(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138830
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】非晶質の固体電解質前駆体粉末およびその製造方法、並びに、NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20220915BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20220915BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01B13/00 Z
C01B25/45 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038933
(22)【出願日】2021-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】阿部 大介
(72)【発明者】
【氏名】田上 幸治
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AM11
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ14
(57)【要約】
【課題】結晶化することにより高いイオン伝導度を発揮するNASICON型結晶構造の固体電解質を得ることが出来る、非晶質の固体電解質前駆体粉末およびその製造方法、並びに、NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造方法とを提供する。
【解決手段】リチウムを1質量%以上4質量%以下、アルミニウムを0.5質量%以上6質量%以下、ゲルマニウムを15質量%以上35質量%以下、リンを10質量%以上30質量%以下、窒素を0.05質量%以上3質量%以下、含有し、残部が酸素である、非晶質の固体電解質前駆体粉末を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムを1質量%以上4質量%以下、
アルミニウムを0.5質量%以上6質量%以下、
ゲルマニウムを15質量%以上35質量%以下、
リンを10質量%以上30質量%以下、
窒素を0.05質量%以上3質量%以下、含有し、残部が酸素である、
非晶質の固体電解質前駆体粉末。
【請求項2】
前記非晶質の固体電解質前駆体粉末は窒素を2.5質量%以下含有する、請求項1に記載の非晶質の固体電解質前駆体粉末。
【請求項3】
前記非晶質の固体電解質前駆体粉末は窒素を0.1質量%以上含有する、請求項1または2に記載の非晶質の固体電解質前駆体粉末。
【請求項4】
前記非晶質の固体電解質前駆体粉末は窒素を1.5質量%以下含有し、ゲルマニウムを23.5質量%以上含有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の非晶質の固体電解質前駆体粉末。
【請求項5】
前記窒素を亜硝酸の形で含有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の非晶質の固体電解質前駆体粉末。
【請求項6】
前記非晶質の固体電解質前駆体粉末が、チタン、ジルコニウムおよびケイ素からなる群から選ばれる1種以上の元素を、合計5質量%以下の範囲でさらに含有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の非晶質の固体電解質前駆体粉末。
【請求項7】
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、窒素、酸素を含み、リチウムを1質量%以上4質量%以下、アルミニウムを0.5質量%以上6質量%以下、ゲルマニウムを15質量%以上35質量%以下、リンを10質量%以上30質量%以下、窒素を0.05質量%以上3質量%以下、含有し、残部が酸素である、非晶質の固体電解質前駆体粉末の製造方法であって、
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンおよびアンモニアを含有した液体のpHを2以上4.5未満に調整して、pH調整スラリーを得る工程と、
前記pH調整スラリーを噴霧乾燥して、乾燥粉末を得る工程と、
前記乾燥粉末を300℃以上500℃以下で焼成する工程とを有する、非晶質の固体電解質前駆体粉末の製造方法。
【請求項8】
前記pH調整スラリー中における、硝酸とアンモニアとのモル比(NO3/NH3)の値を1.0以上3.0以下とする、請求項7に記載の非晶質の固体電解質前駆体粉末の製造方法。
【請求項9】
前記リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンおよびアンモニアを含有した液体へさらに、チタン、ジルコニウムおよびケイ素からなる群から選ばれる1種以上を添加し、前記非晶質の固体電解質前駆体粉末へ、チタン、ジルコニウムおよびケイ素からなる群から選ばれる1種以上の元素を合計5質量%以下の範囲で含有させる、請求項7または8に記載の非晶質の固体電解質前駆体粉末の製造方法。
【請求項10】
請求項1から6のいずれか一項に記載の非晶質の固体電解質前駆体粉末を500℃よりも高い温度で焼成する工程を有する、NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非晶質の固体電解質前駆体粉末およびその製造方法、並びに、NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池の固体電解質として、NASICON型結晶構造をとる固体電解質は、高いイオン伝導度を有することが知られている。NASICON型結晶構造をとる固体電解質の1つとして、例えばリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンおよび酸素を含有し、一般式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3(xの範囲は、0<x≦1)にて記載される複合酸化物からなる固体電解質(本発明において「LAGP」と記載する場合がある)が知られている。
【0003】
例えば特許文献1や2のように、全固体電池の電極層のイオン伝導度を高めるために電極活物質の粒子表面に固体電解質の被膜を形成することが知られている。特許文献1や2には電極活物質の粒子表面に固体電解質の被膜を効率的に形成するために、電極活物質とLAGPを非晶質の状態で混合し、焼成することで非晶質のLAGPを結晶化しイオン伝導度を発現させ、高いイオン伝導度を有する全固体電池の電極層を形成する手法が記載されており、結晶化することでNASICON型結晶構造をとる固体電解質の非晶質前駆体粉末が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-37341号公報
【特許文献2】特開2019-50083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、全固体電池の出力向上の為には、さらなるイオン伝導度の向上が望まれている。本発明者らの検討によると、特許文献1、2に記載の方法で製造された非晶質LAGPを焼成することにより結晶化させたLAGPであってもイオン伝導度は低い。結晶化させることで、より高いイオン伝導度を発揮するNASICON型結晶構造の固体電解質となる非晶質前駆体粉末が求められている。
【0006】
本発明は上述の状況の下で為されたものであり、その解決しようとする課題は、結晶化することにより高いイオン伝導度を発揮するNASICON型結晶構造の固体電解質を得ることが出来る、非晶質の固体電解質前駆体粉末およびその製造方法、並びに、NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために研究を行った結果、本発明者らは、リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンおよび酸素を所定量含有する非晶質の固体電解質前駆体粉末へ、窒素を所定量含有させることで、当該非晶質の固体電解質前駆体粉末を結晶化した際に、高いイオン伝導度を発揮することを見出した。
【0008】
即ち、上述の課題を解決する為の第1の発明は、
リチウムを1質量%以上4質量%以下、
アルミニウムを0.5質量%以上6質量%以下、
ゲルマニウムを15質量%以上35質量%以下、
