(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138418
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】折り込み用可塑性油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20220915BHJP
A21D 2/14 20060101ALI20220915BHJP
A21D 13/10 20170101ALI20220915BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A21D2/14
A21D13/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038295
(22)【出願日】2021-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小笠 勇馬
(72)【発明者】
【氏名】塩田 野依
(72)【発明者】
【氏名】野口 修
(72)【発明者】
【氏名】櫻田 美穂
(72)【発明者】
【氏名】西岡 裕子
(72)【発明者】
【氏名】▲羽▼染 芳宗
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC01
4B026DC06
4B026DH01
4B026DH10
4B026DK10
4B026DX02
4B032DB16
4B032DB17
4B032DK18
(57)【要約】
【課題】良好な口どけとジューシー感を有する層状ベーカリー食品を製造するための、折り込み用可塑性油脂組成物を提供することである。
【解決手段】以下の条件(a)から(f)までを満たす油脂を含有する、折り込み用可塑性油脂組成物。
(a)SSSの含有量が0~6質量%である
(b)S2Uの含有量が5~20質量%である
(c)SU2の含有量が5~20質量%である
(d)UUU含有量が0~15質量%である
(e)LaTGの含有量が40~60質量%である
(f)構成脂肪酸全量に占めるP含有量に対するSt含有量の質量比(St/P)が0.05~0.4である
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の条件(a)から(f)までを満たす油脂を含有する、折り込み用可塑性油脂組成物。
(a)SSSの含有量が0~6質量%である
(b)S2Uの含有量が5~20質量%である
(c)SU2の含有量が5~20質量%である
(d)UUU含有量が0~15質量%である
(e)LaTGの含有量が40~60質量%である
(f)構成脂肪酸全量に占めるP含有量に対するSt含有量の質量比(St/P)が0.05~0.4である
ただし、S、U、La、P、St、S2U、SU2、UUUおよびLaTGは、以下を意味する。
S:炭素数16~24の飽和脂肪酸
U:炭素数16~24の不飽和脂肪酸
La:ラウリン酸
P:パルミチン酸
St:ステアリン酸
SSS:グリセロール1分子に3分子のSが結合したトリアシルグリセロール
S2U:グリセロール1分子に2分子のSと1分子のUが結合したトリアシルグリセロール
SU2:グリセロール1分子に1分子のSと2分子のUが結合したトリアシルグリセロール
UUU:グリセロール1分子に3分子のUが結合したトリアシルグリセロール
LaTG:グリセロール1分子に少なくとも1分子のLaが結合したトリアシルグリセロール
【請求項2】
飽和脂肪酸のみを構成脂肪酸とする乳化剤の含有量が0~0.3質量%である、請求項1に記載の折り込み用可塑性油脂組成物。
【請求項3】
前記油脂に含まれる、エステル交換油脂の含有量が70~100質量%である、請求項1または2に記載の折り込み用可塑性油脂組成物。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか1項に記載の折り込み用可塑性油脂組成物が折り込まれた状態にある、ベーカリー生地。
【請求項5】
請求項4に記載のベーカリー生地が焼成された状態にある、層状ベーカリー食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状ベーカリー食品の製造に適した可塑性油脂組成物、特に、ジューシー感を有する層状ベーカリー食品の製造に適した可塑性油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
