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特開2022-13858成形体、フィルムまたはシート、熱収縮フィルムまたはシート、包装材、産業用フィルムまたはシート、熱成形容器、カップ状容器、トレイ状容器、ブロー成形容器、燃料容器、ボトル容器、チューブ、多層パイプおよび紙容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022013858
(43)【公開日】2022-01-18
(54)【発明の名称】成形体、フィルムまたはシート、熱収縮フィルムまたはシート、包装材、産業用フィルムまたはシート、熱成形容器、カップ状容器、トレイ状容器、ブロー成形容器、燃料容器、ボトル容器、チューブ、多層パイプおよび紙容器
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20220111BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20220111BHJP
   B32B 1/02 20060101ALI20220111BHJP
   B32B 27/10 20060101ALI20220111BHJP
   B32B 29/00 20060101ALI20220111BHJP
   B29C 51/14 20060101ALI20220111BHJP
   B29C 49/22 20060101ALI20220111BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20220111BHJP
   C08K 5/36 20060101ALI20220111BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
C08J5/18 CEX
B32B27/28 102
B32B1/02
B32B27/10
B32B29/00
B29C51/14
B29C49/22
C08L29/04 S
C08K5/36
B65D65/40 D
【審査請求】有
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107696
(22)【出願日】2021-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2020113325
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】中谷 正和
(72)【発明者】
【氏名】尾下 瑞子
【テーマコード(参考)】
3E086
4F071
4F100
4F208
4J002
【Fターム(参考)】
3E086AA01
3E086AA21
3E086AB01
3E086AD03
3E086AD04
3E086AD05
3E086AD06
3E086BA35
3E086BB01
3E086BB77
3E086CA01
3E086CA15
3E086CA28
3E086CA29
4F071AA29X
4F071AC13
4F071AF08
4F071AH04
4F071AH05
4F071BA01
4F071BB06
4F071BC02
4F071BC12
4F100AK06B
4F100AK69A
4F100AL06A
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100DA01A
4F100DA01B
4F100DG10B
4F100GB16
4F100JA03A
4F100JB16B
4F100JC00A
4F100JD02A
4F100YY00A
4F208AA10
4F208AC03
4F208AG07
4F208AH55
4F208LA09
4F208LB01
4F208LG06
4F208LH06
4F208MA01
4F208MA06
4F208MB01
4F208MC01
4F208MC04
4F208MG04
4F208MH06
4J002BE031
4J002EV046
4J002EV206
4J002GG01
4J002GG02
4J002GM00
(57)【要約】
【課題】バイオマス由来の原料を用いていながら、化石燃料由来のものと遜色のない高いガスバリア性、及び十分なロングラン性を有するガスバリア樹脂組成物から形成されるガスバリア層を備える成形体、並びにこのような成形体を備えるフィルムまたはシート、熱収縮フィルムまたはシート、包装材、産業用フィルムまたはシート、熱成形容器、カップ状容器、トレイ状容器、ブロー成形容器、燃料容器、ボトル容器、チューブ、多層パイプ及び紙容器の提供。
【解決手段】ガスバリア樹脂組成物(α)から形成されるガスバリア層を備え、上記ガスバリア樹脂組成物(α)が、一種又は二種以上のエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物を含み、上記一種又は二種以上のエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物の原料であるエチレン及びビニルエステルの一部がバイオマス由来であり、残部が化石燃料由来である、成形体。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスバリア樹脂組成物(α)から形成されるガスバリア層を備え、
上記ガスバリア樹脂組成物(α)が、一種又は二種以上のエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物を含み、
上記一種又は二種以上のエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物の原料であるエチレン及びビニルエステルの一部がバイオマス由来であり、残部が化石燃料由来である、成形体。
【請求項2】
上記一種又は二種以上のエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物が、
原料であるエチレン及びビニルエステルの少なくとも一部がバイオマス由来であるエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物(A)と、化石燃料由来であるエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物(B)とを含む、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
上記エチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物(A)と上記エチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物(B)との質量比(A/B)が1/99~99/1である、請求項2に記載の成形体。
【請求項4】
上記一種又は二種以上のエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物が、
原料であるエチレン及びビニルエステルの一部がバイオマス由来であり、残部が化石燃料由来であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(A’)を含む、請求項1に記載の成形体。
【請求項5】
上記一種又は二種以上のエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物のバイオベース度が1%以上99%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項6】
ガスバリア樹脂組成物(α)のバイオベース度が1%以上99%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項7】
ガスバリア樹脂組成物(α)が硫黄化合物を硫黄原子換算で0ppmを超えて100ppm以下含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項8】
上記硫黄化合物が、ジメチルスルフィドまたはジメチルスルホキシドである、請求項7に記載の成形体。
【請求項9】
上記一種又は二種以上のエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物の上記原料のうちのエチレンの少なくとも一部がバイオマス由来である、請求項1~8のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項10】
上記一種又は二種以上のエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物の上記原料のうちのビニルエステルの少なくとも一部がバイオマス由来である、請求項1~9のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項11】
上記一種又は二種以上のエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物が、下記一般式(I)で表される変性基を有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の成形体。
【化1】
[式(I)中、Xは、水素原子、メチル基又はR-OHで表される基を表す。R及びRは、それぞれ独立して、単結合、炭素数1~9のアルキレン基又は炭素数1~9のアルキレンオキシ基を表し、上記アルキレン基及び上記アルキレンオキシ基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。]
【請求項12】
熱可塑性樹脂層をさらに備える、請求項1~11のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の成形体を備える、フィルムまたはシート。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1項に記載の成形体を備える、熱収縮フィルムまたはシート。
【請求項15】
請求項13に記載のフィルムもしくはシートまたは請求項14に記載の熱収縮フィルムまたはシートを備える、包装材。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか1項に記載の成形体を備える、産業用フィルムまたはシート。
【請求項17】
請求項1~12のいずれか1項に記載の成形体を備える、熱成形容器。
【請求項18】
請求項17に記載の熱成形容器を備える、カップ状容器。
【請求項19】
請求項17に記載の熱成形容器を備える、トレイ状容器。
【請求項20】
請求項1~12のいずれか1項に記載の成形体を備える、ブロー成形容器。
【請求項21】
請求項20に記載のブロー成形容器を備える、燃料容器。
【請求項22】
請求項20に記載のブロー成形容器を備える、ボトル容器。
【請求項23】
請求項1~12のいずれか1項に記載の成形体を備える、チューブ。
【請求項24】
請求項1~12のいずれか1項に記載の成形体を備える、多層パイプ。
【請求項25】
請求項1~12のいずれか1項に記載の成形体を備える、紙容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体、フィルムまたはシート、熱収縮フィルムまたはシート、包装材、産業用フィルムまたはシート、熱成形容器、カップ状容器、トレイ状容器、ブロー成形容器、燃料容器、ボトル容器、チューブ、多層パイプおよび紙容器に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素等のガスを遮断する性能(ガスバリア性)に優れた樹脂を用いたガスバリア材は、容器、フィルム、シート、パイプ等の各種用途に幅広く使用されている。ガスバリア性に優れた樹脂としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、アクリロニトリル共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物等が知られている。例えば特許文献1には、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、フッ素含有樹脂及びシリコーン樹脂から選ばれる少なくとも一種のガスバリア性樹脂層を有する多層プラスチック容器の発明が記載されている。
【0003】
一方、近年、循環型社会を目指し、カーボンニュートラルなバイオマス由来の原料を用いたバイオプラスチックの需要が高まっている。しかし、バイオマス由来の合成樹脂は、化石燃料由来の合成樹脂と比べて性能が劣る場合があることが知られている。例えば特許文献2には、従来のバイオマス由来のポリオレフィン等のフィルム材は密着性、加工性、耐久性等の品質が十分ではなかったとされ、このような点を改善するための、バイオマス由来の樹脂を含む特定の組成のバイオマス由来樹脂層を備える樹脂フィルムの発明が記載されている。また、特許文献3には、石油由来の樹脂をバイオマス由来の樹脂に置き換えたフィルムは耐衝撃性等が低下する場合があるとされ、このような点を改善するための、バイオマス由来のバイオマスポリエチレンと、化石燃料由来のポリエチレンと、プロピレン系ブロック共重合体樹脂とを含有する中間層を有する積層フィルムの発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-137506号公報
【特許文献2】国際公開第2014/065380号
【特許文献3】国際公開第2018/163835号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガスバリア材の用途においても、バイオマス由来の原料を用いて合成されたガスバリア樹脂の製品化が期待される。しかし、上述のようにバイオマス由来の合成樹脂は、化石燃料由来の合成樹脂と比べて性能が劣る場合があることから、従来の化石燃料由来のガスバリア樹脂をバイオマス由来のガスバリア樹脂に置き換えた場合、最も重要なガスバリア性が低下することが懸念される。このため、化石燃料由来の樹脂と遜色のない優れたガスバリア性を有するバイオマス由来の樹脂の開発が望まれている。
【0006】
また、ガスバリア樹脂は、溶融成形によって容器、シート等の各種形状に成形されることがある。このため、ガスバリア樹脂には、長時間に渡る溶融成形を行い続けても、欠陥等が発生し難いといったロングラン性(長時間運転特性)も重要である。
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、バイオマス由来の原料を用いていながら、化石燃料由来のものと遜色のない高いガスバリア性、及び十分なロングラン性を有するガスバリア樹脂組成物から形成されるガスバリア層を備える成形体、並びにこのような成形体を備えるフィルムまたはシート、熱収縮フィルムまたはシート、包装材、産業用フィルムまたはシート、熱成形容器、カップ状容器、トレイ状容器、ブロー成形容器、燃料容器、ボトル容器、チューブ、多層パイプ及び紙容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ガスバリア樹脂の一種であるエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物においては、バイオマス由来の原料をモノマーとして用いて合成したものが、化石燃料由来の原料をモノマーとして用いて合成された同一構造の従来のものと遜色ない高いガスバリア性を有することを知見した。一方、ロングラン性に関しては、バイオマス由来の原料をモノマーとして用いて合成したエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物は、化石燃料由来の原料をモノマーとして用いて合成したものと比べて劣るという、ガスバリア性とは異なる傾向にあることもわかった。このようなことから、本発明者らは、バイオマス由来の原料と化石燃料由来の原料とが併用されたエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物であれば、環境負荷を低減させながら、化石燃料由来の原料のみを用いたものと同じような高いガスバリア性を発揮でき、かつ十分なロングラン性も兼ね備えるものとなることを見いだし、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち本発明は、
[1]ガスバリア樹脂組成物(α)から形成されるガスバリア層を備え、上記ガスバリア樹脂組成物(α)が、一種又は二種以上のエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物を含み、上記一種又は二種以上のエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物の原料であるエチレン及びビニルエステルの一部がバイオマス由来であり、残部が化石燃料由来である、成形体;
[2]上記一種又は二種以上のエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物が、原料であるエチレン及びビニルエステルの少なくとも一部がバイオマス由来であるエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物(A)と、化石燃料由来であるエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物(B)とを含む、[1]の成形体;
[3]上記エチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物(A)と上記エチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物(B)との質量比(A/B)が1/99~99/1である、[2]の成形体;
[4]上記一種又は二種以上のエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物が、原料であるエチレン及びビニルエステルの一部がバイオマス由来であり、残部が化石燃料由来であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(A’)を含む、[1]の成形体;
[5]上記一種又は二種以上のエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物のバイオベース度が1%以上99%以下である、[1]~[4]のいずれかの成形体;
[6]ガスバリア樹脂組成物(α)のバイオベース度が1%以上99%以下である、[1]~[5]のいずれかの成形体;
[7]ガスバリア樹脂組成物(α)が硫黄化合物を硫黄原子換算で0ppmを超えて100ppm以下含む、[1]~[6]のいずれかの成形体;
[8]上記硫黄化合物が、ジメチルスルフィドまたはジメチルスルホキシドである、[7]の成形体;
[9]上記一種又は二種以上のエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物の上記原料のうちのエチレンの少なくとも一部がバイオマス由来である、[1]~[8]のいずれかの成形体;
[10]上記一種又は二種以上のエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物の上記原料のうちのビニルエステルの少なくとも一部がバイオマス由来である、[1]~[9]のいずれかの成形体;
[11]上記一種又は二種以上のエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物が、下記一般式(I)で表される変性基を有する、[1]~[10]のいずれかの成形体;
【化1】
[式(I)中、Xは、水素原子、メチル基又はR-OHで表される基を表す。R及びRは、それぞれ独立して、単結合、炭素数1~9のアルキレン基又は炭素数1~9のアルキレンオキシ基を表し、上記アルキレン基及び上記アルキレンオキシ基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。]
[12]熱可塑性樹脂層をさらに備える、[1]~[11]のいずれかの成形体;