リンを10質量%以上30質量%以下、
窒素を0.05質量%以上3質量%以下、含有し、
残部が酸素である、非晶質の固体電解質前駆体粉末である。
第2の発明は、
前記非晶質の固体電解質前駆体粉末は窒素を2.5質量%以下含有する、第1の発明に記載の非晶質の固体電解質前駆体粉末である。
第3の発明は、
前記非晶質の固体電解質前駆体粉末は窒素を0.1質量%以上含有する、第1または第2の発明に記載の非晶質の固体電解質前駆体粉末である。
第4の発明は、
前記非晶質の固体電解質前駆体粉末は窒素を1.5質量%以下含有し、ゲルマニウムを23.5質量%以上含有する、第1から第3の発明のいずれか一項に記載の非晶質の固体電解質前駆体粉末である。
第5の発明は、
前記窒素を亜硝酸の形で含有する、第1から第4の発明のいずれか一項に記載の非晶質の固体電解質前駆体粉末である。
第6の発明は、
前記非晶質の固体電解質前駆体粉末が、チタン、ジルコニウムおよびケイ素からなる群から選ばれる1種以上の元素を、合計5質量%以下の範囲でさらに含有する、第1から第5の発明のいずれか一項に記載の非晶質の固体電解質前駆体粉末である。
第7の発明は、
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、窒素、酸素を含み、リチウムを1質量%以上4質量%以下、アルミニウムを0.5質量%以上6質量%以下、ゲルマニウムを15質量%以上35質量%以下、リンを10質量%以上30質量%以下、窒素を0.05質量%以上3質量%以下、含有し、残部が酸素である、非晶質の固体電解質前駆体粉末の製造方法であって、
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンおよびアンモニアを含有した液体のpHを2以上4.5未満に調整して、pH調整スラリーを得る工程と、
前記pH調整スラリーを噴霧乾燥して、乾燥粉末を得る工程と、
前記乾燥粉末を300℃以上500℃以下で焼成する工程とを有する、非晶質の固体電解質前駆体粉末の製造方法である。
第8の発明は、
前記pH調整スラリー中における、硝酸とアンモニアとのモル比(NO3/NH3)の値を1.0以上3.0以下とする、第7の発明に記載の非晶質の固体電解質前駆体粉末の製造方法である。
第9の発明は、
前記リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンおよびアンモニアを含有した液体へさらに、チタン、ジルコニウムおよびケイ素からなる群から選ばれる1種以上を添加し、前記非晶質の固体電解質前駆体粉末へ、チタン、ジルコニウムおよびケイ素からなる群から選ばれる1種以上の元素を合計5質量%以下の範囲で含有させる、第7または第8の発明に記載の非晶質の固体電解質前駆体粉末の製造方法である。
第10の発明は、
第1から第6の発明のいずれか一項に記載の非晶質の固体電解質前駆体粉末を500℃よりも高い温度で焼成する工程を有する、NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、焼成して結晶化することにより高いイオン伝導度を発揮するNASICON型結晶構造の固体電解質の前駆体である、リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、窒素および酸素を含有する非晶質の固体電解質前駆体粉末と、当該非晶質の固体電解質前駆体粉末の製造方法、並びに、NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末のXRDスペクトルである。
【
図2】実施例1に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末のラマンスペクトルである。
【
図3】実施例1、比較例1、2に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末は、非晶質の粉末であるが、焼成して結晶化させることにより、高いイオン伝導度を発現するNASICON型結晶構造の固体電解質を得ることが出来る、NASICON型結晶構造の固体電解質の前駆体である。
尚、本発明に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末を結晶化させることで得られる固体電解質とは、JCPDSカードNo.01-080-1922にて同定できる一般式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3(xの範囲は、0<x≦1)を有するもの以外であっても、LAGPを主相とするものであればよいし、LAGPを主相としその他の酸化物を副相とする混相のものであってもよい。ここで、得られた固体電解質においてLAGPが主相であることは、当該固体電解質をXRD測定した際、得られる最大のピークがLAGPであることで確認することで出来る。
【0012】
以下、発明を実施するための形態について、1.非晶質の固体電解質前駆体粉末における各構成元素の効果と含有割合、2.非晶質の固体電解質前駆体粉末の性状、3.非晶質の固体電解質前駆体粉末の製造方法、および、NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造方法、の順で説明する。
【0013】
1.非晶質の固体電解質前駆体粉末における各構成元素の効果と含有割合
本発明に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末は、構成元素としてリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、窒素を含有し、所望によりその他の元素を含有し、残部が酸素である。以下、各構成元素の効果と含有割合について、(1)リチウム、(2)アルミニウム、(3)ゲルマニウム、(4)リン、(5)窒素、(6)その他の元素、(7)酸素、(8)不純物、の順で説明する。
【0014】
(1)リチウム
本発明の非晶質の固体電解質前駆体粉末には、リチウムが1質量%以上4質量%以下含有されている。リチウムの含有量が1質量%以上4質量%以下であれば、非晶質の固体電解質前駆体粉末を結晶化した際に、高いイオン伝導度を有するNASICON型結晶構造の固体電解質となり、リチウムイオン伝導度が担保されるからである。リチウムの含有量は好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、さらに好ましくは1.8質量%以上であり、一方、好ましくは4.0質量%以下、好ましくは3.5質量%以下、さらに好ましくは3.3質量%以下である。
【0015】
(2)アルミニウム
本発明の非晶質の固体電解質前駆体粉末には、アルミニウムが0.5質量%以上6質量%以下含有されている。アルミニウムを0.5質量%以上6質量%以下含有することで、非晶質の固体電解質前駆体粉末を結晶化した際に、NASICON型結晶構造の固体電解質となる。アルミニウム含有量は、好ましくは1.0質量%以上であり、さらに好ましくは2.0質量%以上である。一方、好ましくは5.5質量%以下、さらに好ましくは5.0質量%以下である。
【0016】
(3)ゲルマニウム
本発明の非晶質の固体電解質前駆体粉末中には、ゲルマニウムが15質量%以上35質量%以下含有されている。ゲルマニウムの含有量が15質量%以上であれば、ガラスを形成し、非晶質とすることができる。一方、ゲルマニウムの含有量が35質量%以下であれば、非晶質の固体電解質前駆体粉末を結晶化した際に、NASICON型結晶構造の固体電解質となる。ゲルマニウム含有量は好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは22質量%以上であり、最も好ましくは23.5質量%以上とすることで、非晶質の固体電解質前駆体粉末を結晶化した際に、より高いイオン伝導度の固体電解質を得ることができる。一方、好ましくは33質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0017】
(4)リン
本発明の非晶質の固体電解質前駆体粉末中には、リンが10質量%以上30質量%以下含有されている。この場合にガラスを形成し、非晶質とすることができる。一方、結晶化した際、非晶質の固体電解質前駆体粉末がNASICON型結晶構造となる。リン含有量は好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上である。一方、好ましくは28質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である。