パイ、クロワッサン、およびデニッシュなどの、生地が層状を成して焼き上がる層状ベーカリー食品は、さくっとした食感が心地よく、人気のあるベーカリー食品である。層状ベーカリー食品の生地の調製は、油脂を包み込んだ穀粉生地を、伸展して折りたたむ作業を繰り返す。これらの作業において、生地の温度管理は重要である。特に、SFC(固体脂含有量)が縦型の油脂が折り込まれた口どけのよい層状ベーカリー食品の生地は、温度変化による油脂の硬さの変化が大きいので、扱い難い。そこで、層状ベーカリー食品の折り込みに使用される油脂は、比較的横型のSFCを有する。横型のSFCを有する油脂が使用された層状ベーカリー食品は、焼き立ては、さくっとした食感を有し、口どけの違いはあまり分からない。しかし、横型のSFCを有する油脂が使用された層状ベーカリー食品は、経時的にさっくりとした食感が失われると、もともと口どけが良くないので、おいしくない。
【0003】
上記課題に対して、特開2002-306065号公報は、油相中にSLOSL(SL:パルミチン酸残基又はステアリン酸残基或いはアラキン酸残基、O:オレイン酸残基)で表わされるトリアシルグリセリンを35重量%以上含むことを特徴とする水中油型乳化ロールイン用油脂組成物を開示する。しかしながら、水中油型乳化物は、温度変化による伸展性の変化は少ないが、焼成時の生地浮きがよくない。また、特開2007-60912号公報は、シート状油中水型乳化油脂組成物全体中、カカオバター代用脂10~50重量%、ラウリン系油脂5~20重量%を含有し、且つ硬化油及びエステル交換油を一切使用しないことを特徴とするシート状油中水型乳化油脂組成物を開示する。しかしながら、当該シート状油中水型乳化油脂組成物は、加圧晶析により製造されるので、耐圧仕様の製造装置が必要とされる上、生産効率が悪い。また、縦型の油脂を使用すると、液状油脂の配合量が少なくなるので、良好な口どけと相反し、ジューシー感の乏しい層状ベーカリー食品になりがちである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-306065号公報
【特許文献2】特開2007-60912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、良好な口どけとジューシー感を有する層状ベーカリー食品を製造するための、折り込み用可塑性油脂組成物の開発が待たれていた。
【0006】
本発明の課題は、良好な口どけとジューシー感を有する層状ベーカリー食品を製造するための、折り込み用可塑性油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂が、特定のトリアシルグリセロールの構成を有することにより、本課題が解決できることが見いだされた。これにより、本発明が完成するに至った。すなわち、本発明は以下の態様であり得る。
【0008】
[1]以下の条件(a)から(f)までを満たす油脂を含有する、折り込み用可塑性油脂組成物。
(a)SSSの含有量が0~6質量%である
(b)S2Uの含有量が5~20質量%である
(c)SU2の含有量が5~20質量%である
(d)UUU含有量が0~15質量%である
(e)LaTGの含有量が40~60質量%である
(f)構成脂肪酸全量に占めるP含有量に対するSt含有量の質量比(St/P)が0.05~0.4である
ただし、S、U、La、P、St、S2U、SU2、UUUおよびLaTGは、以下を意味する。
S:炭素数16~24の飽和脂肪酸
U:炭素数16~24の不飽和脂肪酸
La:ラウリン酸
P:パルミチン酸
St:ステアリン酸
SSS:グリセロール1分子に3分子のSが結合したトリアシルグリセロール
S2U:グリセロール1分子に2分子のSと1分子のUが結合したトリアシルグリセロール
SU2:グリセロール1分子に1分子のSと2分子のUが結合したトリアシルグリセロール
UUU:グリセロール1分子に3分子のUが結合したトリアシルグリセロール
LaTG:グリセロール1分子に少なくとも1分子のLaが結合したトリアシルグリセロール
[2]飽和脂肪酸のみを構成脂肪酸とする乳化剤の含有量が0~0.3質量%である、[1]の折り込み用可塑性油脂組成物。
[3]前記油脂に含まれる、エステル交換油脂の含有量が70~100質量%である、[1]または[2]の折り込み用可塑性油脂組成物。
[4][1]から[3]までの何れか1つの折り込み用可塑性油脂組成物が折り込まれた状態にある、ベーカリー生地。
[5][4]のベーカリー生地が焼成された状態にある、層状ベーカリー食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、良好な口どけとジューシー感を有する層状ベーカリー食品を製造するための、折り込み用可塑性油脂組成物を提供する。また、本発明は、当該折り込み用可塑性油脂組成物を使用したベーカリー生地を提供する。また、本発明は、当該ベーカリー生地を使用した、良好な口どけとジューシー感を有する層状ベーカリー食品を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の折り込み用可塑性油脂組成物について順を追って記述する。なお、本発明において、A(数値)~B(数値)は、A以上B以下を意味する。なお、以下で例示する好ましい態様やより好ましい態様などは、「好ましい」や「より好ましい」などの表現にかかわらず適宜相互に組み合わせて使用することができる。また、数値範囲の記載は例示であって、「好ましい」や「より好ましい」などの表現にかかわらず各範囲の上限と下限並びに実施例の数値とを適宜組み合わせた範囲も好ましく使用することができる。