[13][1]~[12]のいずれかの成形体を備える、フィルムまたはシート;
[14][1]~[12]のいずれかの成形体を備える、熱収縮フィルムまたはシート;
[15][13]のフィルムもしくはシートまたは[14]の熱収縮フィルムまたはシートを備える、包装材;
[16][1]~[12]のいずれかの成形体を備える、産業用フィルムまたはシート;
[17][1]~[12]のいずれかの成形体を備える、熱成形容器;
[18][17]の熱成形容器を備える、カップ状容器;
[19][17]の熱成形容器を備える、トレイ状容器;
[20][1]~[12]のいずれかの成形体を備える、ブロー成形容器;
[21][20]のブロー成形容器を備える、燃料容器;
[22][20]のブロー成形容器を備える、ボトル容器;
[23][1]~[12]のいずれかの成形体を備える、チューブ;
[24][1]~[12]のいずれかの成形体を備える、多層パイプ;
[25][1]~[12]のいずれかの成形体を備える、紙容器;
を提供することにより達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、バイオマス由来の原料を用いていながら、化石燃料由来のものと遜色のない高いガスバリア性、及び十分なロングラン性を有するガスバリア樹脂組成物から形成されるガスバリア層を備える成形体、並びにこのような成形体を備えるフィルムまたはシート、熱収縮フィルムまたはシート、包装材、産業用フィルムまたはシート、熱成形容器、カップ状容器、トレイ状容器、ブロー成形容器、燃料容器、ボトル容器、チューブ、多層パイプ及び紙容器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態であるカップ状容器を示す模式的斜視図である。
図2図1のカップ状容器の断面図である。
図3図1のカップ状容器の製造方法を説明するための模式図である。
図4図1のカップ状容器の製造方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<成形体>
本発明の成形体は、ガスバリア樹脂組成物(α)から形成されるガスバリア層を備える。ガスバリア樹脂組成物(α)は、一種又は二種以上のエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物(エチレン-ビニルアルコール共重合体;以下、「EVOH」ともいう。)を含み、上記一種又は二種以上のEVOHの原料(原料モノマー)であるエチレン及びビニルエステルの一部がバイオマス由来であり、上記原料(原料モノマー)であるエチレン及びビニルエステルの残部が化石燃料由来である。当該成形体は、バイオマス由来の原料が一部に用いられているガスバリア樹脂組成物(α)から形成されるガスバリア層を備えているので、環境負荷が低い。また、ガスバリア樹脂組成物(α)は、ガスバリア樹脂としてEVOHを選択して用いており、EVOHはバイオマス由来の原料を用いて合成された場合であっても、化石燃料由来の原料のみから合成された同一構造のEVOHと同等の高いガスバリア性を発揮できる。なお、同一構造のEVOHとは、重合度、各構造単位の含有比率、変性の有無、ケン化度等が同じであるEVOHをいう。さらに、ガスバリア樹脂組成物(α)においては、EVOHに化石燃料由来の原料も併用されていることで、ロングラン性も十分なものとなる。なお、本発明がこのような効果を奏する理由は定かではないが、バイオマス由来の原料を用いてEVOHを合成した場合、ガスバリア性には影響を与えないもののロングラン性には影響を与える微量且つ不可避的な不純物が生成又は混入することなどが推測される。
【0013】
ここで、本明細書におけるロングラン性とは、実施例に記載の方法で評価することができ、ガスバリア樹脂組成物(α)から形成されるガスバリア層を備える成形体を連続製造した際のストリーク、外観及び着色の度合い等によって総合的に評価できる。但し、用途等によっては、着色は特に問題にならない場合もあることなどから、例えば10時間の連続製造した際のストリークが少なければロングラン性は十分であると評価する。
【0014】
本発明の成形体は、長期間の連続成形を行った場合でもストリークの発生等を抑制できるため、生産性が高く、外観も良好である。本発明の成形体は、フィルムまたはシート、熱収縮フィルムまたはシート、包装材、産業用フィルムまたはシート、熱成形容器、カップ状容器、トレイ状容器、ブロー成形容器、燃料容器、ボトル容器、チューブ、多層パイプおよび紙容器等の種々の用途で利用される。
【0015】
本発明の成形体は、積層体(層構造体)であってよい。当該積層体の層数の下限としては、1であってよいが、2が好ましく、3がより好ましい。また、当該積層体の層数の上限としては、例えば1000であってよく、100であってもよく、20又は10であってもよい。
【0016】
本発明の成形体は、ガスバリア樹脂組成物(α)から形成されるガスバリア層(以下「層(1)」と略記する場合がある。)を備えていればよいが、他の層をさらに備える層構造体であることが好ましい。他の層としては、例えば、ガスバリア樹脂組成物(α)以外の熱可塑性樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂層(以下「層(2)」と略記する場合がある。)、接着性樹脂、アンカーコーティング剤または接着剤を主成分とする接着性樹脂層(「接着層」等と称してもよい。また、「以下、「層(3)」と略記する場合がある。)、回収層(以下、「層(4)」と略記する場合がある。)、無機蒸着層(以下「層(5)」と略記する場合がある。)及び紙基材層(以下「層(6)」と略記する場合がある。)等が挙げられる。ここで、「主成分」とは、その成分が占める割合が50質量%超であることを意味し、90質量%以上であることが好ましい。
【0017】
本発明の成形体は、その用途によって好適な態様が異なるが、基本的に層(1)及び層2を含むことが好ましく、層(1)、層(2)及び層(3)を含むことがより好ましい。具体的な構成としては、例えば、成形体が容器、包装材、チューブ、多層パイプ等である場合、内面から外面に向かって、層(2)、層(3)、層(1)、層(3)、層(4)、層(2)の順(以降、(内)2/3/1/3/4/2(外)のように表す)、(内)2/3/1/3/2(外)、(内)2/4/3/1/3/4/2(外)、(内)4/3/1/3/4(外)、(内)1/3/2(外)、(内)2/4/3/1/3/2(外)、(内)2/1/3/2(外)、(内)2/1/5/2(外)、(内)2/5/1/2(外)、(内)2/5/1/5/2(外)、(内)2/3/1/5/3/2(外)、(内)2/3/5/1/3/2(外)、(内)2/3/1/3/2/6(外)、(内)3/1/3/6(外)等の層構造のものを採用することができる。なお、層(2)の種類によっては、層(3)は省略してもよく、層(2)の代わりに層(4)を備える構成でもよく、層(1)~(6)がそれぞれ複数用いられている配置の場合、それぞれの層を構成する樹脂は同一でも異なっていてもよい。
【0018】
本発明の成形体の全体平均厚みは、目的とする用途によって好適な態様は異なるが、5μm~15mmが好ましく、10μm~10mmがより好ましい。
【0019】
[層(1)]
層(1)は、ガスバリア樹脂組成物(α)から形成されるガスバリア層である。ガスバリア樹脂組成物(α)は、一種又は二種以上のEVOHを含み、上記一種又は二種以上のEVOHの原料であるエチレン及びビニルエステルの一部がバイオマス由来であり、残部が化石燃料由来である。
【0020】
原料として用いられたエチレン及びビニルエステルがバイオマス由来と化石燃料由来の双方を含むことは、バイオベース度の測定により確認することができる。バイオベース度とは、バイオマス由来原料の割合を表す指標であり、本明細書においては、加速器質量分析器(AMS)による放射性炭素(14C)の濃度測定により求められるバイオベース炭素含有率である。バイオベース度は、具体的にはASTM D6866-18に記載の方法に沿って測定することができる。すなわち、通常、EVOHのバイオベース度が0%超100%未満である場合、原料として用いられたエチレン及びビニルエステルがバイオマス由来と化石燃料由来の双方を含むといえる。
【0021】
「バイオマス」とは、動植物に由来する有機物である資源であって、化石燃料(化石資源)を除いたものをいう。バイオマスは、植物に由来する有機物である資源であってよい。
【0022】
ガスバリア性樹脂組成物(α)は、放射性炭素(14C)の濃度を利用して自社製品を追跡することも可能である。生物はその活動中に、大気中の放射性炭素(14C)を取り込み一定量含有するが、活動を停止すると新しい14Cの取り込みが止まり、全炭素に対する14Cの比が低下する。また、植物が炭素を固定する際に同位体選別と呼ばれる現象が生じ、植物の種毎に全炭素に対する14Cの比が異なることが知られている。全炭素に対する14Cの比は、産地、年代によっても異なることが知られており、原料とするバイオマスにより、異なる全炭素に対する14Cの比の原料を得ることができる。化石燃料由来の原料には14Cが殆ど残っていないため、例えば、バイオマス由来と化石燃料由来の原料の比を変化させることにより、特定の全炭素に対する14Cの比のEVOHを得ることが可能となり、この全炭素に対する14Cの比を調べることにより、自社製EVOH(ガスバリア性樹脂組成物)の追跡が可能となる。
【0023】
EVOHは幅広い用途で使用されており、高品質の製品を市場へ供給することはサプライヤーの責務である。また、ブランディングのために自社製品と他社製品を識別する方法が求められている。例えば、市販の包装容器のガスバリア層に用いられているEVOHは、熱成形により包装容器に成形されるが、熱成形時に受ける熱履歴によりエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物は溶媒に不溶なゲルを形成することがある。そのため、包装容器を回収し、使用されているEVOHを溶媒で抽出して、その分子量を測定しようとしても、分子量を正確に測定することが困難な場合が多い。そのため、成形体を分析しただけでは自社のEVOHであるか否かを判別することができない。
【0024】
EVOHは、多くの流通経路を経て、食品、医薬品、工業薬品、農薬等の包装材料として、フィルム、シート、容器等に利用されている。また、そのバリア性、保温性、耐汚染性等を活かして、自動車等車両の燃料タンク、タイヤ用チューブ材、農業用フィルム、ジオメンブレン、靴用クッション材等の用途にも使用されている。これらのEVOHが使用された材料がさらに廃棄された場合、かかる樹脂やその使用後の包装容器がどの工場、どの製造ラインから製造されたかの判別が困難である。また、使用時あるいは使用後の自社製品の品質調査や廃棄後の環境への影響や地中への分解性などの追跡も困難である。
【0025】
自社製品の追跡方法の一つとして、例えば、EVOHにトレーサー物質を添加する方法が考えられる。しかしながら、トレーサーの添加はコスト上昇やEVOHの性能低下を起こす場合がある。このような背景において、放射性炭素(14C)の濃度を利用して自社製品を追跡することができることは、非常に有用な効果であると言える。
【0026】
ガスバリア樹脂組成物(α)は、気体の透過を抑制する機能を有する樹脂組成物である。20℃-65%RH条件下で、JIS K 7126-2(等圧法;2006年)に記載の方法に準じて測定したガスバリア樹脂組成物(α)の酸素透過速度の上限は、100mL・20μm/(m・day・atm)が好ましく、50mL・20μm/(m・day・atm)がより好ましく、10mL・20μm/(m・day・atm)、1mL・20μm/(m・day・atm)、又は0.5mL・20μm/(m・day・atm)がさらに好ましい。ガスバリア層(層(1))は、ガスバリア樹脂組成物(α)から形成されているものであればよく、厚さ等は特に限定されるものではない。
【0027】
(EVOH)
ガスバリア樹脂組成物(α)に含まれる一種又は二種以上のEVOHの形態としては、以下の(I)及び(II)の形態が挙げられる。
(I)原料であるエチレン及びビニルエステルの少なくとも一部がバイオマス由来であるEVOH(A)と、化石燃料由来であるEVOH(B)とを含む形態
(II)原料であるエチレン及びビニルエステルの一部がバイオマス由来であり、残部が化石燃料由来であるEVOH(A’)を含む形態
【0028】
一種又は二種以上のEVOHは、エチレン単位、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の一部がバイオマス由来であり、残部が化石燃料由来であるものであってよい。すなわち、EVOH(A)は、エチレン単位、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の少なくとも一部がバイオマス由来のEVOHであってよい。EVOH(B)は、エチレン単位、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の全てが化石燃料由来のEVOHであってよい。EVOH(A’)は、エチレン単位、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の一部がバイオマス由来であり、残部が化石燃料由来のEVOHであってよい。
【0029】
(EVOH(A))
EVOH(A)は、原料モノマーであるエチレン及びビニルエステルの少なくとも一部がバイオマス由来であるEVOHである。EVOH(A)がバイオマス由来の原料を含むことで、ガスバリア樹脂組成物(α)のバイオベース度を高め、本発明の成形体等の環境負荷を低減できる。
【0030】
EVOH(A)は、少なくとも一部がバイオマス由来であるエチレン及びビニルエステルの共重合体のケン化により得られる。EVOH(A)の前駆体となるエチレン-ビニルエステル共重合体の製造及びケン化は、従来の化石燃料由来のエチレン-ビニルエステル共重合体の製造及びケン化と同様の公知の方法により行うことができる。ビニルエステルとしては、例えば酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステルを用いることができ、酢酸ビニルが好ましい。
【0031】
バイオマス由来のエチレンは、例えばバイオマス原料からバイオエタノールを精製し、脱水反応を行うなど、公知の方法で製造することができる。バイオマス原料としては、廃棄物系、未利用系、資源作物系等を用いることができ、例えば、セルロース系作物(パルプ、ケナフ、麦わら、稲わら、古紙、製紙残渣など)、木材、木炭、堆肥、天然ゴム、綿花、サトウキビ、おから、油脂(菜種油、綿実油、大豆油、ココナッツ油、ヒマシ油など)、炭水化物系作物(トウモロコシ、イモ類、小麦、米、籾殻、米ぬか、古米、キャッサバ、サゴヤシなど)、バガス、そば、大豆、精油(松根油、オレンジ油、ユーカリ油など)、パルプ黒液、植物油カスなどを用いることができる。
【0032】
バイオエタノールを製造する方法は特に限定されず、例えば、バイオマス原料を必要に応じて前処理(加圧熱水処理、酸処理、アルカリ処理、糖化酵素を用いた糖化処理)した上で、酵母発酵させバイオエタノールを製造した後、蒸留工程及び脱水工程を経てバイオエタノールを精製することができる。バイオエタノール製造の際に、糖化処理を行う場合、糖化と発酵を段階的に行う逐次糖化発酵を用いてもよいし、糖化と発酵を同時に行う並行糖化発酵を用いてもよいが、製造効率の観点から並行糖化発酵にてバイオエタノールを製造することが好ましい。
【0033】
市販のバイオマス由来のエチレンを使用してもよく、例えばBraskem S.A.製のサトウキビ由来バイオエチレン等を使用できる。
【0034】
バイオマス由来のビニルエステルとしては、バイオマス由来のエチレンを用いて製造したビニルエステルが挙げられる。バイオマス由来のビニルエステルの製造方法としては、例えば一般的な工業製法であるパラジウム触媒を用いてエチレンと酢酸と酸素分子とを反応させる方法等が挙げられる。また、バイオマス由来のビニルエステルは、バイオマス由来のカルボン酸を用いて製造されたビニルエステルであってもよい。EVOH(A)のケン化度が100モル%では無い場合、バイオマス由来のアシル基が残存することとなる。
【0035】
EVOH(A)のエチレン単位含有量の下限は20モル%が好ましく、23モル%がより好ましく、25モル%がさらに好ましい。EVOH(A)のエチレン単位含有量が20モル%以上であると、ロングラン性が高まる傾向となる。EVOH(A)のエチレン単位含有量の上限は60モル%が好ましく、55モル%がより好ましく、50モル%がさらに好ましい。EVOH(A)のエチレン単位含有量が60モル%以下であると、ガスバリア性がより良好となる傾向となる。EVOHのエチレン単位含有量は、核磁気共鳴(NMR)法により求めることができる。
【0036】
EVOH(A)のケン化度の下限は90モル%が好ましく、95モル%がより好ましく、99モル%がさらに好ましい。EVOH(A)のケン化度が90モル%以上であると、ガスバリア樹脂組成物(α)におけるガスバリア性及びロングラン性がより良好となる傾向がある。また、EVOH(A)のケン化度の上限は100モル%であってよく、99.97モル%又は99.94モル%であってもよい。EVOHのケン化度は、H-NMR測定を行い、ビニルエステル構造に含まれる水素原子のピーク面積と、ビニルアルコール構造に含まれる水素原子のピーク面積とを測定して算出できる。
【0037】
EVOH(A)の原料として用いられるエチレン及びビニルエステルは、その少なくとも一部がバイオマス由来であり、ビニルエステルの少なくとも一部がバイオマス由来であることが好ましく、ビニルエステルの全部がバイオマス由来であってもよい。また、EVOH(A)の原料であるエチレンの少なくとも一部がバイオマス由来であることも好ましく、エチレンの全部がバイオマス由来であってもよい。また、EVOH(A)の原料であるビニルエステルの少なくとも一部及びエチレンの少なくとも一部がバイオマス由来であることが好ましい場合もあり、ビニルエステル及びエチレンの全てがバイオマス由来であってもよい。
【0038】
EVOH(A)を構成する全ビニルアルコール単位(ビニルエステル単位のケン化物)におけるバイオマス由来のビニルアルコール単位の割合の下限は、1モル%が好ましく、5モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましく、25モル%又は45モル%がよりさらに好ましく、70モル%、90モル%又は99モル%であってもよく、EVOH(A)を構成する全てのビニルアルコール単位がバイオマス由来であってもよい。EVOH(A)を構成する全ビニルアルコール単位における化石燃料由来のビニルアルコール単位の割合の上限は、99モル%が好ましく、95モル%がより好ましく、90モル%がさらに好ましく、75モル%又は55モル%がよりさらに好ましく、30モル%、10モル%又は1モル%であってもよく、EVOH(A)を構成する全ビニルアルコール単位中に化石燃料由来のビニルアルコール単位が含まれていなくてもよい。EVOH(A)を構成する全ビニルアルコール単位におけるバイオマス由来のビニルアルコール単位の割合が高くなると、ガスバリア樹脂組成物(α)におけるバイオベース度が高まり、環境負荷を低減できる傾向となる。一方、バイオベース度及びロングラン性のバランスに優れるガスバリア樹脂組成物(α)を提供する観点からは、バイオマス由来のビニルアルコール単位の割合は5モル%以上95モル%以下が好ましく、15モル%以上85モル%以下がより好ましく、25モル%以上75モル%以下がさらに好ましく、35モル%以上65モル%以下が特に好ましい。
【0039】
