IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 出光興産株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人 千葉大学の特許一覧

<>
  • 特開-硫化物固体電解質の製造方法 図1
  • 特開-硫化物固体電解質の製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022013895
(43)【公開日】2022-01-18
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/14 20060101AFI20220111BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20220111BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
C01B25/14
H01M10/0562
H01B13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021109510
(22)【出願日】2021-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2020113306
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇都野 太
(72)【発明者】
【氏名】大窪 貴洋
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ14
5H029AM12
5H029CJ08
5H029CJ28
5H029HJ07
(57)【要約】
【課題】高いPS分率を有する硫化物固体電解質を容易に製造し得る硫化物固体電解質の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくともアルカリ金属元素、リン元素及び硫黄元素を含む硫化物を、不活性ガス及び水素ガスから選ばれる少なくとも一種のガスにより気流処理することを含む硫化物固体電解質の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともアルカリ金属元素、リン元素及び硫黄元素を含む硫化物を、不活性ガス及び水素ガスから選ばれる少なくとも一種のガスにより気流処理することを含む硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項2】
前記気流処理を、水素ガス雰囲気下で行う請求項1に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項3】
前記気流処理を、水素ガスの含有量が0.5容量%以上100容量%以下のガスを供給しながら行う、請求項1又は2に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項4】
前記気流処理を、前記硫化物を粉砕しながら行う請求項1~3のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項5】
前記粉砕を、メカニカルミリング法により行う請求項4に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項6】
前記気流処理を、更にハロゲン化アルカリ金属を加えて行う請求項1~5のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項7】
前記ハロゲン化アルカリ金属が、ハロゲン化リチウム及びハロゲン化ナトリウムから選ばれる少なくとも一種である請求項6に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項8】
前記気流処理を、0.1時間以上100時間以下行う請求項1~7のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項9】
前記ガスを、前記硫化物100gに対して0.1L/分以上20L/分以下で供給する請求項3~8のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項10】
更に、アルカリ金属元素、硫黄元素及びリン元素の少なくとも一つの元素を含む化合物から選ばれる二種以上の原料を混合することを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項11】
更に、アルカリ金属元素、硫黄元素、リン元素及びハロゲン元素の少なくとも一つの元素を含む化合物から選ばれる二種以上の原料を混合することを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項12】
前記アルカリ金属元素が、リチウム元素及びナトリウム元素から選ばれる少なくとも一種である、請求項1~11のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項13】
前記化合物が、硫化リチウム及び五硫化二リンを含む請求項10~12のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項14】
前記化合物が、硫化リチウム、五硫化二リン及びハロゲン化リチウムを含む請求項11又は12に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項15】
前記硫化物が、非晶性成分を含む硫化物である請求項1~14のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項16】
前記硫化物が、Pユニットを含む硫化物である請求項1~15のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物固体電解質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。中でもエネルギー密度が高いという観点から、リチウムイオン電池が注目を浴びている。
従来、このような用途に用いられる電池において可燃性の有機溶媒を含む電解液が用いられていたため、短絡時の温度上昇を抑制する安全装置の取付、短絡防止のための構造、材料面での改善が必要となる。これに対して、電解液を固体電解質にかえて、電池を全固体化することで、電池内に可燃性の有機溶媒を用いず、安全装置の簡素化が図れ、製造コスト、生産性に優れることから、電解液を固体電解質層に換えた電池の開発が行われている。
【0003】
固体電解質層に用いられる固体電解質の製造方法としては、固相法と液相法に大別され、さらに液相法には、固体電解質材料を溶媒に完全に溶解させる均一法と、固体電解質材料を完全に溶解させず固液共存の懸濁液を経る不均一法とがある。例えば、固相法としては、硫化リチウム、五硫化二リン等の原料をボールミル、ビーズミル等の装置を用いてメカニカルミリング処理を行い、必要に応じて加熱処理をすることにより、非晶性又は結晶性の固体電解質を製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、硫化リチウム等の原料に機械的応力を加えて固体同士の反応を促進させることにより固体電解質が得られる。
【0004】
一方、液相法のうち均一法としては、固体電解質を溶媒に溶解して再析出させる方法が知られ(例えば、特許文献2参照)、また不均一法としては、トルエン等の炭化水素系溶媒等の溶媒中で硫化リチウム、五硫化二リン等の固体電解質原料を、撹拌機、あるいは回転ミル、揺動ミル、振動ミル、ビーズミル等の粉砕機を用いて反応させる方法が知られている(特許文献3参照)。また、特許文献4には、硫化リチウム等の原料を溶媒中で粉砕しつつ反応させる粉砕合成手段(具体的には粉砕機)と、硫化リチウム等の原料を溶媒中で反応させる合成手段(具体的には撹拌翼を備える反応槽)と、を連結して組合せた固体電解質製造装置、これを用いた固体電解質の製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、硫化リチウム、五硫化二リンといった固体原料を撹拌機、ビーズミル等の粉砕機等を用いて反応させることにより、リチウムイオン伝導度の比較的高い硫化物固体電解質が得られることが開示されている。撹拌機、ビーズミル等の粉砕機を用いて固体原料を撹拌さらには粉砕しながら反応させる方法は、通常固相法、あるいはメカニカルミリング法と称されており、ビーズ等のメディアと固体原料との衝突、また固体原料同士の衝突を生じさせることにより、反応を進行させる方法であり、また衝突を繰り返すことにより固体原料の新生面を次々と露出させて固体原料同士の反応をより促進させるというものである。
そして、特許文献3には、撹拌機、粉砕機等を用いた方法で得られた固体電解質には、PSユニットに加えて、Pユニット、Pユニットが含まれ得ることが開示されている。また、固体電解質におけるPSユニットの割合(「PS分率」とも称する。)をより多くすることが、イオン伝導度の向上につながることも開示されている。また、Pユニットが少ないガラスが硫化水素の発生量が少ないことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2017/159667号パンフレット
【特許文献2】特開2014-191899号公報
【特許文献3】特開2013-155087号公報
【特許文献4】特開2015-207521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、高いPS分率を有する硫化物固体電解質を容易に製造し得る製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
少なくともアルカリ金属元素、リン元素及び硫黄元素を含む硫化物を、不活性ガス及び水素ガスから選ばれる少なくとも一種のガスにより気流処理することを含む硫化物固体電解質の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高いPS分率を有する硫化物固体電解質を容易に製造し得る製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1~3及び比較例1で得られた硫化物固体電解質の31P MAS NMRスペクトルである。
図2】実施例2で得られた非晶性硫化物固体電解質のX線回折スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と称することがある。)について説明する。なお、本明細書において、「以上」、「以下」、「~」の数値範囲に係る上限及び下限の数値は任意に組合せできる数値であり、また実施例の数値を上限及び下限の数値として用いることもできる。
【0012】
(本発明に至るために本発明者が得た知見)
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記の事項を見出し、本発明を完成するに至った。
特許文献3に記載されるように、固相法(メカニカルミリング法)等の従来の製造方法では、硫化リチウム、五硫化二リン等の固体原料を用いて硫化物固体電解質等の硫化物を得る場合、ビーズ等のメディアと固体原料との衝突、また固体原料同士の衝突により局所的に高温となることに起因して、得られる硫化物には、PSユニットだけでなく、Pユニット、Pユニット等のユニットも含まれ得ること、また中でもPSユニットの分率(PS分率)が高いほどイオン伝導度が高くなることが知られている。そして、PS分率は、硫化物固体電解質等の硫化物の製造条件、例えば使用する原料の粒径等の性状、反応に際して用いる機器、すなわち撹拌機、粉砕機といった機器の違い、運転条件といった各種反応条件に影響されることも開示されている。
【0013】
