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特開2022-138869水素吸蔵合金、アルカリ蓄電池用負極及びアルカリ蓄電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138869
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】水素吸蔵合金、アルカリ蓄電池用負極及びアルカリ蓄電池
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/00 20060101AFI20220915BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20220915BHJP
   H01M 4/24 20060101ALI20220915BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220915BHJP
   B22F 5/00 20060101ALI20220915BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20220915BHJP
   C22C 1/00 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C22C19/00 F
H01M4/38 A
H01M4/24 J
H01M4/36 C
B22F5/00 K
C22C30/00
C22C1/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038983
(22)【出願日】2021-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深川 記壮
(72)【発明者】
【氏名】竹本 智幸
(72)【発明者】
【氏名】滝本 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】松山 晃大
【テーマコード(参考)】
4K018
5H050
【Fターム(参考)】
4K018AA06
5H050AA02
5H050AA08
5H050BA14
5H050CB16
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】高い水素吸蔵量を有するとともに、水素吸蔵合金内に吸蔵された水素を容易に外部へ放出することができる水素吸蔵合金、この水素吸蔵合金を用いたアルカリ蓄電池用負極及びアルカリ蓄電池を提供する。
【解決手段】水素吸蔵合金は、A元素とB元素とからなるAB型の組成を有している。A元素はZr、Ti及びNbから構成されており、B元素はNi及びBから構成されている。A元素に対するB元素の原子数比率B/Aは0.93以上1.05以下である。水素吸蔵合金はB33型の結晶構造を有している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
A元素とB元素とからなるAB型の水素吸蔵合金であって、
前記A元素はZr、Ti及びNbから構成されており、
前記B元素はNi及びBから構成されており、
前記A元素に対する前記B元素の原子数比率B/Aが0.93以上1.05以下であり、
結晶構造がB33型である、水素吸蔵合金。
【請求項2】
組成がZrxTiyNbzNi(但し、0.50≦x≦0.55、0.47≦y≦0.49、0.008≦z≦0.045、0.94≦v≦0.99、0<w≦0.033)である、請求項1に記載の水素吸蔵合金。
【請求項3】
Ni原子に対するB原子の原子数比率B/Niが0を超え0.032以下である、請求項1または2に記載の水素吸蔵合金。
【請求項4】
導体からなる集電体と、結着剤と、該結着剤を介して前記集電体に保持された粉末状の活物質とを有するアルカリ蓄電池用負極であって、
前記活物質は、
請求項1~3のいずれか1項に記載の水素吸蔵合金からなるコア部と、
Niの水酸化物を含有し、前記コア部の表面に存在する表面層と、を有している、アルカリ蓄電池用負極。
【請求項5】
