる。この方法は、対比される2つの濃度に対応したウェーブレット係数を算定すると共に、該2つの濃度をそれぞれ変化させた場合のそれぞれのウェーブレット係数を算定してウェーブレット係数テーブルを作成し、ひび割れ検出対象であるコンクリート表面を撮影した入力画像をウェーブレット変換することによってウェーブレット画像を作成する工程と、前記ウェーブレット係数テーブル内において、局所領域内の近傍画素の平均濃度と注目画素の濃度に対応するウェーブレット係数を閾値として、注目画素のウェーブレット係数と該閾値とを比較することによりひび割れ領域とひび割れでない領域を判定する工程とからなるひび割れ検出方法である。
【0039】
なおステップS110における損傷の抽出は、ステップS100で入力した画像に必要な前処理を施してから行うようにしてもよい。
【0040】
<損傷ベクトルの生成>
ステップS110で損傷が抽出されると(損傷情報が取得されると)、損傷ベクトル生成部110が、取得した損傷情報をベクトル化して損傷ベクトル(ひび割れベクトル)を生成する(ステップS120;損傷ベクトル生成工程)。ベクトル化に際しては、抽出した損傷(ひび割れ)を必要に応じ2値化及び/または細線化する。なお「ベクトル化」とは、損傷に対し始点及び終点で定まる線分を求めることであり、損傷(ひび割れ)が曲線状の場合、曲線と線分の距離が閾値以下になるように損傷を複数の区間に分割し、複数の区間のそれぞれについて損傷ベクトルを生成する。
図4の例では、曲線状の損傷Crを4つの区間Cr1~Cr4に分割し、それぞれの区間について損傷ベクトルCv1~Cv4を生成することで、区間Cr1~Cr4における損傷と損傷ベクトルCv1~Cv4との距離d1~d4が閾値以下になるようにしている。
【0041】
損傷ベクトルの生成に際しては、例えば床版2の特徴点を座標系の原点とし、損傷ベクトルのグループ(ベクトルグループ)について、原点からの距離が最小になる端点を第1の始点とし、以下損傷ベクトルの走行方向に沿って順次終点、始点を決定することができる。
図5の例では、床版2上の点P0を座標系の原点、図の右方向及び下方向をそれぞれ座標系のX軸方向、Y軸方向としたときに、ベクトルグループC7の点P13,P14,P15,P16のうち点P0からの距離dが最も短くなる点P13を損傷ベクトルC7-1の始点とし、以下、点P14を損傷ベクトルC7-1の終点(かつ損傷ベクトルC7-2,C7-3の始点)、点P15,P16をそれぞれ損傷ベクトルC7-2,C7-3の終点とすることができる。
【0042】
しかしながら、同様の手法でベクトルグループC8の始点を決定すると、点P17が損傷ベクトルC8-1の始点、点P18が損傷ベクトルC8-2,C8-3の始点となり、損傷ベクトルC8-3の走行方向(点P18から点P20へ向かう方向)が損傷ベクトルC8-1の走行方向と逆行してしまう。そこでこのような場合は、
図6に示すように点P19を損傷ベクトルC8A-1の始点とし、以下、点P18を損傷ベクトルC8A-1の終点(かつ損傷ベクトルC8A-2,C8A-3の始点)、点P17,P20をそれぞれ損傷ベクトルC8A-2,C8A-3の終点とするようにしてもよい。なおこの場合の損傷ベクトルの集合体をベクトルグループC8Aと表記する。このような処理は損傷ベクトル生成部110がユーザの指示入力を介さずに行うようにしてもよいし、操作部120を介したユーザの指示入力に基づいて損傷ベクトル生成部110が行うようにしてもよい。
【0043】
<分離した損傷ベクトルの連結>
上述のようにして損傷ベクトルを生成する場合、損傷が床版2の内部では連続しているが表面では分離していると、分離した損傷ベクトルとして認識されてしまう可能性がある。そこで本実施形態に係る損傷情報処理装置100では、そのような複数の損傷ベクトルを連結して1または複数のベクトルを生成する。
【0044】
