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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138115
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】エッチング方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/302 20060101AFI20220914BHJP
【FI】
H01L21/302 201A
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014583
(22)【出願日】2022-02-02
(31)【優先権主張番号】17/195,913
(32)【優先日】2021-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】服部 孝司
(72)【発明者】
【氏名】山田 将貴
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ウォーカー
(72)【発明者】
【氏名】キャサリン キング
(72)【発明者】
【氏名】大竹 浩人
【テーマコード(参考)】
5F004
【Fターム(参考)】
5F004AA02
5F004BA19
5F004BB22
5F004BB25
5F004BB27
5F004BD03
5F004CA04
5F004CA08
5F004DA20
5F004DA23
5F004DA25
5F004DB03
5F004EA28
5F004EA30
5F004EA34
5F004FA01
(57)【要約】
【課題】高い酸化シリコン膜のエッチングレートと低い窒化シリコン膜のエッチングレートを両立し、窒化シリコン膜に対して、高い選択比で酸化シリコン膜を高精度にエッチングする方法を提供する。
【解決手段】処理室内に配置されたウエハ上に予め形成された、酸化シリコン膜が窒化シリコン膜に上下に挟まれて積層された膜層の端部が溝または穴の側壁を構成する膜構造を、前記処理室内に処理用の気体を供給してプラズマを用いないでエッチングするドライエッチング方法であって、フッ化水素ガスを供給し、前記ウエハを-30℃以下、望ましくは-30℃~-60℃に冷却して、前記酸化シリコン膜を前記端部から横方向にエッチングすることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理室内に配置されたウエハの上に予め形成された、酸化シリコン膜が窒化シリコン膜に上下に挟まれて積層された膜層の端部が溝または穴の側壁を構成する膜構造を、前記処理室内に処理用の気体を供給してプラズマを用いない状態でエッチングするドライエッチング方法であって、
フッ化水素のガスを供給し、前記ウエハの温度を-30℃以下の低温、望ましくは-30℃以下、なおかつ-60℃以上にして、前記酸化シリコン膜を前記端部から横方向にエッチングすることを特徴とするエッチング方法。
【請求項2】
請求項1に記載のエッチング方法において、前記ウエハの温度を-35℃以下-50℃以上でエッチングすることを特徴とするエッチング方法。
【請求項3】
請求項1に記載のエッチング方法において、前記ウエハをエッチング後に真空中で加熱することを特徴とするエッチング方法。
【請求項4】
請求項1に記載のエッチング方法において、前記ウエハを前記フッ化水素のガスを供給してエッチングする工程と前記ウエハをエッチング後に真空中で加熱する工程を複数回繰り返すことを特徴とするエッチング方法。
【請求項5】
請求項1に記載のエッチング方法において、前記フッ化水素のガスに、さらに不活性ガスを供給することを特徴とするエッチング方法。
【請求項6】
請求項2に記載のエッチング方法において、前記エッチング後の加熱が、ランプ加熱であることを特徴とするエッチング方法。
【請求項7】
請求項2に記載のエッチング方法において、前記ウエハをエッチング後に真空中で加熱することを特徴とするエッチング方法。
【請求項8】
請求項2に記載のエッチング方法において、前記ウエハを前記フッ化水素のガスを供給してエッチングする工程と前記ウエハをエッチング後に真空中で加熱する工程を複数回繰り返すことを特徴とするエッチング方法。
【請求項9】
請求項2に記載のエッチング方法において、前記フッ化水素のガスに、さらに不活性ガスを供給することを特徴とするエッチング方法。
【請求項10】
請求項3に記載のエッチング方法において、前記エッチング後の加熱が、ランプ加熱であることを特徴とするエッチング方法。
【請求項11】
請求項3に記載のエッチング方法において、前記ウエハを前記フッ化水素のガスを供給してエッチングする工程と前記ウエハをエッチング後に真空中で加熱する工程を複数回繰り返すことを特徴とするエッチング方法。
【請求項12】
請求項3に記載のエッチング方法において、前記フッ化水素のガスに、さらに不活性ガスを供給することを特徴とするエッチング方法。
【請求項13】
請求項4に記載のエッチング方法において、前記エッチング後の加熱が、ランプ加熱であることを特徴とするエッチング方法。
【請求項14】
請求項4に記載のエッチング方法において、前記フッ化水素のガスに、さらに不活性ガスを供給することを特徴とするエッチング方法。
【請求項15】
請求項5に記載のエッチング方法において、前記エッチング後の加熱が、ランプ加熱であることを特徴とするエッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスを製造する工程として処理室内に配置された半導体ウエハ等の基板状の試料の表面に予め形成された複数の膜層から構成された膜構造の処理対象の膜層を処理するエッチング方法に係り、特に、試料上面の膜構造として処理対象の酸化シリコン膜と窒化シリコン膜とが積層されたものにおいて処理室内にガスの粒子を供給して酸化シリコン膜をエッチングして除去するエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスでは、低消費電力化や記憶容量増大に対する要求のため、更なる微細化、およびデバイス構造の3次元化が進んでいる。3次元構造のデバイスの製造では、構造が立体的で複雑であるため、従来のウエハ面に対して垂直方向にエッチングを行う「垂直性(異方性)エッチング」に加え、横方向にもエッチングが可能な「等方性エッチング」が多用されるようになる。従来、等方性のエッチングは薬液を用いたウエット処理により行ってきたが、微細化の進展により、薬液の表面張力によるパタン倒れや微細な隙間のエッチング残りの問題が顕在化している。さらには、大量の薬液処理が必要なことも問題である。そのため、等方性エッチングでは、従来の薬液を用いたウエット処理から薬液を用いないドライ処理に置き換える必要が生じている。
【0003】
半導体デバイス中では、酸化シリコン膜が多く使われることから、そのドライエッチングプロセスも、以前から多数の公知例がある。例えば、特開平07-169738号公報(特許文献1)には、アルコールとCF系のガスにより、0℃以下でプラズマを用いて酸化シリコン系材料層をエッチングする技術が記載されている。また、特開2013-074200号公報(特許文献2)には、フッ化水素とメタノールの混合ガスを用いて、プラズマを用いないで、30℃以下で堆積物をエッチング除去するものが記載されている。
【0004】
一方で、半導体デバイスを製造する工程において、三次元構造の半導体素子である3D-NANDフラッシュメモリの積層膜加工やFin型FETのゲート周りの加工においては、酸化膜を多結晶シリコン膜やシリコン窒化膜に対して高選択かつ等方的に、原子層レベルの制御性でエッチングする技術が求められる。中でも3D-NAND構造では、酸化シリコン膜(SiO2膜)と窒化シリコン膜(SiN)が交互に多数積層されていて、そこに深い穴形状や溝形状が形成された構造から、酸化シリコン膜を選択的に等方的に横方向に少量エッチングすることが求められる。
【0005】
