(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138514
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】超音波探傷による鋼材中の介在物評価基準の決定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/30 20060101AFI20220915BHJP
【FI】
G01N29/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038432
(22)【出願日】2021-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片山 悟
(72)【発明者】
【氏名】藤松 威史
(72)【発明者】
【氏名】杉本 隼之
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA07
2G047AB01
2G047AC05
2G047AD02
2G047AD08
2G047AD11
2G047BA03
2G047BB04
2G047BB06
2G047BC07
2G047BC18
2G047EA10
2G047GF11
2G047GJ23
(57)【要約】 (修正有)
【課題】効率よくかつ精度よく鋼材中の介在物のサイズが評価されるための、基準を決定する方法の提供。
【解決手段】鋼材中の介在物のサイズを評価する基準を決定する方法は、
(A)鋼材から第一試験片を採取するステップ、
(B)上記第一試験片を超音波探傷試験に供して反射波の強度、と位置情報を測定し、介在物の存在が推測される箇所である検出箇所を特定するステップ、
(C)上記第一試験片から、上記検出箇所を含む第二試験片を採取するステップ、
(D)上記第二試験片を超音波疲労試験に供してこの第二試験片を破断させ、破断面を得るステップ、
(E)上記破断面上の起点部に存在する介在物のサイズを測定するステップ、及び
(F)複数個の上記非金属介在物に対して、上記反射波の強度、位置情報と介在物のサイズとを関連づけるステップ、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)鋼材から第一試験片を採取するステップ、
(B)上記第一試験片を超音波探傷試験に供して反射波の強度、位置情報を測定し、介在物の存在が推測される箇所である検出箇所を特定するステップ、
(C)上記第一試験片から、上記検出箇所を含む第二試験片を採取するステップ、
(D)上記第二試験片を超音波疲労試験に供してこの第二試験片を破断させ、破断面を得るステップ、
(E)上記破断面上の起点部に存在する介在物のサイズを測定するステップ、
及び
(F)複数個の上記非金属介在物に対して、上記反射波の強度、位置情報と介在物のサイズとを関連づけるステップ
を含む、鋼材中の介在物のサイズを評価する基準を決定する方法。
【請求項2】
上記ステップ(B)の上記超音波探傷試験において、周波数が10MHz以上25MHz以下である超音波が上記第一試験片に入射される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記ステップ(B)において、第一試験片の、体積が100,000mm3以上である領域に、超音波探傷試験が施される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
上記ステップ(D)の超音波疲労試験において、応力が550MPa以上である荷重が第二試験片に負荷される、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探傷試験により、鋼材の中に存在する介在物のサイズを評価する基準を決定するための方法に関する。詳細には、本発明は、超音波探傷試験及び超音波疲労試験の組合せにより、基準を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度鋼からなる軸受は、使用中に疲労破壊を起こすことがある。この疲労破壊の原因の1つは、軸受の使用中に転がり疲れと称する疲労を繰り返し受けることにより、鋼中の非金属介在物に応力集中が起こることによる。この非金属介在物は、鋼の製造工程にて不可避的に生成する。介在物周辺への応力集中の影響範囲は、非金属介在物のサイズと相関すると考えられる。したがって、軸受の信頼性を評価する上で、このサイズを把握することは重要である。
【0003】
1993年発行の「金属疲労 微小欠陥と介在物の影響(養賢堂、村上敬宜著)」には、基準体積内の最大介在物径を、検鏡と極値統計法とによって予測する方法が開示されている。
【0004】