図7は損傷ベクトルの連結の例を示す図であり、損傷ベクトルC3-1(点P21、点P22がそれぞれ始点、終点)を含むベクトルグループC3と、損傷ベクトルC4-1(点P23、点P24がそれぞれ始点、終点)を含むベクトルグループC4とが抽出された状況を示している。また、損傷ベクトルC3-1が点P22及び点P23を結ぶ線分となす角をα1とし、点P22及び点P23を結ぶ線分が損傷ベクトルC4-1となす角をα2とする。このとき、角α1及び角α2が共に閾値以下ならば、損傷ベクトルC3-1及びC4-1を連結し、またベクトルグループC3及びC4を融合させる。具体的には、
図8に示すように新たな損傷ベクトルC5-2を生成してその他の損傷ベクトルC5-1(損傷ベクトルC3-1と同一)及びC5-3(損傷ベクトルC4-1と同一)と連結させ、これら損傷ベクトルC5-1,C5-2,及びC5-3を含む新たなベクトルグループをベクトルグループC5とする。
【0045】
なお上述の手法は損傷ベクトル連結手法の一例であり、他の方法を用いてもよい。また、上述のように損傷ベクトル同士を連結させるか否かは、ユーザの指示入力によらずに損傷ベクトル生成部110が判断するようにしてもよいし、操作部120を介したユーザの指示入力に基づいて損傷ベクトル生成部110が判断するようにしてもよい。
【0046】
このように本実施形態に係る損傷情報処理装置100では、空間的に(床版2の表面で)分離した損傷ベクトルを適宜連結させることにより、損傷ベクトル同士の連結関係を正確に把握することができる。
【0047】
<階層構造情報の生成>
ステップS120で損傷ベクトルが生成されると、生成した損傷ベクトルに基づいて、階層構造情報生成部112が階層構造情報を生成する(ステップS130;階層構造情報生成工程)。階層構造情報は損傷ベクトル同士の連結関係を階層的に表現した情報であり、画像情報(
図9を参照)及び損傷ベクトル情報(
図10,13,17,及び19を参照)により構成される。これら画像情報及び損傷ベクトル情報は、損傷ベクトル(ひび割れベクトル)の集合体であるベクトルグループを介して関連づけられている。したがって損傷の画像からベクトルグループのID(Identification)を参照して損傷ベクトルを抽出することもできるし、逆に損傷ベクトルに基づいて画像を抽出することもできる。なお、階層構造情報は損傷ベクトルが所属する階層(レベル)によらず同一の項目及び形式で生成されるので(
図10,13,17,及び19を参照)、ユーザは階層構造情報を容易に認識及び把握することができる。
【0048】
<画像情報>
上述した画像情報とは、損傷が撮像された撮影画像についての情報であり、損傷ベクトルのグループについて、撮影画像の識別情報(ID)及び画像データ、画像取得日時等を規定したものである。
図9は画像情報の例を示す表であり、ベクトルグループC1(
図11参照)について、画像のID、画像データ、取得日時、画像の幅及び高さ、チャンネル数、ビット/ピクセル、解像度が規定されている。チャンネル数はRGB(R:赤、G:緑、B:青)カラー画像なら3チャンネルであり、モノクロ画像なら1チャンネルである。なお
図9ではベクトルグループC1についてのみ記載しているが、ベクトルグループが複数存在する場合は、各グループについて同様の情報が生成される。
【0049】
<損傷ベクトル情報>
図10は、損傷ベクトル情報の例である。損傷ベクトル情報は、損傷ベクトルが所属するベクトルグループの情報と、各損傷ベクトルの固有情報と、ベクトルグループ内において各損傷ベクトルに連結する他の損傷ベクトルの情報と、付加情報と、から構成される。
【0050】
ベクトルグループ(
図10の表の場合ベクトルグループC1;
図11参照)の情報はグループのIDを含む。損傷ベクトルの固有情報は、損傷ベクトルのID(識別情報)、階層(レベル;所属階層情報)、始点及び終点(点番号及び位置座標)、及び長さを含む。ここで階層(レベル)は、レベル1が最上位であり、数字が大きくなるほど下位の階層になる。具体的な階層の決定方法については詳細を後述する。他の損傷ベクトルの情報は、以下に説明するように親ベクトル、兄弟ベクトル、及び子ベクトルのID(識別情報)を含む。付加情報は、損傷の幅、削除操作フラグ、追加操作フラグ、点検日、及び補修情報を含む。
【0051】
<親ベクトル、兄弟ベクトル、及び子ベクトル>