このような課題に対しても、特開2016-025195号公報(特許文献3)、US09613823B号公報(特許文献4)、特開平07-153737号公報(特許文献5)、US05571375B号公報(特許文献6)には、フッ化水素とアルコールにより、プラズマを用いないで、0~30℃、あるいは、室温~40℃のような温度で酸化シリコン膜をエッチングすることが記載されている。さらに、上記特許文献3,4,5には、窒化シリコンに関する記載がある。
【0006】
さらにまた、特開2005-161493号公報(特許文献7)には、フッ化水素とアルコールから生成したHF により、プラズマを用いないで、窒化シリコン膜上に形成された酸化シリコン膜を有する構造体をエッチングする点、およびその後に当該構造体を加熱、さらに冷却する技術が記載されている。また、US10319603B号公報(特許文献8)には、-20℃以下で、酸素を含む前駆体とフッ素を含む前駆体を用いて、窒化シリコン膜と酸化シリコン膜が積層した構造から窒化シリコン膜を選択的に横方向にエッチングする技術が開示されている。
【0007】
さらに、US09431268B号公報(特許文献9)には、酸化シリコン膜の表面にOH含有種を吸着させて活性にした後、無水HFによってエッチングを行う方法で、反応で生成した水を基板の表面から加熱して除去することで、エッチングを制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平07-169738号公報
【特許文献2】特開2013-074200号公報
【特許文献3】特開2016-025195号公報
【特許文献4】US09613823B号公報
【特許文献5】特開平07-153737号公報
【特許文献6】US05571375B号公報
【特許文献7】特開2005-161493号公報
【特許文献8】US10319603B号公報
【特許文献9】US09431268B号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の従来技術では、次のような点について考慮が不十分であったため問題が生じていた。
【0010】
すなわち、背景技術に記載されるように、従来のフッ酸水溶液やバッファードフッ酸水溶液によるウエットエッチングでは、微細な隙間のエッチング残りの問題や、エッチングの制御性が悪いという問題がある。一方、ドライエッチングの場合には、高い酸化シリコン膜のエッチングレートと低い窒化シリコン膜のエッチングレートを両立することは難しく、窒化シリコン膜に対して、高い選択比で酸化シリコン膜をエッチングすることは難しいという問題があった。
【0011】
このため、従来の技術では酸化シリコンの膜層と窒化シリコンの膜層が上下方向に積層された膜構造において酸化シリコン膜をエッチングする工程では、加工の精度が低く所期の加工後の膜構造の形状が得られず処理の歩留まりが損なわれてしまうという問題について、十分に考慮されていなかった。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高い酸化シリコン膜のエッチングレートと低い窒化シリコン膜のエッチングレートを両立し、窒化シリコン膜に対して、高い選択比で酸化シリコン膜を高精度にエッチングする方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のエッチング方法は、処理室内に配置されたウエハ上に予め形成された、酸化シリコン膜が窒化シリコン膜に上下に挟まれて積層された膜層の端部が溝または穴の側壁を構成する膜構造を、前記処理室内に処理用の気体を供給してエッチングするドライエッチング方法であって、フッ化水素ガスを供給し、前記ウエハを-30℃以下の低温、望ましくは-30~-60℃に冷却して、前記酸化シリコン膜を前記端部から横方向にエッチングすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
酸化シリコン膜を高いエッチングレートでエッチングすることと、窒化シリコン膜を低いエッチングレートでエッチングすることを両立することができ、その結果、窒化シリコン膜に対して、高い選択比で酸化シリコン膜を高精度にエッチングに除去することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例に係るエッチング処理装置の構成の全体を模式的に示す縦断面図である。
図2図1に示す本実施例に係るエッチング処理装置が実施するエッチング処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図3図2に示すエッチング処理の工程が実施されるウエハ上の膜構造の一例を模式的に示す縦断面図である。
図4図3に示すウエハ上の膜構造に対するエッチング処理において選択比が低い場合の処理後の形状の一例を模式的に示す縦断面図である。
図5図2に示す実施例にエッチング処理の変形例の流れを示すフローチャートである。
図6図1に示す実施例に係るエッチング処理装置が図5に示す変形例に係るエッチング処理を行う際の動作の流れを示すタイムチャートである。
図7図2に示す実施例に係るエッチング処理におけるウエハの温度の変化に対するエッチングレートおよび選択比の変化を示すグラフである。
図8図2に示すエッチング処理の別の変形例に係るエッチング処理の工程を実施した結果を示すグラフである。
図9】本発明の別の実施例に係るエッチング処理装置の構成の概略を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明者らは、プラズマを用いたCVD(chemical vapor deposition)によりウエハ表面に形成された酸化シリコン膜(SiO2膜)および窒化シリコン膜(SiN)のそれぞれの単層膜について、プラズマを用いないエッチングの検討を行った。より具体的には、フッ化水素(HF)ガスを単独で、あるいはフッ化水素ガスとアルゴンAr等の不活性ガスとを混合させてウエハが配置された処理室内に供給した場合の上記単層膜のエッチングについて詳細に検討を行った。その結果、図7を用いて後述するように、エッチング中の圧力300Paの条件では、ウエハが保持されているステージを冷却するために循環している冷媒の温度を調節するチラーの設定温度を-30℃より高い値にした場合では、酸化シリコン膜及び窒化シリコン膜のエッチングが全く起きないのに対して、-30℃以下、特に-50℃以上の温度にした場合に酸化シリコン膜のエッチレートが急激に大きくなり、20nm/min以上となることを見出した。
【0017】
これに対して、窒化シリコン膜のエッチレートは、-30℃以下の低温でも1nm/min以下の小さいままで変化しないことがわかった。さらに、-40℃より低い温度の範囲の場合では、温度が低いほど酸化シリコン膜のエッチングレートは徐々に低下していくことがわかった。その結果、窒化シリコン膜に対する酸化シリコン膜のエッチングレートの選択比は-35℃乃至-55℃の範囲においてその前後での値より相対的に高いことが判った。
【0018】
ところで、酸化シリコン膜が、フッ化水素ガスとアルコールや水のガスを合わせて用いた場合にエッチングされることは、一般に知られている。この際の酸化シリコン膜を反応式は、上記特許文献7にも開示されているように、下記で示される。
【0019】
2HF+MOH → HF +MOH ・・・(式1)
SiO+2HF +MOH → SiF+2HO+2MOH・・・(式2)
ここでMは、H、CH、CHCH等の原子または分子を表す。
【0020】
例えば、フッ化水素ガスとメタノール(メチルアルコール)とを用いた場合は、フッ化水素(HF)2分子とメタノール(CHOH)とが反応して式1に従って活性種であるHF を生成する。このHF がSiOと反応しSiF(沸点-94.8℃)を生成し、当該SiFが揮発してエッチングが生起する。上記の式2で表される反応ではHF が当該反応を担っている一方で、メタノールはフッ化水素2分子からHを引き抜いて、HF を生成させる役割を果たしている。
【0021】
