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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138700
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】積層フィルム及び包装体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20220915BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220915BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20220915BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20220915BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20220915BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
B32B27/30 102
B32B27/00 H
C08L29/04
C08L23/26
C08L23/04
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038725
(22)【出願日】2021-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 昌幸
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD24
3E086BA04
3E086BA15
3E086BB02
3E086BB05
3E086BB67
3E086BB85
3E086CA01
4F100AK04
4F100AK04B
4F100AK04C
4F100AK21
4F100AK21A
4F100AK70
4F100AK70B
4F100AR00C
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100EH17
4F100EJ37
4F100GB15
4F100GB16
4F100JC00
4F100JC00B
4F100JC00C
4F100JD03
4F100JD04
4F100JK02
4F100JK06
4F100JK06A
4F100JK06B
4F100JK08
4J002BB02Y
4J002BB03Y
4J002BB05Y
4J002BB06Y
4J002BB07Y
4J002BB08Y
4J002BB12Y
4J002BB23X
4J002BE01W
4J002BE02W
4J002GC00
4J002GF00
4J002GG00
4J002GG01
4J002GG02
(57)【要約】
【課題】適度な層間強度を有しながらガスバリア性に優れた積層フィルムを提供する。
【解決手段】ビニルアルコール系樹脂を含む層(A)とアイオノマー系樹脂を含む層(B)、および層(C)の順に少なくとも3層の積層体を備える。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルアルコール系樹脂を含む層(A)とアイオノマー系樹脂を含む層(B)、および層(C)の順に少なくとも3層を備える積層フィルム。
【請求項2】
前記層(A)と層(B)の引張速度300mm/分、23℃雰囲気下で測定した層間強度が0.1N/15mm~3.0N/15mmである、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記積層フィルムが、少なくとも一方向に延伸されてなる、請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
JIS K7126-2(2006)に基づき、20℃×50%RH雰囲気下で測定した酸素透過度が1.0cc/m・day・atm以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項5】
100℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の熱収縮率が30%以上である請求項1から4のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記層(B)を形成する樹脂組成物を100質量%としたとき、アイオノマー系樹脂の含有割合が30質量%以上である、請求項1から5のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記層(B)が、ポリエチレン系樹脂を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項8】
前記層(C)が、ポリエチレン系樹脂を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項9】
前記ポリエチレン系樹脂が、植物由来ポリエチレン系樹脂を含む、請求項7または8に記載の積層フィルム。
【請求項10】
前記層(C)、前記層(B)、前記ビニルアルコール系樹脂を含む層(A)、前記層(B)、前記層(C)の順に少なくとも5層を備える、請求項1から9のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項11】
ガスバリア性を備える層(A)とアイオノマー系樹脂を含む層(B)、および層(C)の順に少なくとも3層を備えた積層フィルムであって、層(A)と層(B)の引張速度300mm/分、23℃雰囲気下で測定した層間強度が0.1N/15mm~3N/15mmである積層フィルム。
【請求項12】
熱収縮性を備える、請求項1から11のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項13】
食品包装用である、請求項1から12のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の積層フィルムと、食品包装用トレイと、を備える包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、積層フィルム及び包装体に関するものである。