EVOH(A)を構成する全エチレン単位におけるバイオマス由来のエチレン単位の割合の下限は、1モル%が好ましく、5モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましく、25モル%又は45モル%がよりさらに好ましく、70モル%、90モル%又は99モル%であってもよく、EVOH(A)を構成する全てのエチレン単位がバイオマス由来であってもよい。EVOH(A)を構成する全エチレン単位における化石燃料由来のエチレン単位の割合の上限は、99モル%が好ましく、95モル%がより好ましく、90モル%がさらに好ましく、75モル%又は55モル%がよりさらに好ましく、30モル%、10モル%又は1モル%であってもよく、EVOH(A)を構成する全エチレン単位中に化石燃料由来のエチレン単位が含まれていなくてもよい。EVOH(A)を構成する全エチレン単位におけるバイオマス由来のエチレン単位の割合が高くなると、ガスバリア樹脂組成物(α)におけるバイオベース度が高まり、環境負荷を低減できる傾向となる。一方、バイオベース度及びロングラン性のバランスに優れるガスバリア樹脂組成物(α)を提供する観点からは、バイオマス由来のエチレン単位の割合は5モル%以上95モル%以下が好ましく、15モル%以上85モル%以下がより好ましく、25モル%以上75モル%以下がさらに好ましく、35モル%以上65モル%以下が特に好ましい。
【0040】
EVOH(A)のバイオベース度の下限は、本発明の成形体等の環境負荷を低減する観点から1%が好ましく、5%がより好ましく、20%がさらに好ましく、40%が特に好ましい。さらにEVOH(A)のバイオベース度の下限は、60%であってもよく、80%又は95%であってもよい。また、EVOH(A)のバイオベース度の上限は、100%であってもよいが、ロングラン性を良好とする観点から99%が好ましく、95%がより好ましく、85%、75%又は65%がさらに好ましい場合もある。
【0041】
EVOH(A)は、本発明の目的が阻害されない範囲で、エチレン、ビニルエステル及びそのケン化物以外の他の単量体由来の単位を有していてもよい。EVOH(A)が上記他の単量体由来の単位を有する場合、上記他の単量体由来の単位のEVOH(A)の全構造単位に対する含有量の上限は30モル%が好ましく、20モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましく、5モル%がよりさらに好ましく、1モル%がよりさらに好ましいこともある。また、EVOH(A)が上記他の単量体由来の単位を有する場合、その含有量の下限は0.05モル%であってもよく、0.10モル%であってもよい。上記他の単量体は、例えば、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン等のアルケン;3-アシロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-3-メチル-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ペンテン、5-アシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4-アシロキシ-1-ヘキセン、5-アシロキシ-1-ヘキセン、6-アシロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン等のエステル基を有するアルケン又はそのケン化物;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和酸又はその無水物、塩、又はモノ若しくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン、γ-メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等ビニルシラン化合物;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0042】
EVOH(A)は、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の手法の後変性がされていてもよい。
【0043】
EVOH(A)がその他単量体単位等の変性基を有する場合、EVOH(A)が下記式(I)で表される構造を持つことが好ましい。EVOH(A)がこのような変性基を有する場合、本発明の熱収縮フィルムまたはシートが良好な熱収縮性を示す傾向となる。
【0044】
【化2】
【0045】
[式(I)中、Xは、水素原子、メチル基又はR-OHで表される基を表す。R及びRは、それぞれ独立に単結合、炭素数1~9のアルキレン基又は炭素数1~9のアルキレンオキシ基を表し、上記アルキレン基及び上記アルキレンオキシ基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。]
【0046】
Xは、好ましくは水素原子又はR-OHで表される基であり、より好ましくはR-OHで表される基である。
【0047】
又はRとして用いられるアルキレン基及びアルキレンオキシ基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。R、Rは、好ましくは炭素数1~5のアルキレン基又はアルキレンオキシ基であり、より好ましくは炭素数1~3のアルキレン基又はアルキレンオキシ基である。
【0048】
式(I)で表される構造(変性基)の具体例としては、例えば、下記の式(II)、式(III)、及び式(IV)で表される構造単位(変性基)が挙げられ、中でも式(II)で表される構造単位が好ましい。
【0049】
【化3】
【0050】
[式(II)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表し、該アルキル基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。]
【0051】
【化4】
【0052】
[式(III)中、Rは式(I)中のXと同義である。Rは、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表し、該アルキル基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。]
【0053】
【化5】
【0054】
[式(IV)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基または水酸基を表す。また、上記アルキル基、上記シクロアルキル基が有する水素原子の一部または全部は、水酸基、アルコキシ基またはハロゲン原子で置換されていてもよい。]
【0055】
本発明において、式(I)中のRが単結合で、Xがヒドロキシメチル基(式(II)中のR、Rが水素原子)であることが好ましい。この変性基を有するEVOH(A)を用いることで、ガスバリア性を著しく悪化させることなく延伸性、熱成形性等の二次加工性を高められる傾向となる。また、本発明の熱収縮フィルムまたはシートにおいて、より良好な熱収縮性を示す傾向となる。EVOH(A)が上記変性基を含有する場合、その含有量の下限は0.1モル%が好ましく、0.4モル%がより好ましく、1.0モル%がさらに好ましい。一方、上記変性基の含有量の上限は、ガスバリア性を良好とする観点から20モル%が好ましく、10モル%がより好ましく、8モル%がさらに好ましく、5モル%が特に好ましい。
【0056】
本発明において、式(I)中のRがヒドロキシメチレン基、Xが水素原子(式(III)中のR、Rが水素原子)であることも好ましい。この変性基を有するEVOH(A)を用いることで、ガスバリア性を著しく悪化させることなく延伸性、熱成形性等の二次加工性を高められる傾向となる。また、本発明の熱収縮フィルムまたはシートにおいて、より良好な熱収縮性を示す傾向となる。EVOH(A)が上記変性基を含有する場合、その含有量の下限は0.1モル%が好ましく、0.4モル%がより好ましく、1.0モル%がさらに好ましい。一方、上記変性基の含有量の上限は、ガスバリア性を良好とする観点から20モル%が好ましく、10モル%がより好ましく、8モル%がさらに好ましく、5モル%が特に好ましい。
【0057】
本発明において、式(I)中のRがメチルメチレンオキシ基、Xが水素原子であることも好ましい。この変性基を有するEVOH(A)を用いることで、ガスバリア性を著しく悪化させることなく延伸性、熱成形性等の二次加工性を高められる傾向となる。また、本発明の熱収縮フィルムまたはシートにおいて、より良好な熱収縮性を示す傾向となる。また、上記メチルメチレンオキシ基は、酸素原子が主鎖の炭素原子に結合している。すなわち、式(IV)中、R、Rの一方がメチル基であり、他方が水素原子であることが好ましい。EVOH(A)が上記変性基を含有する場合、その含有量の下限は0.1モル%が好ましく、0.5モル%がより好ましく、1.0モル%がさらに好ましく、2.0モル%が特に好ましい。一方、上記変性基の含有量の上限は、ガスバリア性を良好とする観点から20モル%が好ましく、15モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましい。
【0058】
EVOH(A)は、単独で用いても二種以上併用してもよい。
【0059】
JIS K7210:1999に準拠して測定した、EVOH(A)の190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)の下限は、0.1g/10分が好ましく、0.5g/10分がより好ましく、1.0g/10分がさらに好ましい。一方、EVOH(A)のMFRの上限は、30g/10分が好ましく、20g/10分がより好ましく、15g/10分がさらに好ましい。EVOH(A)の190℃、2160g荷重におけるMFRが上記範囲であると、溶融成形性が高まり、結果としてロングラン性が高まる傾向となる。
【0060】
EVOH(A)の融点の下限は135℃が好ましく、150℃がより好ましく、155℃がさらに好ましい。EVOH(A)の融点が135℃以上であると、ガスバリア性に優れる傾向となる。またEVOH(A)の融点の上限は200℃が好ましく、190℃がより好ましく、185℃がさらに好ましい。EVOH(A)の融点が200℃以下であると、溶融成形性が良好となり、結果としてロングラン性が高まる傾向となる。
【0061】
(EVOH(B))
EVOH(B)は、化石燃料由来のEVOHである。ここで、化石燃料由来のEVOHとは、化石燃料由来の原料を用いて合成されたEVOHを意味する。すなわち、EVOH(B)は、原料モノマーであるエチレン、ビニルエステル及び必要に応じて用いられるその他の単量体の全てが化石燃料由来であるEVOHである。換言すれば、EVOH(B)は、バイオマス由来の原料を用いずに合成されたEVOHである。ガスバリア樹脂組成物(α)がEVOH(B)を含むことで、十分なロングラン性を発揮することができる。
【0062】
EVOH(B)の具体的及び好適な態様は、原料が化石燃料由来であること、つまりバイオベース度が0%であること以外は、EVOH(A)と同様である。すなわち、EVOH(B)の具体的及び好適なエチレン単位含有量、ケン化度、他の単量体由来の種類及び含有量、MFR、融点等は、EVOH(A)と同様である。
【0063】
EVOH(B)は、単独で用いても二種以上併用してもよい。
【0064】
EVOH(A)とEVOH(B)とを併用する上記(I)の形態において、EVOH(A)とEVOH(B)との質量比(A/B)の下限は、1/99が好ましく、5/95がより好ましく、15/85がさらに好ましく、40/60が特に好ましい。質量比(A/B)を1/99以上とすることにより、ガスバリア樹脂組成物(α)のバイオベース度を高め、環境負荷を小さくすることができる。より環境負荷を低減する観点からは、上記質量比(A/B)の下限は、60/40が好ましい場合もあり、75/25が好ましい場合もある。また、質量比(A/B)の上限は99/1が好ましく、95/5がより好ましく、85/15がさらに好ましい場合もあり、60/40又は40/60がよりさらに好ましい場合もある。質量比(A/B)を99/1以下とすることでロングラン性を高めることができる。
【0065】
EVOH(A)及びEVOH(B)のエチレン単位含有量、ケン化度、MFR及び融点等は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。ロングラン性等の性能を高めることなどからは、EVOH(A)及びEVOH(B)のエチレン単位含有量、ケン化度、MFR及び融点は、それぞれ同一であるか近い値であることが好ましい。EVOH(A)及びEVOH(B)のエチレン単位含有量の差は、6モル%以下が好ましく、3モル%以下がより好ましく、0モル%がさらに好ましい。また、EVOH(A)及びEVOH(B)のケン化度の差は2モル%以下が好ましく、1モル%以下がより好ましく、0モル%がさらに好ましい。また、EVOH(A)及びEVOH(B)のMFRの差は2g/10分以下が好ましく、1g/10分以下がより好ましく、0g/10分がさらに好ましい。また、EVOH(A)及びEVOH(B)の融点の差は7℃以下が好ましく、3℃以下がより好ましく、0℃がさらに好ましい。
【0066】
(EVOH(A’))
EVOH(A’)は、原料モノマーであるエチレン及びビニルエステルの一部がバイオマス由来であり、上記原料モノマーであるエチレン及びビニルエステルの残部が化石燃料由来であるEVOHである。EVOH(A’)の原料がバイオマス由来の原料を含むことで、ガスバリア樹脂組成物(α)におけるバイオベース度を高め、環境負荷を低減できる傾向となる。また、EVOH(A’)の原料が化石燃料由来の原料を含むことで、ロングラン性を良好なものとすることができる。
【0067】
EVOH(A’)は、一部がバイオマス由来であり残部が化石燃料由来であるエチレン及びビニルエステルの共重合体のケン化により得られる。EVOH(A’)の前駆体となるエチレン-ビニルエステル共重合体の製造及びケン化は、原料の一部にバイオマス由来のものが用いられること以外は、従来公知の方法により行うことができる。
【0068】
EVOH(A’)の合成に用いられるバイオマス由来のエチレン及びバイオマス由来のビニルエステルの例は、EVOH(A)の合成に用いられるものとして上記したものと同様である。
【0069】
EVOH(A’)のエチレン単位含有量及びケン化度の具体的及び好適な条件は、前述したEVOH(A)と同様である。
【0070】
EVOH(A’)の原料として用いられるエチレン及びビニルエステルにおいては、エチレンの少なくとも一部がバイオマス由来であることが好ましく、エチレンの全部がバイオマス由来であってもよい。また、EVOH(A’)の原料であるビニルエステルの少なくとも一部がバイオマス由来であることも好ましく、ビニルエステルの全部がバイオマス由来であってもよい。
【0071】
EVOH(A’)を構成する全ビニルアルコール単位(ビニルエステル単位のケン化物)におけるバイオマス由来のビニルアルコール単位の割合の下限は、1モル%が好ましく、5モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましく、25モル%又は45モル%がさらに好ましく、70モル%、90モル%又は99モル%であってもよく、EVOH(A’)を構成するすべてのビニルアルコール単位がバイオマス由来であってもよい。EVOH(A’)を構成する全ビニルアルコール単位における化石燃料由来のビニルアルコール単位の割合の上限は、99モル%が好ましく、95モル%がより好ましく、90モル%がさらに好ましく、75モル%又は55モル%がさらに好ましく、30モル%、10モル%又は1モル%であってもよく、EVOH(A’)を構成する全ビニルアルコール単位中に化石燃料由来のビニルアルコール単位が含まれていなくてもよい。EVOH(A’)を構成する全ビニルアルコール単位におけるバイオマス由来のビニルアルコール単位の割合が高くなると、ガスバリア樹脂組成物(α)におけるバイオベース度が高まり、環境負荷を低減できる傾向となる。一方、バイオベース度及びロングラン性のバランスに優れるガスバリア樹脂組成物(α)を提供する観点からは、バイオマス由来のビニルアルコール単位の割合は5モル%以上95モル%以下が好ましく、15モル%以上85モル%以下がより好ましく、25モル%以上75モル%以下がさらに好ましく、35モル%以上65モル%以下が特に好ましい。
【0072】
EVOH(A’)を構成する全エチレン単位におけるバイオマス由来のエチレンの割合の下限は、1モル%が好ましく、5モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましく、25モル%又は45モル%がさらに好ましく、70モル%、90モル%又は99モル%であってもよく、EVOH(A’)を構成する全てのエチレン単位がバイオマス由来であってもよい。EVOH(A’)を構成する全エチレン単位における化石燃料由来のエチレン単位の割合の上限は、99モル%が好ましく、95モル%がより好ましく、90モル%がさらに好ましく、75モル%又は55モル%がよりさらに好ましく、30モル%、10モル%又は1モル%であってもよく、EVOH(A’)を構成する全エチレン単位中に化石燃料由来のエチレン単位が含まれていなくてもよい。EVOH(A’)を構成する全エチレン単位におけるバイオマス由来のエチレン単位の割合が高くなると、ガスバリア樹脂組成物(α)におけるバイオベース度が高まり、環境負荷を低減できる傾向となる。一方、バイオベース度及びロングラン性のバランスに優れるガスバリア樹脂組成物(α)を提供する観点からは、バイオマス由来のエチレン単位の割合は5モル%以上95モル%以下が好ましく、15モル%以上85モル%以下がより好ましく、25モル%以上75モル%以下がさらに好ましく、35モル%以上65モル%以下が特に好ましい。
【0073】
EVOH(A’)のバイオベース度の下限は、ガスバリア樹脂組成物(α)の環境負荷を低減する観点から1%が好ましく、5%がより好ましく、20%がさらに好ましく、40%が特に好ましい。また、例えば特に優れたロングラン性が要求されない用途などにおいては、EVOH(A’)のバイオベース度の下限は、60%であってもよく、80%であってもよい。一方、EVOH(A’)のバイオベース度の上限は、ロングラン性を良好とする観点から99%が好ましく、95%がより好ましく、85%、75%又は65%がさらに好ましい場合もある。
【0074】
EVOH(A’)は、本発明の目的が阻害されない範囲で、エチレン、ビニルエステル及びそのケン化物以外の他の単量体由来の単位を有していてもよく、後変性されていてもよい。共重合成分や後変性の具体例としては、前述したEVOH(A)と同様である。
【0075】
EVOH(A’)は、単独で用いても二種以上併用してもよい。
【0076】
JIS K7210:1999に準拠して測定した、EVOH(A’)の190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)及び融点の好適な態様は、前述したEVOH(A)と同様である。
【0077】
ガスバリア樹脂組成物(α)を構成する全ての樹脂における一種又は二種以上のEVOHが占める割合の下限は、80質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、95質量%がさらに好ましく、98質量%が特に好ましく、99質量%であってもよく、ガスバリア樹脂組成物(α)を構成する樹脂は、実質的に一種又は二種以上のEVOHのみであってもよく、一種又は二種以上のEVOHのみであってもよい。また、ガスバリア樹脂組成物(α)における一種又は二種以上のEVOHが占める割合の下限は、80質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、95質量%がさらに好ましく、98質量%が特に好ましく、99質量%であってもよく、ガスバリア樹脂組成物(α)は実質的に一種又は二種以上のEVOHのみから構成されていてもよい。
【0078】
ガスバリア樹脂組成物(α)に含まれる一種又は二種以上のEVOH全体のバイオベース度の下限は、ガスバリア樹脂組成物(α)の環境負荷を低減する観点から1%が好ましく、5%がより好ましく、20%がさらに好ましく、40%が特に好ましい。また、例えば特に優れたロングラン性が要求されない用途などにおいては、上記EVOH全体のバイオベース度の下限は、60%であってもよく、80%であってもよい。一方、上記EVOH全体のバイオベース度の上限は、ロングラン性を良好とする観点から99%が好ましく、95%がより好ましく、85%、75%、65%、55%、45%、35%又は25%がさらに好ましい場合もある。
【0079】