特開2009-281738公報には、鋼中の介在物の最大径を予測する方法が開示されている。この方法では、超音波疲労試験による破壊面に存在する介在物の径が実測される。この径の値に基づき極値統計法により、最大径が算出される。
【0005】
特開2020-34292公報にも、超音波疲労試験と極値統計法とによって介在物の最大径を予測する方法が開示されている。この方法では、水素がチャージされた試験片が、超音波疲労試験に供される。水素のチャージは、水素脆化を利用して試験片の破壊を促進する目的で行われる。
【0006】
特開2013-242220公報には、超音波探傷試験によって内部疵の検出がなされる評価方法が開示されている。この方法では、探触子から発せられた超音波が、内部疵で反射する。この反射で生じた反射波が、探触子で感知されることで、内部疵が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-281738公報
【特許文献2】特開2020-34292公報
【特許文献3】特開2013-242220公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】1993年発行の「金属疲労 微小欠陥と介在物の影響(養賢堂、村上敬宜著)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
顕微鏡観察によって観察可能な鋼材の範囲は、極めて狭い。したがって、顕微鏡観察によって体積の大きい鋼材中の介在物を精度よく評価するには、サンプリングと観察とを繰り返すことによって、評価範囲が大幅に増やされなければならない。このような繰り返し作業は、大変な手間がかかり、現実的ではない。
【0010】
超音波疲労試験を利用して介在物径を評価する場合も、得られる疲労破断面の起点部に観察されうる非金属介在物は一つに過ぎない。したがって、超音波疲労試験によって体積の大きい鋼材に含まれる介在物の大きさを精度よく評価するためには、超音波疲労試験と破断面の観察とが繰り返されなければならない。このような評価作業の繰り返しには、手間を要する。
【0011】
一方、超音波探傷試験を利用すれば、短時間でかつ広範囲にわたって、鋼材の検査がなされうる。しかし、超音波探傷試験は非破壊検査であるため、鋼材に含まれる介在物のサイズを精度よく評価することはできないという課題がある。
【0012】
本発明の目的は、超音波探傷試験を利用して、効率よくかつ精度よく鋼材中の介在物のサイズが評価されるための、基準を決定する方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る、鋼材中の介在物のサイズを評価する基準を決定する方法は、
(A)鋼材から第一試験片を採取するステップ、
(B)上記第一試験片を超音波探傷試験に供して反射波の強度、位置情報を測定し、介在物の存在が推測される箇所である検出箇所を特定するステップ、
(C)上記第一試験片から、上記検出箇所を含む第二試験片を採取するステップ、
(D)上記第二試験片を超音波疲労試験に供してこの第二試験片を破断させ、破断面を得るステップ、
(E)上記破断面上の起点部に存在する介在物のサイズを測定するステップ、
及び
(F)上記反射波の強度、位置情報をもとに超音波探傷試験の探傷結果と上記介在物のサイズとを関連づけるステップ
を含む。
【0014】
好ましくは、ステップ(B)の超音波探傷試験において、周波数が10MHz以上25MHz以下である超音波が第一試験片に入射される。
【0015】
好ましくは、ステップ(B)において、第一試験片の、体積が100,000mm3以上である領域に、超音波探傷試験が施される。
【0016】
好ましくは、ステップ(D)の超音波疲労試験において、応力が550MPa以上である荷重が第二試験片に負荷される。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る方法によって決定された基準により、大体積の鋼材評価に適した超音波探傷試験を利用して、効率よくかつ精度よく、鋼材中の介在物のサイズが評価されうる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る決定方法が示されたフローチャートである。
【
図2】
図2は、
図1の決定方法に用いられる第一試験片が示された斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1の決定方法に用いられる第二試験片が示された斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3のIV-IV線に沿った拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0020】