これに対して、本発明者らが見出した上記フッ化水素ガス単独あるいはフッ化水素ガスとAr等の不活性ガスと混合させて供給すると共にプラズマを用いない酸化シリコン膜のエッチングでは、処理室の外部から処理室内にアルコールや水の供給は行ってはいない。しかしながら、酸化シリコン膜のエッチングレートがある程度大きいことから、HF が活性種となって酸化シリコン膜のエッチングが起きていると考えられる。発明者らは、アルコールや水分を処理室外から供給していない条件でHF を生じさせるのは酸化シリコン膜の表面に存在する微量の水分(HO)が原因であると考えた。
【0022】
上記(式1)に示されるように、反応の活性種であるHF を生成するためには、MOH、ここではM=Hである水(HO)が必要である。しかし、上記(式2)で示されるように水は反応生成物でもあり、反応を促進する上では水が除去されることが必要となると考えられる。水が過剰に存在すると、特許文献9に記載されているように、以下の(式3)で示される反応が生起して酸化シリコンであるSiOが再生成され珪(ケイ)フッ化水素酸HSiFが生成される。
【0023】
3SiF+2HO → SiO+2HSiF・・・(式3)
このため、酸化シリコンであるSiOの再生成されることを抑制することがためには、水を速やかに除去することが必要である。本発明では、-30℃以下の低温で酸化シリコン膜のエッチレートが急激に大きくなることを利用した。
【0024】
すなわち、-35℃は、飽和溶液に近い50%の濃度のフッ化水素酸水溶液の融点である。発明者らは、このことから、酸化シリコン膜表面では反応で生成した水が、供給されたフッ化水素のガスと混合して飽和溶液に近いフッ化水素酸となりこれが固体となることで、酸化シリコン膜表面から水が除去された状態となり、エッチングの反応が生じると考えた。一方、-30℃より高温の場合には、フッ化水素酸が液体のまま存在して水が除去されない状態となって、(式3)で表される酸化シリコンが生成する反応が起きてエッチングが進行しないと考えられる。
【0025】
なお、例えば外部からの加熱等を行って、反応で生じる水を完全に除去してしまうと、活性種であるHF を生成する(式1)の反応が起きなくなるために、エッチングは連続的に進まないものとなってしまう。一方、上記の通り、-35℃という温度は、酸化シリコン表面でフッ化水素酸が固体となる温度であり、酸化シリコン表面に水がある程度存在し続ける状態で、なおかつ固体となることで水が除去されてエッチングが起きる。本実施の形態では、上記水を固体化することにより(式3)の反応を生じさせない、エッチングに係る反応の連携から外し、酸化シリコン膜のエッチングを促進させている。
【0026】
以上のように、本実施の形態によれば、ウエハの温度を-30℃以下-60℃以上、望ましくは温度-35℃~-50℃に維持した状態でフッ化水素ガスを単独で、あるいはフッ化水素ガスとAr等の不活性ガスとを混合させてウエハ表面に供給することにより、ウエハ表面の酸化シリコン膜の高いエッチングレートと窒化シリコン膜の低いエッチングレートとを両立することができ、窒化シリコン膜に対して高い選択比で酸化シリコン膜を高精度にエッチングすることができる。
【0027】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例0028】
[エッチング処理装置]
図1を用いて、本発明の実施例に係るエッチング処理装置100の構成を説明する。図1は、本発明の実施例に係るエッチング処理装置の構成の全体を模式的に示す縦断面図である。
【0029】
本図において、エッチング処理装置100は、上下方向に中心軸を有した円筒形の金属製の真空容器であるベースチャンバ11を備えた下部ユニット57と、ベースチャンバ11の上方に載置されてベースチャンバ11の円形の天井面を構成する上部ユニット58とを備えている。さらに下方には、ベースチャンバ11内部を排気して減圧する排気ポンプを含む真空排気部63が配置されている。
【0030】
ベースチャンバ11の内部には、その側壁と底部とに囲まれた空間であって内側が減圧される処理室1が配置されている。円筒形を有した処理室1の内部には、その上面にウエハ2が載置される円筒形を有した支持台であるウエハステージ3が配置されている。ウエハステージ3の外周側のベースチャンバ11の底部には、処理室1の内外を連通する貫通孔が少なくとも1つ配置され、これら貫通孔の開口が処理室1の内部のガスや粒子が排出される排気口を構成する。
【0031】
さらに、処理室1の天井面の中心部であってウエハ2表面の膜層を処理するためのガスが導入される空間を挟んでウエハステージ3の上面上方には、石英等の誘電体製の円板であるシャワープレート23が当該上面と対向して配置され、上部ユニット58として処理室1の天面を構成している。シャワープレート23には複数の貫通孔が備えられ、当該貫通孔を通して処理ガスが処理室1内に供給される。本実施例の処理ガスは、ウエハ2表面に予め配置された処理対象の膜層と反応する少なくとも1種類の反応性ガスとこれを所定の割合に希釈する希ガスとを含む複数種類の元素が混合された混合ガスである。
【0032】
処理ガスは、シャワープレート23の貫通孔に連通して配置された処理ガス供給用の管路の上にガス種毎に配置されたマスフローコントローラ50によってガス種毎にその流量または速度が調整され、複数本のガス用の配管が1つに纏められてガスが合流して処理ガスとしてシャワープレート23の貫通孔に供給される。また、マスフローコントローラ50の下流側で合流した処理ガス供給用の管路のさらに下流側には、ガス分配器51が配置され、ガス分配器51からシャワープレート23までの間には、複数本のガス供給用の管路であるガス供給管56がこれらと連結されて、これらの管路の下端はシャワープレート23の中心部または外周部に配置された貫通孔に連通して配置されている。
【0033】
本実施例では、シャワープレート23の貫通孔に連通して配置された各々のガス供給管56を通って中心部と外周側部分とで流量や組成を各々で独立に調節された処理ガスが処理室1内に上部中央部から供給され、処理室1の中心付近と外周付近との各々の領域で処理ガスの分圧の分布が所望のものに調節される。なお、図1の例では、処理用ガスの原料となる元素としてAr,N,HFが記載されているが、他の種類のものから構成された処理ガスも供給しても良い。
【0034】
さらに、本実施例では、処理ガスとして液体の原料を気化させて得られたガスがシャワープレート23の貫通孔を通して処理室1内に供給されても良い。例えば、原料として液体のHFまたはこれを含む物質が用いられ、貯留部内に溜められたこれらの原料の液を図示しないベーパー供給器において気化することで得られたガスが処理用ガスとして用いられても良い。
【0035】
原料の蒸気から構成された処理ガスが処理室1内に導入されていない間は、ガス分配器51と貯留部との間を連結する管路上の1つのバルブが閉じられて、液体の原料と処理室1との間が遮断される。原料の蒸気が流れる配管上にヒータを配置して、当該ヒータからの熱を受けて配管内部を加熱して原料の蒸気が管内部で凝縮しないようにすることが望ましい。
【0036】
ベースチャンバ11内の処理室1の下部においてウエハステージ3の下方には処理室1内部を排気して減圧するための排気ポンプを含む排気装置15が真空排気配管16を介して連通して接続されている。排気装置15は、例えば、ターボ分子ポンプやメカニカルブースターポンプやドライポンプ等の処理室1内部を所定の真空度まで減圧できる排気ポンプを備えているものとする。また、処理室1内部の圧力を調節するため、ベースチャンバ11の底部材を連通した排気口と排気装置15との間を連結して連通する真空排気配管16上に調圧バルブ14が配置されている。調圧バルブ14は、真空排気配管16の排気が流れる流路を横方向に横切って配置された板状のフラップを少なくとも1つ備えて当該フラップを回転または流路を横切る方向に移動させることで流路断面積を増減することで、内部を流れる排気の流量または速度を増減する構成を備えている。
【0037】