ガスバリア樹脂組成物(α)に含まれる一種又は二種以上のEVOH全体のエチレン単位含有量、ケン化度、MFR及び融点の具体的及び好適範囲は、上述したEVOH(A)の範囲と同様である。
【0080】
ガスバリア樹脂組成物(α)は、硫黄化合物を硫黄原子換算で0ppm超100ppm含んでいることが、自社製品を追跡する観点からより好ましい。また、硫黄原子換算で100ppm以下の硫黄化合物は、ガスバリア樹脂組成物の性能に実質的に影響を与えないことを発明者らは知見しており、硫黄化合物はトレーサー物質として好適である。硫黄化合物の含有量の上限は50ppmがより好ましく、5ppmがさらに好ましく、3ppmがよりさらに好ましく、0.3ppmが特に好ましい。硫黄化合物の含有量の下限は、0.0001ppmであっても、0.001ppmであっても、0.01ppmであっても、0.05ppmであっても、0.1ppmであってもよい。バイオマス由来の原料を用いた場合、バイオマス原料に含まれる有機系硫黄化合物を含むEVOHが得られることがある。一方、化石燃料由来のEVOHは、ナフサのクラッキング時に脱硫していることから、バイオマス由来のEVOHに比して硫黄化合物が少なくなる。そのため、このようなバイオマス由来のEVOHを用いた場合、硫黄化合物の含有量を比較することでバイオマス由来のEVOHの追跡がより容易となる。特に、ガスバリア樹脂組成物(α)が、硫黄化合物として、有機系硫黄化合物、中でもジメチルスルフィドまたはジメチルスルホキシドを含むとき、さらに追跡が容易となる。また、自社製品を追跡する観点などからは、EVOHの製造の際に、原料となるバイオマス由来のエチレン及びバイオマス由来のビニルエステル、並びに得られるEVOHに対して、硫黄化合物の含有量が検出限界値以下となるような過剰な精製を行わないことが好ましい場合がある。
【0081】
(その他成分)
ガスバリア樹脂組成物(α)はカルボン酸をさらに含有することが好ましい。ガスバリア樹脂組成物(α)がカルボン酸を含有すると、溶融成形性や高温下での着色耐性を改善できる。特に、ガスバリア樹脂組成物(α)のpH緩衝能力が高まり、酸性物質や塩基性物質に対する着色耐性を改善できる場合がある点から、カルボン酸のpKaが3.5~5.5の範囲にあることがより好ましい。
【0082】
ガスバリア樹脂組成物(α)がカルボン酸を含有する場合、その含有量の下限はカルボン酸根換算で30ppmが好ましく、100ppmがより好ましい。一方、カルボン酸の含有量の上限は1000ppmが好ましく、600ppmがより好ましい。カルボン酸の含有量が30ppm以上であると、高温による着色耐性が良好になる傾向となる。一方、カルボン酸の含有量が1000ppm以下であると、溶融成形性が良好となる傾向となる。カルボン酸の含有量は、樹脂組成物10gを純水50mlで95℃にて8時間抽出して得られる抽出液を滴定することで算出する。ここで、樹脂組成物中のカルボン酸の含有量として、上記抽出液中に存在するカルボン酸塩の含有量は考慮しない。また、カルボン酸はカルボン酸イオンとして存在していてもよい。
【0083】
カルボン酸としては、1価カルボン酸及び多価カルボン酸が挙げられ、これらは1種又は複数種からなっていてもよい。カルボン酸として1価カルボン酸と多価カルボン酸との両方を含む場合、ガスバリア樹脂組成物(α)の溶融成形性や高温下での着色耐性をより改善できる場合がある。また、多価カルボン酸は、3個以上のカルボキシ基を有してもよい。この場合、ガスバリア樹脂組成物(α)の着色耐性をさらに向上できる場合がある。
【0084】
1価カルボン酸とは、分子内に1つのカルボキシ基を有する化合物である。1価のカルボン酸のpKaが3.5~5.5の範囲にあることが好ましい。このような1価カルボン酸としては、例えばギ酸(pKa=3.77)、酢酸(pKa=4.76)、プロピオン酸(pKa=4.85)、酪酸(pKa=4.82)、カプロン酸(pKa=4.88)、カプリン酸(pKa=4.90)、乳酸(pKa=3.86)、アクリル酸(pKa=4.25)、メタクリル酸(pKa=4.65)、安息香酸(pKa=4.20)、2-ナフトエ酸(pKa=4.17)が挙げられる。これらのカルボン酸は、pKaが3.5~5.5の範囲にある限り、水酸基、アミノ基、ハロゲン原子といった置換基を有してもよい。中でも、安全性が高く、取扱いが容易であることから酢酸が好ましい。
【0085】
多価カルボン酸とは、分子内に2つ以上のカルボキシ基を有する化合物である。この場合、少なくとも1つのカルボキシ基のpKaが3.5~5.5の範囲にあることが好ましい。このような多価カルボン酸として、例えばシュウ酸(pKa2=4.27)、コハク酸(pKa1=4.20)、フマル酸(pKa2=4.44)、リンゴ酸(pKa2=5.13)、グルタル酸(pKa1=4.30、pKa2=5.40)、アジピン酸(pKa1=4.43、pKa2=5.41)、ピメリン酸(pKa1=4.71)、フタル酸(pKa2=5.41)、イソフタル酸(pKa2=4.46)、テレフタル酸(pKa1=3.51、pKa2=4.82)、クエン酸(pKa2=4.75)、酒石酸(pKa2=4.40)、グルタミン酸(pKa2=4.07)、アスパラギン酸(pKa=3.90)が挙げられる。
【0086】
ガスバリア樹脂組成物(α)はリン酸化合物をさらに含有することが好ましい。ガスバリア樹脂組成物(α)がリン酸化合物を含有する場合、その含有量の下限はリン酸根換算で1ppmが好ましく、3ppmがより好ましい。一方、上記含有量の上限はリン酸根換算で200ppmが好ましく、100ppmがより好ましい。この範囲でリン酸化合物を含有すると、ガスバリア樹脂組成物(α)の熱安定性を改善できる場合がある。特に、長時間に亘って溶融成形を行う際のゲル状ブツの発生や着色を抑制できる場合がある。リン酸化合物としては、例えばリン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等を用いることができる。リン酸塩は第1リン酸塩、第2リン酸塩、第3リン酸塩のいずれの形であってもよい。リン酸塩のカチオン種として、アルカリ金属、アルカリ土類金属が挙げられる。リン酸化合物として、具体的には、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウムの形でリン酸化合物が挙げられる。
【0087】
ガスバリア樹脂組成物(α)は、ホウ素化合物をさらに含有することが好ましい。ガスバリア樹脂組成物(α)がホウ素化合物を含有する場合、その含有量の下限はホウ素元子換算で5ppmが好ましく、100ppmがより好ましい。一方、上記含有量の上限はホウ素原子換算で5000ppmが好ましく、1000ppmがより好ましい。この範囲でホウ素化合物を含有すると、ガスバリア樹脂組成物(α)の溶融成形時の熱安定性を向上でき、ゲル状ブツの発生を抑制できる場合がある。また、得られる成形体の機械物性を向上できる場合もある。これらの効果は、EVOHとホウ素化合物との間にキレート相互作用が発生することに起因すると推測される。ホウ素化合物としては、例えばホウ酸、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素が挙げられる。具体的には、ホウ酸としては、例えばオルトホウ酸(HBO)、メタホウ酸、四ホウ酸が挙げられ、ホウ酸エステルとしては、例えばホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチルが挙げられ、ホウ酸塩としては、例えば上記ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂が挙げられる。
【0088】
ガスバリア樹脂組成物(α)は、金属イオンをさらに含有することが好ましい。ガスバリア樹脂組成物(α)が金属イオンを含有すると、多層の成形体、すなわち多層構造体としたときの層間接着性が優れたものとなる。層間接着性が向上する理由は定かでないが、ガスバリア樹脂組成物(α)からなる層と隣接する層中に、EVOHのヒドロキシ基と反応し得る官能基を有する分子が含まれる場合には、金属イオンによって両者の結合生成反応が加速されると考えられる。また、金属イオンと上記したカルボン酸との含有比率を制御すると、ガスバリア樹脂組成物(α)の溶融成形性や着色耐性も改善できる。
【0089】
ガスバリア樹脂組成物(α)が金属イオンを含有する場合、その含有量の下限は1ppmが好ましく、100ppmがより好ましく、150ppmがさらに好ましい。一方、金属イオンの含有量の上限は1000ppmが好ましく、400ppmがより好ましく、350ppmがさらに好ましい。金属イオンの含有量が1ppm以上であると、得られる多層構造体の層間接着性が良好となる傾向となる。一方、金属イオンの含有量が1000ppm以下であると、着色耐性が良好となる傾向となる。
【0090】
金属イオンとしては、一価金属イオン、二価金属イオン、その他遷移金属イオンが挙げられ、これらは1種又は複数種からなっていてもよい。中でも一価金属イオン及び二価金属イオンが好ましい。
【0091】
一価金属イオンとしては、アルカリ金属イオンが好ましく、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムのイオンが挙げられ、工業的な入手容易性の点からはナトリウム又はカリウムのイオンが好ましい。また、アルカリ金属イオンを与えるアルカリ金属塩としては、例えば脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸塩、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩及び金属錯体が挙げられる。中でも、脂肪族カルボン酸塩及びリン酸塩が入手容易である点から好ましく、具体的には、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム及びリン酸カリウムが好ましい。
【0092】
金属イオンとして二価金属イオンを含むことが好ましい場合もある。金属イオンが二価金属イオンを含むと、例えばトリムを回収して再利用した際のEVOHの熱劣化が抑制され、得られる成形体のゲル及びブツの発生が抑制される場合がある。二価金属イオンとしては、例えばベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及び亜鉛のイオンが挙げられるが、工業的な入手容易性の点からはマグネシウム、カルシウム又は亜鉛のイオンが好ましい。また、二価金属イオンを与える二価金属塩としては、例えばカルボン酸塩、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩及び金属錯体が挙げられカルボン酸塩が好ましい。カルボン酸塩を構成するカルボン酸としては、炭素数1~30のカルボン酸が好ましく、具体的には、酢酸、ステアリン酸、ラウリン酸、モンタン酸、ベヘン酸、オクチル酸、セバシン酸、リシノール酸、ミリスチン酸、パルミチン酸等が挙げられ、中でも、酢酸及びステアリン酸が好ましい。
【0093】
ガスバリア樹脂組成物(α)は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、例えば、ブロッキング防止剤、加工助剤、EVOH以外の樹脂、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、充填剤、界面活性剤、乾燥剤、酸素吸収剤、架橋剤、各種繊維などの補強剤などのその他成分を含有してもよい。
【0094】
ブロッキング防止剤としては、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、セリウム、タングステン及びモリブデンなどから選ばれる元素の酸化物、窒化物、酸化窒化物等が挙げられ、これらの中でも入手容易性から酸化ケイ素が望ましい。ガスバリア樹脂組成物(α)がブロッキング防止剤を含むことで、耐ブロッキング性を高めることができる。
【0095】
加工助剤としては、アルケマ社製Kynar(商標)、3M社製ダイナマー(商標)などのフッ素系加工助剤が挙げられる。ガスバリア樹脂組成物(α)が加工助剤を含むことで、ダイリップへの目やに付着を防止できる傾向となる。
【0096】
EVOH以外の樹脂としては、例えば各種ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体、ポリオレフィンと無水マレイン酸との共重合体、エチレン-ビニルエステル共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、又はこれらを不飽和カルボン酸もしくはその誘導体でグラフト変性した変性ポリオレフィン等)、各種ポリアミド(ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6/66共重合体、ナイロン11、ナイロン12、ポリメタキシリレンアジパミド等)、各種ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリアクリレート及び変性ポリビニルアルコール樹脂が挙げられる。
【0097】
溶融安定性等を改善するための安定剤としては、ハイドロタルサイト化合物、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系熱安定剤、高級脂肪族カルボン酸の金属塩(例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等)等が挙げられる。ガスバリア樹脂組成物(α)が安定剤を含む場合、その含有量は0.001~1質量%が好ましい。
【0098】
酸化防止剤としては、2,5-ジ-t-ブチル-ハイドロキノン、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、4,4’-チオビス-(6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’-チオビス-(6-t-ブチルフェノール)等が挙げられる。
【0099】
紫外線吸収剤としては、エチレン-2-シアノ-3’,3’-ジフェニルアクリレート、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)5-クロロベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0100】
可塑剤としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、ワックス、流動パラフィン、リン酸エステル等が挙げられる。
【0101】
帯電防止剤としては、ペンタエリスリットモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、硫酸化ポリオレフィン類、ポリエチレンオキシド、カーボワックス等が挙げられる。
【0102】
滑剤としては、エチレンビスステアロアミド、ブチルステアレート等が挙げられる。
【0103】
着色剤としては、カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、ベンガラ等が挙げられる。
【0104】
充填剤としては、グラスファイバー、アスベスト、バラストナイト、ケイ酸カルシウム等が挙げられる。
【0105】
乾燥剤としては、リン酸塩(上記リン酸塩を除く)、ホウ酸ナトリウム、硫酸ナトリウム等、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、砂糖、シリカゲル、ベントナイト、モレキュラーシーブ、高吸水性樹脂等が挙げられる。
【0106】
ガスバリア樹脂組成物(α)の含水量は、成形加工時のボイドの発生を防ぐ観点から、一種又は二種以上のEVOHの合計100質量部に対して、3.0質量部以下が好ましく、1.0質量部以下がより好ましく、0.5質量部以下がさらに好ましく、0.3質量部以下が特に好ましい。
【0107】
ガスバリア樹脂組成物(α)は、EVOH(A)又はEVOH(A’)に起因する、バイオマス由来の不純物を含有する場合がある。様々な不純物を含有する可能性があるが、少なくとも鉄及びニッケル等の金属が多く含まれる場合が多い傾向にある。
【0108】
(ガスバリア樹脂組成物のバイオベース度)
ガスバリア樹脂組成物(α)のバイオベース度の下限は、環境負荷を低減する観点から1%が好ましく、5%がより好ましく、20%がさらに好ましく、40%が特に好ましい。また、例えば特に優れたロングラン性が要求されない用途などにおいては、ガスバリア樹脂組成物(α)のバイオベース度の下限は、60%であってもよく、80%であってもよい。一方、ガスバリア樹脂組成物(α)のバイオベース度の上限は、ロングラン性を良好とする観点から99%が好ましく、95%がより好ましく、85%、75%、65%、55%、45%、35%又は25%がさらに好ましい場合もある。なお、このガスバリア樹脂組成物のバイオベース度とは、EVOH以外の任意成分に含まれる他の樹脂等も考慮して測定される値をいう。
【0109】
(ガスバリア樹脂組成物の製造方法)
ガスバリア樹脂組成物(α)の製造方法としては、特に限定されない。例えばEVOH(A)とEVOH(B)とを含むガスバリア樹脂組成物の場合、
(1)EVOH(A)のペレットと、EVOH(B)のペレットと、必要に応じて上述したその他成分とを混合(ドライブレンド)し、混合されたペレットを溶融混練する方法、
(2)EVOH(A)のペレット及び/又はEVOH(B)のペレットに必要に応じて上述したその他成分等が含まれる溶液に浸漬させた後、EVOH(A)のペレットとEVOH(B)のペレットとをドライブレンドし、これらを溶融混練する方法、
(3)EVOH(A)のペレットとEVOH(B)のペレットとをドライブレンドし、これらを溶融混練する際に、押出機の途中で必要に応じて上述したその他成分を含む水溶液を液添する方法
(4)EVOH(A)の溶融樹脂とEVOH(B)の溶融樹脂とを溶融状態でブレンドする方法(その他成分は、必要に応じてEVOH(A)及び/又はEVOH(B)に予め含ませておいても、押出機内で液添してもよい)
等が挙げられる。
【0110】
上記(1)~(4)等の製造方法によれば、用途、性能等に応じて、EVOH(A)とEVOH(B)との混合比率を調整することで環境負荷の低減効果とロングラン性とのバランスを考慮しつつ、高いガスバリア性を有するガスバリア樹脂組成物を製造することができる。これら中でも、(1)EVOH(A)のペレット及びEVOH(B)のペレットをドライブレンドして溶融混練する工程を含むことが好ましい。ペレット同士の混合やペレットと他の成分との混合には、例えばリボンブレンダー、高速ミキサーコニーダー、ミキシングロール、押出機、インテンシブミキサー等を用いることができる。
【0111】
また、EVOH(A’)を含むガスバリア樹脂組成物の場合、公知の方法でEVOH(A’)を合成し、得られたEVOH(A’)に対して、必要に応じて公知の方法でその他の成分を混合することにより製造することができる。
【0112】
層(1)の1層当たりの平均厚みの下限は、1μmが好ましく、3μmがより好ましい。層(1)の1層当たりの平均厚みの上限は300μmが好ましく、150μmがより好ましい。層(1)の1層当たりの平均厚みが上記範囲内であると、良好なガスバリア性及びロングラン性を示し、生産性が良好となる傾向となる。
【0113】
本発明の成形体の平均厚みに対する層(1)の平均厚みの割合の下限は特に限定されず、1%が好ましく、2%がより好ましいこともある。上記層(1)の平均厚みの割合は、20%が好ましく、15%がより好ましい。層(1)の平均厚みの割合が上記範囲内であると、良好なガスバリア性及びロングラン性を示し、生産性が良好となる傾向となる。
【0114】
[層(2)]
層(2)は、EVOH以外の熱可塑性樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂層である。層(2)におけるEVOH以外の熱可塑性樹脂の割合は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましく、99質量%以上であってもよく、層(2)を構成する樹脂としては実質的にEVOH以外の熱可塑性樹脂のみからなってもよい。
【0115】