【0018】
(5)窒素
本発明に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末には、窒素が0.05質量%以上3質量%以下含有されている。非晶質の固体電解質前駆体粉末に窒素を0.05質量%以上3質量%以下含有させることで非晶質の固体電解質前駆体粉末を焼成し結晶化する場合に、窒素が焼結促進剤として作用し、結晶の粒界が少なくなるためイオン伝導抵抗を低減し、結晶化して得られる固体電解質のイオン伝導度が向上すると推察される。結晶化して得られる固体電解質のイオン伝導度が向上させる点から、窒素含有量は、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.15質量%以上である。一方、結晶化して得られる固体電解質のイオン伝導度が向上させる点から、窒素含有量は、好ましくは2.5質量%以下、好ましくは、1.5質量%以下である。
【0019】
尚、本発明において、非晶質の固体電解質前駆体粉末に含まれる窒素の含有量は、窒素分析装置(試料を不活性ガス雰囲気中で加熱して分解し、試料に含有されている窒素を窒素ガスとして抽出し、定量分析する装置)を用いて、当該非晶質の固体電解質前駆体粉末の窒素量を定量分析した結果から算出することが出来る。そして、当該非晶質の固体電解質前駆体粉末に含まれる窒素は、亜硝酸の形であるのが好ましい。本明細書において「亜硝酸の形である窒素」とは、非晶質の固体電解質前駆体粉末のラマンスペクトルを測定し、1285cm-1±5付近に亜硝酸の対称伸縮に起因するピークが検出されることで同定されたものである。非晶質の固体電解質前駆体粉末に含まれる窒素が亜硝酸の形である場合、含まれる亜硝酸は、主に亜硝酸リチウムとして存在していると考えられる。亜硝酸リチウムは分解温度が600℃以上であるため、非晶質の固体電解質前駆体粉末を製造する際の乾燥や焼成において分解されずに残存し、後工程において、窒素含有による効果が発揮され、高いイオン伝導度を発現するNASICON型結晶構造の固体電解質を得られると考えている。
【0020】
(6)その他の元素
本発明に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末は、結晶化した際、NASICON型結晶構造になるのであれば、上述のリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、窒素および酸素以外に、さらにチタン、ジルコニウムおよびケイ素からなる群から選ばれる1種以上の元素を合計5質量%以下含有していてもよい。好ましくは合計3質量%以下、さらに好ましくは合計2質量%以下である。チタン、ジルコニウムおよびケイ素からなる群から選ばれる1種以上の元素は合計0.1質量%以上含有していてもよい。
【0021】
(7)酸素
本発明に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末に含まれる酸素含有量は、(100質量%-酸素以外の各構成元素の質量%の合計値)で求めることができる。非晶質の固体電解質前駆体粉末に含まれる酸素含有量は、40質量%以上55質量%以下であることが好ましい。
【0022】
(8)不純物
本発明に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末には、本発明の効果を損なわない範囲で、リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、窒素、酸素、さらにチタン、ジルコニウムおよびケイ素以外の元素を、不純物元素として含有していてもよい。不純物元素の合計は、好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0023】
2.非晶質の固体電解質前駆体粉末の性状
本発明に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末の性状について、(1)粒径、(2)非晶質であることの確認方法、の順で説明する。
【0024】
(1)粒径
本発明に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末の粒径は、特に制限はないが、非晶質の固体電解質前駆体粉末のレーザー回折散乱式粒度分布測定装置により体積基準の粒度分布を測定し、測定によって得られた体積基準の累積50%粒子径(D50)が、1μm~30μmであることが好ましい。
後述するNASICON型結晶構造の固体電解質を、固体電解質として全固体電池の固体電解質として用いる場合は、前駆体である非晶質の固体電解質前駆体粉末のD50は、1μm~5μmであることが好ましい。
【0025】
(2)非晶質であることの確認方法、
本発明に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末が非晶質であることは、粉末X線回折(XRD)測定により、2θ:15°~40°の領域でハローが観察されることにより確認できる。尚、「ハロー」とは、X線の強度の緩やかな起伏であって、X線チャートにおいてブロードな盛り上がりとして観察されるものである。そして、当該ハローの半値幅は2θ:2°以上であれば非晶質である。
【0026】
3.非晶質の固体電解質前駆体粉末の製造方法、および、NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造方法
まず、本発明に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末の製造方法について説明する。そして、製造された非晶質の固体電解質前駆体粉末を前駆体とした、NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造方法について説明する。
【0027】
本発明に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末は、各構成元素を含有する原料の水溶液を混合して液体の混合物を得、得られた液体の混合物のpH調整を行い、pH調整後のスラリーを噴霧乾燥して乾燥粉末を得、当該乾燥粉末を焼成することで得られる。
尚、当該液体の混合物は、後述するように、各構成元素の塩が分散してスラリーとなっている場合と、各構成元素の塩が溶解して溶液となっている場合とがある。
【0028】
以下、本発明に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末の製造方法、および、NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造方法について、(1)原料水溶液調製、(2)混合、(3)pH調整、(4)噴霧乾燥、(5)焼成、(6)粒径調整、(7)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造、の順に説明する。
【0029】
(1)原料水溶液調製
本発明に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末の構成元素であるリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、および、所望によりチタン、ジルコニア、およびケイ素の各元素を含む原料を、それぞれ水に完全に溶解させて水溶液とする。各構成元素を含む原料は、硝酸塩を用いることで、非晶質の固体電解質前駆体粉末中に窒素が残留しやすくなるため好ましい。
【0030】
(2)混合
前記「(1)原料水溶液調製」にて調製した原料水溶液を、ねらいの固体電解質前駆体粉末の組成に合わせて混合する工程である。
当該混合の結果、いわゆる共沈により固体電解質の構成元素を含むスラリーが得られる場合と、混合溶液が得られる場合とがある。
【0031】
例えば、アンモニアで溶解させたアルカリ性のゲルマニウム水溶液に、硝酸リチウム、硝酸アルミニウム9水和物、リン酸二水素アンモニウムを溶解させた酸性の水溶液を添加すると直後に濁り、共沈によってリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンおよびアンモニアを含有したスラリーを得ることが出来る。この混合工程では液温は特に検討する必要はなく、加温しても、しなくても良い。当該スラリー中には、水酸化物として析出した構成元素と、イオンとして存在している構成元素とが存在していると考えられる。