【0011】
<条件(a)>
本発明の折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂は、SSSを含有する。SSSは、油脂組成物に、ベーカリー生地への折り込み作業時の機械耐性を与える。以下、SおよびSSSは次を意味する。Sは、炭素数16~24の飽和脂肪酸である。SSSは、グリセロール1分子に3分子のSがエステル結合したトリアシルグリセロールである。SSSを構成するSは、同じ飽和脂肪酸であってもよいし、互いに異なる飽和脂肪酸であってもよい。Sは、好ましくは炭素数16~20の飽和脂肪酸であり、より好ましくは炭素数16~18の飽和脂肪酸である。Sは好ましくは直鎖脂肪酸である。Sとしては、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸が挙げられる。SSSは、油脂組成物に好ましい機械耐性を与えるが、油脂組成物に含まれる油脂に占める含有量が高くなると、層状ベーカリー食品のジューシー感が乏しくなる。したがって、折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂に占める、SSSの含有量は、0~6質量%であり、好ましくは2~5質量%であり、より好ましくは3~5質量%である。
【0012】
<条件(b)>
本発明の折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂は、S2Uを含有する。S2UはSFCが縦型のトリアシルグリセロールであり、層状ベーカリー食品の口どけをよくする。以下、UおよびS2Uは、次を意味する。Uは、炭素数16~24の不飽和脂肪酸である。S2Uは、グリセロール1分子に2分子のSと1分子のUがエステル結合したトリアシルグリセロールである。S2Uを構成するSは、同じ飽和脂肪酸であってもよいし、互いに異なる飽和脂肪酸であってもよい。Uは、好ましくは炭素数16~20の不飽和脂肪酸であり、より好ましくは炭素数16~18の不飽和脂肪酸である。Uは、好ましくは直鎖脂肪酸である。Uとしては、例えば、パルミトイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコセン酸などが挙げられる。折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂に占める、S2Uの含有量は5~20質量%であり、好ましくは6~16質量%あり、より好ましくは7~13質量%である。
【0013】
<条件(c)>
本発明の折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂は、SU2を含有する。SU2は、層状ベーカリー食品に好ましいジューシー感を与える。以下、SU2は、次を意味する。SU2は、グリセロール1分子に1分子のSと2分子のUがエステル結合したトリアシルグリセロールである。SU2を構成するUは、同じ不飽和脂肪酸であってもよいし、互いに異なる不飽和脂肪酸であってもよい。折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂に占める、SU2の含有量は、5~20質量%であり、好ましくは6~16質量%であり、より好ましくは7~13質量%である。
【0014】
<条件(d)>
本発明の折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂は、UUUを含有する。UUUは、層状ベーカリー食品に好ましいジューシー感を与える。以下、UUUは、次を意味する。UUUは、グリセロール1分子に3分子のUがエステル結合したトリアシルグリセロールである。UUUを構成するUは、同じ不飽和脂肪酸であってもよいし、互いに異なる不飽和脂肪酸であってもよい。折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂に占める、UUUの含有量は、0~15質量%であり、好ましくは2~10質量%であり、より好ましくは4~9質量%である。
【0015】
<条件(e)>