層(2)の主成分となる熱可塑性樹脂としては、例えば各種ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体、ポリオレフィンと無水マレイン酸との共重合体、エチレン-ビニルエステル共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、又はこれらを不飽和カルボン酸もしくはその誘導体でグラフト変性した変性ポリオレフィン等)、各種ポリアミド(ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6/66共重合体、ナイロン11、ナイロン12、ポリメタキシリレンアジパミド等)、各種ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリアクリレート及び変性ポリビニルアルコール樹脂が挙げられる。かかる熱可塑性樹脂層は無延伸のものであってもよく、一軸又は二軸に延伸又は圧延されていてもよい。中でも、ポリオレフィンは耐湿性、機械的特性、経済性、ヒートシール性の点で、また、ポリアミドやポリエステルは機械的特性、耐熱性の点で好ましい。
【0116】
上記熱可塑性樹脂の190℃、2,160g荷重下でのMFRの下限は0.01g/10分が好ましく、0.02g/10分がより好ましい。一方、上記MFRの上限は0.5g/10分が好ましく、0.1g/10分がより好ましく、0.05g/10分がさらに好ましい。
【0117】
上記熱可塑性樹脂は、通常市販品の中から適宜選択して使用できる。また、層(2)は、本発明の効果を損なわない限り、層(1)と同様の他の任意成分を含んでいてもよい。
【0118】
層(2)の1層当たりの平均厚みの下限は、5μmが好ましく、20μmがより好ましい。層(2)の1層当たりの平均厚みの上限は3,000μmが好ましく、1,000μmがより好ましい。層(2)の1層当たりの平均厚みが上記範囲内であると、強度、成形性、外観等が向上する傾向となる。
【0119】
本発明の成形体の平均厚みに対する層(2)の平均厚みの割合の下限は特に限定されず、10%が好ましく、30%がより好ましく、50%、70%又は80%がさらに好ましいこともある。上記層(2)の平均厚みの割合の上限は特に限定されず、95%が好ましく、90%がより好ましい。
【0120】
[層(3)]
層(3)は、層(1)と層(2)との間に配置される場合があり、接着性樹脂、アンカーコーティング剤または接着剤を主成分とする層である。層(3)は、層(1)と層(2)等の他の層との間の接着層として機能させることができる。接着性樹脂は、接着性を有する樹脂であり、接着性を有する熱可塑性樹脂が好ましい場合がある。アンカーコーティング剤及び接着剤は、樹脂であってもよく、低分子化合物等、樹脂以外であってもよく、複数の成分からなるものであってもよい。接着性樹脂としては、カルボン酸変性ポリオレフィン等を挙げることができる。なお、上記カルボン酸変性ポリオレフィンとは、オレフィン系重合体にエチレン性不飽和カルボン酸又はその無水物を付加反応、グラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシ基又はその無水物基を有するオレフィン系重合体のことをいう。
【0121】
上記接着性樹脂の190℃、2,160g荷重下でのMFRの下限は0.1g/10分が好ましく、0.2g/10分がより好ましく、0.3g/10分がさらに好ましい。一方、上記MFRの上限は15g/10分が好ましく、10g/10分がより好ましく、5g/10分がさらに好ましい。なお、このような接着性樹脂は工業的に製造される市販品を用いることができ、例えばいずれも三井化学株式会社製の商品名「ADMER NF642E」「ADMER AT2235E」「ADMER NF408E」などが挙げられる。
【0122】
なお、層(3)は、本発明の効果を損なわない範囲で、接着性樹脂、アンカーコーティング剤及び接着剤以外に、層(1)と同様の他の任意成分を含んでいてもよい。
【0123】
アンカーコーティング剤及び接着剤を用いる場合、これらを層(3)に隣接する層の表面に塗布し、必要に応じ乾燥することで層(3)を形成できる。これらの塗布の前に塗布面にコロナ放電処理等の表面処理を行うことによって、接着性を高めることができる場合がある。接着剤としては、特に限定されず、例えば、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを混合し反応させる二液反応型ポリウレタン系接着剤を用いることが好ましい。また、アンカーコーティング剤及び接着剤は、公知のシランカップリング剤などを少量添加することで、さらに接着性を高めることができる場合がある。シランカップリング剤の好適な例としては、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基などの反応性基を有するシランカップリング剤を挙げることができる。
【0124】
層(3)の1層当たりの平均厚みの下限は、1μmが好ましく、3μmがより好ましい。層(3)の1層当たりの平均厚みの上限は300μmが好ましく、150μmがより好ましい。層(3)の1層当たりの平均厚みが上記範囲内であると、低コストで良好な接着性を示す傾向となる。
【0125】
[層(4)]
層(4)は、例えばEVOH、熱可塑性樹脂、及び接着性樹脂を含有する層である。また、層(4)は、本発明の成形体の製造工程における層(1)、層(2)及び層(3)の回収物を用いて形成されることが好ましい。回収物としては、本発明の成形体の製造工程において発生するバリ、検定の不合格品等が挙げられる。
【0126】
層(4)は、上述の層(2)の代わりとして用いることも可能であるが、一般的には層(2)よりも層(4)の機械的強度が低くなることが多いため、層(2)と層(4)とを積層して用いることが好ましい。本発明の成形体が容器である場合、外部から衝撃を受けた場合には、容器に応力の集中が生じ、応力集中部において衝撃に対する圧縮応力が容器内層側で働き、破損が起こるおそれがあるため、強度的に弱い層(4)は層(1)よりも外層側に配置することが好ましい。また、バリの発生が多い場合等、多量の樹脂をリサイクルする必要がある場合は、層(1)の両側に回収層である層(4)を配置することもできる。
【0127】
[層(5)]
層(5)は無機蒸着層である。層(5)は、通常、酸素や水蒸気に対するバリア性を有する層であり、透明性を有することが好ましい。層(5)は無機物を蒸着することで形成できる。無機物としては、金属(例えば、アルミニウム)、金属酸化物(例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム)、金属窒化物(例えば、窒化ケイ素)、金属窒化酸化物(例えば、酸窒化ケイ素)、または金属炭化窒化物(例えば、炭窒化ケイ素)等が挙げられる。中でも、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、または窒化ケイ素で形成される層(5)が、透明性に優れる観点から好ましい。
【0128】
層(5)の形成方法は、特に限定されず、真空蒸着法(例えば、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、分子線エピタキシー法等)、スパッタリング法やイオンプレーティング法等の物理気相成長法;熱化学気相成長法(例えば、触媒化学気相成長法)、光化学気相成長法、プラズマ化学気相成長法(例えば、容量結合プラズマ、誘導結合プラズマ、表面波プラズマ、電子サイクロトロン共鳴、デュアルマグネトロン、原子層堆積法等)、有機金属気相成長法等の化学気相成長法が挙げられる。
【0129】
層(5)の厚さは、無機蒸着層を構成する成分の種類によって異なるが、0.002~0.5μmが好ましく、0.005~0.2μmがより好ましく、0.01~0.1μmがさらに好ましい。この範囲で、成形体のバリア性や機械的物性が良好になる厚さを選択すればよい。層(5)の厚さが0.002μm以上であると、酸素や水蒸気に対する層(5)のバリア性が良好になる傾向となる。また、層(5)の厚さが0.5μm以下であると、層(5)の屈曲後のバリア性が維持される傾向となる。
【0130】
[層(6)]
層(6)は紙基材層である。層(6)に使用される紙基材としては、適用する紙容器の用途に応じて、種々の賦型性、耐屈曲性、剛性、腰、強度等を有する任意の紙を使用することができ、例えば、主強度材であり、強サイズ性の晒または未晒の紙、あるいは、純白ロール紙、クラフト紙、板紙、加工紙、ミルク原紙等の各種の紙を使用することができる。紙基材層は、これらの紙を複数層重ねてラミネートしたものであってもよい。紙基材層は、坪量80~600g/m、好ましくは坪量100~450g/mであり、厚さ110~860μm、好ましくは140~640μmの範囲である。紙基材層がこれより薄いと、容器としての強度が不足し、またこれより厚いと、剛性が高くなりすぎて、加工が困難になり得る。なお、紙基材層には、例えば、文字、図形、記号、その他の所望の絵柄を通常の印刷方式にて任意に形成することができる。
【0131】
(成形体の製造方法)
本発明の成形体は、ガスバリア樹脂組成物(α)を用いること以外は、各種溶融成形等、従来公知の成形方法により製造することができる。ガスバリア樹脂組成物(α)を溶融成形する方法としては、例えば押出成形、キャスト成形、インフレーション押出成形、ブロー成形、溶融紡糸、射出成形、射出ブロー成形等が挙げられる。後述するフィルムまたはシート、熱収縮フィルムまたはシート、包装材、産業用フィルムまたはシート、熱成形容器、カップ状容器、トレイ状容器、ブロー成形容器、燃料容器、ボトル容器、チューブ、多層パイプ及び紙容器を製造する方法も、本発明の成形体の製造方法の形態に含まれる。
【0132】
<フィルムまたはシート>
本発明のフィルムまたはシートは、本発明の成形体を備える。フィルムとは、「平均厚みが250μm未満の膜状の軟質性のもの」をいい、シートとは「平均厚みが250μm以上の薄い板状の軟質性のもの」をいう。熱収縮「フィルムまたはシート」、及び産業用「フィルムまたはシート」におけるフィルムとシートとの区別においても同様である。以下、「フィルムまたはシート」を「フィルム等」とも称する。本発明のフィルム等は、本発明の成形体からなるフィルム等であってよい。すなわち、本発明の成形体の一実施形態は、フィルム等であってよい。本発明のフィルム等は環境負荷が低く、ガスバリア性、外観及び生産性も良好である。本発明のフィルム等は、層(1)のみからなる単層フィルムであってもよく、多層フィルムであってもよい。本発明のフィルム等の平均厚みは、例えば1μm以上300μm未満であることが好ましく、5μm以上100μm未満であることがより好ましい。本発明のフィルム等は、各種包装材などとして好適に用いることができる。
【0133】
本発明のフィルム等の、JIS B0601に準拠して測定される少なくとも一方の表面の算術平均粗さ(Ra)は1.0μm以下が好ましく、0.8μm以下がより好ましく、0.6μm以下がさらに好ましく、0.4μm以下が特に好ましい。本発明のフィルム等の、少なくとも一方の表面の算術平均粗さ(Ra)は0.05μm以上が好ましく、0.10μm以上がより好ましく、0.15μm以上がさらに好ましく、0.20μm以上が特に好ましい。本発明のフィルム等の少なくとも一方の表面の算術平均粗さ(Ra)を上記範囲とすると、耐破断性が優れる。
【0134】
本発明のフィルム等の、JIS B0601に準拠して測定される少なくとも一方の表面の輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は1000μm以下が好ましく、800μm以下がより好ましく、600μm以下がさらに好ましく、400μm以下が特に好ましい。本発明のフィルム等の、少なくとも一方の表面の輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、150μm以上がさらに好ましく、200μm以上が特に好ましい。本発明のフィルム等の少なくとも一方の表面の輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)を上記範囲とすると、耐破断性が優れる。なお上記したJIS B0601とは例えばJIS B0601:2001を表す。
【0135】
本発明のフィルム等は、未延伸フィルム等であってもよいが、延伸されていることが好ましい。延伸されていることで強度等が向上する。さらに、本発明のフィルム等が延伸フィルム等である場合、延伸に伴って生じうるスジ状のムラの発生が少ないため、外観やガスバリア性等も良好である。
【0136】
(フィルム等の製造方法)
本発明のフィルム等は公知の方法で製造できる。フィルム等の形成方法としては特に限定されず、例えば溶融法、溶液法、カレンダー法等が挙げられ、溶融法が好ましい。溶融法としては、Tダイ法(キャスト法)、インフレーション法が挙げられ、キャスト法が好ましい。特に、本発明のフィルム等を構成する樹脂組成物をキャスティングロール上に溶融押出するキャスト成形工程、及び上記樹脂組成物から得られる未延伸フィルム等を延伸する工程を備える方法で製造することが好ましい。溶融法の際の溶融温度はガスバリア樹脂組成物(α)の融点等により異なるが、150~300℃程度が好ましい。また、本発明のフィルム等が多層である場合、その製造方法は公知の方法で製造でき、共押出法、ドライラミネート法、サンドラミネート法、押出ラミネート法、共押出ラミネート法、溶液コート法、などを採用できる。
【0137】
延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよく、二軸延伸が好ましい。二軸延伸は、逐次二軸延伸及び同時二軸延伸のいずれでもよい。面積換算の延伸倍率の下限は6倍が好ましく、8倍がより好ましい。延伸倍率の上限は15倍が好ましく、12倍がより好ましい。延伸倍率が上記範囲であると、フィルム等の厚みの均一性、ガスバリア性及び機械的強度の点を向上させることができる。また、延伸温度としては、例えば60℃以上120℃以下とすることができる。
【0138】
本発明のフィルム等の製造方法は、延伸工程の後に、延伸されたフィルム等を熱処理する工程を備えていてもよい。熱処理温度は、通常、延伸温度よりも高い温度に設定され、例えば120℃超200℃以下とすることができる。
【0139】
本発明のフィルム等は、食品包装容器、医薬品包装容器、工業薬品包装容器、農薬包装容器等の各種包装容器の材料として好適に用いられる。また、後述する熱収縮フィルム等及び産業用フィルム等も、本発明のフィルム等の一実施形態に含まれる。
【0140】
<熱収縮フィルムまたはシート>
本発明の熱収縮フィルムまたはシート(熱収縮フィルムまたは熱収縮シート)は、本発明の成形体を備える。本発明の熱収縮フィルム等は、本発明の成形体からなる熱収縮フィルム等であってよい。すなわち、本発明の成形体の一実施形態は、熱収縮フィルム等であってよい。本発明の熱収縮フィルム等は環境負荷が低く、ガスバリア性、外観及び生産性も良好である。本発明の熱収縮フィルム等においては、単層または多層フィルム等を製膜した後、延伸工程に供されることで、熱収縮性が付与される。本発明の熱収縮フィルム等の層(1)に用いられるEVOHは、良好な熱収縮性を示す観点から上記式(I)で表される変性基(構造)を有していることが好ましい。
【0141】
本発明の熱収縮フィルム等は、層(1)と層(2)とを有する多層フィルム等であることが好適である。このとき、一方の外層に層(1)を、他方の外層に層(2)を配置する構成、又は、層(1)を中間層とし、その両側の外層に層(2)を配置する構成が好ましく、後者がより好適である。層(1)と層(2)とが接着性樹脂層を介して接着されてなることも好ましい。
【0142】
延伸前の多層フィルム等における、層(1)の厚みは、3~250μmが好適であり、10~100μmがより好適である。一方、層(2)の厚みは特に制限されず、要求される透湿性、耐熱性、ヒートシール性、透明性などの性能や用途を考慮して適宜選択される。延伸前の多層フィルム等の全体の厚みは特に限定されないが、通常15~6000μmである。
【0143】
本発明の熱収縮フィルム等における層(2)に用いられる熱可塑性樹脂としては、ヒートシール性及び熱収縮性が優れる観点からはエチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、ポリエチレン等のポリオレフィンが好適に用いられ、突刺強度や耐ピンホール性等の機械強度が優れる観点からはポリアミドが好適に用いられる。
【0144】
本発明の熱収縮フィルム等における層(2)に用いられる熱可塑性樹脂としてポリオレフィンを用いた場合の熱収縮フィルムの構成例として、ポリエチレン層/層(3)/層(1)/層(3)/ポリエチレン層、ポリプロピレン層/層(3)/層(1)/層(2)/ポリプロピレン層、アイオノマー層/層(3)/層(1)/層(3)/アイオノマー層、エチレン-酢酸ビニル共重合体層/層(3)/層(1)/層(3)/エチレン-酢酸ビニル共重合体層等が好適なものとして挙げられる。
【0145】
本発明の熱収縮フィルム等における層(2)に用いられる熱可塑性樹脂としてポリアミドを用いる場合、ポリアミド層と層(1)とが隣接する構成が好ましく用いられる。このような構成をとることで優れたバリア性と耐突き刺し強度とが得られる。さらに層(1)に代えて汎用のバリア性樹脂を用いた場合に比べ、収縮後における透明性が優れる。ポリアミド層と層(1)との間に接着性樹脂層を挟まない構成がより好ましい。
【0146】
このようにポリアミド層と層(1)が隣接する場合の構成として、ポリアミド層/層(1)/層(3)/層(2)、層(2)/ポリアミド層/層(1)/ポリアミド層/層(2)、ポリアミド層/層(1)/ポリアミド層/層(2)、ポリアミド層/ポリアミド層/層(1)/ポリアミド層/層(2)などの構成が例示できる。ポリアミド層/層(1)/層(3)/エチレン-酢酸ビニル共重合体層、ポリエチレン層/層(3)/ポリアミド層/層(1)/ポリアミド層/層(3)/ポリエチレン層、ポリアミド層/層(1)/ポリアミド層/層(3)/ポリエチレン層、ポリアミド層/層(3)/ポリアミド層/層(1)/ポリアミド層/層(3)/ポリエチレン層等が好適なものとして挙げられる。
【0147】
上記多層フィルム等は各種の製造方法によって得ることができ、共押出法、ドライラミネート法、サンドラミネート法、押出ラミネート法、共押出ラミネート法、溶液コート法、などを採用することができる。これらの内、共押出法は、ガスバリア樹脂組成物(α)と、他の熱可塑性樹脂を、押出機より同時に押出して溶融状態下に積層し、ダイス出口から多層フィルム状に吐出する方法である。共押出法で製膜する場合、層(1)と層(2)を層(3)を挟んで積層する方法が好ましい。接着性樹脂としては、カルボキシル基、カルボン酸無水物基又はエポキシ基を有するポリオレフィンを用いることが好ましい。このような接着性樹脂は、ガスバリア樹脂組成物(α)との接着性にも、カルボキシル基、カルボン酸無水物基又はエポキシ基を含有しない他の熱可塑性樹脂との接着性にも優れている。
【0148】
得られた単層又は多層のフィルム等を延伸することで本発明の熱収縮フィルム等を製造する。延伸は、一軸延伸であってもよいし、二軸延伸であってもよい。二軸延伸は、同時二軸延伸であってもよいし、逐次二軸延伸であってもよい。延伸方法としては、テンター延伸法、チューブラー延伸法、ロール延伸法などが例示される。本発明の熱収縮フィルム等は、高い倍率で延伸されたものであることが好適である。具体的には、面積倍率7倍以上に延伸されてなる熱収縮フィルムが特に好適である。延伸温度は、通常50~130℃である。フィルム等を延伸する前に、放射線照射などによる架橋を施してもよい。収縮性をより高める観点からは、フィルム等を延伸した後に、速やかに冷却することが好適である。
【0149】
本発明の熱収縮フィルム等は、食品包装容器、医薬品包装容器、工業薬品包装容器、農薬包装容器等の各種包装容器の材料として好適に用いられる。
【0150】
<包装材>
本発明の包装材は、本発明のフィルムもしくはシートまたは熱収縮フィルムもしくはシートを備える。本発明の包装材は、本発明のフィルムもしくはシートまたは熱収縮フィルムもしくはシートからなる包装材であってよい。すなわち、本発明の成形体の一実施形態は、包装材であってよい。本発明の包装材は、環境負荷が低く、ガスバリア性、外観及び生産性も良好である。