請求項4に記載のアルカリ蓄電池用負極を有するアルカリ蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵合金、アルカリ蓄電池用負極及びアルカリ蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ニッケル水素電池等のアルカリ蓄電池に用いられる負極活物質として、水素吸蔵合金が多用されている。また、近年では、燃料電池自動車等へ水素を供給するための水素ステーションにおいて、水素の貯蔵に水素吸蔵合金を用いる技術の開発が進められている。
【0003】
水素吸蔵合金は、水素との親和力が高いA元素と、水素との親和力が低いB元素とから構成された合金であり、AB5型合金、AB2型合金及びAB型合金等が知られている。例えば、ニッケル水素電池用の負極活物質として、希土類混合金属を含むAB5型の水素吸蔵合金が既に実用化されている(特許文献1)。しかし、アルカリ蓄電池のエネルギー密度等の性能向上や水素ステーションにおける水素の貯蔵量増大の観点から、特許文献1の水素吸蔵合金よりも水素吸蔵量の高い水素吸蔵合金が望まれている。
【0004】
このような水素吸蔵合金として、AB型の組成を有するZrNi(ジルコニウムニッケル)合金がある(非特許文献1)。しかし、ZrNi合金は、吸蔵した水素と反応することにより、ZrNiH3やZrNiHなどの化学的な安定性が高い水素化物を容易に生成する。そのため、ZrNi合金は、吸蔵された水素を放出しにくく、実用には適さないという問題があった。
【0005】
ZrNi合金における前述した問題を解決するため、特許文献2には、組成がZrATixNbyNiz(但し、0.20≦x≦0.50、0<y≦0.05、0.95≦z≦1.05であり、Aは1-x-yまたは2-x-y-zのいずれかである。)であり、結晶構造がB33型である水素吸蔵合金が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-167375号公報
【特許文献2】国際公開第2018/155400号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Dantzer P, Millet P, Flanagan TB. Thermodynamic Characterization of Hydride Phase Gas Growth in ZrNi-H2. Metall Mater Trans A. 2001;32A:29-38.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、例えばアルカリ蓄電池においては、実用性をより向上させる観点から、高い放電レートで放電した際においても放電容量を高くすることができるアルカリ蓄電池用負極が望まれている。このような負極の活物質として、特許文献2の水素吸蔵合金よりもさらに水素吸蔵量が高く、かつ、水素を容易に放出させることができる水素吸蔵合金が求められている。
【0009】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、高い水素吸蔵量を有するとともに、水素吸蔵合金内に吸蔵された水素を容易に外部へ放出することができる水素吸蔵合金、この水素吸蔵合金を用いたアルカリ蓄電池用負極及びアルカリ蓄電池を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、A元素とB元素とからなるAB型の水素吸蔵合金であって、
前記A元素はZr(ジルコニウム)、Ti(チタン)及びNb(ニオブ)から構成されており、
前記B元素はNi(ニッケル)及びB(ホウ素)から構成されており、
前記A元素に対する前記B元素の原子数比率が0.93以上1.05以下であり、
結晶構造がB33型である、水素吸蔵合金にある。
【0011】
本発明の他の態様は、導体からなる集電体と、結着剤と、該結着剤を介して前記集電体に保持された粉末状の活物質とを有するアルカリ蓄電池用負極であって、
前記活物質は、
前記の態様の水素吸蔵合金からなるコア部と、
Niの水酸化物を含有し、前記コア部の表面に存在する表面層と、を有している、アルカリ蓄電池用負極にある。
【0012】
本発明のさらに他の態様は、前記の態様のアルカリ蓄電池用負極を有するアルカリ蓄電池にある。
【発明の効果】
【0013】
前記水素吸蔵合金は、前記特定の組成及び結晶構造、即ち、ZrNi合金におけるZr原子の一部がTi原子及びNb原子に置換されるとともに、Ni原子の一部がB原子に置換された結晶構造を有している。B原子は、ZrNi合金中には固溶しにくいため、ZrNi合金中に単純にB原子を添加してもB原子による作用効果を得ることは難しい。しかし、本発明者らが鋭意検討を行った結果、意外なことに、ZrNi合金にA元素としてTi及びNbを導入すると、主相中にB原子を固溶させ、Ni原子の一部をB原子に置換できることが見出された。