本発明の折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂は、LaTGを含有する。以下、LaおよびLaTGは、次を意味する。Laはラウリン酸である。LaTGは、構成脂肪酸として少なくとも1分子のLaを有するトリアシルグリセロールである。LaTGはSFCが縦型のトリアシルグリセロールであり、層状ベーカリー食品の口どけをよくする。また、低いSSS含有量を補って、油脂組成物の作業性(ベーカリー生地への折り込み耐性など)を維持する。また、油脂組成物のUUU含有量が少なくても、層状ベーカリー食品のジューシー感を維持する。折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂に占める、LaTGの含有量は、40~60質量%であり、好ましくは43~56質量%であり、より好ましくは46~53質量%である。
【0016】
<条件(f)>
本発明の折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂は、構成脂肪酸全量に占めるP含有量に対するSt含有量の質量比(St/P)が0.05~0.4である。以下、Pはパルミチン酸を意味し、Stはステアリン酸を意味する。St/Pは、好ましくは0.07~0.3であり、より好ましくは0.09~0.22である。折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂の構成脂肪酸におけるSt/P比が上記範囲程度であると、折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂のUUU含有量が少なくても、ジューシー感のある層状ベーカリー食品を得やすい。
【0017】
本発明の一態様によれば、折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂は、また、上記の、S2U、SU2およびLaTGを、合計で、好ましくは55~80質量%含有し、より好ましくは60~75質量%含有する。また、S2UとSU2の合計含有量に対するLaTGの含有量の質量比(LaTG/(S2U+SU2))が、好ましくは1.8~2.8であり、より好ましくは2.1~2.6である。S2U、SU2およびLaTGの合計含有量、および/または、LaTG/(S2U+SU2)が、上記範囲程度であると、油脂組成物を折り込んだ層状ベーカリー食品は、油脂組成物のUUU含有量が少なくても、良好な口どけとジューシー感を有する。
【0018】
本発明の一態様によれば、折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂は、構成脂肪酸の全量に占めるLaの含有量が、好ましくは15~24質量%であり、より好ましくは17~21質量%である。また、構成脂肪酸全量に占めるSの含有量が、好ましくは28~40質量%であり、より好ましくは31~37質量%である。構成脂肪酸全量に占めるベヘン酸(以下、Bとも表す)の含有量は、好ましくは0~0.8質量%であり、より好ましくは0~0.4質量%である。
【0019】
本発明の折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂は、上記(a)、(b)、(c)、(d)、(e)および(f)の条件を満たせば、特に限定されない。食用に適した油脂(食用油脂)が使用できる。食用油脂は、食用に適するように、適宜精製処理されていてもよい。食用油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、ひまわり油、紅花油、胡麻油、綿実油、米油、オリーブ油、落花生油、亜麻仁油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、乳脂など、および、これらの油脂の混合油、これらの油脂または混合油の加工油脂(エステル交換、分別、水素添加などの加工処理が、1または2以上なされた油脂)などを用いることができる。食用油脂は、1種または2種以上を適宜選択して使用してもよい。
【0020】
本発明の一態様によれば、折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂は、上記LaTGを含有するために、LaTGを豊富に含む油脂(40質量%以上、好ましくは50質量%以上のLaTGを含む油脂)を含んでもよい。LaTGを豊富に含む油脂(以下、LaTG油脂とも表す)は、例として、油脂を構成する脂肪酸全量に占めるラウリン酸の含有量が30質量%以上であるラウリン系油脂、すなわち、ヤシ油、パーム核油、およびババス油など、ならびに、それらの加工油脂(硬化、エステル交換および分別のうち1以上の処理がなされたもの)が挙げられる。LaTG油脂は、また、ラウリン系油脂と、油脂を構成する脂肪酸全量のうち90質量%以上が炭素数16以上である非ラウリン系油脂と、を含む混合油脂をエステル交換反応処理したエステル交換油脂であってもよい。当該混合油脂は、ラウリン系油脂と非ラウリン系油脂とを、好ましくは30:70~65:35の質量比で含み、より好ましくは、35:65~57:43の質量比で含み、さらに好ましくは38:62~52:48の質量比で含む。当該混合油脂に含まれるラウリン系油脂は2種類以上であってもよいし、非ラウリン系油脂も2種類以上であってもよい。