【0151】
本発明の包装材は、単層フィルム等であってもよく、多層フィルム等であってもよい。また、多層フィルム等は、樹脂以外から形成される層、例えば紙層、金属層等をさらに有していてもよい。本発明の包装材は、フィルムまたはシート形状のままのものであってもよいし、フィルム又はシートが二次加工されたものであってもよい。二次加工することで得られる包装材としては例えば、(1)フィルム又はシートを真空成形、圧空成形、真空圧空成形等、熱成形加工することにより得られるトレーカップ状容器、(2)フィルム又はシートにストレッチブロー成形等を行って得られるボトル、カップ状容器、(3)フィルム又はシートをヒートシールすることにより得られる袋状容器等が挙げられる。なお、二次加工法は、上記に例示した各方法に限定されることなく、例えば、ブロー成形等の上記以外の公知の二次加工法を適宜用いることができる。
【0152】
本発明の包装材は、例えば食品、飲料物、農薬や医薬等の薬品、医療器材、機械部品、精密材料等の産業資材、衣料などを包装するために使用される。特に、本発明の包装材は、酸素に対するバリア性が必要となる用途、包装材の内部が各種の機能性ガスによって置換される用途に好ましく使用される。本発明の包装材は、用途に応じて種々の形態、例えば縦製袋充填シール袋、真空包装袋、スパウト付パウチ、ラミネートチューブ容器、容器用蓋材等に形成される。
【0153】
<真空包装袋>
本発明の包装材は真空包装袋であってもよい。真空包装袋の一例としては、内容物が包装される内部と、外部とを隔てる隔壁として本発明のフィルム等を備え、上記内部が減圧された状態となっている袋状の容器である。真空包装袋においては、例えば本発明の2枚のフィルム等が重なり合わされ、この2枚のフィルム等の周縁部が互いにシールされている。真空包装袋においては、上記隔壁としては、多層フィルム等が好ましい。真空包装袋は、ノズル式又はチャンバー式の真空包装機を用いて製造することができる。
【0154】
当該真空包装袋は、真空状態で包装することが望まれる用途、例えば食品、飲料物等の保存に使用される。また、当該真空包装袋は、真空断熱体の外包材として用いることもできる。
【0155】
<産業用フィルムまたはシート>
本発明の産業用フィルムまたはシート(産業用フィルムまたは産業用シート)は、本発明の単層又は多層フィルム等の成形体を備える。本発明の産業用フィルム等は、本発明の成形体からなる産業用フィルム等であってよい。すなわち、本発明の成形体の一実施形態は、産業用フィルム等であってよい。本発明の産業用フィルム等は環境負荷が低く、ガスバリア性、外観及び生産性も良好である。産業用フィルム等の具体例としては、農業用フィルム等、埋立用フィルム等、建築用フィルム等があげられる。
【0156】
本発明の産業用フィルム等は、多層フィルム等であることが好ましく、層(2)としては、水分による層(1)のガスバリア性能の低下を防ぐ目的で、疎水性熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。具体的には、ポリオレフィン系樹脂:直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超低密度直鎖状ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなどのポリエチレン類、およびエチレン-α-オレフィン共重合体などのポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体などのポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテンなど;これらポリオレフィンを不飽和カルボン酸またはそのエステルでグラフト変性したグラフト化ポリオレフィン、環状ポリオレフィン系樹脂;アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン、ビニルエステル系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレンなどのハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトンなどが挙げられ、中でも機械的強度や成形加工性の点で、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレンが特に好ましい。
【0157】
上記疎水性熱可塑性樹脂の溶融粘度に関し、210℃、2160g荷重下におけるMFRの下限値としては、1.0g/10分であることが好ましく、2.0g/10分であることがより好ましく、上限値としては、100g/10分であることが好ましく、60g/10分であることがより好ましい。このような溶融粘度の疎水性熱可塑性樹脂組成物を用いることで、層乱れのない良好な多層フィルム等を得ることができる。
【0158】
本発明の産業用フィルム等の層構造としては、以下の層構成が例示できる。層構成は左側のものほど、外側(外部の環境にさらされる側)の層となることを表す。
5層 1/3/2/3/1、2/3/1/3/2、2/3/1/3/1
6層 2/3/1/3/2/2
7層 2/3/1/3/1/3/2、2/2/3/1/3/2/2
【0159】
特に水分による酸素バリア性の低下を防ぐ目的で、中間層として層(1)を用い、外層として層(2)を用いた構成が好ましく、2/3/1/3/2、2/2/3/1/3/2/2等の構成がより好ましい。
【0160】
本発明の産業用フィルム等の厚みとしては、その全厚みが通常5~5mm、好ましくは10~4.5mm、より好ましくは15~4mm、特に好ましくは20~3.5mmである。また、産業用フィルム等中の層(2)(疎水性樹脂組成物層等)の厚みは、特に限定しないが、通常0.5~2.5mm、好ましくは1~2mm、特に好ましくは1~1.5mmである。層(1)の厚みは、特に限定しないが、全層厚みの1~20%、好ましくは2~18%、より好ましくは3~15%の範囲であることが好ましい。
【0161】
上記建築用フィルム等としては、例えば壁紙等があげられる。本発明の産業用フィルム等の一実施形態としての壁紙は、環境負荷が小さく、生産性に優れる。
【0162】
上記埋立用フィルム等としては、ジオメンブレンやランドフィルシート等があげられる。ジオメンブレンとは、廃棄物処理場などの遮水工として使用されるシートである。また、ランドフィルシートとは、産業廃棄物等から出てくる有害物質の拡散を防止するシートであり、例えば、ラドンガスの拡散を防止するために用いることができる。
【0163】
上記農業用フィルム等においては、ガスバリア樹脂組成物(α)に酸化防止剤または耐紫外線剤(紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤)等を含むことが、屋外での長期使用が可能となる観点から好ましい。上記農業用フィルム等は、多層フィルム等であることが好ましく、層(2)としては、水分による層(1)のガスバリア性能の低下を防ぐ目的で、疎水性熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
【0164】
層(2)は、耐紫外線剤や粘着性成分を配合することが好ましい。耐紫外線剤としては、例えば紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤などが挙げられる。
【0165】
上記の耐紫外線剤の疎水性熱可塑性樹脂に対する配合量は上記疎水性熱可塑性樹脂に対して通常1~10質量%、好ましくは2~8質量%、特に好ましくは3~5質量%である。配合量が上記範囲より少ない場合、紫外線によって疎水性熱可塑性樹脂が劣化しやすくなる。一方、配合量が上記範囲より多い場合、疎水性熱可塑性樹脂の機械的強度が低下する。
【0166】
上記の粘着性成分としては、ポリイソブテンなどの脂肪族飽和炭化水素樹脂や、脂環族飽和炭化水素樹脂などが挙げられ、上記疎水性熱可塑性樹脂に対する配合量は通常1~30質量%、好ましくは2~20質量%、特に好ましくは3~15質量%である。配合量が適切であれば上記農業用フィルム等を用いてラッピングする際にフィルム等同士が圧着され、密封が維持されやすくなる。配合量が上記範囲より少ない場合、フィルム等間に隙間が発生し、内部に空気が侵入するため、内容物の長期保管性が悪くなる。また配合量が上記範囲より多い場合、多層フィルムのブロッキングが起こり、フィルムロール等から巻き出すことが出来なくなる。
【0167】
上記農業用フィルム等の厚みとしては、その全厚みが通常5~200μm、好ましくは10~150μm、より好ましくは15~100μm、特に好ましくは20~50μmである。また、農業用フィルム等中の層(2)(疎水性樹脂組成物層等)の厚みは、特に限定しないが、通常0.5~200μm、好ましくは1~100μm、特に好ましくは1~10μmである。層(1)の厚みは、特に限定しないが、全層厚みの1~20%、好ましくは2~18%、より好ましくは3~15%の範囲であることが好ましい。
【0168】
上記農業用フィルム等を用いるサイロの形態としては、特に限定されるものではなく、例えばラップサイロ、バンカーサイロ、バッグサイロ、チューブサイロ、スタックサイロが挙げられるが、特にラップサイロに好適である。
【0169】
ラップサイロを作製する場合には、まず牧草をロールベーラなどの機械を用いて所望の容量に成型する。そして、成型した牧草にベールラッパなどの機械を用いて上記農業用フィルム等を巻きつけ、密封する。密封の際の残存空気量が内容物の品質に影響を与えるため、農業用フィルム等に張力をかけて延伸しながら巻きつけ、内容物にフィルム等を密着させることが好ましい。
【0170】
上記農業用フィルム等は、温室用フィルム、土壌燻蒸用フィルム、サイレージフィルム、サイロバッグ、穀物保存用袋等、様々な用途で使用することができる。
【0171】
<チューブ>
本発明のチューブは、本発明の成形体を備える。本発明のチューブは、本発明の成形体からなるチューブであってよい。すなわち、本発明の成形体の一実施形態は、チューブであってよい。本発明のチューブは、環境負荷が低く、ガスバリア性、外観及び生産性も良好である。
【0172】
本発明のチューブの製造方法は特に限定されず、例えば、共押出成形、共射出成形、押出コーティング等の溶融成形により、直接チューブ状に成形する方法、本発明のフィルムまたはシートを熱溶着してチューブ状に成形する方法、本発明のフィルムまたはシートを、接着剤を用いてラミネートしてチューブ状に成形する方法等が挙げられる。
【0173】
<多層パイプ>
本発明の多層パイプは、本発明の成形体を備える。本発明の多層パイプは、本発明の成形体からなる多層パイプであってよい。すなわち、本発明の成形体の一実施形態は、多層パイプであってよい。本発明の多層パイプは環境負荷が低く、ガスバリア性、外観及び生産性も良好である。本発明の多層パイプは、長期使用における酸化劣化を抑制する観点から、ガスバリア樹脂組成物(α)に酸化防止剤を含むことが好ましい。上記酸化防止剤としては、高温での使用における酸化劣化を抑制する観点からヒンダードアミン基を有する化合物及び/またはヒンダードフェノール基を有する化合物であることが好ましい。
【0174】
多層パイプの層構成としては、上記成形体の層構成を採用することができる。多層パイプが温水循環用パイプとして用いられる場合には、層(2)を最外層とする層(1)/層(3)/層(2)の3層構成が一般的に採用される。これは、既存の架橋ポリオレフィンなど単層パイプの製造ラインに、ガスバリア樹脂組成物(α)と接着性樹脂の共押出コーティング設備を付加する事により、容易に本発明の多層パイプの製造ラインに転用でき、実際に多くのパイプメーカーがこの構成を採用しているためである。
【0175】
層(1)の両側にポリオレフィン層などを設けて、層(1)を中間層として使用することは、層(1)の傷付き防止などに有効である。しかしながら、多層パイプを床暖房パイプなどの温水循環用パイプとして用いる場合には、通常床下に埋設されるため、物理的な衝撃による層(1)の傷付きなどのリスクは比較的小さいため、むしろガスバリア性の観点から、層(1)を最外層に配することが望ましい。ガスバリア樹脂組成物(α)は大きな湿度依存性を示し、高湿度条件下ではバリア性が低下する事から、層(1)を最外層に配することにより、主として層(1)が水と接触するパイプ内表面より最も遠い場所に位置することとなり、多層パイプのバリア性能面からは最も有利な層構成となる。一方で、一般的にEVOH層を最外層に配する場合、空気と直接接触するため、酸化劣化の影響を受けやすい。このような環境下において、ヒンダードアミン基を有する化合物及び/またはヒンダードフェノール基を有する酸化防止剤を含むガスバリア樹脂組成物(α)を用いた場合、高温下でも酸化劣化しにくい最外層に配することとなるため、良好なバリア性を有しつつ酸化劣化によるクラックの発生を低減した多層パイプを提供するという効果がより有効に発揮される。
【0176】
また、本発明の多層パイプが地域冷暖房などの断熱多層パイプに用いられる場合には、層(1)を層(2)より内側に配する層(2)/層(3)/層(1)の3層構成(以下、積層体1と略称することがある)、もしくは層(1)の傷付き防止の観点から層(2)/層(3)/層(1)/層(3)/層(2)の5層構成(以下、積層体2と略称することがある)を有することが好ましい。
【0177】
地域冷暖房などの断熱多層パイプの構成は特に限定されないが、例えば、内側から、内管、内管の周りを覆う断熱発泡体層、そして外層として上記積層体1又は2の順で配置されることが好ましい。
【0178】
内管に使われるパイプの種類(素材)、形状及び大きさは、ガスや液体などの熱媒体を輸送できるものであれば特に限定はなく、熱媒体の種類や、配管材の用途及び使用形態等に応じて適宜選択することができる。具体的には、鋼、ステンレス、アルミニウム等の金属、ポリオレフィン(ポリエチレン、架橋ポリエチレン(PEX)、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテンなど)、及び上記積層体1又は2などが挙げられ、これらの中でも架橋ポリエチレン(PEX)が好適に用いられる。
【0179】
断熱発泡体には、ポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム、ポリスチレンフォーム、フェノールフォーム、ポリイソシアヌレートフォームを用いることができ、断熱性能向上の観点から、ポリウレタンフォームが好適に用いられる。
【0180】
断熱発泡体の発泡剤としてはフロンガス、各種代替フロン、水、塩化炭化水素、炭化水素、二酸化炭素等が用いられるが、発泡効果、環境への影響の観点から炭化水素、具体的にはn-ペンタン、シクロペンタンが好適に用いられる。
【0181】
断熱多層パイプの製造方法としては、例えば、熱媒体を輸送する内管を、パイプ状の外層の中に入れて内管をスペーサーで固定し二重管とした後、内管と外層の間隙部に各種発泡体原液を注入し、発泡及び固化させる方法が挙げられる。上記スペーサーの素材は特に限定されないが、スペーサーによる内管及び外層への傷を減らすため、ポリエチレン又はポリウレタンであることが好ましい。
【0182】
(多層パイプ等の製造方法)
以下、多層パイプの製造方法について説明するが、この製造方法の一部又は全部は他の成形体(フィルム、シート等)にも適用することができる。本発明の多層パイプは、例えば、上述のように架橋ポリオレフィンなどの単層パイプの上にガスバリア樹脂組成物(α)と接着性樹脂を共押出コーティングすることにより製造することができる。単層パイプ上にガスバリア樹脂組成物(α)と接着性樹脂の共押出コーティングを実施する際は、単純に単層パイプ上にガスバリア樹脂組成物(α)と接着性樹脂の溶融したフィルムをコートしても良いが、パイプとコート層の間の接着力が不十分な場合があり、長期間の使用中にコート層が剥離してガスバリア性を失う可能性がある。その対策としては、コート前にコートするパイプの表面をフレーム処理及び/又はコロナ放電処理することが有効である。
【0183】
多層パイプを製造するためのその他の多層成形方法としては、樹脂層の種類に対応する数の押出機を使用し、この押出機内で溶融された樹脂の流れを重ねあわせた層状態で同時押出成形する、いわゆる共押出成形により実施する方法が挙げられる。また、ドライラミネーションなどの多層成形方法も採用され得る。
【0184】
多層パイプの製造方法は、成形直後に10~70℃の水で冷却を行う工程を含むとよい。すなわち、溶融成形後、層(1)が固化する前に10~70℃の水で冷却することにより、層(1)を固化させることが望ましい。冷却水の温度が低すぎると、続く二次加工工程において多層パイプを屈曲させる場合に、屈曲部の層(1)に歪みによるクラックが生じやすい。歪みによるクラックが生じやすくなる原因の詳細は明らかでないが、成形物中の残留応力が影響しているものと推測される。この観点から、冷却水の温度は15℃以上がより好ましく、20℃以上がさらに好ましい。一方、冷却水の温度が高すぎても、二次加工の際に屈曲部の層(1)に歪みによるクラックを生じやすい。この原因の詳細も十分に解明されていないが、層(1)の結晶化度が大きくなりすぎるためと推定される。この観点より冷却水の温度は60℃以下がより好ましく、50℃以下がさらに好ましい。
【0185】
上記の方法で得られた多層パイプを二次加工することにより、各種成形体を得ることができる。二次加工法としては、特に限定されず、公知の二次加工法を適宜用いることができるが、例えば、多層パイプを80~160℃に加熱した後所望の形に変形させた状態で、1分~2時間固定することにより加工する方法が挙げられる。
【0186】
<熱成形容器>
本発明の熱成形容器は、本発明の成形体を備える。本発明の熱成形容器は、本発明の成形体からなる熱成形容器であってよい。すなわち、本発明の成形体の一実施形態は、熱成形容器であってよい。本発明の熱成形容器は、環境負荷が低く、ガスバリア性、外観及び生産性も良好である。本発明の熱成形容器は、酸素バリア性が要求される用途、例えば食品、化粧品、医化学薬品、トイレタリー等の種々の分野で利用される。この熱成形容器は、例えば単層または多層のフィルムまたはシートを熱成形することで、収容部を有するものとして形成される。
【0187】
(収容部)
収容部は、食品等の内容物を収容する部分である。この収容部の形状は、内容物の形状に対応して決定される。具体的には、当該熱成形容器は、例えばカップ状容器、トレイ状容器、バッグ状容器、ボトル状容器、パウチ状容器等として形成される。
【0188】
収容部の形態は、一つの指標として、絞り比(S)で表すことができる。ここで、絞り比(S)とは、容器の最深部の深さを容器の開口に内接する最大径の円の直径で割った値である。すなわち、絞り比(S)は、値が大きいほど底の深い容器であり、値が小さいほど底が浅い容器であることを意味する。例えば、熱成形容器がカップ状である場合には、絞り比(S)が大きく、トレイである場合には絞り比(S)が小さい。なお、内接する最大径の円の直径は、例えば収容部の開口が円形である場合には円の直径、楕円である場合には短径(短軸長さ)、長方形である場合には短辺の長さである。
【0189】
絞り比(S)は、フィルムまたはシート厚みによって好適値が異なる。当該熱成形容器がフィルムを熱成形したものである場合、絞り比(S)としては0.2以上が好ましく、0.3以上がより好ましく、0.4以上がさらに好ましい。一方、当該熱成形容器がシートを成形したものである場合、絞り比(S)としては0.3以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、0.8以上がさらに好ましい。
【0190】
当該熱成形容器において、層(1)の一方の面側に積層される他の層の合計厚みIと、層(1)の他方の面側に積層される他の層の合計厚みOとの厚み比(I/O)の下限としては、1/99が好ましく、30/70がより好ましい。また、上記I/Oの上限としては、70/30が好ましく、55/45がより好ましい。なお、熱成形容器の全層又は単層の厚みは、ミクロトームを用いて熱成形容器の複数箇所から切り出したサンプルについて、光学顕微鏡観察により測定した厚みの平均値である。
【0191】