【0014】
そして、A元素がZr、Ti及びNbからなり、B元素がNi及びBからなり、B33型の結晶構造を有するAB型の水素吸蔵合金は、高い水素吸蔵量を有するとともに、水素吸蔵合金中に吸蔵された水素を容易に外部へ放出することができる。
【0015】
また、前記アルカリ蓄電池用負極の活物質は、前記水素吸蔵合金からなるコア部を有している。そのため、前記アルカリ蓄電池用負極は、充電時においては、多量の水素をコア部に吸蔵することができる。また、前記アルカリ蓄電池用負極は、放電時においては、コア部に吸蔵された水素を容易に活物質の外部に放出することができる。これらの結果、前記アルカリ蓄電池用負極は、アルカリ蓄電池の放電容量を向上させることができる。また、前記アルカリ蓄電池用負極は、優れた放電レート特性を有しており、高い放電レートで放電した場合においてもアルカリ蓄電池の放電容量を高くすることができる。
【0016】
前記アルカリ蓄電池は、前記アルカリ蓄電池用負極を有しているため、高い放電容量及び優れた放電レート特性を有している。
【0017】
以上のように、前記の態様によれば、高い水素吸蔵量を有するとともに、吸蔵された水素を容易に放出することができる水素吸蔵合金、この水素吸蔵合金を用いたアルカリ蓄電池用負極及びアルカリ蓄電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施例1における合金A2、合金A3及び合金R2のX線回折パターンの一例を示す説明図である。
図2図2は、実施例1における、合金A2及び合金R3の水素吸蔵過程の圧力-水素等温線を示す説明図である。
図3図3は、実施例1における、合金A2及び合金R3の水素放出過程の圧力-水素等温線を示す説明図である。
図4図4は、実施例2における、アルカリ蓄電池用負極の要部を示す一部断面図である。
図5図5は、実施例2における、試験体B2及び試験体S3の放電レート特性を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(水素吸蔵合金)
前記水素吸蔵合金は、A元素としてのZr原子、Ti原子及びNb原子と、B元素としてのNi原子及びB原子と、から構成されたAB型合金である。前記水素吸蔵合金におけるA元素に対するB元素の原子数比率B/Aは、0.93以上1.05以下である。これにより、水素吸蔵合金の主相の結晶構造をB33型にすることができる。
【0020】
A元素に対するB元素の原子数比率B/Aが前記特定の範囲外である場合には、水素吸蔵合金中に、例えばTiNi相やZr9Ni11相等の、B33型以外の結晶構造を有する第二相が形成されるおそれがある。例えば、Zr-Ni二元系状態図によれば、A元素に対するB元素の原子数比率が前記特定の範囲よりも高い場合には、Zr9Ni11相やZr7Ni10相が形成されやすくなる。これらの相は、B33型の結晶構造を有する相に比べて水素吸蔵量が低いため、Zr9Ni11相やZr7Ni10相が主相となる場合には、水素吸蔵量の低下を招くおそれがある。また、A元素に対するB元素の原子数比率が前記特定の範囲よりも低い場合には、Zr2Ni相が形成されやすくなる。この相が主相となる場合には、水素化物中の水素がより安定化するため、水素の放出が起こりにくくなるおそれがある。
【0021】
それ故、A元素に対するB元素の原子数比率が前記特定の範囲外である場合には、高い水素吸蔵量を有する水素吸蔵合金や、水素を放出しやすい水素吸蔵合金が得られなくなるおそれがある。なお、前述した「B33型の結晶構造」は、例えば「金属 vol.80(2010)No.7 32頁」等で明らかにされているCrB型構造と同一である。
【0022】
A元素中のZr原子、Ti原子及びNb原子の原子数比率は、B33型の結晶構造を維持することができる範囲であればよい。ZrNi合金におけるZr原子の一部をTi原子に置換することにより、ZrNi合金に比べて結晶格子を縮小させるとともに、電気陰性度を増大させることができる。これにより、水素吸蔵合金からの水素の放出をより促進させることができる。さらに、Zr原子の一部がTi原子に置換されると、主相の凝固開始温度と融点との温度差が大きくなりやすい。これにより、前記水素吸蔵合金の製造過程において、B原子が主相中に固溶しやすくなる。その結果、水素吸蔵量を容易に増大させるとともに、水素吸蔵合金中に吸蔵された水素を水素吸蔵合金の外部へ容易に放出させることができる。