【0021】
上記の、ラウリン系油脂と非ラウリン系油脂とを含む混合油脂のエステル交換油脂は、ヨウ素価が30~45であるエステル交換油脂Aであってもよい。エステル交換油脂Aは、単独で用いられてもよいし、ラウリン系油脂と非ラウリン系油脂との混合比率が異なる2種類以上のエステル交換油脂が混合されてヨウ素価30~45に調整されてもよい。エステル交換される混合油脂に含まれる非ラウリン系油脂としては、好ましくはパーム系油脂が用いられる。ここでパーム系油脂は、パーム油、パーム油の分別油、および、それらの加工油脂(硬化、エステル交換および分別のうち1以上の処理がなされたもの)であれば何れでもよい。パーム系油脂としては、具体的には、パーム油の1段分別油であるパームオレインおよびパームステアリン、パームオレインの2段分別油であるパームオレイン(パームスーパーオレイン)およびパームミッドフラクション、パームステアリンの2段分別油であるパームオレイン(ソフトパーム)およびパームステアリン(ハードステアリン)などが例示できる。エステル交換油脂Aは、構成脂肪酸全量に占めるPの含有量に対するStの含有量の比(質量比、St/P)が、好ましくは0.05~0.4であり、より好ましくは0.07~0.3であり、さらに好ましくは0.09~0.22である。エステル交換油脂Aの構成脂肪酸のSt/P比が上記範囲程度であると、折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂のUUU含有量が少なくても、ジューシー感のある層状ベーカリー食品を得やすい。なお、ここで、Stはステアリン酸を意味し、Pはパルミチン酸を意味する。エステル交換油脂Aは、LaTGの他、適量のS2UおよびSU2を含むので、上記条件(a)から(f)の調整が容易である。
【0022】
エステル交換油脂の製造に用いられるエステル交換の方法は、特に制限はない。通常のエステル交換方法を用いることができる。ナトリウムメトキシドなどの合成触媒を使用した化学的エステル交換、及び、リパーゼを触媒とした酵素的エステル交換のうちのどちらの方法を用いても本発明の実施の形態に係るエステル交換油脂を製造することができる。しかし、エステル交換反応は、好ましくは、位置特異性がない全ランダムエステル交換反応か、位置特異性の乏しいエステル交換反応である。
【0023】
本発明の一態様によれば、また、上記LaTG油脂は、ラウリン系油脂と、ラウリン系油脂と非ラウリン系油脂の混合油脂のエステル交換油脂とを、好ましくは、1:99~15:85の質量比で含んでもよく、より好ましくは、3:97~10:90の質量比で含んでもよい。折り込み用可塑性油脂組成物に、LaTG油脂として、ラウリン系油脂と、ラウリン系油脂と非ラウリン系油脂の混合油脂のエステル交換油脂と、が含まれると、口どけの更なる向上が期待できる。LaTG油脂は、上記のように、1種または2種以上が含まれてもよい。本発明の一態様によれば、折り込み用油脂組成物に含まれる油脂に占めるLaTG油脂の含有量は、好ましくは70~100質量%であり、より好ましくは80~100質量%であり、さらに好ましくは90~100質量%であり、ことさらに好ましくは94~100質量%である。
【0024】
<その他>
本発明の一態様によれば、折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂は、乳由来の油脂(バター、乳脂肪ならびにその分別油など)を含有してもよい。油脂組成物に含まれる油脂は、乳由来の油脂を、好ましくは0~20質量%含有し、より好ましくは4~15質量%含有し、さらに好ましくは7~12質量%含有する。乳由来の油脂の含有量が上記範囲程度であると、LaTG含有量が多少低くても、油脂組成物を使用した層状ベーカリー食品の風味やジューシー感が向上する。また、本発明の一態様によれば、折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂は、液状油を含有してもよい。液状油は、上記の非ラウリン系油脂のうち、構成脂肪酸全量に占める不飽和脂肪酸の含有量が70質量%以上の油脂である。液状油としては、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、ひまわり油、紅花油、などが挙げられる。油脂組成物に含まれる油脂に占める、液状油の含有量は、好ましくは0~30質量%であり、より好ましくは0~20質量%であり、さらに好ましくは0~12質量%であり、ことさらに好ましくは0~8質量%である。液状油の含有量が上記範囲程度であると、油脂組成物を使用した層状ベーカリー食品のジューシー感が向上する。