熱成形容器の全体平均厚みの下限としては、300μmが好ましく、500μmがより好ましく、700μmがさらに好ましい。また、熱成形容器の全体平均厚みの上限としては、10000μmが好ましく、8500μmがより好ましく、7000μmがさらに好ましい。なお、全体平均厚みは、熱成形容器の収容部における全層の厚みをいう。全体平均厚みが上記上限を超えると、熱成形容器の製造コストが上昇する。一方、全体平均厚みが上記下限未満であると、剛性が保てず、熱成形容器が容易に破壊されてしまうおそれがある。
【0192】
(熱成形容器に用いる多層シートの製造方法)
熱成形容器の製造に用いる単層または多層のフィルム等の一つである多層シートの製造方法について説明する。多層シートは、共押出成形装置を用いて形成できる。この多層シートは、例えば各層を形成するガスバリア樹脂組成物(α)や他の樹脂などをそれぞれ別々の押出機に仕込み、これらの押出機で共押出することで所定の層構成を有するものとして形成できる。
【0193】
各層の押出成形は、一軸スクリューを備えた押出機を所定の温度で運転することにより行われる。層(1)を形成する押出機の温度は、例えば170℃以上260℃以下とされる。また、層(2)~層(4)を形成する押出機の温度は、例えば150℃以上260℃以下とされる。
【0194】
(熱成形)
本発明の熱成形容器は、多層シート等を加熱して軟化させた後に、金型形状に成形することで形成できる。熱成形方法としては、例えば真空又は圧空を用い、必要によりプラグを併せ用いて金型形状に成形する方法(ストレート法、ドレープ法、エアスリップ法、スナップバック法、プラグアシスト法等)、プレス成形する方法などが挙げられる。成形温度、真空度、圧空の圧力、成形速度等の各種成形条件は、プラグ形状や金型形状、原料樹脂の性質等により適当に設定される。
【0195】
成形温度は、成形するのに十分なだけ樹脂が軟化できる温度であれば特に限定されず、多層シート等の構成によってその好適な温度範囲は異なる。なお、この加熱温度は、通常、樹脂の融点よりも低い。具体的な多層シート等の加熱温度の下限は通常50℃であり、60℃が好ましく、70℃がより好ましい。加熱温度の上限は例えば180℃であり、160℃であってもよい。
【0196】
(熱成形容器の層構成)
本発明の熱成形容器は、少なくとも層(1)を備えていればよく、単層からなってもよいし複数層からなってもよい。熱成形容器が複数層である場合の層構成は、用途等に応じて適宜設定すればよい。
【0197】
本発明の熱成形容器が複数層からなる場合の層構成としては、層(2)を最外層に配置することが好ましい。すなわち、収容部の内表面から外表面に向かって、層(2)/層(3)/層(1)/層(3)/層(2)(以下、「(内表面)(2)/(3)/(1)/(3)/(2)(外表面)」のように表記する)が耐衝撃性の観点から好ましい。また、回収層である層(4)を含む場合の層構成としては、例えば
(内表面)(2)/(3)/(1)/(3)/(4)/(2)(外表面)、
(内表面)(2)/(4)/(3)/(1)/(3)/(4)/(2)(外表面)、
(内表面)(4)/(3)/(1)/(3)/(4)(外表面)
等が挙げられる。なお、これらの層構成において層(2)の代わりに層(4)を備える層構成であってもよい。なお、層(1)~層(4)がそれぞれ複数用いられている場合、それぞれの層を構成する樹脂は同一でも異なっていてもよい。
【0198】
<カップ状容器>
次に、本発明の熱成形容器について、図1及び図2に示すカップ状容器を例にとって、具体的に説明する。但し、カップ状容器は熱成形容器の一例に過ぎず、以下のカップ状容器の説明は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0199】
図1及び図2のカップ状容器1は、収容部としてのカップ本体2、及びフランジ部3を備える。このカップ状容器1は、カップ本体2に内容物を収容し、カップ本体2の開口4を塞ぐようにフランジ部3に蓋7をシールすることで使用される。この蓋7としては、例えば樹脂フィルム、金属箔、金属樹脂複合フィルム等が挙げられ、これらの中で、樹脂フィルムに金属層を積層した金属樹脂複合フィルムが好ましい。樹脂フィルムとしては、例えばポリエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム等が挙げられる。金属層は特に限定されず、金属箔及び金属蒸着層が好ましく、ガスバリア性及び生産性の観点からアルミニウム箔がより好ましい。
【0200】
カップ状容器1は、通常、多層シートを熱成形することで得られる。この多層シートは、少なくとも層(1)を備え、この層(1)に他の層が積層されることが好ましい。他の層としては、例えば層(2)、層(3)、層(4)等が挙げられる。多層シートの層構造の具体例は、上述した通りである。
【0201】
(カップ状容器の製造方法)
カップ状容器1は、図3に示すように連続多層シート21を加熱装置30により加熱して軟化させた後に、金型装置40を用いて熱成形することで製造される。
【0202】
(加熱装置)
加熱装置30は、一対のヒーター(ヒーター31及びヒーター32)を備えるものであり、これらのヒーター31及びヒーター32の間を連続多層シート21が通過可能とされている。なお、加熱装置30としては、熱プレスにより加熱するものを用いることもできる。
【0203】
(金型装置)
金型装置40は、プラグアシスト法による熱成形に適するものであり、チャンバー(図示略)内に収容される下型50及び上型51を備える。下型50及び上型51は、それぞれ個別に上下方向に移動可能であり、離間状態において、これらの下型50及び上型51の間を連続多層シート21が通過可能とされている。下型50は、カップ状容器1の収容部を形成するための複数の凹部52を有する。上型51は、下型50に向けて突出する複数のプラグ53を備える。複数のプラグ53は、下型50の複数の凹部52に対応した位置に設けられている。各プラグ53は、対応する凹部52に挿入可能である。
【0204】
(熱成形)
まず、図3及び図4(A)に示すように、加熱装置30により軟化させた連続多層シート21に対して、下型50を上動させることで下型50に密着させると共に連続多層シート21を若干持ち上げて連続多層シート21にテンションを付与する。次に、図4(B)に示すように、上型51を下動させることでプラグ53を凹部52に挿入する。
【0205】
続いて、図4(C)に示すように、上型51を上動させてプラグ53を凹部52から離間させた後にチャンバー(図示略)内を真空引きし、連続多層シート21を凹部52の内面に密着させる。その後、エアーの噴射により成形部を冷却することで形状を固定する。続いて、図4(D)に示すように、チャンバー(図示略)内を大気開放すると共に下型50を下動させて下型50を離型することで一次成形品が得られる。この一次成形品を切断することで、図1及び図2に示すカップ状容器1が得られる。
【0206】
<熱成形容器のその他の実施形態>
本発明の熱成形容器は、上述した形態に限定されず、トレイ状容器も本発明の熱成形容器に含まれる。トレイ状容器も、上述したカップ状容器等と同様の方法により製造することができる。当該トレイ状容器は、食品トレイ等として好適に用いられる。
【0207】
<ブロー成形容器>
本発明のブロー成形容器は、本発明の成形体を備える。本発明のブロー成形容器は、本発明の成形体からなるブロー成形容器であってよい。すなわち、本発明の成形体の一実施形態は、ブロー成形容器であってよい。本発明のブロー成形容器は環境負荷が低く、バリア性、外観及び生産性も良好である。本発明のブロー成形容器は、ガスバリア性、耐油性等が要求される各種容器に使用できる。
【0208】
本発明のブロー成形容器は、例えば、容器内部表面から容器外部表面に向かって、層(2)、層(3)、層(1)、層(3)、層(4)、層(2)の順(以降、(内)2/3/1/3/4/2(外)のように表す)、(内)2/3/1/3/2(外)、(内)2/4/3/1/3/4/2(外)、(内)4/3/1/3/4(外)等の層構造のものを採用することができる。なお、層(2)の代わりに層(4)を備える構成でもよく、層(1)~(4)がそれぞれ複数用いられている配置の場合、それぞれの層を構成する樹脂は同一でも異なっていてもよい。
【0209】
本発明のブロー成形容器は、ガスバリア樹脂組成物(α)を用いてブロー成形する工程を有する製造方法により製造することが好ましい。ブロー成形は、ダイレクトブロー成形、インジェクションブロー成形、シートブロー成形、フリーブロー成形等の公知の方法により行うことができる。
【0210】
具体的には、例えば層(1)を形成するガスバリア樹脂組成物(α)ペレット、及び必要に応じて他の各層を形成する各樹脂を用い、ブロー成形機にて100℃~400℃の温度でブロー成形し、金型内温度10℃~30℃で10秒間~30分間冷却する。これにより、ブロー成形された中空容器を成形できる。ブロー成形の際の加熱温度は、150℃以上であってよく、180℃又は200℃以上であってよい。また、この加熱温度は、ガスバリア樹脂組成物(α)の融点以上であってよい。一方、この加熱温度の上限は350℃であってよく、300℃又は250℃であってよい。本発明のブロー成形容器は、燃料容器や各種ボトル等の種々の用途で利用される。
【0211】
<燃料容器>
本発明のブロー成形容器は、燃料容器として使用できる。本発明の燃料容器はフィルター、残量計、バッフルプレート等を備えていてもよい。本発明の燃料容器は、本発明のブロー成形容器を備えることで、環境負荷が低く、バリア性、外観及び生産性も良好であり、燃料容器として好適に用いられる。ここで、燃料容器とは、自動車、オートバイ、船舶、航空機、発電機、工業用若しくは農業用機器等に搭載された燃料容器、又はこれら燃料容器に燃料を補給するための携帯用燃料容器、さらには、燃料を保管するための容器を意味する。また、燃料としては、ガソリン、特にメタノール、エタノール又はMTBE等をブレンドした含酸素ガソリン等が代表例として挙げられるが、その他、重油、軽油、灯油等も含まれるものとする。これらうち、本発明の燃料容器は、含酸素ガソリン用燃料容器として特に好適に用いられる。
【0212】
<ボトル容器>
本発明のブロー成形容器は、ボトル容器として使用できる。本発明のボトル容器は、カバーフィルム、キャップ等、本発明のブロー成形容器以外の構成をさらに備えていてもよい。本発明のボトル容器の成形方法は例えば、ダイレクトブロー成形及びインジェクションブロー成形が挙げられる。ボトル状に成形した本発明のブロー成形容器は、環境負荷が低く、バリア性、外観及び生産性も良好であるため、食品、化粧品などのボトル容器に好適に用いられる。
【0213】
<紙容器>
本発明の紙容器は、本発明の成形体を備える。本発明の紙容器は、本発明の成形体からなる紙容器であってよい。すなわち、本発明の成形体の一実施形態は、紙容器であってよい。紙容器は紙基材を含む成形体からなり、カートンあるいはカップ等の形状に加工されることで作成される。かかる紙容器は、各種飲料等を長期に保存することが可能である。
【0214】
紙基材を含む成形体は、例えば、Tダイ法による押出コーティングで形成されることにより高速度での製膜が可能である。
【0215】
<その他の実施形態>
本発明は、上記実施形態に記載のものに限定されるものではない。本発明の成形体、フィルムまたはシート、熱収縮フィルムまたはシート、包装材、産業用フィルムまたはシート、熱成形容器、カップ状容器、トレイ状容器、ブロー成形容器、燃料容器、ボトル容器、チューブ、多層パイプ及び紙容器のいずれも、例えば、層(1)(ガスバリア樹脂組成物(α)から形成されるガスバリア層)のみからなる単層構造のもの、複数の層(1)からなる多層構造のものなどであってもよい。
【実施例0216】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0217】
[評価方法]
(1)EVOHのエチレン単位含有量及びケン化度
合成して得られたEVOHペレット並びに実施例及び比較例で得られたガスバリア樹脂組成物ペレットについて、内部標準物質としてテトラメチルシラン、添加剤としてテトラフルオロ酢酸(TFA)を含むジメチルスルホキシド(DMSO)-dに溶解し、500MHzの1H-NMR(日本電子株式会社製「JMTC-400/54/SS」)を用いて80℃で測定し、エチレン単位含有量及びケン化度を測定した。
上記測定のスペクトル中の各ピークは、以下のように帰属される。
0.6~1.9ppm:エチレン単位のメチレンプロトン(4H)、ビニルアルコール単位のメチレンプロトン(2H)、酢酸ビニル単位のメチレンプロトン(2H)
1.9~2.0ppm:酢酸ビニル単位のメチルプロトン(3H)
3.1~4.2ppm:ビニルアルコール単位のメチンプロトン(1H)
【0218】
(2)カルボン酸の定量
合成して得られたEVOHペレット又は実施例及び比較例で得られたガスバリア樹脂組成物ペレット20gとイオン交換水100mLとを共栓付き200mL三角フラスコに投入し、冷却コンデンサーを付け、95℃で6時間攪拌抽出した。得られた抽出液にフェノールフタレインを指示薬としてN/50のNaOHで中和滴定し、カルボン酸のカルボン酸根換算の含有量を定量した。なお、リン化合物が含まれる態様においては、後述の評価方法で測定されるリン化合物の含有量を加味して、カルボン酸量を算出した。
【0219】
(3)金属イオン、リン酸化合物及びホウ素化合物の定量
合成して得られたEVOHペレット又は実施例及び比較例で得られたガスバリア樹脂組成物ペレット0.5gをテフロン(登録商標)製圧力容器に入れ、ここに濃硝酸5mLを加えて室温で30分間分解させた。30分後蓋をし、湿式分解装置(アクタック社の「MWS-2」)により150℃で10分間、次いで180℃で5分間加熱することで分解を行い、その後室温まで冷却した。この処理液を50mLのメスフラスコ(TPX製)に移し純水でメスアップした。この溶液について、ICP発光分光分析装置(パーキンエルマー社の「OPTIMA4300DV」)により元素分析を行い、EVOHペレット又はガスバリア樹脂組成物ペレットに含まれる、金属イオンの金属原子換算量、リン化合物のリン原子換算量及びホウ素化合物のホウ素原子換算量を求めた。
【0220】
(4)バイオベース度
合成して得られたEVOHペレット並びに実施例及び比較例で得られたガスバリア樹脂組成物ペレットについて、ASTM D6866に記載の方法に従い、加速器質量分析器(AMS)により放射性炭素(14C)の濃度を測定し、放射性炭素年代測定の原理に基づいて、バイオベース度を算出した。
【0221】
(5)多層フィルムの評価
(5-1)ロングラン性の評価
実施例及び比較例で得られたガスバリア樹脂組成物ペレットを用い、3種5層共押出機を用いて、下記条件にて、多層フィルム(ポリエチレン層/接着性樹脂層/ガスバリア樹脂組成物層/接着性樹脂層/ポリエチレン層、厚み(μm):60/10/10/10/60)を作成した。ポリエチレンとして日本ポリエチレン株式会社製「ノバテック(商標)UF943」を、接着性樹脂として三井化学株式会社製「アドマー(商標)NF528」を用いた。
(押出機条件)
各樹脂の押出温度:供給部/圧縮部/計量部/ダイ=170℃/170℃/210℃/210℃
ポリエチレンの押出機:32φ単軸押出機、GT-32-A型(株式会社プラスチック工学研究所製)
接着性樹脂の押出機:25φ単軸押出機、P25-18-AC型(大阪精機工作株式会社製)
ガスバリア樹脂組成物の押出機:20φ単軸押出機、ラボ機ME型CO-EXT(株式会社東洋精機製作所製)
Tダイ:300mm幅3種5層用(株式会社プラスチック工学研究所製)
冷却ロールの温度:50℃
引取速度:4m/分
運転開始10時間後、50時間後に作製された多層フィルムについて、目視にてストリークの有無を下記評価基準により評価した。また、多層フィルム100mを紙管に巻き取ったロールを作製し、ロールの端部の黄変の有無を目視で下記評価基準により評価した。
(ストリークの評価基準)
A(良好):ストリークは認められなかった
B(やや良好):ストリークが確認された
C(不良):多数のストリークが確認された
(ロール端部の着色の評価基準)
A(良好):無色
B(やや良好):黄変
C(不良):著しく黄変
(5-2)酸素透過度の測定
上記(5-1)で運転開始から30分後に作製された多層フィルムを20℃、65%RHの条件下で調湿した後、酸素透過度測定装置(Mocon Modern Controls.incの「OX-Tran2/20」)を使用し、20℃、65%RHの条件下で、JIS K 7126-2(等圧法;2006年)に記載の方法に準じて酸素透過度を測定した。
【0222】
(6)熱収縮フィルムの熱収縮性評価
実施例及び比較例で得られたガスバリア樹脂組成物ペレット、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)(三井デュポンポリケミカル株式会社製「エバフレックス(商標)EV340」)、および接着性樹脂(三井化学株式会社性「アドマー(商標)VF500」)を用い、3種5層共押出機を用いて、下記条件にて多層フィルム(層構成:EVA層/接着性樹脂層/ガスバリア樹脂組成物層/接着性樹脂層/EVA層、厚み(μm):300/50/50/50/300)を作製した。
(押出機条件)
各樹脂の押出温度:供給部/圧縮部/計量部/ダイ=170℃/170℃/210℃/210℃
EVAの押出機:32φ単軸押出機、GT-32-A型(株式会社プラスチック工学研究所製)
接着性樹脂の押出機:25φ単軸押出機、P25-18-AC型(大阪精機工作株式会社製)
EVOH樹脂組成物の押出機:20φ単軸押出機、ラボ機ME型CO-EXT(株式会社東洋精機製作所製)
Tダイ:300mm幅3種5層用(株式会社プラスチック工学研究所製)
冷却ロールの温度:50℃
引取速度:1m/分 運転開始から30分後に作製された多層フィルムを用いて、株式会社東洋精機製作所製パンタグラフ式二軸延伸装置にて80℃で30秒間予熱後、延伸倍率3×3倍で同時二軸延伸を行い、熱収縮フィルムを得た。得られた熱収縮フィルムを10cm×10cmにカットし、90℃の熱水に10秒浸漬させて収縮させた後、収縮後のフィルムを目視し、下記の基準により評価した。
(収縮後外観の評価基準)
A:着色も白化も生じることなく、均一に収縮した。
B:着色または白化が生じた。
C:同時二軸延伸時に多層フィルムが破れ、熱収縮フィルムが得られなかった。
【0223】
(7)多層熱成形容器評価
実施例及び比較例で得られたガスバリア樹脂組成物ペレット、ポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製「ノバテック(商標)PP EA7AD」)、および接着性樹脂(三井化学株式会社製「アドマー(商標)QF551」)を用い、3種5層共押出装置を用いて、下記条件にて多層フィルム(ポリプロピレン/接着性樹脂/ガスバリア樹脂組成物/接着性樹脂/ポリプロピレン、厚み(μm):368/16/32/16/368)を作成した。
(押出機条件)
各樹脂の押出温度:供給部/圧縮部/計量部/ダイ=150℃/150℃/210℃/210℃
ポリプロピレン樹脂の押出機:32φ単軸押出機、GT-32-A型(株式会社プラスチック工学研究所製)
接着性樹脂の押出機:25φ単軸押出機、P25-18-AC型(大阪精機工作株式会社製)
EVOH樹脂組成物の押出機:20φ押出機、ラボ機ME型CO-EXT(株式会社東洋精機製作所製)
Tダイ:300mm幅3種5層用(株式会社プラスチック工学研究所製)
冷却ロールの温度:80℃
引取速度:1m/分
運転開始10時間後、50時間後に作製された多層シートを採取し、得られた多層シートを熱成形機(株式会社浅野製作所製:真空圧空深絞り成形機「FX-0431-3型」)にて、シート温度を160℃にして、圧縮空気(気圧5kgf/cm)により、丸カップ形状(金型形状:上部75mmφ、下部60mmφ、深さ38mm、絞り比S=0.5)に熱成形することにより、熱成形容器を得た。成形条件を以下に示す。
ヒーター温度:400℃
プラグ:45φ×33mm
金型温度:40℃
得られたカップ形状の熱成形容器の外観を目視で確認し、下記基準で評価した。
(外観の評価基準)
A(良好):ムラおよび局部的偏肉は認められなかった
B(やや良好):わずかなムラおよび局部的偏肉が確認された
C(不良):著しいムラおよび局部的偏肉が確認された
【0224】