【0023】
これらの作用効果をより確実に奏する観点からは、Ti原子の原子数比率は、A元素の合計に対して35.0モル%以上50.0モル%以下であることが好ましく、40.0モル%以上50.0モル%以下であることがより好ましく、44.0モル%以上50.0モル%以下であることがさらに好ましい。
【0024】
また、ZrNi合金におけるZr原子の一部をNb原子で置換することにより、B33型以外の結晶構造を有する第二相の析出を抑制しつつ、Ti原子の置換量を多くすることができる。さらに、Zr原子の一部をNb原子に置換することにより、主相の凝固開始温度と融点との温度差を大きくし、B原子を主相中に固溶させやすくすることができる。その結果、水素吸蔵量を容易に増大させるとともに、水素吸蔵合金中に吸蔵された水素を水素吸蔵合金の外部へ容易に放出させることができる。
【0025】
これらの作用効果をより確実に奏する観点からは、Nb原子の原子数比率は、A元素の合計に対して0.1モル%以上5.0モル%以下であることが好ましく、0.4モル%以上5.0モル%以下であることがより好ましく、0.7モル%以上4.5モル%以下であることがさらに好ましい。
【0026】
また、B元素中のNi原子及びB原子の原子数比率も、B33型の結晶構造を維持することができる範囲であればよい。ZrNi合金におけるNi原子の一部をB原子で置換することにより、水素吸蔵量をより多くするとともに、水素吸蔵合金中に吸蔵された水素を水素吸蔵合金の外部へより容易に放出させることができる。これらの作用効果をより確実に奏する観点からは、B原子の原子数比率は、B元素の合計に対して0モル%を超え5.0モル%以下であることが好ましく、0.1モル%以上4.0モル%以下であることがより好ましく、0.2モル%以上3.5モル%以下であることがさらに好ましい。
【0027】
前記水素吸蔵合金におけるNi原子に対するB原子の原子数比率B/Niは、例えば、0を超え0.032以下であってもよい。この場合には、水素吸蔵合金の水素吸蔵量をより高めるとともに、水素吸蔵合金中に吸蔵された水素を水素吸蔵合金の外部へより容易に放出することができる。
【0028】
また、このような組成を有する水素吸蔵合金をアルカリ蓄電池用負極の活物質として用いることにより、アルカリ蓄電池の放電容量をより高めることができる。さらに、前記アルカリ蓄電池用負極は優れた放電レート特性を有しており、高い放電レートで放電した場合においてもアルカリ蓄電池の放電容量を高くすることができる。これらの作用効果をより確実に奏する観点からは、Ni原子に対するB原子の原子数比率B/Niは、0.002以上0.030以下であることが好ましい。
【0029】
また、前記水素吸蔵合金におけるNi原子に対するB原子の原子数比率B/Niは、0.004以上0.025以下であることがより好ましい。この場合には、水素吸蔵量をより高めるとともに、水素吸蔵合金中に吸蔵された水素をより容易に外部へ放出することができる。また、このような組成を有する水素吸蔵合金をアルカリ蓄電池用負極の活物質として用いることにより、アルカリ蓄電池の放電容量及び放電レート特性をさらに向上させることができる。これらの作用効果をより確実に奏する観点からは、Ni原子に対するB原子の原子数比率B/Niは、0.004以上0.020以下であることがさらに好ましい。
【0030】
また、前記水素吸蔵合金におけるNi原子に対するB原子の原子数比率B/Niは、0.008以上0.015以下であることが特に好ましい。この場合には、前記水素吸蔵合金をアルカリ蓄電池用負極の活物質として用いた際に、充放電の初回において高い放電容量を示すとともに、充放電を繰り返した際にも高い放電容量をより長期間に亘って維持することができるアルカリ蓄電池を得ることができる。これらの作用効果をより確実に奏する観点からは、Ni原子に対するB原子の原子数比率B/Niは、0.008以上0.010以下であることが最も好ましい。
【0031】