図1に示された決定方法では、まず棒鋼が準備される(STEP1)。棒鋼に代えて、他の形状を有する鋼材が準備されてもよい。棒鋼に代えて、他の材質を有する鋼材が準備されてもよい。
【0021】
この棒鋼から、第一試験片2が採取される(STEP2)。この第一試験片2が、
図2に示されている。この第一試験片2は、円柱形状を有している。ここで示した事例の第一試験片2では、直径は63mmであり、長さは250mmである。この第一試験片2は、棒鋼に切削加工、塑性加工等が施されて得られる。加工に先立ち、素材となる棒鋼等に対して、加工を容易にしたり、超音波探傷時の超音波の減衰を抑えたりするための熱処理が施されてもよい。熱処理としては、たとえば焼ならしであり、焼なましや球状化焼なましであってもよい。これらの熱処理の条件は、検査を行う鋼材の化学成分をもとに決定される。その条件決定の手段として熱力学計算ソフトウェアによる平衡状態図の計算や、予備実験による検証が利用されうるし、既にそれらの条件が文献や資料などで公知の鋼種はそれを利用すればよい。第一試験片2の形状は、円柱には限られない。種々の形状が、第一試験片2に採用されうる。
【0022】
この第一試験片2が、超音波探傷試験に供される(STEP3)。超音波探傷試験のための装置には、超音波探触子が備わる。この探触子から、超音波が発せられる。この超音波は、第一試験片2に入射する。第一試験片2に非金属介在物がある場合、超音波がこの介在物で反射される。この反射で生じた反射波(介在物からのエコー)が探触子で感知されることで、介在物が検出される。反射波(介在物からのエコー)の情報は、記録される(STEP4)。反射波の情報には、非金属介在物の位置情報と、介在物からの反射波の強度情報(エコー高さの情報)とが含まれる。探触子は第一試験片2に対して移動しつつ、超音波を発する。従って、第一試験片2の広範囲にわたって、非金属介在物の検出がなされ、単一もしくは複数の非金属介在物が検出される。検出された単一もしくは複数の非金属介在物についての、反射波の位置情報及び強度情報が、記録される。この情報はまた、用いた超音波探触子で検出可能な大きさの介在物の鋼中での包含頻度に関する情報も与える。
【0023】
超音波探傷試験として、直接接触法及び水浸探傷法が採用されうる。ここでは超音波の安定した送受信が可能であるとの観点から、水浸探傷法が好ましい。超音波探傷試験において探触子から発せられる超音波の周波数は、10MHz以上25MHz以下が好ましい。より望ましくは内部欠陥の検出精度の高い20MHz以上である。第一試験片2の表面からの、超音波探触子の鋼中での焦点深さは、後述のように、第一試験片2に引き続いて第二試験片4を加工し、その試験片中に第一試験片2で検出した内部欠陥を包含させることを鑑みて、鋼材表面から5mm程度もしくはそれ以上とすることが好ましい。
【0024】
超音波探傷試験により、非金属介在物が存在する箇所(検出箇所)が特定される。検出箇所には、マーキングがなされる(STEP5)。マーキングは、第一試験片2の表面に描かれうる。マーキングが、電子的な記録によって達成されてもよい。このマーキングは、第一試験片2のマーキング位置の情報がそれにつづく第二試験片4を加工するための加工装置の加工位置情報として反映可能な場合に利用される。複数の検出箇所が存在する場合、複数のマーキングがなされる。
【0025】
この第一試験片2から、第二試験片4が採取される(STEP6)。この採取では、前述のマーキングが参考にされつつ、第一試験片2が加工される。具体的には、1つの検出箇所が第二試験片4に含まれるように、加工がなされる。1つの第一試験片2から、単一もしくは複数の第二試験片4が採取されうる。加工の手順の具体例として、粗加工、焼入れ焼戻し及び仕上加工が挙げられる。粗加工では、第一試験片2に切削加工等が施される。第二試験片4の焼入焼戻しによる硬さの目安としては、450HV以上を確保することが好ましく、これは硬さが450HVより低いと、水素チャージを行ったとしても、超音波疲労試験により介在物から破断させることができない場合があるためである。より好ましくは500HV以上である。なお、第一試験片2に複数の検出箇所がある場合に、複数の第二試験片4が採取されても良い。
【0026】
超音波疲労試験に供される第二試験片4の一例が、
図3及び4に示されている。第二試験片4は、ダンベル状の形状を有している。第二試験片4は、中央部6と一対の太径部8と、一方の端部の雄ねじ部を有している。雄ねじ部は後述の超音波疲労試験における超音波疲労試験機の超音波ホーンに接続する部分である。中央部6は、ストレート部10と一対のテーパー部12とを有している。