【0002】
食品包装分野における生鮮食品の包装方法には、従来よりストレッチ包装やシュリンク包装をはじめとした様々な方法が用いられている。なかでも、近年では食品のフードロス削減に向けた意識の高まりから、長期保存を目的としたガス封入包装の需要が拡大している。窒素ガスをはじめとした不活性ガスを食品包装内部に封入することで、食品の酸化劣化を抑制し、保存期間の延長を可能としている。このような食品包装フィルムには、包装内部に封入した不活性ガスを漏らさない、及び包装外部に存在する酸素が混入しないよう、酸素ガスバリア性を有するフィルムが好適に用いられる。
【0003】
近年、プラスチックが環境に与える影響は社会問題となっており、従来の石油由来原料の使用から、植物由来の原料や生分解性を有する原料の使用が増加傾向にある。また、使用後のプラスチックは、3R(リデュース、リユース、リサイクル)の取り組みが大切であり、なかでもリサイクルを行うには、種類ごとの分別が重要である。
【0004】
このようなフードロス削減に対し、酸素ガスバリア性を有する積層構造体として、特許文献1では、ガスバリア性の付与にビニルアルコール系樹脂を用い、その構造を制御することで、延伸性やガスバリア性に優れるとしている。しかしながら、特許文献1では、層間接着性が強い部分に焦点が置かれており、廃棄時の分別やリサイクルに関しては想定されていない。
【0005】
特許文献2では層間強度に着目した熱収縮性積層フィルムが示されている。エチレン-ビニルアルコール系共重合樹脂に対する層間強度を制御することで、優れた防曇性を有するとしている。しかしながら、ビニルアルコール系樹脂に対する層間強度には言及しておらず、特許文献1と同様に廃棄時の分別やリサイクルに関しては想定されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-312313号公報
【特許文献2】特開2015-221507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、適度な層間強度を有しながらガスバリア性に優れた積層フィルム及び包装体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる積層フィルムは、ビニルアルコール系樹脂を含む層(A)とアイオノマー系樹脂を含む層(B)、および層(C)の順に少なくとも3層を備える。
【0009】
ここで、前記層(A)と層(B)の引張速度300mm/分、23℃雰囲気下で測定した層間強度が0.1N/15mm~3.0N/15mmであることが好ましい。
【0010】
また、前記積層フィルムが、少なくとも一方向に延伸されてなることが好ましい。
【0011】
また、JIS K7126-2(2006)に基づき、20℃×50%RH雰囲気下で測定した酸素透過度が1.0cc/m・day・atm以下であることが好ましい。
【0012】
また、100℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の熱収縮率が30%以上であることが好ましい。
【0013】
また、前記層(B)を形成する樹脂組成物を100質量%としたとき、アイオノマー系樹脂の含有割合が30質量%以上であることが好ましい。
【0014】
また、前記層(B)が、ポリエチレン系樹脂を含むことが好ましい。
【0015】
また、前記層(C)が、ポリエチレン系樹脂を含むことが好ましい。
【0016】
また、前記ポリエチレン系樹脂が、植物由来ポリエチレン系樹脂を含むことが好ましい。
【0017】
また、前記層(C)、前記層(B)、前記ビニルアルコール系樹脂を含む層(A)、前記層(B)、前記層(C)の順に少なくとも5層を備えることが好ましい。
【0018】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる積層フィルムは、ガスバリア性を備える層(A)とアイオノマー系樹脂を含む層(B)、および層(C)の順に少なくとも3層を備えた積層フィルムであって、層(A)と層(B)の引張速度300mm/分、23℃雰囲気下で測定した層間強度が0.1N/15mm~3N/15mmであることが好ましい。
【0019】
また、積層フィルムは、熱収縮性を備えることが好ましい。
【0020】
また、積層フィルムは、食品包装用であることが好ましい。
【0021】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる包装体は、上記のいずれかに記載の積層フィルムと、食品包装用トレイと、を備える。
【発明の効果】
【0022】
本発明の積層フィルムは、実使用時には層間剥離せず、廃棄時にはテープ等で容易に層(A)と層(C)を層間剥離でき、廃棄時の分別性に優れる。また、層(A)にビニルアルコール系樹脂を使用することで、水溶性のため分別後の廃棄時に、環境に対する影響を低減でき、環境適合性が高い。さらに層(B)にアイオノマー系樹脂を含有することで、アイオノマー系樹脂に含まれる金属種と層(A)に使用するビニルアルコール系樹脂の水酸基にて、配位結合を生じることによるガスバリア性の向上が期待できる。また、層(A)にガスバリア性を備える材料を用い、層(B)にアイオノマー系樹脂を含有することで、実使用時には層間剥離せず、廃棄時にはテープ等で容易に層(A)と層(C)を層間剥離でき、廃棄時の分別性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳しく説明する。ただし、本発明の内容が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0024】
なお、本明細書において、「主成分」とは、構成する成分の合計を100質量%としたとき、もっとも多い質量%を占める成分であることを示し、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。
【0025】
また、「X~Y」(X、Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意とともに、「好ましくはXより大きい」および「好ましくはYより小さい」の意を包含するものである。
【0026】