一方、非晶質の固体電解質前駆体粉末の構成元素が、溶媒である水に全溶解した場合は、スラリーにはならずに透明な混合溶液となる。この場合は、次に述べる「(3)pH調整」において、共沈によりスラリーが生成する。
尚、本発明において、前記透明な混合溶液と、前記共沈により生成したスラリーとを、含む概念として「液体」という用語を用いる場合がある。
【0032】
(3)pH調整
前記「(2)混合」にて得られたリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンおよびアンモニアを含有した混合スラリーまたは混合溶液である液体の混合物へ、硝酸を添加するかまたは原料中の硝酸塩量の比率を増やすことにより、液体の混合物のpHを2以上、4.5未満に調整する工程である。この結果、混合溶液の場合も共沈によりスラリーを生成するので、混合スラリーからあっても、混合溶液からあっても、pHが2以上、4.5未満であるpH調整スラリーを得ることが出来る。
尚、「(2)混合」または「(3)pH調整」において、構成元素のイオン濃度積が溶解度積よりも高くなる過飽和状態を実現し、共沈法を用いてスラリーを生成させるのは、構成元素の均一性向上を果たすことが、NASICON型結晶構造を有する固体電解質を得る為に肝要な為である。
【0033】
本発明者は、以下のように本工程において硝酸を添加し、混合スラリーのpHを2以上、4.5未満に調整することで、非晶質の固体電解質前駆体粉末中に窒素が含有されると推察している。前記「(2)混合」にて得られた混合スラリーには、硝酸塩とアンモニウム塩が含まれていると考えられる。本発明者は、前記「(2)混合」にて得られた混合スラリーに硝酸を添加し、混合スラリーのpH2以上、4.5未満にすることで、pH調整スラリーに含まれる硝酸リチウム、硝酸アンモニウム、硝酸アルミニウムなどの硝酸塩のうち、分解温度が高い硝酸リチウムの量が増加していると考えている。
そして、pH調整スラリーに含まれる硝酸リチウムが、後述する「(5)焼成」における加熱により亜硝酸性リチウムを生成すると考えられる。その結果、亜硝酸の形である窒素が非晶質の固体電解質前駆体粉末中に残留し、非晶質の固体電解質前駆体粉末中に窒素が含有されると推察している。
【0034】
当該観点から、pH調整スラリーはpHを4.4以下にすることが好ましく、pHを4.3以下にすることがさらに好ましい。一方、pH調整スラリーはpHを2.3以上にすることが好ましく、pHを2.6以上にすることがさらに好ましい。
【0035】
そして、pH調整スラリー中における硝酸とアンモニアのモル比(NO3/NH3)の値を1.0以上3.0以下とすることが好ましい。
ここで、pH調整スラリー中における硝酸とアンモニアのモル数とは、pH調整スラリーを調製するまでに、添加された硝酸分子とアンモニウム分子との、それぞれの全モル数の意味である。尚、pH2以上、pH4.5未満の領域において、それぞれの分子は水溶液中において、硝酸イオンおよびアンモニウムイオンの状態で存在すると考えられる。
【0036】
このようにスラリー中におけるアンモニアと硝酸とのモル比の値を調整することで、上述の通り、スラリー中の硝酸リチウムの量が増加すると考えられ、非晶質の固体電解質前駆体粉末中へ、亜硝酸の形の窒素を含有させることができるため好ましい。当該観点から、pH調整スラリー中の硝酸とアンモニアのモル比(NO3/NH3)の値は1.0以上2.0以下とすることがより好ましい。
【0037】
(4)噴霧乾燥、
前記「(3)pH調整」にて得られたpH2以上、4.5未満のpH調整スラリーを、スプレードライヤー等を用いて噴霧乾燥してpH調整スラリー中の水分を蒸発させ、乾燥粉末を得る工程である。「(3)pH調整」を経て得られたスラリーを噴霧乾燥することにより、短時間でスラリー中においてイオンで存在している構成元素を急速に析出させることが出来るので、構成元素間の溶解度の差から生じる、析出の不均一さが低減され、組成が均一な乾燥粉末となる。さらに、二酸化ゲルマニウムの生成が抑制され、好ましい非晶質の固体電解質前駆体粉末を得ることができる。
【0038】
発明者の事前の試験によると、pH2以上、4.5未満のpH調整スラリーを噴霧乾燥ではなく、ホットプレート等を使用した蒸発乾固により乾燥した粉末では、後述する「(5)焼成」において二酸化ゲルマニウムが生成し、粉末X線回折(XRD)測定により、2θ:15°~40°の領域に二酸化ゲルマニウムのピークが見受けられ、非晶質である固体電解質伝導体酸化物粉末を得ることができなかった。
【0039】
乾燥温度は、得られる乾燥粉末に水分が残らない温度に適宜設定すればよい。但し、乾燥粉末中には、pH調整後のスラリーと同様に硝酸塩とアンモニウム塩とが含まれていると考えられことから、具体的には、噴霧乾燥機であるスプレードライヤーの入口温度が150~250℃、熱風出口温度が60~120℃が好ましい。
これは、入口温度が150℃以上であれば、十分な乾燥速度が得られスプレードライヤーの乾燥塔に乾燥粉が残留し易くなる事態を回避出来、250℃以下であればスラリー中の成分が熱分解して、所望の乾燥粉にならない事態を回避出来るからである。また、熱風出口温度が60℃以上、好ましくは80℃以上であれば、乾燥粉末中の水分量を十分に低減できるからであり、120℃以下、好ましくは110℃以下であれば二酸化ゲルマニウムの偏析を生じる事態を回避出来るからである。
【0040】
(5)焼成
前記「(4)噴霧乾燥」にて得られた乾燥粉末を焼成し、ガラス化して非晶質の固体電解質前駆体粉末を得る工程である。具体的には、アルミナ製等の容器に、乾燥粉末を入れ、大気雰囲気下で室温から、300℃~500℃まで、昇温速度0.1~20℃/minにて昇温することで非晶質の固体電解質前駆体粉末を得ることができる。300℃以上500℃以下で焼成することにより、乾燥粉末中に含有される分解温度の低いアンモニア塩は除去されるが、乾燥粉末に含有される硝酸リチウムは亜硝酸リチウムとなり、亜硝酸の形の窒素が非晶質の固体電解質前駆体粉末中に残存し、本発明に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末中に窒素が含有されるのだと考えられる。
【0041】
(6)粒径調整
後述する「(7)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造」において、非晶質の固体電解質前駆体粉末を結晶化して得られる固体電解質をシート状に成形する場合、目的のシート厚に応じて、非晶質の固体電解質前駆体粉末の粒径を必要に応じて適宜調整してもよい。粒径調整の方法は、公知の方法が使用可能ではあるが、ビーズミル等を用いた湿式粉砕が好ましい。湿式粉砕を実施した場合は、湿式粉砕処理後に固液分離し、回収した湿式粉砕後の非晶質の固体電解質前駆体粉末を乾燥する。乾燥して得られた非晶質の固体電解質前駆体粉末の粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定により求めた体積基準の累積50%粒子径(D50)において、1μm~5μmであることが好ましい。
【0042】
湿式粉砕時の溶媒としては、非晶質の固体電解質前駆体粉末中のリチウムがプロトンとイオン交換してしまい、固体電解質のイオン伝導を低減することを防ぐ観点から有機溶媒が好ましく、具体的にはIPAが好ましい。IPAは粉砕後の乾燥にて揮発するので、非晶質の固体電解質前駆体粉末に残存しないからである。粉砕にビーズミルを使用する場合は、ビーズとしてはジルコニアビーズが好ましい。湿式粉砕後の非晶質の固体電解質前駆体粉末は、使用した溶媒の沸点以上の温度、且つ、前記「(5)焼成」の際における焼成温度以下の温度範囲で乾燥させて、使用した溶媒を除去することが好ましい。
【0043】
(7)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造
本発明に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末から、本発明に係るNASICON型結晶構造の固体電解質を得るには、例えばアルミナ製等の容器に、前記「(6)粒径調整」にて得られた非晶質の固体電解質前駆体粉末を入れる、または、例えばペレット状に成形、或いはシート状に成形した後、500℃を超える温度で結晶化させればよい。好ましくは550℃以上900℃以下の温度で焼成し、非晶質の固体電解質前駆体粉末を結晶化させることにより、NASICON型結晶構造の固体電解質を得ることが出来る。当該NASICON型結晶構造の固体電解質は単相であることが好ましい。単相であることにより固体電解質のイオン伝導度が高くなり易くなるからである。