本発明者らは、上記の固相法(メカニカルミリング法)等の従来の製造方法では、各種反応条件の検討は行われていたが、その後の処理によってPS分率を向上させる手法について何ら検討されていないことに着目した。そして、硫化物固体電解質等の硫化物に含まれるPSユニット以外に含まれる、Pユニット、Pユニットの分率を低下させることでPS分率を向上させることができないか、鋭意研究を行ったところ、不活性ガス及び水素ガスから選ばれる少なくとも一種のガスにより気流処理をすることによりPユニットの割合(P分率)を減少させて、そのかわりにPS分率が向上することを見出すに至った。硫化物を気流処理、とりわけ水素ガスを含むガスにより気流処理すると硫化水素が発生しやすくなることが予想されることから、通常水素ガスを含むガスにより気流処理を行うことはなされてこなかった。しかし、あえて不活性ガス及び水素ガスから選ばれる少なくとも一種のガスにより気流処理を採用したところ、PS分率が向上するという驚くべき効果が見出された。
既述のように、各種反応条件によりPS分率が影響されることは知られているが、硫化物に不活性ガス及び水素ガスから選ばれる少なくとも一種のガスにより気流処理という後処理を施すことによりPS分率が向上することは、これまで全く認知されていなかった事象である。
【0014】
本明細書において、「固体電解質」とは、窒素雰囲気下25℃で固体を維持する電解質を意味する。本実施形態の製造方法により得られる「硫化物固体電解質」は、アルカリ金属元素、硫黄元素及びリン元素、好ましくはハロゲン元素を含み、リチウム元素等のアルカリ金属元素に起因するイオン伝導度を有する固体電解質であり、リチウム元素、硫黄元素及びリン元素、好ましくはハロゲン元素を含む「硫化物」を気流処理して得られるものを意味する。なお、上記の「硫化物固体電解質」及び「硫化物」は、Ge、Na、K、Mg、Ca、Al、Si、Sb、Ti、Zr等の金属元素を含んでいてもよい。
【0015】
「硫化物固体電解質」には、本実施形態の製造方法により得られる結晶構造を有する結晶性硫化物固体電解質と、非晶性硫化物固体電解質と、の両方が含まれる。本明細書において、結晶性硫化物固体電解質とは、X線回折測定においてX線回折パターンに、固体電解質由来のピークが観測される固体電解質であって、これらにおいての固体電解質の原料由来のピークの有無は問わない材料である。すなわち、結晶性硫化物固体電解質は、固体電解質に由来する結晶構造を含み、その一部が該固体電解質に由来する結晶構造であっても、その全部が該固体電解質に由来する結晶構造であってもよい、ものである。そして、結晶性硫化物固体電解質は、上記のようなX線回折パターンを有していれば、その一部に非晶性硫化物固体電解質(「ガラス成分」とも称される。)が含まれていてもよいものである。したがって、結晶性硫化物固体電解質には、非晶性固体電解質(ガラス成分)を結晶化温度以上に加熱して得られる、いわゆるガラスセラミックスが含まれる。
【0016】
また、本明細書において、非晶性硫化物固体電解質(ガラス成分)とは、X線回折測定においてX線回折パターンが実質的に材料由来のピーク以外のピークが観測されないハローパターンであるもののことであり、固体電解質の原料由来のピークの有無は問わないものであることを意味する。
上記結晶性及び非晶性の区別は、本実施形態において気流処理の対象となる硫化物にも適用される。
【0017】
また、本明細書において、PSユニットの割合(PS分率)、Pユニットの割合(P分率)及びPユニットの割合(P分率)は、31P MAS NMRスペクトル(固体31P NMRスペクトル)を測定し、波形分離して得られる、各々PSユニット、Pユニット及びPユニットのピークの面積の全体に対する、各ユニットの面積の割合のことを意味する。なお、固体31P NMRスペクトルの測定の詳細条件は特に制限はないが、例えば実施例に記載される諸条件に基づき測定すればよい。
【0018】
〔硫化物固体電解質の製造方法〕
本実施形態の第一の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
少なくともアルカリ金属元素、リン元素及び硫黄元素を含む硫化物を、不活性ガス及び水素ガスから選ばれる少なくとも一種のガスにより気流処理することを含む硫化物固体電解質の製造方法、
である。
【0019】
アルカリ金属元素、リン元素及び硫黄元素を含む硫化物としては、これらの元素を含む硫化物固体電解質が典型的に挙げられ、従来法で得られる硫化物固体電解質に該当するともいえる。そのため、本実施形態の製造方法における不活性ガス及び水素ガスから選ばれる少なくとも一種のガスにより気流処理(以下、単に「気流処理」と称することがある。)は、従来法に照らせば、硫化物固体電解質を作製した後の後処理と位置付けられ、本実施形態の製造方法は、気流処理という後処理を施すことにより、PS分率を向上させることを可能としたものであるといえる。
【0020】
後述する実施例でも示されるように、硫化物にはPSユニットの他、Pユニット、Pユニットが含まれており、これを気流処理することにより、PSユニット以外のユニットの分率、すなわちP分率及びP分率の少なくともいずれかが低下し、その分PS分率が高くなり、また高いイオン伝導度が得られることが確認されている。
硫化物に気流処理を施すことにより、P分率及びP分率の少なくともいずれかが低下し、その分PS分率が高くなる理由については、不明であるが、本発明者らは以下の事象を推測し、気流処理を行うことが有効なのではないかと考え、本発明に至った。
【0021】
硫化物には、PSユニット、Pユニット、Pユニットが含まれるが、硫化物を作製するにあたり用いる原料に由来する原子、すなわち硫黄原子をはじめとし、リン原子の全てがPSユニット、Pユニット、Pユニットの形成に寄与することは想定しにくい。そのため、その存在を測定により探知することは困難であるものの、一定程度の硫黄原子は、これらのユニットに取り込まれず、単離した形で存在しているものと考えられる。
【0022】
単離した形で存在する硫黄原子は、イオン伝導度の向上への寄与は大きくないと考えられ、またPS分率を向上させることがイオン伝導度の向上につながるという知見を考慮すると、単離した硫黄原子を低減させつつ、PS分率を向上させることができれば、高いイオン伝導度が得られるのではないかと予想した。そして、単離した硫黄原子を低減させるには、当該単離した硫黄原子の反応性を向上させることが必要であり、硫化物を気流処理を行い、当該単離した硫黄原子をより反応性の高い硫化水素に転化することを考えた。不活性ガス及び水素ガスから選ばれる少なくとも一種のガス、とりわけ水素ガスを流通させ、単離した硫黄原子を硫化水素とすることにより、当該硫化水素とPユニット及びPユニットの少なくともいずれかとが反応することにより、単離した硫黄原子とPユニット及びPユニットの少なくともいずれかとを減少させる一方、PSユニットが生成し、PS分率が向上するのではないかと考えたのである。
【0023】
また、硫化物にガスの気流をあてること自体にも、PS分率を向上させる効果があるものと考えらえる。硫化物にガスの気流をあてることにより、単離した硫黄原子の反応性が向上し、またガス気流で揮発して残存した溶媒又は水分等との反応により生成物が生成するといったことが生じる結果、少なからず単離した硫黄原子を減少させることができる。さらに、単離した硫黄原子への働きかけ、反応により生成した反応物により、Pユニット及びPユニットの少なくともいずれかとの反応が生じ得ることも想定できるからである。そのため、硫化物に不活性ガス単体のガスの気流をあてることによっても、Pユニット及びPユニットの少なくともいずれかが減少し、PSユニットが生成し、PS分率が向上するとも考えられる。さらに、ガスが水素ガスを含むガスである場合は、水素ガスの上記効果により、PS分率の向上効果がより顕著になるものと考えられる。これを考慮すると、詳細は後述するが、気流処理に用いられるガスは水素ガスを含んでいることが好ましい。
かくして、不活性ガス及び水素ガスから選ばれる少なくとも一種のガス、すなわち不活性ガス単体、水素ガス単体、また不活性ガスと水素ガスとの混合ガスにより気流処理することで、PS分率が高くなり、また高いイオン伝導度が得られるものと考えられる。
【0024】
なお、硫黄原子が単離した形で存在していることについては、既述のように具体的な確認は困難である。しかし、硫化物を作製するにあたり用いる原料に由来する原子、すなわち硫黄原子の全てがPSユニット、Pユニット、Pユニットの形成に寄与することは想定しにくく、一定程度の硫黄原子は単離した形で存在しているものとすることは妥当であると考えられる。
【0025】
本実施形態の製造方法は、いかなる方法により硫化物を作製しても、あるいは硫化物を粉砕等の加工をした後に、最終的に気流処理を行うことにより、PS分率を向上させることができ、また高いイオン伝導度を得ることが可能になるという、画期的な製造方法である。
【0026】
本実施形態の第二の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
前記気流処理を、水素ガス雰囲気下で行う硫化物固体電解質の製造方法、
である。
第二の態様は、第一の態様における気流処理を、水素ガス雰囲気下で行う、というものである。既述のように、気流処理において用いられるガスに水素ガスが含まれることで、単離した硫黄原子が硫化水素になりやすくなる。そして、当該硫化水素とPユニット及びPユニットの少なくともいずれかとが反応することにより、単離した硫黄原子とPユニット及びPユニットの少なくともいずれかとを減少させる一方、PSユニットが生成し、PS分率が向上しやすくなると考えられる。そのため、気流処理に用いられるガスは水素ガスを含んでいることが好ましい。硫化物を水素ガス雰囲気下に晒すことにより、満遍なく硫化物と水素ガスとの接触を図ることができるため、効率的にPS分率を向上させることができ、また高いイオン伝導度を得ることが可能となる。
【0027】
本実施形態の第三の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
前記気流処理を、水素ガスの含有量が0.5容量%以上100容量%以下のガスを供給しながら行う、硫化物固体電解質の製造方法、
である。
第三の態様は、所定の含有量で水素ガスを含むガスを供給することで、硫化物と水素との接触を図り、また硫化物を水素ガス雰囲気下に晒すことを可能とするものであり、効率的にPS分率を向上させることができ、また高いイオン伝導度を得ることが可能となる。
【0028】
本実施形態の第四の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
前記気流処理を、前記硫化物を粉砕しながら行う硫化物固体電解質の製造方法、
である。
第四の態様によれば、粉砕することで硫化物の新生面が次々と露出することとなり、次々と露出する新生面に順次気流処理を行うことができるため、より効率的にPS分率を向上させることができ、また高いイオン伝導度を得ることが可能となる。
【0029】
本実施形態の第五の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
前記粉砕を、メカニカルミリング法により行う硫化物固体電解質の製造方法、
である。
第五の態様は、第四の形態における粉砕を、メカニカルミリング法(固相法)により行うものであり、従来より慣用される、ビーズミル、ボールミル等の粉砕機を用いて粉砕を行うことを明確にしたものである。メカニカルミリング法は、固液法とも称されるように、通常固体の原料を粉砕して、反応させる方法であるが、後述するように、本実施形態においては適宜溶媒を用いてスラリー状としながら粉砕を行うことも含み得る方法である。
【0030】
本実施形態の第六の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
前記気流処理を、更にハロゲン化アルカリ金属を加えて行う硫化物固体電解質の製造方法、