図3、4に例示した第二試験片4の採取において、ストレート部10に検出箇所が含まれるよう、加工がなされる。第二試験片4に、他の形状が採用されてもよい。
【0027】
続いて、この第二試験片4の共振周波数が、確認される(STEP7)。超音波疲労試験機の超音波ホーンに接続された第二試験片4について、共振周波数が基準周波数と対比され、合否が判定される(STEP8)。基準周波数は、後に詳説される超音波疲労試験において第二試験片4に与えられる超音波振動の周波数である。合否判定は、共振周波数と基準周波数との乖離の程度に基づいてなされる。例えば、超音波疲労試験機の基準周波数が、20,000Hzである場合、共振周波数が19,800Hz以上20,200Hz以下である第二試験片4は、合格である。共振周波数が19800Hz未満である第二試験片4、及び共振周波数が20,200Hzを超える第二試験片4は、不合格である。さらに厳格な基準によれば、共振周波数が19,970Hz以上20,030Hz以下である第二試験片4は、合格であるとする。不合格である第二試験片4は、加工によって修正がなされる(STEP9)。典型的な修正は、第二試験片4の長さの変更である。長さの変更により、この第二試験片4の共振周波数が変動する。修正された第二試験片4の共振周波数が、再度確認され(STEP7)、合否が判定される(STEP8)。不合格である第二試験片4が、修正されることなく廃棄されてもよい。
【0028】
合格した第二試験片4に、水素がチャージされる(STEP10)。このチャージにより、第二試験片4に水素脆化が生じうる。水素脆化が生じた第二試験片4は、後に詳説される超音波疲労試験において、小さい応力で、かつ少ない繰り返しサイクル数で破断しうる。水素のチャージは、この超音波疲労試験による破断の容易化と破断の迅速化を目的として行われる。
【0029】
水素のチャージの方法として、
(1)電解液への第二試験片4の浸漬
(2)高圧の水素ガス中への第二試験片4の暴露
及び
(3)電解液中での第二試験片4を陰極とした電気分解
が例示される。水素のチャージに、その他の方法が採用されてもよい。電気分解の場合、例えば、純水に3%の塩化ナトリウムと0.3%のチオシアン酸アンモニウムとが添加された電解液が使用されうる。鋼への水素原子の拡散係数は、温度依存性を有する。従って、室温よりも高い温度の電解液が用いられれば、高効率、すなわちより短時間でチャージがなされうる。十分に大きな非金属介在物が第二試験片4に包含される場合は、破断が容易になるため、チャージ(STEP10)が省略されてもよい。
【0030】
水素のチャージの後の第二試験片4が、超音波疲労試験に供される(STEP11)。チャージ(STEP10)で第二試験片4に導入された水素は、徐々に大気へと放出される。放出により、第二試験片4に含まれる水素の量が、徐々に減少する。ただし、水素のチャージ(STEP10)から短時間で超音波疲労試験(STEP11)が行われれば、十分な水素を含む第二試験片4が、超音波疲労試験に供されうる。したがって、水素脆化が生じる状態での試験を行いうる。
【0031】
超音波疲労試験では、超音波ホーンに接続された第二試験片4に対し、超音波振動による引張荷重及び圧縮荷重が、交互に繰返し負荷される。これらの荷重の作用方向は、第二試験片4の軸方向である。荷重の負荷にともない、第二試験片4に応力が発生する。このとき、好ましくは、550MPa以上の応力が発生するように、第二試験片4に荷重が負荷される。なお、この応力は後述するような第二試験片4の超音波疲労試験中の発熱が抑制されることを前提に、迅速破断を促進するためにさらに高い応力に調整して良い。
【0032】
超音波疲労試験の間、繰り返し応力の負荷に起因した内部摩擦により発熱し、第二試験片4が昇温する。この昇温は、第二試験片4からの水素の放出を助長し、また、試験片の脆性的な破断を阻害し、試験の完遂を妨げる。したがって、昇温は、抑制される必要がある。冷却されたエアーが第二試験片4に吹き付けられることで、昇温は抑制されうる。さらに、超音波振動が第二試験片4に間欠的に入力されることでも、昇温が抑制されうる。摩擦による昇温の程度は試験片の硬さや合金の組成に依存するので、適切な荷重を選択して、負荷することでも摩擦熱を抑制し、昇温を抑制することができる。通常は、エアーの吹き付けと超音波振動の間欠入力と試験荷重の適切な選択のいずれもが行われる。
【0033】
荷重が負荷された第二試験片4では、非金属介在物に応力が集中する。荷重の負荷が繰り返されることにより、第二試験片4の評価体積(