なお、本明細書において、「フィルム」とは、厚いシートから薄いフィルムまでを包括した意を有する。
【0027】
本明細書において、「少なくとも1方向」とは、積層フィルムの製造工程において、押出機からの流れ方向を縦方向(MD)、その直交方向を横方向(TD)としたとき、縦方向と横方向のいずれかまたは両方向を意味し、「主収縮方向」とは、縦方向と横方向のうち、熱収縮率が大きい方向を意味する。
【0028】
また、本明細書における数値範囲の上限値および下限値は、本発明が特定する数値範囲内から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の均等範囲に包含するものとする。
【0029】
<積層フィルム>
本発明の実施形態の一例に係る積層フィルム(以下、「本フィルム」と称することがある)は、層(A)と層(B)、層(C)を少なくとも備え、前期層(A)がビニルアルコール系樹脂を含有する層であり、前記層(B)がアイオノマー系樹脂を含有することを特徴とする。なお、本実施形態では、熱収縮性を備える積層フィルム、つまり熱収縮性フィルムとして説明するが、熱収縮性を備えていないフィルムとしてもよい。つまり、本発明は、層(A)と層(B)、層(C)を少なくとも備える積層フィルムとすることができる。
【0030】
(1)厚さ
本フィルムの厚さは、上限として、100μm以下が好ましく、70μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。一方で下限として、5μm以上が好ましく、8μm以上がより好ましく、10μm以上が特に好ましい。厚さが100μm以下であれば、透明性に優れる傾向がある。また、厚さが5μm以上であれば、ハンドリング性を確保できる傾向がある。
【0031】
(2)ヘーズ
本フィルムのヘーズは、上限として、20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下が特に好ましい。一方で下限として、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましい。ヘーズが20%以下であれば、透明性に優れる傾向がある。また、ヘーズが0.5%以上であれば、視認性を確保でき、包装時に誤って食品へ混入することを防ぐことができる傾向がある。
【0032】
(3)引張強伸度
本フィルムの引張強度は、特に限定されるものではないが、上限として、100MPa以下が好ましく、90MPa以下がより好ましく、80MPa以下が特に好ましい。一方で下限として、10MPa以上が好ましく、20MPa以上がより好ましい。引張強度が100MPa以下であれば、適度な伸度を確保でき、ハンドリング性に優れる傾向がある。また、引張強度が10MPa以上であれば、フィルムのコシを確保できる傾向がある。
本フィルムの引張伸度は、特に限定されるものではないが、上限として、300%以下が好ましく、250%以下がより好ましい。一方で下限として、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、40%以上が特に好ましい。引張伸度が300%以下であれば、使用時の手切れ性に優れる傾向がある。また、引張伸度が20%以上であれば、使用時のハンドリング性に優れる傾向がある。具体的には、実施例に記載の方法で、引張強度、引張伸度を測定できる。
【0033】
(4)熱収縮率
本フィルムの熱収縮率は、上限として、70%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、50%以下が特に好ましい。一方で下限として、10%以上が好ましく、20%以上がより好ましい。熱収縮率が70%以下であれば、フィルム収縮時に容器が過度に変形するのを防ぐことができるため好ましい。また、熱収縮率が10%以上であれば、ピロー包装をはじめとしたシュリンク包装時に、容器に追随した包装適性に優れる傾向がある。具体的には、実施例に記載の方法で熱収縮率を測定できる。
【0034】
(5)酸素透過度
本フィルムの酸素透過度は、上限として、1.0cc/m・day・atm以下が好ましく、0.60cc/m・day・atm以下がより好ましく、0.20cc/m・day・atm以下がさらに好ましく、0.13cc/m・day・atm以下が特に好ましい。一方で下限として、0.001cc/m・day・atm以上が好ましく、0.01cc/m・day・atm以上がより好ましい。酸素透過度が1.0cc/m・day・atm以下であれば、包装後の酸素による酸化劣化を十分に防ぐことができる。また、酸素透過度が0.001cc/m・day・atm以上であれば、過度な密閉状態を防ぐことができる。
【0035】
(6)水蒸気透過度
本フィルムの水蒸気透過度は、上限として、50g/m・day以下が好ましく、35g/m・day以下がより好ましく、25g/m・day以下が特に好ましい。一方で下限として、0.1g/m・day以上が好ましく、1g/m・day以上がより好ましい。水蒸気透過度が50g/m・day以下であれば、包装後の外部水蒸気の侵入を十分に防ぐことができる。また、水蒸気透過度が0.1g/m・day以上であれば、過度な密閉状態を防ぐことができる。
【0036】
(7)層間強度
本フィルムにおける層間強度は重要であり、上限として、3.0N/15mm以下が好ましく、2.0N/15mm以下がより好ましく、1.0N/15mm以下がさらに好ましく、0.8N/15mm以下が特に好ましく、0.6N/15mm以下が最も好ましい。一方で下限とし、0.2N/15mm以上が好ましく、0.3N/15mm以上がより好ましい。層間強度が3.0N/15mm以下、好ましくは2.0N/15mm以下であれば、層(A)と、それ以外の層を容易に分離でき、廃棄時の分別性に優れる。また、層間強度が0.2N/15mm以上であれば、フィルム使用時に層間剥離を生じることなく使用できる。具体的には、実施例に記載の方法で、層間強度を測定できる。
【0037】
本発明の積層フィルムは、層(A)及び層(B)、層(C)を少なくとも有する積層構造である。層(B)がアイオノマー系樹脂を含むことにより、適度な層間強度を有し、実使用時には層間剥離せず、廃棄時にはテープ等で容易に層(A)と層(C)を層間剥離可能である。また、層(B)にアイオノマー系樹脂を使用することで、アイオノマー系樹脂に含まれる金属種と層(A)に使用するビニルアルコール系樹脂の水酸基にて、配位結合を生じることによるガスバリア性の向上が期待できる。