である。
第六の態様は、例えば硫化物としてハロゲン元素を含まれないものを用いた場合に、ハロゲン元素を含む硫化物固体電解質を製造する際に有効な手段となる。硫化物固体電解質がハロゲン元素を含むことで、イオン伝導度の向上が期待される。またハロゲン元素の供給手段としてハロゲン化アルカリ金属を採用することにより、ハロゲン元素とともにイオン伝導度を発現させるアルカリ金属元素を供給することができるため、より効率的にイオン伝導度を向上させることが可能となる。なお、硫化物として、アルカリ金属元素、リン元素及び硫黄元素に加えて、更にハロゲン元素を含むものを用いる場合は、更にハロゲン化アルカリ金属を加えなくてもよいが、もちろん必要に応じて加えてもよい。
【0031】
本実施形態の第七の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
前記ハロゲン化アルカリ金属が、ハロゲン化リチウム及びハロゲン化ナトリウムから選ばれる少なくとも一種である硫化物固体電解質の製造方法、
である。
ハロゲン化アルカリ金属として、ハロゲン化リチウム及びハロゲン化ナトリウムの少なくとも一方を採用することにより、アルカリ金属元素の中でもイオン伝導度の発現により有効であるリチウム元素、ナトリウム元素を供給することができるので、イオン伝導度を向上させることが可能となる。
【0032】
本実施形態の第八の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
前記気流処理を、0.1時間以上100時間以下行う硫化物固体電解質の製造方法、
である。
気流処理を行う時間を0.1時間以上100時間以下とすることで、効率的に気流処理を行うことができ、PS分率を向上させることができ、また高いイオン伝導度を得ることが可能となる。
【0033】
本実施形態の第九の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
前記ガスを、前記硫化物100gに対して0.1L/分以上20L/分以下で供給する硫化物固体電解質の製造方法、
である。
気流処理を水素ガスを含むガスを供給しながら行う場合、気流処理の対象物となる硫化物に対して所定範囲の流量で水素ガスを供給することで、効率的に気流処理を行うことができ、PS分率を向上させることができ、また高いイオン伝導度を得ることが可能となる。
【0034】
本実施形態の第十の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
更に、アルカリ金属元素、硫黄元素及びリン元素の少なくとも一つの元素を含む化合物から選ばれる二種以上の原料を混合することを含む硫化物固体電解質の製造方法、
である。
本実施形態の製造方法で用いられる硫化物が、アルカリ金属元素、硫黄元素及びリン元素の少なくとも一つの元素を含む化合物から選ばれる二種以上の原料を混合することにより得られるものである、ことを規定するものである。
【0035】
本実施形態の第十一の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
更に、アルカリ金属元素、硫黄元素、リン元素及びハロゲン元素の少なくとも一つの元素を含む化合物から選ばれる二種以上の原料を混合することを含む、硫化物固体電解質の製造方法、
である。
第十一の態様は、上記の第十の態様において用いられる原料に加えて、ハロゲン元素を含む化合物も原料として用い得ることを規定するものである。結果として、硫化物固体電解質はハロゲン元素を含むものとなるため、更なるイオン伝導度の向上が期待される。
【0036】
本実施形態の第十二の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
前記アルカリ金属元素が、リチウム元素及びナトリウム元素から選ばれる少なくとも一種である硫化物固体電解質の製造方法、
である。
第七の形態と同様に、アルカリ金属元素として、リチウム元素及びナトリウム元素の少なくとも一方を採用することにより、アルカリ金属元素の中でもイオン伝導度の発現により有効であるリチウム元素、ナトリウム元素を供給することができるので、イオン伝導度を向上させることが可能となる。
【0037】
本実施形態の第十三の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
前記化合物が、硫化リチウム及び五硫化二リンを含む硫化物固体電解質の製造方法、
である。
前記第十の形態、第十一の形態における「化合物」が、硫化リチウム及び五硫化二リンを含むことを規定するものである。原料として、硫化リチウム及び五硫化二リンを含むものを用いることで、PS分率を向上させやすくなり、また高いイオン伝導度が得られる。
【0038】
本実施形態の第十四の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
前記化合物が、硫化リチウム、五硫化二リン及びハロゲン化リチウムを含む硫化物固体電解質の製造方法、
である。
第十の形態において、リチウム元素、硫黄元素、リン元素及びハロゲン元素の少なくとも一つの元素を含む化合物から選ばれる原料を採用するが、ハロゲン元素を含む化合物として、ハロゲン化リチウムが採用されることを規定するものである。ハロゲン元素を含む化合物を原料として用いることにより、得られる硫化物固体電解質はハロゲン元素を含むものとなるため、更なるイオン伝導度の向上が期待される。また、ハロゲン元素とともに、アルカリ金属元素の中でもイオン伝導度の発現により有効であるリチウム元素を供給することができるので、イオン伝導度を向上させることが可能となる。
【0039】
本実施形態の第十五の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
前記硫化物が、非晶質成分を含む硫化物である硫化物固体電解質の製造方法、
である。
本実施形態の製造方法において用いられる硫化物は、好ましくは第十及び第十一の形態となる、アルカリ金属元素、硫黄元素及びリン元素、更にはハロゲン元素を含む化合物を含む原料を混合することにより得ることができるが、当該混合により得られる硫化物は非晶質成分を含むもの、例えば非晶性の硫化物であることを規定するものである。
【0040】
本実施形態の第十六の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
前記硫化物が、Pユニットを含む硫化物である硫化物固体電解質の製造方法、
である。
硫化物は、好ましくは原料を混合することにより得ることができ、当該混合により得られる硫化物は、PSユニットだけでなく、Pユニット、Pユニットを含むものである。当該混合を粉砕機を用いて行うと、既述のように、ビーズ等のメディアと固体原料との衝突、また固体原料同士の衝突により局所的に高温となることでPユニット、Pユニットがより生成しやすくなる。このような場合であっても、本実施形態の製造方法によれば、Pユニット及びPユニットの少なくともいずれかのユニットの割合、特にPユニットの割合(P分率)を低減させ、その分PS分率を向上させることができ、また高いイオン伝導度を得ることが可能となる。なお、実施例にも示されるように、気流処理の時間を長くするほど、Pユニットの割合(P分率)がより低減する傾向を示す。
【0041】
〔硫化物〕
本実施形態の製造方法において用いられる、硫化物から説明する。本実施形態の製造方法において用いられる硫化物は、リチウム元素、硫黄元素及びリン元素、好ましくはハロゲン元素を含むものであり、好ましくは、これらの元素の少なくとも一つの元素を含む化合物から選ばれる二種以上の原料を混合することを含む、製造方法により得られる。
【0042】
(原料)
原料は、アルカリ金属元素、硫黄元素及びリン元素、好ましくはハロゲン元素の少なくとも一つの元素を含む化合物から選ばれる二種以上のことである。すなわち、本実施形態においては、アルカリ金属元素、硫黄元素及びリン元素、好ましくはハロゲン元素の少なくとも一つ以上の元素を含む化合物の二種以上を原料として用いる。既述のように、本実施形態における固体電解質は、アルカリ金属元素、硫黄元素及びリン元素、好ましくはハロゲン元素を含むものであることから、二種以上の化合物が採用される原料として、アルカリ金属元素、硫黄元素及びリン元素、好ましくはハロゲン元素が含まれる。
【0043】
原料として用い得る化合物は、アルカリ金属元素、硫黄元素及びリン元素、好ましくはハロゲン元素の少なくとも一つの元素を含むものであり、より具体的には、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等の硫化アルカリ金属;フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウム、ヨウ化ナトリウム、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム等のハロゲン化ナトリウムなどのハロゲン化アルカリ金属;三硫化二リン(P)、五硫化二リン(P)等の硫化リン;各種フッ化リン(PF、PF)、各種塩化リン(PCl、PCl、PCl)、各種臭化リン(PBr、PBr)、各種ヨウ化リン(PI、P)等のハロゲン化リン;フッ化チオホスホリル(PSF)、塩化チオホスホリル(PSCl)、臭化チオホスホリル(PSBr)、ヨウ化チオホスホリル(PSI)、二塩化フッ化チオホスホリル(PSClF)、二臭化フッ化チオホスホリル(PSBrF)等のハロゲン化チオホスホリル;などの上記四種の元素から選ばれる少なくとも二種の元素からなる原料、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等のハロゲン単体、好ましくは臭素(Br)、ヨウ素(I)が代表的に挙げられる。
【0044】
上記以外の原料として用い得る化合物としては、例えば、上記四種の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を含み、かつ該四種の元素以外の元素を含む化合物、より具体的には、酸化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム等のリチウム化合物;硫化ケイ素、硫化ゲルマニウム、硫化ホウ素、硫化ガリウム、硫化スズ(SnS、SnS)、硫化アルミニウム、硫化亜鉛等の硫化金属;リン酸ナトリウム、リン酸リチウム等のリン酸化合物;ハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化ケイ素、ハロゲン化ゲルマニウム、ハロゲン化ヒ素、ハロゲン化セレン、ハロゲン化スズ、ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化テルル、ハロゲン化ビスマス等のハロゲン化金属;オキシ塩化リン(POCl)、オキシ臭化リン(POBr)等のオキシハロゲン化リン;などが挙げられる。
【0045】
本実施形態においては、より容易に高いイオン伝導度を有する硫化物固体電解質を得る観点から、アルカリ金属元素の中でも、リチウム元素、ナトリウム元素が好ましく、リチウム元素がより好ましく、またハロゲン元素の中でも塩素元素、臭素元素、ヨウ素元素が好ましく、臭素元素、ヨウ素元素がより好ましい。また、これらの元素は単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
また、同様の観点から、原料に用い得る化合物としては、上記の中でも、硫化リチウム、硫化ナトリウム等の硫化アルカリ金属、三硫化二リン(P)、五硫化二リン(P)等の硫化リン、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等のハロゲン単体、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウムが好ましく、硫化アルカリ金属の中でも硫化リチウムが好ましく、硫化リンの中でも五硫化二リンが好ましく、ハロゲン単体の中でも塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)が好ましく、臭素(Br)、ヨウ素(I)がより好ましく、ハロゲン化リチウムの中でも塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウムが好ましく、臭化リチウム、ヨウ化リチウムがより好ましい。