前記水素吸蔵合金は、より具体的には、組成式ZrxTiyNbzNi(但し、0.50≦x≦0.55、0.47≦y≦0.49、0.008≦z≦0.045、0.94≦v≦0.99、0<w≦0.033)で表される組成を有していることが好ましい。かかる組成を有する水素吸蔵合金は、水素吸蔵量をより多くするとともに、水素吸蔵合金中に吸蔵された水素を水素吸蔵合金からより容易に放出させることができる。また、このような水素吸蔵合金を用いて作製されたアルカリ蓄電池用負極は、アルカリ蓄電池の放電容量及び放電レート特性を向上させることができる。
【0032】
(水素吸蔵合金の製造方法)
前記水素吸蔵合金は、例えば、前記特定の組成を有する合金を単に鋳造することにより、容易に作製することができる。水素吸蔵合金の溶解方法は特に限定されることはなく、例えば、真空高周波溶解炉等の種々の溶解炉を使用することができる。また、水素吸蔵合金の鋳造方法としては、例えば、ストリップキャスト法等の種々の方法を採用することができる。
【0033】
鋳造直後の水素吸蔵合金には、凝固過程などにおいて生じる空孔や格子歪等の欠陥、及び、転位が存在していることがある。水素吸蔵合金中の欠陥や転位は、水素吸蔵量の低下の原因となる。そのため、水素吸蔵合金中の欠陥や転位を低減することにより、水素吸蔵量をより高くすることができる。
【0034】
水素吸蔵合金中の欠陥や転位を除去するためには、不活性ガス雰囲気中において、鋳造後の水素吸蔵合金を500℃以下に加熱することが好ましい。前記特定の条件で加熱を行うことにより、前記特定の結晶構造を維持しつつ、水素吸蔵合金内部に存在する欠陥や転位を除去することができる。その結果、前記水素吸蔵合金の水素吸蔵量をより高くすることができる。欠陥や転位の除去をより効率的に行い、水素吸蔵量を更に高くする観点からは、加熱温度を400℃以上480℃以下とすることがより好ましい。
【0035】
(アルカリ蓄電池用負極)
前記水素吸蔵合金を用いて作製されたアルカリ蓄電池用負極は、例えば、以下の構成を有していてもよい。すなわち、アルカリ蓄電池用負極は、導体からなる集電体と、結着剤と、前記結着剤を介して前記集電体に保持された粉末状の活物質とを有しており、
前記活物質は、
前記水素吸蔵合金からなるコア部と、
Niの水酸化物を含有し、前記コア部の表面に存在する表面層と、を有している。
【0036】
前記負極において、集電体としては、例えば、金属箔、パンチングメタル、エキスパンデッドメタル及び金属メッシュ等の種々の態様の導体を適用することができる。
【0037】
結着剤は、集電体と活物質との間に介在することにより、活物質を集電体に保持する作用を有している。結着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール等を用いることができる。また、結着剤中には、必要に応じて、増粘剤等の公知の添加剤が含まれていてもよい。
【0038】
負極中には、必要に応じて、Cu(銅)粉末などの公知の導電剤や導電助剤が含まれていてもよい。これらの導電剤や導電助剤は、活物質と同様に、結着剤を介して集電体に保持されている。
【0039】
活物質のコア部は、前記水素吸蔵合金から構成されている。前記水素吸蔵合金は、前述したように、水素吸蔵量が高く、かつ、水素吸蔵合金の内部に吸蔵された水素を水素吸蔵合金内から外部に容易に放出することができるという、アルカリ蓄電池用負極の活物質として好適な特性を有している。それ故、前記負極は、充電時においては活物質のコア部に多量の水素を吸蔵することができる。また、前記負極は、放電時においてはコア部に吸蔵された水素を容易にコア部から外部に放出することができる。これらの結果、前記負極によれば、アルカリ蓄電池の放電容量を向上させることができる。また、前記負極は優れた放電レート特性を有しており、高い放電レートで放電した場合のアルカリ蓄電池の放電容量と低い放電レートで放電した場合のアルカリ蓄電池の放電容量との差を小さくすることができる。
【0040】
コア部の表面には、Niの水酸化物を含む表面層が存在している。表面層には、Niの水酸化物の他に、Niの酸化物や、後述する活性化処理の後に残留したZrO2、TiO2等の絶縁性化合物が含まれることがある。また、表面層は、Niの水酸化物を含む微粒子から構成されていてもよい。
【0041】
(アルカリ蓄電池用負極の製造方法)
前記アルカリ蓄電池用負極を作製するに当たっては、まず、前述した方法により水素吸蔵合金を鋳造する。この水素吸蔵合金を粉砕することにより、粉末状の活物質を準備する。このようにして得られる活物質の表面には、大気等との接触によって形成されたZrO2やTiO2などの絶縁性化合物が存在している。次に、活物質を結着剤等と混合し、負極合剤を準備する。そして、この負極合剤を集電体に塗布した後乾燥させることにより、活物質を集電体に保持させることができる。