本実施形態において、一の損傷ベクトルの終点が他の損傷ベクトルの始点となっている場合、そのような一の損傷ベクトルを「親ベクトル」といい、他の損傷ベクトルを「子ベクトル」という。親ベクトルは1つの損傷ベクトルについてゼロまたは1つとなるように決めるものとするが、子ベクトルは1つの親ベクトルに対しゼロ以上の任意の数だけ存在していてよい。また、親ベクトルの終点が複数の子ベクトルの始点となっている場合、それら複数の子ベクトルは互いに「兄弟ベクトル」という。兄弟ベクトルも、ゼロ以上の任意の数だけ存在していてよい。
【0052】
このように、本実施形態では階層構造情報に親ベクトル、兄弟ベクトル、及び子ベクトルのID(識別情報)が含まれるので、任意の損傷ベクトルに基づいて、ベクトルのIDを参照して親ベクトル、兄弟ベクトル、及び子ベクトルを順次特定することができる。例えば、ある損傷ベクトルの親ベクトルを特定し、その親ベクトルの親ベクトルをさらに特定することができる。このようにして本実施形態に係る損傷情報処理装置100では、損傷ベクトル同士の連結関係を容易に把握でき、また損傷ベクトルの分析及び検索を容易に行うことができる。
【0053】
<付加情報>
付加情報に含まれる「幅」は、各損傷ベクトルに対応するひび割れの幅を示す。削除操作フラグは削除操作が行われたベクトルであるかどうかを示し、削除操作が行われた場合は“1”、行われていない場合は“0”である。この削除操作フラグを参照して、損傷ベクトルの表示と非表示とを切り替えることができる。追加操作フラグは、損傷ベクトルの検出態様に関連しており、自動で検出されたベクトルである場合は“0”、手動で(ユーザの指示入力により)追加されたベクトルである場合は“1”、手動で追加され異なるIDのベクトルを接続して生成されたベクトルである場合は“2”である。
【0054】
「点検日」には損傷の画像を撮像した日を設定するが、操作部120を介したユーザの指示入力により編集することもできる。また「補修」の情報は、操作部120を介したユーザの指示入力(補修の種類及び補修日)に基づいて生成することができる。補修の種類は例えば、セメントで埋める、樹脂で埋める、放置(経過観察)など(
図10の表ではそれぞれR1,R2,R3と記載している)がある。
【0055】
<損傷ベクトルの階層>
次に、損傷ベクトルが所属する階層(レベル)について説明する。損傷ベクトルの階層は、例えば以下の例1~4で説明するように、種々の手法で決定することができる。
【0056】
<階層決定手法(例1)>
図11は、ベクトルグループC1を示す図である。ベクトルグループC1は、損傷ベクトルC1-1~C1-6により構成されており、これら損傷ベクトルは点P1~P7を始点または終点としている。このような状況において例1では、損傷ベクトルが分岐する(ある損傷ベクトルの終点が他の複数の損傷ベクトルの始点となっている)ごとに階層が下位になるとしている。具体的には損傷ベクトルC1-1の階層を最も上位の“レベル1”として、損傷ベクトルC1-1の終点である点P2を始点とする損傷ベクトルC1-2及びC1-3の階層は、損傷ベクトルC1-1よりも下位である“レベル2”とする。同様に、損傷ベクトルC1-3の終点である点P4を始点とする損傷ベクトルC1-5及びC1-6の階層は、損傷ベクトルC1-3よりも下位である“レベル3”とする。一方、損傷ベクトルC1-2の終点である点P3は損傷ベクトルC1-4の始点であるが、点P3を始点とする損傷ベクトルは損傷ベクトルC1-4だけであり分岐はないので、損傷ベクトルC1-4の階層はC1-2と同じ“レベル2”とする。このようにして決定した各損傷ベクトルの階層は、
図10の表に示すように階層構造情報に含まれる。
【0057】
<階層決定手法(例2)>
図12は、ベクトルグループC1(損傷ベクトル同士の連結関係は
図11に示すものと同一)を示す図である。例2では、連結する損傷ベクトルのうち他の損傷ベクトルとなす角度が閾値以下であるもの(木構造における「幹」に相当する損傷ベクトル)は同一の階層に属するものとしている。具体的には