ベースチャンバ11とその上方の円筒形の上部ユニット58とは後者が取り付けられた状態で、ベースチャンバ11の円筒形の側壁上端の上方に、円筒形の上部ユニット58の底面の外周端部が、これらの間にOリング等のシール部材を挟んで処理室1の内外を気密に封止するように載せられて取り付けられる。上部ユニット58の下部の中央部はシャワープレート23が配置され、さらにシャワープレート23の外周側の領域にリング形状を有したIRランプユニット59が配置されると共に、IRランプユニット59のIR光透過窓72が上部ユニット58の下面であって処理室1の天面を構成している。さらに、上部ユニット58は、IRランプユニット59及びその中心部に配置されたシャワープレート23の上方とその上方でこれに連結されたガス供給管56の周囲とを囲む金属製の円筒形の上部ユニットカバー62を備えている。
【0038】
本例では、ウエハステージ3の上面の外周側領域の上方に、当該上面とこれに載せられたウエハ2をリング状に囲んでIRランプユニット59が配置されている。IRランプユニット59は、ハロゲンランプ等の赤外光の波長域を含む複数波長の電磁波を放射するリング状のランプ60を備え、ランプ60から透過窓72を透過して処理室1内に放射された電磁波が周囲からウエハ2に照射される。本例の放射される電磁波は、可視光から赤外光の波長域のものを多く含む電磁波(ここではIR光と呼ぶ)を放出するものとする。
【0039】
IRランプユニット59は、シャワープレート23の周囲に3重のリング状に配置されたランプ60と、ランプ60の上方でこれを覆って配置され放射されたIR光を処理室1の中央側及び下方向(載置されたウエハ2の方向)に向けて反射するリング形状の反射板61と、ランプ60の下方に配置され石英等のIR光が透過する誘電体製のリング状の部材でシャワープレート23を囲むIR光透過窓72を備えている。本例のIRランプ60は、上方から見て、シャワープレート23または処理室1の上下方向の中心の周囲に複数本が同心状に配置されたサークル型(円形状)のランプ60-1,60-2,60-3が用いられる。これら複数本のランプに代えて螺旋状に配置された1本のランプが用いられても良い。また本実施例では3周分のランプが設置されているものとしたが、2周、4周などとしてもよい。
【0040】
ランプ60は、電力を供給するランプ用電源73が接続されており、これらの間を電気的に接続する給電経路上には高周波電力のノイズが低減してランプ用電源73に流入することを抑制するための高周波カットフィルタ74が配置されている。また、ランプ用電源73はランプ60-1,60-2,60-3の各々に供給される電力を独立に制御できる機能を有している。
【0041】
リング形状にシャワープレート23を囲むIRランプユニット59は、IR光透過窓72のリング状の処理室1に面した天面部とその内周端部の上方に接続されシャワープレート23とその背面側で貫通孔に連結されたガス供給管56を囲む円筒形の内周側壁部とを有している。円筒形の内周側壁部も天面部と同様にIR光が透過する誘電体製の部材で構成されて、放射されるIR光は円筒形部を通してシャワープレート23に照射されると共に、これを透過して処理室1内に放射される。
【0042】
ウエハステージ3の円板または円筒形の金属製部材の内部には、ウエハステージ3を冷却して温度を調節するための冷媒が内側を流れる流路39が配置され、流路39の出入口と連結されたチラー38において温度が所定の範囲内の値に調節された冷媒が供給されて循環する。本実施例のチラー38は、冷媒または金属製の部材を少なくとも-30℃乃至-60℃、好ましくは-35℃乃至-50℃の範囲の温度に調節できるものが用いられる。さらに、金属製の部材の上面には、ウエハ2がその上に載せられる上面を構成する誘電体製の膜が配置され、当該誘電体製の膜内にはウエハ2を静電吸着によって固定するための直流電力が供給される複数の板状の電極板30が内蔵されている。それぞれの電極板30には、DC電源31各々が接続されている。
【0043】
また、ウエハ2の温度を効率よく調節するため、ウエハステージ3の誘電体膜の上面には、ヘリウム(He)ガス55が供給される供給口が配置されウエハ2が載せられた状態でウエハ2の裏面と誘電体膜との間にHeガス55を供給して、ウエハ2と流路39との間の熱伝達を促進できるように構成されている。また、誘電体膜はウエハ2を静電気により吸着した状態で加熱や冷却を行っても、ウエハ2の裏面に傷がつくことを抑制するためポリイミド等の樹脂で構成されている。
【0044】
また、ウエハステージ3の金属製の部材の内部には、ウエハステージ3または金属製の部材の温度を検知する温度検知器(センサ)としての熱電対70が配置され熱電対温度計71に接続されている。熱電対温度計71からの出力は図示しないエッチング処理装置100の動作を制御する制御部に送信されて、制御部内の演算器が記憶装置内に格納された予め定められたソフトウエアに記載されたアルゴリズムに基づいて、温度の値を検出すると共に、当該検出された値及びこれから得られるウエハ2の径方向の所期の温度の分布との差に応じて、所望のウエハ2の温度の分布となるように、ランプ用電源73にランプ60-1,60-2,60-3各々からのIR光の出力を独立に調節する指令信号を送信する。
【0045】
なお、本実施例のエッチング処理装置100において、ウエハステージ3を冷却するための機構としては、冷媒が内側を循環する流路39により冷媒を循環させるもの以外にも、ウエハステージ3内部に供給される電力に応じて温度差を形成する熱電変換デバイスであるペルチェ素子等を用いることもできる。また、フッ化水素ガス及びメタノールガス等の処理ガスに曝される処理室1のウエハステージ3以外の内側壁面を、例えば40℃乃至120℃の範囲内の温度に加熱することができる。これにより、処理室1の内部部材の表面にフッ化水素ガス及びメタノールガスが吸着することを抑制し、内部の部材に腐食が生起することを低減することができる。
【0046】
前記チラー38の設定温度に対して、熱電対70による熱電対温度計71によりウエハステージ3のステージ温度は、±1℃以内の差であり、また熱電対70で別途、測定したウエハ2の温度は、±3℃以内の差(ウエハステージ3のステージ温度に対しては、±2℃以内)であった。
【0047】
また本発明で用いるエッチング処理装置100は、処理室1などフッ化水素ガスにさらされるウエハステージ3以外のベースチャンバ11の内部を加温することができる。例えば、温度としては、40℃から120℃程度を用いことができる。これにより、ベースチャンバ11内部にフッ化水素ガスなどが吸着することを防ぐことができ、ベースチャンバ11内部の腐食を極力軽減することが可能となる。
【0048】
[エッチングプロセスのフロー]
次に、図1に示す本実施例に係るエッチング処理装置100が実施するウエハ2に対するエッチング処理の工程を、図2,3,4を用いて説明する。図2は、図1に示す本実施例に係るエッチング処理装置が実施するエッチング処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0049】
図2の例においては、まず、処理室1の水平方向の周りを囲むベースチャンバ11の側壁部分に配置されウエハ2が処理室1の内外の間で搬入出される搬送口であるゲート(図示省略)を通して、ベースチャンバ11に隣接して配置された図示しない別の真空容器であって内部の減圧された空間に備えられたロボットアーム等のウエハ搬送機械の先端部上に載せられたウエハ2が処理室1内のウエハステージ3上方に搬入された後にウエハステージ3上面上方に突出した3本以上のピン先端上に受け渡される。ウエハ2は、ロボットアームが処理室1から退出しゲートが機密に閉塞された後に、ピンのウエハステージ3内部への降下と収納とによりウエハステージ3上面に載置され、静電吸着用DC電源31からの電力がウエハステージ3の上面を構成するアルミナやイットリア等のセラミクス製の誘電体膜内に配置された静電吸着用電極30に供給されることにより、誘電体膜上面上に吸着され保持される。
【0050】
この後、ウエハ2の裏面と誘電体膜との間の隙間には、ウエハステージ3とウエハ2との間の熱伝達を促進するためHeガス55等の伝熱性を有したガスが供給されることで、ウエハ2の温度は流路39を流れる冷媒の温度に近い温度にされたウエハステージ3に漸近し、図2のステップS101に示されるウエハ冷却の工程が行われる。本例のウエハ2上面に予め形成された酸化ケイ素膜のエッチング処理では、ウエハ2の温度は-30℃乃至-60℃、好ましくは-35℃乃至-50℃の範囲内の値に維持される。このため流路39を流れる冷媒は、エッチング処理中のウエハ2の温度より低い温度、例えば-40℃以下の値の温度にされて流路39に供給されて循環する。