【0038】
本発明の積層フィルムの層構成は特に制限されるものではなく、層(A)及び層(B)、層(C)を少なくとも有する構成だけでなく、4層、5層、それ以上の多層構成であっても構わない。いずれの層構成であっても、層(A)に対し、層(B)を接着層として有していれば、適度な層間強度を有する積層フィルムとなる。積層フィルムは、異なる2つの層の間に層(B)が設けられている、つまり、1層ごとに層(B)が設けられていることが好ましい。
【0039】
本発明の積層フィルムの、それぞれの層の厚さの割合(積層比)については特に、制限されるものではない。
本発明の積層フィルムにおける層(A)及び層(B)、層(C)の厚さ比は、用途、目的に応じて適宜調整することができる。本発明の効果を得る観点からは、層(A)及び層(B)、層(C)との厚さ比[(A):(B):(C)]は、好ましくは、1:1:1~0.01:0.1:1、より好ましくは、0.5:0.8:1~0.1:0.6:1、である。層(A)及び層(B)、層(C)の厚さ比が上記範囲にある場合、層(A)に使用するビニルアルコール系樹脂のガスバリア性と層(A)と層(C)の層間強度とのバランスが良好であり、食品包装材料としての使用に適する。なお、各層が2層以上ある場合、各層の厚さは、複数の各層の合計の厚さをいう。
積層フィルムにおける層(A)及び層(B)、層(C)の厚さおよび厚さ比の調整は、延伸前の無孔膜状物の厚さや、延伸条件などを調整することにより制御できる。
その総厚さに対する層(A)の積層比は、0.1%以上30%以下が好ましく、0.5%以上20%以下がより好ましく、1%以上10%以下がさらに好ましい。熱収縮性フィルム中の層(A)の厚さは、0.1~10μmであるのが好ましく、0.5~5μmであるのがより好ましい。層(A)の厚さ割合、及び、フィルム中の厚さがこの範囲内であれば、ガスバリア性と加工適正に優れた積層フィルムを得やすい傾向がある。
【0040】
本フィルムは上記構成を備えていればよいから、他の層をさらに備えていてもよい。
【0041】
以下、本フィルムを構成する層(A)及び層(B)、層(C)について説明する。その後、製造方法としての本フィルムの成形方法について説明する。
【0042】
以下に、本フィルムを構成する各成分について説明する。
<層(A)>
本発明の積層フィルムを構成する層(A)は、ビニルアルコール系樹脂を含む。以下、層(A)を構成するそれぞれの成分について説明する。
【0043】
<ビニルアルコール系樹脂>
本発明の層(A)に用いられるビニルアルコール系樹脂は、ビニルエステル系単量体を共重合して得られるポリビニルエステル系樹脂を、ケン化して得られるビニルアルコール構造単位を主体とする樹脂であり、ケン化度相当のビニルアルコール構造単位とビニルエステル構造単位から構成される。ビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル 、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、コスト面から酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0044】
本発明で用いられるビニルアルコール系樹脂の平均重合度(JIS K6726(1994)に準拠して測定)は、150~3000が好ましく、200~2000がより好ましく、300~1000が特に好ましい。ビニルアルコール系樹脂の平均重合度が150以上であれば、層(A)の機械強度を保持できる傾向があるため好ましい。また、ビニルアルコール系樹脂の平均重合度が3000以下であれば、樹脂の流動性低下による成形性の悪化を防ぐ傾向がある。
【0045】
本発明で用いられるビニルアルコール系樹脂のケン化度(JIS K6726(1994)に準拠して測定)は、80~100モル%が好ましく、90~99.9モル%がより好ましく、98~99.5モル%が特に好ましい。ビニルアルコール系樹脂のケン化度が80モル%以上であれば、十分なガスバリア性を保持できる。
【0046】
本発明で用いられるビニルアルコール系樹脂の融点は、140~250℃であることが好ましく、より好ましくは150~245℃、更に好ましくは160~240℃、特に好ましくは170~230℃である。融点が140℃以上であれば、溶融成型時の形状安定性に優れる傾向がある。融点が250℃以下であれば、溶融成型時の樹脂劣化を防ぐ傾向がある。なお、ビニルアルコール系樹脂の融点は、JIS K7121(2012)に準拠して示差走査熱量計(DSC)で昇降温速度10℃/minで測定することができる。
【0047】
本発明で用いられるビニルアルコール系樹脂は、ポリビニルエステル系樹脂の製造時に各種単量体を共重合させ、これをケン化して得られたものや、未変性ビニルアルコール系樹脂に後変性により各種官能基を導入した変性ビニルアルコール系樹脂を用いることもできる。
【0048】
ビニルエステル系モノマーとの共重合に用いられる単量体としては、エチレンやプロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類およびそのアシル化物などの誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン等のビニル化合物、酢酸イソプロペニル、1-メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、塩化ビニリデン、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン、ビニレンカーボネート等が挙げられる。
【0049】
後反応によって官能基が導入されたビニルアルコール系樹脂として、ジケテンとの反応によるアセトアセチル基を有するもの、エチレンオキサイドとの反応によるポリアルキレンオキサイド基を有するもの、エポキシ化合物等との反応によるヒドロキシアルキル基を有するもの、あるいは各種官能基を有するアルデヒド化合物をビニルアルコール系樹脂と反応させて得られたものなどが挙げられる。変性ビニルアルコール系樹脂中の後反応により導入された官能基の含有量は、変性種によって異なるため一概には言えないが、通常1~20モル%が好ましく、2~10モル%の範囲がより好ましく用いられる。