図12の点線内(参照符号Lv1で示す範囲)に存在する損傷ベクトルC1-1,C1-2,及びC1-4は同一の階層である“レベル1”(最上位)とする。また、それ以外の損傷ベクトルC1-3,C1-5,及びC1-6については、例1と同様に損傷ベクトルが分岐するごとに階層が下位になるとしており、損傷ベクトルC1-3(木構造における「枝」に相当)を“レベル2”、損傷ベクトルC1-5及びC1-6(木構造における「葉」に相当)を“レベル3”としている。このようにして決定した各損傷ベクトルの階層及び種別(幹、枝、あるいは葉)は、
図13の表に示すように、階層構造情報に含まれる。
【0058】
<階層決定手法(例2の変形例)>
上述した階層決定手法(例2)の変形例について説明する。階層決定手法(例2)のように損傷ベクトルを木構造における幹、枝、及び葉に相当するものとして階層を決定するに際して、一般に「枝」は「幹」よりも短いと考えられるため、最長の損傷ベクトルを「幹」(レベル1)とし、その他の損傷ベクトルを「枝」または「葉」として階層を決定するようにしてもよい。この場合、例えば
図13の表に示す損傷ベクトル情報では、長さ100mmの損傷ベクトルC1-1が「幹」(レベル1)となる。損傷ベクトルC1-2及びC1-3は「枝」(レベル2)とし、損傷ベクトルC1-4は「枝」(レベル2)または「葉」(レベル3)、損傷ベクトルC1-5,及び6は「葉」(レベル3)とすることができる。
【0059】
なお、「最長の損傷ベクトル」ではなく「最長のひび割れ」を構成する損傷ベクトルを「幹」(レベル1)とし、「幹」から分岐しているひび割れに対応する損傷ベクトルを「枝」または「葉」としてもよい。この場合、「最長のひび割れ」とは「太いひび割れも細いひび割れも全て繋がった状態において、ひび割れとして最長である」ことを意味するものとする。
【0060】
また、損傷ベクトルの長さに加え幅(損傷ベクトルに対応する損傷の幅)をも考慮して種別(幹、枝、及び葉)及び階層を決定するようにしてもよい。例えば、「長さ×幅」が最大になる損傷ベクトルを「幹」とし、その他の損傷ベクトルを「枝」または「葉」として階層を決定するようにしてもよい。この場合、例えば
図13の表に示す損傷ベクトル情報では、「長さ×幅」が最大(100mm
2)である傷ベクトルC1-1が「幹」となる。損傷ベクトルC1-2及びC1-3は「枝」(レベル2)とし、損傷ベクトルC1-4は「枝」(レベル2)または「葉」(レベル3)、損傷ベクトルC1-5,及び6は「葉」(レベル3)とすることができる。
【0061】
上述した変形例のように損傷ベクトルの長さ、または「長さ×幅」を考慮して損傷ベクトルの階層を決定することで、階層化の精度を向上させることができる。
【0062】
<階層決定手法(例3)>
図14~16は、ベクトルグループC1(損傷ベクトル同士の連結関係は
図11,12に示すものと同一)を示す図である。例3では、損傷ベクトルが生じた時間の先後を橋梁1の画像の撮影日時に基づいて判断し、損傷ベクトルが時間的に後に生じたものであるほど下位の階層に属するものとしている。
図14~16の場合、最初に撮影した画像では損傷ベクトルC1-1を含むベクトルグループC1Aが生じており(
図14)、次に撮影した画像では損傷ベクトルC1-2及びC1-3が新たに発生してベクトルグループC1Bとなり(
図15)、最後に撮影した画像ではさらに損傷ベクトルC1-4,C1-5,及びC1-6が発生してベクトルグループC1となった(
図16)ものとする。
【0063】
このような状況において例3では、最初の画像で生じている損傷ベクトルC1-1(
図14において参照符号Lv1で示す範囲)を最も上位の“レベル1”とし、次の画像で生じている損傷ベクトルC1-2及びC1-3(
図15において参照符号Lv2で示す範囲)を“レベル2”とし、最後の画像で生じている損傷ベクトルC1-4,C1-5,及びC1-6(
図16において参照符号Lv3で示す範囲)を“レベル3”とする。
【0064】
このようにして決定した各損傷ベクトルの階層は、
図17の表に示すように階層構造情報に含まれる。
【0065】
<階層決定手法(例4)>