【0051】
次に、ステップS102として、HFガスを希釈するためのArガス52がマスフローコントローラ50、ガス分配器51、さらにはシャワープレート23を介して処理室1内部に上方から供給される。本例において、開始された希釈用のArガス52の供給をウエハ2上面の処理対象の窒化ケイ素膜のエッチング処理の終点が判定されるまで継続しても良く、途中で停止または供給と停止とを複数回繰り返す(断続させる)ことを行っても良い。また、希釈用のガスとしてArガス52の代わりに他の不活性ガス、例えば窒素Nのガスを用いることもできる。
【0052】
次に、ステップS103として、ウエハ2がウエハステージ3上面に保持されその温度が-30℃乃至-60℃、好ましくは-35℃乃至-50℃の範囲に維持された状態で、HFガスが所定の流量で所定の時間だけ処理室1に供給される。供給されたHFガスはウエハ2表面の酸化ケイ素膜の表面に到達し、酸化ケイ素と反応して酸化ケイ素が除去されてエッチング行われる。
【0053】
本実施例では、希釈ガスとして、ArやNなどの不活性ガスを用いることができる。希釈ガスの添加量が多いほど、エッチングレートは低下する傾向があるので、それによってエッチングレートを制御することも可能である。
【0054】
本実施例では、ステップS103中の処理室1の圧力は10Pa乃至2000Paの範囲内の値が望ましい、特に100Pa乃至1000Paの間の値が望ましい。後述するように、圧力が高い方が、酸化シリコン膜のエッチングレートが高くなるとともにエッチングが起きる温度が若干、高温化する。一方、圧力を高くした場合は、後述するように、それに伴って、窒化シリコン膜のエッチングレートもわずかに上昇する傾向があり、選択比は大きく向上しない結果となった。
【0055】
所定の時間だけステップS103におけるHFガスの供給が行われた後、ガス分配器51の流量調節器の動作により、処理室1へのHFガスの供給が停止される(ステップS104)。当該ステップS104中も、調圧バルブ14の開度および排気装置15の排気ポンプの回転数はステップS103のものと同等に調節されており、処理室1内へのHFガスの供給が停止することで処理室1内の気相中に残留したHFガスは処理室1内に形成された反応性生物あるいは他のガスの粒子と共に処理室1外に排気口および真空排気配管16を通して排出され、処理室1内が減圧される。続いて、ウエハ2とウエハステージ3との間に供給されていたHeガス55の供給が停止される。それと同時にバルブ54を開いて、ウエハ2の裏面の圧力を処理室1内の圧力と同程度にする(つまり、ウエハ2の裏面のHeガス55を抜く)。
【0056】
当該ステップS104の後に続けて、ウエハ2の後処理の工程を行っても良い。
【0057】
本実施例が対象とする膜の構造の例を、図3を用いて説明する。図3は、図2に示すエッチング処理の工程が実施されるウエハ上の膜構造の一例を模式的に示す縦断面図である。
【0058】
図3(a)示すように、ウエハ2のシリコン製の基板101上には、酸化シリコン膜(SiO膜)103と窒化シリコン膜(SixNy、SiN膜)102が上下方向に交互に複数積層された膜構造であって上下方向(深さ方向)に複数の膜層を貫通して孔あるいは溝形状が形成された膜構造が配置されている。このような膜構造は、孔または溝は最上層の膜層(本図では酸化シリコン膜103)表面に開口部104を有しており、3D-NANDで必要とされる構造である。
【0059】
この膜構造では、数十乃至数百層が積層されたものである。本例の酸化シリコン膜103の膜厚さは数nm乃至100nm、窒化シリコン膜102の膜厚さは数nm乃至100nmであることから、膜構造全体の厚さ105は、数μmから数十μmである。また、開口部104の幅は数十nm乃至数百nmである。
【0060】
図2に示すエッチング処理の工程を用いることにより、図3(b)に示すように、孔または溝の側壁面を構成する各酸化シリコン膜103の端面は開口部104から孔または溝内部に侵入したHFガスと反応してその上下の窒化シリコン膜102に対して高い選択比でエッチングされる。端面がエッチングされ除去された各酸化シリコン膜103の端面は供給されたHFガスと再度反応して除去されることで、各酸化シリコン膜103はその上下を挟む窒化シリコン膜102の端面の位置が大きく変化しないのに対して横方向(図上左右方向)にエッチングが進行する。本例での横方向へのエッチングの寸法106は数nmから数十nmであり、10nm程度が最適である。
【0061】
酸化シリコン膜103の横方向へのエッチングに際して、窒化シリコン膜102に対する選択比は15以上、特には20以上が望ましい。選択比が低い場合では窒化シリコン膜102のエッチングが酸化シリコン膜103のエッチングと並行して進むことになる。このような場合には、図4に示すように、窒化シリコン膜102のエッチング後の端部の形状が矩形ではない丸くなってしまい、このような形状の膜構造から形成される半導体デバイスの性能に悪影響が及ぼされる虞がある。図4は、図3に示すウエハ上の膜構造に対するエッチング処理において選択比が低い場合の処理後の形状の一例を模式的に示す縦断面図である。
【0062】
発明者らの経験によれば、図3(a)に示す酸化シリコン膜103と窒化シリコン膜102とが積層された膜構造に対する本例のエッチング処理について、選択比が15以上、より望ましくは20以上である場合には、溝または孔の側壁面を構成する各膜層の端面に、図3(b)で示すような矩形により近い形状が得られる。一方、選択比が15未満、特に10以下である場合には、図4に示したような窒化シリコン膜の端部の形状が丸みを帯びたものになってしまい望ましくない。
【0063】
発明者らの検討によれば、ウエハ2の温度を変えて酸化シリコン膜103と窒化シリコン膜102とが交互に積層された図3(a)に示す膜構造のエッチング処理を行ったところ、-30℃では予想されたようにエッチングがほとんど進まず、-55℃ではエッチング量がやや小さく、-35℃~-50℃でのエッチングを行ったものが、図3(b)の形状となることがわかった。また、これらのエッチング後に加熱を行ったところ、加工後の積層膜の表面には残渣等の残留物や生成物による表面形状の粗れは小さいことが判った。
【0064】
図3で示される基板101としては、シリコン製の基板やシリコンゲルマニウム製の基板のものが挙げられるが、これに限定されるものではない。酸化シリコン膜(SiO膜)103と窒化シリコン膜(SiN膜)102は、交互に積層され形成されたものである。これらは、プラズマCVDや化学蒸着法(CVD法)、原子層堆積法(ALD法)、スパッタ法、前駆体の塗布法及び焼成法のような方法で形成されたものでも良い。
【0065】
エッチングの対象である酸化シリコン膜103が窒化シリコン膜102に上下に挟まれて積層された膜層の端部が溝や孔の側壁を構成する膜構造のエッチングに際して、これらの膜の表面や端部に堆積物や付着物が生じる場合がある。このような堆積物や付着物は、図1に示すエッチング処理装置100が備えるランプ60から放射される赤外線等の電磁波をウエハ2に照射することで膜構造を加熱して表面に生じた堆積物や付着物を熱分解し脱離させることが出来る。これによって図3に示す膜構造の表面をより平滑にすることができる。
【0066】
なお、このようなウエハ2の加熱は、ランプ60を用いるものに限定されない。例えば、ウエハステージ3内に配置されたヒータ等の加熱器を用いてウエハステージ3からの熱伝達でウエハ2を加熱しても良く、ウエハ2を図1に示すエッチング処理装置100の処理室1から外部に搬送し別の加熱装置内部で加熱を行っても良い。また、ランプ60-1,60-2,60-3が電磁波を照射する際には、処理室1内にArガスやNガス等の不活性ガスを導入しても良い。
【0067】