【0046】
原料に用い得る化合物の組合せとしては、例えば、硫化リチウムと五硫化二リンとの組合せ、ハロゲン元素を含む化合物を用いる場合は、硫化リチウム、五硫化二リン及びハロゲン化リチウムの組合せ、硫化リチウム、五硫化二リン及びハロゲン単体の組合せが好ましく挙げられ、ハロゲン化リチウムとしては臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化リチウムが好ましく、ハロゲン単体としては臭素及びヨウ素が好ましい。
本実施形態においては、硫化アルカリ金属、ハロゲン化アルカリ金属、ハロゲン単体、その他の化合物は、上記の例示したものを単独で、又は複数種を組合せて用いることが可能である。
【0047】
また、本実施形態においては、原料として用い得る化合物としては、PSユニット等を含むLiPS等の固体電解質も挙げられる。本実施形態の製造方法により得られる硫化物固体電解質に主構造として存在するLiPS等のリチウムを含む構造体を原料として用いることで、上記の硫化リチウム等の化合物を原料として用いて、化合物同士の反応により合成しつつ硫化物固体電解質を形成する場合に比べて、当該構造体の構成比率を高くする、すなわちPS分率を向上させることができ、また高いイオン伝導度が得られる。
【0048】
本実施形態において、原料として用いる化合物に採用し得る固体電解質としては、分子構造としてLiPS構造を有する非晶性硫化物固体電解質(「非晶性LiPS」とも称される。)、または結晶性硫化物固体電解質(「結晶性LiPS」とも称される。)等が挙げられ、PS分率を向上させること、また高いイオン伝導度を得ることを考慮すると、Li構造を含まない非晶性硫化物固体電解質、または結晶性硫化物固体電解質が好ましい。これらの固体電解質は、例えばメカニカルミリング法、スラリー法、溶融急冷法等の従来より存在する製造方法により製造したものを用いることができ、市販品を用いることもできる。
また、原料として用いる硫化物固体電解質は、非晶性であることが好ましい。ハロゲン元素を含む化合物を原料として用いる場合、ハロゲン原子の分散性が向上し、ハロゲン原子と固体電解質中のリチウム原子、硫黄原子及びリン原子との結合が生じやすくなり、結果としてより高いイオン伝導度を有する硫化物固体電解質を得ることができる。
【0049】
化合物として上記の固体電解質を採用する場合、原料の合計に対するLiPS構造を有する非晶性硫化物固体電解質等の含有量は、60~100mol%が好ましく、65~90mol%がより好ましく、70~80mol%が更に好ましい。
LiPS構造を有する固体電解質等とハロゲン単体とを用いる場合、LiPS構造を有する非晶性硫化物固体電解質等に対するハロゲン単体の含有量は、1~50mol%が好ましく、2~40mol%がより好ましく、3~25mol%が更に好ましく、3~15mol%が更により好ましい。
【0050】
本実施形態でアルカリ金属を含む化合物として硫化リチウムが用いられる場合、硫化リチウムは粒子であることが好ましい。
硫化リチウム粒子の平均粒径(D50)は、10μm以上2000μm以下であることが好ましく、30μm以上1500μm以下であることがより好ましく、50μm以上1000μm以下であることがさらに好ましい。本明細書において、平均粒径(D50)は、粒子径分布積算曲線を描いた時に粒子径の最も小さい粒子から順次積算して全体の50%に達するところの粒子径であり、体積分布は、例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定することができる平均粒径のことである。また、上記の原料として例示したもののうち固体の原料については、上記硫化リチウム粒子と同じ程度の平均粒径を有するものが好ましい、すなわち上記硫化リチウム粒子の平均粒径と同じ範囲内にあるものが好ましい。
【0051】
原料として、硫化リチウムと、五硫化二リン及びハロゲン化リチウムと、を用いる場合、硫化リチウム及び五硫化二リンの合計に対する硫化リチウムの割合は、より高い化学的安定性を得る観点、またPS分率を向上させて、また高いイオン伝導度を得る観点から、好ましくは60mol%以上、より好ましくは65mol%以上、更に好ましくは68mol%以上であり、上限として好ましくは80mol%以下、より好ましくは78mol%以下、更に好ましくは76mol%以下である。
【0052】
硫化リチウム、五硫化二リン、ハロゲン化リチウム、必要に応じて用いられる他の原料を用いる場合の、これらの合計に対する硫化リチウム及び五硫化二リンの含有量は、好ましくは60mol%以上、より好ましくは65mol%以上、更に好ましくは70mol%以上であり、上限として好ましくは100mol%以下、より好ましくは90mol%以下、更に好ましくは80mol%以下である。
また、ハロゲン化リチウムとして、臭化リチウムとヨウ化リチウムとを組合せて用いる場合、PS分率を向上させて、また高いイオン伝導度を得る観点から、臭化リチウム及びヨウ化リチウムの合計に対する臭化リチウムの割合は、好ましくは1mol%以上、より好ましくは20mol%以上、更に好ましくは40mol%以上、より更に好ましくは50mol%以上であり、上限として好ましくは99mol%以下、より好ましくは90mol%以下、更に好ましくは80mol%以下、より更に好ましくは70mol%以下である。
【0053】
(混合)
リチウム元素、硫黄元素及びリン元素、好ましくはハロゲン元素の元素の少なくとも一つの元素を含む化合物から選ばれる二種以上の原料を混合は、例えば当該原料を混合機を用いて行うことができる。また、撹拌機、粉砕機等を用いて行うこともできる。撹拌機を用いても原料の混合は起こり得るし、また粉砕機により原料の粉砕が生じることとなるが、同時に混合も生じるからである。すなわち、硫化物は、リチウム元素、硫黄元素及びリン元素、好ましくはハロゲン元素の元素の少なくとも一つの元素を含む化合物から選ばれる二種以上の原料を、撹拌、混合、粉砕、又はこれらのいずれかを組合せた処理により行うことができる、ともいえる。
【0054】
撹拌機、混合機としては、例えば反応槽内に撹拌翼を備えて撹拌(撹拌による混合、撹拌混合とも称し得る。)ができる機械撹拌式混合機が挙げられる。機械撹拌式混合機としては、高速撹拌型混合機、双腕型混合機等が挙げられる。また、高速撹拌型混合機としては、垂直軸回転型混合機、水平軸回転型混合機等が挙げられ、どちらのタイプの混合機を用いてもよい。
【0055】
機械撹拌式混合機において用いられる撹拌翼の形状としては、ブレード型、アーム型、アンカー型、パドル型、フルゾーン型、リボン型、多段ブレード型、二連アーム型、ショベル型、二軸羽型、フラット羽根型、C型羽根型等が挙げられ、より効率的に原料の反応を促進させる観点から、ショベル型、フラット羽根型、C型羽根型、アンカー型、パドル型、フルゾーン型等が好ましく、アンカー型、パドル型、フルゾーン型がより好ましい。
【0056】
機械撹拌式混合機を用いる場合、撹拌翼の回転数は、反応槽内の流体の容量、温度、撹拌翼の形状等に応じて適宜調整すればよく特に制限はないが、通常5rpm以上400rpm以下程度とすればよく、より効率的に原料の反応を促進させる観点から、10rpm以上300rpm以下が好ましく、15rpm以上250rpm以下がより好ましく、20rpm以上200rpm以下が更に好ましい。
【0057】
混合機を用いて混合する際の温度条件としては、特に制限はなく、例えば通常-30~120℃、好ましくは-10~100℃、より好ましくは0~80℃、更に好ましくは10~60℃である。また混合時間は、通常0.1~500時間、原料の分散状態をより均一とし、反応を促進させる観点から、好ましくは1~450時間、より好ましくは10~425時間、更に好ましくは20~400時間、より更に好ましくは40~375時間である。
【0058】
粉砕機を用いて、粉砕を伴う混合を行う方法は、従来より固相法(メカニカルミリング法)として採用されてきた方法である。粉砕機としては、例えば、粉砕媒体を用いた媒体式粉砕機を用いることができる。
媒体式粉砕機は、容器駆動式粉砕機、媒体撹拌式粉砕機に大別される。容器駆動式粉砕機としては、撹拌槽、粉砕槽、あるいはこれらを組合せたボールミル、ビーズミル等が挙げられる。また、媒体撹拌式粉砕機としては、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル等の衝撃式粉砕機;タワーミルなどの塔型粉砕機;アトライター、アクアマイザー、サンドグラインダー等の撹拌槽型粉砕機;ビスコミル、パールミル等の流通槽型粉砕機;流通管型粉砕機;コボールミル等のアニュラー型粉砕機;連続式のダイナミック型粉砕機;一軸又は多軸混練機などの各種粉砕機が挙げられる。中でも、得られる硫化物の粒径の調整のしやすさ等を考慮すると、容器駆動式粉砕機として例示したボールミル、ビーズミルが好ましく、中でも遊星型のものが好ましい。
【0059】
これらの粉砕機は、所望の規模等に応じて適宜選択することができ、比較的小規模であれば、ボールミル、ビーズミル等の容器駆動式粉砕機を用いることができ、また大規模、又は量産化の場合には、他の形式の粉砕機を用いてもよい。
【0060】
また、後述するように、混合の際に溶媒等の液体を伴う液状態、又はスラリー状態である場合は、湿式粉砕に対応できる湿式粉砕機であることが好ましい。
湿式粉砕機としては、湿式ビーズミル、湿式ボールミル、湿式振動ミル等が代表的に挙げられ、粉砕操作の条件を自由に調整でき、より小さい粒径のものに対応しやすい点で、ビーズを粉砕メディアとして用いる湿式ビーズミルが好ましい。また、乾式ビーズミル、乾式ボールミル、乾式振動ミル等の乾式媒体式粉砕機、ジェットミル等の乾式非媒体粉砕機等の乾式粉砕機を用いることもできる。
【0061】
また、混合の対象物が液状態、スラリー状態である場合、必要に応じて循環させる循環運転が可能である、流通式の粉砕機を用いることもできる。具体的には、スラリーを粉砕する粉砕機(粉砕混合機)と、温度保持槽(反応容器)との間で循環させるような形態の粉砕機が挙げられる。
【0062】
上記ボールミル、ビーズミルで用いられるビーズ、ボールのサイズは、所望の粒径、処理量等に応じて適宜選択すればよく、例えばビーズの直径として、通常0.05mmφ以上、好ましくは0.1mmφ以上、より好ましくは0.3mmφ以上、上限として通常5.0mmφ以下、好ましくは3.0mmφ以下、より好ましくは2.0mmφ以下である。またボールの直径として、通常2.0mmφ以上、好ましくは2.5mmφ以上、より好ましくは3.0mmφ以上、上限として通常20.0mmφ以下、好ましくは15.0mmφ以下、より好ましくは10.0mmφ以下である。
また、材質としては、例えば、ステンレス、クローム鋼、タングステンカーバイド等の金属;ジルコニア、窒化ケイ素等のセラミックス;メノウ等の鉱物が挙げられる。
【0063】
また、ボールミル、ビーズミルを用いる場合、回転数としては、その処理する規模に応じてかわるため一概にはいえないが、通常10rpm以上、好ましくは20rpm以上、より好ましくは50rpm以上であり、上限としては通常1,000rpm以下、好ましくは900rpm以下、より好ましくは800rpm以下、更に好ましくは700rpm以下である。
また、この場合の粉砕時間としては、その処理する規模に応じてかわるため一概にはいえないが、通常0.5時間以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは5時間以上、更に好ましくは10時間以上であり、上限としては通常100時間以下、好ましくは72時間以下、より好ましくは48時間以下、更に好ましくは36時間以下である。