図18は、ひび割れC2A及びこれに対応するベクトルグループC2を示す図である。例4では、一の損傷ベクトルに連結している他の損傷ベクトルが1つのみである場合、そのような他の1つの損傷ベクトルは一の損傷ベクトルと同じ階層に属するものとしている。具体的には、
図18に示すように一本の曲線状のひび割れC2Aが複数のひび割れC2A-1~C2A-4に分割されており、これらひび割れが点P8~点P12を始点または終点とする損傷ベクトルC2-1~C2-4にそれぞれ対応している場合を考えると、損傷ベクトルC2-1~C2-3の終点にはそれぞれ1つの損傷ベクトル(損傷ベクトルC2-2~C2-4)しか連結していない。このような場合、例4では損傷ベクトルC2-1~C2-4(
図18において参照符号Lv1で示す範囲)は実質的に1つであると考え、全て同一の階層である“レベル1”(最上位)に属するものとする。
【0066】
このようにして決定した各損傷ベクトルの階層は、
図19の表に示すように階層構造情報に含まれる。
【0067】
以上、損傷ベクトルの所属階層決定手法の例1~4について説明したが、これらの手法は具体的な損傷の態様に応じて適宜使い分けることができ、また必要に応じて複数の手法を組み合わせて用いてもよい。例えば連結のパターンが複雑な損傷ベクトルのグループに対し、ある部分は例1を用いて階層を決定し、他の部分は例4を用いて階層を決定するようにしてもよい。このような階層手法の組合せは階層構造情報生成部112が判断して行うようにしてもよいし、操作部120を介したユーザの指示入力に基づいて行うこともできる。
【0068】
<階層構造情報の項目及び形式>
本実施形態では、
図10,13,17,及び19の表に示すように階層構造情報が損傷ベクトルの属する階層によらず同一の項目及び形式なので、損傷ベクトル同士の連結関係を迅速かつ容易に把握することができる。
【0069】
<損傷ベクトルの抽出>
次に、損傷ベクトルの抽出について説明する。本実施形態において、階層構造情報には損傷ベクトルが所属するベクトルグループ、損傷ベクトルのID(識別番号)、所属階層、連結する他の損傷ベクトル(親ベクトル、兄弟ベクトル、及び子ベクトル)のID等が含まれているので(
図10,13,17,及び19参照)、これらの項目について所望の条件を指定して損傷ベクトルを抽出することができる。指定する条件としては、例えば「損傷ベクトルが所属する階層」及び「特定のベクトルを親ベクトル、兄弟ベクトル、あるいは子ベクトルとするベクトル」を挙げることができるが、指定しうる条件はこれらの例に限定されるものではない。
【0070】
例えば
図10に示す損傷ベクトル情報の場合、「損傷ベクトルの階層(レベル)がレベル2」を条件として指定すると、階層構造情報の「階層(レベル)」の欄を参照して損傷ベクトルC1-2,C1-3,及びC1-4が抽出され、「損傷ベクトルC1-2と連結し、損傷ベクトルC1-2よりも上位の階層に属する損傷ベクトル」を条件として指定すると、損傷ベクトルC1-1(親ベクトル)が抽出される。また、「損傷ベクトルC1-2と連結し、損傷ベクトルC1-2と同じ階層に属する損傷ベクトル」を条件として指定すると、損傷ベクトルC1-3(兄弟ベクトル)及び損傷ベクトルC1-4(子ベクトル)が抽出され、「損傷ベクトルC1-3と連結し、損傷ベクトルC1-3よりも下位の階層に属する損傷ベクトル」を条件として指定すると、損傷ベクトルC1-5及びC1-6(子ベクトル)が抽出される。このような損傷ベクトルの抽出は、操作部120を介したユーザの指示入力に基づいて、損傷ベクトル抽出部114が階層構造情報記録部116を参照して行うことができる。
【0071】
このように、本実施形態に係る損傷情報処理装置100では損傷ベクトルの検索、分析、及び評価を容易に行うことができる。なお抽出した損傷ベクトルは、個々の情報及び/または線画の形式で表示することができる(後述)。
【0072】
<損傷ベクトル及び階層構造情報の表示>
ステップS140では、ステップS130で生成された階層構造情報を表示部118に表示する(表示工程)。階層構造情報の表示は、例えば