上記のような上下方向に交互に積層された窒化シリコン膜102および酸化シリコン膜103の端部が溝や孔の側壁を構成する膜構造のエッチング処理中に、窒化シリコン膜102の表面や溝や孔の側壁の表面に処理中に生成された生成物が付着あるいは堆積するが場合がある。発明者らがこのような付着物、堆積物を全反射赤外吸収スペクトルで分析したところ、これらは、ケイフッ化アンモニウムを含むものであることが判明した。
【0068】
発明者らの検討によれば、上記した処理の条件ではアンモニアは使用されていないものの、窒化シリコン膜102の一部がエッチングされることにより、窒化膜の窒素からアンモニアが生成して、ケイ(珪)フッ化アンモニウム(NHSiFが生じる場合があると想定される。一方、安全データシート等の情報によれば、ケイフッ化アンモニウムは145℃で分解することが知られている。
【0069】
発明者らは、上記のように酸化シリコン膜103をHFガス供給してエッチング処理する工程の終了後に、膜構造あるいはウエハ2を減圧された処理室1内で加熱して昇温させることにより、生成されたケイフッ化アンモニウムを含む堆積物を除去することができる、という知見を得た。そこで、図2で示したエッチング処理の工程のフローに、後処理としてのウエハ2を加熱して堆積物を除去する工程を追加したものを、上記した実施例の変形例として次に説明する。
【0070】
図5は、図2に示す実施例にエッチング処理の変形例の流れを示すフローチャートである。本図では、図2に示したステップS101からステップS104の工程に続いてウエハ2を加熱する工程を含むステップS105およびウエハ2を冷却する工程を含むステップS106が追加された処理の流れが示されている。
【0071】
図6は、図1に示す実施例に係るエッチング処理装置が図5に示す変形例に係るエッチング処理を行う際の動作の流れを示すタイムチャートである。図5,6において、ステップS101乃至S104の工程は図2に示したものと同じである。ステップS101乃至S104の工程がこの後にウエハ2を加熱する工程を行う必要のないウエハ2の処理の条件のものである場合は、図6のタイムチャートに示されたこれら加熱と冷却の工程(ステップS105、S106)は省略されて良い。
【0072】
すなわち、図2の例と同様、未処理のウエハ2が処理室1内に搬送されウエハステージ3上面に載置されてウエハステージ3上面の誘電体膜上面上に吸着され保持された後、ウエハ2の裏面と誘電体膜との間の隙間にHeガス55等の伝熱性を有したガスが供給されウエハ2の冷却の工程が行われる(ステップS101)。本変形例においても、ウエハ2の温度は-30℃乃至-60℃、好ましくは-35℃乃至-50℃の範囲内の値に維持される。
【0073】
次に、ステップS102として、HFガスを希釈するためのArガス52が処理室1内部に上方から供給され、次に、ウエハ2の温度が-30℃乃至-60℃、好ましくは-35℃乃至-50℃の範囲に維持された状態で、HFガスが所定の流量で所定の時間だけ処理室1に供給され、供給されたHFガスとウエハ2表面の酸化ケイ素膜との反応により酸化ケイ素が除去されてエッチング行われる(ステップS103)。
【0074】
ステップS103が所定の時間行われた後、処理室1へのHFガスの供給が停止され、処理室1内の気相中に残留したHFガスや処理室1内に形成された反応性生物あるいは他のガスの粒子が処理室1外に排出され処理室101内が減圧され、続いて、ウエハ2とウエハステージ3との間に供給されていたHeガス55の供給が停止される(ステップS104)。それと同時にバルブ54を開いてウエハ2の裏面の圧力を処理室1内の圧力と同程度にする(つまり、ウエハ2の裏面のHeガス55を抜く)。
【0075】
本図の例では、ステップS105におけるウエハ2の加熱には図1に示されたIR(赤外)ランプ60-1,60-2,60-3を含むIRランプユニット59が用いられる。ステップS105の開始と共に、図示しない制御器からの司令信号に応じてランプ用電源73からの電力がランプ60-1,60-2,60-3に供給されて赤外線域を含む電磁波がウエハ2上に照射される。このようなウエハ2の加熱および冷却の工程は、所定の量の酸化シリコン膜103のエッチングが得られるまでステップS101乃至S104を1纏まりとして複数回繰り返された後で行われても良いし、ステップS101乃至S104に引き続いて行われる1纏まりの工程(サイクル)の一部として、少なくとも1回のサイクル毎に行われても良い。
【0076】
加熱するための構成はこれに限定されるものではなく、例えばウエハステージ3を加熱する方法や、加熱のみを行う装置にウエハ2を別途搬送し加熱処理を行う方法でもよい。また、IRランプユニット59からの電磁波の照射の際には、Arガスや窒素ガスを導入することができる。また、付着物や堆積物を除去する加熱は、必要に応じて、複数回行っても良いし、付着物や堆積物の量が許容範囲内と判定された場合には上記加熱および冷却のステップS105,S106を行なわないことも可能である。
【0077】
なお、ステップS105においてウエハ2を所定の時間または所定の温度まで加熱されたことが制御器に判定された後には、IRランプユニット59の動作が停止されステップS105が終了する。その後、ウエハステージ3内部の流路39への所定温度の冷媒の供給とウエハ2とウエハステージ3との間へのHeガスの供給が維持された状態で、ウエハ2を冷却するステップS106が行われる。所定の時間あるいは所定の温度に到達したことが制御器に検出されるまで、ウエハ2の冷却が継続された後、ステップS106が停止されて、ウエハ2の酸化シリコン膜103のエッチング処理の工程が終了される。
【0078】
また、エッチングの後の堆積物や残渣を除去する後処理としては、真空中での加熱に変えて、水洗による除去も可能である。またOプラズマを用いて表面の付着物を脱離、揮発させて除去するクリーニング処理を用いることができる。
【0079】
[エッチング結果1]
図2乃至図6に示した工程を用いて行ったエッチング処理の結果の一例を、図7を用いて示す。図7は、図2に示す実施例に係るエッチング処理におけるウエハの温度の変化に対するエッチングレートおよび選択比の変化を示すグラフである。本図においては、流路39に供給される冷媒の温度を-25℃乃至-55℃の範囲で変化させた各々の場合でのプラズマCVDにより形成された酸化シリコン膜及び窒化シリコン膜の各々の単層膜のエッチングレートを測定した結果が点および線として示されている。
【0080】
本例において、酸化シリコン膜103をエッチングして除去する工程であるステップS103で処理室1に導入した処理用のガスは、フッ化水素400sccmに対して希釈ガスとしてのArを100sccmが添加された混合ガスが用いられた。さらに、当該工程中の処理室1内の圧力は300Pa、エッチングの時間は120s(sec、秒)とした。
【0081】
また、当該エッチング処理の工程の終了後に、ステップS104において20秒間の排気を行った後、冷媒の温度の設定は前のステップのものを維持したまでArを処理室1に500sccmの流量で供給し調圧バルブ14の開度を100%(全開の状態)で所定のランプ強度で50秒間加熱した。この時の最高到達温度は、約250℃であった。また、その後、ランプを切って、Arを500sccm流した状態で120秒間放冷した。
【0082】
図7(a)には、流路39を循環して流れる冷媒の温度の設定に対して、酸化シリコン膜、及び窒化シリコン膜のエッチングレートを点線および実線でプロットした結果を示している。
【0083】
本図から、冷媒の設定温度が-30℃より高い場合では、酸化シリコン膜103、窒化シリコン膜102のいずれもエッチングは生起していないと言える。また、-30℃以下の温度の条件では、酸化シリコン膜103のエッチングレートが急激に増大していることが判る。これらの処理の条件において、酸化シリコン膜103のエッチングレートは、-40℃に極大値として30nm/minの値を示している。さらに、それより-40℃以下の低温になるとエッチングレートは減少する傾向が示されている。
【0084】