図3に例示された試験片の場合は直径6mmのストレート部の体積を指す)に含まれる最大の非金属介在物から疲労破壊が起こる。この疲労破壊により第二試験片4が破断し、破断面が得られる。通常、破断は荷重方向(第二試験片4の軸方向)に垂直な面で生じる。この破断の起点部を観察することにより、破断の起因となった非金属介在物を観測することができる。非金属介在物が起点部に現れない場合も生じうるが、その場合の試験結果は、以降で行う超音波探傷試験による介在物のサイズ評価の基準決定のためには用いない。
【0034】
この破断面上の起点部に存在する非金属介在物の径が、測定される(STEP12)。この測定は、通常は走査型電子顕微鏡(SEM)によってなされうる。径(サイズ)の測定方法としては、観察断面における介在物の長径と短径を掛け合わせたものの平方根((長径×短径)1/2)として求めても良いし、観察画像の解析により介在物の断面積を算出して、それを円相当径に換算したものであっても良い。また、径の測定以外にも走査型電子顕微鏡に付属させたエネルギー分散型X線分析装置や波長分散型X線分析装置を用いて介在物の化学組成が分析されてもよい。これは、鋼材に含まれる介在物の特徴を示すデータとして活用されうる。
【0035】
複数の第一試験片2から採取された複数の第二試験片4に対する超音波疲労試験(STEP11)を行うことにより、複数の破断面が得られる。これらを観察することにより、複数の非金属介在物の径(サイズ)が測定される。このそれぞれの非金属介在物の径と、超音波探傷試験(STEP3)において記録された介在物からの反射波のそれぞれの強度(エコーの高さ)ならびにそれぞれの位置情報とが、関連づけられる(STEP13)。この関連づけには、種々の統計的手法が用いられる。関連付けにあたり、超音波探触子の距離-振幅特性(超音波探触子の焦点深さならびにその前後の深さにおける大きさの等しい欠陥からの反射波の強度(エコー高さ)の変動特性)を取得しておき、その特性曲線(距離―振幅特性曲線)と非金属介在物の検出深さとを対比して、非金属介在物からの反射波強度の補正を行っておく。この場合、たとえば焦点よりも浅い、あるいは焦点よりも深い位置に非金属介在物が検出された場合は、介在物が焦点深さ付近に位置した場合に比べて反射波強度が低下することとなるため、距離―振幅特性曲線に基づいて、それに見合う反射波強度(エコー高さ)の増加を行う。この要領で非金属介在物の検出深さの補正を行った反射波強度(エコー高さ)と、非金属介在物の径(サイズ)とを関連づける。関連づけの結果は、本発明にいう「鋼材中の介在物のサイズを評価する基準」となる。典型的な基準の求め方は、最小二乗法によって得られた反射波の情報(ただし、前述の反射波強度の補正を行ったもの)と超音波疲労試験により実際に観察された介在物の径(サイズ)との関係性を示す線形近似曲線である。この関係性は、鋼種や、鋼材の熱処理状態に応じて形成された結晶粒径や組織の状態に応じた鋼材中の超音波の伝搬特性によって変化することが考えられる。したがって、評価を行う鋼種やその熱処理条件を定めた上で、それに対して反射波の情報と介在物の径(サイズ)との関係性を取得する必要がある。
【0036】
非金属介在物の検出位置情報を活用して、関連づけの精度を高める観点から、非金属介在物の検出深さにばらつきをもたせることが望ましく、そのためには第一試験片2の評価体積は出来る限り大きいことがよく、したがって、体積が100,000mm3以上である領域に、超音波探傷試験が施されることが好ましい。より好ましくは200,000mm3以上である。
【0037】
以下、「鋼材中の介在物のサイズを評価する基準」が用いられた評価方法が説明される。基準の一例として、前述の線形近似曲線が用いられる。
【0038】
まず、評価の対象である鋼材が準備される。この鋼材が、超音波探傷試験に供される。この超音波探傷試験により、非金属介在物からの反射波強度(エコー高さ)、および非金属介在物の位置情報が得られる。この位置情報に基づき、評価に用いた超音波探触子の距離-振幅特性曲線に基づいて適切に補正がなされた非金属介在物からの反射波強度を、上述の方法により得た線形近似曲線の回帰式に代入することで、この非金属介在物の径(サイズ)が推測される。取得されたサイズ情報、ならびに超音波探傷における非金属介在物の包含頻度の情報により、鋼材の信頼性等が評価されうる。本発明の方法により、検査対象とする鋼に対して超音波探傷結果と介在物のサイズとの関係性をいったん取得すれば、以降は超音波疲労試験を行うことなく、超音波探傷試験による介在物評価の代替が可能となり、超音波疲労試験を都度行う方法に比べて、より効率的に精度の高い鋼材中の介在物に関する評価が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る予測方法は、種々の鋼材に適用されうる。
【符号の説明】
【0040】
2・・・第一試験片
4・・・第二試験片
6・・・中央部
8・・・太径部
10・・・ストレート部
12・・・テーパー部