【0025】
<分析方法>
本発明の折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂の、SSS含有量、S2U含有量、SU2含有量、UUU含有量、およびLaTG含有量は、例えば、JAOCS,Vol.70,no.11,1111-1114(1993)に準じて、ガスクロマトグラフィー法で測定できる。また、油脂の構成脂肪酸は、例えば、AOCS Official Method Ce 1f-96に準じて、ガスクロマトグラフィー法で測定できる。
【0026】
<折り込み用可塑性油脂組成物>
本発明の折り込み用可塑性油脂組成物は、通常ベーカリー食品の製造に用いられる油脂組成物に配合される、油脂以外の成分を配合できる。油脂以外の成分としては、例として、水、乳化剤、増粘安定剤、食塩および塩化カリウムなどの塩味剤、アミラーゼ、ヘミセルラーゼなどの酵素、酢酸、乳酸およびグルコン酸などの酸味料、糖類、糖アルコール類、ステビアおよびアスパルテームなどの甘味料、β-カロテン、カラメルおよび紅麹色素などの着色料、トコフェロール、茶抽出物(カテキンなど)およびルチンなどの酸化防止剤、小麦蛋白および大豆蛋白などの植物蛋白、卵、卵加工品、酵素、香料、全脂粉乳、脱脂粉乳および乳清蛋白などの乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類および魚介類などの食品素材もしくは食品添加物が挙げられる。
【0027】
本発明の一態様によれば、折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる、飽和脂肪酸のみを構成脂肪酸とする乳化剤の含有量は、好ましくは0~0.3質量%であり、より好ましくは0.03~0.25質量%であり、さらに好ましくは0.05~0.2質量%である。飽和脂肪酸のみを構成脂肪酸とする乳化剤としては、例えば、グリセリンモノパルミチン酸エステル、グリセリンモノステアリン酸エステル、ポリグリセリンステアリン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ソルビタンステアリン酸エステルなど、が挙げられる。折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる、飽和脂肪酸のみを構成脂肪酸とする乳化剤の含有量が上記範囲程度であると、油脂組成物を使用した層状ベーカリー食品のさらなるジューシー感の向上が期待できる。
【0028】
本発明の一態様によれば、折り込み用可塑性油脂組成物は、例えば、水相を有するマーガリン、ファットスプレッドや、水相を有さないショートニング、などの態様が挙げられる。水相を有する乳化物の場合、好ましくは油中水型乳化物である。しかし、乳化物は、逆相(水中油型乳化物)であっても、また、複合乳化型であってもよい。折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂の含有量は、好ましくは60~100質量%であり、より好ましくは72~96質量%であり、さらに好ましくは78~92質量%である。また、折り込み用可塑性油脂組成物が油中水型乳化物の場合、水の含有量は、好ましくは2~40質量%であり、より好ましくは4~25質量%であり、さらに好ましくは5~20質量%である。
【0029】
本発明の折り込み用可塑性油脂組成物の製造方法は、特に制限されない。公知の折り込み用可塑性油脂組成物の製造条件および製造方法が適用できる。具体的には、油脂組成物は、配合する油溶成分を混合溶解した油相を、必要に応じて、調製した水相と混合乳化した後、冷却し、結晶化させる工程により製造できる。冷却、結晶化の工程では、油脂組成物は、好ましくは冷却可塑化される。冷却条件は、好ましくは-0.5℃/分以上、より好ましくは-5℃/分以上である。この際、冷却は、徐冷却より急冷却の方が好ましい。また、油相の調製後又は混合乳化後、油脂組成物は、好ましくは殺菌処理される。殺菌方法としては、タンクでのバッチ式や、プレート型熱交換機、掻き取り式熱交換機を用いた連続式、が挙げられる。冷却する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンビネーター、パーフェクターなどのマーガリン製造機や、プレート型熱交換機、などが挙げられる。また、冷却する機器としては、開放型のダイアクーラーとコンプレクターとの組み合わせも挙げられる。
【0030】