これに対して、窒化シリコン膜のエッチングレートは、-30℃~-55℃の範囲で、1nm/min以下であり、エッチングは起きないことがわかった。したがって、用いた条件において、-35℃~-55℃の範囲では、窒化シリコン膜に対して、酸化シリコン膜が選択的にエッチングされることがわかった。図7(b)には、選択比として、窒化シリコン膜に対する酸化シリコン膜のエッチングレートを、チラーの設定温度に対して、グラフ化したものを示している。点のばらつきがあるが、-35℃~-55℃では、約50以上の選択比を示すことがわかる。
【0085】
以上の結果から、高い酸化シリコン膜のエッチングレートと低い窒化シリコン膜のエッチングレートを両立することができ、窒化シリコン膜に対して、高い選択比で酸化シリコン膜を高精度にエッチングするには、ウエハ温度-35℃~-55℃が望ましい。酸化シリコン膜のエッチングレートが高いことから、ウエハ温度-35℃~-45℃がより望ましい。
【0086】
また、本例の酸化シリコン膜103のエッチングには、図5に示したステップS101乃至S106を1纏まりの工程(サイクル)として複数回繰り返して行なうこともできる。この場合は、図6のタイムチャートを必要な回数繰り返すものとなる。例えば、堆積物が多い場合等に短時間のエッチング、真空中の加熱による除去を繰り返すことにより、その除去がより容易となる。
【0087】
[エッチング結果2]
実施例1あるいは変形例として説明したエッチング処理装置100で実施されるウエハ2の処理の工程に係るエッチングの条件のうち圧力を高くしてエッチングを行った結果について、別の変形例として図8を用いて以下に説明する。図8は、図2に示すエッチング処理の別の変形例に係るエッチング処理の工程を実施した結果を示すグラフである。
【0088】
実施例1等と同様に、プラズマを用いずにフッ化水素ガスを処理室1内に導入してウエハ2上に予め形成された酸化シリコン膜および窒化シリコン膜の積層された膜構造のエッチングを、冷媒の温度を-25℃乃至-55℃の範囲内で複数の値に変化させて実施して、各々の温度でのエッチング処理の結果を検出した。ここで、エッチング処理に用いた処理用のガスは、フッ化水素400sccmに希釈ガスとしてのArを100sccmが添加された混合ガスである。図2等で示した実施例または変形例における処理中の処理室内1の圧力300Paに対して圧力を500Pa、他を同じにした条件で、ステップS103を120秒間行うエッチング工程を実施した。
【0089】
また、ステップS103の酸化シリコン膜103のエッチングの工程が終了し、フッ化水素ガスの供給を停止した後に、ステップS104の工程として20秒間排気した後、ステップS105として冷媒の温度の設定は維持して処理室1内にArを500sccmで供給しつつ調圧バルブ14を100%開けた(全開の)状態で所定の電力をIRランプユニット59に供給してランプ60-1,60-2,60-3からの電磁波を照射してウエハ2を50秒間加熱した。このステップS105におけるウエハ2の最高の温度は約250℃であった。ランプ60-1,60-2,60-3の電磁波の照射を停止してステップS105を終了した後、処理室1内にArを500sccm供給しつつ、ウエハ2を120秒間冷却した。
【0090】
図8(a)に、冷媒の設定された温度の変化に対する検出された酸化シリコン膜、及び窒化シリコン膜の単層膜のエッチングレートの変化を点線及び実線とで結果を示した。
【0091】
本図によれば、流路39を流れる冷媒の設定された温度が-30℃より高い場合には、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜のいずれもエッチングは起きないことがわかった。また-30℃以下になると、酸化シリコン膜のエッチングレートが急に大きくなることがわかった。用いた条件において、酸化シリコン膜のエッチングレートは、-35℃に最大値を持ち、40nm/minを示した。さらに、-35℃より低温になるとエッチングレートは減少する傾向を示した。
【0092】
図7(a)に示したエッチング処理中の処理室1内の圧力が300Paの条件の場合に比べて、圧力500Paで処理された図8(a)の場合には、酸化シリコン膜のエッチングレートを示す実線のプロファイルは高温側に少しシフトしていることがわかる。
【0093】
上記の通り、本実施例、変形例では、HF が活性種となって、エッチングが起きていると考えられる。(式1)にも記載のように、HF を生じさせるのは、酸化シリコン膜の表面にある微量の水と考えられる。その一方で、(式2)で示されるように水は、反応生成物でもあり、反応を進めるためには、水の除去が不可欠である。
【0094】
上記実施例、変形例では、酸化シリコン膜のエッチング処理中に、ウエハ2またはこれを支持するウエハステージ3の温度は、-30℃以下の値に維持される。ここで、-35℃は飽和溶液に近い50%の濃度のフッ化水素酸水溶液の融点であり、酸化シリコン膜の表面では反応で生成した水が供給されているフッ化水素のガスと混合して飽和溶液に近いフッ化水素酸となり、それが固体となることで、水分がウエハ2の膜構造の表面から除去されたことになり、酸化シリコン膜のエッチング処理が進行すると想定される。
【0095】
本変形例では、処理中の処理室1内の圧力を実施例1における300Paから500Paに増加させたことで、上記フッ化水素酸がより固体に成り易くなったため、図8(a)に示すようにグラフが高温側にシフトしたと考えられる。また-35℃でのエッチングレートが図7(a)のものより増大していることにも、そのことが寄与していると考えられる。
【0096】
これに対して、窒化シリコン膜のエッチングレートは、-30℃~-55℃の範囲で、2nm/min以下であり、エッチングは殆ど生じていないことが判った。このことから、用いた条件において、-35℃~-55℃の範囲では、窒化シリコン膜に対して酸化シリコン膜が選択的にエッチングされることが判った。
【0097】
図8(b)には、冷媒の設定温度の変化に対する窒化シリコン膜に対する酸化シリコン膜のエッチングレートの比率の変化を点と実線とで示している。当該比率はこれら膜同士の間の選択比を示していると考えられる。本図には、点のばらつきがあるものの、-35℃では選択比70と高い一方で-40℃~-55℃では選択比が20~50程度となり、圧力を500Paに上げた本変形例においては全体としてはやや選択比が下がることがわかった。
【0098】
なお、発明者らは、図3(a)に示す酸化シリコン膜と窒化シリコン膜との積層膜を有する膜構造を備えたウエハ2に対して、本変形例の圧力の条件で冷媒の温度を変えて図5に示すステップS101乃至S106の工程を実施した。処理の結果に対する発明者らの検討によれば、-30℃で少しエッチングが起きたが、エッチング量が小さかった。-35℃~-50℃でのエッチングを行ったものが、所望の図3(b)の形状となることが判った。また、エッチング後に加熱を行ったことで加工表面に残渣等は見られず付着物や凹凸の生起が抑えられていた。
【実施例0099】
[エッチング処理装置]
次に、図9を用いて本発明の実施例2に係るエッチング処理装置の全体構成を含めて概略を説明する。図9は、本発明の別の実施例に係るエッチング処理装置の構成の概略を模式的に示す縦断面図である。
【0100】
本図に示すエッチング処理装置900おいて、図1に示す実施例のエッチング処理装置100の構成上の差異は、処理室1およびウエハステージ3を内蔵するベースチャンバ11の上方に、処理室1と円筒形状を有した流路27を介して連通されたプラズマ源901が配置されている点である。本例のプラズマ源901は、ベースチャンバ11と連結され同様に真空容器を構成する石英チャンバー12の内部の空間に処理用のガスが供給されてプラズマが形成され、プラズマ中の反応性の高い粒子による真空容器内壁のクリーニングや反応性の高いガスの生成に用いられる。
【0101】
プラズマ源901は、ICP(誘導結合プラズマ)を内部で形成するための石英等の誘電体製で円筒形を有した石英チャンバー12がベースチャンバ11の上方で、IRランプユニット59を挟んで配置されている。石英チャンバー12の外側壁の周囲には、プラズマ形成のための高周波電力が供給されて高周波電界を形成するコイルであるICPコイル20が上下方向に複数段巻かれて配置されている。