【0064】
使用する媒体(ビーズ、ボール)のサイズ、材質、またロータの回転数、及び時間等を選定することにより、混合、撹拌、粉砕、これらのいずれかを組合せた処理を行うことができ、得られる硫化物の粒径等の調整を行うことができる。
【0065】
(溶媒)
上記の混合にあたり、上記の原料に、溶媒を加えて混合することができる。溶媒としては、広く有機溶媒と称される各種溶媒等を用いることができる。
【0066】
溶媒としては、固体電解質の製造において従来より用いられてきた溶媒を広く採用することが可能であり、例えば、脂肪族炭化水素溶媒、脂環族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒等の炭化水素溶媒が挙げられる。
【0067】
脂肪族炭化水素としては、例えば、ヘキサン、ペンタン、2-エチルヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン等が挙げられ、脂環族炭化水素としては、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等が挙げられ、芳香族炭化水素溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、tert-ブチルベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ニトロベンゼン等が挙げられる。
【0068】
また、上記炭化水素溶媒の他、炭素元素、水素元素以外の元素、例えば窒素元素、酸素元素、硫黄元素、ハロゲン元素等のヘテロ元素を含む溶媒も挙げられる。ヘテロ元素として酸素元素を含む、例えばエーテル溶媒、エステル溶媒の他、アルコール系溶媒、アルデヒド系溶媒、ケトン系溶媒も好ましく挙げられる。
【0069】
エーテル溶媒としては、例えばジメチルエーテル、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、トリエチレンオキサイドグリコールジメチルエーテル(トリグリム)、またジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族エーテル;エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジメトキシテトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン等の脂環式エーテル;フラン、ベンゾフラン、ベンゾピラン等の複素環式エーテル;メチルフェニルエーテル(アニソール)、エチルフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテルが好ましく挙げられる。
【0070】
エステル溶媒としては、例えば蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル;プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル等の脂肪族エステル;シクロヘキサンカルボン酸メチル、シクロヘキサンカルボン酸エチル、シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル等の脂環式エステル;ピリジンカルボン酸メチル、ピリミジンカルボン酸メチル、アセトラクトン、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等の複素環式エステル;安息香酸メチル、安息香酸エチル、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、トリメチルトリメリテート、トリエチルトリメリテート等の芳香族エステルが好ましく挙げられる。
【0071】
また、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ジメチルホルムアミド等のアルデヒド系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒等が好ましく挙げられる。
【0072】
ヘテロ元素として窒素元素を含む溶媒としては、アミノ基、アミド基、ニトロ基、ニトリル基等の窒素元素を含む基を有する溶媒が挙げられる。
例えば、アミノ基を有する溶媒としては、エチレンジアミン、ジアミノプロパン、ジメチルエチレンジアミン、ジエチルエチレンジアミン、ジメチルジアミノプロパン、テトラメチルジアミノメタン、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、テトラメチルジアミノプロパン(TMPDA)等の脂肪族アミン;シクロプロパンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビスアミノメチルシクロヘキサン等の脂環式アミン;イソホロンジアミン、ピペラジン、ジピペリジルプロパン、ジメチルピペラジン等の複素環式アミン;フェニルジアミン、トリレンジアミン、ナフタレンジアミン、メチルフェニレンジアミン、ジメチルナフタレンジアミン、ジメチルフェニレンジアミン、テトラメチルフェニレンジアミン、テトラメチルナフタレンジアミン等の芳香族アミンが好ましく挙げられる。
ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アクリロニトリル、ニトロベンゼン等の窒素元素を含む溶媒も好ましく挙げられる。
【0073】
ヘテロ元素としてハロゲン元素を含む溶媒として、ジクロロメタン、クロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、クロロベンゼン、クロロトルエン、ブロモベンゼン等が好ましく挙げられる。
また、硫黄元素を含む溶媒としては、ジメチルスルホキシド、二硫化炭素等が好ましく挙げられる。
【0074】
溶媒を用いる場合、溶媒の使用量は、原料の合計量1kgに対して、好ましくは100mL以上、より好ましくは200mL以上、更に好ましくは250mL以上、より更に好ましくは300mL以上であり、上限として好ましくは3000mL以下、より好ましくは2500mL以下、更に好ましくは2000mL以下、より更に好ましくは1550mL以下である。溶媒の使用量が上記範囲内であると、効率よく原料を反応させることができる。
【0075】
(乾燥)
溶媒を用いて混合を行った場合は、混合を行った後、混合により得られた流体(通常、スラリー)を乾燥することを含んでもよい。溶媒を除去することにより、硫化物が得られる。得られた硫化物は、PSユニット等の固体電解質が有する構造を有し、リチウム元素、ナトリウム元素等のアルカリ金属元素に起因するイオン伝導度を発現するものである。
【0076】
乾燥は、混合により得られた流体を、溶媒の種類に応じた温度で行うことができる。
また、通常5~100℃、好ましくは10~85℃、より好ましくは15~70℃、より更に好ましくは室温(23℃)程度(例えば室温±5℃程度)で真空ポンプ等を用いて減圧乾燥(真空乾燥)して、溶媒を揮発させて行うことができる。
【0077】
乾燥は、流体をガラスフィルター等を用いたろ過、デカンテーションによる固液分離、また遠心分離機等を用いた固液分離により行ってもよい。溶媒を用いた場合には、固液分離によって硫化物が得られる。
固液分離は、具体的には、流体を容器に移し、硫化物が沈殿した後に、上澄みとなる溶媒を除去するデカンテーション、また例えばポアサイズが10~200μm程度、好ましくは20~150μmのガラスフィルターを用いたろ過が容易である。
【0078】
乾燥は、混合を行った後、後述する気流処理することの前に行ってもよいし、気流処理することを行った後に行ってもよい。
【0079】
(硫化物)
上記混合を行って得られる硫化物、また溶媒を用いた場合は上記乾燥により溶媒を除去して得られる硫化物は、既述のようにPSユニットに加えて、Pユニット、Pユニット等の固体電解質が有するユニットを含有し、またリチウム元素、ナトリウム元素等のアルカリ金属元素に起因するイオン伝導度を発現するものであることから、一般的には硫化物固体電解質と称し得る性状を有するものである。本実施形態の製造方法においては、上記混合を行って得られる硫化物を、気流処理することにより、硫化物固体電解質が得られる。
【0080】
硫化物中に含まれるPSユニットの割合(PS分率)、Pユニットの割合(P分率)及びPユニットの割合(P分率)は、硫化物の製造に原料として用いる化合物の種類、配合比等に応じてかわるため一概にはいえないが、通常以下の通りである。
PS分率は、通常10.0%以上、好ましくは15.0%以上、より好ましくは20.0%以上、更に好ましくは40.0%以上、より更に好ましくは60.0%以上、特に好ましくは80.0%以上であり、上限としては多いほど好ましく、通常95.0%以下である。
分率は、通常70.0%以下、好ましくは65.0%以下、より好ましくは50.0%以下、更に好ましくは25.0%以下、より更に好ましくは10.0%以下、特に好ましくは7.5%以下であり、下限としては少ないほど好ましく、通常1.0%以上である。また、P分率は、通常20.0%以下、好ましくは15.0%以下であり、下限としては少ないほど好ましく、通常5.0%以上である。
【0081】
上記混合を行って得られる硫化物は、例えば結晶化する程度に粉砕機を用いて粉砕による混合を行わない限り、基本的には非晶性の硫化物(ガラス成分)となる。
【0082】
上記混合を行って得られる硫化物は、非晶性の硫化物(ガラス成分)であってもよいし、結晶性の硫化物であってもよく、所望に応じて適宜選択することができる。結晶性の硫化物を用いる場合は、上記混合により得られる硫化物を加熱することで、硫化物を結晶性の硫化物とすることができる。硫化物としては、結晶性の硫化物の粉末の粒径を調整するために、例えば後述する粉砕等の処理を施した結果、その表面に非晶性の成分(ガラス成分)が形成した結晶性の硫化物も含まれ得る。よって、非晶性成分を含む硫化物には、非晶性の硫化物、また結晶性の硫化物であって、その表面に非晶性の成分が形成した硫化物も含まれる。
【0083】
(加熱)
硫化物として結晶性の硫化物を用いる場合、硫化物を得るにあたり、さらに加熱することを含んでもよい。上記混合することにより非晶性の硫化物(ガラス成分)が得られた場合は、加熱することにより結晶性の硫化物が得られ、また結晶性の硫化物が得られた場合は、より結晶化度を向上させた結晶性の硫化物が得られる。
また、混合を行う際に溶媒を用いた場合は、上記の乾燥を行わずに加熱することによっても、溶媒を除去し、硫化物が得られ、加熱の条件によって、非晶性の硫化物とすることもできるし、結晶性の硫化物とすることもできる。
【0084】
加熱温度は、例えば、非晶性の硫化物を得る場合、該非晶性の硫化物を加熱して得られる結晶性の硫化物の構造に応じて加熱温度を決定すればよく、具体的には、該非晶性の硫化物を、示差熱分析装置(DTA装置)を用いて、10℃/分の昇温条件で示差熱分析(DTA)を行い、最も低温側で観測される発熱ピークのピークトップの温度を起点に、好ましくは5℃以下、より好ましくは10℃以下、更に好ましくは20℃以下の範囲とすればよく、下限としては特に制限はないが、最も低温側で観測される発熱ピークのピークトップの温度-40℃以上程度とすればよい。このような温度範囲とすることで、より効率的かつ確実に非晶性の硫化物が得られる。非晶性の硫化物を得るための加熱温度としては、得られる結晶性の硫化物の構造に応じてかわるため一概に規定することはできないが、通常、135℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましく、125℃以下が更に好ましく、下限としては特に制限はないが、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは105℃以上である。