得られたNASICON型結晶構造の固体電解質は、例えば固体電解質として全固体電池に使用できる。
【0044】
焼成の際の昇温速度は、とくに問わないが、1~20℃/minが好ましい。焼成雰囲気に特段制限はないが、大気雰囲気とするのがよい。焼成時間は、とくに問わないが500℃を超え、900℃以下に達してから30分間以上300分間以下とすることが好ましい。当該焼成の際、本発明に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末に含まれる窒素が焼結助剤として機能することで結晶成長が施され、固体電解質における結晶の粒界が少なくなって、イオン伝導度が向上すると推察している。
【0045】
NASICON型結晶構造の固体電解質は、上述した結晶化前の非晶質の固体電解質前駆体粉末の構成元素であるリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含有している。本発明に係るNASICON型結晶構造の固体電解質であるかは、XRD装置を用いて測定しXRDプロファイルから判定出来る。具体的には、得られたXRDプロファイルを、XRD装置付属の電子計算機を用いて、ICDD(国際回折データセンター)のPDF(Powder Diffraction File) No.01-080-1922と照合することで同定することが出来、単相であるかを確認することも出来る。
【実施例0046】
〈実施例1〉
上述した、非晶質の固体電解質前駆体粉末の製造工程を示すフローに拠って、実施例1に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末を製造した。そして製造された実施例1に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末の分析および特性評価を実施した。
【0047】
(1)原料水溶液調製
実施例1においては原料水溶液として、(I)ゲルマニウム含有水溶液、(II)リチウム、アルミニウム、リン含有水溶液、を調製した。以下、それぞれについて説明する。
【0048】
(I)ゲルマニウム含有水溶液
純水4000gへ二酸化ゲルマニウム192.5gを添加して撹拌しながら40℃に加温し、さらにアルカリとして濃度28質量%のアンモニア水97.5gを添加して、前記酸化ゲルマニウムを溶解させゲルマニウム含有水溶液を調製した。調製した水溶液のpHは10.7でありアルカリ性であった。
【0049】
(II)リチウム、アルミニウム、リン含有水溶液
純水336.3gへ、硝酸リチウム15.5gと水酸化リチウム一水和物4.2gと、
硝酸アルミニウム9水和物38.7gとリン酸二水素アンモニウム71.2gとを加え、リチウム、アルミ二ウム、リン含有水溶液を調製した。調製したリチウム、アルミニウム、リン含有水溶液のpHは1.8であり、酸性であった。
【0050】
(2)混合
前記アルカリ性であるゲルマニウム含有水溶液720gを分取し攪拌しながら40℃に加温し、そこへ前記酸性であるリチウム、アルミニウム、リン含有水溶液の全量(283.7g)を添加したところ、水溶液は当該添加直後に白濁し、リチウムとアルミ二ウムとゲルマニウムとリンとアンモニアと水とを含む、白色の混合スラリーを得た。得られた混合スラリーのpHは4.7であった。
【0051】
(3)pH調整
得られた混合スラリーを攪拌しながら濃度60質量%の硝酸を5g添加し、pHを4.3に調整して、pH調整スラリーを得た。このときのスラリーの温度は40℃であった。
ここで、当該pH調整スラリーを得るまでに、硝酸を0.58mol添加し、アンモニアを0.46mol添加していることから、添加された硝酸とアンモニアのモル比(NO3/NH3)は1.27であった。
【0052】
尚、本発明において、液体のpH値の測定は、JISZ8802に準拠して実施した。そしてpH標準液として、酸性域ではシュウ酸塩およびフタル酸塩緩衝液を、中性域では中性リン酸塩およびリン酸塩緩衝液を、アルカリ性域ではほう酸塩および炭酸塩緩衝液を、それぞれ用いて校正した、堀場エステック製ガラス電極式水素イオン濃度指示計(型式D-53)を使用して行った。
【0053】
(4)噴霧乾燥、
前記pH調整スラリーを、噴霧乾燥機(東京理化器械株式会社製 SD-1000)を用いて噴霧乾燥して、前記pH調整スラリー中の水分を蒸発させて一気に固相析出させ、白色の粉末を得た。尚、噴霧乾燥の条件としては、入口温度180℃、出口温度90℃、前記pH調整スラリーの添加速度10g/minとした。
【0054】
(5)焼成
アルミナ製の容器に、前記噴霧乾燥で得られた乾燥粉末を入れ、昇温速度5℃/minにて室温から400℃まで昇温し、400℃に達してから大気雰囲気下で120分間焼成することで非晶質の固体電解質前駆体粉末が得られた。
【0055】
(6)粒径調整
前記非晶質の固体電解質前駆体粉末40gを、φ1mmZrビーズ160gとIPA94.32gと共にビーズミルに装填し120分間湿式粉砕した後、乾燥機に入れ、100℃で3時間乾燥し、実施例1に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末を得た。
実施例1に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末を、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(SYMPATEC社製のへロス粒度分布測定装置(HELOS&RODOS(気流式の分散モジュール)))を使用して、分散圧5barで体積基準の粒度分布を測定し、体積基準の累積50%粒子径(D
50)を求めたところ1.8μmであった。
実施例1に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末の30,000倍のSEM写真を
図3に示す。
【0056】
(7)非晶質の固体電解質前駆体粉末の分析および特性評価
得られた実施例1に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末に対して、(I)元素分析、(II)窒素量分析、(III)非晶質の固体電解質前駆体粉末のXRD測定、(IV)非晶質の固体電解質前駆体粉末のラマンスペクトル測定、を行った。以下、それぞれの方法および結果について説明する。
尚、非晶質の固体電解質前駆体粉末において、前記(I)元素分析による各元素の存在量、および(II)窒素量分析による窒素の存在量の残部が、酸素の存在量であると考えられる。これは後述する、実施例2~8、比較例1~3も同様である。
【0057】
(I)元素分析
実施例1に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末へ、溶融剤として炭酸ナトリウムを添加して溶融し、アルカリ溶融塩を作製した。次に、この溶融塩を硝酸に溶解し、この溶解液に対しICP-OES装置(Agilent社製 ICP-720)を用いて元素分析を行った。リチウム、アルミニウム、リン、ゲルマニウム、チタン、ジルコニア、およびケイ素の各構成元素分析値を表1に記載する。
【0058】
(II)窒素含有量分析
実施例1に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末中の窒素含有量を、窒素分析装置(株式会社堀場製作所製 EMGA-920)を用いて分析した。窒素含有量分析値を表1に記載する。
【0059】
(III)非晶質の固体電解質前駆体粉末のXRD測定
実施例1に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末に対して下記測定条件にてXRD測定を実施した。得られたXRDスペクトルを
図1に示す。
<XRD測定条件>
測定装置 :XRD-6100(島津製作所製)
管球 :Cu
管電圧 :40kv
管電流 :30mA
発散スリット:1.0°
散乱スリット:1.0°
受光スリット:0.3mm
ステップ幅 :0.02°/step
計測時間 :0.25sec
【0060】