図9,10,13,17,及び19に示す表の形式で行ったり、それらの表から抽出した一部の情報により行ったりすることができる。そのような「一部の情報」の一例としては、「指定した条件で抽出した損傷ベクトルの情報」及び「点検日及び/または補修日等、特定の項目についての情報」を挙げることができる。
【0073】
また、階層構造情報に基づいて損傷ベクトルを示す線画を描画し、表示部118に表示するようにしてもよい。
図10,13,17,19の表に示すように、階層構造情報には損傷ベクトルの始点及び終点、並びに連結する他の損傷ベクトルの情報が含まれているので、これらの情報に基づいて損傷ベクトルを示す線画(例えば
図11,12,14~16を参照)を描画し、表示することができる。損傷ベクトルを示す線画には、損傷ベクトルの向き(始点から終点へ向かう方向)が識別できるように矢印を付してもよい(
図11,12,14~16を参照)。損傷ベクトルの線画を描画及び表示する場合、階層構造情報に含まれる全ての損傷ベクトルを描画及び表示してもよいし、一部の損傷ベクトル(例えば、上述のように指定された条件で抽出したもの)のみを表示するようにしてもよい。
【0074】
なお、損傷ベクトルを示す線画を表示する場合、階層構造情報に含まれる情報のうち特定の情報に応じて損傷ベクトルの色、太さ、及び線種(実線、点線等)等の表示条件を変えるようにしてもよい。そのような情報としては、例えば損傷ベクトルの階層(レベル)、種別(幹、枝、葉)、発生日時、削除操作フラグ、及び追加操作フラグの値等を挙げることができ、階層構造情報に含まれる項目のうちから適宜設定してよい。このように損傷ベクトルの特徴に応じた態様で表示することにより、損傷ベクトル同士の連結関係及び/または時間変化の様子を容易に把握することができる。
【0075】
上述した損傷ベクトルの線画と階層構造情報とは、いずれか一方を表示するようにしてもよいし、両方を同時に表示するようにしてもよい。また、上述の表示において損傷(ひび割れ)を撮像した画像(例えば
図9の表に示す画像“img_2015-001”)を損傷ベクトルの線画と重ね合わせて、あるいは並べて表示し、両者が比較できるようにしてもよい(例えば
図18を参照)。
【0076】
本実施形態では、このようにして損傷ベクトル及び/または階層構造情報を表示するので、損傷ベクトルの情報及び損傷ベクトル同士の連結関係を容易に把握することができる。
【0077】
<損傷ベクトル及び階層構造情報の記録>
ステップS150では、階層構造情報を階層構造情報記録部116に記録する(記録工程)。階層構造情報記録部116に記録された階層構造情報は、損傷の分析及び評価などの目的に使用することができる。なお階層構造情報から一部の情報(例えば指定した条件を満たす損傷ベクトル)を抽出した場合、そのようにして抽出した情報は全て元の階層構造情報に含まれるため、抽出結果は必ずしも記録しておかなくてもよいが、抽出結果についても階層構造情報記録部116に記録しておくことで、必要に応じ迅速に参照することができる。
【0078】
<階層構造情報の修正>
上述のように、本実施形態では階層構造情報生成部112が階層構造情報を生成するが、操作部120を介したユーザの指示入力に基づいて、階層構造情報生成部112が階層構造情報を修正することができるようにしてもよい。
【0079】
以上説明したように、本実施形態に係る損傷情報処理装置100及び損傷情報処理方法によれば、損傷ベクトル同士の連結関係を容易に把握でき、また階層構造情報により損傷ベクトルの分析及び/または検索を容易に行うことができる。
【0080】
以上で本発明の例に関して説明してきたが、本発明は上述した実施形態及び変形例に限定されず、本発明の精神を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 橋梁
2 床版
3 主桁
3A 接合部
100 損傷情報処理装置
102 損傷情報取得部
104 デジタルカメラ
106 画像取得部
108 画像処理部
110 損傷ベクトル生成部
112 階層構造情報生成部
114 損傷ベクトル抽出部
116 階層構造情報記録部
118 表示部
120 操作部