【0085】
また、非晶性の硫化物を加熱して結晶性の硫化物を得る場合、結晶性の硫化物の構造に応じて加熱温度を決定すればよく、非晶性の硫化物を得るための上記加熱温度よりも高いことが好ましく、具体的には、該非晶性の硫化物を、示差熱分析装置(DTA装置)を用いて、10℃/分の昇温条件で示差熱分析(DTA)を行い、最も低温側で観測される発熱ピークのピークトップの温度を起点に、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上の範囲とすればよく、上限としては特に制限はないが、40℃以下程度とすればよい。このような温度範囲とすることで、より効率的かつ確実に結晶性の硫化物が得られる。結晶性の硫化物を得るための加熱温度としては、得られる結晶性の硫化物の組成、構造に応じてかわるため一概に規定することはできないが、通常、130℃以上が好ましく、135℃以上がより好ましく、140℃以上が更に好ましく、上限としては特に制限はないが、好ましくは600℃以下、より好ましくは550℃以下、更に好ましくは500℃以下である。
【0086】
加熱時間は、所望の非晶性の硫化物、結晶性の硫化物が得られる時間であれば特に制限されるものではないが、例えば、1分間以上が好ましく、10分以上がより好ましく、30分以上が更に好ましく、1時間以上がより更に好ましい。また、加熱時間の上限は特に制限されるものではないが、24時間以下が好ましく、10時間以下がより好ましく、5時間以下が更に好ましく、3時間以下がより更に好ましい。
【0087】
また、加熱は、不活性ガス雰囲気(例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気)、または減圧雰囲気(特に真空中)で行なうことが好ましい。一定濃度、例えば後述する気流処理における水素ガスの濃度で水素ガスを含む不活性ガス雰囲気でもよい。結晶性の硫化物の劣化(例えば、酸化)を防止できるからである。加熱の方法は、特に制限されるものではないが、例えば、ホットプレート、真空加熱装置、アルゴンガス雰囲気炉、焼成炉を用いる方法等を挙げることができる。また、工業的には、加熱手段と送り機構を有する横型乾燥機、横型振動流動乾燥機等を用いることもでき、加熱する処理量に応じて選択すればよい。
【0088】
〔気流処理〕
本実施形態の製造方法は、上記の硫化物を、不活性ガス及び水素ガスから選ばれる少なくとも一種のガスにより気流処理することを含む。気流処理をすることにより、硫化物中の主にPユニットの割合(P分率)が減少し、その分、PSユニットの割合(PS分率)が向上し、結果としてイオン伝導度が高い硫化物固体電解質が得られる。気流処理に用いられるガスとしては、少なくとも水素ガスを含むガスであることが好ましい。硫化物中の主にPユニットの割合(P分率)を減少させやすく、その分、PSユニットの割合(PS分率)が向上しやすくなり、得られる硫化物固体電解質のイオン伝導度が向上するからである。なお、既述のように、気流処理によりPSユニット以外のユニット、すなわちPユニット及びPユニットの少なくともいずれかが減少するが、気流処理の時間を長くするほどPユニットがより減少する傾向を示すことが実施例により示されている。よって、気流処理による効果は、Pユニットの割合(P分率)の減少により効果的であると考えられる。
【0089】
気流処理は、硫化物を、不活性ガス及び水素ガスから選ばれる少なくとも一種のガスの雰囲気下に晒せれば、その方法には特に制限はなく、例えば、好ましくは水素ガスを含むガスを供給する配管、排気する配管を備える槽内に硫化物を静置し、当該槽内に好ましくは水素ガスを含むガスを供給して行う方法等を採用できる。また、硫化物が溶媒を伴うスラリー状態、液状態である場合は、バブリングにより、好ましくは水素ガスを含むガスを供給する方法も採用できる。
【0090】
気流処理の方法としては、硫化物を不活性ガス及び水素ガスから選ばれる少なくとも一種のガス、好ましくは水素ガス雰囲気下において粉砕して行う方法も挙げられる。既述のように、粉砕しながら行うことで、硫化物の新生面が次々と露出し、当該新生面に順次気流処理を行うことができるため、より効率的にPS分率を向上させることができ、また高いイオン伝導度を得ることが可能となる。また、小さい粒径の固体電解質が所望される場合、粉砕することにより硫化物固体電解質の粒径を調整することが可能となる。
硫化物がアルジロダイト型結晶構造を有する結晶性硫化物固体電解質等の結晶性硫化物固体電解質であると、粉砕することによりその表面に非晶性成分として、Pユニットが形成する場合がある。よって、このような場合には、粉砕の後に気流処理を行うこと、あるいは気流処理を行いながら粉砕を行うことにより、PS分率を向上させることができ、また高いイオン伝導度が得られる。また、このような場合に限らずとも、Pユニット及びPユニットの少なくともいずれかを含む硫化物、特にPユニットを含む硫化物を硫化物として採用することは、PS分率を向上させて、また高いイオン伝導度が得られるという効果を得る観点から、好適であることはいうまでもない。
【0091】
硫化物の粉砕方法としては、例えば硫化物の製造方法において、原料を混合する方法として説明した、メカニカルミリング法(固相法)、すなわちビーズミル、ボールミル等の粉砕機を用いた方法が挙げられる。粉砕条件等は、所望の硫化物固体電解質の平均粒径等に応じて適宜選択すればよく、例えば、上記原料を混合する方法として説明した各条件から適宜選択すればよい。
【0092】
硫化物の粉砕においては、原料の混合とは異なり、混合が十分に行われる必要がないため、既述のビーズミル、ボールミル等の粉砕機とは異なる形式の粉砕機を採用することもできる。このような粉砕機としては、超音波を用いて対象物を粉砕し得る機械、例えば超音波粉砕機、超音波ホモジナイザー、プローブ超音波粉砕機等と称される機器が挙げられる。なお、これらの粉砕機も、混合は生じるので、混合の際に用いられ得ることはいうまでもない。
【0093】
この場合、超音波の周波数等の諸条件は、所望の硫化物固体電解質の平均粒径等に応じて適宜選択すればよく、周波数は、例えば1kHz以上100kHz以下程度とすればよく、より効率的に硫化物を粉砕する観点から、好ましくは3kHz以上50kHz以下、より好ましくは5kHz以上40kHz以下、更に好ましくは10kHz以上30kHz以下である。
また、超音波粉砕機が有する出力としては、通常500~16,000W程度であればよく、好ましくは600~10,000W、より好ましくは750~5,000W、更に好ましくは900~1,500Wである。
【0094】
粉砕することにより得られる硫化物固体電解質の平均粒径(D50)は、所望に応じて適宜決定されるものであるが、通常0.01μm以上50μm以下であり、好ましくは0.03μm以上5μm以下、より好ましくは0.05μm以上3μm以下である。硫化物を水素雰囲気下で粉砕し、平均粒径を上記範囲内とすることで、PS分率が向上し、高いイオン伝導度が得られ、かつ平均粒径1μm以下という小さい粒径の硫化物固体電解質の要望に対応することが可能となる。
【0095】
粉砕する時間としては、硫化物固体電解質が所望の平均粒径となる時間であれば特に制限はなく、通常0.1時間以上100時間以内であり、効率的に粒径を所望のサイズとする観点から、好ましくは0.3時間以上72時間以下、より好ましくは0.5時間以上48時間以下、更に好ましくは1時間以上24時間以下である。
【0096】
また、粉砕は、硫化物を乾燥し、粉末としてから、行うことができる。
この場合は、硫化物の製造方法において用い得る粉砕機として例示した上記の粉砕機の中でも、乾式粉砕機のいずれかを用いることが好ましい。
【0097】
気流処理は、硫化物に更にハロゲン化アルカリ金属を加えて行ってもよい。この場合、ハロゲン化アルカリ金属を硫化物の構造内に取り込みやすくする観点から、既述の粉砕を行うことが好ましい。
ハロゲン化アルカリ金属としては、既述の原料として用いられ得るハロゲン化アルカリ金属として例示したものを好ましく採用することができる。更に加えるハロゲン化アルカリ金属に含まれるアルカリ金属元素は、原料として用いるハロゲン化アルカリ金属と同様に、リチウム元素、ナトリウム元素が好ましく、リチウム元素がより好ましく、また原料として用いるハロゲン化アルカリ金属に含まれるアルカリ金属元素と同じでも異なっていてもよく、同じであることが好ましい。
【0098】
気流処理をハロゲン化アルカリ金属を加えて行うことで、例えば硫化物としてハロゲン元素を含まれないものを用いた場合に、ハロゲン元素を構造内に取り込むことで、ハロゲン元素を含む硫化物固体電解質が得られるため、イオン伝導度の向上が期待できる。また、硫化物としてハロゲン元素を含むものを用いた場合も、硫化物の製造過程において、ハロゲン元素は硫化物の構造から抜け出しやすいことが知られていることから、気流処理の際にハロゲン化アルカリ金属を加えることで、抜け出したハロゲン元素を補充することができ、硫化物固体電解質のイオン電導度を向上させることが期待できることがある。さらに、ハロゲン化アルカリ金属を加えることにより、ハロゲン元素を供給できるとともに、イオン伝導度を発現させるアルカリ金属元素を供給することができるため、より効率的にイオン伝導度を向上させることが可能となる。
【0099】
ハロゲン化アルカリ金属を加える場合、その添加量は、硫化物がハロゲン元素を含まないものか、含むものかに応じて異なるため一概にはいえないが、硫化物100gに対して通常1g以上80g以下程度とすればよく、好ましくは5g以上、より好ましくは10g以上であり、上限として好ましくは70g以下、より好ましくは50g以下、更に好ましくは35g以下である。
【0100】
気流処理は、不活性ガス及び水素ガスから選ばれる少なくとも一種のガス、すなわち不活性ガス単体、水素ガス単体、また不活性ガス及び水素ガスを含むガスにより行うことができ、既述のように、少なくとも水素ガスを含むガス(水素ガス単体、又は不活性ガス及び水素ガスを含む混合ガス)を供給して行うことが好ましい。このように、水素ガスは、水素ガス単体(水素の含有量が100容量%であるガス)として供給してもよいし、例えば窒素、アルゴン等の不活性ガスとともに供給してもよい。水素ガスを含むガス中の水素ガスの含有量は、より効率的に気流処理を行う観点から、好ましくは0.5容量%以上、好ましくは1容量%以上、より好ましくは3容量%以上であり、上限としては100容量%以下、好ましくは80容量%以下、より好ましくは60容量%以下、更に好ましくは30容量%以下、より更に好ましくは15容量%以下である。
また、水素ガス雰囲気下で気流処理を行う場合、当該雰囲気下における水素ガスの濃度は、1容量%以上100容量%以下の範囲で適宜選択でき、上記水素ガスを含むガス中の水素ガスの含有量と同じ範囲となっていればよい。上記の水素ガスを含むガスを供給しながら水素ガス雰囲気とすればよい。
【0101】
気流処理におけるガスの供給量、すなわち水素ガスを含むガス、また不活性ガス単体のガスの供給量は、水素ガスを含むガス中の水素ガスの含有量、気流処理を行う容器の容量等に応じて適宜調整するものであり、一概にはいえないが、硫化物100gに対して、通常0.1L/分以上20L/分以下程度とすればよく、より効率的に気流処理を行う観点から、好ましくは0.5L/分以上、より好ましくは1.0L/分以上、更に好ましくは3.0L/分以上であり、上限として好ましくは15L/分以下、より好ましくは10L/分以下、更に好ましくは7.5L/分以下である。
【0102】
気流処理に用いられるガスに水素ガスが含まれる場合は、当該水素ガスの供給量としては、硫化物100gに対して通常0.01L/分以上5.0L/分以下程度とすればよく、より効率的に気流処理を行う観点から、好ましくは0.03L/分以上、より好ましくは0.05L/分以上、更に好ましくは0.1L/分以上であり、上限として好ましくは3.0L/分以下、より好ましくは1.0L/分以下、更に好ましくは0.5L/分以下である。