【0050】
本発明の層(A)はビニルアルコール系樹脂を主成分とする層であり、ビニルアルコール系樹脂を50質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上含むことがより好ましく、70質量%以上含むことがさらに好ましく、80質量%以上含むことが特に好ましく、95質量%以上含むことが最も好ましい。層(A)中のビニルアルコール系樹脂を主成分として含むことにより、十分なガスバリア性を確保することができる。
【0051】
本発明で用いられるビニルアルコール系樹脂は、1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。2種類以上の混合物の場合は、上述の未変性ビニルアルコール系樹脂同士や、未変性ビニルアルコール系樹脂と、ケン化度、重合度、変性度などが異なるビニルアルコール系樹脂同士などの組み合わせを用いることができる。なかでも、本発明で用いられるビニルアルコール系樹脂は、ビニルアルコール構造単位を主体とする樹脂であり、ケン化度相当のビニルアルコール構造単位と未ケン化部分の酢酸ビニル構造単位と、側鎖に一級水酸基と有する構造単位を少なくとも有するものが好ましい。
【0052】
ビニルアルコール系樹脂は、市販されているものを使用することができる。市販されているビニルアルコール系樹脂としては、クラレ社のエクセバール(登録商標)、三菱ケミカル社のG-polymer(登録商標)等を用いることができる。
【0053】
また、上記実施形態では好ましい層(A)として、ビニルアルコール系樹脂を含むとしたが、層(A)は、ガスバリア性を備えていればよく、他の材料で形成してもよい。
【0054】
<層(B)>
本発明の積層フィルムを構成する層(B)は、アイオノマー系樹脂を含有することが重要である。アイオノマー系樹脂を層(B)に使用することで、層(A)と層(C)にて適度な層間強度を有し、実使用時には層間剥離せず、廃棄時にはテープ等で容易に層(A)と層(C)を層間剥離し、分別可能となる。また、層(B)にアイオノマー系樹脂を使用することで、アイオノマー系樹脂に含まれる金属種と層(A)に含まれるビニルアルコール系樹脂の水酸基にて、配位結合を生じることによるガスバリア性の向上にも期待できる。以下、層(B)を構成するそれぞれの成分について説明する。
【0055】
<アイオノマー系樹脂>
本発明の層(B)に使用するアイオノマー系樹脂は、エチレンと少量のアクリル酸又はメタクリル酸との共重合体を、亜鉛やナトリウムなどの金属イオンで架橋したものを意味する。アイオノマー系樹脂に含まれる金属種は、1価または2価の金属イオンであることが好まく、2種類以上の金属イオンを含んでもよい。アイオノマー系樹脂に含まれる金属種は、亜鉛を代表とする2価の金属イオンを含むことがより好ましい。アイオノマー系樹脂に含まれる金属イオンにより、水酸基などの官能基と配位結合を生じやすく、解離し難くなり、金属イオンを介した高分子同士の架橋によるガスバリア性の向上が期待できる。さらに、2価の金属イオンを含むことで、架橋しやすくなるため、自由体積が減少し、ガスバリア性がより向上できる傾向がある。さらに、ガスバリア性を向上させるには、2価の金属イオンを含む金属塩をはじめとする化合物を添加してもよい。具体的には、亜鉛化合物、銅化合物、ニッケル化合物、鉄化合物、マンガン化合物等を添加してもよい。
【0056】
本発明の層(B)はアイオノマー系樹脂を含有する層であり、アイオノマー系樹脂を30質量%以上含むことが好ましく、40質量%以上含むことがより好ましく、50質量%以上含むことが特に好ましい。接着層中のアイオノマー系樹脂の含有量が30質量%以上であれば、本願で好ましく規定する層間強度を確保できる。
【0057】
本発明の層(B)に用いられるアイオノマー系樹脂以外に含まれる樹脂は、特に限定されるものではないが、ポリオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、線形低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メチルメタアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、 エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート-無水マレイン酸共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタアクリル酸共重合体等が例示され、なかでもポリエチレン系樹脂が好ましい。
【0058】
アイオノマー系樹脂は、市販されているものを使用することができる。市販されているアイオノマー系樹脂としては、三井・ダウ・ポリケミカル社のハイミラン(登録商標)等を用いることができる。アイオノマー系樹脂のメルトフローレート(MFR)は特に制限されるものではないが、通常、MFRは0.5g/10分~10g/10分であることが好ましく、1.0g/10分~8.0g/10分であることがより好ましい。MFRを0.5g/10分以上とすることで、成形加工時において十分な溶融粘度を有し、高い生産性を確保することができる。一方、MFRを10g/10分以下とすることで、強度を十分に有することができる。なお、MFRはJIS K7210-1 A法(2014)に準拠して温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定する。
アイオノマー系樹脂の融点は、示差走査熱量測定における加熱速度10℃/分で測定されるが70℃~120℃であることが好ましく、75℃~115℃であることがより好ましい。融点を上記範囲にすることで、透明性と防湿性を両立することができる。なお、該融点は、示差走査熱量計を用いて、JIS K7121(2012)に準じて加熱速度10℃/分で測定することができる。
【0059】
<層(C)>
