(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138416
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】アンジオテンシン変換酵素阻害剤、医薬組成物、及び食品
(51)【国際特許分類】
A61K 31/455 20060101AFI20220915BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220915BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20220915BHJP
C12N 9/99 20060101ALI20220915BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20220915BHJP
【FI】
A61K31/455
A61P43/00 111
A61P9/12 ZNA
C12N9/99
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038293
(22)【出願日】2021-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】濱田 奈保子
(72)【発明者】
【氏名】永井 宏史
(72)【発明者】
【氏名】藤村 優志
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018MD09
4B018MD75
4B018ME04
4B018MF01
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC19
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA16
4C086MA17
4C086MA22
4C086MA23
4C086MA31
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA43
4C086MA52
4C086MA55
4C086MA60
4C086MA63
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA42
4C086ZC20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】新規のアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、並びに、該ACE阻害剤を含む医薬組成物及び食品を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有する、アンジオテンシン変換酵素阻害剤。
式中、R
1は、H、C1~5のアルキル基、又はC1~5のハロアルキル基;R
2は、H、C1~5のアルキル基、C1~5のハロアルキル基、又はC1~5のアルコキシ基;Xは、単結合、又は2価の連結基;nは、1~4の整数を表す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有する、アンジオテンシン変換酵素阻害剤。
【化1】
[一般式(1)及び一般式(2)中、R
1は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のハロアルキル基を表す。R
2は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のハロアルキル基、又は炭素数1~5のアルコキシ基を表す。Xは、単結合、又は2価の連結基を表す。nは、1~4の整数を表す。]
【請求項2】
下記一般式(1-1-1)若しくは下記一般式(1-2-1)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有する、請求項1に記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤。
【化2】
[一般式(1-1-1)及び一般式(1-2-1)中、R
1は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のハロアルキル基を表す。]
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤を含む、医薬組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤を含む、食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、医薬組成物、及び食品に関する。
【背景技術】
【0002】
アンジオテンシン変換酵素(以下、ACEともいう。)は、血圧を上昇させる因子である。ACEの作用を阻害することにより、血圧阻害効果が期待されている。
【0003】
ACE阻害剤として、ペプチドやテロペノイドが提案されている(特許文献1~2参照。)。また、本発明者らは、アワビの肝の発酵物がACE阻害活性を有することを見出している(特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-94271号公報
【特許文献2】特開2019-150046号公報
【特許文献3】特開2019-180266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
優れた薬効等の観点から、新たな作用機序に基づく、ACE阻害剤が求められている。そこで本発明は、新規のACE阻害剤、並びに、新規のACE阻害剤を含む、医薬組成物、及び食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、アワビ内蔵粉末発酵物からの水抽出物に含まれるACE阻害活性成分として、ホマリンを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]下記一般式(1)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有する、アンジオテンシン変換酵素阻害剤。
【0007】
【0008】
[一般式(1)中、R1は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のハロアルキル基を表す。R2は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のハロアルキル基、又は炭素数1~5のアルコキシ基を表す。Xは、単結合、又は2価の連結基を表す。nは、1~4の整数を表す。]
[2]下記一般式(1-1-1)若しくは下記一般式(1-2-1)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有する、[1]に記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤。