【0103】
気流処理の温度条件としては、特に制限はなく、通常0℃以上600℃以下の範囲内で適宜選択すればよく、より効率的に気流処理を行う観点から、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは15℃以上、上限として好ましくは500℃以下、より好ましくは300℃以下、更に好ましくは200℃以下、より更に好ましくは100℃以下、特に好ましくは室温(23℃)を中心に±5℃程度である。
また、気流処理を行う時間条件としては、硫化物固体電解質が所望のPS分率となる時間であれば特に制限はなく、通常0.1時間以上100時間以下であり、効率的にPS分率を向上させる観点から、好ましくは1時間以上、より好ましくは4時間以上、更に好ましくは10時間以上、より更に好ましくは14時間以上であり、上限として好ましくは72時間以下、より好ましくは48時間以下である。
【0104】
硫化物を気流処理することには、リチウム元素、硫黄元素及びリン元素、あるいはリチウム元素、硫黄元素、リン元素及びハロゲン元素の少なくとも一つの元素を含む化合物から選ばれる二種以上の原料を混合する際に、気流処理することも含まれる。これらの元素のいずれかを含む、少なくとも二種の固体原料を混合したものも、固体原料の反応により硫化物(主に硫化物固体電解質)が生成していることから、硫化物に含まれるからである。
よって、上記の硫化物の製造にあたり、リチウム元素、硫黄元素及びリン元素、好ましくはハロゲン元素の少なくとも一つの元素を含む化合物から選ばれる二種以上の原料を混合することは、例えば水素ガス雰囲気下で行う、あるいは水素ガスを供給しながら行う等の手法により、好ましくは水素ガスを含むガスにより気流処理しながら行うこともできる。そして、このようにして得られた硫化物を気流処理し、硫化物固体電解質を製造することもできる。
【0105】
(乾燥すること及び加熱すること)
本実施形態の製造方法は、気流処理に次いで、乾燥すること、加熱することを含んでもよい。気流処理に供する硫化物が、溶媒を伴うスラリー状態、液状態である、硫化物固体電解質を含む流体である場合、当該硫化物を気流処理して得られた硫化物固体電解質を粉体として使用する場合に有効である。
硫化物を気流処理して得られた硫化物固体電解質を乾燥すること、加熱することは、各々上記硫化物の乾燥すること、加熱することと同様にして行うことができる。
【0106】
(硫化物固体電解質)
以上の製造方法により得られる硫化物固体電解質は、非晶性の硫化物固体電解質(ガラス成分)、結晶性の硫化物固体電解質である。
【0107】
(非晶性硫化物固体電解質)
本実施形態の製造方法により得られる非晶性硫化物固体電解質としては、リチウム元素、硫黄元素及びリン元素、好ましくは更にハロゲン元素を含み、代表的なものとしては、例えば、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiI-LiBr等の、硫化リチウムと硫化リン、更に好ましくはハロゲン化リチウムとから構成される固体電解質;酸素元素、珪素元素等の他の元素を含む、例えば、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS-P-LiI等の固体電解質が好ましく挙げられる。より高いイオン伝導度を得る観点から、硫化リチウムと硫化リンとから構成されるLiS-P、またLiS-P-LiI、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiI-LiBr等の硫化リチウムと硫化リンとハロゲン化リチウムとから構成される固体電解質が好ましく挙げられる。
非晶性硫化物固体電解質を構成する元素の種類は、例えば、ICP発光分光分析装置により確認することができる。
【0108】
非晶性硫化物固体電解質の形状としては、特に制限はないが、例えば、粒子状を挙げることができる。粒子状の非晶性硫化物固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、0.01μm~500μm、0.1~200μmの範囲内を例示できる。
【0109】
(結晶性硫化物固体電解質)
本実施形態の製造方法により得られる結晶性硫化物固体電解質は、非晶性固体電解質を結晶化温度以上に加熱して得られる、いわゆるガラスセラミックスであってもよく、その結晶構造としては、LiPS結晶構造、Li結晶構造、LiPS結晶構造、Li11結晶構造、2θ=20.2°近傍及び23.6°近傍にピークを有する結晶構造(例えば、特開2013-16423号公報)等が挙げられる。
【0110】
また、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型結晶構造(Kannoら、Journal of The Electrochemical Society,148(7)A742-746(2001)参照)、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型と類似の結晶構造(Solid State Ionics,177(2006),2721-2725参照))等も挙げられる。本実施形態の製造方法により得られる結晶性硫化物固体電解質の結晶構造は、より高いイオン伝導度が得られる点で、上記の中でもチオリシコンリージョンII型結晶構造であることが好ましい。ここで、「チオリシコンリージョンII型結晶構造」は、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型結晶構造、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型と類似の結晶構造のいずれかであることを示す。また、本実施形態の製造方法で得られる結晶性硫化物固体電解質は、上記チオリシコンリージョンII型結晶構造を有するものであってもよいし、主結晶として有するものであってもよいが、より高いイオン伝導度を得る観点から、主結晶として有するものであることが好ましい。本明細書において、「主結晶として有する」とは、結晶構造のうち対象となる結晶構造の割合が80%以上であることを意味し、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。また、本実施形態の製造方法により得られる結晶性硫化物固体電解質は、より高いイオン伝導度を得る観点から、結晶性LiPS(β-LiPS)を含まないものであることが好ましい。
【0111】
CuKα線を用いたX線回折測定において、LiPS結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=17.5°、18.3°、26.1°、27.3°、30.0°付近に現れ、Li結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=16.9°、27.1°、32.5°付近に現れ、LiPS結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=15.3°、25.2°、29.6°、31.0°付近に現れ、Li11結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=17.8°、18.5°、19.7°、21.8°、23.7°、25.9°、29.6°、30.0°付近に現れ、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=20.1°、23.9°、29.5°付近に現れ、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型と類似の結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=20.2、23.6°付近に現れる。なお、これらのピーク位置については、±0.5°の範囲内で前後していてもよい。
【0112】
上記したとおり、本実施形態においてチオリシコンリージョンII型結晶構造が得られる場合には、結晶性LiPS(β-LiPS)を含まないものであることが好ましい。本実施形態の製造方法により得られる硫化物固体電解質は、結晶性LiPSに見られる2θ=17.5°、26.1°の回折ピークを有しないか、有している場合であってもチオリシコンリージョンII型結晶構造の回折ピークに比べて極めて小さいピークが検出される程度である。
【0113】
上記のLiPSの構造骨格を有し、Pの一部をSiで置換してなる組成式Li7-x1-ySi及びLi7+x1-ySi(xは-0.6~0.6、yは0.1~0.6)で示される結晶構造は、立方晶又は斜方晶、好ましくは立方晶で、CuKα線を用いたX線回折測定において、主に2θ=15.5°、18.0°、25.0°、30.0°、31.4°、45.3°、47.0°、及び52.0°の位置に現れるピークを有する。上記の組成式Li7-x-2yPS6-x-yCl(0.8≦x≦1.7、0<y≦-0.25x+0.5)で示される結晶構造は、好ましくは立方晶で、CuKα線を用いたX線回折測定において、主に2θ=15.5°、18.0°、25.0°、30.0°、31.4°、45.3°、47.0°、及び52.0°の位置に現れるピークを有する。また、上記の組成式Li7-xPS6-xHa(HaはClもしくはBr、xが好ましくは0.2~1.8)で示される結晶構造は、好ましくは立方晶で、CuKα線を用いたX線回折測定において、主に2θ=15.5°、18.0°、25.0°、30.0°、31.4°、45.3°、47.0°、及び52.0°の位置に現れるピークを有する。これらのLiPSの構造骨格を基本的に有する結晶構造は、アルジロダイト型結晶構造とも称される。
なお、これらのピーク位置については、±0.5°の範囲内で前後していてもよい。
【0114】
結晶性硫化物固体電解質の形状としては、特に制限はないが、例えば、粒子状を挙げることができる。粒子状の結晶性硫化物固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、0.01μm~500μm、0.1~200μmの範囲内を例示できる。
【0115】
(硫化物固体電解質のその他性状)
本実施形態の製造方法により得られる硫化物固体電解質のイオン伝導度は、PS分率が高いことから極めて高いものであり、通常1.0×10-5S/cm以上のものとなり、更に、1.5×10-5S/cm以上、2.0×10-5S/cm以上、2.5×10-5S/cm以上、3.0×10-5S/cm以上となり得る。
【0116】
また、気流処理を行うことによる、PS分率の向上率(気流処理前の硫化物のPS分率に対する気流処理後の硫化物固体電解質のPS分率の割合)は、硫化物のPS分率に応じてかわるため一概にはいえないが、通常5%以上であり、更に、10%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上となり得る。
【0117】
以上のように、本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法は、不活性ガス及び水素ガスから選ばれる少なくとも一種のガス、好ましくは水素ガスを含むガスによる気流処理という簡単な後処理によって、PS分率が向上し、高いイオン伝導度が得られる、という効果を奏する製造方法である。
【0118】
本実施形態の製造方法により得られる硫化物固体電解質は、イオン伝導度が高く、優れた電池性能を有しているため、電池に好適に用いられる。伝導種としてリチウム元素を採用した場合、特に好適である。本実施形態の製造方法により得られる硫化物固体電解質は、正極層に用いてもよく、負極層に用いてもよく、電解質層に用いてもよい。なお、各層は、公知の方法により製造することができる。
【0119】