本発明の一態様によれば、折り込み用可塑性油脂組成物は、好ましくは成形される。折り込み用可塑性油脂組成物は、シート状、ブロック状、円柱状、直方体状など、様々な形状をとり得る。その中でも、形状は好ましくはシート状である。折り込み用可塑性油脂組成物をシート状とした場合の好ましい大きさは、その幅が50~500mm程度、その長さが50~500mm程度、その厚さが3~30mm程度である。
【0031】
本発明の一態様によれば、折り込み用可塑性油脂組成物は、好ましくは、健康上懸念されるトランス脂肪酸(TA)の含有量が低い。油脂組成物のトランス脂肪酸含有量は、好ましくは0~5質量%であり、より好ましくは0~3質量%であり、さらに好ましくは0~1質量%である。
【0032】
<ベーカリー生地>
本発明の一態様によれば、ベーカリー生地は、好ましくは、折り込み用可塑性油脂組成物が穀粉生地の間に層状に折り込まれた、層状ベーカリー食品生地である。層状ベーカリー食品生地としては、デニッシュ生地、クロワッサン生地、パイ生地、などが挙げられる。ベーカリー生地に使用される穀粉は、通常、ベーカリー食品に使用される穀粉でよい。具体例としては、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉等)、大麦粉、米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、そば粉、大豆粉、などが挙げられる。穀粉には、活性グルテン、澱粉および加工澱粉、などを含めてもよい。穀粉は、好ましくは小麦粉を含む。穀粉に占める小麦粉の含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上である。
【0033】
本発明の一態様によれば、ベーカリー生地は、折り込み用可塑性油脂組成物および穀粉以外の食品素材として、例えば、セルロース粉末、ココアパウダーなどの粉類、イースト、イーストフード、酵素、食塩、砂糖、ブドウ糖などの糖類・糖アルコール類、卵(全卵、液卵)、各種卵加工品、脱脂粉乳、牛乳などの乳製品、バターなどの練り込み用油脂、水、豆乳などの水性成分、などを配合できる。
【0034】
<ベーカリー生地の製造方法>
本発明の一態様によれば、ベーカリー生地は、パイ生地、クロワッサン生地、デニッシュ生地などの通常の層状ベーカリー食品生地と同様の製造条件及び製造方法により製造できる。例えば、穀粉生地原料のミキシング、発酵(一次発酵)、分割・丸め、リタード、折り込み、リタード、折り込み、リタード、成形、ホイロ(最終発酵)の工程を経て製造できる。折り込みは、シート状とした折り込み用可塑性油脂組成物を穀粉生地で包み込んで折りたたみ、さらに薄く伸ばしたり折り畳んだりしながら幾多の層を形成する。折り込みは、練りパイのように、チップ状の折り込み用可塑性油脂組成物を生地に練りこみ、薄く伸ばして折りたたんで層を形成してもよい。折り込み、リタードの回数は製品により適宜調整すればよく、パイ生地の場合、発酵工程は省略される。また、ホイロ前もしくホイロ後の生地は冷凍保管してもよい。また、生地以外の部分として、果実、ジャム、クリームなどを包餡、トッピング等してもよい。
【0035】
本発明の一態様によれば、ベーカリー生地は、穀粉生地100質量部に対して折り込み用可塑性油脂組成物が、好ましくは15~70質量部折り込まれ、より好ましくは20~70質量部折り込まれ、さらに好ましくは25~60質量%が折り込まれる。また、ベーカリー生地の折り数(層)は、好ましくは12~144あり、より好ましくは16~48であり、さらに好ましくは16~36である。
【0036】
本発明の一態様によれば、層状ベーカリー食品は、折り込み用可塑性油脂組成物が穀粉生地の間に層状に折り込まれたベーカリー食品生地が、加熱焼成されることにより得られる。ここで加熱焼成は、好ましくはオーブン加熱や直焼である。しかし、揚げる、蒸す、などの加熱調理の態様全般であり得る。オーブン加熱の場合、例えば、190~240℃で5~30分間、加熱焼成すればよい。本発明の折り込み用可塑性油脂組成物が使用された層状ベーカリー食品は、極めて良好な口どけと優れたジュージー感を有し得る。
【実施例0037】
次に実施例により本発明を説明する。しかし、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0038】
〔分析方法〕
油脂の、SSS含有量、S2U含有量、SU2含有量、UUU含有量、およびLaTG含有量は、ガスクロマトグラフィー法(JAOCS,Vol.70,no.11,1111-1114(1993))に準じて測定された。また、油脂の構成脂肪酸は、ガスクロマトグラフィー法(AOCS Official Method Ce 1f-96)に準じて測定された。
【0039】
〔油脂の調製〕
以下の油脂を調製した。油脂は、必要に応じて、食用に適するように精製処理される。