【0042】
その後、集電体に保持された活物質を強アルカリ水溶液中で煮沸して活性化処理を施す。活性化処理において用いる強アルカリ水溶液としては、例えば、温度105℃以上、pH14以上の水溶液を使用することができる。活物質に活性化処理を施すことにより、活物質の表面に存在する絶縁性化合物を除去するとともに、活物質の表面に存在するNi原子を水酸化物とすることができる。以上の結果、活物質の表面に前記表面層を形成し、前記負極を得ることができる。
【0043】
前記負極の製造方法においては、活性化処理を行うことにより、活物質の表面に存在するZrO2やTiO2等の絶縁性化合物による悪影響を低減することができる。これにより、負極の放電容量及び放電レート特性を向上させることができると考えらえる。
【実施例0044】
(実施例1)
前記水素吸蔵合金の実施例について、図1図3を用いて説明する。本例の水素吸蔵合金は、A元素とB元素とからなるAB型の水素吸蔵合金である。A元素はZr、Ti及びNbから構成されており、B元素はNi及びBから構成されている。A元素に対するB元素の原子数比率B/Aは0.93以上1.05以下であり、結晶構造はB33型である。以下に、本例の水素吸蔵合金の製造方法を詳説する。
【0045】
<水素吸蔵合金の作製>
まず、アーク溶解炉を用いて、Zr(株式会社高純度化学研究所製、ワイヤーカット品、純度99.0%)、Ti(株式会社高純度化学研究所製、粉末、純度99.9%)、Nb(株式会社高純度化学研究所製、粉末、純度99.0%)、Ni(株式会社高純度化学研究所製、粉末、純度99.9%)及びB(株式会社高純度化学研究所製、粒状、純度99.0%)を溶融させ、表1に示す組成を有する水素吸蔵合金の鋳塊を作製した。なお、Zr等の溶融には、真空高周波溶解炉を用いてもよい。また、水素吸蔵合金の鋳造には、ストリップキャスト法を採用してもよい。得られた鋳塊をアルゴン雰囲気中で400~480℃に加熱し、鋳塊内の欠陥や転位を低減させた。以上により、水素吸蔵合金(合金A1~A8)を作製した。
【0046】
湿式切断機を用いて得られた試験体を二等分し、一方の鋳塊を用いて比重の測定及び組織観察を行った。また、他方の鋳塊にディスクミルによる粗粉砕、タングステンカーバイド製乳鉢による微粉砕及び篩い分けを順次行うことにより、直径20~40μmの粉末を作製した。
【0047】
本例においては、合金A1~A8との比較のため、表1に示す組成を有する水素吸蔵合金(合金R1~R3)を作製した。表1に示すように、合金R1はZrNi合金であり、合金R2は合金R1に微量のB原子を添加した水素吸蔵合金である。また、合金R3は、B原子を含まない以外は合金A1~A8と同様の構成を有している。これらの合金R1~R3の製造方法は、組成が表1に示すように変更されている以外は、合金A1~A8の製造方法と同様である。
【0048】
<水素吸蔵合金の特性評価>
次に、上記により得られた合金A1~A8及び合金R1~R3を用い、結晶構造解析及び静的水素吸蔵特性の評価を行った。
【0049】
[結晶構造解析]
X線回折装置(株式会社リガク製「SmartLab(登録商標)」)を用いて粉末X線回折を行い、各合金のX線回折パターンを取得した。そして、得られたX線回折パターンに基づき、試験体の結晶相を同定した。また、WPPF(Whole Powder Pattern Fitting)法により試験体の結晶構造における格子定数及び格子体積を算出した。これらの結果は、表1に示す通りであった。なお、粉末X線回折はCuKα線を用いて行い、X線管球の出力は40kV、50mAとした。また、結晶構造解析は、粉末X線解析ソフト(株式会社リガク製「PDXL」)を用いて行った。
【0050】
図1に、一例として、合金A2、合金A3及び合金R2のX線回折パターンを示す。なお、図1における縦軸は回折強度(相対強度)であり、横軸は回折角2θ(°)である。図1及び表1に示すように、合金A1~A8及び合金R1~合金R3の主相は、いずれもB33型の結晶構造を有していた。しかし、B原子が添加された合金のうち合金R2には、合金A1~A8には存在していないZrB12相が副相として析出していた。
【0051】