図1より、実施例1に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末のXRDスペクトルは、2θ:15°~40°の領域で、半値幅が2θ:2°以上ハローが観察されたことにより、非晶質であることが確認出来た。なお、後述する実施例2~8、比較例1~3に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末の全てにおいても2θ:15°~40°の領域で、半値幅が2θ:2°以上ハローが観察されたことにより、これらも非晶質であることが確認出来た。
【0061】
(IV)非晶質の固体電解質前駆体粉末のラマンスペクトル測定
実施例1に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末に対して、レーザラマン分光光度計(日本分光社製:NRS-4500)を用いてレーザ波長532nmでラマンスペクトル測定を実施した。測定により得られたラマンスペクトルを
図2に示す。得られたラマンスペクトルは1285cm
-1に亜硝酸(NO
2)の対称伸縮に起因するピークが検出され、非晶質の固体電解質前駆体粉末中に含有する窒素が亜硝酸の形であることがわかった。上記亜硝酸(NO
2)の対称伸縮に起因するピークが検出された場合を〇、ピークが検出されない場合を×として、表1に記載した。
【0062】
なお、後述する実施例2~8に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末においても、1285cm-1±5に亜硝酸(NO2)の対称伸縮に起因するピークが検出され、これらに含有される窒素も亜硝酸の形であることがわかった。一方、比較例1~3に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末においては、ピークが検出されなかった。
【0063】
(8)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造および特性評価
実施例1に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末の圧粉体を焼成し、結晶化させて得た圧粉焼成体であるNASICON型結晶構造を有する固体電解質に関して、(I)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造およびXRD測定による評価、(II)NASICON型結晶構造を有する固体電解質のイオン伝導度評価、を実施した。以下、それぞれの方法および結果について説明する。
【0064】
(I)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造およびXRD測定による評価
実施例1に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末0.5gを、直径10mmの円筒容器中に投入し、プレス機によって360MPaでプレスして圧粉体を得た。得られた圧粉体を、炉内温度が800℃に達してから120分間焼成し、結晶化させた圧粉焼成体を製造した。
【0065】
製造された圧粉焼成体に対し、上述する「(V)非晶質の固体電解質前駆体粉末のXRD測定」と同様の測定条件でXRD測定を行い、ICDD(国際回折データセンター)のPDF(Powder Diffraction File) No.01-080-1922と照合した。すると、NASICON型結晶構造の固体電解質であるLiGe2(PO4)3と同じ回折ピークが観察され、実施例1に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末を結晶化した圧粉焼成体が、NASICON型結晶構造を有すること、単相の固体電解質であることもわかった。
【0066】
なお、後述する実施例2~8、比較例1~3係る非晶質の固体電解質前駆体粉末を結晶化した圧粉焼成体においても、NASICON型結晶構造の固体電解質であるLAGPの結晶ピークが観察され、NASICON型結晶構造を有すること、単相の固体電解質であることもわかった。
【0067】
(II)NASICON型結晶構造を有する固体電解質のイオン伝導度評価
実施例1に係るNASICON型結晶構造を有する固体電解質に対し、大気雰囲気の下、温度25℃にて、ポテンショ/ガルバノスタット(ソーラトロン社製 1470E)と周波数応答分析器(ソーラトロン社製 1255B)を用い、交流インピーダンス法により100Hz~4MHzの範囲で測定を行った。そして、当該測定値のCole-Coleプロット(複素インピーダンス平面プロット)からNASICON型結晶構造を有する固体電解質の抵抗値を求め、得られた抵抗値から実施例1に係るNASICON型結晶構造を有する固体電解質のイオン伝導度を算出した値を、表1に記載する。
【0068】
〈実施例2〉
実施例1の「(3)pH調整」において、得られた混合スラリーを攪拌しながら濃度60質量%の硝酸を10g添加し、pHを3.9に調整したpH調整スラリーを得たことを除き、実施例1と同様にして、実施例2に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末を得た。
ここで、実施例2に係るpH調整スラリーを得るまでに、硝酸を0.63mol添加し、アンモニアを0.46mol添加していることから、添加された硝酸とアンモニアのモル比(NO3/NH3)は1.37であった。
【0069】
得られた実施例2に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末に対し、実施例1と同様に「(7)非晶質の固体電解質前駆体粉末の分析および特性評価
(I)元素分析、(II)窒素量分析、(III)非晶質の固体電解質前駆体粉末のXRD測定、(IV)非晶質の固体電解質前駆体粉末のラマンスペクトル測定、
(8)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造および特性評価
(I)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造およびXRD測定による評価、(II)NASICON型結晶構造を有する固体電解質のイオン伝導度評価、」
を実施した測定結果として、元素分析結果、窒素含有量、導電率、pH調整スラリーにおけるpH値と(NO3/NH3)比、亜硝酸ピークの存否を表1に記載した。
【0070】
〈実施例3〉
実施例1の「(3)pH調整」において、得られた混合スラリーを攪拌しながら濃度60質量%の硝酸を20g添加し、pHを3.6に調整したpH調整スラリーを得たことを除き、実施例1と同様にして、実施例3に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末を得た。
ここで、実施例3に係るpH調整スラリーを得るまでに、硝酸を0.73mol添加し、アンモニアを0.46mol添加していることから、添加された硝酸とアンモニアのモル比(NO3/NH3)は1.58であった。
【0071】
得られた実施例3に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末に対し、実施例1と同様に、
「(7)非晶質の固体電解質前駆体粉末の分析および特性評価
(I)元素分析、(II)窒素量分析、(III)非晶質の固体電解質前駆体粉末のXRD測定、(IV)非晶質の固体電解質前駆体粉末のラマンスペクトル測定、
(8)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造および特性評価
(I)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造およびXRD測定による評価、(II)NASICON型結晶構造を有する固体電解質のイオン伝導度評価、」
を実施した測定結果として、元素分析結果、窒素含有量、導電率、pH調整スラリーにおけるpH値と(NO3/NH3)比、亜硝酸ピークの存否を表1に記載した。
【0072】
〈実施例4〉
実施例1の「(3)pH調整」において、得られた混合スラリーを攪拌しながら濃度60質量%の硝酸を35g添加し、pHを3.1に調整したpH調整スラリーを得たことを除き、実施例1と同様にして、実施例4に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末を得た。
ここで、実施例4に係るpH調整スラリーを得るまでに、硝酸を0.87mol添加し、アンモニアを0.46mol添加していることから、添加された硝酸とアンモニアのモル比(NO3/NH3)は1.89であった。
【0073】