本発明の層(C)は、特に限定されるものではないが、積層フィルムにヒートシール性を付与したり、延伸時の支持層として機能する層であり、好適には積層フィルムの最外層に位置する。層(C)は、公知の熱可塑性樹脂を使用することができる。たとえば、エチレン-α-オレフィン共重合体、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体をはじめとするポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステルなどの生分解性樹脂、及びこれらの植物由来樹脂を使用することができる。中でも、環境配慮の観点から、生分解性樹脂、及び植物由来樹脂を用いることが好ましい。特に生分解性樹脂は、積層フィルムとして使用した後、層(C)のみを層間剥離、分別した後、土中で生分解させることができるため、本発明においては好ましく使用することができる。
【0060】
本発明の層(C)に好適に使用できる生分解性樹脂は、特に限定するものではなく、一般的に入手することができる生分解性樹脂を使用することができる。例えば、ポリカプロラクトン、セルロースエステル、乳酸系ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂、脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂などがあげられる。なかでもフィルムを作製する際の生産性や作業性、使用後の生分解性を考慮すると、脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂、乳酸系ポリエステル系樹脂を使用することが好ましい。
【0061】
本発明の積層フィルムに好適に使用できる植物由来樹脂は、特に限定するものではなく、一般的に入手することができる植物由来樹脂を好適に使用することができる。例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂、脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂などがあげられる。なかでもフィルムを作製する時の生産性や作業性、経済性を考慮すると、ポリエチレン系樹脂を使用することが好ましい。ポリエチレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は特に制限されるものではないが、通常、MFRは0.5g/10分~15g/10分であることが好ましく、1.0g/10分~10g/10分であることがより好ましい。MFRを0.5g/10分以上とすることで、成形加工時において十分な溶融粘度を有し、高い生産性を確保することができる。一方、MFRを15g/10分以下とすることで、強度を十分に有することができる。なお、MFRはJIS K7210-1 A法(2014)に準拠して温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定する。
ポリエチレン系樹脂は、示差走査熱量測定における加熱速度10℃/分で測定される融点が110℃~135℃であることが好ましく、115℃~130℃であることがより好ましい。融点を上記範囲にすることで、透明性と防湿性を両立することができる。なお、該融点は、示差走査熱量計を用いて、JIS K7121(2012)に準じて加熱速度10℃/分で測定することができる。
ポリエチレン系樹脂の密度は、0.850g/cm以上0.970g/cm以下であることが好ましく、0.880g/cm以上0.960g/cm以下であることより好ましく、0.900g/cm3以上0.950g/cm以下であることがさらに好ましい。密度を上記範囲にすることで、機械強度と柔軟性を両立することができる。密度は、JIS K7112(1999)に順じて測定することができる。
【0062】
<積層フィルムの製造方法>
本発明の積層フィルムの製造方法について説明するが、以下の説明は、本発明の積層フィルムを製造する方法の一例であり、本発明の積層フィルムはかかる製造方法により製造される積層フィルムに限定されるものではない。
【0063】
本発明の実施形態の一例に係る積層フィルムの製造方法(以下、本フィルム製造方法)と称することがある)は、層(A)及び層(B)、層(C)に関して、それぞれの融点以上、分解温度未満の温度条件下で押出機等を用いて、混練・溶融成形することによって、積層膜状物を得る。
【0064】
本フィルム製造方法は上記工程を備えていればよいから、他の工程や処理をさらに備えていてもよい。
【0065】
また、本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲において、層(A)及び層(B)、層(C)に他の樹脂を混合することを許容することができる。
他の樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンサクシネート系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアミドビスマレイミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、アラミド系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0066】
また、本発明においては、前述した成分のほか、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内で、一般的に配合される添加剤を適宜添加できる。前記添加剤としては、成形加工性、生産性および積層フィルムの諸物性を改良・調整する目的で添加される、耳などのトリミングロス等から発生するリサイクル樹脂や、顔料、難燃剤、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、溶融粘度改良剤、架橋剤、滑剤、核剤、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、着色剤などの添加剤が挙げられる。
【0067】
混錬する際、用いる機械を特に限定するものではない。例えば単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機など、公知の押出機を用いることができる。また、設備構造および必要性に応じて、ベント口に減圧機を接続し、水分や分低分子量物質を除去してもよい。
【0068】
以下、製膜工程、延伸工程について順次説明する。
【0069】
(1)製膜工程
材料樹脂を加熱溶融する方法として、例えばTダイ法、インフレーション法などを挙げることができ、中でもインフレーション法を採用するのが好ましい。実用的には、丸ダイから材料樹脂を溶融押出して空冷によりバルーン成形するのが好ましい。