【0009】
【0010】
[一般式(1-1-1)及び一般式(1-2-1)中、R1は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のハロアルキル基を表す。]
[3][1]又は[2]に記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤を含む、医薬組成物。
[4][1]又は[2]に記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤を含む、食品。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、新規のACE阻害剤、並びに、新規のACE阻害剤を含む、医薬組成物、及び食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】精製物のESI-MSポジティブイオンモードにおけるスペクトルである。
【
図3】各濃度のホマリンにおけるACEのラインウィーバー・バークプロットを示すグラフである。
【
図4】ホマリン各濃度のグラフの傾きをプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[アンジオテンシン変換酵素阻害剤]
1実施形態において、本発明は、下記一般式(1)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有する、アンジオテンシン変換酵素阻害剤を提供する。
【0014】
【0015】
[一般式(1)中、R1は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のハロアルキル基を表す。R2は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のハロアルキル基、又は炭素数1~5のアルコキシ基を表す。Xは、単結合、又は2価の連結基を表す。nは、1~4の整数を表す。]
【0016】
R1及びR2における、炭素数1~5のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等が挙げられる。
【0017】
R1及びR2における、炭素数1~5のハロアルキル基としては、フッ化アルキル基、塩化アルキル基、臭化アルキル基が挙げられ、R1及びR2において上述したアルキル基から、少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子に置き換えられたものが挙げられる。
【0018】
R2における炭素数1~5のアルコキシ基としては、-ORのRの部分が、R2において上述した炭素数1~5のアルキル基と同様のものが挙げられる。
【0019】
Xにおける2価の連結基としては、アルキレン基、-O-、-C(=O)-、-NH-、-S-、-S(=O)2-、又はこれらの組み合わせが挙げられ、アルキレン基が好ましい。アルキレン基としては、上記R1における、炭素数1~5のアルキル基から1個の水素原子を除いた基が好ましい。炭素数1~5のアルキル基としては、R1及びR2において上述したものと同様のものが挙げられる。
【0020】
本実施形態のアンジオテンシン変換酵素阻害剤としては、下記一般式(1-1)若しくは一般式(1-2)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有することが好ましい。
【0021】
【0022】
[一般式(1-1)又は一般式(1-2)中、R1は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のハロアルキル基を表す。R2は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のハロアルキル基、又は炭素数1~5のアルコキシ基を表す。Xは、単結合、又は2価の連結基を表す。nは、1~4の整数を表す。]
【0023】
上述した中でも、Xとしては、単結合が好ましく、nは1が好ましく、R2は水素原子が好ましい。即ち、本実施形態のアンジオテンシン変換酵素阻害剤としては、下記一般式(1-1-1)若しくは一般式(1-2-1)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有することが、特に好ましい。
【0024】
【0025】
[一般式(1-1-1)又は一般式(1-2-1)中、R1は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のハロアルキル基を表す。]
【0026】
上述した中でも、R1は炭素数1~5のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。即ち、本実施形態のアンジオテンシン変換酵素阻害剤としては、下記式(1-1-1-1)又は式(1-2-1-1)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有することが、特に好ましい。
【0027】
【0028】
また、1実施形態において、本発明は、下記一般式(2)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有する、アンジオテンシン変換酵素阻害剤を提供する。
【0029】
【0030】
[一般式(2)中、R1は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のハロアルキル基を表す。R2は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のハロアルキル基、又は炭素数1~5のアルコキシ基を表す。Xは、単結合、又は2価の連結基を表す。nは、1~4の整数を表す。]
【0031】
R1及びR2における、炭素数1~5のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等が挙げられる。
【0032】
R1及びR2における、炭素数1~5のハロアルキル基としては、フッ化アルキル基、塩化アルキル基、臭化アルキル基が挙げられ、R1及びR2において上述したアルキル基から、少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子に置き換えられたものが挙げられる。
【0033】
R2における炭素数1~5のアルコキシ基としては、-ORのRの部分が、R1において上述した炭素数1~5のアルキル基と同様のものが挙げられる。
【0034】
Xにおける2価の連結基としては、アルキレン基、-O-、-C(=O)-、-NH-、-S-、-S(=O)2-、又はこれらの組み合わせが挙げられ、アルキレン基が好ましい。アルキレン基としては、上記R1における、炭素数1~5のアルキル基から1個の水素原子を除いた基が好ましい。炭素数1~5のアルキル基としては、R1及びR2において上述したものと同様のものが挙げられる。
【0035】