得られた実施例4に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末に対し、実施例1と同様に、
「(7)非晶質の固体電解質前駆体粉末の分析および特性評価
(I)元素分析、(II)窒素量分析、(III)非晶質の固体電解質前駆体粉末のXRD測定、(IV)非晶質の固体電解質前駆体粉末のラマンスペクトル測定、
(8)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造および特性評価
(I)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造およびXRD測定による評価、(II)NASICON型結晶構造を有する固体電解質のイオン伝導度評価、」
を実施した測定結果として、元素分析結果、窒素含有量、導電率、pH調整スラリーにおけるpH値と(NO3/NH3)比、亜硝酸ピークの存否を表1に記載した。
【0074】
〈実施例5〉
実施例1の「(3)pH調整」において、得られた混合スラリーを攪拌しながら濃度60質量%の硝酸を55g添加し、pHを2.5に調整したpH調整スラリーを得たことを除き、実施例1と同様にして、実施例5に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末を得た。
ここで、実施例5に係るpH調整スラリーを得るまでに、硝酸を1.06mol添加し、アンモニアを0.46mol添加していることから、添加された硝酸とアンモニアのモル比(NO3/NH3)は2.30であった。
【0075】
得られた実施例5に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末に対し、実施例1と同様に、
「(7)非晶質の固体電解質前駆体粉末の分析および特性評価
(I)元素分析、(II)窒素量分析、(III)非晶質の固体電解質前駆体粉末のXRD測定、(IV)非晶質の固体電解質前駆体粉末のラマンスペクトル測定、
(8)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造および特性評価
(I)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造およびXRD測定による評価、(II)NASICON型結晶構造を有する固体電解質のイオン伝導度評価、」
を実施した測定結果として、元素分析結果、窒素含有量、導電率、pH調整スラリーにおけるpH値と(NO3/NH3)比、亜硝酸ピークの存否を表1に記載した。
【0076】
〈実施例6〉
実施例1と同様に「(1)原料水溶液調製」において「(I)ゲルマニウム水溶液」と、「(II)リチウム、アルミニウム、リン含有水溶液」とを調製した。実施例6はさらに「(III)チタン含有水溶液」を調製したので説明する。
【0077】
(III)チタン含有水溶液
濃度35質量%の過酸化水素水35.8gに濃度28質量%のアンモニア水を3.0g加えた後、メタチタン酸1.51gを加え、完全に溶解するまで攪拌した。その溶液に実施例1と同様に作成した「(II)リチウム、アルミニウム、リン含有水溶液」を加え、リチウム、アルミニウム、リン、チタン含有水溶液を調製した。この時点での溶液のpHは4.0であった。
【0078】
(2)混合
前記アルカリ性であるゲルマニウム水溶液684gを分取し攪拌しながら40℃に加温し、そこへ前記リチウム、アルミニウム、リン、チタン含有水溶液の全量を添加しところ、水溶液は当該添加直後に白濁し、白色の混合スラリーを得た。得られた混合スラリーのpHは7.0であった。
【0079】
(3)pH調整
得られた混合スラリーを攪拌しながら濃度60質量%の硝酸を13g添加し、pHを3.9に調整したpH調整スラリーを得た。
ここで、実施例6に係るpH調整スラリーを得るまでに、硝酸を0.66mol添加し、アンモニアを0.50mol添加していることから、添加された硝酸とアンモニアのモル比(NO3/NH3)は1.33であった。
【0080】
得られたpH調整後のスラリーを用い、実施例1と同様に操作して、実施例6に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末を得た。
得られた実施例6に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末に対し、実施例1と同様に、
「(7)非晶質の固体電解質前駆体粉末の分析および特性評価
(I)元素分析、(II)窒素量分析、(III)非晶質の固体電解質前駆体粉末のXRD測定、(IV)非晶質の固体電解質前駆体粉末のラマンスペクトル測定、
(8)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造および特性評価
(I)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造およびXRD測定による評価、(II)NASICON型結晶構造を有する固体電解質のイオン伝導度評価、」
を実施した測定結果として、元素分析結果、窒素含有量、導電率、pH調整スラリーにおけるpH値と(NO3/NH3)比、亜硝酸ピークの存否を表1に記載した。
【0081】
〈実施例7〉
実施例1と同様に「(1)原料水溶液調製」において「(I)ゲルマニウム水溶液」と、「(II)リチウム、アルミニウム、リン含有水溶液」とを作成した。そして「(2)混合」において、前記アルカリ性である「ゲルマニウム水溶液」684gを分取し、攪拌しながら40℃に加温し、オキシ硝酸ジルコニウム4.1gを加え完全に溶解させた。そこへ前記「リチウム、アルミニウム、リン含有水溶液」の全量を添加しところ、水溶液は当該添加直後に白濁し、白色の混合スラリーを得た。得られた混合スラリーのpHは4.6であった。
【0082】
(3)pH調整
得られた混合スラリーを攪拌しながら濃度60質量%の硝酸を5g添加し、pHを3.9に調整したpH調整スラリーを得た。
ここで、実施例7に係るpH調整スラリーを得るまでに、硝酸を0.61mol添加し、アンモニアを0.45mol添加していることから、添加された硝酸とアンモニアのモル比(NO3/NH3)は1.37であった。
【0083】
得られたpH調整後のスラリーを用い、実施例1と同様に操作して、実施例7に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末を得た。
得られた実施例7に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末に対し、実施例1と同様に、
「(7)非晶質の固体電解質前駆体粉末の分析および特性評価
(I)元素分析、(II)窒素量分析、(III)非晶質の固体電解質前駆体粉末のXRD測定、(IV)非晶質の固体電解質前駆体粉末のラマンスペクトル測定、
(8)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造および特性評価
(I)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造およびXRD測定による評価、(II)NASICON型結晶構造を有する固体電解質のイオン伝導度評価、」
を実施した測定結果として、元素分析結果、窒素含有量、導電率、pH調整スラリーにおけるpH値と(NO3/NH3)比、亜硝酸ピークの存否を表1に記載した。
【0084】
〈実施例8〉
実施例1と同様に「(1)原料水溶液調製」において「(I)ゲルマニウム水溶液」と、「(II)リチウム、アルミニウム、リン含有水溶液」とを作成した。そして「(2)混合」において、前記アルカリ性であるゲルマニウム水溶液720gを分取し、Li2O11Si5溶液(シグマアルドリッチ製)を10.2g添加した。その液を攪拌しながら40℃に加温し、そこへ前記「リチウム、アルミニウム、リン含有水溶液」の全量を添加しところ、水溶液は当該添加直後に白濁し、白色の混合スラリーを得た。得られた混合スラリーのpHは4.4であった。
【0085】
(3)pH調整
得られた混合スラリーを攪拌しながら濃度60質量%の硝酸を9g添加し、pHを3.9に調整したpH調整スラリーを得た。
ここで、実施例8に係るpH調整スラリーを得るまでに、硝酸を0.62mol添加し、アンモニアを0.46mol添加していることから、添加された硝酸とアンモニアのモル比(NO3/NH3)は1.35であった。
【0086】
得られたpH調整後のスラリーを用い、実施例1と同様に操作して、実施例8に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末を得た。