電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて合金R2におけるZrB12相の分布をより詳細に調べたところ、図には示さないが、合金R2中のB原子は主相の結晶粒界に偏在していた。この結果によれば、合金R2においては、主相中のNi原子はほとんどB原子に置換されておらず、B原子が主にZrB12相として存在していることが理解できる。
【0052】
このように、合金R2において主相中のNi原子がB原子に置換されない原因としては、例えば、ZrNi合金における凝固開始温度と融点との温度差が小さいことが原因と考えられる。すなわち、凝固開始温度と融点との温度差が小さいZrNi合金においては、溶湯が凝固する過程でB原子が主相に固溶しにくいため、主相に固溶しなかったB原子がZrB12相を形成すると推定される。これに対し、合金A1~A8のA元素にはTi及びNbが含まれているため、これらの合金の主相はZrNi合金に比べて凝固開始温度と融点との温度差が大きくなる。そして、凝固開始温度と融点との温度差を大きくすることにより、溶湯が凝固する過程において主相中にB原子が固溶しやすくなると考えられる。
【0053】
[静的水素吸蔵特性]
PCT(Pressure-Composition-Temperature)特性測定装置(株式会社鈴木商館製)を用い、合金A1~A8、合金R1及び合金R3について、温度100℃における圧力-水素等温線を取得した。なお、合金R2については、前述したように主相中にB原子が取り込まれていないため、合金R1と同様の静的水素吸蔵特性を有していると考えられる。それ故、合金R2については、静的水素吸蔵特性の評価を実施しなかった。
【0054】
静的水素吸蔵特性の一例として、合金A2及び合金R3の圧力-水素等温線を図2及び図3に示す。なお、図2は水素吸蔵過程における圧力-水素等温線であり、図3は水素放出過程における圧力-水素等温線である。図2及び図3の縦軸は平衡水素圧(MPa)であり、横軸は水素濃度(質量%)である。各合金の水素吸蔵過程の圧力-水素等温線から圧力0.8MPaにおける最大水素吸蔵量を読み取り、表1に記載した。
【0055】
【表1】
【0056】
図1及び表1に示すように、合金A1~A8は、A元素としてのZr、Ti及びNbと、B元素としてのNi及びBとを含むAB型の水素吸蔵合金であり、かつ、主相の結晶構造がZrNi合金(合金R1)と同じB33型の結晶構造である。そのため、合金A1~A8の水素吸蔵量は、合金R1と同等以上となった。
【0057】
また、合金A1~A8は、ZrNi合金におけるZr原子の一部をTi原子及びNb原子に置換するとともに、Ni原子の一部をB原子に置換したことにより、合金R1及び合金R3に比べてX線回折ピークの位置が高角度側にシフトし、格子体積を縮小することができた。これらの結果によれば、合金A1~A8は、合金R1及び合金R3に比べて水素吸蔵合金の内部に吸蔵された水素を水素吸蔵合金の外部に放出しやすいことが理解できる。
【0058】
以上の結果から、A元素としてのZr、Ti及びNbと、B元素としてのNi及びBとからなり、B33型の結晶構造を有するAB型の水素吸蔵合金は、高い水素吸蔵量を有するとともに、吸蔵された水素を容易に放出することができる。
【0059】
また、合金A1~A8の中でも、Ni原子に対するB原子の原子数比率B/Niが0を超え0.032以下である合金A1~A7は、B/Niが0.032よりも大きい合金A8に比べてさらに高い水素吸蔵量を有していた。
【0060】
(実施例2)
本例では、水素吸蔵合金を活物質として用いたアルカリ蓄電池用負極の例を説明する。本例のアルカリ蓄電池用負極1は、図4に示すように、導体からなる集電体2と、結着剤3と、結着剤3を介して集電体2に保持された粉末状の活物質4とを有している。活物質4を構成する個々の粒子41は、水素吸蔵合金からなるコア部412と、Niの水酸化物を含有し、コア部412の表面に存在する表面層411とを有している。
【0061】
本例におけるコア部412を構成する水素吸蔵合金は、ZrNi合金(合金R1)以上の最大水素吸蔵量を有する合金A1~A7または合金R3のいずれかである。以下に、本例の負極1の製造方法を詳説する。
【0062】
<アルカリ蓄電池用負極1の製造方法>
まず、実施例1において得られた粉末状の合金A1~A7または合金R3のいずれかと、Ni粉末と、結着剤3としてのPVA(ポリビニルアルコール)及びCMC(カルボキシメチルセルロース)とを、活物質4:Ni粉末:PVA:CMC=74:24:0.5:1.5の質量比で混合し、ペースト状の負極合剤を調製した。この負極合剤を、別途準備した集電体2としてのNiメッシュに充填した。その後、ロールプレスを用いてNiメッシュを圧延し、負極合剤をNiメッシュに密着させた。