【0070】
フィルム状に製膜する具体的方法として、Tダイ法を採用する場合、Tダイからそれぞれ押出されたシート状の溶融樹脂を積層し、回転するキャストロール(チルロール、キャストドラム)上に密着させながら引き取りシート状物に成形する方法を挙げることができる。
【0071】
キャストロールにフィルム状物を密着させるために、タッチロール、エアナイフ、電気密着装置などをキャストロールに付けてもよい。
混練物を冷却しながらフィルムに成形する際、キャストロールの温度は70℃以下が好ましい。より好ましくは60℃以下で、更に好ましくは50℃以下である。キャストロールの温度を70℃以下とし、低い結晶化度の積層膜状物を得ることで、その後の延伸工程での破断を抑制できるため好ましい。
【0072】
得られる未延伸フィルムにおいて、両端部を除いた有効部分の厚さは700μm~100μmであるのが好ましく、中でも600μm~125μmであるのがより好ましく、その中でも500μm~150μmであるのがさらに好ましい。
未延伸フィルム厚さが100μm以上であれば、フィルムが薄すぎるために延伸時に破断が生じ難く、未延伸フィルムの厚さが700μm以下であれば、フィルムが剛直になり過ぎて延伸を行い難くなるのを防ぐことができる。
【0073】
本発明の積層フィルムの原反での層構成に関しては、上記の層構成のみだけでなく、他の層を組み合わせた構成であってもよい。
【0074】
(2)延伸工程
ついで、得られた無孔膜状物を一軸延伸あるいは二軸延伸を行う。一軸延伸は縦一軸延伸であってもよいし、横一軸延伸であってもよい。二軸延伸は同時二軸延伸であってもよいし、逐次二軸延伸であってもよい。本発明の目的である積層フィルムを作製する場合には、生産性の観点から同時二軸延伸がより好ましい。なお、膜状物の流れ方向(MD)への延伸を「縦延伸」といい、流れ方向に対して垂直方向(TD)への延伸を「横延伸」という。
【0075】
逐次二軸延伸を用いる場合、延伸温度は用いる樹脂組成物の組成、結晶融解ピーク温度、結晶化度等によって適時選択する必要があるが、機械強度や収縮率など他の諸物性とのバランスがとりやすい。
【0076】
縦延伸での延伸温度は概ね10~100℃が好ましく、より好ましくは15~90℃、更に好ましくは20~80℃の範囲である。縦延伸における延伸温度が10℃以上であれば、延伸時の破断が抑制され、均一な延伸が行われるため好ましい。一方、縦延伸における延伸温度が100℃以下であれば、ロールへの過度な張り付きを生じることなく、延伸を行うことができる。
【0077】
縦延伸倍率は、任意に選択できるが、一軸延伸あたりの延伸倍率は1.1~10倍が好ましく、より好ましくは1.5~8.0倍であり、さらに好ましくは2.0~6.0倍である。一軸延伸あたりの延伸倍率を1.1倍以上とすることで熱により収縮するフィルムを得ることができる。また、10倍以下とすることで、過度な収縮を抑制した積層フィルムを得ることができる。
【0078】
横延伸温度は、好ましくは50~150℃であり、より好ましくは60~140℃である。前記横延伸温度が規定された範囲内であることによって、縦延伸後フィルムの破膜を防ぎながら、延伸を実施することができる。
【0079】
横延伸倍率は、任意に選択できるが、好ましくは1.1~10倍であり、より好ましくは1.5~9.0倍、更に好ましくは2.0~8.0倍である。規定した横延伸倍率で延伸することにより、熱により収縮するフィルムを得ることができる。
さらに、本発明の積層フィルムには、本発明を損なわない範囲で必要に応じてコロナ処理、プラズマ処理、印刷、コーティング、蒸着等の表面加工、更にはミシン目加工などを施すことができ、用途に応じて本発明の積層フィルムを数枚重ねることも可能である。
【実施例0080】
以下に実施例および比較例を示し、本発明の積層フィルムについてさらに詳しく説明するが、本発明は何ら制限を受けるものではない。
【0081】
・A-1:ポリビニルアルコール(グレード名;G-Polymer BVE8049P、MFR:4.0g/10分[230℃、2.16kg荷重]、融点:185℃、三菱ケミカル社製)
・B-1:Na系アイオノマー(グレード名;ハイミラン1605、MFR:2.8g/10分[190℃、2.16kg荷重]、融点:92℃、三井・ダウ・ポリケミカル社製)
・B-2:Zn系アイオノマー(グレード名;ハイミラン1705、MFR:5.0g/10分[190℃、2.16kg荷重]、融点:91℃、三井・ダウ・ポリケミカル社製)
・D-1:ポリエチレン(アドマー NF614、融点:122℃、三井化学社製)
・D-2:ポリエチレン(グレード名;ノバテックLL UF240、MFR:2.1g/10分[190℃、2.16kg荷重]、密度:0.920g/cm、日本ポリエチレン社製)(C-2と同一原料使用)
・D-3:植物由来ポリエチレン(グレード名;SPB681、MFR:3.8g/10分[190℃、2.16kg荷重]、密度:0.922g/cm、ブラスケム社製)(C-4と同一原料使用)
・C-1:ポリエチレン(グレード名;エボリュー SP2120、MFR:2.2g/10分[190℃、2.16kg荷重]、密度:0.921g/cm、プライムポリマー社製)
・C-2:ポリエチレン(グレード名;ノバテックLL UF240、MFR:2.1g/10分[190℃、2.16kg荷重]、密度:0.920g/cm、日本ポリエチレン社製)
・C-3:植物由来ポリエチレン(グレード名;SLH218、MFR:2.3g/10分[190℃、2.16kg荷重]、密度:0.916g/cm、ブラスケム社製)
・C-4:植物由来ポリエチレン(グレード名;SPB681、MFR:3.8g/10分[190℃、2.16kg荷重]、密度:0.922g/cm、ブラスケム社製)
【0082】
(実施例1)