得られた実施例8に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末に対し、実施例1と同様に、
「(7)非晶質の固体電解質前駆体粉末の分析および特性評価
(I)元素分析、(II)窒素量分析、(III)非晶質の固体電解質前駆体粉末のXRD測定、(IV)非晶質の固体電解質前駆体粉末のラマンスペクトル測定、
(8)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造および特性評価
(I)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造およびXRD測定による評価、(II)NASICON型結晶構造を有する固体電解質のイオン伝導度評価、」
を実施した測定結果として、元素分析結果、窒素含有量、導電率、pH調整スラリーにおけるpH値と(NO3/NH3)比、亜硝酸ピークの存否を表1に記載した。
【0087】
〈比較例1〉
実施例1の「(3)pH調整」において、得られたスラリーを攪拌しながら濃度28質量%のアンモニア水を20g添加し、pHを5.5に調整したpH調整スラリーを得たことを除き、実施例1と同様に操作して、比較例1に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末を得た。
比較例1に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末の30,000倍のSEM写真を
図3に示す。
ここで、比較例1に係るpH調整スラリーを得るまでに、硝酸を0.53mol添加し、アンモニアを0.79mol添加していることから、添加された硝酸とアンモニアのモル比(NO
3/NH
3)は0.68であった。
【0088】
得られた比較例1に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末に対し、実施例1と同様に、「(7)非晶質の固体電解質前駆体粉末の分析および特性評価
(I)元素分析、(II)窒素量分析、(III)非晶質の固体電解質前駆体粉末のXRD測定、(IV)非晶質の固体電解質前駆体粉末のラマンスペクトル測定、
(8)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造および特性評価
(I)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造およびXRD測定による評価、(II)NASICON型結晶構造を有する固体電解質のイオン伝導度評価、」
を実施した測定結果として、元素分析結果、窒素含有量、導電率、pH調整スラリーにおけるpH値と(NO3/NH3)比、亜硝酸ピークの存否を表1に記載した。尚、窒素含有量は測定限界(0.01質量%)未満であった。
【0089】
〈比較例2〉
純水652.9gへ、二酸化ゲルマニウム32.3gを添加して攪拌し、更に濃度28質量%のアンモニア水18.3gを加えて、二酸化ゲルマニウムを溶解した。ここへ、更に酢酸リチウム21.1g、硝酸アルミニウム9水和物38.7g、リン酸二水素アンモニウム71.2g、濃度60質量%の硝酸95gを順に添加し、pH0.2の原料水溶液とし、更にアンモニア水を添加してpH5.3に調整し、pH調整した原料水溶液を得た。得られたpH調整した原料水溶液はスラリーではなく透明であった。
ここで、比較例2に係るpH調整した透明な原料水溶液を得るまでに、硝酸を1.21mol添加し、アンモニアを4.61mol添加していることから、添加された硝酸とアンモニアのモル比(NO3/NH3)は0.26であった。
【0090】
比較例2に係るpH調整した透明な原料水溶液から100℃で24時間かけて水分を除去したのち、更に260℃で5時間かけて乾燥し、乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末を水素雰囲気中で450℃、2時間焼成し、得られた焼成粉末を、実施例1と同様な方法により粉砕して、比較例2に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末を得た。
比較例2に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末の10,000倍のSEM写真を
図3に示す。
【0091】
得られた比較例2に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末に対し、実施例1と同様に、
「(7)非晶質の固体電解質前駆体粉末の分析および特性評価
(I)元素分析、(II)窒素量分析、(III)非晶質の固体電解質前駆体粉末のXRD測定、(IV)非晶質の固体電解質前駆体粉末のラマンスペクトル測定、
(8)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造および特性評価
(I)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造およびXRD測定による評価、(II)NASICON型結晶構造を有する固体電解質のイオン伝導度評価、」
を実施した測定結果として、元素分析結果、窒素含有量、導電率、pH調整スラリーにおけるpH値と(NO3/NH3)比、亜硝酸ピークの存否を表1に記載した。尚、窒素含有量は測定限界(0.01質量%)未満であった。
【0092】
〈比較例3〉
ブタノール97.68gへ、Ge(OEt)410gとAl(OBt)33.25gとを添加し、ゲルマニウムとアルミニウムとが溶解したゲルマニウム、アルミニウム溶液を得た。また、純水379.64gへ、酢酸リチウム32.61gとリン酸二水素アンモニウム9.098gとを添加し、リチウムとリンとが溶解したリチウム、リン水溶液を得た。
【0093】
前記ゲルマニウム、アルミニウム溶液と、前記リチウム、リン溶液とを混合して、混合溶液を得た。前記混合溶液を100℃の雰囲気下で乾燥し、その後110℃で真空乾燥し、乾燥粉末を得た。前記乾燥粉末を窒素雰囲気下400℃で焼成し、得られた焼成粉末を実施例1と同様な方法により粉砕して、比較例3に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末を得た。
尚、比較例3においては混合溶液の溶媒が有機溶媒であり、他の実施例、比較例とは異なること、および、硝酸によるpH調整が不要の為、混合溶液のpH値を測定しなかった。
【0094】
得られた比較例3に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末に対し、実施例1と同様に、「(7)非晶質の固体電解質前駆体粉末の分析および特性評価
(I)元素分析、(II)窒素量分析、(III)非晶質の固体電解質前駆体粉末のXRD測定、(IV)非晶質の固体電解質前駆体粉末のラマンスペクトル測定、
(8)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造および特性評価
(I)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造およびXRD測定による評価、(II)NASICON型結晶構造を有する固体電解質のイオン伝導度評価、」
を実施した測定結果として、元素分析結果、窒素含有量、導電率、亜硝酸ピークの存否を表1に記載した。尚、窒素含有量は測定限界(0.01質量%)未満であった。
【0095】
【0096】
表1より、窒素を所定量含有する実施例1~8に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末を結晶化させることで得られるNASICON型結晶構造を有する固体電解質は、比較例1~3に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末を結晶化させることで得られるNASICON型結晶構造を有する固体電解質よりも、高いイオン伝導度を発揮することがわかった。本発明に係る非晶質の固体電解質前駆体粉末は、結晶化することにより高いイオン伝導度を発揮する固体電解質を得ることが出来るリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、およびリンを含有する非晶質の前駆体粉末であって、全固体電池に用いられる固体電解質の前駆体粉末として好適に用いることができる。