上述した中でも、Xとしては、単結合が好ましく、nは1が好ましく、R1は炭素数1~5のアルキル基が好ましく、R2は水素原子が好ましい。
【0036】
本実施形態のアンジオテンシン変換酵素阻害剤としては、下記一般式(2-1)若しくは一般式(2-2)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有することが好ましい。
【0037】
【0038】
[一般式(2-1)又は一般式(2-2)中、R1は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のハロアルキル基を表す。R2は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のハロアルキル基、又は炭素数1~5のアルコキシ基を表す。Xは、単結合、又は2価の連結基を表す。nは、1~4の整数を表す。]
【0039】
上述した中でも、Xとしては、単結合が好ましく、nは1が好ましく、R2は水素原子が好ましい。即ち、本実施形態のアンジオテンシン変換酵素阻害剤としては、下記一般式(2-1-1)若しくは一般式(2-2-1)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有することが、特に好ましい。
【0040】
【0041】
[一般式(2-1-1)又は一般式(2-2-1)中、R1は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のハロアルキル基を表す。]
【0042】
上述した中でも、R1は炭素数1~5のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。即ち、本実施形態のアンジオテンシン変換酵素阻害剤としては、下記式(2-1-1-1)又は式(2-2-1-1)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有することが、特に好ましい。
【0043】
【0044】
本発明のアンジオテンシン変換酵素阻害剤としては、上記化合物をフリー体の形態で用いてもよく、薬学的に許容される塩の形態で用いてもよい。また、フリー体の溶媒和物の形態で用いてもよく、塩の溶媒和物の形態で用いてもよい。
【0045】
塩としては、薬学的に許容される塩であれば特に制限されず、例えば、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、燐酸塩、硝酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、酢酸塩、プロパン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、グルタル酸塩、アジピン酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、フマール酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩等が挙げられる。溶媒和物としては、薬学的に許容される溶媒和物であれば特に制限されず、例えば、水和物、有機溶媒和物等が挙げられる。
【0046】
本発明のアンジオテンシン変換酵素阻害剤は、血圧上昇抑制剤として用いることができる。
【0047】
[医薬組成物]
1実施形態において、本発明は、上記のアンジオテンシン変換酵素阻害剤、及び薬学的に許容される担体を含有する、医薬組成物を提供する。
【0048】
本実施形態の医薬組成物は、例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の形態で経口的に、あるいは、注射剤、坐剤、皮膚外用剤等の形態で非経口的に投与することができる。
【0049】
薬学的に許容される担体としては、通常医薬組成物の製剤に用いられるものを特に制限なく用いることができる。より具体的には、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴム等の結合剤;デンプン、結晶性セルロース等の賦形剤;アルギン酸等の膨化剤;水、エタノール、グリセリン等の注射剤用溶剤;ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等の粘着剤等が挙げられる。薬学的に許容される担体は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0050】
本実施形態の医薬組成物は、更に添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤;ショ糖、乳糖、サッカリン、マルチトール等の甘味剤;ペパーミント、アカモノ油等の香味剤;ベンジルアルコール、フェノール等の安定剤;リン酸塩、酢酸ナトリウム等の緩衝剤;安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の溶解補助剤;酸化防止剤;防腐剤等が挙げられる。
添加剤は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0051】
本実施形態の医薬組成物は、血圧上昇抑制効果を有することから、高血圧に関連する疾患、例えば、動脈硬化症;ラグナ梗塞、アテローム血栓性梗塞、脳塞栓等の脳梗塞;脳出血;くも膜下出血;心肥大;狭心症;心筋梗塞;腎障害等の治療又は予防に好適に用いられる。
【0052】
(投与方法)
アンジオテンシン変換酵素阻害剤、又は医薬組成物の投与方法は特に限定されず、患者の症状、体重、年齢、性別等に応じて適宜決定すればよい。例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等は経口投与される。また、注射剤は、単独で、又はブドウ糖、アミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じて、動脈内、筋肉内、皮内、皮下又は腹腔内投与される。坐剤は直腸内投与される。皮膚外用剤は、患部に塗布、貼付又はスプレーされる。
【0053】
(投与量)
アンジオテンシン変換酵素阻害剤、又は医薬組成物の投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり、一概には決定できないが、経口投与の場合には、例えば1日あたり1μg~10g、例えば1日あたり0.01~2000mgの有効成分を投与すればよい。また、注射剤の場合には、例えば1日あたり0.1μg~1g、例えば1日あたり0.001~200mgの有効成分を投与すればよい。また、坐剤の場合には、例えば1日あたり1μg~10g、例えば1日あたり0.01~2000mgの有効成分を投与すればよい。
【0054】
[その他の実施形態]
一実施形態において、本発明は、血圧上昇抑制のための、前記一般式(1)又は(2)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はそれらの溶媒和物を提供する。
【0055】