リップ開度1mmのTダイで中間層側押出機にビニルアルコール系樹脂(A-1)100質量部、接着層側押出機にアイオノマー系樹脂(B-2)50質量部とポリエチレン系樹脂(D-3)50質量部の混合物、表裏層側押出機にポリエチレン系樹脂(C-1)60質量部とポリエチレン系樹脂(C-2)40質量部の混合物を用いて210℃で溶融押出成形を行い、40℃のキャストロールに導かれて。3種5層構成の厚さ200μmの積層膜状物を得た。その後、積層膜状物は縦延伸機を用いて、65℃に設定したロール間において、ドロー比100%(総縦延伸倍率2.0倍)を掛けて縦延伸を行った。縦延伸後のフィルムは、フィルムテンター設備(京都機械社製)にて、予熱温度80℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度80℃で横方向に5.0倍延伸した後、80℃で熱処理を行い、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの評価結果を表1に纏める。
【0083】
(実施例2~4、比較例1~3)
表に記載の原料配合比にて混合物を作製し、実施例1と同様の方法で積層膜状物を得た。その後積層膜状物は、所定の倍率にて実施例1と同様の方法で縦延伸、横延伸を行い、積層フィルムを得た。比較例は、接着層としてアイオノマーを含まない材料で作成した。得られた積層フィルムの評価結果を表1に纏める。
【0084】
実施例および比較例で得られたフィルムに関して、フィルム厚さ、ヘーズ、引張強伸度、熱収縮率、酸素透過度、水蒸気透過度、層間強度、包装適性、リサイクル性、総合評価について以下の方法で測定評価した。
【0085】
(1)フィルム厚さ
1/1000mmのダイアルゲージを用いて無作為に10点測定して、その平均値を厚さとした。
【0086】
(2)ヘーズ
得られた積層フィルムを、JIS K7136(2000)に準拠して、ヘーズ値を測定した。
【0087】
(3)引張強伸度
得られた積層フィルムを、MD120mm、TD15mmの大きさに切り出し、JIS K7127(1999)に準拠し、引張速度200mm/分で、雰囲気温度23℃におけるフィルムのMDの引張破断強度、引張破断伸度を測定し、5回の測定値の平均値を算出した。
また、得られた積層フィルムを、MD15mm、TD120mmの大きさに切り出し、JIS K7127(1999)に準拠し、引張速度200mm/分で、雰囲気温度23℃におけるフィルムのTDの引張破断強度、引張破断伸度を測定し、5回の測定値の平均値を算出した。
【0088】
(4)熱収縮率
得られた積層フィルムを、MD200mm、TD10mmの大きさで短冊状に切り取り、MDに対し間隔100mmで標線をマークした。その後、100℃の温度に設定した温水バスに短冊状フィルムを10秒間それぞれ浸漬し、収縮後の標線間隔を測定し、収縮量(=収縮前の標線間隔-収縮後の標線間隔)を測定した。熱収縮率は、収縮前の標線間隔に対する収縮量の比率(=(収縮量/収縮前の標線間隔)×100%)として算出した。
また、得られた積層フィルムを、MD10mm、TD200mmの大きさに切り取り、TDに対し間隔100mmで標線をマークした。その後、MDの熱収縮率測定と同様の測定を行い、TDの熱収縮率を測定した。
【0089】
(5)酸素透過度
得られた積層フィルムを、JIS K7126-2(2006)に基づき、モダンコントロール社製のOXY-TRAN100型酸素透過率測定装置を用いて、23℃、50%RHの雰囲気下において積層フィルムの酸素透過度を測定した。
【0090】
(6)水蒸気透過度
得られた積層フィルムを、JIS K7129(2008)に基づき、MOCON社製PERMATRANを用いて、40℃、90%RHの雰囲気下において積層フィルムの水蒸気透過度を測定した。
【0091】
(7)ガスバリア性
得られた積層フィルムの酸素透過度より、ガスバリア性を以下の判断基準で判定を行った。
◎:積層フィルムの酸素透過度が、0.10cc/m・day・atm以下である。
○:積層フィルムの酸素透過度が1.0cc/m・day・atm以下である。
×:積層フィルムの酸素透過度が10cc/m・day・atm以下である。
【0092】
(8)層間強度
得られた積層フィルムを、MD50mm、TD15mmの大きさに切り出し、チャック間10mm、引張速度300mm/分で、T型剥離を実施し、雰囲気温度23℃におけるフィルムの層間強度を測定し、5回の測定値の平均値を算出した。
【0093】
(9)包装適性
蓋を外した高密度ポリエチレン樹脂製100mL広口瓶(アズワン社製、口内径33.8×胴径50×全高93(mm))に対し、広口瓶の開口部に積層フィルムを被せて、100℃の温度に設定した温水バスに10秒間浸漬し、シュリンク包装を行った。包装適性を以下評価方法で判定した。
○:積層フィルムにシワ、破れ、張り不足がなく包装可能であった。
×:積層フィルムにシワ、破れ、張り不足の何れかが発生し、包装困難であった。
【0094】
(10)リサイクル性
得られた積層フィルムの層間強度より、各層の分別が可能であるかどうかを、リサイクル性として、以下の判断基準で判定を行った。
○:積層フィルムの層間強度が3.0N/15mm以下であり、リサイクルに優れる。
×:積層フィルムの層間強度が3.0N/15mm超過である(層間剥離不可の場合を含む)。
【0095】
(11)環境適性
得られた積層フィルムの環境適性を、以下の判断基準で判定を行った。
○:積層フィルムの層(A)以外の層中に、生分解性樹脂または植物由来原料からなる樹脂を含む。
△:積層フィルムの層(A)以外の層中に、生分解性樹脂または植物由来原料からなる樹脂を含まない。
【0096】
(12)総合評価
得られた積層フィルムの総合評価を、以下の判断基準で判定を行った。
○:積層フィルムが、本願規定の範囲を満たす。
×:積層フィルムが、本願規定の範囲を満たさない。
【0097】
表1に実施例、比較例に関する評価結果を示した。
【0098】
【表1】
【0099】
実施例より本願が規定する積層フィルムは、適度な層間強度を有するため、実使用時に剥離を生じず、かつ、廃棄時にはテープ等で簡単に層間を剥離することができ、分別性に優れる。一方で、接着層にポリエチレン系樹脂のみを用いた比較例1では、層間接着が十分でないため、延伸時に層間剥離を生じてしまい、積層フィルムとして評価することが困難であった。また、比較例2~3では、フィルム層間強度が強固なため、テープ等で剥がすことができず、廃棄処理時の分別性に問題を生じる恐れがある。比較例2、比較例3は、10N/15mmで引っ張った場合も剥離が生じなかった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の積層フィルムは、生鮮食品などに使用する食品包装用フィルムに好適に使用することができる。