【0102】
ICPコイル20には高周波電源21が整合機22を介して電気的に接続されている。高周波電力の周波数は数十MHzの周波数帯が用いられ、本例では13.56MHzである。石英チャンバー12の側壁上端上方には円板形状の天板25が配置され、石英チャンバー12内部の円筒形の放電室と外部のエッチング処理装置900の周囲の雰囲気との間を気密に区画するように間にOリング等のシールが挟まれて、両者が連結されている。
【0103】
天板25には処理ガスや不活性ガスが内部を通る複数本のガス供給用の管路であるガス供給管56が接続されている。天板25の下方には、円板形状を有して上下方向に複数の貫通孔が配置されたガス分散板24及びその下方のシャワープレート23が配置されている。ガス供給管56を通り供給された処理ガスや不活性ガスは、ガス分散板24とシャワープレート23の貫通孔を通り分散されて石英チャンバー12内部に上方から下向きに導入される。
【0104】
ガスは、図1の実施例と同様に、ガス種毎に設置されたマスフローコントローラ50によって供給流量が調整される。また、マスフローコントローラの下流側にはガス分配器51が設置されており、石英チャンバー12の中心付近に供給するガスと外周付近に供給するガスの流量や組成の値を各々で独立に調節可能に構成され、石英チャンバー12内の各種類のガスの分圧の分布が調節される。なお、図9ではAr、N、HF、Oを容器内に供給されるガスとして記載してあるが、必要に応じて、他のガスを用いても良い。
【0105】
石英チャンバー12および天板25で囲まれた円筒形を有した空間に導入されたガスはICPコイル20に供給された高周波電力により形成された誘導磁界により形成された高周波の誘導電界により励起され、電離、解離を生起してプラズマが生成される。すなわち、上記円筒形の空間は放電室である。
【0106】
放電室下方のIRランプユニット59の中央には円筒形の流路27が配置され、さらに下方の処理室1の上部と連通されている。この流路27内部には、石英等の誘電体製であって透過性を有した材料から構成され、上下方向に複数の貫通孔が形成された円板であるスリット板26が配置されている。貫通孔の形状は平面形が矩形でも円形、楕円形でもよく、スリットに限られない。スリット板26の貫通孔は、放電室内に形成されたプラズマ中で生成されたイオンや電子等の荷電粒子を遮蔽すると共に、活性種(ラジカル)や中性のガスの粒子を通過させて下方の処理室1に進入させる。
【0107】
また、本例の処理装置は、処理室などフッ化水素ガスにさらされるウエハステージ3以外の真空容器の内部を加温することができる。例えば、ベースチャンバ11の壁面を、40℃乃至120℃の間の温度に維持することができる。これにより、処理室1の内部壁面にフッ化水素等のガスの粒子や生成物が吸着することを防ぐことができ、チャンバー内部の腐食を抑制することが可能となる。
【0108】
[エッチングプロセス]
図9に示すエッチング処理装置900を用いて、実施例1と同じ工程のウエハ2のエッチング処理を行った。エッチング処理装置900はICPプラズマのプラズマ源902を搭載していることから、ウエハ2のエッチング処理の工程の開始前に、放電室内に酸素を導入して酸素プラズマを形成し、酸素プラズマで形成された荷電粒子や反応性を有した粒子により処理室1または放電室の内部の壁面のクリーニングを行った。
【0109】
このクリーニング工程の条件としては、酸素(O)の供給量は1000sccm、放電室または処理室1内部の圧力として50Paで、ICPコイルに供給される高周波電力が1500Wの条件で、当該クリーニングのためのプラズマの形成を300秒間行った。この工程によって、内部の異物などを減少させることができた。
【0110】
また、エッチング処理のステップS103の工程の条件として、冷媒の設定される温度を-40℃として、プラズマを用いないでフッ化水素ガスを放電室を介して処理室内に導入して、ウエハ2上に予め形成された酸化シリコン膜のおよび窒化シリコン膜の単層膜の各々をエッチングした。ここで、これらのエッチングの際に用いたガスは、フッ化水素600sccmとAr100sccmとを混合した混合ガスが用いられた。エッチング処理中の処理室1内の圧力は300Paに維持され、120秒間のエッチングを行った。
【0111】
さらに、エッチング処理の工程終了後に処理室1内を30秒間排気した後、ウエハ2を処理室1外部に搬出し、酸化シリコン膜および窒化シリコン膜各々の膜厚とエッチングレートとを検出した。その結果、酸化シリコン膜のエッチングレートは36nm/minであった。これに対して、窒化シリコン膜のエッチングレートは、0.9nm/minであり、窒化シリコン膜に対する酸化シリコン膜のエッチングの選択比は40となった。
【0112】
さらに、図3(a)に示す酸化シリコン膜103と窒化シリコン膜102とが積層された膜構造を、図2に示したエッチング処理の工程を用いてエッチング処理した。この際のステップS103の工程の時間は60秒とした。ここでは、エッチング後に加熱を行わなかったが、加工表面に目立った残渣等は見られず、きれいであった。その結果、図3(b)のように矩形に近い形状で、選択的に酸化シリコン膜がエッチングできることがわかった。
【0113】
さらに、別の処理の条件として、冷媒の設定温度を-45℃として、ウエハ2上の酸化シリコン膜および窒化シリコン膜の単層膜の各々のエッチングを行った。ここでエッチングの際に用いたガスは、フッ化水素500sccmとN100sccmを混合した混合ガスが用いられた。処理中の処理室1内の圧力は300Paで、60秒間のエッチングを行った。
【0114】
また、エッチング後に30秒間排気した後にIRランプユニット59を用いてウエハ2を50秒間加熱した。この際のウエハ2の温度は約250℃が最高であった。その後、ウエハ2の冷却を120秒間行った。さらに、上記と同じ条件で、フッ化水素ガス及びNを供給してエッチング処理の工程及びIRランプユニット59によるウエハ2の加熱の工程を再度繰り返した。
【0115】
この後、ウエハ2を処理室1外に搬出し各膜層の膜厚とエッチングレートとを検出した。その結果、酸化シリコン膜のエッチングレートは32nm/minであった。これに対して、窒化シリコン膜のエッチングレートは0.5nm/minであり、窒化シリコン膜に対する酸化シリコン膜のエッチングの選択比は64となった。
【0116】
さらに、同じ条件を用いて、図3(a)に示す酸化シリコン膜103と窒化シリコン膜102との積層膜を備える膜構造を、図2に示すエッチング処理の工程を用いてエッチングした。この結果、図3(b)のように、各膜層の端部は矩形に近い形状となり選択的に酸化シリコン膜103がエッチングされていることが判った。また、エッチング処理のステップの後にウエハ2の加熱を行ったことやエッチングのステップを2回繰り返したことで、膜構造の加工表面に残渣等は見られず付着物の低減が見られた。
【符号の説明】
【0117】
1・・・処理室、
2・・・ウエハ、
3・・・ウエハステージ、
11・・・ベースチャンバ、
12・・・石英チャンバー、
13・・・放電領域、
14・・・調圧バルブ、
15・・・排気装置、
16・・・真空排気配管、
20・・・ICPコイル、
21・・・高周波電源、
22・・・整合機、
23・・・シャワープレート、
24・・・高ガス分散版、
25・・・天板、
26・・・スリット板、
27・・・流路、
30・・・静電吸着用電極、
31・・・静電吸着用DC電源、
38・・・チラー、
39・・・冷媒の流路、
50・・・マスフローコントローラ、
51・・・ガス分配器、
54・・・バルブ、
55・・・Heガス、
59・・・IRランプユニット、
60-1,60-2,60-3・・・ランプ、
61・・・反射板、
64・・・ランプ用電源、
70・・・熱電対、
71・・・熱電対温度計、
72・・・透過窓、
73・・・ランプ用電源、
74・・・高周波カットフィルタ、
101・・・基板、
102・・・窒化シリコン膜、
103・・・酸化シリコン膜、
104・・・開口部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9