(エステル交換油脂-1):75質量部のパーム油および25質量部のパーム核極度硬化油の混合油が、ナトリウムメチラートを触媒としたランダムエステル交換により、エステル交換された。得られたエステル交換油脂(ヨウ素価39、LaTG含有量38.0質量%、St/P=0.24)をエステル交換油脂-1とした。
(エステル交換油脂-2):63質量部のパーム油、10質量部の菜種油および27質量部のパーム核油の混合油が、ナトリウムメチラートを触媒としたランダムエステル交換により、エステル交換された。得られたエステル交換油脂(ヨウ素価48.8、LaTG含有量39.7質量%、St/P=0.12)をエステル交換油脂-2とした。
(エステル交換油脂-3):44質量部のパームスーパーオレイン、16質量部の菜種極度硬化油および40質量部のパーム核オレインの混合油が、ナトリウムメチラートを触媒としたランダムエステル交換により、エステル交換された。得られたエステル交換油脂(ヨウ素価40、LaTG含有量48.2質量%、St/P=0.95)をエステル交換油脂-3とした。
(エステル交換油脂-4):60質量部のパーム油および40質量部のパーム核油の混合油が、ナトリウムメチラートを触媒としたランダムエステル交換により、エステル交換された。得られたエステル交換油脂(ヨウ素価39、LaTG含有量53.2質量%、St/P=0.12)をエステル交換油脂-4とした。
(エステル交換油脂-5):57質量部のパーム油、3質量部のハイエルシン酸菜種極度硬化油および40質量部のパーム核油の混合油が、ナトリウムメチラートを触媒としたランダムエステル交換により、エステル交換された。得られたエステル交換油脂(ヨウ素価37、LaTG含有量53.1質量%、St/P=0.17、ベヘン酸含有量1.4質量%)をエステル交換油脂-5とした。
(ラウリン系油脂-1):ヤシ極度硬化油(LaTG含有量81.7質量%)をラウリン系油脂-1とした。
(液状油-1):菜種油を液状油-1とした。
(乳由来油脂-1):バターオイルを乳由来油脂-1とした。
【0040】
〔油脂組成物の調製〕
表1、2の配合に従って、油脂1から11を調製した。表3の配合に従って、各油脂を使用した折り込み用可塑性油脂組成物である、シートマーガリン1から11(SM1から11)を、常法に従って製造した。すなわち、油相と水相とをそれぞれ調製し、油相に水相を混合、乳化した。当該乳化物を、急冷混捏し、シート状(縦300mm×横200mm×高さ10mm)に押し出し成形して、SM1から11を製造した。ただし、SM9に配合する乳化剤(蒸留パルミチン酸モノグリセリド)の含有量は0.15質量%とし、元の含有量(0.4質量%)からの不足分(0.25質量%)は、水を補てんした。同様に、SM10に配合する乳化剤(蒸留パルミチン酸モノグリセリド)の含有量を0質量%とした(配合しなかった)。各油脂の配合、トリアシルグリセロール(TAG)および脂肪酸(FA)の分析値を、表1、2に示した。
【0041】
〔油脂組成物の評価〕
SM1から11のそれぞれについて、1860質量部の穀粉(小麦粉)生地に対して、500質量部のシートマーガリンを載せ、穀粉生地でシートマーガリンを包み込んだ。リバースシーターを用いて、3×3×2(18層)の折り込み作業を、リタード、折り込み、折り込み、リタード、折り込み、リタードの順に行った。また、作業は、熟練したパン職人が、室温20℃の環境下で行い、その作業性を以下の基準に従って評価した。折り込み後の生地を、60gに分割した。分割した生地は、32℃で75分間ホイロをとった後、220℃で15分間焼成してクロワッサンを得た。焼成品の口どけ、および、焼成品のジューシー感を、SM2を使用したクロワッサンを対照として、以下の基準に従って評価した。結果を表1、2に示した。
【0042】
〔油脂組成物の評価基準〕
作業性
対照より折り込み易く、非常に良好 ◎
対照より折り込み易く、良好 ○
対照と同程度 △
対照より折り込み難い ×
焼成品の口どけ
焼成1日後の口どけを、ベーカリー食品の評価に精通した5名のパネラーにより、
以下の評価基準に従って、採点した。
対照より口どけが優れ、非常に良好 2点
対照より口どけが優れ、良好 1点
対照と同程度の口どけ 0点
対照より口どけが悪い -1点
焼成品の食感
焼成1日後のジュージー感を、ベーカリー食品の評価に精通した5名のパネラー
により、 以下の評価基準に従って、採点した。
対照よりジューシーであり、非常に良好 2点
対照よりジューシーであり、良好 1点
対照と同程度のジューシー感 0点
対照よりジュージー感がない -1点
パネラーの合計点により、以下の格付けとした。
8点以上 ◎◎
6点以上8点未満 ◎
3点以上6点未満 ○
0点以上3点未満 △
0点未満 ×
【0043】
【0044】
【0045】