【0063】
その後、集電体に保持された活物質を6mol/Lの水酸化カリウム水溶液中で2.5~4時間煮沸して活性化処理を施し、活物質4を構成する個々の粒子41の表面に表面層411を形成した。以上により、表2に示す負極1(試験体B1~B7及び試験体S3)を得た。なお、水酸化カリウム水溶液の温度は105℃であった。
【0064】
次に、試験体B1~B7または試験体S3のいずれかを、市販のNi(OH)2/NiOOH正極及びHg/HgO参照極と組み合わせ、6mol/Lの水酸化カリウム及び1mol/Lの水酸化リチウムを含む電解液を用いて三極式の電池セルを構成した。ポテンショスタット(Bio-Logic社製 VMP3)を用いて電池セルの充放電及び放電容量の測定を行うことにより、各試験体の初回放電容量、放電レート特性および充放電サイクル特性の評価を行った。
【0065】
[初回放電容量及び放電レート特性]
放電時の電流密度を種々の値に変更した場合の電池セルの放電容量を測定した。具体的には、温度30℃、電流密度100mA/gの条件で5時間充電を行った後、10分休止をして電位を安定させた。次いで、25mA/g、50mA/g、100mA/g、250mA/gまたは500mA/gのいずれかの電流密度でHg/HgOの電位を基準として-0.5Vの電位まで放電させた時の電池セルの放電容量を測定した。
【0066】
表2に、前記各電流密度で放電を行った時の放電容量を示す。また、表2の「高率放電特性」欄には、電流密度25mA/gにおける放電容量に対する電流密度500mA/gにおける放電容量の比率を百分率(単位:%)で表した値を記載した。さらに、図5に、一例として、試験体B2及び試験体S3の放電レート特性を示す。図5の縦軸は電流密度25mA/gにおける放電容量に対する各電流密度での放電容量の比を百分率(単位:%)で表した値であり、横軸は放電時の電流密度(単位:mA/g)である。
【0067】
[充放電サイクル特性]
30℃の温度で電池セルの充放電を繰り返す充放電サイクル試験を行い、各充放電サイクルにおける放電容量を測定した。1回の充放電サイクルは、電流密度100mA/gで5時間充電を行うステップと、10分休止をして電位を安定させるステップと、電流密度25mA/gでHg/HgOの電位を基準として-0.5Vの電位まで放電するステップとから構成されている。
【0068】
表3の「初回」欄及び「10サイクル後」欄に、それぞれ、充放電サイクルにおける初回の放電容量及び10サイクル後の放電容量を示す。また、表3の「容量維持率」欄には、初回の放電容量に対する10サイクル後の放電容量の比を百分率で表した値(単位:%)を記載した。
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
表2及び図5に示すように、合金A1~A7から構成されたコア部を有する試験体B1~B7は、コア部中にB原子が含まれていない試験体S3と同等以上の初回放電容量を有していた。また、試験体B1~B7は、高い放電レートで放電した場合においても試験体S3に比べて高い放電容量を有していた。このように、A元素としてのZr、Ti及びNbと、B元素としてのNi及びBとを含み、B33型の結晶構造を有するAB型の水素吸蔵合金をアルカリ蓄電池用負極の活物質として用いることにより、アルカリ蓄電池の放電容量及び放電レート特性を向上させることができる。
【0072】
また、表3に示すように、試験体B1~B7の中でも、コア部におけるNi原子に対するB原子の原子数比率B/Niが0.008以上0.015以下である試験体B2は、充放電サイクル試験において、他の試験体に比べて高い容量維持率を示した。従って、B/Niが前記特定の範囲である活物質を負極に適用することにより、高い放電容量を長期間に亘って維持することができる。
【0073】
本発明に係る水素吸蔵合金、アルカリ蓄電池用負極及びアルカリ蓄電池の具体的な態様は、実施例1~2に記載された態様に限定されるものはなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 アルカリ蓄電池用負極
2 集電体
3 結着剤
4 活物質
41 粒子
411 表面層
412 コア部
図1
図2
図3
図4
図5