一実施形態において、本発明は、一般式(1)又は(2)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はそれらの溶媒和物の有効量を、予防又は治療を必要とする患者に投与することを含む、血圧上昇抑制方法を提供する。
【0056】
一実施形態において、本発明は血圧上昇抑制剤又血圧上昇を抑制する組成物を製造するための前記一般式(1)又は(2)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はそれらの溶媒和物の使用を提供する。
【0057】
[食品]
本発明の食品は、本発明のアンジオテンシン変換酵素阻害剤を含む。食品としては、キャンディー、ゼリー等の菓子類;かまぼこ、ソーセージ等の練り製品;チーズ、バター等の乳製品;オレンジ、グレープ等の果汁飲料、ヨーグルト飲料等の飲料食品が挙げられる。これら食品は、機能性食品、特定保健用食品、美容健康食品、栄養補助食品等とすることができる。
【実施例0058】
以下、実験例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0059】
[Lactobacillus casei発酵アワビ内臓サンプルの作製]
L. casei 001を,ILS培地を用いて37℃で1日静置培養した。
アワビ内臓を凍結乾燥後、家庭用ミキサーで粉砕して、粉末状にした凍結乾燥物をアワビ内臓粉末とした。培養には、500 mlの三角フラスコを用いた。33mMリン酸バッファー(pH 5.0)100 mlに、アワビ内臓粉末2g、グルコース2gを加え、1 M NaOHでpH 6.8に調整後、加圧加熱滅菌(121℃、15分)を行った。
その後、L. casei 001の前培養液を、本培養培地の1%植菌し、37℃で1日静置培養した。これを発酵物とし、菌未接種のアワビ内臓培地を未発酵物とした。
【0060】
[L. casei 001発酵アワビ内臓におけるACE阻害物質の同定]
発酵物および未発酵物に蒸留水を加えた後、ウォーターバスを用いて50℃、1時間、125回/分で振盪を行い抽出した。抽出を行った培養液は、遠心分離(12000 rpm, 10分)して、その上清を回収した。この作業を、上清の色が透明になるまで行い、得られた上清は減圧乾固して試料とした。
【0061】
この試料から限外ろ過又は液体クロマトグラフィーにより精製した物質を用いて質量分析を行った(
図1参照。)。係る物質は、分子式がC
7H
7NO
2であることが明らかとなった。
【0062】
更に、核磁気共鳴(NMR)解析を用いて、この物質の構造特定を行った。
1H-NMR1次元解析のスペクトルにおいて、精製物質のプロトンはδ 4.31にシングレット、および、7.89-8.65 ppmにダブレットとトリプレットがそれぞれ2本ずつ現れた(
図2参照。)。これは、芳香環の2置換体で、置換基の位置がo(オルト)である物質に特有のピークであり、また、N-CH
3の存在を示している。これらをもとに各データから、精製物質はホマリンであることが決定した。
【0063】
[ホマリンのACE阻害活性測定]
ホマリンのACE阻害活性を測定した。
ACE阻害活性は、ACE Kit-WST(同仁化学研究所)を用いて測定した。96 well plateに、サンプル及びEnzyme working solution、Substrate bufferを、それぞれ10 μLずつ入れて混合後、37℃で1時間、プレインキュベートした。次に、Indicator working solutionを100 μLずつ添加してプレートミキサーにて撹拌した。室温で10分インキュベート後、454 nmにおける吸光度を測定した。コントロールにはサンプルの代わりに蒸留水を用いた。また、ブランクにはEnzyme working solutionの代わりに蒸留水を用いた。
阻害率は次の式により算出した。
【0064】
ACE阻害率(%)=[(コントロール-コントロールブランク)-(サンプル-サンプルブランク)]×100/(コントロール-コントロールブランク)
【0065】
ホマリン、および、既知のACE阻害物質のIC50値を表1に示した。
ホマリンのIC50値は532μL/mLで、マイタケ由来のトリペプチドやD-マンニトールと比較すると強い活性を示した。
【0066】
【0067】
[ホマリンの阻害様式の決定]
ACE阻害活性を測定し、生成物であるHis-Leuの量を推定することで阻害様式を決定した。蒸留水、及び、ホマリンを0.776mM、2.17mMに調製してwellに50μLずつ分注した。続いて、10 mU/mLのACE溶液を100μLずつ添加し、プレートミキサーで混合後、37℃で10分プレインキュベートした。その後、2.5、5、12.5、25mMのHip-His-Leuを25μLずつ添加して、37℃で40分インキュベートした。インキュベートした後、1N NaOHを50μLずつ分注して反応停止し、0.2%オルトフタルアルデヒド溶液を10μL添加して、遮光条件下にて室温で15分反応させた。その後、3.6 Mリン酸水溶液を15μLずつ添加し、励起波長360nm、蛍光波長460nmで蛍光強度を測定した。スタンダードには段階希釈したHis-Leuを用いて検量線を作成して傾きと切片を算出し、これらの値を用いて測定で得られた蛍光強度から生成されたHis-Leuの量を推定した。その後、ホマリンの濃度によるACE活性の動態をラインウィーバー・バークプロットにより決定した。
動態パラメーター(the kinetic parameters)、最大反応速度(maximum initial velocity)Vmax、ミカエリスメンテン係数(Michaelis-Menten constant)Kmを算出し、その傾きから阻害定数(inhibition constant)Kiを求めた。Kiは酵素と阻害剤の親和性の指標であり、低い値であるほど酵素に対する阻害剤の親和性が強いことを示す。
【0068】
蒸留水、及び、0.776mM、2.17mMのホマリンにおけるACEのラインウィーバー・バークプロットを
図3に示した。
蒸留水、ホマリン濃度0.776mM、2.17mMのVmaxの値は、それぞれ73.9μM/分、60.3μM/分、41.2μM/分であり、濃度依存的であった。
また、Kmはそれぞれ、12.9 mM、11.5 mM、10.2 mMであり、濃度依存的であったものの近い値であった。
図3中の3直線は第3象限にて交わるが、その交点はx軸に非常に近いことから、ホマリンの阻害様式は非競合阻害に近いことが示唆された。蒸留水、ホマリン濃度0.776mM、2.17mMのグラフの傾きをプロットし、x軸との交点からKiを算出した結果、5.00 mMであった(
図4)。
このことは、ホマリンがACEのアロステリック部位と何らかの結合をして、活性部位に対するアンジオテンシンIの親和性を低下させること、及び、ACE-アンジオテンシンI複合体に結合してACE-アンジオテンシンI-ホマリン複合体を形成することでアンジオテンシンIIの生成を阻害することを示唆している。
以上より、ホマリンは新規のACE阻害剤となり得ることが示された。