(8)ブロー成形容器のストリーク評価
実施例及び比較例で得られたEVOH樹脂組成物ペレット、高密度ポリエチレン(株式会社プライムポリマー製の「ハイゼックス(商標)8200B」)、及び接着性樹脂(三井化学株式会社の「ADMER(商標)GT-6A」)を用い、鈴木製工所製ブロー成形機TB-ST-6Pにて210℃で、(内側)高密度ポリエチレン層/接着性樹脂層/ガスバリア樹脂組成物層/接着性樹脂層/高密度ポリエチレン層/高密度ポリエチレン層(外側)の3種6層パリソンよりブロー成形容器を作成した。なお、ブロー成形容器の製造においては、金型内温度15℃で20秒間冷却し、全層平均厚み1000μm((内側)高密度ポリエチレン層/接着性樹脂層/ガスバリア樹脂組成物層/接着性樹脂層/高密度ポリエチレン層/高密度ポリエチレン層(外側)=(内側)340μm/50μm/40μm/50μm/400μm/120μm(外側))の3Lブロー成形容器を成形した。このブロー成形容器の底面平均直径は100mm、平均高さは400mmであった。運転開始より3時間経過した後のブロー成形容器を採取し、外観目視及び円周方向の断面顕微鏡観察によるストリーク評価を行った。
(ストリークの評価基準)
A(良好):ストリークは認められなかった。
B(やや良好):ストリークが確認された。
C(不良):多数のストリークが確認された。
【0225】
(9)燃料透過度
実施例及び比較例で得られたガスバリア樹脂組成物ペレット、高密度ポリエチレン(株式会社プライムポリマー製の「ハイゼックス(商標)8200B」)及び接着性樹脂(三井化学株式会社の「ADMER(商標)GT-6A」)を用い、上記(5)で用いた3種5層共押出装置及び押出機条件を使用して、多層フィルム(ポリエチレン/接着性樹脂/ガスバリア樹脂組成物/接着性樹脂/ポリエチレン)を作成した。多層フィルムの層構成は、内外層のポリエチレン樹脂が90μm、接着性樹脂が各10μm、中間層のガスバリア樹脂組成物が20μmであった。得られた多層フィルムについて、GTRテック社フロー式ガス・蒸気透過率測定装置(GTR-30XFKE)を用いて、モデル燃料の透過度を測定した。多層フィルムは20℃65%RHで1ヶ月調湿し、測定は60℃で実施した。モデル燃料はCE10ガソリンを用い、その組成はトルエン/イソオクタン/エタノール=45/45/10質量%であった。
【0226】
[酢酸ビニル合成触媒の調製]
上海海源化工科技有限公司製シリカ球体担体HSV-I(球体直径5mm、比表面積160m/g、吸水率0.75g/g)23g(吸水量19.7g)に、56質量%テトラクロロパラジウム酸ナトリウム水溶液1.5g及び17質量%テトラクロロ金酸四水和物水溶液1.5gを含む担体吸水量相当の水溶液を含浸させた後、メタケイ酸ナトリウム9水和物2.5gを含む水溶液40mLに浸漬し、20時間静置した。続いて、52質量%ヒドラジン水和物水溶液3.3mLを添加し、室温で4時間静置した後、水中に塩化物イオンが無くなるまで水洗し、110℃で4時間乾燥した。得られたパラジウム/金/担体組成物を1.7質量%酢酸水溶液60mLに浸漬し、一晩静置した。次いで、一晩水洗し、110℃で4時間乾燥した。その後、2gの酢酸カリウムの担体吸水量相当水溶液に含浸し、110℃で4時間乾燥することで酢酸ビニル合成触媒を得た。
【0227】
[酢酸ビニルの合成]
<VAM1の合成例>
上記酢酸ビニル合成触媒3mLをガラスビーズ75mLで希釈してSUS316L製反応管(内径22mm、長さ480mm)に充填し、温度150℃、圧力0.6MPaGでエチレン/酸素/水/酢酸/窒素=47.3/6.1/5.6/26.3/14.7(mol%)の割合に混合したガスを流量20NL/時で流通させ、反応を行い、酢酸ビニル(VAM1)を合成した。エチレンには、バイオマス由来のエチレン(Braskem S.A.製、サトウキビ由来のバイオエチレン)を用い、このエチレンが充填されたガスボンベ(エチレン純度96.44%、内容積29.502L、内圧1.8234MPa)を使用した。また、酢酸には、バイオマス由来の酢酸(Godavari Biorefineries Ltd.製、サトウキビ由来のバイオ酢酸)を用い、220℃で気化させてから蒸気で反応系に導入した。
【0228】
<VAM2~VAM4の合成>
原料のエチレン及び酢酸を表1に記載の通り、バイオマス由来及び/又は化石燃料由来のものに変更した以外は、VAM1と同様の方法でVAM2~VAM4の各酢酸ビニルを合成した。
【0229】
なお、酢酸ビニルの合成に用いた原料としては、下記の原料を使用した。
・バイオマス由来のエチレン :Braskem S.A.製、サトウキビ由来のバイオエチレン
・化石燃料由来のエチレン:エア・リキード工業ガス株式会社製、化石燃料由来のエチレン
・バイオマス由来の酢酸 :Godavari Biorefineries Ltd.製、サトウキビ由来のバイオ酢酸
・化石燃料由来の酢酸 :富士フィルム和光純薬株式会社製、化石燃料由来の酢酸
【0230】
【表1】
【0231】
[EVOHの合成]
<EVOH(A1)ペレットの作製>
(エチレン-酢酸ビニル共重合体の重合)
ジャケット、攪拌機、窒素導入口、エチレン導入口及び開始剤添加口を備えた250L加圧反応槽に、VAM1を105kg、及びメタノール(以下、MeOHと称することもある)を32.3kg仕込み、65℃に昇温した後、30分間窒素バブリングして反応槽内を窒素置換した。次いで反応槽圧力(エチレン圧力)が3.67MPaとなるようにエチレンを昇圧して導入した。エチレンには、バイオマス由来のエチレン(Braskem S.A.製、サトウキビ由来のバイオエチレン)を用いた。反応槽内の温度を60℃に調整した後、開始剤として16.8gの2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社の「V-65」)をメタノール溶液として添加し、重合を開始した。重合中はエチレン圧力を3.67MPaに、重合温度を65℃に維持した。3時間後にVAcの重合率が45%となったところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下で未反応のVAcを除去した後、エチレン-酢酸ビニル共重合体にMeOHを添加して20質量%MeOH溶液とした。
【0232】
(ケン化及び洗浄)
得られたエチレン-酢酸ビニル共重合体ジャケットの20質量%MeOH溶液250kgを、攪拌機、窒素導入口、還流冷却器及び溶液添加口を備えた500L反応槽に入れ、かかる溶液に窒素を吹き込みながら60℃に昇温し、水酸化ナトリウム4kgを濃度2規定のMeOH溶液として添加した。水酸化ナトリウムの添加終了後、系内温度を60℃に保ちながら2時間攪拌してケン化反応を進行させた。2時間経過した後に、再度、同様の方法で水酸化ナトリウムを4kg添加し、2時間加熱攪拌を継続した。その後、酢酸を14kg添加してケン化反応を停止し、イオン交換水50kgを添加した。加熱攪拌しながら反応槽外にMeOHと水を留出させ反応液を濃縮した。3時間経過した後、更にイオン交換水50kgを添加し、EVOHを析出させた。デカンテーションにより析出したEVOHを収集し、ミキサーで粉砕した。得られたEVOH粉末を1g/Lの酢酸水溶液(浴比20:イオン交換水200Lに対し粉末10kgの割合)に投入して2時間攪拌洗浄した。これを脱液し、さらに1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間攪拌洗浄した。これを脱液したものを、イオン交換水(浴比20)に投入して攪拌洗浄を2時間行い脱液する操作を3回繰り返して精製を行った。これを60℃で16時間乾燥させることでEVOHの粗乾燥物を25kg得た。
【0233】
(EVOH含水ペレットの製造)
得られたEVOHの粗乾燥物25kgを、ジャケット、攪拌機及び還流冷却器を備えた100L攪拌槽に入れ、さらに水20kg及びMeOH20gを加え、70℃に昇温して溶解させた。この溶解液を径3mmのガラス管を通して5℃に冷却した重量比で水/MeOH=90/10の混合液中に押し出してストランド状に析出させ、このストランドをストランドカッターでペレット状にカットすることでEVOHの含水ペレットを得た。このEVOHの含水ペレットを濃度1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間攪拌洗浄した。これを脱液し、さらに1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間攪拌洗浄した。脱液後、酢酸水溶液を更新し同様の操作を行った。酢酸水溶液で洗浄してから脱液したものを、イオン交換水(浴比20)に投入して攪拌洗浄を2時間行い脱液する操作を3回繰り返して精製を行い、ケン化反応時の触媒残渣とストランド析出時に使用したMeOHが除去された、EVOHの含水ペレットを得た。得られたEVOHの含水ペレットの含水率をメトラー社のハロゲン水分計「HR73」で測定したところ、110質量%であった。
【0234】
(EVOH(A1)ペレットの製造)
得られたEVOHの含水ペレットを酢酸ナトリウム、酢酸、リン酸及びホウ酸が含まれる水溶液(浴比20)に投入し、定期的に攪拌しながら4時間浸漬させた。なお、各成分の濃度は、得られたEVOH(A1)ペレットにおける各成分の含有量が表2に記載の通りとなるように調整した。浸漬後に脱液し、空気下で80℃、3時間、及び空気下で130℃、7.5時間乾燥することにより、酢酸ナトリウム、酢酸、リン酸及びホウ酸を含むEVOH(A1)ペレットを得た。
【0235】
<EVOH(A2)~EVOH(A9)、EVOH(A12)、EVOH(B1)~(B4)の各ペレットの作製>
原料(原料モノマー)のエチレン及び酢酸ビニルの種類並びにリン酸化合物及びホウ素化合物の含有量を表2に記載の通り変更した以外は、EVOH(A1)ペレットと同様の方法で、EVOH(A2)ペレット~EVOH(A9)ペレット、EVOH(A12)ペレット及びEVOH(B1)~EVOH(B4)ペレットを作製した。化石燃料由来のエチレンには、エア・リキード工業ガス株式会社製のエチレンを用いた。
【0236】
EVOH(A1)ペレット~EVOH(A9)ペレット、EVOH(A12)ペレット及びEVOH(B1)~EVOH(B4)ペレットのそれぞれについて、上記評価方法(1)~(4)に記載の方法に従い、エチレン単位含有量及びケン化度、カルボン酸の定量、金属イオン、リン酸化合物及びホウ素化合物の定量、並びにバイオベース度の測定を行った。結果を表2に示す。
【0237】
<EVOH(A10)ペレットの作製>
ジャケット、攪拌機、窒素導入口、エチレン導入口及び開始剤添加口を備えた250L加圧反応槽に、酢酸ビニルVAM3及びVAM4を50/50で混合した酢酸ビニルを100kg、メタノール(以下、MeOHと称することがある)を5.7kg、他の単量体として2-メチレン-1,3-プロパンジオールジアセテート(以下、MPDAcと称する)を3kg仕込み、60℃に昇温した後、30分間窒素バブリングして反応槽内を窒素置換した。次いで反応槽圧力(エチレン圧力)が5.1MPaとなるようにバイオマス由来のエチレンと化石燃料由来のエチレンを50/50で混合したエチレンを導入した。反応槽内の温度を60℃に調整した後、開始剤として50gの2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製「V-65」)をメタノール溶液として添加し、重合を開始した。重合中はエチレン圧力を5.1MPaに、重合温度を60℃に維持した。また重合中はMPDAcの30wt%MeOH溶液を350mL/15分の添加量で加圧反応槽に連続的に添加した。6.5時間後にVAcの重合率が41%となったところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下で未反応のVAcを除去した後、MPDAc由来の構造単位が共重合により導入された変性エチレン-酢酸ビニル共重合体(本明細書中、変性EVAcと称することがある)にMeOHを添加して20質量%MeOH溶液とした。その後のけん化、洗浄、EVOH含水ペレットの製造およびEVOHペレットの製造工程はEVOH(A1)ペレットと同様の方法で行い、エチレン単位含有量38モル%、変性基(変性基を含む構造単位)の含有量2.5モル%、けん化度99モル%以上のEVOH(A10)ペレットを作製した。
【0238】
<EVOH(A11)ペレットの作製>
冷却コイルを持つ1mの重合缶にVAM3とVAM4を50/50で混合した酢酸ビニルを500kg、メタノール100kg、アセチルパーオキシド500ppm(対酢酸ビニル)、クエン酸20ppm(対酢酸ビニル)、および他の単量体として3,4-ジアセトキシ-1-ブテンを14kg仕込み、系を窒素ガスで一旦置換した後、バイオマス由来のエチレンと化石燃料由来のエチレンを50/50で混合したエチレンで置換し、エチレン圧が45kg/cmとなるまで圧入して、攪拌しながら67℃まで昇温して、3,4-ジアセトキシ-1-ブテンを15g/分で全量4.5kgを添加しながら重合し、重合率が50%になるまで6時間重合した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下で未反応のVAcを除去した後、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン由来の構造単位が共重合により導入された変性エチレン-酢酸ビニル共重合体(本明細書中、変性EVAcと称することがある)にMeOHを添加して20質量%MeOH溶液とした。その後のけん化、洗浄、EVOH含水ペレットの製造およびEVOHペレットの製造工程はEVOH(A1)ペレットと同様の方法で行い、エチレン単位含有量38モル%、変性基(変性基を含む構造単位)の含有量2.5モル%、けん化度99モル%以上のEVOH(A11)ペレットを作製した。
【0239】
ペレット(A1)~ペレット(A12)及びペレット(B1)~ペレット(B4)について、下記記載の方法に従って硫黄化合物の測定を行った。結果(硫黄化合物の硫黄原子換算の含有量及び種類)を表2に示す。
<硫黄化合物含有量の測定>
硫黄化合物の定量は三菱アナリテック製微量窒素硫黄分析装(TS-2100H型)を用いて行い、測定条件は以下の通りとした。
ヒーター温度:Inlet 900℃,Outlet 900℃
ガス流量:Ar,O各300ml/min
[分析システム NSX-2100]
測定モード:TS
パラメータ:SD-210
測定時間(タイマー):540秒(9分)
PMT感度:高濃度
硫黄化合物の同定は、ガスクロマトグラフィー(GC)と、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)を用いて行った。GCの検出器としては、微量の硫黄化合物、リン化合物に対して高い感度を示すFPD(炎光光度検出器)を用いて行い、硫黄化合物が検出された保持時間で観測された質量成分を解析することで、同定を行った。
【0240】
【表2】
【0241】
[実施例]
<実施例1>
EVOH(A1)ペレット及びEVOH(B1)ペレットを質量比(A1/B1)10/90でドライブレンドした後、二軸押出機(株式会社東洋精機製作所の「2D25W」、25mmφ,ダイ温度220℃,スクリュー回転数100rpm)を用い、窒素雰囲気下で押出しペレット化を行い、実施例1のガスバリア樹脂組成物ペレットを得た。
【0242】
得られた実施例1のガスバリア樹脂組成物ペレットについて、上記評価方法(1)~(9)に記載の方法に従って、エチレン単位含有量及びケン化度、カルボン酸の定量、金属イオン、リン酸化合物及びホウ素化合物の定量、バイオベース度、多層フィルム評価、熱収縮フィルムの収縮性評価、多層熱成形容器評価、ブロー成形容器のストリーク評価並びに燃料透過度の測定又は評価を行った。結果を表3及び表4に示す。
【0243】
<実施例2~22、比較例1~6>
用いたEVOHの種類及び質量比(割合)を、表3に記載の通り変更した以外は、実施例1と同様の方法で実施例2~22及び比較例1~6の各ガスバリア樹脂組成物ペレットを作製し、評価した。なお、実施例21、22の各ガスバリア樹脂組成物ペレットについては、多層熱成形容器評価、ブロー成形容器のストリーク評価及び燃料透過度の測定又は評価は行わなかった。結果を表4に示す。
【0244】
<実施例23、比較例7および8>
(共押出コート紙評価)
基材としてカートン紙(厚み500μm、坪量400g/m)を用いて、基材上に3種5層の共押出コートを行った。共押出の構成は低密度ポリエチレン/接着層/ガスバリア樹脂組成物層/接着層/低密度ポリエチレン/カートン紙であり、厚み構成は20/5/5/5/20/500μmである。低密度ポリエチレン用押出機、EVOH用押出機、接着層用押出機とそれぞれの押出機から供給される樹脂を合流、分配するフィードブロックとT型ダイスを使用した。低密度ポリエチレンとしては線状低密度ポリエチレン(株式会社プライムポリマー製「ウルトゼックス(商標)2022L」)を、また、接着層としては無水マレイン酸で変性されたポリプロピレン(三井化学株式会社製「アドマー(商標)QF-500」)を使用した。このときのフィードブロック、T型ダイスの温度条件を250℃、引取速度は300m/minとした。運転開始3時間後に作製された共押出コート紙について、目視にて共押出コート面側のストリークの有無を下記評価基準により評価した。
(ストリークの評価基準)
A(良好):ストリークは認められなかった
B(やや良好):ストリークが確認された
C(不良):多数のストリークが確認された
【0245】
ガスバリア樹脂組成物として、それぞれ実施例19、比較例2および比較例4の各ガスバリア樹脂組成物ペレットを用いて共押出コート紙評価を行った結果をそれぞれ実施例23、比較例7および8とする。実施例23および比較例8のストリーク評価はAであったが、比較例7のストリーク評価はCであった。
【0246】
【表3】
【0247】
【表4】
【0248】
表3、4に示されるように、実施例1~22の各ガスバリア樹脂組成物を用いた多層フィルムは、バイオマス由来の原料を一部に用いていながら、化石燃料由来のみのもの(比較例3のガスバリア樹脂組成物を用いた多層フィルム)と遜色のない高いガスバリア性を有していた。また、実施例1~22の各ガスバリア樹脂組成物は、運転開始10時間後に作製された多層フィルム及び熱成形容器についてのストリークの評価がA又はBであり、また、運転開始3時間後に作成されたブロー成形容器のストリークの評価がA又はBであり、十分なロングラン性を有するものであった。変性基を有するEVOHを用いた熱収縮フィルムを作成した実施例21及び22では、良好な収縮性が確認できた。
【0249】
また、実施例及び比較例の結果から、EVOHを用いたガスバリア樹脂組成物において、ガスバリア性はバイオベース度に依存しないのに対し、ロングラン性はバイオベース度が低くなるにつれて高まる傾向にあるという、特異的な性質があることが確認できた。例えば、バイオベース度が65%以下の実施例1、2、5~13、15~22の各ガスバリア樹脂組成物は、運転開始10時間後及び50時間後に作製された多層フィルムについてのストリーク及びロール端部着色の評価がA又はBであり、高いロングラン性を有するものとなった。
【0250】
(トレーサビリティ性の評価)
実施例14の多層熱成形容器の評価で得られた熱成形容器を用いて、追跡可能性(トレーサビリティ性)の評価を行った。具体的には得られた熱成形容器のEVOH層を取り出し、トレーサビリティ用試料とした。取り出したEVOH層のバイオベース度を上記評価方法(4)に記載の方法に従って測定したところ68%であり、用いたEVOHペレット(A3)の値と一致し、トレーサビリティ性があることが確認された。また、取り出したEVOH層の硫黄化合物含有量の測定、及びその同定を上記した方法と同様の方法で行った。EVOH層に含まれる硫黄化合物は硫黄原子換算で0.2ppmであり、硫黄化合物はジメチルスルフィドであり、EVOHペレット(A3)の値と一致し、トレーサビリティ性があることが確認された。
【符号の説明】
【0251】
1 カップ状容器
2 カップ本体
3 フランジ部
4 開口
5 内表面
6 外表面
7 蓋
21 連続多層シート
30 加熱装置
31,32 ヒーター
40 金型装置
50 下型
51 上型
52 凹部
53 プラグ

図1
図2
図3
図4