また、上記電池は、正極層、電解質層及び負極層の他に集電体を使用することが好ましく、集電体は公知のものを用いることができる。例えば、Au、Pt、Al、Ti、又は、Cu等のように、上記の固体電解質と反応するものをAu等で被覆した層が使用できる。
【実施例0120】
次に実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら制限されるものではない。
【0121】
(実施例1)
硫化リチウム(LiS)及び五硫化二リン(P)のモル比(LiS:P)が、70.0:30.0となるように、具体的には、硫化リチウム1.30g、五硫化二リン2.70gと、ジルコニア製ボール70g(直径:5mm)とを、遊星型ボールミル(「クラシックラインP-7(品番)」、フリッチュ・ジャパン株式会社製)用のジルコニア製ポット(容積:45mL)に入れ、アルゴン雰囲気下で密閉した。このジルコニア製ポットを、上記の遊星型ボールミルに取り付け、台盤回転数600rpmで合計20時間(20分の運転及び5分の休止を60回繰返し)の混合及び粉砕を行い、粉末状の非晶性の硫化物を得た。
【0122】
次いで、得られた非晶性の硫化物を、水素ガスの供給用及び排気用の配管を備える反応槽内(容積:45mL)に入れて、水素ガスとアルゴンガスとの混合ガス(水素ガス含有量:5容量%)を100ml/minの流量で24時間供給して気流処理を行い、非晶性の硫化物固体電解質を得た。また、気流処理は室温(23℃)で行った。
得られた非晶性の硫化物及び非晶性の硫化物固体電解質について、以下の方法によりPS分率、P分率及びP分率を測定した。31P MAS NMR(固体31P NMR)スペクトルを図1に、各ユニットの分率の測定結果を第1表に示す。また、得られた結晶性の硫化物固体電解質についてイオン伝導度を測定したところ、3.2×10-5(S/cm)であり、高いイオン伝導度を有していることが確認された。
【0123】
(PS分率、P分率及びP分率の測定)
実施例及び比較例で得られた固体電解質100mgをNMR試料管へ充填し、下記の装置及び条件にて31P MAS NMR(固体31P NMR)スペクトルを得た。当該スペクトルより、PSユニットのピーク(80~85ppm)、Pユニットのピーク(85~95ppm)及びPユニットのピーク(105~110ppm)に波形分離し、全体の面積に対する各ユニットの面積の割合を算出し、各々PS分率、P分率及びP分率とした。
核磁気共鳴装置(NMR装置):JNM-ECX400(型番、日本電子株式会社製)
観測核:31
共鳴周波数:400MHz
磁場:9.4T
プローブ:4mm Mas probe
MASスピード:15kMz
測定温度:室温(23℃)
n/2パルス幅:3.11μs
積算回数:32回
測定範囲:350ppm~-250ppm
リファレンス:85% HPO
【0124】
(イオン伝導度の測定)
本実施例において、イオン伝導度の測定は、以下のようにして行った。
硫化物、硫化物固体電解質から、直径10mm(断面積S:0.785cm)、高さ(L)0.1~0.3cmの円形ペレットを成形して試料とした。その試料の上下から電極端子を取り、25℃において交流インピーダンス法により測定し(周波数範囲:1MHz~100Hz、振幅:10mV)、Cole-Coleプロットを得た。高周波側領域に観測される円弧の右端付近で、-Z’’(Ω)が最小となる点での実数部Z’(Ω)を電解質のバルク抵抗R(Ω)とし、以下式に従い、イオン伝導度σ(S/cm)を計算した。
R=ρ(L/S)
σ=1/ρ
【0125】
(実施例2)
実施例1において、気流処理の時間を4時間とした以外は、実施例1と同様にして、非晶性硫化物固体電解質を得た。得られた非晶性硫化物固体電解質について、以下の方法により、粉末X線回折(XRD)測定を行った。そのXRD測定の結果を、図2に示す。また、得られた非晶性の硫化物及び非晶性の硫化物固体電解質について、実施例1と同様にしてPS分率、P分率及びP分率を測定した。31P MAS NMR(固体31P NMR)スペクトルを図1に、各ユニットの分率の測定結果を第1表に示す
【0126】
(粉末X線回折(XRD)測定)
本明細書において、粉末X線回折(XRD)測定は以下のようにして実施した。
実施例及び比較例で得られた粉末を、直径20mm、深さ0.2mmの溝に充填し、ガラスで均して試料とした。この試料を、XRD用カプトンフィルムで密閉し、空気に触れさせずに、以下の条件で測定した。
測定装置:M03xhf(型番、(株)マックサイエンス製)
管電圧:40kV
管電流:40mA
X線波長:Cu-Kα線(1.5418Å)
光学系:集中法
スリット構成:発散スリット0.5°、散乱スリット0.5°、受光スリット0.3mm、モノクロメータ使用
検出器:半導体検出器
測定範囲:2θ=10-60deg
ステップ幅、スキャンスピード:0.05deg、10秒/step
【0127】
(実施例3~4)
実施例1において、第1表に示される気流処理の処理時間、気流処理の温度条件とした以外は、実施例1と同様にして非晶性硫化物固体電解質を得た。
得られた非晶性硫化物固体電解質について、実施例1と同様にしてPS分率、P分率及びP分率を測定した。各ユニットの分率の測定結果を第1表に示す。また、実施例3の非晶性硫化物固体電解質については、31P MAS NMR(固体31P NMR)スペクトルを図1に示す。
【0128】
(比較例1)
実施例1において、気流処理を行わなかった以外は実施例1と同様にして非晶性の硫化物を得た。
得られた非晶性の硫化物を、実施例1と同様にしてPS分率、P分率及びP分率を測定した。各ユニットの分率の測定結果を第1表に示す。また31P MAS NMR(固体31P NMR)スペクトルを図1に示す。
【0129】
【表1】
【0130】
上記実施例と比較例の結果から、気流処理を行うことで、P分率が減少する一方、PS分率が向上しており、高いイオン伝導度を有することが確認された。また、比較例1の気流処理を行っていない硫化物のPS分率から、実施例1~4の気流処理を行った硫化物固体電解質のPS分率への向上率は、33.2(実施例2)~66.4%(実施例4)となり、気流処理を行うことで、高いPS分率となることが分かる。
【0131】
(実施例5)
実施例1において、第2表に示される、原料として用いた硫化リチウム(LiS)及び五硫化二リン(P)の使用量、モル比(LiS:P)とした以外は、実施例1と同様にして非晶性硫化物固体電解質を得た。
得られた非晶性硫化物固体電解質について、実施例1と同様にしてPS分率、P分率及びP分率を測定した。各ユニットの分率の測定結果を第2表に示す。
【0132】
(比較例2)
実施例5において、気流処理を行わなかった以外は実施例5と同様にして非晶性の硫化物を得た。
得られた非晶性の硫化物を、実施例1と同様にしてPS分率、P分率及びP分率を測定した。各ユニットの分率の測定結果を第2表に示す。
【0133】
【表2】
【0134】
上記実施例5と比較例2との結果から、気流処理を行うことで、P分率が減少する一方、PS分率が向上していることが確認された。また、PS分率の向上率は、12.8%であり、もともと高い比較例2のPS分率からでも、高い向上率となることが分かる。また、P分率が0.0%となっており、実施例5の硫化物固体電解質は高いイオン伝導度を発現し得るものであることが分かる。
【0135】
(実施例6)
硫化リチウム(LiS)及び五硫化二リン(P)のモル比(LiS:P)が、70.0:30.0となるように、具体的には、硫化リチウム1.30g、五硫化二リン2.70gと、ジルコニア製ボール70g(直径:5mm)とを、遊星型ボールミル(「クラシックラインP-7(品番)」、フリッチュ・ジャパン株式会社製)用のジルコニア製ポット(容積:45mL)に入れ、アルゴン雰囲気下で密閉した。このジルコニア製ポットを、上記の遊星型ボールミルに取り付け、台盤回転数600rpmで合計20時間(20分の運転及び5分の休止を60回繰返し)の混合及び粉砕を行い、粉末状の非晶性の硫化物を得た。
【0136】
次いで、得られた非晶性の硫化物を、気流処理用のガスの供給用及び排気用の配管を備える反応槽内(容積:45mL)に入れて、水素ガスとアルゴンガスとの混合ガス(水素ガス含有量:5容量%)を500ml/minの流量で12時間供給して気流処理を行い、非晶性の硫化物固体電解質を得た。また、気流処理は室温(23℃)で行った。
得られた非晶性の硫化物固体電解質について、実施例1と同様にしてPS分率、P分率及びP分率を測定した。各ユニットの分率の測定結果を第3表に示す。また、得られた結晶性の硫化物固体電解質についてイオン伝導度を測定したところ、8.5×10-5(S/cm)であり、高いイオン伝導度を有していることが確認された。
【0137】
(実施例7及び8)
実施例6において、気流処理の時間を12時間から24時間及び48時間にかえた以外は実施例6と同様にして、実施例7及び8の非晶性の硫化物固体電解質を得た。得られた非晶性の硫化物固体電解質について、実施例1と同様にしてPS分率、P分率及びP分率を測定した。各ユニットの分率の測定結果を第3表に示す。また、得られた結晶性の硫化物固体電解質についてイオン伝導度を測定したところ、各々11×10-5(S/cm)及び9.8×10-5(S/cm)であり、実施例7及び8で得られた硫化物固体電解質は、高いイオン伝導度を有していることが確認された。
【0138】
【表3】
【0139】
実施例6~8の結果から、気流処理を行わなかった比較例1との対比により、水素ガスを含むガスにより気流処理を行うことで、P分率及びP分率の少なくともいずれかが減少する一方、PS分率が向上しており、高いイオン伝導度を有することが確認された。比較例1の気流処理を行っていない硫化物のPS分率から、実施例6~8の気流処理を行った硫化物固体電解質のPS分率への向上率は、1.9%(実施例6)、23.4%(実施例7)、24.8%(実施例8)となり、気流処理を行うことで、高いPS分率となることが分かる。
また、実施例1~4、実施例6~8の結果から、気流処理の時間を長くするほど、P分率に比べてP分率が減少する傾向がより顕著になることが確認された。
【0140】
(実施例9)
実施例6において、混合ガスをアルゴンガス単体のガスにかえ、処理時間を12時間から24時間として気流処理を行った以外は、実施例6と同様にして非晶性の硫化物固体電解質を得た。得られた非晶性の硫化物固体電解質について、PS分率、P分率及びP分率を測定した。各ユニットの分率の測定結果を第4表に示す。また、得られた結晶性の硫化物固体電解質についてイオン伝導度を測定したところ、7.9×10-5(S/cm)であり、実施例9で得られた硫化物固体電解質は、高いイオン伝導度を有していることが確認された。
【0141】
【表4】
【0142】
実施例9の結果から、気流処理を不活性ガス単体(アルゴンガス単体)で行った場合も、他の水素ガスを含むガスを用いて気流処理を行った実施例と同様に、PS分率が向上することが確認された。より具体的には、気流処理を行わなかった比較例1との対比により、水素ガスを含むガスにより気流処理を行うことで、P分率及びP分率が減少する一方、PS分率が向上しており、高いイオン伝導度を有することが確認された。また、比較例1の気流処理を行っていない硫化物のPS分率から、実施例9の気流処理を行った硫化物固体電解質のPS分率への向上率は、20.6%となり、気流処理を行うことで、高いPS分率となることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本実施形態の製造方法によれば、高いPS分率を有する硫化物固体電解質を容易に製造することができる。本実施形態の製造方法により得られる硫化物固体電解質は、高いイオン伝導度を有しており、電池に、とりわけ、パソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等に用いられる電池に好適に用いられる。
図1
図2